09/01/06 10:36:12 2JkU9N5I
International Whaling Commissionの略。 1946年に作られ1948年に発効した国際捕鯨取締条約(International Convention for the Regulation of Whaling - 略称 ICRW)に基づき捕鯨の管理を実施する機関。その名称から国際連合の下部機関と誤解される可能性があるが、
国連とは無関係である。実際、日本は第2次世界大戦後、国連加盟より5年早くIWCに加盟している(条約起草時に、将来国連の機関にしたい意思があった事は条約文の第3条第6項に見てとれるが、実現はしていない)。どんな国でもアメリカ政府に通告すれば、加盟国となる事
ができ、脱退は1月1日までにアメリカ政府にその意思を通告すれば同年の6月末日をもって有効となる。
IWCとしての意思決定は本会議(Plenary)で決められるが、専門的な事項に関しては下部組織としての技術委員会(Technical Committee)、科学委員会(Scientific Committee)、財務運営委員会(Finance and Administration Committee)であらかじめ審議され助言や勧告
を本会議に対して行う。議長の任期は3年。出版物の発行や会議開催の準備など事務一般は事務局(Secretariat)が行う。また、IWCの運営に関し、財務運営委員会の範疇外にある事項に関して助言を与える諮問委員会(Advisory Committee)の設置が1997年に決められた。
反捕鯨団体などのNGOは1970年代終わりころから本会議場で傍聴できたが、報道機関の傍聴が議場で可能になったのはつい最近の1998年の第50回会議からで、それまでマスコミは議事が始まる前に会議場を出て別室で会議の模様をスピーカーで聞なければならなかった。したが
って長い年月、会議を直接傍聴していたNGOの発表は捕鯨に縁のない国のマスコミの記事に大きな影響を与えてきた。
条約には1946年に起草された本文の他に付表(英名 Schedule)と呼ばれる付属の部分がある。捕獲頭数、捕鯨シーズン、鯨の系統群の定義、その他捕鯨に関わる細かい具体的な規定は付表に記述され、頻繁に修正されてきている。商業捕鯨のモラトリアムやサンクチュアリー
なども付表に記載される事項である。この付表を修正するのは、本会議に参加して投票で棄権しなかった国の4分の3の多数決で可能である(加盟国の4分の3ではない)。付表は条約の一部分であり、国際法上の拘束力がある。
303:名無しさん@3周年
09/01/06 10:44:17 2JkU9N5I
一方、加盟国の意思表示である決議は、2分の1の多数決で可決されるが、こちらには法的拘束力がないのは、例えば国会決議(「法案の採択」と混同しないように)が法律でないのと同様である。ただし、モラトリアムやサンクチュアリーの採択など、付表の修正に対して異議の
ある加盟国は異議申し立ての手続きをとる事によって、決定事項の適用の対象外となる。例えば、1982年の商業捕鯨モラトリアムの決定の際、ノルウェーは異議申し立ての手続きをとったため、現在でも合法的に捕鯨をしている。 1994の南氷洋のサンクチュアリーの採択に際して
も、日本は異議申し立ての手続きをとっている(モラトリアム決定の際にも異議申し立てを行ったが後年撤回している)。この異議申し立てのメカニズムは、1946年の条約起草の際、アメリカの強い主張によって加えられた。 付表の修正に際しては条約第5条第2項により「科学的
認定に基づいて」いる事が要請されるが、科学委員会の意見に無関係に単に本会議での多数決をもって採択されるケースが近年多い。 IWCには、意思決定手続きが条約に沿っているかどうかチェックして勧告するメカニズムはないので「条約無視、多数でやれば怖くない」というの
が最近の実態である。現在、世界中の国の数は190余りある(台湾など、国家として認められていない地域は除く)。その中で、現在IWCに加盟している国は以下の83カ国である。もともとIWCにおける新加盟国のリクルートは、「資源量が多い少ないにかかわらず、すべての鯨の商業
捕鯨を禁止する」商業捕鯨モラトリアムの採択のために反捕鯨NGOが1970年代終わりに開始したものである。日本など捕鯨国側は、「鯨資源の保存と適度な利用」という条約本来の目的の実現を目指してきたが、固定化した投票パターンを打ち破るには捕鯨側の主張に同調してくれる
新規加盟国をリクルートせざるを得ないとの判断から対抗措置に打って出た。その結果、非ヨーロッパ圏を中心に加盟国が増えて2006年のIWC総会で「商業捕鯨モラトリアムはもはや必要ない」というセントキッツ・ネービス宣言が採択されるにまで至ったことに反捕鯨国側は危機感
を強め、2007年2月にはイギリス政府がEUやアフカの非加盟国を反捕鯨陣営に新規加盟させる意思を表明している。
304:名無しさん@3周年
09/01/06 10:54:23 2JkU9N5I
昨年の年次会議以降、スロベニア、クロアチア、キプロス、エクアドル、ギリシャなどが新たに加盟したのはその反映と思われる。ヨーロッパとNIS諸国:29カ国 (53カ国中)Austria, Belgium, Croatia, Cyprus, Czeck, Denmark, Finland, France, Germany, Greece,
Hungary, Iceland, Ireland, Italy, Lithuania, Luxembourg, Monaco, Netherlands, Norway, Portugal, Romania, Russia, San Marino, Slovak, Slovenia, Spain, Sweden, Switzerland, U.K. 北米・中米・南米: 20カ国 (36カ国中)Antigua and Barbuda, Argentina,
Belize, Brazil, Chile, Costa Rica, Dominica, Ecuador, Grenada, Guatemala, Mexico, Nicaragua, Panama, Peru, St. Kitts and Nevis, St. Lucia, St. Vincent and the Grenadines, Suriname, Uruguay, U.S.A.
アジア: 7カ国 (21カ国中)
Cambodia, China, India, Japan, Korea, Laos, Mongolia
中東: 2カ国 (15カ国中)Israel, Oman
アフリカ: 17カ国 (53カ国中)
Benin, Cameroon, Côte d'Ivoire, Congo, Eritrea, Gabon, Gambia, Guinea, Guinea-Bissau, Kenya, Mali, Mauritania, Morocco, Senegal, South Africa, Tanzania, Togo
オセアニア: 8カ国 (14カ国中)
Australia, Kiribati, Marshall Islands, Nauru, New Zealand, Palau, Solomon Islands, Tuvalu
こうして見ると、ヨーロッパの国や、ヨーロッパ人が移住して開拓した国が半分以上を占めていて、アジア・アフリカの比率が低い事がわかる。調査捕鯨に対する反対決議案は法的拘束力はなく、IWCの会議で投票に棄権せず参加した国の2分の1で可決されるが、
こういう地理的・文化的バランスを欠く構成での多数決をもって、反捕鯨団体は「反捕鯨は世界の世論」と言う。
305:名無しさん@3周年
09/01/06 10:59:43 2JkU9N5I
IWCは、アメリカ政府に加盟の意思を通知さえすれば、鯨に関する知識や漁業管理の経験や見識の有無にかかわらず、どの国でも加盟できる。これまでのの加盟国の様子を見ても、分担金が未払いで投票権が停止されている国、重要な投票のある日にだけ参加する国、一度も自国
のコミッショナー(「主席代表」と訳される場合もあるが、要は代表団の団長で本会議での投票権を持つ)を任命しなかった国、会議の休憩時間に反捕鯨NGOから手渡されたメモを自国の声明として読み上げる国など、実態は様々である。
90年代に入って日本は発展途上国を中心に複数の国にIWCの加盟を促ししている。 1976年以来IWCの事務局長を務めてきて2000年の会議を最後に引退したレイ・ギャンベル(Ray Gambell)博士に言わせると、「自分の意見を支持してくれる国を加盟させる事はどの国もが使いうる
戦略である」(The Guardian Weekly、18-Nov-1999)という事になるのだが、国連と違ってIWCでは加盟国の分担金が一律なため、経済的に恵まれていない国にとっては海洋生物資源の持続的利用という日本の意見に賛成であっても、自分の利害に直接は無関係なIWCに高額な金を
払って加盟して代表団を送るまでには至らない事が多かった(IWC加盟国の分担金を経済力に応じた額にする国連方式の導入は1999年に提案されたが、その後は経済的に力のない国の分担金はだいぶ減ったようである)。街頭募金のように募金額が自由な場合でも募金に応じないで
通りすぎる経験は誰でもあると思うが、まして、「最低限1万円以上で」などという条件がついていたら募金の主旨には賛成でもおいそれと応じられないのと同じである。日本円で数百万円に相当するIWCの分担金は、経済規模の小さな国にとってはおいそれと出せる額ではない。
そこで、「日本の意見には賛成だけど、捕鯨問題に利害関係のない我国にとっては経済的な負担が高い割にはメリットがないから、せめて何か見返りが無ければ加盟はできない」という場合もでてきて、ODAのような経済援助を見返りにという事にもなるのも無理もない話だと思う
が、それが反捕鯨国などでは「日本が金でIWC票を買う」というような報道が出てくることになる。
306:名無しさん@3周年
09/01/06 11:04:00 2JkU9N5I
仮にそういう事態であったとしても、捕鯨問題に対する彼らの本来の意見はそのまま尊重されているわけであり、後で述べる例のように反捕鯨団体が経済ボイコットをちらつかせて投票を変えるよう脅しをかけるといった、言論の自由の圧殺とは根本的に次元が異なる。
国際外交の世界では、国同士が友好裏に利害の調整を済ませて協力関係を結ぶ事はシビアーな国際社会で少しでも有利に生き残るための当たり前の方策だと思うのだが、日本国内でも、ナイーブな学級会的倫理観をそのまま国際社会に延長して物事を見る人や、外国の政
策には目をつぶって常に日本の政策のみを論じたがる人は妙に抵抗を覚えるらしい。
反捕鯨側の政治圧力の一例だが、1994年に南氷洋のサンクチュアリー案に反対しようとした南太平洋のソロモンは、反捕鯨国から輸出品であるバナナの禁輸の可能性でもって脅された。同様にカリブ海の4ヵ国には、アメリカの反捕鯨団体から多量の抗議文書がFAXで送られ、
観光地のホテルに大量に予約してキャンセル料が発生する直前の日にキャンセルされるといういやがらせに遇っている。ノルウェーはアメリカの国内法に基づく経済制裁で脅された。その結果、これらの国々は南氷洋のサンクチュアリー案採決においては棄権している。
このような、主権国家の自由な意思表明に対する圧力の存在が、IWCでも秘密投票制を導入しようという日本提案の動機となっている。マフィアの暴力が支配する町の住民投票で記名投票するような状況を想像してみてほしい。
IWCの歴史を見ると、自分たちの支持基盤を強固にするために加盟国を増やすというのは、もともと反捕鯨陣営が先に用いた手法であり、1980年前後には多くの国がIWCに加盟している(表参照)。これは商業捕鯨モラトリアムの採決に必要な4分の3の多数を得るためだが、
