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■早い話が:独りよがりのたたり=金子秀敏
戦前、上海に東亜同文書院という日本の学校があった。「日中共存共栄」を建学の理念とした。
優秀な人材が集まった。硫黄島の栗林忠道司令官も、陸軍士官学校と同文書院を受験して両方合格している。
大城立裕氏の小説「朝、上海に立ちつくす」(中公文庫)は、書院在学中の体験を描いているが、
その中に日本軍の軍用米買い付けが出てくる。
上海の日本軍司令部が商社に米の買い付けを命じた。
商社は、「いまの季節は自家用米しか残っていない」と反対するが、軍は耳を貸さない。
抗日ゲリラの出没する郊外までトラックで米の買い付けに出かけた。
商社員1人、通訳兼帳付け役に動員された書院の学生3人は、民間人なのに2等兵の軍服を着せられ、
実弾と小銃を渡された。本物の伍長、上等兵、1等兵計4人が同行し、日本軍の警備部隊のように見える。
一軒一軒農家を回ると、農民が「売る米はない」と泣き叫ぶ。
伍長の命令で着剣した銃を構えて家捜しをして、米袋を強引に運び出した。
さて、この米は、農民から買ったものだ。日本軍は警備と輸送に協力しただけで、商売は業者がやったのである。
軍は「広義」には関与したかもしれないが、「狭義」の直接関与ではない、と。そう言って通るだろうか。
農民に渡した通貨は、南京の汪兆銘(おうちょうめい)政府の発行する「儲備(ちょび)銀行券」だった。
激しいインフレで1万分の1の価値しかない。そんな紙幣で買われたら、奪われたのと同じことだ。
しかも、全員が日本の軍服だった。中国人から見たら「広義」も「狭義」もない。日本軍による略奪である。
慰安婦問題に対する米国の世論は、ますます日本に厳しくなってきた。それが韓国にも飛び火した。
ワシントン・ポスト紙の社説は、慰安婦の募集は業者がやったことで、狭義の軍の強制性はないという
安倍晋三首相の発言をとりあげて、「二枚舌」とまで酷評した。
日本人の内輪の論理だけでは、国際的に通用しない。中国人の立場で考えれば、
軍用米の買い付けが合法的なビジネスで通るはずはない。
まして売買したのが生身の女性なのだ。河野談話でやっと政治決着させた問題を、
わざわざ蒸し返してきたのは自民党の有志議員、その中心が安倍首相だった。
独りよがりの主張は、孫子の代までたたる。(専門編集委員)
毎日新聞 2007年3月29日 東京夕刊
URLリンク(www.mainichi-msn.co.jp)
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