コードギアス反逆のルルーシュLOST COLORS SSスレ38at MITEMITE
コードギアス反逆のルルーシュLOST COLORS SSスレ38 - 暇つぶし2ch372:蒼い鴉 ◆F.9o83kBbA
09/03/25 01:55:41 8Ipk7wAM
喧嘩などを好まないライは少し呆れたように言いながらラウンジに入ると二人の口論はハタと止まった。他は各々の事をしている。
カレンと神楽耶の言い争いは何も今回が初めてというわけではない、神楽耶がアジトにちょこちょこと視察に来るようになってから二人の口論が聞こえてくるようになり、ライが二

人がいる部屋に近づこうとすると、口論はピタリと止むのでライは原因が分からずじまいなのであった。

「ライ!」

「ライ、丁度良いところに来ました。答えてもらいたいことがあるのです、キチンと答えてくださいまし!」

神楽耶の言葉からして、どうやら二人の話題はライの事で持ち越しているようだ。

「え?何で?それにしても、二人とも何を喧嘩しているんだ…カレン、何があったんだ?」

神楽耶の気迫にやや圧されながらもライは疑問の声をカレンに言いながらは二人の下に歩み寄る。

「私じゃない、彼女が……」

「私ではありませんわ、彼女からです」

そう言うと、二人は互いに指を指し合う。
そんな二人の言葉はほったらかにしてライは頭を掻きながら、他の傍観者に何かを求める視線を向けた。
しかし、その傍観者達は一人としてライと目を合わせようとしなかった。
一瞬、疑問符を浮かべたがすぐに取り払った。仕方無しに次は二人に訊いてみる事にした。

「……で、何が原因なんだ?」

「その前に、ライ。私の質問に答えてくれる?」

「ん?……別にいいけど」

それを聞いて、安心したのか。二人は深呼吸のような事をしている。
そして、二人同時に

373:創る名無しに見る名無し
09/03/25 01:56:46 Cj6dy5Bf
しえん

374:蒼い鴉 ◆F.9o83kBbA
09/03/25 01:56:46 8Ipk7wAM
「ねぇライ、神楽耶様と私どっちが好き?」

「私とカレンさん、どちらのことが好きですの?」

「はぃ?」

妙な問いに素っ頓狂な声をあげるライ。思わず、吹き出しそうになったが何とか留める。
ライの頭の中には、冗談という言葉が漂っていたが二人は至って真剣な眼差しをしてライからの返答を待っている。
どうやら、冗談ではないらしい。突然のことに頭を掻くライ。
詰め寄ってくる二人。

「ねぇ?」

「どっち?」

少し後ろにたじろぐ。周りは、何気にそば耳立ててその様子を窺っていたりする

「ど、どっちも好……」

ちょっと苦しげに答える。

「ダメです!どっちかです!どちらもでも、はダメ!」

まさに一刀両断。神楽耶に即答された。
横でカレンも首を縦に振っている。

「どっちかといわれても……」

このままどっちと言ってもまた五月蝿いことになることは明々白々。
片方を選んだら、もう片方とは必ず浅からぬ溝が出来上がる。唯一の逃げ道である両方を選ぶという選択肢もあっさりと断たれた。
頭の中で格闘するライ。
待ちわびるカレンと神楽耶。
そして、これを見届ける傍観者達。

「………どちらかというと…」

「「どちらかというと…?」」

固唾を飲んでその答えを待つ二人。

「…強いて言えば………」

「「強いて言えば…?」」

(((((強いて言えば・・・?)))))

375:創る名無しに見る名無し
09/03/25 01:57:34 Cj6dy5Bf
しえん

376:蒼い鴉 ◆F.9o83kBbA
09/03/25 01:58:15 8Ipk7wAM
心の中で反芻させる傍観者達。
そんなことを知らないライ達。
すると、突然歩みだすライ。
いろんな期待をしているカレンと神楽耶を素通りして周りに居た六人の内の一人の腕を掴んだ。

そして…

「強いて言えば、C.C.かな」

沈黙がラウンジの中の空間を支配した。

「「「「「「「「「何ィぃぃぃっっ!?」」」」」」」」」

全員が一斉に声を上げる。

先ほどまで見て見ぬフリをしつつ、そば耳を立てていた者達は凄い勢いでC.C.の方を振り向き、当の本人はピザのチーズをトロリと垂らしながら何が起きたと目をパチクリとさせて

いる。
カレンと神楽耶に関しては凄い落ち込みようであった。

「そ、そんな訳だから、少しC.C.を借りる」

二人の落ち込みように居たたまれなくなったライはC.C.の腕を引いてラウンジから出て言った、というよりも寧ろ逃げていった。
ラウンジに残された者達は微妙な心境をもたらしてくれた銀髪の少年に対して不満の声を漏らした。
ラウンジを出たライはC.C.を連れて格納庫に出た。
適当な座り場所を見つけると二人はそこに腰を下ろした。手を組んで頭の後ろに回して仰向けになった。
緑色の髪が見える。横にいるC.C.は連れ出される時に一緒に持っていたピザの蓋を開けて様々な具が乗ったピザの一切れを口の中に運ぶ。
黙って食べるその姿を見てライは言葉を紡ぎ出す。

「C.C.すまないな、巻き込んで……あの2人は何を考えているんだ?」

「別に構わん。少し、驚かされたが、先程の言葉が嘘だろうがお前を好む気持ちは変わらん」

「そう、よかった。僕のことが……」

 …………………………

377:創る名無しに見る名無し
09/03/25 01:59:13 Cj6dy5Bf
しえん

378:蒼い鴉 ◆F.9o83kBbA
09/03/25 01:59:47 8Ipk7wAM
何だって?

沈黙が流れる。目を見開いてC.C.を見つめる。
少し間があった後、いきなり起き上がった。

「C.C.……今、なんて?」

聞き返すライ。それを、呆れ顔で返すC.C.は食べかけのピザを箱に戻すと四つんばいの状態で近寄る。

「お前の事が好きだと言った」

近くに迫ったC.C.の顔からは悪意は感じない。少なくともライをからかおうとしている訳ではないらしい。
ライは至近距離にあるC.C.の顔を直視して顔が赤くなる。

「お前は私の事が嫌いか?」

微妙に動揺するライ。赤くなった頬を掻いて、現状把握に脳を精一杯使っている

「いや、俺もC.C.のことは……その、好きだ、嘘ではないし、特別な意味で好きだ。けど、C.C.の言う『好き』はどういう………」

顔を少し俯かせ、顔を赤らめながら言う姿は普段のライからは想像できない一面だった。

「……これが答えだ」

それを聞いて、不意にライは顔を上げると先程よりもC.C.の顔が迫っていた。
いつの間にと思って驚いていると、唇に柔らかい感触が、いの一番に伝わってくる。
それは触れる程度の軽い、優しいキス。
四つんばいの状態だったC.C.は食べかけのピザをライの口に放り込むとそのまま立ち上がり、格納庫の出口へ向かう。
依然、ライは驚いたままで、殆ど放心状態だ。

379:蒼い鴉 ◆F.9o83kBbA
09/03/25 02:00:40 8Ipk7wAM

「あぁ、そうだ。ライ」

呼ばれてはっと我に戻る。
C.C.の方を見るともうすでに格納庫を出るところだった。

「な、何だ???」

取り敢えず、返答するライ。口の中に放り込まれたピザが落ちそうになったので慌てて戻す。

「私のピザを食べたんだ。明日、学校の帰りに付き合え、いいな?」

そう言うとC.C.は普段見せない微笑みを浮かべて格納庫から姿を消した。

「……今のは、デートの約束……?って考えて良いのかな」

咥えてたピザが目に写り、それを一口食べる。チーズの風味と具材の持つ味が口の中に広がる。
それの一切れがつい数分前までC.C.が食していた物と知ると、収まりかけた熱さが再び沸き上がる。
辺りに人が集まりだし、KMFを整備する技術者達の声が聞こえてくる。

(こんな日もあり、か………)

そんなことを思いながらライはC.C.の後を追って格納庫から出て行った。

明日からは今までと違う日が始まる

今までと少し違う”いつも”が始まる

そんな気がしてならない………

その後、ラウンジに戻ったC.C.は、意気投合した神楽耶とカレンに追われたとか追われなかったとか。

380:創る名無しに見る名無し
09/03/25 02:00:42 Cj6dy5Bf
しえん


381:蒼い鴉 ◆F.9o83kBbA
09/03/25 02:01:43 8Ipk7wAM
以上で投下終了です。
支援してくださった方々誠に有難う御座いました。

382:創る名無しに見る名無し
09/03/25 08:16:16 PgzC4zoU
このあとライがどうなったのか非常に気になるw
gjです!

383:創る名無しに見る名無し
09/03/25 12:15:01 wCQ7MiTg
>>381
蒼い鴉卿、GJでした!
二択を三択に増やす男、ライ、どちらかというと、から第三者選ぶとかw
いいね、C.C. その選択、イエスだね。
両想いとか……いいね!
貴公の次の投下を全力を挙げてお待ちしております!

384:創る名無しに見る名無し
09/03/25 13:01:43 Cj6dy5Bf
>>381
いやぁ、選択肢が増えても驚けない所がライですねww
面白く読ませていただきました。
しかし、この場合、C.Cよりもライの方に矛先が向きそうな気がしたのは僕だけだろうか…。
うーん、ある意味、被害妄想気味なのかもしれないwwww
次回も期待してお待ちしております。


385:あしっど・れいん ◆M21AkfQGck
09/03/25 13:14:00 Cj6dy5Bf
こんにちわ。
ライシャリ初めて書きました。
ファンは、笑って許して……。

タイトル アッシュフォード学園のお弁当事情  シャーリー編
カップリング ライ×シャーリー
ジャンル お弁当事情(笑

では、投下します。


386:あしっど・れいん ◆M21AkfQGck
09/03/25 13:14:44 Cj6dy5Bf
アッシュフォード学園のお弁当事情 シャーリー編


「はいっ、ライ。お弁当っ」
シャーリーがにこにこと笑顔で僕に包みを渡す。
「えっと……。これシャーリーが作ったの?」
恐る恐る聞いてみる。
彼女の料理下手は、いろんな人から聞いている。
その矛先がこっちに向く日が来るとは……。
「ひどいなぁーっ」
そう言って膨れるシャーリー。
慌てて僕は謝る。
「ご、ごめんっ……」
でも、そんな僕をいたずらっ子を叱るお母さんのようにおでこを突付くと笑い出す。
「大丈夫だよ。市販のものが多いし……。それに……」
思わずそこで言葉を切られて、思わず聞きなおす。
「それに…?」
「カレンに手伝ってもらっちゃった。あはははは……」
その言葉でさっき見かけたカレンの様子が頭に浮かんだ。
もしかして、さっきカレンがすっごい疲れたような顔でヘタってたのは……。
そうか、そういう事か。
ありがとう、カレン。
おかげで食べれそうな目処が立ったよ。
思わず、カレンを拝みたくなった。
「あ、だけど一つだけ自力で作ったのが入っているんだ。わかるかなぁ~?」
ニコニコしながら聞いてくる。
えっ……。
すーっと背筋が冷たい汗で濡れる。
こ、これはどうすればいいんだろう。
多分……一発で判る気がする。
いろんな意味で……。
ここは、素直に言った方がいいのだろうか…。
それとも……。
「もう、どうしたのよっ、固まって。さぁ、開けてみて~」
ううっ…どうしょう……。
言われるまま、包みを開けてランチボックスを開けた。

387:あしっど・れいん ◆M21AkfQGck
09/03/25 13:15:25 Cj6dy5Bf
そこには綺麗に盛り付けられたおかずにサンドイッチが入っていた。
見た目で一発でわかると思っていた僕の考えは完全に外れてしまった。
うっ…。
これは予想外だ。
どうする……。
どうするよ、僕……。
地雷は、完全にカモフラージュされているぞ。
そう考えていたら、どうもシャーリーの様子もおかしい。
お弁当の中身を見て、僕と同じように動きが固まっている。
「ど、どうしたのかな……、シャーリー」
思わず声をかけてしまう。
すると慌てて我に返るシャーリー。
「あ、ううん、な、なんでもないよ。の、飲み物は、紅茶でいいよね?」
「あ、うん。ありがとう」
いや、本当はどうでも良くはないんですが……。
無茶苦茶怪しすぎて気になって仕方ない。
でも……。
ええーーいっ、男は度胸だ。
僕は、意を決して食べ始めた。

そして、結局……全部食べてしまっていました。
なぜかって?
そりゃ、全部うまかったからさ。
うーーん、料理下手というのはガセだったのかなぁ。
そんな事を思いながら、どれがシャーリーが作ったものかわからないまま食べ終わってしまった僕は、仕方なくお茶を濁す事にした。
「クリームコロッケがシャーリー作かな」
一番出来のいいクリームコロッケを言っておく。
これで問題あるまい。
そんな事を思いながら……。
しかし、しばしの沈黙の後、誤魔化すように口を開くシャーリー。
「あ…、う、うんっ。よくわかったね」
そう答えると、さっさとランチボックスや水筒を片付け始める。
どうしたんだ?
疑問が頭の中を駆け巡ったが、そもそも何でそんな対応をしているのかわからない。
うーーん、女の子って難しいな。
結局、行き着いた結論はその程度だった。

そして、午後の授業を受けようと教室に戻ったら、なんか教室がざわついている。
「どうしたんだ?}
近くの男子生徒に聞いてみた。
「カレン・シュタットフェルトが倒れたんだって……」
「えっ…、カレンが?」
「うん。なんでも食事中に倒れて、今、病院に運ばれたらしいんだ。大丈夫かな?」
うーーん、今朝はお弁当の件でヘタっていたし……。
元々身体弱いからな、彼女は。
無理してまでお弁当つくりをサポートしてくれて本当にありがとう……。
そしてお大事に……。
僕は、真剣にそう思った。

ちゃんちゃん~♪

388:あしっど・れいん ◆M21AkfQGck
09/03/25 13:18:55 Cj6dy5Bf
以上で終わりです。

シリーズものを書くのに飽きるとこういうネタ系ばかり書いているような気がします。
いい加減、シリーズもの書き上げないといけないなぁ。
そういうわけで、次は、シリーズものでお会いしましょう。
では……。

389:創る名無しに見る名無し
09/03/25 16:10:35 wCQ7MiTg
>>388
あしっど・れいん卿、乙でした。
シャーリーが料理下手、カレンと一緒に作った、カレンが倒れた。
そして、ライが答えた後のシャーリーの行動。
これらのキーワードから導き出される答えは―
いや、待て。 待つんだ俺。
ライの推測が正しいという可能性もある。
またしても真実は闇の中、か……
貴公の次の投下を全力を挙げてお待ちしております!

