コードギアス反逆のルルーシュLOST COLORS SSスレ43at MITEMITE
コードギアス反逆のルルーシュLOST COLORS SSスレ43 - 暇つぶし2ch644:穴熊 ◆cEc5KVfyMc
10/01/16 22:16:44 GBveBpOX
乙です
添い寝してきたのがカレンで、寝言の名前がCCという嫉妬系を想像したのは私が汚れているからでしょうか

投下します
解放戦線偏亡命ルート(合衆国建国しないほう)のエンド後からの話です

645:穴熊 ◆cEc5KVfyMc
10/01/16 22:18:05 GBveBpOX
生きる理由

中華連邦、ブリタニア、黒の騎士団による三つ巴のキュウシュウ戦役から一週間がたった
私の所属していた日本解放戦線も中華連邦とともに戦ったが上層部の早期撤退により指揮系統が崩壊、その隙をつかれ多くの仲間が散っていった
解放戦線の生存者は黒の騎士団に合流、これによりエリア11最大の反ブリタニア勢力の完成となった
しかし、ブリタニア軍や一般市民には知られていないが騎士団は今、内部にいくつかの問題を抱えている
その中で私が気にかけているのがこの食堂の有様である
食事が不味いわけではない、衛生面に問題もない、十分な広さもある。団員たちは今日も親しい者と肩を並べ談笑しながら午後の仕事に備え食事をとっている
では何が問題なのか?それは色だ
食堂右半分は黒、これは騎士団の制服だ。そして左半分は緑色、こちらは解放戦線で使っていた旧日本軍の軍服である
さて、なぜ食堂が左右二色に分かれているかと言うと
敵同士として戦ったキュウシュウ戦役
素性を明かさないゼロに対する解放戦線側の不信感
と、幾つかあるがそれは異なる組織を束ねていく時にどうしても生じてしまうことだ。元より私が気にかけることではない
では、なぜ私が気にしているかというと、その問題の中に元日本解放戦線少尉ライが含まれているからだ
事の発端は解放戦線を吸収した黒の騎士団の組織体制の発表のときだった

「これより黒の騎士団新組織体制を発表する。まず、総司令官に私ゼロ、副指令扇要…中略…第三特務隊玉城真一郎以上だ。細かい部隊構成は追って書面で知らせる」
トップはゼロこれは仕方ない。個人的には不満だが多くの団員は彼のカリスマに惹かれているのだから
軍事総責任者に藤堂鏡志郎、その補佐として四聖剣が要所に組み込まれている。前線はこれで磐石だろう
あとは、情報関係の長のディートハルト・リートと開発主任のラクシャータ・チャウラー、この二人については詳しく知らないが能力主義のゼロが日本人以外を抜擢するのだから適任なのだろう
概ね納得のいく采配だが、一つだけ納得がいかないことがある。そのことをゼロに問いただそうとした時、私のすぐ横から声が上がる
「ちょっといいかな?」
声の主は四聖剣の一人朝比奈省吾だった
「なんだ?」
ゼロに問われて朝比奈が言葉を続ける
「彼の、ライ少尉の名前がなかったけど、言い忘れかい?」
その質問は彼だけでなく、私や多くの解放戦線メンバーの質問でもあった。少尉の能力は四聖剣と比べても見劣りしない、その彼が役職なしはありえないだろう
「いや、彼は藤堂の直轄部隊に配属した。先ほども言ったが細かい部隊構成まで発表していたらきりが無いからな」
ゼロがそう言うと集まっていた団員たち、とりわけ元解放戦線メンバーに動揺が走る
藤堂の直轄部隊となればエリートといって差し支えないが所詮は一兵士、とても彼の能力に見合ったものではない
「馬鹿な!少尉の能力は知っているだろう!」
「たしかに、能力“だけ”は平にしておくのはもったいないですね」
ありえない人事に私がゼロに詰め寄ろうとするがそれをディートハルトが遮る
その少尉への侮蔑が含まれた言葉に皆が厳しい目を向ける
「まるで少尉に問題があるような口ぶりだな」
怒りを抑え何とか冷静に言葉を返す
「ええ、そう言ったんですよ」
その言葉に室内が殺気だつが、気にした風もなくディートハルトが言葉を続ける
「解放戦線ではどうだったか知りませんが、彼は一度KMFを奪い騎士団から脱走しています。そんな人間の合流を認めただけでも感謝すべきでは?」
それをいわれ私たちは何も言い返せなくなる。そう、理由はどうあれ彼は騎士団を脱走している。普通はKMFに乗せるどころか、合流さえ認められないだろう
ならば、この人事は感謝こそすれば文句を言うべきではない。しかし納得できないのが私たちの心情だ
「いいですよ」
なを食い下がろうと言葉を探していると、当の本人がそう声を上げる
「KMFに乗れるだけでもありがたい。それ以上は僕には分不相応です」
誰もそんなことは考えていないが本人が言うのならば周りは何もいえない
結局その日はそれでお開きとなったのだが、ライの脱走暦を気にする団員と人事に不満のある解放戦線の者が醸し出す空気が広がり自然と騎士団内は黒と緑の二色に分かれていった


