09/05/22 17:04:04 F17GFX7U
【正義の味方】
「遊園地でヤキニクマンに会えるなんて、めっちゃツイてるね、兄ちゃん!」
「まさか亜美たちと同じ日にイベントをしていたとはなあ」
「ヤキニクマンってチョ→人気者なんだよ! 真美、明日ガッコでサイン自慢するんだ!」
「カッコよくて面白いってめちゃイケ最強だよね~。亜美もあんなヒーローになりたいな~」
「おおっ、亜美は正義のヒーローも目指しているのか。アイドルとの兼業は大変そうだな」
「真美もなるよ。そしたら亜美と代わりばんこでヒーローすればいいよね!」
「そしたら兄ちゃんは、超絶ヒーロー☆アイドルのプロデューサーだよ!」
「ま、まあ方向性はどうであれ、カッコよくなって人気が出るのはいいことだ。
あとは元の会場にもどって撤収だけど、浮かれて大事なサインを無くさないようにな」
***
「ねえ兄ちゃん、なんかあったの? スタッフの人たちがバタバタしてるよ」
「うーん。どうやらさっきのイベントで配った風船を、空に逃がしちゃった子がいたみたいだな」
「それって、亜美たちがサイン書いてあげた風船?」
「たしか予備って無かったよね。真美、あまったら貰おうって思ってたもん」
「ふたりとも、ここで待っててくれないか。俺から一言その子に謝ってくるよ」
「あ。亜美もいっしょに行くよ。兄ちゃん」
「でも亜美。亜美が行ってだいじょーぶ? ヤキニクマンの前で、サイン無くしちゃったって言える?」
「う……それはちょっと気まずいかも……」
「真美のいうとおりだ、亜美。亜美たちはアイドルだけど、正義のヒーローなんだろ?」
「う、うん」
「代わりをカッコよく渡せるなら亜美に任せるけど。手ぶらで謝るカッコわるい役目なら俺が引き受けるよ」
「……うん。ごめんね兄ちゃん」
***
「兄ちゃん! 兄ちゃん!」
「亜美? ま、真美までついて来ちゃダメじゃないか。どうしたんだ」
「亜美たちは正義のヒーローだもん。やっぱり困ってるひとを放ってはおけないよ!」
「そうだよ兄ちゃん。真美たちはファンのみんなのヒーローでなくちゃ!」
「ふ、ふたりの気持ちはわかった。とにかく小声で頼むよ。あのベンチにいる親子連れがそうなんだ」
「あのね兄ちゃん、亜美たちは困ってる兄ちゃんを助けに来たの」
「え?」
「真美たち、風船の代わり持って来たの。だから兄ちゃん、これを持って今から―」
***
「はぁ~っ。えらく緊張したぞ、亜美、真美。俺はもうヒーロー代行なんてこりごりだよ」
「兄ちゃん兄ちゃん。『こいつで涙をおふきなさい』ってシブく言えた?」
「『さすらいの亜美仮面からの預かりものだ』ってカッコよく言えた?」
「言った言った。お約束の、『名乗る者じゃございませんよ』も言ってきたぞ」
「やった~! これで兄ちゃんも正義のヒーロー見習いだね!」
「あのハンカチ、真美のサインも書いちゃったから激レアだよ!」
「さすがに親御さんにはバレバレだったけど、泣いてたあの子には効果てきめんだったぞ。
泣かなくなったら、元の持ち主にハンカチを返しにくるとも言ってたな」
「んっふっふ~♪ ねえ亜美。あとは毎週テレビに出られたら、真美たちってもっとヒーローっぽいよね!」
「え~。そ、それはキビしいよ真美~。アイドルと正義の味方の両立って、やっぱ難しいかも……」
「亜美なら両立できるさ。なにしろ世界でいちばん最強の味方がついてるわけだし」
「うん! それに真美と亜美には、トクベツな正義のヒーローだっているんだもんね!」
「え。そうなの真美? 兄ちゃん、なんの話? あっ、待ってよふたりともー! 亜美も知りたいよ―!」
駆けだしたのは真美で、続いたのはPでした。置いてきぼりにされた亜美が、慌ててあとを追いかけます
表舞台に立たない無名のヒーローたちは、遊園地のゲートをくぐったところで満足そうに振りかえりました
まだまだ未熟なヒーローが、夕日をバックに駆けてくるのを、とても眩しそうに眺めていました
143:創る名無しに見る名無し
09/05/22 18:29:21 9cgAQaIa
いおりんと亜美真美SSキター!全キャラ埋まりそうな勢いだw
>>141>>142
誕生日に亜美真美SSが来て嬉しいw子供と接触しない流れには盲点を突かれました。
お約束なヒーロー展開がはまってるのは亜美真美コミュならではと言うところでしょうか。
超VIP待遇の伊織SS共々楽しませてもらいました。GJ!
144:創る名無しに見る名無し
09/05/22 19:05:35 8SY1uadF
いつぞやの小鳥スレの小鳥祭りを思い出した
>>141
伊織可愛いよ伊織
どこまでもビジネス性分なところに伊織の本気のプロ根性を感じたw
>>142
亜美真美カッコ良いよ亜美真美
夕日の退場シーンはお約束ですよねー
145:創る名無しに見る名無し
09/05/23 00:50:27 Esz/+hBE
律子がまだ来ないようなので投下しに来ました。3レス使います。
146:Wizard and Witch 1/3
09/05/23 00:51:16 Esz/+hBE
あちらのアトラクションへ、こちらのカフェへと慌しく駆け回っていた人々の足並みも帰路へ落ち着き始め
た頃、ステージショーの司会進行とライブを行っていた律子も撤収を終えてステージ脇へ戻ってきた。トーク
への食いつき、遊園地という場所を考えると十分といえるライブの盛り上がりを考えると、今日の仕事は成功
だった。これから先へ繋がる大きな一歩になるかもしれない。
笑顔を隠しきれない様子でこちらへ歩み寄ってくる律子の表情も、そのことを物語っていた。
「プロデューサー、お疲れ様です」
「ああ、お疲れ様。随分と楽しそうだったな」
「ええ、今日は気分も乗ってましたし、ステージの前の方にいたチビッ子がもう可愛くって、うふふ」
声を弾ませて、スキップになりかけの軽い足取りで律子が俺の横に並んだ。ステージの脇から見ていた俺も
俺でまだ興奮冷めやらぬ所だが、張本人はそれ以上のようだ。
出口に向かって歩いていく人の流れに逆らうようにして歩いていると、ふと一人の少年が目に入った。パタ
パタと元気良く、人の合間を縫って走る彼の手には紐付きの風船が握られている。
ああ、あれは律子がイベントの時に配っていた─
「あ……」
俺が少年の手元を見た瞬間その手がふいに開かれて、重力に縛られていた風船が宙に浮かび上がった。
風船と空との境目には、何も無い。このまま放って置けば、風船は空の彼方へと消え去ってしまう。
何か言葉をかける前に飛び出し、思い切りジャンプする。
どうやら間に合ってくれたようで、俺の手には風船の紐がかろうじて引っかかるようにして残っていた。
「ほい、これ」
「……ありがとう」
見開いた目を落ち着かせてホッとした、しかしまだ呼吸の整わない彼の手元に、風船が戻る。胸元に刺繍さ
れたワッペンには『ニシヤマ タケル』と、彼のものと思われる名前があった。
「あ、さっきのおねえちゃんだ」
俺の隣に立つ、まだステージ衣装のままの律子に、男の子が気付いた。
「ステージ見に来てくれてたよね、ありがとう」
そう返事する律子の顔は、素直に嬉しそうだ。
「おねえちゃん、この風船、すぐ飛んでっちゃうよ」
幼い瞳が律子を見上げた。さっきも、二、三回ほど風船を宙に放ちかけたらしい。その時は自力で掴めたよ
うだが、この調子だとその内失くしてしまうかもしれない。
「この風船はヘリウムが入ってるから、どうしても浮かんじゃうのよね……」
さてどうしたものか、と俺が─恐らく律子も─思った時、ポケットのままに入れたままの、膨らませる
前の風船の存在を思い出した。
「よし、ならタケルくん、お姉ちゃんに何とかしてもらおうか」
腰を屈めて男の子に語りかける。
「えっ、お姉ちゃんが?」
「ああ、今からお姉ちゃんが魔法を使って、風船が勝手にどっか行かないようにしてくれるから」
「ちょっ、ちょっと、プロデューサーっ!?」
突然の俺の言葉に面食らった律子が横から割り込んでくる。その手に、膨らませた風船と膨らませる前の風
船の両方を握らせて、
「少しだけ席を外してこれを、頼む」
と、すばやく耳打ちした。
「え? そ、そんなことを突然言われても……」
「ほら、中身がヘリウムだからマズいんだよ」
ヘリウム、という単語を聞いて律子はピンと来たようで、得意顔になって頷いてくれた。
「なるほど、そういうことね、了解しました。任せてちょうだい」
小走りに律子が駆け出した。
丁度俺達の視界を塞ぐようにして立っている大きな看板の裏に隠れた律子が『魔法』をかけ終わるのを、タ
ケルくんとじっと待つ。
147:Wizard and Witch 2/3
09/05/23 00:52:42 Esz/+hBE
「お待たせ、タケルくん」
程なくして看板の裏から少しだけ息を切らして現れた律子は、その手に青い風船を携えていた。中身を目で
確かめずに渡したが、丁度都合のいいことに、タケルくんの持っていた風船と同じ色のものだった。見た目に
はほぼ同じだ。ただ一点、律子のサインがマジックで書き入れられている所が、元の風船と違っていた。
その風船を、まだ呼吸が整わない赤ら顔の律子は、タケルくんの小さな掌に渡した。
「おまじない、かけておいたよ。手を離してごらん」
律子が呼びかけるままにタケルくんが紐を手放すと、青い風船はゆっくりとゆっくりと地面に向かって落ち
て行き、音も立てず優雅に着地した。
「飛んでかない……!」
タケルくんの瞳が感激にキラキラと輝く。
「勝手に飛んでいかない代わりに、今度はタケルくんが風船を引っ張っていってあげるんだよ」
「すごいや、ありがとう、おねえちゃん!」
大喜びで、タケルくんは風船の紐をぶんぶんと振り回した。
……と一息安心した所で、俺はあることに気が付いた。
─この子、一人じゃないのか?
てっきりその辺から両親が様子を見守っているんじゃないかとばかり思っていたが、周囲の大人はただただ
出口に向かって、あるいはギリギリまでアトラクションを楽しもうと、無情に流れていくばかりだ。
律子もそのことに気が付いたのは同じのようで、
「プロデューサー、この子─」
と言いかけたが、タケルくんの方が若干早く状況を感知していたようだった。
「あ……おかあ、さん……!」
きっと、風船を持って走り回るのに夢中になっている内にはぐれてしまったのだろう。手元から風船が離れ
ていく瞬間に俺達と出くわしたものだから、頭の中から両親の存在が一時的に抜けていたのかもしれない。
タケルくんからさっきまでの笑顔が瞬時に消え去り、眉間に皺が深く刻まれ始める。
「ひっく……う……」
「タケルくん、大丈夫よ」
律子がしゃがみこんで、ハンカチでタケルくんの目元を拭った。
そして、俺の方に振り向いて、
「今度はこのお兄さんが、魔法を使ってお父さんとお母さんをここに連れてきてくれるから」
と言って、べそをかくタケルくんの頭をそっと撫でた。
「……今度は、そっちの番ですよ」
「おじちゃんも……まほうつかいなの?」
「お、おじ……!」
少々引っかかるワードがあったが、今はそれを気にしている場合では無い。律子が目配せする先に視線を送
ってみると、この付近のマップと思しき立て看板が遠目に見えた。
迷子、地図、ここに連れてくる─断片的なキーワードが一つに繋がっていく。
「よし、タケルくん、今からお父さんとお母さんを連れてくるから、ここで待っててくれよ」
律子に彼を任せ、目印になりそうなものを探しながら、立て看板の元へ走った。地図を確認してみると、迷
子センターはここからそう遠くないようだ。そこまで連れて行けば……と思ったが、そうじゃない。本当はそ
れが最も正しい解決法なのかもしれないが、律子の提案に込められた思いを、汲み取りたかった。
148:Wizard and Witch 3/3
09/05/23 00:54:13 Esz/+hBE
迷子センターまで時間はかからなかった。係員に彼のフルネームを告げ、事情があってA-5ブロックで待って
いることを伝えると、すぐにアナウンスが流れ始めた。広い園内に、エコーがかかる。
いくら幼いとは言っても、この魔法はタケルくんにはすぐバレてしまうかもしれない。
予想外に大きなアナウンスの音量に、そんなことを思った。それでもよかった。
先程の場所に戻ってみると、俺が予想していたよりも遥かに早く、両親と思しき二人がタケルくんと律子の
間に立っていた。俺が早足で律子の近くまで戻るなり、両親は恭しく何度も頭を下げてきた。母親は、すみま
せんすみませんまったくこの子は、と早口にタケルくんを諭し、父親はそれを諌めながらも、ホッとした表情
で家族を見守っていた。
当の本人は、両親に会えて安心したのか、もう帰らなくてはいけない予感に寂しさを感じたのか、どちらと
も取れない複雑な顔をしていた。
それから数日後。事務所に届いた律子宛てのファンレターの中に、住所は綺麗な漢字で書いてあるのに、氏
名だけがやけに歪なひらがなで書いてある封筒があった。中身に不審物が無いか一応確かめるために封筒は全
て開くのだが、今日は真っ先にその封筒を開いた。心当たりが有り過ぎたのだ。
ひらがなばかりで書かれていたのは、『おじちゃん』と『おねえちゃん』へのお礼だった。内容や言葉遣い
から、あの年頃の男の子が書ける文章とは思えないので、きっと親に見てもらいながら書いていたのだろう。
便箋の罫線なんて全く無視していて、文字の大きさもバラバラ。そんな、クレヨンの匂いが漂ってくる手紙
の中で、彼は
「ぼくもまほうつかいになりたいです」
と、わざわざ赤い色に持ち替えてそう書いていた。便箋の隅には、達筆な字で添え書きがあった。きっと、
傍で彼の監督をしていた母親のものだろう。
他の封筒の中身も確認してから、俺は束ねて律子のデスクへ向かった。
「律子、ファンレター来てるぞ」
「おっ、ありがとうございます」
キーボードの上で指を躍らせていた律子が手を止めてこちらに向き直り、俺の手から封筒を受け取る。
「あ……これって」
律子もすぐに、一つだけ異彩を放つ封筒に目を留めたようだった。
「タケルくんからだっ」
わざわざ宛先調べてくれたんだ、と律子はいそいそと中身を取り出す。
「ふふっ、クレヨンのファンレターなんて初めてかも。なんだか、とっても素敵ですね」
律子は弓なりに目を細めて、優しい顔で手紙に見入っていた。
しばらくしたらレターボックスに入れておいてくれよ、と一声かけて、その場を後にする。
自分のデスクに戻る前に振り返って見てみると、律子は丁寧に便箋を畳んで封筒に入れ、滅多に開けられる
ことの無い右側の引き出しへこっそりとしまっていた。
細く編んだお下げの髪越しに、眼鏡を持ち上げて目元を拭う仕草が窺えて、胸の内が温かくなるようだった。
終わり
149:夜 ◆yHhcvqAd4.
