THE IDOLM@STER アイドルマスター part2at MITEMITE
THE IDOLM@STER アイドルマスター part2 - 暇つぶし2ch272:Brand New Fairy (1/4)
09/06/14 12:21:38 a6/y+YMa
「社長、お呼びでしょうか?」
「おお、待っていたぞ。実は、新たに君にプロデュースを始めてもらおうと思ってだね。」
「は、はい。」
珍しいこともあるものだ。
たいがいはプロデューサーの方から社長に対して申し入れをすることで、新しいプロデュースがスタートするの
が恒例の765プロで、逆に社長側からのプロデュース依頼だなんて。
「君にプロデュースして欲しいのは、他でもない、彼女なんだが。」
「・・・はじめまして。」
俺はその時、部屋の片隅にいた女性に初めて気付いた。そして驚愕した。
一目で知れる長身、スタイルの良さはもちろん、何よりも彼女を特徴づける、美しく輝く銀色の髪。
流れる様な優雅で華麗な立ち居振る舞い。風格までをも備えた表情に、意志の強さに光る瞳。
誰が名付けたか、しかし誰もが納得する、人呼んで『銀髪の王女』・・・
「し、四条・・・貴音・・・!」
「うむ。君も知っていたとは思うが、彼女には今後、この765プロでアイドル活動をしてもらうことになった。
君には、貴音君のプロデューサーになってもらおうと思う。」
俺は一瞬逡巡した。
果たして、俺に務まるのか。
いや、そんなことを考える時ではない。彼女の様な珠玉の素材、プロデューサーとして今後二度と出会えるか
どうか。あえて言うなら、一生一度のチャンス逃さないわ。絶対手抜きしないで以下略
「わかりました。四条貴音のプロデュース、引き受けます。いえ、是非やらせて下さい。」
後悔するよりはマシ、アタックしよう。
「そうか!ぜひ貴音君をよろしく頼むよ!」
「では、よろしくお願いいたします。」
相変わらず優雅で礼儀正しい態度の貴音の、その目元が、わずかばかり緩んだ気がした。
この四条貴音ですら、さすがに再デビューやそのためのプロデューサーが決まるまでは不安があったのだろうか。
そう思うと、俺も多少ながら安堵した。大丈夫、やって行ける。
「よし、そうと決まれば、今日これからは止まってられない明日に猛ダッシュだぞ!」
「了解しました。その意気、しかと受け止めさせていただきます。」
おお、さすがは王女だ。気難しいどころか、度量が大きい。


273:Brand New Fairy (2/4)
09/06/14 12:22:25 a6/y+YMa
さて、まず最初の活動はミーティングだ。
「ミーティング、ですか・・・果たして、何を話したらいいのやら・・・」
「まあ、そう構えないで気楽にしてくれ。貴音の以前の活動なら、俺もよく知ってる。」
と言うよりも、この業界で俺の様な仕事をしていて、知らないなどと言う方がどうかしている。
「その上で、一つ質問があるんだ。貴音は、人前で歌うことは嫌いだったりはしないか?」
「どうでしょう・・・私にとっては、使命でもありますので、好きとか嫌いという感じ方は、考えたことも
ありませんが。」
使命、という言葉が微妙に引っかかるが、今は触れるべきじゃないと判断しておく。
「そうか。じゃあ質問を変えよう。テレビのカメラや少数の人の前で歌うのと、大勢の聴衆の前で歌うこと、
どちらかが得意でどちらかが苦手、という意識はあるか?」
「いえ、特にそういった意識はございません。」
「わかった。ありがとう。いや、変な質問だと思ったらすまない。実は、貴音の、というか961プロのアイドル
の活動を見ていて、以前からちょっと気になっていたことがあったんだ。」
「それは?何か、問題でも見つけられたのでしょうか?」
「いやいや、そういうわけじゃない。ただ、うちの事務所のアイドルと比べて、あまりにコンサートなどの
ライブ活動が少ない、と感じてたんだ。だから、もしや嫌いとか苦手があるのかな、と思ったわけだ。」
「特にそう言ったことはありませんが、仕事の方は全て黒井殿が調整しておりましたので。」
なるほど。確かにライブ活動は、マスメディアの出演と比べて宣伝の意味では費用と時間の効果は落ちるだろう
から、トップに立つ事を至上命題とするあの社長なら、考えてやっていた可能性が高い。
「よし、じゃあ俺たちはその逆を行こう。」
「逆、とおっしゃいますと、ライブを中心に活動する、ということでしょうか。」
「そうだ。これまで貴音のファンだったという人も、ライブはろくにみたことがないはずだし、間違いなく
需要はあるはずだ。これまでの活動との差別化も明確になるし、それに、貴音の歌をじっくり聞かせる事で、
新たなファンの獲得も当然期待できる。」
「プロデューサー殿。」
「え?ど、どうした?あらたまって。」
「貴方様をみくびっておりました。そこまで深い思慮の元に、私のアイドル活動を考えて頂けるものとは、
つゆとも知らずに・・・」
「いや、こうして戦略から考えて、アイドルと一緒に活動をしていくのが、プロデューサーの役目、だからね。
もちろん、こういう大きな話から、日々のこまごまとしたことまで、アイドルを助けて一緒にやっていくんだ。
実は、この戦略にしても、961プロと同じ事をしようとしても、資金力的に無理っていうのもあるけど。」
「まあ、プロデューサー殿は、実に正直なお方ですね。」
そういうと、貴音は笑顔を見せた。
「俺に限らず、うちの事務所そのものが、何事においても包み隠さずに腹を割って話し合って、理解と納得を
得た上で進めて行こう、という気風だからさ。アイドルとプロデューサーの関係に限らず、ね。」
「それはそうかもしれませんが、しかし、プロデューサー殿の人格としては、また別の話です。誠に正直で、
信頼に足るお方であると理解いたしました。」
「そ、それは・・・ちょっと大げさな言い方かも。」
「プロデューサー殿になら、安心してこの私のプロデュースをお任せ出来ます。」
「ああ、そう言ってもらえると、こちらも嬉しいよ。あらためて、よろしくな。」
どうやら、初回のミーティングとしては、ほぼ満点の出来だ。

「おや・・・?何やら、隣の部屋から、面妖な雰囲気が・・・?」
「め、めんような、って・・・?」

『あああー!お前、今、胸に触ったな?!セクハラだー!やっぱり765プロは変態事務所だー!!』
『ご、誤解だ!俺はただ、胸を指差そうとしただけで・・・』
『なんで、この距離で指指すのに、そんな腕を目一杯に伸ばす必要があるんだよ!!だいたい、自分の魅力は
どこだと思うか、って聞いただけなのに、いきなり胸って言うのも、おかしいだろ?!』

なにやら、隣が騒がしくなった。
今の会話で、大体の事情は筒抜けだが。

コンコン・・・
「はい。」
「プロデューサーさん、社長がお呼びです。貴音ちゃんと二人で、来ていただけませんか?」


274:Brand New Fairy (3/4)
09/06/14 12:23:08 a6/y+YMa
「ということで、君には、予定を変更して貴音君と響君のデュオをプロデュースしてもらおうと思う。」
「わかりました。」
呼ばれた時点で予想はできていた。
それに、この二人のデュオは、誰がどこからどう見ても魅力的だ。それをプロデュースできるなんて、むしろ
この上なく有り難い話でもある。
「うむ。彼女達をよろしく頼むよ。」
「ところで、社長。先ほどの彼は、どうなって・・・」
「変態セクハラPの汚名だけが残る。大抵の場合は、そのまま引退ということになるがね。」
なんですか?その、毎日がプロデューサーアルティメット予選会状態は?
「弁護をするつもりはありませんが、彼も、どちらかと言うと、詐称疑惑に心を奪われたのだと思います。」
「しかし、それではプロデューサーはつとまらんよ。」
実は、社長が知らないだけで、つとまっている人間もいるんですよ・・・。

さて、あらためてミーティング。
「自分、我那覇響。もちろん、知ってるとは思うけどな。」
「ああ、よく知ってる。名前も、年齢も、出身が沖縄だってことも、ダンスが得意だってことも、身長も体重も、そして何より、バストの公称値が疑惑の86cmだと言うこともだ!」
「ぎ、疑惑?自分はウソなんてついてないぞ!あ、さてはお前も変態だな?!そんなこと言って、触って確かめ
ようだなんてセクハラなこと考えてるんだろ!そうは行かないぞ!」
「ふふっ」
「うわ、珍しいな?貴音が笑うなんて。何がおかしいんだ?」
「響殿、あなたは、プロデューサー殿にからかわれているのですよ。」
「え?そうだったのか?やい、お前、初対面でいきなりからかうなんて、ひどいじゃないか!」
「ぷっ・・・くくく・・・あはははは」
俺はこらえきれずに笑い声を立てた。
ヤバい。こいつ、面白過ぎる。
「な、なんで笑うんだよー!」
「ああ、すまんすまん。響が、もちろん知ってるだろう、なんて言うから、ついからかってみたくなったんだ。
・・・なあ、響は確かに有名だし、実力もある。そして俺は当然、そのことを知ってる。」
「うんうん。」
「だが、これから改めてアイドル活動を再開するにあたって、そのことは忘れて欲しい。新たな気持ちで、
あらためて人に名前を知ってもらって、歌を聴いて、ステージを見てもらう、という意識でいて欲しいんだ。」
「あ、そ、そうか。そうだよな・・・うん。これから再デビューするわけだし。初心に戻れってことだな。」
「そういうことだ。わかってくれたか?」
「わかった。なかなかいいこと言うな、お前。さっきは偉そうなこと言って悪かった。ごめん。謝る。」
おっと。自信家で我が強いかも、と思ってたが、なかなかどうして素直ないい子じゃないか。
「ああ、わかってくれたならいい。あと、俺の事は今後、お前じゃなくてプロデューサーと呼んでくれ。」
「わかったぞ、プロデューサー。」
「よし、これからはそれで頼む。じゃあ、今後の活動についてだ。貴音にはさっき話したんだけど、ライブを
中心にやって行きたいと思っている。」
「貴音と二人で、か?」
「そうだ。これからは二人でのユニット活動という形になるわけだし。もちろん、コンサートにもなれば、ソロ
で歌う曲も用意するつもりだけどな。」
「そっか。貴音とは、一緒に歌った事ないけど、面白そうだな!」
「私も、響殿と共に歌うとなれば、とても楽しみです。」
「俺も楽しみだ。貴音と響の二人で歌うライブなんて、本気でわくわくする。さあ、明日から早速、コンサート
を前提に曲数を揃えてレッスンに入るぞ!」


275:Brand New Fairy (4/4)
09/06/14 12:25:42 a6/y+YMa

「ん?・・・何やら、再び隣の部屋から面妖な雰囲気が・・・」
「こ、今度はなんだ?」

『社長のバカバカバカーっ!!ミキのプロデューサーは、もう決まってるの!他の人じゃダメなの!』
『み、美希君・・・。うーむ、困ったもんだ・・・。』

こ、これは厳しいな・・・。
俺なら、どう説得するだろう・・・?

コンコン
「はい。」
「プロデューサーさん、また社長がお呼びですよ。」

来たか。

「じゃあ、貴音、響、ちょっと一緒に来て手伝ってくれ。三人がかりで美希を説得するぞ。」
口説き落としてやる。格好悪くても、プランBでもCでもなんでも構わない。
「え?ど、どういうことだ?」
「プロデューサー殿は、私と響殿と美希殿を、一緒のステージで歌わせたい、ということです。」
「そういうことだ!こうなったら、絶対に三人のユニットを実現させてやる!」
何より、俺自身が見てみたい。
「なんでそうなるのかよくわからないけど、面白そうだな!」
わっかんーないーかーなー
「よし、ジェントルよりワイルドに、とにかく美希をねじ伏せてでもメンバーに加えるぞ!」
ユニット名は・・・『ナムコフェアリー』で決定だ!




