10/01/07 06:17:41 uYIAOlEQ
少しアピールし過ぎたかな、と思ったのは私だけだったようで、プロデューサーさんは
嬉しそうに笑ってくれました。
「今日の番組のメインテーマも鍋だったんです。やよいたちが締めの雑炊をがんがん
たいらげて行くのを見ていて、スタジオ乱入まで一瞬考えてしまいました」
「あはは、あぶなかったですね。作ってきますから、少し待っていていただけますか」
「小鳥さん」
「はい?」
「……あの、そばで見ていてもいいですか?」
「ふえ」
たぶん、何の気なしに言っただけでしょう。そういう人なのですから。空腹が先立って
いるだけなんだと思います。
「ぅ、い、いいですけど、男の人は面白くないんじゃないですか?」
「いやその……すでに待ちきれなくなりまして」
ね、やっぱり。
「は、はいはい。急いで作りますね」
でも、なぜでしょう。私の頬は緩みどおしです。
臨時のキッチンになっている給茶室で、熱湯に塩を一つまみ入れて七草をゆでます。
「普通なら七草ですが、今年は『十草』で作ってみましたよ」
「十種類?七草は『芹・薺・御形・繁縷・仏之座・菘・蘿蔔』ですよね」
「正解。それに人参、椎茸と豆苗を入れるんです」
水に取って絞り、1cmに刻んで取りおきました。これは最後に雑炊に混ぜます。
「色味を加えるつもりなのと、ほら、うちには今アイドルが10人いるでしょう?」
「ああ、そういう意味ですか」
誰がどれ、ということは考えていませんでしたが、頑張って働いているみんなになぞらえて
あげられたら、そう思ってあとから買い増したのです。
「でもそれじゃ、亜美か真美のどっちかが怒りませんでしたか?」
「ぬかりはありませんよ。もやしと同じ大豆で出来た油揚げも入れてあげました」
お鍋にご飯を2膳、鶏がらスープの素を小さじ1杯、ひたひたの水で煮立たせます。
「もっとも『もやしならやよいっちじゃないの?』って言われましたけどね」
「はは、俺も今そう思いました」
「カブや大根はともかく、あとはぜんぶ野草ですからね、言ってみれば雑草です。あんまり
深く突っ込んで割り振るとかえって雰囲気悪くしそうなんで誤魔化しました」
「ねえ、小鳥さん。これも入れてもらえませんか?」
ふつふつと小さな泡が立ち始めた頃です。プロデューサーさんが突然こんなことを言い
ました。怪訝に思って振り返ると鞄から出したのでしょうか、手にタッパーを持っています。
「なんですか?それ」
「さっき言ったアイドルの子からのおすそ分けなんです。やよいもずいぶん貰いましたが、
俺にもって。料理しない身にはちょっと困ってしまうんですよね、こういうもの」
今日の収録に持参した余りだったとのことで、彼女の出身である九州では七草粥にも
入れるのだそうです。名前を忘れたが西日本で生える野菊の仲間だそうだ、と言われて
察しがつきました。
「関東で生えるのは食べられないんですよね。珍しいものをいただきました」
「小鳥さん、ご存知なんですか」
「昔教わった、くらいですかね」