セントルシアなど現在では日本の立場を支持しているカリブ海の島国の多くも、もともとは反捕鯨側が加盟させたもので、分担金などもグリーンピースなどが出したという事は過去何人かのジャーナリストが指摘してきたし、IWCへのアメリカ政府代表団のコミッショナー
であったマイケル・ティルマン(Michael Tillman)も1998年のラジオ番組で認めているところである。
307:名無しさん@3周年
09/01/06 11:08:30 2JkU9N5I
中には、反捕鯨団体からもらった小切手をそのままIWCへの分担金の支払いに使ったために資金関係が露見した国もあったという。そして、それらの国の国籍を持たないグリーンピースの活動家やその仲間が代表団のコミッショナーや代表団員としてIWCの会議に参加していた。
このような状況の中で1982年、商業捕鯨のモラトリアムは棄権5票を除いた有効票32のうち賛成25という4分の3プラス1で可決されたわけだが、この年の代表団リストを見てもアンティグアのコミッショナーのR. Baron、セントビンセントのコミッショナーのC.M. Davey、セント
ルシアのコミッショナー代理のF. Palacio、セイシェルのコミッショナー代理のL. Watsonなどはそれぞれの国の国籍を持たない反捕鯨活動家であった。 より詳細に言うと、Francisco PalacioはマイアミのTinker Instituteという団体に属するコロンビア国籍の活動家でグリー
ンピースのコンサルタントでもあり、弁護士であるRichard Baronはその友人であった。英国籍のLyall Watsonは「生命潮流」などの著書でも知られる一種の思想家であり、イランの故パーレビ国王の弟が率いるスレッショルド財団(Threshold Foundation)という資金豊かな組
織の事務局長でもあった。また、加盟国政府のコミッショナーにはならなかったものの、グリンピース会長のDavid McTaggartの友人であったバハマ在住のフランス人のJean-Paul Fortom-Gouinの存在も見逃せない。もともとは投資関係のアナリストであったFortom-Gouinは、19
77年にグリーンピース・ハワイが北太平洋でソビエトの捕鯨船に妨害活動を行った際に資金援助を行い、自らもWhale and Dolphin Coalitionという団体を率いて、当時まだオーストラリアで行われていたCheynes Beach Whaling社の捕鯨に同様の妨害活動を行っている。 70年代
終わりにパナマの代表団にもぐり込んでIWCの会議に出ていたが、パナマが脱退した後は1982年からPalacioがいるセントルシア代表団に移っている。 投票権を持たない立場の顧問、専門家、通訳という代表団員ならまだしも、本会議において独立国家の意思表明手段である投票
権を持つコミッショナーやその代理が外国人だったわけである。
308:名無しさん@3周年
09/01/06 11:12:29 2JkU9N5I
たとえば、日本に在住していない外国人が日本の国連大使やWTOへの日本代表団の団長や副団長となって日本の代表として発言や投票をしていたら、たとえ日本政府の承認のもとであっても奇異であり、誰をどう「代表」しているのか考えさせられるが、少なくとも
モラトリアム採択前後のIWCはそういう事が行われる場所だったのである。
日本が行っている調査捕鯨は、英語による報道ではResearch Whalingという言葉よりはScientific Whalingと呼ばれる場合の方が多い。 IWCの用語ではScientific Permit(科学許可)やSpecial Permit(特別許可)と呼ばれる範疇に属する。国際捕鯨取締条約(ICRW)
の第8条第1項により、加盟国政府には自国民に対し科学調査のために鯨を捕獲する許可を与える権利が与えられており、それに基づいた鯨の捕獲調査をいう。調査計画の名称は、南極海で行っているのがJARPA(Japanese whale Research Program under special permit
in the Antarctic)、北西太平洋で行っているのがJARPN(Japanese whale Research Program under special permit in the North Pacific)である。
このように、条約上の正当な権利ではあるが、日本の調査捕鯨の自粛を求めるような決議が毎年IWCで採択されているのは、例えて言えば、憲法で保証された権利を否定するような決議が議会で採択されるようなものである。
★ JARPA (1987/88-2004/05) ★
商業捕鯨の最後の時期、日本が南極海で捕っていたミンククジラについて、IWCの科学委員会は資源量が豊富である事を調査データによって認めていたが、IWC本会議においては未だ科学的知識には不確実性があるという事で、モラトリアムの採択となった。その背景には、
商業捕鯨では鯨が多い場所を探し捕獲するため、そこから得られたデータにはサンプリング上の片寄りがあるという意見もあった(商業捕鯨においても捕獲したすべての鯨からサンプルの採取は行われ、生物学的なデータは解析されていた)。モラトリアムの決定に際し
ては、「遅くとも1990年までに資源量の包括的評価を行って再度見直す」という条件がついていたため、南極海のミンククジラに関して、より信頼性の高いデータを得るために新たに調査方法をデザインして開始した、というのが南極海で調査捕鯨が開始された大ざっぱ
な経緯である。
309:名無しさん@3周年
09/01/06 11:16:35 2JkU9N5I
1987/88シーズンと1988/89シーズンに2度の予備調査を行い、翌シーズンから16年にわたる本調査が開始された。当初の計画では、ミンククジラ825頭とマッコウクジラ50頭の捕獲で調査を行い1990年に予定された資源量の包括的評価に望む計画だったが、中曽根政権の対外的な政治
配慮により捕獲量を減らされたため、調査結果の統計的有意性を保つには、調査期間を延長せざるをえなくなった)。調査海域としては 南極海で6つに分けられた区域 のうち、日本が商業捕鯨時代に操業を行ってきたIV区とV区を交互に行ってきたが(捕獲頭数は各区で300頭プラス
・マイナス10%)、系統群分布の広がりを調べるために隣接したIII区やVI区の一部も含めるようになった(捕獲頭数は各区で100頭プラス・マイナス10%)。よく、反捕鯨国で「調査のために数100頭も捕るのは捕りすぎ」などという人がいるが、統計学上、母集団からサンプリングし
て、その分析結果から母集団に関して確かな事をいうには、サンプル数がある程度十分である必要がある事を理解していない人の言である。喩えて言うなら、人口50万程度の都市でたった10人程度からアンケート調査をして、その結果から住人の実態についてどれだけ正確な事が言え
るのか、というのを考えてもらえば判ると思う。商業捕鯨と違い、調査捕鯨においては母集団から地理的、生物学的(性別、年齢など)に片寄りのないサンプリングをするのが大事なため、船団のコースは数学的に決められ、鯨の群れを発見した際には乱数表を用いてどの鯨を捕獲す
るのかが決められる。また、鯨の体から採取されるサンプルの項目も多岐にわたる。 これらの研究報告は毎年IWCの科学委員会で検討されるが、それらに加えて南極海での調査捕鯨に関しては16年計画の中ほどが過ぎた1997年に専門の会議が開催されて詳細に検討された。その報告書
の中で「JARPAの結果はRMPによる管理には必要ではないものの、以下の点でRMPを改善する可能性を秘めていることが留意された。・・・」で始まる文の「JARPAの結果はRMPによる管理には必要ではない」だけを取り上げてIWC科学委員会が調査捕鯨の成果に否定的であったように宣伝
しているのが内外の反捕鯨団体である。報告書を良く読めば、調査から得られた様々な結果が高く評価され、改定管理方式(RMP)
310:名無しさん@3周年
09/01/06 11:22:20 2JkU9N5I
を改善する可能性も合意されている。また、反捕鯨団体のいう「鯨を殺さない調査でも必要な情報は得られる」という言い分に関して、報告書は科学委員会内の両論を付属文書に併記した上で、様々な調査項目のうちミンククジラ集団の年齢構成に関する部分に関しては「会合では
年齢構成の情報をもたらし得る非致死的調査方法(例えば、自然標識)があったことが留意されたが、調査船団への補給およびIV区とV区でのミンククジラの豊富な頭数が、それらの調査を成功させることを恐らく妨げたであろう」としている。もちろん、報告書におけるこういう
個所は反捕鯨団体の宣伝では都合よく無視される。 ★ JARPA II (2005/06-) ★
1987年から始まった南極海での第1期の調査計画(JARPA)も2004/05シーズンに無事終わり、2005/06シーズンからは内容を更に広げた新しい調査計画(JARPA II)が開始された。
当初、南極海での調査捕鯨が始まった背景としては、当時の南極海で最も資源量が豊富で繁殖力も旺盛なミンククジラの商業捕鯨再開に向けた科学的データの収集という側面が大きかった。ミンククジラはヒゲクジラ類の中ではかなり小さな種だが、資源管理が極めて甘かった初期の
商業捕鯨によって激減した大型クジラに取って代って資源量を増やしたことが種々のデータで示唆され、南極海で商業捕鯨を再開する際には当面の唯一の捕獲対象と考えられていた。しかし調査が進むにつれて、ミンククジラの増加傾向も頭打ちであることが、性成熟年齢、、体長、
皮下脂肪の厚さ、胃の中の餌の量のデータなどからうかがえ、一方、かつて資源量が枯渇した大型クジラであるザトウクジラやナガスクジラが回復し始めていることが目視調査から判明し始め、これらが餌をめぐってミンククジラと競合している可能性が濃厚になってきた。なお、最
大の鯨であるシロナガスクジラについては増加傾向は認められるものの過去にあまりに激減したせいか回復の程度は低いし、同じ南極海のヒゲクジラ類でもイワシクジラなどは索餌海域が温暖な中緯度であるためにミンククジラと餌を争う相手ではないと考えられている。
311:名無しさん@3周年
09/01/06 11:26:45 2JkU9N5I
このような背景のもと、データから得られる統計的な有意性を高めるためにミンククジラの捕獲量を増やし、ナガスクジラとザトウクジラを新たに対象に加えて鯨種間の相対的な勢力関係を解明し、更に地球規模の環境変化が鯨に与える影響の調査を拡充し、これまで一種類の鯨の
管理しか想定していなかったIWCの捕獲枠算定法である改定管理方式(RMP)を複数種管理に発展させることも狙うというのが、今回の第2次調査計画の大きな目的となっている。
最初の2回の調査は予備調査として妥当な調査手法の追求に重きを置き、ミンククジラを850頭±10%、ナガスクジラを10頭までの捕獲となるが、本格調査ではミンククジラを850頭±10%、ナガスクジラとザトウクジラを各50頭の調査を予定している。初回の2005/2006年の調査では
グリーンピースとシーシェパードの2つの反捕鯨団体が過去同様に一般市民の寄付金をドブに捨てるような空疎で見かけ倒しの妨害活動を行ったものの調査は無事に終了し、反捕鯨国が唱える非致死的手法のみの調査では得られない貴重なデータがミンククジラ以外にも蓄積され
始めた。 ★ JARPN (1994-1999) ★一方の北西太平洋での調査は、日本近海の北西太平洋におけるミンククジラの系統群の分類に関して反捕鯨国の一部の科学者から出された仮説に反証するために1994年に開始された。もともと商業捕鯨時代の生物学的データから、北西太平
洋のミンククジラは以下の2つの系統群(おおまかにいって繁殖集団)から成ると考えられていた。
J系群: 黄海-東シナ海-日本海に生息。 推定頭数は7,000.O系群: オホーツク海-北西太平洋に生息。 推定頭数は25,000.
