コードギアス反逆のルルーシュLOST COLORS SSスレ37at MITEMITE
コードギアス反逆のルルーシュLOST COLORS SSスレ37 - 暇つぶし2ch3:創る名無しに見る名無し
09/02/24 23:44:56 eaiT05oZ
■創作発表板での投稿規制について 参考(暫定)

1レスで投稿可能な容量
 ・X:1行の最大 / 255byte
 ・Y:最大行数 / 60(改行×59)
 ・Byte :最大容量 / 4095Byte
  但し、改行に6Byte使うので注意。例えば60行の文なら59回改行するので
  6Byte×59=354Byte これだけの容量を改行のみで消費する

さるさん( 過剰数の投稿に対する規制 )
 ・1時間に投稿できる数は10レスまで。それを超えると規制対象に
 ・毎時00分ごとにリセット。00分をはさめば最長20レスの連投が可能

連投規制( 連続の投稿に対する規制。短い間隔で連続の投稿ができない )
 ・30秒以上の間隔をあければ投稿可

おしりくさい虫など( 携帯のみ?同一内容の投稿に対するマルチポスト規制 )
 ・「支援」などの同じ言葉を繰り返し投稿することでも受ける規制。
  違う内容を投稿すれば解除される。スペースを挟むだけでも効果あり

4:創る名無しに見る名無し
09/02/24 23:45:28 eaiT05oZ
■画像投稿報告ガイドライン

ロスカラSSスレ派生画像掲示板
 PC用  URLリンク(bbs1.aimix-z.com)
 携帯用(閲覧・コメントのみ) URLリンク(bbs1.aimix-z.com)

1.タイトルとコテハン&トリップをつけて絵を投稿する。
  尚、コテハン&トリップについては、推奨であり強制ではありません。
 ・挿絵の場合は、誰の何のSSの挿絵と書く
 ・アニメ他公式媒体などにインスパイアされた場合は、それを書く(例:R2の何話をみてテンさんvsライを描きました)

2.こちらのスレに以下のことを記入し1レスだけ投稿報告。
  (SSの投下宣言がでている状態・投下中・投下後15分の感想タイムでの投稿報告は避けてください。)
  例:「挿絵(イメージ画像)を描いてみました。 画像板の(タイトル)です。
     ~(内容・注意点などを明記)~ よかったら見てください。」
 ・内容:挿絵の場合は、SSの作者、作品名等。それ以外のときは、何によってイメージして描いたのかなど
 ・注意点:女装/ソフトSM(首輪、ボンテージファッションなど)/微エロ(キス、半裸など)
      /ゲテモノ(爬虫類・昆虫など) など(絵はSSに比べて直接的に地雷になるので充分な配慮をお願いします。)

 画像掲示板には記事No.がありますので、似たタイトルがある場合は記事No.の併記をおすすめします。
 *ただし、SSの投下宣言がでている状態・投下中・投下後15分の感想タイムでの投稿報告は避けてください。

3.気になった方は画像掲示板を見に行く。
  画像の感想は、原則として画像掲示板に書き、SSスレの投稿報告レスには感想レスをつけないこと。
  画像に興味ない人は、そのレスをスルーしてください。

4.SSスレに投稿報告をした絵師は以下の項目に同意したものとします。
 ・SSスレに投稿報告した時点で、美術館への保管に同意したものと見なされます
 ・何らかの理由で保管を希望しない場合は、投稿報告時のレスにその旨を明言してください
 ・美術館への保管が適当でないと判断された場合、保管されない場合もあります
  (ロスカラ関連の絵とは言えない、公序良俗に反するなど)

5:創る名無しに見る名無し
09/02/24 23:45:54 eaiT05oZ
以上です

6:創る名無しに見る名無し
09/02/25 00:36:39 Og4cIUmJ
>>1
乙でした!