390:創る名無しに見る名無し
09/03/25 22:09:53 SfYanQnC
ここの管理人さんへ
ここでは過去スレをそのまま保存しているみたいですけど、ライスレも一緒に保存してくれませんか
よろしくおねがいしますm(_ _)m

391:創る名無しに見る名無し
09/03/25 22:22:32 fTZyOhnh
>>338
こういう答えがわからないってSSもいいですね。
GJです!

392:創る名無しに見る名無し
09/03/26 00:30:11 RaShY9xK
サンドイッチってカレンのお弁当ぽいなあ、と思ったらこれだよ!
カレン、明らかに「違う」物体を前に食欲を抑えられなかったんでしょうか。
…もともと、どか弁食いだからなあ…

くすりとしました。乙です>388


393:創る名無しに見る名無し
09/03/26 12:12:18 J70PVfP6
あしっど・れいん卿、カレンの健気なさに感動しました。次の投下を楽しみにしています。

394:K.K.
09/03/26 23:11:29 vvJOgv/a
みなさんこんばんは。
前に投下した小説の方を修正しましたので、再び投下しようかと思います。

では

395:K.K.
09/03/26 23:14:24 vvJOgv/a
望んだ物とは少し違った形で手に入った平和
完全な形ではないが、争いは終わったのだ
ユーフェミア・リ・ブリタニアが宣言した『行政特区日本』は色々とあったが無事に成立し、
人々は一時期の平和を満喫していた








新しい歌












最近ライの様子がおかしい……

カレンは思った

あの神根島の一件以来、1人で悩んだり、何処と無く悲しい目をしている

その後の特区日本での一件……
血だらけで発見されたライはなんとか一命をとりとめた。
あの時はライが目覚めるまで生きた心地がしなかったのを今でも覚えている。
なんでああなったのか誰も知らないし、ライも教えてくれない。
恐らく知っているのはゼロだけだろう。

あの日に結ばれた二人は騎士団の双璧として活躍しながらも、ユーフェミアの計らいで学園に通っている。
付き合っていると言うことから二人は常に一緒にいる形となる。
一緒に授業を受け(同じクラスだから当たり前だが)、一緒にお弁当を食べ(ライの手作りだったりカレンの手作りだったり)、
一緒に生徒会の仕事をし(ミレイに弄られるのはいつもの事)、特区日本で仕事をしたりと……

だからこそか、カレンはライの微妙な変化に気付いたのだ
何か思い詰めたような表情、時々消えてしまいそうに見える彼……

カレンはそれを聞くことの出来ない自分に苛立っていた



396:K.K.
09/03/26 23:16:26 vvJOgv/a
そんなことを考えながら、カレンは自分の前に座っている銀髪の少年を見つめる。
その青紫の瞳を黙々と書類に目を通しているライ。今の彼は誰が見ても普通のライにしか見えない。
多分今この場にいる生徒会の誰もが見ても……

カレンの視線に気付いたのか、ライは書類から目を離し、カレンを見る。

「カレン、どうしたんだ?僕の顔に何かついてる?」

「あっ、ううん!何でもないの!」

カレンは慌てて自分の持っていた書類に目を落とした。

「ただ、愛しのカッコイイ彼氏の顔に看取れてただけよ~」

「ミッ、ミレイさん!!」

カレンの真似をするかの様に発言したミレイにカレンは顔を赤くして声を上げた。

「えっ、違うの?妙にライにあつ~い視線を送ってたからそうだと「違います!!」

人差し指を口元にあて、考えるような素振りを見せながら言うミレイに、顔の赤いままのカレンが机を叩いて怒鳴った。
カレンがむきになって怒鳴ったからか、その場にいる全員が驚いたようにカレンに目を向けている。

「もう、ミレイさんったら、からかわないで下さいよ~」

みんなの視線に気付き、カレンは縮まる様に席に座り、赤くなった顔を隠すように書類に目を通し始めた。
気になってライを見ると、彼は困ったように笑っていた。


397:K.K.
09/03/26 23:19:50 vvJOgv/a
「で、お前はどうなのよライ。」

「えっ?何が?」

「だから、何時どうやってカレンにコクったんだよ?」

「「えぇっ!?」」

ライとカレンは一気に赤くなる。

「きゅっ、急に…なにを……?」

「今まで誰一人として男に気を許さなかったカレンお嬢様。その心を彗星の如く現れ、そして奪っていった男ライ。
報道クラブが二人を記事にしてからいつから付き合い始めたのかって疑問が学園中至るところで飛び交ってるぜ。」

「あっ、私も気になる!二人とも気が付いたら付き合い始めてたもんね!」

リヴァルの出した話題にシャーリーも興味があるらしく、その話に食い付いた。

「いや~、あの時のカレン親衛隊は酷かったな。」

確かにあれは酷かった。

さりげなく話を聞いていたルルーシュはふと思う。報道クラブが二人が仲良くお弁当を食べている写真を撮って、さらに二人の仲を問いただした。
その時にライが肯定するような返事をしてしまったためにその記事でアッシュフォード学園が揺れたのだ。
カレン親衛隊やライのファンクラブが生徒会室にまで押し寄せ、事実を説きに来た。なんとか追い払ったものの、ライとカレンはミレイに尋問(?)され、その事実を認めたのだ。
だが肝心の「付き合い始めたのはいつか」は本人以外は知らない……とされている。

まぁ、俺は知ってるが…

ルルーシュは苦笑いを浮かべる。
特区日本設立後、傷だらけで発見されたライの様子を見に行ったら、二人がキスしているところを目撃してしまったのだ。
悪気があった訳ではない。ノックをしなかったのは悪かったが……(そのあと少しだけ気まずかった)



398:K.K.
09/03/26 23:22:22 vvJOgv/a
「リヴァル、いい加減に二人の仲を探るのは止めた方がいい。プライバシーの侵害だ。」

ルルーシュは困り果てた二人に助け船をだす。(あの時のせめてもの罪滅ぼしのつもりだ)

「えぇ~、お前は知りたくないのかよ?」

「残念だが、答えはYesだ。これは二人の問題だ。俺達が知る必要はない。
それよりお前は早く終わらせろ。後どれくらいかからせる気だ?」

「うっ……」

リヴァルは目の前の書類に目をやる。ルルーシュのと比べると明らかに多い。
リヴァルはぶつぶつとなにかを呟きながら書類に目を通し始めた。

「あら、ルルーシュったら二人を庇っちゃって。二人と何かあったの?」

「別に何もありませんよ。俺は早く終わらして帰りたいだけです。
今日はライと一緒に食事をする事になってますから。会長達がライに絡んで、ライが遅くなったら楽しみにしてるナナリーに迷惑だ。」

「むぅ。仕方ないわね。いいわ、いつか必ず聞いてやるから。
いずれ、「ミレイさん、ライさんを私に下さい!」ってカレンが言いにくるはずだから。その時に・・」

「「ミッ、ミレイさん!!」」

ライとカレンが顔を赤くする。

「会長、ライは男の子ですよ。どちらかと言ったらカレンが貰われる方ですよ。」

「スザク!」

スザクの言葉にカレンの顔がさらに赤くなった。
ルルーシュは再び騒ぎ出したみんなを見ながら眉間を押さえ溜め息をつく。

『これはまだまだかかるな…』



399:K.K.
09/03/26 23:24:20 vvJOgv/a

「ふぅ。やっと終わったわね。みんな、ご苦労様。今日の分はこれで終わりよ。」

「全く。もっと早くに終わったでしょう。」

ルルーシュが溜め息をもらしながら言った。

「お疲れ様。じゃあルルーシュ、また後で。」

「あぁ、待ってるぞ。」

ライはルルーシュに声をかけると生徒会室の扉へと向かう。
カレンはそれを目で追った。すると、ライは部屋を出る直前にカレンを見る。まるで合図を送るかのように…

カレンは自分の書類を置くと、「お疲れ様」と一言残してライの後を追った。





ライを追って屋上へやって来たカレン。
ドアを開けると、ライが手すりに寄りかかって空を見ていた。
太陽は既に西の空に沈み始めていて、空は赤く染まっていた。

「ライ?」

カレンが声をかけると、ライはゆっくりと振り返り「やぁ、カレン。」と微笑んだ。

「気付いてくれたんだね。」

「前に貴方も気付いてもらったものね。」

「そういえばそうだね、懐かしいな。」

ライはハハッと笑った。

「…で、どうしたの?」

カレンが聞く。
するとライは笑みを浮かべたまま黙ってしまった。
その目は、どこか曇って見えた。



400:K.K.
09/03/26 23:26:19 vvJOgv/a

ライは再び手すりに寄りかかって空を見上げる。

「話したい…事があるんだ。君に…」

「私に?」

「…あぁ。」

ライはそっと目を瞑る。吹き付ける風に銀色の髪が揺れた。

「実は………記憶が戻ったんだ…」

「………そう…なんだ…」

「…驚かないんだ。」

ライが驚いたように振り返る。

「ううん、驚いてる。けど……」

「けど?」

「なんとなくかな……?気が付いてた……」

カレンは胸に手を当てる。

「はっきりとはわからなかった。神根島の時から貴方の様子がおかしかったから、もしかしたらって思ったけど、
記憶が戻ったとしたら、ミレイさん達に話すだろうし、やっと戻ったんだから嬉しそうにするはずなのに……貴方はそうしなかった。
逆に思い詰めた顔をしたり、一人で悩んだりしてる。だから、違うのかなって思ったけど……」

「……」

ライは黙って聞いていた。ライも以前は話そうとしていた。記憶が戻ったら、真っ先に生徒会のみんなには話そうと……けど

「……話せないんだ。」

「えっ?」


401:K.K.
09/03/26 23:28:14 vvJOgv/a
ライは静かに話し出す。

「恐いんだ、話すのが……」

「……」

ライが微かに震えているのがカレンにはわかった。

「僕は……この時代の人間じゃない……僕は……昔のブリタニアの領辺国の皇子だったんだ…」

「!」

それからライは話し出した。自分の母親の事、妹の事、“力”の事、そして、国民全員を殺してしまったこと……

「!!」

カレンは驚きのあまりに口を押さえた。とても信じられた話ではない。
命令するだけで人を操れる力。その力のせいで国民全員が死んでしまうなんて……

「……すべて僕の我が儘が引き起こした事なんだ。
母上や妹を護るために兄を殺して、父上を殺して、邪魔するものはみんな殺して…
そして…結局はみんな殺してしまった……母上も、妹も、みんな………」

ライは自分の二の腕を強く握り締めた。

「だから僕は死を望んだ、全てに絶望したから……母上も妹もいない世界に意味はないから……
でも、僕は死ねなかった。契約があったから。だから……僕は眠りについた…二度と目覚めない筈の眠りに……」

カレンは声が出せなかった。出そうとしても、声が震えてしまう。早くしないと彼が消えてしまう……そう思った

「だけど、僕は目覚めた。目覚めてしまった!
目覚めさせられて、体を弄られて、実験されて……その時にはもう過去の事は覚えてなかった。自分の名前以外わからない。
なのに毎日実験の繰り返しが嫌だった。だから、僕は逃げた。逃げて逃げて逃げて……消えたかった……」


402:K.K.
09/03/26 23:32:19 vvJOgv/a
最後の言葉は掠れるように発され、消えるように響いた。
もう耐えられなかった。哀しすぎる……カレンは思った。
大切な人を自分のせいで失って、何もわからないのに嫌な事を繰り返されて……
ライは自分よりも何倍も辛い事を受けている。
そんな彼が本当に消えてしまいそうだった…

「でも、僕は……」

ライはゆっくりと顔を上げる。

「僕は、君達と出逢った。」

その顔は、“笑顔”だった。曇りのない、本物の笑顔……

「ミレイさん、ルルーシュ、スザク、ナナリー、シャーリー、リヴァル、ニーナ、そしてカレン。
君達と出逢って、君達と過ごして、君達と話して、笑って……僕は変わった。
最初は見えなかった色も、君達のお陰で見えるようになった。
世界はこんなに綺麗だったのに、見えなかったのを世界のせいにしてたんだ。
でも違う、僕が見ようとしてなかっただけだって気が付いたんだ。だから僕には今はっきり見える。この世界の色が……」

ライはカレンに近寄った。

「ありがとう。」

そう言って、そっとカレンの髪に指を通した。

「君がいてくれなかったら、今の僕はなかった…」

ライは目を細めた。
カレンはライの頬に手を伸ばす。今なら言える。自分の思いを



403:K.K.
09/03/26 23:33:11 vvJOgv/a
「……ライ。私は、あなたが過去の人でも、どんな罪を背負っていてもいいの……あなたはあなただから………」

「……」

ライはカレンの手に自分の手を重ねた。

「だからね、私は…何があっても貴方から離れない。ずっと傍にいる。
ずっと貴方を見てる。ずっと……貴方を愛してる…。」

ライはカレンの言葉に、只、頷いた。
そして、カレンの胸に顔を埋めた。

「!ちょっ、ライ!?」

カレンは急なライの行動に顔を赤らめた。

「ゴメン……もう少し…このまま………」

そう言うと、ライの体が微かに震えた。
カレンはそんなライを優しく抱き締め「大丈夫よ……」と、一言そう言った。

この言葉を待っていたのかも知れない。
カレンの温もりを感じながら、こういう言葉を言ってくれるのを期待していたんだろう。
今はこのまま何も見ないで、只カレンの胸の中で、夢を見たい

昔感じた母上とは違う温もり、違う鼓動……



何をどうして歌えばいいかわからない歌よりも



今聞こえてくる歌を歌おう


彼女から感じる柔らかな鼓動の中で、“新しい歌”がきっと生まれてくるから……




fin

404:K.K.
09/03/27 00:00:35 Gd8F7IcA
以上です。

「////」を消したり、少しセリフを増やしてみました。
どうですかね?