09/05/23 01:14:01 Esz/+hBE
っというわけで、以上っす。美希に引き続き出しゃばらせて貰いました。
批評感想など頂けると幸いです。
>>127-128
メタファーを絡めた会話から香ってくる「登場人物の思考」がたまらないですね。
心の動きが生き生きと伝わってくるようです。
こういうの、自分も書けるようになりたひ。
>>137
あんまり小難しい漢字ばっかり使われてると「なんかキザっぽいなー」って印象を受けます、個人的には。
自分は普段自分が扱うレベルの漢字を使うようにしてます。難しい漢字を使うだけの頭が無いだけかもしれませんが。
読み方が複数あって意味の分かれるような漢字は敢えてひらがなで表記するのも有りだと思います。
>>141
心温まる最後の2、3行にやはり作風というか、寓話Pのカラーが色濃く出ますね。
一レスという容量の中できっちり一つのSSをまとめる技量に感服です。
150:創る名無しに見る名無し
09/05/23 07:53:09 mSKz91v8
>>149
おお綺麗な律子キタw
後日、3ちゃんねるを覗いていた小鳥さん曰く
小「あの……律子さん、ファンの方に目撃されてましたよ」
律「?」
小「タケルくんの件。Pさんとタケルくんと二人で居る姿」
律「あー、そりゃそうなりますよね。事務所に迷惑かかってないといいんですけど」
小「見てみます?」(ニヤニヤ)
律「?」
193 名前: 名無しさん@お胸りっぱい 投稿日: 2009/05/16(土) 21:14:01 ID:Mao/+hBE
公演終了後にプラベで園内に居たりっちゃんみかけたお
なんかさえないおっさんと可愛いおとこのこといっしょだたお
194 名前: 名無しさん@お腹いっぱい 投稿日: 2009/05/16(土) 21:19:37 ID:34eDDcV0
彼氏? バツイチ?
195 名前: 名無しさん@お腹いっぱい 投稿日: 2009/05/16(土) 21:20:01 ID:esoasoVV
りっちゃんもそろそろそういう年齢だよね
芸能界ってそこらへん早いしさ
197 名前: 名無しさん@お胸りっぱい 投稿日: 2009/05/16(土) 21:23:01 ID:Mao/+hBE
なぐさめてくれお・・・・・・
うわぁぁぁぁん!!
律「……どうしようこれ
いや小鳥さんそうじゃなくて『Pさんとタケルくんとよっぽどお似合いに見えたんですね』って
そこ笑うとこじゃないですから話聞いてくださいってあーもうっ!!!」
151:141
09/05/23 21:58:24 2sbBUbDm
流れがのんびりしてきたんでレス返しだけちょいとおじゃましますね
>>143
やよいも春香も伊織もタイミングを逃していたので亜美真美だけは……!と気合いを入れてる最中の
お題スタートで慌てて方向転換した次第です。無事に双子の誕生日に間に合ってホッとしております。
ベッタベタな展開でしたが亜美真美なら……亜美真美ならあれくらいサラリとやってのける筈だと……!
>>144
>小鳥祭り
春香→真→千早1→千早2→美希→雪歩→千早3→千早4という流れでしたので、
スター組ちょっと弾幕薄いよ何やってんの!と精一杯食らいついてみました(雨晴P氏グッジョブ。超グッジョブ)。
出したキャラを可愛いとかカッコいいと褒めていただけるのは本当にうれしいです。ありがとうございます。
>>149
お題よりはSSの方を重視してしまいました。他の作者さんたちに比べてちょっと申し訳ないです。
オリジナルキャラを動かすことに慣れていないので、今回もアイドルとPだけで書かせてもらいました。
ブランク中に自分のカラーがどんなものだったか忘れてしまい、リハビリ感覚で参加した次第ではありますが、
投下した作品を前に、元のカラーが色濃く出ていると仰ってくださるようであれば少し自信が取り戻せます。
>>146-148
安心のスーパー律子ブランドキタワァ.*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(*´∀`)ノ゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*!!!!!☆
>>86(>>120)
遅ればせながら参加させていただきました。普段は読ませて貰ってばかりだったので
気軽に誰でも参加できるようなお題を発案してもらえたのはすごく有りがたかったです。
祭りの終了時刻まではまだ時間がありますが、楽しかったです。ありがとうございました!
プロデューサーさん! 765アイドル制覇まであとちょっとですよ、あとちょっと!
152:創る名無しに見る名無し
09/05/23 23:33:32 lDeTpD5R
>>137
千早はいたずらすらもくそマジメなんじゃないかなとw
自分が手に入れた技術を試しに無駄遣いしてみた。今まで「なんで他の人はこんなこと
するのか」と思っていたことがやってみたら思いの外楽しかった・・・みたいな
困らせてみてください、の逆と言えば逆かも。困らせてみたくなりました、的な
漢字とかなの使い分けは状況によりけりとしか。
漢字を多用しすぎると堅苦しくて読みづらくなりますが、かな書きばかりだと
解釈で揺れたり区切りがつかなくなったりですから、基本ケースバイケースで
字面の印象次第ですね。
強請るも例えば悪徳記者に脅されるような話だったら、逆にその字面の堅さが事態の
重さみたいに感じるかもですしね
>>140
信頼と実績のニューフェイスが創発参入w
何気に豪勢だよなあ、ここ
伊織はファンに対して天使か女神のような無謬な存在でありたい、的な理想を持ってる部分があると思ってます
歌のお姉さんじゃないと言いながら、実際歌のお姉さんやらせてみたらすっごいニコニコしながら
やりこなしちゃうでしょうし
亜美真美もそういう意味でもっと単純な「自分、最強」願望をストレートに持ってますが
亜美真美の方は自分の方も「何かに憧れる」姿勢があるところが違いと言えば違いかなとも
そんな感じでなんとなく自分がなりたい「理想の自分」の投影が今回の2編にテーマを付けるなら
合いそうかなーと思いました。
会話文主体に〆の一言という形式には文体というよりも「語り口」という言葉が似合いそうです。
>>149
夜Pの迷子話の第2弾w
子ども的にはいかにも飛んでいくような風船の方がいいはずだという固定観念を見事に吹っ飛ばすいい魔法でした
なんかミンゴスのところに来たファンレターを思い出す話ですな。
イベントの時に配った風船にはサインを入れてなかったのがミソですかね
だとすると律っちゃんが風船にかけて届けた2つの「魔法」がもう一度戻ってくる話、というふうでイイ感じです。
タネも仕掛けもあるけれど、全ては笑顔のために。うん、そう考えるとすごくらしい。
>>150
194-195のクールっぷりが妙に笑える・・・w
153:創る名無しに見る名無し
09/05/24 21:52:40 5eJzLxZv
滑り込みにやってきましたズサー。
『浮くもの、飛ぶもの』本文3レス頂戴します。
154:浮くもの、飛ぶもの(1/3)
09/05/24 21:53:24 5eJzLxZv
今日は俺の担当アイドルの握手会だった。
町外れの小さな遊園地で子供たちを集めて風船を配る、と言う小ぢんまりとしたイベント
だが、客も相応に集まったし、彼女も大いに楽しんだようだ。
「疲れたか?けっこうテンション高かったな」
「へっちゃらさー!3ヶ月前までは5万人相手に何日もコンサートやってたトップアイドルを
なめるんじゃないやい」
「へえへえ。むしろこんなちっぽけなイベント、やってらんないか」
「おっとプロデューサー、それも間違いだよ。自分、これはこれですっごい楽しかったんだぞ」
そう、俺の担当アイドルは我那覇響。先日IUで我が765プロに負け、961プロを自由契約
となった元トップランカーだ。
最近のファンはユニットプロデュースというものをよく理解していて、前シーズンまで
トップアイドルだろうか低ランクだろうがぜんぜん気にしないようだ。もちろんずっとついて
くるファンも多いが、各クールのアイドルの評価は、世間的にはそのたびに一旦ゼロに
戻るというのが最近のムーヴメントと言える。響は、そういう意味では今シーズンまったくの
新人アイドルであり、現在はトップを目指して下積み営業を繰り返している時期なのである。
「まあ、そう言ってもらえると俺も助かるけどな。でも頑張ろうぜ、早くトップに返り咲いて
『ああ、やはり響はすごい』ってみんなに思い知らせてやろう」
「もちろんさー!」
夕焼けに染まるアトラクションのあいだを、話しながら通用門へ向かう。……と、そこに
聞こえてきたのは、子供の泣き声だった。
「わああーん、ボクの、ボクの風船っ!」
「ああもう、仕方ないわね、諦めなさい」
「やだあー!やだよー、ヒビキの風船なんだよ!あれがなきゃやだよ!」
俺と響で、顔を見合わせる。
「さっきのイベントにいた子かな」
「そうみたいだな。んーと……ほら響、あれ」
上を見上げると、オレンジ色の空高く、薄青色の風船が上ってゆくところだった。
「紐を離しちゃったんだな。かわいそうに、あんなに泣いて」
「……自分、ちょっと行ってくる」
「おっおい、響?」
止めるまもなく母子連れに駆けて行く。
「ねえキミ、さっきの握手会に来てくれたのか。ありがとうっ!」
「きゃっ?あ、響ちゃん」
子供の目の前に立ち、膝を曲げて笑顔で話しかけた。母親も驚いたろうが、子供に
いたっては硬直している。
「だけど、泣くことなんかないんだぞ!今から自分が、あの風船とって来てあげるから!」
「はぁ?」
ようやく追いついたと思ったら、こんなことを言う。何十メートル離れたと思ってるんだ。
「おい響、なにを―」
「ふっふっふ、プロデューサー、自分にどんな友達がいるか、忘れたのか?」
「え?友達って?」
不敵な笑みを浮かべる響に、思わず聞き返す。すると彼女は、指を口にくわえて鋭い
口笛を吹いた。
ピーィィィッ!!
「オウ助、カムヒヤーっ!」
「ピーオー」
なんということだろう、はるか空高くから応じるような声が聞こえたかと思うと、大きな影が
響の肩に舞い降りたのだ。
「うわっ……って……ええっ?お前ん家のオウ助か!」
「ふっふっふ、そのとーり」
仁王立ちので腕を組み、含み笑いで応じる。
「人呼んで平成のドリトル先生!これなるは我那覇響、百獣を統べる者さー!ね、キミ」
「ふぇっ」
「ちょっと待っててね。いまこの子があれ、取って来てくれるぞ!」
この態度の大きさはドリトルというよりキャプテンフックだが、あっけに取られる子供に言いたい
だけ言い放つと、肩口の鳥になにやら話しかけた。オウ助も了解したのか、短く鳴くと天を見据え、
力強く羽ばたいて真上へ飛びあがった。
155:浮くもの、飛ぶもの(2/3)
09/05/24 21:54:08 5eJzLxZv
「おお!すごいな響」
「あれからオウ助とはじっくり話し合って、もうカゴなんかなくても逃げたりしなくなったのさー!
