09/04/14 22:07:36 5YJ5OOpT
「おはよう」
ホームで電車を待っていると隣の席の彼に声をかけられた。
「早いね」
「日直なの」
「俺も、委員会の当番」
特に親しいわけでもなければ親しくないわけでもない私達の会話は
いつもこんな風に味気もなければ色気もない。
いつだってこんな業務連絡のような内容だ。
「うわ、すごい人やな」
すでに乗車率120%はあろうという電車を見て彼が呟く。
’隣の席’以上の関係のない私と彼だけれど私は彼が好きだった。
「捕まっとき」
電車に乗り込むと満員電車の車内で長身の彼がさりげなく私をかばい、扉横の手すりの空間を確保してくれた。
身長が高いけれど男の子にしては少し線は細い。
けれど数学が得意で、体力テストでは校内ベスト10に入っていた。
決して前に出ることはないけれど誰からも好かれている、そんな人だ。
車窓に流れる景色を見ながらすし詰め状態の車内、特に会話を交わすこともないけれど素敵な偶然に感謝しながら私はうとうとと心地いい電車のリズムに揺られていた。
初めは偶然かと思った。
何となく、肩にふわふわ触れるものがある。
時間が経つにつれそれは重さを伴う。
窓の向こうの景色を眺めながらも、意識は自分の右肩に集中する。
「気分悪いの?」
私の肩に頭をつけている背後の彼に問いかける。
彼は返事をすることもなく、私も満員の車内で振り向けない。
しばらくそのまま電車は走った。
触れた場所からぬくもりがじわじわと体全体に広がる。
不思議な感覚。
どきどきするのに、彼の重みに安心して、落ち着く。
変な感じだ。
降りる駅の扉が開いた時急に手を引かれた。
プラットホーム、流れる人ごみの中で2人で立ちすくむ。
彼は物言わず私を見つめていた。
手を握ったまま。
「好きや」
発射のベルが鳴る。
学生時代青春なんてなかったけどね!