646:穴熊 ◆cEc5KVfyMc
10/01/16 22:19:23 GBveBpOX
そんなことを思い出しながら食事を取っていると見慣れた銀色が目に入った
少尉が食事の乗ったトレイを持ったまま食堂の中を見渡している。おそらく空席を探しているのだろう
さいわい私の隣の席は空いている
「少「お~いライ!ここあいてるぞ!一緒に食おうぜ!」
少尉を呼ぼうと声をかけたがそれは別の声に塗りつぶされた。声の主を探すとそれは黒色のど真ん中に陣取った玉城だった
玉城は脱走など気にせず少尉に接してくれるいい人物なのだろうが、もう少し空気は読めないだろうか。見ろ、黒色の真ん中に一人緑色が混ざって回りも少尉も微妙そうだろ
その後も玉城は何かと大騒ぎしながら時折少尉の背中をバンバン叩いては笑っている。少尉も困りながらもそんな触れ合いを楽しんでいるのか笑顔だ
それを横目に見ながら食事を続ける。心なしか周りに座っていた者との距離が開いている気がする
「お、おい!大変だ!今すぐテレビをみろ!」
食事も終わりそろそろ仕事に戻ろうかと考えていると、一人の団員が駆け込んでくる
「ユーフェミアが!ユーフェミアが!」
よほど興奮しているのか、それ以上はまともに聞き出せない
結局我々がユーフェミア・リ・ブリタニアの提唱した行政特区日本構想を知ったのはその数時間後のことだ

黒の騎士団アジトのラウンジに多くの幹部が集まっていた。普段からここは会議などによく使われるし、居心地がよく特に用事がなくとも一休みに使う者も多い
しかし、いまはどちらでもない。突如発表された特区構想をどう受け止めていいかわからず、つりあえず誰かの意見を聞きたく誰からとも無く集まってきたのだ
「俺たちも参加するべきじゃないかな?」
始めに口を開いたのは副指令の扇だ。彼の性格ならそう言うだろう。だが皆の表情は芳しくない
「んなこと言ったって、ブリキの皇女様の言うことなんかうそに決まってるって」
そう言うのは玉城だ。彼の言葉には偏見が混ざっているものの、納得もいく。たしかに今更ブリタニアから歩み寄るなど考えられない
「ゼロは何て言ってるんだ?」
杉山の質問に扇に視線が集まる
「今は何も言ってこない」
騎士団が浮き足だってるこのときに何も?いったいあの男は何を考えているんだ
皆の困惑が伝わったのか扇が言葉を続ける
「ライ、君はこの特区どう思う?」
突然話を振られてはじめは戸惑っていたようだが、すぐに考えをまとめ口を開く
「そうですね、確かにブリタニアが譲歩するとは考えにくいです。かといってこれが僕たちを捕まえる罠だとも思えない」
少尉の言葉はまさにその通りだった。譲歩はありえなく、罠だとしても世論を敵に回すだけだ
「どちらにせよゼロはこれを利用する気だろう。ただ、」
続く言葉に皆が注目する
「平和になるならそれが一番だ」
微笑みながら少尉はそう言った。『平和が一番』言葉にすればこんなに安っぽい台詞も無いだろう
しかし彼の言葉に嘘はない、ただまっすぐにそう言える男なのだ
少尉に毒気を抜かれたのかその後一人また一人とラウンジを出て行った


647:穴熊 ◆cEc5KVfyMc
10/01/16 22:20:27 GBveBpOX
「ユーフェミアの真意を問いただし特区への賛同か否かを決める」
そういってゼロは一機で乗り込んでしまったが、騎士団のほぼ全戦力が終結しているいま、ゼロはユーフェミアの真意にかかわらず戦いを始めるつもりだろう
少尉は同行をもとめていたがディートハルトをはじめとした彼をよく思わない者たちの反対で却下となってしまった
彼は時折ゼロに対し不信の目を向けるが、いったい少尉はなにが気になるというんだろうか?
しかし、随分たつ。どんな策があるにせよ遅くないだろうか?
いいかげん撤退を進言しようとしたとき、その通信が入った
『黒の騎士団全軍に告げる!行政特区日本は我々をおびき出すための罠だった!現在ブリタニアは日本人を虐殺している!ユーフェミアを見つけ、殺せ!』
ゼロの言葉に騎士団全体に激震が走る。罠の可能性は考えていたが、虐殺までするとは
すぐにでも出撃したかったが、藤堂中佐から号令がでない。結束にかける騎士団ではいかに中佐といえど統率できず、まごついている
すると号令も待たずに一機の蒼い月下が出撃する。少尉の機体だ
その蒼い月下の後姿に回りの者も次々と出撃していく。私も慌てて少尉の背中を追う
しばらくすると呆然と立ち尽くす少尉の月下があった。隣まで行くと彼の見ていた者が目に入った
人いや、人だったモノの山。瓦礫、粉塵、黒煙、血飛沫、そして人だったモノ
遠くにはこの惨劇の犯人であろうグロースターの後姿が見える
自分も軍人として多くの戦場を見てきたが、これはそんなものじゃない。虐殺、まさに虐殺だった
「少尉」
まだ若く、この虐殺に立ちすくんでいるであろうと声をかけるが反応がない
「少尉?」
『……ぉ…』
不信に思いもう一度声をかけるとかすかに声が聞こえる
『やめろぉー!』
通信越しに私にではない叫びを上げると少尉はグロースターに向かって走り出す
そのときになって敵は我々に気づいたようで振り向きざまにアサルトライフルを撃ってくる
私はとっさに建物の陰に隠れたが、少尉は襲い掛かる弾丸を無視して敵に迫る。左右に動きながら多少はよけているようだが、装甲を削られながら突進する
ランスで応戦しようとする敵に対しさらに踏み込む。通常ならばその距離は互いに手出しできない距離だが、彼の月下の左腕“甲壱型腕”の輻射波動はまさにその距離で真価を発揮する
左腕の爪に胸を掴まれた敵は逃げ出すことも出来ず、内側から膨れ上がり爆散する
その爆音を聞きつけたらしい敵機が向かってくる。グロースター一機とサザーランド二機
月下二機でなら遅れは取らないだろう
「少尉!私が前に出る援護を!」
そう言って月下を走らせるが、少尉は私の言葉が届いていないらしくまた敵に突っ込んでいく
輻射波動で防御しているが、それでも三機からの銃撃は激しく取りこぼした弾丸が機体にダメージを与えている。傷つきながら進む彼の姿に威圧されたのか敵機が前進を止める
そのわずかな隙に月下を跳躍させ間合いを一気に詰める。立ち上がりながら目の前のサザーランドを逆袈裟に切り上げ、その爆煙を目くらましにグロースターにスラッシュハーケンを打ち込む
一瞬にして両機を失った最後のサザーランドが威嚇射撃をしながら後退するが、彼はそれを許さずハンドガンで足を破壊すると動けない敵機に回転刃刀を突き刺した
おかしい、これは彼の戦い方じゃない。確かに無茶をすることもおおいが、それは仲間を守るときだけだった
こんな敵を“殺す”ための無茶をすることなどなかった
『うぅぅおおおぉぉーーーー!』
獣じみた叫びをあげながらさらに敵を求めて走り出す。私にはそれを見ているしか出来なかった


