09/06/29 00:55:17 S1lrivF5
タウエルン強えぇー!ナノマシンが極悪過ぎる。
けど、これならOP風で思いっきり無双出来ます。
302:創る名無しに見る名無し
09/06/29 05:49:40 oHYZVw4R
ターンエーターン!
しかしエネルギー切れでダルナス相手には苦戦必至?
強力だけど分かりやすい弱点があるっていうのはいいな。
303:パラベラム! の人 ◆1m8GVnU0JM
09/06/29 13:25:00 lP/f214g
タウエルンは今回も絶好調でぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁる!!
圧倒的じゃないか……。
前回から物語が急激にスピードアップし始めましたね! こいつは次回も楽しみだっぜ!
久々に1スレ目を読み返したんですが、火炎車の名付け親こと1スレ目の>>995がまさか自分だったとは思わなんだ。
◆46YdzwwxxUさん、採用してくださってありがとうございます!
さてさて、今日こそ投下……できるかなぁ、できるといいなぁ
304:創る名無しに見る名無し
09/06/29 15:31:15 1Z+upu8O
>>292
ザコダ1010(せんとう)印
金魚鉢のような頭部と骨のペイントが特徴的な機体
いっちょまえにマシンガンと刀で武装している。恐ろしく弱い
>>300
乙であります
なんというエネルギー切れフラグ……
確かにタウさん燃費悪そうだもんなぁ……
ともあれ続き楽しみにしてます
所で◆gD1i1Jw3kkさんってスパロボに参加しない作品に対して割りと冷たいですよね。こういうこと言っちゃ悪いとは思いますけど
305:パラベラム! ◆1m8GVnU0JM
09/06/29 17:25:40 lP/f214g
さて、これより投下を開始しようかと思います
それにしても今回はいつになく長くなってしまった……
306:パラベラム! ◆1m8GVnU0JM
09/06/29 17:27:41 lP/f214g
両手に持った二挺のレーザーライフルでウサギと黒騎士それぞれにピタリと狙いを付けながら、そのオートマタは言った。
<まさか、こんなに早く君が現れるとはね。リヒター……リヒター・ペネトレイター>
猫を彷彿とさせるしなやかな蒼いボディ、男とも女ともつかない中性的な声。長い尻尾が落ち着き無く揺れる。
パラベラム!
Episode 06:----それでは諸君、慎ましくいこう。
<……誰だ、貴様は>
唸るような低い声で、黒騎士。戸惑いを隠し切れていないのか、声が少し震えている。
<へぇ、メモリーを消したのか。……あるいは、消されたか。……まあいいや。私の名前はフェーレス。以後お見知り置きを>
クスッ。小馬鹿にしたような笑いを漏らす、蒼い猫。相変わらずその長い砲身はピクリとも動かない。
<何の事だ……!>
<だから壊れかけのレディオですか、あなたは。ほら、落ち着いて深呼吸してください。ひっ、ひっ、ふー>
……ラマーズ法?
遥が首を傾げたその時だ。
「お嬢さん」
リヒトが遥を呼び止めたのは。
♪ ♪ ♪
<面白い子だね、キミ。やられるかもしれないのにそういう事が言えるなんて>
<そんなに褒めないでください、惚れてしまいます>
ウサギが演技がかった動作で頬に手を当てる。
「いやお前、ありゃ馬鹿にされてんだ」
<ですよねー。……さてと、ひとつ質問してもいいですよね>
断定口調。ウサギはどうにも強引だった。
<許可しよう>
同じく余裕たっぷりのフェーレス。
<そこにいるのは、誰ですか……!>
<嘘だ! 反応なんて無かっ>
しかしその余裕はすぐに消滅した。振り返れどもそこには何も無い、誰もいない。
<しまった!?>
気付いた時には、もう遅い。
「よし、行け! ゴー!」
「は、はいっ! GO Ahead!」
すぐさま指示を飛ばす。
<イエス・マイマスター>
「ハーシェン、お前も!」
<合点承知の助!>
黒騎士と白ウサギの二機が同時に飛び掛かった。
<かかったなアホが!>
狙いは長い、その砲身。がっしとつかんで、ブン投げる。くるりくるりとレーザー砲が宙を舞った。
307:パラベラム! ◆1m8GVnU0JM
09/06/29 17:28:51 lP/f214g
<やったね……!>
飛びすさり、距離を離す。その声音に、先程の余裕は無し。
<……形勢逆転だ>
<でも、まだだ、まだだよ。レーザーを取られたぐらいじゃ>
フェーレスのマニピュレーターから、五本の光刃が飛び出した。
<私に勝ったとは言えない!>
鋭い眼光、揺れる尻尾。四脚で立つその姿、それはまさに猫そのもの。
<……所謂本気モードですか。まあ、勝たなくてもいいんですけどね>
幼い声で嘲笑うウサギ。
<……まさか!>
「黒騎士さん、ウサギさん、下がって!」
<イエス、マイマスター>
<では、ごきげんよう>
遥が、大きく振りかぶって、円筒状の物体を----
「とーんーでーけぇぇぇぇぇぇ!!」
投擲。結構な速度で弧を描いて飛んでいく、その物体は本日二つ目の白燐超高熱(中略)発煙化学爆弾。またの名を、煙幕という。
<閉所でこんな物を!?>
「駄目押しだ、こいつも持っていけ!」
ロッドを地面に突き立てて、ライフルを召喚。フェーレスがスモークグレネードに気を取られているところに特製のペイント弾を叩き込む。
<ああ! 目が! 目が!>
命中。カメラ・アイが塗料によって朱に染まる。それと同時に白燐(中略)焼夷弾頭型(後略)が破裂、部屋中に煙が広がった。
「よし、逃げるぞヘーシェン! お嬢さんも!」
ライフルを捨てながらリヒトが促す。ライフルは光の粒子となって消えた。
<言われなくても脱兎の如く。光の速さでスタコラサッサですよ>
「はい! 行こう、黒騎士さん!」
<イエス、マイマスター>
走り出す、各々マスターを背に乗せて。
フェーレスがこちらを追い掛けてくる気配はない。
ミッション、コンプリート。
♪ ♪ ♪
走り続けて数十分、流石にもう大丈夫だろうと街道に出て歩を休める。
「落ち着いたところで、改めて自己紹介タイムといこうか。俺はリヒト・エンフィールド。見ての通り、通りすがりの神子様だ」
近くにあった手頃な岩に腰掛け、腕を組みながら、リヒト。
<とんだ不良神子の穀潰しですけどね>
「お前は黙ってろ。こいつはヘーシェン、俺のパートナーだ」
<ヴァイス・ヘーシェンです。……謝って済む事ではないかもしれませんが、先程は壮大な勘違い、失礼いたしました>
ゆっくりと、丁寧に頭を下げる。
「いえ、こちらこそありがとうございました。……もし黒騎士さんとあなたがたの助けが無かったら私きっと殺されてました。あ、私 一条 遥 といいます」
「いや、当然の事をしたまでさ、遥ちゃん」
爽やかな笑みでサムズアップ。
<あ、剃り残し>
308:パラベラム! ◆1m8GVnU0JM
09/06/29 17:32:26 lP/f214g
ぶちっ。ヘーシェンの、見かけとは裏腹に細やかな作業を可能とするマニピュレータが、リヒトの剃り残しを根本から引っこ抜いた。
「へあ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙!!」
爽やかスマイル台無し。服が汚れるのも構わず、地面をのたうちまわる。
「何すんだテメー!!」
しかし復活は早かった。無駄の無い動作で起き上がり、
「ここまでカッコ良くキメてたのに台無しじゃねーか!」
びしりとヘーシェンを指差す。
<所詮は三枚目という事ですよ>
「せめて二枚目半と言え!」
「ぷっ……ふふっ」
目の前で進行する台本の無いコントに、遥が思わず噴き出した。
「今、誰か俺を笑ったか?」
<あげゃげゃげゃげゃげゃ!!>
「笑うなぁぁぁ!!」
手近に転がっていた小石をヘーシェンに向かって全力で投擲。カチンと虚しい音を立ててそれは弾かれる。余りにも情けない光景に、遥は笑いを隠し切れない。
「ふふっ。いつもこんな感じなんですか?」
「いんや」
<ここにさらに五人加わります>
「五人も!」
遥が驚きの声を上げる。それだけの人数がいたら、どれだけ賑やかな事だろう。二人でこれなのだ、きっと毎日が楽しいに違いない。
「すっごく楽しそうですね。いいなぁ」
「君にもいるじゃないか、相棒が」
リヒトの向ける視線の先、おいてけぼりを食らっていたリヒターがぴくりと反応した。
<何かご用でしょうか、マスター>
それはまるで「待て」を命じられていた犬のようで。
「あ、今は」
<現在自己紹介タイム、あなたのターンです>
……間が悪い。
<了解いたしました。私はM-12>
「型式番号ジャネーヨ、名前聞イテンダヨ」
青筋を立ててメンチを切るリヒト。何故かひどく片言だ。
<名前はまだ>
「リヒター・ペネトレイター……だよね?」
名前はまだ無い、そう言おうとした黒騎士を遮る遥。
<……イエス・マイマスター>
黒騎士はそれを静かに肯定した。
♪ ♪ ♪
「リヒター……ウーン、いい名前じゃないか。俺の名前と似てるところとか特に」
<あまり縁起のいい名前ではありませんね、改名を推奨します。もっとカッコイイ名前にしましょう、ネオブラックドラゴンとか>
「待てやコラ」
そんなやり取りを遠い目で見ていた黒騎士改めリヒター、指の触覚センサーに反応を確認。頭部を巡らせると、
「あの、リヒターさん」
三つ編みの少女がこちらを見上げていた。
<リヒターで構いません。……何でしょうか、マスター>
「じゃあ、リヒター。色々聞きたい事があるけれど、今はひとつだけ質問します」
<はい>
「私には神子としての素質はありません。このまま私と契約を結んでも、待っているのは穏やかな死です。……それでもいいの?」
309:パラベラム! ◆1m8GVnU0JM
09/06/29 17:33:55 lP/f214g
<私の目的はマスター、あなたの護衛です。それにお言葉ですが、マナの使役は不可能ではありません>
リヒターは言った。まだ芽吹く前の種子であるというだけだ、と。
「その根拠は?」
<“賢者の石”です>
「賢者の石……」
そういえば。遥は細身の襲撃者が言っていた事を思い出す。
----ソレサエアレバ、忌マ忌マシイ神子共ニ尻尾ヲ振ル必要モ無イ----
<賢者の石はマナを無限に生み出し続ける永久機関だという情報があります。真偽は定かではありませんが、それが本当だとしたら>
本来、神子がマナを使役する時は各地に散らばる“管理者”の端末装置にアクセス、許可を貰ってマナを提供してもらう必要がある。しかし自分でマナを作り出せるのなら、許可を貰う必要は無い。才能だって、必要無い。
「でもそれってズルなんじゃ」
<はい。それに管理者にアクセスできない以上、本来得られる管理者からのバックアップを得られない、一度に大量のマナの供給ができない等の様々な制限が科せらせます。しかしマナの使役に慣れれば、そのうち管理者へのアクセスも可能になるでしょう>
「……そういうものなの?」
<はい、データによるとそういうものだそうです>
「……はあ、さいですか」
なーんか胡散臭い。
<ただ、いくつか問題があります。ひとつは、アクセスが可能になるまで----つまり神子になるまで時間がかかる事。もうひとつは、インストラクターが必須だという事です>
「ははぁ、インストラクター……」
つまり誰かに弟子入りしなければならないという事だ。しかし、
「いるかなぁ、そんな人……」
<お手数をおかけします>
リヒター、謝罪。平淡だがどこか沈んだ声は、まるで叱られた犬のようだった。
「あ、いいのいいの。いつまたああいう類の奴らが“賢者の石”とかいうのを狙って襲い掛かってくるかわからないし」
----前から欲しかった相棒もできたしね。と、胸中で付け加える。
「でも、インストラクターなんてどこに……あ」
「君達、何をコソコソしとるんだね? ウン?」
<えっちなほんですか? 先生にも見せなさい>
白ウサギとそのマスター、来襲。白ウサギはいつの間にかその姿を金属性のロッドに変えていたが。
そこで遥は気付いたのだ。
そういえば、彼……リヒトは神子じゃないか、と。
いっその事彼に弟子入りしてしまうのもアリかもしれない。が、向こうがOKを出してくれるかはわからない。……そんな事を考えていると、予想外のチャンスが舞い降りてきた。
「そういえば遥ちゃん、君はこれからどうするんだ? 少なくとも、元の生活には戻れないとは思うけれど……。リヒターの事もあるし、なんならウチに来るかい?」
今度こそ爽やかスマイル成功。もう剃り残しは抜かせない、触らせない。
<うわ、こんな可愛い娘を身ぐるみ剥いで売りに出す気ですか。最悪ですね>
<その場合は実力で排除します>
<なら安心ですね、その時は私も協力します>
<感謝します、ヴァイス・ヘーシェン>
「うっせーぞ外野。……で、どうかな。きっと俺の仲間達も歓迎してくれると思うんだよ」
遥に向かって右手を差し出す。
<今なら漏れなく不良神子の自堕落な本性も付いてきますよ。夜な夜な部屋に入って来て破廉恥な事されます>
<その場合は実力で排除します>
<なら安心ですね、その時は私も協力します>
<感謝します、ヴァイス・ヘーシェン>
「お前ら海に沈めるぞコラ。……さて、気を取り直して。どうする?」
聞かれずとも、遥の答えは決まっている。
「よろしくお願いします、リヒト・エンフィールドさん」
その手を握り、朗らかに笑う。心中で「やった」と小躍りしながら。
「ああ、こちらこそよろしく」
リヒトも同じく笑みを返した。心中で「計画通り」とニヤつきながら。
310:パラベラム! ◆1m8GVnU0JM
09/06/29 17:35:07 lP/f214g
♪ ♪ ♪
<ああ、くそっ!>
カメラに付着した塗料を洗浄液とワイパーが自動で洗い流す。カメラは回復したが、視界は真っ白だ。
<しかし私に勝ったと思ったら大間違いだぞ!>
----視界が晴れたと同時に切り刻んでやる。
低く構える、視界が晴れる。
が、
<----あれ?>
目の前には、誰もいない、何もない。という事は、つまり、
<に、逃げた! 私から! 私から逃げた! 逃げられた!>
悔しさにわなわなと震える。フェーレスはドジなくせにプライドが高いのだ。
<はっ。あんな嘘に引っ掛かるなんて、とんだおバカさんね>
頭上から響く、人を小馬鹿にしたような笑い声。その声は高くて、幼い。
<だ、黙れシュヴァルツ!>
<黙るのはそっち! これはあんたのミスでしょうが!>
<や、奴が……機械人形殺しが来たのかと思ったんだ! 機械人形殺しは貴様だって怖いだろう! 貴様だって!>
<近付かれる前に気付けるもん、あたしなら。それに、結局何もいなくて、目標には逃げられて、戦力も失ったじゃない。これをバカと言わずして何と言うのよ?>
<ぐっ……>
言い返せずに歯噛みする。
<……いつの間にここは動物園になったんだ>
また新たな声。今度の声は低く、唸るような、大型の肉食獣を彷彿とさせる声だ。
<レオンは黙ってて!>
幼い声----シュヴァルツが低音ヴォイスのレオンに噛み付いた。
<喧嘩をしとる場合ではないだろう>
またまた新たな声響く。次の声は老獪さを感じさせる、老人の声。
<そうそう、過ぎた事でウジウジしてても仕方ないじゃない?>
続いて悪戯っぽい妙齢の女性の声。
<虎徹のじーさんとムジナちゃんの言う通りだ。喧嘩はよくない>
さらに飄々とした若人の声。
<むっ……。わかったわよ、トゥグリル>
シュヴァルツが渋々引き下がる。その声音から、むすっとふてくされているであろうという事は想像に難くない。
フェーレスがほっと溜息をついた。
<皆、いるようだな>
その時響いた、キザっぽい男の声。
<遅かったな、フラガラッハ>
<私も暇ではないのでな、レオン>
フッ、とフラガラッハがキザっぽく笑う。
<さて、フェーレス>
<あ、ああ>
緊張で、尻尾が固まった。
<貴様のドジは今に始まった事ではないので良しとしよう。そもそも今回は顔見せだ。多少ナメられた感があるのは否めないが>
<すまない……>
<それよりも、だ!>
声を張り上げる。
<“彼”が目覚め、賢者の石のありかのひとつが判明した。状況は新たな局面を迎えたと言えよう。……だが、まだ大規模な行動を起こすには戦力が足りない。よってしばらく諸君らには耐えてほしい。今までの通り、散発的なゲリラ活動を頼む。以上だ>
最後に少しの間を置いて、フラガラッハは悠然とした態度でこう締め括った
<----それでは諸君、慎ましくいこう>
地下で暗躍する、その組織の名はアンサラー。メンバーの大半が機械人形で構成された、正体不明の反動勢力である。
次回へ続くッ!