では前に投下し忘れていた後日談を投下したいと思います。

405:K.K.
09/03/27 00:02:54 Gd8F7IcA
ルルーシュに招待され、夕食をごちそうになったライ。
ナナリーやルルーシュと他愛のない話をして、楽しい時間を過ごした。

今は夕食も食べ終え、ルルーシュと一緒に皿洗いをしている。
最初はルルーシュは断ったが、ライがどうしてもと言うので手伝ってもらうことになった。

「……で、カレンには話したのか?」

ルルーシュがライに聞く。ルルーシュは何だかんだと言ってライとカレンの事を気にかけてくれている。
本人は「二人に何か支障があると、騎士団の士気に関わるからだ。」と言っているが、真意は彼にしかわからない。

「……うん、話したよ。」

ライの皿を洗う手が止まる。

「カレンがね、『あなたはあなただ』って言ってくれたんだ……
『ずっと傍にいてくれる、ずっと愛してくれる』って………嬉しかった。」

「…そうか。」

ライの言葉に、ルルーシュの手も止まる。

「最初は話すのがすごく恐かった。嫌われるんじゃないかって、気持ち悪いって言われるんじゃないかって……
けど、カレンは受け入れてくれた。僕は過去に多くの物を失ってきた。だから、僕にはもう、彼女しかいないから……失うのが恐かった……」

「……確かに、何も知らない奴が聞いたら、現実の話だとは思わないだろうし、気味悪がるかもしれないな。」

ルルーシュがゆっくりと言葉を紡ぐ。



406:創る名無しに見る名無し
09/03/27 00:03:55 EOVEMqHY
念のため支援

407:K.K.
09/03/27 00:04:18 Gd8F7IcA
「しかし、間違っているぞライ。」

「えっ?」

ライがルルーシュを見る。ルルーシュはライへと目を向けると、フッと笑っていった。

「前にも言ったろ?君の正体がどうであれ、俺たちが君への態度を変えるつもりはない。
君にはカレンだけじゃなく、俺たちもいる。俺たちは君の見方だ。」

「……うん、ありがとう。」

ライは嬉しそうに笑った。
「さて、さっさと終わらせるぞ。これが終わったらチェスでもしないか?久し振りに一曲打とう。」

「そうだね。今度は負けないよ。」

「フッ、どうだかな。」

「あっ、今鼻で笑った!」

「気のせいだろ?」

「いや、気のせいじゃない!絶対鼻で笑った!僕だって前よりは強くなったんだからね!」

「それはそれは、楽しみだな。」



これが幸せなのだろうなと、ライは思った。
赦されるはずがないと思っていた自分の罪。それを赦してくれる人がいた……こんなにも近くに……
だから、僕を赦してくれた彼等を護る。
それが、僕がここにいる為の理由だから……





fin


408:K.K.
09/03/27 00:11:23 Gd8F7IcA
以上、後日談でした。

こちらの方はこれで大丈夫ですかね?

またSSが出来ましたら投下したいと思います。
では…。

409:保管者トーマス ◆HERMA.XREY
09/03/27 00:15:01 EOVEMqHY
K.K.卿、投下お疲れ様でした。
一つ確認しておきたいことがあるのですが、>>405からの後日談は今回投下された修正版と纏めて(一つの作品と見なして)保管するという形で宜しいですか?

410:創る名無しに見る名無し
09/03/27 00:19:13 30YjWtab
K.K.卿、GJでした!
いいね、シリアスの中にあるほんわかさって・・・
こういうSSを見ていると不思議と楽しくなるわーK.K.卿ブリリアントだね。
次のSS投下も頑張って下さいね!!


411:K.K.
09/03/27 00:29:00 Gd8F7IcA
保管者トーマス卿へ
一応ひとつの作品なので、一緒でお願いします。

mailto:sageさん
ご感想ありがとうございます!
タイトルと同タイトルの歌を聴いているときにふと浮かんだ絵でして、
それをSSにするのに苦労しました。そう言っていただけてうれしいです!


412:保管者トーマス ◆HERMA.XREY
09/03/27 00:31:33 EOVEMqHY
ではその形で保管しておきました。なにかありましたら遠慮なくお申し付けください。
お疲れ様でした。

413:創る名無しに見る名無し
09/03/27 00:31:40 VD7TPc+b
>>408
K.K.卿、GJでした!
修正前より読みやすくなっていると思いました。
後日談、過去を受け入れてくれる親友、いいね!
この幸せが続いていくことを願います。
貴公の次の投下を全力を挙げてお待ちしております!

あと、誤字
>>407 君の見方 → 君の味方 だと思います。
あと 一曲 → 一局 かな?


414:K.K.
09/03/27 00:31:40 Gd8F7IcA
すいません、411がなんかおかしくなってます。
レスへのリンク(?)の仕方を間違えてしまいました。
どうしたらいいですか?

415:保管者トーマス ◆HERMA.XREY
09/03/27 00:37:43 EOVEMqHY
左端に番号がありますよね。この場合だと

>>410

レス指定についてはこのように書けばOKです。
誤字の修正もしておきますね。

あと、貴方の領地に作品が何も登録されていませんが、近日中に対処しますので暫くお待ちください。



416:K.K.
09/03/27 00:39:48 Gd8F7IcA
>>415
でいいのかな?

ちょっとテスト


417:創る名無しに見る名無し
09/03/27 00:42:32 30YjWtab
ok

418:K.K.
09/03/27 00:46:04 Gd8F7IcA
>>416
できてましたね、保管者トーマスさんありがとうございました!
あと領地作業の方ありがとうございます!

>>413
ご感想と誤字指摘の方ありがとうございました。
これから良く確認しようと思います。

419:K.K.
09/03/27 01:39:18 Gd8F7IcA
『コードギアス反逆のルルーシュLOST COLORS』発売一周年です!!
おめでとうございます!!

420:創る名無しに見る名無し
09/03/27 07:06:28 LsWolmjE
一周年か~。おめでとう!ロスカラ万歳!!

421:創る名無しに見る名無し
09/03/27 11:43:20 be2OKMer
ロスカラ発売一週年!!おめでとう!


422:御錬師 ◆u/BSqNBIsk
09/03/27 12:05:15 ZX/GUG+Z
久しぶりです。予告編を出していたアレ投下します。
前(R2放送中)につっくて置いたものです。
たぶん3から4使うと思います。
取りあえず投下します。
タイトルは
蒼き亡霊 ep1,00~開始。傷だらけの少年~
cpなしジャンルはシリアスで

423:御錬師 ◆u/BSqNBIsk
09/03/27 12:09:29 ZX/GUG+Z
何処からか声がする。
誰かを呼ぶ声だ。
突然、手に痛みが走る。
「痛っ。」
ベットに横たわっていた銀色の髪に血走っている眼をした傷だらけの少年が飛び上がる。
ここは、一体…何処だ。
見慣れない部屋。桃色の小物がやたらと目につく。
「ここは、」


424:御錬師 ◆u/BSqNBIsk
09/03/27 12:12:35 ZX/GUG+Z
「私の家。裏の林で倒れてた。」
ベットの隣にいた、少女は言った。
見た目僕より3つか4つ位下の桃色の髪をした少女だ。「所属と名前。」
いきなりでた言葉にびっくりした。
「特別派遣嚮導技術部。通称特派。のライです。」
「特派?」
「シュナイゼル殿下の直轄部隊。そこでテストパイロットを。」
何やっているんだ僕は。民間人に特派のことバラしてしまった。
取敢ず、ここを出て、あの男と会わば。
「記録。」
その声とほぼ同時に機械音が鳴った。
「アーニャ。ナイトオブシックス アーニャ・アールストレイム。」
なっ、ナイトオブラウンズ。
ノネットさんと同じナイトオブラウンズが眼の前に。
取敢ずここを出なければ事態は変わらない。
林の奥の洞窟にクラブを隠してある。それでなんとか。
ズボンのポケットの内側についている、隠しポケットにキーが…ない。


425:御錬師 ◆u/BSqNBIsk
09/03/27 12:15:07 ZX/GUG+Z
他のポケットの中を探していると。
「探し物。」
そういって、手に持っていたのは、クラブの起動キー。
「ありがとうございます。」
キーを受け取ろうとした時、キーを渡してはくれなかった。
「あの洞窟にナイトメアはない。今、キャメロットの整備室。」
しまった。
クラブが盗まれた。
どうしよう、あれには、まだ、未公開技術が注ぎ込んであるなるに。
早く取り返さなきゃ。
「それに絶対安静。」
その上逃げ出すことも。
ヤバい。
ここでギアスを使うか。
だか、暴走状態のギアスだ。使えるはずがない。ならば、
「アールストレイム卿、何故お助けに。」
「領地で死なれると、厄介。家は?」
家?何でこんな時に、
「そんな上等なもの有りません。寝床の鍵はそこに。寝床はどっかに持っていか
れました。IDカードと一緒に。」
そうだ。最近はクラブで寝泊まりしている。
「なら、ここに泊まればいい。」
ここに泊まるだと。こんなところで足止め喰らったら、バトレーに捕まってしまう。

426:御錬師 ◆u/BSqNBIsk
09/03/27 12:18:29 ZX/GUG+Z
「それには及びません。アールストレイム卿。僕はこれで失礼します。」
ライはベットから降り、ドアに向かった。するとアールストレイム卿は、手を水
平に広げ、行く手を阻むかの如く立った。
ライは、それを無視して、邸から消えた。
キーを取り戻さなかった。


427:御錬師 ◆u/BSqNBIsk
09/03/27 12:21:11 ZX/GUG+Z
それから数分後。
二人の少年達が邸に到着した。
「アーニャ、ライは、ライは何処に。」
茶髪の少年は問う。
「スザク、逃げた。」
「そう。」
「忘れ物。」
少女の手には少年の手の中にあるキーの色違いがあった。
「間違いない。ライのクラブのキーだ。」
「追う?」
一歩後ろにいた金髪の少年が言った。
「追うなら、私も手伝おう。トリスタンなら空からでも探せる。」
「ジノ、アーニャ、ありがとう。でも大丈夫。きっとどこかで会えるよ。」
ライ、君は何故あんな体で、何を求めているんだ。


428:御錬師 ◆u/BSqNBIsk
09/03/27 12:24:13 ZX/GUG+Z
銀の少年は、真実を知る為に。
茶の少年は、連鎖を断つ為に。
元特派のダブルエースは、帝都の地を踏む。
己が信念を曲げる事無く。


429:御錬師 ◆u/BSqNBIsk
09/03/27 12:32:18 ZX/GUG+Z
以上です。
次回もお楽しみに

430:創る名無しに見る名無し
09/03/27 14:53:02 VD7TPc+b
>>429
御錬師卿、乙でした。
アーニャが拾ったか―ライにはやっぱり拾われ属性が付いてるんだろうね。
生身でトリスタンから……逃げ切れないよね。
さてさて、次回はどうなるか。
貴公の次の投下を全力で待っています。

431:創る名無しに見る名無し
09/03/27 20:25:52 UDpJmgum
1周年という事で短編を3つ投下させていただきます。
:1個目は黒の騎士団カレンルートエンド後。
:2個目はブルームーン編C.C.エンド後。
:3個目はギアス編での小話。

432:創る名無しに見る名無し
09/03/27 20:28:13 UDpJmgum
【おぼえていますか】

私達が触れ合ったあの日々を。

「ねえねえ、カレンはファーストキスの時の事覚えてる?」
「はあっ!?」
「あ、それは私も気になるかも」
シャーリーもいきなり変な事を言わないでよっ!
嗚呼、紅茶で制服が少し汚れちゃったじゃない。
シミにならないといいけど……
大体お菓子の話からそこにはつながらないでしょ、この子って本当にもう……
会長までなんか興味真摯じゃないの。
「もしかしてまだしてないの?」
「私達そういう関係じゃないですから……」
「そんな言葉でミレイさんの目は誤魔化せないわよ~」
野次馬根性をこんな時まで発揮しなくても……ファーストキス、か。
ライとのファーストキスなんて涙の味がしてしょっぱかったのよね。
色気もなにもあったもんじゃ――ってなに考えてるのよ!?
「ミレイちゃん、そういう話はあまりよくないよ」
「それもそうね~でもライって人気あるでしょ?」
「特区の大使に任命されてからは凄いってリヴァルも言ってましたもんね」
そうだったんだ、見慣れてる私には普通だと思うんだけど周りはそう思うのかしら?
ただ頭が良くてナイトメアの操縦が上手くて顔立ちが綺麗って位でしょ。
探せばいくらでもいそうじゃない――前言撤回、早々いるわけないわね……
もう、ライの事を考えだしたら気になってきたじゃない!
「この前は陸上部のマドンナに手紙貰ってたんですよね」
「それ私のクラスでも有名よ。後はこの前テレビのインタビューね」
「アナウンサーの熱烈アタック?」
「会長、体調が優れないから早退しますね」
ライに限って浮気なんて事しないはず!
でも、ありえないなんて言い切れないのが困ったわね……
生徒会のメンバーへの返事もそこそこになっちゃったけど気になるじゃない。
ライはそういう人じゃないと思うけど、でも恋人らしい事ってあれからなにかしたかな。
デートはしていないし会話もそこそこしてる程度、それが2ヶ月続いて――これって恋人らしい?
ぜっんぜん駄目! 私なにしてるんだろう……
それにライもライよ、特区の事ばかりで――
「カレン、こんな所でなにをしているんだ?」
「へっ? あ、え、あれ? ここ格納庫?」
「ああ、格納庫だけど。大丈夫か、疲れているのか?」
……無意識に格納庫まで来ちゃった。
ど、どうしよう……考えもまとまってないのに。
「あ、あのねライ。話があるんだけど」
「話?」