276: ◆bwwrQCbtp.
09/06/14 12:29:44 a6/y+YMa
はい。いかがだったでしょうか。
なんとなく、961キャラの話を書きたくなって、じゃあ誰を書くか、と思っていたら、こうなりました。

しかし、オリキャラ議論とか、参加しようかと思ったら、いきなり私の書いた物が議論の中に入って来て、
非常に参加しづらいのなんのってw

最近、そんなことばかり言ってる気もしますが。
ではまた。

277:創る名無しに見る名無し
09/06/14 19:04:35 BYtcB/Q1
>>264
雨晴P新作ってことでそりゃもう期待に期待を入れ込んで読みました。
感想。期待以上。超乙。自分も雨晴さんの優しいPは良いと思う口ですが、こっちもアリですね。
何よりもラストへの持って行き方がまた。そのパンフ下さい。10部くらい。

このSS読んで、色んなキャラのジューンプライドネタも見てみたいなあなんて思いました。
・・・ハッ!これはまさか風船祭り以来のお祭りの予感・・・!
・・・なんてね。

278:創る名無しに見る名無し
09/06/15 02:13:54 EToiLdMX
>>276
961組の再出発で結成時のドタバタコメディといったところでしょうか
美希を加入させようとして「ねじ伏せてでも」という台詞が出る辺り、美希の件の
プロデューサーと今回書かれている「プロデューサーさん」は別の人物とみてよさそうか。
だとすると苦戦必至だけども、骨折りがいのあるものが観られそうですw

前半がやや地の文多めで説明的なのに対して後半がほぼ台詞のみで、後半に行くに従って
またかよ、的に何かを起こしていくスピード感を重視したのかもしれませんが
前後の重さが大きく差がある印象で、そこがちょっと気になりました
歌詞ネタ、指差そうとしたつもりが触ってるなど、プレイヤー視点のネタも盛っているのは
いつもの作風といったところでそれぞれニヤリとできるところ
ユニット名は個人的にはちょっとベタ過ぎというか前のイメージ引きずりすぎじゃないかと
思う部分もありますけど、それもまあ好みの問題と言えば好みの問題、リアルだったらこれはないよね
と思う部分ですが、アイマスだったら~エンジェルがデフォルト名のナムコエンジェルも含めて
いくつもいるわけでベタでも当然か、という気もしないでもないですし・・・

んー、なんだろ
全体としてはありなのですが、細かいところがほんのちょっとずつ引っ掛かる感じですね
なんとなくスッキリしないというか。

279:創る名無しに見る名無し
09/06/15 06:14:50 Lk8f2QNr
>>276
>>278と同意見。ノリ切れそうで、そうでなかった。
序盤の貴音との件が、後半のコミカルでアップテンポなリズムとギャップがあって、重石になってる。
そのせいか後半部分、オチ(ラスト)へ向けて勢い良く加速、というより、
徐々に空気が抜けて軽くなってく印象を受けてしまいました。

ただ話は面白く、楽しく読ませていただきました。
創発カラーのある作品だし、好きですね、こういうの。またよろしくです。

280: ◆DqcSfilCKg
09/06/15 10:15:03 pZCrILtG
前作への多くの感想、ご意見ありがとうございました。
思いのほか、ご好評を頂き嬉しく思います。

今回も投下させていただきます。
題名は「愛の人」。メインは伊織です。ついでに私は下僕です。
使用レスは3レス。投下終了宣言あり+レスのお返しです。

281:愛の人(1/3) ◆DqcSfilCKg
09/06/15 10:15:52 pZCrILtG

耄碌してからの祖父を伊織は嫌いだった。
息子に家を任せた後、まるで気の抜けた風船のように丸くなった背中。
緑と花に彩られた邸宅の庭で使用人の押す車椅子におさまり、仏頂面とも違う感情の無い顔で日々を過ごす。
厳然という言葉をそのまま背負っていたような祖父を知っているだけに、伊織はどこか罪悪感とも違う、チクチクとした思いを抱えながら声をかけた。

おぉ――。

伊織の姿を認めると、今や食事も上手く飲み込めずにボロボロとこぼす口から声が漏れる。
けれど、その口はいつも伊織ではなく自分の妻の名前をこぼすばかり。
伊織の祖母は伊織が生まれるひと月ほど前に亡くなっており、当時としては珍しく恋愛結婚だった祖父は事あるごとに、若かりし頃の祖母と伊織は似ていると豪胆な笑い声と共に家の者に話していた。
息子と兄二人には厳しかった分、孫娘は目の中に入れても痛くないほど可愛がった。
伊織自身も、そのしわくちゃで節くれ立った手で撫でられるのは大好きだったし、殆ど家にいない両親の代わりに与えて貰った愛情には感謝さえしている。
だからこそ今の祖父の様子には失望、落胆とも違う感情が渦を巻く。
使用人が慌てて訂正するが、その頃にはもう口を硬くつぐんだだけの祖父がぼんやりと中空を見つめていた。
代わりに頭を下げる使用人ごと無視すると、祖母が生前に好きだったという花菖蒲が目についた。
まだ花もついていないそれを見ないように、伊織もまた視線を中空に泳がせた。

事務所に行くと、あずさがソファに座っているだけで他のアイドルは出払っていた。
小鳥も事務業務に追われているらしく、伊織は給湯室から持ってきたペットボトルの紅茶片手にあずさの斜向かいになる形でソファにもたれかかった。
何となく正面に座るのがイヤだっただけの伊織に、あずさは小首を傾げた。
「何かあったの?」
普段はイライラするぐらい鈍いあずさは、こういう時だけはやっぱりイライラするぐらい鋭い。
別に、と自分でもそれはないだろうと思うぐらいの言葉を吐いてペットボトルの封を開けた。
それ以上、あずさは何も言わずにいつもの笑みを浮かべている。それがまた伊織をイラつかせる。
わざとやってるんじゃないか、とすら思えた。
お爺様のことよ、とボソリと呟いて伊織は続ける。
「私のことをお婆様の名前で呼ぶの。孫の顔も忘れたのかって、少し落ちこんでたところよ」
落ち込むというよりも苛立ちに近かった。
あれだけ可愛がってくれた愛情は嘘だったのか。
それこそ、自分への愛情は早くに亡くなった祖母の代わりなのか。
兄二人への祖父の厳しさが、期待の裏返しだと気づいたのも苛立ちを加速させた。
考えても仕方の無いことを引きずるあたり、祖父への思いが純粋なことを物語っているのだが、かえって伊織を混乱させた。
もういっそのこと早く。
祖父の無様な姿を思い浮かべ、そんなことまで考えてしまった自分を頭を振って戒めた。


282:愛の人(2/3) ◆DqcSfilCKg
09/06/15 10:17:39 pZCrILtG

ほぼ一人で問答を続けている伊織に、あずさは「とっても素敵なことじゃない」と目を細める。
自然とあずさを見る目が厳しくなってしまうのを、伊織はやめなかった。
なによそれ、と自分の声とは思えない冷たい低音が響き、それでもあずさはニコニコと笑みを浮かべ、だって、と続ける。
「それだけ自分の奥さんのことを想ってるんでしょう? 伊織ちゃんはそのお手伝いをしてるのよ。人は段々子供に戻るっていうけど、その頃から奥さんへの愛で伊織ちゃんのお爺様は成り立っていたのよ」
「慰めのつもり?」
「ええ」
昂ぶった気持ちをおさえられず、でもどこにもぶつけられないまま乱暴にソファから立ち上がると事務所を出ていく。
階段ですれ違ったやよいが少し怯えた表情を見せて、そこでやっと自分がとてもおっかない顔をしていることに気づいた。

庭園は変わりなく四季の移り変わりを見せている。
祖父もまたいつものように使用人に車椅子を押されながら、どこを見ているかも分からない瞳を空に漂わせた。
伊織も何も変わり映えの無い笑顔を貼りつける。
はたして上手く笑っているだろうかなんて、いつから考えなくなったのだろう。
呻くように、やはり祖父は祖母の名前を出した。
諦めたように祖父に顔を近づけ、訂正しようとする使用人を伊織は手で制すると、そのまま祖父の前に膝をつけて座った。
膝に感じる芝生が少しくすぐったい。
使用人がワケも分からずに目を白黒させるのを他所に、伊織は祖父の目を見つめる。
返す瞳の濁りが分かるほどの距離。それが以前の距離だった気がするが、もう思い出せなかった。
祖父はまた自分の妻を呼ぶ。チクリと心に刺さるそれは、たぶん嫉妬。
自分のお爺様でいて欲しかった。もういないお婆様よりも自分を見て欲しかった。自分を見れば十分だろうと、そう思っていた。
でも、本当に愛する人は私じゃなくて。代わりに愛していたものが私だっただけで。
「……はい」
呟くように言ったそれは、はっきりと祖父に届いた。
僅かに震える両手で伊織の頬を包む。
久方ぶりの感触に緩む涙腺を堪え、妻の名を呼ぶ祖父の声に伊織は応え続けた。


283:愛の人(3/3) ◆DqcSfilCKg
09/06/15 10:18:39 pZCrILtG

祖父が亡くなったのは伊織の誕生日の二日後だった。
四月の半ばにはもう意識も無く、病室で何本ものチューブに繋がれ、人間としての態を失いつつあった祖父はそれこそ見ていられなかった。
だから維持装置から開放された祖父を見て、なにより安堵の涙を流した両親と同じ想いを抱えていたことに誇らしささえ覚えたのは間違っているのか。今も分からないけれど伊織は満足している。
葬儀は滞りなく行われ、久しぶりに事務所に顔を出すとアイドル達は特に騒ぐ事も無く伊織を迎えてくれた。
まだ祖父母共に健在の亜美真美が、珍しく神妙な顔をしていたのが微笑ましくも思える。

「それは花菖蒲かしら?」
あずさが尋ねる。小さな蕾をつけ始めたそれは、葬儀の後に祖父の遺言の一つにと渡されたもの。祖母の好きだった花。
不思議だったのは伊織以外、誰も祖母が花菖蒲を好きだったのを知らなかったことだったが、二人の時だけにこっそり祖父が教えてくれたことをその時になって伊織は思い出した。
折り合いはつけたはずなのに花を手にするとまた少し複雑な思いが胸を巡るが、いずれは時間が解決するだろう。
最後までお婆様を愛していたお爺様らしい遺言だと、それなりにスッキリとした顔で伊織は答えた。
しかし、何が気に入らなかったのだろう。手にある花菖蒲を見つめたまま、あずさは珍しく渋い顔を見せる。
しばらくの逡巡の後、また花のような笑顔を浮かべると、
「やっぱり伊織ちゃんのお爺様だったのねえ」
と、勝手にオチをつけられたようなことを言い出した。
気味が悪いわね、と憎まれ口を叩くと、あずさは笑みを緩める。
とても真面目に、まっすぐとした面持ちに伊織の方が居住まいを正した。
「花菖蒲はね。5月5日の誕生花なの。花言葉は"うれしい知らせ"。きっと、お爺様にとって伊織ちゃんは」
もう最後まで聞けなかった。
あずさが言い終わる前に、伊織は泣き崩れていた。
推測と憶測にしか過ぎないことだけれど、きっと祖父はそれを伝えたかった。
これまでの悪態を恥じ、祖父の愛情を疑った事を嘆き、気づかなかった祖父の想いに堪えがきかない。
震える手で抱きしめる花菖蒲から暖かささえ感じた。
祖母への愛も、伊織への愛情もけして代えのきかないものだった。
どうしてそれに気づかなかったのか、今はそれを悔やむ前にこの愛情に包まれよう。


愛の人だった。愛に溢れた人だった。


284: ◆DqcSfilCKg
09/06/15 10:19:51 pZCrILtG

以上で投下終了です。そういえばPが出てないですね。
以下、前作レスへのお返しです。

>>248
そう言っていただいてありがとうございます。これくらいが読みやすくて良いのかもしれませんね。
あまりメタ発言は好きではないのですが、これくらいなら良いよね? ということでw

>>254
レスありがとうございます。自分の癖と言いますか、地の分に頼りがちなところがあるのでテンポには気をつけているのですが、
今回は上手くいった様でホッとしています。

>>256
まさにその通りのイメージと言いましょうか、今回はそういう年頃だからこそのヤキモキをテーマに書きました。
最近の雪歩は賛否両論ですが、こういう風な受け取り方も出来るんじゃないかなあ、と。

>>257
ピヨ&双子のやり取りだけでもレス主様の小慣れてる感が出ていて、双子を描くのが苦手な私はとって羨ましい限りです。
いい子、なのですが今は真、雪歩共に立場的に良い子、というイメージです。その薄氷の上を歩く感じをもっと出していきたいです。
春香さんは確かにそちらのほうが自然ですね。ちょっと中の人を意識し過ぎましたw

>>266
ご指摘ありがとうございます。感覚的に、『春香は年上なのは事実だけど普段は年上だと感じていない真』というスタンスでの表現でした。
私の言葉の選択が紛らわしかったこと、次回は気をつけたいと思います。

以上、長々と失礼しました。
また次回もよろしくお願いします。何かこのアイドルで、というのがありましたらどうぞお願いします。


285:創る名無しに見る名無し
09/06/15 16:53:01 sXSp5xhe
>>284
春香と真の年齢についてですが、公式設定では両方とも16歳、
よく使われるアケ稼働開始日基準だと、真の誕生日がまだのため、
真が一学年上、年齢もその時点では同じだけど、生まれは一年早い、
という解釈が主流だと思います。
少なくとも、春香の方が上という解釈は成立しないと思います。
>>266の指摘もそれが前提ではないかと。

286:創る名無しに見る名無し
09/06/16 00:35:46 VisR6OBG
規制中により携帯から+初二次創作+SPからの新米P

3レスほど

287:1/3
09/06/16 00:38:13 VisR6OBG
 俺は焦っていた。
 大学4年の秋、内定が貰えないまま、就職浪人になりそうだった時でも、ココまで焦っていなかっただろう。
 その時のダメ元で受けた零細(って言うとマズイかもしれないが)芸能事務所が内定出してくれなければ、
恐らく視界の隅に映るハロワに並んでいるような就職浪人組になっていただろう。
 そう、これから向かう765(なむこ、と読むらしい)プロダクションには人生の完全敗者になる寸前で拾ってもらった恩があるのだ。
 だからこそ、入社当日に遅刻という大失態は避けなくてはならないのだが……
「ああああああああああああ、この目覚ましがああああああああああ!!!」
 朝礼開始が午前8時、で、今の時間は8時10分前。全力で走れば何とか間に合うだろうが、初出社がギリギリの新入社員、他の社員からの心象は最悪だろう。
 下手すると出社と同時に社長から
『おお、君か、明日からもう来なくて良いぞ』
 とか言われてしまうかもしれない。そうなると明日からあのハロワ通いの……
 ぶんぶんと頭を振って最悪の想像を振り払う、いかんいかん、弱気になると碌な事が無いからな、うん。

