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毒ガス兵器―中国での回収を急げ
第2次大戦が終わって40年余りがたったある日。中国の建築現場で古びた鉄製の缶が
掘り出された。中の液体を調べようとした医師らが呼吸器を侵されたり、鼻や歯から出血
したりした。日本軍が終戦時に地中に隠した毒ガスだった。
こうした事故が中国各地で相次いだ。被害にあった中国人たちは日本政府を相手取り、
損害賠償を求めて次々と訴えている。そのうち、1件の判決が東京高裁で言い渡された。
判決は一審通り原告の請求を棄却した。しかし、毒ガスは日本軍が残したと認めたことは
注目に値する。「ソ連や国民党軍のものである可能性がある」という国の主張は退けられた。
日本政府はすでに中国政府に対して毒ガスの遺棄を認め、各地で回収作業にあたっている。
高裁が「日本軍のものだ」と認定したのは当然だろう。裁判の場になると事実を否定する
姿勢は中国人の不信感を募らせるだけだ。
ところが東京高裁は、国の賠償責任までは認めなかった。
大量の毒ガスが広い範囲にわたって地下や河川に捨てられた。日本政府が日本軍の駐屯地
などの情報を中国政府に伝えても見つけることは難しい。だから日本政府に事故を回避する
義務を負わせることはできない。これが理由である。
この理屈でいくと、国際法で使用が禁じられた兵器でも、うまく隠してしまえば責任を
問われることはない。
別の事故の裁判で、東京地裁は「遺棄された場所や処理方法の情報を中国に積極的に提供
して事故の防止を図る義務を果たさなかった」として、国に賠償を命じた。こちらの方が
筋が通っている。
とはいえ、これ以上、法律論にこだわっていても意味がない。法的な賠償責任を免れたと
しても、危険な毒ガスを残してきた日本に人道上の責任があることははっきりしているからだ。
まずは起きてしまった事故に誠実に対応することだ。中国政府と協力し、治療の難しい
毒ガス後遺症の医療を支援する。裁判では和解の道を探って実質的な補償をする。
同時に、残っている危険を取り除くために回収作業を急がねばならない。
1997年に化学兵器禁止条約が発効し、日本は中国に遺棄した毒ガスなどの化学兵器を
10年以内に廃棄することを義務づけられた。しかし、回収した毒ガス砲弾は約4万発に
すぎない。最も多いとされる吉林省ハルバ嶺の地中には、30万~40万発が眠ると推定
されている。
廃棄処理は今年4月の期限に間に合わず、12年まで延期された。
この間にも、03年には黒竜江省チチハルで毒ガス兵器による事故が起き、1人が死亡し、
40人余りが負傷した。
かつて侵略を受けた中国の人たちは、いまだに毒ガス事故によって日常生活を脅かされている。
そんな状況は一日も早く終わらせなければならない。
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