433:創る名無しに見る名無し
09/03/27 20:30:12 UDpJmgum
「こ、今度デートしましょ!」
「……カレン、浮気でもしたのか?」
「は、はいっ!? って、そうじゃなくてどうしてよ!」
「いや、井上さんがさっき『女は恋人に隠し事があると謝罪を兼ねてデートに誘う事もあるのよ』って言っていたから」
「ちっがーう、それはライの方でしょ!」
「なぜ僕なんだ?」
しまった……つい頭で考えてた事が口から……
ああもう、なんでこう先走っちゃうのかしら。
「まさか噂話を信じているのか?」
「だ、だってマドンナとかアナウンサーとか色々出てきたらそう思うでしょ」
「そういう君も色々噂があるのはリヴァルに聞いたけど」
リーヴァールーおーぼーえーてーなーさーいーよー
それにしても特攻して墓穴を掘るなんてナイトメア戦だったら即死コースじゃない。
でもこの場合は同じかな……って冷静に戦況分析してどうするのよ!?
「まさか本当に……」
「ち、違う! 私が好きなのはライだけよ! あっ」
「カレン、臆面もなく言われてもそれはそれで恥ずかしいんだが……」
なにやってるのよ私!?
ああ、こうなったら自棄よ自棄! 悩むだけ無駄!
「そういうライはどうなのよ!」
「僕? こうやって改めて言われるのもまんざらでもないかな」
「……えっ?」
「僕もカレンが好きだよ、だからこうして頑張っていられる」
……そうだった。
特区が安定したらお母さんを迎えに行きたいって私が言ったんだ。
そうしたら二人でゆっくり遊ぼうって約束してたのよね、すっかり忘れてた……
「僕が約束を破ると思ったのか?」
「ち、違うわよ、ただ心配になって……その……」
「そうか、ナイトメア戦でもそうだけどカレンはそそっかしいな」
なによそれ……頭を撫でられてるし……子供扱いしないでくれる。
ってそのまま抱きついてる私が言うのもおかしいわね。
恋人らしいか、こういうのも恋人らしいけどちょっと物足りないかな。
周りには誰もいないし少しくらいはいいわよね。
「少し恥ずかしいな……」
「だ~めっ、2ヶ月分の利子よ」
「利子か、面白い表現だ」
自然と唇が重なる、けどはじめての時と同じ。
胸がドキドキするのはきっと好きだから、それから――
「やっぱり……しょっぱい……」
「帰投したばかりだからな、すまない」
「ふふっ、でも私達らしいじゃない」
「らしいか、そうだな、僕達らしいかもな」
私達は私達らしく、こうして積み重ねていけばいい。
いつの日か笑い合う思い出を少しずつ。
おぼえていって歩いていけばいい。

434:創る名無しに見る名無し
09/03/27 20:32:11 UDpJmgum
【おぼえていられるだろうか】

私とお前が生きた時の意味を。

私も変わったな、まさか人と過ごす日々を楽しむ時が来るとはな。
それもこれもこの男が原因か。
「また荷物が増えていないか?」
「前にも言っただろう、ピザを食べているうちに増える」
「まったく」
ふっ、もう諦めたとでも言いたげだな。
あれから数ヶ月経つが態度は随分と変わったものだ。
いや、変わったのはライだけではなく私もか。
最初に出会った時はこうなるとは思わなかったぞ。
「とりあえずベッドから下りてくれ、掃除ができない」
「少し待て」
チーズ君を隠されては流石に困る。
ライはこれを人質にしようとしたからな、油断できん。
「……余程大事らしいな」
「当たり前だ、ましてや人質にされては敵わん」
「それは良い事を聞いた」
「私にも労働させる気か、言っておくが私は安くはないぞ?」
つくづく油断できん、記憶を失う前は貴族だったのか?
いや、その割には傲慢さが足りんな。
それに努力は嫌いではないそうだが……ふっ。
考えれば考えるほど変わった男だ。
「働かざる者食うべからずという諺もある、君も倣ったらどうだ?」
「それは人間が人間に言う諺だろう? 人間が魔女に言っても説得力はないぞ」
「はぁ……前にも言ったがこれじゃ利用する側とされる側だ……」
「不満か?」
「それなりには」
やれやれ、これだからボウヤは。
とはいえ……なにも話さないというのも酷か。
「仕方あるまい、少しは話してやろう」
私の痛み、私の苦しみ、私の哀しみ、私の望み。
改めて聞かせるのは思い返してみてもはじめてだな。
色々と積み重ねてきたが……
「所詮は終わりのない人生だ、結局はただの経験でしかない」
「だったらこれから生きていけばいい」
「ふっ……お前も永遠を生きるつもりか?」
「必要なら、僕達は一応共犯者なんだろ?」
まるで手に負えないな、どこまでも我儘な事を言うものだ。
だからこそか、こうして惹かれてしまうのも。
……少し疲れているな、頬を撫でただけでもわかる。
「息が少し荒いぞ?」
「うるさい……」
「見栄っ張りめ、そんな顔にキスをする身にもなれ」
唇もカサカサではないか、手入れを怠るのも駄目だと言っただろう?
相変わらず不器用な男だな、目が離せんではないか。
「っ……C.C.」
「顔が赤いぞ、ガキめ」
「くっ……」
ああ、お前はまだまだ子供だよ。
だから傍にいてやろう、いつまでも。
お前と生きた時を最後までわすれない為に。

435:創る名無しに見る名無し
09/03/27 20:34:13 UDpJmgum
【わすれますように】

みんなが僕と過ごした日々の事を。

やれやれ、C.C.の勧めで黒の騎士団に入ったのは良いんだが。
しかし忙しいな……学園に戻ろうにもタイミングを間違えるとこれだ。
時計は朝の6時を少し過ぎた辺りを指している。
資料整理だけにしておこうと思っていたのに徹夜してしまったな。
そろそろ学園に戻らないといけないな……?
「なんだ、いたのか……?」
「ふわぁ~おはよぉ……って、ライ?」
「おはよう」
C.C.とカレンもトレーラーにいたのか、気付かなかったな……余裕がないのか?
いや、それよりもこの二人だな。
寝起きなのはいいが身なり位は注意した方がいいか。
「C.C.は寝癖が少し残っているぞ、カレンは顔を洗った方がいい、目やにがまだある」
「むっ……」
「うっ……」
二人とも気付いていなかったのか、余裕がないのは僕だけじゃないという事だな。
黒の騎士団の活動も活発だから仕方ないか、僕もスケジュールの調整をしっかりしよう。
とりあえず資料を片付けて――なぜ二人揃って僕を凝視しているんだ?
「……どうかしたのか?」
「寝覚めの悪い夢を見たせいだろう、気にするな」
「偶然ね、私も変な夢を見たせいよ」
「? そうか、それならいいんだが」
夢か、夢といえば面白い説があったな、というよりは都市伝説らしいけど。
なんでも並行する世界にいる自分が体験した事を夢に見る事があるそうだ。
「内容は知らないけど夢には自分の持っている未来の可能性を見る事も稀にあるらしい」
「ほう、面白い説だな、だが今回の夢は違うたぐいだろう」
「同感、私らしくなかったもの」
「そうなのか、なら願望のあらわれじゃないか?」
「……笑えん冗談だな」
「……それ、笑えない」
「そこまで嫌な夢だったのか……」
やれやれ、この二人は似ているのか似ていないのか……いや、女性特有の思考か?
この様子だと深く追求しない方が良さそうだ、よほど不快な夢だったんだろう。
「だったら正夢にならない事を祈るしかないな」
……ところで二人して僕を凝視するのをいい加減止めてくれないか?
まるで僕が原因みたいじゃないか。
「まだなにかあるのかC.C.?」
「少しな……お前も存外に悩みの種なのだと認識させられたよ」
「なら気をつけるよ、カレンは?」
「似たような感じね、いなくなっちゃうんじゃないかって」
「変な事を言うんだな、そういう不安な事は逆に口から出さない方がいい」
本当にどうしたんだ、今日の二人は少し変だな。
大体なぜ僕の心配をしているんだ?
どういう夢を見たのかは気になるが……
「そういう心配事は忘れるに限るよ」
夢にしてもそうだけど何事も覚えていて良い事もある、その逆もだ。
今回の夢は二人にとって忘れる方が良い事なんだろう。
時には忘れてしまった方が幸せな事もある。
覚えていても辛いだけの事は沢山あるだろうから。

436:創る名無しに見る名無し
09/03/27 20:35:43 UDpJmgum
以上で終わりです
甘かったり、ほろ苦ったり、しんみりしたり
そういったロスカラの成分のいくつかをちょっぴり凝縮する事に挑戦してみました。
他にもほんわかしたりと色々ありますが
それは本編を再プレイして味わうのも一興かと思います。
でわでわ、駄文で御目汚しをしてしまいましたがこれで失礼致します。

437:創る名無しに見る名無し
09/03/27 21:51:34 VD7TPc+b
>>436
GJでした!
短編連作、これは良いものだ。
一つ一つがそれぞれ独立していて、それでいて最後の小話に纏まっている。
非常に読みやすく、面白かったです。
貴公の次の投下を全力を挙げてお待ちしております!

438:創る名無しに見る名無し
09/03/27 22:02:23 9kGSQsOA
GJでした。
最初は話しが違う短編が3つ投下されるのかと思ってたんですが
まさか並行世界の話しとして綺麗に繋がっているとは。

面白かったです、卿の次回の投下を楽しみにしております。

439:創る名無しに見る名無し
09/03/27 22:22:21 Ev2HaY4v
GJでした。
短いながらも各キャラの心情が描けていて面白かったです
貴公の次回の投下を心待ちにしております

あとロスカラ発売一周年おめでとう

440:KOUSEI ◆g9UvCICYvs
09/03/28 00:43:09 X+38aP1c
 お久しぶりです。KOSEIです。
 数ヶ月更新を滞らせてすみません。色々ありまして、もうホント色々……。
 では、僭越ながら前回の続きを投下させていただきます。
 全部で11レスになります。

441:KOUSEI ◆g9UvCICYvs
09/03/28 00:44:17 X+38aP1c
 シーン10『ロイ・キャンベルの憂鬱』Cパート。


 ミーヤを家まで送り届け、ロイが政庁の入り口に足を踏み入れた頃には、すっかり夜も遅くなっていた。
 施設の灯は二十四時間消えることはないので通路はまだ明るい。だが、流石に人の往来は、昼間に比べると少ない。
 ロイは通路の一角にある休憩室の自動販売機でブラックコーヒーを買うと、歩き疲れた足腰に息抜きをさせようとベンチに座った。
「疲れたな今日は……」
 デートなんて始めてだったから、変に緊張して肩がこったロイだった。
 しかし、デートというのは確かに疲れるものではあるが、同時に楽しいものだというのもロイは良く分かった。
 気になる女性のために計画を立てて、それを実行してその女性に喜んでもらえた時の嬉しさは筆舌に尽くしがたいものがある。ロイとて、遊園地を回った後のショッピングや夕食のお店のセッティングのルートを一応は事前に考えておいたのだ。
 そして、ミーヤはその全てを喜んでくれた。
 朝には不安だのなんの思っていたが、終わってみればミーヤとのデートはとても楽しかった。
 ただ……今日のデートはただ楽しかっただけでもなかった。
 収穫があったのだ。
 ロイはデートを楽しみながらも、ミーヤからの情報収集を欠かしてはいなかった。そう、ルルーシュについての情報収集である。
 そもそも、ロイはルルーシュの情報を得るためにミーヤに近づいたのである。それを忘れて、完全にデートにのめり込んでしまうほどロイは気楽な性格をしてはいなかった。
 午前中は純粋に遊園地のアトラクションを二人で楽しんだ。昼になるとお腹も空いてきたので園内のレストランに入った。注文を済ませて料理を待つ間、ロイはミーヤとの雑談に花を咲かせた。
 最初、ロイは学校の授業の事、クラブ活動の事、面白い友達の事などを話していたが、徐々にその内容を“ルルーシュの事について”になるよう導いていった。最初からルルーシュの事について尋ねるようなことはしなかった。
 なぜなら、あくまでロイがルルーシュを調べるのは極秘でなければいけない。ロイは、なるべく他人に気付かれないように調査してほしい、というナナリーからのお願いを最大限遵守するつもりだった。
 いつの間にかルルーシュの事が中心となったミーヤとのやり取り―ロイにとっては計画通り―の会話の途中で、注文した料理がテーブルに運ばれてきた。
 その時、
 ―そうそう、
 と言って、ミーヤはナイフとフォークを取った後、とんでもない情報を提供してくれた。
 ―そういえばルルーシュ君はね、スザク君と友達らしいよ。なんでも日本とブリタニアが戦争する前からの付き合いとかで。子供の時は毎日一緒に遊んでたみたい。
 その話を聞いた時、ロイは思わず手に持ちかけたフォークを皿に落としてしまった。
 目の前のミーヤが「何やってるの?」と微笑んだ。ロイは「いや、手を滑らせちゃって」などと言いながら照れくさそうに応じた。このように、表面では何でもない風を装ったロイだったが、内心は戸惑いの荒波が激しく渦を巻いていた。
 ルルーシュとスザクが友達? しかも、子供の頃からの?
 この事実は、ロイを驚かせるのには充分なものであると共に、彼の中である引っかりを生じさせた。
 ナイトオブゼロを拝命してまだブリタニアに滞在していたころの話である。いつだったか、ナナリーとスザクが兄弟のように仲良く会話している場面を目撃したロイは、二人に近づいて、なにげなくこう言った事がある。
 「本当に二人は仲が良いですね」
 ナナリーの返答はこうだった。
 ―はい、私は小さい時からスザクさんにはお世話になりっぱなしで。
 ……確かにそう言ったのだ。
 スザクとルルーシュは小さい頃からの友達。そして、スザクとナナリーも……。
 ちょっと待て、とロイはミーヤとのデートの最中、何度も自問を繰り返した。
 そうなると、この三人の間に幼少時代の繋がりが発生する事にはならないだろうか? 
 しかし、三人が過去に出会っていたとして、どうも解せないのは、それならばなぜルルーシュの調査をスザクには内緒で行う必要があるのか、という事だった。
 ナナリーはあくまでスザクには内密にルルーシュの事を調べて欲しいと言っていた。この意味を単純に考えた場合、答えは一つしかない。
 ナナリー総督はスザクを信用していない。
 そういう事になる。しかし、物事はそう単純なものではない。
 ナナリーがスザクを信用していないというのであれば、彼女はああも彼の事を頼りにするだろうか?