288:2/3
09/06/16 00:40:44 VisR6OBG
 とか何とか考えてるうちに目の前の信号が赤に! いや、大丈夫だ、車側の信号が青になるまでタイムラグが……ってタイムラグ短っ!
 危うく今日の夕刊に載る破目になりそうだったが、ギリギリで踏みとどまった。
 だがしかし、これでほぼ遅刻は確定してしまったような物だ。
「あのー」
 しかしどうした物か、目覚ましの時間を一時間セットし間違えたとかいう遅刻の理由もさることながら、焦り過ぎて携帯を家に置いて来てしまったのだ。
「すみませんー」
 弁解の連絡も何も出来ないじゃないか! こういうところ抜けてるから大学四年まで内定が……
「よろしいでしょうかー?」
「あ、え? 俺ですか?」
 いかん、考え事し過ぎて周りが見えなくなってた。
「良いですよ、急いでますからあんまり長く話せませんけど」
 信号が未だに変わる気配が無いのを確認して応える。
 しかし綺麗な人だな、長い黒髪と優しげなオーラが特徴的だ。ここら辺は芸能事務所多いみたいだし、もしかしてグラビアモデルとかそんな人かな? 
「765プロダクションへはどう行けばいいのでしょうか?」
「え、765プロですか、俺も今から行くところですよ」

289:3/3
09/06/16 00:44:09 VisR6OBG
 なるほど、見たところ俺と同じで初出勤なのかな。
「まあ! 奇遇ですねえ、では……ああ、もしかして、今日から来る予定の新しいプロデューサーさんですか?」
「あ、そうだと思います……まあ、プロデューサーと言っても最初のうちはマネージャーみたいな物でしょうけど、よろしくお願いします」
 いいなあ、多分俺のほうが年上なんだろうけどこういうお姉さん系の魅力って言うのは年齢を超えた物がある。
「はーい、よろしくお願いしますね、プロデューサーさん」
 いいなあ、大人の魅力。
 しみじみとそう感じて首を縦に振った時、周囲の違和感に気付いた。
「あれ? 周りに人が……ってああっ! 青信号が点滅してる! いそいで渡りましょう! ……えーとお名前は?」
「それにしても運命を感じますねえ、行く場所が同じでお勤め先も同じだなんて……」
「すいませーん! 早く渡らないと赤信号になっちゃいますよー!」
「あらあら、すみません、私ったら名前もお教えしていませんでしたね……私、三浦あずさといいます。よろしくお願いしますね」
「あ、はい、えーと俺の名前は……」
 かみ合わない会話をしている内に視界の隅で信号が赤色になった。

290:創る名無しに見る名無し
09/06/16 00:48:43 C3YBuWvm
>>284
タイミングの悪いレスだったのに答えてくれてありがとう。
気になったのは言葉の選択が紛らわしかったことじゃなくて、むしろそこは正しく伝わってたんだけど、
>>285の通り春香が真より年上だというところが気になったということです。
一応真が高校二年生で春香が高校一年生なので……。こちら>URLリンク(www.idolmaster.jp)
勘違いなのかあえてそうしたのかは分からないけど、わざとだったとしてもそのこと自体をどうこういうつもりはないです。
ただオリジナルの設定にすることは全然構わないんだけど、あの手のシチュエーションSS?みたいなので
あんまりあっさりそういうのが出てくると「ん?」と引っかかってしまう、と思ったのでした。
こまけぇことですみません。

291:創る名無しに見る名無し
09/06/16 00:49:43 VisR6OBG
色々わけ分からん事が多い中手探りで明日辺りに後編を……ていうか纏めるべきでしたね
文字数は携帯の関係で1レス1kb制限なのでこうなりました……ていうか規制解除待つべきでしたね
しかし専ブラで見ると文字数少ないなぁ……改善の余地アリですね

292:創る名無しに見る名無し
09/06/16 01:38:14 rPVp3x3H
>>276
961トリオをまとめてプロデュース!な視点が新鮮でした
合間に紛れるスピーディーな突っ込みが気持ちいい反面
3人の誰とも面識がない?Pにしてはちょっと知識が詳しすぎるのが少し気になったかな
あと、1つ呼称指摘になるけど、貴音からは美希・響共に「~殿」はつけなかったかと

お約束とも言うべきサクサクした展開とノリ突っ込みのボケ漫才みたいな流れはすごく好みです
次も期待して待ってます

>>291
プロデューサーさん、ドンマイですよ、ドンマイ!
解除待ちと言わずに、ラストまでお目にかかれることを期待してます

293: ◆DqcSfilCKg
09/06/16 15:08:13 PzVOhw60
>>285様、>>290様、ご指摘ありがとうございます。
真と春香の年齢ですが、私の勘違いでした。
確認していたつもりなのですが、基本ともいうべき部分を見落としておりました。

次回はこのようなことのないよう、気をつけます。
失礼致しました。

294:創る名無しに見る名無し
09/06/16 15:24:22 VG0cxPor
メイン・サブ回線とも規制という哀しい状況なのでとりあえず新参Pにエール
>>291
初二次ってわざわざ書いてるってことは一次で書き慣れてるんでしょうか?
テンポよく読みやすい。これで前編だと次でおしまい?えーもっとぉ、な感じ
はしますが、残り楽しみにしてます。
しかしまたダメなPが来たなこりゃw

295:創る名無しに見る名無し
09/06/16 18:51:51 4Q9JwmAe
>>272
ん~、961プロ組の初ミーティングならこんな感じでしょうね。
ただ、やっぱり他の方も書いてるように後半になるにつれて何となく失速感があるのが。
落ちが読めてしまうからでしょうかねぇ?

>>281
うん、このスレらしいSSですね。
伊織メインだけど、キャラスレに落とす物とは違う気がするし。

>>291
SSとしてはそこまで文字数少ないとは思えませんが。
#他の人と比べて少なく見えるだけで。

>>294
> しかしまたダメなPが来たなこりゃw
「アイマスPの掟」
・鋭いようで抜けている。
・口からでまかせで切り抜ける。
・アイドルとのフラグは全力で折る。

296:創る名無しに見る名無し
09/06/16 22:45:10 Czw3LnXB
>>291
誰も言わないけど、一応。
SS投下するなら一度に、全部、が望ましい。というかベスト。
全てを書き終えた段階で、長すぎるから間隔開けて投下するというのならいいが、
そうで無い場合、書いて投下→続きを書いて投下→繰り返しというのはよろしくない。
何故なら、ブツ切りの作品には読み手は反応し辛いし、他の職人の投下の妨げにもなる。
基本的に、事情により何回かに別けて連載する場合、必ず次回の投下予告を決め、守る。
もちろん最後まで書き終えるのが大前提。

以上がお兄さんとの約束だ。
ちょっち堅苦しいかもだけど、それが厳守出来ればココはとても居心地いいぞ。

297:291 0/4
09/06/16 23:47:06 VisR6OBG
レスに答えると

一応一次で書いてる期間は長かったりします
続きに関してはプロデュースが始まる前の小話程度の内容を想定しているのでこんな短さです

長さについては読みやすさと読み応えを両立したいのでもう少し長くというのが目標です

投下の分割云々はよく覚えておきます


以下後編多分4レスかと

298:1/4
09/06/16 23:49:03 VisR6OBG
「すいませんでしたっ!」
 九十度直角に頭を下げる、体が柔らかかったら逆さまになっている後の景色が見えていることだろう。
 あずささんは既にレッスンへと出かけている。
 そして俺は今、765プロの社長である高木順一郎氏の前で、解雇通知覚悟で頭を下げているというわけだ。
 しかし、社長の言葉は俺の想像とは全く違っていた。
「まあまあ、誰にでも失敗はあるものだ、これから我が765プロで活躍してくれたまえ」
 ああ、一生ついていきます社長。感謝の意思を伝えるためにフトモモの裏が痛くなるまで頭を下げた。
「そういえば、君はうちのアイドル達と顔合わせするのはまだだったね」
「あ、はい、あずささんとは繰る途中で会いましたけど」
 突然変わった話題に困惑しつつ答える。
 後々挨拶に回ろうと思っていたのだが、遅刻という大失態をしでかしたので、社長に謝りに行く前に会いに行くという選択肢が無かった訳なのだが。
「うむ、まずは高槻やよい君と会って来ると良い、彼女はうちの事務所の前を『掃除』しているはずだ」
 『掃除』という言葉が嫌に強調されている、恐らくこれは……
「あ、会いに行くついでに掃除手伝ってきます!」
 そういうわけな

299:2/4
09/06/16 23:51:31 VisR6OBG
(文字数制限引っかかった、最後の一文は「そういうわけなのだろう。」です)

「えーと……事務所の前って言うとココだけど……」
 765プロの入っているテナントビルの前まで来ると、不意に鼻歌が聞こえてきた。
 見回すとツインテールの小さな女の子が箒とちりとりで茶色く変色した桜の花びらを掃除していた。
「ちょっといいかな? 君、社長に言われて顔合わせに来たんだけど」
「あ、はい! えーと、あなたは……誰ですか?」
 まあ、知らない人に声掛けられたら普通警戒するか。
 そうは言っても俺も今日から765プロのプロデューサーだ、アイドル(候補生含む)達と打ち解けるのも仕事のうちだろう!
「ああ、俺は今日から765プロに来る事になったプロデューサーだよ、よろしくな」
「ええ! じゃあわたし、デビューできるんですか!?」

300:3/4
09/06/16 23:52:38 VisR6OBG
「い、いや……実は遅刻した罰で掃除を手伝うように言われてね」
 でもかわいいなぁ……あずささんとは違う魅力だ。
 いうなれば妹……じゃないな、年下の後輩って感じだ。プロデュースするなら二人のうちから選びたいなあ。
「あうう……でも仕方ないですね、一緒にお掃除頑張りましょう!」
「じゃあそうしようか……ええと、やよい」
「はい! プロデューサー」
 ああもう、可愛いなぁ……俺、ロリコンかも。
 頭を撫でたくなる気持ちを抑えつつやよいの持つちりとりに茶色い花びらを入れていく。
 しかし、こんなに魅力的な女の子がいる765プロがなんでこんなに小さい会社なんだろう? ……金か?
 そういえば事務員が二人しか居なかったし、そもそも同期が一人も居ないって今考えると……
「あの、プロデューサー?」
「ん? ああごめん、ちょっと今日の昼ごはんについて考えてた」
「お昼ごはんですか? 私はお母さんにお弁当作ってもらってますよ」
 いけないいけない、変な考えは止めよう、そもそも弱小プロダクションなんだからそういうことは当たり前じゃないか。

301:4/4
09/06/16 23:55:06 VisR6OBG
 昼前には事務所前を綺麗にし終わり、俺は一人で社長室へ向かった。やよいは社長が用意してくれたレッスンジムへ向かうらしい、年の割にしっかりしてる娘だ。
「社長、そうj……やよいとの顔合わせしてきました!」
 うっかり掃除と言いそうになってしまった。いかんいかん……
「ム、そうかね、ではこの中から担当したい候補生を……」
 といいながら社長が取り出したのは明らかに三部以上ある書類だ。
「ちょ、ちょっと待って下さい! 俺はまだ二人としか……」
「すまないが」
 社長の目が妖しく光った気がした。
「朝礼のときは全員居たのだがね、今は間借りしているレッスン場へみんな散り散りになってしまってねぇ……」
 ぐっ……それを言われると辛いっ……
 丁重に書類を受け取り、俺はそれに目を通し始めた。

以上、では次回からは気をつけるようにします。

302:創る名無しに見る名無し
09/06/17 00:29:31 0r38f5Ig
>>284
率直に言って、「推測」される内容が一義的に求まらず、
クライマックスで取り残された感じが残りました。
未だにいくつかの解答から正解が選び出せません。
感極まるくらいなら、もう少し情報が欲しいし、もしくは伊織自身も、
そうだったかも、くらいの抑えめの反応にして欲しかったです。
話自体は、筋もキレイでいい感じでした。
あと、自分の妻と、孫とは言え少女とを間違うということは、
その年代の時の妻のことをよく知っている必要があると思えるので、
その辺の描写も欲しかったかな、と思いました。

303:創る名無しに見る名無し
09/06/17 01:39:40 YE+Z6H3K
>>276
実は真っ先に作品名出されてたんですが「名無しだしカンケーないねっ」とばかりばんばん例示
する流れにした俺が通りますすいませんorz
おかげで何本か未読の作品見つけたし(揃いも揃って長いなあw)しばらく楽しみです。

さて作品の方、GJでした。こういうテンドンつうか同じ事件が続けて起こるシチュエーションコメディ
大好物ですwなんならもっとギャグ方向に倒していただいても良かったくらいで。
……ただまあ、バランスがちょっとよくないかなとは感じました。
Pの語り=地の文が初めから軽妙で、ほとんどスラップスティック調でストーリーが終始している
のにもかかわらず、登場人物みんなを複雑に描き過ぎかなあなどと思いました。
短編ギャグの登場人物は特徴的である方が受け手の飲み込みが早い、と俺は考えていて、
たとえば貴音はPの手腕に感心したらもう出番終了、響にPの真意を解説する役は負わなくても
よかったかもと思いましたし、P自身にも響をもっと単純明快に落として欲しかった(あえての
πタッチで惚れさせたってたぶん俺は許したw)。キャラ全員について性格に深みを持たせている
おかげで読み手は一生懸命読み込んでしまうし、それがテンポの減衰につながっていそうです。
書き手氏ちょっと真面目なSS狙い過ぎかなあ、なんていう感じの読後感でした。



>>284
ひねりの効いた深い話で感動しました。ありがとうございます。あなたがこのスレにいらっしゃる
ことをとても嬉しく思っています。
しかもちょうど雑談で盛り上がっていた内容。祖父の深い想いをようやく受け取ることが出来た
伊織、彼女に素敵なことを教えてくれるあずささん、出演せずあえて自分は身を引くことで
感動をプロデュースする下僕w、と大変いいお話でした。あずささんの「イライラするくらい鈍くて
イライラするくらい鋭い」という表現であるとか、種明かしの直前までの伊織の態度であるとか
実に見事ですし、表現が視覚的でたとえばドラマになりそう。オリキャラも共感しやすい登場、
後を引かない鮮やかな退場、ゲストキャラのお手本かと言う手際。
これはなんでしょう、ええと、『俺には』けなしようがない。

