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【コラム・断】ハマグリはよく、そばはいけないのか
『美味しんぼ』(雁谷哲作、花咲アキラ画)は小学館の「ビッグコミック・スピリッツ」に
一九八三年から連載されている人気作だ。グルメものマンガの先駆として類似作の
追随を許さない。世界中の、また日本各地の食文化が広く紹介されており、その啓蒙
(けいもう)性にも好感が持てる。しかし、この啓蒙、時に説教臭くなることがある。
それぐらいはいいのだが、間違った啓蒙はまずい。
二〇〇〇年三月の『中華と中国』(単行本第七十六巻)は、来日した支那の要人が
日本の「支那そば」に怒り出す話で、「支那という言葉がどんなにいい言葉であろうと、
蔑(べっ)称でなかろうと」「相手がいやだと言うことはしない」というのがその啓蒙的な
結論だ。
とうてい納得できぬ。「いい言葉」を「相手が嫌だと言う」のなら、その蒙を啓(ひら)い
てやるべきだろう。その努力を放棄してきた怠惰で卑屈な連中が自称良識派なのだ。
つい先日の九月二十五日号の『美味しんぼ』では『恵みの貝』としてハマグリを扱って
いる。本当に美味(おい)しいのは桑名のハマグリで、広く売られているのは味の落ち
る輸入・畜養もののシナハマグリだ、としているのだが、この「シナハマグリ」はいいの
だろうか。標準和名だとでも言うかもしれないが、「支那そば」「支那竹」に怒った支那
の要人が「シナハマグリ」に怒らないとは思えない。日本人蔑視から発した支那人の
理不尽な要求に唯々諾々と従うことから真の日支友好は生まれない。「理屈抜きに
して」(昭和二十一年の外務省次官通達)「支那」を使わないような不合理とはもう
縁を切ろう。(評論家・呉智英)
ソース:iza(産経新聞9月22日東京版・朝刊20面に掲載)
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