442:KOUSEI ◆g9UvCICYvs
09/03/28 00:47:30 X+38aP1c
 政庁職員から見れば、ナナリー総督から一番信頼をされているのはロイ・キャンベル、もしくはアーニャ・アールストレイムということになってはいるが、本人であるロイからすればそうは思わない。
 確かに自分やアーニャは確かに頼りにされているし、信頼もされている。だがナナリー自身に危機的状況が訪れれば、最終的に彼女が助けを求めるのはスザクである、とロイは確信している。
 しかし、そうは言ってもナナリーが信頼しているはずのスザクに、ルルーシュの事を秘密にしているというのは事実である。
 秘密、といのは理由があるから秘密にされるものだ。
(ナナリー総督、ルルーシュ、そしてスザク。この三人には一体何があるんだ……)
 考えれば考えるほど答えが出ず、突き当たるのは矛盾ばかり。
 ナナリーの過去に詳しい人物に話を聞く必要があるかもしれない、とロイは政庁の廊下をややゆったり歩きながら思った。
 ナナリーがルルーシュという人物を知りたいと願いながら、毎日その彼―ルルーシュと顔を合わせているスザクに何も尋ねない件、
 また、スザク自身にルルーシュという人物を気にかけているのを秘密にしている件も、何か過去―もしかしたら、三人が繋がっていたかもしれないブリタニアと日本の戦前の出来事が関係あるのかもしれない。
(少し考えを飛躍させすぎだろうか)
 と、ロイは思わなくも無かった。だが、少なくともそう考えを飛躍できるだけの情報の土壌があるのも事実である。
(とにかく、ここらへんがハッキリするまで、やはりナナリー総督にはルルーシュの存在を知らせない方が良いな……)
 新たな事実が判明するたびにルルーシュの調査は胡散臭さを増している。ナナリーにルルーシュという人物の存在を報告するのは簡単だが、それが、また新たな問題を引き起こさないとは限らない。
 以前心配していたブリタニア本土帰還命令も、行政特区不成立でうやむやになり、それによって、エリア11に滞在できる期間は増えた。
 つまり、調査を急ぐ必要は無いのだ。
 もちろん、ナナリーにはなるべく早く報告してあげたいとは思うが、それはナナリーにルルーシュの存在を教えても何も問題が無いと判明してからでもいいはずだった。
「今帰りかい?」
 ロイが思考の淵に沈んでいると、廊下の向こうから白い軍服を着た栗色髪の少年が歩いてきて声をかけてきた。
「スザク……」
 相手はナイトオブセブンの枢木スザクだった。
「何か考え事かい? 酷く暗い顔をしていたけど……?」
 ロイはほとんど反射的に、「ああ、何でもないんだ……」と愛想笑いで応えた。しかし、
(いや、待てよ……)
 と、考え直した。そして、ベンチから立ち上がると、眼鏡が修理中のために、今は万人にあらわになっている形の良い瞳を友人に向けた。
「ねぇ、スザク」
「ん?」
「今から、時間をもらえないかな? 少し話したい事があるんだ」
「……」
 スザクは面を食らったようで、瞼を大きく見開いた。そして、
「もしかしてまだ怒ってるのかい? 僕がナナリーを放っておいて中華連邦に行った事」
 と、心配そうにロイに尋ねてきた。
 ロイはつい数週間前の出来事を思い出した。
 スザクが中華連邦での作戦を終えて日本に帰ってきた後、ロイとスザクの間では小さないざこざがあった。
 ロイはスザクに話がある、と言って政庁の個室に呼び出し、今までのスザクのあまりにも利己的とも思える考えを、同僚と親友の立場から諌めた。
 最初は頑なな態度を取り、一時は喧嘩腰になっていたスザクも、ナナリーが、ロイの前で泣き出した事を告げると、スザクは「そんな事があったのか……」と、ショックを受けた様子で呟いた後、「確かに、君の言うとおりだ。次から気をつける」と素直に頭を下げた。
 ロイはその瞬間、確信と共に安堵したものだった。ああ、やっぱりスザクはスザクだったと。
「いや、そうじゃないよ。ちょっと君の過去について訊きたいことがあってね」
 ロイがそう言うと、スザクは安心したようで、歳の割には幼げな顔に、親しみが感じられる表情が浮かんだ。
「僕の過去? なんだい?」
「ある学生から聞いたんだけど。君はルルーシュと幼少からの友達だったんだってね」
「えっ……あ、ああ、そうだよミレイ会長にでも聞いたのかい?」
 ロイはいや、と手を振って否定した。
「違う人だよ。それでスザク、君はナナリー総督とも幼少からの友達なんだよね?」
「……」
 スザクは一瞬目を細めた後、しばらく間を置いてから返答した。
「そうだけど、それが何か?」

443:KOUSEI ◆g9UvCICYvs
09/03/28 00:49:58 X+38aP1c
 スザクのまとうオーラの質が変わった事にロイは気付いた。俺はこの話をしたくない、と思っている人間が醸し出す独特の刺々しさとでも形容すればいいのか、とにかくそんなオーラがスザクを覆いはじめた。
 任務上、ロイが様々な交渉の場で相手から感じてきたオーラだった。相手がこのオーラをまとった時、これ以上交渉の進展は無い場合が多かった。
 多少鋭くなったスザクの瞳を静かに見返しながら、ロイは考え込んだ。
 スザクのこの反応に対して、ロイは別段、驚きを感じなかった。というか、どこか漠然と、スザクはルルーシュとの過去の事を聞かれたらこうなるとロイは予想していた。それがなぜ予想できたのかは分からないが……。
 なにはともあれ、ロイにとってここは分かれ目のように思えた。もう少し突っ込んで訊いてみるか。それとも、ここまでにして次の機会にするか。
 ロイは一瞬だけ躊躇して、更に突っ込んでみる方を選択した。
「いや、もしかしたら君たち三人は、昔、知り合いだったんじゃないのかなぁ、なんて思ってさ」
 表情は真剣にせず、あくまでくだけた口調で尋ねた。
 ルルーシュを調べている事は、スザクには秘密なのだから、今、自分がスザクを探っていると思われるわけにもいかない。いざとなったとき笑ってごまかせる、そんな態度で尋ねるのがこの場では最良だとロイは判断した。
「ロイ、君は……」
 ロイは笑顔を浮かべながらも、スザクに微細な動揺が走ったのを見逃さなかった。
(やはり、なにかあるのか……)
 スザクからそう感じ取ったロイは、そう感じ取った事を微塵も感じさせない態度で更に問い詰めようとした。
「ねぇ、スザク。もしかして君は、いや、君たちは―」
 そのとき、
 ゴスッ。
 突如、ロイの右腹部に強烈な痛みが走った。
「!?」
 ロイはたまらず膝を折って床に倒れこんだ。その過程で呆気に取られた表情でこちらに顔を向けるスザクが見えた。
 ロイは腹部の痛みに呻いた。肺が空気を搾り出そうとするが、喉はそれを拒絶して息を飲み、結果、呼吸は止まった。先ほどまで同僚の一挙一動を見定めていた獲物を狙う鷹のように油断無いナイトオブゼロの瞳は苦痛に歪み、そこから涙が染みて潤みを帯びた。
 ロイは、自分が半泣きという情けない顔になっている事を自覚しながらもなんとか顔を上げて、後ろを向いた。今の“打撃”は前にいるスザクからではない。となると、その犯人は背後にいるはずだった。
 そして、ブリタニア屈指の騎士であるロイ・キャンベルの背後に、気付かれずに立てる人物というのはそうはいない。
 案の定、見覚えのある少女がいた。
 背後からロイの右脇腹にある肝臓に向けて渾身の一撃を叩き込んだ少女。その人物は、握りこぶしを眼前でひざまずく男に見せつけるように立っていた。
「……アーニャ」
 その名を呟き終わる前に、ロイの呼吸は腹部の痛みによって再度詰まった。そのため、ロイは数度咳き込んだ。
 脇腹への一撃だがアーニャ・アールストレイムが小柄だからと言ってその威力はバカに出来ない。
 彼女は帝国最強のナイトオブラウンズであり、白兵戦においては、体格の問題で他のラウンズに一歩及ばぬところはあるものの、その実力は、一般の騎士とは比較にならないものを持っている。なにより、ロイは完全に気を抜いていた。
 いくら鍛え上げられた腹筋でも、体というのは意識を向けていなければ力を発揮しない不便な構造で出来ているので、
 そんなところに渾身の一撃を、しかも人体の急所の一つである肝臓に打ち込まれれば、ラウンズだろうが、一般人だろうが民主主義的に―すなわち平等に床に倒れこむ。
「アーニャ、一体何をするんだ……」
 ロイは涙ぐみながら自分を見下ろしている同僚に尋ねた。すると、
 パン!
 自分がアーニャに頬を叩かれたのだと気づいたのは、ロイが痛みを認知してから数秒経ってからだった。
 酷く乾いた音は意外にも広範囲に響いた。音が政庁廊下の隅々まで駆け巡り、片手の指では足りない数の職員が驚いてこちらに視線を向けた。
 そんな周りの視線をものともせずアーニャは堂々とこう言った。
「これは、私の心の痛み」
 まるで、私に非は無いと言いたげな強気な瞳が印象的だった。
 更にアーニャは振り終えた手の甲を返してロイの顔面をはたいた。スナップが効いていた。再びパーンと竹を割ったような乾いた音が鳴り響き、ロイの頬の痛覚は生真面目に仕事をして、痛みを脳に届けた。
「そしてこれが……女心の痛み」
 往復ビンタをされたロイは、これといって防御反応を取ることもなく、また、赤く染まり始めた頬を触るでもなく、ただ呆然として目の前の少女を見つめていた。

444:創る名無しに見る名無し
09/03/28 00:51:34 8TMLCpAA
しえん


445:KOUSEI ◆g9UvCICYvs
09/03/28 00:52:12 X+38aP1c
 そんなロイの様子を、アーニャはどこか不快そうに見やった。
 男と女の視線の交錯はしばらく続いた。やがて、アーニャの方から振り上げていた腕と共に視線を下げ、ロイに背を向けた。
 続けて、彼女はポツリと呟いた。
「私が先に遊園地に誘ったのに、何で他の女とデートするの……」
 ここで、ロイはようやく自分の嘘がこの少女にバレてしまったということに気づいた。なぜバレたのか? どうしてバレたのか? という疑問を抱く前に、まず、一瞬で心が罪悪感に染まった。
「アー―」
 ロイは、詫びる言葉も見つからないのに、それでも少女の名前を呼ぼうとした。でも、できなかった。なぜなら、ロイが名前を呼ぼうとした少女からは、聞いたことの無い不規則な吐息が少女の小さな背中越しに聞こえてきたからだ。
「……泣いてるのか?」
 自分でも弱々しいと思える口調でロイは尋ねた。
 背を向けたアーニャは、その問いには答えなかった。
 ロイは、更に言葉をかけようと努力した。しかし、その努力は結果に結びつく事は無く、結局ロイは、無言のまま、無為に数十秒の時を過ごしてしまった。
 無言の時を遮ったのはアーニャの方だった。
「悪い?」
 アーニャは、ロイに背を向けたまま更に呟いた。
「泣かせたのはロイ……」
 普段の少女からは想像できない哀しみの込められた声で罪を訴えられたロイは、情け無い事にまた何も言えず、ただこちらに向けられた少女の小さな背中を見つめた。
 というか、見つめるしかなかった。彼女はこちらから目を背ける権利はあるが、自分が彼女から目を背けることは許されない。ロイはそう思った。
「……すまない。あの、なんと言って良いのか」
 小さく震え始めている少女の肩に、ロイはそっと手を置いた。その小柄な肩が一度だけ小さく震えたのは、寒い外を歩いてきたロイの冷えた手が、温かいアーニャの肌に触れたからか、それ以外の理由なのか、ロイは正直分からなかった。
 それでもロイは、圧迫感にも近い責任感と罪悪感に背を押されて、「アーニャ……」と少女の名前を呼んだ。
「僕は……」
 そのとき、彼女が急にこちらを向いた。
「!」
 その瞬間、またビンタが飛んできた。完全に不意をつかれたロイは、また頬に衝撃を浴びせられた。
 毎朝一時間の緩急を付けた激しいランニングや、定期的な筋力トレーニングで、KMFという鋼鉄の体を支配下に置くために鍛え抜かれたはずの強靭な足腰は、主人を易々と裏切ってその職務をあっさりと放棄した。
 ロイの体は、まるで虚弱体質の男が貧血でも起こしたかのようにヘナヘナと情けなく床に倒れこんだ。
 再び見下ろされる形になったロイは、アーニャに困惑の視線を向けた。はっきり言って女性にぶたれるのは生まれて初めてだった。
 ちなみに、殴られた事はあった。だが、それはあくまで訓練中の組手等での出来事であり、その相手もアーニャではなく、主にノネットと、モニカのドSコンビ(ジノ・ヴァインベルグ命名)だった。
 こちらを顔を向けたアーニャの瞳には溢れるものがあった。
 しかし、そこは女だてらにナイトオブラウンズを務める女傑。その表情は弱々しさなど微塵も感じさせない毅然たるものだった。少なくとも表面上はそう見えた。しかし、彼女の瞳の奥に映るものを見たロイは、少女の表面上よりもさらに深い複雑な感情を察知する事ができた。
 深く悲しんでいる、とても悔しがっている。だが、それ以上に“怒っている”。
 ロイは身震いした。
 男の涙は降参の証だが、女の涙は決意の証でもある。と、上手くも無い比喩を言ったのは誰だったか、と考えかけてロイはやめた。
 先ほどまで悲しみに染まっていた少女の瞳が、縄張りに侵入した猫を追い払おうとするような、そんな戦闘態勢の光を、誰から見ても明らかに帯びたからだった。
「とにかく、詳しく話を聞かせてもらう!」
「うわっ!?」
 ロイは襟元を掴まれた。そして、信じられない力で無理やり立たされた。
「あ、いや……、アーニャちょっと待ってくれ」
「ちなみに、とぼけても無駄。とっくにアルフレッドからネタは上がってる。あと」
 アーニャは、ロイの襟元を掴む拳にギュッと力を込めた。
「簡単には許すつもりはないから」
 アーニャの背後から黒いオーラのようなものが湧き上がっているのを、感じたくもないのにロイは感じてしまった。
 ロイはこのエリア11に来て初めて、いや、ナイトオブラウンズになって初めてこの妹分から恐怖というものを感じた。
「いや、とぼけるつもりは微塵もないです、はい」
 ロイは素直に非を認めた。