648:穴熊 ◆cEc5KVfyMc
10/01/16 22:21:50 GBveBpOX
戦闘が終わると少尉の月下の周りに団員たちが集まってくる
皆始めは今回撃墜数が最も多かった少尉に賞賛を言いにきたのだが、機体から降りてこない彼に戸惑っているようだ
「何をしている、すぐにトウキョウ進撃が始まるぞ、今のうちに休んでおけ」
そういって団員たちを散らせていると不意に朝比奈と目が合う
「本当はどうしたんだい、彼?」
声を潜めて尋ねてくる。この男を誤魔化すのはさすがに無理か
「虐殺の光景を見てから様子がおかしい。これ以上は戦えないかもしれん」
簡素な説明だったがそれだけでおおよそ察したのか苦い顔をしながら頷く
「藤堂さんたちには俺から言っておくから、少尉を頼むよ」
そういって足早に出て行った。少尉のことは頼まれるまでもなくそのつもりだったが、報告までは頭が回っていなかった。どうやら私も落ち着いたほうが良いようだ
だいたいの者が帰ったことを確認すると月下の元に戻る
「少尉あけるぞ」
言ってから月下のハッチを外部入力で開ける
予想以上に酷い。顔は青ざめ、目は虚ろ、手は振るえ、何かに怯えるように時折体をびくりと震わせる
こんな姿を誰かに見せるわけにはいかない。彼の腕を担ぎ部屋まで運ぶ
幸い部屋まで誰にも会わずにこれたが、少尉の反応がない。せめて抵抗するなり、暴れるなりしてくれれば心は守られる
だが、それすらない今の少尉の心は決壊寸前だ、下手な言葉は追い討ちになりかねない
「いったいどうした?」
「……」
刺激しないようにやさしい口調でたずねるが、返事はなく何も写さない瞳を床に向けるだけだった
「なんでもいい、話してくれ」
「……記憶が」
ようやく少尉が口を開く
「記憶が、戻ったんです…」
確かに彼は記憶喪失だと聞いていたが、なぜ今それを言うのかわからなかった
「それは、聞いてもいいことか?」
彼の意図が分からず、慎重に質問をする。やはり顔を上げないまま答えが返ってくる
「聞かないでください、僕は、貴方に嫌われたくない」
「馬鹿を言うな、私がお前を嫌いになるなどありえん」
そういって彼の背中をなでてやろうと手を伸ばすが、それは彼の言葉に遮られる
「そんなことない、だって僕は、ここにいちゃいけない、死ぬべき人間なんだから」
それは決して大きな声ではなかったが私は動けなくなった
何が彼をここまで追い込むのかわからなかった。わからなかったが、私のすべきこと、言うべき言葉はわかった
「ライ」
初めて彼を名前で呼びそっと抱きしめてやる。戸惑いながらも抵抗しない彼の頭をやさしくなでながら言葉を続ける
「お前はここにいて良い、生きていて良いんだ。だってそうだろ?お前のおかげで私は生きているんだ」
「僕の、おかげ?」
本気で分かっていないらしい彼の様子が可笑しくつい笑みがこぼれてしまう
「ああ、ナリタのときも、初めて直接会ったときも、お前が助けてくれたおかげで私は生きている。私だけじゃない、藤堂中佐や朝比奈たちもだ、だからお前は生きていて良いんだ」
「僕は、生きていて良い?」
ここまで言ってもまだ自信がないらしく震える声で尋ねてくる。それに力強く答えてやる
「そうだ、お前は生きていて良い、いや生きなくちゃいけない。お前が自分の命を否定するということは、お前に救われた私たちの命も否定することになるんだからな。だから、」
言葉をいったん切り、彼の目を見据える。それは先ほどまでの虚ろな目ではなく、涙を我慢する子供のようだった
「生きてくれ、私のために」
「千葉、中、尉、う、うわぁ~~~」
ついに我慢しきれなくなったライは私にすがりつくようにして泣きじゃくる
その背中をなでてやりながら、千葉は決意する
生きると、いつかこの少年が笑いながら生きていてよかったといえるように


649:穴熊 ◆cEc5KVfyMc
10/01/16 22:24:24 GBveBpOX
以上です
冒頭の食堂の話がうまく生かせなく未熟が恥ずかしいです


650:創る名無しに見る名無し
10/01/16 23:16:41 ta0bnhzI
>>649
人間、集団のドロドロした感情が渦巻く感じがリアルでした。
その中でのライの頑なな感じと千葉の葛藤する心境もうまく書かれているなぁ。

