05/09/24 02:48:26
ガチョウを極度な脂肪肝にしてフォアグラを作るには、ガチョウを運動不足にさせながら、
大量の餌を強制的に与える必要がある。このような強制飼養のことをフランス語でgavage(ガバージュ)と呼ぶ。
10代前半の少女たちに対して、伝統的に“ガバージュ”(強制肥満化)が行われている国がある。
サハラ砂漠の西端に位置するモーリタニアである。
砂糖でうんと甘くしたラクダ乳や雑穀の粥を少女に無理やり飲み食いさせる。嫌がれば罰が待っている。
指やつま先を潰されたりする。
ザヤールと呼ばれる木製の万力も使われる。少女たちはそれに足を挟まれる。大量の食事を食べ終えたときだけ、
緩めてもらえる。
死亡事故さえ起きる。現在42歳のマリエム・ソウさんという女性は、自分がまだ幼かったころ、“ガバージュ”中の
姉ゼイナボウが目の前で窒息死するのを目撃した。
マリエムさんは、こう話す。「家の者は、姉が12歳になると、15歳までに肥満体になるようにとラクダ乳や粥を強制的に
与え始めたのです。それが姉の嫁入り準備というわけでした」。
わが国や欧米では、やせている女性が美しいとされる傾向が強い(特に若い女性の間では)。そのために、
ダイエット食品や痩身術が大人気である。また、体重を気にするあまり摂食障害に陥る女性もいる。
ところが砂漠の国モーリタニアでは、太っている女性ほど美しいとされてきた。肥満は美の原則なのだ。
モーリタニア・イスラム共和国は1960年にフランスから独立した。その時点で、国民のほとんど全員が砂漠の遊牧民だった。
砂漠で暮らしていながら太っているということは、豊かさの証になる。ある男に妻と娘がいて、彼女らがぽっちゃりと
肥えていれば、砂漠の厳しさをものともせず、立派に家族を養っている・・・と世間から見てもらえる。
女性が太っていることは、美の原則であると同時に、その女性を養っている男の甲斐性の証でもある。
モーリタニア政府が2001年から行ってきた調査によると、少女時代に“ガバージュ”(強制肥満化)を受けた女性は5人に1人である。
しかし、これでもかなり減ってきた方なのだ。政府が国民に“ガバージュ”を止めさせるキャンペーンを展開してきた成果である。
また、モーリタニアではレバノンからの衛星TVを視聴でき、浜辺で女性が戯れている姿などが流される(通常、
イスラム圏では女性が肌をさらしている映像は厳禁のはずだが、衛星放送ゆえ防げないということか)。
テレビに映る水着姿の女性たちは、当然のことながら、とてもすっきりしたお腹をしている。海外旅行に行く人も増えてきた。
こういうことから、“ガバージュ”に関する風潮は変わってきている。だがそれでも、肥満美自体への崇拝には、根強いものがある。
強制肥満化に関する小説執筆に取り込んでいる女流作家のネネ・ドラメさん(47歳)は、こんなふうにこぼしている。
「夫は、私には減量した方がいいと言うのだけど、実際には太った女性に目を奪われているわ。やっぱり寝るなら太い女がいいと
思ってるみたいだわ」
わが国のダイエット食品や痩身術の広告を見ると、「何キロ痩せて人生が変わった」みたいな体験談が満載だが、
せっかく痩せてもモーリタニアではさっぱりモテないかもしれない。少なくとも非常に肩身の狭い思いをすることだけは確かだろう。
この“肩身の狭さ”には、純粋に物理的な寸法値における肩身の狭さも含まれている。
モーリタニアでは、一般に、女性が活発に外を出歩くことは不穏当なことだとされているが、丸ぽちゃの肥満体女性たちは誇らしげに町を歩く。
ただし、颯爽と歩く姿ではない。足を引きずっている女性が多い。単に体重オーバーだけがその原因ではない。
先にも書いたが、少女時代、強制的に飲み食いさせられていたときに、彼女らはひどい体罰を受けている。
彼女らが足を引きずっているのは、主にそのためである。食べるのを拒むとつま先を潰されたりしたわけだから。
今では以前に比べて“ガバージュ”の風習もかなり下火になってきている。だからといって、「女性は太っている方が美しい」という
伝統的な価値観が塗り替えられたわけではない。しかも、どうやら男性だけがそう感じているのではないらしい。
モーリタニアの若い女性たちも、わが国の女性たちと同じように、毎日のように体重計に乗っては一喜一憂しているのかもしれない。
だが目指している方向がまったく逆なのだ。
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