10/03/22 13:41:27 ya+CEDMQ
キャラテンプレ
使わなくてもおk
・(人物名)
(人物説明)
《昼の能力》
名称 … (能力名)
(分類)
(能力説明)
《夜の能力》
名称 … (能力名)
(分類)
(能力説明)
(分類)について
【意識性】…使おうと思って使うタイプ
【無意識性】…自動的に発動するタイプ
【変身型】…身体能力の向上や変身能力など、自分に変化をもたらすタイプ
【操作型】…サイコキネシスなど、主に指定した対象に影響を与えるタイプ
【具現型】…物質や現象を無から生み出すタイプ
【結界型】…宇宙の法則そのものを書き換えるタイプ
3:創る名無しに見る名無し
10/03/22 13:42:43 ya+CEDMQ
【イントロダクション】
あれはそう、西暦2000年2月21日の昼のことだった。
ふと空を見上げると一筋の光が流れている。
最初は飛行機か何かと思ったんだ。
けれどもそれはだんだんと地面の方へ向かっているようだった。
しばらくすると光は数を増し、そのうちのひとつがこちらに向かってきた。
隕石だ。今でもうちの近所に大きなクレーターがあるよ。
とにかく、あの日は地獄だった。人がたくさん死んだ。
だが、隕石が運んできたものは死だけではなかった。
今、あの日は「チェンジリング・デイ」と呼ばれている。
それは、隕石が私たち人類ひとりひとりに特殊能力を授けたからだ。
物質を操る、他人の精神を捻じ曲げる、世界の理の一部から解放される……。
様々な特殊能力を私たちはひとりにふたつ使うことができる。
ひとつは夜明けから日没までの昼に使うことができる能力、
もうひとつは日没から夜明けまでの夜に使うことができる能力だ。
隕石衝突後に新しく生まれた子供もこの能力を持っている。
能力の覚醒時期は人によってバラバラらしいがな。
この能力の総称は、「ペフェ」、「バッフ」、「エグザ」、単に「能力」など、
コミュニティによっていろいろな呼び名があるそうだ。
強大な力を得たものは暴走する。歴史の掟だ。
世界の各地に、強力な能力者によって作られた政府の支配の及ばぬ無法地帯が造られた。
だがそれ以外の土地では以前からの生活が続いている。
そうそう、あとひとつ。
これは単なる都市伝説なんだが、世界には「パラレルワールドを作り出す能力」を持つ者がいて、
俺たちの世界とほとんど同じ世界がいくつもできているって話だぜ。
4:創る名無しに見る名無し
10/03/22 13:44:43 ya+CEDMQ
↑
とりあえず、こんなとこですかね?
先走っちゃったかな?
5:創る名無しに見る名無し
10/03/22 13:48:41 JN+AQtf7
いちおつ
6:創る名無しに見る名無し
10/03/22 14:20:34 cdsGSLW8
《昼の能力》
名称 … >>1乙
【無意識性】【返信型】
こっこれは乙じゃなくてうんたらかんたら
7:創る名無しに見る名無し
10/03/22 14:28:49 GCw9Ge+E
>>1乙乙
問題ないでしょうこれで一安心だ。2スレ目突入めでたい。
よくある放置スレだった前スレがこんな良スレに化けるとは誰が予想しただろうか。
前スレでは
31 :創る名無しに見る名無し:2010/02/20(土) 23:08:12 ID:ojIn03Q6
2000年、無数の隕石が地球に降り注ぐ。
生き残った人類は一人にひとつ、様々な能力を手に入れた。
まあよくある感じの
38 :創る名無しに見る名無し:2010/02/21(日) 00:50:44 ID:jLo6tqPe
>>35
まぁそうなんだけどね
昼と夜で使える能力が変わるっていうのを思いついたわけよw
ここらへんがすごくGJだったな。
あと一発目に投下した三島柚子さんの中の人
チェンジリング・デイの名称出した98氏
イントロダクション創った107氏
イラスト投下したakuta氏
そしてスレ住民全員
とてもとてもGJでした。
これからもよろしくお願いします。
8:創る名無しに見る名無し
10/03/22 18:28:30 tGEgvEI1
>>1乙!
そして纏めてくれている人も乙!
つまりみんな乙なんだぜ!
9: ◆akuta/cdbA
10/03/24 02:09:03 H+tb3Afo
>>1乙でっす。
>>7
本HNばれててふいた。鳥を略したもので表記したと信じたいw
URLリンク(loda.jp)
フォグさんとシルスク隊長とラヴィヨンと陽太君を借りて
ナンチャッテ雑誌風(1発ネタ。柱とかも使いまわし)
そういえば、フォグさんはどれくらいの悪役にしていいんじゃろう(´`)
10:創る名無しに見る名無し
10/03/24 06:42:41 tViYVPse
これから連載してくれるんですねわかります
モフコミックスワロタ
11:創る名無しに見る名無し
10/03/24 12:49:19 8zFk6+MF
おおう何やら熱い戦いが
陽太大根www
12:創る名無しに見る名無し
10/03/24 20:19:07 FZRF3klX
乙一! じゃなかった、>>1乙です!
>>前スレ770(◆KazZxBP5Rcさん)
「beyond the wall」完結、お疲れ様でした!
敵サイドの強そうな能力者たちが、どこかオマヌケで憎めないキャラですよね
ジョ○ョみたいな能力バトル、( ゚д゚)スゲー…… って感じで読んでましたww
(自分には、ちと能力が複雑でムズカシカタですがww)
またよろしくです!
>>9
え、なになに? マンガ連載始まるの? wktk
fog カコイイよ 冷酷そうな感じがイイ!
>>避難所投下をお知らせしてくれている方
いつもありがとうございます!
13:創る名無しに見る名無し
10/03/24 20:25:43 FZRF3klX
避難所に投下したものですが、転載しちゃいます
前スレからのつづきです
↓
14:避難所の転載分です
10/03/24 20:27:35 FZRF3klX
この国自慢の超特急に乗る。
ほとんど揺れず、音も静かだ。座席もゆったりと広い。ここ数年で、ずいぶん快適になったという。
娘は窓側の席に座り、ずっと窓の外を見ている。
―飛行機とはエラい違いだ。
俺はすっかり寛いだ気分になって、コーヒーを飲みながらドア近くのテロップ掲示板を眺めた。
テロップに流れるニュースは、またも野犬がひとを襲ったというニュースを伝えていた。
妻の地元のあのホテルじゃない。別の場所、しかも比較的大きな都市での出来事だった。
不気味だった。
野犬なんて、妻の実家くらい田舎の町ならば、めずらしくはない。
俺もながくこの国に住んでいたので、それは分かる。
しかし、その事件が起きた場所のような都会に野犬が入り込むなど、考えられないことだった。
加えて、同じような事件がなんの関係もない土地で同時に起きている。
―この俺の心配が、「転ばぬ先の杖」であればいいのだが。
……ん? なんか違うな。「石橋を……叩いて壊す」だったか?
+ + +
15:避難所の転載分です
10/03/24 20:30:16 FZRF3klX
『薙澤 パウロ』 『薙澤 藍凛(あいりん)』
受付簿の名前記入欄に、名前を書く。
やはり、漢字は苦手だ。
この国に住んでいた時と同じく、妻の方の姓を使った。
俺の国にいるときは、俺のfamily nameを使う。
「鑑定で行われる会話はすべて筆談になりますが、よろしいでしょうか」
―なぬ?
いま、なんつった?
受付の女性は、俺の容姿といびつな漢字を見て察したのだろう、不安そうな面持ちで尋ねてきた。
「……筆談しか、出来ない?」
俺は一応、聞いた。答えは分かりきっていたが。
「鑑定士および依頼者の安全を確保する目的で、筆談のみとさせていただいております」
申し訳ありません、という表情で受付嬢は言った。
―ええい、仕方がない。全部ひらがな・カタカナだけで書いてやるさ。
それがダメ、っていう決まりは無いよな?
+ + +
まず、俺が鑑定を受ける。
これでもし違っていたら、別の鑑定士を当たることにしていた。
仮面をつけた男に促され、無言でブースに入った。
占いのブースを想像していたのだが、そんなまじないめいたものはまったく無く、どちらかといえば教会の懺悔室を思い起こさせた。
椅子に座り、無言で待つ。
すぐに窓口の下からレポート用紙が出てきた。
16:避難所の転載分です
10/03/24 20:35:08 FZRF3klX
―昼の能力
【意識性】【結界型】
その場の音を支配し、操作する能力
―夜の能力
【意識性】【操作型】
対象の意識レベルを落とす能力
―??
昼は正解だが、夜は……?
たしかに俺は、娘を寝つかせる目的で「夜の能力」を使ってきた。
念じながら、指で額にちょんと触れる……
それで、娘はたいがい寝ついた。
鎮静剤の類がキライな俺にとって、この能力はかなり重宝した。
―しかし……「意識レベルを落とす」って、思ってた以上だぞ。
ヘタすりゃ、昏睡状態に陥って死んじまうかもしれない。
娘は大きくなっていて、今はもうこの能力を使わなくて済んでいるが……
これが本当だとしたら、なおさら俺は、自分の能力を封印しなきゃならないと思った。
ともあれ、俺は自分の『能力』の鑑定は終わった。
次は、娘の番だ。
娘を椅子に座らせた後もなお、この期に及んで、まだ俺は迷っていた。
娘の能力。
知りたいような、知りたくないような……
やがて出てきたレポート用紙を、娘に見られる前にひったくり、俺たちはブースを出た。
+ + +
17:避難所の転載分です
10/03/24 20:39:17 FZRF3klX
「おとーさん、うなぎ食べたい!」
娘は俺の腕を引っ張りながら、勝手なことをのたまう。
娘は、鑑定のことを何とも思っていないようだった。
「能力」についても、あれこれ聞いてこない。それよりも、この国に来たら何を食べようか、の方が興味あるようだ。
俺たちは駅ビルの上層階にある鰻屋に入った。
席につき、俺はレポートを、娘は御品書きを、それぞれ真剣な眼差しで点検していった。
やがて注文した重箱がはこばれてきた。娘は箸を手に両手を合わせると、大きな声で
「いただきまーす!」
と言って食べ始めた。
隣の席にいた若い男女が、くすくす笑っていた。
―うなぎは、「こくないさん」。……OK。
タレもかかりすぎてない。
身はふっくらにくあつ。やっぱ、こうでなくちゃ。
さんしょうはいいかおり。
ごはんの量もぴったり。
―うん、文句なし!
おいしー! あー、しあわせ……。
嬉しそうに箸を動かす娘。
「幸せな奴だな、お前は」
俺は肝焼きをつつきながら、ビールを呷った。
+ + +
18:避難所の転載(bonus track)
10/03/24 20:44:48 FZRF3klX
さて、と。
俺も、こっちに来たらぜひ行きたい場所が一つあった。
銭湯だ。
俺の国では、そもそも風呂というものの考え方が異なるが、俺はこの国の風呂や温泉が好きだった。
しかし、問題がある。
娘をどうするかだ。
前に来たときは小さかったから一緒に男湯に入ったが、7歳ともなるとそうはいかない。
かといって、娘を一人で女湯に行かせるのも、何となく不安だった。
―どうにかできないか……
思案しながら、銭湯の前を歩く。
「あ、おんせんだよ」
「温泉じゃない、銭湯だ。入りたいか?」
「うん!」
「アイリン、一人で入れるか?」
「え? おとーさんは?」
「俺は男だから男湯、お前は女なんだから女湯だ」
「ひとりで入るの……?」
娘は不安そうな顔をした。
そこへ、中学生くらいの少年が声をかけてきた。
「あのー……もし良かったら、僕が見ていましょうか?」
19:避難所の転載(bonus track)
10/03/24 20:48:26 FZRF3klX
―おっと、男の子だと思ったが……。
スカートをはいてなかったら、間違えたままだったかもしれない。
中学生くらいか。あどけない顔立ちだが、背は高めだ。
髪は耳くらい。この長さなら、男でも普通にいるだろう。
「僕もちょうど銭湯に入りに来たので」
にっこり笑った邪気のない顔を見て、俺は
「あぁ、すみませんが、よろしくお願いします。アイリン、挨拶しろ」
と言った。
+ + +
「ふいー……」
浴槽に浸かり、足を伸ばす。湯が身体をじんわり温めていく。
―やれやれ。とりあえず、今回の目的はすべて果たした。
俺は、志乃さんが言っていたことを思い出していた。
(「能力」に関する犯罪を、専門に扱う部署があるんですって)
(ははぁ、なるほど。普通の警察じゃ手に負えないでしょうからね。C.S.I.みたいなもんですか)
(ふふ、よくわかりませんけどね。なんでも……「アホ」だか「ボケ」だかって呼ばれているらしくて)
(……? はぁ……)
この国の、ネーミングセンスがいまだに分からない。
長く住んではいても、妙なカタカナ語を目にするたび、違和感を覚える。
けれど、これはそれとはまったく次元が違う。
20:避難所の転載(bonus track)
10/03/24 20:52:06 FZRF3klX
それはともかく、「能力」犯罪の専門部署があるというのは、さもありなんという感じだ。
悪知恵のはたらく連中を取り締まってもらいたくはあるが、
自分の能力について詮索されたり届出をしたり、というのは面倒だし、気分のいいものじゃない。
俺は複雑な気持ちだった。
風呂から上がって牛乳を飲んでいると、娘と、先ほどの少女が出てきた。
「どうもすみません、子守を押しつけてしまって。助かりました」
俺は頭を下げる。
少女は、
「いえいえ、僕も楽しかったです」
と言った。
+ + +
少女と別れ、銭湯を出ると、日が暮れていた。
娘は歩きながら、俺の前に大判のせんべいを突き出した。
「おせんべ。もらったの」
「お、良かったな。ちゃんとお礼言ったか?」
「うん、『ありがとう』って。 お姉ちゃんのおともだちが、くれたんだって」
娘は、せんべいを大事そうに抱えて歩く。
「トンカチでたたいてわらなきゃ食べられないんだって」
「へえ?」
「お姉ちゃんが、そういってたの」
俺はそれを手にとり、割ってみようとした。
「ん゛っ? なんだこりゃ、堅っ!」
「ほら、トンカチがなきゃ食べられないんだよ」
娘は得意そうな顔をする。
―こりゃ、顎砕き(jawbreaker)もいいとこだな。
こんなモノ食った日にゃ、歯が折れるか、顎関節症になるかしそうだ。
+ + +
21:創る名無しに見る名無し
10/03/24 20:57:13 FZRF3klX
↑以上です
>>17までが本文、>>18-20はbonus trackです
時間軸がねじれているので、ネタとして流してくださいな
水野さん(と、かた焼き)を借りました
むこうでレス下さった方々、ありがとうございました!