蛇足ですが文章そのものについて言えば、個人的には「。」があったほうが見やすいかなーと思うのと、あと最後の
>その背中をなでてやりながら、千葉は決意する
>生きると、いつかこの少年が笑いながら生きていてよかったといえるように
という部分は人称が「私」視点から第三者視点に変わっているので
行間を空けるとか前後に「─」を入れたりした方がわかりやすいかもしれない。
また着眼点が違うというか、マニアックな編の執筆乙でした。こういうのも想像力をかき立てられていいな


ところで大規模規制はいつまで続くんだろ。感想も書き辛いから早く終わって欲しい。最近は大手携帯も結構やられてるみたいだし…

651:創る名無しに見る名無し
10/01/18 20:21:38 m8ZzAXiz
千葉さんはいい女だと思う。
いや、解放戦線と騎士団との溝など新鮮で面白かったです

652:創る名無しに見る名無し
10/01/20 11:23:44 24xTV91l
解放戦線は出戻り発言と、
寝床に爆弾仕掛けられないからっていう、
皮肉のやり取りが面白かった
どのキャラも本編より素直で、みんな可愛かったなあ
カレンとコーネリアのデレにあれほどの破壊力があるとは・・・

俺の中で片瀬だけ好感度下がったけどw

653:創る名無しに見る名無し
10/01/21 09:10:56 Yl/cQ0UE
ブリタニア軍人編のネリ様のデレ顔には私もやられましたw
本編での女傑振りが印象に強く残ってたので、ナリタ連山でライに信じて下さって
ありがとうございましたってお礼を言われた時に顔を紅くするネリ様を見て
・・・あ、可愛いなぁと感じましたね。
本編とのギャップもある分、あれは凄まじい破壊力でした。ロスカラやってから
ネリ様が大好きになったのは私だけではないはず!

654:  @代理投下
10/01/23 02:13:25 dmkaK31M
書き込めるかな?
代理投下です。コテハンのない方でした。

/////

初投下です。至らない部分が多いかもしれませんが……

【タイトル】夕日に照らされた月
ライカレですが、モロにシリアスです。
騎士団ED後でカレンはライの過去を知っています。

【警告】過去話では、少し残酷描写があります、ご注意ください。


655:  @代理投下
10/01/23 02:14:59 dmkaK31M
 生徒会の仕事が終わり、茜色に染まりつつある空を何気なく眺めながら、赤毛の少女カレンは、やや幅の広い廊下を歩いていた。
 今は私立アッシュフォード学園に通うお嬢様、カレン・シュタットフェルトを演じなければならないのだが、誰の眼も向けられていないせいか、名家貴族の令嬢にしては、やけに軽い足取りだった。
「……ライ、部屋にいるかな? 音楽の授業で居残りさせられてたけど」
 いや、それは彼女の行く先が恋人の部屋だからだろうか。
 カレンは廊下に数多くある窓から空を見つめながら、少年の顔を思い浮かべた。
 居残りとは言っても、別に成績が悪いからではない。むしろ彼は、学年でも屈指の秀才である。
 更には人を惹く整った容姿と柔和な性格を併せ持ち、教師の評判は良好だった。
 だから、彼に限ってお説教は有り得ないだろうし、政庁の仕事が無い日は、自分の部屋で過ごすことが多いから、今頃はそこにいると思うのだが。
 ふと、カレンの視線が空から外された。
 生徒達が暮らすこのクラブハウス内では聞き慣れない、柔らかな音色―ーバイオリンの音だ。
 校舎の音楽室からではない。
 自分が今、行こうとしている先から聴こえる。
「珍しいわね、誰が弾いてるのかしら……」
 疑問に思いながらも、カレンはその美しい調べに聞き惚れていった。
 聴いたことがない曲だが、バイオリンという楽器に良く合っていて、癖になる音楽だ。
 彼のもとへと近づくにつれて音は大きくなる。
 音階が激しく変化して、弾むように音色が流れた。
「もしかして、ライが……?」
 カレンの呟きは、もはやよく聞き取れないくらいにまで、バイオリンの音が大きくなっていた。
 決して不快に感じる程ではない、丁度良い音量。
 だからこそ、歩いていくと何となくわかってきた。
 音源は、ライの部屋ではないかと。
 目的地に辿り着いて、それが確信へと変わる。が、扉を前にして、今入ってもいいものかとカレンは迷ってしまった。
 気配に敏感な彼のことだから、多分、誰かが部屋の前にいることぐらいは気付いているだろうけど。
 下手に彼を促して、素晴らしい演奏を中断させるのは憚れるし、廊下で待っていれば、カレンは自宅通学という『設定』なので、妙に勘繰られるかもしれない。カレンのファンクラブである親衛隊に見つかっても厄介だ。
ライもまた、かなりモテるし、やはり、恋人宣言しておいた方が良かっただろうか、と考えかけてから、カレンは小さく溜め息をついた。
 例の親衛隊は特に執念深いという噂で、カレンがちょっと朝の挨拶をしただけで、一時ではあるがライに付け回った時期があったのだ。
 ついでに言えば、彼にもまたファンクラブが存在し、高等部どころか中等部、挙句には女性教師すらメンバーに入っている者がいるとか。あくまで噂だが。
 このような状況で恋人宣言したら――どうなるやら、想像がつかない。
 もっとも、カレンとライの関係については、至る所で囁かれてはいる。が、状況が許さない、受け入れないと言った所で、それぞれのファンクラブは、競うように人気を伸ばしていた。
 そういう訳で、こんなところにいるのを見つかると、面倒なことに巻き込まれかねないのだ。

