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■戦後補償裁判 「個人請求」に幕を引いた最高裁(4月28日付・読売社説)
中国人による相次ぐ戦後補償裁判に幕を引く判決である。
戦時中、日本に連行され、過酷な労働を強いられたとする強制連行訴訟で、最高裁は、日本側への
戦争被害の賠償請求について「1972年の日中共同声明により、中国人個人は裁判上、訴える権利を
失った」との初判断を示した。
中国人女性2人が、旧日本軍兵士に監禁、暴行されたとして、日本政府に損害賠償を求めた訴訟でも、
同様の判断を示し、中国人側の請求を退けた。
強制連行訴訟の1審は、中国人を働かせた建設会社の不法行為を認めつつ、不法行為の時から20年が
過ぎると賠償請求権がなくなる「除斥期間」、時効を適用して、原告の訴えを退けた。
2審も不法行為を認めた。加えて「賠償義務の免除は正義に反する」として、時効をあえて適用せず、
建設会社に請求通りの賠償を命じた。
建設会社の上告を受けた最高裁は、中国人個人に賠償請求の権利があるかどうかに絞って審理を行った。
相次ぐ訴訟で、下級審の判断が分かれたため、明確な判断基準を示す必要があると考えたのだろう。
日本に関する戦後処理の基本的枠組みは、1951年に調印されたサンフランシスコ平和条約で定められた。
日本と連合国の各国が、個別に戦争賠償の取り決めをした後は、個人の損害賠償請求権を含め、戦争で
生じたすべての請求権を日本と連合国側が互いに放棄するというものだ。
日中共同声明は「中華人民共和国政府は、日本国に対する戦争賠償の請求を放棄することを宣言する」
としているが、中国人個人の賠償請求権の有無については、明確な記述がない。それが訴訟の背景にあった。
この点に関して、最高裁は、日中共同声明は実質的には平和条約であり、サンフランシスコ平和条約と
同じ枠組みで締結されたと結論付けた。
国際社会の常識に照らして、妥当な判断だろう。
平和条約とは、戦争状態を完全に終結させ、請求権などの問題を後に残さないために締結するものだ。
27日の強制連行訴訟の判決も、補償問題を個人の賠償を求める裁判に委ねたなら、
「どちらの国家または国民に対しても、平和条約締結時には予測困難な過大な負担を負わせ、
混乱を生じさせるおそれ」がある、と指摘した。
中国人による戦後補償裁判は、約20件に上る。今回の判決で、訴訟による賠償請求には最終的な
決着がつけられた。
(2007年4月28日1時20分 読売新聞)
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