新漫画バトルロワイアル 第6巻at MITEMITE
新漫画バトルロワイアル 第6巻 - 暇つぶし2ch250:F.O.E."Nosferatu" ◆L62I.UGyuw
09/11/03 23:52:36 yxYmQEpk
「ああ……すまない。その通りだ。ボンちゃんだって辛いのに、な。
 ありがとう。目が覚めたよ。
 妙ちゃんを絶対に救い出す。それが―僕の出来る新八君への最大の弔いだ」

彼女らしく、素直に感謝の言葉と決意を述べる。

「ようし! それでこそあちしのダチだわ。
 でも焦るのもダ~~メよーう。こういうときこそ冷静にねい」

Mr.2の提案で、二人は改めて名簿を確認する。
知った名があれば今後の方針もいくらか変わってくるというものだろう。

「ふ~ん。変な名前が多いわねい」

名簿に目を落としてすぐ、自分を棚に上げた発言をするMr.2。
事実奇妙な名は多いし、一般的な日本人の名は彼から見れば珍妙に映るのだが―Mr.2自身、彼の世界の基準ですら『変な名前』である。

「あ、九ちゃん、ニコ・ロビンって女には注意した方がいいわよーう。
 バロック・ワークス社が滅んだ今、この女がナ~~ニを企んでるか分かったもんじゃないわ。
 他には……うーん、あちしの知ってるヤツはいないみたいねい」
「妙ちゃんと新八君の他に僕が知っている人は……坂田銀時と沖田総悟の二人だな。
 この二人は信用出来る。二人とも仲間のために柳生家に正面から乗り込んできた真の侍だ。
 彼らなら、他人を蹴落として一人だけ生き残ろうなんて汚い真似は絶対にしない。
 それで、ボンちゃん。……さっきの爆発の原因を調べたら、僕は妙ちゃんとこの二人を捜そうと思う。
 これは僕の我侭だから、ボンちゃんは―」

九兵衛の言葉を遮り、Mr.2が大きく口を開いた。

「ガッハッハッハ! 今更な~に水臭いこと言ってんのよう。
 ダチのダチはやっぱりダチに決まってんでしょ。
 あちしもモチロン協力するわよう」
「……かたじけない。それじゃあ―」



ふ、と。
二人の周りが翳った。

「上だ! ボンちゃん!」
「分~~かってるわよう!」

鋭く叫ぶと同時に、互いに正反対の向きに飛び退く二人。
地響き。
森が揺らぎ、鳥が一斉に羽ばたいて逃げる。
上空から高速で落下してきた影が、一瞬前まで二人のいた地点に小さなクレーターを作った。
立ち込める土煙。

「いい反応だ……。こうも次々に強者と巡り会えるとは、今日はなんと良き日か。嬉しいぞ」

クレーターの中心で、蹲ったままの黒い獣が静かな、それでいて暴力的な声を発する。

「不意打ちとは穏やかではないな」
「いきなりな~~んのつもり?」

獣を挟む形で、険しい表情の二人が向かい合う。
揺さぶられた木々から、はらはらと幾千枚もの葉が降り注ぐ。
葉の雨の中で、九兵衛は片手で羽を模した剣を構え、Mr.2は片足を上げたバレエダンサーのような奇妙なポーズを取っていた。


251:F.O.E."Nosferatu" ◆L62I.UGyuw
09/11/03 23:54:01 yxYmQEpk
ゆっくりと立ち上がる巨獣の右腕には斬撃、左腕には打撃の痕。
交錯の瞬間に放たれた二人の攻撃を腕で受けたのだ。

土煙が晴れていく。
闇を纏った分厚い巨体。鋭い爪。赤く濡れた牙。そして天を衝く一本角。
重機を思わせる両の腕には、業物の刀と槍とがそれぞれ握られている。

「何のつもり、だと? 知れたこと! 闘争こそ我らが掟! 死こそ我らが糧!
 強者が弱者を屠るに理由など要らぬ!
 さあ、人間共よ。死を逃れたくば―見事このオレを倒してみせよ!」

人間のゆうに数倍はあろうかという巨大な悪魔が、蝙蝠のそれに似た巨大な翼を広げて叫んだ。
大気が戦慄く。地が震える。氷点を遥か下回る敵意が暗黒の渦を成し押し寄せる。

『不死のゾッド』

歴戦の勇士をも震え上がらせるその堂々たる威容を仰ぎ、しかし二人は冷静だった。

「ボンちゃん、これも―この姿も、悪魔の実の能力、なのか?」

もしMr.2の知っている能力ならば、少しは戦い易くなるだろう。
そう期待して九兵衛は声を掛ける。しかし、

「こいつは……動物系の悪魔の実の能力かしらねい? でもあちしはこんなの聞いたコトなーいわよう。
 もしかして……これが古代種―それか幻獣種ってヤツなの?」

どうやら―ゾッドは悪魔の実の能力者ではないのだから当然ではあるが―Mr.2は知らないらしい。
だが、場の全てを圧倒する異質な存在感。嬉々として闘争を望む好戦的な姿勢。
そして何よりも、対峙しているだけで全身の肌が粟立つ絶対的な殺意。
その能力の詳細がどうあれ―強敵であることだけは間違いない。

じり、と慎重に間合いを測る二人。

一陣の風が二人と一体の間を奔り抜け、地に落ちた葉が舞い上がった。

二人を睥睨していたゾッドが焦れたように動き、

「どうした。来ないのか? ならば―オレから行くぞ!」

地を蹴った。
島を震わす咆哮を上げ、Mr.2を轢き殺さんばかりの勢いで迫る。

「アァンタ! ナ~~メンじゃな――いわよ―――う!!」

迎え撃つMr.2。
黒い暴風と化したゾッドの動きを見据え、

「アァン!」

腹を狙った槍の一撃を、身体を捻り回避。

「ドゥ!」

その勢いを利用して正面からゾッドの顔面に回し蹴りを叩き込んだ。だが、

「クルァッ?!」


252:F.O.E."Nosferatu" ◆L62I.UGyuw
09/11/03 23:55:04 yxYmQEpk
突進の勢いは殺せたものの、反動で軽々と吹き飛ばされて木に激突。
人の胴ほどもある幹がメキメキと音を立てて折れていく。

「ボンちゃん!」

風を纏い駆ける九兵衛が、ゾッドの背後―遥か射程外から剣を振るった。
その途端、剣から幾筋もの風の刃が生まれ、舞い散る葉を次々と斬り裂きながらゾッドに襲い掛かる。

「フン。下らぬ!」

だが風の刃はゾッドの振り向き様の一閃で消滅。

「死ねぇい!」

返す刀で間近に迫った九兵衛の無防備な胴を薙ぐ。
間合いが近過ぎるため刀は当たらない。それでも破城鎚の如き腕が胴に直撃すれば内臓という内臓が全て砕けることは確実。
だが凶器が九兵衛の身体を捉える寸前―彼女の姿がゾッドの視界から掻き消えた。

「ハァッ!!」

裂帛。
ゾッドの右脚から鮮血が噴き出す。

「ヌゥ!?」

片膝を突くゾッド。九兵衛はいつの間にかゾッドの背後へと抜けている。

ゾッドの反撃を予期していた九兵衛は、ゾッドの前で止まるのではなく、重力に任せて身体ごと沈み込み加速。
そのままゾッドの股を潜り抜けつつ脚を斬りつけたのだ。

「ボンちゃん、大丈夫か!?」

折れた木の横に倒れるMr.2に駆け寄る九兵衛。
Mr.2は痛みを堪えながら無理矢理笑顔を作って脚に力を込める。

「だ、だ~いじょうぶよう、これくらい……。ちょ~~っと、背中が痛いけどねい。
 ……それにしてもアイツ、とんでもない馬鹿力じゃな~~~~いかしら? このあちしが力負けするなんてねい。
 九ちゃん、アンタは絶っっっ対にアイツの攻撃を受けちゃだめよう?」
「ああ、分かっている。僕の力じゃあの攻撃は止められない。
 一撃でもまともに食らったら―僕の命は無いだろうな」

Mr.2の無事を確かめると、九兵衛はゾッドに向き直った。

「それにあのデタラメな頑丈さ……。今のは脚を斬り落とすつもりで剣を振り抜いたというのに……」

至近距離からの風の刃を集中させた斬撃でも、脚の肉を抉った程度に留まっている。
そしてその裂傷すら特に気にならぬと言わんばかりに平然と体勢を立て直し、巨獣は二人をねめつけた。
Mr.2の額に脂汗が一筋。

「ショージキ、分が悪そうだわねい……だけど」
「フ、フハハハハハ。よもやオレに膝を突かせるとは、な。
 素晴らしい、実に素晴らしいぞ!」


253:F.O.E."Nosferatu" ◆L62I.UGyuw
09/11/03 23:55:46 yxYmQEpk
仕切り直しとばかりに、再び漆黒の翼を大きく広げるゾッド。
その顔は歓喜に満ち満ちている。

「……逃がしてくれそうもな~~いわねい。
 しゃーないわ。腹括るわよう! オカマの意地、見せたらァ!」
「どの道、こんな化け物を放置しておく訳にはいかないな。こいつは―ここで倒す!
 ―行くぞ、ボンちゃん!」
「おうよ、九ちゃん!」

地を踏み締め、九兵衛とMr.2が本気の構えを取る。
理不尽なまでの暴力、『恐怖』そのものともいうべき魔獣を前に、二人はまるで臆さない。
彼らの双眸に不退転の決意を秘めた力強い光が宿る。

「そうだ! うぬらの活路は背後に在らず! 我が屍の先に在ると知れ!!」

魔獣は吼え――、そして三つの影が同時に地を蹴った。



「「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!」」」




254:F.O.E."Nosferatu" ◆L62I.UGyuw
09/11/03 23:57:14 yxYmQEpk
【E-6/工場付近/1日目 朝】


【ゾッド@ベルセルク】
[状態]:疲労(中)、悪魔風脚による内臓へのダメージ(中・再生中)、右脚に裂傷(中、再生中)、使徒化
[服装]:
[装備]:穿心角@うしおととら、秋水@ONE PIECE
[道具]:支給品一式、手榴弾x3@現実、未確認支給品(0~1個)
[思考]
基本:強者との戦いを楽しむ。
0:九兵衛、Mr.2との戦いを楽しむ。
1:出会った者全てに戦いを挑み、強者ならばその者との戦いを楽しむ。
2:グリフィスが再び覇王の卵を手にしたら……
[備考]
※未知の異能に対し、警戒と期待をしています。

【Mr.2 ボン・クレー@ONE PIECE】
[状態]:背中打撲
[服装]:アラバスタ編の服、森あいの眼鏡@うえきの法則
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、スズメバチの靴@魔王JUVENILE REMIX、コインケース@トライガン・マキシマム
[思考]
基本:友達を見捨てるようなマネはしない。脱出する。
0:ゾッドを倒す。
1:九ちゃんの人探しを手伝う。
2:殺し合いなんてどうでも良いけど自分の邪魔する奴や友達を襲う奴は許さない
3:霧の向こう側が気になる
[備考]
※アラバスタ脱出直後からの参戦。
※グランドラインのどこかの島に連れて来られたと思っており、脱出しようと考えています。
※ニコ・ロビンを警戒。
※マネマネの実の能力の制限
 メモリーが消去されています。現状変身できるのは消されていない
 麦わら一味(アラバスタ編まで)+BWのオフィサーエージェントと、
 直接顔を触れた人物→西沢歩、柳生九兵衛
 その他の制限はまだ不明。

【柳生九兵衛@銀魂】
[状態]:健康
[服装]:
[装備]:シルフェの剣@ベルセルク、シルフェのフード@ベルセルク
[道具]:支給品一式、改造トゲバット@金剛番長
[思考]
基本:殺し合いにはのらない。大切な人の志まで含めて護る。
0:ゾッドを倒す。
1:爆音のした方向へと向かう。
2:神社で浅月と合流する。
3:妙ちゃんを最優先で探す。銀時と沖田も探す。
4:卑怯な手を使う者は許さない
5:あの霧はいったい?
[備考]
※参戦時期は柳生編以降。
※西沢歩、麦わら海賊団(アラバスタまで)、BWオフィサーエージェントの顔と名前を知りました。
※ニコ・ロビンを警戒。

255: ◆L62I.UGyuw
09/11/03 23:58:57 yxYmQEpk
以上、投下終了です。

256:創る名無しに見る名無し
09/11/04 15:21:35 z3/H9s12
何となく気になったけど、レガートさんキーボード使えるの?

257:創る名無しに見る名無し
09/11/04 19:20:08 24nV0T/c
投下乙
うーむ、九兵衛とボンちゃんのコンビがグリフィス・ガッツに匹敵するとしても嫌な予感しかしねぇ
近くにいる人で頼りになりそうなのはひょうさんくらいだが……
仇討ってからの行動指針や如何に。

258:創る名無しに見る名無し
09/11/04 19:29:38 yo/cyUDo
投下乙
二人が勝てる気が全くしない・・・
ホント化け物がゴロゴロ転がっとるなあこのロワ

259:創る名無しに見る名無し
09/11/04 19:34:25 zhrb4Pzd
投下乙
タイトル全滅フラグじゃねえかwww

ゾッドが生き生きしてるなぁ
ひょうさんもだがシルフェ装備に対応するパックもいるし、工場内部のウィンリィ乱入もありうるな
ここからどう転ぶか……

>>256
文字読める参加者なら大抵使えるんじゃね
よっぽどの脳筋でなければ

260:創る名無しに見る名無し
09/11/04 20:20:49 mE6QlpVq
ひょうさん達がまだ付近にいるかも分からんしなあ。

ところでみねねは何死になるんだろw
圧死? 破裂死? 撲殺?

それと今日のサンデーで某キャラ復活……自己修復てw ロワじゃどうなる?