22:創る名無しに見る名無し
10/03/24 22:51:22 8zFk6+MF
乙
23:創る名無しに見る名無し
10/03/24 23:07:43 VPCwOOVh
もうこっちに投下でいいのかな
前スレ682の続きいきます
24:白夜に輝く堕天の月
10/03/24 23:08:33 VPCwOOVh
「適当にかっこよさげなこと言ってるだけに見えて、あながち間違ってもいないから手がつけられな
いところだよねー。まああの日以降、全人類が世界の理を乱し始めたって言っても言い過ぎではない
んだけどさ。っておーおー、盛り上がってきたところ、水を差すようで申し訳ないね」
口上を決め、臨戦態勢を整えた陽太の気勢を削ぐように唐突に聞こえてきた、眼前の敵白夜のもの
とは明らかに異なる低く落ち着いた声。
新手か? この状況で? 警戒しつつ、陽太は声の主に視線を巡らせた。
仕立てのよさそうなグレーのスーツに身を包み、銀縁の理知的な眼鏡をかけた大柄な中年男。
温和な笑顔を浮かべてはいるが、その体格とオールバックでかっちりとまとめた髪型が、言いよう
のない威圧感を放っている。
こいつが真打か。陽太はさらに警戒心を強めざるを得なかった。
男は一歩一歩ゆっくりと、にらみ合う陽太と白夜のもとへ近づいてくる。
「それにしても遥ちゃん、私ここに来る前に言っといたよね? 許可なく能力は使っちゃダメだって。
それと、岬陽太君にはケンカを売りに行くわけじゃないんだって。ちゃんと話聞い―」
「遥……。懐かしいわね。その名前で呼ばれていたのは、いつの時代のことだったのかしら。永久に
巡り廻る輪廻の鎖の中で、私は確かに遥という名で生きていた。でも、遥としての生涯は、あまりに
苛酷で惨めだったわ。なのに私は転生を繰り返す度、前世の記憶を引き継いでしまう。遥としての人
生も例外ではない。こんな記憶、忘れてしまいたいのに。記憶の海の奥底、暗闇と静寂に彩られたそ
の世界に、そっと棄ててしまいたい。なのになぜ、貴方は私をその名で呼ぶの? なぜ私は、前世の
記憶に縛られなければならないの? 教えて、ドクトルJ……」
『遥ちゃん』と呼ばれた黒衣の少女が、今にも泣き出しそうな顔で中年男に語りかける様を、陽太
はわけもわからずきょとんと見つめていた。
だが、『岬月下』でありながら岬陽太と呼ばれている自分と彼女とは、同じ苦しみを抱えているの
かもしれない。そんなシンパシーも同時に抱いた。
「始まっちゃったよこれ……。面倒くさいなー。まあ私も多少迂闊だったけどな。ってこら! 私を
『ドクトルJ』とか呼ぶのやめ! 恥ずかしい! 研究所の中でだけならまだしも、ここ公共スペース!
老若男女が集うのどかな公園! あんま人いないけど。ちゃんと主任と呼びなさい主任と」
「貴方こそ、ちゃんと私を現世の名前で呼びなさい。それとも、名前を忘れたのかしら? 研究者の
癖に、物覚えが悪いのね。いいわ、改めて教えてあげる。私の名前」
25:白夜に輝く堕天の月
10/03/24 23:09:44 VPCwOOVh
「はいはいちゃんと覚えてますぅー! 夜の闇を祓う者白夜さんですよねー! 次からちゃんと呼ば
せて頂きますぅー! すいませんでしたぁー!」
さっきまで漂わせていた威圧感はどこへ行ってしまったのやら、中年男はあっさり白夜のペースに
飲まれ、幼児化してしまった。かなり低レベルなやりとりだったが、陽太はこの間すっかり蚊帳の外
に置かれていたことが気に喰わず、
「おい、お前ら。敵である俺を前にして、そんな笑えねえコントやってていいのかよ?」
と、軽く凄んでみた。
「このゴスロリはあんたの差し金か? ドクトルJさんよ」
「ちょ、君までドクトルJ呼ばわり? 勘弁してよ。私は―」
「質問に答えろ! 簡単に答えられるだろ! あんたの差し金ならイエス、そうじゃなきゃノー!
それだけだろうが!」
陽太にさらに迫られたドクトルは、何かを諦めたように大きなため息をひとつつき、
「君をひどい目に遭わせるつもりはなかったよ。ただ彼女は少し御しにくくてね、勝手な行動を取っ
てしまった。その結果が今だ。だが私たちは決して君と敵対する存在じゃない。こんなことを言って
現れた連中が、実際に怪しい存在じゃなかったためしがあるかと言われれば否定できないんだが、ど
うか信じてもらいたい。私たちは純粋に君の能力に興味を持っている。君に会いに来たのはそのため
だ。だから、そんなに警戒しないでほしいな。どうかな、岬よ……岬月下君」
眼鏡をくいっと直しながら滔々と語るその様は、彼が姿を現した時と同様の落ち着きと威厳を取り戻
していた。だが彼が自分で言うとおり、こんな風に現れた者が信用できる存在である可能性は、0では
ないかもしれないが非常に低いだろうと陽太は考えていた。
「私は納得できないわね」
陽太をさしおいて、なぜか白夜がドクトルの言葉につっかかる。
「ドクトルJ、貴方がいつからそこにいたか私は知らないけど、彼は私の能力の前に手も足も出ずただ
醜くもがいていただけよ。己の能力を発現することも適わずに。なのになぜそこまで彼の能力に関心
を抱くのかしら」
26:白夜に輝く堕天の月
10/03/24 23:10:47 VPCwOOVh
「はる……じゃねーや。白夜ちゃん。それは君が先制攻撃を仕掛けたからこそだろ? 彼が先に能力
を使っていれば、結果はどうかわからない。お菓子や軽食を出す能力が、戦うという目的ではさっぱ
り使い物にならない能力だと断じるのは早計だ。それに……」
ドクトルはそこでいったん言葉を切って、陽太がもともとこの公園に来ていた目的、それによって
生まれた産物の数々に視線を投げた。
「彼は努力してるだろ。使えない能力を使えるものにしようとする努力。方向性が合ってるかどうか
はこの際捨て置くとして、ひたむきに努力する少年、応援してやりたいじゃないか。白夜ちゃん、君
がそうであるようにさ」
「ふん、何の世迷言かしら。私のこの能力は天性のもの。努力なんて一切していないわ」
「昼間能力はそうかもしれないけどね。まあいいかこの話は。また怒られそうだ。で、どうかな月下
君。全面的に信用してくれとは言わないよ。ただ君の敵でもないってことだけわかってくれれば」
もちろん陽太は、彼らを全面的に信用する気なんてなかった。むしろどう考えてもきな臭い連中と
しか思えない。既に彼は実害を被ってしまっているのだ。
だが、目の前に立つこの中年の静かな迫力は、無碍な返答をためらわせるのに一役買っていた。
下手に断れば強硬な手段に出てくる恐れもある。そんな気がした。
どうしたものか。陽太が頭を抱えていると、彼の胃が「仕事をよこせ」と文句を垂れる音が大きく
響いた。
それを聞いたドクトルはブフッと噴き出し、
「そっかそっか、あれだけたくさんのお菓子やらなんやら出してたから、お腹空いてるんだ。じゃあ
なんか食べに行こうか。そこでゆっくり話をしよう。何食べに行きたい? あ、あんまり高いものは
勘弁してくれな」
そう朗らかに言って、陽太の返答も待たずにすたすたと歩き出す。
その背中に、トコトコ小走りで白夜がついていく。
「ドクトルJ、私はハンバーグが食べたいわ」
そんなことを言いながら。
「緊張感ねえ奴らだな……」
そうぼやきつつ、陽太も二人の後を追った。
つづく
27:創る名無しに見る名無し
10/03/24 23:13:14 VPCwOOVh
投下終わりです
厨二っぱなしってのも疲れるので
少し展開変えてみたw
28:創る名無しに見る名無し
10/03/24 23:20:42 8zFk6+MF
投下乙
ドクトルJ(仮)厨二に囲まれて大変だなww
ハンバーグってまた可愛いw
前スレ480KBいったからもう放っておいても落ちるね
埋めてもいいけど
29:創る名無しに見る名無し
10/03/25 01:36:43 iMo2kfLa
うへぇwドクトルJって誰だw
白夜、よくそんな面白いセリフが考え付くものだw
投下乙!
30:創る名無しに見る名無し
10/03/25 03:44:19 Aqh2evP8
ちゃんと言わせてもらいますぅー!投下乙でしたぁー!
読みながら「めんどくせぇwwwこいつほんとめんどくせぇwww」
と言ってしまった、ドクトルJ大変すぐる
その後のハンバーグで胸がキュンとなったことも忘れずに記しておこう
しかしこの作者、厨二病のスペシャリストすぎるだろ常識的に考えて……
31:創る名無しに見る名無し
10/03/25 13:42:30 iMo2kfLa
>>9
俺とした事が漫画を見落とすとは…
投下乙!すげえかっこいいよ鉄っちゃん…
>フォグさんはどれくらいの悪役
お好みで悪役させていいんじゃない?
こまけぇ(ry
32:創る名無しに見る名無し
10/03/25 14:46:39 e695VIcd
>>24
ハンバーグww なんだかんだ言っても、やっぱ中学生だな!
かわいいぞ、はる……じゃねーや、白夜ちゃん!
>使えない能力
>方向性が合ってるかどうかはこの際捨て置くとして
おいww 陽太がんばれー
33:創る名無しに見る名無し
10/03/26 01:13:36 60PHdzyO
唐突に投下トルトル
「……気がついた?」
俺を覗き込む瓶底眼鏡の黒髪が目の前にあった。
空に見えるのは夕暮れの空。
俺の体はベンチに横向きになっていた。リンドウに膝枕される形で。
「……うおっ!?」
俺は跳ね起きる。最初に目に入ったのはパンダの乗り物。
「ここは?」
「閉鎖されてたデパートの屋上遊園地」
運ぶの大変だったんだから、と肩を叩くリンドウを見て、俺は笑う。
動物のふかふかした乗り物や、小さなメリーゴーランド。妙に寂れた感じが郷愁をそそる。
もうすぐ日が暮れる。菱形の金網越しに橙色の空が広がっていた。
ベンチで座った俺らの傍を、春風が吹きぬける。
その度にリンドウの黒く長い髪が揺れ、甘い香りが俺の胸を焦がす。
心地よい沈黙が、俺らの間に流れていた。
「……大変な一日だった」
自然と言葉が口から出た。
夜明けから日暮れまで、戦いっぱなしな気がする。
「そうね。あなたはこれからも大変でしょうけどね」
「そうだな」
俺は苦笑する。
これからはリンドウやルローと言った愛すべき変人共と行動するのだ。
それが不安で、そして楽しみだった。
「あなたの過去を調べさせてもらったわ。本当に普通の素晴らしい家庭で育ったのね。
あなたは本当はどう思っているの?きっと、こんな世界は辛いだけだと思うけど」
「そうだな……」
俺は思案する。そして一つの結論に至る。
「これも運命だった。そう諦めるさ」
リンドウはその答えを聞いてクスクス笑っていた。
「実はね、『運命レポート』にはあなたが仲間になる確率は低かったの。だけど、私たちが干渉を掛ける事によって徐々にその確率を上げていった。だから、今の答えは私たちの努力のおかげね」
「……たぶん、関係ないな。一つの因子を除いて」
デパートの屋上は意外と高く、周囲には高層ビルが並んでいて、それらがポツポツと明かりを付け始める。
空の色は段々と暗くなっていく。
リンドウが眼鏡を外し、俺の方を見た。
「その『時間操作』の能力。自らを世界の時間よりも早く活動させる事が出来る能力ね。でもまだ不安定。薬の影響のせいか、別のせいなのか」
そう“鑑定”した。
「あなたの本来の能力の発動が早まったのは、あなたが能力を受け入れたせい」
「俺が?」
「私たちと出会う前のあなたは、能力を否定していた。だからその体に能力が宿りにくかった。だけど今回の出来事を通じて能力者や能力の有効性に気付いたはず。それで―」
「それで能力が宿った。まだ不安定だけど、と言うわけか」
「今までの投薬は、本来の能力の発現を促すとともに、あなた自身が能力を受け入れる準備をするためでもあった」
なるほど。確かに俺は昔ほどは能力や能力者を毛嫌いしていない。
それどころか、能力をリンドウやルローを守るために積極的に使っていた。
「能力者なんて、ただの人間だろ。今日はそれを学んだよ」
受け入れる。これは進歩か退化か。
「人間……そうね。人に見える能力者はまだいい方だわ」
「人に見えるって、姿形がか?」
「心よ」
リンドウが上空を見上げる。
34: ◆IulaH19/JY
10/03/26 01:16:39 60PHdzyO
「私の家族はチェンジリング・デイを境に変わってしまった。政府に属していたお母さんは毎日、能力者の研究ばかり。それも、残忍で非道な研究をね」
「そう……なのか」
「だから私は家を出た。母さんは私を使えない道具だと罵っていたけど、あの人は違った。フェイヴ・オブ・グールはね」
その言葉に賞賛と尊敬の念が含まれていて、俺の中の黒い感情がとぐろを巻く。
「でも、非道な事も沢山した。敵の能力も、仲間の能力も再利用するために沢山処理した。彼ら彼女たちの死体の眼は私を責めたわ。『どうしてこんな酷い事をするの?』ってね」
「……そうか」
「……家を出たとき、私は死んでいた。心がね、死んでいた。それでもフェイヴ・オブ・グールは私の心を救ってくれた。だから私の命を掛けて、彼に忠誠を尽くすと決めている。ねぇヨシユキ」
リンドウが立ち上がる。夕焼け空を背景にして、黒い髪が揺れていた。
「世界と対峙する勇気はある?」
その真剣な瞳を見て、嘘は駄目だと思った。そもそも、陳腐な俺の嘘など通用しないだろう。
俺の心の中を探る。俺の心を解体し、分析する。心の奥底まで覗いた時、答えは見つかった。
「ある」
それは本心だった。だが、続く言葉を俺は言えなかった。
俺のもう一つの本心を。
「そう、良かった。これでやっと ……終わる事が出来る」
何?