ところが反捕鯨側が唱えた新説は、J系群とO系群が更に細かな亜系群から成り、更に北太平洋中部にW系群という新たな系統群が存在してO系群と混ざっているというもので、IWCの捕獲枠算定方式である改訂管理方式(Revised Management Procedure - 略称 RMP)が適用された
場合に捕獲頭数が極めて低くなるような、ほとんど政治的意図のためとしか思えない仮説なのだが、これまでの調査の結果では従来どおりの系統群分類を支持するデータが得られている(亜系群の存在は否定されたが、新たなW系群の存在は完全には否定できていない)。
312:名無しさん@3周年
09/01/06 11:30:54 2JkU9N5I
調査海域は、 IWCが区分けした海域のうち、7、8、9、11の海域で行われ、 捕獲頭数は100頭プラス・マイナス10%であり、調査手法は南極海と同様である。2000年2月にこの調査計画の成果についてIWC科学委員会主催のレビュー会議が開催され、反捕鯨派の科学者が
提唱した新仮説を支持するデータは見つからなかったものの、それらを完全に否定するまでには至らなかった。
★ JARPN II (2000-) ★当初は系統群分類に重点を置いて始まった北西太平洋の調査であったが、捕獲された胃の内容物の調査から予想外に多くの魚類、それもサンマやイワシをはじめ明太子やタラコの親であるスケトウダラなどが見つかり、また漁業の現場
でミンククジラがこれらの魚をごっそりと食べて漁業と競合している事が判ったため、比較的豊富なニタリクジラやマッコウクジラにも調査の対象を加えて魚と大型鯨類の捕食関係などの生態系を解明する事に重点におき、2000と2001年にそれぞれミンククジラを100頭、
ニタリクジラ50頭、マッコウクジラ10頭を捕獲する予備調査に着手する事となった。実際に捕獲した鯨の胃から見つかった魚類の写真は、日本鯨類研究所や水産庁の捕鯨班のページに見ることができる。 この調査における主目標は、漁業における複数種管理にある。
どういう事かというと、従来は例えばミンククジラ捕鯨ならミンククジラのみの資源量から捕獲量を決めていたのを、餌としている生物との数量関係によるモデルを用いて複眼的に行なっていこうという点にある。同様の試みはすでにノルウェーで始まっていて、ミンク
クジラとその餌であるオキアミ、マダラ、シシャモの関係を数式で表して、どの種をどれだけ獲ると、他のどの種がどれだけ増減するかという研究がなされている。鯨が多量の魚類を捕食する以上、ミンククジラの数倍の体重を持ち資源量も同等あるいは数倍もある北西
太平洋のニタリクジラやマッコウクジラも調べなければ、この点の解明はできない。よく、反捕鯨論者の中には、鯨を殺さない非捕殺的調査のみで充分という人がいるが、鯨の群れを観察したり皮膚から少量のサンプルを取っただけでは、鯨と魚の数量的捕食関係などは
判らないのである。もちろん、従来からのミンククジラの系統群の問題に加えてニタリクジラの系統群分類なども調査対象となるし、臓器などを調べて環境汚染の影響の具合なども調べられる。
313:名無しさん@3周年
09/01/06 11:34:50 2JkU9N5I
2000年と2001年の2年間に予備調査を行ない2002年から本調査となったが、本調査からはミンククジラは新たに沿岸での50頭の捕獲が追加され、さらにイワシクジラ50頭が加わった。沿岸でのミンククジラは釧路と三陸で毎年交互に、それぞれ違う時期での捕獲である。
更に2004年からは、イワシクジラの捕獲枠が100頭に、沿岸域でのミンククジラは釧路と三陸でそれぞれ毎年60頭(計120頭)と変更になった。現在の捕獲予定数をまとめると、
ミンククジラ: 220頭 (沖合いで100頭、沿岸で120頭)、ニタリクジラ: 50頭、イワシクジラ: 100頭、マッコウクジラ: 10頭である。
なお、調査海域におけるニタリクジラは現在の推定頭数は2万3000程度(IWC科学委員会、1995年)であり、捕獲開始前の推定頭数は3万5000から4万程度であるから、大体、NMPの説明で述べる MSYレベル に近いと思われる。ニタリクジラは日本近海ではモラトリアムで
商業捕鯨が停止する1987年まで捕獲されていた。
一方、イワシクジラについては、日本の研究者による調査海域の推定頭数は2万8000程度である(IWC科学委員会ではまだ最新の資源評価に着手していない)。この推定頭数が妥当ならば、年間50頭(全頭数に対して0.2%程度)の捕獲では悪影響は考えられない。日本近海
での捕獲は、70年代に採用された新管理制度(NMP)によって保護資源になったために商業捕獲は1975年が最後であり、27年ぶりの捕獲となった。
北太平洋西部におけるマッコウクジラの推定頭数は10万程度であるが、初期資源量は不明である(江戸時代末期、まだ日本人が遊泳速度が遅くて死んでも沈まないセミ鯨などを中心に沿岸捕鯨を行っていた時代に、欧米の捕鯨船が大挙して押しかけて日本近海で捕っていた
捕獲歴史の古い種であるから、今世紀始めにノルウェーの国際捕鯨統計局がまとめ始めた資料だけでなく、古い歴史的資料まで遡って解析して大ざっぱな推定ができるかどうか、といったところではないだろうか)が、年間10頭の捕獲ではとうてい資源状態に影響しない。
マッコウクジラは大型鯨類の中では最も豊富で全世界での推定頭数は100万以上なのだが、なぜかアメリカ国内では絶滅に瀕した種に分類されていて、これをタテに日本の調査に対して圧力をかけている。
314:名無しさん@3周年
09/01/06 11:37:41 2JkU9N5I
マッコウクジラが豊富で全世界の推定頭数が100万から200万である事はアメリカ政府の海洋大気局(National Oceanic and Atmospheric Administration - NOAA)のページ にも記載されていたのだが、自らの政策の馬鹿さ加減を裏付ける数字であるためか今では削除されている。
2001年1月に、アメリカのノーマン・ミネタ商務長官が来日して日本の農水大臣と会談した際、日本側がこのページを引き合いに矛盾を指摘したところ、さっそく翌日から数値の記述が削除されたのだという。このように豊富な種でも絶滅に瀕した種に指定されるのは、ワシント
ン条約(CITES)における分類と同様、鯨を取り巻く政治状況の歪みの産物である。
なお、条約第8条第2項では捕獲した鯨を「実行可能な限り加工」する事が規定されている。従って、捕獲した後に研究用のサンプルだけを取って鯨を廃棄してはいけないのだが、一般には条約の規定などあまり知られていないため、日本国内でさえ、「調査捕鯨で採った鯨がなぜ
売られているのだろう」という声はたまに耳にする。また、このような一般市民の知識不足を利用して「調査捕鯨は科学を隠れみのにした商業捕鯨」と主張する反捕鯨団体の宣伝がもっともらしくまかりとおる。実際には、こうした副産物の販売によって、調査にかかる費用のか
なりの部分がまかなわれている。これは、例えば惑星の研究のために探査機を送り込んでも、それにかかる費用を補う副産物が得られるわけではない事と比較すると、科学研究としてはコスト面で効率の良い部類にはいると思う。
いずれの調査も (財)日本鯨類研究所 が主体となって計画され、科学者以外の乗組員と船は共同船舶株式会社からチャーターされている。調査計画は毎年IWCの科学委員会において事前に審議され、計画内容に対し助言などが行われている。調査結果は、国外の科学者も交えて
解析され、IWCに多くの論文が提出されているものの、一般の市民にはアクセスしにくいし、英語の専門論文は読んでもたぶん理解できないと思うが、日本鯨類研究所が毎年発行する年報や年4回発行される「鯨研通信」で各年の調査結果の概要を知る事はできる。
315:名無しさん@3周年
09/01/06 11:45:50 2JkU9N5I
IWCの年次総会には毎年何十ものNGOが参加し、それらの大多数は反捕鯨団体である。徐々に解説を加えていくとして、とりあえず、その主なものを列挙しておこう。各団体のページを訪ねて、捕鯨問題に関する主張を読み、それらが何を語って何を隠しているかを洗い出せば、
反捕鯨運動における情報戦略の性格というものが見えてくるであろう。また、掲示板やゲストブックがある場合には、それらを見ることによって、彼らを支持する一般市民の知識の程度や見識のレベルなども見えてくるであろう。
GP - (Greenpeace International、グリーンピース)
日本ではおなじみの反捕鯨団体である。 1971年にアラスカでの核実験に反対する活動をしたのが始まりらしい。捕鯨に関しては、1971年にアリューシャン列島のかつての捕鯨基地の廃墟で、かつて乱獲された鯨の骨を見たのがき
っかけだったというのが公式のストーリーである。が、実際には、自分が飼育するシャチが自由になりたがっていると主張してバンクーバーの水族館を解雇されたポール・スポング(Paul Spong)に1973年に出会って感化されたの
が、本格的な始まりだったようで(Fred Pearce、"Green Warriors"、1991)、これは当時バンクーバー在住で初期のGPのメンバーとも交流のあったC.W. ニコルの回想とも符合する(「日本人と捕鯨」、1982)。捕鯨船団に直接
行動を取ったのは、1975年夏に北太平洋での旧ソビエトの船団に対するものが最初である。1985年には反核運動でニュージーランドに停泊していたGP所有の「レインボー・ウォリアー号」が核実験国であるフランスの工作員に爆破
されるなど、話題にはこと欠かない。また、旧ソ連が崩壊する少し前の1991年、東ドイツに配属されていたソ連軍将校からスカッド・ミサイルの核弾頭を買うつもりだったものの、その将校が転属になったため断念したという
(URLリンク(homepage.mac.com) 8/18/94の項)。買った核弾頭を公開してセンセーションを巻き起こすつもりだったらしいが、注目を集めるには何でもアリ、という姿勢の一例である。
なお、もともと北米で誕生したが、現在の本部はオランダのアムステルダムであり、各国の支部は集めた資金24%を本部に払うことになっている。
316:名無しさん@3周年
09/01/06 12:31:13 2JkU9N5I
WWF - (World Wide Fund For Nature、旧名はWorld Wildlife Fund、世界自然保護基金)
1961年設立の大手環境保護団体でスイスに本部がある。反捕鯨運動ではグリーンピース、IFAWと並ぶ勢力である。名誉総裁をエリザベス女王の夫であるエジンバラ公フィリップ殿下が務めるが、彼が日本の新聞とのインタビューで「日本にWWFの会員が少ないのは日本人の環境への
意識が薄いからだ」というような趣旨のことを言っていたのが思い出される。また、1993年に京都でIWC総会が開催された際、WWFで長年捕鯨問題を担当するカサンドラ・フィリップス(Cassandra Phillips)女史がテレビ・インタビューで「IWCが白人の優位性を失い、道義を失う
と人類は危機に陥る。」と述べていたが、フィリップ殿下の言葉と併せて、欧米人の一部に根強くあるゆがんだ意識を想わせる。
ところで2002年4月1日に、WWF日本支部が会員向けの会報において「数が多く絶滅の心配がない種類は、徹底した管理制度などの条件が整えば商業捕鯨の再開が可能であるという論理を否定できない」という旨の見解を載せて注目された。これがスイスの本部の方針に影響を与え
るのかどうか未知数だが、オーストラリアやニュージーランドの支部は、そう簡単に姿勢を変えないのではないかと想像する。なお、ノルウェーのWWF支部はすでに1996年に 「ノルウェーの商業捕鯨の捕獲量は資源に影響のないレベルであり、IWCで定管理制度が完成すればもはや
反対することはない」という旨の声明を出して 本部の姿勢との違いを明らかにしている。
IFAW - (International Fund for Animal Welfarek、国際動物福祉基金)
1969年に設立。カナダにおけるアザラシ猟への反対運動で知名度を上げた。捕鯨に関しては、代表的な反捕鯨科学者のジャスティン・クック(Justin G. Cooke)への資金援助関係やシドニー・ホルト(Sidney Holt)との関係が知られる。
317:名無しさん@3周年
09/01/06 12:32:40 2JkU9N5I
シーシェパード - (Sea Shepherd Conservation Society )
「海の羊飼い」と訳されることもある。グリーンピースの創立メンバーの一人でありながら組織を追放された活動家ポール・ワトソン(Paul Watson)が1977年に創立した。日本では知名度が低いが海外では知られた存在である。 1970年代終わりから80年ころまで「シエラ号」など
の海賊捕鯨船へ自身の船を体当たりさせたり、爆破したりして有名になったが、その後1986年にアイスランドの捕鯨基地で陸上の捕鯨施設を破壊し、捕鯨船を浸水・沈没させ、結果としてIWCへのオブザーバー参加権を剥奪されている。
また、1992年にノルウェーの捕鯨船を浸水・沈没させようとしたのを始め、1994年にノルウェーの沿岸警備艇に船を体当たりさせるなどの活動でワトソン自身がノルウェーから国際指名手配されて1997年にオランダで逮捕されている(80日の拘留の後釈放)。これまでに沈めた捕鯨船
の数は10隻であるという。また、1998年にはアメリカ・インディアンのマカー族の捕鯨復活への妨害でもメンバーから逮捕者を出している。今年(2001年)の夏はカリブ海の原住民生存捕鯨に注目を集めるべく、セント・ビンセントへ向かったそうである。ピアース・ブロスナン
(Pierce Brosnan)やルトガー・ハウアー(Rutger Hauer)など、ハリウッドの俳優にも支持者が多いようで、ワトソンの半生を描いた映画が作られるという話が以前ネットに流れていたが、その後どうなったのであろうか。このニュースに対してあるノルウェー人が、「出来上がっ
