07/01/16 19:17:52 BsGkMJfL0
>>712
「一発やっかぁ」
亀山城を出発すると、愛宕山で連歌会に参加した。皆の中に座り一句披露する。
既に筆先を濡らし、俺の筆は俺の決意表明を待つ。
紙を前にして筆先を動かすと、決心を告げる、名句がそこにあった。
「ときは今天が下しる五月哉」声に出していう。
「乱世はやっぱ下克上」
やおら暗闇の中から、本能寺を包囲する、兵をたっぷり集め、同時に二条御所も囲む、
「ワーッ、ワーッ」喚声が俺の軍略中枢を更に刺激する。
「謀反たまんねぇ」手綱扱きに合わせて、身体を上下させる。
「明智の戦にゃあこれだよ」鉄砲を撃ち込む。
「ズドン、ズドン、ズドン、ズドン」銃身が熱くなり、やがて硝煙で真っ白になる。
「首級、首級」「信長の首ぞ」
頃合いをみて女中を逃がす。俺は自分のこの心遣いが好きだ。
紅い炎だけが寺に残り、炎上する本能寺を前に、兵を突入させて、信長を探し、左手で手綱引っ張り、右手で行け行けと指示する。
本能寺の前の俺は、京一の伊達男になっていた。
「ちきしょう細川殿に見せてやりテェよ」最高潮が近付くと、いつもそう思った。鉄砲をもう一度撃たせ、足軽隊を追加すると、天下人へ向かってまっしぐらだ。
「天下人になってやる」「桔梗紋のほんまもんの男」
「うりゃ、そりゃ」「ズドン、ズドン」銃弾を飛ばしながら、クライマックスをめざす。
「たまんねぇよ」奥書院の中から、激しい火の手が起こった。やがて奔流となり、俺を悩ます。
-信長の首は？もしや、逃げたか- -いや、もう事は成したのだ-相反する気持ちがせめぎあい、俺は崖っ淵に立つ。
「きたっ」俺は膝を直角に曲げ、それに備える。奔流は堰を切ろうとしていた。
「男一匹 ! 」「ごおおっ」
障子を押し分けて、紅い炎がしゃくり出される。
真っ白い時間が過ぎ、目の前が現実に戻る。