261:創る名無しに見る名無し
09/11/04 20:26:31 AFfP41zq
投下乙
善戦するけど負けそうだwww
ゾットはロワ充してるなw
これはひょうさん次第だろうけど……

>>260
殺す時の描写がないからわからんw


262:創る名無しに見る名無し
09/11/04 20:51:25 24nV0T/c
今週のサンデーは昨日発売だったんだぜw
ハヤテも金剛も凄い展開だったな

しかしこれはこれで自己修復で復活と言う手が使えなくなった罠
原作より強力な自己修復機能でもなきゃ一日二日じゃ直らんからなぁ
もしくは全てが死に絶えた島でひょっこり起き上がる影一つみたいな

263:創る名無しに見る名無し
09/11/04 20:58:18 GV7pGHp1
ここで復活するとはな

しかしあのバオウ・ザケルガを使ってもこのゾッドは倒せる気がしないw

264:創る名無しに見る名無し
09/11/04 21:53:46 24nV0T/c
しかし、もうちょっとWIKIの文字大きくならんかな~
パロロワ事典くらいの大きさがちょうどいいんだが

265:創る名無しに見る名無し
09/11/05 02:17:37 zstwPdTg
研究所関連の作品(056、073、102)において、研究所の位置がF-05となっていたのをF-04に修正しました。
一応確認願います。

266:創る名無しに見る名無し
09/11/05 06:58:06 x1LpfROU
いや、あれは入口がF-04
内部空間がF-05になってるって意味だったんすわ
わかりにくくてすいません

267:創る名無しに見る名無し
09/11/05 09:21:57 ageaf7LZ
研究所でけえなオイw
でもそういう重要な情報は本文中で示唆しておくべきでは?
地図上でもずっとF-4だったし、多分勘違いしてる人の方が多いぞ
下手すりゃ禁止エリア関係で矛盾が出かねない

268: ◆UjRqenNurc
09/11/05 17:56:08 x1LpfROU
文章中で研究所のでかさが表現しきれてなかったか
マップ上のポイントが入口で、

                    開発棟
                     ↑
入口→廊下(しばらく歩く)→ホール(体育館くらい)→研究棟(最初の部屋)→いくつかの部屋→行き止まりの部屋
                     ↓
                    医療棟
こんな感じで行き止まりの部屋はF-5あたりに入るか入らないかくらいを想定してました
個々の部屋のでかさは何百もの標本があったり、大人数で立ちまわれるあたりから想像してもらえればと。

まぁ別にF-4でもいいんですけどね。
研究棟入口あたりまで戻ってきてると間違いなくF-4ですね

269:創る名無しに見る名無し
09/11/06 00:55:36 CvvQFGcQ
後続で
・行き止まりの部屋から最初の部屋のFAXの音が聞こえる
・最初の部屋から行き止まりの部屋の様子が確認できる
描写がある
それに対する突っ込みも入ってない
つまりそもそもそれぞれの部屋がでかいとすら認識されてなかったのではなかろうか
実際、数百程度の標本とあのくらいの立ち回りなら20m四方の部屋があれば余裕だろう

270:創る名無しに見る名無し
09/11/06 02:29:22 jXcTbpNP
山の中に巨大な空洞があってそこを奥へ奥へと進んで行く
描写があるんだから現在位置なんて状態票でいいと思うんだが。

それが駄目なら目標物のない場所で終わってるSSなんて
ここは××とは描写されてないから○○に修正しときます
とか言われかねん

271:創る名無しに見る名無し
09/11/06 03:41:43 CvvQFGcQ
位置を全て元に戻した上で、現在位置の修正とエリア情報への反映を行いました
研究所本体の情報は丸ごとF-5に移しましたが、医療棟や開発棟がF-5にあると確定している訳ではありませんので念のため

272:創る名無しに見る名無し
09/11/07 01:38:34 ju2DbxaH
>治癒は無理だと思うけど
エネルギー、物質と生産出来ない物ない上に
髪が真っ黒になってる状態でほぼ死亡状態のヴァッシュを治し
無からリンゴまで製造してるから問題なく可能

273:創る名無しに見る名無し
09/11/07 14:54:02 HVZyc5le
そこは制限じゃね

274:創る名無しに見る名無し
09/11/09 20:14:23 ZcZZVLow
お、予約来た

ところでそろそろスズメバチを起こしてやろうぜ
取り残されるぞ

275:創る名無しに見る名無し
09/11/10 02:37:52 hpdowrhT
名簿の問題で一時混乱してたから敬遠されてたかも
スズメバチは放送聞き逃がす展開もあるから

276:創る名無しに見る名無し
09/11/12 00:53:27 6fkH0WBk
ちょっと勝手ながら、パロロワwikiを更新。
「カレーの悲劇」のところにここの名前を追加しました。

だってさ、カレー作って食べようとした直後に二人が惨殺されてるんだもんさ……

277:創る名無しに見る名無し
09/11/12 01:01:03 pVa/RWl6
>>276
寧ろよくやってくれた。
すっかり忘れてたけど、病院組は確かにカレーの悲劇だわww


278:創る名無しに見る名無し
09/11/12 01:12:35 mHyCY3mg
ナギの悲惨さは「釘宮のジンクス」だな!

279:◇JvezCBil8U氏代理
09/11/13 17:55:20 WjoIi8pH
代理投下いきます。

280:◇JvezCBil8U氏代理
09/11/13 17:56:01 WjoIi8pH
浮草。
泡。
ペットボトル。
油。
チラシ。
木の葉。
野菜くず。
小枝。
魚の遺骸。

細波に小滝に揺れて、コンクリートの四角い皿にたくさんのものがぷかぷかり。

ちょろちょろと流れるのはあたまのうえの水口からの、まれびと。川という名の旅人。
だけど、峠を越えたくても通れない。
……どうしてだろう?

通せん坊の相場はもののけと決まってる。
ひとをやめたものは、ひとでなくなったものは、ひとだったものは。
旅人たちの頑張りで、だから退治されるのだ。

通せん坊はその図体からは信じられないほど静かに、どぽ……、と水勢に負けて転がり落ちる。

とたんにざぁぁ……と、連なるひとつの音。
川のさ中の貯水池に、絶え間なく注がれる水の群れ。

たくさんのものがぷかぷかり。通せん坊もぷかぷかり。

その光景を―ただ、眺めているひとがいた。


一陣の風が吹く。

びょお、と叩きつけるように。
ごう、となぐり飛ばすように。
だれでもないものがだれかを打ちのめしていく。

木がざわめいている。
木の葉のすれる音が、まるでいのちの砂がこぼれ落ちるようにただ重なっていく。

いっぱい人の名前の書かれた紙がはためいて、ついには手から吹き飛ばされた。

赤くそまった名前たちは日の光に透けて、青の中へ溶けていく。
高く、高く―空のかなたへと。しろいしろい雲の向こうにかすんでいく。

まるで子どもの手をはなれた風船のように、もうにどととりもどせない。

けれど、女のひとは気にしない。ためらわずに水の中へと体をおどらせる。
じゃばじゃばと水をかき分けて、泳げない事を忘れたかのように。
むねの近くまで水いっぱいで、転んだりしたらただじゃあすまないのに、ただともだちだったひとのところへまっすぐに。

281:◇JvezCBil8U氏代理
09/11/13 17:56:56 WjoIi8pH
かたほうの目はつぶれて、自まんの脚はどこかに落っことしてて、からだの中の大切なものをいっぱいなくしてしまっていたともだちは―、

ただ、くやしそうだった。

ふだんからは想像もつかないほど真剣で、やくそくを守れなくてごめんと今にもあやまりそうな顔だった。

自分の体が汚れるのも気にせずに、ぎゅうっとともだちだったものを抱きしめる。
そうすればいつものように、楽しげに自分をくどいてくれるんじゃないかと、そんな気がしたのかもしれない。

たぶん、その顔は、なみだでボロボロだったんだろう。
だれにも見せないし、だれも見てもいないけど、そうだったんだろう。

その顔を映していくはずだった水面は、どこまでもあかくにじんでいく。



********************


積み重なる嗚咽は―、真っ青な空へと。
あんまりにも青くて優しいその空が、だからこそ全てを嘲笑っているかのよう。


同じ空の下、誰かもまた遠くに想いを馳せている。


********************


座り込んで空を見ている。
朝焼けもすっかり治まって、まばゆいほどに白い雲が良く映える青空を。

こんなにも青い空の下で、友は何を想い―そして逝ったのだろう。
ただぼうっと口を開けて、そんな事を思う。

……不思議と、その名前が偽りであるとは考えなかった。
どんなデタラメが起こっても、大抵の事は飲み込んでしまえる。
先刻出会った少年の語った通り、人を蘇らせる力を“神”は持っているのだろう。

ただ、仮にあの男が真実生き返ったのだとしたら、一目でいいから会いたかった。
会って、あの子どもに好かれる笑みをもう一度だけ記憶に焼きつけたかった。

しかしそれももう叶わない。
“神”は殺し合いをさせるためだけに先に逝った人々を呼び寄せて、躊躇いもなくそれを散らせた。
友を弄んだ事へのわだかまりがしこりとして淀んだ感情を蓄積させる。

いや、友だけではない。
誰ひとり死なせないと誓ったのに、こんな狭い場所で今も誰かが失われ続けている。
真っ赤に染まったその名前がまるで彼の血の涙のようだ。

「……何が、悪趣味な放送だ」

悲哀さえ帯びた目で、ヴァッシュ・ザ・スタンピードは遥か高みを仰ぐ。

282:◇JvezCBil8U氏代理
09/11/13 17:57:42 WjoIi8pH
「僕はたった一人で戦った顔も名前も知らない仲間さえ、見殺しにしてしまった……」

仰ぎ―、不意にその目が鋭く引き締まる。
戦っているのは自分たちだけではなかった。
あの“神”の陣営も一枚岩ではない。放送の女性は、それを教えてくれたのだ。
それぞれの想いを抱え、確かに自らの意思を持てる人が確かにどこかにいる。
ならば、やる事は一つ。

「償いにはならないかもだけど、僕はこの手の届く限り立ち向かうよ。運命の螺旋とやらに誰ひとり殺させないために」

太陽に手をかざしてから、強く強く握り込む。

この手で止めるべき相手は“神”と、その思惑に乗せられているものたち。
そして、血を分けたもう一人の己。
誰よりもまっすぐで、だからこそ“神”の掌に留まらず―しかしそれ故に己の意思とぶつかり合うべき相手。

「ナイブズ。……今、どこで何をしているんだ」

名簿に確かにその名が記されているのに、あの巨大な融合体の圧迫感がどこからも感じられない。
……否。それどころか、ゲートが開いた感触さえこの身に届いていない。

どういう事なのだろう、と自らに問う。
けれどいくら考えても答えは出ない。頭の中の住人たちは、皆揃って沈黙を続けている。
いや……、その答えを認めるのが恐ろしいだけだ。

あの力を存分に振るえるなら、こんなに死人が少ないはずはないのだ。
20人に届こうかという人数を少ない、と言ってしまいたくはないが、それでも理にそぐわないのは確か。
いくら踊らされる事に甘んじる性格ではないとはいえ、あのナイブズがこの場に招かれた人類を前に手を下さない理由はないのだから。

なのに、その痕跡はない。不気味なまでにナイブズの存在を感じ取れない。

だから、分かる事が二つある。
ひとつはナイブズが何らかの理由でプラントの力を十全に行使できる状況にないという事。
もうひとつは“神”の力があの融合体ナイブズでさえどうにかして抑え込めるほどだ、という事だ。

……その仮定すらしっくりこない。
力を封じられているにしても、それでもナイブズの気配がここまで沈黙している、という事がどうしてか納得できていない。
もしかしたら力などではなくて、もっと根本的なところで何かが自分の知るナイブズと異なっているのではないだろうか。
意味もなくそんな事を考えてしまう。

だからこそ、ヴァッシュは目を閉じて兄の事を脳裏に描く。意識する。
一度でも力を行使したのであれば、すぐにその事を感じ取れるように。

耳に聞こえる風の音が、吹き下ろす夜の風から駆け上がる昼の風になったのを存分に教えてくれている。
そして合間に届く心地よいほどの木々の語らい、その中に混じるは人の声。

「森も鈴子も、どうにか生きてるみたいだな。……よかった」

植木耕介と、そう名乗った少年がゆっくり立ち上がってこちらへと。
慌てて手を振り制止を試みる。

「ちょっと、駄目だって座ってなきゃ! まともに動ける出血量じゃないんだぞ」

283:◇JvezCBil8U氏代理
09/11/13 17:58:29 WjoIi8pH
おおまかにここまで至った事情は聞いている。
仲間を案ずる気持ちは痛いほどに伝わってくるが、だからこそどうにも放っておけない少年だとヴァッシュは思う。
どこかその理由は共感できて、しかし背負うものが身近であるが故により純粋さが際立っているのだろうか、と。

「大丈夫……だ。俺、普通のヤツより頑丈にできてるし、回復も早、っ……」

……ヴァッシュには知る由もない、というより植木が話し忘れていることではあるが。
天界人という特殊な出生を秘めた植木は、回復力が常人のそれに比べて遥かに高い。
だからこそ多少の無茶を承知で行動しようとしているのだが―それでも限度というものはある。
多少動きまわれる程度にはなったとはいえ、植木はまだまだ横になって安静にしているべき状態だ。

はあ、と大きく溜息を吐き、ヴァッシュは説得の文を首を抑えてうずくまる少年に綴る。

「……じきにあの二人とロビンも戻ってくるはずだよ。動くにせよ、彼らが戻ってきてからの方がいい。
 集団でまとまってればそれだけ危険も減るはずだ。
 敵襲でもない限り、今は動くべきじゃない」

悔しい話だけど、と話を結び―、そして彼らは気付く。

ざり。
ざり。
ざり。

……ざり。

静寂の中の足音は、まるで白雪を踏みしめるかのよう。
妙に淡々と、無機的なテンポで近づいてくる。

びくりと植木ともども動きを止め、しかしすぐにこころを落ち着ける。
足音というのは存外個性的なもので、意外に人によって違いがあるのだ。
だからヴァッシュは安心して誰が来たのか特定し、明後日の方角へと振り向かんと。

「良かった、無事だったんのかロビ……」


―ずぶぬれの少女が、そこにいた。
植木とヴァッシュ、二人の声が唱和する。

「「…………え?」」

たぶん、少女とは呼ぶべき年頃ではないのかもしれない。
だけれども彼らには、そうとしか見えなかった。その背が、あんまりにも小さすぎるように感じられて。
妖艶ささえ漂わせていたついさっきまでのニコ・ロビンとは別物すぎると、二人共にそう思うしかなかった。

「私は―」

名前も知らない誰かの死体を背負ったニコ・ロビンの表情はあまりに寒々しくて、がらんどうだった。
ほんの少しだけ見せてくれたついさっきの笑みが幻のように記憶から掻き消されていく。
切り揃えられた前髪の向こうにあるはずの瞳は、うつむいているからか陰に隠れて表に出ない。

「私は、夢を見ていたの。……楽しい夢だったわ」

静かに誰かだった肉の塊を横たえて、うわ言のように小さく呟くロビン。
聞いてほしいのか、独りごとのつもりなのか。
本人にすらそれが分かっていないのかもしれない。

284:◇JvezCBil8U氏代理
09/11/13 17:59:12 WjoIi8pH
「あんまりに楽しくって―二度と目覚めたくなんてなかった。
 こんな私でも、生きたいって思えたのよ」