311:パラベラム! の人 ◆1m8GVnU0JM
09/06/29 17:42:25 lP/f214g
今日はここまで!
まだ味方のレギュラーキャラが5人出ていませんが、今回で序章となる『邂逅篇』は終了です。ここまでお付き合いいただいて、ありがとうございました。
次回から、まったりゆるゆるな(そうでもない)『神子見習い篇』が始まります、そちらのほうもお付き合いいただければ幸いです。
しかし、けっこう書いたと思ったら、そうでもなかったですね。意外だわ……。
312:創る名無しに見る名無し
09/06/29 21:27:01 oHYZVw4R
どもっす
>>303
こちらこそありがとうございました
火炎車は名前決めてから「どうやって熱くしよう」とか考えてました
それまではあまり特殊機能は使わない方向で技を作っていたので
いい意味でふっきれたきっかけになった技でもあります
パラベラムはこれまで以上に物語が大きく動き出して期待大です
ときどき童話的?というか独特なリズムがあって私好み
313:パラベラム! の人 ◆1m8GVnU0JM
09/06/30 01:44:28 91CNUjdt
>>312
自分、まさかああいう形で熱を発生させるとは思いませんでした。アイデアの勝利ですね!
そういえば、没になったという『大スプリガン』
スパロボに出すってぇのはどうでしょう。……いやまあスパロボ企画そこまで進んでませんけど。
というか今まで物語が動いてなかっただけなんですけどね! まさに今始まったばかりです、はい。
リズムに関しては、けっこう無意識のうちにああいう感じになります。幼い頃によく絵本を読んでいたせいかもしれません。
314: ◆gD1i1Jw3kk
09/06/30 03:36:03 LV/t84MO
企画が進んでないなら進めればいいじゃない!
という訳で(?)OP風3、投下です。
315:スーパー創作ロボット大戦OP風3
09/06/30 03:36:54 LV/t84MO
鋼獣(メタルビースト)へ全速で迫るリベジオンの肩を蹴り、魔王ラウディッツは放たれた砲弾の如き凄まじい勢いで天高く飛び立つ。
生身の人間なら確実に死ぬ音速を超える速度で飛翔しながらも、外見は人と変わらぬ彼は苦痛を感じる所か穏やかな微笑を浮かべている。顔以外の首から下を完全に覆う黒衣が翼のように広がりはためく。
一気に懐へ入り込んだリベジオンは腰から引き抜いた大きな黒槍を鋼獣(メタルビースト)の喉元に突き刺す。機体から走る紅い閃光が軌跡となってなだれ込み、黒槍の矛先に収束していく。
矛先の空間が歪み始める。 歪みは紅の光を通し、一点の大きな光となっていく。 そうして集められた光をリベジオンは黒槍にあるトリガーを引く事で解放した。
閃光。
それは指向性を持った強大なエネルギーとなって黒槍の矛先から解放され鋼獣(メタルビースト)の巨躯を体の中から蝕む。
貯蓄した力の全てを放出するように体の中を駆け巡り、肉体を陵辱し、存在を蹂躙し、それがそこにいたという事実を消滅させていく。 そうして鋼獣(メタルビースト)は塵芥残さず消滅した。
仲間を一瞬で葬ったリベジオンを敵と見なし向き直る九体の鋼獣(メタルビースト)だが動きが遅過ぎた。既にリベジオンは別の鋼獣(メタルビースト)の体を黒槍で貫き、先程のように容易く消滅させる。
同じやり方で六体の鋼獣(メタルビースト)を滅ぼした所でリベジオンは黒槍を腰に戻す。残り二体の内一体が突撃してくる。
リベジオンは再び黒槍を取り出しもしなければ回避もせず、向かってくる鋼獣(メタルビースト)に全速飛行、凄まじい相対速度によって一気に距離を詰めると大きく広げた右手を突き出し、腕を鋼獣(メタルビースト)の体にめり込ませた。
鋼獣(メタルビースト)の弱点である胸元の装甲の奥にあるコアを掴んで引きずり出し、血管のように繋がっている十数本の配線を力尽くで無理矢理引き千切り、握り潰す。
コアを取り出され潰された鋼獣(メタルビースト)は糸が切れた人形のように停止し、地表へ落ちていく。
リベジオンの肩、膝、背が展開して各部から紅い光りが迸る。漆黒の御身に紅蓮の光を纏う機械仕掛けの悪魔。まるでそれはこの世に破滅をもたらす魔王のように見えた。
だがリベジオンは、黒峰潤也は理由はどうあれ確かに人類を救う為に戦っていた。もう一人の魔王も。
上空から降り注ぐ炎が最後の鋼獣(メタルビースト)を覆い尽くす。ラウディッツの放った大魔法である。
「地獄の炎だけでは満足してはもらえないだろうな」
もがき苦しむ鋼獣(メタルビースト)を覆い尽くす炎が氷に変わり、炎状の氷に包まれる。
「心を凍てつかせる終焉の氷結でもまだ足りない」
ラウディッツの手から放たれた雷が氷に包まれた鋼獣(メタルビースト)を撃つ。氷が砕け散り周囲に飛び散る。
「魂を打ち砕く神の怒槌(いかずち)、遠慮無く受け取りたまえ」
ラウディッツは腕を掲げ、指を鳴らす。同時に鋼獣(メタルビースト)の全身が粉々に砕け散った。
「満足して頂けたようで何よりだ」
鋼獣(メタルビースト)の全てが二人の魔王によって殲滅された。しかし、戦いはまだ終わらない。
316:スーパー創作ロボット大戦OP風3
09/06/30 03:37:51 LV/t84MO
廃墟となったビルが墓標のように林立するゴーストタウンに、身の丈五m程はある昆虫の姿をした敵が次から次へと来襲する。
魔族。
ヴァドル隊、清水静の超重装甲強化服改、黒峰潤也のリベジオンが迎撃に出る。魔王ラウディッツも。
姿形が全く異なるとはいえ同じ魔族に遠慮も情けも無く大魔法を連発し、塵へと変える。戦闘を続け、十体程滅ぼした所で、ラウデッィツは見知った姿を目撃する。
攻撃の手を止め、空中から地表のズタズタになった道路へ降り立つ。相手も同じように、静かに降り立ち対峙する。ラウディッツは自分より遥かに大きな相手を見上げる。
幾つもの節に分かれた胴体は、縦長の楕円立体。空気を弾き飛ばせそうな肉厚な二本腕には、兇悪な棘がびっしりと並ぶ。正面から見て体幹をはみ出すほどに大きい、翼とも脚ともつかぬ何かを背負っていた。
更に仰げば、太陽を食らうように、昆虫のカミキリムシを思わせる奇妙な貌がある。禍々しい重甲殻で全身を覆った、漆黒の巨体。巨大にして頑強極まる異形の体躯に、人類の修めた物理から遥かに隔絶した異能の力を宿す。
「御久し振りで御座います、ラウディッツ殿」
昆虫の姿をした異形の怪物は、彼らが見下す人間には決して行わない丁寧な口調で静かに語る。
「ドルンドメオンか、久し振りだな」
敵意の全く無い穏やかな口調でラウディッツは呟く。黒の瘴気を纏った魔族ドルンドメオンは禍々しい外見には似合わぬ丁寧な口調で続ける。
「ラウディッツ殿、お戯れはもうお止めになってはいかがですか。貴方程の御方が人族などの味方をするなど、貴方様の品位を下げるだけで御座います」
「戯れ、か」
ラウディッツは目を閉じ、小さく呟く。
「確かに、姿形が全く異なる種族とはいえ、同じ魔族同士。戦いたくない気持ちはこちらも変わらぬ。人間がどうなろうが知った事ではないしな。だが、日出ずる国に手を出すなら話は別だッ!」
ラウディッツは閉じた目を開き、赤眼がドルンドメオンを射抜く。実体化した黒と赤の禍々しい濃縮な魔力がオーラのように全身から噴き出す。魔王の覇気に晒されたドルンドメオンは脚を後ろへ下げそうになり、こらえる。
317:スーパー創作ロボット大戦OP風3
09/06/30 03:39:31 LV/t84MO
「ならば、ラウディッツ殿。答えは一つですな」
「そういう事だ」
ラウディッツは拳を固く握り、ドルンドメオンを睨む。ドルンドメオンの体は細かく震えていた。恐怖、否、歓喜の武者震いであった。魔王と戦うなど一生に一度あるかないかである。自身が尊敬の念を抱くラウディッツが相手となれば尚更。
互いに隙を伺い合い、両者が同時に踏み込もうとした、その瞬間。
「ラウディッツ殿。申し訳ありませんが、貴方と戦う前に勝敗を決しなければならない相手がおります」
ドルンドメオンは構えを解き、ラウディッツの後ろを見ている。ラウディッツは後ろを振り向き、微笑を浮かべる。
「そうか、先約がいたか。ならば仕方が無い」
そう言うと、ラウディッツは空へ飛びその場から離れる。入れ替わるように、ボロボロの道路をスーパーカーが駆け抜けてくる。流麗なフォルムをした超高性能乗用車、透き通る空のような鮮烈な青。
『フォルムチェンジッ、ロボットフォルム』
それは、スーパーカーが放った声であった。青い車体が前転するように起き上がる。屋根側は、変形後の背面に相当する。変形を終えたスーパーカーは、正しく機械仕掛けの巨人。スーパーロボットと言えた。
車輌形態の美麗な曲面と目映い青色を受け継いだ、芸術のような機体。目鼻口の揃った精悍な貌には光があった。 巨人は自然体に構える。前腕と下腿に移動したタイヤを、慣らすようにわずかに回転。
「待っていたぞ、人族のカースト。否、瞬転のスプリガン!」
ドルンドメオンの歓喜の叫びが、荒廃した都市に響き渡る。
「ドルンドメオン、今日こそ決着を着ける」
極超音速という神速の挙動と、ミクロン単位という極微の制動とを可能とする、エーテル圧式打撃マニュピレータの油断も隙も無い完璧な構え。スプリガンとドルンドメオンは同時に踏み込み、両者の拳が激突。
青い稲妻と化した生ける鋼鉄スプリガンと、黒の瘴気を纏った魔族ドルンドメオン。二大巨人の想像を絶する激戦に、一帯の次元と空間さえ歪んで見えた。
318: ◆gD1i1Jw3kk
09/06/30 03:41:18 LV/t84MO
以上!
次がタウエルンとパラベラム、その次がネクソンクロガネで終わりの予定です。
319:tauerun
09/06/30 09:09:41 /LUYZZkw
ちょっとした事情で酉を付けられませんorz
感想の程、ありがとうございます
まだまだタウエルンにはビックリ機能があったりなかったり。期待しないで待っててください
後ガス欠フラグですがこちらもまぁ……w
>>311
乙です!掛け合い良いですね~
リヒトが良いキャラしてます。敵組織の今後も含め次回にwktk
>>318
乙です!巨人同士の激戦にビリビリ来ますよ
雌雄を決するまでが凄く激しそうな戦いだなぁ…
今回は前回の後編ということで
戦闘シーン自体はありません。ごめんなさい
320:tauerun
09/06/30 09:11:05 /LUYZZkw
<6,反旗(後編)>
「俺はこのまま、シュワルツの思うがままには絶対にならない。このままこの村から出ていくくらいなら、一矢報いてやる。
今日の深夜、俺は持てるだけの武装をして、シュワルツのアジトへと乗り込む。もしシュワルツに一矢報いる事が出来なくても……」
そう言いながら、ギーシュは懐から何かを取りだした。それは紛れもなく……。
「……ちょっとギーシュ、それって!」
メルティの甲斐もあり、調子を取り戻したクレフが、ギーシュが握っている物に声を出した。
ギーシュの手には、警告マークが記された、赤色のダイナマイトが握られていた。無論導火線を完全に切ってはあるが。
「俺はこいつを身に纏って、奴の飛行船に風穴を空けるか、もしくはたかって来た黒騎士共をあいつの目の前で木っ端みじんにしてやるんだ。
既に俺の計画に賛同してくれている奴がいる。立ち上がってくれ」
ギーシュがそう言うと、1人、また1人が立ち上がり、延べギーシュ含めた12人が立った。
そのメンバーは皆、恋人も家族もいない。だが、ある共通点を持つ男たちだった。共通点に気付いたクレフが驚嘆する。
「……なんで、何であんた達が賛同してるの!?」
ギーシュ含めたメンバーは皆、クレフと同じ炭鉱業で働く男達だ。筋骨隆々な男達で、戦力にはなりそうだがそれとこれと話が別だ。
ギーシュの悲痛な面持ちから分かる通り、どう考えてもこの戦いに勝ち目など無い。クレフは激哮する。
「ギーシュ! 今すぐこんな事やめてよ! 死んじゃったら……死んじゃったら何の意味もないじゃない!