656:  @代理投下
10/01/23 02:16:58 dmkaK31M
 しばし考えて、カレンは黙って部屋に入ることにした。
 彼が部屋にいる時は、いつも鍵は掛けていないことが多い。
 ドアノブを捻ると、予想通りあっさりと扉が開いた。同時にバイオリンの音が飛び出してくる。
 音を立てないようにドアを閉め、カレンは静かに部屋の中へと入った。
 奥へ行くと、窓際にあるベッドに腰かけたライの姿が見えた。
 手の中にはバイオリンがある。やはり彼が曲を奏でていたらしい。
 今も尚、オクターブを変えながら、眼を閉じて弾いている。
 弓を振るう度に銀髪が揺れ、夕日の光を反射して輝いた。
 窓から見える朱の空と、ライとバイオリンとの光景がぴったり合っていて美しく、カレンは曲を忘れてそちらに眼を、意識を奪われてしまう。
 その姿は、城の大広間で腕前を披露する皇子のようで。
 今まで音の乱れ一つと無いからか、ライの顔は満足気で、安らかな表情だった。
 やがてライは細かく弓を動かし、クライマックス後の余韻を残して曲を終わらせた。
 完全に音が無くなると、バイオリンを膝の上に置いて、ゆっくりと瞼を開いた。
「やあ、カレン」
 黙って入ってきたカレンを咎めることはせず、驚きもしないライは、何事も無かったかのような振る舞いで笑顔を向けた。
 ずっと彼に魅入っていたから、気付かれていたのか、とカレンは顔を赤くする。
「え、えっとその、ごめん。勝手に入っちゃって」
「いや、別に構わないよ。君ならいつでも大歓迎さ。それより、君に気を遣わせちゃったかな。こっちこそすまない」
 慌てながらも謝罪を述べたカレンへ、ライが更に謝罪を重ねた。

 ライは悪くないのに。どうして私が謝られなきゃいけないの?

 カレンが呆れながら眉を曇らせた。
「ライが謝ることないじゃない。ただバイオリンを弾いていただけでしょう? 私が悪いんだから、そうやって自分のせいにして抱え込む癖、直しなさいよ」
 何故か叱る立場になってしまっているカレン。
 そして叱られる立場のライは、困ったように頭を掻いた。二人にとっては、いつものパターンであったりする。
「そんなつもりは無いんだが」
「私にはそうとしか聞こえないけど?」
「ははは。カレンには敵わないな。わかった、努力するよ」
 これまた、いつも通りの答えで軽く流される。
 カレンは諦めて、大袈裟に溜め息をついて見せてから、ライの隣へと腰を下ろした。
「その返答、何回も聞いてる気がするけど。……ねえ、さっきの、何ていう曲?」
 ライの眼がふっと伏せられ、膝の上のバイオリンに視線を落とした。
「『銀の月光』。大昔の曲だよ。昨日思い出して、懐かしくなったから、音楽室のバイオリンを借りて弾こうと思って、な」
「懐かしい?」
「ああ。僕の母と妹が好きだった曲だから。今の時代では多分、知らない人の方が多いだろうし、僕の音楽で一時でも聴かせてあげたかったんだ」
 そう言って、ライは神妙な顔つきで弓の弦をいじった。自分の過去を思い出しているのだろうか。
 カレンもまた、ライを視線から外して、以前に聞かされた彼の過去を思い返した。

657:  @代理投下
10/01/23 02:19:05 dmkaK31M
 ――ライの過去。
 信じ難いことだが、彼は、今の時代に生まれた訳ではない。過去からのタイムトラベラーと言っても良い、本来は存在するはずの無い少年だ。
 彼は王だった。誰にでも、どんな命令だろうと従わせる絶対遵守の力、ギアスを持つ王。
 少年は、家族を守るために『力』を求めた。たとえそれが、人を孤独にする王の力だったとしても、誰よりも強い『力』だったから契約した。
 『力』を持った彼は、憎き父と兄達を自ら殺す大罪をも犯し、王になることができた。
 しかし、その時にはもう『力』は、少年の手に負えない程の大きさに膨れ上がっていたのだ。
「北の蛮族を皆殺しにしろっ!!」
 少年の体から、眼に見えぬ赤い結界が広がっていく。
 国中に王の声は木霊したその瞬間、命令を聞き取った者達は一人残らず武器を手に取っていた。――王が愛する母と妹も、例外なく。
 狂っていく。少年も、国民も、『力』すらも、何もかもが。
 後に残ったのは、赤く染まった人。人だったカタマリ。
 刃に貫かれた娘。片腕が千切れた男。矢が胸に突き刺さった子供もいた。そして。
 あれは王の母だろうか? 頭が潰れている。その下では王が最も愛した妹が、恐怖に瞳を見開き、母に抱かれながら唇をうっすらと開けていて。
 たった一人、生き残った王が彼女らに近づく。呆然と、ただ目の前の光景を疑うことしかできなかった。
 夢であってほしい。ギアスの暴走で、自分は幻を見ているのだ、と。
 だが、どんなに彼が願おうとも、現実は絶対に変わることはない。王ではなく、少年として彼女らの名を呼んでも、応えることはあるはずがない。
 母の顔が見れない。あれは母上じゃない、他の誰かだ。妹を庇って、守ってくれたんだ。お前だけは、生きていてくれるだろう……?
 少年は必死に妹を抱きかかえた。何度も呼びかける。応えない。気を失っているのだろうか。
 と、一筋の血が、少年の指から滴り落ちた。濡れているような感触、ああ、本当は気付きたくなかったのに。
 少年は絶望する。自分の両手は真っ赤に染まっていた。敵の返り血を腐るほど浴びていた、汚れた手は、その血でまた汚されていたのだ。
 その血は、誰のものなのか、と尋ねる必要も無く。妹の、血。
 ――少年は叫んだ。何を言っているのか、自分でもわからない。
 ただ自分を声で引き裂いてしまうかのように、紅く眼を輝かせながら。
 死にたい。少年は心からそう思った。
 だが、彼に死は許されない。まだ約束を果たしていないから。
 少年は、死の代わりに眠りを選んだ。ギアスと共に、眠ることを。
 意識が薄れていく中、命令する。
 自らに「全てを忘れろ」と。
 後に『一人ぼっちの皇子様』という物語のモデルとなり、後世の人々は、当時の王を『狂王』と呼ぶようになる。