ごくり、と唾を飲み込む音だけを植木が漏らす。
かけるべき言葉も浮かばず、いや、許されさえせず。
彼女が危うい綱渡りをしている事だけが、嫌になるほど突き刺さった。

ただ、彼女の握りしめた包丁のその白刃の輝きが、銀雪に跳ね返る日の光のようにやけにぎらぎらしている事だけは覚えている。
いつの間にか汗が途切れることなく流れていて、ガチガチに拳が握り締められている。
……緊張感が疲弊を急速に誘い、意識がトびかけた。

意識がないその刹那の直後、目前に迫るは包丁の切っ先。
ロビンはとっくに、気狂い染みた瞬発力で自分たちを仕留めにかかっていた。

十分だ。
気づきさえできるならば、自分はこの程度は回避できる。
弱っているとはいえ腐っても新天界人、長時間の運動でなければ体力を余計に消耗することもない。
気がかりだったヴァッシュの方も、余裕で対応できる様相だ。

……けれども、その判断力こそが命取りだったと思い知らされることになる。

「“十二輪咲き”(ドーセフルール)」

六本の腕が、植木の体から生えた。
ヴァッシュの体からも生えた。

「え」

包丁に気を取られ、それだけに対処するつもりだった植木には―この不意打ちを何とかする方法がない。
理解。
首と、肩と、足と。それら全てを奪われれば、関節を極めて処理される。

ヴァッシュの方を見れば、彼は目を眇めて表情を崩していない。
何が起きたのか分かっていないのだろうか。
ちくしょう、と歯噛みする。なにもできない弱いままの自分が悔しくてしょうがない。
せめて戦えずとも何か口にしたい事があるのに、貧血は確実に体力も思考能力も植木から奪い去っている。

血が出るほどに、唇を噛み締めた。

どうしてこんなに理不尽なのだろう。
戦いたかった。
守りたかった。
森を救いたかった。
ロビンを止めたかった。
“神”に文句をつけてやりたかった。
かつて小林という教師に抱いた憧れを、彼の正義を全うしたかった。

「負けたく、ねぇんだ……っ!!」

けれど無情にも執行の合図は下される。
彼の意思は、願いは、信念は、想いはロビンに聞き入れられる機会などなく―、

「“クラッチ”……!」


しかし。

285:◇JvezCBil8U氏代理
09/11/13 18:00:01 WjoIi8pH
しかし、一人の男に確かに届く。


「負けないさ。負けさせない」


からん。からから、からん。
薬莢が三つ、零れ落ちた。

「――」

感情を無くした消え入りそうな彼女の声は、事実銃声に掻き消され覚えられる事はない。
たった―たった一発の銃声に。

確かに落ちた薬莢の数は三つなのに、あり得ないはずの一発だけの銃声に。

狩人の銃は、抜き放たれている。

「……すげぇ」

孔が開き、ヘシ折れた包丁がくるくると宙を舞って―どすりと地面に突き刺さる。

植木の声は端的で、それ以外の何も一つも浮かんでこなかった。

三つの発射音が一つに聞こえるほどの高速連続精密射撃のその果ては、最小の消費で完璧な結果を叩き出す。

一発は植木を捉え始めていた肉の蔦に。
もう一発は、彼自身の体から生えてきた腕の群れに。
最後の一発は、ロビンの手にしていた抜き身の包丁に。

また、風が吹いた。

誰も何も言わず―、ほんの一時の沈黙がその場に満ちる。
万物の織りなす風琴の音色が治まると同時、静寂を破ったのは他でもないヴァッシュ・ザ・スタンピードだった。

「うわぁっ、ごめんっ! 君の能力がそんな代物だなんて知らなかったんだっ」

まるで場にそぐわない慌て顔と、情けない声。
しかしその内容は決して看過できるものではない。
今の一瞬の交錯で、この男は完全にロビンの能力を見極めたのだ。
だというのに。そのあまりの自然体に、彼女は芯からぞっとするものを覚える。

「教えた覚えはないから……それが当然よ」

上擦りを抑えた声を絞り出し、どうにか平静を演じる。
ただでさえ自覚できる程に精神が不安定なのに、そこに来てこの予想外は流石に少し刺激が強い。
……ヴァッシュの行動の結果として、彼女の左腕には二つの銃創がぽっかりと暗い孔を開けていた。

彼女の能力“ハナハナの実”の効果は任意の場所に自らの体の一部を生やすというものであり、
だからこそ生やした部位を傷つけられれば同じ場所に報いが課せられる。
攻勢に出ているうちこそ圧倒的な手数と縦横無尽の不意打ちで一方的な戦闘ができるものの、守勢に回れば俎上に体を差し出しているにも等しいのだ。

286:◇JvezCBil8U氏代理
09/11/13 18:00:59 WjoIi8pH
ロビンは落ち着けと自分に命じて、“敵”の実力の分析を行っていく。

怖気さえ覚えるほどの早撃ちすら、大した脅威ではない。
いや、早撃ちのその速度さえ神域を踏み越えた代物だが、
生えた腕と腕を結ぶ直線を縫う、あまりにも正確無比な射撃精度こそが真なる危険。

“六輪咲き”(セイスフルール)による二人同時への“クラッチ”は、首、腕、足を同時に掴む事で成立する関節技だ。
だが、それ故に技が成立する直前の一瞬だけに、斜め角度から腕が一列に重なり合う霞の道が浮上する。
刹那にそれを見切り、自分の背中側という完全な死角へと、不自然な体勢を強制されながらの迎撃を。
植木耕介へは―敢えてその足元を狙い、跳弾で無理矢理に入射角を変えての一撃を。

ヴァッシュ・ザ・スタンピードはこんな曲芸を、包丁による止めの一撃にも対処しながらやってのけた。

ロビンの不運はこの人間台風を相手取ったことに他ならない。
相手がヴァッシュと並び立つニコラス・D・ウルフウッドであったならば、まだ勝利の目を出す確率を上げることが出来ただろう。
彼の一番の得物たるパニッシャーは、その重量故に取り回しに難がある。
だが、ヴァッシュの相棒は拳銃だ。故に反応は高速と呼ぶすら生温い。

無論、彼女とてバロックワークスでクロコダイルの右腕を務め、8000万ベリーをその首に掛けられた身だ。
並みの使い手であるはずもなく、この失態は放送と死体との謁見という二重のショックによる心理的動揺に端を発するものであるのも確かだろう。
しかしたとえ彼女が平常心であったとしても―、ヴァッシュの実力の見込みには大幅に裏切られていたに違いない。
むしろヴァッシュの反射速度に対処して左腕“だけ”を何本も束ね、右腕をどうにか生かしたその判断力は称賛に値する。
左腕はたぶん、もう使い物にならないだろうが。
まともな治療を受けても数週間は動かせまい。当然ハナハナの実の力を行使し、左腕を生やす事も出来なくなった。


「ロビン。……どうしてこんなことを」

今まさに襲われた身であるのに、ロビンの事を案じる眉尻さえ下げた表情でヴァッシュは問う。

「…………」

彼女に答える義務は、ない。
腕から流れる血と、額から滴る汗の感触の気持ち悪さがやけに脂っこく感じられた。
けれどそんな沈黙に意味はなく、狩人にはおおよその理由が悟られていたらしい。
先刻の僅かな会話と放送と、再開際の行動がそれを伝えでもしたのだろうか。

「復讐、かい? 君の仲間たちを殺した連中と、そもそもこんな殺し合いを強要した神様たちへの!」

森の空気を引き裂くようなその言葉は、一気に時を進ませる。
呆然としていた植木がその言葉を聞いてハッと我を取り戻し、呟いた。

「この島にいる限り、そいつらに逃げ場はないって事か……?」

ああ、とヴァッシュは頷いて、その言葉に続けるべき台詞を引き継いでいく。
目を閉じて、こんな事は告げたくない、とでも言いたげに。

「そんな事をしても君の仲間は帰ってこない。それ以上に、彼らをこんな事をする理由にはしてはいけないんだ。
 君は仇を討ち漏らさないためだけに―この島の全員を殺し尽くすつもりなのか!?」

悲痛なまでのヴァッシュの叫び。
それでも俯いたままのロビンには、きっと届かない。届いていない。

287:◇JvezCBil8U氏代理
09/11/13 18:02:15 WjoIi8pH
「……口ではそんな事を言っていても、私と出会う前にあなたが何をしていたかなんて知る術はないわ。
 だからもしかしたら、あなたたちが彼らを殺したのかもしれない」

「……ッ!!」

対話を打ち切られ、ヴァッシュは泣き出しそうな顔で歯噛みする。
植木も、そのこころの内が身を刻まれるほどに分かってしまった。

ふざけやがって。
そうして口の中で言葉を転がしても、どうしようもないほど力ない。
そんな理由で皆を傷つける事など認めてたまるものか。
許さないとは言わない。仲間を失ったその衝撃は、慮ることすら出来はしない。
迂闊に自分にも分かる、とさえ言う事だって傲慢なのだ。
だがそれでも、その人たちが関係ない他人を皆殺してまでの復讐を望んでいるかと言えば、きっと違うだろう。

それを伝える手段も力もない事に、自分の無力さに、植木は腹が立ってしょうがない。
そんな惨めさが、明確な決裂のやり取りで一層浮き彫りになってしまった。

「その子を守りながら、あなたはいつまで凌げるかしら?」

「いつまでも、だ。僕が君を止めれば済む話なんだから」

足手まとい―。
そんな事実が、淡々と植木の心に楔を打ち込んでいく。
味方であるヴァッシュの放つ心強ささえ、眩しすぎて身を焼くかのようだった。

悔しくて、譲れないものがあって、怒りがあって。
植木は静かに己のデイパックへと手を伸ばしていく。
しかしそんな所作は、対峙するロビンとヴァッシュの裂帛の気合の前では霜の様に微細なものでしかない。

その場の圧迫感のほどは、まるで下降気流が吹き下ろすかのように近づき難く。
質量さえ感じられる静寂が満ち、ただヴァッシュの赤いコートが風にはためいている。


無言で先手を取ったのは、ロビンだった。
ヴァッシュはひたすらに迎撃に徹する。彼女の命を奪う意思は、全く存在しないのだから。

銀閃が煌めき、その手から紫電が飛び放たれる。
ひょう、と風を切る音がした。
だがヴァッシュは余裕さえ見せて回避。
ダーツの直線的な投擲など、銃で撃ち落とすまでもない。

問題はむしろ、その直後。
上半身をスライドさせながら横目で後ろを伺えば、樹に突き刺さったダーツを引き抜いて、ヤドリギのように生えた右腕が再度の投擲態勢を構え終えている。
だが、そちらだけに気を取られているわけにもいかない。

「……っとぉ!」

コントの転び方のように、思い切り身を沈ませる。
時間差で放たれたロビン本体からの二投目が頭上を掠めて飛んで行った。
前屈をするような姿勢を見逃すはずもなく、初撃に使われたダーツがリサイクルされて宙に舞う。

288:◇JvezCBil8U氏代理
09/11/13 18:03:07 WjoIi8pH
「ほわちゃっ!」

ヨーガの達人のように跳躍し、空中で奇妙なポーズをキメるヴァッシュ。
脚の下を潜っては、ダーツはまたも樹に突き刺さった。

ロビンの追撃は止まらずに、彼方の二投目と手元の三投目の同時投擲による挟撃を仕掛ける。
跳躍などという回避手段を選んだのが運の尽きだ、足場がなければ碌な回避行動を取れるものでもない。
そんな不安定な状態では、前後から同時に襲い来るダーツの格好の的だ。

……これで詰みだとは到底思えないけど。
そう内心呟いて、ロビンはまだまだ手を抜かない。
これからどう戦場を構築するかだけを念頭に置き、常人ならば対処不能の同時攻撃すら時間稼ぎとして策を練る。

―断言してしまうなら。
彼女のハナハナの実と、ヴァッシュの相性は最悪だった。
なにせ、最も得意とする相手の体に直接腕を生やしての関節技が通用しないのだ。
彼の凄まじい反応速度の前では、技を極める前に銃弾を腕に撃ち込まれてしまうのは文字通りに身を持って刻み込まれた事実。
そうなるとハナハナの実の最大の弱点である、ダメージが本体に帰ってくるという点が剥き出しの心臓となって彼女を縛り付ける。
更に言うなら、植木を人質に取ろうとしても銃の前には間合いは意味がない。彼が剣士ならまだ戦いようはあったのだが。

基本的に彼女の能力は、本人の言う通り暗殺や奇襲、そして雑兵の制圧戦向けなのである。
量と質でいうならば、量を相手取る事こそ本領なのだ。
条件さえ整えば絶大な効力をもたらすものの、純粋に彼女の速度を超える存在に真っ向勝負というのはあまりに無謀と言える。

だったら、どうする?
尻尾を巻いて逃げだすか?