また別の土地で皆で暮らしていこうよ! 生きていれば……生きていればきっと」
言葉に詰まり、目に涙をためるクレフの肩に、ギーシュは両手を乗せ目を合わせる。そしてゆっくりと諭すように語りかける。
「クレフ、俺達は死にに行くんじゃない。男として、全てを奪った悪漢を倒しに行くんだ。
男にはな、どうしても立ち向かわないといけない時がある。今はその時なんだ。分かってくれ」
ギーシュの言葉にクレフは足から崩れ落ちる様にその場にしゃがみこんだ。メルティがすかさず寄り添う。
321:tauerun
09/06/30 09:12:14 /LUYZZkw
「ギーシュ、本気なのか?」
今まで静かに話を聞いていたトニーが、堪えかねた様にギーシュに話しかける。
「俺は親友として、お前には死んでほしくない。思いなおす事は、出来ないのか……」
トニーの言葉にギーシュは小さく首を振る。
「何時かこうなる事は分かってたんだ。それが少し早くなっただけさ」
「ギーシュ……」
「トニー、お前はメルティとクレフを守ってくれ。それがお前の役目だ」
ギーシュは村人達1人1人の顔を見まわし、言葉を紡いだ。
「このメンバーで、俺達は最後まで奴に抵抗したいと思う。志願者は、良く考えてから俺に申し出てくれ。
恐らく、いや、絶対に生きちゃ帰れない。この戦いは良くて相打ち、それか死ぬだけの戦いだ。
あらかじめ言っておくが、妻帯者や家族がいる奴は入れん。自分の大切な人を守れ。ひとまず話は以上だ。後で避難ルートを教える。
それと、俺の指示があるまで酒場から出ないでくれ」
その時、酒場の窓ガラスが一斉に割れるほどの轟音が、外に響いた。まるで大地震の様にテーブルが震えだす。
「伏せろぉぉ!」
ギーシュが叫びながら、村人達にテーブルの下に隠れるよう、指示を出す。数秒後、その音が止む。
入り口付近に見覚えのあるシルエットが浮かぶ。何者かが、ドアを蹴り上げて入店してきた。ギーシュはゆっくりと立ち上がり、ドアに視線を向ける。
そこには、あの男が悠然とギーシュに向けて軽薄な笑みを浮かべて立っていた。
「着様……!」
「先程振りだな、お留守番男。退去の支度は終わったか?」
ギーシュに全ての終わりを告げた大男の片割れ――レフトがライフル銃の銃口を、ギーシュに向けた。
ぞろぞろと、黒騎士達が店内に入ってくる。村人達が怯えて身を寄せ合う。レフトはふっと笑うと、そこにある椅子に腰を下ろした。
「まぁ落ち着け、お留守番男。お前達の退去を邪魔しに来た訳じゃない。俺が用があるのは……トニー・クロウス。お前だ」
レフトが銃口を、しゃがんでいるトニーに向ける。トニーはクレフの台詞に戸惑った。クレフが何を言いたいのか、何となく、分かった。
「お、俺にか? 何、何の用件かな」
トニーは自分自身の震えを抑える為に、無理やり膝元を立ち上げた。クレフは一転厳しい顔つきになり、その用件を話し始めた。
「さっきは驚いたぞ。まさか黒騎士共をあそこまで叩きのめすとはな。それにライトまで殺すとは全く……人は見かけによらない者だ」
レフトの言葉に村人達がどよめく。そしてギーシュも怪訝な表情で、トニーを見つめる。
322:tauerun
09/06/30 09:13:24 /LUYZZkw
「で、ここからがお前に聞きたい事だ。黒騎士達を倒したあの自動人形は、お前の所有物か?」
一瞬空気が凍る。トニーは自分の足元が揺らぐ感覚に陥る。
村人達が一斉に、トニーに視線を向けた。その視線には様々な思惑が含まれている。
ギーシュが戸惑いと疑問が入り混じった複雑な表情で、トニーに問う。
「……どういう事だ、トニー。お前は……」
「質問しているのは俺だ。黙ってろ」
天井に向けて、レフトが銃声を鳴らした。ギーシュはくっと歯ぎしりをして俯いた。
「どうなんだ? トニー・クロウス。返答次第ではこのまま見逃してやる。が、正直に話せよ。
さもないと、ここが血の海になると思え。お前のせいでな」
銃口を向けたまま、レフトがトニーの返答を待つ。村人達とギーシュの視線が突き刺さる。
「俺は……俺は……」
トニーの思考は混乱している。
どうする? このまま正直に答えても、レフトが無事に済ます可能性は極めて低い。
だがだんまりを決め込めば、皆殺しにされる。しかし……。
「どうした? 答えられないという事は、お前の所有物という事で良いのだな?」
「待て、違う! アレは……」
ふと、レフトは天井を見上げた。パラパラと、埃の様な物が落ちてくる。
いや、これは埃じゃない。破片だ。天井を成型するパーツの破片が落ちてきている。瞬間、レフトの瞳孔を開いた。
天井が破壊され、何かが落ちてくる。レフトは慌てて、その場から逃げだした。
ギーシュも察知し、村人達にすぐに逃げるように叫ぶ。何かは天井を抜け、レフトがいた場所へと落ちてきた。
「……おい、タウ。ちょっと粗過ぎるぞ、もう少し静かに出来んのか」
「だってショウイチが早く飛ばせって言うから……」
タウエルンから降りたショウイチが、肩を動かしながら苦笑交じりに不満をぶつける。
反省のつもりか、タウエルンが手を象ったマニュピレーターでヘッドパーツを掻いた。
「ショ、ショウイチ君!? どうしてここに!?」
乱入してきたタウエルンとショウイチに、驚愕したトニーが思わず声を上げる。
ショウイチは服に付いた汚れを掃いながら、トニーに返答する。
「ちょっと危険を感じましてね。いてもたってもいられなくなったもんで」
「まさか自分から出向きに来てくれるとは……嬉しいよ、自動人形」
ドア付近に移動していたレフトが、タウエルンとショウイチに向かい、興奮を抑えきれないといった様子で話す。
ショウイチは無言でレフトを見張ると、はっきりと、レフトに告げた。
「俺も嬉しいよ。手を抜く必要が無さそうだからな。全てを話してもらうぞ、ド悪党」
続く
323:tauerun
09/06/30 09:14:53 /LUYZZkw
投下終了です
次で話が凄く進む予定。まぁダルナス起動させればいいんだけど
324: ◆46YdzwwxxU
09/06/30 13:00:51 cRGf/43+
>>318
おつかれさまです。
ドルンドメオン・・・おいしーやつめ。しかし敬語の似合わんキャラだなぁ・・・。
ひとつだけ。「人族のカースト」ではなく「人族の兵隊カースト」ですね。
ただの脱落かとも思うのですが、本編でもまともに説明したことはなかったような気もするので、こちらの落ち度かも。
もう本編では機会がないと思うのでここに書き残しておきます。
甲属のカースト(階級)制度では、生殖(アリでいう女王アリと雄アリ)、兵隊(兵隊アリ)、労働(働きアリ)に大きく分かれ、
兵隊ならさらに遊撃・迎撃・防衛、労働なら狩猟・運搬・建築などの種に細分化してます(同種でも、全員甲虫のような姿をしているわけではない)
仰々しい名前のわりに「猛甲ラピュラパズロイ」は巣の奥でひたすら卵を産み続けるだけで激弱……というか戦いじたいできません。
甲属の最強はラピュラパズロイを護衛する近衛種兵隊カーストの軍団ということになります。
(遊撃種は、領土を見回って労働カーストの護衛や情報収集をする連中で、性能だけなら量産機みたいなものですかね。
ドルンドメオンあたりはエースの乗った量産機かな)
獣属・禽属・鱗属の集団はまた違った仕組みで纏まっています。
>>323
こんな絶妙のタイミングを見計らったような登場、ヒーローにしかできねぇ!
村人達の姿にふっと「荒野の七人」とか思い出しました。
この機会にお尋ねしたいのですが、タウエルンってだいたいどのくらいの大きさでしたっけ・・・?
>>313
ありがとうございます。おかげさまで。
絵本ですかーいいですねぇ。参考にします。
そういう裏技もアリなら、一回やってみてもいいかも・・・?>大
私も暇があったらちょっとスパロボ企画に先行して遊んでみようかな・・・
荒野に生きる(仮)、CR、パラベラム、タウエルン、姫路守備隊戦記、少女機甲録(仮)で私以外の参戦表明全員ですよね?
よかったらキャラとロボお貸しいただけないでしょうか。
325: ◆gD1i1Jw3kk
09/06/30 14:26:53 0XWZkS6d
>>323
男なら、危険を省みず、死ぬと分かっていても行動しなければならない時がある。負けると分かっていても、戦わなければならない事が。ギーシュはそれを知っていた。
これから悪党をブッ潰す最高の展開が待っているんですね、テンション上がってきた!
実は最初、ネクソンクロガネではなくタウエルンとのクロスオーバーを考えていました。
本編でのジャーク帝国との戦い振りを見れば分かりますが、うちの清水さん、悪党相手には某世紀末救世主並に情けも容赦も血も涙もありません。
ショウイチとは気が合うんじゃないかなー、と思います。
>>324
「人族の兵隊カースト」でしたか。素で間違ってました。
姫路守備隊戦記、オッケーです。好きにやっちゃってください。全高3m、超重装甲強化服改で4mしかないので動かしやすいと思います。
勝手にスプリガンやネクソンクロガネ側の技術で開発した新兵器とか使わせてもいいですよ。
こっちも劇場版の方でネクソンクロガネに……おっと、こいつはまだ言えない。
326:パラベラム! の人 ◆1m8GVnU0JM
09/06/30 15:24:30 91CNUjdt
>>318
オォウ。なんという魔族夢想……もとい無双、まさにスパロボといった感じですね!
そしてついに次回、タウエルンとウチの子らが……ゴクリ
>>323
様々な人の意地と思惑が交錯してますね。
それにしても、前半とはふいんきが大きく変わりましたよね。みんな臨戦体勢で、ヤマが近いという事がひしひしと伝わってきます。
>>324
あと川柳とか俳句とか……あと詩もですね。けっこう参考になりますよ。
そして来るか、大スプリガン……!
>よかったらキャラとロボお貸しいただけないでしょうか。
もちろんOKです! 好きにしちゃってくださいw
パラベラム! のオートマタは2m後半~5mくらいですね。結構バラつきがあります。
327:tauerun
09/06/30 22:48:49 F3Mqywle
あぁ、何と言う初歩的な間違いをorz
>レフトが銃口を
の下りの「クレフ」は全て「レフト」の間違いです。投下したさいにチェックが抜けてました。
ごめんなさい
328:taueru
09/06/30 23:09:09 F3Mqywle
それと、感想の方ありがとうございます。
>>324-326
結構力技ではありましたが、村人(というかギーシュ)達にスポットを当てる事が出来ました。
これからショウイチと村人達がどうやってシュワルツを倒すのか
書きたい所ではありますがちょっと体調が芳しくないので、投下にはかなり間が空くかもしれません。そのときはごめんなさいorz
後、スパロボ企画については、特に言うことは無いです。ショウイチもタウエルンも好きに使ってください!
それと大きさですが4mくらいですかねぇ(適当)正直考えてなかった・・・
329:創る名無しに見る名無し
09/07/01 13:21:18 dxlTw45Z
どうも。いっぺんに全員出すわけにはいかなさそうな雰囲気。
まずは大は妄想にしておいて軽く1作品組ませてみようかなと
30m ネクソンクロガネ
10m リベジオン、ヴァドル
5m オートマタ(大)、スプリガン
4m タウエルン、超重装甲強化服改、機士
3m以下 オートマタ(小)、重装甲強化服
偏りがありますねw 今はちっこいのがやや人気?
大は15~20mあたりの中間圏を狙ってみるか・・・?
330: ◆gD1i1Jw3kk
09/07/01 14:29:06 qanhiyGu
スパロボで例えるなら
30m ネクソンクロガネ サイズL
10m リベジオン、ヴァドル サイズM
それ以外Sって感じですかね、今の所。
331:創る名無しに見る名無し
09/07/01 14:37:15 UhD4n78e
戦闘シーン入れすぎて話が進まない
これは明らかな構成ミスだ・・・orz
332: ◆9MC6FR8UMj7S
09/07/01 15:23:15 gQZn9iYJ
前回はトリが化けたけど、今回は大丈夫かしら?
>>324
個人的に、スパロボ企画は二次創作としてみているので、キャラ等の使用はご自由にどうぞ。
尋ねられれば設定等の資料は開示できる分なら協力します。
ただ、まだ話が余り進んでおらず、出てない情報が多い為、パラレルものとして、ある程度設定を改変したほうが使いやすいと思いますw
夜あたりにまた少し投下予定
333:◇8XPVCvJbvQ ◆9MC6FR8UMj7S
09/07/01 15:24:30 gQZn9iYJ
もうコレがトリで良いよw
334:創る名無しに見る名無し
09/07/01 15:26:28 dxlTw45Z
>>328
すみません
第一弾は分かり易いタウエルンとやってみようと思い立ったのですが
タウエルンの色って赤でいいんでしょうか? 緑と書かれているところもあるような
キャタピラってことは履帯トラクターってやつですよね(現在資料集め中)
・・・悪役どうしよう
>>330
Lの仲間がホシイ・・・求ム新人!
>>331
大丈夫ですよ!(根拠ないけど)
みんな戦闘大好きだし!
335:パラベラム! の人 ◆1m8GVnU0JM
09/07/01 15:36:52 8+hzi80u
一昔前(いやもっと前か)に主流だった50m級がいませんね、そういえば
ガンダムやメタルアーマーの18m級も無い。
>>331
Let's取捨選択!
