09/01/03 12:23:45 Y+PeA+W7
ダイア「ふぅいぃ~~~。きもちいい・・・・・・」
私のとまり木。この季節、涼を感じさせる貴重な空間を独り占めにしてやる。
『あの娘は休みか』
ダイア「そうだみたいだね」
『心配になるの』
ダイア「そうだね」
『むぅ、少し太ったか』
ダイア「この変態オヤジ」
ぺちりと幹をはたく。
『心配じゃ。これでもう、3日になるか』
ダイア「そうなるね」
『随分淡泊な反応じゃな』
ダイア「だって、何て言ったらいいかわかんないもん」
『・・・・・・・・・・・・・』
沈黙の続く中、蝉の声に時折混ざる甲高い声に耳を傾ける。
801:名無しさん@お腹いっぱい。
09/01/03 12:25:29 Y+PeA+W7
『元気な子ばかりじゃのぅ』
ダイア「よくこの暑さで走れるよねー」
『子どもは元気が一番じゃろう。お前ももう少し、』
ダイア「あー、パス。そういう話はいいや」
『・・・・・昔はもっと素直な子じゃったのに突然ひねくれおって。何が気に入らん?』
ダイア「多分、その気持ち悪い顔が気に入らないんだと思うな」
『ほっほっほっほっ』
ダイア「あ~~っもう! その笑いかたやめてよ!! 気分悪くなる!」
『ほっほっほっほっ』
ダイア「・・・・ひくっつーの」
べつにコイツが嫌いなわけじゃない。いってみれば、これが私たちのコミュニケーション。
こうして冗談を交えながら親交を深めているだけなのだ。
ダイア「大体、なんでこの木に憑いちゃうわけ?」
『丁度良かったんじゃ』
ダイア「何が丁度良いの?」
『眺め』
ダイア「・・・・・はっはーん。やっぱりそうきたか。
ここから女の子の着替えとか覗きながら鼻の下伸ばしてたんでしょー」
『ほっほっほっほっ』
ダイア「だ~か~ら~~っ! その笑いやめろって言ってんの!! あと子ども扱いすんな!」
『覗き見するにはちと刺激不足じゃ。わしの趣味には合わん。
うむぅ、どうせ覗くならもっとこう・・・・ばいーん! と。のぅ?』
ダイア「うぅわ、さいっっってぇ」
『ほっほっほっほっ。もう少し落ち着きを身につけたらどうじゃ。
一々冗談に反応していては、身が持たんぞ』
ダイア「・・・・なんかムカつく」
『アレじゃ。年頃の娘にしては・・・・こう、膨らみも足りんの』
ダイア「うぐッ! ・・・・・・・・・・・・・悪かったな」
802:名無しさん@お腹いっぱい。
09/01/03 12:29:39 Y+PeA+W7
だいぶ長い時間話し込んでいたのだろう。
グラウンドを走り回っていた子達が一ヵ所に集まっているのに気付いた。
そろそろ授業の終わりを告げるチャイムが流れる時間なのかもしれない。
ダイア「ここから出たくないなぁ・・・・・」
ゆっくりと立ち上がり、ぱたぱたとお尻をはたく。
じゃあねと浅く挙げた右手をぶらぶらと振り、巨木に背を向けた、その時。
『ダイア』
不意に呼び止められた。先程とは違う、真剣味を帯びた声色で。
『何を迷っておる?』
突然の事にぴたりと足が止まる。
私以外の誰かがこの言葉を聞いたとしても、その意図は理解出来やしないだろう。
ダイア「・・・・ぜーんぶお見通しか。あはっ、気持ちわる」
これは私にしかわからない問い。その本質を理解する事、それはあまりにも容易だった。
『伊達に長く生きておらんからの』
コイツとは長い付き合いになる。
誰に聞いたかは覚えてないが、私がまだ小さかった頃。
それこそ、世に生を受けた直後から。コイツはずっと私を見守ってきたそうだ。
ダイア「おえっ・・・・・・」
『どうした?』
ダイア「な、なんでもない・・・・・」
考えてみれば、それはそれで不気味だし気分が悪くなってしまう。
軽いめまいに頭を抱えながらくるりと、その大木に振り返った。
『どうした?』
ダイア「あ、あははは。気にしないで」
803:名無しさん@お腹いっぱい。
09/01/03 12:35:16 Y+PeA+W7
『まったく、らしくないのぅ。
ワシの知るダイアなら、こういった時の行動力はあやつらに劣らないものを持っておった筈じゃが』
ダイア「お、お姉ちゃんと比べられても自信ないよ・・・・・」
『お前に弱気な態度は似合わん。真っ直ぐ前を見ろ。それからじゃ』
ダイア「・・・・ふん。簡単に言ってくれるけどさ、出来たらそうしてるって」