いやいや、それはない。真っ向勝負で勝てないなら、勝てる状況を作り出してやればい。
すなわちヴァッシュの反応速度が役に立たない状況を、だ。

だから、ロビンはダーツで布石を打っていく。
彼の反応速度を超える連続攻撃によって、銃を撃たせた直後の僅かな隙に関節技を極める。
これがロビンが単独でヴァッシュを屠れる唯一の勝利条件なのだ。

無論ヴァッシュもそれは分かっている。
下手に銃を撃てば、その反動の分だけ次の攻撃への対応が遅れてしまう。
遅れが蓄積すればいつか必ず対処できなくなる瞬間が訪れる事だろう。
だからこそ、彼は迂闊に銃を撃たないのだ。
それ以上にロビンを傷つけたくないという理由が大きいのも確かであり、彼らしいやり方ではあるのだが。

彼女の予想通りブーツと銃底で二本のダーツを軽々と弾き飛ばし、ヴァッシュは砂埃を立てて着地する。
その頬を、チッ……と掠めていくのは一番最初に用いられたダーツ。

いつしか、無数の矢が縦横無尽にその場を飛び交っていた。
このまま座しているならば事態は彼の敗北の形で収束に向かう。
だから彼女の情動を受け止めて、言葉の応酬を始めよう。

「……頼む! これ以上、俺に君へと銃を向けさせないでくれ」

十字砲火の中央にて、僅かの一歩で射線を離れ声を張り上げて懇願する。
その眼の炎は青く静かに燃え盛っており、台詞とは裏腹にただただ揺るがない。

289:◇JvezCBil8U氏代理
09/11/13 18:03:56 WjoIi8pH
「狩人さん、何故あなたは私に迷いを強制するの?
 ……私を止めたいのなら、殺して止めれば簡単でしょう」

仲間を失った迷い子はしかし、彼の雄姿を目にしない。見ようともしない。
俯きの角度は地面と向き合ったまま、己と二つの衛星とで三角の檻を作らんと。
赤いコートのその背後と左右を縫い、次に向かうべき空白を埋めて断ち切る。

「そうやって生きることから逃げるつもりなのか!?
 君は怒りと悲しみを堪えるのを諦めてるだけだ。
 癇癪もいい加減にしようよ。復讐か死か、どっちかを選べば確かに楽にはなるだろうけど……」

たくさんの人々を見つめ続けてきた男は、告げる。

「そんなのは悲しすぎる。今の君はまるで、土砂降りの中で泣いている子供みたいだ」

ロビンの口端が、ぎちりと鳴った。
何かを抑え込むかのように、低い低い唸りが漏れる。

「知ったような事を言わないで……! その余裕が命取りと知りなさい。
 後ろの少年ともども、ここで始末しておいてあげるわ」

ダーツの速度が上がった。
人を貫く乱舞が陽光に煌めいて、あたかも光の五月雨のよう。
植木の傍を着かず離れず、赤いコートのガンマンは少年への蹂躙を一切合財許さない。

「君は誰も殺せないさ。それがたとえ、君の仲間を殺した人間であっても。
 僕が殺させない。彼らだって望まずして手を汚してしまったかもしれないんだ。
 そんな事をさせた奴が、確かにどこかで僕たちを嘲笑っている。君が思い通りに殺し合いに乗った事がそいつを喜ばせてるのさ。
 ロビン、共に戦おう。君が戦うべきはこの島にいる人々じゃない。
 ……大丈夫。大丈夫だ、僕も力になるから」

ほんの少しだけ彼女の口元が力なく緩んで―あっというまもなくぎゅう、と引き締められる。
感情の全てを切り取った口調で、その手に更に追加一本。

「……私はもう選んでしまった。
 この覚悟が緩む事を私自身が許せないし、そもそもどんな事情があったって大切な仲間を殺した連中を許すことはできないの……!」

腕が、伸びる。
一本二本三本四本、五本。
鎖のように五倍の長さになったその腕をしならせて振り降ろせば、遠心力により単純計算で先端の速度も5倍となる。

ただ、渾身の力を込めて。
幻想を、甘言を撃ち貫く。

その指先から放たれた高速の一投をヴァッシュは―、

「君だって、彼らだって、まだ引き返せる。やり直せない事なんてないよ」

?む。
避けず弾かず、真正面から掴み取る。
その手で握りしめたダーツを掲げ、ヴァッシュ・ザ・スタンピードは高らかに。
穏やかな顔で謳い上げる。


「……望みさえすれば、誓いさえすれば、いつだってどこからだって望む場所へと行ける。
 未来への切符は……いつも白紙なんだ」

290:◇JvezCBil8U氏代理
09/11/13 18:04:55 WjoIi8pH
……静謐が訪れる。
ニコ・ロビンは痛みを堪え、肩で息をしている。
ヴァッシュ・ザ・スタンピードは頬の擦り傷以外は何も変わらない。その表情でさえ、普段のままだ。

勝敗は明らかだ。
でも、だけど、だからこそ―、

「へらへらとずっと笑ったままで、綺麗事ばっかり口にして―、
 あなたは、私の仲間の死を何だと思ってるの!?」

ニコ・ロビンは許せない。
悲愴なまでの彼女の想いが、この男の言葉の前に朽ちる事を認められない。

ヴァッシュの生きた一世紀を超える年月を、彼女は知らないのだ。
彼の言葉がどれほどの重みを帯びたものか、彼女は知らないのだ。

「……く、何をっ?」

彼女らしくもなく感情のままに身を任せれば、地面に何かが叩きつけられた。

「煙幕!?」

周囲に煙が霧のごとく立ちこめる。
まるで未来を閉ざし、行き場を無くした彼女のこころの具現でもあるかのように。
ヴァッシュの視界は閉ざされる。
ロビンの姿もまた、靄の向こう側に霞んでいく。

風斬り音。

「……っ! やめるんだ、ロビン!」

小槍を握りしめたままの義手の左手をそちらに動かせば、チィンという鉄と鉄のぶつかり合い。
五感の一つを奪い、じわじわと削り殺していく結界が出来上がっていた。

「このための布陣か……!」

苦い表情をはじめて浮かべ、絞るように目を閉じる。
見えないのなら、見開いていても大した違いはない。
神経を研ぎ澄まして植木以外の周囲の変化を意識する。

……もしかしたらこれは逃走のための時間稼ぎではないか。
そんな考えがちらりと脳を掠めたけど、届くと信じて言葉を紡ぐ。

ただ、彼女が心配なのだとそれだけを伝えたくて。

「ロビン、君は強い。戦場次第では、僕よりも君の方が遥かに強い事だってあるはずだ。
 ……だけど、たぶん今の君じゃあこんな酷いところで生き延びられない。僕はみすみす君を見殺しにできないよ」

無しのつぶても止むを得ないと思っていた矢先にしかし、確かに彼女のいらえを受ける。

「どうして?」

その言葉に安堵を得るも、彼女の無事を祈るが故に。
軋むこころをどうにか堪え、たったひとりの兄を思い浮かべる。
ああ、彼女とは違って僕はまだ失っていないのに、どうしてその顔を思い浮かべるのが悲しいのだろう。

291:こんなにも青い空の下で ◇JvezCBil8U氏代理2
09/11/13 18:21:30 2JS0NWFi
「……僕は君以上に容赦のない連中を、一人の男を知っている。
 がむしゃらに復讐を望むなら、君はきっと―その男に殺される」

不意に、ゆらりと人影が目の前に現れる。
正対を望んだのだろうか、それに希望を託してヴァッシュは油断を無くさず歩み寄る。

そして彼は見るのだ。

「私が聞きたいのは、そんな事じゃあないわ」

そこにいたのは、腕を編み上げて造られた案山子。
張りぼて、人形、でくのぼう。

ぞくりと背中が震える。
彼女は今、真後ろに。

急ぎ振り向き銃を突きつけ―、

「それだけ強いのなら、どうして。
 どうして私のたいせつなひとたちを守ってくれなかったの?」

ヴァッシュの動きが、ぴたりと止まる。
表情すら作れず、完全に固まっている。

「……ぁ、」

流れ落ちる汗が目に入り込む。
けれどそれでも、ようやくロビンの目が瞳に映り込んだ。

涙でぐちょぐちょになっていて、悲しみに染まっていて、がらんどう。
その先に繋がるのは希望などどこにも見えない、深い深い深淵へ。

だらりと、ヴァッシュの銃がぶら下がった。
彼もまた、今にも泣きだしそうだった。

「すまない」

いきをするのがくるしくて。
たったそれだけのことばをしぼりだすだけでせいいっぱい。


「救えなくて、すまない……」

―既にヴァッシュの痩躯からは、異形の腕が花開いていた。

頼るべき縁を失ったひとは、一瞬助けてほしいと叫び出しそうで、だけどすぐにその色が失われていく。
竜の顎のように柔らかな笑顔の青年を折り、喰らい尽くそうとし―、

「未来への切符は白紙、なんだよな?
 だったら、立ち止まんな!」

それを阻むのは不敵な笑みを湛えた少年。
モップなどこの場にありもしないのに、ただ己の腕で『掴』み取る。

292:こんなにも青い空の下で ◇JvezCBil8U氏代理2
09/11/13 18:22:42 2JS0NWFi
「「……!?」」

それは、あまりにも予想外の出来事で。
ヴァッシュとロビンの動きはスイッチしたかのように止まる。

先に立ち直ったのは、ロビン。
生やした腕を掴まれた感触のおかげだろうか。

「ごめんなさい、狩人さん……」

その言葉とともに再度煙幕を張り巡らせる。
一拍。
それだけの間で、雪が融けるようにニコ・ロビンは見えぬ世界の向こう側へと消えていく。

たった一人ぶんの足音を響かせて、夜の街の迷い子のように。

「あ、待て! 待つんだ、ロビンっ!」

一歩踏み出そうとするヴァッシュ・ザ・スタンピードはしかしその場で踏みとどまる。
迸る感情を無理矢理抑え込む顔で、振り向く相手は植木耕介。

視線の先にある顔は当然ながら蒼褪めている。
されどそれより目に付くのは、彼の着込んでいた漆黒の鎧だった。
戸惑うヴァッシュを無視し、植木は声を張り上げ命じる。

「何してんだ、早く追わなきゃだろ!」

はい? と間抜けな呟きを漏らして見つめてみれば、先刻までの様相からは想像もつかない覇気が感じられる。
そのギャップが不気味に過ぎて、鎧から黒々としたものが立ち昇ってさえいるようだった。

「俺はこいつのおかげで多少はマシに動けるようになったから。
 先にデパートでさっきの人たちと合流しとくから、さっさとあいつを連れ戻すんだ」

急展開にどう応じたものか戸惑っている間に、植木もその背を翻す。

「ちょっ……! 君はまだ動けるはずは……!」

その呼びかけに反して、邪悪ささえ感じるほどの強い圧力を伴って植木の姿もまた薄れていく。
彼の唐突な懇願と行動には何故か、焦りさえ感じられた。

彼の意思の通りロビンを追うか、それとも植木本人を追うか。
こころがあまりに揺れ動いてて壊れそうなひとと、弱り切っていたはずなのにおかしいほどに元気になったひと。
ヴァッシュが進むべき道を選ぶのを躊躇う理由には、十分すぎた。
彼の手の届く場所には、限界が存在しているのだから。

霞が晴れていく。
そこには最早ニコ・ロビンの姿はどこにも見当たらない。
それは突き刺さっていたダーツや彼女の仲間だった人物と思しき死体もろともで、植木耕介に関しても同じこと。

先刻の残滓は、未だに手に握ったままのダーツが残るのみだった。

293:こんなにも青い空の下で ◇JvezCBil8U氏代理2
09/11/13 18:23:25 2JS0NWFi
「く……、どっちに向かえばいい?」

逸るこころを押し留め、口端を噛んで決断せねば。

―そして、その傍らのどこかで安堵。
ちらりと、右腕を見る。今は翼も生えていないその右腕を。

かつてある街で、不意に放たれた銃弾を右腕の翼が反射的に受け止めた事があった。
あの時は片鱗のようなものでしかなかったが、おそらくより強力な自動防御機構が自分にはまだ眠っているのだろう。
あそこで植木が介入していなければ、自分の力の末端が―“尖翼”がロビンを打ちのめしていたかもしれない。
そうならなくてよかったと、心から思う。

「……戦うべきは、彼女のような殺し合いに乗せられた人々じゃない。
 止めよう、こんな争いを……!」
 
懸念事項はいくつもある。
怪しい動きをする趙公明と姿の見えない彼の仲間。
デパートに向かったままの銀時たち。
不自然すぎる復活を果たした植木。
あまりに危うい心理状態のロビン。
そして、何をしているのか行動の残り香さえ感じ取れない双子の兄。

―進むべき道は、どのようなものだったか。


【H-7/森の中の川辺/一日目/朝】

【ヴァッシュ・ザ・スタンピード@トライガン・マキシマム】
[状態]:頬に擦過傷、疲労(小)、黒髪化3/4進行
[服装]:真紅のコートにサングラス
[装備]:ヴァッシュ・ザ・スタンピードの銃(3/6うちAA弾0/6(予備弾23うちAA弾0/23))@トライガン・マキシマム
[道具]:支給品一式、ダーツ@未来日記×1、不明支給品×1
[思考]
基本:誰一人死なせない。
0:救えなくて、すまない。
1:ロビンと植木、追うべきは―?
2:ウルフウッドをはじめとする死者たちを出した事への悲しみ。
3:趙公明を追いたいが、手がかりがない。
4:参加者と出会ったならばできる限り平和裏に対応、保護したい。
5:動きの不透明なナイブズが色々な意味で心配。
6:ナイブズが“力”を行使したならばすぐに駆け付けられるよう、感覚を研ぎ澄ます。
[備考]:
※参戦時期はウルフウッド死亡後、エンジェル・アーム弾初使用前です。
※エンジェル・アームの制限は不明です。
 少なくともエンジェル・アーム弾は使用できますが、大出力の砲撃に関しては制限されている可能性があります。

294:こんなにも青い空の下で ◇JvezCBil8U氏代理2
09/11/13 18:24:13 2JS0NWFi
********************


いつだってやり直せるのだと、自分を殺さず訴え続けた男の言葉が脳裏にいつまでも反響している。

その言葉に縋りたくなる自分が悔しくて、そんな自分を見限ろうとしない男に感謝と憎悪を同時に向けて。

強く心に決めたはずなのに揺らいでしまう脆さの存在を、潰れそうになりながらも確かに認める。

とにかく、ひとりになりたかった。

ひた走る中、森の中、無意識のうちに見て覚えた地図が脳裏に描写されていく。

確かこの先は―神社だ。

落ち着くために一休みするならば、もってこいの場所だろう。

【G-5南東/山中/一日目/朝】

【ニコ・ロビン@ONE PIECE】
[状態]:左腕に銃創×2(握力喪失)、精神不安定、動揺
[装備]:ダーツ(9/10)@未来日記
[道具]:支給品一式(名簿紛失)、んまい棒(サラミ×1、コーンポタージュ×1)@銀魂
    双眼鏡、医薬品、食料、着替え、タオル、毛布、サンジの死体
[思考]
基本:麦わら海賊団の復讐。
0:……ごめんなさい。
1:ルフィたちを殺した可能性がある相手は逃がさず殲滅……?
2:殺す前に情報収集。主に主催者について。特にそれぞれが居た世界の違いを考察する。
3:可能なら、能力の制限を解除したい。
4:ヴァッシュに申し訳が立たない。
5:ひとまず神社で体を休める。
[備考]
※自分の能力制限について理解しました。体を咲かせる事のできる範囲は半径50m程度です。
※参戦時期はエニエスロビー編終了後です。
※ヴァッシュたちの居た世界が、自分達と違うことに気がつきました。
※冷静さと判断力は少しずつ戻ってきていますが、代わりにヴァッシュの言葉に動揺しています。

295:こんなにも青い空の下で ◇JvezCBil8U氏代理2
09/11/13 18:24:54 2JS0NWFi
********************


きがくるいそうだ。

なんではしっているんだろう。

ああ、そうだ。なにもできないのがくやしかったからだ。

はしって、はしって、はしって、だれかとであって、とめなきゃ。

とめるために、たたかわなきゃ。

……あれ?

たたかうために、とめるんだっけ?

あれ、あれ?

