07/03/04 15:07:19
加熱するアジア・エネルギー報道の落とし穴
小森 敦司(AAN主査) (月刊誌「エネルギーフォーラム」3月号からの転載)
「地政学」使えば書くのも楽?
「記者クラブの外からの目」。今回はあえて「記者の目」のタイトルからはずれて、そんな「外」からの
視点でこの原稿を書かせていただきたい。記者クラブという前線から離れていたために、ようやく、
このごろ、見えてきた「もの」があるからだ。
自己紹介になるが私は昨年4月から、日本とアジアのかかわりあいを模索する、朝日新聞のシンク
タンク的な組織である「アジアネットワーク(AAN)」に籍を置き、「アジアのエネルギー協力」に
ついて研究や取材、執筆をしてきた。
この命題が先にあるからだろうか、最近、エネルギー問題を取材する前線の記者たちが、エネルギー
資源をめぐる「確保戦略」や「地政学」といった言葉に、あまりに惑わされていないか、と感じるのだ。
実は私も02年から05年までロンドンに特派員として滞在し、この間、リビアやアゼルバイジャン
など産油国を回ってエネルギー情勢を書いてきた。その際、資源をめぐる「地政学」的攻防といった
切り口にすがりついていたかも、と今にして思う。そんな「定番」を使った方が書くのが楽とも言える。
確かに米国の歴代政権が「地政学」的に動いてきたのは否定できないが、それをもって日本も「地政学」
で動け、という問題設定をして良いとはならないだろう。AANに来て、そんな点にも気づかされた。
だが、当局や企業からのナマの情報が飛び交う記者クラブでは、巧みな「誘導」のためか、記者たちは
地政学的に「資源を確保せよ」論に安易に寄りかかって、事実関係をしっかりと分析する「目」力も
失っているかのように思える。
端的なのは、「東シナ海で中国が開発を進めている」春暁ガス田問題だろう。中国の生産準備が明らか
になった04年ごろ、新聞は当時の中川昭一経産相の「日本にとって極めて大事な資源」といったコ
メントを紹介した。その後も、専門家の「天然ガスの埋蔵量は1|2兆立法フィートと言われている。
もしそれくらいの量なら国内最大規模になる」との談話を載せている。
過大視される春暁の埋蔵量
本当はどうか。「エネルギーフォーラム」の読者なら、ご存じだろう。1兆立方フィートとして国内では
最大かもしれないが、ロシア・サハリン一帯の資源と比べると百分の1程度しかない。
量だけ考えるなら、「大事な資源」とは言えまい。しかも、九州などにパイプラインで持ってくるには
遠すぎる。本来、付ける枕ことばは「東シナ海で中国が開発を進める、日本からは遠く、とても小さい、
ガス田」がふさわしいはずだ。
ところが、こんなシンプルながら肝心なデータを押さえた記事が調べてもなかなか出てこない。紙幅
がないという言い訳もできるだろうが、一部週刊誌は乱暴にも「(東シナ海には)石油大国イラクに並ぶ
石油が眠っている」と書きなぐっている。この「イラク並み」論が意外と世間に浸透している。それが
日本政府をして、振り上げた拳をおろしにくくしているようにみえる。
こうした報道の「過熱」感が増した中で策定が進んだ「新・国家エネルギー戦略」についても、記者
クラブの外にいる私としては、いまだに理解できない点が残る。「戦略」に盛り込まれた「海外での資源
開発目標||2030年までに40%程度を目指す」などの数値目標について、その妥当性を検証した
記事が見つからないのだ。 (>>2-10に続く)
ソース 朝日新聞 アジアネットワーク
URLリンク(www.asahi.com)