たら、その年の代表的コメディー映画になるだろう」と評していたのが思い出される。
これまでは日本と直接対峙したことがなかったが、2002年末には南氷洋における日本の調査捕鯨に対する妨害活動を開始する予定で、8月からニュージーランドのオークランド港において、自身の活動船ファーリー・モワット(Farley Mowat)号の準備をしている。報道を見る限り、
過去のグリーンピースと類似の行動をとるつもりのようで、「類は友を呼ぶ」という言葉が思い起こされる。最近の報道によると、捕鯨に反対する理論武装を強化する意味も込めて、妨害活動船の乗員40数名は全員菜食主義者であるという。
318:名無しさん@3周年
09/01/06 12:35:14 2JkU9N5I
また、出航を間近に控えた11月には、活動船に魚雷が搭載されているという情報を受けてニュージーランド当局が捜査をした。その結果、密漁船などに対する威嚇目的で載せた、内部が中空の模造品の魚雷がデッキ上に確認されている。
なお、彼らにとっては敵にあたる ハイノース・アライアンス のページのゲスト・ブックにポール・ワトソン自ら書き込みをしているのを以前よく見かけた。
EIA - (Environmental Investigation Agency)
「環境調査エージェンシー」と訳される場合もある。フェロー諸島のゴンドウクジラ漁に対する反対キャンペーンの中心的存在であり、また近年は日本のイルカ漁に難くせをつけてきている。元グリーンピースの活動家アラン・ソーントン(Allan Thornton)に率いられる。
ソーントンはグリーンピース時代、1977年にそのイギリス支部を作り、マスメディアを通した呼びかけによって、1978年にグリーンピースの船、初代「レインボー・ウォリアー(虹の戦士)号」を調達した人物でもある。数年前、EIAはロンドンの法務局では株式会社として
登記されているという報道があったが(Themis 1994年8月号)、今でもそうなのかは不明である。
FOE - (Friends of the Earth International)
訳名の「地球の友」で呼ばれることもある。捕鯨問題ではグリーンピースよりも早く、1971年からIWCに姿を見せている。当時はFOEの反捕鯨組織「プロジェクト・ヨナ」がジョーン・マッキンタイアー(Joan McIntyre)に率いられ、アメリカのニクソン政権との密接な連携
で反捕鯨運動を世界的に広めた。マッキンタイアーがIWCの場で演説できたのもニクソン政権の力であり、後に彼女がまとめた「クジラの心(原題:Mind in The Waters)」には、ニクソン政権で反捕鯨政策を推し進めたリー・タルボット(Lee M. Talbot)も一文を書いている。
319:名無しさん@3周年
09/01/06 12:37:12 2JkU9N5I
彼女にまつわる逸話を1つ引用しておこう。文中「米澤」とあるのは当時IWCでの日本代表団のコミッショナーであった米澤邦男氏である。
米澤がホテルにチェックインした時に反捕鯨派の攻撃は開始されていた。 米澤はホテルで次のように言われた。
「あなたの部屋に花が沢山届いていますが、どうされますか? 棄てろというなら、棄てます。それから、プロジェクト・ヨナという反捕鯨団体のマッキンタイアという女性が、あなたにお目にかかりたいと言ってきてますが、どうしますか」
米澤が「花を持って来い」と言うと、葬式の花である白ユリが部屋に入り切らないぐらい届けられた。 それからマッキンタイアが部屋を訪ねて来て、「ミスター米澤、今日は何の日か知ってますか?」と言うから、「知らないね」と言うと、
「今日はクジラのお葬式の日です。そう思って私は花を持って来たんです。クジラみたいな利口な動物を殺すのは許せません。人間以上に利ロなんですよ、コミュニケーションもしているし」と真顔で言った。そこで、「クジラは本も書かないし、
建物も建てないし、あまりいい仕事はしないようだね」と言うと、「そこなんですよ。 クジラは本当はできるんです。 でも残念ながら手がないんです。 手さえあれば人間に負けないものを作りますよ」と彼女は言った。
米澤は、40分ほどマッキンタイアにつきあったが、最後に、「あなたのお話を聞いていると、クジラが一部の人間よりは利ロかもしれないと思えるようになりましたよ」と皮肉を言ったが、それが相手に伝わったかどうかは、分からなかった。
マッキンタイアは、その後、プロジェクト・ヨナの金を横領して3年ほど後にクビになっている。 運動家になるには金を集める才能がなければならないし、日本から来たコミッショナーのホテルに押しかけて、デモンストレーションをやったという
実績を積まねばならなかったのだろう。 運動家は純粋なだけでは務まらない仕事である。
(小川晃 「鯨と日本外交」、「月刊日本」 2001年7月号)
320:名無しさん@3周年
09/01/06 12:44:27 2JkU9N5I
International Wildlife Coalition
名前からわかるように国際捕鯨委員会(IWC)同じ略称を持つ反捕鯨団体である。この略称を活用して、あたかも国際捕鯨委員会の見解のような誤解を与えかねないパンフレットを配布したことなどあるという。 1994年の南氷洋サンクチュアリ採択に際して、カリブ海諸国の観光
ホテルに大量に予約を入れ、キャンセル料が発生する直前に予約を取り消すという嫌がらせで、サンクチュアリーに反対票を入れないように圧力をかけたのも、この団体である。また、1998年のIWC総会において、この団体とECCEA(Eastern Caribbean Coalition for Environmental
Awareness)がそれぞれ、日本がカリブ海諸国の票を金で買っているとか、共謀してホエール・ウォッチング船を爆破しようとしているなどと主張するオープニング・ステートメントを発表したために会議が紛糾し、結局議長の裁定で、1つの文書は公式文書から除外し、残りはNGO
の声明であると明記させるという騒ぎになっている。
Breach - 1994年に結成された新しい団体で、1999年のIWC総会開催中、IWC事務局に押し入ろうとして警察沙汰になり、IWCへのオブザーバー参加権を剥奪されたのが記憶に新しい。
WDCS - (The Whale and Dolphin Conservation Society)HSUS - (The Humane Society of the United States、米国人道協会)
RSPCA - (Royal Society for the Prevention of Cruelty to Animals、英国動物愛護協会)
「鯨は生態系の上で頂点に立つ生き物である」とか「鯨は食物連鎖の頂点にいる生き物である」というような文は、おそらくほとんどの人は目にした事があるだろう(例えば著名な反捕鯨啓蒙家であるロジャー・ペイン(Roger Payne)に言わせると鯨は食物連鎖上、下から第7番目
であり頂点に立つという)また、植物プランクトンから始まって、様々な生物が階層構造をなして上へ延びてゆく図も一度は目にした事があるのではないだろうか。以前から、鯨類の食物連鎖における地位(食物段階)については疑問を感じていたのだが、この場で整理してみたい。
321:名無しさん@3周年
09/01/06 12:49:04 2JkU9N5I
なお、生物を捕食者と被捕食者の1次元的つながりで捉える「食物連鎖(Food Chain)」という概念はやや古典的で、現実の捕食関係はもっと複雑な網の目状の「食物網(Food Web)」であるが、ここで述べる話では鯨種ごとの餌の違いを論じる程度なので、簡単でわかりやすい
「食物連鎖」で話をすすめる。まず、捕鯨問題との関連で考える上で、これまでIWCが管理の対象としてきた大型鯨類とその餌をおおざっぱにまとめると以下のとおりである。
ヒゲクジラ亜目 ナガスクジラ科 シロナガスクジラ 動物プランクトン(オキアミ) ナガスクジラ 動物プランクトン(オキアミ、カイアシ)、群遊性魚類 イワシクジラ 動物プランクトン(オキアミ、カイアシ)、群遊性魚類 ニタリクジラ 群遊性魚類、動物プランクトン
ミンククジラ 動物プランクトン(オキアミ、カイアシ)、群遊性魚類 ザトウクジラ 動物プランクトン(オキアミ、アミ)、群遊性魚類 セミクジラ科 セミクジラ 動物プランクトン(カイアシ、オキアミ) ホッキョククジラ 動物プランクトン(カイアシ、オキアミ)
コククジラ科 コククジラ 底生甲殻類 歯クジラ亜目 マッコウクジラ科 マッコウクジラ イカ、底生魚類
ここで、歯を持たないヒゲクジラ類が食べる魚類とはサンマ、シシャモ、ニシン、イワシといった小型のものやサバ、タラといったものである。なお、同じ鯨種でも生息する海域が違うと餌も違ってくるし、同じ海域の同じ種類の鯨でも、年によって餌に変動がある。例えば、
日本が調査捕鯨で捕っているミンククジラは、南半球に生息するものはオキアミ類などの動物プランクトンが餌の大部分を占めるが、北太平洋のものではオキアミは半分程度で、あとはマイワシ、イカナゴ、サンマなどの魚類が占め、それらの割合が年によってかなり変動して
いる様子は、胃の内容物も調べる捕獲調査がもたらしてくれる、今現在の生態系に関する貴重な知識の一つである。
さて、こうして表を見ると、いくつかの疑問が生じるが、まず、このような餌の多様性を無視し「鯨」という言葉でひとくくりにして、その食物連鎖上の地位を論じられるかという疑問がある。
322:名無しさん@3周年
09/01/06 12:54:22 2JkU9N5I
食物段階が植物プランクトンよりひとつ上の動物プランクトンを偏食するシロナガスクジラと、イワシやサンマなどの小型の魚を食べるその他のヒゲクジラ類、さらに表には載っていないがマグロ、カツオなど大型魚類を食べるゴンドウクジラ(歯クジラ類)などを、あたかも一つ
の食物段階にあるかのように語るのは、個々の鯨種の資源量の違いを無視して「鯨が絶滅しかかっている」と言うのと同じ類の粗雑な言い方ではないだろうか。
次に「食物連鎖上で頂点」という点について考えてみる。野生の動物で鯨を襲って食べるのは同じ鯨類のシャチくらいであり、鯨を食べる野生動物種がいないという、相対的な意味では頂点と言える(余談だが、世の中には鯨は人間と同等の知能を持つ生き物であり、鯨を食べるの
は食人に等しいと信じている人もいるが、彼らが鯨を食べるシャチの行為を嘆くのは聞いたためしがなく、本当に彼らの意識の上で鯨と人間は同等なのか疑問である)。だが、食物段階がどのレベルものを食べているかで考えるならば、シロナガスクジラはオキアミを食べる他の生
物より高いとはいえず、小型魚類を食べるイワシクジラなどの種は、同じく小型魚類を食べる鳥や中型・大型魚類より高いとはいえない。もし相対的な意味で「頂点」と言っているとすれば、例えるなら5階建ての建物の5階と10階建ての建物の7階を比較して、前者は最上階だから
頂点であるというのと同じ論法であって、地上からの高さが反映されているわけではないのである。このような位置づけが生態系を考える上でどれだけ重要な指標となりうるのか疑問が残るが、これまでのところ、この疑問に答えてくれる説明には出会った事がない。
このような事から、冒頭の「鯨は食物連鎖の頂点」という言い方は、かなり誤解を招く言い方である事が言えると思う。大型魚類を食べる一部の歯クジラ類はかなり高い段階にあるかも知れないが、鯨類が共通の食物段階にいるわけではないのであり、地球上で最大の動物として賛美
されるシロナガスクジラなどは、「頂点」という言葉によって一般の人々がイメージするよりは、食物連鎖上はるかに低い位置にいるわけである。また、最近よく話題になる環境汚染物質の体内への蓄積という点では、問題になるのは食物段階が下から何番目かという点になるはずで
あり、
323:名無しさん@3周年
09/01/06 12:59:59 2JkU9N5I
そうなると議論は鯨の種類ごと、あるいは生息域ごとの餌の違いを抜きにしては論じられないはずであるが(さらに体の部位によって蓄積の度合いが全然違うから鯨製品ごとに論じる必要もある)、反捕鯨国での報道をネット上でみるかぎり、「鯨の体内から高濃度の汚染物質が
発見」というレベルにとどまるものが多く、詳細を伝えない事によって鯨であればどこで捕れたどの鯨のどの部位の食品でも危険であるかのような印象を持たせようという意図が見え見えである。
さて、食物段階が上位の動物は汚染物質が蓄積しやすいから環境のバロメーターであり、従って保護されるべきであるという論もあるが、汚染物質が蓄積しやすいなら、そうでない生物よりはいっそう注意を払って捕りすぎないようにすれば良いだけの事で、捕獲量をゼロにしな
ければならない必要など何かあるのだろうか。さらに「バロメーター」だからこそ、その体内からは汚染物質の蓄積具合いや、その体内への影響など、環境汚染の生物への影響を研究する手がかりが多く得られるのであり、鯨を殺さないで皮膚からサンプルを採るだけというのでは、
「私達が愛する"お鯨様"を殺すなんて許せません」という一部の愛好家の価値観に迎合する上では有効でも、海洋生物と環境に関する知識を迅速に深めようという立場から見れば、入手可能なデータのごく一部を効率悪く利用する手法であり、例えて言うならば、惑星探査機があり
ながら天体望遠鏡だけで惑星を研究せよというようなものであって、得られる知識も限られる。実際、調査捕鯨で得られる知識の中には、反捕鯨論者がとなえる非致死的調査では決して得られないもの、あるいは得られてもはるかに多くの年月を要するものが多いが、この点は専門家
による説明に詳しい。もし、日本の調査を否定する国に非致死的手法のみで調査させて、日本の調査とどちらが確かで多くの結果を効率良く導くかを比較すれば、この点はすぐ明らかになるであろう。日本が現在南氷洋で調査捕鯨の対象としているのはミンククジラ(Minke whale)