そもそも、なにをとめるんだっけ。

ああ―、たたかいたい。


動けないのが悔しくて、守られる弱さが嫌で、だからこそ躊躇わずに黒い鎧を身に纏った植木耕介は―、
実のところ、結局のところ、ヴァッシュの前で強がったのが精いっぱい。

でも、だけど、あの言葉に後悔も疑念も何一つない。
だって、あの女の人が見ていられなくて、どうしても助けてあげたいと思ったのだから。
けれどもともと自分は限界が近づいていたから、だからこそ素直に凄いと思ったヴァッシュにそれを託したのだ。

ゆだねろ。
ゆだねろ。

絶えず頭の中に直接そんな声が聞こえてきて、出血であやふやになった自我に入り込もうとしてくるのを無様なくらい必死な形相で飲み下す。

自分でも気付かぬ間にその手に魔剣を携えて、ひとをころす武器を握りしめて。
植木耕介はただひたすらに、デパートの方へ、森あいの消えた方へ。

もうすぐ、7:30。

植木の向かうその先では、金剛晄の公開解体ショー、そのクライマックスを迎える頃合いである。


【I-7/市街地/一日目/朝】

296:こんなにも青い空の下で ◇JvezCBil8U氏代理2
09/11/13 18:25:55 2JS0NWFi
【植木耕介@うえきの法則】
[状態]:重度の貧血、カナヅチ化 、首に大ダメージ、自我への浸食、破壊衝動
[装備]:青雲剣@封神演義、狂戦士の甲冑@ベルセルク
[道具]:支給品一式
[思考]
基本:仲間と共にこの戦いを止める。
1:もり
2:でぱーと
3:もっぷ
[備考]
※+第5巻、メガサイトから戻って来た直後から参戦です。

【狂戦士の甲冑@ベルセルク】
かつて髑髏の騎士が着用し、魔女フローラが封印していたドワーフ製の呪いの鎧。
使用者に合わせて形状を変える。
凄まじい防御力を誇り、物理攻撃で破壊する事は困難。ただし、内部に衝撃は伝わる。
……とは言っても、着用中は痛みを感じることすらないのだが。
また、着用者の身体能力を限界以上まで引き出すため、超人的な膂力と俊敏さを与える効果もある。
当然そんな代物がノーリスクであるはずもなく、力を振るった反動のダメージは惨憺たるもの。多種の副作用も。
着用者は肉と骨が崩れても鎧自体が変形して強引に体を動かすため、死ぬまでひたすら戦闘を強制される。
それどころか使用者の憎悪や破壊衝動を際限なく高め、まともな思考力と自我さえ奪われる事になる。
最悪、敵味方の区別なしにその場にいるものを殺戮する事だろう。

536 名前: ◆JvezCBil8U[sage] 投稿日:2009/11/13(金) 01:37:07 ID:qHg3gen60
以上、投下終了です。


代理2任務完了

297:創る名無しに見る名無し
09/11/13 18:46:53 2JS0NWFi
やっぱりサンジの死体を発見してしまったか
悲しみのロビンと、それを包み込むヴァッシュの優しさが胸に迫りました。
しかし植木、お前なにやってんだw

7:30……だと?
そんなに時間経っていたのか
銀時&沙英も何やらひと波乱有りそうですな

298:創る名無しに見る名無し
09/11/13 19:23:03 21gp1+0k
投下乙です
なんかどんどん危ない人が増えてくなw

299:創る名無しに見る名無し
09/11/13 20:05:56 6gQ+wTjQ
投下乙
ロビン、ヴァッシュ、二人とも辛いな……こういう時は言葉は無力だ
そして植木は危ない。危ないぞ
銀時&沙英も確かにひと波乱ありそう

300:創る名無しに見る名無し
09/11/13 23:21:10 WjoIi8pH
遅くなりましたが、投下&代理投下の続き乙です

一休みどころかそっちは危険地帯だぞロビン
植木はこの状態でデパートに向かうかwどうしようw

それと>>289に文字化けがあります。

301:創る名無しに見る名無し
09/11/14 18:02:21 Xv0K9EmL
相棒がまた死んだというのに相変わらずだなヴァッシュは
常に歩き続けても折れなかったからな
逆にロワではそんな性格が怖いが
そんで植木やべぇw

>その重量故に取り回しに難がある。
重量ではなく大きさ故の取り回しだよ。
重量は数百キロあるけど全く苦になってない
白兵戦で音速超えて一瞬で何十回も振り回してる

302:創る名無しに見る名無し
09/11/14 18:31:20 CGIRDlYR
植木w
狂戦士の鎧ってガッツでも初めボロボロになってなかったか
死ぬんじゃないのか植木
そして向かう先がw

303:創る名無しに見る名無し
09/11/15 00:16:43 mfE2fgNd
F15の巡航速度ですらマッハ0.9なのに・・・
銃撃より確実かつ迅速に相手屠れんじゃね?

連邦の白スーツは化け物か!!!!

304:創る名無しに見る名無し
09/11/15 03:38:31 shq8N0pD
遠距離、白兵の違いなだけだ
特性の問題

305:創る名無しに見る名無し
09/11/15 04:55:53 mfE2fgNd
だって拳銃の弾って早くても初速が音速程度なんだぜ?
音速超えて機動出来るなら、何M離れてても音速パンチのが銃弾より早く到達出来るんだから白兵戦のが強いじゃん

306:創る名無しに見る名無し
09/11/15 08:34:16 shq8N0pD
なんで白兵戦かしない前提なんだよ
>何M離れてても音速パンチのが銃弾より早く到達
そもそも接近と一動さ加えての攻撃の2動作以上かかるのが
範囲射撃の音速の3倍ほどの機関砲弾、しかも秒間100発以上のものより
有効なわけないだろ

307:創る名無しに見る名無し
09/11/16 03:27:43 uW8Co8Gv
1m程度から機関銃乱射叩き落す以上のヤツが
パニでの打撃戦で反応出来ない速度で行なってるから音速超えてるからなぁ
リヴィオも本気出さないで
100m近い距離を一瞬で詰めてしまう速度持ってるからな


308:創る名無しに見る名無し
09/11/16 07:34:12 XpUVXAeD
DBではないが
無印初期からマキシム最後ら辺は比べられん程
インフレしたからなぁ、あのマンガ
>>306
3倍ほどってかあの世界のプラント製で作られた特殊な物だから
そんな速度どこじゃないぞ


309:創る名無しに見る名無し
09/11/16 09:19:40 uCFzzgqI
トライガン勢の戦闘能力設定は真面目に考察すると色々おかしいから深く考えないのが吉

310:創る名無しに見る名無し
09/11/16 17:16:42 uW8Co8Gv
別におかしくはならないが
インフレしすぎたのは確かだ。          予約来たな。

311:創る名無しに見る名無し
09/11/16 19:16:06 9eEMzqWw
あの組み合わせはw
ゆのっち逃げて~

312:創る名無しに見る名無し
09/11/16 19:30:52 KpayT2d3
ゆのっち(つーか混元珠)はキンブリー、鈴子と相性がいいからまだいい
鈴子は誰かと出会った時点でDEAD ENDしか見えないw

313:創る名無しに見る名無し
09/11/17 23:47:53 VZf3Rea1
予約は破棄かー残念。
まあ風邪なら仕方ないな。お大事に。

314:創る名無しに見る名無し
09/11/18 04:28:01 c4+djMPr
現在地の禁止エリアが消えてるけど、なんで? 戻していいの?

315:創る名無しに見る名無し
09/11/18 16:57:33 4shkRKRj
いいんじゃないの

316:創る名無しに見る名無し
09/11/19 08:09:06 HYt0Wxb7
ソニックブームまでどう避けてるの?

317:創る名無しに見る名無し
09/11/19 20:18:41 YfTTKRw3
新しい予約が来たな
あの二人に鷹さんだと!?

318: ◆L62I.UGyuw
09/11/20 08:46:17 w7eAsMSg
グリフィス、沙英、坂田銀時を投下します。

319:ワールドエンブリオ ◆L62I.UGyuw
09/11/20 08:47:15 w7eAsMSg
捻じ曲げられた因果は、新たなる世界を産む。


***************


デパートの屋上。ビルの間から日が顔を覗かせている。
転落防止用の金網に手を突いて、直線的なフレームの眼鏡を掛けた少女―沙英は一人茫然と街を眺めていた。
時刻は午前六時を回ったばかり。
人々が起き出し、一日の活動を始める時間帯だ。
しかし未だ街は沈黙していた。
ジョギングに精を出すジャージ姿の会社員も、犬の散歩に出かけるおばさんも、眠い目を擦る新聞配達員も、この街には見当たらない。
生活の気配はあるのに、人が、生き物だけが存在しないという不自然さ。
そんな魂の無い街を見下ろしながら、沙英はほとんど風に消え入りそうな声で、ぽつりと呟いた。

「………………ヒロ…………」

きしりと、金網が軋んだ。

あのとき。
事務的にヒロの名前が読み上げられたあのとき。
沙英は銀時の手を振り切って、訳も分からず走り出してしまった。
まるでそうすれば認めたくない現実から逃れられるかのように。
嘘なのだと、これは全て夢なのだと、目を覚ませばいつものひだまり荘での日常が在るのだというかのように。

だが、指先から伝わる金網の硬い感触が、その儚い希望を否定し続けている。

分かってはいる。理解はしている。
多分、この島のどこかでヒロは死んでしまったのだと。
安っぽいドラマの端役のように、無意味に舞台から退場してしまったのだと。
そして、こんなところで無防備に身を晒していれば、自分もそうなるかもしれないのだと。
理解は―している。

でも、納得は―出来るはずが―ない。



だって。
だって、だって。
だってヒロは昨日だって夜食を作ってくれて。
お礼にシュークリームを出したら、また太っちゃう、なんて嘆いていて。
でも結局誘惑に負けて平らげちゃって。
それでからかったら涙目になって。
そんなヒロが死んだなんて―顔も知らない誰かに殺されたなんて。
あの砂糖菓子みたいな笑顔がもう何処にも無いだなんて。
ゆうべのドア越しの声が最後の言葉だなんて。
ああ―あのときドアの向こうでヒロは何て云ってたっけ?
そんなことも思い出せないのに。
そんなことも――。

そんな――。

そんなのは――、



厭だ――。




320:ワールドエンブリオ ◆L62I.UGyuw
09/11/20 08:48:39 w7eAsMSg
現実感が湧かない。悲しみも、何故か湧かない。
感情が―心が、麻痺している。
それなのに、涙がとめどなくぽろぽろと零れてコンクリートに染みを作る。

肌を刺す朝凪。
知らず、強く握り締めていた指が金網に食い込み白く変色していた。

コツリ、コツリ、と。
少し遠くから硬質の足音が聞こえた。
屋上の扉が開く音は聞こえなかったのに―。
ちらと頭の片隅で違和感を覚えながら、緩慢に涙を拭って沙英は足音の方を振り向く。

刹那――何もかも忘れて、見蕩れた。

白を基調とした気品のある、それでいて飾らず動き易そうな服。
服の下にはしなやかさと力強さを併せ持つ肉体が想像出来る。
そして怖気のするほど完璧に整った顔立ち。
強い意志を宿す切れ長の眼に、高く筋の通った鼻。
朝の陽光を浴びて煌めく、軽いウェーブのかかった長い銀髪。
腰に提げた日本刀すら、アクセントとして全体の印象を締めている。
少女向けの甘ったるい恋愛小説にだって、これほど完璧な美男子は出てこないだろう。
少なくとも沙英自身が書いた小説には登場しない。

非の打ちどころの無い一枚の宗教画がそこにあった。

「君が沙英さん―かな?」

絵から抜け出た英雄が、涼やかな声で彼女の名を呼んだ。
沙英はただ圧倒されて頷く。

コツリ、と。また一歩前へ。

「ヒロさんのことは残念だったと思う」

びくりと沙英の肩が動いた。
だが―と、銀の英雄は彼女を見据えたまま更に続ける。

「―君はまだ生きている。それならば―出来ることがあるだろう?」

何故彼が自分や自分とヒロとの関係を知っているのか、だとか。
そもそもここにどうやって現れたのか、だとか。
そんな当然の疑問は、彼女の頭には浮かばなかった。
理屈ではなく、英雄とはきっとそういうものなのだ、と納得した。

コツリ、と。また前へ。

「もし君がこのままここで泣いていたいというなら、それはそれで構わない。
 だが、君が剣を取り復讐を望むというのなら―オレが、力を貸そう」

例えば童話に出てくる王子様なら、決して言わないであろう苛烈な台詞。
それすらも甘美な響きを持って彼女の胸の奥に届く。

復讐―考えてもみなかった。
麻痺していた心が、動く。


321:ワールドエンブリオ ◆L62I.UGyuw
09/11/20 08:50:16 w7eAsMSg
コツリ、と。



「選ぶのは君だ」



冷厳な言葉。

直感する。
ここで応えれば―きっと後戻りは出来ない。
もしかしたら、後悔することになるのかもしれない。
ゴクリと、唾を飲む音が耳を打つ。

でも―それでも、ヒロの仇を討てるのなら――、



ドガンと。
無粋な音が響いた。



「ちょっ、オイテメッ、そこのバカヤロー! ナニ人の目の前でナンパしとんじゃァァァァァ!!」

威勢のいい濁声。
張り詰めた空気が、屋上の扉を蹴り開けて登場した天然パーマの男によって、粉々にぶち壊された。


***************


屋上にて、軽く互いの状況を話した後、

「気に入らねーな」

金網に寄り掛かっていた銀時が不機嫌な声を上げた。
二人の視線が集まる。

「オメーの話だとそのゆのちゃんを黙って旅館に置いて来たっつーことだよな。
 しかもだ、その化け物―何だっけ? ポットだっけ?」
「ゾッドだ」
「あァ、そうそう―で、そのゾッドみてーなヤツにまた襲われるかもしれねーってのを承知の上でだ。
 平たく言やァ足手纏いはどうなろうと構わねェってこったろ」

不快感を隠そうともせずに糾弾する。

「で、でも、それはグリフィスさんの言った通り―」
「その方が結果的には生き残れる可能性が高い、ってか。
 かもしれねーが、それでも女の子を一人でほっぽって来るようなヤローは信用できねーよ」

感情論ではあるが正論でもある。
沙英も、いやむしろ沙英の方がゆのの身を案じているので―それ以上のフォローが出来ない。

「言い訳をするつもりは無い。
 オレは必要なことは例え誰に憎まれようとも行ってきたし、これからも行うつもりだ。
 だがオレは―」


322:ワールドエンブリオ ◆L62I.UGyuw
09/11/20 08:52:00 w7eAsMSg
一片の曇りも無い瞳に二人を映して、グリフィスは続ける。

「神に誓って、こんな殺戮劇を善しとするつもりは無い」
「神に誓って、ねェ。この下らねー殺し合いを考えた奴らも『神』って名乗ってやがったけどな」

すかさず交ぜっ返す銀時。あくまでも信用するつもりは無いらしい。
だが信用するかしないかは別として、彼がこんなところでグリフィスと反目し合う理由は無い。
無いのだが、彼の勘が、彼の中に眠る『白夜叉』の直感がこう告げているのだ。
目の前の英雄然とした男からは、涼しい顔でどんな非道も行える―戦場において最も有能で最も危険な、そういう人種の匂いがする、と。
そしてそのような人種と笑顔で手を取り合えるほど、銀時は器用な人間でも能天気な人間でもない。