しかし捨てようとしたその瞬間、脳裏にチラつくメッセージ
『それをすてるなんて とんでもない!』
336:tueun ◆n41r8f8dTs
09/07/01 19:01:05 5PGwBoa7
>>331
そういう時は思い切って、バッサリ必要だと思う・思わないシーンに分けて切っちゃった方がサクサク進むかも
実際自分はそうやって話作ってますしw
>>334
ぶっちゃけると色も大きさも、というか設定自体全く考えてなかったんですorz
最初の頃に緑色系と書いてたんで、緑色系でおK。トラクター状態では履帯トラクターですね
イメージとして、キャタピラ部分は某メガデウス見たく、背中に移動してたり。まぁどうでもいい設定ですが
敵はそうですね……自動人形その物でも良いですし、自動人形を操る暴漢でも何でも良いですよw
337: ◆kNPkZ2h.ro
09/07/01 19:22:01 qEbEUG69
少女機甲録(仮) 2
投下開始
今回は全10/10の予定
338: ◆kNPkZ2h.ro
09/07/01 19:22:58 qEbEUG69
1/10
「やばいっ! 咲也後退!! …って私の援護はいいからさっさと下がって!!」
「ピンチね!? よーし、突撃ー!!」
「ちょっと!? なんで歩兵が前に出てくるのっ!!」
「この馬鹿チル!! ああもう私たちも行くぞ!!」
「全員前に出てこなくていいから!! あーもうぐちゃぐちゃ…」
「ロック…発射。 よし、撃破…え!?」
「大破だ…初李はスコアはいいけど、撃破したの全部タイプAだな」
「初李…遠距離攻撃してくる大型を最初に狙うってわかってる?」
「むきゅー」
「ねーねー機士の装備にドリルとかないの?」
「あるわけないっ」
「工兵型のには坑道掘削用ドリルとかあるけど…」
「…ドリルと言うよりミキサーじゃんそれ」
「私はパイルバンカーがいいな!」
「翠、あんたの好みは聞いてないから」
「昨日までのシミュレーションの結果を踏まえて…機士の兵器としての立ち居地と、それぞれの役割が
なんであるのか理解していない人があまりにも多すぎると判断しました。
よって、今日の座学講習は基本事項の再確認になります。 じゃ、教本Ⅰの24ページを開いて」
339: ◆kNPkZ2h.ro
09/07/01 19:24:31 qEbEUG69
2/10
葉倉 玲は中隊で最先任の兵士だ(次席は由香里)。 階級は学生兵士の基本階級である3等陸士で、曹候補学生ですらない。
だが、第4中隊には他に幹部(士官)も曹(下士官)もいない。
教官すらいないため、玲や由香里が教官に代わって中隊の訓練指導を行うのだ。
訓練といってもただ走ったり戦闘シミュレーションを行うだけが全てではない。
教本を読んで知識を身につけることも重要であり、それを実地訓練であるシミュレーションで体験させ、
その結果を吟味させさらなる技術向上につなげるのだ。
が…中隊の面々である女子学生諸君は一部を除いてあまり乗り気ではないようである。
「機士は現在の歩兵の主力装備であり、機士でない歩兵というのは、機士の4mの大きさじゃ入れない
屋内や施設の制圧戦ぐらいのものね。 でも、基本的に歩兵と機士の戦術は変わらない。
建物や掩体の陰に隠れ、敵の弾丸を防ぎながら、撃ちまくる。
これが一般的に重歩兵型と言われている89式や、その一世代前の73式の役割ね。
はい麗美、89式の主要武装はなんだった?」
唐突に質問が来るので、隣の井沢 咲也とヒソヒソ談笑していた暮内 麗美はビックリして思わず立ち上がった。
話を半分しか聞いていなかったので焦る麗美に咲也が小声で「89式の武装です」とフォローし、麗美はどうにか答える事が出来た。
「に、20ミリガトリング機銃と、40ミリ機関砲…」
「正解。 場合によっては75ミリ低反動砲も装備する。
では、重歩兵型は他のタイプに比べて厚い装甲を持っているけど、その装甲部位が胴体と脚部、
そして肩アーマーにしか取り付けられていない理由は何故? 次、翠が答えてくれる?」
軍事オタクで、こういう座学をほぼ唯一熱心に受けている川城 翠は、麗美と違ってハキハキと答えた。
「はーい、重歩兵型に限らず、機士の腕は兵装取り付け箇所、ハードポイントに過ぎないから別に壊れても問題ないから!
胴体が壊れたら中のパイロットは死んじゃうし、脚が壊れたら動けなくなるけど、腕は壊れても武装が使えなくなるだけで、歩いて帰ってこれるしね!」
玲はうん、正解と機嫌よく頷いて両名を席に座らせる。
補足すると、機士の装甲は脚よりも胴体のほうが重視されている。
脚も、動けなくなったらなったで機体から降りてパイロット自身の脚で帰ってくればいいからだ。
340: ◆kNPkZ2h.ro
09/07/01 19:25:40 qEbEUG69
3/10
「次、騎兵型…騎兵と言っても大昔の重騎兵みたいな役割は87式には無い。
一世代前の74式でそれをやろうとして失敗してるの。 だから、87式の仕事は偵察や陽動を目的とした軽騎兵。
装甲が薄い分、走行速度は89式の約1.2倍の時速60kmとかなり速いけど、防御力はあんまり無いから
正面から敵と撃ち合いをするのは不向きね。 主武装は25ミリ機関砲。
60式近接兵装って名前のでっかい機士専用ナイフもあるけど、使わない。 なんで使わないかは、咲也、わかる?」
玲は今度は自分と同じく87式のパイロットを担当している咲也に質問を振る。
昨夜は静かに立ち上がって冷静に答えた。
「機士同士の白兵戦闘は、あまり起こらないからです。 機士同士だけでなく、ワーム相手でもまずあり得ません。
機銃や機関砲を装備している機士は距離を置いての射撃戦が主体であり、わざわざナイフを使って挑む理由がありません。
ワームもタイプAやタイプCなど一部の種類は白兵戦を挑んできますが、ワームの触手の多さと、その筋力に機士の出力では
太刀打ちできません」
正解である。 答え終えた咲也は平然としてまた静かに座った。
60式近接兵装は別名「高振動ナイフ」といい、秒間数千回転という速度で振動してノコギリの容量で対象を真っ二つに
切断する兵器だが切るというより掘削するという方が性質的にはより正確であり、どちらかというと兵器というよりは
「邪魔な障害物をバラバラに解体して排除するための工兵用ツール」と言ったほうが近い。
元々は対機士・対車両用の通行を阻害する設置障害物などを、工兵班を呼ぶまでも無く自力で排除するために開発された装備で
白兵戦用というのは不測の事態でそういう状況が発生したときのための、お守りでしかない。
重歩兵型や砲兵型は装備する事の無い(他の装備を両手に持つので余裕も無い)ものなので、慣習的に騎兵型の装備になっているだけなのだ。
「そして砲兵型…82式。 一世代前の75式は本州にしか配備されてないからお目にかかる機会は無いけど、
砲兵型は世代が変わっても性能には殆ど違いが無い。
砲兵型は装甲は騎兵型以下だけど出力は重歩兵型以上で、より大口径かつ多くの装備と弾薬を携行できるのが特徴。
はい、ミサイル大好きの初李さーん、82式の主要装備を全部答えて?」
「…腕取り付けは62式75ミリ低反動砲、75式110ミリ低反動ロケットランチャー、81式100ミリ誘導ミサイルランチャー。
肩取り付けは88式90ミリ砲、75式105ミリ砲、96式100ミリ自動擲弾発射機。
ただし最大積載量制限との兼ね合いから、以上か最大3種類までを選択して装備することになる。
…また、ロケットランチャーとミサイルランチャーは、片腕に最大三連装まで取り付け可能。
両腕とも同じ武装にした場合、最大6発のロケットあるいはミサイルを装備可能。
肩取り付けの武装は実際には自動擲弾発射機以外は装備されることは少ない。
これは90ミリ砲と105ミリ砲の反動が大きく、射撃には専用のジャッキの追加装備と、射撃安定姿勢を取らなければ
ならないためで、迅速な陣地転換と戦場機動が求められる前線ではかえって運用が難しいため。
だから、砲兵型がこれらの大口径砲を装備する時は後方地点からの、文字通り砲兵としての任務が求められる時。
…普段の砲兵型の任務は重歩兵型を直協火力支援するための、突撃砲と心得るべき」
341: ◆kNPkZ2h.ro
09/07/01 19:27:52 dAejA1sT
4/10
装備の形式番号までしっかり言い切って長々と回答というより講釈を述べた砲兵パイロット野礼寺 初李は、
最後に同じく砲兵パイロットの桐嶋 真璃をチラリと見て何か含めるような視線を送った。
真璃は「もうわかったよ…勘弁してくれってばぁ…」とげんなりした表情と小声で呟き、頭を抱えた。
単発の火力重視主義で大口径砲に拘る真璃に、その使いにくさに関してここ最近初李は何かと「教授」している
(真璃がうんざりするほどであるらしい)ようだが座る前に玲の「そうねー、あと誘導弾は弾頭の費用が高いし予備も少ないから、
できれば今度から砲兵組は低反動砲か擲弾発射機だけを使って欲しいところね」と言う言葉に思わずゲホゴホとむせた。
誘導弾に対してというか高度精密兵器信者である初李は真璃の105ミリ砲至上主義を笑えないのだ。
肩にミサイルランチャーが装備できれば、82式を両腕両肩に合計12発の多連装自走ミサイルランチャー化させたいのが
初李の抱く妄想である。
「…さて、ここまで機士の種類とそれぞれの主要装備についておさらいしてきたけれど、実は機士は装備と装甲を
それぞれで交換できるという高い互換性も持っているの。
だから、騎兵型に40ミリ機関砲とか、砲兵型に20ミリガトリング機銃とか、そういう事も出来るし、
歩兵型の装甲を騎兵型に付け替えて重騎兵化もできる…まあ、機体重量バランス変わるしマッチングが面倒くさいけど。
下手すると歩行性能も下がるし、基礎もなって無い未熟なウチの人員じゃそういう変則的な運用はできないわね。
整備班にはこの間教えたけど、機士同士は腕とか脚とかの交換もできる…といってもあんまり意味はありません。
元の素体、基本骨格フレームは共通だから換装そのものは容易だけど人工筋肉やバッテリーの出力調整が必要だし
そもそも、前線で同型の部品が足りない時に他のを流用できるためにモジュール化構造にしただけなので…」
講義を続けながら、玲はつかつかと後ろのほうの席に早足で近づいてゆく。
途中の席の女子たちはギョっとして慌てて机を移動しで道をあけるか、玲の視線の先で机に突っ伏しているその少女に
あーまたか、的な視線を向けた。
「構造的に、私たちみたいな学生兵士とか、女子とかでも、前線での整備や装備交換が容易な様に設計されています。
ちゃんと話を聞きなさい馬鹿チル!!」
「きゃあっ!?」
バチコン、といい音がして頭を教本でぶっ叩かれた氷川 散乃は素っ頓狂な悲鳴を上げて顔を上げた。
342: ◆kNPkZ2h.ro
09/07/01 19:28:54 dAejA1sT
5/10
休み時間を挟み、次はいつものシミュレーター訓練を取りやめて機士の操縦教習のおさらいだ。
たまには実際に機士を動かさないと、シミュレーターの感覚に慣れすぎると良くない。
機士の動力は水素電池。 稼働時間は本体内蔵電池で1時間だが、背中の外付けバッテリー2個により
最長10時間まで連続活動が可能になる。
それでも全力・最大出力で走り回らせていると2時間で電池を使い切ってしまう。
ただ、バッテリーを交換さえすれば何時間でも継続して活動可能である。
脚が壊れない限り。
ガシュン、ブシュ、ガシュン、ブシュ、という高分子セルモーターの駆動音を繰り返しながら、グラウンドを
2台の87式が走り回っている。
乗っているのはもちろん、パイロットの玲と咲也だ。
それを、計測機材と87式の動きを交互に見比べながら八橋 由香里と真門 有理が眺めている。
今行っているのは操縦教本にもある基礎動作のパターンである。
「玲は加速が早いけど、やっぱりターンする時に時間がかかるクセが直ってないのね。 急停止もワンテンポ遅れるし」
「咲也は方向転換が早いけど、加速時の立ち上がりが遅い。 まるで正反対…ねえ由香里、玲はともかく咲也が
騎兵パイロットの担当になったのって何でなの?」
生徒のそれぞれの適性診断と操縦教習の成績を見て、どの機士にどのパイロットを任命するか決定したのは整備班責任者の由香里である。
由香里は玲に次ぐ中隊の古参として、専門は違えどそれなりに発言力のある存在だ。
そして由香里は、玲と咲也を87式の担当にした理由をきっぱりと言った。
「あの二人が一番車酔いに強いから」
…機士は走っている時かなり上下に揺れるのである。
87式は軽量さも相まって機士の中では最も走行速度が早いのは前述の通り。
舗装された道路上でトップスピードに到達した87式の中はもう、シェイクされた状態だ。
よって、通常はそこまで速度を出さないで歩行する。
戦闘中の歩行速度は時速40kmを超える事は無い。 撤退する時などは別として。
由香里は以前、自分で87式に乗った時の事を思い出しで首を振る。
343: ◆kNPkZ2h.ro
09/07/01 19:30:03 dAejA1sT
6/10
「私なんかは50kmまで出た辺りで吐いちゃったし。 操縦室内の掃除がもう大変よ。 もう二度と乗りたくない」
「82式ならゆっくりしか歩かないのだし、どうしてそっちに乗らなかったの?