446:創る名無しに見る名無し
09/03/28 00:52:19 8TMLCpAA
しえん


447:KOUSEI ◆g9UvCICYvs
09/03/28 00:53:50 X+38aP1c
 黙秘権、という便利な言葉は、ことアーニャ・アールストレイム裁判所では適用されないどころか、自身が不利になるものだとロイは熟知していた。
 まったくをもって、ブリタニアとは民主的な国では無い言わざるを得ない。なぜなら、黙秘権が使えない裁判所が、ロイの周りには、まるで牢獄のようにいくつもそびえたっているのだ。ちなみに、名前はノネット裁判所、モニカ裁判所、ベアトリス裁判所だったりする。
「とにかく、詳しく聞く」
 小さく呟くように、しかし一語一語に力を込めて告げると、アーニャはロイの背中の襟首を掴み、男一人を軽々と引きずって歩き始めた。
「……」
 目の前で展開される状況を呆然と眺めていたスザクは、ロイが引きずられ始めた所で、思い出したかのように、アーニャを呼び止めた。
「あっ、ちょっと待ってアーニャ。まだ、僕はロイとの話が終わってな―」
 スザクの制止を聞いて、アーニャはピタリと止まった。そして、
「何?」
 と、ロイが感じたのと同様の威圧的なオーラを醸し出しながら、眠たげな瞳、いやこの時ばかりは狂気殺人をやってのける精神異常者のようにすわっている、と形容できる瞳でスザクを睨みつけた。
 それは一種の警告でもあった。
 私の邪魔をするな! さもないと……。
 彼女の瞳は、確かにそう語っていた。
 スザクは小さく身震いした。この時ばかりは、この枢木スザクもラウンズになって初めてこの少女に、喉元にナイフを突きつけられたかのような恐怖を感じたようだった。
 その時、不思議な事が起きた。スザクの中の何か、生への執着以上の“強烈な何か”が、今のアーニャに逆らう事を強く拒否した。
 次の瞬間、スザクの瞳には怪しい赤い光が宿っていた。
「……いえ、何でも無いです」
 彼もロイと同じく躊躇無く白旗を揚げた。アーニャはそんなスザクを一瞥して、
「なら話しかけないで。今、忙しい」
 と、警察に捕らえられて観念した泥棒のような顔をしているロイを、アーニャは遠慮無くズルズルと引きずって、その場から立ち去ってしまった。
 残されたスザクはしばらくその場で佇んでいたが、突然ハッとして。
「……そうか、またか」
 恨めしそうに呟いて、首を振った。

  〇

 政庁の地下。建物の中心を貫くように立っている特殊硬化ガラスの空間の中には木製の椅子があり、その椅子にはドレスを着た一人の女性が座っていた。
 女性は完全にガラスに囲まれており、往来できる範囲を制限されている。しかし、空調、証明、とその他の設備はこの場所よりさらに地下にある場所―拘留所に比べたら格段に良く、過ごすには快適だった。
「お礼を言うべきかしらね」
 椅子に腰掛けたドレス姿の女性―黒の騎士団ゼロ番隊隊長、紅月カレンは、感謝の笑みを作ってガラスの向こう側にいる人物に言った。
「正直、あの場所は暗いし、狭いし、本当に気が滅入りそうでね」
「すみません。こんな事ぐらいしか、私には……」
 カレンの声に応えたのは、今このエリア11の最高権力者であり、ブリタニア帝国の皇女、ナナリー総督だった。
 ナナリーはお供も連れず、ガラス越しとはいえ、テロリストの前に悠然とした態度であった。ナナリーにとって、カレンという存在はテロリストというよりは、やはり、兄、ルルーシュの同級生という認識の方がが強いらしい。
(まぁ、そういう子なのよね、ナナリーは)
 カレンはナナリーに対しては好意的な感情を抱いていた。他人を無償で信じる。そんな奇跡みたいな荒業ができる少女はそうはいない。そして、それはカレンの中では良い意味での評価に繋がっていた。
「いいのよナナリー。手錠も取ってもらえたし。本当に助かったわ」
 そう言って、カレンは両腕を小さく掲げて見せた。
「……」
 それでも、ナナリーは押し黙って、俯いていた。
 カレンは困ってしまった。ナナリーは自分の身を案じてあんな複雑な表情をしている、と分かってしまったからだった。
 このままでは自分は殺される、という事をカレンはよく理解していた。そして、このエリアの総督であるナナリーもそれはよく理解しているだろう。
 と言っても、カレン自身は、この状況にそれほど絶望してはいなかった。殺されるのは、あくまでこのまま何もせず、そして何もおきなかった場合である。
 きっと、ゼロが助け出してくれる。カレンはそう信じて疑っていなかった。
 ―余計な事はするな。必ず助けてやる!
 ゼロは、カレンがヘマをして敵の捕虜になる寸前まで、その言葉を繰り返していた。
 カレンはゼロの命令どおり、余計な事をせず救出されるまで大人しくしているつもりだった。だが、

448:創る名無しに見る名無し
09/03/28 00:54:08 +Py+E+SY
支援

449:創る名無しに見る名無し
09/03/28 00:54:42 8TMLCpAA
しえん


450:KOUSEI ◆g9UvCICYvs
09/03/28 00:56:13 X+38aP1c
(でも、せっかくこうやって敵地のど真ん中にいるわけだし、やれる事はやっておきたいわよね)
 と、カレンは考えていた。
「ナナリー。ライを知らないかしら?」
 そう問いかけると、ナナリーは眉間をギュッと寄せた。言い切れない何かを堪えたような、そんな風にも見えるナナリーの表情を見て、カレンは自分の質問の仕方の不味さを悟った。
「ああ、ブラックリベリオンからのライの行方は一応知ってるの。処刑されたんでしょ?」
「……」
 ナナリーは答えない。明らかに何と言っていいか分からず困っている。それに、どこかこちらを哀れむような表情をしていた。
(もしかして自暴自棄になってるとでも思われたかしら……)
 カレンは、今更ながらに考える前に発言してしまった事を後悔した。
「えっと、自暴自棄になってるわけじゃないのよ。順を追って言うと、私は、その処刑には不可解な点が多すぎると思っているの」
「えっ?」
 ナナリーが首を傾げた。
「どういう事でしょうか?」
 それから、カレンはゼロから聞かされた“ライの処刑についての不可解な点”をいくつか説明した。もちろんギアスの存在は伏せてだ。
 あと、ゼロ=ルルーシュという事ももちろん話さなかった。ここらへんは兄弟間の問題であるので、自分が口にして良いものではない、とカレンは思ったからだった。
「だから、私はライが処刑されたということを完全に信用していないの」
 カレンからすべての説明を聞き終えたナナリーは、しばし何かを考え込んでいるようで、一分ほど沈黙を保ったあと、
「ブリタニア本国では、ライさんは処刑された事になっています。それで、これは本当は一部の人以外に教えてはいけない事なのですが……」
 ナナリーは唇を軽く噛んだ後、顔を上げた。
「いえ、是非カレンさんに聞いていただきたい事なのですが、ライさんの処刑に関しては、お父様―皇帝陛下から重い情報規制がかけられています」
 カレンの顔の真剣味が増した。
「それって……」
「はい、おかしい事です。わが国では犯罪者の罪とその執行の公表は抑止力になるとされ、積極的に行われています。
 しかし、ライさんに限ってはそれが行われず、それどころか、ライという犯罪者、及び死刑囚はデータ上、もしくは公にはブリタニアに存在し無い事になっています。裁判の記録ももちろんありません」
 と、ここまで並び立てた後、ナナリーは急に元気を無くし、しゅん、と頭を下げた。
「しかし、これらの不可思議な点は全て事実ではありますが。どれもライさんが生きているというものに繋がるものではありません……。常識的な考え方に則れば、我がブリタニアがライさんを、その……」
「生かしておく理由は特に無い。どちらかと言えば、いくら不可解な点はあっても、実際にはライは殺されている可能性が高い」
「はい……」
 カレンの言葉を聞いたナナリーは弱々しく頷くと、また黙り込んでしまった。それらの態度で、ナナリーはライの生存を願ってはいても絶望視している、という事がカレンにはよく分かった。
 しかし、当のカレンはナナリーの説明を聞いて、それほど悲観的な気分にはならなかった。
 ライの処刑について、その処刑情報の秘匿を初めとする数々の不審な点。
 判明しているのがそれらだけならば、確かに生存も絶望と言えるが、カレンはナナリーが持ちえていない情報―ギアスの存在―を知っている。そうなれば、これらの不審な点を見る視点も色々と違ってくる。
(やっぱり、ルルーシュが調べたとおり、ライの情報はブリタニア内でも皇帝直々の情報規制がしかれているのね。いや、情報自体がなくなりかけてるわけだから規制じゃないか。とにかく、胡散臭いわね……)
 もしかして、皇女であるナナリーならば、何かルルーシュでも掴んでいない情報を知っているかと思ったが、そうではなく、ほとんど同じものだった。しかし、
 ―外から調べた情報と、内部からもたらされた情報の一致、その確認はそれだけで成果だよ、カレン。
 自分よりも、そして誰よりも情報というものを重要視していた少年の言葉を思い出して、カレンは一瞬寂しげな気分を味わい、それを振り払うように、自分の思考にのめりこんでいった。
(となると、やっぱりライはブリタニアで別人として生活しているという事か……)
 カレンは内心でふむふむ、と何度も頷いた。
 もちろん、ライが別人としてブリタニアで生活しているどころか、すでに殺されている可能性ももちろんある。しかし、カレンはそんな事を考えたくなかった。
 それに、ライが死んでいるという事実をこの目で確認せずに、耳に入った情報だけで、いまさらカレンは、彼を助け出すという自分の行動を止めようとも思わなかった。

451:創る名無しに見る名無し
09/03/28 00:56:19 8TMLCpAA
しえん


452:創る名無しに見る名無し
09/03/28 00:57:33 +Py+E+SY
しえん

453:KOUSEI ◆g9UvCICYvs
09/03/28 00:57:36 X+38aP1c
「ありがとう……。色々気にしてくれて」
「えっ」
「その様子だとあなたも色々調べてくれたんでしょナナリー。だから、ありがとう」
 カレンが感謝を述べると、ナナリーはそれこそ泣きそうな顔で何度も首を振った。
「すみません。すみません、本当に……」
「ちょっと、ナナリー」
 本気でなきそうになったナナリーに、カレンは柔らかな笑顔で声をかけた。
「ナナリーが謝る事じゃ無いでしょ。それに、言ったでしょ、ライは生きてる私はそう信じて―」
 と、ここで、カレンは質問するべき内容の一つを思い出した。
「……あのさナナリー」
 カレンは笑顔を浮かべたまま声をかけて、俯いているナナリーの顔を上げさせた。
「はい、何でしょうか……」
「ライと似た人を見たことはないかしら?」
「……はっ?」
 この時、カレンは何も知らない人にとって、自分の質問の内容がいかに突拍子も無いものだったのか、というのを、ナナリーが呆然としている様子を見て気が付き、先ほどの質問に続いてまたやってしまった、と反省した。
 ―カレン、もう少し考えて行動しようね……。
 自分よりも、そして誰よりも論理というものを重要視していた少年の言葉を思い出して、カレンは一瞬情けない気分を味わい、今度は振り払うのではなく、しっかりと心に刻んで反省した。
「あ~、あのね、私たち黒の騎士団が仕入れた情報によれば、もしかしたら、ライは処刑される前に監獄から逃げ出して、ブリタニアで潜伏して生きてるかもしれない、っていうのがあるの。だから」
 完全に即興で口からでまかせの説明だったが、
「そんな情報が……」
 と、ナナリーは興味深そうにカレンの話を聞いていた。続いて彼女は車椅子の上で思案顔になった。数秒の沈黙の後、
「いえ、それは……でも……」
 ナナリーはなにやらブツブツ呟き、そして、また無言になって考え始めた。
「もしかして……何か心当たりでもあるの?」
 思わずカレンの腰が椅子からあがった。大した反応を期待してはいなかったが、どうやらナナリーには多少なりとも思い当たる事があるようだった。
「……」
 しかし、ナナリーはそれ以上答えようとはしなかった。
「変な期待を掛けさせて後でがっかりさせたら申し訳ない、とか考えなくていいから、何でもいいから私に教えて」
 カレンの強い口調を浴びせられつつも、それでもナナリーは躊躇していたが、やがて彼女はある自分の部下について話し始めた。

 〇

「しかし、本当に酷い顔だ」
「僕もそう思うよ……」
 政庁にあるナイトオブゼロの私室では、男二人がワインの瓶を挟んで座っていた。
 一人はナイトオブスリー、ジノ・ヴァインベルグ。そして、もう一人は、
「酒を飲むと傷に染みる……」
 ロイ・キャンベルはまるで猫同士の激しいケンカに巻き込まれたような顔をソッと指で撫でながら、赤いワインに満たされたグラスを傾けた。
 その顔は酷いものだった。頬は腫れているし、顔のいたるところにはそれこそ猫に引っかかれたような傷もたくさんある。
 政庁の廊下での一件のあと、ロイはアーニャの部屋に連れて行かれて、口論(と言っても、アーニャが騒ぎ、ロイが一方的に頭をさげるというもの)で付けられたキズだった。
「生傷のフルオーケストラだな。アンコールは無いのか?」ロイの銀髪の友人は、ロイの顔を見るなりそう表現して大いに笑ったものだった。
「ははっ、喚かれて叩かれて引っかかれて、散々だったようだな。もっとも、自業自得だから、同情はしないが」
「……」
 ロイはムッと友人を睨んだが、すぐにその視線に注ぐ力を無くしてしまった。
「はいはい、そうですよ。自業自得ですよ……」
 ロイはワインをチビチビと飲みながら、自嘲のオーラを醸し出し始めた。
 その様子をジノは面白そうに眺めていた。
「まぁ、お前の場合は自業自得だが、巻き込まれたアルフレッド卿は本当に可哀想だ」
「それは……」
 自身の優秀な副官の事を思い浮かべて、ロイは後悔の息を飲んだ。
 今回は彼に―アルフレッドには本当に損な役回りをさせてしまった、という罪悪感が今回のアーニャへの嘘と同じくらいロイにはあった。
 後から聞いた話によれば、アルフレッドはアーニャからの情報開示の要求を拒絶し続けて、最終的に彼女から決闘を申し込まれたらしい。
 決闘には理由が必要である。アーニャの決闘の理由としては、貶められた名誉の回復のため、ロイ・キャンベルの情報を必要とする、というものだった。