銀時はグリフィスを睨んだまま口を閉じ、グリフィスもまた沈黙した。
どちらの言い分も理解出来るが故に、沙英も口を挟めない。
会話に一時の空白が生まれる。
日はいつの間にか高く昇り、島の気温はじりじりと上がり始めていた。

「そ、そういえば、この島が封鎖されてるというのは本当なんですか?」

険悪な雰囲気を打ち払うように、沙英が多少強引に話題を変える。
グリフィスも銀時の説得は難しいとみたのか、彼女に目を向け、

「ああ、本当だ。この宝貝の性能の確認がてら、この島の南へ真っ直ぐ飛んでみたんだが」

そう言って海を眺める。
釣られて、二人も海の方に顔を向けた。
彼らの視線の先には、鏡のように冷えた海面が白く煌めいている。

「……それで?」

銀時が先を促す。

「海に出て少し進んだ所に、白い『壁』があった。横に延々と続いていて―おそらくは島全体を囲んでいるのだろう」
「え? でも、ここからは何も見えませんよ?」

沙英が疑問の声を上げた。
デパートの屋上からは、はっきりと水平線が見える。
グリフィスの言う白い壁らしきものは見当たらない。

「近付かないと見えないんだ。しかも、どんな仕掛けなのかは解らないが、壁に触れると強い力で弾き返されてね。
 オレの知識には無いものだが―」

君達はどうだとグリフィスは訊いた。
その言葉に二人は顔を見合わせ、そしてお手上げとばかりに揃って首を振る。

「壁ねえ……飛べるんならそんなもん上から乗り越えりゃいいんじゃねーの?」

銀時がやる気の無い声でもっともなことを言った。

「それは当然オレも考えたんだが、不可能だった。
 壁は上空へ行くに従って少しずつ反り返している。
 確認はしていないが、島全体を半球状に覆っているようだな」

元々期待していなかったのか、そうかい、と軽く返す銀時。その顔に特に落胆の色は見えない。
ちなみに―グリフィスが壁の形状を確認しなかった理由は、高空に行くと風火輪に急激に体力を奪われることに気付いたからなのだが、彼は敢えて銀時に弱点を開陳するほど迂闊ではない。

一方、いまいちイメージが掴み難かったのだろうか、沙英が遠慮がちに小さく手を挙げて訊く。


323:ワールドエンブリオ ◆L62I.UGyuw
09/11/20 08:53:35 w7eAsMSg
「えっと、つまり……壁というより、卵の殻、みたいな感じですか?」



―何でもないはずの言葉。
勿論、沙英もその言葉を発したことに他意があった訳ではない。
しかし―その単語―『卵』―を耳にしたグリフィスの脳裏に、突如異様な光景が過ぎった。







何十回と色を重ねた油絵を思わせる不気味な空。



――肉の腐った臭いが鼻を突く。



深淵へと続く虚のような黒い太陽。



――薄墨の光が色を奪う。



罪人の悲鳴を髣髴とさせる生気の無い風。



――心音が世界に響く。



地面を埋め尽くす見渡す限りの巨大な顔、顔、顔。



――身体の、深奥で、何かが、



どこからともなく涌き出でる異形の怪物達。



――何かが、歓喜の声を、



そして、鷹の団の―――。

324:ワールドエンブリオ ◆L62I.UGyuw
09/11/20 08:54:22 w7eAsMSg







「あの……大丈夫ですか?」

ハッと我に返る。
反応を失ったグリフィスの顔を沙英が心配そうに覗き込んでいた。

(今のは……?)

知らず胸元に手を持っていき、そしていつも持っていたお守り―ベヘリットが無くなっていることにグリフィスは気付いた。

「あ、ああ――いや、大丈夫だ。少々―気になることがあっただけだ」

内心の動揺を悟られぬよう、須臾とも那由他ともつかぬ幻想を振り払い、彼は微笑みを取り戻す。
彼女に余計な不安や不信を与える必要は無い。

「卵―そうだな。オレ達がいる場所は巨大な卵の内側だと思えばいい」

顎を掻きながら、心配するでもなく二人のやり取りを見ていた銀時が割り込む。

「要はこの首輪をどーにかしたとしても、それだけじゃ逃げられやしねーってこったな。
 で、結局オメーはどうしようってんだ?」
「簡単だ。どうにかできるとは言わないまでも、首輪や壁についての情報を持っている者を捜せばいい。
 そして正しい情報があれば―」

活路は見出せるものだとグリフィスは自信に満ちた様子で言い切った。
でも、と沙英が不安そうに言い出す。

「そんな人が都合良くいるとは―」
「限らないな。しかし、いる可能性は充分にある。
 例えば―最初の場で説明を行った二人に食って掛かった者達、とかな」

確かに―『神』の陣営に属する者の知り合いならば、何らかの重要な情報を持っている可能性は高い。
銀時も沙英もその点についての異論は無い。

「それで、これからどうするかだが―」

グリフィスの計画は、銀時と沙英がヴァッシュ達と合流後にゆのを迎えに行き、彼自身は北部の市街地を回って仲間を集める、という段取りだった。
再度落ち合う場所は、ゆのが向かっている可能性もある教会と定める。

「出来ることなら、君達もなるべく多くの仲間を集めてから教会に行って欲しい。
 落ち合う時刻は、そうだな、今日の深夜―日付が変わる時でどうだろう?」
「ええ、分かりました」
「ま、そりゃ構わねーけど」

今までとやる事が大きく変わる訳ではないので、二人はすんなり了承した。
他にも教会で落ち合えなかった場合はメモを残すことや、教会が進入不可能になった場合は灯台へ向かうこと、その他細かい決め事を確認する。

「さて、オレはそろそろ行くことにしよう。
 西のエリアに入れなくなる前に向こう側へ抜けておきたいからな」


325:ワールドエンブリオ ◆L62I.UGyuw
09/11/20 08:55:08 w7eAsMSg
そう言うとグリフィスは風火輪を起動し、宙に浮いた。
沙英が一歩前に進み出て、胸の前で指を組み、

「その、どうか気を付けて下さい」

陳腐ながらも心の篭った言葉でグリフィスの無事を祈る。
そんな彼女に、

「ああ、君達もね」

彼も極上の微笑みを返した。
そして吹き始めた海風を纏うように高度を上げていく。
心配そうな様子の沙英と憮然とした表情の銀時を後に残し、白き鷹は再び空へと舞い上がった。


***************


グリフィスが飛び去って行った方を眺めていた銀時は、彼がビルの陰に消えた直後、盛大な溜息を吐いた。

「最後までキザなヤローだったなオイ」

その顔には『あーいうヤツは苦手だ』とはっきり書いてある。
事実、グリフィスの思惑を別としても銀時にとって彼のようなタイプは天敵なのだ。
具体的に言うと、ギャグにノってくれないタイプが。

「まァ悪党って訳じゃねーだろうし、一応協力すっかね。
 目的は同じらしいしな。仲間集めんのは賛成だし」

ただああいうのは悪党じゃねーからこそタチが悪いんだけどな、と心の中で付け加える。

「あ、そ、その……」

先程から黙っていた沙英が、顔を伏せ気味にしておずおずと切り出した。

「ん?」

銀時は首だけを動かして沙英の方を見遣る。

「さっきはごめんなさい。勝手に走って逃げたりして……。
 銀さんだって、あの、その、新八さんが…………わっ!?」

言い淀んだ彼女の肩に手を置いて彼はその先を制した。

「ハイハイストーップ。湿っぽい話は禁止な。
 大体な、あの変態どもが勝手に死んだっつってるだけだろーが。
 あのメガネはゴキブリ並にしぶてーんだ。そう簡単にゃくたばんねーよ。
 今頃どっかでガサゴソ這い回ってんだろ。
 だから」

一旦言葉を切る。
そして不思議な安心感を与える笑みを浮かべて、

「俺達は俺達であいつらをブン殴る方法を考えようぜ。な?」

優しく言い切った。


326:ワールドエンブリオ ◆L62I.UGyuw
09/11/20 08:56:06 w7eAsMSg
気休めであることは沙英にも分かっている。
新八も―ヒロも、生きている可能性は多分、無い。
それでも、銀時の優しさは彼女の心に沁みた。

「んじゃまあ、あいつらも待ちくたびれてるだろーしそろそろ行くかね」
「……はい。ゆのも早く迎えにいってあげないといけませんしね」

まだ少し赤い目を瞬いて、沙英はようやく、ほんの僅かに微笑む。
そして二人は並んで屋上の扉の中へと消えていった。



このとき屋上からヴァッシュ達の様子を確認しておけば―二人のこの後の行動も違ったものになったのかもしれない。

時刻は午前七時。
デパートから一キロメートルほど北で、彼らの仲間であるはずの三人が戦いを始めていた。


【I-7/デパート/一日目 朝】

【沙英@ひだまりスケッチ】
[状態]:健康
[服装]:
[装備]:九竜神火罩@封神演義
[道具]:支給品一式、ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲@銀魂、
輸血用血液パック
[思考]
1:銀さんと協力して、ゆのと宮子を保護する。
2:貧血に効きそうな?食料を探す。
3:食料と血液を持って、ヴァッシュさん達のところに戻る。
4:銀さんが気になる?
5:深夜になったら教会でグリフィスと合流する。
6:ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲は忘れたい。
7:ヒロの復讐……?
[備考]
※グリフィスからガッツとゾッドの情報を聞きました。
※ゆのが旅館にいることを知りました。
※会場を囲む壁を認識しました。

【坂田銀時@銀魂】
[状態]:ちょっと腹痛
[服装]:
[装備]:和道一文字@ONE PIECE
[道具]:支給品一式、大量のエロ本、太乙万能義手@封神演義
[思考]
1:沙英を守りながら、ゆのを迎えに行く。
2:ヴァッシュ達と合流する。
3:深夜になったら教会でグリフィスと合流する?
[備考]
※参戦時期は柳生編以降です。
※グリフィスからガッツとゾッドの情報を聞きました。
※ゆのが旅館にいることを知りました。
※会場を囲む壁を認識しました。
※デパートの中で起こった騒動に気付いているかは不明です。


***************



327:ワールドエンブリオ ◆L62I.UGyuw
09/11/20 08:57:24 w7eAsMSg
二人と別れ、再び空を西へ飛ぶグリフィス。
彼の眼下に見える家は徐々にまばらになり、代わりに緑が増えてきている。
そろそろ進入禁止エリアを抜ける頃だろう。

ゆのの友人である沙英を早々に発見出来たのは僥倖だった。
あの白髪頭の剣士、銀時は一筋縄ではいかなそうではあったが、見たところ実力はかなりのものだ。
打算的な行動を嫌う点も、扱い難くはあるが得難い資質であり、半端に賢しい者より信用出来るだろう。
とりあえずは悪くない滑り出しと言える。

彼らの言葉を聞いた者が教会に集まるまでに、おそらくは犠牲者も出るだろうが―構うまい。
結局のところ、自力で生き延びられぬ者は死ぬしかないのだ。

何にせよ、この調子なら意外と早く、この場で新たな『鷹の団』を結成することが出来そうだ。
だが勿論、そのために必要な、最も重要なものは―、

「ガッツ。お前は今、何処にいる?」

そう、彼がいなければ始まらない。

結局、銀時と沙英はガッツを知らなかったようだ。
南側の市街地にはいないのだろうか。とすると、彼のいる可能性が次に高い場所は北側の市街地か。
いずれにせよ、ガッツは逃げ隠れする性格ではないから、捜し続ければすぐに痕跡くらいは発見できるだろう。

逸る気持ちを抑え、低空から地上を俯瞰するグリフィス。
視界には今のところ大したものは入って来ない。

彼の意識を占めるものはガッツと、そしてもう一つ。

(それにしても―あのイメージは一体何だ?)

どうしても気になる。
先程、グリフィスの脳裏に突如浮かび上がったこの世では在り得ない光景。
ただの幻覚だと、白昼夢だと切り捨てるには鮮明に過ぎた。
周囲を油断無く見渡しながらも彼は思索にふける。

(あんなものは―オレは知らない―はずだ。だが、何故だ。何故あんな地獄のような光景にオレは―)

――安らぎを感じたんだ?



328:ワールドエンブリオ ◆L62I.UGyuw
09/11/20 09:00:47 w7eAsMSg
【I-5/上空/1日目 朝】

【グリフィス@ベルセルク】
[状態]:健康
[服装]:貴族風の服
[装備]:居合番長の刀@金剛番長、風火輪@封神演義
[道具]:支給品一式
[思考]
1:ガッツと合流する。
2:殺し合いに乗っていない者を見つけ、情報の交換、首輪を外す手段を見つける
3:役に立ちそうな他の参加者と繋ぎをつけておく。ゆの、沙英、銀時との再合流は状況次第。
4:未知の存在やテクノロジーに興味
5:ゾッドは何を考えている?
6:あの光景は?
[備考]
※登場時期は8巻の旅立ちの日。
 ガッツが鷹の団離脱を宣言する直前です。
※ゆのと情報交換をしました。
 ゆのの仲間の情報やその世界の情報について一部把握しました。
※沙英、銀時と軽く情報交換しました。
※自分の世界とは異なる存在が実在すると認識しました。
※会場を囲む壁を認識しました。
※風火輪で高空を飛ぶと急激に疲れることに気付きました。


***************


それが、とある少年執事の今際の際に、何処からか混線した声と同質のものであることを彼は知らない。
それが、彼の求める黒い剣士にとって忘れ難い災厄であることを彼は知らない。
それが、本来の因果、定められていたはずの運命の断片であることを彼は知らない。

彼の疑問に答える者はない。

『覇王の卵』は今も何処かで、深く静かに脈動している。

329: ◆L62I.UGyuw
09/11/20 09:01:43 w7eAsMSg
以上、投下終了です。

330:創る名無しに見る名無し
09/11/20 10:36:56 /Ho62gXA
投下乙
沙英はやっぱりと思ってたが凄くご都合主義(褒め言葉)にグリフィス登場したなw
対抗するように銀時も来たがさすが本質を見抜いたか
そしてグリフィス、変な影響受け出したな。更に続きそうで他の参加者への影響が気になるよ

331:創る名無しに見る名無し
09/11/20 19:05:32 AekbqBDV
投下乙です
銀さんナイス空気ぶち壊しw
沙英は今のところ乗り越えられてるか
そしてグリフィスの脳裏の映像が気になるな。ハヤテのは単なる幻聴じゃなかったか

332:創る名無しに見る名無し
09/11/20 20:15:36 BXMXpads
投下乙
ある意味、銀さんが来てよかった~
沙英、自分で書いた小説よりヒロインしてるような気がw
ハヤテのと絡んで単なる幻覚や幻聴でないのか。確かに気になるな

333:創る名無しに見る名無し
09/11/20 21:57:25 deZzWlFS
グリフィスが流れを作り始めたな
島が卵とは面白い着想……全てが終わった時、いったい何が生まれるのか
市街地南部にもいくつかの流れが出来てきたな

投下乙でした

334:創る名無しに見る名無し
09/11/21 00:19:37 MAN/NpJq
卵の中から生まれるのは何か
神はそれの誕生を期待しているのだろうか?