二次創作だけでなく世間一般にすら安易に死を扱う物語が多い中、おじい様の堂々たる
いずまいには感服の一言です。雲の上の縁側で、久々の愛しい人に孫自慢でも聞かせて
やってください(ノД`゚)



>>初二次の人
GJ!少女漫画的展開であずささんをプロデュースする話かと思っていたらそれ以前の段階w
相応にキャリアお持ちのようなのでこれはジャブ程度とお見受けしました。
書き筋は個人的にも好きなテンポで、どんどん読めます。これはおっしゃるとおり、もうちょっと
長い奴を読みたい。
ストーリー自体は……正直ブッタ切り感が強いですが実際のゲームでもこんな感じはあります
んで。
・大幅遅刻ってワケじゃないのに候補生全員行動開始済みとは真面目な会社だなぁ
・やよいに会いに行く時に「掃除してきます」って言っちゃってるジャン
とかツッコミ所はありますがw、気にせずにいられる程度に読み進められました。これはむしろ
手腕だよなあ、なんて思ったりして。
これからもいっぱい書いてくださいまし。

304:創る名無しに見る名無し
09/06/17 01:40:50 YE+Z6H3K
他人が解釈する無粋をお許しください>>284

>>302
俺も真実を『一義的には』理解していませんが、選択肢自体もそう多岐にはわたっていないの
では。上記の通りベタ惚れの俺ですら伊織は頭良すぎwと思いましたが、その辺は妄想補完
の(むしろ)チャンスかと。

・花菖蒲は5月5日の花である
・花言葉は「うれしい知らせ」
・伊織が生まれた当時、祖母はすでに亡くなっていた
・豪放な人間ならわざわざ家族に秘密になどせず、日常の話題として比較的多数に話している
であろう「祖母は花菖蒲が好き」という『事実』を、なぜか伊織以外が知らない
ことから、
彼はきっと「自分の妻が亡くなって、代わりに孫がこの世に降りてきた。これは妻の自分への
贈り物なのだ。自分はこの孫娘を愛そう。かつて妻を愛した愛情を、この命に奉げよう」と思い、
花菖蒲の花言葉を知った(あるいは知っていた)彼はそのメッセージとして伊織だけに、ある日
「お前のおばあちゃまはな、この花が好きだったんだ」と『嘘』を教えたのではないでしょうか。
計画的とか騙そうとかではなく、もっとなにげない話題だったかも知れません。
そして、
・ボケる前に遺言なりで「自分の葬儀では花菖蒲を参列者に配って欲しい」と言い、自分が
死んだあとで「ばあさん見とるか、わしゃお前さんの贈り物を、伊織を愛したぞーっ!今から
お前さんに報告に行くからの、待っとれよーっ!」とこの世にもあの世にも超絶アピールの
ネタ振り(この世向けにはあずささんがいなければ誰も気付かなかったのでは)

……と、俺は考えました。これを中心に別の解釈も持っていますし、なにより作者氏の真意と
同じかどうかは不明ですが、そうズレてないと思います。
>>302の「いくつかの解答」のうちにもありますよね、きっと。

で、ボケると大概のことは許容範囲に入ります。まして愛した自分の妻の血が受け継がれて
いる女性は水瀬家に伊織一人(勝手に父方と考えてますがこれも妄想補完w)です。自分の
妻と間違えて呼ぶなぞごくごくあり得ることなのでしょう。

伊織を「妻の代わり」ではなく愛し、
そのことがまた妻への愛である。

彼はまこと、愛の人だったのだと感じました。

305:291
09/06/17 01:55:03 LiuMayK8
>>303
基本的に何も考えないでも読めるもの目指してるんで細かい事は気にしない方向で(作家志望としてはアレだけど)

解説つけるとすれば
>・大幅遅刻ってワケじゃないのに候補生全員行動開始済みとは真面目な会社だなぁ
>・やよいに会いに行く時に「掃除してきます」って言っちゃってるジャン
       ↓
・あずささんとの会話とやよいの手伝いで時間食って結局昼前
・(裏の目的はともかく)あくまで目的は「顔合わせ」、掃除はそれの「ついで」

てことで一つ

306:303
09/06/17 02:03:42 IYtD0JLc
>>305
おk了解w
エンタメ志向いっすね。

307:創る名無しに見る名無し
09/06/17 09:35:24 zM4/JisU
SSの投下、最近活発になって来てるなぁ。
下手に投下するとダブルブッキングする可能性も出始めたかな?w

308:創る名無しに見る名無し
09/06/17 10:03:12 WXk+VuQX
1レス交代で投下とかじゃなきゃかまわんよw

309:創る名無しに見る名無し
09/06/17 11:44:40 yvuy1Tp+
探すのが面倒になるから、分割投下も余計に推奨できないな。

310:302
09/06/17 12:45:35 nWlJL3rw
>>304
その解釈が一番最初に来るかもですが、それだと
余計に「祖母の代わり」な感じも出てくるので。
あと、ちょっと考え過ぎっぽい補完が以下。

?祖母は伊織の産まれる予定日を知っていて、
花菖蒲の話を祖父に教えたのではないか。
また、まだ見ぬ孫娘の件があって、祖母の
「好きな花」に花菖蒲が加わったのではないか。

これが、祖父が誕生花や花言葉を知っていた理由を
含めて、一番しっくり来ました。
祖父は、伊織に会う事の出来なかった祖母の分まで
伊織に愛情を注いだ、と言う意味も含まれますし。

ただ、これは根拠不足と同時に、「祖母が好きだった
花菖蒲」の真偽を筆頭に、大きく個別事象の解釈が
変わりますので、一般的じゃないでしょう。

これは極端な例ですが、かなり解釈の振れ幅があるのは、
わかってもらえると思います。

一言つけ加わえるなら、それくらい本気で読んだのは
確かです。>>284

311:304
09/06/17 12:59:12 NwSScKGF
>>310
見解ご披露ありがとうございます。「……という振れ幅があるため取り残された感じが残った」と
おっしゃるのもよくわかります。人の受け取り方というのはいろいろなんだなあと思いました。

俺もこうやって本気で読んでもらえるようなやつ書かなきゃですね。

312:創る名無しに見る名無し
09/06/17 19:15:11 zM4/JisU
久々にSS投下します。まだまだ緊張するね、この瞬間は。

8レスだけど、そんな長くありません。黒春香注意。というか全体的に注意。

313:幸福Children (1/8)
09/06/17 19:20:53 zM4/JisU
 “June bride”という言葉がある。
 
 由来は、6月はローマ神話の女神の月で、
 この月に結婚した女性は幸せになれると伝えられているから。
 
 梅雨も明け、本格的な夏の始まりを予感させるセミの声が耳につくこの頃。
 
 なのにいまさら、そんな事が頭をもたげるのは―。
 
「お。ちょうど発走か。これはいいタイミングだな」
「あ、社長。お疲れ様です。珍しいですね……休みの日に」
 
 自分以外事務所に居ないと思っていたプロデューサーは、
 不意を突いて現れた社長―高木の声に少しばかり驚き、焦った。
 
 というのも、机の上にだらしなく足を乗せて、くつろいでテレビの競馬中継など観てたりしたものだから。
 おまけに、鼻の下にペンを乗っけるという、ワンポイントまでキメて。
 
 慌てて姿勢を正し、高木に振り返り挨拶をするプロデューサー。

「うむ。目を通しておかないといけない書類を事務所に忘れてしまってね。
 取りに来たんだが、此処で読んでいってしまおうと思って、奥の部屋にいたのだよ。
 君こそ、休日だというのに精が出るねぇ」
「いや、たまたまですよ。休む時は休んでますし」
 
 どうやら自分の不真面目な醜態は間一髪見られていなかったのか、
 普段通りの高木の反応に内心ほっと息をつくプロデューサー。

「そうかね? その割には少し疲れた顔をしているようだが……?」
「はぁ。そう……見えますか。実は……」
 
 仮にもこの人は芸能プロの社長―。
 今の自分が抱える悩みに対して、百戦錬磨の経験から的確な助言をもらえるかもしれない。
 
 自慢話を延々とウン時間出来るだけ人生の容量があるのだ。
 相談すれば、何かしらヒントくらい見つかるだろう―。

 プロデューサーは、昨晩の事を顛末を、言える範囲だけの内容に絞って話し始めた。 

314:幸福Children (2/8)
09/06/17 19:29:03 zM4/JisU
 その変化に美希は敏感だった。

「ねーねーハニー。気になってたんだけど、そのマグカップ、どうしたの?」
 
 本日分のスケジュールを消化し、
 アイドルランク変化等のチェックを済ませた事務所での一日の終わり際、
 珈琲を啜りながら新聞を読み寛ぐプロデューサー。
 そのプロデューサーが持つ真新しいカップに、美希がくいついた。

「あ、これ? 小鳥さんからもらったんだよ。確かプロデュース順調で賞とかなんとか記念に」
「そうなんですか。男の人が選ぶセンスじゃないし、気になってたんですよ」
 
 美希が咲かせた雑談の花の匂いに釣られ春香も現れて、
 長椅子に座り、新聞を読むプロデューサーの対面の席に陣取る。
 
 無論、春香と美希の二人が言う「気になっていた」は額面通りではない。
 
 乙女のセンサーが、女の子達のバトル―硝煙の臭いを嗅ぎ取ったのだ。

「なんだ二人とも、着替えも未だで……俺を構っても、何も出ないぞ?」
 
 といいつつも、なんだかんだと話し込んでしまい、
 春香と美希が着替えにプロデューサーの元から離れるまで10分以上。
 
 ようやく新聞に集中出きる、とプロデューサーが新聞の紙面に向きなおすと、
 若い二人の間隙を縫うが如く、今度は小鳥がプロデューサーの元にやってくる。

「お疲れ様です、プロデューサーさん」
「お疲れ様ですー。小鳥さんも上がりですか?」
「ええ。競馬……ですか?」
 
 プロデューサーが開く新聞を、立ったままちらりと見る小鳥。

「ええ。入社してから社長に教わりましてね。
 大きなレースがある時だけ、予想したり観たりするんですよ。賭けはしませんけどね。
 明日は家でゴロゴロしながら観戦するつもりですよ」
「そうなんですか。……あの、では今日、晩御飯なんてご一緒に……どうですか?」
 
 どうやら、今日はこの後プロデューサーに予定はない様子。 
 それを見た小鳥は特に言葉を飾らず、勇気を出して用件を伝えた。

「あーいーですねー。マグカップのお礼もあるし―
 最近あの二人のおかげで少し贅沢出きるようになったんで、奢りますよ」
「い、いいんですか……!?」
「はい。でも俺、この辺の美味い店知らないんですよね……」
「あ、それは私にお任せしちゃってください」
 
 なんたって、それ関連の雑誌は読破してますから! 
 と弾みで言わなかった自分を、小鳥は自分で褒めてあげた。

315:幸福Children (3/8)
09/06/17 19:32:06 zM4/JisU
「じゃー、行きますか」
 
 新聞を折りたたんで長椅子の前のテーブルに置き、プロデューサーが腰を上げる。

「はい。期待して下さいね~私、いいお店知ってるんですよ~」
「それは楽しみですね。でも、お手柔らかにお願いしますよ?」
 
 笑い合いながら、連れ立って事務所を出て行くプロデューサーと小鳥。

「「ちょーーっとまったーー!!」」
 
 突然、その二人の後方から聞き覚えのある、芝居がかった声が同時に聞こえてくる。

「その話―」
「私達も―」

「乗せてもらいます!!」「乗せてもらうの!!」

 プロデューサーと小鳥が振り返ると、春香と美希が、
 どこぞの戦隊ヒーローのような、奇抜なポーズを取って並んでいた。

「とっとっと……この体勢、結構きつ―きゃぁ!?」
 
 どんがらがっしゃーん! 
 