そう言おうとした瞬間、リンドウが俺に覆いかぶさってくる。
抱き合ったままベンチの椅子から倒れて、俺とリンドウは地面に体を打ちつけた。
「な、なんだ?どうしたリンドウ」
腰に回していた手が熱く濡れている。嫌な予感がしながら恐る恐る掌を目の前にかざした。
赤い鮮血。リンドウの血だった。
「おい!大丈夫か!」
俺は必死に呼びかける。立ち上がろうとするが、リンドウがそれを許さず俺の肩を抑える手が離れない。
「まだ、立ち、あがっちゃ、駄目。狙わ、れて、る」
喘鳴しながらリンドウが声を掛ける。唇からは鮮血。だが、何かをやり遂げたように微笑んでいた。
駄目だ。人が、そんな顔をしてはいけない。
リンドウを無理やり引き剥がして、横に優しく寝かせる。
腹部に穿れた穴から流れる鮮血が、血だまりを造っていた。
リンドウが鎮痛剤らしき錠剤を合成して口に含む。
「お、おい。お前らの組織に医者はいねぇのか。もうすぐ夜になる。そうすればお前の置換能力でそいつの所にまで飛んでいける!」
リンドウはフフ、と薄く笑った。
「……嫌だ」
「……何でだよ」
リンドウの瞳が、力を失っていく。闇のような瞳の中に、藍色の空が映っていた。
「幸せが無い世界で生きていくのは疲れたわ、ヨシユキ。誰かを恨んだり、恨まれたりする世界もね。
それにね、ヨシユキ。あなたの『夜』の能力は、私の死を因子として発現する。そう『運命レポート』に書いてあった。私はそれに従うだけ。
あなたは大丈夫。私の最後の力を振り絞って、アジトへ連れていく」
それは、贖罪者のような底知れない忠誠心。
敵わない、そう思った。
リンドウのように世界と対峙するために自らの命すら犠牲にする事は、俺には出来ない。
太陽が微かな光を放つ。それはリンドウの命の残り時間を示しているようだった。
リンドウが死んでしまう。これから先に続くはずの未来が、消えてしまう。
―嫌だ。
リンドウが死ぬのなら、俺の命を犠牲にしろ。
大っ嫌いな能力よ、俺のために力を貸せ。
「うおおおおおおおおおおおおお!」
時間がゆっくりと遅くなる。
太陽の最後の残滓が消えかける頃、全ての時間は停止した。
やがて、俺の能力と世界が対峙を始める。
世界が刻む時間の音が、ぶっ壊れる音を遠くに聞いた。
35: ◆IulaH19/JY
10/03/26 01:19:23 60PHdzyO
「世界と対峙する勇気はある?」
リンドウがそう聞いている。
リンドウが生きている。
世界と対峙なら、さっきしてきた所だ。
だから俺は自信を持って、こう答える。
「ある。お前が好きだからだ、リンドウ。お前を守るために、俺はどんな敵とも戦う」
予想外の言葉にリンドウが硬直し、次の瞬間、赤くなった。
「な……な……」
「伏せろ、リンドウ!」
俺はリンドウを抱きかかえて横に跳躍する。
それまで俺が居たベンチに銃弾が突き刺さる。
「……俺は認めないからな、リンドウ」
「な、何が?」
硬直していた腕の中のリンドウに向けて、俺は言ってやる。
「世界と対峙するために、お前がお前の命を捨てるなんて認めない。きっと、お前の幸せは何処かにあるはずだから、それが見つかるまで俺が守るよ」
リンドウは顔を赤くして、はぁ~と溜め息をついた。
「私の本心を見抜くなんて、『運命レポート』には無かったわ」
「じゃあ新しく作り直すんだな」
太陽が沈む。夜の能力さえ使えれば、リンドウの置換能力でここを脱出できる。
太陽の残滓が沈む。沈んだ。昼と夜の能力が切り替わる。
「今だ!」
「……嘘。どうして発動しないの?」
リンドウの驚く声によって何かしらの問題が発生した事を確認。
そしてデパートの出入り口付近に、黒服の男が立っているのを眼の端で確認した。
そいつは黒い帽子で目元が見えない。
傭兵事務所“イモータル”の最後の一人、ゼンだった。
36: ◆IulaH19/JY
10/03/26 01:25:12 60PHdzyO
「女。『お前の能力は回収した』」
ゼンが呟く。低いが若い男の声。
リンドウが目を細めて、相手の能力を“鑑定”しようとする。
「……やめておけ、女。『お前の視力を回収する』」
リンドウが急に目を押さえてうずくまる。
その時になって初めて、リンドウの手首に赤黒い細い糸が絡みついている事に気付いた。
俺がその糸を足で斬ろうとしたが、まるで生きているかのように糸は回避。
その糸は黒服の袖口からゼンの手首の中へと収納されていく。
「リンドウ!大丈夫か!?」
「目が……視えない」
俺が彼女の顔を確認。
リンドウが目を開けてきたが、傷や損傷などは認められない。
ただ、瞳孔が広がっており、リンドウが光を失っているのは分かった。
「てめぇ、何しやがった!」
激情のまま黒服の男へとルローから貰った銃を向ける。
「その女の視力を回収した。俺の能力を解析されるのは、俺に不利だ」
「……返せ」
「その銃で俺を殺せば、自然と返る」
発砲。俺は躊躇なく顔面を狙った。
「……ただし、俺を殺せればの話だ」
ゼンが首だけ避けて回避していた。
銃口からの弾道の射線を見切って、指が動くと同時に動きやがった。
なんて度胸と反射神経をしてやがる!
「……リンドウ。一旦退く」
「……私を置いていって」
リンドウの言葉は無視。無理やり肘を掴んで立ち上がらせ、彼女の腕を肩に巻く。
だが、唯一の出入り口であるデパート屋上の出入り口は男が立ちふさがっている。
飛びおりようにも十階建ての建物から飛び降りるのは自殺に等しい。
吹きぬけていく夜風が、俺の冷や汗に当たる。
ただ俺はゼンに銃を突き付けたまま、立ち止まらせる事しか出来なかった。
優位を確認したゼンが言葉を紡ぐ。
「所長と違って、俺は貴様らの仇討ちしか考えていない。所員24名の命、その命で償え」
ゼンが動こうとした時、俺の左手が掌で制す。
「待て。ここは話し合いと行こうじゃないか」
「男。話し合いとは対等の立場の者が行うことだ。命乞いなら聞くまでもない」
歩み始めるゼン。
「だから待てって。俺の夜の能力は強力だ。全員死ぬぞ」
もちろんハッタリだ。俺に夜の能力なんてない。
余裕そうに演技の笑み。頼む、通じてくれ。
ゼンが歩みを停止。怪訝そうに黒い帽子を少し上げて、険のある視線が俺を射抜く。
ゼンが含み笑いを漏らした。
「バッフも持っていないのにどうやって?」
……こいつも鑑定士の力を持っているのかよ。
再び歩き出したゼンに向かって、俺は祈った。俺の能力が開花する事を。
頼む。なんでもいいからこいつを止めてくれ。
無意識にゼンに向けていた左手を握りしめた。
小さな爆発音。俺らの足場が揺れた。
「なっ」
驚きの声をあげたのは俺だった。
ゼンは俺に一瞥をくれただけで視線を外し、警戒して周囲を見回す。
こもった爆発音は段々と近くなってくる。
再度の爆発音。そして、ゼンの足元に放射状に亀裂が走り、粉砕。
ゼンは後ろに跳んで回避した。
大きく開いた穴から飛び出す茶色の影。
「にゃははははっ!ルロー様の登場にゃ!」
屋上の足場を粉砕しながら、ルローが飛び出してきた。
37: ◆IulaH19/JY
10/03/26 01:28:12 60PHdzyO
白黒パンダの遊具が、空けられた大穴へとずり落ちていく。
「ルロー!いったいどうやって此処に?」
安堵のため息と共に、疑問を吐く。
「ヨシユキの携帯のGPSを辿ってきたにゃ」
フェムとの戦いの後、ルローから黒い携帯を貰った事を思い出す。
「『運命レポート』通りに行ってなかったからにゃ。心配でアジトに向かわず戻ってきたにゃ」
ルローは俺たちの隣に立つと、リンドウに話しかけた。
「リンドウ。生きてるかにゃ?」
「……生きてる」
「『運命レポート』通りに行かにゃかったとは言え、生きてた方がうちは嬉しいにゃ」
満面の笑顔でリンドウの頭をポンポンと軽く叩く。リンドウは少し照れたように俺の肩に顔を沈めた。
「とりあえず、問題は目の前の男だ」
ゼンは真っ黒な服についた汚れを払いながら立ちあがった。
「現れたな、猫。“イモータル”副所長として、仲間の仇を取る。貴様だけは許さん」
「お前もあの腐れ髭豚と同じ運命を辿ればいいにゃ」
互いの間に膨れ上がる殺気。
ビリビリとした熱い空気を感じる。
ルローが駆けだす。先制の投げナイフは、ゼンの黒服を掠めるだけ。
ゼンは銃をずらして撃ってきたが、ルローは難なく回避した。
「……生体強化人間か」
「そんなもの当たらないにゃ」
間合いを詰めたルローが左手を突き出す。
ゼンが応射しようとしたが、その動きが急速停止。
銀のナイフを持った右手ではなく、何も付けていない素手の左手で攻撃してきた事に疑問を持ち、回避を優先する。
回避されたルローの左手は、壁に触れた。その瞬間、白く光る。
爆発。コンクリートの壁に大穴が開いた。
爆風と飛んでくる小石から逃れながら、ゼンは鋭く睨んでルローを“鑑定”する。
「……くっ!猫、貴様。触れた物を指向性を持たせて『爆発させる』能力か!」
「お前も鑑定士かにゃ。でも、能力を見られたからってどうってことないにゃ」
爆発で生じた粉塵に紛れながらルローが急速接近。
「さっさと死ぬにゃ」
逃げられない絶好の位置で、ルローが再び左手を突き出す。
その左手に、男の袖から伸びた赤黒い糸が絡みついた。
「猫。『お前の能力を回収する』」
ゼンの胸板に、ルローの左手が触れる。
何も起こらない。
「にゃっ!?」
特大の隙。
渾身の蹴りが、ルローに叩きこまれた。
38: ◆IulaH19/JY
10/03/26 01:33:02 60PHdzyO
ルローの体が軽々と宙を舞い、屋上中央の小さなメリーゴーランドの柱を折りながら停止した。
「ルロー!」
呼び掛ける声で茶色の体が跳ね起き、俺の元へと一蹴りで飛んでくる。
「にゃはは……しくじったにゃ」
無事そうな様子を見せても、ふらふらとした体の揺れは隠せていない。
「詰みだ。貴様らに能力を使える奴は居ない」
ゼンが俺らへと殺意の視線を向けてくる。
俺はため息をつく。
諦めの息を。
「ルロー。悪いがリンドウを頼む」
疑問符を浮かべるルローに、視力が戻っていないリンドウを預ける。
二人は能力を封じられ、リンドウは目が見えず、ルローは手負いだ。
俺は弱い。どうしようもなく弱い。
このままでは三人とも死ぬだろう。
だからと言って、仲間の命を諦められない。
だから、まだ動ける俺が二人が逃げる時間を稼ぐために、ゼンを足止めする。
だから、俺は俺の命を諦める。
「お別れだ。リンドウ、ルロー。楽しかったよ。能力者なら、また探してくれ」
「そ、んな。ヨシユキ……」
目の見えないリンドウが手を伸ばしてくるが、俺は一歩下がってその手から逃れる。
「これが、俺の運命だ」
俺がルローに視線で指示する。
ルローはただ黙って頷いた。
「じゃあにゃ、ヨシユキ」
リンドウを担いで、ルローが爆発で空けて来た穴に入ろうとする。
「そうはさせん」
ゼンが銃を構え、動きづらい二人を撃つ、事は出来なかった。
限界以上の脚力で走ってきた俺が、その腕の銃ごと腕に抱え込んだからだ。
「逃げろ!」
「ヨシユキ!」
俺の視線とリンドウの視線が一瞬交差し、やがて穴の中へ消えていった。
俺はゼンの腕の一振りで吹き飛ばされ、背中から地面に激突する。
ゼンは穴を見て二人を追おうとしたが、足を止めた。
「……やれやれ」
ゼンはため息をついた。
39: ◆IulaH19/JY
10/03/26 01:36:59 60PHdzyO
「男。貴様には貸しがある」
背骨を打った激痛に呻きながら、俺は上から降ってくるゼンの声を聞いた。
「事務所が襲われた時、所長トルトルは俺たちを見捨てて逃げた。裏切りは死だが、俺には仲間である所長を殺す事が出来なかった」
痛みを無視して立ち上がる。
「だが、貴様は俺の代わりに所長に処罰を与えてくれた。その点だけは感謝している」
「……感謝ついでに俺らを見逃せよ」
脳震盪で意識が揺れたが、痛みも何もかも無視。目の前の男に集中する。
「それはできん。だが、ハンデをやろう」
折れたメリーゴーランドの柱から、適当な長さの金属の棒を俺に放り投げて来た。
「俺は貴様を一撃で殺す事はしない。その代わり、味覚、嗅覚、触覚、視覚、聴覚の順に奪っていく」
震える腕で、俺は鉄パイプを構えた。
「最後に奪うのは、貴様の命だ」
俺が走り出す。銃は避けられるので撃たず、まずはこの棒で脚を潰す事を考える。
「うおおおおっ!」
思い切り振りかざし、頭を狙うと見せかけて脚を狙う。
小さく跳んで躱された。赤黒い糸と右手が俺の頭を押さえつける。
「まずは『お前の味覚を回収する』」
そのまま地面へと叩きつけられる。
痛みを堪え、回転しながら離脱し、すぐさま立ち上がる。
俺はペロリと口の中を切った傷を舐めた。
「……なるほど、味がしない」
そこには熱い痛みだけがあった。
「脚を潰してしまえば追跡できなくなるか。賢いが、やるなら殺す気でかかってこい」
ゼンは黒い帽子の位置を修正し、俺を睨んでくる。
相手は戦闘のプロだ。俺のような素人は素人らしく、素人の作戦で行く。
鉄パイプをやたらめったら振り回し、近づいていく。
「……ほう」
ゼンはギリギリの位置で後ろに下がっていく。
クソッ、なんで当たらないんだよ!