さあオウ助、あれが今日の獲物だぞーっ!」
風船はもうずいぶん小さくなっていたが、空の住人たる鳥にはものともしない距離だろう。
その隔たりをぐんぐんと縮めてゆく。
「す……すごい」
「もう、あんなところに」
極彩色の翼は見る間にターゲットを捉えたかと思うと、ひときわ大きく羽をはためかせた。
「おおっ!」
「うわぁ!」
そしてさながら、小鳥を襲う猛禽類のように……。
「……あっ」
「あー」
「……あーあ」
……その柔らかなゴムの膜に、鋭い爪を突き立てた。
パアァ……ァン
まあ鳥に過大な期待をかける俺たちも大概とは思う。風船はここでも判るほどの大きな、
乾いた音を立てて盛大に破裂した。
「……あれっ?」
「ピャアアアーッ?」
響は目論見と違って戸惑っているようだが、オウムにしてみれば相当驚いたのだろう。一瞬
翼が止まり、数メートル自由落下した後体勢を立て直し、来た方とは逆の遠くの山へ向かって
飛び去っていった。
「あ、鳥さん、飛んでっちゃった」
「わあああっ、オウ助ーっ!?」
「……そりゃそうか。ご主人様の言う通り掴まえに行った目標が爆発したんだもんな。普通
ハメられたって怒るよなー」
「オウ助えっ、じ、自分が悪かったっ!もう風船なんか追わせないから戻って来ーい!」
響は慌てて、オウムの飛んでいった方へ駆け出した。
「……ねえ、おじちゃん」
「ん?」
ズボンを引っ張る感触に下を向くと、さっきの子が俺を見上げている。あまりの急展開に風船の
ことなどどうでもよくなったのだろう、心残りの表情は認められない。
「ヒビキ、だいじょぶかな」
「ああ、あいつなら大丈夫だよ。響のこと、好きか?」
「うん!大好き。あのね、前の時から大好きだよ」
思わぬところで継続組のファンに出会ってしまった。まあ、なら話は早いというものだ。
「そっか、ありがとな。響は元気な奴だから、ああやって走りまわらないと逆に調子出ない
んだよ。知ってるだろ?」
「うん。テレビで犬追っかけてたの、見たことある」
「たはは。な、だから響はいま絶好調だよ。風船の代わりにこのカードをあげよう。これからも
応援よろしくな」
「わあ、ありがとうおじちゃん」
なにかと役に立つ販促アイテムを持ち歩いていて助かった。彼はこれからもよきファンであり
続けてくれるだろう。
「オウ助ーっ!カムバッークっ!」
響の叫びが周囲にこだまする中、俺は母子に別れを告げた。
……。
さてと。
「響」
「あ、プロデューサー」
数分探すと彼女は見つかった。観覧車脇のベンチに腰掛け、傍らにはオウ助が止まっている。
「よかったな、見つかったのか」
「一時はどうなるかと思ったさ。やっと機嫌直してくれた」
156:浮くもの、飛ぶもの(3/3)
09/05/24 21:54:49 5eJzLxZv
「にしちゃあ元気ないな?」
夕日の加減だろうか。思ったことを聞いてみる。
「あの子……大丈夫だった?」
「ああ、大丈夫だよ。俺のことを最後までオジサン呼ばわりしていたのは釈然としないが」
「はは。……さっきの、風船さ」
「うん?」
「なんか……自分みたいだ、なんて思っちゃって」
「あの風船が、お前?」
隣いいか、と訊ね、ベンチに腰掛けた。響はぼんやり前を見ながら、言った。
「うん。ふわふわいい気になって飛んでたら、いきなり脇からつつかれて、割れて落とされて。
自分もほら、765プロなんかサイテーなトコだって、絶対潰してやるんだーっ、て一人で勝手に
いきがって。結局、間違ってて、落っことされたのは自分の方だった」
彼女は、961プロの社長にあることないこと吹き込まれ、765プロを敵視していた。異常なスピード
でランクアップを続ける彼女は黒井社長以外の言葉に耳を貸さず、自分の認識がおかしいと
思ったときにはもうIU直前だった、という。
実は今のたぐいの話は、以前も聞いたことがある。765に来た経緯が経緯だから、時々そうなる
のだろう。
響が961にいるうちに救いの手を伸ばせる人間がいれば。前の時も、そう思った。
「あっはっは。お前が風船ねえ。そんな簡単に割れるタマかよ」
だから、こう言ってやった。
「俺の考えを聞かせてやろう。お前は風船じゃなくて、オウ助のほうだ。割れて落ちる呑気な存在
じゃなく、自らの意思で天を駆ける力強い翼だ」
「……そう、かな」
「ただ、時々失敗するんだ。いい気になってちょっかい出したら爆発されて、面食らって逃げ出し
ちまうような奴なのさ」
「むーっ」
ぴょん、とベンチから飛び降り、くるりと振り向いて俺に正対する。
「自分のこと、バカにしてる?」
「そう聞こえるか?」
「……そうでもない」
「よかったぜ。いいか?お前は風船じゃない、鳥だ。飛ばなくなったらお払い箱の誰かの玩具じゃ
なく、自分で何度でも飛べる誇りを持った存在だ。いま、落っこちたって思ってるならその通りだよ、
だがそれは、また飛び立つために止まり木で羽を休めてるだけなのさ」
「止まり木、かあ」
「……って、俺は考えてるって話。こんなの、どうだい?」
背もたれに体重を預け、大きく伸びをして空を見る。少々暗くなった夕焼けはおき火のように
ちろちろと照り光っていた。
しばらく黙って考えていた響が、こちらに足を向けた。何も言わずに再びベンチに腰を下ろし、
そうして。
「ん!悪くないんじゃない?」
そうして、にやりと笑った。
「よろしい。では大いなる明日へ再び飛び立つため、今日は帰るとするか」
内心胸をなで下ろし、ベンチを立つと彼女も続いた。オウ助はぴょいとジャンプし、響の肩にとまる。
「うん。ヘンなこと言ってごめんね、プロデューサー」
「なんくるないさー」
「あ、自分の口癖とった!」
「それもなんくるないさー」
「うわ、やめろよー、なんかかっこわるいぞー」
言い合いながら裏門へ歩き出す。
落日寸前の太陽は俺たちを背中から照らし、人二人と鳥一羽の影を長くまっすぐ伸ばしていた。
おわり
157:浮くもの、飛ぶもの(あとがき)
09/05/24 22:00:21 5eJzLxZv
以上でございます。あとはあずささんを残すのみ、と思わせておいて響でしたの巻ー。
当初(2/3)までのギャグネタのつもりでしたが、いろんなこと書きたい病が発症して
しまいました。発症すんの今日の昼とか遅いよいくらなんでも!
レシPでした。
あと2時間ですけどもうないですかねw
158:創る名無しに見る名無し
09/05/24 23:26:57 hVPU3qoF
まさかのオウ助SS…じゃなくて響SSキタ!
ヘンタイプロデューサー時代とは違って、いい感じの信頼が生まれてるようで読んでてホッとしました
あずささんで来ると思ってたのに読みが外れたか…
159:創る名無しに見る名無し
09/05/25 02:53:03 sz74m1mo
響SSGJ
これから961組のSS増えていくといいねぇ。
160:創る名無しに見る名無し
09/05/25 07:14:54 tZZ536OV
ここのSSは単に二次創作というだけでなく、ポジティブな意味での同人的なリスペクトが感じられるのが好き。
>>157は特に感じられた。読んでて嬉しくなる内容でした。
アイマスワールドの新人が故の効果もあるのだと思う。
一度はボツになった実は古参組の響と貴音。
「復活」というテーマはこれからも二人についてまわるのかも。
#それは良くも悪くも。
繰り返し遊ぶ、というのはアイマスの遊び方の根底にもあると思う。ああ、どんどん板違いになっていくw
しかし、鳥の使役は響だけの手だよねぇ、いいトコロ使ったなあ。
161:創る名無しに見る名無し
09/05/25 21:14:17 ro4zr4Lu
確か高木社長もオウム飼ってなかったっけ?
使役できるかは不明だけど
162:創る名無しに見る名無し
09/05/25 22:22:25 gBUPRLWX
>>157
後はあずささんだけ、の流れになった? いやまだ少なくとも3人いる絶対外してくるぞ誰か
とか思ってたらある意味、予想通り
昨日のSランクも今日のFランク、その代わり何度墜ちてもやり直しが利く
それが一般認識になってるっていうのも考えてみるとスゴイ状況w
とはいえユニットを役や作品と考えれば案外声優は比較的近いのかも。
一つの作品に関わって当たり役に恵まれても、あくまでも役や作品に付いてるファンも多くて
必ずしも次に得た別の作品の役や本人の活動に同じファンを持ち込めるとは限らない、という意味で
にしても、響カッコイイヨカッコイイヨ響。同時に最高におばかだけどw
オウ助行ってこい!の期待感の高まりと、そこで一撃の下に台無しにしてみせるズッコケ感
さらには、あまりに響劇場過ぎて風船どうでもよくなるに納得してしまうポカーンぶりはある意味真骨頂
響のキャラ造形も登場発表直後は真コンパチ系サバサバキャラと思われていたのが今だと
伊織の根拠レスな自信+やよい並のカンピュータとムダな高出力+春香並みのドジッぷりという
「自分、カンペキだから!」→「あり? おかしいな?」→「ぐあ~っ! ヘコむ~っ!!」
あるいは「やい、765プロ!!」→「う?あ?え?」→「うわーん、おぼえてろーっ!!」
までで一セットなイイ意味で欠点ハイブリッドないじられやりこめられキャラに成長しつつありますな
美希も貴音も天然過ぎるせいで本質ボケのはずだろうにツッコミを強いられた環境からか
律っちゃんや伊織の理屈の上での裏付けと口の達者さあっての勝算あるツッコミとはまた違った
常識が邪魔して天然になれず、理論派になるにはおまぬけすぎて、結果どっち側からも
押し切られるという敗北必至のバカツッコミという新境地に達しつつある響の扱いの
教科書通りな一作になるかと・・・というか、むしろ「これが教科書だ!」かなw
愛しきおばか、愛すべきお調子者に幸あれ、です
163:創る名無しに見る名無し
09/05/25 22:37:45 zgCrNg4E
>>162
熱すぎ語り過ぎw
要約すると
「響かわいいよ響」ということですね?
164:創る名無しに見る名無し
09/05/25 23:07:35 gBUPRLWX
>>163
YES!
だが自重しないw
165:釣り人86=レシP
09/05/26 03:54:58 LnRVjG9d
祭の あとの 寂しさは♪
いや別に寂しくなってませんが。こんばんわレシPです。
このたびは思いつきの遊びにお付き合いくださりありがとうございました。ネタ投下したものの作品論の
流れの方が強含みでひやひやしたのですが、蓋を開けてみれば神々の競演。これなんて桃源郷かと。
思いのほかの釣果wに震えが止まりませんでした。
いか、いちお言いだしっぺなりに一言二言。
テーマ競作『風船まつり』目次
>>74 風船@やよい(化け猫の人)
すべてのお手本
>>87 ばんそこ@春香(レシP)
ネタ元としてともかく1本。つか、やよい編改変の他にこれが思い浮かんだから他のアイドルの
パターンも読みたくなった。
>>90 無題@真(レシP)
軽い奴も例示したほうが参加者来るかなー、ともう1本
>>99 無題@千早(◆bwwrQCbtp.=みなと)
一番槍ありがとうございます。千早のこの思いは掘り下げる価値ありですよね。
>>104 俺的千早@風船(名無し)
千早と子供の組み合わせと言えばコレだと思います。男の子の意気や良し。
>>110 風船のお家@美希(夜 ◆yHhcvqAd4.)
ナイス屁理屈w 他作品でもありますが「風船を放す=解放してやる」タイプの素敵な解釈でした。
>>114 風船の在処@雪歩(◆uQHpKry736=雨晴P)
飛ばない代わりの風船は「一人で飛ぶより共に歩きたい」と。地面に造詣の深い雪歩ならではです。
あとゆきぽの息でふくらんだ風船ハァハ(ばっきゅーん
>>125 104の後日談
こういうの、いいですねえ。妄想が妄想を呼ぶ理想的な展開かと。
>>127 helium/0.138@千早(◆uQHpKry736=雨晴P)
P名決定オメっすw 手から離れた風船が「孤独」の代名詞を返上した素晴らしい一作ですね。
>>136 127のアンサーSS
ちはやん女優だよちはやん。いつの間にそんな寝技を習得したんだナイスw
>>141 流れ星@伊織(寓話P)
寓話Pキター!!しかも伊織からですかーっ!
俺の伊織ネタが間に合わず悔しかったのですが、すごくいい話だったので素直に降参。
>>142 正義の味方@亜美真美(寓話P)
そして連投とかw亜美真美は常にカッコイイ登場ポーズとか考えていそうです。
>>146 Wizard and Witch@律子(夜 ◆yHhcvqAd4.)
