06/12/26 23:15:40
この1年、労働現場を取材する中で、派遣労働者や携帯電話で日々の仕事の紹介を受ける
フリーターからたびたびこの言葉を聞き、ドキリとした。憤り、恨み、あきらめ……。
ニュアンスこそ違え、そこには「人として扱ってくれ」という強烈な思いが感じられた。
「格差社会」が注目を集め、正社員と非正社員としての働き方や少子化、教育など、
さまざまな角度から「格差」が論じられた。そんな中、「再チャレンジ」を掲げる安倍晋三首相が
登場した。再チャレンジにケチを付ける気はない。そうした制度を整えるのは大事なことだ。
だが、気になるのは、格差の底辺に置かれた人たちが「労働の尊厳」まで奪われているという
ことだ。そして、それは働く者すべてに広がりつつあるように感じる。
神奈川県内に住む男性(42)は、携帯電話で日々の仕事の紹介を受けて生計を立てている。
今年2月、大手人材派遣会社に解体現場での仕事を紹介された。「マスクを買って行って」と
指示があった。もちろん自前だ。100円マスクを手に、着いた現場で派遣先の社員は
防毒マスクのようないかめしいマスクをつけていた。アスベスト(石綿)を使っていた施設の
解体現場だ。作業が始まると、ほこりで1m先も見えない。派遣のバイト4人はせき込みながら
貧弱なマスクで作業をした。これで交通費1000円込みの日給は8000円。マスク代や税金などを
差し引くと手取りは6000円程度だ。
日々紹介を受ける仕事。行ってみないと現場の様子は分からない。危ない現場でも断って
いたらすぐに干上がる。こんな仕事を月25日しても、手取りは15万円に満たない。仕事の紹介が
ない月は月収が5万円以下の時もある。有給休暇も雇用保険もない。自動車工場や公共施設などを
転々とした職歴。どこも1年以上の雇用を約束してくれなかったからだ。「安い命でしょ。
僕らには何をしてもいいんですかね」。働く喜びや誇りはどこにもない。
派遣社員で事務の仕事につく女性(40)は、数カ月ごとの細切れ契約を繰り返しながら働いた。
海外留学で鍛えたネーティブ並みの英語力も時給には反映されない。契約外の翻訳もこなし、
賃上げを求めると「あなたの賃金は物件費で扱われているから無理」と言われた。税金の関係で
物件費に回されているのだが、女性は「働いているのに人件費にさえカウントされないと思うと、
情けなくて涙が出た」とこぼした。
他にもガラガラの社員食堂を使わせてもらえず、プレハブ小屋での食事を強いられた
請負会社の社員、牛丼屋のバイトを3年続け、「誰よりもうまく盛りつけられる」と誇りを
持っていた仕事をバイトだからと一方的に解雇された若者……と、切ない話をいくつも聞いた。
だが、非正社員だけではない。労働の尊厳を奪うような状況は、正社員の間にも広がり
始めている。職場での陰湿ないじめがそうだ。「ダメ社員」と決めつけ「再教育」の名で業務とは
関係のない書類の廃棄作業を延々と続けさせたり、倉庫での一人だけの在庫確認を強制して
退職に追い込む。こなし切れない業務を負わされ、終わることのない仕事を強いられる。
労働相談を長年続けている日本労働弁護団は「過去に経験したことのない異常事態」と、
いじめ相談の多さに驚く。
>>2に続く
▽News Source MSN-Mainichi INTERACTIVE 毎日新聞 2006年12月26日0時06分
URLリンク(www.mainichi-msn.co.jp)