俺が腕を振り回して疲れかけたところへ、顔面への赤黒い糸との拳の攻撃。
「『お前の嗅覚を回収する』」
殴られた勢いのまま、後ろへと倒れる。
先程までしていた鉄と潮の匂いが消え去った。
鼻を押さえて、立ち上がる。
「次は触覚だ」
絶対王者のように、ゼンは立っていた。
40: ◆IulaH19/JY
10/03/26 01:41:26 60PHdzyO
最初にリンドウの置換能力を押さえられてよかったと、ゼンは思った。
最初のだけは完璧な詐術だった。
気付かずに糸を絡ませれたおかげで、リンドウは置換能力が使えなくなったと勘違いしてくれた。
その後に声を掛ける事が出来たが、もしあのまま敵のアジトへ『接触していたデパートごと』一緒に跳んでいってしまったら、さらなる敵と戦うところだった。
ヨシユキの荒々しく投げ出された拳を掴み、フックを繰り出す。
「『お前の聴覚を回収する』」
これでヨシユキの五感を麻痺させる事に成功した。
ゼンの能力は手首についた赤黒い糸に触れた物に、声で干渉する『絶対暗示』の能力。
『回収』などという言葉は詐術。相手に不安を与えるためだけの言葉だった。
五感を封じ込められたヨシユキが暴れだしたが、難なく背後を固める事に成功する。
命を奪おうと首の骨を折ろうとし、無駄な労力だと気づいてやめた。
「……やれやれ」
五感を奪ってしまえば、もう何も出来ないのだから。
暴れるヨシユキをそのまま放置し、二人の後を追おうと穴へと向かう。
銃声。ゼンはゆっくりと振り返る。
視力も触覚もないはずのヨシユキが、銃を構えていた。
ただし、見当違いな方向へ。
ゼンが見ている間にも、二、三発、方向を変えて撃っていた。
「……視力は無い。目を閉じて撃っても、当てれる人間などいない」
無視して進もうとし、足元に着弾するのを感じて再び振り返る。
感じたのは、底知れぬ不安感だった。
ヨシユキの視力を失ったはずの眼が、確かにゼンを見ている。
気のせいか、ヨシユキの周りに青い霧が発生しているみたいだった。
「……はっ。俺とした事が」
この矮小な男に感情移入でもしてしまったとでもいうのか。
仲間を守る姿が、以前のイモータルが壊滅したときの自分の姿とダブったとでも?
首を振って意識を戻し、次の瞬間、すぐに首を横に向けて避けた。
銃弾が掠めて、黒い帽子が吹き飛んだ。ゼンの驚愕した顔が露わになる。
「……な……」
あり得ない。そんなはずはない。
『絶対暗示』の能力を破るなんて事は。
そんなゼンを嘲笑うかのように、ヨシユキの唇は歪んでいた。
「視え…るぞ。お前の…姿」
ゼンは反射的に銃を構え、撃つ。
ヨシユキの腹部に着弾。
撃つ。
右肩を打ち抜いた。
撃つ。
左脚が血で弾けた。
ガチガチガチ。
銃弾は無くなった。
空っぽになった銃をそれでも構え、フェンスに倒れたヨシユキに近づいていく。
倒れて動かないヨシユキを引きずり起こす。
その瞬間、襟首を掴まれ、開いた口の中に堅い先端が入れられた。
銃の先端だった。
「!!!」
「お前に…あいつらを…殺させは…しねぇ」
掴んだ力は強く、ゼンの体は恐怖で動かない。
脂汗の浮かんだ苦渋の表情で、ヨシユキはゼンに言う。
「お前を…逃す事は…リンドウの…『死』に繋がるから…それだけは…駄目だ」
ヨシユキの顔に、何かをやり遂げたような笑みが浮かぶ。
ゼンは逃れようとするが、掴まれた襟首は怪物のような力を持っていた。
「じゃあな…ゼンさん」
引き金が引かれる。
ゼンの意識は、そこで途切れた。
41: ◆IulaH19/JY
10/03/26 01:51:30 60PHdzyO
ここまでです。
42:創る名無しに見る名無し
10/03/26 02:42:36 vfF3xeQ9
GJだ
ゼンさん強いなぁやっぱり覚悟か何かかね
そして主人公覚醒はやっぱりヒロインのためが相場と決まっていて興奮したよ
43:創る名無しに見る名無し
10/03/26 20:27:59 LfudsqLc
>>33
おお! 熱いよ、熱すぎ。
虚実織り交ぜてのバトルなんて、やってくれるじゃあねーかおい!
“鑑定”ってところで、スカ○ターを想像してしまったww
GJです!
44:感想どうもです!ラスト投下 ◆IulaH19/JY
10/03/27 00:56:21 OnqFxPuK
ルローに背負われて階段を下っていたリンドウが突然叫んだ。
「……待って!待ってルロー!」
「待たないにゃ。ヨシユキからお前を頼むと頼まれたにゃ。うちはお前を死ぬ気で守るのにゃ」
「そうじゃない!視力が、能力が戻ってる!」
「……にゃ?」
ルローが疑問そうな声で左手をコンクリートの壁に触れる。
爆発が起こった。
「にゃっ!本当にゃ!早く能力を使って戻るのにゃ!」
ルローがリンドウに置換能力をせがんだが、リンドウは首を横に振った。
「……出来ない。八階までなら能力が使えるけど、それ以上への階へは無理だわ」
「もしかして……にゃら八階まで行くにゃ!」
リンドウとルローは八階まで瞬時に移動し、非常階段への道へと急ぐ。
そこには青い霧が大量に溢れていた。
「な、なにこれ」
「おそらく、ヨシユキの能力にゃ。『夜』の……」
リンドウが無言で階段を駆けあがり、ルローが四足でその後を追う。
屋上のドアを開けたリンドウが見たのは、倒れ伏している黒服と、血だらけでフェンスに寄りかかる
「ヨシユキ!」
駆けよって意識を確認すると、弱々しくヨシユキが目を開けた。
「リンドウ…」
リンドウは手提げから震える手で救急箱を取り出す。
追いついたルローは屋上の出入り口で不思議な空間に目を奪われていた。
「全て青色の霧の世界にゃ。これが『能力を否定する』能力かにゃ……」
霧は風に揺らがず、ヨシユキの周りを一定の間隔で広がっている様子だった。
約直径30メートルの世界で、能力の効果は否定され、打ち消されるのだ。
『運命レポート』に書いてあった通りの能力だった。
リンドウが治療していくヨシユキをルローはじっと見ていた。
「ルロー…」
弱々しげな口でヨシユキが呟く。
「なんにゃ?」
「その男の…口を…布で塞げ…」
ヨシユキが差し伸べたのは気絶しているゼンだった。
「殺さなかったのかにゃ?」
「銃が…弾詰まりを…起こした…」
運がいい男にゃ、と思いながらルローはヨシユキの言うとおりにゼンの口を堅くきつく結ぶ。
「……駄目。ここじゃ治療する道具が足りない」
応急処置を終えたリンドウが不安そうな声を出して、置換能力でヨシユキをアジトへ運ぼうとする。
不発。
「ヨシユキ、能力を解除するにゃ」
「無理だ…」
痛みで歪んだ顔でヨシユキが告げる。
ヨシユキの意識とは関係なく青い霧は発動し続けていた。
「……ヨシユキ。言いたくはにゃいが、バフ課が尾けてるにゃ。すぐに移動しなきゃにゃらにゃいが、アジトに歩いて帰る事は出来にゃいにゃ」
「わか…わかっている。ルロー…俺を…殺せ…」
「そんな!」
リンドウの叫びを聞いたヨシユキが、弱々しい笑みを返す。
「敵におまえらが捕まるよりは…俺が敵の手に落ちてお前らに迷惑かけるよりは…そっちの方がいい…」
この手しかなかった。ヨシユキの死体を持ち帰り、能力を薬として取り出すためには。
「……一つ聞きたいにゃ、ヨシユキ。お前はリンドウが好きなのかにゃ?」
「ああ…。出会ったときから…好きだ…」
小さく笑って、ヨシユキが告げた。
これがイレギュラー。『運命レポート』を狂わせた原因かにゃ。
能力者が嫌いなヨシユキが、能力者のリンドウを好きになる確率は、とそこまで考えて、ルローは考えるのを止めた。
「じゃあうちが殺るにゃ」
「すまない…恩に着る…」
そういってヨシユキは目を閉じた。
リンドウは目を背けた。見れるわけがなかった。
「……じゃあにゃ、ヨシユキ」
銀の爪が振り下ろされた。
45: ◆IulaH19/JY
10/03/27 00:59:01 OnqFxPuK
銃声。
銀の爪が弾かれる。
その音に呼応して、リンドウとルローが臨戦態勢に入る。
「ラツィーム隊長。シルスク隊長からは絶対に手を出すなと」
「吾輩はあいつらにあの少年を殺させてはいかん気がしたのだ。直感での」
骨董品の銃に黒色火薬を詰めながら、丸太のような腕をした白い髭面の男が答える。
その横に立つ秘書みたいな女は、胸元が大きく開いた服を着ており、ブロンドに碧眼だった。
その二人が隣のビルの屋上に立っていた。
「バフ課5班。隊長ラツィームに、副長のマドンナかにゃ」
左右のビルを確認し、クエレブレが居ないだけマシにゃ、と俺らに聞こえる声でルローが話した。
「左様。お主は今ここで殺しておいた方が良い気がするの。直感での」
丸太のような腕が膨れ上がる。
そして手に持ったのは催涙弾。ルローに怯えのような表情が貼りつく。
猫にとっては玉ねぎの成分が含まれている催涙弾は血漿を破壊するからだ。
ラツィームの腕が旋回。黒い筒が投擲される。
俺の能力の青い霧では慣性は殺せないらしく、突き抜けて来た。
リンドウの銃弾が迎撃。空中で粉砕し、白い煙をぶちまける。
「撤退するにゃ!」
能力を使えないのでは何もできないと、煙と反対側のフェンスを斬り裂き、退路を作る。
「リンドウ!来るにゃ!」
しかし、リンドウは俺の傍から離れない。
「行け…リンドウ。お前の能力が無ければ…ルローが逃げられない…」
俺の手を掴んでいたリンドウが立ち上がり、その指が離れる。
白い煙から逃れ、ルローの元に駆け寄ったリンドウが振り返り、何かを呟く。
『ごめんなさい』
多分、そういうふうに言っていたと思う。
やがて二人はフェンスから飛び降りて見えなくなった。
俺が伸ばした腕は、何もつかめずに手を降ろした。
46: ◆IulaH19/JY
10/03/27 01:00:24 OnqFxPuK
「ラツィーム隊長。目標リンドウと目標ルローは逃走。置換能力で逃げたのを部下が確認しました」
「シルスクにはまだ報告するな」
威厳のある深い声。ラツィームがビルの縁を蹴って跳躍する。
着地。デパート屋上の舗装された地面に罅が入る。
ビルとビルの間を悠々と越えてきやがった。
「ふむ。異様な空間だの。吾輩の能力が使えん」
倒れて気絶したままのゼンには目もくれず、俺に一直線に進んでくる。
「若いの。大丈夫かの」
「大量出血以外は…大丈夫だ…」
蒼白な笑みで俺が答えると、髭を震わせて笑いやがった。
人がよさそうな瞳で俺を覗き込んでくる。
「お主の。吾輩が思うにの。今、ここで殺しておかねばならぬと思うの。直感での」
「まぁ…放置しておいても…死にますがね…」
敵に対しては、当然の処置だろう。薄れる意識の中で考える。
問題は俺の死体をどうするかだ。
「死んだら…土葬で…十字架とかを載せてくれると…ありがたい…」
「ふぅむ……」
白い髭を撫でながら、ラツィームが続ける。
「吾輩は少年の死体をバラバラにして隠匿した方がいいと考えるがの。直感での」
最悪だった。
「俺の意見は無視かよ…クソじじい…」
「ふぅむ……」
ラツィームは俺が使っていた鉄パイプを軽々と持ち、正眼に構える。
「頭を割るかの。生意気の」
そういって振り上げる。
スイカ割りのような光景だった。
スイカが俺じゃなければ笑えたがな。
目を閉じた。
もう、だるい。
呼吸する事も、生きる事も。
確かに疲れるよな、リンドウ。
この世界は。
俺は待った。死の鉄槌がくだされる事を。
俺の記憶ごと、殺してくれ。
……
……
……あれ?