私は正直、真璃や初李より由香里の方が砲兵に向いていたと思う。
あの二人は歩兵型に乗せて機関砲でも好きなだけ撃ちまくらせてれば良かったのに」
有理は整備班でソフトウェア系、機士のベトロニクス(運動制御)のプログラミングやそれと連動した人工筋肉の調整を担当している。
これも適性によるもので、由香里の人選だ。
それ自体に疑う所は無い。 有理自身、自分にはその適性があると思っている
が、整備班として共に講義や実習を受けて、由香里は自分らより早く訓練を受けていた先輩という以上に機士に詳しく
パイロットとしての適性や能力があるのでは無いかとも感じる。
機士の効率的な操縦テクニック、急速な方向転換や180度転回、急減速と走行体勢から射撃姿勢への変換の仕方などは
まるで機士の手足が自分の手足であるかのように最適な操縦技量を見せるのだ。
玲と由香里がタッグを組んで機士で作戦行動を取れば、シミュレーターのような無様な戦闘結果にはならないだろうに。
「だって、機士の操縦室は狭いし、殆ど身動きできないし。
一時間以上もあれに閉じ込められたら、エコノミー症候群になっちゃう。
やだわ、ゆかりんそんなの耐えられない☆」
由香里はそう言いながらウィンクをしてぶりっ子しておちゃらけて答えるが、有理はあーはいはい、とハァ?何やってんの?と
両方あるいはどちらかを言いたげな冷めた表情で返す。
微妙に外した空気を追い払い、由香里は真面目な顔を取り繕う。
「まあ、私がパイロットやるのもいいのだけれど、それだと戦闘以外のところでも玲をサポート出来なくなるの。
玲は今のところ実質的な中隊の責任者で、指揮官で、教導役もこなしてる。 かなり無理をさせてるっていう自覚はある…。
でも戦闘班としてのベストメンバーと、中隊としてのベストな人選は違うのよ」
「…あれもベストな人選?」
由香里のもっともらしい真面目な言い訳にそう言って指差してジト目で有理が言うのは、グラウンドの反対側で
89式を好き勝手動かしまくっている重歩兵組の面々だった。
『みてみてー! 機士ってこんな動きも出来ちゃうんだから!』
拡声器からお子様脳特有の無駄に大きな声が流れる。
89式を寝そべらせて腕立て伏せを繰り返して遊んでいるのは散乃だ。
「腕立て200回とか余裕ね! やっぱあたし最強エース!」とか言っているが、動いているのは散乃自身ではなく89式の腕の人工筋肉だ。
344: ◆kNPkZ2h.ro
09/07/01 19:31:11 dAejA1sT
7/10
「機士は人間にできる動作はほぼ再現できるっていうけど…これってなんのための機能なんだ?」
『さあ…? ねえ他に面白そうな動作って無いの?』
「うーん、スクワットとか懸垂もできるそうだけど…」
マニュアルに載っていた反復横とびの動作を試しているのは歌川 美鈴。
…やらせたのはマニュアル本をぺらぺらと捲る蛍原理玖瑠だが。
ちなみにこういった動作はあらかじめ機士の内臓OSにプログラミングされている運動パターンの中から選択して
パイロットの操縦グリップに付いているマルチボタン/トリガーに割り当て、任意にオートマチックで実行させる事が出来る。
宵町 留美は留美で片足で腕を左右に広げてバランス立ちさせているし、完全に機士を玩具にしていた。
もっともこうなったのは、玲と由香里の両方が目を離している間、彼女らを任せた中隊長さまの所為ではあるが。
『ちょっとー! お前たち私の言う事を聞けってばー! ちゃんと基本動作やってよ!』
「そうだよー! そんな風に動かしたら機士の人工筋肉が痛んじゃうからやめた方がいいよ!
散乃ちゃんも、遊んでばかりいないで麗美ちゃんの言う事聞こうよー…」
涙声になりそうになりながら言う事を聞かせようとしているのは我らが麗美中隊長。
そして、後で整備点検が大変になることを懸念している泉沢 大(ひろ)こと大(だい)ちゃん。
どうでもいいが大ちゃんは中隊長さまに「ちゃん」付けである。 なんて威厳のない中隊長。
『いーじゃん、マニュアルに動作が書いてあるんだし、書いてあるって事はこういう風に動かしても平気って事だよ』
『うわーん咲也ぁ! 玲ぃ! 誰も言う事聞かないよぉ!!』
とうとう麗美は泣きが入り始めてしまったようだ。
麗美には歩兵組と整備班を纏めきるのは無理な様である。
そこへ、真璃と初李の82式をハンガーから誘導しながら川城 翠と小沢 早苗が歩いてきた。
「オーライオーライ、あと40センチ右ー。 そこ段差あるから気をつけてー。 …って何やってんの? また麗美虐め?」
「はーい、自由時間終わりですから皆さんこっちに集合してくださいね。 一列に並んでー。 美鈴さんは私の89式から降りてくださいね?」
美鈴が動かしている89式の本来の担当である早苗が支持すると一同は以外にも素直に集まって来て機士を並ばせ、降着姿勢にした。
麗美のときとは偉い違いである。
345: ◆kNPkZ2h.ro
09/07/01 19:32:23 dAejA1sT
8/10
『なんで早苗の時はすぐ言う事聞くんだよぉ…!? おまえらー!!』
『あれだろ、中隊長向いて無いんじゃないか?』
『麗美は人を惹きつける空気の様なものが足りて無いわね』
操縦室内でなきべそかき始めている麗美に追い討ちをかけるような真璃と初李のそれぞれの言葉に、
「うわぁぁぁぁん!」と叫びながら校門の方に向かって89式を全力ダッシュさせる麗美。
そんな彼女を中隊の面々はそれぞれがそれぞれの思いを抱きながら見送った。
「なんで言う事聞かないかっていってもさあ…散乃とか留美とか、頭がお子様なのは麗美じゃお守とかできそうにないし」
…翠。
「というか、自分より精神年齢低そうなお子様の指示なんか従う奴いないよね。 そもそもお飾り中隊長じゃん」
…理玖瑠。 何気に酷い。
『まあ早苗はお姉さんって感じだしな。 落ち着いてるし余裕あるし、子供の扱いが上手い。
早苗の方が中隊長やった方がいいんじゃないかって思うときがあるな、私は』
…真璃。
「でも、麗美ってあれで小さい妹とかいるみたいだよ? その割には一番自分が子供っぽいけど…すぐ人に頼るし泣きそうになるし」
「そうなのかー? 私は麗美が末っ子なんじゃないかと思ってた」
…美鈴、留美。
「まあまあ、麗美さんだって一生懸命なんですから…あんまり困らせちゃダメです」
…早苗だけがフォローを入れる。
それぞれの言い草を聞きながら由香里は苦笑する。
まあ麗美があんまり中隊長として認められてないし尊敬もされてないのは、彼女自身はただの学生兵士であること、
さらに、実質的な中隊長としての仕事を殆ど玲が取り仕切ってしまっているからなのだが。
これは確かに問題ではある。
玲自身は麗美を蔑ろにしているつもりはないのだろうが、仮にも中隊長という役職にあるのに部下から敬意を払われてないし
中隊長としての仕事もあんまりしていないというのは、玲が実質的中隊長として君臨し、麗美を自分の格下に置いている状況が
あるからに他ならない。 近いうちに何とかしないといけない、と由香里は考えていた。
346: ◆kNPkZ2h.ro
09/07/01 19:33:24 dAejA1sT
9/10
だが、能力的な面でも精神的な面でも他の学生兵士と差のない「新兵」である麗美にいきなり中隊長らしい事を
やらせようとしても上手く行かないのは目に見えている。
どうするべきか、と由香里は一計を案ずる。
『ちょっと…ちゃんと計測はできたの? あと麗美は何処いったの?』
『基礎動作運動、終わりました』
グラウンドの真ん中辺りから玲と咲也がゆっくりと87式を歩かせて戻ってくる。
機材で計測した両者の運動パターンや操縦の癖は、後でコンピュータで分析し補正をかけてベトロニクスのプログラムに
組み込み操縦する時のソフト側からサポートを行うのだ。
これによって運動時の無駄な動きなどを無くし、機士のハード側の反応係数を向上させ、効率的な運動が可能になる。
『んじゃあ、次は私たちの番だな。 82式は走らないからゆっくりで行くよ?』
「オッケー。 それじゃあ、開始位置に付いたら始めていいから」
87式と入れ替わるように82式がグラウンドに進入し、基礎動作を開始する。
歩いて、右側に向きを変え、歩いて、左側に向きを変え、また歩いて、停止し、後進し…というのを決められた手順どおりに
反復するだけなのだが、単純な動作でも機士を操縦するのには慣れとコツがいる。
機士の操縦そのものは両足のフットペダルと、両手のグリップレバー、そして前述のボタン/トリガーに加えて
簡単な音声認識命令、あとはあらかじめプログラムされた動作パターンである。
パワードスーツの延長上にある兵器とは言え、マスタースレイブ式で装着者の動作をそのまま伝達するスーツ型とは異なる操縦になる。
加えて、機士の動作は結構過敏な部分もあったりする。
「真璃、初李より4m遅れている。 もう少し歩行速度を上げて」
『了解…!』
「ちょっ…早すぎ!」
急速に歩行速度を加速させた真璃の82式は初李の82式を追い越す際、肩が接触しお互いによろけさせてしまう。
初李はすんでの所で姿勢バランスを制御し転倒を回避するが、ぶつけられた怒りは収まらない。
347: ◆kNPkZ2h.ro
09/07/01 19:34:32 dAejA1sT
10/10
『何やってるの!? 大事な機体をぶつけて傷つけないで欲しいのだけど。
あなたの操縦は荒っぽいんだから、また花壇とかブロック塀みたいに破壊したら、弁償するのは誰かしら?』
『悪かったなあ、私だってぶつけたくてぶつけたんじゃないんだよ? 大体、ぶつかりそうなら初李こそ避けろよ。
接触するくらい幅寄せてこなくていいっての!』
『何なのその言い草。 操縦の運動神経だけじゃなくて言語野も雑なつくりなの?』
「ちょっとちょっと、真璃、初李、喧嘩しないでよ! 真璃もぶつかったのは自分なんだから素直に謝ったらいいでしょ!?」
開始するなり衝突を始める真璃と初李。
慌てて仲裁に入ろうとする有理だが、翠は「放っとけばいいじゃん、あれで結構仲がいいんだから」と楽天的だ。
実際、真璃と初李に有理を加えた三人(+翠:主に軍事や機士の話題の時)で屯ってる時間は多いしそれほど仲は悪くないのだ。
「…というか、真璃は絶対わざとぶつけたよね」
「そうねー、さりげなくさっきの座学の仕返しをしているのね」
87式から降りた玲がスポーツドリンクで汗として流した水分を補給しながら由香里と談笑していると
同じく89式(校門辺りに降着姿勢で乗り捨て)を降りた麗美が咲也に手を引かれてこっちに戻ってくるのが見えた。
玲はスポーツドリンクのペットボトル容器をくしゃりと握りつぶすと、小さく呟いた。
「さーて、中隊長様のご機嫌取りもしなきゃいけないかな…」
(続く)
348:創る名無しに見る名無し
09/07/01 20:30:26 WxY1IDSj
>>347
投下乙です!んん……良い!
女の子達の瑞々しい会話が良いです。上手く言えないけど、なんか、良い
ミリタリズム溢れる兵器の解説も良いっすねー。高振動ナイフとか男の子の部分がビンビン響きますヨ
次も待ってますよー
349:創る名無しに見る名無し
09/07/01 22:08:15 dxlTw45Z
>>332
はいな。獣耳っ娘だーっ!
>>336
緑ですかー。りょうかいです。
なに、「サ・キ・バ・シ・ル! 元気!」での執筆分を書き直せば・・・見通し甘えorz
これで色の組み合わせ的には緑と青か。・・・癒し(オアシス)系コンビですね。
というわけで『Red,Blue&Green』と題しました。順番に他意はないです。
悪役は後詰めになると思うのでぼちぼち考えよう・・・
もう一点、タウエルンって変形にはショウイチの許可必須とかいう設定あります? それとも単独で行動できます?
>>347
座学ということで分かりやすくロボットの解説を入れるあたりがうまいなぁと。
少女と軍事の取り合わせってオイシイ・・・
350:荒野に生きる(仮) ◆9MC6FR8UMj7S
09/07/01 22:17:04 gQZn9iYJ
荒野に~は副題なんだけど、肝心のタイトルがニンともカンとも。
トリが化けたまま固定されてるっぽいんで、以後このトリになります。(僕自身は変えてないんだがw)
最近投下される作品多くて嬉しい。
以下数レス投下。
351:荒野に生きる(仮) ◆9MC6FR8UMj7S
09/07/01 22:17:45 gQZn9iYJ
2章 その想いの正体
(0)
死にたくない。そう思い、抗う事の何が悪い。
痛い事も、苦しい事も、生きる上では避け様の無いモノなのかも知れないが、少ない方が良いに決まっている。
彼の視線が恐ろしい。
その眼は一体、何を想ってコチラに向けられているのか?
期待? 憎しみ? 殺意? それとも、羨望?