454:創る名無しに見る名無し
09/03/28 00:58:31 8TMLCpAA
しえん


455:KOUSEI ◆g9UvCICYvs
09/03/28 00:59:53 X+38aP1c
 しかし、決闘というものは申し込まれても、受けて立たなければ成立しないものである。いくら、アーニャが決闘決闘と叫ぼうが、相手が知らん振りを決め込めば、それは決闘にはならない。
 だが、大衆の前でいくらラウンズとはいえ少女と形容できる人物に決闘を申し込まれてすごすごと引き下がれるほどアルフレッドは大人では無かったらしく、彼はその挑戦を受けて、二人はKMFの模擬戦で対決する事になった。
「そんで、ものの見事に負けたらしい」
 ジノはなぜか面白そうに言った。
 ロイが聞いた話によると、何でも、アーニャはアルフレッドには“ヴィンセント”に騎乗させ、自身は格闘能力が雌雄を決するKMFの模擬戦で、よりにもよって射撃専用と言ってよい“モルドレッド”に騎乗したらしい。
 しかし、それでアルフレッドは負けた。
 その経緯を、どこから仕入れてきたのかジノも知っていた。
「ギルフォード卿によると、アルフレッド卿はよっぽど無様な負け方をしたらしいな。今は部屋でいじけて、出てこないらしい」
 ジノが肩をすくめた。
「……そうか」
 ロイは、アルフレッドに悪い事をしたという罪悪感は沸き起こっても、アルフレッドがアーニャに負けたという事実に驚く事も疑問に思う事も無かった。
 アルフレッドは一流の騎士であり、その能力に遜色は無い。だが、上司であるロイに言わせると、優秀な副官には少し突出するものが無いように思えた。
 言ってみれば、アルフレッドは優秀ではなく万能なタイプなのだ、とロイは思っていた。この万能なタイプというのは決闘という限られた状況に置かれて、ラウンズのような能力が突出した者たちに勝負されるとすこぶる弱い。
(つまり、アルフレッドは、タイプとしては僕と同じなんだよな……)
 ロイはそう分析した。ロイ自身、実を言えばラウンズの中で一番KMF戦能力的には劣っていると思っている。
 恐らく、ナイトオブラウンズのジノ、アーニャ、モニカ、ビスマルク、ノネットなどと、平原など周りに何も無い所でガチンコ勝負をすれば、全員にコテンパンにされるだろう。というより、今までの、模擬戦の結果がそれを如実に証明している。
 このように、純粋なKMF操縦能力だけでは他のラウンズに劣っているロイだが、それでも、ロイがラウンズとして、同僚たちに肩を並ぶ事を許されているのは、ひとえに純粋な戦闘能力ではなく、戦闘に対する応用力、柔軟力の賜物だった。
 環境、状況を見極め、フェイント、だまし討ちを惜しげもなく駆使し、ただ直進するのではなく、あらゆるものを利用しつつ、時には迂回、時には直進とその場その場に適した行動、戦術を展開する。その場に適した行動の選択力、とでも言えばいいのだろうか。
 そして、この選択力というものは選択できるものが多ければ多い状況なほど、力を発揮するものだ。そして、その選択力が発揮しやすい状況と言うのは、一体一の決闘ではなく、多数対多数が入り乱れる戦場のような場所なのだ。
 そのロイの能力をいち早く見抜いたのはロイド伯爵だった。伯爵は、ロイとスザクの能力を比較し、算定する上で、こう結論付けた。
「ロイ・キャンベルと枢木スザクが同能力のKMFに騎乗し一体一で対戦した場合、おそらく高確率で枢木スザクが勝つ。しかし、お互い同能力の僚機を二機を与えられて、三対三の対戦になった場合、その勝率は反転するだろう」
 選択力。
 敵と戦う。ひとまず逃げる。迂回する。物陰に隠れる。撤退する。交渉する。相手の消耗を待つ。いざ、戦場に立てば、その選択は無限に広がっている。
 その選択を適切に、そして適度に、そして充分な選択肢を保持できる場においてのみ万能なタイプというのは、超一流の能力を持つ者たちと肩を並べる事ができるのである。
 かつて、ジノが引き起こした政庁襲撃事件の時、ロイは自ら出向く事を避け、まず味方のKMFをけしかけ、ジノに体力と精神力の消耗を強いた後、直接ジノの前に姿を現した。
 それは、ロイがジノと真正面から戦っては勝てないという事を良く知っていたからこそ選択した行動だった。
 そういう事もあって万能タイプであるロイは敵と正面から戦う、という選択だけを強いられる一対一の模擬戦などはあまり得意としていない。
 と言っても、ロイの実力は敵と正面から戦う、という一択に絞られたとしても、その実力は他の一流の騎士達の追随を許さないものだ。だが、それでも他のラウンズ―超一流の騎士達と比べると、純粋なKMF操縦能力では一段劣る。
 万能な能力を武器とする人間は、万能な能力を発揮できる状況で戦うべきである。
 これがロイの持論であり。その持論を極限まで極めて、初めてロイは超一流の人間たちと肩を並べる事を許されている、と考えていた。

456:創る名無しに見る名無し
09/03/28 01:00:33 8TMLCpAA
しえん


457:創る名無しに見る名無し
09/03/28 01:00:53 o2FT8FbW
しえん


458:KOUSEI ◆g9UvCICYvs
09/03/28 01:02:54 X+38aP1c
 そういう経緯があり、ロイは自分と同じタイプのアルフレッドが、アーニャに模擬戦であっけなく負けたと聞いても、驚きもせず、まぁ、そうだろうな、とむしろ納得した。
 この場合、アルフレッドの能力を見抜いてKMFでの模擬戦に勝負を持っていったアーニャの作戦こそ流石と言うべきだった。
「とりあえず、アルフレッドにはあとで謝りに行くよ」
「そうだな、ワインでも持っていけ」
 無遠慮に笑って、ジノは哀れな副官の話から話題を変えた。
「ところで、結局アーニャとはどうなったんだ? お前の顔を見ればそれなりの修羅場だったことは想像できるが」
 ロイの端正な顔に走るいくつかの傷と腫れを眺めて、ジノは人が悪い笑みを浮かべた。そんな友人を数秒睨んでから、ロイはため息混じりに口を開いた。
「今度の休日に、アーニャと一日デートする事になった……」
「ほぅ」
「今度の休日に朝九時集合。遊園地の前にショッピングモールで買い物。昼からは遊園地で、夜は三ツ星レストランでディナー。もちろん、代金は全部僕持ちで……」
 ジノは大げさに手を叩いて見せた。
「いいんじゃないか? それで許してもらえるなら、安いものだろ」
「それは、そうだろうね……」
 しかし、ロイは今度の休日を埋め合わせにつかう事で、アーニャからある程度の許しを獲得したにも関わらず、その暗い表情を一変させる事は無かった。
「おいおい、一応許してもらえたんだろ? なら、もういいじゃないか。お前が今すべき事は過去の反省ではなく、未来に向けて、どうアーニャに償っていくかだと思うね」
 ジノのもっともな意見に、ロイは別段感心した様子も無く、その酔いが回り始めた視線を、自分の側面にガラス越しに広がる夜景に向けた。ガラスに映った顔が、ほんのり赤くなりはじめていた。
「それは、そうだけどさ。……それでもやっぱり、女性の涙を流させるのは気持ちのいいものじゃないから」
 ロイはばつが悪そうに呟いて、ワインを口に運んだ。すると同時に、目の前のジノから、息を飲む音がきこえた。
「なんだと……?」
 発せられたジノの声はかすかに揺れていたが、それは別に酔っているからではなかった。
「? どうしたのさ?」
 ジノの様子が目に見えておかしくなったことは、ロイにもわかった。ジノは、まるで白鳥からアヒルの子供が生まれてくるところを目撃してしまったかのような、奇妙な顔をしていた。
 やがてジノは手に持ったグラスを力無くテーブルに戻した。その時、ジノは友人から視線を逸らさなかった。
「泣いた? あのアーニャがか? 目にゴミが入ったとかじゃなくてか?」
 その言い様が、自分を責めているものだと感じたロイは、バツが悪そうに金髪の友人から目を逸らした。
「うん、泣かせた。泣かせてしまった。それはスザクも見てるよ。でも、それは当然と言えば当然で、僕はそれほど、彼女を追い詰めてしまったという事で」
「……追い詰められたぐらいで、愁傷に泣くタマかよ、あいつが」
「んっ? 何か言った?」
「いや、別に……そうか、泣かせたのか。そりゃあ、……めでたいな」
「……なにが、めでたいんだよ」
 ロイが眉をひそめて言うと、ジノはすぐに頭を振った。
「いや、そういうことじゃない。アーニャが泣いた事自体をめでたく思っているわけじゃないんだ。分かるだろ?」
「? 分からないけど?」
 ロイが答えると、金髪の友人は、今度はなにやら失望した様子で頭を振った。
「ああ、そうか。お前はそういう奴だったな……」
「……なんか、失礼な事を言われている気がするな」
 眉を寄せたロイの顔を、ジノはジッと眺めて、やや沈黙を保った。
「何なのさ……」
 ロイが無言の視線に堪えかねて言うと、ジノはアルコールの混じった息を深く吐いた。相当飲んだ事が分かる息だったが、それでもジノの目はしっかりとロイを見据えていた。
「アーニャはさ、別にお前が嘘を付いたから怒ったわけじゃないのさ、お前が違う女性との約束を優先させたから怒ったんだ」
「?」
 ロイはジノの言葉の意味をじっくりと頭の中で咀嚼してみた。しかし、結局、
「えっと、それはどうちがうの?」
 と答える以外の選択肢を選び出せなかった。
「……こういうのは教えてもらうものじゃなくて、自分で考えて答えを出すものだ。っと、これは前にも言ったな」
 ロイは怪訝な顔をジノに向けた。
「ジノ。君は時々、訳の分からない事を言って僕を困らせるね」
「普通はだれでも分かることだ。それでも訳が分からないと思うのは、それはお前が勉強不足だからだ。俺のせいじゃない。他人のせいにするな」
「……」

459:創る名無しに見る名無し
09/03/28 01:03:24 8TMLCpAA
しえん


460:創る名無しに見る名無し
09/03/28 01:04:58 +Py+E+SY
支援

461:KOUSEI ◆g9UvCICYvs
09/03/28 01:07:19 X+38aP1c
 ロイは何も言い返せなかった。理由は分からないが、友人の言葉に強い説得力のようなものを感じたからだった。
 黙り込むロイをよそに、ジノはグラスを空にすると、そこにまた赤い液体を注いだ。
「泣く、というのは嬉しい悲しい等、様々な理由の違いはあれ、自分に許容できない出来事が起こった時の情緒的反応なんだ。そうは思わないか、ロイ?」
 ロイは無言で頷いた、言っている事に間違いは無いと思えたからだった。
「そして、許容できない、というのはある意味その出来事に強い関心を抱いているという事だ。本気で泣く、本気で怒るというのは必ずその人が強い関心を持っているものが変化して起こるものなんだ。
 そして、俺が知ってるかつてのアーニャは世の中の全てに関心が無いようだった。少なくとも、俺はそういう風に見えた」
「……」
「だが、アーニャはお前に向かって泣いた。それはどういう事なのか分かるか? つまりその答えは、どうやらアーニャにとってお前は、容易に許容できない相手だという事さ」
 ロイはそれを聞いて、数度まばたいた後、ポリポリと頬を掻いて、
「えっと、よく分からないんだけど、それってつまり、僕はアーニャに嫌われてるってことかな?」
「何でそうなるんだ!?」
 ジノは信じられないと言った様子で地団太を踏んだ。
「お前はアーニャにとって強い関心がある相手だ、って言ってるんだよ!」
 それを聞いて、ロイは、
「ああ、うん。それはそうだろうね」
 と、素直に認めた。
 この態度はジノにとっては意外だったのか、彼は銀髪の友人をしばし呆然と眺めた後、「おおっ!」っと、大いに笑った。
「なんだ分かってたのか。そうか、そうだよな、いくらお前でもそりゃあ分かってるよな。さすが俺の親友は賢いねぇ」
 ロイも笑って言った。
「当たり前だろ。だって、僕とアーニャは仲間じゃないか。強い関心を抱いて当然だよ」
「……」
 ジノは疲れた顔をして、友人とカンパイしようとして上げたグラスを、無言で下げた。

 〇

 その場所には何も無かった。他の部屋と違い、豪華な調度品も、絢爛にかがやくシャンデリアも何も無い。
 ブリタニア帝国。その皇帝にしか入室を許されていないとある部屋。そこには前面の壁を占領するテレビ画面だけがあり、後はむき出しのコンクリートの壁が周りを覆っている。
 その画面の前に帝国最大の権力者、皇帝シャルル・ジ・ブリタニアが微動だにせずに佇んでいた。
 そのまま数分が過ぎた。
「きたか」
 シャルルがそう呟くのとほぼ同時に、テレビの画面に光が灯った。
『……やぁ、またせてしまったかな?』
 画面には少年の姿が映った。長い髪をオールバックにして髪留めでまとめているあどけない顔立ちの十歳前後の男の子だった。
「いえ、そんな事はありませんよ“兄さん”」
 シャルルは口元を吊り上げて笑った。帝国の皇帝が目の前の少年を尊重ような今の口調は、見る人が見れば不審に思うに違いない。しかし、これでいいのだ。なぜなら彼らは兄弟であり、シャルルが弟で少年が兄なのだから。
『忙しいのに、わざわざ呼び出してすまなかったね』
 少年は天下のブリタニア皇帝に対して、あくまで尊大な口調を緩めなかった。しかし、この二人の間ではそれが普通なのである。
「構いませんよ兄さん、それで、話とは?」
『彼についてだよ、シャルル』
 どこか柔和に微笑んでいたシャルルの顔が、皇帝の威厳と取り戻したように見えた。
「彼については、すでに報告したと思いますが?」
『ああ、聞いてるよ』
 兄は注意して見ていなければ気付かないほど微細に頷いた。
『でも、やはり、君の口からちゃんと聞いてみたいと思ってね』
「この一年間、彼の事については私に任せてくださっていたではありませんか」
『だから、急に気になったのさ。いけない事かい?』
 アゴを上げてこちらを見下ろす形になった兄の姿に、シャルルは首を小さく振って応じた。
「いえ、いけなくはありません」
 その返答に、兄の方は少なからず納得した様子だった。兄は足を組み替えて頷くと、少年らしい小さな唇を動かし、饒舌に話し始めた。
『ねぇ、シャルル。もしかして君は迷っているんじゃないのかい? 自分が本当に正しいのかを』
 シャルルは数秒間、沈黙を通した。
「兄さん。話が見えませんが」
 弟の返答を、兄は不敵な微笑みで受け止めた。
『あまり、言い回しをする趣味は無いんだ。だから、単刀直入に聞くよシャルル。シャルル、君はあの計画の実行、それ自体を迷ってはいないかい?』
 シャルルの眉間の溝が深くなる。兄の方は、構わずに言葉を続けた。