風船のお姉ちゃんだあああw 涙もろい律ちゃんかわいいです俺にください。
>>150 146のその後
→197 イ㌔
>>154 浮くもの、飛ぶもの@響(レシP)
あとがきでも書きましたがギャグになるはずだったのにッ
166:釣り人86=レシP
09/05/26 03:55:56 LnRVjG9d
いつもの書き手がだいたい揃ってしまいました。待ちに待ってた寓話Pも参戦、あまりお見受けしない
筆致もありまして楽しみが増えるばかりです。
みなさんのノリには感動感心感服感涙感謝感激雨あられでございます。
競作を提案した理由はいくつかありますが、結局のところ化け猫氏の作品が「お……俺ならこうする
のにっ!」っていうモノだったおかげです。物語の流れは好みそのもの、問題含みではありますが
台詞回しのケレン味はけっこう趣味、84でも書いたフレーズなど俺のSSならもうクライマックスで
使うレベルの切れ味です。あとから思えば『化け猫』の時も翻案物というよいヒントをいただいた形に
なっていて(完成しなかったけど『黒井裁き』の時も落語ネタ何本か考えた)、要するに氏は俺の琴線を
刺激する作品構想の持ち主なのであろうと思います。ま、原典のチョイスのシブさといい作中の語彙
といい(平成生まれの人は「木戸口」なんて使いませんよね小鳥さん)同世代臭を感じてならないことも
大きいのですが。
ただ、結果的に氏の作品を叩き台のように使ってしまって申し訳ないとも感じています。本来なら人の
作品なんかじゃなく、何もないところからテーマ創出するのが腕のいいスレ住民の仕事、ティンときた
などと言いながら他人の褌で相撲を取ることに少々甘えている気もして反省する部分も多し。脳味噌の
出来に関わる部分だけにすぐにどうこうとは行きませんが、いつかは人様に迷惑をかけない祭りを
仕切ってみたいものです。
氏にはぜひまたいらしていただければと思っています。楽しみにしています。
元ネタに対する「俺ならこうする」はこの後投下します。筋がいいんでセリフ改変でどうにか、って
当初は思っていたのですがさすがに別人の文章では無理でした。結局響ん時と一緒で余計な話を
足したくなってしまいましたw
ほんとストイックさに欠ける人だね俺はタハハ。
以上、さりげなく身元隠ししてみたものの文章の本質は変わらず、結局んところモロバレだったん
だろーなーと確信するレシPがお送りしました。またいつか遊べたらと思っておりますし、他の方の
釣り針にもホイホイついていければと思います。その節はお手柔らかにお願いします。
ではでは。
最後にもう一本、オリジナル準拠『風船』やよいver.レシP風を置いていきます。
『風船とハイタッチ』、本文3レスで。
167:風船とハイタッチ(1/3)
09/05/26 03:57:39 LnRVjG9d
俺が765プロに籍を置いてもう数ヶ月になる。高木社長に街で声をかけられてから、なんだか
よくわからないままに社員見習い、うかうかしているうちにプロデューサー候補、あれよあれよ
という間に正プロデューサーになって高槻やよいというアイドルを担当し、気付けばまるで
もう長年プロデューサー稼業に就いているかのような振舞いぶりだ。社長の『ピンときた』は
実際俺も知らない才能を探り当てたようで、俺もそれまでのふらふらした生活とはうって
変わった、予定や計画がぎっしりで、体を休めるヒマもない、それでいて心身ともに充実
した日々を過ごしていた。
やよいはアイドルとしてはまだまだこれからの人材で、デビュー曲が子供番組で当たった
のを足がかりに更なるステップアップを図っている最中である。今日の営業は彼女も得意な
子供相手、遊園地での握手会だ。
「それじゃあみんな、今度はお姉ちゃんといっしょに歌っちゃおう!『おはよう!朝ごはん』っ」
お馴染みの曲名に、小さなファンたちが沸き立つ。今日のイベントは大成功と言っていい
だろう。三ケタに近い親子連れはそれぞれにイベントを楽しみ、サイン入りの風船を貰い、
満足して帰っていった。最後の方は用意した風船が足りず、予備にと持ってきていた販促
ポスターに目の前でサインを入れる慌ただしさだったが、やよいも子供たちとの触れ合いを
存分に楽しんだようだった。
さてイベントも終わり、俺たちも帰路についた頃のことである。俺たちの行く手に母の手を
引き、上を見上げてはぐすぐすとぐずっている子供がいるのに気付いた。
「プロデューサー」
やよいが俺を見上げる。家に弟妹を待たせている彼女だ、そんな年頃の子が泣いている
のを黙っていられないのだろう。
「わたし、行ってきてもいいですか?」
「ああ、かまわないよ」
プロデューサーとして頭脳を働かせ、かまわないと判断した。おかしな関係の親子には
見えなかったし、彼の視線を追って事態の見当はついていた。嬉しそうに頭を下げ、小走り
に少年に向かう彼女をあとから追う。
「あの、きみ、どうしたのかな?」
「……あ……やよいお姉ちゃん……」
「うん!今日、いっしょにお歌を歌ってくれた子かな?」
「あの……ふうせん……ごめんなさ……ぐすっ」
「ふうせん?」
「飛ばしてしまったんですか」
鼻をすする音とえずきながらの声でほとんど要領を得ない少年をフォローし、俺は母に
訊ねてみた。先ほど彼の視線の先に、空高く風船が飛んでゆくのを見つけたのだ。うっかり
紐を離しでもしたのだろう。
「あ、ええと?」
「ああ、やよいのプロデューサーです。かわいいお客さんが困っていたようですので、失礼
ながら声をかけさせていただきました」
母親は一瞬いぶかしんだようだが俺の説明に納得してくれ、そうなんですとうなずいた。
「今日はこの子の誕生日だったんです、ちょうどやよいちゃんのイベントがあるということだった
ので連れてきたんですけれど」
「あ、そっか、えと、……『ゆうたくん』だよね!」
風船を渡す際にそんな話を聞いたのを思い出した。やよいは名前まで憶えていたようだ。
しかし、彼は彼でそこまで気遣ってくれる大好きなアイドルに申し訳ない気持ちがでいっぱいに
なってしまったらしい。顔をくしゃくしゃにし、目からは涙がとめどなく流れる。
「ふぇ、やよいお姉ちゃんの風船……ごめんなさい、ごめ……っ」
「あああ、あ、あのっ、あのゆうたくん、そんなに泣かないで、ね?ほら、ゆうたくんは悪くないよ、
え、えっとプロデューサー?」
おろおろと少年をなだめながら、やよいはこちらに問いかけの視線を送ってくる。風船の予備
はないのか、というところだろうが、なにしろファンに配るのも足りなかった状態なのはやよい
自身も承知していた。
168:風船とハイタッチ(2/3)
09/05/26 03:58:22 LnRVjG9d
「あの、お恥ずかしいところをお見せして申し訳ありません、ゆうたにはよく言って聞かせますので」
「いやいやお母さん、いいんです、いいんです、が」
母は恐縮してしまい、息子の手を強く引いてこの場を逃げ出そうとしている。なんならシャツに
でもカバンにでもサインくらい入れられる、この子を泣かせたまま別れるのも忍びないと思うが
うまく言葉が出ない。
「あ、そうだ!」
そこに割り込んできたのは、やよいの明るい声だった。俺も母親も、ゆうたくんも泣くのを
止めて彼女を見つめた。
「そしたらお姉ちゃんが、ゆうたくんにもうひとつ風船をプレゼントしてあげます!」
「……え?ほんと?」
少年の表情が見る見る明るくなる。母親も戸惑いながらもほっとしたように口元を緩めた。
「でもやよい、風船は」
「プロデューサー、ちょっと待っててくださいねっ」
そう言ってやよいが向かったのは、店じまいを始めていた売店であった。
何事を考えたのやら、と思いながらしばらく母子と話していると、片手に何かを握り、走って
帰ってくるのが見えた。
「ゆうたくん、お待たせしましたっ!はいこれ!」
「え……これ、なに?」
やよいが彼に見せたのは細長い、折りたたまれた紙だ。母親でさえすぐには何か判別つかない
ようで、少年が戸惑うのも無理はない。俺は田舎育ちで祖父母によくしてもらったので、それが
何かは程なく思い当たった。風船は風船でも、こいつは……。
「じゃーん!これも風船なんです!ゆうたくん、見たことなかった?」
「でも……でもこれ、さっきのと違う」
「いい?見ててね」
持ち歩いているペンを俺から借り、大きくサインを入れる。ついでにハッピーバースデーと
書き加えて、やよいはそれに口を当てた。
ふう、ふう、ふうと息を吹き込むたびにかさかさと音を立て、平べったい塊がだんだん球状に
変化してゆく。少年と母親の見つめる中、やがて風船は丸く膨らんだ。
「わ、ボールだ!」
「紙風船、っていうんだよ。ほら」
自分の手で二度三度とトスしてみせ、少年に手で打って飛ばす。目を輝かせた彼はそれに
飛びつき、何度も取り落としながらもこのプレゼントを気に入ったようである。
「やよいお姉ちゃん、ありがと!」
「今度のはゆうたくんから逃げて飛んでいったりしないからね。それに、少しくらい破れても直せる
し、大事にしてあげればずーっとずーっといっしょにいられるよ。仲良くしてあげてね」
「うん!」
「じゃ、お姉ちゃんと約束!ハ~イ―」
「あ!たーっち!」
少年はお馴染みの挨拶でやよいと右手を打ち鳴らし、そうして母親に連れられて帰っていった。
閉園時間も近い。俺もやよいと歩き出した。
「でもやよい、えらかったな」
「そうですか?」
感心して言う俺に、しかしやよいは何を褒められているのかわからないようだ。
「紙風船を渡して『これなら逃げていかない』なんて、なかなか言えないぞ。思いやりのある、いい
説明だった」
「え、そうですか?でも、あの、えー、その」
「……どうした」
「んーと、その、ですね……あのお店、ホントは普通の風船も、売ってたんです」
169:風船とハイタッチ(3/3)
09/05/26 03:59:04 LnRVjG9d
もともとは彼のなくしたのと同じ風船を探そうと売店に飛び込んだ彼女だが、遊園地の売店すなわち
売らんかな体質の塊である。ゴムからビニール、アルミ箔、浮き飛ぶものや飛ばぬもの、丸いの
長いの大きいの。およそありとあらゆる風船が取り揃っていて、彼女は思考回路がパンクしたそうだ。
「しかも、どれもこれもあの、け、けっこう……高い……ん、ですよ」
「ああ、そりゃなあ。外じゃ売ってないから独占販売でドン、ここのキャラクターやアニメの絵が入る
だけで単価は更にドドンだ」
「それで、頭ぐるぐるーってなっちゃって、横の棚のところに行ったら、『むかし玩具セット』っていうの
見つけて」
「つまり、一番安かったわけだな?」
「ふにゅうう」
他にも小さな独楽や折り紙などの入った袋を見せてくれ、ことの経緯を白状した。やよいの名台詞
はむしろ、必要に迫られてのものだったというわけだ。
「そうか、あはは。でもかまわないさ、ゆうたくんも喜んだし、やよいが無理をしたって誰も嬉しくない」
「そう……ですかね。なら、よかったです」
「それにな、俺も―おっと」
「プロデューサーも……なんですか?」
俺も、やよいに教えられた。
空を飛んでゆく風船に一瞬、俺は以前の自分を重ねたのだ。自由で、勝手で、どこへでも行ける
浮き草人生。
この会社に入って、それまでの人生は一変してしまった。起きる時間も仕事をするしないも好きに
決められる日々から、時間に追われ、スケジュールに拘束され、人間関係に悩まされる時間の連続へと。
大空をたゆたう生活は一見爽快で、自由意志に満ち、気楽だ。だがその先には大きなリスクも
待っている。『自分の好きに行く』ということは『他人と共には歩まない』ことを意味する。
―ずーっといっしょにいられるよ。
やよいの言葉は少年に渡した紙風船ではなく、もっと別のものを俺に伝えてくれたような気がしたのだ。
「俺もな、お前のプロデュースについてビッグアイデアを思いついたんだ」
「え!わたしのお仕事ですか?どんなのですか?」
「まだヒミツ」
「ええ~?」
ただこれは、プロデューサーとして、大人として、男として、少々シャクだ。だから、やよいには
ごまかす事にした。
大きな秘密を計画しているかのような口ぶりで彼女を煙に巻く。
「ぷ、プロデューサー、どうして教えてもらえないんですかぁ?」
「お前のこともびっくりさせようかな、って。そらもー、驚いて動けなくなっちゃうような」
「ひえええ?もしかして、こ、怖いのですか?怖いお仕事なんですか?」
「さーてねー」
なに、どうせじきにバレる。
紙風船は自分では空を飛ばず、持ち主の掌で弾むのが役割なのだ。
「ところで今の話とはまったく関係ないのだが、お前はバンジージャンプ体験と心霊スポットレポート、
どっちが好きだ?いや、あくまで一般論だぞ」
「ほ、ほんとに関係ない話ですかっ」
「あれ、やよいってパスポート持ってたっけ?」
「あ……アメリカ?アメリカなんですかっ?アメリカに行くんですかあっ?」
「けっこうどこでも眠れるって言ってたよな、これはいろいろ、うんうん」
「どこですかああ?わたし、どこで寝るんですかああ?」
涙目のやよいをからかいながら、俺は思った。
つまるところこれからの俺の人生は、やよいのハイタッチで支えられているようなものなのだな、と。
おわり
170:風船とハイタッチ(あとがき)
09/05/26 04:05:13 LnRVjG9d
以上でございます。ありがとうございました。
・工夫したところ
「誰かの責任うんぬん」「母親も喋る」「お金がどうの」に関わる描写を、俺んちのやよい(と、それに
まつわる世界)ならどう展開するだろうか、と考えながら書いてみました。見事に正反対の描写にw
あと、いろいろ書きたい病引き続き進行中です。元ネタ改変作品にオリジナル要素入れるとかどんだけ。
さて、ではそろそろみなさん、風船の飛んでいかない話も書きたいですよね?
Go to the NEXT STAGE!!
171:創る名無しに見る名無し
09/05/27 00:50:02 K9Ur2Pla
>>170
・・・数百円の風船に、ついもやし尽くしを見たなw
改めて原型作品が基本フレームとしては全く間違っていないていうか普通にいい話な
ことを再確認させられるところ。
原典からの「お月さんまで飛んでっちゃうこともない」へのリスペクトと
根無し草の風船と地に足の付いた紙風船の対比やそれに思いを託すプロデューサー、
担当アイドルに「教えられる」展開、プロデューサーのアイドルいじりなどなど
ここまで見られたそれぞれの工夫を集大成しつつ、オーソドックスにまとまった
一旦の締めらしい良作だと思います
172: ◆bwwrQCbtp.
09/05/27 08:53:35 IY4f5w/p
>>165
ネタ振り&仕切り乙!
おいしいとこ持っていきやがってwwwという気はものすごくしてますか、
最後までこれだけSSで語られては、反撃のしようもないww
響のヤツで、問題の風船を叩き割る暴挙には脱帽です。書き手の目線で発想の敗北を認めます。
個人的には、軽く乗ってみたところ、その後の力作の連発にマジ涙目になり、
他の人に感想すらまともに書けない肩身の狭さを感じていましたが、それはともかく、
読み立場では、本気で至福の状態でした。
参加したみなさん、乙&ありがとう!
このスレ、本気で楽し過ぎるw
173:創る名無しに見る名無し
09/05/27 21:22:45 CytjTgZ/
レシPに何度釣られようとも、俺たちの風船まつりはここからだ!