 ―そして転ぶ春香。

「二人とも、どうしたんだ……?」
「どうしたじゃないのっ! 
 ミキ達を置いて小鳥と二人きりで食事に行くなんて、春香の心が黒いうちは許さないの!」
「そうです! って、なんか違うよぉ、美希!」
「まて、お前達……悪いが、お笑い路線だけはプロデューサーとして認められない所存だぞ」
「ハニー、春香の(お笑いの)才能を認めてあげて欲しいの」
「春香の(お笑いの)才能は認めるけど……
 やっぱり、イメージとか……それに今のファンになんて説明すれば……美希は、いいのか?」
「うん。春香の熱意には負けたぜ……! なの」
 
 そう言って、晴れやかな表情をする美希。

「ちょっと! 何美談仕立てにしてるんですかッ!」
「いや、ゴメン。それで、実際何の用だい?」
「ミキ達もお食事一緒するの!」
「ずるいですよープロデューサーさん。私達から逃げるように……小鳥さんと」
「いや、声かけようと思ったけど、二人は着替え中だったし……」
「ハニーになら、ミキの全部を見せてもいいの☆」
 
 ざわ……ざわ……。
 
 美希の発言で、事務所内に残った社員達にどよめきが起きる。

「ばッ―と、とりあえず、続きは外で話そう!! 小鳥さんも、すいません!」
 
 咄嗟に美希の口を閉じるように片手でアイアンクローをかけ、美希ごと事務所から逃げ去るプロデューサー。
 
 その様子を眺め、小鳥はよよよ、とつくり顔で泣きつつも、何か予感めいた不安を感じていた。

316:幸福Children (4/8)
09/06/17 19:34:47 zM4/JisU
 「えーっと……5分、いえ、3分だけ待ってて下さい!」
 
 プロデューサーと美希と春香、3人に向かってそういい残し、
 小鳥は自宅の玄関を開け神速のインパルスで内側に入り、
 トラブルメーカー達が侵入しないよう光の速さで閉める。

「うん、まぁ……突然だもんな」
 
 苦笑いするプロデューサー。
 
 あの後、流石に3人奢るのは厳しいですと情けない懇願をプロデューサーがすると、春香が
 「じゃぁ材料だけ買って小鳥さんの家で料理を作ってみんなで食事なんてどうですか?」と言い出した。
 それに美希が「さんせー!」と口を揃え、経済的に助かるし、異存のなかったプロデューサーは、
 自宅を提供する事になる小鳥の顔を窺った。
 
 どうしましょうかと思案顔をしていた小鳥だが、何を目にしたのか突然、まるで
 「孔明は生きていた!!」と驚愕し退却する司馬仲達のように顔を強張らせ
 「は、春香ちゃんがそう言うなら……」と承諾した。
 
 プロデューサーは、小鳥が何を目にしたのか気になったが、様々な事情により、その事を考えるのはやめた。

「お待たせしました! さぁどうぞ」
 
 しばらくし、小鳥が玄関のドアを開いて、3人を招き入れる。

「お邪魔します」
 
 女性の部屋に上がるのは緊張するものだし、そわそわしてしまうのは生理現象の一種だと思う。
 だけどそれを露にするのは恥ずかしいし迷惑だろうから、プロデューサーは平静を装い、
 意識して、あちらこちらを見ないように努めた。
 
 が、春香と美希の二人は、家宅捜査に来た検事のように神経をとがらせていて、
 ちょこちょこと動き回り何やらひそひそやっている。

「バスルームには無かったよ、春香」
「後はキッチンね。料理する時調べてみる」
「ホントにあるかな?」
「たぶん……ウラは取れてるもん」
「どこから?」
「あずささん」

「おーい。何やってんだ二人ともー。こっち手伝えよー」

 普段はそんなお行儀の悪い娘じゃないんだけどな、とプロデューサーは思いつつも、
 まぁ同性の家だし、年頃の女の子としてはいろいろ気になるものなのかな、と大目に見る事にした。

317:幸福Children (5/8)
09/06/17 19:38:17 zM4/JisU
「「いただきまーす」」
 
 完成した小鳥、春香の共同料理を囲み、4人で声を揃える。
 
 急な事もあり、割と簡単に出来る鍋料理だが、こういう場合、味より雰囲気を楽しむもの。
 
 だが何故か小鳥は憔悴感漂わせるぎこちない笑顔を貼り付けていて、
 春香は何か不満気というか腑に落ちない顔を見せていた。調理中、一体何があったのだろうか。

 美希はというと、おにぎりの山に瞳をキラキラさせて、いつも通り。

「いやーすいませんね小鳥さん、こいつ等がわがままいっちゃって」
「いえいえ、かまいませんよー。いつもは独りですから……楽しいですし、嬉しいです。
 ただ……いえ、なんでもないです……!」

「どした春香ー? なんか料理で失敗したとこでもあるのか?」
「へ? いえ、そんなことありませんけど……」

「美希は―食べすぎて、スタイル崩すなよ……」
 
 職業病か生来の性格か、どんな場面でも気配りを忘れないプロデューサー。
 
 そんなプロデューサーを他所に、春香は考え事をしていた。
 あると睨んだプロデューサーとお揃いのマグカップが、ついぞ発見出来なかった。
 もしかして隠された? それとも始めから無かった?
 なら、小鳥さんはノーマークでOKなのか?
 
 ライバルだが、今は共同戦線を張っている美希に春香はアイサインを送る。
 
 それを受け取った美希は、実質なんの事か意味を理解していなかったが、
 おにぎりが美味しくて早く続きを食べたいので、なんとなく通じたような真顔をとりあえず作った。
 
 春香はそれを確認し、こくりと頷く。
 ここに“プランB”が発動したのだ。
 
 その後10分、20分と時は過ぎて行き―。


「「ごちそうさま」」
 
 小鳥宅での楽しい食事の時はフィナーレをむかえた。

318:幸福Children (6/8)
09/06/17 19:42:19 zM4/JisU
「ほんと、美味しかったですねー……ってヴぁい! ちょっと、美希!?」
「わ、どうしたの春香ちゃん? キャラが崩壊というか、拘束具が外れてきてるわよ……!?」
 
 春香が怒るのも無理ない。何故なら、プランBは美希から始動する作戦だったのだ。
 なのに当の本人は食べるのに夢中になり、すっかりそれを忘れたいた。
 
 しかし、美希を責める事は出来ない。
 これは、相手の策を未然に防ぐため小鳥が講じた、美希を封じる巧妙な策だったのだ。
 
 おにぎりを美希に与え続け黙らせるという“兵糧攻め”―本当の意味は真逆だが。
 
 ちなみに美希が発動するはずだった“プランB”とは「小鳥はハニーが好きなの?」と聞く、
 策もへったくれもない、ただの核爆弾。
 美希なら自然と言えると思う、という理由だけで春香から授けられた切り札だった。

「ゴメン、春香! でもね、そんなに気にしなくていいと思うな。
 ミキ、こういうのは他の誰かがどうとかは関係なくて、自分がどれだけ頑張れるかだと思うの」
「美希……」
「ね、小鳥もそう思うよね?」
「えぇ! い、いきなり私に振るの!?」
 
 星井美希という少女は、時に何の気配もなく、人の心の中心地にぴょいと飛んでくる。
 “空気が読めない”と悪く言われる事が多いが、彼女の素敵な感性で、尊ぶべき才だと小鳥は思う。

 ただ、その飛び道具をココで自分に向けられると困ってしまうのも確かだが。
 
 誰だって、素の自分をいきなり人にさらけだすなんて出来ない。それは、怖いからだ。
 それを彼女は、つくろわず“星井美希”のまま生きている。

 自分も、彼女のようにあれたら―『明日』か『50年後』か―それを縮めるのは、
 踏み出す一歩なのだと―小鳥は、あずさから伝えられた言葉を思い出した。
 
「うん。そうだね。でも、春香ちゃんの気持ちも分かるんだ。ほら、私はみんなよりちょっぴりお姉さんだから」

 “応援してるね”と言ってあげられない事に胸の奥がうずくけど―

「宣言します……! 私も、二人と同レースを走る―これで、いいかな?」
 
 今日の春香ちゃんがなんだか変なのは、たぶんこれを知りたいから。
 感の鋭いプロデューサーの前で教えるのは、もう告白に等しいけど―心臓は、今にも跳び出しそうだった。
 
 けど、冗談とはいえ「結婚しますか?」なんて言われたし、まったく目が無いわけでもないはず。
 待ってるだけじゃ何も降ってきはしないし、今日だって、そういう決意の元に食事に誘ったのだ。

 恥ずかしさでプロデューサーの顔をまともに見られないが、小鳥は、どこか懐かしい気持ちを味わっていた。
 胸の奥に甦るその感覚の真ん中を見つめる。そこには、音無小鳥という一人の少女がいた。
 
 その対面は、恋に恋していた自分が、本当の恋をしてると自覚した瞬間だったのかも知れない。

 今の状況でプロデューサーを見つめてしまうと、息も出来ない。
 自分でも気付かないところで、それ程プロデューサーの事が好きだったんだ。
 
「小鳥さん……あの、私……ごめんなさい!」
「ミキの前は譲らないけどねっ!」
「うふふ。二人とも、お手柔らかにね?」
 
 知らない所で女性3人の間に何かが起きていて、どうやら今、感動的に解決したらしい。
 プロデューサーは、よく飲み込めない状況の中、一つだけ思った事があった―
 
 “ちょっぴり”……? 

319:幸福Children (7/8)
09/06/17 19:46:25 zM4/JisU
 かくして、未知の抗争とドラマがあった小鳥宅での食事会は無事終わり、
 遅い時間だからと、しぶる美希と春香を先に帰したプロデューサーは、食事の後片付けを担当していた。

「あの、やっぱり手伝いましょうか?」
 
 エプロンをつけて自分の家のキッチンで洗い物をするプロデューサーの背中に、小鳥がおずおずと話しかける。
 二人きりという事もあって、親鳥を見失ったひよこの様に、そわそわして落ち着けない様子。

「いや、洗い物くらい俺にも出来ますよ。小鳥さんは寛いでてください。色々と疲れたでしょうから」
 
 最後の方を笑いながら話すプロデューサー。

「あの~~……さっきの事……聞かないんですか?」
「……やー、なんとなく、ですけど、分かりますから。あいつ等の事は……」
 
 今度は頭をポリポリ掻きながら、照れたように話すプロデューサー。
 
 やっぱり―という事は、自分の気持ちもバッチリ読まれてる? と、小鳥の顔が下から朱色に染まる。

「あの二人見てると最近思うんですよ。結婚して、子供を持つのもいいかなって。
 出逢った頃から美希も、春香も、アイドルとして、人間として成長しました。
 そういうのを見守って、感じられるのって、至上の幸せなんじゃないかって……変ですかね?」

 え―それってどういう意味? 今この場でそれを言うって事は、もしかしてもしかする!?
 遠回しなプロポーズ? もしかして前のアレも実は―!?

 照れ恥ずかし何処へやら、ピヨピヨと小鳥の脳内を幸福鳥が駆け巡る。

「いえ。素敵だと思いますよ……私も、似たような事思う時ありますし……」

 しかし帰り際、あの二人に「抜け駆けは禁止!」と釘を指された.。
 とくに、深く語らないが春香の表情は真に迫るものがあった―それもあるので、ここは冷静になる小鳥。

「そうなんですか? 気が合いますね。っと、この食器は何処にしまえばいいですか? ここかな―」
「えっと、それは……―あぁ! そこはダメです!!」

「え?」
 
 小鳥の制止も遅く、プロデューサーは高い位置にあるキッチンの棚を開く。
 そこには―。

「あれ……これって……何処かでみたよーな……」
 
 春香や美希では簡単に届かない場所に、隠されたかのように見慣れたマグカップが置かれていた。
 それはプロデューサーが事務所で使用している物とまったく同じ物だった。
 ―これの意味するところは―先の3人の意味深な会話―。
 
 プロデューサーの脳内で、開きかけだった真実の扉が完全に開かれる音がした。

「ぁわ……はぅ」
 
 小鳥のかすれゆく声を合図に、周囲の空間は息を潜め沈黙を作り、二人の男女をプロデュースする。

「そ、それはですね! 別のプロデューサーにプレゼントしたんですけど、なんか女物っぽくて嫌だと断られちゃいまして。
 だから、仕方ないから自分で使おうと思ってですね……!!」
「あ……そ、そうなんですか。なら、使わないと勿体無いですもんね!」
 
 苦しい言い訳。それも承知。駆け引きなんて出来ない―紛れも無く、今の二人は少年と少女だった。

320:幸福Children (8/8)
09/06/17 19:51:19 zM4/JisU
「じゃぁ、今日はご馳走様でした」
「いえ、食費はプロデューサーさん持ちですし、こちらこそ、楽しい時間をありがとうございました」
 
 玄関先で別れの挨拶を交わすプロデューサーと小鳥。
 あの後むずがゆい妙な空気になったが、すぐに持ち直し、ごく自然な流れで今に至る。
 
 小鳥としては、ホッとしたような、それはそれで残念なような、複雑な気持ちでいた。
 
 だから勇気を出し、次の言葉をぶつけた。

「あの、今度は出来れば二人でゆっくりと……その、色々、お話も聞きたいですし。
 あ、でも、今日みたいに賑やかなのも好きですよ? けど―その……」
 
 ―春香や美希からの好意は、歳の差や世間体、と逃げ道がいくらでも存在する。
 現にそれをセーフティに掲げ、今まで踏み込み過ぎな、異性として特別な感情を抱く事は無かった。
 
 けれど、小鳥には、逃げ道も、セーフティもいらないのではないか。
 今日の出来事で、普段知る機会の少ない彼女の内面を見る事が出来た。
 容姿も、知らない人になら765プロ所属のアイドルと言っても通りそうなくらいの美人だし、人格だって立派で、素敵な人だ。
 
 今まで意識した事が無かったが、小鳥と一度真剣に向き合ってみるのは、自分の人生にとって大きな意味があるのではないか。
 
 そう思い始めたプロデューサーは、お揃いのマグカップを見た時から覚えた鼓動―
 春香と美希がくれる自分への特別な想いに触れた時には感じる事がなかった胸の高鳴り―を隠し、手馴れた感じで小鳥に告げた。

「はは。今日はなんだか落ち着いて食事って感じじゃなかったですからね。今度は、こっちからお誘いしますよ」
「は、はい、ぜひ!」

「「ちょーーっとまったーー!!」」

 玄関の外に立つプロデューサーの両サイドから木霊する、美しくも野生的なシンフォニー。
 このパターンは―。
 
 プロデューサーは一瞬だけ顔をひきつらせるも、すぐにやれやれ、と諦観の笑みを浮かべる。
 
 小鳥はそれを見て、本当にこの子達は幸せだな、と思った。
 
 今まで遠くから眺めていただけだけど―『少しくらい、私にも幸せを分けてね?』と心の中で呟いて。
 

 「……という事がありまして」
 
 雨降って地固まる―といけばいいのだが、どうにも、そうはうまくいかないのがこの問題らしい。
 何故なら当分、雨すら降らせてくれないのだ。これから迎える季節のように、騒がしい晴天の日々が続く。

「ははぁ。二人は君にべったりという訳だね。男はツライというか……ま、若い頃の私に比べたら―」
 
 開けた事務所の窓から通る生ぬるい風が頬をなでる。空調関係は自分の家のほうが快適だ。
 なのにわざわざ、大したものじゃない仕事にかこつけて事務所に来ているのは―
 プロデューサーは、明日からの事をぼんやりと想像した。思い浮かぶのは―。
 
『ハニーズハリケーン先頭! ローリングリボン追いすがる! 残り100を切った! 
 大外からファンタジーバード! すごい脚だ! 届くか! 届くか!?
 ファンタジーバード、まとめて差しきってゴールイン!! 第765回宝塚記念、制したのは伏兵ファンタジーバード!』

 ジューンブライド―恋人達のゴールを祝福する季節が終わる。
 
 そしてまた、来年のゴールを目指し、新章―
 
 恋人達の夏が―始まる。

321:幸福Children (あとがき)
09/06/17 19:59:03 zM4/JisU
もっと上手くなりてぇなぁ……ッ!!