アナタが何を求めているのか、分からない。
ただ、その何かに応えないと、自分は生きていられない。役立たずと認識されたら最後、殺されてしまう。その事だけがハッキリと分かる。
自分に出来る事は、ただ、僅かばかりの延命をするが為に、与えられる任務を果たす事のみ。
しかし、ソレでいいのか。
自分に課せられた任務は、明らかに人類に牙を向いている。
自分が任務を遂行する事で、鋼獣との戦況は、人類側が更に不利な状況へと傾く事は間違いない。
ならば、任務に背くべきか。
背いて、大人しく死を受け入れ、処分されるべきか。
イヤだ。
自分は死にたくない。
例え、任務を遂行した所でホンの数ヶ月しか延命できないとしても、それでも、自分は生きていたい。
例え、自分の行動によって人類を不利な状況に追い込むとしても……死にたくない。
自分は生きているのだ。
理不尽な死から逃れようとする事に……。
生きていたいと思う事に……。
誰が反対できようか。
352:荒野に生きる(仮) ◆9MC6FR8UMj7S
09/07/01 22:20:35 gQZn9iYJ
(1)
「……ん」
首筋に僅かな痛みを感じ、瀬名龍也の意識は覚醒した。
まるで電源を入れられたばかりのコンピューターの様に、低い唸りを上げながら彼の心臓という名のエンジンは
徐々に活力を取り戻してゆく。
ソレに伴い、今まで五感が隔離されていたかのように、一切の刺激を認知しなかった肉体が次第に感覚を蘇らせる。
目からは光を、耳からは空気の振動を、鼻からは空気中の成分を、口からは空気の味を、皮膚からはソレに触れる
全ての感触を―。
それらの情報を、龍也の脳は処理を仕切れずに居た。半ばフリーズしている彼の脳は、酷い倦怠感として肉体に
エラーを示す。
まだ睡眠量が足りないとでも言うように、脳も、肉体も、久しぶりに得た睡眠と言う快楽を手放す気は無いらしい。
龍也はまだ感覚の無い腕を持ち上げ、胸ポケットから小さなプラスチックのボトルを取り出した。
力の入らない、震える指先で蓋をこじ開けてボトルを煽る。中の錠剤を一気に口内に流し込むと、即座に胃がソレを
拒んだ。
口から内臓が飛び出しそうな激しい嘔吐感を堪えながら、錠剤を噛み砕き、飲み下した。
薬は直ぐに効果を示した。龍也のこめかみの血管が浮き上がり、頭にズクズクとした鈍く激しい痛みを走らせる。
「ぐぅあぁぁぁぁぁ!!」
平衡感覚すら確かでない龍也は咆哮しながら床に倒れた。両手で頭を掻き毟り、押さえ込み、身を縮めて痛みを
堪えるその姿は熱病に侵された末期患者の姿を連想させる。
暫く頭痛を堪えていると、ゆっくりと五感が正常な状態へと回復していく。
「はぁ……はぁ……」
龍也は仰向けになり、肩で息をしながら目を開いた。
濁った視界は瞬きをする度に鮮度を増してゆく。
三十秒ほど時間を掛けて、龍也は自分がハンガールームの片隅に設けられたプレハブに居る事を理解した。芋づる
式に自分が意識を失う以前の事を思い出す。
上半身を起こし、スリープ状態になっていたコンピューターを立ち上げて時間を見る。予定していた時間より若干早く
目が覚めたらしい。
龍也はプレハブの窓からハンガールームの様子を窺った。
薄く開いたシャッターから夜明け時分特有の蒼い光が差し込んでいる。まだ休憩時間中な為に、メカニックは誰も来て居ない。
無人のハンガールームを見回し、龍也は安堵の溜息を吐くと、フラフラと立ち上がった。
プレハブのドアを開けると、エアコンの聞いた室内にハンガールームの篭った熱気が流れ込んでくる。
353:荒野に生きる(仮) ◆9MC6FR8UMj7S
09/07/01 22:23:16 gQZn9iYJ
夜明け目前だというのに、ほぼ閉め切っていたハンガールームの室温はあまり下がっていない。
ヴァドルの人工筋肉の培養槽がフル稼働しているせいであろう。薄暗いハンガールーム内には
培養層のモーター音と培養液が泡立つ音だけが響いていた。
ユラユラと体を揺らしながら、おぼつかない足取りで龍也はシャッターの前に辿り着く。
新鮮な空気が吸いたかったが、今はシャッターを潜る気力さえ無い。
溶接されているのかと思うほどに固い(少なくとも龍也はそう感じた)シャッター開閉ボタンを何とか
押し込むと、想像以上に大きな音を立てながらシャッターが持ち上がっていく。
ソレと同時に、シャッターの向こうから小さく悲鳴が聞こえた。
「あ、あれ?」
ゆっくりと上がっていくシャッターを潜り、ハンガールーム内に姿を現したヒューマニマルの少女は
龍也の姿を見て目を丸くした。
「瀬名さん……?」
「……エルツか」
よりにもよって、と龍也は内心で舌打ちした。
栗色の柔らかそうな毛を持つこの犬型ヒューマニマルはエルツ。特に感知に関する能力が優れて
おり、その感知性能は最新型のレーダー機器に勝るとも劣らない。
ヒューマニマルとしての戦闘スペックは並かそれ以下しか持たないが、彼女が歴戦の勇士である
ディーネとリートに並びヴァドル部隊に配属されたのも、龍也がその能力に目を付け、天沢長官に
申請したからに他ならない。
その能力は確かで、先日の鋼獣土竜型との戦闘の際、彼女達が土竜型に察知されるより以前に
伏兵として身を隠すことが出来たのも、エルツの感知力が土竜型のソレを上回ったからだ。
彼女は視力、聴力、嗅覚、振動、熱源、その他通常では感知できない何かにすら反応する事が出来るのである。
例えソレが、人間等が放つ”感情”であろうとも、彼女にしてみれば”匂い”や”色”として認識できるらしい。
(まずいな……)
万全な態勢ならば自分の思考や体調を隠し通す自信が龍也にはある。
しかし、今は彼にとって最も不調である寝起きの状態であり、しかもまだ”クスリ”が抜けて居ない
状態であった。
コレ以上彼女と顔を突き合せているのは、彼にとって得策ではない。
案の定、エルツはすぐに龍也の様子に気が付いた。驚きの表情が途端に曇り、心配そうに龍也に歩み寄ってくる。
「瀬名さん、寝ていないんですか?」
「逆だ、今起きた」
エルツに視線を合わせずに、龍也は歩み寄ってくる彼女の小さな体をわざと乱暴に押し退けて
ハンガールームから出た。
季節は夏になろうというのに、外気は身を切るように冷え切っている。
龍也はゆっくりと冷たい空気を胸いっぱいに吸い込み、代わりに体内で澱み濁りきったモノを吐く。
それを三度ほど繰り返した所で、ようやく新鮮な酸素が脳に行き渡ったらしく、龍也は体調が持ち直して
きていることを実感した。僅かではあるが頭痛が引き、ふら付く感覚は既に殆どなくなっている。
「俺の事よりも」
龍也は僅かに振り返り、コチラを心配そうに見つめているエルツに訊ねた。
本当ならばコレ以上エルツの前に居たくないのだが、このままこの場を去っては彼女に不信感しか
残さないと判断しての行動だった。
「何故お前がこんな所に居る」
「えっと、それは、ヴァドルを見たくて……」
「ヴァドルを?」龍也が片方の眉を僅かに吊り上げる。予想外の言葉に、何か別の意図があるのではないかと考えたからだ。
しかし、エルツはそんな事を気にした様子も無く、恥ずかしそうに笑みを浮かべるだけだ。
「はい。まだ、アレと自分が一体化している自覚が沸かないんです」
「眺めた所で自覚が湧くとは思えないがな。お前は鏡を見て、そこに映る物が自分だと実感できるのか?」
龍也が鼻を鳴らして言うと、エルツは「そう、ですね」と苦笑する。
「確かに、難しいと思います」
そんな彼女の様子には、他意があるようには見受けられなかった。
龍也とココで鉢合わせたのも、本当にタダの偶然であろう。
エルツはまだ少しばかり心配そうな表情を見せていたが、龍也が次第に調子を取り戻している事を感じ取って
いるらしく、既に先ほどの龍也の「寝起き」という言葉を素直に信用しているようだった。
エルツに薬の事を感じ取られておらず、またコレ以上詮索されない事を確信し、龍也は前を向いた。
「まぁ、好きにしろ」
「瀬名さん!」
歩き出そうとした龍也を、エルツが呼び止める。
354:荒野に生きる(仮) ◆9MC6FR8UMj7S
09/07/01 22:24:40 gQZn9iYJ
「無理、していませんよね?」
確認するように訪ねてくるエルツに、龍也は答えなかった。
(それはお前が勝手に、俺がヒューマニマルじゃないから、脆弱な人間だと見下しているから、そう感じ、そう思うんだろうが……)
再び歩き出しながら龍也は内心で吐き捨てた。
(何がヒューマニマルだ。何が人間だ。俺は、そのどちらでもない。
俺は、瀬名龍也という一人のパイロットだ! それ以外の何者でもない!)
龍也は自分に言い聞かせるように何度も無言で咆哮した。
背後でエルツが何か言っていたが、もはや彼には何も聞こえていなかった。
ココマデ
投下の配分をミスった・・・
次回からヴァドルに乗ってタタカウヨー
355:創る名無しに見る名無し
09/07/01 22:27:15 dxlTw45Z
ここでクスリですか。彼も何やら複雑なものを抱えているようで。
人工筋肉の培養槽というのが生々しくていいなと。
次のバトルに期待。
356:創る名無しに見る名無し
09/07/01 22:43:29 AQ6Fggzf
遅レスですが。
>>304
自分としてはそんなつもりは全くないんですが……そんなに冷たく見えますか?
>>336
ベック・ザ・グレートRX3の事かぁぁぁぁぁーーーーーッ!
>>347
真璃と初李と有理の三角関係とか、初李と有理が真璃を取り合ったりとか、想像するだけでヤバい。
>>354
うわぁ、OP風でエルツだけ土竜の接近に気付かなかったという痛恨のミスをしてしまった。
357:パラベラム! の人 ◆1m8GVnU0JM
09/07/01 23:07:27 8+hzi80u
>>347
ああ、華々しさがあっていい、いいぞ! 実にいい!!
キャラ達の成長が楽しみですw
>>350
ハッハ----! 俺も嬉しいぜメルツェェェェェル!!
犬耳、いいですよね!
でも狼とか狐とかも捨て難(ry
次回は戦闘という事でワクワクが止まらんなあ兄弟ぃ!
さて、自分も早く新章スタートさせたいところですが、なかなか上手く書けません。スランプかしら……。
追加キャラはロリ(またロリか)と黒髪お姉さん(お姉さんなのは外見だけ)といい男(ウホッではなく)と弄られキャラ(チャラ男)、そして機械人形のたまちゃん(教官)を予定しております。
358:tauerun
09/07/02 07:21:29 obzVJkz2
>>349
基本、ショウイチの判断により変形しますが、状況によっては自分自身の判断で変形を行う事もあります
また、ナノマシン等武器の使用はショウイチが近くにいないと出来ないという面倒な制約があったり
359:R,B&G ◆46YdzwwxxU
09/07/02 18:19:18 M8Wl5rdO
赤と青。
荒漠の地と空虚の天。決して混じらぬ水と油のように、世界の果てになだらかな地平線を引いている。
かんかんに赤熱して罅割れた地表は、卜占の亀甲を思わせる。疎らに立つ黒い木はどれも干乾びて、花を手向
ける者の絶えて久しい集団墓地のようだった。
蒼穹の色は凄絶なまでに強く、見渡しても一点の曇りもない。もっともそれを快晴と有り難がるには、雨季と
乾季で二分されるこの地帯の気候は、そう変わり映えしないものではある。
視界の下方は赤く、上方は青い。ニ色のコントラストには造り物のようなある種の美しさがあったが、数分も
眺めれば光景の単純さに嫌気が差す。
「……熱いな」
寂莫たる平原にぽつんと立ち尽くす男は、気晴らしにがちりと歯を打ち鳴らした。気温も暑いが、今は陽射し
が熱いのだ。
「沙漠の真ん中、か?」
棒のような長身に研究者らしい白衣を靡かせ、金属の遮光器で目許を隠した男だった。
当てにならない地図と狂ったコンパスを手にし、息を吐く。他に持ち物はない。水筒や食糧を肌身離さず持っ
ておけばよかったと後悔する。
髪をばさばさと手で掻いて風を通す。焼け石に水だが、気休めにはなった。
姓は天農(あまの)、名は不明。ただし自ら編み出した拳法の流派から“延加拳の天農”と呼ばれることは、
しばしば。
魔界より現れて人類を襲う難敵“魔族”に対抗するための人型兵器(HW)の開発を手掛ける狂博士だ。
今は研究を面倒臭がり、“弟子”の武者修行に付き合って世界を巡っているのだが、彼とも戦いのどさくさで
逸れてしまった。
「あの歳で迷子になるとはな」
天農はにやにやと嗤った。彼に言わせれば、迷ったのはあくまで弟子の方であって自分ではない。
通信も幾度か試したが、どうにも利かない。天農の遮光器にはその機能が備わっていたが、今のこの場では役
に立たなかった。
その理由は火を見るより明らかだ。
天農はうんざりと空を仰ぐ。
夜更けの外灯でもあるまいに、太陽にじゃれつくように飛ぶ“蛾”が一匹。
遮光器が弾き出した前翅長は5メートル。世界最大の夜行性鱗翅類であるヨナグニサンは14センチメートル
だから、その35倍近くになるか。もちろん地上の昆虫などでは有り得ない。
魔族。
獣禽鱗甲の四大属のうちの甲属。人類に敵対する魔界の住人がその正体。
恐ろしく巨きな翅でしきりに羽ばたき、空気を震わせる。黒褐色の地に、派手な黄を発色する目玉模様。
広く発達した櫛歯状の触覚は、脈を残して食い荒らされた葉に似ていた。
巨人族の寝袋とでも喩えるべき、でっぷりとした腹。強度に優れたエーテル光繊維の鎧は、あるいは硬い甲殻
などよりも攻略には難儀するかもしれない。また体重が軽量で、飛翔も緩やかなために、衝撃のエネルギーをも
柳に風と受け流すことができよう。
四枚羽の表層から剥がれ落ち、砂嵐のように風に舞うのは、燐光を纏った鱗粉。それは電波やエーテル波を乱
反射させる性質を持つらしい。
ゆえにこの一帯では、遠隔の連絡手段のほぼ全てが封殺されるのだ。
360:R,B&G ◆46YdzwwxxU
09/07/02 18:20:26 M8Wl5rdO
「あのタイプが攪乱に精を出しているということは、まだ他にも魔族が潜んでいる可能性が高いな。どうにか、
合流まで生き延びたいものだ」
下手を打てばそこが死地に早変わりするというのに、口の端を吊り上げてみせる。
天農が差し当たっての方針を決めようと、遮光器越しに薄汚れた地図へと目を落とした時だった。
「ショウイチ~! どこ~?」
少年の声がした。
見やれば、朱に染まった沙漠をのろのろと移動する緑色の重機。長らく葉緑素の色を目にしていなかったから
か、天農は草叢が歩いているのかと思った。しかし当然そんなはずもなく、それは塗装にすぎない。
「というより、目がちかちかするな」
天農は遮光器の下で目をしばたたかせた。
赤と緑は補色の関係に近く、互いに強調し合う。凝視していたくはない組み合わせだった。
不整地を走破するために、車輪に履板の環を嵌めたキャタピラ式の自動重車輌だ。洗練されているとは言い難
いが、男らしい武骨なフォルムだった
重機といったが、天農はそれを農業用クローラートラクターと見抜いた。ただしこれほど大型のものは未だか
つて見たことがない。
「この不毛の大地に、トラクターとは」
沙漠の緑化は至難の業だが、天農としては絵空事だとは思っていない。灌漑の工夫や高吸水性高分子などの新
技術に寄せられる期待の声にも覚えはある。
それでもこのようなトラクターがただっぴろい荒野に一台というのはどうにも解せなかった。それとも意外に
人里が近いのだろうか。
いぶかしみながら、天農は白衣を翻して近づいていく。地面の熱が靴裏に染みるのが厭になる。
「ショウイチ~? って、わわ……っ!」
声の主は操縦者だろうか。歩み寄る天農に気づいたものらしく、そちらも戸惑ったように数メートルの距離を
置いて停止した。
奇妙な沈黙。
(しかし見れば見るほど)
天農は興味深げに筋肉質の腕を組んだ。
「怪しい車だな……」
(怪しい人だな……)
“トラクターの運転手”が自分の風体を見てどのような感想を抱いたか、遮光器の狂博士には知る由もない。
ともあれ。
延加拳の天農と、自動人形タウエルン。灼熱の大地を踏み締め、彼らはこうして出逢ったのだった。
Tueun◆n41r8f8dTs vs.瞬転のスプリガン◆46YdzwwxxU SS
『Red,Blue&Green』
つづく
361:R,B&G ◆46YdzwwxxU
09/07/02 18:24:13 M8Wl5rdO
今回はここまで
隔日くらいのペースで短期集中連載予定。
魔族はあと一体くらい出しますが、できる限り自重します。説明に行数とられるし。
天農博士、さりげなく名前に「農」が入っていると今更気づいた。だから何というわけでもないけど。
・・・言葉通じるのかはもう気にしない方向で。
>>358
お貸しいただきありがとうございます。矛盾とかあったらお願いしますね
362:パラベラム! の人 ◆1m8GVnU0JM
09/07/02 18:34:38 13QY/Scw
>>361
スプリガンさんかい? 早い、早いよ!