658:  @代理投下
10/01/23 02:21:04 dmkaK31M
 その少年こそがライであり、目覚めた後、かつてのギアスを解き放ち、全ての記憶を取り戻していた。
 今はギアスすら失い、普通の少年として生きていた。
 と言っても、ライにとって、過去の記憶は楽しいものであるはずがない。
 恋人となって間もないカレンに打ち明けると、自分からいなくなってしまうようなことを言っていた。
 罪を犯したことによって、誰よりも他人に優しく、自分に厳しい人間となったのだ。
 そのことを、カレンは充分、理解していたから、何とか暗い気分から逃れたくて、明るい声を出した。
「優しいお兄さんね。久しぶりに好きな曲が聴けて、きっと妹さんも喜んでいるわよ」
「……どうだろうな。むしろ怒っているんじゃないか。ずっと放っておいてしまったから」
 今だに眼を落としたまま話すライの瞳が、カレンにはふと『灰色』に見えた。
 深い海の底のような蒼色のはずなのに、彼の髪よりも暗く、色としての機能が備わっていないグレー。
 唐突に、バイオリンの低い音が部屋に響き渡る。
 ライの指が、弦を弾いたためだ。
「僕は、家族どころか、国一つを滅ぼした愚かな王。今すぐにでも、あの世へ行って謝りたいくらいだ。だけど、僕には死ぬことができないから、罪を償えないから、こうしてのうのうと生きている」
 髪をなびかせて、ライは顔を上げた。
 カレンをじっと見つめる双眸は確かに蒼だけれども、憎悪と哀しみが交じり合った色でもあった。
 そんな彼と眼が合わせられなくて。合わせたくなくて。
 思わずカレンは顔を背けた。
「そんなに、自分が嫌い?」
「ああ。自分を自分で、何度も殺したいくらい憎い。それができないからと、自分が平凡な日常を送っていることも、全てが許せない」
 カレンは恐る恐る、ライの方へと向く。
 はっきりと憎しみが映された表情が、嫌でも眼に入った。灰色が濁った瞳が、怪しく光る。
 それは、彼女が愛した少年が作った表情とは、信じられないもの。
 何も言えないカレンを見据えて、ライは軽く鼻で笑った。
「初めて僕の過去を話したとき、君は言ってくれた。この世界は僕を受け入れたって。多くの人達が、真っ白だった僕にたくさんの色をくれて、世界はこんなにも色付いていることを教えてくれた。僕は、君達と一緒にこの世界で生きていこうと思ったよ」
 ライは一呼吸して、表情を一層険しく引き締めた。
「だが、未だに僕は『ライ』を憎んでいるんだ。罪を償いたいくせに、何もしていない僕自身もまた、ね。たくさんの命を消してしまった罪は、僕がけじめをつけなければいけないと思う。僕の十字架を、君に背負わせたくない。やはり、僕は」
「やめてッ!」
 突然、カレンが声を発して、ライは驚いて言葉を止めた。
「それ以上、言わないで……」
 普段の彼女とは想像がつかない、か細く震えた声で懇願する。
 カレンを悲しませてしまったことが、ライの憎悪の炎を急激に弱らせた。
「……ごめん。君を悲しみの色に染めたくない……」
「だったら、ここにいてよ。自分自身を否定するだけが、罪滅ぼしじゃないでしょう?」
「カレン。僕は数え切れないくらい多くの人達の生命を奪った大罪人だ。普通なら死刑だろう。
 契約のせいで死ねないと言っても、僕はもうギアスを失っているし、本当にもう死ねないのかはわからない。それなのに、僕は君達に甘えた……甘えて生きてきた。
 それがどうしても許せないんだ。死のうと生きようと、何の罪滅ぼしにならないかもしれないけど、万一、僕のギアスが蘇るようなことがあったら、また同じ過ちを繰り返すかもしれない。
 だったら、君達の前からいなくなった方がよっぽど賢い選択だ……」
 今この時、ライが何か刃物でも持っていたなら、すぐにでも自らの心臓に、首に突き立てていたのかもしれない――
 初めて過去を告白した時にも言っていた。「ここからいなくなる」と。この世界から、『ライ』という存在を否定すると。
 そしてカレンの答えも、以前と全く同じだった。即座に首を横に振る。
「違う。間違っているわよ、ライ。確かに、罪人には罰が必要だけど、罰は、罪人であるあなた自身が決めることじゃない……私達が決めることよ。自分で勝手に罰を決めて、自分だけで苦しむのは、もうやめて」
「じゃあ、教えてくれカレン。僕の罪を、どうやって償えばいい? ここに生きていていい存在なのか?」
 カレンは覚悟を決めて、ライの視線を正面から受け止めた。
 それは苦しみ。たった一人で苦悩し、傷を癒すことすら忘れた、強く心優しい少年が見せる弱さが込められた色。