『ひねくれおって。ほっほっほっほっ』
ダイア「笑わないで」
『あの娘を助けたいんじゃなかったのか?』
ダイア「そうだけど・・・・・・正直、自信ないんだ・・・」
『やってみなければわからんぞ』
ダイア「そうかな。私にはわかる気がする・・・・・駄目だって」
それはきっと、間違いなく。そんな確信があった。
蟠りを持ったこの状態で彼女に会えば、
私もナナも互いに深く傷ついてしまい、取り返しのつかない事態になると。
決して拭う事の出来ない臆病さを持つ自分が腹立たしい。
ダイア「笑っちゃうよね。散々ナナのことお子様扱いしてたのに・・・・あははっ。
ぜーんぜんちがう。私なんかよりも、ナナはずっとずぅーっと先にいるんだもんなー」
いつも私の隣りにいて、同じ道を、共に同じ速度で歩いている。そう思っていた。
ダイア「・・・・・・・・・ははっ」
なんて愚かしいんだ。これが全て、私の勝手な願望だったなんて。
804:名無しさん@お腹いっぱい。
09/01/03 12:40:39 Y+PeA+W7
目を閉じればいつでも浮かぶ、あおの幼げな笑顔。
ナナ『おっはよーダイア~~』
普段からふわふわとしており、隙の多い彼女はどこか気の抜けた印象だった。
ダイア『おっはよー。どしたの。何かイイことでもあった?』
ナナ『へへへ。テレビの星座占いで一位だったんだよー!
良い事尽めの一日。たくさんの人から感謝される日でもあるでしょう。だって~!』
ダイア『へーっ。でも、たしか血液型占いでは最下位だったよね。
良くない事が起こる一日。外出せず、ひっそりと今日を過ごしましょう。ってさ』
ナナ『そ、そっちの方は見てないからセーフ! ・・・・・じゃダメかな?』
ダイア『あはは。私に聞かれたってわかんないよー』
ナナ『あーあ・・・・・せっかく一位だったのに・・・・』
ダイア『占いなんてそんなものでしょ。アテにはならないって』
ナナ『で、でもっ! 良い占い結果が出たらさ、なんだか嬉しくならない?
今日も一日頑張ろーって、私はそう思えるけどなぁ』
ダイア『ふふっ。ナナは単純だもんねー』
ナナ『ぶうぅ! ひどいよダイア~~』
805:名無しさん@お腹いっぱい。
09/01/03 12:43:04 Y+PeA+W7
まるで、昔の自分を見ているようだった。
社会の流行に流されやすく、女の子を地でいく彼女の姿。
それが私にはたまらなかった。誰からも好かれる人物であり、私だってナナが大好きだ。
だからこそ。卑しい感情が生まれる時が何度もあった。
羨んでいたのかもしれない。いや、怖かったのかもしれない。
ふと、隣りを見た時。後ろを振り向いた時。
彼女の姿が、何処にも見当たらなくなってしまう事が。
一緒にいたい。同じでいたい。幼稚で醜い、汚らしい感情が私の正常な思考を蝕んでいく。
もう、自分の意思だけでは止まれない。黒い感情が次々と溢れ出してくる。
『何を戸惑う必要がある。やるべき事はわかっておるんじゃろ?』
ダイア「・・・・さあね」
素っ気ない態度だと思われるかもしれない。
でも、こうする事でしか自分の気持ちに抗えない時だってあるんだ。
『らしくないのぅ』
ダイア「・・・・・ふん」
本当は嫌だった。これ以上憎まれ口を叩き、コイツを悩ます事が。
認めたくなかった。目を逸らしてしまいたい現実がある事を。
806:名無しさん@お腹いっぱい。
09/01/03 12:48:11 Y+PeA+W7
『どうやらとても簡単な事を忘れているようじゃな。
おぬしにとって、彼女とは一体なんじゃ?』
即答する。一番の友達だと。お互い、信頼に足る関係を築いていると。
『そこまでわかっていながら、何を躊躇する必要がある』
ダイア「ぁ・・・・・・・・」
あの時とは逆の光景。執着していた筈の気持ちが再び胸を高鳴らす。
『自分でもわかっている筈じゃろ。何を迷う必要がある? 何を躊躇する必要がある?』
ダイア「わかってる・・・・私だってそれくらいわかってるよッ!!」
何か。自分でもよくわからない何かが、胸の中で音を立てながら弾けた気がした。
『・・・・・言葉にする必要はないんじゃ』
ダイア「ぁ・・・・わ、わた・・し・・・・・ぁぁぁ・・・・!」
『その気持ちは誰かに伝える必要など無い。自分の胸の中に止どめておくものなんじゃ。