うっすらと目を開ける。
「バーストモード」
ラツィームがジェットエンジンによるニ対の拳を受け取めて吹き飛んでいた所だった。
「借リハ返スゾ。風魔ヨシユキ」
薄れゆく意識の中、俺の体が大きな背に背負われるところだった。
浮遊感を感じ、足元のデパートの屋上が段々と小さくなっていくのを見た。
フェムの両脚からもジェットエンジンが突き出し、俺は空を飛んでいるのだと感じたところで、俺の意識がフェードアウトした。
47: ◆IulaH19/JY
10/03/27 01:02:45 OnqFxPuK
「おい、少年。起きろ」
目を覚ます。視界が捉えたのは白い部屋で、ガラス窓が流れゆく黒い雲を映していた。
横たえられた俺が次に目にしたのは眼鏡を外したリンドウの顔だった。
「…リンドウ?」
「私の娘と接触したのか。だが、私はリンドウではない。ルジだ」
白衣の女が答える。髪の毛まで真っ白だった。唇に咥えた煙草には火が付いていない。
体に痛みは無いが、力が入らない。薬でぼやけた感覚だ。
俺の能力はまだ発動していて、青い霧が周囲に漂っていた。
「全く、とんでもないガキを連れて来たな、フェム。『能力を否定する』能力だと?おかげで三十二種の実験が水の泡だ」
「スマナイ。ダガ、私ニハ彼ニ恩ガアル」
白衣の女の後ろでフェムが答えた。
「彼ヲ治療シテヤッテクレナイカ?ルジ博士」
「あ~あ~。あんたはいつから私に命令できる立場になったんでしょうねぇ」
やれやれとルジが首を振る。だが、その唇に歪んだ笑みを浮かべた。
「だが、こんな面白い材料を放っておけるわけがない。もちろん治療するさ。なぁ、少年」
そういって俺に何やらパネルのようなものを見せつけてくる。
「プランα。この躯はどうだ?」
機械のような体。俺は首を振る。
「プランβ。こいつはどうだ?」
植物の格好をしているのは何かの冗談なのか?俺は首を振る。
「プランγ……は売り切れか」
「『プロトモデル:弐』が残ってますよ」
観葉樹が喋った。
いや、違う。緑の葉が髪となった女が背を向けていたのだ。
その女は幹のような角ばった細い手でパソコンのキーを打っていた。
「黙れテラ。チェンジリング・デイ以前の技術。最後の最高傑作を使えだと?」
にやりと八重歯を見せて笑うその姿は、肉食獣を思わせた。
「面白いじゃないか。それにしよう」
俺の腹部からまた出血が起こった気がした。
薬で痛みを麻痺させられているが、俺の体はこのままではマズいらしい。
「君はこのままでは死ぬ。治療には記憶と心を失う可能性があるが、どうだろう。君、生きたい?」
俺は弱々しく頷く。
生きたい。生きて、もう一度会いたい。
「テラ。あと何分だ」
「およそ1分30秒で能力が切り替わります」
俺は窓ガラスの雲が、眼下に広がっている事に気付いた。
俺の視線に気づいたのか、ルジがにやりと笑う。
「そう、ここは雲の上。我々“政府”御用達の空飛ぶ実験室さ。空中要塞ならば、いつでも能力を昼か夜に操作できる」
雲の向こうに太陽が差し込んだ。
俺の青い霧が消失する。
首筋に痛み。見ると、ルジが俺に麻酔薬を打ちこんでいた。
「ここからは『人体改造』の能力の出番だ。オヤスミ。少年」
「おはよう。ホーロー」
48: ◆IulaH19/JY
10/03/27 01:05:26 OnqFxPuK
朝日がさす沿岸の第七埠頭。その暗い倉庫。
“ドグマ”に資金提供を行っている黒社会の一部。仁教会の本部があり、会議を行っていた。
「資金の6%を提供する事にする。何か異議は?」
「“ドグマ”は上得意様だ。何も問題は無い」
「むしろ、たったそれだけに抑えてくれている事に感謝しなければな」
議論は収束した。
七人の和服の、いずれも暴力的な雰囲気を纏った男たちが立ち上がる。
突然電気が消えた。
非常用電源に切り替わり、周りに詰めていた護衛たちに力がこもる。
「ネズミか」
だが、誰も侵入してこない。
不審に思った仁教会の幹部の一人が護衛を外に能力で移動させる。
瞬間。悲鳴が上がった。
「何かいるぞ!」
おくれてくぐもった声がして、ドサリと倒れる音。
「全員、能力を発動できるようにしろ」
和服の男の忠告で護衛たちが戦闘態勢に入る。
そのうちの一人は、雷撃を用意していた。
雷撃は思考と同じ瞬間に発動でき、倉庫の出入り口から現れた瞬間に攻撃できる。
だが、侵入者はなかなか現れない。
首の後ろが総毛立ち、背後に何かの存在を感じた。
「……気づくのが遅いな」
首への一撃。それで意識を失った。
「上だ!」
護衛の一団が倒れた後、誰かが叫んだ。
何者かが倉庫の梁の上に立っている。
その男は黒い服を纏い、藍色の長いマフラーを巻いて口元が見えない。
藍色と黒の装束は、どこか忍者を思わせた。
「撃て」
銃弾や、強力な能力が発射されるが、その全てが男に触れる前に消滅した。
否。全て切り裂かれていた。
男が装備されていたのは緩く湾曲した二本の長い短剣。
どちらにも同じような線が中央に溝を作っており、短剣同士が共鳴していた。
そして切り裂くと同時に発光し、銃弾や能力で投げた岩が焼き切れたのだ。
全員に緊張が走る。
「貴様、何者だ?」
初老の和服の男が冷や汗を流しながら声を掛ける。
「……風魔=ホーロー。……お前ら全員、終わりだ」
その男の姿が揺らめいて消えた瞬間、勝負は決していた。
49: ◆IulaH19/JY
10/03/27 01:07:11 OnqFxPuK
「マタ、殺サナカッタノカ」
フェムは任務完了を知ると同時に倉庫に侵入してきたが、倒れて気絶している男どもをみて呆れたように言った。
「……殺す道理が無かった。……全員、まだ目を覚まさないだろう」
俺はそういうと、置かれていた金融口座や書類をかき集めていく。
これでドグマに資金が流れない。
「ソレデ、コイツラハ、ドウスル?」
フェムが男らを指さすが、俺は答えない。正直、どうでもいい。
電話でルジに連絡を入れる。
「……任務完了」
「はいはいはいはい、ご苦労ご苦労。帰還しろ。次はしばらく休みだから連絡入れるまで待機な」
荒々しく電話が切れる。
袋に書類を全て積み込み、フェムが呼んだ警察が来る前に退散することにした。
だが、しばらく倉庫街を進んだ後、俺たちの前方に立ち止まる影があった。
「あらァ?モう、お帰りカなァ?」
コートを着込んだ男。フェイブ・オブ・グールだった。
「ナン……ダト……」
フェムが雷に打たれたかの様に動けなくなる。
俺だって、こんな所でこんな大物と会うとは想定外だ。
だが、ドグマの幹部と出会えば即時殲滅。これが命令だ。
機先を制すために、腰から二本の特注のナイフを抜き出し、共振させる。
『時間操作』の能力を使い、加速。コートの胸板を引き裂く!
接触した途端にナイフの先端の超感度センサーが作動。高温のプラズマを発生し、肉を焼き切った。
切り裂きながら走り抜けて、背後を取る。
手ごたえはあった。確かに切ったはずだ。
「おやおやァ、元気ガいいなァー」
振り返った男には余裕の笑み。効いていないのかよ。
「……取り返しに来たのか」
「オオーゥ!正・解・デス!さァ、早く返シなさーイ」
まさか資金源を直接取りに来るとはね。
俺はしぶしぶと書類を袋ごと投げてやる。
受け取ったフォグは疑問符を浮かべた。
「のォー!コれじゃなィ!」
「……じゃあ何だ」
「ユーです!ミすタァー風魔」
「……は?」
俺は指さす方向を見る。
コートの男は明らかに俺を指していた。
「……何を言っているのか分からないのだが」
「そウか。記憶ヲ喪失したノデスね。……残念でス」
コートの男は両手を広げて残念そうに首を振った。
そうして去ろうとした。
「……あァ、ソウだ。コれは置イてぃきマーす」
そうして投げ捨てた紙を、俺は掴んだ。
金縛りから解けたフェムが俺に聞いた。
「奴ハ何処ダ?」
俺は紙から目を上げ、フォグを探した。
フォグは何処にもいなかった。
50: ◆IulaH19/JY
10/03/27 01:09:11 OnqFxPuK
空中要塞に戻った俺はベットに横になり、フォグが落としていった紙を見ていた。
「……日付と、場所。……今日の夕方の時間だな。……そして『ごめんなさい』か」
頭に軽い頭痛がした。
何かの記憶が再生される。
女だ。
悲しげな視線で俺を見る、空虚な瞳の女。
大切な約束をしていなかったか。
夕暮れのあの日。
確か俺は―。
ベットから跳ね起き、装備を付ける。
部屋から出ると、フェムと廊下で会った。
「何処ヘ行ク」
「……下へ降りる」
そのままフェムを避けようとした途端、鉛色の腕が俺の進路を遮る。
「オ前ハマダ、単独行動ヲ認メラレテイナイ」
「……フェム、頼む。……お前と戦いたくない」
鉄の顔からは表情が読み取れないが、小さく戦闘モードと呟くのが聞こえた。
俺は一歩下がり、短剣の一本を取り出す。
「……やめろ。……お前じゃ俺に勝てない」
フェムの腕のジェットエンジンが点火。長く伸ばされた腕が、激突する。
要塞に備え付けられた、監視カメラに。
「……行ケ。次ニ会ウトキハ、敵ダ」
「……フェム。……ありがとう」
俺は駆けだす。
「懐かしいものだ」
走り去るホーローの姿を見ながらフェムは回顧していた。自分にも誰かを想っていた時期があった事を。
それは叶う事が無かったが。
ホーローを逃した責任は重いだろう。おそらく自分には一生『心』が与えられまい。
それでもフェムは良いと思っていた。
風魔ヨシユキに、自分の想いを重ねていたから。
「さぁ、報告しに行くか」
その背中には、機械らしからぬ熱い魂が宿っていた。
51: ◆IulaH19/JY
10/03/27 01:17:14 OnqFxPuK
錆びて、崩れかけたデパート。
立ち入り禁止の黄色の帯をくぐり抜けて、デパートの正面入り口から入る。
中央の天井には、あの日の爆発での衝撃で大きな穴が開いていた。
エレベーターのボタンを押すが当然動かず、非常階段を探し、一段一段登っていく。
彼女はここを俺を担いで登って行ったのかと思うと、苦笑が漏れる。
最初の出会いを境に、俺の運命は変わった。
良かったのか悪かったのか、分からない。
これからも分からないだろう。
それはきっと、何もかもが終わった時に分かるはずだから。
だから、終わらせるために、まず始めようと思った。
屋上のドアを押しあける。
「遅いよ」
あの日と同じ場所に、彼女は立っていた。
夕暮れが差し込む、午後5時。
俺はその場に立ち止まって、彼女を眺める。
「…あの趣味の悪い眼鏡は辞めたのか?」
胸にあふれる感情を誤魔化すために、皮肉を言う。
「違うわ。ちょっと外していただけ。こっちの方が可愛く見えるでしょ?」
リンドウが笑う。
そして、沈黙が落ちた。
二人とも、言いたい事は山ほどあるはずなのに、何から言っていいのか分からない。
陽が、橙色に俺たちを染め上げる。
「……ごめんなさい」
リンドウが謝った。
「あの日、死ぬのは私だったはずなのに。あなたを死にそうな目に合わせてしまった」
「違うよ」
俺は即座に否定する。
「リンドウ。あの時の俺は、お前の命が何よりも大事だったんだ。リンドウの死こそが、俺の死だった。
だから、『ごめんなさい』に対して『ありがとう』を言うよ」
俺の言葉を、リンドウが涙目で聞いていた。
「リンドウ。生きていて、ありがとう。お前の命が、俺の命だ」
俺が笑う。リンドウも泣きそうな顔をしながら笑った。
「……それで、これからどうするのかしら?“政府”に戻るの?」
「残念ながら“政府”には急な休暇申請を出してきた。それよりも行きたい組織があってね
その組織で、守りたい女を守る事にする」
「じゃあ、そうしなさい」
リンドウが俺に向かって手を差し伸べてくる。
「それではようこそ、我らが組織“ドグマ”へ」
夕暮れ時。
春の陽気を宿した風が、俺とリンドウの間を流れていく。
屋上の出入り口で立ち止まっていた俺は、ベンチの傍に立つリンドウへと歩みを再開する。
彼女の差し出された掌を掴むために。
終わり。
52: ◆IulaH19/JY
10/03/27 01:32:59 OnqFxPuK
ここまでです。おそらく続きは書けないと思われます。
感想くださった方、可愛いイラスト投下してくださった方。
本当にありがとうございました!励みになりました!
◆KazZxBP5Rcさん、完結おめでとうございます!
また、その他の作者の方々、続き待ってるんで、投下されたら絶対読むんで、是非とも投下よろしくお願いします!
個人的な話になりますが、四月から生活環境が変わるので、携帯のROM専になると思われます。
中頃からの編入だった俺を暖かく迎えてくれて本当にありがとうございました。
このスレの雰囲気は本当に投下しやすかった。
長い話になるとまた容量食っちゃうんでこれで。
またご縁がありましたらよろしく!それでは!(><)ノシ
53:創る名無しに見る名無し
10/03/27 02:02:26 /6ZpsrK6
>>52
投下&完結乙です!
一時はどうなるかと思ったけど、ちゃんと再会できて良かったなー
これから彼らはどうなるか想像すると面白そうだ
お疲れさまでした! 残念だけどしょうがないかぁ。
でも、またの復帰を待っているよー
54: ◆W20/vpg05I
10/03/27 14:02:10 /6ZpsrK6
ひとまず自分も最終話、投下します。
55: ◆W20/vpg05I
10/03/27 14:03:49 /6ZpsrK6
「ぅん……ぁふっ……あれ……ここ……は……?」
頭がうまく働かない。
ぼーとしたまま、周囲を見回した。
「……広い部屋」
そこは100人集まって会議ができそうなほど広い部屋だった。
しかし、私以外の人が誰もいない。
床はすべて赤い絨毯で覆われている。
さらに良く見ると、部屋の片隅には厨房が見える。
「……? なんで部屋に厨房……?」
じょじょに頭にかかった靄がすっきりしていくのを感じる。
その厨房には巨大な冷蔵庫があり、電子レンジも数台見える。
ここの機材ならおそらく大量の料理を作ることができると思う。
「……ん? あっちは……お風呂……?」
別の方向に目を向けると、そこにはやはり20人ぐらいは入れそうな湯船があった。
そこからは今も湯気が漂っているようだ。
仕切りは、多分ガラスかな? 湯気で多少曇った透明の壁がそこにあった。
「……で、あれがお手洗いね」
ご丁寧にW.C.と書かれた通路があった。
「まるで、この部屋だけで生活できるようにしているみたい……」
なんでそんな事をするのか……やっと覚醒し始めた頭で考える。
と言ってもはっきり分かることはない。
わかる事と言えば、私は、誘拐された。
だから……ここは……?