659:  @代理投下
10/01/23 02:23:06 dmkaK31M
 その少年こそがライであり、目覚めた後、かつてのギアスを解き放ち、全ての記憶を取り戻していた。
 今はギアスすら失い、普通の少年として生きていた。
 と言っても、ライにとって、過去の記憶は楽しいものであるはずがない。
 恋人となって間もないカレンに打ち明けると、自分からいなくなってしまうようなことを言っていた。
 罪を犯したことによって、誰よりも他人に優しく、自分に厳しい人間となったのだ。
 そのことを、カレンは充分、理解していたから、何とか暗い気分から逃れたくて、明るい声を出した。
「優しいお兄さんね。久しぶりに好きな曲が聴けて、きっと妹さんも喜んでいるわよ」
「……どうだろうな。むしろ怒っているんじゃないか。ずっと放っておいてしまったから」
 今だに眼を落としたまま話すライの瞳が、カレンにはふと『灰色』に見えた。
 深い海の底のような蒼色のはずなのに、彼の髪よりも暗く、色としての機能が備わっていないグレー。
 唐突に、バイオリンの低い音が部屋に響き渡る。
 ライの指が、弦を弾いたためだ。
「僕は、家族どころか、国一つを滅ぼした愚かな王。今すぐにでも、あの世へ行って謝りたいくらいだ。だけど、僕には死ぬことができないから、罪を償えないから、こうしてのうのうと生きている」
 髪をなびかせて、ライは顔を上げた。
 カレンをじっと見つめる双眸は確かに蒼だけれども、憎悪と哀しみが交じり合った色でもあった。
 そんな彼と眼が合わせられなくて。合わせたくなくて。
 思わずカレンは顔を背けた。
「そんなに、自分が嫌い?」
「ああ。自分を自分で、何度も殺したいくらい憎い。それができないからと、自分が平凡な日常を送っていることも、全てが許せない」
 カレンは恐る恐る、ライの方へと向く。
 はっきりと憎しみが映された表情が、嫌でも眼に入った。灰色が濁った瞳が、怪しく光る。
 それは、彼女が愛した少年が作った表情とは、信じられないもの。
 何も言えないカレンを見据えて、ライは軽く鼻で笑った。
「初めて僕の過去を話したとき、君は言ってくれた。この世界は僕を受け入れたって。多くの人達が、真っ白だった僕にたくさんの色をくれて、世界はこんなにも色付いていることを教えてくれた。僕は、君達と一緒にこの世界で生きていこうと思ったよ」
 ライは一呼吸して、表情を一層険しく引き締めた。
「だが、未だに僕は『ライ』を憎んでいるんだ。罪を償いたいくせに、何もしていない僕自身もまた、ね。たくさんの命を消してしまった罪は、僕がけじめをつけなければいけないと思う。僕の十字架を、君に背負わせたくない。やはり、僕は」
「やめてッ!」
 突然、カレンが声を発して、ライは驚いて言葉を止めた。
「それ以上、言わないで……」
 普段の彼女とは想像がつかない、か細く震えた声で懇願する。
 カレンを悲しませてしまったことが、ライの憎悪の炎を急激に弱らせた。
「……ごめん。君を悲しみの色に染めたくない……」
「だったら、ここにいてよ。自分自身を否定するだけが、罪滅ぼしじゃないでしょう?」
「カレン。僕は数え切れないくらい多くの人達の生命を奪った大罪人だ。普通なら死刑だろう。
 契約のせいで死ねないと言っても、僕はもうギアスを失っているし、本当にもう死ねないのかはわからない。それなのに、僕は君達に甘えた……甘えて生きてきた。
 それがどうしても許せないんだ。死のうと生きようと、何の罪滅ぼしにならないかもしれないけど、万一、僕のギアスが蘇るようなことがあったら、また同じ過ちを繰り返すかもしれない。
 だったら、君達の前からいなくなった方がよっぽど賢い選択だ……」
 今この時、ライが何か刃物でも持っていたなら、すぐにでも自らの心臓に、首に突き立てていたのかもしれない――
 初めて過去を告白した時にも言っていた。「ここからいなくなる」と。この世界から、『ライ』という存在を否定すると。
 そしてカレンの答えも、以前と全く同じだった。即座に首を横に振る。
「違う。間違っているわよ、ライ。確かに、罪人には罰が必要だけど、罰は、罪人であるあなた自身が決めることじゃない……私達が決めることよ。自分で勝手に罰を決めて、自分だけで苦しむのは、もうやめて」
「じゃあ、教えてくれカレン。僕の罪を、どうやって償えばいい? ここに生きていていい存在なのか?」
 カレンは覚悟を決めて、ライの視線を正面から受け止めた。
 それは苦しみ。たった一人で苦悩し、傷を癒すことすら忘れた、強く心優しい少年が見せる弱さが込められた色。

660:  @代理投下
10/01/23 02:25:05 dmkaK31M
 その色を見たとき、カレンは不意に嬉しくなった。
 ライにこれほど罪悪感があるならば、何も言わずに、人知れず身を散らせていても不思議ではない。
 だが、その一歩手前でカレンを頼った。いつも一人で抱えてしまう彼が弱さを見せ、助けを求めてくれたのだ。