迷ったり悩んだりした時がきたら、その気持ちをもう一度思い出せ。もう一度自分を思い出せ』
ダイア「ぅぅ・・・・ぅうぅぅぅ!」
頬を伝う温かな何かに気付いたのは、それからもう少し先の事になる。
今は次々と溢れ出す不思議な感情の処理に手一杯だったのだから。
『気分はどうじゃ』
ダイア「わかんない・・・・わかんないよ・・・・・・ぐすっ」
『ワシには見えるぞ。一点の曇りもない、昔と変わらぬ笑顔がな』
ダイア「わらってる・・・・わたしが・・・・・?」
カレの言葉が信じられず、静かに両手を顔に添える。
ダイア「・・・・・へへっ」
不思議な気分だった。自らの意識の下に起こった出来事ではないのだから。
添えた両手から伝わる情報。感触だけでも、それがわかった。
807:名無しさん@お腹いっぱい。
09/01/03 12:55:42 Y+PeA+W7
ダイア「似合わない、か。・・・・いひひっ。たしかに似合わないね。
あんたにその台詞は。気障ったらしいし」
『ほっほっほっほっ』
ダイア「笑うなって言ってるでしょー」
本当に簡単な事だったのだ。理由が無いなら、後で考えればいい。
適当な理由が思い付かずとも、それはそれそれでいいじゃないか。
だって理由なんて、一番の大事じゃないんだもん。
ダイア「ありがと。・・・・今回はモッキーのおかげかな」
『魔女の端くれならわかるじゃろ。そう思うんなら代価を頂くとするかのぅ。ほっほっほ』
ダイア「代価? ・・・・・うん、いいよ」
心地良い風に揺られながら、しっかりと大地に根を張るこの大きな大木に宿る精。
辛い時や悲しい時、俯いてしまった時は自然とここに足が向いてしまう。
ダイア「の、ノーカンだよね・・・・相手は木なんだし・・・・・・」
こんな気持ち、恥ずかしくて口に出せるはずもない。
だが声や顔に出さずとも、私の気持ちはいつだって変わらない。もちろん、これからも。
大好きなお姉ちゃん。
小煩いイタズラ好きな三人組み。
いつから住み着いたのかは覚えていない黒猫。
いつもそばにいる私達姉妹の写し身。
本当なら私の隣にいる筈のキキ。
他にも、たくさん。
私の住む館はいつも騒がしく、そして賑やかだった。
そして忘れもしない。庭に佇む、今では何の変哲もない一本の大木。
その木に宿った精は今はこうして私の眼前に腰を据えている。
少し前にここへ引っ越しをしたのだと言う。その引っ越しの理由は大体の見当がついていた。
なんとなく、伝わってきたんだ。
それが私の自惚れである可能性もある。でも、たとえそうだとしても。
どんな憎まれ口を利こうとも、私はカレを信じている。
信頼し、信用している。
本当に、感謝している。
808:名無しさん@お腹いっぱい。
09/01/03 13:01:16 Y+PeA+W7
だから、今日だけ。今日だけの特別。
これが最初で最後。・・・・・・たぶん。
ダイア「ありがと。本当に」
ゆっくりと、目の前の大木に顔を寄せる。そして。
『・・・・・・!』
乾いた香りと共に生まれた淡い感情を胸に刻み、心の奥底へとそれを閉まった。
ダイア「ざらざらぁ・・・・うげぇ・・・」
『ほっ、・・・・ほっほっほっほっ。ほーっほっほっほっほっほっ!!』
ダイア「・・・・・本気で気持ちわるいから」
『せめてキモいと言ってほしかった』
直ぐ調子に乗る所は嫌いだけど。
ダイア「じゃ、行ってくるね」
『気をつけてな』
ダイア「友達と会うだけだもん。何も気をつける必要はないって」
『・・・・ほっほっ』
既に心は決まった。あとは行動を起こす。それだけだ。
先程とは違う決意を胸に新たな一歩を踏み出す。
その一歩は私にとってとても深く、重い意味をもっている。
そんな思いとは裏腹に、私の足取りは今までに感じた事の無い程にとても軽やかなものであった。
ダイア「んーーーっし! 久しぶりにやっちゃうかな!」
何故だろう。今日の風はいつもより気持ちがいい。
809:名無しさん@お腹いっぱい。
09/01/03 17:09:53 Z+FQitzi
アロエちゃまあけおめ
愛してるよ
810:名無しさん@お腹いっぱい。
09/01/03 19:17:28 /r+Mxee9
来てるなら来てるって言ってよバーニィ!!!!!!!!!!!!!