という、体長が7-8メートル程度の小さな種類である(商業捕鯨を復活させたノルウェーの捕獲対象も同じくミンククジラである)。「ヒゲクジラ類の中では最小」と紹介される場合も多いが、ヒゲクジラ類の中で最小なのは南半球のみに生息するコセミクジラというセミクジラの亜
種で、こちらは体長5-6メートルである。
324:名無しさん@3周年
09/01/06 13:03:10 2JkU9N5I
「ミンク」の名称は、この小さなクジラばかり捕っていたノルウェーのマインケ(Minke)という新米砲手に由来するといわれ、英語での発音は「ミンキー」である。沿岸での小型捕鯨では以前から捕られていたが、南氷洋での本格的な捕獲は1970年代初めからである。
大型鯨類が次々と禁猟になる中、南氷洋で日本が商業捕鯨の最後の年まで捕獲していたヒゲクジラであり、他の大型鯨類と違って悪名高いBWU(Blue Whale Unit - シロナガス換算制)という捕獲枠設定方式の洗礼をほとんど受けなかった。また他の大型ヒゲクジラ類の
雌が2-3年に一回出産するのに対し、ほとんど毎年出産する。
2002年9月現在、 IWCのホームページにおける推定資源量 は以下のとおりである。
海域 期間 推定値 95%信頼区間 南氷洋 1982/83 - 1988/89 76万1000 51万 - 114万 現在 改定中 科学委員会による再評価中であり、信頼できる数値なし。
北大西洋(カナダ東部沿岸を除く) 1987 - 95 約14万9000 12万 - 18万2000 北西太平洋とオホーツク海 1989 - 90 2万5000 1万2800 - 4万8600
「95%信頼区間」というのは、資源量がこの範囲にあるのは95%確かであるという、推定結果の信頼性の目安である。1970年代後半、日本の大隅博士は南氷洋のミンククジラは捕獲の対象となる成体だけでも40万頭はいると推定していたが、反捕鯨派科学者のリーダー的存在
であるシドニー・ホルト博士(Sidney J. Holt)による推定量はたった2万頭というものであり、実際に大規模な調査を行って検証する必要があった。そこで、IWCが1974から始めていたIDCR(International Decade of Cetacean Research、国際鯨類調査10年計画)の一部
として南氷洋のミンククジラの資源量の調査が開始した。
この調査によって、ミンククジラの数が極めて豊富な事が判明し、商業捕鯨モラトリアムが採択された1982年にもIWCの科学委員会はミンククジラは捕獲を続けてもなんら問題ない豊富な種であるとして、資源状態に関わらずにすべての対象鯨種の捕獲を禁ずる包括的モラトリ
アムの必要性はない、と結論していた。当時の推定資源量は30万頭程度であるから、シドニー・ホルトの推定量がいかに荒唐無稽なものだったかがわかる。
325:名無しさん@3周年
09/01/06 13:06:48 2JkU9N5I
なお、これ以上調査でミンククジラの豊富な資源量が裏付けられては困るのか、1984年のIWC科学委員会の会合では反捕鯨派科学者グループが調査を継続すべきでないと言い出したが、日本側の強い主張で結局継続となった。以後調査は毎年続いてきており、95/96年の航海では
調査期間の最初の1ヶ月ほどが日本が独自に企画したシロナガスクジラ調査、残り2ヶ月程度がIDCRのミンククジラ調査という2本立てになり、翌年からはこの2段構成の調査航海がIWCの新調査プログラムSOWER(Southern Ocean Whale and Ecosystem Research)の名のもとに行わ
れるようになって現在に至っている。IWCの科学委員会の1971年におけるミンククジラ推定資源量は15万頭から20万頭であり、その後の研究でも本格的捕獲開始前の資源量はこのレベルらしいから、シロナガスなどの大型種が減った事によって豊富なエサを得たミンククジラが、
その短い妊娠周期も手伝って飛躍的に増加したという仮説がある。実際、1940年代以降、ミンククジラの成長曲線の変化は体長が大型化している事を示していて餌の摂取状態が良くなったことが伺え、また、性成熟年齢が下がったこともこれと整合している。これは、第二次大
戦後の日本人の食料事情の改善と、それに伴う体格の変化と類似している、と言えばわかりやすいであろうか。
このように豊富なミンククジラだが1983年にボツワナで開催されたワシントン条約(CITES)会議では絶滅の恐れがある種を記載する付属書 I に掲載された。提案国はセイシェルだが、上述のシドニー・ホルトはこの時期セイシェル代表団員としてIWCに参加しているから、この
提案も彼が関与したものであろう。 IWCと違って参加国が必ずしも鯨の資源状態に明るくなく、「事実」よりはロビー活動がものを言うCITESの場だからこそ、このような分類が可能になったともいえる。
さて、IWCの調査航海といっても各国からの参加科学者以外の要素、すなわち、資金、船舶、乗組員などは、ほとんど日本が提供してきた。「公海の鯨は全人類の財産」などと言いながら、IWCが行う大規模な調査に殆んど金を出さず、調査結果にケチをつける口は出す、という
反捕鯨国の姿勢はこういうところにも現れている。調査は鯨の数を数える目視調査が主だが、草原にいるキリンの数を数えるようなわけにはいかない。
326:名無しさん@3周年
09/01/06 13:10:20 2JkU9N5I
南氷洋のミンククジラの場合、平均して1時間に36-37回(一回当たり3-6秒)浮上し、遊泳速度は平均3-5ノットである(調査船のスピードは11.5ノット)。海面に数秒間見える噴気や体の一部をもとに、近距離から1-2キロ先までの鯨種を判断し群れの大きさを判定していくのには
視力だけでなくかなりの熟練を要する。天候に恵まれずに波が高かったり、調査員が交代して目視の習熟度が下がるなど、調査時の条件によって鯨の発見数が減って推定資源量が減る可能性もある。調査方法の細部は専門家の説明に詳しい。
ミンククジラ資源に関する南氷洋の管理区域
第1、2ラウンドでは、I区からVI区まで6つに区分けされた南氷洋の各海域を毎年1つずつ調査していたので、6年で1ラウンドを終了できた。ただし、緯度的には北端の南緯60度まではカバーされていなかった。第3ラウンドでは、緯度では南端の氷縁から南緯60度までカバーする
方針に変わり、その分、経度では調査海域全体を1回でカバーできなくなった。
第1ラウンドではシャープペンシル大の標識銛を鯨に打ち込み、商業捕鯨で捕獲された鯨から発見される標識の割合から資源量を推定するという標識調査も行われていた。目視調査はライントランセクト法という方法で行われるが、今現在採用されているジグザグのトラックライン
(調査コース)が使われだしたのは第1ラウンド最終の第6回からで、それまでは「コ」の字型を互い違いにつなげたような格子状のトラックラインが使われていた。
また、接近法と通過法(1)を交互に行うという、現在採用されている目視調査方式は第2ラウンドから始められた。このように、推定精度を向上させるために調査方法や解析手法は細部にわたって年々改良されてきている。また、このIDCR航海で鯨の目視調査方法の研究が進んだ事は
北大西洋など他の海域での目視調査にも寄与している。なお、日本の調査捕鯨でも捕獲調査の他にこのIDCR方式の目視調査も行なっている。
327:名無しさん@3周年
09/01/06 13:24:25 2JkU9N5I
IWCの科学委員会は南氷洋ミンククジラ資源の包括的評価を1990年に行ったが、この段階では調査は第2ラウンドの大半が終わっており、この時点の合計として上記の76万頭という数字が出てきている。なお、調査海域に南緯60度以北の海は含まれていなく、また調査船が
入れないパック・アイス(2)が密集した海域の鯨は目視のしようがないため、南氷洋全体での実際の数は、この推定値よりも多いと考えられる。 IWCのIDCR/SOWERにおける南氷洋ミンククジラ目視調査航海 回 調査年 調査海域 調査船()内はソ連船 ミンククジラ目視調査
期間* 調査団長 経度 緯度
第1ラウンド 1 1978/79 IV 南緯61度以南 2 28.Dec - 7.Feb P.B. Best 2 1979/80 III 南緯63度以南 2 27.Dec - 14.Feb J. Horwood 3 1980/81 V 南緯62度以南 3(1) 22.Dec - 6.Feb P.B. Best 4 1981/82 II 南緯63度以南 3(1) 27.Dec - 6.Feb D. Hembree 5 1982/83
I 南緯64度以南 3(1) 2.Jan - 15.Feb D. Hembree 6 1983/84 VI 南緯61度以南 4(1) 4.Jan - 19.Feb G. Joyce
第2ラウンド 7 1984/85** IV 南緯61度以南 4(1) 29.Dec - 19.Feb G. Joyc
11 1988/89 IV 南緯61度以南 2 29.Dec - 11.Feb F. Kasamatsu 12 1989/90 I 南緯64度以南 2 28.Dec - 10.Feb G. Joyce 13 1990/91 VI 南緯61度以南 2 3.Jan - 11.Feb G. Joyce
第3ラウンド 14 1991/92 V(130E - 170W) 南緯63度以南 2 31.Dec - 8.Feb P. Ensor 15 1992/93 III W (0 - 40E) 南緯60度以南 2 25.Dec - 4.Feb R. Rowlett 16 1993/94 I (110W - 80W) 南緯60度以南 2 3.Jan - 14.Feb P. Ensor 17 1994/95 III E (40E - 70E),
IV W (70E - 80E) 南緯60度以南 2 13.Jan - 25.Feb P. Ensor
18 1995/96 VI W (170W - 140W) 南緯60度以南 2 14.Jan - 21.Feb P. Ensor 19 1996/97 II E (30W - 0) 南緯60度以南 2 16.Jan - 14.Feb P. Ensor 20 1997/98 II W (60W - 25W) 南緯60度以南 2 18.Jan - 14.Feb P. Ensor 21 1998/99 IV (80E - 130E) 南緯60度以南
2 20.Jan - 22.Feb P. Ensor 22 1999/00 I E(80W - 60W),II W (60W - 55W) 南緯60度以南 2 15.
328:名無しさん@3周年
09/01/06 13:32:47 2JkU9N5I
第4ラウンド 27 2004/05 III W (0 - 35E) 南緯60度30分以南 2 18.Jan - 26.Feb P. Ensor 28 2005/06 III W (0 - 20E) 南緯55度以南 1 25.Dec - 14.Feb※前半は南緯55 ‐ 61度でナガスクジラが主対象 P. Ensor
* 調査期間は南氷洋の管理区域におけるもの(母港との往復期間は含まず)。** 84/85年では、前半が東海域で各種実験、後半が西海域で目視調査が行われたが、独立観察者方式(IO : Independent Observer mode)という、
通過法において後に標準的になる手法が西半分の海域では用いられなかったため、調査法の整合性の点からこの回のデータは後年の資源量評価では用いられていない。
なお、2001年のIWC科学委員会で討議したミンククジラ資源量の評価の議論を、 科学委員会の報告書から抜粋 しておく。第3ラウンドの調査はまだ途中だが、調査が終わった海域を従来の手法で解析した資源量は過去の数字と
比べて低く見えるため、さっそく反捕鯨団体がこれに飛びついて、あたかもミンククジラの資源量が前回の評価よりも「減ったことが合意された」などと宣伝したり、極端な例では、委員会報告書でわざわざ「不完全」と注記
している268,000という数字(これは97/98年までの調査のうちで既に評価が終わった、全海域の68%をもとした数字で、しかも、過去の調査で資源量が大きかったIV区とV区が抜けているのである)をそのまま示している例すらあった。
科学委員会の報告書では、第3ラウンドのこれまでのデータをもとに従来の手法に基づいて求めた各種試算結果が過去より少ないことについて、
実際に資源量が減った。 たまたま、調査時に調査海域にいたミンククジラが少なかった。 過去2回のラウンドとは調査手法も変わっているので、同列に比較して増減を論じられない。
の3つの仮説が記され、現段階では判断できないとしている。 ただ、報告書等をもとに素人なりにまとめると、第3ラウンドの調査データの解析について次のような点が指摘される。
329:名無しさん@3周年
09/01/06 13:39:35 2JkU9N5I
過去に比べて調査航路が、概して天候も悪く、群れを作らずに単独で行動する鯨が多い北側に拡張しているため、目視条件が悪化している。おそらく上記の理由のためと推定されるが、過去のラウンドに比べて、目視で「ミンククジラ」とは
断定しきれず「ミンクらしい」と判断されたデータが過去より大幅に増えて30%以上になっており、これらのデータは解析で除外されている。 最初の2ラウンドではほとんどの調査員が経験10年以上であったが、第3ラウンド2回目の92/93
年からは、世代交代によって経験が5年以下の初心者が半分程度にまで増えて、目視量が落ちている可能性がある。 過去のデータから、ミンククジラの南氷洋における密度がピークになるのはだいたい1月中旬から下旬で、2月に入ると急速
に減るが、第3ラウンドでは調査期間が過去より後期にシフトしており、時期的にピークをはずれている可能性がある。この調査時期の遅れは、氷縁の変化をにらんで調査航路を決める際の便宜のためらしい)。
捕獲データから求められた自然死亡率や妊娠率などの資源動態上のデータの解析は、資源の減少を示唆していない。 IDCRよりも調査日数が長くて時期もほぼ一定している、調査捕鯨の目視調査の解析では資源の低下傾向は見られない(ただし