仕掛け人がサン組SS全制覇の偉業を成し遂げ「にゅふふっ♪」と笑っている図を想像しながら、
最後まであずささんSSが被らなかったことにホッと胸をなでおろしつつ、ラスト一球参ります
あずさSS【凱旋パレード】 本文1レス・その他1レスお借りします
174:創る名無しに見る名無し
09/05/27 21:24:02 CytjTgZ/
【凱旋パレード】
「この遊園地も懐かしいですね、プロデューサーさん」
「そうですね。あずささんがここで歌ったのは、もう1年近く前でしたっけ?」
「うふふ。あの頃は右も左もわからなくて、ご迷惑をお掛けしました」
「すこし歩きましょうか。まだステージまでは時間があるようだし」
「そうですね。今日は私たち、ここには観客として来たんですもの。
私が立ったステージに、風船を渡した女の子が立つなんて、不思議な気分です」
「今ごろはガチガチかもしれませんよ。以前のあずささんがそうだったみたいに」
「恥ずかしいわ。歌詞も飛んで、ダンスも忘れて、ファンの皆に助けてもらって」
「どうにかこうにか終わったと思ったら、今度は風船がたりなくなったんですよね」
「そうそう。ちいさな男の子が、泣きながら私のところに来たんです。
困っていたところに、年のはなれたお姉ちゃんがとんできてくれて―」
「歌の好きな女の子でしたよね」
「その子が、自分の風船を渡してくれたんですよ。『お姉さんを困らせちゃダメ』って」
「年の割にずいぶんしっかりした女の子だなあって思いましたよ」
「あら、ぷ、プロデューサーさん? わ、私も少しはしっかりしてきましたよね?」
「おっと。あずささん、見えてきましたよ。本番前の彼女に、挨拶にいきましょうか」
***
「あっ、あずささん! 来てくれたんですか!」
「こんにちは、やよいちゃん。今日は緊張しているかしら?」
「えへへっ。あずささんの顔みたら、緊張もとんでっちゃいました!」
「そう、良かった。あのとき私の緊張をとばしてくれたのも、やよいちゃんだったのよ」
「そうなんですか?」
「ええ。初めての大きなステージで、お客さんを泣かせてしまったんだもの。
頭は真っ白。風船も空っぽ。どうしたらいいか全然わからなくって」
「すみません、私もちゃんと見てればよかったんですけど……」
「そしたらやよいちゃんが、すーっと飛んできて、すーっと緊張をつれてってくれたの」
「でもでも。私、弟が歌のお姉さん困らせちゃって、ヤバイー!って思っただけで」
「そのときに思ったのよ。この子はふわふわした、やさしい風船みたいな子なんだなって。
だから、社長がやよいちゃんを連れてきたときは、心の底からおどろいたわ。
どこかへ飛んでいった風船を、もう一度つかまえてきてくれたんだもの」
「私もびっくりしました! うーんとすごいアイドルさんだったんだって!」
「その、うーんとすごいアイドルが、すごいって思った子が、やよいちゃんなのよ。
私をトップアイドルにしてくれたプロデューサーさんの、保障つきでもあるんだから」
「うぅ…でも私、あずささんみたく堂々と歌えないし、ダンスもまだまだヘタっぴで……」
「うふふ。私もそうだったわ。だってやよいちゃんは、全部見てたでしょう?」
「あ! えっと、えっと、……あずささんと、おそろいですね!」
「そうね。私たちはお揃いだわ。だから今日のステージも、きっと楽しいものになるわね」
***
「じゃあ、俺達は観客席に向かいましょうか、あずささん」
「あのっ。あずささん、あずささんのプロデューサーさん。これ!」
「風船?」
「まあ。やよいちゃんから、いただけるのかしら」
「はい! 今日はファンの皆さんにくばります。もらってください!」
「ありがとう、やよい。でも良いのか? 握手会はステージの後だろう?」
「プロデューサーにお願いしました。最初と最後に渡したい人がいるんですって」
「なんで俺達に2つもくれるんだ?……って、ちょっと、あずささん!?」
「あ、あらあら、大変。どうしましょう、私ったら―」
ふわりふわりと浮かびあがった風船を前に、あずささんは心配そうに空をみあげていました
「おそろいです!」と嬉しそうにやよいが言って、理解したPはそっと掌をひろげました
二つの風船が見下ろす地上に―泣いてる人はひとりもいませんでした
175:創る名無しに見る名無し
09/05/27 21:26:08 CytjTgZ/
というわけで本当にファイナルです。読んでくださってありがとうございました。
読み手も書き手も参加者の皆さま本当にお疲れさまでした。
起源でもある>>77氏の作品を見て自分が感じたことのひとつに
「(やよいには弟がいるから)そういう台詞は言わないんじゃないだろうか?」
というものがあります。
アイドルから風船を手渡されたのが、見知らぬ親子ではなく、
「やよいとやよいの弟だったらどうなるだろう?」と考え、
あとはそのまま>>86のお題に素直に従った次第です。
>>152
「理想の自分」とのテーマ指摘、ありがとうございます。
「歌のお姉さんじゃないんだから」は雰囲気でつかったフレーズでしたが、
「歌のお姉さんだったあずささん」 と 「歌のお姉さんを目指すやよい」
この2人が何となく頭に浮かんだのは、>>152氏より頂いたレスがきっかけです。
・風船を手離した男の子に姉がいたとして、歌のお姉さんを目撃していたらどうなるだろうか?
該当できるキャラは千早とやよいの2名ですが、
起源でもあるやよいSSに近づけられるものが書きたくなって
最後の最後にひとつ浮かんだSSを投下していくことにしました。
>>165
すいません全然気づいてませんでした……気持ちいいほど見事に釣られてしまった……
スター組全然来ないわよ何してんのよレシP!とか思ってましたスイマセン
「これだけ展開されて来ない=ラストにあずさSSくるかも!」はちょっとした賭けでもあったんですが、
案の定予想の斜め上を行くサン組の展開だったので、ひとつ隠し玉を作らせてもらいました。
響SS・やよいSS共々直球ストレートなレシP節全開で安心しつつも
キー!騙したわね!という悔しい気持ちもあったので変化球で〆させてもらいました。
あずさSSという隠し玉を抱えて進行を見守るのはすごく緊張しましたが(>>86ねぇ?)
なんだかんだで面白かったです。また機会がありましたら是非とも釣られさせてください。
これでホントに持ち球ゼロです。あー楽しかった! 寓話Pでしたノシ
176:雨晴P
09/05/28 14:04:50 PMCDV1v4
風船祭り、本当に乙でした!雨晴Pです。
と、いう訳でお祭り明け第一作目になります、雪歩ネタです。そろそろコメディ調書きたくなってきたわけです。
本当はもう少し登板間隔あけようと思ったんですが、ごめんなさい、今日の夜から1週間ほどパソコン触れなくなるので・・・
さて、最初は完全新作で!と考えていろいろ書いてみてたんですが、少し前に某所で投稿したものを今風リメイクしてみました。
理由としては、とにかくこのネタの構成が自分が今までコメディタッチで書いてきた中で一番気に入っていたことと、でもその割には文章がヘタレてて読み辛かったことです。
いつか書きなおしたいと思っていましたが、数か月も経ってようやく出来るとは・・・
オリジナル版から基本構成は殆ど弄ってありませんが、表現とか文末とか、前スレで頂いたコメを参考に全力で書きなおしました。
普通に丸1日かけました。何これ、リメイク?w語感とか全部ひっくるめて良い状態に仕上げたいがために暗唱できるくらい読み返しました。僕はもう読み飽きましたw
目標は、読みやすくすること!と言う訳で慣れない全編コメディタッチ3人称に挑戦!・・・何度1人称使いたかったことでしょうかw
もしかしたら、その某所でご覧頂いてる方も居るのかもしれません。もしいらっしゃいましたら、是非ともこちらもご賞味頂ければ幸いです。
>>175様
これで765プロ勢ぞろい、ですね。お疲れ様でした!
まー、実は僕も先週土曜日時点であずささんネタ書き始めてたんですが、これまで書いたことのないキャラクターだったので雰囲気が出せませんでした・・・
その1レス中に集約出来る文章力、是非とも分けて頂きたいです・・・雰囲気もあずささんのそれですし・・・兎にも角にも、ファイナル乙でした!
では、5レス程度失礼します!
177:Happy holiday with you!(1/5)@雨晴P
09/05/28 14:07:08 PMCDV1v4
765プロ所属のアイドルが大きなイベントを行った次の日には、彼女たちはフリーになるのが通例である。
昨晩のイベントで疲れ果てた雪歩も多聞にもれず、日曜日で学校もない、完全な休日を嗜んでいる。
間違えてセットしたらしい目覚まし時計が優雅な休日の朝を騒々しく掻き乱して下さったおかげで、それはもう朝早くに目が覚めた。
身支度を整えてリビングへ向かえば朝食が用意されていて、なぜか父親が作ってくれたというフレンチトーストをもさもさと消化していく。美味。
一区切り付いたあと、どうしようかと考えた末にお茶を淹れようと思い立ったので、淹れる。飲む。美味。
「・・・」
さて、暇である。それはもう、そこはかとなく暇である。
そうだ、自主練習をしよう、と父親が建ててくれた防音室へ向かう。向かおうとして椅子から腰を上げたところで、昨晩の事を思い出した。
――明日は、しっかりと休むんだぞ。
そんな、彼女のプロデューサー氏から発せられた一言。
はっと息を呑んだ。ごくりと喉を鳴らした。リビングに置かれた椅子へと導かれるように腰を降ろしたところで、彼女の戦いが始まった。
始まったは良いが、かといってすることがない。
詩集を綴ろうかと思ったけれど、あまり気が乗らない。というか、あれで一日を過ごすのは勿体ない。折角の休日なのだから。
お茶でも淹れようか。いや、それは今さっきしたところだ。
自身の少なすぎる趣味にぅぅと鳴き、テーブルに額を押し付けて悩む。ぐりぐりと。
悩みに悩み抜いた末に友達を誘って遊びにいこうかなぁという結論に達したので、3人にメールをする。
10分後には全て返信されたそれらは、ごめん今日はちょっとといった内容だった。
「・・・ぅ」
終わった。彼女はそう確信した。今日はきっと、そういう日なのだろう。
酷いですプロデューサー、なんて訳のわからない非難を彼に浴びせつつ、再び額をテーブルへと移す。
あ、と何かひらめいたように伏せた顔をあげ、でもそれはちょっと、とやっぱり伏せる。
テーブルに頬を載せながら、携帯電話の決して登録数の多くないアドレス帳からハ行を選択していく。メールの作成画面を開いて、ボタンをプッシュ。
『今どこにいますか?』
そこまで書いて、送信のボタンを押そうか押すまいかのところで迷いに迷った。あーだのこーだの迷いながら、右頬と額と左頬はテーブル上を行き来する。
うーうー唸りながら奇行を繰り広げる娘を見つけた父親は、一瞬だけ声をかけるか迷った後、その行為を生暖かく見守っていた。
親は子の有りのままを受け入れるべきであると、彼女の活動を通して学んだのである。その行動に割と涙が出そうではあったが、そこは男萩原、耐え忍ぶ。
そんなこんなで、雪歩がええい、送っちゃえ!なんて思えたのは10文字程度の文章を打ち込んでから15分が経ってからのこと。
彼からの返信を受け、彼の好きだと言っていたお茶を水筒に汲み入れて玄関から飛び出したのは、それから更に5分が経ってからのこと。
そして彼女の父親が娘の奇行と突発的な行動に驚愕し、呆然と突っ立っているだけの状態から解放されたのは、加えて10分後のことだった。
178:Happy holiday with you!(2/5)@雨晴P
09/05/28 14:08:24 PMCDV1v4
765プロ所属のアイドルが大きなイベントを行った次の日には、彼女たちはフリーになるのが通例である。
しかしその担当プロデューサーもそうかと言われれば答えは否であり、むしろ地獄が待っている。領収書の束。報告書の山。
世間は休日で、いつも混雑する幹線道路はガラガラ。彼の愛車は、平日であれば45分以上足止めされる幹線道路を15分で駆け抜けた。おそらく、歴代最速ラップ。
まあそんなわけで、彼が事務所に到着したのは日曜日の朝8時。誰も居ない事務所は、ひどく閑散としていた。
割り当てられているデスクへ腰を降ろし、デスクトップパソコンの電源を入れる。A4サイズの書類を封筒から取り出し、整理する。伸びをする。眠い。
一息つこうとコーヒーメーカーへと歩み寄り、黒の液体を作り出す。
何気なく視線を送ったホワイトボード。そこに記された社員や所属アイドルたちの行動予定表を見たところで気が付いた。
今日の出勤予定者は、彼一人だった。
弾かれたように振り返って、事務所を見渡す。うっわー、と響いた声が自分の発したものだと気付くのに、いくらかの時間が必要だった。
「マジかよ」
マジだった。
事務所には話し相手など誰も居らず、ただただ静まり返った室内に日光が刺し込んでいる。
先ほど電源を付けた彼の愛機はブーンと低い音でアイドリング中で、コーヒーメーカーは4人分くらいのコーヒーを無駄に吐き出している。
彼は別に、ひとりの事務所で仕事をするのには慣れていた。というか、残業で日を跨げば大体そんな環境になる。
しかし今は朝一で、更に言えば羽鳥アナがズームインを連呼する曜日でもない。
それはもうピーカンな陽気で溢れかえる世間はがっつりお休みで、よくよく考えれば俗に言う行楽日和だ。
彼の見る光景は家族連れがひしめく公園や、カップルでにぎわう繁華街ではない。見慣れた事務所のそれである。ただし、無人。
その光景に、はっと息を呑んだ。ごくりと喉を鳴らした。割り当てられているデスクのオフィスチェアーへと腰を降ろし、彼の戦いが始まった。
とりあえず、さっさと終わらせて家に帰ろうと意気込み、ソフトを立ち上げる。今日の戦友は、リポD(ゴールド)だ。
誰も居ないのを良いことにイヤフォンを装着し、お気に入りの楽曲を流しておく。シャッフルされ、一番最初に流れた曲は雪歩のもの。デビュー曲。
1サビまで聴き込み、良し、と反動を付けて画面へ向かったところで、携帯が音を立てた。メールの受信音。雪歩からだ。
なんだかタイミング良いなぁなんて思いつつ、内容を確認して『事務所にいるよ』と返す。
そして今度こそ画面に向かい、報告書をまとめていく。まあ昼過ぎには終わるだろうと言い聞かせながら、戦友を一気に呷る。
誰も居ない空間を意識しないように、ただただ作業に没頭した。
飛び乗った電車は、内回り電車。いつもよりずっと空いていて、一番隅に座れた雪歩は少しだけ喜んでいた。
たった5駅の距離だとしても、満員電車に揺られるのとどちらが良いかと問われれば当然こちらの方が大変よろしく、今日が日曜日だということを実感する。
でも、今日も今日とてプロデューサーはお仕事みたいだ。
あの人には、少しだけでもいいから休むって選択肢を持ってほしいなぁ。
そんな事を考えながら、電車に揺られる。
しかしながら彼のそんな努力はすべて彼女に向けられていて、彼が自分のことを一番に考えてくれている事実はとんでもなく幸せなもので、自然と顔がにやけていた。
でも、やっぱり無理はし過ぎてほしくないなぁなんて思った。
でも、今日会えるのはそのおかげだしなぁなんて思った。
取り留めもないことを考えながら、彼女は寝息を立て始めた。
彼女の乗る電車は、環状線だった。一周あたり50分程度のそれを、彼女は3周することになる。
179:Happy holiday with you!(3/5)@雨晴P
09/05/28 14:09:27 PMCDV1v4
ぱちぱちとキーボードを叩く軽快な音が事務所に響き、しかしその本人の顔は穏やかとはお世辞にも言えず、彼の傍らには3人の戦友達が力尽きている。
終わらん。それが久しぶりに現実への帰還を果たして最初に考えたことで、壁に掛けられた時計は短針が12を指しかけている。
気付けばイヤフォンからの音は消え失せていて、都合のいいことに腹がぐぅと鳴る。
昼食にしようと考えて、ああ、朝コンビニ寄ってくるの忘れたと今更ながらに気が付いた。
行くか、と席を立ち、誰も居ない事務所に施錠し、徒歩10分圏内にあるコンビニを目指す。鮭のお握りが、彼を呼んでいる。
事務所を出てすぐ左へと進路を変えた彼は、向かって右側からはぁはぁと息を切らして走ってくる白のワンピース姿に気付く訳がなかった。
ふと目が覚めて、あれぇ?とか抜かしながら腕時計を確かめると、11時半を余裕ぶっこいて回っていた。
電車に飛び乗ったのが9時で、それからもう2時間半も経ったんだぁ一体何があったのかなぁえへへとかなんとか思案した後、大いに混乱した。
それはもう寝過ごすなんて生易しいものではなく、言ってみれば仮眠である。
ただ唯一の救いは次の駅が目的地だったことで、電車のドアが開いた途端彼女は走り出した。目立ちに目立つが、そんなことは気にしていられない。
はぁはぁと息を切らして走る白のワンピース姿が呪うのは、兎にも角にも自分の愚かさだ。
今ならスペースシャトルで宇宙に飛び立ち、地球の危機を救うために隕石へ立ち向かえる。
ブルースウィリスも真っ青な掘削技術で、エアロスミスはミス・ア・シングを大熱唱。素晴らしきかな、大団円。
混乱に混乱を重ね合わせてミルフィーユ作っちゃってる雪歩に見慣れた彼の後ろ姿を認識できるだけの余裕は無く、事務所へ続く階段へ足をかけた。ドアノブを捻る。
もちろん事務所の鍵は施錠されており、しかしその理由を雪歩が知る筈もなく、頭の中のミルフィーユは脆くも崩れ去り、ただただ冷静な思考が彼女を襲う。
事務所が閉まってるのは、どうして?