「もしかして……もう売られちゃったとか……?」
その可能性を考えて背筋に寒いものが走る。
ぶるっと悪寒を感じ、そこで、やっと気付きたくない事実に気付いた。
「あ、服……着てない……なんなのよー。もう」
下着すらなかった。それはもう完璧に。
身体検査でもされたのだろうか。と思わず考えたくない方向に考えてしまう。
「とりあえず何か体を隠せるものを……」
視線を走らせると、すぐにある物に気がついた。
何枚ものカーテンが壁に掛けられ、奥が見えないようになっていた。
あの一枚を頂戴して体に巻きつければいいかも。
私はゆっくり近づき、一枚に手を掛け引っ張った。
意外とあっさりとれるカーテンを素早く巻きつける。
「これでよし……と……え?」
56: ◆W20/vpg05I
10/03/27 14:09:52 /6ZpsrK6
そこで、なにかカーテンの奥に見えた。
そこには人の手のような何かがそこにあった。
「誰か、いる……?」
心臓が早鐘のように鳴り続けている。
痛いぐらいの緊張。それでも私はゆっくりと、カーテンへと手を掛けた。
「3・2・1……えいっ!!」
勢いよくカーテンを外す。
じゃらっと音がし、カーテンが勢いよく引かれ、その奥にあるものが明らかになる。
そこにあったものを目にしたとき、一瞬絶句してしまった。
「人形……?」
それは等身大の私と同年代の少女姿の人形だった。
様々な色とりどりの服を着て、様々なポーズをとり、一種絵画のような雰囲気すら漂っている。
その人形と私の間にはやはりガラスの壁が立ちはだかり、人形自体には手を触れることはできない。
良く見ると近くに入るための扉が設置されていたが、そこは施錠されていた。
「……なんだ。びっくりした。誰かが覗いているのかと思ったー」
ふう、とりあえず一息を吐き、もう一度人形を眺める。
―そして、気付いた。
……えっ―
それを見たとき、何がなんだか理解できなかった。
見て理解できるわけもなかった。
そこにあった一つの人形。
ただ、決定的に違うのは、その姿には見覚えがあることだった。
「なんで……なんで美柑の人形がここにあるのよ……?」
そこには美柑そっくりの人形が立っていた。
それだけなら、まだ似ているだけですんだかも知れない。
だけど、それだけで否定できないことがあった。
「どうしたのよ……美柑……なにがあったの……?」
その表情は恐怖で歪み、目からは涙を流したかのような跡が残っていた。
ただの人形ならそんな表情はさせないと、作ろうとしてもそうできるものではないと思う。
「……どういうこと……なの?」
美柑の姿をした人形を見ることしかできない。
金縛りにあったかのように動くことができない。
余りに理解不可能、いえ、考えたくない可能性が頭をよぎり、必死で否定する。
―そして、後ろから音がした。
57: ◆W20/vpg05I
10/03/27 14:10:42 /6ZpsrK6
金縛りから解け、弾かれるように後を振り向く。
そこには一人の20代前半っぽい細身の青年と30~40ぐらいのごつい体つきの黒服の男が立っていた。
黒服の男は無表情だが、青年は薄気味悪い笑顔を張りつかせ、私の方に近づいてくる。
思わず身構える私に、青年は声を掛けてくる。
「やぁ、やっと起きた。別に寝てるままやってもよかったけど、それじゃ面白くないからな~」
その声を聞いた時、始めに思い浮かべたのは蛇だった。
気持ち悪い感触が纏わりついている気がする。
「君といっしょに買った子の方が先に起きたから、先に芸術品になってもらったよ」
その一言で、悪い予感が現実として認識された。
頭に血が昇る感覚。どうしても抑えられない激情に動かされる。
「……やっぱり、美柑を―」
それ以上は怒りの余り、言葉にならない。
「そう、わたしの『人を針で刺すことで人形にする』能力で芸術品になってもらったのさ。
どうだい。わたしの作品はすごいだろう?」
自慢げに話す青年の言葉。
もうだめだ―男の言葉は耳に入るだけで気分が悪くなる。
「そんなことのために……人を人形に……?」
「そんなこと? はっ! 何を言っているんだい? わたしの作品になるんだよ。最高の名誉じゃないか!」
……この男は狂ってる。たった数度の言葉で青年の狂気を嫌というほど感じ取る。
「さ、デク、いつも通りにあの子を抑えて置いてくれないか?」
そう青年は言うと、無表情だった男はこちらに走ってくる。
私はよけようとするが、黒服の方が早い。
あっさり手を掴まれる。
「なんだ。簡単に捕まったねぇ。もうちょっと遊べるかと思ったのに」
男の残念そうな声に、余計苛立ちが募る。
「……だれが!」
その声は途中で遮られた。声が出ない。
―体が動かない。指一本動かすことができない。
「ああ、デクの能力は『触れてる相手を動けなくする』能力さ。
生命維持に必要なことはできるけど、体を動かすことなんでできはしないさ」
体が動かない……触れられているから……?
青年がゆっくり近づいてくる。顔には歪んだ愉悦をたたえている。
息がかかる距離まで来た。
罵声を浴びせたいけど、口を動かすこともできない。
男の顔がさらに醜く歪む。
「さあ、君はどんな芸術になるかなあ」
58: ◆W20/vpg05I
10/03/27 14:12:19 /6ZpsrK6
悔しさと怒りと、侮蔑の感情が渦巻く。思いっきり殴ってやりたい。
でも、触れられているから動けない。動くことができない。
触られている?
その事実を思い浮かべたとき、この状況を覆す方法を思いついた。
できればしたくない。でも、そうすれば確実に敵を倒せる。
覚悟を決める。そう……触れられているなら―
―瞬間、能力を発動
「がぁああ!!」
黒服の男が吠えた。その声は私よりも下の位置から響く。
そう、その男は地面に完全に埋まっていた。
私の能力は『皮膚に触れた物を瞬時に落とす能力 』それは人ですら例外ではない。
私の能力により落ちた男は、床をぶち抜き、私の下になるまで『落ちた』のだった。
「な……それは……君の能力か……!?」
突然の変化に青年は動揺しているかのように一歩下がる。だけど、私には立ち直させるつもりはない。
私はそのままもう二歩進み―青年に『触れた』
人の形をした釘が、もう一本地面へと打ちつけられた―
「……でも、どうすればいいんだろう」
今、私は目の前にある、"人形"を見て、途方に暮れている。
そう、どうすれば元に戻せるのか。いえ、そもそも元に戻せるのか。それすらわからなかった。
あの男たちに聞くことも考えたけど、床にぴったりはまりこんでいる奴らを掘り起こすことはできそうにない。
私の能力は私より下にあるものには、何も影響を与えることもできないのだった。
そこに声が聞こえた。
『大丈夫。多分この部屋の感じからすると、その男の能力は昼になれば自動的に解けるわ』
声はすれども姿は見えず。きょろきょろと見回していると、目の前に動く物があった。
「え……なに? これ……小型のロボット……?」
全長30cmくらいの二足歩行をする機械があった。
脚部はローラーになっていて滑るように走る。
胴体と思われる部分は、丸みを帯びた長さ15cmくらいの正方形をし、
そこから細長い首が飛び出て、先端にカメラやセンサーのような物を取り付けられていた。
先ほどの声も、そこに取り付けられたマイクから流れたようだった。
59: ◆W20/vpg05I
10/03/27 14:13:38 /6ZpsrK6
『うん、そう。これはあたいの『機械を動かす能力』で動かしてるの』
「へぇー、それは便利そうね」
『それで話を戻すと、彼女たちは大丈夫よ。
調理場や風呂がここにあるってことは少なくとも人形から人へと戻るってことだから』
「……そう。良かった。で、あなたは何しにここに来たの?」
『任務でこの埋まっている男を追っていたの。後は誘拐された少女達の救出も』
「そうなんだ。よかった……」
私は安堵のため息をつく。
『あ、でもそのガラス張りの所から出さないと……うーん。鍵があるかしら。あいつら掘り起こすの大変よね』
「それなら大丈夫」
『?』
私は、ガラスに近づくと、それに『触れる』
―能力を発動
『うわ……すごい……陸が心配ないって言うのもわかるわ……』
そこにはすでにガラスの壁はない。私の下まで落下したのだ。
「さ、これで大丈夫……これからここで待ってればいい?」
『君は先に帰った方がいいと思う。警察に合うと色々面倒よ。
誘導はあたいに任せて。無事送って行ってあげるわ』
「でも、美柑達が……」
『大丈夫、後処理は、り……あたいの所の所長がするから。所長の腕だけは信用していいから』
「……うん、わかった」
ひっかっかる言い方だけど、一応信用することにする。
その所長というのは……多分、私が知っている相手だから。
あいつだとすると、今までの事が色々つじつまが合う。だから、任せることにした。
―そして私たちは、無事に家に帰ることができた。
世間では行方不明者が一斉に見つかったことで、ちょっとした騒ぎになったみたいだけど……
美柑も誘拐された一人として名前が出てしまって、学校では美柑を中心に大騒ぎになってしまった。
でもしばらくすれば、皆騒ぐのを止めると思う。きっとみんなすぐに別のことに目を向ける。
だから、私が巻き込まれた嫌な事件はこれでおしまい。
……でも、一つだけ、確認したいことがあるのよね。
60: ◆W20/vpg05I
10/03/27 14:15:35 /6ZpsrK6
* * *
昼休み、屋上に上ると、一組の男女が待っていた。
当たり前よね。私が呼び出したんだから。
一人はもう見知ってしまった男。もう一人の女性の姿は始めてみる。
25歳くらいで髪をショートにした美人だった。
服装も白のシャツにショートパンツといった動きやすさを重視した物。
あまり女性らしい服装ではないけど、不思議と似合っていると思う。
「それで俺たちになんの用かい? 裸王?」
待っていた男、陸が開口一番失礼な口を叩く。
その言動に、隣にいた女性の右手が唸った。
音もなく崩れ落ちる陸に構わず、女性は私の方に向き直る。
「ごめんなさいね。こいつはこういう男なのよ。
香織ちゃん……こうやってあたい達を呼び出したということは大体のことがわかっているって事よね」
「はい。わかってると思います」
どうやら女性の方はまともそうだ。
私は口調を丁寧にして答える。
「陸が本当は高校生でないことも、あなたたちが犯罪者を追っていたことも……
そして、そのために私たちを囮に使ったことも」
そう、新しくできたカラオケ店があるなんて嘘だった。
その事に気付いた時、私たちがあの場所に誘導されていたことを理解した。
その話を流した張本人が目の前の陸だった。
後は芋づる式に全てが繋がった。
「やっぱり―本当にごめんなさい」
深くお辞儀する女性。しかし、陸の方は特に反応しない。
「ほら、所長も謝って下さい!!」
怒る女性に、陸はそれでも反応しない。
ただ、私の方を見ている。
「―それで、香織は俺達にどうして欲しい?」
真っすぐ私の目を見て、陸はただ、聞いてきた。
陸はそういう奴だった―その言葉にはどこにも嘘がない。
だから私は要求する。
61: ◆W20/vpg05I
10/03/27 14:16:43 /6ZpsrK6
「私が怒っているのは、私を囮に使ったからじゃないのよ。
……私の親友。美柑を巻き込んだこと。だから、これ以上、美柑を巻き込まないで」
「わかった。彼女は二度と巻き込まない。それは約束する」
陸の言葉に私も頷く。
彼がそう本気で思っている以上、これでおしまいの話ね。
「それで、二人はどうするの? 陸は学校を辞めるわけ? もうここにいても意味ないでしょ」
だから、私は話題を変える。昔の事ではなく、これからの事に。
「俺は……まだ、しばらくはここにいるさ。別の仕事も入っているからこのままの方が都合がいい」
「まー、そういうわけ。香織ちゃんには非常に申し訳ないけどね」
まあ、そんな所よね。私は大きくため息を吐くと顔を歪めて見せる。
相手にはきっと嫌そうな顔に見えているはず。
「しょうがないわね……皆には迷惑かけないでよね」
「ああ、裸王以外には迷惑かけないぞ」
「なんで私以外なのよ! 私にだって迷惑かけないでよ!」
いきなり変な事を言い出したから思わず大声になってしまった。
しかし陸は、そんな私の目の前で一枚の写真を取り出した。
「ふっふっふ。これを見よ!?」
「……なっ!?」
これはあの時の、壁を破るために能力を使ったときの私の写真!?
能力を使った直後、つまり写真の中の私は一糸纏わぬ状態だった。
「しょ~ちょ~お~! わざわざディスガイズしてこの写真を撮ってたんですか!?」
「その通りだ」
女性の1オクターブ低くなった声が響く。
しかし、陸は動じない。
「ふっふっふ。すでにデータは大量にコピーしている。
これをネットの海に放流されたくなければ、これからも俺の下僕として働くことだあべし!!!!」
女性がとんっと地を蹴るとサマーソルトキックが陸の顎にヒット。
陸の体が空中に浮くと同時、私はショルダータックルをみぞおちにぶつけた。
女性と私の協力コンボが陸に完璧に決まり、陸は空中で3回転した後転がっていった。
そのまま陸はピクリとも動かない。
私と女性は一瞬目が合うとがっちりと固く握手を交わす。
今、ここに、強固な友情が芽生えた……ような気がする。
「あたいは、加賀 玲菜。これからよろしくね」
「ええ、よろしくお願いします」
はぁ……どうやら平穏は訪れないみたい。
……でも、これはこれでいいのかも―ね。
おしまい
62: ◆W20/vpg05I
10/03/27 14:17:46 /6ZpsrK6
投下終了です。今回はバトルすらないな。
結局相棒の方の描写が全然できなかったよ。
でも、ひとまずこのお話はおしまいです。
読んでくれた皆様。ありがとうございました!
63:創る名無しに見る名無し
10/03/27 17:13:15 5hvQA8Co
うへぇw無理やり引き込まれたw
何か悪役ばっかり書いてたから、こういう正義の味方もいいなぁ。
しかし、閉じ込められたシーンは映画「SAW」のシーンを思い出してしまってびびったぜw
悪役も本当に悪役で良いなぁ。俺はそういう雰囲気を出せんかったのぜ。
ひとまずって事は続きを期待してもいいのかな?w
とりあえず投下おつかれさまでした!また機会があればよろしく!
64: ◆akuta/cdbA
10/03/27 17:54:03 MFYOMtGM
〃〃∩ _, ,_
⊂⌒( `Д´) < お二方が最終回だなんてヤダヤダ!!
`ヽ_つ ⊂ノ
ジタバタ
⊂⌒( _, ,_) < 生きる意味を、失う……
`ヽ_つ ⊂ノ
グスン
⊂⌒⌒ヽ
`ヽ( _, ,_) < ウウ……
∪ ∪
⊂⌒⌒ヽ⊃
`ヽ ヽ
⊂( _, ,_)⊃ < URLリンク(loda.jp)
65:創る名無しに見る名無し
10/03/27 19:36:24 5hvQA8Co
うわっ!これは良いイラストをどうもありがとうございます!
これは締めに凄いイラストを描いていただいたなぁw
書いてる小説のイラストを貰うのは初めての経験で、とても嬉しかったです!
これからも素敵なイラストを描き続けてください!