そういえばどちらも車にトランスフォームするロボですねー。
>「怪しい車だな……」
>(怪しい人だな……)
うん、いいコンビだw
スプリガンとショウイチの組み合わせも楽しみにしてます!
363:創る名無しに見る名無し
09/07/03 03:31:13 0oxDrdG8
かなり遅れてるのでちょっと補足します
えーとリベジオンの書いてた5000字あまりがPCフリーズした際に全部飛びました・・・orz
そのため、現在書く意欲を喪失中です
絶対書こうとは思っているのですが、結構、気合入れて書いてた為
意欲が戻るまでもう少し時間かかるかもしれません
お待ちしていただいている方もいらっしゃるのならば、この場を借りてお詫びさせて頂きます
364:創る名無しに見る名無し
09/07/03 08:42:06 B+qfIZvh
>>361
乙。何か微笑ましい始まりだなw
やっぱクロスオーバーは良いなぁ。次回に期待
>>363
何という悲劇だ・・・
分かるぜ。凄い喪失感を覚えるんだよな、そういうのって
まぁ気を取り直して頑張ってくれ! こっちは何時までも待ってるからさ
ふと思ったんだが、このスレ、作品が多いのは結構だが絵師いないよな
どれも個性的だからイメージで見てみたいと思ったり
365:R,B&G ◆46YdzwwxxU
09/07/03 11:20:02 yggFcIBo
「誰も乗っていない、か」
「……」
確かに少年の声を聞いたのだが、調べてみてもトラクターの操縦席に人影はない。
天農は思い出す。
このあたりでは“自動人形”という非搭乗型ロボットが幅を利かせているらしい。大抵は持ち主の命令を忠実
に遂行するだけだが、中には機械でありながら自らの意思を有するものもあるとか。
巨大にして堅牢。このあたりに広く流通する武器などではとても歯が立たないそれらは、悪党の元にあっては
己が欲望を満たす暴力の究極形であり、まっとうな住民にとっては憎悪の対象だという。
自動人形を持つ者に逆らってはならない。命が惜しければ。
目の前のこれは人型ではないが、技術的には“自動トラクター”の製造も充分に可能ということではある。ト
ラクターは別の意味で自動に決まっているので、自律というべきかもしれないが。
さらにいえばその設計思想は、天農が専門とするHWとも多少、似通ったものがあった。全く馴染みのないも
のでもない。先程の声についても、たとえばただの録音だとか、何とでも説明はつけられる。
「ふむ」
天農はごんごんと緑の外装を手の甲で打ってみせた。揺るぎない重さが頼もしい。機械はこうでなくては、と
ひとしきり頷く。
遮光器の狂博士の推測は、実のところそこまで大きく外れてはいない。しかしこのトラクターの正体が、心を
宿し、あまつさえ喋りもする規格外品の自動人形であるということには、さすがに気づかない。まして彼が無遠
慮な扱いに辟易しているなどとは、完全に想像の埒外だった。
(あんまり叩かないで欲しいんだけど……)
世にも不思議なお喋りトラクターが、天農に正体を明かそうとしないのには理由があった。
悪用されることの多い自動人形は、兵器という忌まわしい出自の悪印象も手伝って、俗に言う“嫌われ者”で
ある。彼自身、パートナーであるショウイチともども石もて追われたことも、一度や二度ではない。
だが、そのことについては、寂しいと思いこそすれ、特に恨みはなかった。ただ、耕すべき畑と安住の地を求
めて、優しすぎる彼らは旅をする。
(人を、怖がらせちゃいけないよね……)
こうしている分には大型のトラクターである。不審がられはしても、畏怖や嫌悪といった負の感情まで向けら
れることはまずあるまい。この形態なら会話してもいいような気もするのだが、自らの情報を開けっ広げにする
ことはやはり躊躇われた。
(これからどうしよう)
当座の最優先事項は、ごたごたに巻き込まれて見失ってしまったショウイチとの合流だった。
ただの自律型の農業機械を装って、何食わぬ顔で彼を避けるというのが最適解だろう。
もっとも、荒野の中央で立ち往生している人間を放置していくというのも気が引ける。遮光器の男は、トラク
ターの気持ちなど露とも知らず、興味津々といった風情でキャタピラに土を振り掛けたり車体によじ登ったりと
やりたい放題だった。
(ちょっ、やめてくれないかなコノヒト……)
堪りかねた自動トラクターが、思いきって声を掛けようと決意した直後。
366:R,B&G ◆46YdzwwxxU
09/07/03 11:21:03 yggFcIBo
「ほうほう! これは! これは! こんなところにも人族はおるのかね!」
膠着した空気を破壊するものが、高空より現れた。
隕石のように飛来した巨影は、天農とトラクターの傍に着地。衝撃波で濛々と赤土を舞い上げる。
赤色透明な薄翅が、ずんぐりした胴体の背後に隠れていく。甲殻は派手ではあるが黄金というには些かみすぼ
らしい、金属光沢のある山吹色だった。
首がほとんどなく、逆三角形の頭は肩にまぎれて分かりづらい。両端に球体の複眼があり、針状の口吻が下方
に伸びている。
後脚で立ち上がった体長4メートルのセミとでもいおうか。人族などという言い回しをすることからも、魔族
であることは疑いようがない。上空の蛾と同じく甲属のもの。
「遊撃種にその者ありと謳われた小生! このデデ系列のデイバルデパブロイの獲物としては物足りないが!
地上でも『巨大なる堤防も矮小なる蟻の巣穴によって決壊する』などと言い慣わすであろう! 同じこと! こ
こで見逃すのは、いかにも後味が悪い! ああ悪いとも! 悪いとも!」
やかましい魔族だった。
「そちらの緑の兵隊カーストもろとも爆殺(ダイナマーイト)だっ!」
おまけにせかっちだ。わけのわからないことを口走りながら、蝉の怪物は慌ただしく翅を拡げ、突然のことに
呆けるひとりと一体に猛然と襲い掛かった。
魔族は人類のことをさほど詳しく知らない。彼らじたいが多種多様な形態であることも関係しているのか、た
だの乗り物を“戦闘用に進化した人類”、甲属でいう兵隊階級であると認識している節があった。
衝撃波を都合良く捻じ曲げながら、彼らはものの数瞬で極超音速に達する。マッハ幾つの砲弾すら発射後から
見切る驚異の時間分解能と相まって、攻防ともに隙はない。
目で見ることなど不可能だ。人間であるならば。武術の達人である天農でも、攻撃を予測することはできても、
肉塊が反応するには遅すぎる。
けれど。
「いけない!」
魔族の攻撃発動後にも天農は生きていた。
瞬殺を是とする魔族デイバルデパブロイの急襲を、防風林となって全身で受け止めた者がいる。それは、植林
の苗木が大樹へと生長するように体の高さを増した。魔族が到達するよりも早く。
「何!?」
驚愕の声を発したのは、魔族デイバルデパブロイだったか、天農博士だったか、あるいは彼ら二人ともか。
トランス。
色の濃い野菜のような瑞々しい緑。天農には見覚えがある。つい先ほどまで沈黙していた重車両と同じ。
しかし、履帯トラクターのシルエットは、今や大きく変貌を遂げていた。
それは身の丈4メートルの機械仕掛けの巨人。鋼鉄の四肢には、原野に挑む開拓者の頑強さ。事実としてそれ
はエーテルブラストを身に纏っての甲属魔族の突進にもびくともしない。
頭部には、猛き雄牛を象った兜。赤のデュアルアイが意志の光を放つ。
無限軌道を履いた車輪が移動し、背嚢と化していることを、庇われる天農は確認した。
「可変型の自動人形か!」
わずかに振り返った優しき巨人の目には一抹の寂しさ。またそれをも上書きする断固とした戦意があった。
「話が違う! 小生の情報網では、地上で気をつけるべきは青いのくらいということになっていたのに、アンタ
緑じゃないすか!」
いきなり砕けた物言いでいちゃもんをつけるデイバルデパブロイ。
367:R,B&G ◆46YdzwwxxU
09/07/03 11:21:56 yggFcIBo
緑の重戦士は意にも介さず、剛力を乗せた拳をがら空きの胸板に叩き込む。一発、二発。踏み込みだけで大地
を耕す殴打は、あらゆる防御システムや術理をまとめて破壊するような重さだった。
おかしな悲鳴を上げて吹き飛んだ怪物蝉が、翅をばたつかせて空中で体勢を立て直す。
「なんという怪力か!?」
硬度に長けるという甲属魔族の重甲殻をも掘削する破壊力。不用意に攻撃を受ければ無限かとも思われる加重
に圧殺されるだろう。真っ向勝負など愚の骨頂。
デイバルデパブロイは、エーテルブラストによる牽制を交えて距離を保ちながら、必死に損傷を再生する。
「しかし小生も音に聞こえた甲属のデイバブッ」
大鍬を振り下ろすような大跳躍からの踵落としが、三角形の頭を直撃。標本ピンさながらに魔族を地表に押し
つける。
「とどめだぁ!」
鉄火場には似合わない少年の声には、しかし幾度も修羅場を潜った者に特有の雰囲気もあった。
アスファルトを砕く木の根のように、乾燥した空気の層を自動人形の巨腕が突破。
正攻法では対抗できないと見た魔族デイバルデパブロイの判断は素早かった。
「空蝉ノ術!」
手応えが軽い。緑の巨人の打突が粉砕したのは、金粉を散りばめた山吹色の抜け殻のみ。忍者のような身のこ
なしで上空に飛び上がり、エーテルブラストの乱射で砂塵を巻き起こして視界を奪う。
「また会おうっ!」
泡を食って一時撤退する甲属魔族デイバルデパブロイ。気取った言いようの割りに口振りには余裕がない。
ふらふらと飛び去る魔族が微細な点になるまで、自動人形は口惜しげに見送った。
(ショウイチがいれば、ソーラーキャノンが使えるのに……)
彼が秘匿する多彩な内蔵兵器を起動するには、パートナーであるショウイチが必要だった。
本体にもある程度の浮遊能力はあるのだが、空中戦を専門とする者に格闘だけで渡り合えるかというと際どい。
向こうが退却するというなら、全力を発揮できない今、敢えて深追いする理由もなかった。
それに何より、足元の人間をこんな危険地帯に置き去りにしていくわけにもいかない。
「助かったよ。自動人形くん」
聳え立つ緑の躰を見上げる遮光器の男は、口を笑みに歪めていた。ちゃっかり助けてもらったにしては、態度
はふてぶてしい。
この地域に根強い、自動人形に対する偏見とも無縁のようすで、巨人は徐々に緊張を解いた。正体が露見した
以上、もはやだんまりを決め込むこともない。
「あなたは、僕を怖がらないみたいだね」
「極東の技術大国から来たのでね。ああ、俺の名は天農。下は男の子のヒミツだ」
彼にとってはいつもの自己紹介をして、天農は握手の代わりに巨人の爪先に拳を当てた。
心を宿した機械仕掛けは、少し考える素振りをしてから、少年の声で名乗った。
「僕は、タウエルン」
「田植え……るん……?」
冗談のような脳内変換の結果に、唇を引き攣らせるしかない天農だった。
つづく
368:R,B&G ◆46YdzwwxxU
09/07/03 11:44:08 yggFcIBo
どもっす。
今回はここまで。
あんまり凝ったことはせず、サクサクいきます。次は頭文字Sコンビで。
田植えるんファーストツッコミGetだぜ! 関係ないけど「タウエルン」で検索してみたら最初に地名がヒットしてフイタですよ。
ネクソンクロガネとエリスだけ落書きがあr(ry
369: ◆gD1i1Jw3kk
09/07/03 16:03:12 aljX+Q6i
>>363
本気で気合入れて書いてると1KBだけでも大変ですからね。
時間は気にせず頑張って下さい。
>>364
ロボは描くの大変ですからね。
>>368
出会い、天農の前で変形してしまったタウエルン。
これから二人はどうするのか。そしてスプリガンとショウイチは?