 この世界で生きていたいと、思っているから。

 カレンは柔らかく微笑むと、ライの頬を両手で包み込んだ。
 突然のことに戸惑ったライが、咄嗟に左手を彼女の手に重ねる。
「……『狂王ライ』は、国を壊し、多くの人々を殺してしまった。その罪は永遠に消えない。だから『ライ』は、この世界で、新しい世界を作るために働いてくれてる」
 ライが困惑してカレンを見つめるが、構わずに続けた。
「あなたへの罰は、ライとして新しい世界を作ること。それで充分でしょう?」
「……『かつてのライ』が犯した罪は、『今のライ』が生きて償う、ということか」
「そう。一度、あなたは眠りという罰を受けているわ。けれど、あなたは目覚めて、新たな罰を望んだ。なら、この世界で、またやり直せばいいじゃない。今度は壊すんじゃない、作っていくのよ」
 ――温かい雫が、カレンの指を濡らした。指を伝って、それがバイオリンの弦に落ちた。
 前髪を垂らし、顔を隠すようにしながら、少年は泣いた。
 カレンの手が、頬から首へと移り、そのままライを抱きしめる。
 ライは小さく震え、声も出さずに、涙を流し続けた。
 狂王の過去に捉われ、今の自分を一方的に嫌っていたライ。
 そんな自分を、涙に乗せて流していた。
 ライという自分の存在を認識していくことを感じながら。
 そして過去の自分も、今の自分も受け入れ、愛してくれる少女、紅月カレンという存在を噛み締めながら。
「ねえ、ライ」
 白銀の髪を愛しそうに撫でながら、カレンが言った。
「私はあなたと出会って、変わることができたわ。他の皆も、きっとそう思ってる。今だって、ライがいなかったら、特区日本なんて成立してなかったと思うし、これからも世界を変えてくれるって信じてるの。
当然だけど、壊すよりも、直したり、変えたりする方が凄く難しいわ。でも、私達を変えたあなたなら、きっとその力があると思う。もちろん、私も支えていくから。お願い、ずっとここにいて……」
 腕にこもる力が強くなる。
 それはライのものか、カレンのものか、それとも両方だったのか。
 二人の距離は、限りなくゼロに近づいた。
「も、もう僕は……」
 銀髪が隠していたライの顔がカレンの目前に晒された。
 いつもの冷静な彼とは思えない、傷つき壊れてしまいそうな少年の顔だった。
「一人じゃ、ないのか……?」
 ライは、ずっと孤独だった。王の力故に。
 彼をモデルにした物語もまた『一人ぼっちの皇子様』だ。
 王となって国や家族を失ったときはもちろん、今の時代に目覚めた時も、学園に迷い込んで来た時も、やはり『孤独』だったのだ。
 彼は罰を求めていたのではない。居場所を求めて彷徨っていた、ごく普通の、寂しがり屋の少年にしか過ぎないのだ。
 カレンもまた、家族が傍にいない孤独を知っている。レジスタンス仲間はいても、自分を支えるくらいの余裕を持つ人間はいなかった。
 自分を受け入れて認めてくれる、ライというパートナーが出来て、彼女は『孤独』から救われたのだ。
 同じような境遇で、彼を強く想っていたからこそ、全てを悟ることができた。ギアスの、本当の恐ろしささえも――
 離さない、と言わんばかりに、更に強くライを抱きしめた。
「ええ。もうあなたは一人ぼっちじゃないわ。自分を押し殺して、無理をしなくてもいいの。ライを一人になんかさせない、私が、ずっと一緒にいてあげる……」
 カレンが言い終わると、儚げだったライは、力無く笑っていた。
 その笑みが、だんだんとライに、本来の色を取り戻させていく。
 ライは拳で、濡れた頬を一気に擦った。
「……また、君に色を貰ったな。ありがとう、思い出させてくれて」
 特別な相手だけの、特別な笑顔を彼女に向ける。
 ライの眼はもう、『灰色』ではなかった。ライだけが持つ、世界でただ一つの色。
「ふふ。もう失くさないでよ?」
 こちらも、満面の笑みで返す。
 戻ってきたライの色は、カレンには以前よりも誇らしげに光っているように思えた。
 ――私の大好きな色。ライには二度と失ってほしくない。
 そんな祈りを込めて、カレンはライに抱きついて唇を重ねた。
 ライの涙が落ちたバイオリンの弦には、恋人達を祝福するように、夕日の光を反射して美しく輝いていた。

661:  @代理投下
10/01/23 02:28:32 dmkaK31M
以上で投下終了です。こんな感じでいいのでしょうか……?

「ルルーシュがピアノを弾けるなら、ライはバイオリンだ!」という妄想から生まれたSSですが、
何故か過去話が出てきてしまいました。シリアスしか書けないのは何故。
曲名は適当です。自分では、東方の上海紅茶館をイメージしています。

こんな駄文を読んでくださった方、ありがとうございました。それでは。

/////
以上です。
659でダブりを投下してしまいました。ごめんなさい。

良い話でした。初投下乙です。GJ。

662:創る名無しに見る名無し
10/01/23 12:25:11 Z4FKzXGT
初投下、乙。ライにバイオリンがはまりすぎー
あと、段落が多いのが気になりました。
代理投下の方も乙でしたー

さて、>>661で498.7kB。ギリギリですね。次スレ建ててみます。
建設完了報告は、SSスレ 32(新スレ誘導用)スレリンク(gal板)
しますので、引き続き感想どぞ~

663:創る名無しに見る名無し
10/01/23 21:51:23 SUVAZ6Lg
>>661
代理投下の方も、執筆された方もお疲れ様でした
改めてゲーム副題の”lost colors”の意味を考えさせられたというか…いいですね
起承転結があって、ハラハラさせられたり優しい気持ちにさせてくれたり、
これぞSSって感じで良かったです。

ギアスは本編でも版権絵でも、あまり音楽的な関わりのある画や話はなかったけれど
バイオリン姿のライは何故か目に浮かぶようです。
ライは近代のピアノなんかはまだない時代の人だったのかなーとかあれこれ想像したりw
(ちなみにルルーシュはメロディーカードコレクションの絵でバイオリンも持ってましたね…なんでもできすぎ)

664:創る名無しに見る名無し
10/01/23 23:17:50 vZDPzJuj
バイオリンもルルーシュに取られてるのか…じゃあ何だろな、オルガンとか?w
ところでライって不死ではなかったよな


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