09/06/04 22:31:48 6LGc86To
「さて、会議を始めようか」
ファルデア大陸で最大の版図を誇るユグドラ帝国皇帝ルクツァ一世は居並ぶ諸侯を前に静かにそう宣言した。
彼と共にテーブルにつくのはリディア王国国王、ノーザン公、サザーン侯、エステン伯を始めとする
そうそうたる面々、何れも大陸で指折りの貴族である。
円形に配置された巨大なテーブルには、大陸の行方を左右する首脳達が残らず揃っていた。
歴史的に複雑な利害関係によって離合集散を繰り返し、
今でも領地や名誉をめぐって対立中の諸侯が集う理由は、一つしかなかった。
「異邦人『日本』についての会議を」
日本、その言葉がルクツァの口から出ると、諸侯らは例外なく緊張した。一瞬、沈黙が場を支配する。
「幸いな事に彼らは我々と同じ、話せば通じる人間です。
圧倒的な軍事力に物を言わせる気は今のところ、ないと見ました
我々同士の争いに介入する気もまた、ないと思われます」
大陸側の代表として日本と交渉を続けていたアンシャム伯が口火を切った。
彼は大陸で最も弱体な独立諸侯であるが、古代に栄えた大帝国の後継者であり、
そのために貴族たちで何か話し合いをする際には中立性を見込まれて仲立ちに立つのが常であった。
ゆえに今回の騒動でも彼が代表として出向き、この場でも司会をしている。
「彼らも混乱しているようですが、この上は我々と末永い友好関係を築きたいとの言葉に、嘘はないと思います」
その言葉に諸侯は一斉に安堵の息を漏らした。それはルクツァとて同様である。
『日本』に交渉のために行った時の恐怖は今でも忘れない。天を衝く巨大な建築物に、網の目の如く張り巡らされた高架道路、
充実した上下水道に、清潔な町並み、美味い食事。ひとつとて大陸には真似できまい。
そしてそれ以上に驚き、また恐怖したのが、その軍隊である。
鋼鉄の装甲に鎧われた大砲。信じがたい事に自ら人間を越える速度で動くという。
大陸にある如何な攻城砲とてあれを貫徹することは敵わないのではないか?
それが視界いっぱいに広がり、砲を高々と翳す姿にルクツァが腰を抜かさなかったのは、
彼の矜持が並外れていたからに過ぎない。
その脅威が当面振るわれることがないと思えば、安堵も当然だった。