811:名無しさん@お腹いっぱい。
09/01/03 21:10:25 Y+PeA+W7
拝啓
酷暑の砌、いかがお過ごしでしょうか。
日焼けした子どもをよく見掛ける、海の恋しい季節がやってまいりました。
ダイア「えぇっと、ここをこうで・・・・・・・あら?」
さて、私事ではありますが。
ダイア「ぁ・・あれぇ?」
私、只今迷子になっております。
ダイア「あ、ここをこう曲がったから・・・・・ぅん?」
かなりの時間真上で輝く陽に当てられながら、片手に持った小さなメモ用紙と睨み合い悪戦苦闘していた。
ダイア「ああんもう! こんな粗末な地図じゃわかんないって・・・・」
正直な所、きまりが悪いというか。まさかこの歳でとは思いもしなかった。
もし、こんな抜けた所を知り合いに見られてでもしたら。
ダイア「・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぅあ!!」
どちらかというと、焦りよりも気恥ずかしい気持ちでいっぱいだった。
ダイア「あんのボンクラじじぃ・・・・!!」
ぐしゃりと。お構いなしに拳を握ったせいで用紙がシワだらけになってしまう。
ダイア「ぅぅうううう!! あいつコロ助。帰ったら絶ッ対、ぶっコロ助!」
そう、何もこうなってしまった原因全てが私にあるわけではないのだ。
812:名無しさん@お腹いっぱい。
09/01/03 21:13:48 Y+PeA+W7
ダイア「せんせー、お腹痛いんで帰ってもいいですかー?」
お昼休み。
冷房の効いた少し肌寒いくらいに冷えた職員室を訪ねた私の開口一番、先生はわなわなと体を震わせ始めた。
ダイア「・・・・うわっ」
おでこに青筋が綺麗に浮き立ち、ぴくぴくと脈打っているのが見ているだけで嫌でもわかる。
先生「お前、学校舐めてるだろ」
怒りに満ち、低くドスの効いた声によって申し出は早々に却下された。
ダイア「こ、こわっ・・・」
まあ、始めから許可は貰えないと内心決め付けていたので、こちらとしてはまったく問題はない。
むしろ助かったとも言える。安易い許可が降りでもしたら、予定が狂ってしまうのだから。
ダイア「コホン。えっと、お腹痛いんでぇ、帰ってもいい・・・・ですよね?」
若干気圧されながらも気を取り直して再び尋ねる。
先生「ま、まだ言うか・・・・・」
先生は既に怒りの感情を通り越したのか、呆れた表情へと変わっていた。
ダイア「あ、あははは。やっぱり駄目ですよねー。そっかそうっかぁ・・・・・」
先生「ふざけてないで教室に戻れ。昼休みはもう直ぐ終わるんだから・・・・・ん。
そういえば、お前たしか先月の補習を欠席していたなあ。
風邪か何か知らんが、ちゃんと補習は受けなさい。なんなら先生が」
ダイア「おりゃ!!」
もはや問答無用。わざわざ説教をされにここへ来たわけではない。
813:名無しさん@お腹いっぱい。
09/01/04 04:29:44 BgVOy1lq
あとどれくらいで終わりそう?