調査捕鯨が行われているIV区とV区に限られる)。 このようなことから、以下の点を念頭に解析方法を更に洗練させ、最終的な資源推定を行うことになる。
航路上の鯨の発見確率g(0)や、接近法と通過法の間の補正を行う係数は、群れの大きさに依存するので、この点の見直し。 未調査海域のミンククジラ密度を推定する方法の研究の必要性。 生物学的パラメータを用いた資源動態モデルも使う
研究の必要性。 調査捕鯨における目視調査データの、より詳しい解析。パック・アイス内部のミンククジラ密度の研究の必要性(今回初めて、いくつかの研究が提出された)。 可能なら、調査開始時期を以前のように前にずらす。 ミンクク
ジラの新しい推定資源量の算出か2007年の会議で行われる見通しである。 ただ、あくまで調査の詳細に疎い素人の立場で言わせてもらえば、第3ラウンドに入ってから調査にずいぶんと時間がかかっていて、10年以上経っても結果が出ていない
現状はペースが遅いように思われる。
330:名無しさん@3周年
09/01/06 13:49:28 2JkU9N5I
今現在の南氷洋のミンククジラ資源量に関して納得させる公式数値がない事態は、IWCやワシントン条約における各加盟国の意思決定において日本側に不利に作用するのではないだろうか。近年の目視調査における結果を見るとザトウクジラやシロナガスクジラの回復傾向が見られて
おり、今後はミンククジラだけでなく数種の鯨種について精度の高い資源推定を長くない年数で行って資源量の変化の多様な様相を明らかにすることが要求されるような気がする。だとするとなおさら、現在のような日本が拠出する2隻の船だけでは間に合わず、調査規模の拡大や
調査手法の改革が必要になりそうに思える。南氷洋への往路・復路において他の環境・漁業関連の調査も行うなどの工夫によって予算を増やして調査船の数を増やすことができないものだろうか。また、資源量の把握は科学的な資源管理の基礎であるはずだから、この点についても
っと多くの加盟国の積極的参加を強く促す決議をIWCで行うことも期待したい。 現在、日本の市場で流通している鯨肉は次のようなものである。
調査捕鯨で捕獲した鯨の肉 国際捕鯨取締条約第8条第2項に従って、調査目的で捕った鯨は市場で有効利用されねばならず、また、販売から得られる収益が調査費用を補ってもいる。ミンククジラ、ニタリクジラ、イワシクジラ、ナガスクジラ、マッコウクジラが該当する。ただ
し、マッコウクジラについては水銀やPCBの含有量が多いために販売はされていないようである。 マッコウクジラの水銀について言及したついでに補足しておくと、反捕鯨系の団体は鯨は食物連鎖上で上位に位置し、階層上で下位の餌生物から順次蓄積してきた汚染物質が濃縮して
鯨に摂取されるため、鯨の肉は汚染されているから食べるべきではないと宣伝している。しかし、実際はそんなに単純なものではない。まず、歯を持たないヒゲ鯨と歯鯨では食べる魚の種類が異なる。歯鯨だとマグロなどの大型魚類を食べることが可能だが、ヒゲ鯨が食べる魚とい
えばイワシやサンマなどの小型のものに限られる。これらは食物連鎖上ではそれほど上位ではないから、汚染物質の蓄積具合も大型魚類とは異なる。更に同じ鯨種でも、例えば南極海のミンククジラが食べるのはオキアミなどの動物プランクトン類が主体なのに対して、北太平洋の
ミンククジラは魚類の摂取比率が高いために汚染物質の蓄積具合も異なる。
331:名無しさん@3周年
09/01/06 13:57:52 2JkU9N5I
一方、南極海のミ
ンククジラの肉は極めてクリーンであるために、通常の家畜の肉ではアトピーを起こす子供でも安心して食べられる動物蛋白源のひとつとなっている。また、ベーコンの原料となる皮脂の場合は、汚染物質の濃度が高い場合にはさらし処理などによって全く害が無いレベル
にして販売されている。さて価格だが2006年現在、肉類の市場への1キロ当たりの卸価格は以下のようになっている。ミンククジラの赤肉の場合、2000年における3760円という価格からは半分近くに下がっているが、末端の小売価格ではあまり実感が無い。小売り段階では3
倍程度の価格となっていると言われており、末端レベルでの価格をもう少し下げて欲しいものである。
2005-06年の南極海調査捕鯨分 鯨種 尾肉 尾肉徳用 赤肉特選 赤肉 赤肉徳用 ミンククジラ 無し 7000 6000 1950 1700 ナガスクジラ 無し 9500 7000 1950 17002005年の北太平洋調査捕鯨分(沖合) 鯨種 尾肉 赤肉 赤肉徳用 ミンククジラ 無し 1950 1700
イワシクジラ 18000 1900 1700 ニタリクジラ 16000 1950 1700 また、従来は調査研究機関である日本鯨類研究所から、調査船や乗組員を提供している共同船舶を経由して市場へ売られていたが、2006年春から新たに 鯨食ラボ という会社が5年限定のプロジェクト会社とし
て新市場の開拓に加わった。 IWCの管轄外の捕鯨によるものIWCが管理の対象にすべきかどうか長年の論争に決着がついていない小型鯨類であるツチクジラ(商業捕鯨停止後、年間54頭の捕獲上限を設定してきたが、1999年からは北海道南部の日本海側で8頭の枠を追加)、
ゴンドウクジラ(商業捕鯨停止後の捕獲上限は100頭程度)、イルカ類などは日本で資源状態を調査した上で自主的に捕獲上限を設定して捕られている。これらはいずれも歯クジラ類だが、流通過程では単に「鯨」と表記される場合が多く、ミンククジラのようなヒゲクジラ
類とは風味が違う事を考えると、やはり最低限「歯クジラ」か「ヒゲクジラ」かの区別は書いて欲しいものである。
332:名無しさん@3周年
09/01/06 13:58:22 2JkU9N5I
そうでないと、昔親しんだヒゲクジラの味を求めて店で買った鯨肉の味が、「なんか違うなあ」という事になりかねない。 他の捕鯨国から輸入された肉
ククジラが643トン、ゴンドウ鯨、ツチ鯨、イルカ類などが416トンで全体の97%であった。
更に同じ鯨種でも、例えば南極海のミンククジラが食べるのはオキアミなどの動物プランクトン類が主体なのに対して、北太平洋のミンククジラは魚類の摂取比率が高いために汚染物質の蓄積具合も異なる。北太平洋のミンククジラを例にとると、肉における汚染の程度が
許容範囲以上で販売されなかった例は過去にほんの数体で、高齢のために汚染物質の蓄積が進んだオスであったと記憶している(メスの場合は1~2年ごとの出産のたびに赤ん坊に汚染物質が一部移動するため、メス自身の蓄積濃度は薄められるという)。
IWCでは1977年に非加盟国からの鯨製品の輸入を禁じる決議が採択され、日本もそれに従っているため、IWCを脱退する前のアイスランドから1991年を最後に輸入されたナガスクジラの肉などがこれに相当する。第2次大戦頃までは鯨の肉の冷凍保存期間は3-4年が限度だったよ
うだが、現在ではマイナス25度程度で保存し、グレージングという処理で肉の表面が乾燥しないように管理するなどして20年程度までは持つようである。 以下の鯨肉は比較的近年に正式に輸入されたものである。ただし、いずれの種も2006年現在においては日本の調査捕鯨で
捕獲されているために長期保存し続ける理由も見当たらなく、既に消費されつくしているかもしれない。
ナガスクジラ アイスランド (1991)、 スペイン (1986)イワシクジラアイスランド (1990)ニタリクジラペルー (1986)
ミンククジラノルウェー (1989)、 ソビエト (1989)、 ブラジル (1986)、 韓国 (1986)
1999年11月末に544業者を対象にし、うち416の業者から回答が得られた調査結果によると、捕獲禁止種の肉の在庫量は、ニタリクジラが1.7トン、イワシクジラが0.1トン、ナガスクジラが17.7トン、マッコウクジラが11.2トンで、いずれも上記輸入肉の残りか、または、商業捕
鯨停止前に捕獲されたものである事が判っている。例外として、仕入先不明のザトウクジラの肉が0.9トン見つかった。当局の目を逃れて密輸されたものなのか、次に述べる混獲クジラなのかは断定されていない。なお、調査捕鯨や小型捕鯨で捕獲されている鯨種の在庫は、ミン
333:名無しさん@3周年
09/01/06 14:06:07 2JkU9N5I
なお、調査捕鯨や小型捕鯨で捕獲されている鯨種の在庫は、ミンククジラが643トン、ゴンドウ鯨、ツチ鯨、イルカ類などが416トンで全体の97%であった。上記の鯨種はいずれも、ワシントン条約では絶滅に瀕した種を掲載する付属書 I に記載されているが、実際の資源状態とは
かけはなれた分類なので、日本はこれらについて留保している。条約上では、ある鯨が合法的に捕獲されたものであり、捕獲国がIWCの加盟国であって、日本とその国の双方がその鯨種のCITESの付属書 I への掲載について留保していれば、両政府の輸出入の許可の許可によって合
法的に輸入できる。例えば、日本とノルウェーは共にIWC加盟国であり、共にミンククジラの付属書 I への掲載を留保しているので、双方の政府が許可すれば、ノルウェーで捕獲されているミンククジラから、ノルウェーで消費されない部分(ベーコンの材料や肉の一部)を日本へ
輸出する事は可能であり、実際ノルウェーは2001年1月に日本への輸出を開始する旨の発表をした(ただし、日本国内からは価格下落を懸念して反対があったために実現しなかったようである)。定置網での混獲された鯨の肉 以前は、海辺に座礁したり、漁網に絡まったりした鯨は
、生きている場合は海へ返すが、死んだ鯨は、焼却や埋め立てなどの処分の他、地域内での消費に限定する事で肉の消費が認められる場合もあった。ただし、金銭の授受を伴う売買は認められていなかった。しかし、漁民にとっては魚網などに経済的被害を受けた上に、何の経済的
見返りを受けることなく肉を分けたり、あるいは更にお金を払って焼却や埋葬するのでは踏んだり蹴ったりである事から、実際には、これらの鯨の肉が出回っている場合もあった(1)。そのため、鯨のDNAを登録するなどの手続きをした上で、肉の市場への流通を認める方向で法令の
変更が検討され、2001年7月から実施された。具体的には、定置網に鯨が混獲された場合、肉片のサンプルを水産庁か日本鯨類研究所へ送り、写真を撮って報告書に添付するなどの所定の手続きを取ることによって販売が可能になる。ただし、大型鯨類の中ではシロナガスクジラと
ホッキョククジラは対象外であり、定置網以外の巻き網や刺し網での混獲は対象外である。初年度(2001年の後半)には52頭の混獲クジラが販売された(すべてミンククジラであったという)。
334:名無しさん@3周年
09/01/06 14:10:06 2JkU9N5I
なお、海外から違法に密輸して摘発された例や密漁の例があるが(2)、それらの肉が実際に市場で流通しているという確たる証拠はなく、仮に流通してもやがて露見して長続きはしない事は想像にかたくない。ちなみに、密輸の場合は30万円以下の罰金もしくは3年以下の懲役、
密漁の場合は200万円以下の罰金もしくは3年以下の懲役、となる。また、上記4の最後に述べた法令改定に伴い、違法鯨肉を扱った流通業者や小売店も罰則の対象にする事が検討されている。現在では鯨肉の不足感もないため、リスクを犯して密漁するメリットもあまり無いよ
うに思われる。密輸や密猟は反捕鯨団体が好んで取り上げ、捕鯨に反対する口実にしたがるトピックだが、過去において「生物学的に適切な捕獲枠が設定されたが、密猟などの違反が横行したために絶滅の危機に瀕した」鯨種は存在しないという事実には留意しておきたい。
IWC以前に捕鯨によって絶滅した系統群はいくつかあるが、それは「適切な捕獲枠」の概念などなかったり、捕獲枠が設定されていない時代の話である。 IWCの時代になっても鯨種別に捕獲枠を設定したのは1970年前後以降であり(BWU制の廃止時期は南氷洋とその他の海域で
は異なる)、国際監視員制度の実施も70年代からと、時代によって大きく変化している。こういう過去における資源管理の有無や、その方法の違いを無視して同等に扱い、商業捕鯨が再開されたらすべての鯨種が再び絶滅の危機に瀕するかのような「捕鯨性悪説」的な雑な議論
を展開し宣伝しているのが反捕鯨団体である。なお、1990年代にIWCが開発した捕獲枠算定方式であるRMP(Revised Management System - 改定管理方式)では、計算される捕獲枠が種々の安全措置によってかなり控えめな上、報告された捕獲量が実際の捕獲量の半分であるよう
な極端な場合でも資源に悪影響を与える事なく管理できる事がシミュレーションで確認されている。
さて、関連する例だが、1994年に反捕鯨団体のEarth Trustなどの資金提供のもと、オークランド大学のC.S. Baker博士とハワイ大学のS.R. Palumbi博士が日本の市場で得た鯨肉のDNA分析でザトウクジラなど違法な鯨種が見つかったとの論文をScience誌の1994年9月9日号
(第265号)に発表し、欧米の著名なメディアでも広く報道された。
335:名無しさん@3周年
09/01/06 14:11:00 2JkU9N5I
同年10月31日付けのタイム誌によると、Earth Trustのエージェントがあらかじめ日本国内で鯨肉を買い集めて用意した検体を、1ヶ月後にBakerが東京のホテルの一室にポータブルの機器を持ち込んでDNAを
コピーし、既存の標本と照合したものだという。論文はニュージーランド政府からIWCにも提出されたが正式な論文とは認められず、科学委員会では検討の対象にもならなかった。内容に疑問点が多いため(3)、すぐに日本側がサンプルの提供を求めたものの、いまだに応じ
ていないのは何か不都合でもあるのだろうか。
その後Bakerは、かつてグリーンピース・ジャパンの活動家として南氷洋で日本の調査捕鯨の妨害に従事し、その後IFAW(International Fund for Animal Welfare - 国際動物福祉基金)に移った舟橋直子の協力のもと、 1997、98、99年に同様のサンプリング調査を行い、