66:『月下の魔剣~邂逅~』
10/03/27 21:08:15 kRZd4hZX
最終回ラッシュだと!? 俺も続くぜっ!! 嘘です。
前スレ741-745の続き投下しますぁ。
「ハッ、手はあるって? 食材しか出せねェおめェに何があるってンだ?」
「あるさ。そいつは……俺の拳!」
陽太の合わされた手が離れ、固められた左の拳が右の掌に打ちこまれる。
「ばっ、馬鹿っそんなのっ!」
「いいから。俺を信用しろ」
続いて左掌に打ちこまれる右拳。バシン、と大きな音を立てる。
「拳ィ? 素手でどうなるってンだ?」
「舐めんなよ、俺の拳は鉄をも砕く!! あえて封印してたのさ、怪我じゃすまねえからな。だが…」
ビシィ!と擬音が聞こえるかの如く、見事な動作で指を突きつける陽太。
「おまえになら本気を出してよさそうだ」
ベンは一瞬驚いたように目を見開き、ふっと肩をすくめた。
「…そこまで言えりゃ大したモンだ。いいぜ、反撃はしねェ、やってみな。
当然能力は使うがな。最後に直接触って現実を思い知るといいさ」
ダン! 決意を込めた左足が一歩踏み出す。
「いくぜっ!! 封印奥義!!」
握った右拳を後ろに構え、半身でステップ。1、2、3。
「ブウウウゥゥゥトッ!!!!」
踏み込んだ左足が地面を捉え、全身でベンに肉薄。遅れて伸びる大振りの右。
静止するベンの顔面に、投球のようなモーションで迫る右拳。
そして衝突の瞬間、開かれる右手。
「フィストオオオォォォッ!!!!」
パァァン!!
高い音と共に、顔面に右の平手が打ちこまれた。
67:『月下の魔剣~邂逅~』
10/03/27 21:09:32 kRZd4hZX
「ぐっ!」
苦痛の声を上げたのは、右手を押さえてうずくまる陽太だった。反面微動だにしないベン。
やがて動きだしたベンの顔から、赤い何かが落ちるのが見えた。
「なんだァ? 拳がぶっ壊れるのが怖ェからパーにしたか?」
ニヤリ。陽太が不敵に口を歪める
「いや……直撃だ」
「何言ってやがる、全然効いて……ッ…!?」
「!?」
余裕だったベンに突然、変化が訪れた。
「グッ…ガアアアァァァァッ!!!! 目がああああぁぁぁ!!!! 何だこれあああぁぁぁぁ!!!!」
突如顔面を押さえて叫ぶベン。頭を振って大変な苦痛を訴える。
「てめェ何しやがったあああぁぁぁぁ!!!! 熱ッツアアアァァァァ!!!!」
「行くぞ晶、今のうちだ」
陽太の左手に引かれ、苦しむベンの脇をすり抜ける。
チラリと見たベンの足元には、グシャグシャに潰れている、赤い果実のようなものが落ちていた。
「ねえ陽太何したのっ!? あれ何っ!?」
「禁術だ。あまり使いたくはなかった」
「いや禁術って…」
ベンが追いかけてくる気配はない。
僕たちは奇跡的にも危機を脱し、最初の犬が逃げた先の狭い路地裏を駆け抜けて行った。
68:『月下の魔剣~邂逅~』
10/03/27 21:10:21 kRZd4hZX
路地裏の先、大通りの明かりが見えた。これで安心と足を緩めた、その時。
「…っ!? 何っ!?」
大通りから現れたスーツの男が、僕たちの行く手を遮るように立ちはだかった。
僕は陽太に続いて足を止める。
若々しさを感じさせる黒の短髪。フレームの太いサングラス。
ベンのような危険な雰囲気は感じない、普通の体格の男は、ゆっくりと懐に手を入れる。
「!!?」
男が取り出したのは、注射器。
それを男は、慣れた手つきで自分の首筋に打ち込んだ。
注射器をしまうと男は手を広げて、僕たちを歓迎するようなしぐさを見せる。
「やあ、はじめまして。水野晶さん。岬陽太君」
「何だ…お前はっ!?」
「先程は僕の依頼者が君たちに大変な失礼をしたようだね。
彼には丁重にお連れしろと依頼したんだが…依頼した僕のミスだ、申し訳ない」
「お前が奴の依頼者かっ!!」
男は黙って微笑み、陽太の言葉を肯定した。
「岬陽太君、君は実に素晴らしい。一般人、しかもその若さで彼を突破できる人間などまずいない。
一体彼に何をしたんだい?」
「答える義理はない!」
「…そうか。それは残念」
69:『月下の魔剣~邂逅~』
10/03/27 21:11:12 kRZd4hZX
「!!!?」
突然、男が消えた。瞬きの瞬間に、目の前から男の姿が忽然と消えていた。
ぞくり。
直後、背後に走る悪寒。
「手はどうしたんだい?」
声に反応して反射的に振り向く。背後、たった一歩の距離。陽太の右手を掴んで、そこに男が立っていた。
「なっ!!!?」
陽太が男の手を振り払ったとき、男の姿はそこから消えていた。すでに男は最初の位置に立っていた。
男は陽太の手に触れていた指先をすり合わせ、臭いを嗅ぐ。
「なるほど、これは『ブート・ジョロキア』」
「ジョロキア…?」
疑問を投げかける僕に、男はニコリと微笑んで答える。
「ブット・ジョロキアとも言う、北インド産の唐辛子さ。有名なハバネロの二倍以上、世界一の辛さを持つ品種だ。
皮膚に付着すれば多量のカプサイシンが火傷に近い症状を引き起こし、目に入れば失明すらありえる。なんとも危険な植物だが…」
男はピンと人差し指を立て、クイと振る。
「立派な食材だ」
男は、まるで講義するのを楽しんでいるように見えた。
70:『月下の魔剣~邂逅~』
10/03/27 21:12:08 kRZd4hZX
「さて、岬陽太君。幸い大きな怪我はないようだけど、その手は僕に原因がある。
君の治療をしたいのだが、どうだろうか。僕の研究所は近くにあるんだ。よければ水野晶さんも一緒に」
バシィッ!
突然男の眼前に、赤い果実、リンゴが現れる。
陽太が投げたんだ。それを男は右手で受け止めていた。
「怪しすぎるんだよ…てめぇ…!」
「これはこれは、ご挨拶だね。だが素晴らしい具現化速度だ」
ガリリと一口、手にしたリンゴを齧る。
「ふむ、栄養価は通常より低いようだ」
男はリンゴを乗せた右手に、まるで何も乗っていないかのように左手を重ねる。
両手を離したとき、そこにあったはずのリンゴは消滅していた。
「てめぇ…何者だ」
「そうか。紹介が遅れたね」
男はゆっくりとサングラスに手をかける。
その下から現れた素顔は…
「なっ!!!!?」
「えっ!!!!?」
曰く、若き天才。
画面の中に、何度も目にしたことのある、その顔。
チェンジリング・デイから4年。能力に対する画期的な考察と、誰にもわかりやすい講義によるメディアへの露出により、
一躍有名となった人物。10年経った今でこそ当時ほどの露出はなくなったが、変わらず現役で活躍する能力研究の第一人者。
「比留間…慎也…!!?」
「僕を知っていてくれるとは、光栄だ」
信じがたい、信じがたい衝撃の邂逅がそこにあった。
<続く>
やっちゃったZE☆
主人公覚醒って厨二の華だけど、俺は最初から完成してて覚醒しない主人公が好き。
完成しててこれじゃ先なんて見えないけどな!! まさに外道!!
71:創る名無しに見る名無し
10/03/27 21:45:13 kRZd4hZX
おっとこいつを忘れてた。
ベン
残念ながらモヒカンではない世紀末男。特に組織には属さず、金で裏の仕事を請け負う、通称『便利屋のベン』。
腕力は相当なもので裏社会ではそこそこ名の知れている実力者なのだが、あまり好戦的ではなく女子供を殴るのは本気で苦手。
《昼の能力》
名称 … 壁具現化
【意識性】【具現型】
任意の場所に、周囲の風景に溶け込み、一定時間で崩壊する壁を発生させる。自力で解除はできず夜になっても崩壊しない。
通路を埋めるほどの大型の壁は一日一度だけ発生可能。硬度は非常に高く、能力の干渉も受けず、十時間程度で崩壊する。
小型の壁の発生には制限はないが、こちらは一分程度で崩壊する。
《夜の能力》
名称 … 硬化
【意識性】【変身型】
任意のタイミングで全身を硬化、解除できる。硬化中の硬度は非常に高く、能力の干渉も受けない。
硬化中は一切動けず、呼吸もできないため、実質上時間制限がある。
運び屋のゴーストと似てんなコイツ…
こんな奴でよければ死なない限りは好きに使ってやってください。
72:創る名無しに見る名無し
10/03/27 23:46:06 kRZd4hZX
せっかくのシェアワなんだから積極的にシェアしたいんだけどなぁ…
どこも戦闘レベルが違いすぎて手が出せねえw
>>52
完結乙!素晴らしかった!感動した!
バーストモード再登場に感動した!
ヨシユキの強くなりっぷりがすごいな。
つーかドグマに最強クラスの能力者が加入した件。
機関やっべぇw
>>62
完結乙乙!ハラハラしたよ!
香織なんだかんだですげー能力だw
変態だ変態だ
73:創る名無しに見る名無し
10/03/28 00:17:23 277JAp2X
>>44
熱いバトルキター! と思っていたら、ラスト投下……だと……?
でも、最終回にふさわしいたたみかけ!
リンドウもヨシユキも、死ななくて本当に良かった……
彼らの活躍がもっと見たかったけど、作者殿の事情がそうなら
仕方がないですね……
お疲れ様でした! また作品やコメントの投下、待ってます!
>>54
そんな…… ◆W20/vpg05I さんも行ってしまわれるのですか……?
まだまだこれからと思っていたのに!
組織ドグマ、バフ課2班&5班、両陣営のどっちに関わってくるか
wktkして読んでました
エンディング、お疲れ様でした!
>>66
ついに比留間博士登場か!
若い容貌、クレバーな知性、好きなキャラだー
クロスオーバーしての登場は初かな? 期待っす
そして大魔王ジョロキアか、ジャンクフードとしてもいけるかも
ところでこのシリーズ、ラジオスレじゃ「陽太の大根」て訳されてましたよww
みなさん、ほんとにGJです! シェアワ、楽しいなぁ
「みんなで作ってるぞ」って感じがすごくする
74:創る名無しに見る名無し
10/03/28 01:12:22 277JAp2X
なんかいまいちですけど投下します
↓
75:創る名無しに見る名無し
10/03/28 01:14:17 277JAp2X
+ + +
ビジネスホテルに戻り、部屋で寛ぐ。
「あしたは、なにを食べようかな♪」
娘はベッドに寝転がり、ガイドブックを見ながら足をぶらぶらさせている。
「アイリン、お前食い過ぎだぞ。この前みたいなことになってもいいのか?」
俺はデスクで友人に手紙を書いていたが、その手を休めて娘をたしなめた。
「この前って?」
娘はきょとんとしている。
「憶えてないか。まあ3歳だったからな、無理はねぇか」
+ + +
2003年。
妻の三回忌のとき、俺は娘を連れてこの国へ来た。
あの日―隕石が衝突した日以降、俺や妻が住んでいた地域は壊滅的な打撃を受けていて、とても住めたものではなかった。
妻は出産を控えて実家に戻っており、俺はこの国で仕事をしながら日々、転々としていた頃だった。
そのために二人とも隕石の被害を免れはしたが、妻は病院で亡くなり、俺は住処を失った。
妻の骨は妻の実家に納められ、俺は娘を連れて祖国に帰った。
無理もない。
俺は祖国では安アパート住まいを続けるような生活で、墓地を構えるだの何だのは到底不可能だったんだ。
妻が亡くなって三年目の冬、つまり三回忌の法要のときにも、今回と同じように俺は娘を連れてこの国へ来た。
娘は食欲旺盛で、この国の料理を何でも美味そうに食べるものだから、俺は面白がって娘が求めるままに食わせていた。
それが、いけなかった。
妻の実家を出て帰りの空港へ向かう途中、娘が腹痛を訴えたのだ。
正確には、当時の俺には腹痛であることすら分からなかった。
突然泣き出し、歩くこともままならない。
何が問題なのか分からないまま、俺は近くの小児科診療所に駆け込んだ。
76:創る名無しに見る名無し
10/03/28 01:16:07 277JAp2X
名前を呼ばれ、診察室に入る。
髭面で恰幅の良い医師が、俺たちを見る。そしてちょっとだけ片方の眉を釣り上げた。
「ほい、こんにちは。どうしたん?」
「なんだか分からないんですが……さっき突然泣き出して」
俺は泣きじゃくる娘を椅子に座らせ、言った。
「ほう、どれどれ。ちょいっとお腹、まくってくれな」
医師は聴診器をあて、ふむ、とうなずく。
そして娘に背中を向けさせ、同じように聴診器をあてた。
「ほい、ご苦労さん。食べ過ぎやね。なんやたらふく食べたんか」
医師はこともなげにそういい、カルテにペンを走らせる。
俺は、調子に乗って娘にいろいろ食べさせていたことを思い出し、恥ずかしくなった。
「じゃ、ブジーしとこか」
そういって看護婦に合図し、娘は看護婦に伴われて奥のトイレに連れていかれた。
「いちおう、薬も出しとこか。3日分もあればええやろ」
「えっ……薬?」
俺は身体を強ばらせた。
その俺の動揺を見抜いたらしく、医師は笑いながら
「おとんが飲むんやないんやから、そんな心配せんでええよww ただの整腸剤や、苦味もそんなあらへんし」
と言った。
「しっかし、言葉うまいなぁ。こっちに来てどのくらいになるん?」
医師はカルテを書きながら、俺に言った。
「もう十年くらいです。……今はこっちに住んではないですが」
「ほう」
そこで、娘が看護婦に付き添われて戻ってきた。
「大丈夫か?」
こく、とうなずく。
「楽になったやろ。レディにはちょいっと恥ずかしかったかな。おとんのせいにしとき」
髭面の医師は笑いながら、そういった。
77:創る名無しに見る名無し
10/03/28 01:18:44 277JAp2X
結局、予約していた飛行機を振り替えて、その日はもう1泊したのだったが……
その日の夜のことだ。
不意に身体が揺さぶられた。
「……んあ? なんだ?」
娘が、俺を必死に揺さぶっている。
顔は蒼白で、怯えきっていた。
「どうした!? また腹痛くなったかっ?」
俺は焦ったが、娘はフルフルと首を振る。
泣いたのか、眼が潤んでいた。
かすかに震える手で、俺の寝間着をしっかりと掴む。
「いててて。アイリン、肉掴んでる! どうしたんだ、よしよし」
俺は娘を抱きかかえ、頭や背中を撫でた。
身体に異常はなさそうだ。だが、ひどく怯えている。
俺は、「能力」を使って、娘を寝つかせようとした。
しかし、いくら額に触れても、娘は眠らなかった。
むしろ、寝ないように必死に抵抗しているようだった。
結局、俺は一晩中娘を抱いて睡魔と戦いながら、ぼそぼそと昔話をしたりして過ごした。
娘がようやく寝ついたのは夜が明けてからで、俺は寝不足のまま荷物と娘を背負って、飛行機に乗ったのだった。
78:創る名無しに見る名無し
10/03/28 01:19:55 277JAp2X
―そういえば、なぜあの時、俺の「夜の能力」は効果を発揮しなかったのだろう?
