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【千変上海】人民広場で見てはならないもの…
10:05
昨年夏に開設したばかりの産経新聞上海支局を早急に移転するようビル管理者から通告を受けた。
移転の理由は「支局の窓が人民広場と人民政府の正面にある」からだそうだ。通告に現れたリース契約担当の女性は
「本当は残っていただきたい。だが、安全局の指示に逆らうわけにはいかないのです」と、本当にすまなさそうな顔を
し、その後は詳細を聞こうとしてもただうつむくばかりだった。
直接会って説明を聞きたいと思い、ビル側を通じて安全局に面会を申し込んだが、当然のようにナシのつぶてだった。
ビルの別の職員の話では少なくとも週1回は安全局員数人が立ち寄り、支局立ち退きを要求していたそうだ。
安全局というのは中国最高行政機関である国務院に所属する国家安全部上海支部のことだ。上海市のウェブサイトを
見ても安全局の名前はあるが住所も連絡方法も書いていない。つまり謎に包まれた組織なのである。
もともと公安部(警察など国内治安担当)から派生した組織だそうだが、いわばソ連KGBの中国版という説明もある。
つまり国内外の諜報(ちょうほう)担当機関なのだろう。
中国は昨年の外貨準備高が1兆ドル(118兆円)を超え、経済規模も英仏を追い越して世界第4位にまで
のし上がっている。輸出振興のため低く抑えられている人民元を実勢レベルに引き上げれば、すでに日本を上回って
世界2位と断言する人までいる。
だから日本ではいま、中国経済を題材にした書籍や論文は一種のブームになっているのだが、欧米ではそれより一歩も
二歩も先に中国台頭論が関心を集めていた。米国とEU(欧州連合)が中国製品の輸出攻勢の矢面にあり、安い中国製の
ために失業者が増えたとする保護主義の高まりが背景にあったのだが、もう一つの側面は中国的価値観が西欧文明の根底に
ある啓蒙(けいもう)主義と対峙(たいじ)している点があるように思える。
英日曜紙オブザーバーの元編集長でエコノミストでもあるウィル・ハットン氏が最新著
「The writing on the wall」で書いた次のような問いかけが欧米知識人たちに特に深刻な問題を
投げかけているからだ。
「19世紀が英国、20世紀が米国の世紀であったように21世紀は中国の世紀となるのだろうか。そうならば世界の
リーダーシップはアングロ・サクソンから中華民族へと引き継がれる。(人類にとって)これほど深い意味を持つ出来事は
ない。しかも一党独裁を堅持する共産党によってそれが成し遂げられようとしている点が問題なのだ」
確かに改革開放後の中国は西欧資本主義に特有の競争原理を最大限に活用して未曾有の経済発展を遂げたが、欧米を
代表する「法治」「司法の独立」「報道の自由」「集会の自由」などの価値観はかならずしも尊ばれていないとハットン氏
たち欧米知識人は見ているのである。日本での中国ブームが経済的利益に比重がかかるのに対し、欧米では「さまざまな
民主主義的価値観の喪失」に目が向けられている。
支局から見える上海市人民政府(18階建て)とその前に広がる人民広場は市共産党委員会の権威を象徴するかのような
威容を誇っている。周囲で公安要員がにらみを利かしているだろうことは遠目からでも察することができる。だが、それに
しても産経新聞のような外国メディアに隠さなくてはならないものがそこにあるのかどうか、もうひとつわからなかった。
おそらく「人民広場でデモなど集会が開かれた場合、それを外国メディアに知られたくないのでしょう」という説明が
最も説得力があるように思えるが、もし、そうならば、ハットン氏たちの危惧(きぐ)が結局は正しいことになる。
(前田徹)
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