――私が馬鹿なことしてるから、プロデューサーは帰っちゃったんだよ。
息は上がってしまっている。ぺたりと座りこんで、事務所の玄関を閉ざす扉を眺めた。
勿論そうしたところで事態は変わらない。冷静な思考が、帰ろう帰ろうと彼女を急かしている。
その冷静な思考で駐車場を見やる余裕があったなら、そこに彼の車があることに気付くことができた。
彼の携帯にメールをすれば、事務所の中におきっぱなしの携帯電話が騒ぎ立てた。
だとしても今の彼女にそんな余裕があるはずもなく、ただただ事務所の前で座り込んでいるだけ。上がっていた息も、落ち着いてきた。
――帰ろう。
彼女がそう決断したのはたっぷり10分後のことで、そのころの彼はコンビニで鮭と、もう一品はツナか明太子かの選択に追われていて。
そんな間抜けなすれ違いが折角の休日をこれでもかというくらいに打ち壊して、駅へと向かう途中に見かける家族連れやカップルが、凄く眩しいものに見えた。
彼女はもう一度環状線に乗り込み、しかし乗るのは行きにも使った内回り。
なんだか今日は、このまま帰るのはつまらないなぁなんて沈んだ顔で考えつつ、再び約1時間の長い旅路へと電車が動き出した。
180:Happy holiday with you!(4/5)@雨晴P
09/05/28 14:10:51 PMCDV1v4
彼が事務所に戻ったのは丁度雪歩の内回り電車が駅を発った頃で、別段変り無い玄関前の光景に何の違和感も抱かず鍵を開けた。
眠気からか、一旦デスクチェアへと身体を預ける。キシリと音を立てて、彼の体重を支えた。しばし呆ける。数分後に自我を取り戻した。
コーヒーメーカーでコーヒーを淹れようとして、でもお握りにコーヒーはなぁ、なんて考える。おにぎりなら、雪歩の出してくれるお茶のが合うよなぁ。
そこまで考えて、あれ、何か忘れてるぞと記憶を掘り返していく。ああ、そういえば朝一で雪歩がメールくれてたっけ。
少しだけ気になって、彼は携帯電話を手に取った。パチリと軽い音。もちろん、その後の連絡などない。
ん?と首を傾げて、『どうしたの?』と送信する。
ふぅ、と息をついて、何だったんだろうなぁとか考えつつ、鮭お握りのフィルムを剥がそうとしたところで携帯電話が音を立てた。
返信早いなぁとなんとなく感心し、文面を開いた。あれ?このメール。
少しだけ疑問に思いつつ、とりあえず、そのままの事を伝えることにする。
では今度こそ、と鮭お握りのフィルムを剥がそうとして閃いた。ああ、この文面は良いぞ、忘れないうちに報告書に書き込んでおこう。
彼はすぐにパソコンへ向かい、買ってきた鮭と明太子のお握りには手を付けず、そして彼女のメールの返信がないことにも気付かなかった。
ぐぅ、とおなかが鳴った。大変な空腹感だった。
結構走ったもんなぁ、雪歩はそう結論付ける。
がたんごとんと電車が揺れて、何しているんだろうわたしという思いが一層強くなっていく。
携帯電話を開いて、今日のメールのやりとりを確かめた。
『事務所にいるよ』という彼からの返信は9時前のもので、あんなばかな事をしなければと深く深く落ち込んでしまう。
彼からの新しいメールを受信したのは丁度その時で、彼女は文面を確認した途端、素早くメールの文面を打ち込んでいく。
なんだか、いつか見たようなメールが完成した。
しかしそんなことはどうでもよく、直ちに送信。次に受信したメールもなんだかいつか見たようなもので、違うのは受信時刻だけ。
次の瞬間彼女は勢いよく席を立ち、開いていたドアからホームへと飛び出して、外回りの電車を今か今かと待ち望んだ。
181:Happy holiday with you!(5/5)@雨晴P
09/05/28 14:12:18 PMCDV1v4
少し前に閃いた文面のおかげで報告書もようやく完成の兆しが見え、伸びをすると体中からぽきぽきと音が響いた。
腹がぐぅと鳴り、ああそうだ飯だと立ち上がる。
コーヒーメーカーの前に置きっぱなしにしておいたコンビニのお握りを持ってこようと歩みを進めていると、事務所の扉が音を立てて開いた。結構な勢いだった。
驚き、なんだなんだと思って体を向けると、白のワンピース姿がそこに居た。見知りに見知った少女。
「あれ、雪歩じゃないか。どうしたの」
雪歩はそう言って首を傾げる彼を呆然と見つめた後、すぐに目尻に涙を溜めていく。うわぁんとか、そういった類の泣き声を発しながら彼の胸へと飛び込んだ。
彼は彼で何が何だかわからず狼狽し、暴れようとする自分の感情を抑えるのに相当の苦労を要していた。
「あー、その時間は多分、コンビニに昼食買いに行ってたね」
「うう・・・ひどいです。だったらちゃんと伝えておいてください・・・」
雪歩が気付いたころにはプロデューサー氏の胸で泣いていて、抱擁されている事実にあたふたしてから10分くらいが経つ。
ようやく彼女の胸の高鳴りは収束へと向かい始めている。
雪歩は彼が所望したお茶を汲み、その最中に今日のすれ違いの一部始終を把握して、大きな溜め息を吐いた。
そんな折の無茶苦茶な反論にごめんごめんと笑いながら答えた彼は、鮭のお握りのフィルムを剥こうとする。剥こうとして、訊ねる。
「雪歩、お腹すいてない?」
「たくさん走って歩いちゃったんで、すいちゃいましたよぅ」
彼の、そうか、という一言。鮭お握りのフィルムを剥き、差し出す。
「なら、一緒に食べよう」
はい、と雪歩の右手に鮭お握りを載せ、彼は代わりに明太子お握りのフィルムへ手を掛けた。
これ、プロデューサーのご飯ですなんて雪歩がうろたえて、プロデューサー氏はお詫びだ、なんて返しながら明太子お握りを頬張る。
彼の好物はこのコンビニの鮭お握りの筈で、ならばどうして明太子を食べているのかと言えば、雪歩は辛いものがあまり得意じゃないからだ。
・・・むぅ。
この人はずるい。本当にずるい。雪歩はそう思う。
彼の気遣いに感謝して、一口頬張る。今日のてんやわんやの元凶君達のうちのひとりは、とても美味しかった。
182:あとがき&コメ返事@雨晴P
09/05/28 14:14:52 PMCDV1v4
以上です。やっぱりコメディタッチを3人称で、って言うのはまだまだ書くことが少ないので難しいです・・・
ただやっぱりこういのは書いていて楽しいので、少し前に書いたもののリメイク版とはいえ全力投球してみました。如何でしょうか・・・
と言う訳で、以下風船祭りで頂いたコメへのレスを失礼します。大量のコメを頂きまして・・・本当幸せっす、有難う御座います・・・
>>117様
有難う御座います!ハートフルストーリー大好きなんでw
飛ばない風船っていう要素を取り入れてお題にそぐわなかったら・・・とか思いましたが、大丈夫そうでほっとしました・・・
>>118様
説明、要る気がしましたwただ、書いた本人からはどうしても客観視が難しいので・・・そう思って下さったんであれば幸いです、有難う御座います!
>>119様
有難う御座います!情景描写大好きっ子でしてwこう、言葉のパズル的な感じで面白いっす。類語辞典とか最高ですよねw
>>122様
雪歩かわいいよ雪歩と思っていただけたなら幸せですw告白、とまでは言いすぎ・・・でもないかもしれないですねw有難う御座いました!
>>123様
素敵すぎるP名有難う御座います、名乗らせて頂きます。
僕の書くSSが基本的にP×アイドルの絡みなので、自分の書きたいように書いたらそうなっちゃった感がありますがw
>>130様
告白?何のことでしょうwでも確かに、ゲーム中のPもキャラが掴みにくいですよね。
創作するにあたっては逆に見合ったキャラ当てが出来るので楽かもしれませんが・・・
>>131様
ネタさえあれば10時間だって余裕ですよ!・・・まぁ、ネタが無いんですけどw
心理描写出来てますか?有難う御座います・・・嬉しいっす・・・
オチ自体、もっと落とせたかなと思ったんですが、お話自体短いのでアレで・・・w楽しんでいただけたなら幸いです・・・
>>133様
何ですかその素敵イメージ・・・嬉しいですw
>>136様
無機的タイトル、僕はあんまり使わないんですが、たまに良い響きの時は使っちゃいますw
千早の成長=柔らかさだと思うんです。コミュとか見てても特に。その辺り表現できてれば嬉しいです。
>>149様
婉曲表現も大好きなのでwただ、使いすぎもアレですよね、気をつけてますが・・・
お姉さんりっちゃん大変かわゆすでした!乙です!
>>165様
ネタ振り有難う御座いました!書くのも読むのも凄く楽しめました。こう、ひとつのネタを皆さんと共有できるのは凄く新鮮で面白かったです!次回も参加させて頂きます!
繰り返しになりますが、本当に沢山のコメ有難う御座いました!またこういう機会があれば確実に参加すると思います。それくらい楽しかったですw
では、本当に長くなってしまいましたがこれにて失礼します。今回のも感想など頂けるとまた泣いて喜びます。では、また・・・
183:創る名無しに見る名無し
09/05/28 19:44:07 oVOkiSBK
>>175
あずささんがようやくキタ!GJでした!
風船フェスティバルのトリを飾るに相応しい出来でした、超乙です。
あずささん独特の雰囲気が全体の空気をほんわかさせてますね。
最後の絵本のような言い回しも手伝って、大変和ませて頂きました。
おそろいの光景と、それをしっかり理解しているPがニクいw
良い作品でした!次も是非読ませて下さい!