というより、娘は必死に眠るまいとしているようだった。
それが、夜明けに眠りについたのは、ただ単に疲れただけなのだろうか?
+ + +
帰りの飛行機の中で、俺はぼんやりと考えた。
妻の法要は、これで一通り終わったことになる。
これからは、特に期日を定めず、来たいときに来る形になる。
この国は地震が多いせいか、復興が早いようだ。
隕石による被害も、今ではほぼ元通りになりつつある。
娘と一緒に、妻の母国であるこの国に再び住むのも、いいかも知れない。
銃の危険と訴訟のリスクを考えながら暮らすよりは、この国にいた方が……
まあ、娘が10歳になったら、相談することにしよう。どうしたいか、あいつの意思を尊重しよう。
「能力」のことも、その時までには教えないといけないな。
+ + +
79:創る名無しに見る名無し
10/03/28 01:28:09 277JAp2X
↑以上で
無断で某一名借りました。ごめんなさい!
能力モノなのに能力をほとんど絡められてない……orz
80:創る名無しに見る名無し
10/03/28 12:48:32 NTeesV9s
>>52
>>62
新スレ早々に最終回ラッシュなんて…
お二人とも濃いバトル描写と練られた能力設定で、読んでいて
熱くなりました
俺はバトル描写が不得手なんで、勉強させてもらいました
完結お疲れ様です!
>>71
陽太機転と工夫にあふれてるな
俺が書いてるほうの陽太は勢いで乗り切るキャラになりかけてるんだがw
にしても比留間博士が不気味だ
>>79
長く書いてると能力が絡んでこない回もありますよね
この親子はのんびりな雰囲気のままでいてほしいと思います
81:創る名無しに見る名無し
10/03/28 19:11:17 pmQLLptf
>>71
投下乙!比留間博士だと…
ジョロキアを使うとはやるな陽太w
禁術てww
>>76
こいつトルトルじゃね?w
なにやら細部ですごくこだわられている。すげぇ!
娘の能力はなんだろなw
俺も好きだぜ、この親子
82: ◆akuta/cdbA
10/03/28 20:19:11 i4nn1RyK
URLリンク(loda.jp)
URLリンク(loda.jp)
とりあえず鉄っちゃんをバ課3班の隊長に(´`)
何だか作るだけ作っちゃって、キャラをあまり動かせてないので
(というかSSは書けないので)人様に好き勝手使って頂きたく…!
・峰村瑞貴 ♂/24歳
バフ課3班副隊長。女好きのタラシ。
《昼の能力》
名称 … 影踏み
【意識性】【操作型】
相手の影を踏み、動きを乗っ取る。最高二人まで制限可。
自身と同じ動きをさせる事も勿論可能。
《夜の能力》
名称 … ブリザード
【意識性】【具現型】
近くにある水、または空気中の水分から氷や氷像を作り出せる。
大きさや重さは、その場の水分によってまちまち。
83:創る名無しに見る名無し
10/03/28 21:18:55 NTeesV9s
花粉が怖くてひきこもってたら一気に書けた
>>24-26の続きを投下します
といっても今回は単なる座談会みたいになってて、
厨二要素すらないですがw
84:白夜に輝く堕天の月
10/03/28 21:20:42 NTeesV9s
「高いものは勘弁って言ったのに……うう~」
「ぬしぇんごしゃくえんのだんぢな~がそん―」
「口にステーキ詰め込んで無理に喋るなよ。余計に腹が立つわ。あーもう、2500円のランチなんて私
一度も食べたことないのに。ほんと最近の子どもは贅沢だなおい。少しは遠慮してくれよ」
ドクトルにやや強引に連れられて公園を離れた陽太は、駅前のデパートにあるレストランで少し遅
めの昼食を御馳走されていた。
駅前と言っても、陽太の地元の小さい駅ではない。そこから電車に数分揺られてたどり着く、それ
なりに栄えた駅前だ。陽太が一人ではあまり行くことのない場所である。
「遥……ではなく。白夜ちゃんは白夜ちゃんでこれまた2000円のハンバーグとか頼んじゃうし……私
たいして給料よくないんだよ? 今年はボーナスも寒いもんだったし……って、聞いてる? お二人
さん」
「聞いてねえ」
陽太がすげなくそう答えたのと全く同時に、彼の隣りからも「聞こえないわ」という、これまた愛
想も可愛げもない声が聞こえた。
まさか、白夜とハモってしまうなんてな。陽太は少し複雑な気持ちになって白夜を横目で見てみた
が、彼女はその眼差しに気づくこともなく、せっせとハンバーグを口に運んでいる。
「助手くん、君凄いよ。この二人ほんと仲良しさんだよ。まあさっき公園でやってた理解不能な迷言
の応酬からして、その傾向はもう十分にわかってたけどさ」
ドクトルがそう呟いて、彼の前にぽつんと置かれたホットコーヒーをズビビと寂しそうにすする。
そして長い溜息。今日が平日なら、この男はリストラされたことを妻に切り出せずに悩む中年サラ
リーマンにしか見えないなと、陽太はちょっと可哀想に思った。
「まあまあドクトルJ、そうシケた顔するなって。それなりに高いランチおごってもらったんだから、
話を聞くくらいはしてやってもいいぜ」
「え、もう食べちゃったのか? 結構高いんだから、味わって食べてほしかったんだけど……。ま、
いいや。それじゃあ話をさせてもらうよ。と、その前にだ。なぜか私は完全に君の中で『ドクトルJ』
というマッドサイエンティストっぽい男という設定で定着しちゃってるように思うんだが、まずその
誤解を解―」
「誤解も何も、こいつがドクトルJって実際に呼んでたろ。仲間内でそう呼ばれてる以上、あんたは
ドクトルJなんじゃねえのか」
隣で黙々とハンバーグを口に運んでいる白夜を指さしながら、陽太はドクトルを制して言う。
陽太がさした指をチラリと一瞥した白夜だったが、その視線はまたすぐにハンバーグへと戻って行っ
た。
85:白夜に輝く堕天の月
10/03/28 21:21:33 NTeesV9s
「というわけであんたはドクトルJ決定だ。今後この話を蒸し返すのはなしだ」
「……あれ、なんか言い返せない。私なんで中学二年生に論破されてるんだろう。最近の子どもって
怖いなあ」
また寂しそうにコーヒーをすするドクトル。出会った時に抱いた威圧感も今は昔、大きく感じた体
さえなんだかしぼんでしまったようだ。
「うん、もういいやドクトルJで。んじゃまあ、何から話そうか。何か特に聞きたいことはあるかな」
「あんたたち、一体何者だ? どうして俺を狙う?」
間髪入れない陽太の問いかけに、ドクトルは薄く苦笑いを浮かべた。
「直球だね、君。そういうの嫌いじゃないよ。でもすまないね、私たちの素性については、詳しく話
すことはできないんだ。能力を研究しているある団体の一員だということぐらいしかね」
「フン、まあそうだろうと思ってたよ。最初っから期待してねえ。じゃあもうひとつのほうはどうな
んだ? 俺を狙う理由くらいは話せないのか?」
ステーキと一緒に頼んだコーラをグビッと飲み込みながら、陽太は改めて質問する。彼にとって重
要なのは、むしろこちらのほうだ。
「君を狙う理由? さっきも言ったけどね、君の能力に純粋な科学的好奇心を持っているからだよ。
実を言うと、私の個人的興味だったりするんだけどね」
中年男には似つかわしくないニコニコ笑顔で、なんの裏もなさそうに語るドクトル。
陽太はその言葉を額面通りに受け取るつもりはなかったが、ドクトルのその子供のような笑顔を
見ていると、なぜか少し信じたいという気持ちにもなった。
「科学的好奇心、ってのは?」
「ちょっとした実験をさせて欲しいんだ。あ、そんな大がかりなものじゃなくてね。今ここでできる
ようなものなんだ。どう? 協力してくれないかな」
ドクトルの瞳が、銀縁眼鏡の奥でキラキラと萌えアニメの美少女のように輝いている。
若干不気味に思いつつ、ここまで期待されていると断るわけにもいかないなということで、陽太は
空気を読んでおくことにした。
「ここに、さっきデパ地下で買っておいた高級チョコレートがある。一口サイズがたった8個入って
4千円。うーん正直詐欺に近いよね。まあそれはいいとして、月下君。このチョコ食べたことある?」
「んー……いや、たぶんないな。パッケージに見覚えがないし」
「オッケ。じゃあ1個あげる。あ、これこそ味わって食べてくれよ。1個500円なんだからね」
余計な念を押しながら、ドクトルが高級チョコの箱を陽太に差し出す。レストランの中で持ち込み
のチョコを食べていいのかと思いつつ、陽太はそのうちの一粒を手に取る。
正直なところ、陽太には板チョコと高級チョコの区別がつかない。両親がベルギー土産に買ってき
たチョコも、日本のチョコと何が違うのかと思ったものだ。
86:白夜に輝く堕天の月
10/03/28 21:22:33 NTeesV9s
一粒500円か。確かに詐欺だこりゃ。そう思いつつ、陽太はそれを口に運……ぼうとしたが、隣か
ら強烈な視線を感じて動きを止める。
「岬月下、それは卑怯じゃないかしら。能力の特性を利用してチョコを独占しようと企むなんて。ど
うせ貴方なんて、板チョコと高級チョコの区別もつかない小市民でしょうに」
「うぐぉ! 白夜、お前なんでそれを知って……!? ってんなことはいいんだよ! ドクトルJがくれ
るって言うから食ってるだけなんだからな。だいたい独占する気なんてねえし。食いたいなら素直に
ドクトルJに頼めよ」
「ドクトルJ、私も食べたいわそのチョコレート」
「うんうん、後であげるから。まずはハンバーグを早く食べちゃおうか。ほんと白夜ちゃんは食べる
のが遅いよね。まあ女の子らしくていいと思うんだけどね私は」
「お前会話に一切入ってなかった割にまだハンバーグ半分も残ってんのな。冷めるぞ。俺が手伝って
やろうか?」
「どの口がそんな戯言を言うのかしら。貴方の如き愚昧の輩に、私が口をつけたハンバーグを食べる
資格などないわ。慎みなさい岬月下」
そう言い捨てて、またハンバーグを小さくする作業に戻る白夜。密かにため息をつきつつ、陽太は
チョコを口に放り込んだ。
「食べたぞ。これからどうするんだ?」
「今食べたチョコと全く同じチョコを、君の能力で生成してほしい。できるかな」
「『できるかな』? ハン、なめられたもんだぜ、俺の万物創造【リ・イマジネーション】も。これ
ぐらい朝飯前だっての」
うんざりといった調子でそう言って、陽太は右手のひらに軽く力を込め、意識を集中させる。
キラキラと輝く粉が舞うように、小さな光の結晶が陽太の手のひらにわだかまる。それは陽太の手
のひらから発生したようでもあり、もともと大気に離散している結晶を、陽太が引き寄せているよう
にも見える。それらは徐々に互いに引き付けあい、やがてひとつの明確な像として結ばれていく。
その創造図を、ドクトルはもちろん、白夜さえも魅入られたように見守っていた。陽太はその視線
に構わず、さらに集中を深める。
無数に浮遊していた小さな光の粒は完全にひとつに融合し、かすかなシルエットを浮かび上げる。
ひとつに融け合って消え去った光が、陽太の手のひらに残していったもの。彼が先ほど食べたもの
と全く同一の、詐欺的値段の高級チョコがそこにあった。
「へえー……なんか私が思ってたよりもすごく雰囲気があるな。出してるものはただのチョコレート
なのに、ちょっと感動してしまったよ」
「今回は最大限集中したからな。もっと味もそっけもなくポンポン出せるんだぜ。その分実際の味も
そっけなくなるけどな。で、これで実験は終わりなのか?」
「ん? ああそうだったそうだった。ちょっと待ってね。チョコの個数は……7個。減ってないな。ふ
ーむなるほど」
高級チョコの箱を確認しながら、ドクトルは何事か独りごちている。
87:白夜に輝く堕天の月
10/03/28 21:24:11 NTeesV9s
「おい、一人で納得すんなよな。ちゃんと説明してくれよ」
「わかってる。怒らないで聞いてくれよ。私はね、君の能力を疑ってたんだ。表面的には、君の能力
はお菓子を『創造』しているようにしか見えない。だが実際に起きている現象は『創造』ではないん
じゃないか、とね」
「……どういう意味だ?」
陽太は大きく身を乗り出して聞いた。ドクトルが懸念したように腹が立ったから、ではなく、単に
彼の論旨に興味を持ったのだ。
隣の白夜はと言えば、逆に全く興味が失せたのか、またハンバーグとの戦いに戻っている。
「私は、君の能力は『世界に実在する物の中からランダムに選んで取り出す』能力なんじゃないかと
考えた。わかりやすく言うなら『創造』ではなく『召喚』だってことだ。そしてテーブルからの選択
がランダムに行われるとしても、やはり近くにあるものから選ばれるのが自然だと思う。つまり君が
ファミチキを一個発生させると、近所のファミマで忽然とファミチキが姿を消すという怪現象が起こ
るのではないかということだね」
陽太は盲点を突かれた気分だった。この能力は創造だとばかり思っていたが、そのメカニズムは自
分自身理解しているわけではないんだと、改めて気づく。
そんな陽太を見て、ドクトルは穏やかに微笑んだ。
「君は素直だな。今までそんなこと考えたことなかったよね。でもそれでいいんだよ。だって、考え
てわかることじゃないからね。だからこそ私たちみたいな研究者がいるわけだけど、その私たちです
らまだまだ未知の部分が多い。それに今回のことでわかったよ。君の能力はほぼ間違いなく『創造』
だ。少なくとも昼間能力についてはね。夜間能力も見てみたいけど……ま、片方わかれば十分かな、
私としては」
「フン、めんどくせえんだな研究者ってのは。創造だろうと召喚だろうと、俺がこの手に食い物を出
せるってことにはなんの違いもねえよ。物の価値ってのはそういうもんだろ」
強がりで言ってみた陽太の言葉はしかし、意外に強くドクトルの心に響いたようだった。
「そう、その通りだね。本質を追い求めることが常に正しいわけでも、意味があるわけでもないよ。
でも私にとっては、それはとても大切で重要なことなんだ」
つづく