これで放送後がまだなのは
秋瀬、リヴィオ
趙公明、キンブリー、森あい
ゆの
鈴子
聞仲、潮
ウィンリィ
ひょう、パック
安藤(兄)、ゴルゴ13
スズメバチ

やっぱり書きにくいのかな?

335:創る名無しに見る名無し
09/11/21 00:46:06 izifpw8H
書けるところはいくつかあるけど、遅筆ぎみなのはなんともかんとも

336:創る名無しに見る名無し
09/11/21 00:55:04 MU8wWkuR
「神のたまご」という言葉が浮かんだが何だったか思い出せない
しかしつくづく神に縁のあるロワだな

337:創る名無しに見る名無し
09/11/21 00:59:22 s4PZCirT
ハンプティ・ダンプティか?

338:創る名無しに見る名無し
09/11/21 08:15:17 yXm0gFWA
>>334
趙公明、キンブリー、森、ゆの、鈴子は予約破棄したとはいっても◆UjRqenNurc氏が書いてくれるんじゃないかな。
もちろん風邪を治すのが先だけど。

それを除くと残りは

秋瀬、リヴィオ:動かし辛い位置の上に情報戦の要。後出しでないと難しいパート。
聞仲、潮:別に難しくはないのだが周りに人がいない。
ウィンリィ、ひょう、パック:脇役軍団。全員把握してる人は少ないかも。ゾッド戦絡みで纏めて書くのが吉か?
安藤(兄)、ゴルゴ13:扱いにくい能力と扱いにくい性格のコンビ。まぁ難しいと思う。
スズメバチ:いつのまにか取り残された感が。行動原理が狂い過ぎで困るキャラ。

こんな感じか。

あと書きにくいと言えば由乃、雪輝組。
今書いたら次号で設定ちゃぶ台返しとかやられそうで手を出せないw

339:創る名無しに見る名無し
09/11/21 09:54:09 izifpw8H
今週寒すぎだろ常識的に考えて……

340:創る名無しに見る名無し
09/11/21 11:55:49 Es8YmZE3
書き手氏が体を壊さないか心配
期待してるだけに書き手氏の安否が気になる

341:創る名無しに見る名無し
09/11/21 20:48:22 NP5BkT5h
この寒波で書き手が冬眠しないか心配

342:創る名無しに見る名無し
09/11/21 21:58:54 dKRwjHfZ
◆JvezCBil8U氏と◆L62I.UGyuw氏の二人だけで生存者の最新話の8割を書いてるのか
なんつーバイタリティ

343:創る名無しに見る名無し
09/11/21 22:16:37 NxQF6SEq
西尾ロワもざっと見た感じ
結構同じ人が書いてるのも多いね

344:創る名無しに見る名無し
09/11/21 22:25:33 izifpw8H
スズメバチはグリフィスさんの手駒にするつもりだったんだけど、あれよあれよと言う間に
彼が南下しちゃったからなぁ
グリフィスって犬飼っぽいから魔王勢と絡ませてみたかった

345:創る名無しに見る名無し
09/11/21 23:30:47 MU8wWkuR
実はスズメバチも誰とも会わず南下してましたー、とかで何とか……。
無理があるか?

346:創る名無しに見る名無し
09/11/21 23:51:36 aTzhhhtB
誰にも会わないのは余裕だが、川飛び超えるか市街地の施設を総スルーかの2択だから苦しい

347:創る名無しに見る名無し
09/11/22 02:29:58 OZjoZsX0
>>336
テイルズロワかな? 
つかTOD2か。あそこまでどん詰まりになる可能性は……
安藤兄弟が魔王覚醒して妲己とともにあらゆる参加者の心をぐっちゃばっちゃとすれば
あるいはってとこか

348:創る名無しに見る名無し
09/11/22 14:43:44 IXWRHS+d
Jv氏もL6氏もすげーな、どっちもクオリティと速度両立させてる
Jv氏は長文傾向が珠に傷だけどガチバトル、ギャグ、頭脳戦と引き出しが広い
L6氏は初作品が50話以降なのに速度と作品の密度が凄い、この人の大作も見てみたいな

349:創る名無しに見る名無し
09/11/22 17:11:45 93g5Pjya
久々にハガレンFA見てみたらキンブリーさんも声変わってんのな
イメージ変わるわ

350:創る名無しに見る名無し
09/11/24 21:01:35 7SLviYpp
あのメンバーにグリ……フィス?
何が起こるんだ

351:創る名無しに見る名無し
09/11/24 21:35:11 9v5SrFuB
さすがは天下の鷹さんや
パネェっす

352:創る名無しに見る名無し
09/11/24 22:16:50 lWkmYPTD
スズメバチはもしかしたらそっちに行くかもとは思ってたが鷹さんもかよw

353:創る名無しに見る名無し
09/11/26 11:16:03 WQZOVMMX
違う予約も来てるな
飲んだくれ二人とヤンデレか……
顔見知り同士だがどうなるかな

354:創る名無しに見る名無し
09/11/26 11:52:53 /aBMo730
……これ時系列マズくないか?
ナギだけすでに昼になってるのに、酔いどれ達が立体映像やらかしたのが午前。
昼の時点まで立体映像が出てるかも分からないし、ナイブズみたいな立体映像の方に向かってる参加者もいるはず。
デパート付近の面子と趙公明たちがあれ見逃すはずもないし、あいつらの午前での描写が来てからじゃないと破綻しそうだが……。

355:創る名無しに見る名無し
09/11/26 12:07:53 xzy7PRri
それを全力でフォローするのもリレーの楽しさと言える
どっちにしろナギが起きた時点でカラオケは終了してる必要があるからナイブズは間に合わん
卑怯がわざわざ引き返すとも思えんし、爆弾の植木がいる以上時間の引き延ばしは可能
川より北の組を足止め出来れば多分どうにでもなる

356:創る名無しに見る名無し
09/11/26 12:37:00 8AoQ62xn
覚えてないんだが、キリコはカラオケにどう反応したっけ?

357:創る名無しに見る名無し
09/11/26 12:40:49 xzy7PRri
反応無し
メタ的に見ればキリコ、ナギの話の投下が飲んだくれの話より先に投下されてるから反応のしようがない

358:創る名無しに見る名無し
09/11/26 13:54:02 8AoQ62xn
遅れたがとんくす

359:創る名無しに見る名無し
09/11/26 15:32:51 yRx0TIQE
>>354
YOU書き手になっちゃいなよ

360:創る名無しに見る名無し
09/11/26 21:08:36 /KekzdL5
ま、あっさり合流と決まったわけでもなし、今から頭を悩ませてもしょうがない

361:創る名無しに見る名無し
09/11/26 21:35:21 vQ16rALq
それもそうだね
でも難しいな
それともなにか勝算でもあるのかな?

362:創る名無しに見る名無し
09/11/27 03:01:29 UohPC7UV
ヴァッシュの単独予約も来てるぞ
彼はどちらに向かうのか……

363: ◆L62I.UGyuw
09/11/27 03:58:31 2IixDvfJ
舞台が被ったら申し訳ないですが、ヴァッシュ・ザ・スタンピード投下します。

364:Eternal Desire ◆L62I.UGyuw
09/11/27 04:00:12 2IixDvfJ
朝。
太い木々が生い茂る森にようやく陽の光が射す。空は高く、鮮やかな雲がまだらに浮かんでいた。
辺りには鳥の鳴き声が響き、適度に湿った空気は場違いなくらい爽やかだった。

緑の海の中を、派手な赤いコートを翻して、金と黒が混じったトンガリ頭のガンマン―ヴァッシュがひた走る。

あのとき、禍々しい鎧を纏った植木にハッパを掛けられて。
僅かな逡巡の後、結局彼は遁走したロビンを追い掛ける決断を下した。
元より『ロビンを見捨てない』ことを前提とするならば選択の余地は無い。
植木は引き止める間も無くデパートの方へ駆けていってしまったのだから。
それに客観的な事実だけを見れば植木は確かに復活したのだし、彼の判断―ヴァッシュがロビンを追い、植木がデパートへ向かう―も間違ってはいない。
仮に植木を引き止めたところで、半死人に近い状態だった彼と共に山林を駆け回るのは無茶だからだ。
だからここはヴァッシュがロビンを捕まえて説得、そしてすぐにデパートで植木達と合流するのが最良だろう。
胸騒ぎを強引に抑え付けて、ヴァッシュはそんな自らの冷静な部分の声に従う。

ただ実際に彼を駆り立てているのはそんな理性的な理由ではなかった。
ロビンの眼。傷付き、肩で息をしながらも、ヴァッシュを射抜いた視線。
彼には、彼女の濡れた闇色の瞳が、その奥に湛えられた底無しの孤独と絶望が、彼の兄のそれと酷く近しいものに思えたのだ。
仲間を、友を殺されたという苦悶の更に深みから溢れ出る、暗澹たるヒトへの嫌悪が―。
放っておく訳にはいかない。彼女に兄と同じ道を歩ませる訳にはいかない。
ヴァッシュ自身どの程度意識しているのかは判らないが、彼がロビンを追う決断をした決定的な理由はそれだった。

とはいえ―、

「ああもう! どこまで行っても木ばっかりじゃないか。こんなにあったら有難味ってモンがないだろ!?」

森の中に逃げ込んだ彼女を見つけ出すのは容易ではない。
いや、それ以前に真っ直ぐ進むことすら難しいのだ。
変わらぬようで常に変化する景色が、木々のざわめきが、地形の微妙な起伏が、ヴァッシュの方向感覚を狂わせる。
得体の知れない胸騒ぎも相まって、彼の焦りはどんどんと増幅していく。
そしてその焦りはさらに方向を見失わせる。
典型的な悪循環だ。

そうこうしている内に、とうとうヴァッシュは自分の居場所すら判らなくなってしまった。
砂漠しか知らない彼は、森林の脅威を軽く見過ぎていたのだ。
優に一世紀を超える旅の経験もこの場ではあまり役に立たない。
森の中で迷った時の対処法など当然知るはずもなく、一人途方に暮れる。

「……ボクチャンもしかしてこの歳で迷子デスカ? アハハハハ…………」

乾いた笑いが空しく森の奥へと吸い込まれていった。
ハァ、と。最後に大きく溜息を吐く。
完全にロビンを見失ったらしい。追うのを諦めるつもりは無いが、状況を打開する手が無いことも確かだ。
とりあえず、方角くらいは確かめておこう。
そう思って肩に掛けたデイパックからコンパスを取り出したそのとき、

365:Eternal Desire ◆L62I.UGyuw
09/11/27 04:00:58 2IixDvfJ



――ズン。



山が微かに震え、狭い空に鳥が一斉に飛び立った。
ヴァッシュは、振動の正体は何かの爆発の余波であると瞬時に看破し、体に緊張を走らせる。
身構えたまま数秒。鳥の群れが編隊を組んでどこかへ飛んでいった。

周囲に神経を張り巡らせつつ、ヴァッシュは考える。
爆発は西の方で起こった。ロビンと関係があるのか否かは判らない。
だが、当てもなく彷徨うよりは、爆音の源へ向かった方が幾分マシだ。
そう判断した彼は、一度辺りに素早く視線を走らせると、向きを変えて再び走り出した。

鬱蒼とした森の中。相変わらず気を抜くと距離も方向も失いそうになる曖昧な景色。
それでも多少は慣れたのか、コンパスを確認しながら西へと疾走するヴァッシュ。
しばらく走ったところで、

「ん?」

妙な物を発見し、彼は慌てて立ち止まった。
木と木の間。ちょうど膝の高さに、何か―細い糸が張られている。

「これは―」

森にはこんなものもあるのか―などと一瞬間抜けな感想を抱いたヴァッシュだったが、すぐにそんな訳はないと思い直した。
多分、誰かの仕掛けた罠だろう。よく見れば十メートルくらい先にも、今度は首の辺りの高さに同じ糸が張られている。
相当注意していないと、普通の人間では気付くまい。
誰かが引っ掛かる可能性を考えると残らず解除しておきたいところだが、流石にそんな悠長なことをしている時間は無い。
何にせよ、まずは爆心地へ向かうのが先決だ。
そう思い直し、少し不本意ながらも目前の罠を飛び越えて―、



「―な!?」



着地した瞬間に、ごく近く、プラントの力の射程と比較すれば正に目と鼻の先で―ゲートが、開いた。


***************



366:Eternal Desire ◆L62I.UGyuw
09/11/27 04:01:39 2IixDvfJ
今更に、ヴァッシュ・ザ・スタンピードは思い出す。

『ええかトンガリ……こないな時代やと人生は絶え間なく連続した問題集や』

全く、その通りだと思う。

『揃って複雑。選択肢は酷薄。加えて制限時間まで有る』

いつも複雑さに頭を悩ませて、最悪の選択肢を選んではいないかと怯えて、制限時間に背中を押されて、

『一番最低なんは夢みたいな解法を待って何一つ選ばない事や』

いつも恐る恐る手探りで、なるべく多くを、出来れば全てを取り零さないようにと努力して、

『オロオロしてる間に全部おじゃん。一人も救えへん』

そして結局―今度も、親友を救うことさえ出来なかった。

『……選ばなアカンねや!! 一人も殺せん奴に一人も救えるもんかい』

そう、なのかもしれない。いつもいつも犠牲無しに物事を丸く収める選択肢が在るとは限らないのかもしれない。でも、例えそうだとしても、

『ワシらは神さまと違うねん。万能やないだけ鬼にもならなアカン……』

ウルフウッド、それでもやっぱり、目の前の命を切り捨てるなんてことは、僕には――。


***************


爆音。そして少し経って開いたゲート。
これらの示唆するところは、ナイブズと何者かとの戦闘。
相手はロビンかもしれないし、そうでないかもしれない。
だがどちらにせよ―ナイブズが立ち塞がる敵に対して容赦などするはずがない。
当然ながら、ヴァッシュとしては見過ごすわけにはいかなかった。だが、