現在捕獲されていない(過去の合法的在庫はある)鯨種の肉が流通している事をもって、日本では密輸や密猟が野放しであるかのように発表している。 IWC科学委員会では Bakerの論文について、サンプル鯨肉がどこで捕獲されたものなのかについて必要な情報がそろって
ない事が確認されている。 注意すべきなのは、このような疑わしい調査結果でも一方的に「事実」として英語のメディアに載って世界的に報道されると人々には事実として記憶されるという点である。反捕鯨国の一部の強硬な世論の背景には、この例のような一方的情報が
長年にわたって「事実」として報道され続けてきた事があるのは疑いないと思う。実際、ネット上で海外の人間と議論していても、「調査捕鯨では鯨を生きたまま解剖している」という類の与太話を信じている例にすら出くわす。
ただ残念なのは、流通過程において鯨製品のラベル表示にいいかげんな例が多いことで、私自身、北太平洋の調査捕鯨で捕られたニタリクジラの肉を買ったら、ラベルの原産地表示が南氷洋になっていて驚いたことがある。南極海のミンククジラが「オーストラリア産」
として売られていたという、笑い話のような例もあったと聞く。産地ならまだしも、違う鯨種が表記されている例も多い。一部の流通業者によるこの種のいいかげんなラベル表示が反捕鯨団体の格好の餌食となって、IWCの場で宣伝材料に使われる事態も起きていて、早急な
改善が求められる。
336:名無しさん@3周年
09/01/06 14:15:49 2JkU9N5I
ネット上での捕鯨に関する議論において、海外の反捕鯨論者が他の野生動物の狩猟や漁業と違って「いくら鯨の数が多くても捕ってはいけない」という極端な政策を支持する根拠にあげるのが「鯨は知能が高いから特別だ」という点である。実際、オーストラリアが70年代終りに
自国民の捕鯨を禁止する際、当時のマルコム・フレーザー(Malcolm Fraser)首相は、「特別で存在であり知能の高い鯨を銛で殺す事が多くの人に不快感を与えている」と述べていて、反捕鯨国の捕鯨に関する政策決定の背後に鯨類の知能に関する俗説への信奉がある事をのぞか
せている。また、カナダの人類学者ミルトン・フリーマン(Milton Freeman)が1992年初頭にカナダのギャラップ社に依頼して、オーストラリア、イギリス、ドイツ、アメリカ、日本、ノルウェーの6ヵ国で行った世論調査(サンプル数はアメリカが1000名、他はそれぞれ500名)
においても、「あなたは”鯨のような知能の高い生き物を殺すなんて信じられない”という主張に同意できますか?」という設問において、「イエス」の割合がそれぞれ 63.9、64.2、55.8、57.0、24.6、21.8 パーセントとなっていて、「知能が高い鯨」を殺す事に対する反感が
反捕鯨国で高い事をうかがわせている(ちなみに「ノー」の割合は 21.7、20.1、23.5、24.8、47.9、57.1パーセントである)。
そこで、以下知能面を中心に鯨類は特別かどうかについてまとめてみる。まず指摘しておかなければならないのは、70種類以上ある鯨類の中で、その知能が研究されているのはバンドウイルカなどほんの数種の小型鯨類であるという事である。シロナガスクジラやミンククジラな
どのヒゲ鯨や、マッコウクジラのような大型歯鯨について、その知能が研究され、それが人間に近い事が実証されたり、それを示唆するような事実が見つかったという話は聞いたことがない。しかし、例えばグリーンピース・オーストラリアが1992に発行した"Are whales almost
human?"と題したパンフレットでは記述の対象をイルカに限定せずに鯨類全般のこととして「疑いもなく知能が高く・・・」と書いている。チンパンジーの知能が高いからといってメガネザルの知能も同等のレベルにあると思い込む人はいないと思うが、鯨類に関しては「イルカ
は賢い」->「鯨類は賢い」->「鯨を食べるのは人食いと同様な野蛮な行為である」とメチャクチャな飛躍でもって論旨が発展して、
337:名無しさん@3周年
09/01/06 14:19:28 2JkU9N5I
捕鯨という漁業 - 漁業自体は反捕鯨国も含めて世界中で行われているごく普通の行為だが - を特別に罪悪視して抑圧する有力な論拠に使われているのが現状である。
1.脳から見た知能レベル 例えばバンドウイルカの脳は約1.6キロと、人間の1.5キロに近く、見かけも人間のものにけっこう似ていなくもない。ただ、脳の絶対重量や体重との相対比率については、知能との相関はないようである。アジア象の脳は人間のものより5倍重いが、
人間より賢いという兆候は全く見られないし、バンドウイルカの5倍近い重さの脳を持つマッコウクジラに、より高い知能を示唆する行動が観察されているわけでもない。そもそも脳は体全体をコントロールする役割を持っているから、大まかな傾向として、大きな動物ほど大
きな脳を要するのは、コントロールする対象が多いのだから当然であるここで「大まかな」と言ったのは、例えば同じ大きさの動物でも爬虫類のような変温動物と哺乳類のような恒温動物では、体の機構の複雑性が根本的に違っていて単純比較などできないからである。では、
体重に対する脳の重さの比率が大きい事が指標になるかというと、小型のマウスが高い数値を示すのである。そもそも、脳において知能をつかさどるのはごく一部分である事を考えると、脳全体の重量でなにか知能に関わる指標を得ようとする事自体が、的外れではないだろうか。
様々な動物の脳の重さ、体重、体重に占める脳の重さの比率(High North Allianceのホームページより)
Species Brain weight Body weight Brain weight
(gram) (tonn) as % of body weight
Man 1500 0.07 2.1 Bottlenose dolphin 1600 0.17 0.94
Dolphin 840 0.11 0.74 Asian elephant 7500 5.0 0.15
Killer whale 5620 6.0 0.094 Cow 500 0.5 0.1
Pilot whale 2670 3.5 0.076 Sperm whale 7820 37.0 0.021
Fin whale 6930 90.0 0.008 Mouse 0.4 0.000012 3.2
338:名無しさん@3周年
09/01/06 14:23:58 2JkU9N5I
次に脳そのものについて言えば、シワは人間より多いのだが、知能に大きく関わるとされる大脳新皮質は人間の半分程度に薄く、神経細胞の密度も低い。もっとも新皮質が脳全体に占める量が多い方が知能が高いかというと、実際にはハリモグラの方が人間より多く、やはり量
のみでなく質的な分析が求められる。鯨類の祖先が陸上の哺乳類で、6500万年から7000万年前に海での生活を始めた事は、今日ではよく知られていると思う。陸上哺乳動物において、脳の新皮質の最後の進化が始まったのは5000万年程前と考えられているが、鯨類の祖先はそれ
よりはるか以前に海へ移ったために、同じ哺乳類といっても、現世の陸上哺乳類とは違い、新皮質の層の数が6つではなく5つしかなく、構造もはるかに単純であるなど、質的な違いも大きい。また、海中という、視覚から入ってくる情報だけでは不十分な環境で生きているために、
音波を発して、その反射波から周囲の状況を把握するエコーロケーション(Echo location)という機能が発達しているため、音波の処理に必要な箇所が発達して、このような比較的重い脳を持つに至った、と考えている学者もいる。
というわけで、イルカの脳は見かけに反して質的にはかなり人間のものと違い、人間に匹敵する知能の存在を万人に納得させる決定的な材料は、今のところない、のである。
2.行動からみた知能レベル 10年ほど前であるが、ある新聞報道を見て苦笑した事がある。内容は、オーストラリアの海で溺れた人間をイルカが岸まで押したために命が救われたというようなものだった。苦笑したのは、どうもあちらの国では優しいイルカが溺れた人間を見て、
助けようという善意で押した、と勝手に人間本意の理屈で解釈している様子が文面からうかがえたからである。このような解釈が妥当であるためには、1.「イルカは溺れている人間の挙動から、危険な状態にあると判断した」、2.「イルカは危険な状態にある人間を助けたいと
思った」、3.「イルカは人間を助けるには、人間を岸まで連れていくのが解決策であると認識した」事が検証されてなくてはならないが、無論、そのような事を証明した研究などはない。実際にはイルカは生き物に限らず、木や生き物の死体などでも海で沈みかかっているもの
を支えたり、浮いている比較的大きな物を押して運ぶ習性があるから、
339:名無しさん@3周年
09/01/06 14:25:40 2JkU9N5I
上記のような民間信仰はあくまでも人間側の希望的心理の基づく解釈にすぎなく客観的根拠がない。あまり知られてないようだが、現実には泳いでいる人間が突然イルカに攻撃されたり、沖合いの方向へ押されるというトラブルも報告されているのである。
また、イルカには集団行動にみられる社会性や、教えられた動作を行う、遊ぶといった行動も見られるが、これらは他の動物にも見られるもので、特にイルカが抜きん出ているわけでもない。更に、イルカには人間と違って創造性というものを発揮する様子はほとんど見られない。
かつて欧米人に「俺達のやった事を猿まねする日本人」という言い方で蔑視する風潮が強かった事を思い起こすと、この点は若干興味深い。このように行動面では特に際立ったものはないようだが、ただ、陸上動物でそれほど目を引かない行動でも海洋動物が行うと、特に過去の
歴史において海の生き物とそれほど接点が無かった国々の人々の目には新鮮に映り、心が舞い上がってしまうのかも知れない。また、イルカの顔が可愛いという事も、行動を好意的に増幅して解釈しようとする心理に関係しているとも思われる。例えば、学習能力にすぐれ、様々
な遊びを楽しむカラスについて、イルカと同様の思い入れをし、「どんな事があってもカラスを殺すべきではない」という政策を取りいれる国は聞いた事がない。もし仮にカラスとイルカの知能が大差ないレベルのものだとすると、前者を殺す行為と後者を殺す行為に、政策上で
善悪の差を導入するという事は、喩えて言えば「人気のある芸能人を殺すのは一般の人を殺すよりも罪が深い」というような差別法を導入するようなものであり、到底、誰もが受け入れられるものではない事は多くの人が納得できると思う。 なお、付け加えると、あの可愛い顔で
(おそらく表情を多彩に変化させる事は不可能なのだろうが)仲間どうしのイジメがあったり他のイルカ類を殺したりしているのも、TV番組などでは取り上げられないが、事実である。
3.会話能力鯨類が音声をコミュニケーションに用いているのは事実である。ただ、「音声」が気分をうなり声レベルで表現するものなのか、それとも一つの物や概念を一定の音声で表現するレベルかとなると全く知見はなく、体系的な言語と呼べるものを持っていて、それでもっ
て仲間どうしの会話が行われている証拠は全く見つかっていない。
340:名無しさん@3周年
09/01/06 14:27:58 2JkU9N5I
飼育されたイルカにいくつかの名詞や動詞などの単語を教え、それらの組み合わせて作った様々な文章を理解できた、というような報告は読んだ事があるが、これはあくまで人間に教えられて達成した事であって、野生のイルカが自発的に行っているのが発見されたわけではなく、
また、実験そのものも、もっと多くの研究者によって追試されてからでないと、確かな事は言えないであろう。イルカ語のようなものがあって、それを人間の言葉に翻訳でき、イルカと様々なやりとりができる、という可能性は現在では全く見通しがたっていないし、おそらく達成
されないと思う。そもそも、人間とは違う形態を持ち生活環境も異なる動物の知能というものが、人間の知能でもって解釈できるものかどうかも疑問である。例えばサッカーとテニスは共に球技であるが、全く形態の異なるスポーツであって、単に用語を入れ替える事によってサッ
カーのルールブックをテニスのそれに変える事など不可能である。動物の知能も似たようなもので、異なる体を持ち異なる環境で生きている様々な動物の知能は、それぞれの動物の必要性に応じて異なった方向に発達しているものであって、ある動物にとっての知性は他の動物にと
って知性として認識されるとは限らないのではないかという気がする。イルカと会話が可能であると思っている方は、試しに本屋で幼児向けの童話でも買って、そこに使われている言葉に対応するものがイルカの生活に存在するかどうか考えてみるとよい。人間の世界でも、ある外
国語の単語が示す概念が自国語にないために翻訳に苦労するのはよくある事だが、相手は何もかも違うイルカである。百歩譲ってイルカが人間の言葉に翻訳可能な言語を持って仲間どうし会話しているとしても、「王子様」、「ごほうび」、「お祈り」、「結婚式」など、そもそも
イルカの世界に存在していそうになく、従って翻訳などできそうもない言葉に満ちている事がわかるはずである。子供向けの本ですらこの有り様では、鯨類高等知能教の教祖であるジョン・リリー(John Lilly)が言うように、イルカを相手に地球や宇宙の様々な事象について語り
合い、哲学的認識を深めるなど、夢のまた夢であって、せいぜい「あっちの方にイワシがたくさんいた」と教えてもらうのが関の山であろう。しかもこれは、
341:名無しさん@3周年
09/01/06 14:34:45 2JkU9N5I
「百歩譲ってイルカが人間の言葉に翻訳可能な言語を持っている」と仮定した場合の話であり、その前提すら現在では怪しいのである。実際、イルカの音声コミュニケーションについての過去の様々な研究について考察したある科学者は、彼らが「誰が」、「どこで」、「何を」