後、デイバルデパブロイのキャラが良過ぎるw
海上都市姫路守備隊戦記の外伝を投下します。
OP風を待っている方には申し訳ありませんが、もうしばらくお待ち下さい。
370:仮想戦闘記録 前編
09/07/03 16:05:19 aljX+Q6i
足底に装備した機動靴の自在車輪は地形に合わせて自在に形状を変化させる事で、如何なる悪路をも滑らかに走破出来る。他にも垂直の壁を駆け上がる、使う機会は無いだろうが天井に張り付いたままの走行も可能である。
地球上のどんな天候、環境、地形でも戦える究極の汎用性、全領域戦闘能力を更に高める機動靴は無くてはならない必須の装備であり、ある意味最強の武器とも言えた。機動靴の自在車輪は時速20kmの低速で、無音で機体を前進させている。
全身に纏っている軽装甲強化服。その外側の全高3m、基本重量500kgの重装甲強化服。正確には三式重装甲強化服ブルーショルダーカスタムという名称である。
二世代旧式の三式重装甲強化服を一世代先の四式重装甲強化服に近い性能を出せるよう改造した機体であり、名前の由来である右肩のみ濃紺の真っ青な色は海上都市姫路守備隊の標準色。
遮蔽機能を最大限に発揮している今は肉眼で姿を確認するのは不可能であり、戦闘中の現在は遮蔽を解除しても周囲の景色に合わせてカメレオンのように機体色を変化させる。
遮蔽機能によって目では見えず、音も無く、匂いすらしない。レーダー、熱、振動など考えられるありとあらゆる探知手段から逃れられるが、絶対に見つからない完璧な代物ではない。重装甲強化服は遮蔽を見破る索敵機能を併せ持っている。
それは相手も同じだ。息を殺し、気配を消し、存在しないかのように行動していても発見されてしまう事はある。敵を見つける為に、敵に見つからない為に、常に全周囲に気を配る。
思考制御とコンピュータ補助で操縦する重装甲強化服は脳に直接情報が送られる。収集した莫大な情報を計算、解析したコンピュータは思考制御機能を通して、人間の脳に負担が掛からないよう極限まで簡略化した情報を、
操縦者の思考を読み取り、周囲の状況を判断し、求めている又は必要不可欠である最適な質と量を常に流し込む。この操縦方式によって全くの素人でも神業の動作を容易くさせられる。だが「使える」と「使いこなす」では天地の差がある。
戦場で相手を倒し生き残るには地獄の如き修練と研鑽を積み重ね、神業の神業の域にまで己の腕を高めなければならない。そうでなければこの世界で十日も生き残り続けるなど不可能だった。
地平線に半分隠れたまま永遠に沈まない太陽。無限に広がる荒野の中心にある巨大都市。夕焼けで紅く照らされたゴーストタウン。大人数を短時間で大量に輸送可能な公共交通機関は全く動いておらず、
莫大な車両が行き来可能な都市全体に張り巡らされた血管、大動脈たる道路に一台の車も走っていない。規則正しく林立している巨大な建造物の群れは墓石のようであり、人の営みは無く、誰も生活していない。
その代わり、鋼鉄の鎧に身を包む血に飢えた修羅が其処彼処(そこかしこ)で蠢いていた。おかしい、異常。そんな感情は全く無い。この都市は用意された戦場であり、元々人など住んではいないのだから。
最大限に発揮した遮蔽で姿と気配を消しながら、見渡す限り何者も存在しない大都市の道路を機動靴の自在車輪によって、時速20kmの低速で進んでいく。
371:仮想戦闘記録 前編
09/07/03 16:06:38 aljX+Q6i
思考制御+コンピュータ補助操縦技術で重装甲強化服の索敵用各種センサーは自身の五感と化しており、360度全方向が見える。
大昔のロボットアニメであった操縦席から外の光景が見える全天周囲モニターなどではなく、上下左右、全ての景色が視界に映る。死角は存在せず、周囲を確認するのに頭を動かさなくていい所か目を閉じたままで構わない。
脳に直接情報を流せるので「見る」という間接的行為自体が必要無いのだ。人間は広い範囲が見えていても、実際には限られた視界の極一部しか理解出来ない。集中すればする程精度は上がるが視野は狭くなる。
本棚に収まっている全ての本をただ見るだけであれば誰でも一瞬で可能だが、全ての本の題名を理解するとなると相当時間が掛かる。死角の無い全方向の視界を扱うには人間の能力は圧倒的に不足しており、普通ならば宝の持ち腐れにしかならない。
しかし、第二の脳として機能するコンピュータが計算、解析、脳に直接情報を流す事で欠点は完全に解消される。初めて重装甲強化服を着用して全方位視界を体験した者の多くが、自分が神になったような感覚になる、と語る。
神になったような感覚という表現は大袈裟過ぎるとしても、それ程までに便利だという事だ。頭上で弾けた100mm多目的ミサイルから撒き散らされる振動熱榴散弾の千を超える破片数、一つ一つを全て一瞬で理解出来る程度には。
腰の後ろに二つ装備している展開式軽装甲盾「折り畳み傘」の一つが、その名の通りに柄が一気に伸びて膜状の軽装甲を傘状に展開。降り注ぐ赤い地獄の豪雨を完全に防ぐ。
生身の人間が受けたのならともかく、「折り畳み傘」無しでまともに浴びても耐振動熱防御と防御用振動熱発生機能を備えた重装甲強化服に低威力の振動熱榴散弾は通じない。こっちを狙った相手は損傷を与える為に使用したのではない。
最も初歩の基本戦術。遮蔽で隠れた敵がいるであろう位置へ、広範囲に撒き散らせる振動熱榴散弾を使って発見する索敵方法。損傷は無かったが位置を完全に掴まれた。
「折り畳み傘」を展開する前、頭上で100mm多目的ミサイルが弾けたと同時に既に全力の回避行動を取っていた。機動靴の自在車輪が最大出力で唸りを上げ、脚部後部の装甲が開き内蔵している移動補助装置、圧縮噴射推進機二基が
圧縮した空気を進行方向と逆に噴出、絶大な推力で機体を急加速させる。
両腕の伸縮可変鋼線射出機二基から伸縮可変鋼線を二本射出。近くのビルに射ち込み、フルパワーで鋼線の収納と短縮を行う。本来なら150kmまでしか出せない速度は、凄まじい牽引力が加わり限定的だが200kmを超えていた。
先程までいた場所を敵の25mm機関砲弾が空を裂く。こちらの回避を予測して未来位置に撃って来たが、間接防御兵器を一切使わず全弾回避しビルとビルの間、敵の攻撃の死角へ退避した。
「相手は四式だな」
敵は遮蔽で巧みに身を隠していたので正確には分からないが、これまで積み重ねた豊富な戦闘経験から判断した。今はもう移動しているだろうが、攻撃してきた事で敵のおおよその位置は掴めた。無論、向こうもこちらの思考は理解しているだろう。
さて、どう戦うべきか。一旦、現在の武装を確認する。
372:仮想戦闘記録 前編
09/07/03 16:08:31 aljX+Q6i
三式重装甲強化服ブルーショルダーカスタム
全高3.15m(機動靴により+15cm) 全備重量約3トン
武装及び装備
頭部側面 短針弾発射機×1 長針弾発射機×1
右手 25mm重機関砲×1
左手 150cm振動熱斬刀×1
右腕 小型低出力光熱衝撃砲×1 伸縮可変鋼線射出機×1
左腕 装着式軽装甲盾×1 伸縮可変鋼線射出機×1
右肩 9連装100mm多目的ミサイル発射機×1
左肩 100連装10mm小型高機動迎撃ミサイル発射機×1
右脇 連装100mm超振動極熱ミサイル発射筒×1
左脇 5連装6,25mm機関銃×1
腰後部 展開式軽装甲盾「折り畳み傘」×2
右腰 12.5mm重拳銃×1
大腿部 60cm振動熱斬刀×2
脚部側面 3連装50mm弾発射機×2
脚部後部内蔵 圧縮噴射推進機×2
足底 機動靴×2
内蔵の圧縮噴射推進機は論外として、伸縮可変鋼線射出機と機動靴以外の全てが、十日前に現実と変わらない仮想空間、訓練用の都市に来て倒した敵から奪った物だ。最初に持ち込んだ物は全て敵に破壊されてしまった。
難易度の低い仮想訓練ならゲームのように弾薬が無限だったり、一定時間経てば回復したりするが、武器弾薬の補給は敵から奪う以外に方法は無い。それがここの掟だ。如何に武器の損傷を防ぎ弾薬の消費を最小限にし敵を倒すか。
形振り構わず全ての武装を使用するなら敵の重歩兵を容易とはいかないまでも、高い確率で勝利出来るだろう。だが、そうするつもりは全く無かった。弾薬の消費も理由の一つだが、俺には「奴」との戦いが控えている。
十日前から最終日の今日まで、脱落者に「奴」の名前は無かった。この都市の何処かに必ずいる。五式重装甲強化服を纏った「奴」が。これまで999回挑んで一度も勝利した事が無い最強の重歩兵が。
「悪いが、早々に決着を着けさせてもらう」
遮蔽で隠れながら敵を攻撃するのが定石だが、敢えて無視する。隠れていたビルから元の道路へ再び姿を出す。海上都市姫路守備隊重歩兵小隊隊長、清水静の戦いを見せよう。
予告
鉄の機兵が走る、跳ぶ、吼える。機銃が唸りミサイルが弾ける。
休む間も無い戦場で死肉を食らうが如く敵の全てを蹂躙し、遂に「奴」は姿を現す。
敵の血潮で濡れた肩、地獄の使者と人の言う。歴戦の猛者でも敵わぬ無敵無敗、最強の重歩兵。
赤い肩をした鋼鉄の修羅が静を待ち構えていた。
次回「仮想戦闘記録 中編」
次も静と地獄に付き合って貰う。
373: ◆gD1i1Jw3kk
09/07/03 16:11:59 aljX+Q6i
以上!
設定のみだった五式重装甲強化服を敵として登場させる予定です。
果たして静は二世代旧式の機体で勝てるのか。
374:パラベラム! の人 ◆1m8GVnU0JM
09/07/04 00:02:48 N7PkUiRd
>>363
な、なんと……。100文字だけでも萎えるのに、5000文字とは……。
自分はいつまでも待ってるので、自分のペースで再構築を!
>>364
自分も遥とヘーシェンなら……
>>368
やっぱり魔族の中にも愉快な奴はいるんですねw
>タウエルンでググる
あ、ほんとだ地名が……メキシコ?
>クロガネとエリスの絵
気になる、気になるぞ兄弟ィ!
>>373
新鋭機vs旧式の魔改造機……そそられますなぁ
自分もクロスオーバーしたい……でもまだ本編が……!
375:創る名無しに見る名無し
09/07/04 18:16:35 OisO2yIU
>>361>>368
俺以上にタウエルンを強く書いていただきありがとうございます!いや、マジで俺もこんな感じで書いてみたいんですけどねorz
次のショウイチとスプリガンのコンビがどんな感じになるのか楽しみです。にしても天農、良いキャラです
>>373
市街戦は良い。ロボット物では定番のシチュエーションですが、心が躍ります
性能差がある機体での戦いってのも良いですな。次回をお待ちしてます
で、タウエルン本編ですが案の定難航ww
頑張って週末まで完成させたいのですが、規制が……良い訳ですね、頑張ります
376:tueun ◆n41r8f8dTs
09/07/04 18:23:09 OisO2yIU
ちなみに>>375はわしじゃ、代行人が名前欄忘れたんじゃ
377:tueun ◆n41r8f8dTs
09/07/05 11:32:03 cc8Sss5r
タウエルンとショウイチが乱入する数分前の上空にて。
「もうすぐ着きそうだな。反応はどうだ、タウ」
「ちょっと待って……動体反応が一点に集中してる。多分トニーさん達がいる場所だと思う」
「自動人形はどうだ? 少数ならそれなりに対処できるが」
「んっと……6機以上、10機以下……かな? 建物に居るから明確にブラックキューブの数を捉えられない、ごめん」
「……タウ、ちょっとパネル弄るぞ。しかしいつも以上に消費量が多いな。粒子が肝心な場面で切れなきゃいいが」
<7,共同戦線.(前篇)>
ショウイチとレフトの視線がぶつかり合う。レフトはショウイチの台詞に口元を歪ませ、冷静な口調で返す。
「何を言い出すかと思えば……お前は状況を理解しているのか?」
レフトが右腕を上げると、レフトの背後に佇む黒騎士達が一斉に槍を掲げた。その数、延べ6機。対してタウエルンは1機。
一見すると不利なのは明らかにタウエルン側だが……。レフトは悠然と大股で歩きながら、ショウイチに語る。
「のこのこと俺の前に出て来た勇気は褒めてやろう。だがな。さっき、お前は俺になんて言った?
全てを話してもらう? おいおい、逆だろ。お前が俺に全てを話すんだ。お前が連れているその……」
ショウイチの横で立ち止まり、レフトは一度語りを止める。粘着質な視線で、ショウイチを睨みながら再開。
378:tueun ◆n41r8f8dTs
09/07/05 11:32:44 cc8Sss5r
「化け物の事をな」
同時に、レフトは思いっきりショウイチの腹筋を握り拳で全力を込めて殴打した。鈍い音が周囲に響き渡る。
「!? ショウイ……」
「おっと、動くなトニー・クロウス。もし下手にこいつを庇って見ろ。黒騎士がいる事を忘れるんじゃない」
反射的に立ち上がろうとしたトニーに気付き、レフトは鋭い声でトニーの動きを制した。
黒騎士達が掲げた槍を村人達に向ける。村人達は畏縮し、身動きが取れなくなっている。トニーはくっと歯ぎしりをした。
トニーと同じく、ギーシュも苛立ちと焦りを感じていた。理由は二つある。
レフトによって、動く事を封じられている事と、突如空から落ちてきた、得体の知れないロボットにあの男の素性だ。
屈んでいる為、あの男の顔は見えない。だが妙に聞き覚えのある声だ。どこかで聞いた様な……。まぁそれはひとまず置いておく。
最初はレフトの仲間かと思ったが、何やら様子が違う。あの男はレフトに対して、敵対している様なセリフを吐いた。
単純に考えて、レフトとあの男は味方同士ではなく、敵対しているようだ。だが安心する気は無い。あの男が、我々の味方とは限らないからだ。
ふと、レフトとトニーの会話が頭をよぎる。レフトがトニーに行った「自動人形」という言葉。
あの男とトニーが関係しているとしたら……。その時、俺はどうすればいい? 何故か軽く手が震える。
と、ギーシュはふと自分の周囲の変化に気付く。空気中にキラキラと光る粒子が散らばりながら浮遊している事に。
379:tueun ◆n41r8f8dTs
09/07/05 11:33:24 cc8Sss5r
「ねぇ、お姉ちゃん……」
「し! 今は静かにしてないとまずいわよ、クレフ」
あくまで小声だが、声を発したクレフにメルティは声を出さぬように、口に人差し指を立てた。
クレフは小さく首を振ると、目線を宙に漂わせて、二言目を発した。
「あいつは気付いてないみたいだけど、さっきから変なのが浮いてるんだよね。何か埃みたいなのが……」
「埃……?でも埃にしちゃ変ね。何かキラキラしてて……」
「そうそう、言い忘れていたが、お前も妙な行動を取るなよ。こいつらを死なせたくなきゃな」
トニーから向き直り、レフトが、ショウイチにそう告げた。その口調には、勝利を確信したという余裕がある。
だが、レフトはふと妙な感覚に囚われる。状況は優位なはずだ。こちらに落ち度など何もない。
自分がすぐにでも命令すれば、黒騎士達が村人達に鉄槌を加える事が出来る。奴らに選択権など無い。だが――。
何故お前は微動だにしないんだ? 不気味なほどに、ショウイチはレフトに対して反応を見せない。
あくまで自分本意ではあるが、完全に今の殴打、というかストレートは入ったはず。その種の人間ならともかく、普通の人間ならとっくに崩れ落ちている筈だ。
百歩譲って俺の殴打に耐えるほど屈強な人間だとしても、大勢の人間が死ぬ事に何ら戸惑いは無いのか……?
何故だ、何故お前は何の反応も見せないんだ? お前の命だけでなく、目の前の人間の命が脅かされているというのに。
と、レフトはふと気がつく。自分の右腕が、ショウイチに握られている事に。目線がショウイチに向く。
「……何のつもりだ?」
レフトの問いに、ショウイチは答える。
「良いライフルだ。――軍属だっただろ、お前」