「遅かった……のか?」

点在する罠を避けながら必死に走ってきた彼を待っていたのは、無人の爆発の跡だった。
憮然として立ち尽くすヴァッシュ。
動くものは、何も無い。焼けた有機物と微かな鉄錆の臭いが鼻腔を刺激する。
爆風の影響か、周囲の木々の樹皮は一部変色しており、沢山の葉が地面に積もって燻っている。
その大量の落ち葉に混じって、異物が―明らかな人工物が落ちていた。

「これは……」


367:Eternal Desire ◆L62I.UGyuw
09/11/27 04:04:09 2IixDvfJ
ヴァッシュは慎重に足元のそれを拾い上げた。
血と泥に塗れてボロボロになってはいるが、辛うじて女物の服であることは判別出来る。
よく見ると、近くには衣服の欠片らしき襤褸切れが他にも落ちている。その近辺の土は大量の血を吸って赤黒く染まっていた。
しかし、何故かその持ち主の姿が無い。これだけの出血量―控えめに見ても動ける傷でないことは明白なのに。
勿論、そこいらに誰かの死体が転がっているよりは遥かにマシなのだが。

それにしても―と、出来の悪い答案用紙を眺める学生のような表情でヴァッシュは考え込む。
ちぐはぐだ。
爆発が起こり、ナイブズが力を振るい、誰かが重傷を負い、その誰かは忽然と姿を消した。
事象の一つ一つは理解出来る。だがしかし、一つの場所で、短い時間で起こった現象と考えると訳が分からなくなる。
いや、無理にでもというなら説明を付けることは可能なのだが―それは歪な机上の空論に過ぎない。

ともあれ、ヴァッシュの理解を超えた何かがここで起こったということだけは確実だ。

緑の天蓋を仰いで嘆息する。
答えの出ない問題はひとまず脇に置いておくことにして、ヴァッシュは気持ちを切り替える。
どの道、ここにこうして突っ立っていても仕方ない。
少しの間顎に手を当てて考え込み、やがておもむろにコンパスで方角を確認。
そしてヴァッシュは再び何処かを目指して走り始めた。

後にはただ、僅かに燻る落ち葉が残されているだけだった。


【H-5/一日目/午前】

【ヴァッシュ・ザ・スタンピード@トライガン・マキシマム】
[状態]:頬に擦過傷、疲労(小)、黒髪化3/4進行
[服装]:真紅のコートにサングラス
[装備]:ヴァッシュ・ザ・スタンピードの銃(3/6うちAA弾0/6(予備弾23うちAA弾0/23))@トライガン・マキシマム
[道具]:支給品一式、ダーツ@未来日記×1、不明支給品×1
[思考]
基本:誰一人死なせない。
0:何があったんだ?
1:ロビンを追って説得する。
2:ナイブズが近くにいるはずだが―?
3:趙公明を追いたいが、手がかりがない。
4:参加者と出会ったならばできる限り平和裏に対応、保護したい。
5:なるべく早く植木達と合流する。
[備考]
※参戦時期はウルフウッド死亡後、エンジェル・アーム弾初使用前です。
※エンジェル・アームの制限は不明です。
 少なくともエンジェル・アーム弾は使用できますが、大出力の砲撃に関しては制限されている可能性があります。

368: ◆L62I.UGyuw
09/11/27 04:05:24 2IixDvfJ
以上、投下終了です。

369:創る名無しに見る名無し
09/11/27 15:17:33 3uSDvClF
投下乙
ロビン追ってたらあの現場か。ナイブズと行き違いか?
確かハムが負傷してナイブズがその場所で(?)治して会話してカラオケ騒動でそちらに移動
鉢合わせしてもおかしくなかったな
後、細かいけどカラオケ騒動はハムが普通に知るほど騒いでいたからヴァッシュも耳にしてると思うけど




370:創る名無しに見る名無し
09/11/28 00:15:01 sCKSB9zP
投下乙
ヴァッシュはそっちにいったか
でもお前の力が必要な爆心地はそっちじゃないんだぜ…

371:創る名無しに見る名無し
09/11/28 00:53:05 XEZP6MDc
カラオケの描写を付け加えた修正案が必要か?
ナイブズのSS見たら必要ぽいけど

372: ◆L62I.UGyuw
09/11/28 11:33:09 EXbOTaDp
返答が遅くなりまして申し訳ありません。
カラオケは「聞こえなかった」or「まだカラオケが始まっていない」というつもりでした。

・H-5の森はカノンの位置から爆発地点を把握出来ないくらいには見通しが悪い
・ナイブズとハムが立体映像を目撃している

これらを両立させるためには、カラオケ騒動が始まった時点でナイブズとハムが見通しのいい場所(H-6)まで移動している必要があると考えました。
木々の上に立体映像が見える可能性はありますが、確認したところ、雑木林程度でも天頂部以外はほぼ見えません。
成層圏をブチ抜く大きさの映像なら見えるかもしれませんが、それはちょっと大きすぎる気が。

373:創る名無しに見る名無し
09/11/28 16:37:22 rp5+GChL
そこまで拘る必要ないと思うしナイブズとハムが見通しのいい場所(H-6)まで移動したのならおkでいいと思うよ

374:創る名無しに見る名無し
09/11/28 16:48:34 rp5+GChL
代理投下します

375:Eingeweide Schwert "Gelegenheit" ◇JvezCBil8U 代理
09/11/28 16:49:42 rp5+GChL
はるかおおぞらよりだれもをみおろす

このだいちのうえをひとりただあるく


***************


《運命とは眼前を切り開くもの》

鷹の世界は、遥か雲の領域にまで足跡を刻み込んでいた。

生きとし生けるものが、命の息吹の残滓が、そこに在るよろづ全てのものが睥睨されている。
はや永きの眠りに沈んだものは多く、未だ目を閉じるのを渋り続けるものはなお多い。

天空は高く、広く。
雲海の切れ目に見える数々の人の在り様が、鷹の進むべき道を照らし出す。

眼下、彼の影と時折交わるのは転がった3つの死体。
いや、男女2つの屍と不気味なカラクリ人形だ。
少し離れた所には鎧の残骸のようなものも散らばっている。
……死体に用はない。

―デパートの方角を振り返る。
つい先ほど言葉を交わした二人の姿は、とうに見えない。
その屋上を通り越す。
ずっと先の地上には、ぽつりと米粒のように黒い人影がひとつ見受けられた。
遠目にはよく分からないが、何かの建物からちょうど出てきたところのようである。
その眼の周りはやけに黒っぽく染まっており、何かマスクのようなものでも付けているのかもしれない。
デパートの方に向かいじわじわ寄ってきているのが見て取れる。

しかしそれより目立つのは、デパートのすぐ近くで開演されている凄惨な宴だ。
思わず鷹は、口元に手を添え目を背けてしまう。
……アレには、近づいてはならない。
つい先ほど見た『悪夢のような光景』を思い出してしまい、怖気がする。
それは確かに『それ』そのものについて感じ入るものでもあるが、それ以上に『それ』に陶酔せんとする自分の中の何かが恐ろしい。
本来ならデパートで出会った二人に、警告に戻るべきなのだろう。
だが、臓物の祭典に近づくと自分が自分でなくなるような気がして―、鷹はどうしても踏み切る事が出来なかった。
大丈夫だ、と頷く。
あの剣士はそれなりの使い手のようだった。ならば、わざわざ危険に身を曝すような愚行はすまい。
そう口の中で繰り返した。

《運命は迷いを断つ》

そこから北に目をスライドさせてみれば、赤に身を包む金と黒の髪の男の姿が届いてくる。
どうやら交戦中のようで、鷹ですら感嘆させるほどの立ち回りを見事に披露していた。
木立に隠れてその男以外の姿はよく見えないが、どうやら彼を含め3人ほどが入り混じった乱戦であるらしい。
……いや、4人か。
通りすがった不気味な風体をした男が、彼らに気付かれぬままに、まるで医者が診療をするかのようにじっと脇から観察していた。
四人に声をかけようかと思うも、しかし鷹は思い直す。
あの赤い男は、強い。『現時点の』鷹の親友や、鷹本人すら超えるほどに。
もしかしたら不死のゾッドに並び立つ―あるいはそれ以上でさえあるかもしれない。
仮に彼が殺し合いに乗った人物であれば、下手な接触は危機を招くだけだ。
そうでないなら是非鷹の団に誘いたいが、その手を打つのは背中を任せられる仲間と合流してからにすべきだろう。

376:Eingeweide Schwert "Gelegenheit" ◇JvezCBil8U 代理
09/11/28 16:51:50 rp5+GChL
されど、先刻確認した通りあの朋友たる威丈夫は影も形も見当たらない。
この島の南部にはその気配がない。

《運命とは進み行くもの》

だから鷹は、北を目指す。

北へ。

北へ―。


***************


《運命とは自ずと向かって来るものなり》

薄暗く、黴臭く。
剥き出しの木地が経年にも負けず磨き上げられたその中に。
光の帯の差し込む中に、舞い踊る埃が風に遊ぶ。
風の由来するは一人の男。
ごそごそ、がさがさ。
無造作に適当に、何かを探すために体を動かせば、停滞し淀んだ空気は僅かながらに流動をはじめるのだ。

「なーにをオレぁやってんだろーね……」

呟くその声には強い溜息が付帯しており、息は風となって壁の御幣を揺らしどこかへと抜けていく。

《運命とはその糸で人をとらえるものなり》

『ちょうどいい、手伝ってくれ』

顎に手を当て、暢気すぎるほどの歩みで石段を上ってきた少年の、自分を見るなり放った第一声がそれだった。

『は? いきなりなに言ってんだ?』

とらという名の化生と戦うのに備え、体力を温存しようと考えていた男―秋葉流。
どうせ一瞬で殺せるとの見積もり通り、ならば適当に情報でも聞き出そうと近づいたものの、どうも勝手が良くない。
少年は自己紹介すらせず、こちらの喋る機会を失わせるかのように言葉を次々と吐き出していく。

『殺し合いが始まってからもう大分経つ。
 なのにこんな―普通なら来ようともしない場所にいる時点で目的は同じだろ。
 だったら四の五の面倒臭い事言ってるよりも手を動かした方が得だと思わないか?
 別に言葉を交わすのは、探し物をしながらでだって出来るんだしな』

合理的だが、あまりにマイペース。流石の流も唖然と口を開ける。
直後、『俺はあっちを調べてみるが、妙なもの以外に何か探しとくべきものはあるか?』などと告げてすたすたと本殿の方向へ行こうとする。
どうにか独鈷杵などの金剛杵や錫杖のような神具法具の類を見繕うよう声をかけるのは間に合ったが、少しばかり調子が狂う。

結局そのやり取りに毒気を抜かれてしまい、また得物を探す人手として利用させてもらうという目論見も加わって、とりあえずは放っておく事にしたのだ。
こちらが殺気を放っているのに全く動じなかった態度からするに、見た目通り脳が茹だっているか修羅場慣れしているかのどちらかだろう。
とはいえ、腕っ節が強い様子もないし、やはり前者か―、などと考えながら手を動かす。

山の中にあるこの神社は、その立地条件にもかかわらずかなりの大きさだ。
とりあえず目に付く施設を並べてみるだけでも、
本殿、拝殿、社務所、手水舎、宝物殿、神木、鳥居―といくつも挙げる事が出来る。
石碑や狛犬などといった細かいものまで含めれば、さらに数は増える。
その中には『赤薔薇を咥えた黒き白鳥の像』などという突っ込みどころ満載の代物まである始末だ。

377:Eingeweide Schwert "Gelegenheit" ◇JvezCBil8U 代理
09/11/28 16:53:39 rp5+GChL
それぞれの施設の全てを見て回ったわけではないが、いくつかの施設は既に流は探索を終えている。
まず手始めに向かったのは、やはり一番目につく拝殿だ。
拝殿とはその名の通り、拝むための場所である。
つまり賽銭箱などが置かれている場所であり、祭礼を取り行うためのスペースでもあるのだ。

よく誤解されることではあるが、賽銭箱の向こう側―拝殿の中には御神体は存在しない。無論、例外はあるが。
御神体などの神の宿るヨリシロは、本殿という拝殿より一回り小さい専用のスペースに収められているのが通例だ。

当然流もその辺りの事は熟知しており、拝殿では大したものは見つかるまいと思っていた。
そしてその予測は見事的中。
備え付けられた種々の祭具は武器にするにも心もとないものばかり。
完全に儀礼の為だけに存在しているのだろう。
ただ、祭壇の中央にある二重螺旋の彫り込まれた御柱だけが、やけに力を放っているように感じられる。
……持ち運べるような代物でもない以上、役には立たないが。

拝殿を一通り眺めた流が次に向かったのは、2本並び立った神木だった。
それぞれ『はじまりの樹』『絶園の樹』という名が看板に銘打たれたそれらの樹から、細い注連縄を頂戴したのだ。
広域結界を作るための手助けをする道具としては、まずまずの品だろう。

そしてこの神木のすぐ近くに、特記しておくべき一つの建造物を発見する。
ちょうど滝とは反対側の位置に石造りの小さな階段が備え付けられていたのだ。
そこを下っていくと、どうやら西の方―地図で言う研究所の方に繋がっているらしい。
それらしき建物は見えないが、地形の起伏にはところどころ不自然な箇所がある。
おそらく研究所は山体をくり抜いて造られており、石段の先はそのどこかに繋がっているのだろう。
神社は避難所として利用されるのも珍しくはない。ならば、研究所からの非常口として機能しているのかもしれない。

そして今流が探索をし始めたのは、宝物殿とは名ばかりの倉庫だ。
大抵のものが箱に仕舞い込まれているため、探索には一苦労しそうである。
試しに一つ箱を開けてみたところ、『念仏くんストラップ』などというインチキ臭い上に全く売れそうもないゴミが束になって詰め込まれている。
こんなイロモノばかりの箱に入っているのだとすれば、目ぼしいものを見つけるのも面倒くさい。
なのでとりあえず箱に手をつけるのはやめ、剥き出しになっているものから調べることにした。
使いやすさを考慮してなのか入り口近くによく使うであろうものが、奥の方に物々しい箱の群れが積まれているという配置になっている。

その、『よく使うであろうもの』が、流にとっては非常にありがたい。
錫杖や法螺貝の笛、鈴、注連縄、御幣に破魔矢。神道というより修験道系の道具だが、こういう所にあってもおかしくはない。
どれも法力を通すにはそれなりに適した神具である。
適当にデイパックに放り込んでは眇目で辺りを見回す流のその耳に、不意に声が届く。
先刻の少年の声で間違いない。

「―ちょっといいか?」


***************


次ページ
最新レス表示
レスジャンプ
類似スレ一覧
スレッドの検索
話題のニュース
おまかせリスト
オプション
しおりを挟む
スレッドに書込
スレッドの一覧
暇つぶし2ch