といった情報は伝達できるものの、「いつ」、「どのようにして」、「なぜ」といった情報をやりとりしている形跡はないとしている。このように考えると、鯨が人間に近い高度な知能を持った生き物であると信じ、それを捕鯨に関する政策に反映させるという行為は、喩えて言
うなら、カリフォルニアの砂漠で空飛ぶ円盤に乗ってきた金星人とテレパシーで会話したという、1950年代初頭のジョージ・アダムスキーの話を鵜呑みにして、「金星の方々に迷惑がかからないように、探査機を送り込むのはやめましょう」というのと同レベルであって、カルト
・グループの仲間うちならまだしも、政治レベルでまかり通る事が私には不思議に思える。同じ知能レベルである事が明白な他国の人間に対して、文化的背景に基づく社会・経済上の制度の様々な違いに難癖をつけ、自分たちの制度が世界の標準や理想であると強弁し、時にはそ
のような口実から経済制裁や軍事的対立にまで発展させる一方で、鯨類の知能レベルについての怪しげな巷説を盲信し、ヒステリックなまでに鯨類を保護する政策をとり続け、しかも自分たちの鯨観に基づく政策を世界中に強要しなければ気が済まない国々を見る時、なにか病ん
だ精神のようなものを感じてしまうのは、私だけであろうか。最後に、鯨類の知能に関して巷で信じられている事と科学者レベルで解明された事実のギャップが大きいのも注目に値する。客観的に様々な実験や多くの科学者の意見をもとに、他の動物と比較してイルカがずばぬけ
た知性の持ち主である事を立証してみせたTV番組や雑誌記事は、私の知る限りでは無いようである。だが、なんとなくイルカは動物の中で特別な知性を持っているかのような印象を与えるTV番組でのナレーションに接したり、思わせぶりなタイトルの本を目にする事は多いと思う
。たぶんこのあたりに、イルカが人間に近いレベルの知能を持っているとボンヤリ思いながらも、それを理路整然と説明する事などおぼつかないという事の原因がありそうである。
342:名無しさん@3周年
09/01/06 14:38:07 2JkU9N5I
かつてナチス・ドイツの宣伝相であったヨーゼフ・ゲッベルス(Joseph Goebbels)は「豚の事をライオンであると100回言えば、豚はライオンとして通用する」というような事を言っていたと思うが、似たような状況にあるのが鯨類の知能をめぐる世間の認識の状況である。
鯨や魚など水産資源の捕獲枠を決める際の重要な概念が「最大持続生産量(Maximum Sustainable Yield - MSY)」というもので、これは今現在のIWCの捕獲枠算定方式である改訂管理方式(Revised Management Procedure - RMP)や70年代半ばに採用された新管理方式
(New Management Procedure - NMP)を理解する上で欠かせない。そこで、この概念について簡単に解説しておく。
今、ミンククジラの集団があるとする(別に他の鯨種であっても、魚類であってもいいのだが)。人間がこの集団から捕獲しない場合、環境の激変などがないかぎり、頭数はだいたい一定である。この時の頭数を初期資源量という(環境が許容する最大限の量という事で
「環境収容量」という言葉もある。 これは当然、環境の変化に応じて時間的に変わるから、初期資源量は「捕獲開始直前における環境収容量」といってもよいであろう)。これは、この集団で毎年死ぬクジラと生まれてくるクジラの頭数がだいたい釣り合っている事を意味
する。仮に最初の頭数を10000頭として、毎年300頭が自然上の理由で死に(シャチなどの天敵に襲われる場合も含む)、300頭程度が生まれているとする。さて、この集団から何年か捕獲を続けて頭数が6000頭に減ったとする。この時、自然上の理由で死ぬ頭数と新しく生まれ
る頭数は釣り合っているだろうか?このような状況に関する数多くの野生生物の研究で、新しく生まれる頭数の方が自然死するものより多い事が知られている。一種の法則のようなものである。これは、マクロの視点から見ると、あたかも集団が頭数を元に回復しようとして
いる一種の防御機能のように見えるが、ミクロというか個体レベルの視点では頭数が減る事によって群れの密度が減少し一頭当たりの餌の量が増えたりストレスも減るなど、繁殖を促進する要素が効いてくるためである。このような回復力があるからこそ、過去に過剰に捕獲
した鯨種も、捕獲をやめればだんだんと資源量が回復してくるわけである。
343:名無しさん@3周年
09/01/06 15:24:49 2JkU9N5I
ただし、ものごとには限度というものがあり、あまり頭数が減ってしまうと回復も難しくなる(極端な話、数10頭まで減ってしまうと思わぬ災害で全滅する可能性もでてくる)。
この様子をグラフで簡単に表すと下図のようになる。横軸が集団の頭数で、縦軸が頭数の自然増加分(= 生まれる頭数 - 死ぬ頭数)である。この曲線のピークに対応する増加分
をMSY(最大持続生産量)といい、その状態になる頭数をMSYレベルといい、初期資源量の50%から70%程度の場合が多いようである。 さて、10000頭いたクジラの集団のMSYレベル
が7000頭であり、捕獲によって現在7000頭にまで減って、毎年410頭が生まれて200頭が死んでいるとする(数値はあくまで例えである)。この状態では余剰分は 410-200、すな
わち翌年までに210頭増える事になる。「MSYレベルが7000頭」という事は、頭数が6000頭や8000頭の場合でもさらに増加はするが、毎年の増加分は頭数が7000頭の場合の210より
は少ない、というわけである。さて、ここでこの集団から捕獲しなければ、翌年には頭数は7210頭に増えるが、もしここで210頭捕獲すると、来年までに増えているはずの頭数は
また7000になり、同じ状況がくりかえされて、410頭生まれて200頭自然死し、翌年また210頭捕獲すれば総頭数は7000という状況が再現される事になる。総頭数が7000頭以外の場
合には、毎年の増加分はこの210頭より少ないので、従って、このレベルで捕獲を続けていくのが、もっとも効率よく安定した生産を続ける事ができるわけである。また、捕獲量
を210頭より少なく設定すれば、捕獲を続けていながら頭数も当初の10000頭に向けて徐々に増えていく。 以上が1931年にイギリスのラッセルによって提唱され、その後の漁業資
源管理に大きく影響を与えたMSY理論の考え方の概要である。無論、実際の捕獲においては捕獲するクジラの雄と雌の比率や年齢なども考慮に入れるなど複雑な要素が入ってくる
し、現実の自然界では、捕獲を開始する前だからといって資源量が安定しているとは限らないのだが、基本的な考え方は以上のようなものである。
344:名無しさん@3周年
09/01/06 15:34:15 2JkU9N5I
余談だが、IWCの歴史においてこのような考え方を鯨種ごとに当てはめて捕獲枠を設定したのは1970年代半ばからであり、また南氷洋のシロナガスクジラでは、このMSY理論が出るのとほぼ同じ(すなわち、まだ普及していない)1930/31シーズンに年間3万頭弱の捕獲が
行われてピークを迎えている。ちなみに当時の南氷洋捕鯨はノルウェーとイギリスがメインであり、日本が参加するのは遅れて1934/35シーズンからであった。よく反捕鯨団体の主張を見ると、商業捕鯨を再開させたら今世紀始めのような乱獲状態に逆戻りする、という
類の文を見かけるが、誇大妄想の感が強く、また捕鯨の資源管理の歴史に疎い一般市民をターゲットにしたプロパガンダと言っても良いと思う。さて、実際の例で見ると、例えば、コククジラ(Gray whales)の北東太平洋系統群は、初期資源は30000頭程度と考えられ
ているが、19世紀半ばからの過剰な捕獲によって20世紀初頭までには2000頭程度までに減ったと考えられている。その後資源は保護されたが1960年代終りから1980年代終りまで、回遊ルートの西側にあたるロシア沿岸で原住民のために年平均174頭捕獲されても、年3%
以上の増加を続け、その後も年間100数十頭の捕獲を続けながら1996年にはMSYレベルより若干高いレベルにあたる24000頭程度まで回復している。 MSYの推定値は670頭で、これは現在の頭数の3%程度に当たり、一方、原住民に許可された捕獲頭数は年平均で140頭程度に
すぎないから、今後も増えていく事が期待できる。また、ホッキョククジラ(Bowhead whales)も同様で、初期資源量が10000から20000頭程度と推定されるべーリング海系統群は過剰な捕獲によって激減し、1980年頃には3000頭程度だったが、その後、原住民生存捕鯨
で年間40頭程度の捕獲を続けながら、現在では8000頭以上にまで増えてきている。最近の研究では、資源量はMSYレベル近くまで回復してきており、年間100頭以上捕獲しても、なお増加し続けると考えられている(IWC 1998)。さて、商業捕鯨の最後の頃に日本が南氷洋
で捕っていたミンククジラの場合、状況はどうであろうか?
345:名無しさん@3周年
09/01/06 15:37:01 2JkU9N5I
まず、上の議論はそのまま単純に適用できない。これはどういう事かというと、南氷洋のミンククジラの初期資源量は、今現在の推定資源量の76万頭をはるかに下回るせいぜい20万頭程度というのが大方の科学者の見方で(日本が本格的捕獲を始める直前の1971年当時、
IWC科学委員会による推定資源量は15万頭から20万頭で推定MSYは5000程度であった。ただ、この時点ではIDCR調査航海は始まっていない)、つまりシロナガスクジラなどのようにオキアミというエサをめぐって競合する他の大型種が捕獲で激減しために、エサをめぐる環
境が好転してしまい、商業捕獲を開始する前にすでに数が当初より増えていたと考えられるからである(これは、今世紀前半からのミンククジラの妊娠率の増加や性成熟年齢の低下、成長曲線の経年変化などから考えられる)。南氷洋でのシロナガスクジラなども含めた
捕鯨が始まる前のミンククジラ資源量を基準に考えるべきか、それともミンククジラの本格的な捕獲が始まった1970年頃の資源量を「初期資源量」と見なすべきかは、素人の私には判らない。実際IWCでも新管理方式(NMP)という方法で捕獲枠を設定していた1970年代半
ば以降では、1970頃のミンククジラ資源量は初期資源量と見なせないとして、毎年の増加量(Replaceent Yield - RY)をもとに捕獲枠を決めていた。商業捕鯨が一時停止してから10年以上経つが、今仮に、「今現在の頭数を減らさない」事を指針にしたとすると、調査に
よって判っている年間5%前後という増加率と76万頭という90年代初頭の推定量から考えても、万単位の捕獲枠が出てくる。ただ、現在IWCで採用されている改訂管理方式(RMP)は「超」慎重に控え目な数字を出すように設計されているので2000頭程度の捕獲枠しか出てこ
ない。ミンククジラだけの事を考えているなら、これはこれでけっこうだが、シロナガスクジラを早く回復させたい野心家(?)には、生態系のバランスを更にミンククジラ有利に傾けかねない危ない数字に映るかもしれない。このように、10000トンの埋蔵量がある鉱脈
から毎年100トン採掘すれば100年で枯渇するのと違い、生物資源の場合には上手に利用すれば持続的に利用し続ける事が可能なわけである。MSYの説明もしたので、ここでIWCによる捕獲枠設定の歴史を見てみる。BWU(Blue Whale Unit - シロナガス換算方式)
346:名無しさん@3周年
09/01/06 15:41:21 2JkU9N5I
第2時大戦後にIWCが設立されて後、南氷洋などにおける捕獲枠の設定はBWUによって行われていた(BWU自身は戦前から用いられていた)。これは、ナガスクジラ(Fin Whales)は2頭、ザトウクジラ(Humpback Whales)は2.5頭、イワシクジラ
(Sei Whales)は6頭を、それぞれシロナガククジラ1頭の捕獲に等しいとするもので、鯨油の生産が目的であった西欧諸国が生産調整のために導入した方式である(戦前の換算ではイワシクジラは5頭であった)。例えば、捕獲枠が1500BWUの
場合、シロナガスクジラだけを捕った場合には1500頭の捕獲ができ、ナガスクジラだけを捕れば3000頭捕獲でき、あるいはシロナガスクジラを1000頭にナガスクジラを1000頭捕る事も可能である。、このように、鯨の種類ごとに捕獲枠を設定
するわけではないので、競って効率の良い大きい鯨種が狙われる事となり、大きい鯨種から順次資源状態が悪くなる事態を招いた。科学委員会ではすでに60年代から、南氷洋で鯨種別の捕獲枠を設定するように主張していたが、本会議レベルで
廃止が決まったのは70年代に入ってからで、1972/73シーズンからは捕獲枠が鯨種別に設定されるようになった(北太平洋では1960年代終りから鯨種別に捕獲枠が設定されていた)。
NMP(New Management Procedure - 新管理方式)1974年のオーストラリアの提案に基づいて、同年12月に科学委員会で細部が検討され、翌75年の会議で正式に採択されてさっそく適用されたもので、MSY理論の一種であるペラ・トムリンソン
(Pella-Tomlinson)モデルに基づいている。これによって、鯨の資源状態は以下の3種類に分類された。
初期管理資源(Initial Management Stocks)資源量がMSYレベルを基準にしてそれより20%以上のあるもの。捕獲限度はMSYの90%とする。
維持管理資源(Sustained Management Stocks)資源量がMSYレベルを基準に、マイナス10%からプラス20%の範囲にあるもの。捕獲限度は、ゼロからMSYの90%まで資源量に応じて決める。
保護資源(Protection Stocks)資源量がMSYレベルを基準に、それより10%以下のもの。捕獲限度はゼロ。 なお、MSYレベルは初期資源の60%に設定されたので、実質上の分類としては、初期管理資源は資源量が捕獲開始前の72%(72=60+20x0.6)