462:創る名無しに見る名無し
09/03/28 01:07:27 8TMLCpAA
しえん


463:KOUSEI ◆g9UvCICYvs
09/03/28 01:10:41 X+38aP1c
『そして、それを見極めさせるために彼を生かした。彼は僕達と立場が似ているからね。
 そんな彼が、僕達と同じ考えにいたるのか、それとも違う考えにいたるのか。同じ考えに至れば、僕達の行動の正しさは補強されるよね。こんな世界ならば、それは塗り返すしかないという選択を確信に近づける事が出来るわけだ』
 兄は淡々と、沈黙を守る弟に言葉をかけ続けた。
『でも、もし彼が違う結論に達し、僕達とは違う世界救世の道を見つけたのなら、その時は……』
「何がおっしゃりたいのですか」
 兄の口の動きを、シャルルは言葉で止めた。兄は表情を変えずに弟の返事を受け止めた、ように見えた。
 しばらく、兄弟の視線が重なり合った。その交差にどんな意味があるのか、それは兄弟である二人には果たして分かっているのか。
『少数派になるのは嫌かい? シャルル』
 弟から視線を外さず、兄はどこか淡々ながらも妙に圧迫感を感じさせる口調で尋ねた。
 シャルルは眉間に溝を作った表情を変化させなかった。
「兄さん」
 重い口調で言うと、シャルルは改めて兄を見据えた。
「私は本気で計画を果たそうと考えています。奴を生かすのは計画に使える人材だからです。それ以上の理由はありません」
『……信じても?』
 その問いに、シャルルは心外だとでも言いたげに、ただ一度、コクリと頷いた。
「誓いをお忘れなのですか、兄さん?」
 問い返されて、兄はどこか値段を見積もる鑑定士のような表情で弟の齢五十を過ぎながらいまだ少壮を感じさせる顔を見つめた。やがて、
『……そうだね。そうだねシャルル。悪かった。どうも歳をとると心配性になっていけない』
 首を振って兄は謝罪した。弟シャルルの顔に再び微笑が戻った。
「私は兄さんに嘘はつきませんよ」
 その言葉に、兄は心底満足そうに頷いた。
『うん、そうだね。この世でたった二人の兄弟だもの』
「ご納得いただけましたか」
『ああ、つまらない事を聞いた。忘れてほしい。お詫びといってはなんだけど、今日は夕食を一緒にしないかい? 教団に用意させるから』
「いいですな。では、時間になったら伺いますよ」
『待っているよシャルル。僕のたった一人の弟』
 その言葉を最後に通信は途切れた。それでもシャルルは数秒間、灰色の画面に向ける微笑を絶やさなかったが、やがて、表情を厳格なものに戻した。
「迷っている、か……」
 視線を下に向ける。しばし考えて、シャルルはどこか吐き捨てるように呟いた。
「人は何事にも完全な自信は持てぬもの。あなたもそうだろうに、兄さん……」
 その呟きは誰にも聞かれることはなかった。

 シーン10 終わり
 シーン11『シャーリー』に続く。

464:KOUSEI ◆g9UvCICYvs
09/03/28 01:11:58 X+38aP1c
 投下終了です。
 支援感謝です。
 今後は不定期更新(また一ヶ月ほど空くと思います)になるとは思いますが、物語の最後まで投下したいと思いますのでよろしくお願いします。

465:創る名無しに見る名無し
09/03/28 01:59:55 +Py+E+SY
>>464
お久しぶりです。そして投下GJでした!!
何があったかは聞きません。投下して下さったのですからw

アーニャ可哀想に…けど、デート出来る事になったし結果としては良かった…んだよな?w
さてさて、カレンがいよいよ核心に迫らんとしている!
一方で、皇帝達の間にも何やら不穏な空気ですか……
今後の展開が楽しみでなりません。
いやぁ、本当に嬉しいです。
次回の投下もお待ちしてます!

しっかし、ロイは鈍いにも程があるwww
ここまで鈍い友達相手にジノは良く耐えたなぁw

466:創る名無しに見る名無し
09/03/28 02:03:51 DUcj2+Ml
>>464 GJでした!
お久しぶりです!待ってましたよw
あいかわらずメチャクチャ楽しかったです。
ロイはあそこまでしてもアーニャの思いに気づかないとは…
次回も首を長くして楽しみにまってます!!

467:創る名無しに見る名無し
09/03/28 02:31:50 O3/1VCSp
投下乙です。待った甲斐がありました!
あいかわらずとても引き込まれる文章でサクサク読めました。
次はついにあのシーンになるのか・・・。
貴方の次回の投下を楽しみに待っております。

あと、ロスカラ1周年おめでとう!!

468:創る名無しに見る名無し
09/03/28 04:04:14 7f4HEMMl
KOUSEI卿、一日千秋の思いでお待ちしておりました。

今回を一言で言い表せるなら、まさに『萌』ですな!!
ロイの浮気(?)に涙するも、泣き寝入るのではしっかり折檻する姿に悶えましたw
しかし、まさか『生きろ』のギアスにまで反応するとは・・・アーニャ、恐ろしい子。
まさに物語の核心に迫ろうとするカレンとナナリーも、頭上で当の本人が修羅場を繰り広げているとは思わないでしょうねww

次回はついに12~13話に迫りますか。
ミレイ会長の卒業イベントでロイとアーニャの行方は!
記憶を取り戻したシャーリーが明かすロイの正体は!!
ロイは訪れることが確定している悲劇を救えるのか!!!
・・・・・・そして、ロイとジェレミアが接触したならば、どんな結果を齎すのか!!!!

次回の投下、全力でお待ち申し上げます!!


P.S

トーマス卿、何故かスレ37に投下されたMrスケアクロウ卿の
「Another Lost Colors 色とりどりの世界を君に」3話が保管されていませんでしたよ


469:創る名無しに見る名無し
09/03/28 04:16:31 7f4HEMMl
<<468です

後、千葉はライの嫁の「コードギアス The reborn world」5話もです。
両作品とも楽しみにしているので、是非保管していただきたいのですが・・・・・・

遅ればせながら、祝・ロスカラ一周年記念!
そして、R2での続編をぜひに!!

470:創る名無しに見る名無し
09/03/28 06:43:32 1QR0Ufs8
>>464
ああ、乙でした!
スザクとライの薄刃の上のような駆け引きに緊張。
アーニャに中断されてしまってほっとしたような残念なような。
またの投下を、お待ちしています。

>>436
面白かった!
さっくり読めてじんとする。素敵だなあと思います。
CCとカレン、女同士の組み合わせ、いい雰囲気ですよね。

471:保管者トーマス ◆HERMA.XREY
09/03/28 08:56:50 u62ovM+G
>>468-469
申し訳ありません。現在当方のトラブルにより、(比較的古いもの以外の)SSの閲覧は「スレッド別一覧」からのみ可能となっております。
復旧に暫く時間が掛るものと思われます。何卒ご了承ください。

472:創る名無しに見る名無し
09/03/28 11:08:00 1dSwounP
>>464
KOUSEI卿、GJでした!
ミーヤとデートしながらも、それを手段としてルルーシュの情報を収集する。
初めてのデートでそんな余裕があるのが凄いね。
あるいは特別な感情を持っていないからそういう事が出来るのか……
スザクとの会話中に割り込む―いや、殴り込むアーニャ、ひでぇw
気を抜いているときにリバーブロー、死ねるな。
涙を流しながらロイをぶつアーニャ、進展があるかと思いきや―ジノの頑張りに期待。
少しギャグになりかけなところで『生きろ』ギアスでシリアスなかんじにする、流石です。
カレンとナナリーとの対話、カレンはロイの事を知ってどう反応し、またどの様な行動を取ろうと思うのか。
カレンとロイ、二人が会ったら―
ライの強さの説明、万能型。
状況によって器用貧乏、凡庸型となりうるその強さをどの様に活かすか、読んでいて納得です。
皇帝兄弟の会話、シャルルは兄が既に嘘をついている事を知っている。
シャルルの言葉は嘘か真か……
今回も非常に楽しく読ませていただきました。
貴公の次の投下を全力を挙げてお待ちしております!

473:創る名無しに見る名無し
09/03/28 11:30:27 pvpdu0V/
むしろこの場面でのゐ㌔ギアスはギャグにしか・・・ゲフンゲフン

KOUSEIさんお久しぶりです、ずっと待ってました!
シリアスとギャグのバランスが絶妙で素晴らしい。
次回も楽しみに待ってます

474:創る名無しに見る名無し
09/03/28 11:57:16 hWc9W17K
>>464 KOUSEI卿、お待ちしておりました!
この作品は、俺の中では、ロスカラSS最高傑作です!
ストーリーはいよいよ核心に迫ってきましたね。カレンが捕まってナナリーとの再会を果たしライについて話すのは想像の通り再現されましたw
第二次東京決戦でライ、カレン、アーニャ、ナナリー、ルルーシュ、の運命がどう交錯しどういうルートに入っていくのか、無数の選択肢の中今から楽しみでしかたありません。
でも、本音は、そろそろライカレで本編への胸のすくような反逆、ハッピーエンドへのフラグ乱立を見たいんですけどね!(笑)
というわけで、どんなに先になろうとも卿に最後まで付き合います!次回会える日を心からお待ちしております。

475:エノコロ草 ◆svacoLr1WE
09/03/28 14:00:11 1QR0Ufs8
・・・画像掲示板投稿報告です・・・

タイトル「生徒会でお花見」

lost colors 発売一周年に、
とにかく何かおめでたい絵を描こうとしたらこうなりました。
ちいさな生徒会キャラクターみんなでお花見です。
よろしければ >>4 の画像掲示板より閲覧ください。

・・・
一周年に間に合わなかったなあと思っていたらちょうど規制が解除。
たいした賑やかしにもならないですが
これからもときどき投下させていただければ幸いです。

476:方舟 ◆4tSXkFB4r.
09/03/28 21:46:37 Dh9hAP9N

えー、まぁ覚えている人は居られないと思いますが、お久しぶりでございます。

本日の21:50くらいからSS投下します。
短編なので支援は必要ないと~


【メインタイトル】
僕と彼女の関係
【サブタイトル】
《C.C.の場合》
【CP】
ライ×C.C.
【ジャンル】
不明。……日常風景?



477:方舟 ◆4tSXkFB4r.
09/03/28 21:53:07 Dh9hAP9N

トウキョウ祖界。
エリア11、南東部に位置する都市―政庁が置かれている事を考えると“首都”と形容してもいいかもしれない。かつて、この国が『日本』と呼ばれ、この地が『東京都』と呼ばれた頃と変わらず、トウキョウはこの国の中心地だった。

祖界、繁華街の大通りに面したとある飲食店…そのオープンテラスに僕と彼女はいた。
オープンテラスには白を基調とした円形のテーブルが5つほど置かれており、僕達はその1つに腰を下ろしている。
目前のテーブルには、先程、店内から女性の店員が素敵な微笑みと共に届けてくれた平べったい箱が。
その中にはスライストマトやピーマン、ペパロニサラミなど定番中の定番と言えるトッピングが乗せられたピザが、我が物顔で鎮座している。
微かに視認出来る白い湯気が、そのピザが出来たてであること雄弁に語っていた。
その名は、トッピングの彩りに違わず『ベーシックピッツァ』。バラエティーに富むピザが売りのこの店において、最もシンプルな商品であり、最も人気の高い商品でもあった。
原点回帰、とでも言うのだろうか。
まだ幼い子どもなどは、やはり目を引くバラエティーに富んだピザを食べたがる様だが、玄人となると極々シンプルなものを好むものだ。というのが正面の席に座っている少女―かどうかは怪しいものだが、外見の上では間違いなく“少女”である―の弁。
少女…C.C.は店員が『御待たせ致しました』という定番句を添えてテーブルに置いたピザ箱の蓋を開くと、一瞬、顔を綻ばし喜びの感情を全面に押し出したが、次の瞬間にはその表情を霧散させた。
直ぐ目の前に、他者…つまりは僕、が居るのを思い出したのだろう。
彼女は打って変わった無表情で、ピザの一切れに手を伸ばすとそのまま緩やかな動作で頬張る。



478:方舟 ◆4tSXkFB4r.
09/03/28 21:55:11 Dh9hAP9N

……どうでもいい事だが、無表情ではどうしても美味そうには見えない。なんて考えていると、


「ほら、ライ。お前も一つ食ったらどうだ?」

C.C.がそう言って僕に促した。正直に白状しよう。僕はこの時、心臓が口から飛び出るかというくらいに、驚いた。

またルルーシュに部屋を追い出されたのだろう、『記憶探し』を手伝うなどと口から出任せ(建前や口実とも言う)を言い今日も彼女は、僕にピザをたかっていた。………のだが。
普段の彼女なら絶対に口にしないだろう言葉に、内心の戸惑いを隠せない。
しかしまぁ、その珍しい気遣いに甘えるのもまた一興だろう、と僕は目を白黒させながらも均等に切れ目の入ったピザの一切れに手を伸ばした。
――すると、何故かその腕をC.C.に掴まれた。
…………。
数秒、物言わぬ沈黙に辺りが包まれて。

「…どういうつもりだ?」

困ったように僕が訊ねると、

「“それ”は駄目だ。チーズと具の配合が絶妙の場所なんだよ。私が食う」
「………。わかった」

そこまで言うなら仕方がない。“それ”の右隣の切れを取ろうとすると、

「“そこ”も駄目だ。私が食う。……他のを選べ」
「………」


どうやら、“それ”と“そこ”は駄目らしい。
そのまま手を右回りで動かす。

「あぁ。それもだ」
「…………」
「それも」
「………」
「そこもだめだ」
「……」
「一応言っておくと、…それもだぞ?」
「…」

盛大な溜め息を吐き出しそうになったが、堪える。それでも、僕は不快感を敢えて隠すことなく、

「…じゃあ、“どれ”を食えと言うんだ?」

努めて抑揚を無くして言葉を紡ぐ。

「悪いな。よくよく見てみれば、お前にあげれるような物は一つもない」

特に悪びれる様子もなく、淡々とした口調で彼女は言った。
殆んど無意識の内に、ぴくり、と眉が跳ねた。
激情には程遠く、しかし穏やかなままでも居られない。言葉では言い表し難い、妙な感情が胸を燻る。

そんな僕の心情が見て取れたのだろう。さも可笑しそうに、C.C.の口元が弧を描いていた。




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