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英語の「ヒール」は「かかと」だが、プロレス業界では悪玉レスラーを指す。
戦後、“卑劣なジャップ”役を演じて、
全米にその悪名をとどろかせたグレート東郷の謎多き人生は、
森達也著『悪役レスラーは笑う』(岩波新書)に詳しい
▼たかだか十八歳の“悪ガキ”が、三十三歳の“苦労人”世界チャンピオンを
“ゴキブリ”呼ばわりし、「負けたら切腹や」と大言壮語して、大差で判定負けした。
十一日夜のボクシングWBC世界フライ級タイトル戦中継に、
溜飲(りゅういん)を下げたファンは多かろう
▼挑戦者は悪名高い亀田三兄弟の二男、大毅選手。最後は悔し紛れからか、
内藤大助チャンピオンにプロレス技のボディースラムをかけて投げ飛ばした。
文字通り「ヒール」を演じてみせたのだからできすぎだ。
興行的には大成功で、瞬間視聴率で40%以上(関西地区)を稼いだTBSは、
ほくそ笑んだことだろう
▼だが、ちょっと気掛かりなのは、正義役を振られた内藤王者が
「“国民”の期待に応えられました」と、コメントしてみせたこと。
ヒールを立てて熱狂しやすいこの国で、
小泉煽動(せんどう)政治の怖さを体験したばかりだから、なおのことだ
▼自分が倒したタイの前チャンピオンとの実力比較より、
12回保った少年の潜在能力と将来性をもっと称(たた)えてやれば、
さらにかっこよかった。
斜陽のボクシング業界のためにもなる
▼亀田兄弟も、ヒール役のすごみは実力に裏打ちされてこそと思い知るべきだ。
やたらに悪がはびこる時代だが、国民の目も肥えてきていることを忘れないよう。
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