スレの流れを追ってたら、レシPが自分の不出来なSSのスピンアウト作品を
書いてくれていたのに感動。その後の>>67のコメントに競馬好きの自分が反応し、
ついやっちゃった。

レシPのキレイなSSをこんな風にカオスに派生させて、反省はしている。

322:創る名無しに見る名無し
09/06/17 20:25:37 JV9JbshI
>>321
思いつきで競馬ネタ書いたら食いつかれると思わなかった
というか大元の書き手も競馬者だったのがそもそも想定外
だが微塵も反省はしていない
ついでに、エントリーがこの三頭で済むものかすら定かではない
同世代で競う春を過ぎ、新たな力を養う夏を越え
古馬が挑戦を待ち受ける秋へと物語は進んでいく、はず
さあ決着はエリリン女王杯でだ!w

323:創る名無しに見る名無し
09/06/18 01:31:47 boc+7sa1
ちょっと規制で書けないでいたら、なんかえらいことになってるし

>>284
これまたなかなかデリケートな話をもってきたものだと。
祖母が亡くなったのが生まれるひと月ほど前でなく生まれたひと月ほど後だったら、
5月5日の誕生花であることが先にきて、祖母がそれをもって祖父に想いを授けた・・・
という方向になりそうですが、それでもひと月ほど前なわけで
とはいえ、そういう解釈をそれぞれにやってみて、自分の中で答えを探してみることの方が
ただ正解の解釈をもらってしまうよりも楽しいことかもしれません

うちの母方の婆さまも、私のことを自分の息子、私にとっての伯父に当たる人の名で
よく呼んでいたものでした。
 まあ、それでも息子との混同なわけでそういう意味で面影があったにしろ14の娘さんを
捕まえて妻の名で呼ぶというのは確かに実感としてはあれな気もしないでもないですが
それでも割と似たようなこと自体はあるものだそうです。呼ばれた側の複雑な気分もなんとなく
わからないでもないですし。
代用、というのとも少し違って、どちらかと言えば同一化らしいとも聞きますけども
その辺りは詳しいわけでもなし、そうであったとしても突き詰めるだけ野暮。
伊織が少しオトナになったことと、あずささんの「感覚の人」ぶり、それに水瀬祖父が
優しい人で、きっとこの世界ではそうであったからこそ伊織がああいう表現こそひねくれては
いても優しい心根を持った娘に育ったであろうこと、そういうところ味わってごちそうさま
しておくってところで

>>297
ヘンに敏腕オーラをまとっちゃってるよりも冴えない人の方が「プロデューサーさん」っぽいw
資料を出されたものの、この時点で会っているのはやよいとあずささんの二択
・・・って言っても、もう出会いイベントを踏襲した状況は少しだけ違うけれども
既に起こしているわけで
このまま、ちょっとだけダメアレンジされた出会いイベントを次々こなす流れかと
思いきやって感じですな
むしろここからどんな流れになるのやら、Go To First Produce!ってとこですか

>>321
ガ・サ・イ・レ、キターッw
ていうか、春香さん美希ちゃん、ちょっと落ち着きなされw
そんなだとそのうち芸人コンビとして売り出されちゃうぞって、もう手遅れ?と
ラジオから流れる声を聞くたびに思ったりなんかしてみたり
そしていおりんもあずささんも実に情報提供が行き届いてる方々ですな
結構ラブコメっぽい話になるはずなのですが、ハートフルよりもスラップスティック
寄りというか、うまいこと重くなりすぎない話にしているのがいい感じです

ただプランB発動とか、発動前から美希に全くその気がないのが描写されてしまっていたのは
ちょっともったいなかったかも。どうやら伝わったらしいこと、だがなにも起こらず、
そこでようやく美希的思考が読み手に伝わる、あるいは美希には伝わってない描写にも
関わらず春香さん伝わっているのが前提になる手を打って、一人で空回り・・・みたいな
なにかは欲しかったかも

・・・ついでに、安田の勝ち馬はテキーラと見たw

324:創る名無しに見る名無し
09/06/18 02:04:37 boc+7sa1
>>321
そーいや、JCBホールで謎あだ名を付ける流れから本人がエリザベスを自称して
総スルーされてような覚えが・・・

325:創る名無しに見る名無し
09/06/18 07:51:22 x1+m7eKQ
レシPですが現在メイン回線サブ回線はおろか会社に内緒の予備回線まで
規制を食らい、これはいよいよカネで解決するレベルかなーと頭を抱えて
おります。携帯は従量制だしおとなしくSS書く日々。
>>321
おもしろかったー!
小鳥さん頑張りながらもアイドルたちと真っ向勝負を選ぶ心意気は称賛に
値します。あなたの書く小鳥さんは俺のSSに出てくるよりまっすぐで
かっこいいですね。余計なひとネタかました甲斐はありました、ありがとうございます。
……ついては7/8と8/8の間に2時間くらい時間経過があったことにして
よいぞお二人さんw

326:創る名無しに見る名無し
09/06/19 11:11:21 +U0yZP51
>>325
7/8と8/8の間に、そんな時間があったら、それこそ

ガシャーーーーン
「話は聞かせてもらいました。
つまり、プロデューサーさんは私が大好きなんですね!」

という展開じゃないかなw?

327:創る名無しに見る名無し
09/06/19 23:18:36 CGjBI7wJ
ここはpixivネタもおkですかね?

【fairyt@le】というタグ企画が面白かったので、それ絡みでSSを考えてみました
企画の概要は途中に差し込みたいと思います

【SS2レス】+【企画概要1レス】+【SS2レス】+【終了宣言1レス】 計6レスになります

328:【太陽の鳥】 1/2
09/06/19 23:19:31 CGjBI7wJ
「社長どこだー? オウムの散歩おわったぞー?」
「おお、ありがとう我那覇君。捜しものをしていて、君たちの帰りに気づけなかったよ」
「この子、大人しくてすごくいい子だなっ。オウ助よりお利口さんだったぞ!」
「なかなか外に出してあげられなくてね。今日はいい気晴らしになっただろう」
「自分、また散歩つれてくよ! あ、そうだ。ここにいる鳥って、この子だけ?
 黒井社長が欲しがってた鳥って、この子のことかな」
「……はて? この子はそれほど珍しいオウムではないが……」
「自分、前に聞いたことあるんだ。『あの765プロには勿体ない!』って言ってた。
 そんなに珍しい鳥がいるのかーって、自分、ずっと見てみたかったんだ!」
「そうだったか。ならば、それはおそらく、このオウムのことではないな。
 我那覇君には済まないが、あの鳥はもう、どこにもいなくなってしまったのだよ」
「えっ、いないの? そっかー。残念だな」
「もし我那覇君がその鳥に会いたかったのならば、少しだけ昔話をしようか」
「ホント!?」
「ああ。少し待っていてくれるかね。まずはこの書類を戻さなくてはならん。
 大事なオウムの散歩に行ってくれた、そのお礼をしなくてはね」

***

「待たせたね、我那覇君。お茶が冷めてはいないかな」
「うん平気! それ、どんな鳥だったの? 翼は立派? どんな声で啼くんだ?」
「あれは、実に見事な鳥だったよ。姿も声も、まさに七色の虹のようでね。
 大勢の人がこぞって褒めてくれた。あんなに素敵な歌声を、私はほかに知らないな」
「それって、やっぱり黒井社長も聴いてたんだよね。いいなあっ!
 そんなにすごい話を聞いちゃうと、ますます一目見たくなっちゃうよ!」
「ところで我那覇君。君は、金の卵をうむニワトリの話を、知っているかね」
「ん?…えーと、1日1つ、金の卵をうむんだよね。それで、大金持ちになる話だったっけ?」
「そうだ。やがて欲が出てきた男は、どんどんニワトリを急かすようになった。
 1日の卵が2つになり、3つになり、欲が止まらなくなった男は、こう考えたのだ。
 『このニワトリの腹の中には、さぞかし立派な金塊が入っているに違いない』とね」
「ええー!? なっ、何考えてんだ!? 大事な家族なんじゃないのか!?」
「結局、欲深い男は、ニワトリも卵も失うことになってしまったというわけだ」
「むー。すごくダメな飼い主だったんだなっ。そんな奴に飼われたニワトリが可哀想だぞ!」
「はっはっは。その通りだよ。そしてあの鳥の周りにも、そんな大人がたくさん居たのだ。
 私も黒井も、その中の1人だった。―鳥が居ない理由は、もう何となく解ってもらえたかな」

***

「音無君、書類保管庫のカギは、この場所でよかったかな」
「あ、はい。社長の捜し物は見つかりましたか?」
「いや……確かに一度見た気もするのだが、あれは私の見間違いだったのかな。
 顔も名前も覚えているというのに、あれだけが何処にも見つからないのだ」

***

「やいやいプロデューサー! ニワトリが可哀想だぞ! なんであんな酷い目に合うんだ!」
「い、いきなりどうした響。酷い目に合ってるのは俺のほうだぞ。
 社長のオウムの散歩から戻ったあとは、レッスンに行く約束だったじゃないか」
「う……そ、それはいろいろと深い事情があるんだ!」
「事情ってなんだ。そもそも、ニワトリって何なんだ?」
「悪い大人につかまってたニワトリだよっ。金の卵をうむニワトリ!
 働くだけ働かされて、最後には殺されちゃうなんてあんまりだぞ!」
「あれっ。そんな話だったか? 俺が知ってる話では、あれは助けてもらったはずなんだが……」


きょとんとした響は、すぐに続きをねだりました。詳細を知らなかったPは、響をつれて外に出ます
響から社長の話を聞いたPもまた、響と同様、疑問に思った点があったのです

「ここならきっと、ニワトリの話は全部わかるはずだ」そう言ってPは、とある建物に響をつれていきました
 

329:【太陽の鳥】 2/2
09/06/19 23:20:24 CGjBI7wJ
目的地を訪れた響が、やがてそこにPをつれて何度も通うようになっても
社長はずっと、捜し物をつづけていました

社長が響に鳥の話をしてから、何日か経ったある日のことです


「おや我那覇君。今日は何の御用かな?」
「社長、前に話してくれたよね。あの鳥は、欲を出した大人たちがダメにしちゃったって」
「うむ。それは本当だよ。だから私も、あの話を忘れないよう、常に自戒しているのだ」
「でもさ、自分、その話聞いたとき、なんか変だなーって思ったんだ。
 あんなにオウムに懐かれてる社長が、他の鳥に可哀想なことなんて出来たの?」
「黒井は君に教えていなかったかな。『高木はルールを破ってばかりの悪いやつだった』と」
「言ってた。黒井社長のルールって、結構きびしいのばっかりだもんね。
 それでプロデューサーと話したんだ。社長はやっぱり鳥を逃がしたんじゃないかって」
「どうしてそう思ったのだね?」
「ニワトリの話だよ。金の卵をうむニワトリでも、ちゃんと助かった子もいたんだぞ。
 プロデューサーが自分にきかせた話って、ジャックと豆の木だったんだ」
「おお。そういえば、あれはそんな感じの話だったな。
 豆の木をのぼって、いろんな財宝をうばってくる少年の話だろう?」
「ちがうよ社長。あれはドロボウしてる話じゃなくて、大事なものを取り返しにいく話なんだ。
 自分、図書館でぐーぐー寝ちゃったけど、大事なとこはちゃんと覚えてきたぞ!」
「ほう?」
「とってくる財宝は、ニワトリと金貨と竪琴で。閉じ込められた場所は、雲の上にある城なんだ。
 ね、社長。空で巨人が独り占めしてた財宝って、何の事なのかわかる?」

***

「…………天気かね?」
「大正解! すごいな社長!」
「空に存在できるものは限られている。ならば、ニワトリが象徴するのは太陽ではないかな。
 太陽は、財宝などではない。もとより皆の所有物ではないか」
「そーなんだよ! 太陽がなくちゃ困るし、雨も風も同じさ。だから何度も雲の上に向かったんだ!
 危ない目にあっても、豆の木をのぼったのは、それが本当の居場所じゃないからなんだって」
「そうだったのか。私はすこし勘違いしていたようだな。
 太陽を独り占めされた人々が、自分たちのところに天気を取り戻す話だったのか」
「それもあるけどさ。やっぱり、間違ってる場所に、居続けなくちゃいけないのは可哀想だよ。
 鳥のほんとうの居場所だって、鳥籠の中じゃなくて空の上だって思うし。それに―」
「それに?」
「わるい大人につかまってた自分を、あの場所から逃がしてくれたのは社長じゃないか。
 だから思ったんだ。社長は、その子のことも逃がしてあげたんじゃないかなって」
「……参ったな。我那覇君、まさか君は本当に、鳥の気持ちが理解できるのかい?」
「あはははっ! 自分、鳥なんかじゃないぞ? 765プロの立派なアイドルだよ!
 だからもう、その鳥の話は聞かない。秘密にしておく方が、その子は一番安全だもんね!」
「ありがとう。我那覇君。―本当にありがとう」

