07/06/14 03:48:21
作家の檀一雄が、太宰治と屋台でウナギを食べたことを回想している。タレをつけて焼いた頭に檀が
かぶりつくと、大きな釣り針に噛(か)み当たった。
天然ものは、当時も珍しかったとみえる。太宰は手をたたき、「人生の余徳というもんだ」と愉快がった
(「檀流クッキング」)。近ごろは深読みも必要らしい。「針が残っているかもしれません」などと客に言い
つつ、「天然」の含みをもたせる店もあるように聞く。
相変わらずの「天然信仰」だが、たやすく口には入らない。99.5%を占める養殖ものが日本人の腹
を満たす。その一部を担う欧州産稚魚の取引が規制される。そんなニュースが先日届いた。欧州の稚
魚は中国で育てられ、「中国産」と表示されて日本の食卓にのぼっている。
かつて、ウナギは特別なごちそうだった。それが、いつしかお手頃になっていった。並行して欧州では
稚魚が激減する。80年代の1~5%というから深刻だ。今度の規制は、野生動植物を保護するワシン
トン条約の対象になったからである。
古くからウナギは夏やせの妙薬とされてきた。〈恋痩(やせ)に鰻さかせる筋ちがい〉と、戯れ歌も残る。
江戸時代には食通を夢中にさせ、相撲よろしく、かば焼き屋の番付表も作られた。そしていま、世界の
需要の7割を胃袋に収めるウナギ大国である。
幸いというか、中国の養殖池では、これまでに輸入した稚魚が育っている。すぐに値が上がることは
ないという。とはいえ、香ばしい煙も少々気になる「土用の丑(うし)の日」にはなりそうだ。
URLリンク(www.asahi.com)