>>182
取り敢えず、コミカルタッチ大好物な私にとっては最高な作品でしたw雪歩の空回りっぷりが可愛すぎるw
時間の流れの中で繰り広げられるお互いのお話ですね。読んでいる内に物語へ引き込まれて行くようでした。
「読みやすく」が目標であったのであれば、十分に達成されてると思います。少なくとも、私はそう思いました。
とにかく、GJでした!雨晴さんが書く雪歩が大好きなんで是非また次回作も雪歩を・・・とか言ってみますw
184:創る名無しに見る名無し
09/05/28 22:57:21 lxHaX9+j
>>175
あずささん~。やっぱりどこかで迷ってましたねw
いいですね、アイドルが時間軸をずらして存在しているSSは実はあまりないのです。
昔やよいに元気をもらったあずささん、あずささんに憧れたやよい。二人のつながりが
心地よいですね。GJでした。
>>182
以前の感想返しで「読みやすくと気遣いながら書いている」とおっしゃったかと思いますが、
とてもよいスピードで読めました。なんつうか、一緒に会話しながら歩いてる感じ(作中の
ゆきぽは全力疾走してますけどw)。栄養ドリンクやおにぎりの擬人化もガチャガチャしてて
面白みが伝わってきます。あんがとさまです。
しかしあずささんまで来て「揃った揃った」とかはしゃいでいると、某銀色の王女がすんごい
顔で睨んでる気がうわなにをするやめr
185:創る名無しに見る名無し
09/05/29 03:45:29 qTSnNBMt
>>175
だから感想書いとくとアンサーがSSで来るっていうのはどんだけかと
いや、これはアンサーというよりもインスパイア?・・・なんにしろ、なにかの材料になってくれたのなら
それはなによりです
特に伊織は「私はいつでも、本番一発カンペキOK!・・・の水瀬伊織なんだから!」に象徴されるように
自分の目指す理想像への追求が本人なりのテーマとなっている(その一方で、その理想があまりにも
“人間離れしてカンペキ”を求めすぎであるが故に作品的には“回りにどう評価されても自己の理想に及ばず、
そこに辿り着けなくて足掻き続ける姿”が実際のテーマになりがちなわけですが。いおりんの歯噛みまじさいこー)
ところがありますが、「なりたいような私になるの」という姿勢自体はどのアイドルにも共通の目標でもあります
貴音辺りは演じ続けることに疲れてしまった・・・みたいな裏テーマもありそうですが。
その一方で、今回はあずさとやよい、年長者と年少者による継承といったところでしょうか・・・
と言いたいところですが、それでは今回は的外れですね。上から下へ一方的に贈られる関係
ではなく過去のエピソードをなぞって選ばれた今の行動が、おそろいでありながらお返しでもある。
お互いがお互いの中にああいうようになりたい姿を見ているようでもあり、始めと終わりが
繋がっているようなちょっと不思議な読後感です。
>>182
>>133で挙げられたところの雨晴海岸は富山湾に面していますが
富山湾というと名産は海の幸、特にホタルイカ・・・と怪しげな発言をw
雨晴P自身、創発アイマススレでは堂々の注目株になっていると言ってよいかと
以前ちらほらとあったヘンな卑下が見られなくなってきたのはいいことだと思いますよ。
淹れる。飲む。美味。のリズムがやっぱりお気に入りですね。
優しく、楽しくの空気は壊さずにリズミカルなのはもちろん、文末を中心に細部を柔らかく
描写することで厚みを増した印象があります。
って考えてみると、判断に困った状況→友達にメール→返事イマイチ→想い人にメール→準備してGo!!
→トラブル発生→ヘロヘロプリンセス現場到着→ナデナデしてくれたよ、な流れなわけで。
ある意味で雪歩版Do-Daiな話とも言えなくも・・・ない、かな?w
リマBを雪歩で聞きながらなんてできれば、なかなかふいんきがあって楽しげかもしれません
それにしてもなんなんでしょうね、この湧き出るような「雪歩らしさ」は?
>>184
なんとなく貴音の風船はアルミ製の銀色の円盤のやつだと思う
深い意味はないけど
186:創る名無しに見る名無し
09/05/29 10:15:11 QKqBy4/y
>>170
オチが好き。
自分、「男の子」が「お姉さん」にプライドを刺激される話が好き。
このPを酒の席で弄繰り回したい。
競作のお題にされた作品は、やはりキャラクターと演出が独特なのだと再認識しました。
化け猫の人の新作にも期待したいですな。
あの寂びた匂いのするアンニュイな空気で、"アイマスキャラ"がどう動くかは、まだ見ていない。
>>182
この雪歩は可愛いですねぇええぇ。
既出だけれど、自分も読みつつ「あれ、これ、Do-Dai?」って感じました。もしや、聴きながら書いたとか?
読みやすさですが、文の技術に詳しくないので感じたことだけ。
この文の量と一文の長さの割りにストーリーが入りやすかったな、と読み終えて思いました。
全体を通しての「お話」のボリュームに対しても、かなりあると思うのに、テンポが崩れてない、とも。
緩急のためでしょうか。そんな気がしました。
純粋に、読み手としての感想ととっていただければ。
>>185
しかし、雪歩の吐息の詰まった風船ハァハァといい、貴音の風船にソレをイメージするコトといい、
まったく貴方は紳士にすぎる。
187:創る名無しに見る名無し
09/05/30 18:53:31 +p6nBEMc
>>182
雨晴さんちのゆきぽは本当に愛おしすぎるw
これまで二作の雪歩ネタも楽しませて貰いましたが、今回のドタバタ劇でもしっかりと雪歩らしさが出ていて違和感無く読ませて頂きました。グッジョブ。超グッジョブ。
思うに雨晴Pはキャラの「掴み」が尋常じゃなく巧いんでしょうね。表現力とあいまって、本当にこんなコミュがあるんじゃないかって文章が書けるんだと思いました。
随所に散りばめられていた砕けた言葉遣いの使い方も面白いし、テンションの切り替えも抜群だし、たった数行しか登場しないお父様も素敵w
・・・褒めてばっかだなw唯一の言える点は文章中、「雪歩」と「彼女」が混在してたのが気になったかな、と。ただ読むのには全く苦にならなかったし、同じ表現を使わないようにする処置なら正解なんでしょうか。
何にせよ、雨晴Pの本気を見ました。上の方も言っているように、自分も雨晴Pはこのスレの注目株だと思ってます。是非ともまた素敵な雨晴ワールドを読ませて下さい。
188:創る名無しに見る名無し
09/06/03 00:09:56 2PeCZdrM
おっと諸君、「なんだか急に過疎ったな」とか言う暇があったら雑談しようぜ。長文で。
だがその前にとりあえず、貴音さまに恐ろしい目に遭わされないうちに大遅刻で1本。
>>185
もらった。
『カザフネ』、本文3レスお借りします。
189:カザフネ(1/3)
09/06/03 00:10:51 2PeCZdrM
四条貴音の765プロ・デビューイベントはあいにくの空模様となってしまった。
新人アイドルとして再スタートを切ったのは遊園地の野外ステージで、こういう場所柄と
今シーズンのプロデュース方針『歌のお姉さん』を考慮した風船つきの観覧チケットも
傘の下で窮屈そうだ。
貴音の髪とお揃いの銀色の円盤風船。晴れた日であれば太陽の光を反射し、さぞきらびやか
であろうそれらも、雨天の地上では雨雲の手先であるかのようなくすんだ色に見えた。
「ラストソングか、もう一息だな」
「はい」
「せっかくの再デビューなのに雨とはついてなかったな」
俺はタオルを被った貴音に声をかけた。
「こんなことなら狭くても屋根のあるイベント広場にするんだったよ、すまなかった」
「プロデューサー殿、雨の中でさえ新人のわたくしに会いに来てくださる方がこれだけ
いらっしゃいました。もし狭い方のステージを手配なさっていたなら、あなた様はやはり
わたくしに頭を下げたと思いますわ」
「う」
柔らかな笑顔で言い返され、俺はぐうの音も出ない。
「それに、雨はもう止みます。ファンの皆様は満足して帰途につかれることでしょう」
「……俺にはそうは見えないが?」
貴音はそう言ってタオルを俺によこしたが、彼女に釣られて見上げる空には雨雲以外の
なんの兆候も見られなかった。
「雨は地上に潤いをもたらしますが、地にはいずれ光の恵みも必要となります。そうあれかし
と願えばそうあるように、雨は空からではなく、雲から降るのですよ」
「雲から、ね。そうだな、ひと風吹けば天気も変わるか」
「しからば、行ってまいります」
「うん、頑張れ」
こちらが地なのか前の事務所にいた頃よりは物腰こそ柔らかいものの、相変わらず難解な
言い回しを残して貴音は舞台のステップを上って行き、やがて軽快な伴奏が彼女を包んでゆく。
例の車のCMソング、そして前シーズンのラストシングル『フラワーガール』を聴き、高木社長は
貴音を低年齢層に売り込むアイデアをぶち上げた。プロジェクトフェアリー3人をセットで売るなら
クール&ミステリアスは強力な武器だが、一人のアイドルとしてはその甘い声質と優しいトーンを
前面に押し出して損はない。包容力のある物腰や謎含みの微笑は、あずささんややよいとは
別次元の癒しを小さなファンに与えられると判断したのである。
「さあ、みなさま」
貴音は声を張り上げた。マイクの力を借りているとはいえ、あのアルカイックスマイルの
ままでよくあれほど声が通るものだ。
「御難をおかけした宴も残された時間は僅かです。天を仰げば芳醇たるしたたり、地には民、
時はいずれ風を呼び雲を払い、皆様のこうべはまもなくまばゆき光をいただくこととなり
ましょう。いざゆかん、蒼空の彼方へ」
貴音のMC―口上と言った方がそれらしいか―はステージの最初からずっとこうだった。
保護者の顔には終始?マークが浮かんでいたが、子供たちは大喜びである。わあっ、と
歓声を上げると、親の傘から飛び出して行ってステージ下に集まってくる。雨は続いて
いるが、傘をささなくてもなんとか我慢できる……そんな微妙な頃合で、親たちも強くは
子供を叱責できずにいた。
揃いの銀色の風船を持ち、熱に浮かされたような喜びの表情で続々舞台を目指す姿は
さながらちょっとした宗教団体、貴音は教祖、子供たちは信徒……とそこまで考え、
アイドルとは偶像の意であったといまさら思い出した。彼女は間違っていない。
「時は今、この地この舞台にてみなさまは大いなる喜びに包まれるでしょう。わたくしと
ともに集い、歌い、踊り、その心を合わせれば願いは聞き届けられるのです」
それに、貴音は実は難しいことを言っているわけではない。普通の歌のお姉さんなら、
『さあ、みんなで一緒に歌って、雨雲なんか吹き飛ばしちゃおう!』とかいうレベルの文脈だ。
190:カザフネ(2/3)
09/06/03 00:11:43 2PeCZdrM
考えてみれば、言葉遣いがどうのこうのと感じるのは大人になって常識を身につけてから
の話であって、子供にとっては貴音の言葉は魔法の呪文のようなものなのだろう。現に人気の
あるアニメなどにも、古めかしい言葉遣いのキャラクターは度々現れるではないか。
「いざ、今日の日を送る歌を捧げましょう。明くる日へ繋ぐ言の葉を、只今より呼ぶ風に
乗せて宙天へ掲げましょう」
他の子供番組で下品な言葉を憶え、そこらで言い回られるよりはマシだと思う親もいる
だろう。朗々と語られる貴音の祝詞はやがて、伴奏に乗った歌詞へと移り変わっていった。
もはや子供たちは大半がステージ前に集まり、雨乞いならぬ言わば陽乞いの巫女となった
貴音のすぐ傍で一緒に踊っている。親たちも、ならばということかその傘をたたむ者すら
出ていた。多くの『信徒』に見守られ、踊る貴音には雨など障害にはならず、いやむしろ
雨粒のフィルターを通した彼女はまるで、宙を舞っているかのようだった。
その時、舞台袖の俺の目に、一人の少年の手元から風船が飛び立つのが映った。応援に
熱が入り、手元がおろそかになったのだろうか。あっ、とか声を出したようだがここまでは
聞こえない。
銀の円盤風船は貴音の視線を一瞬さえぎり、そのまま天に向かって浮かび上がる。貴音が
それに一瞥をくれるのがわかった。
ステージが途切れる、と思ったが、そうはならなかった。彼女は気を逸らしたのではない、
きっと―あとで思えば、であるが―そのタイミングを狙い済ましていたのだろう。
歌いながら、本来のステップにない動きで右手を大きく上に振り上げたのだ。
すると、突如。
轟、という音ともに強い風が舞台を襲った。
まるで風すら貴音のファンであるかのように……遊園地内でも開けた場所にある野外
ステージの後方から、ステージに向けて空気の奔流が押し寄せた。視界の端で、コンサートの
立て看板がひらめき倒れる。
突然のことで観客も動きを止めたが、貴音は歌をやめない。そうしてその一瞬の暴風は……。
……観客の手の風船を奪い取って空へと巻き上げた。
子供たちが一斉に空を見上げる。手を離さなかった者も多いが、何十もの銀色の風船が
ライブのクライマックスで打ち上げられる紙吹雪のように、一気に天空へ舞ってゆく。
「……あ、晴れた!」
子供の声で我に返る。嬉しそうなその声はステージのほど近くから、やがてあちこちから
聞こえ、一緒になって上を見る俺の目を陽光が射た。
いまの風が、雨雲を吹き流していた。
雲の裂け目はどんどん広がってゆき、そこから真っ青な晴天と太陽、そして小さくなって
ゆく幾十もの銀風船。さながら気球か飛行船のようで、自ら風をまとったしろがねの船団が
重い雲を押しのけて行ったかのような風景だった。
やがて歌が終わり、音楽が止まる。
深々と頭を下げる貴音に拍手を惜しむ者は、一人としていなかった。
「よろしかったですね。まことに晴天に相まみえました」
人気の途絶えたステージで、がらんとした客席を眺めながら貴音が言う。帰社する前に
もう一度見ておきたいと請われたのだ。彼女の片手には、配りあまった銀色の風船が揺れて
いる。どうやら気に入ったらしい。
「あの風と太陽と、客の熱気と連続アンコールでみんなの服もすっかり乾いたしな」
「僥倖でございました。プロデューサー殿の運巡りは素晴らしいものですね」
「そうかな」
「わたくしを再びトップへいざなうお方です。このくらいでなければなりません」
191:カザフネ(3/3)
09/06/03 00:12:28 2PeCZdrM
蒸し暑い日に時折起こる小規模な竜巻が、たまたま空気の吹き溜まりとなるステージ周辺
で急激に発生した……遊園地の古手のスタッフはそう考え、俺たちもそれを納得することに
した。興行者としては、ともかく怪我人が出なければ万事飲み込む覚悟でもある。
「前の事務所のアプローチとはずいぶん違うぞ。お前はついて来られるのかな?貴音」
「あなた様とともにならば、いずこへなりと」
相変わらずの落ちついた笑顔で、新聞記者にはうっかり聞かせられないような決意を口に
する彼女に、半ば無理やり話題を変えた。
「さっきの風、すごかったな」
「さようですね」
「風船、すなわち『風の船』だ。……実は竜巻を呼ぶ力でもあるのかね」
「そうかもしれません」
「どっちにだい?風船に?貴音に?」
「……」
我ながら小賢しいヒッカケに、貴音がこちらを見据える。笑顔を崩す気配はない。
「あなた様はどちらをお好みですか?奇跡を待つのと……起こすのと」
まっすぐ立って小首をかしげる姿はどこをどう取ってもただの美少女で、このような
計り知れないことを口にするとは到底思えなかった。
正直言って、かなう気がしない。このまま純粋なファン、いっそ子供たちのように信者に
でもなってしまえば楽だろうとさえ思う。
「俺は奇跡がどんなものかよくわからないが」
そこをなんとかプロデューサーの威厳をかき集め、一言だけ言い返した。
「どうせなら奇跡じゃなく、実力で獲りに行きたいって思わないか?」
「……そうですね」
少し考えて、貴音は言った。笑顔は相変わらずだが、気のせいかその唇の三日月がほんの
僅か、丸くなったように思えた。
「わたくしも、さようにいたしたいと存じます」
「ありがたいよ。利害が一致したところで、帰るか?」
「はい」
内心胸をなでおろし、彼女の先に立って歩き出す。ともあれ、今日のイベントは成功だ。
ちょっとした超常現象も話題になるだろう。
「まあ、なにはともあれ『終わりよければすべてよし』だな。いろいろ起きてファンには
楽しいイベントだったろうな」
「力を尽くした甲斐がありました」
そこで俺は、貴音を振り返った。
「どっちがだろう?風船が?貴音が?」
「……」
彼女は立ち止まり、風船とまるで顔を見合わせるようにしている。しばらく見つめ、おかしそうに
笑みをこぼして風船を宙に放した。
「わたくし、ということにしておいて構わないそうですわ」
空を目で追う俺に、彼女は言う。
「これで、かのできごとは奇跡ではなく実力だったということになりますね?プロデューサー殿」
「……了解」
俺の視線を引っ張りながら、風の船は悠々と空の彼方へ昇り、消えていった。
おわり
192:カザフネ(あとがき)
09/06/03 00:17:30 2PeCZdrM
これで全員っと。さすがに最後までネタが降りてこないだけあって難物です貴音さま。
貴音ってゲーム上のふるまいでも二重人格気味なので解釈に思案しているのですが、
765編入後っつうことでこのような折衷案で考えてみました。
書いてて面白くなってきました。公式でもう少し踏み込んで欲しいですね、貴音も響も。
おそまつさま。レシPでした。
193:創る名無しに見る名無し
09/06/03 00:29:25 Lgr7IGnW
乙!!