***

「音無君。カギを返しにきたよ。捜しものはもう終わったからね」
「あっ。とうとう見つかったんですか? 何年も前に見かけた、あの女の子の履歴書」
「いや、見つからなかった。けれどもう良いのだよ。
 黒井が彼女を見つけたのだとしても。あるいは全く別の子だったのだとしても。
 私に向かって、自分は我が社のアイドルだと言ってくれた、彼女の言葉を信じることにしたんだ」
「響ちゃんに良く似た子だったんですよね。沖縄出身の、元気で明るい女の子。
 逃がした鳥はやっぱり、立派に見えるものですか?」
「私は欲張りでズル賢くて悪い大人だからね。ルールを破ってばかりなのは昔から変わらぬよ。
 だから黒井に文句を言われてばかりなのだ。小鳥君は、それも、嫌というほど見てきたではないか」


小鳥さんは笑い、社長はカギを差し出します。逃がした鳥の過去を探ることは、恐らくもうありません
虹色の鳥が、あるべき場所にカギをしまって―765プロの明かりが、ひとつ消えました

330:企画概要
09/06/19 23:21:46 CGjBI7wJ
参考タグ【fairyt@le】
URLリンク(www.pixiv.net)
(企画期間は既に終了しております)


上記タグのルールに乗っ取って書いたプロトタイプが、次のSSになります
おとぎ話、いわゆるIFの話になりますので、2作のSSに確実な繋がりはありませんが
先に投下した作品の、オマケ程度に読んでいただけたら幸いです

331:【虹色の鳥】 1/2
09/06/19 23:22:38 CGjBI7wJ
あるところに、トップアイドルを夢見る女の子がいました。
歌が好きで、ちょっぴりドジな、ごくごく普通の女の子。

女の子の歌を聴きとめたのは、プロデューサーの青年です。
自分の歌を褒められて、嬉しくなった女の子は、毎日毎日レッスンに励みました。

レッスンのコーチが、審査員の先生が、
その頑張りと歌を、だんだん認めるようになりました。
数えきれないほど大勢のファンが、女の子に夢中になっていったのです。

拍手と共に女の子が戻るたび、「すごいなあ」と青年は言いました。
その嬉しそうな一言で、疲れは吹き飛び、また次のステージに登れるのです。

女の子はステージに立ちつづけました。周りの期待以上に眩しく輝いていました。
その歌声を聴いて笑顔にならなかった人なんていません。
間違いなく、たくさんのファンを幸せにする、夢のトップアイドルになったのです。

七色の歌声で皆を夢中にさせるアイドルは、いつしか虹色の鳥と称えられていました。

*****

ある日、女の子は青年の元気がないことに気づきました。
ステージを降りたあとも、心配なあまり、疲れが吹き飛びませんでした。

(どうしたんだろう。私の歌が下手になっちゃったのかな……?)

不安になった女の子は、事務所の人たちに尋ねてまわりました。
事務所の皆はつとめて明るく応えます。

『大丈夫。君の歌は最高さ』 『心が安らぐ素敵な歌声だ』 『皆が幸せになるからね』

気を取り直した女の子はステージに向かい、仕事に励みつづけました。
七色の歌声は今なお色褪せることなく、海外にまで届きそうな勢いなのです。
そうなればきっと、プロデューサーの青年は、もっともっと喜んでくれるはず。

全力を出し切ってステージを降りた女の子は、青年の元へ向かいます。
「すごいなあ」と喜んでもらいたくて。そうしたらまた笑ってくれると思って。

―けれど。

「すごいなあ」と言った青年は、どこか申し訳なさそうな表情になりました。
そんな顔を見るのは、初めてのことです。女の子はすっかり戸惑ってしまいました。

青年は言いました。

「こんなに頑張って長いこと無茶をさせて。君はすっかりくたびれてしまったというのに。
 他の皆は、今よりもっともっと君を働かせるべきだと言うんだ。
 アイドルを売り出して有名にすることが、プロデューサーの仕事だと皆は言うけれど、
 この先もずっと君に無理強いさせるのを、黙って見ているしかできないことが辛いんだ……」

女の子は何も言えません。青年はずっと前から悩んでいたのです。

明らかに女の子が無理をしていることも。
周りの期待に応えつづけて、それがいつしか重い枷になっていることも。

そして、

飛ぶのに疲れた虹色の鳥が、普通の女の子に戻りたがっていることも。

*****

332:【虹色の鳥】 2/2
09/06/19 23:23:26 CGjBI7wJ

青年は何度も何度も説得しましたが、周りは誰も受け入れてくれませんでした。
鳥が歌をうたわなくなることも、その翼を休ませることも、認めてもらえなかったのです。

いつまでもカゴに閉じ込めて歌わせれば、鳥は空に戻れることなく死んでしまいます。
このままステージから降りられなくなる前に、どうにかしてあげたかったのです。

プロデューサーの青年は、いつしか自分の仕事に自信を失いかけていました。
そしてそれに気づかない女の子ではありませんでした。
やがて虹色の鳥が、自ら七色の歌声を閉ざすようになるまで、大した時間は要しません。

*****

歌わなくなった女の子と、歌わせられなくなった青年を前に、事務所の皆が声を荒げます。

『それ見たことか』 『早くしないと手遅れになるぞ』 『君はもうプロデュースから手を引くんだ』

女の子は頑なに拒否しました。他人の傍で歌っても、七色の歌声は出てこなかったからです。
青年もまた一歩も引きませんでした。誰かに預けた後の女の子のことが心配だったからです。

目を光らせた同僚が、『彼に代わって彼女を担当したい』と社長に直訴していることを知り、
もはや一刻の猶予もないと悟った青年は、女の子を連れて事務所を飛び出しました。

*****

それからというもの、青年は必死に働きました。
女の子に申し訳が立たなかったのです。
古い親友の助力をうけて、小さな芸能事務所を設けました。
階下に居酒屋がある、オンボロなビルです。

女の子は、青年が始めた仕事を手伝いました。
青年に何か恩返しがしたかったのです。
たくさんの候補生たちが集まってくるよう、事務所の宣伝に力を尽くしました。
歌うことが好きな女の子たちが、いつかここを賑やかにしてくれることを信じて。

月日は流れ、七色の歌声など、誰もが幻のように思いはじめていました。

*****

虹色の鳥のうわさが、小さな事務所に届いたのは、それからずっと後のこと。

「審査員の先生に言われちゃったんです。
 『未熟な歌声ですね。それでは虹色の鳥と称えることはできませんよ。
  あなたはまだまだ殻をかぶった、虹色の小鳥も同然です』って」
「はっはっは。天海君、虹色の鳥は、幻の鳥だよ。
 それはそれは見事な七色の歌声で、何百万もの観客を沸かせたという話だ」
「わ、すごく素敵な鳥なんですね! 社長は、見たことがあるんですか?」
「ああ。よく知っているとも。とても綺麗な歌をうたう鳥でね。
 公園を歩いていたら、偶然その歌声が聴こえてきたんだよ」

すっかり年を取った青年は、目前の女の子に語りかけます。
まだ見ぬ虹色の鳥に憧れる、明るくて元気な赤い小鳥でした。

あのときの願いを叶えた女の子は今、賑やかな小鳥たちに囲まれてお仕事をしています。
青年があちこち歩き回って見つけ出した小鳥たちは、1人として同じ色の羽をもっていません。
けれど2人の目には、どの子もみんな、虹色の鳥になるように映って仕方ないのです。


その小さな事務所には、今も虹色の鳥がいます。
                                        (おしまい)

333:創る名無しに見る名無し
09/06/19 23:25:43 CGjBI7wJ
以上で終了になります。
【太陽の鳥】/【虹色の鳥】どちらも原作は「金の卵をうむニワトリ」と「ジャックと豆の木」です。

原作のストーリー優先で流れを組み立てたので、あちこち(年齢表記的に)粗が目立つかと思われますが、
おとぎ話ということで目を瞑っていただけたらと思います。




以下、かなり前に頂いたレス返しになります。

>>176
ありがとうございます。あずささんはやよいと組ませてみたら何だか超癒しペアになりました。
長文SSの書き手さんは素晴らしい方々がたくさん居られるので、短文レス内で頑張ろうと思う所存であります。

>>183
あれから何本も投下されてトリじゃなくなってしまいましたw
沢山の作品を拝見できて自分も読んでて楽しかったです。
絵本のような言い回し~と言われたのが嬉しかったので、次回はそちらを重視しようとずっと思っていました。
褒めて伸ばしていただいて(笑)ありがとうございます!

>>184
あずささんが迷子キャラで本当に良かった……遅刻しても皆さん優しいなあ……
時間軸ずらしで時々見かけるのは律子Pですかね。あずさPという作品も見かけたことがあります。
年長組+年少組は、時間軸をずらせば結構いろいろすれ違えそうな気もします。ピヨ。

>>185
いつも濃厚なレスありがとうございます。頂いたレスから有り難くもテーマを拝借させていただきましたw
「継承」と聞いて最初に浮かんだのは、後継者がたくさんいる事務員さんだったのですが、
そもそも後継者をさがしていたのは社長も同じだったな、と思い出して、二パターン考えてみました。
2人の過去話は、あまりはっきりしていない方が好きというか、いっぱいあった方が楽しいと思っている派なので
今回のような昔話準拠のSSに限らず、いろいろ案が浮かんだらまた別の話を書こうかなと思います。




それでは今回はこのへんで。長々と読んでいただいてありがとうございました。寓話Pでした。

334:創る名無しに見る名無し
09/06/20 18:03:12 1g2zbhTc
そうだよなー寓話Pがfairyt@leに食いつかないはずないもんなー。
企画者さまの生産能力も瞠目でしたが今見たら合計50作!
同じくアレ見てて「文字書きは参加できんのか……ッ」と思ったもんです。そうかここでやりゃいいのかw



>太陽の鳥
種明かしは不要ですが、社長の探し物がなんだったのやら。ブラフでもなさそうだし、響を見て誰かを思い出した
ようでもあるけど彼女が鳥の話を聞く前から探してるし。響が765に来た時からなにかティンときて探していた
ものがあるのかな。
主軸のお話はいいですね。金の卵の2つの話は、知識にはあるけれどなかなかリンクしないポイントをついた
ナイスアイデアって感じです。響はこういう役回りに適任ですねw
さすが寓話Pと思ったのは(細かい部分なのですが)かわいそうな方のニワトリがどうなったか描写せずに
表現している部分でしたね。俺ならあっさり切るだの裂くだの書いちゃうでしょう。書き手氏の優しさを感じました。

しかし
>「やいやいプロデューサー!(ry」
なんという超トバッチリ(ノД`゚)



>虹色の鳥
こちらの方が明快で個人的には好きですね。やはり童話はわかりやすさが重要です。
虹色の鳥は、歌を歌うことや、歌を歌えなくなることや、お金や地位や名声は重要ではなかったのでしょう。
青年と共にあることが、鳥にとっての幸せだったのでしょう。
虹色ではなくなったのかもしれませんが、鳥はいま幸せですし、青年には虹色の羽根が見えているようです。
他の誰でもなく、本人たちが幸せなのはなによりのことですね。



美味しくいただきました。ごちそうさまです。

335: ◆DqcSfilCKg
09/06/21 10:59:58 SoM/lWpH
前作への多くのご感想、ご意見ありがとうございました。
今回は寓話P様の【fairyt@le】に参加させていただきます。
題名は「100万回アイドルだった女の子」。使用レスは4レス。
ニコ動ネタが多数ですので、閲覧には注意してください。
投下後、終了宣言+レスのお返しです。


以下、感想です。
>>328
読者にそれとなく示唆する難しさというのは嫌と言うほど味わっているのですが、
この作品はそれが無粋になる一歩手前で表現できてて、読んでて気持ち良かったです。
後者のお話と比べると読者の想像に任せる比重が高く、とっつきにくい印象もあるのですが、
先述した一歩手前の表現が上手く働いていてすんなりと物語に入れました。
あと響が可愛く書けるのが羨ましい限りです。

>>331
>>334様も申しておりますが読みやすさではこちらが優れており、世界観もしっかりしていて、
さすが寓話P様と言うべきでしょうか。童話独特の筆致が大きな時間経過をしっかりと支えていて、
伝えられていくものがハッキリとしているのが良かったです。
赤い小鳥もいずれ、七色以上の歌声を響かせてくれることを期待しております。

336:100万回アイドルだった女の子(1/4) ◆DqcSfilCKg
09/06/21 11:00:41 SoM/lWpH

100万回もアイドルだったおんなのこがいました。
100万回も いんたいして 100万回も デビューしたのです。
りっぱな アイドルでした。
100万人の 人が そのおんなのこを かわいがり
100万人の人が そのおんなのこが いんたいしたとき なきました。
おんなのこは 1回も なきませんでした。

あるとき おんなのこは ぐみんの アイドルでした。
おんなのこは ぐみんなんか きらいでした。
ぐみんは どげざが じょうずで いつも ひざまづいていました。
そして おんなのこを りっぱな かっかに して にこにこに つれていきました。
ある日 おんなのこは とんできた あかばんに あたって しんでしまいました。
ぐみんは にこにこの まっさいちゅうに おんなのこを だいて なきました。
ぐみんは どげざを やめて さんじげんに 帰ってきました。
そして おんなのこは アイドルを やめました。

あるとき おんなのこは しんしの アイドルでした。
おんなのこは しんしなんか きらいでした。
しんしは にこにこじゅうの ぱいたっちと にこにこじゅうの へんたいたあれんに おんなのこを つれていきました。
ある日 おんなのこは ねたが なくなっていました。 おんなのこは ぼつこせいだったのです。
しんしが いそいで ぐらびあみずぎを もってくると 
おんなのこは だれからも みむきされなくなっていました。
しんしは ぼろぞうきんのようになった おんなのこを みて
大きな声で なきました。 そして遠い とかちごーるどの
そらの下で アイドルを やめました。

