07/03/22 15:13:43
米国のシーファー駐日大使が、米国メディアの特派員らと懇談した。「従軍慰安婦」について
「当時の日本軍にレイプされたということだ」と言い切った。発言は翌日、米国主要紙に掲載され、
次の日にはアジアの主要紙がそろって転電した。米国の世論は、女性、戦争、レイプなどの
キーワードが並ぶと、感情的に反応して、非常ベルのボタンを押したような騒ぎになる。
英語では「ホット・ボタン」問題というそうだ。
安倍晋三首相は4月に訪米する。「従軍慰安婦に対する日本政府の謝罪を求める決議案」が
米下院に出されているが、採決は5月に延ばされた。しかし、首相がワシントンで記者会見をすれば、
メディアの関心は慰安婦への謝罪に集中する。今回の従軍慰安婦決議の背景は複雑だが、
北朝鮮との関連もある。謝罪要求決議案に盛り込まれた「性奴隷(sex slavery)」という言葉である。
1991年から始まった日朝国交正常化交渉で、北は「過去の清算」を突きつけてきた。一方、日本は
「李恩恵(リウネ)」など拉致問題の解明を求めた。まだ北は拉致を認めていなかった。当時、
北京の北朝鮮大使館で大使が記者会見をした。記者席には鉱泉水のびんと菓子がある。
特別予算がついているから、本国の特別指示があったのだろう。大使は「性奴隷にされた
元従軍慰安婦の手記」を読み上げた。日本を「性奴隷」で非難し、拉致問題を封じ込めようとしたのだ。
河野洋平官房長官が「従軍慰安婦問題」で談話を出した93年は、「性奴隷」キャンペーンの
最中だった。韓国では反日デモが起き、ジュネーブの国連人権委員会でも「性奴隷」糾弾の
動きがあった。談話は、慰安所の設置や管理について軍の関与を認め、その中での生活が
強制的で痛ましいものだったとして「おわびと反省の気持ち」を表明した。だが、
慰安婦の募集は業者によるとして、軍による女性の強制連行という「性奴隷」論は認めていない。
河野談話という塹壕(ざんごう)によって「性奴隷」攻撃を防いだ。それを自分から
放棄しようとしたのが安倍首相である。塹壕を出たとたんに、「性奴隷」論が
米国世論に入り込んだ。北朝鮮は願ったりかなったりだ。結局、首相は河野談話に戻った。
だが、手遅れだ。米国でも、アジアでも主要紙に、あの「sex slavery」という単語が
当然のように並んでいる。(専門編集委員)
毎日新聞 URLリンク(www.mainichi-msn.co.jp)