10/01/07 06:18:33 uYIAOlEQ
詳しくは説明しないまま、ゆがいて他の野草に足しました。
溶き玉子を流し入れ、七草を混ぜて、塩と醤油で調味をしたら『七草雑炊』の出来上がり
です。
「お待たせしました。その子の地方ですよ、こうして具沢山のお雑炊にして食べるのって」
「いただきます。へえ、そうなんですか」
器に盛って渡すなりお箸で掻き込むのを、給茶室のテーブルの反対側で眺めます。
美味しそうに嬉しそうに、息もつかずに食べる姿が可愛らしくさえあります。
「少し多めに作りましたけど、食べられそうですか?」
「うん、美味い。これならその鍋の倍でもいけそうです」
「七草はお正月に食べすぎた胃を休める意味もあるんですよ?逆効果じゃないですか」
すでに一杯目は空でした。注ぎ直した茶碗もみるみるうちに減っていきます。
「ああ、すみません小鳥さん、小鳥さんも一緒に食べませんか」
「あ、そうですね。いただきます」
「ふう、いつもこんなの食えたらなあ」
……純粋にお腹が空いてるだけだと思います。この人はそういう人です。
「ま、またなにか作って差し上げましょうか?」
「嬉しいなあ、ありがとうございます小鳥さん」
「いえ」
でも、耳が赤くなっているのに気づかれやしないでしょうか。
私が一膳食べる間にもプロデューサーさんの箸が止まることはなく、またたく間にお鍋が
空っぽになってしまいました。大根とカブの身で作っておいた浅漬けもすっからかんです。
「ぷふう、ごちそうさまでした」
「ひょっとして足りませんか?七草はもうないですけど、なにか作りましょうか?」
「そこまでお手を煩わせるわけには行きませんよ」
プロデューサーさんは椅子の背に体重を乗せ、お腹をさすりました。
「でもよかったです、この野草も無駄にならずにすみましたし」
そしてこんなことを言うのです。
「なにより『ひと草』増やせた」
「はあ」
「だって」
彼は私に向かって、にっこりと微笑みました。
「765プロには、アイドルは11人いるんですから。亜美真美のことじゃなく、ね」
「……え」
「うん、小鳥さん、あなたです」
……ど、どっ……。
どうせ、ただの茶目っ気で言ってるだけです。な、なにしろプロデューサーさんは
そういう人なんです。
でも、でも。……でも。
でも、そんなこと言われたら、意識せずにいられないじゃないですか。
だって、プロデューサーさんが貰ってきた野草は。
『私だ』って足してくれた野菊の名前は。
……『嫁菜』、って、言うんです。
知ってるんですか、プロデューサーさん?
おわり