あるとき おんなのこは アケマスの プロデューサーの アイドルでした。
おんなのこは アケマスなんか きらいでした。
あけますぴーは 毎日 きょうたいの中で 
おんなのこを プロデュースしました。
それから Bランクにしようと がんばっていました。
ある日 あけますぴーは きょうたいが なくなっているのに
きづきました。
あけますぴーは つかえなくなった かーどを 両手に だいて
大きな声で なきました。
もうどこにも きょうたいは ありませんでした。
アケマスピーは はこまるを かって かーどを すてました。


337:100万回アイドルだった女の子(2/4) ◆DqcSfilCKg
09/06/21 11:01:24 SoM/lWpH

あるとき おんなのこは にこちゅうの アイドルでした。
おんなのこは にこにこなんか だいきらいでした。
にこちゅうは アイドルと いっしょに 色んなどうがを しずかにみてまわりました。
にこちゅうは ぐっずをかわずに にこにこだけで すませていました。
どうがが けされる までに にこちゅうは どうがを おとしていました。
ある日 アイドルは あきられていました。
にこちゅうは はつねみくをだいて うたわせていました。
夜の部屋を 大きな声で うたわせながら にこにこをめぐっていました。
そして おんなのこは ひっそりと いんたいしました。

あるとき おんなのこは ひとりぼっちの ひきこもりの アイドルでした。
おんなのこは ひきこもりなんか だいきらいでした。
ひきこもりは 毎日 あいますで ずっと あそんでいました。
おんなのこは 一日じゅう ひきこもりの前で うたっていました。
やがて おんなのこは ですりんぐで アイドルをやめました。
にーとの ひきこもりは うつらない がめんをみて
一日じゅう なきました。
おんなのこは いんたいしてしまいました。

あるとき おんなのこは 小さな 女の子の アイドルでした。
おんなのこは 子どもなんか だいきらいでした。
女の子は アイドルを そだてたり しっかり プロデュースしました。
おーでぃしょんに おちても がんばりました。
ある日 アイドルは Eランクで おわってしまいました。
そっけないたいどの アイドルに 
女の子は 一日じゅう なきました。 
そして アイドルは いんたいしてしまいました。

おんなのこは いんたいなんか へいきだったのです。


338:100万回アイドルだった女の子(3/4) ◆DqcSfilCKg
09/06/21 11:02:46 SoM/lWpH

あるとき おんなのこは だれの アイドルでも ありませんでした。
ふつうの おんなのこ だったのです。
おんなのこは はじめて 自分の アイドルに なりました。
おんなのこは 自分が だいすきでした。

どんな プロデューサーも おんなのこを アイドルに したがりました。
たくさんのげいつを プレゼントする プロデューサーも いました。
えむえーを いっぱいかう プロデューサーも いました。
めずらしいのにじゅーすを おみやげにする プロデューサーも いました。
りっぱな うたを ほめてくれる プロデューサーも いました。

おんなのこは いいました。
「わたしは 100万回も いんたいしたの。いまさら おっかしくて!」
おんなのこは だれよりも 自分が すきだったのです。

たった ひとり おんなのこに 見むきも しない
まだ一回もぷれいしていない プロデューサーが いました。
おんなのこは プロデューサーの そばに いって
「わたしは 100万回も いんたいしたのよ!」 と いいました。
プロデューサーは
「そう。」
と いったきりでした。

おんなのこは すこし はらをたてました。
なにしろ 自分が だいすきでしたからね。
つぎの日も つぎの日も おんなのこは プロデューサーの ところへいって いいました。
「あなたは まだ 1回も ぷれい していないんでしょ。」
プロデューサーは
「そう。」
と いったきりでした。

ある日 おんなのこは プロデューサーの前で 
どんがらがっしゃーんと 3回 ころんで いいました。
「わたし みんごすの アイドルだったことも あるのよ。」
プロデューサーは
「そう。」
と いったきりでした。


339:100万回アイドルだった女の子(4/4) ◆DqcSfilCKg
09/06/21 11:03:28 SoM/lWpH

「わたしは100万回も・・・・・・。」
と いいかけて おんなのこは
「そばに いても いい?」
と プロデューサーに たずねました。
プロデューサーは
「ああ。」
と いいました。

おんなのこは プロデューサーの そばに いつまでも いました。

プロデューサーは かわいい どうがを たくさん つくりました。
おんなのこは もう
「100万回も・・・・・・。」
とは けっして いいませんでした。

おんなのこは プロデューサーと たくさんの どうがを
自分よりも すきなくらいでした。

やがて どうがは けんりしゃさくじょで どこかへいってしまいました。
「またあたらしいどうがをつくればいいわよ。」
と おんなのこは プロデューサーを なぐさめました。
「ああ。」
と プロデューサーは いいました。
そして ぐしゃぐしゃと おんなのこを なでました。

プロデューサーは すこし おじいさんに なっていました。
プロデューサーは いっそう やさしく おんなのこを なでました。
おんなのこは プロデューサーと いっしょに いつまでも 生きていたいと 思いました。
ある日 プロデューサーは おんなのこのとなりで しずかに うごかなく なっていました。
おんなのこは はじめて なきました。 夜になって 朝になって
また夜になって 朝になって おんなのこは100万回も なきました。
朝になって 夜になって ある日の お昼に おんなのこはなきやみました。

おんなのこは プロデューサーの となりで しずかに うごかなくなりました。

おんなのこは もう けっして アイドルに なりませんでした。


340: ◆DqcSfilCKg
09/06/21 11:04:51 SoM/lWpH
以上で投下終了です。
元ネタをNHKの某番組で萩原流行が読んでいたのですが、まさか泣かされるとは思いませんでした。
以下、レスのお返しです。

>>295
レスありがとうございます。
なかなかキャラスレに落としにくいものを書きたがる癖がありますので、このスレの皆様には感謝しております。

>>302
ご意見ありがとうございます。ご指摘通り、なかなか一義的な理解に悩む作品になってしまいました。
言い訳に過ぎませんが、今回は自身の実体験を基にしている部分があり、無意識的に言わずともわかって欲しい、といった部分がありました。
次回以降の作品に生かしていきたいと思います。

>>303
レスありがとうございます。そのように言って頂き感謝しております。
このスレでも何度も議論されておりますが、オリキャラの扱いには特に今回、気を使って書きました。
Pを使わないのも自分の中でオリキャラの範疇に入ってしまい、妙な作品ばかりとなっておりますがよろしくお願いします。

>>304>>310>>311
レスありがとうございます。
今回のテーマとして、好意的な解釈というものを意識して書きました。
それこそ、意地悪に受け取ればあずさの花菖蒲のくだりも伊織の解釈も間違っている恐れがあります。それでも尚、という部分を書きたっかたのですが、まだまだ私の筆力不足を露呈するばかりでした。
それにしましても、私の作品をそこまで読み込んでいただいたこと、感謝しております。

>>323
先述しましたが、実体験を基に書いたということが、逆に読者様との共通部分を狭めてしまったことは改めて勉強になりました。
伊織を妻と間違えるくだりですが、間違われた際の微妙な心情を優先して無理くりな感が出ていたことは次回の反省に生かしたいと思います。ありがとうございました。


長々と失礼しました。次回もよろしくお願いします。


341: ◆bwwrQCbtp.
09/06/22 00:04:11 t+DYN7Q7
こんばんわ。みなとPです。
自分から名乗る時は、肩書きのPは外した方が良いと思ってましたが、名乗らないと
誰もそう呼んでくれないと気付いたので、あえて名乗りますw

感想ありがとうございました。
風船祭りの小鳥編で、会話文中心でメリハリが欲しいと言われたので、
次作ではあえてメリハリを強めに付けてみたところ、どうもリズムが悪かった様子。
精進いたします。

以下、あえてトリ付きで感想。

>>333
もしかして、虹色の鳥は1000年生きたり不老不死だったりするのでしょうかw?
という冗談はさておき。
推測の誘導のさせ方、情報の示し方が巧いと思いました。見事です。
響の没キャラ設定の使い方もうまいですね。ニヤリとしました。
「青年」は、当時、すでに青年と呼ばれる年齢の末期にいた、と思えばなんとか
辻褄も合わないことはないのでは、と思います。
(個人的な解釈は前スレでSSにて書いた通りですが。)

>>340
次元を超えた視点がシュールな感じを与える、面白い味付けです。
ただ、ちょっと原作に近寄ろうとし過ぎてないかなあ、と。
この「おんなのこ」には、アイドルでいて欲しい、というのは個人的な希望ですが、
多くのプロデューサーの願いでもあると思います。
前スレの拙作でも、それを(隠し)テーマにしていました。
そういう点で、なんとも言えない感じが残ってしまいました。
あとは、他の100万人を「だいきらい」と言うのも、救われない感じがしました。

342:創る名無しに見る名無し
09/06/22 03:00:57 31VDKh4W
>>328
悔恨、反省、そして継ぐ者。
こういうのの狂言回しをやらせると響は適任ですね。本人の性格や好奇心、ズケズケした物言い
もそうですが、場に馴染み切れてないという負い目というか馴染もうとする努力というかが
ちょうどよくリンクする感じで。
探し物は・・・あの2人の片方でしょうか。見方によっては美希より古株ですしね。
社長は結構、飄々としつつ見えないところで苦悩する人であり、どうでもいいようなとこで
致命的な問題を作ってはその始末を丸投げしてしまう人でもあり……と何気に困った人なのだけど
最後の最後では結構頼れる人なのでは、全部わかってやってるのではと思えてしまう辺りが謎w
なんというか、現役でありながら隠者の雰囲気のある人、といったところでしょうか
なんとなく社長像を考えてしまうというか掘り下げ直してしまうわかりにくさも含めて
ああなんかそんな感じ、という感慨を持てる一作でした

>>331
優しすぎる人たちによる、優しすぎる物語。それでもなお同じ道を歩み出す娘ら
確かに綺麗事かもしれないし、芸能界に限らずそんなでは回っていかないといってしまうのは
簡単ですけども、こんな夢と憧れを積み重ね、そしてそれがまた誰かの夢や憧れにつながっていく
ただそれだけの当たり前の。そんな物語にひたるのも、たまにはいい感じですね

>>340
うーん・・・100万回生きたねこの原文を意識しすぎかなという点、きらいと切って捨てられる
救われなさは既に>>341でも言及されてるわけですが、こういう敢えて視点をゲーム外に
置いてみたメタな話自体はわりときらいじゃなかったり
なにより、選択自体が見事でした。無数の人が何度となく彼女をデビューさせ、活動停止までを
過ごし、そして彼女たちを題材に新たな話を紡いでいく繰り返し・・・おそらくは、シャレでなく
百万回じゃきかないほどの回数はアイドルだったはず。そこでそれ持ってきたセンスにそもそも脱帽ですね
目の付け所は素晴らしいので、もう一つ、ああ、と腑に落ちるなにかがあれば・・・という感じです

343:創る名無しに見る名無し
09/06/22 14:57:03 8zfyL3V2
おお! なんか新しいイベント始まってるー。

よし、じゃ自分は961美希でシンデレラ書いてくる!

……あれ、シンデレラってどんな話だっけ……?

344:100ある961の話なら(1/2)
09/06/22 17:39:11 8zfyL3V2
「あふぅ。今日もお掃除、お留守番、タイクツなの……」
 
 窓を拭く夢を見ながら、夢の中で美希は呟いた。
 
 ゲイノウ国のプリンス『プロデューサー』の『アイドル』を探すオーディション。
 その名も『アイドル・アルティメイト』。今日はその決勝戦がお城で行われている。
 
 “プロデューサーに選ばれたアイドルは、幸せな人生を送る事が出来る”
 ゲイノウ国にはそういう伝承があり、年頃の女の子はみな、プロデューサーのアイドルになる事を夢見た。

「ミキも行ってみたかったな……王子サマ、どんな人なんだろ」

 美希はアイドル候補生であり、アイドル・アルティメイトには美希の先輩達が何人か参加していた。
 だが美希だけは見学も許されず、いつものように事務所で一人、お留守番と雑用を命じられていた。

「ミキだって、ステキな王子サマにプロデュースしてほしいのに……」

 ゲイノウ国は、何故かどの代のプリンスもプリンセス(花嫁)を現役アイドルから選ぶ。
 いつからある伝統か定かではないが、巷では「王家はロリコンの血筋」という黒い噂まで流れている。
 したがってこの国で『アイドル』とは“未来のプリンセス”という意味も含まれているのだ。

 ぐぎゅるるるるる~~。 

「うう、夢の中とはいえお腹減ったの。そういえば今日、何も食べてないの……」

 空腹で目覚める。夜食にとっておいたおにぎりを取りに事務所の冷蔵庫を開ける。
 しかし、そこには―。

「あれあれ!? 無い……ミキのおにぎりが……ないっ!!」

 あるはずのおにぎりが無い。好物であるおにぎりに関して、美希は結構うるさい。
 研ぎ澄まされた思考が、その謎を解き始めた。

「そういえば……社長、出かけるとき、口にごはん粒と海苔がついてたの……」

 美希は己の境遇を嘆いた。アイドルとしてデビューさせてもらえないばかりか、さらにこんな酷い仕打ちを受けるなんて。
 保っていた心の線が切れた。美希は家出を決意し、事務所を飛び出した。

「ひどいよっ! ミキばっかりこんな……今頃みんな、会場のお城でご馳走をタラフク食べてるの!」
 
 夜も更け始めていた。寒空の中、美希はアテもなく孤独な夜を彷徨う。

「おやおや……何を泣いているのかな、子猫ちゃん……?」

 今居る場所も、自分がこの先どうなるかも分からない。
 走りつかれた美希がうずくまり泣いていると、美希の前に怪しげな男が現れる。
 
 それは、黒い魔法使いだった―。


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