貴音っていいね、口調が怪しげだけどどこか上品さを感じさせるそんな感じ
SPキャラもいいキャラばかりじゃあないか
194:創る名無しに見る名無し
09/06/03 00:59:46 4bJaJrG2
DS新キャラ3人が出てきたことだし、SPキャラの響・貴音はもっと公式的にも売りだして欲しい……
そう思っていた矢先の新作>>189-192大変GJでした。
ただ、ひとつだけちょっと「ん?」って引っかかった点があるので指摘ご容赦を。
“銀色の円盤風船”=フィルムバルーンをさしているのではと思うのですが
フィルムバルーンはゴム風船とはちがい、自然界で生分解されないため、
一般には飛ばさないよう注意されている代物のようです。
(ゴム風船=原料:天然ゴム 時間の経過とともに光や水分で生分解が起きる)
(フィルムバルーン=原料:ポリエチレン・ナイロンフィルム+アルミニウム処理
自然界で分解されない・電気を通すため電線架線付近は一層キケン)
ミステリアスな銀色の王女、もしかしたら遠い星からロケットでやってきたかもしれない
アイドルの貴音……とくれば銀色の円盤風船は正にぴったりなモチーフ。曇天から一転、
陽光のもと一斉に飛び立つ景観はさぞかし素敵なものに映りそうです。
ただ一応、風船業界のお偉いさんたちからすると、
飛んで行った後も分解されない=ゴミ投棄 に該当するもののようですので
拝読したあとその点だけちょっと引っかかったかなー、と思う次第です。
流れ的には非常に好みでした。お姫ちんの不思議さ、素直さ、子供からの素直なアプローチ等、
読んでいて心が温まりました。これで13人コンプリートですね。お見事!
195:創る名無しに見る名無し
09/06/03 01:57:11 Z2rZjJv+
>>192
過疎?いえいえ、みんな新情報を噛み砕いたり、ツアーとか風船祭りの余韻に浸ったりして
ちょっとまったりしてるだけだよなあ?w
てか、このスレの過疎を今は信じませんぜ。どうせ面白そうなことあらば次から次に這い出てくるんだから
で、宿題の貴音さん。ふむむ・・・うんあわてることはないないだなーと
歌のお姉さん、というか善き魔女のお姉さんって感じですね。子ども向けかというとやっぱり
多少は首を傾げる部分はありますが、偶然か必然か、すこしふしぎ濃度の高さでは随一とあって
これはこれで面白い方向性かもしれず。天へ帰る浮き船の一団は遊園地の宇宙もののアトラクション
にさえ願いを託したりなんかしちゃう貴音にはどういう風に映ったのか、なんて思うとそれはそれで
面白げだし、子どもの方に焦点を合わせて姫将軍貴音と小さな騎士団なんてのも画的になんというか、
こうちょっと、そそるものがありそうな・・・
激突!貴音騎士団対双海忍軍・ちびっこキャンプ夏の陣・・・思いつきで言った。もちろんなにも考えはない!w
逆にズレきって子どもをどう扱っていいかわからない貴音もそれはそれでよさげですが
まあそれは別の機会にでもとっておくとして。
ここで臣民を従えつつ空を征く船団、というのはイメージとしても新しく、まだまだ
掘り下げる余地が残っていることを再確認してみたり。
いわゆるアルミフィルムの問題は確かに残るわけですが、今回ばかりは絵的な美しさに免じて
本当にソラノカナタに届いてしまったと、そう思ってご容赦ということでw
貴音のプロモーションで使うなら、やっぱりこっちを使いたいもんねえ・・・
196:創る名無しに見る名無し
09/06/04 04:16:23 7VfV1oPO
うわははは(汗)さすがに諸手を上げてとは行き難かったかw
感想ありがとうございます。
風船飛ばし=ゴミ投棄は事前にちょっと調べて……涙を飲んで無視することにしましたwww
だってだって青空に飛んでゆく風船群描きたかったんだよう。
現在は生分解素材のグレーの風船があるので、なんかチョー最新技術でおなじく生分解性の
メタリック塗料が発明されたとかそのへんでご容赦を平に、平にっ。
実際んとこ土に還ろうがゴミ投げ捨てと同義なので、『能動的に風船を飛ばすイベント』は
昨今は難しいようですね。本作でも飛ばしたのはあくまで自然現象による事故ってテイです。
>>193
あの時代錯誤な丁寧さは貴音の強力な個性に繋がっていると思います。プロデュースできる
ようになってP相手にデレてもいいけど、あのワケワカンナイズムはずっと持っていて欲しいですね。
>>194
風船はまあそんなトコですんません。もしあなたも「風船業界のお偉いさん」のお一人なの
でしたら今後は環境に配慮したSSを書くよう努力する所存でございますのでむにゃむにゃ。
>13人コンプリート
……3人増えちゃったんですけど……だ、誰か……(俺?さすがにもう㍉)。
>>195
>次から次に這い出て
ヒトを庭石の下の虫みたいにw 否定できないけどwww
善き魔女とはいい表現ですね。実際書いてて思ったんですがデュオやトリオなど『パーティの
一員』としてならこのキャラ、ありなんじゃないかしらん。ちょっと楽しかったもん。
さーて、6月に入りましたよ諸君。
・律ちゃん誕生日
・新キャラ愛ちゃんも誕生日
・父の日
・梅雨入り
次なるネタはなんじゃらほい。ではまた。
197:創る名無しに見る名無し
09/06/06 14:41:57 T4NwSr5h
> 過疎
いやいや、俺の場合、単にDSショックから立ち直れなかっただけだったりw
ようやく関連スレに目を通せるまでに復活してきた。
リハビリ代わりに感想でもw
>>182
雪歩とPと、同じ言葉を使った対比表現の遊び方が非常にいい感じです。
気になったのは、Pの台詞が優しすぎないかなあ、というところ。
「どうしたの」「行ってたね」あたり、原作のPなら「どうした」「行ってたな」かな、と。
まあ、これは作品独自世界観か、と理解しました。
個人的には、雪歩をいじめ気味な原作中のPとのやり取りが好きなものでw
>>192
貴音のミステリアス感満載のGJ!
なるほど、貴音は自分の浮世離れを現世とどう折り合わせるかに悩んでいたけど、
とうとう完全に開き直って浮世離れを売り物にしましたか。
・・・しかし、やはりそこに違和感がw
貴音はもう少し、自分と現世とのギャップに悩んで欲しいですw
198: ◆bwwrQCbtp.
09/06/06 22:18:40 WvZCJqGn
さて、終わったはずの祭りの後にしつこく風船ネタをもう一本。
本文1レスで。
「夢見る少女」
199:夢見る少女
09/06/06 22:23:38 WvZCJqGn
「プロデューサーさん、おつかれさまです。」
「あ、小鳥さん、片付けおつかれさまでした。もうほとんど終わりましたかね?」
「ええ。ところで、春香ちゃん達は?」
「春香もやよいも、遊園地で遊んで行く気まんまんだったんですけど、控え室を出たところで、たまたまいた
ファンの人たちに囲まれちゃって、なんとか抜け出したところで、そのまま帰しました。」
「そうですか。二人とも終わった後も楽しみにしていたみたいなのに、ちょっと可哀想ですね。」
「まあ仕方ないですよ。じゃあ、我々も引き上げましょうか。」
「そうしましょう・・・あら?あの男の子は?」
小鳥さんの言う方を見ると、小さな男の子が泣いていた。ちょうど今泣き始めたところという感じである。
と、その真上を風船が空に舞い上がって行くではないか。
「あ、さっきのイベントで配った風船か!」
「ああ・・・これは、風船を配る企画をしたプロデューサーさんが、責任を取らないといけませんね。」
「責任・・・ですか?」
「はい。さあ、プロデューサーさんは、どうやってあの子を泣き止ませるんでしょう?ワクワクしますね。」
俺は直感した。小鳥さんがこういう言い方をする時は、すでに解答を用意してあるに違いない。
さもなくば、むしろオタオタわたわたするのは彼女の役回りなのだから。
「・・・降参です。風船も、もう全部撤収しちゃいましたし、俺には打つ手が見つかりません。」
「あら?今日はあきらめが早いんですね。仕方ないですね、明日のランチ、おごりですよ。」
そう言うと、小鳥さんは裏にまわって、黄色い風船を一つ、手に持って来た。
「そんなことだろうと思いましたよ。」
「うふふ、ランチ、約束ですよ。この風船は、私が自分で持って帰ろうと思って取っておいたんですから。」
「へえ、小鳥さん、年甲斐も無く風船を持って帰るなんて子供じみた真似をしようと思ってたんですか?」
「何か言いましたか?」
「いえ、何も。じゃあ、早速あの子に風船を渡しに行きましょう!!」
俺たちは、泣いている男の子に歩み寄った。
「坊や、どうして泣いてるの?」
「ひっく・・・ふうせん・・・ふうせんがとんでっちゃったの・・・」
「そうなの?その風船、坊やは誰にもらったの?」
「あまみはるか!」
「あら、よく覚えてるわね。坊やは、春香ちゃんのこと、好き?」
「うん!」
「そうなんだ。じゃあ、これからも春香ちゃんのこと、応援してくれるなら、この風船をあげちゃいますよ。」
「ほんとう?!」
「約束してくれるかな?」
「うん、おうえんする!」
「ありがとうね。じゃあ、はい。今度は飛ばさないようにね。」
「うん、ありがとう!じゃあね、バイバイ、おばちゃん!!」
「お・・・おば・・・?!」
子供は、時に残酷なまでに素直だ。
おっとあぶない、今の感想も、あやうく口に出すところだったじゃないか。
「おばちゃん・・・おばちゃんか・・・はあ、子供にはそう見えるわよね・・・」
今度はこっちが泣き出さんばかりだ。やれやれ。
「小鳥さん、俺には、夢があるんですよ。」
「えっ?!」
「俺の手で、トップアイドルを育て上げる、という夢が。」
「は、はあ・・・」
「ほら、よく言うじゃないですか。夢を追いかけている男は、いつでも少年だ、って。女の人も同じじゃない
ですかね?小鳥さんにも、夢があるでしょう?」
「あ、はい!そうですね。うちの女の子たちに、トップアイドルになってもらうって夢があります。」
「じゃあ、小鳥さんも未だに少女と言えますね。」
「そうですよね!でも、このままじゃ夢見るまま本当のおばちゃんになっちゃいますから、プロデューサーさん
には本気で頑張ってもらわないと。」
「いや、それはもうすでに手遅r
「お願いしますね!!」
「頑張ります!ええ、それはもう頑張りますとも!」
200: ◆bwwrQCbtp.
09/06/06 22:30:20 WvZCJqGn
いや、まだ風船祭りに登場してない人いるじゃん、でも誰か書くだろうな、
しかし、まだ出てこないな、もう終わっちゃうんじゃない?
あれ?本当に終わっちゃう?じゃあ俺が書くか?
と思い立ってから、はや2週間。
その間も、誰か書くんじゃないか、とおびえつつも期待しつつおりました。
生来の遅筆につき、ようやく出来ましたので、遅ればせながら。
201:創る名無しに見る名無し
09/06/07 03:06:33 32Y3mMnP
>>200
来ましたねえ、残りあずささんだけ?
いやいやまだ少なくとも3人いる、の残り、そして想定内では最後の一人がw
基本に忠実なお姉さん振りが堂に入ってますw
「誰にもらったの?」 「あまみはるか!」 のやりとりがうまく言えないんですがなんかツボ
その一方で前後の会話文の連なりにもう少し緩急というかメリハリが欲しいかなとも
今ひとつ具体性の欠けた話で申し訳ないのですが
オチについてはベタなとこではありますが、だがそれがいいw
で、エンディングには歌道場から「夢見る少女じゃいられない」を引っ張ってきたいとこですなw
ζ*'ワ')ζ<あうっ