814:名無しさん@お腹いっぱい。
09/01/04 13:13:35 aU0HYZQO
広末「え、ちょっとあなた誰ですか?」
彼女は腰を抜かした
815:名無しさん@お腹いっぱい。
09/01/08 16:06:01 XERvASwj
つまり逆押しでいいん?バカでスマソ…orz
816:名無しさん@お腹いっぱい。
09/01/08 21:12:24 W4U3Yx38
正解は立ちバックだ
817:名無しさん@お腹いっぱい。
09/01/12 10:30:20 ROwVn5uy
ほしゅ
818:名無しさん@お腹いっぱい。
09/01/22 10:01:50 fOJ9P2bu
まだかなぁ
819:名無しさん@お腹いっぱい。
09/01/29 07:51:01 9U5dioiC
なんてくだらない世界なのだろう。
「みんな~~! 今日はありがとう~~~!」
「「「ワーーーーッ!!」」」
この下劣で低俗な光景を見ても、今更思う事など何一つとしてない。
「じゃあね~! みんなー、また戻って来るから~~!!」
「「「うおおおおおおおおおお!!」」」
当たり前の日常をただ平穏に暮らしているだけのあんた達なんかに、この気持ちがわかるもんか。
「お疲れ様です。どうぞ」
「ふん」
スーツ姿の男から渡されたタオルを乱暴に受け取り、流れ出る汗を丁寧に拭き取った。
「「「「アンコール! アンコール!!」」」」
外からの汚らしい歓声が沸き立つ中、私の機嫌は更なる下降の一途を辿るだけ。
「・・・・どうされます?」
恐るおそる、控え目な口調で訊ねる気弱な男に、
私の意向全てを込めた言葉を吐き捨てるようにして言ってやった。
「どうして、このあたしが?」
「・・・・・はい」
たった一言。男は何事も無かったように、素早く私の視界から消え去ってしまう。
820:名無しさん@お腹いっぱい。
09/01/29 07:54:46 9U5dioiC
「うっさいな・・・・・・・」
外からは未だ忌むべき呪いの言葉が吐かれている。
べつに意に介する気はなかったのだが、嫌でも聞こえてくるそれには無性に腹が立った。
「のどかわいた」
その一言を待っていたかのように、再び私の視界に現れた男は手早く小さなボトルを差し出してきた。
「ふん」
男は軽い会釈をすると私の後ろに一歩下がる。
それと同時に、耳障りな濁声をあげる主が陽気な調子でこちらに近付いて来るのがわかった。
「いやあ、お疲れ様です。お疲れ様です」
汚らしい声と相応の醜い身なり。
この、だらしなく緩んだ肥満型の体を笑わずにはいられなかった。
「いやあ、本当に素晴らしいステージでした。私もね、年甲斐も無く、興奮しちゃいましたよお!
ガッハッハッハッハ!! いやあ、本当に素晴らしい! ガッハッハッハッハ!!」
声や容姿だけでなく、その口調までも。
この大男の全てが私の美的観念から外れたものであり、それが許せない。
「・・・・・どうか、この場だけでも」
後ろの男は私にしか聞き取れない程の小さな声でこちらの抑制を計ろうとする。
「・・・・ふん」
本当にこの男は何もわかっていない。この程度の戯れに一々噛み付く程、私は幼稚ではないというのに。
821:名無しさん@お腹いっぱい。
09/01/29 07:57:52 9U5dioiC
「ガッハッハッハッハ! ん、どうされましたかな?」
「いえ、ステージの余韻がまだ抜け切れなくて」
「ほう、それでしたらもう一曲どうです? 観客もまだ物足りない様子ですしなあ」
「うふふ、どうかお気になさらずに」
「んーそれは残念ですなあ。いやあ、結構結構。ガッハッハッハッハ!」
「契約上、そのような件は含まれておりませんので・・・・どうか」
お互いに牽制を掛け合うこの場に一瞬緊張が走るも、大男の言葉で平静を保たれる。
「いやあ、何もそんなつもりで言ったわけではなくてですねえ。まあ、いいでしょう。
追加分という事で一つ、ここは手打ちにしてはいただけないでしょうか・・・・ねえ」
「それでしたら・・・・・・」
ちらりと。鋭い視線で男にサインを送る。
「・・・・・その、額につきましては」
「なあに、心配なさらずとも弾みますよお。これだけのステージだ。その価値がある!」
見え透いた世辞に歯が浮き立つも、薄い微笑を浮かべて会釈を返した。
822:名無しさん@お腹いっぱい。
09/01/29 07:59:36 9U5dioiC
「こちらとしてはそれで構いません。よろしいですか?」
「ええ、私も構いません。むしろ、もう一度このステージに立てる事を光栄に思います」
「謙遜なさる必要などありませんよお! いやあ、本当に謙虚な方だあ!
マネージャーさんもさぞ誇らしいでしょうに!」
「・・・・・いえ」
どうやら私と同じく、向こうもこちらに苦手意識を持っているらしい。
ギラギラとした大男の瞳には黒い感情が渦巻いているのが見ているだけで嫌でもわかった。
「・・・・では、お願いします」
「くれぐれも、よろしくお願いしますよお・・・・・ジャムさん」
言われなくてもわかってる。
そう、心の中で悪態をつき品の無いマイクを片手にステージへと飛び出した。
「「おおおおぉーーーっ!!!」」
ジャム「う~~っ! 私はまだ、歌い足りないぞ~~~!!」
「「「「うあああああああ! ジャムちゃああああああん!!」」」」
ジャム「1、2、3、4!」
「「「いえーーーい!!!!!」」」
823:名無しさん@お腹いっぱい。
09/01/29 21:04:21 ga2vV4OC
きたきた