7:創る名無しに見る名無し
09/02/25 00:41:08 WrtkXV7h
1さん乙でした~
新スレでもがんばって投下しますよ~

8:創る名無しに見る名無し
09/02/25 00:48:34 9BWSNgsW
>>1
乙です

9:創る名無しに見る名無し
09/02/25 01:06:38 JlDDsaKb
>>1さん並びにトーマス卿乙であります。

10:創る名無しに見る名無し
09/02/25 02:15:53 Ptc5ed7L
あと30日で発売から1年たつのか。
>>1

11:創る名無しに見る名無し
09/02/25 06:59:54 2Mt0Vmek
もう一周年か。久しぶりにロスカラをプレイするとしよう。

12:創る名無しに見る名無し
09/02/26 01:19:14 yZPRV19u
この板って即死あるのかな?

久しぶりに再プレイしようと思ったらPSP充電器みつからんがな

13:創る名無しに見る名無し
09/02/26 08:06:59 WmtE55fF
まじで?

14:poppo
09/02/27 00:09:58 XhNZrNwc
POPPOです。
今から

コードギアス LOST COLORS
「反逆のルルーシュ。覇道のライ」

TURN00 「終わる日常」 (中編7)
を投稿します。
長いですけど、支援は必要ありません。
それではいきます。


15:POPPO
09/02/27 00:11:01 XhNZrNwc
医療用のトレーラーが到着し、周囲を黒の騎士団に見張らせた。僕とルルーシュは乗り込んだ。
ルルーシュは主治医と看護士たちにギアスをかけた。正体を知られない為とはいえ、仲間にギアスをかけるのは辛いものがある。
緊急手術が行われ、ギアスをかけられた医療スタッフは淡々と治療をこなしていった。患者が仮面を外した『ゼロ』だというのに全く気にする素振りを見せない。
彼らには一団員を治療しているという認識しか無い。僕から見ても少し異様な光景だった。
弾丸は貫通していて、出血がひどかったが、医師によればルルーシュの命に別条は無いということだった。
僕はルルーシュの手を握った。
温かい。
生きているという証。無事だとわかっていても僕は落ち着いてはいられなかった。
目の前で大切な人が傷つくのはもうたくさんだ。
「…ライ」
僕の手を握り返してきた。声を聞いた僕は顔を上げた。ルルーシュは僕の顔を見て、少し驚いていた。
「…泣いているのか?」
「…泣いちゃ、悪いか?」
「フン…そんなことは、言っていない」
僕は両手でルルーシュの手を握る。
男とは思えないほどの白い肌と細い指。これが日本の救世主と言われるゼロの手だ。
でも、彼の手はこんなにも弱くて儚い。
「…ライ」
「ん?何だい?ルルーシュ」
「…俺は、ゼロは、利用されたのか?」
「…ああ、おそらく僕たちに似たギアスの持ち主だ」
「俺は、おれは…」
「今は安静にしてくれ。俺が捕まえる。いや、殺す。だから…」

「ユフィはどうなった?」

その言葉を聞いた途端、僕の体が無意識に動いてしまった。
平静を装うつもりだったのに。ルルーシュに悟られてしまったのだろう。苦笑いで僕を見つめた。
「相変わらず…お前は優しい嘘は下手だな」
「…ごめん」
ルルーシュの手を握る僕の手が震えてきた。ルルーシュは笑っているが、涙を必死に堪えていることは丸分かりだ。
先ほど、連絡員からユフィの状況が伝えられた。言おうとすると声がかすれてしまって、うまく喋れない。
どうして、こんなことに。
どうして、どうして!
「ライ。嘘は言ってほしくない。…ユフィは、どうなった?」
「ゆ、ゆう、ユフィは――――――――――――」






16:POPPO
09/02/27 00:11:45 XhNZrNwc
コードギアス LOST COLORS
「反逆のルルーシュ。覇道のライ」

TURN00 「終わる日常」 (中編7)




「死んだ―――――――――――――」

クレイン総合病院。
優秀な医療人を多く輩出する名門貴族、クレイン家が経営する病院の一つであり、トウキョウ租界にある医療施設。
最新鋭の設備に優秀な医療スタッフを集めたVIP専用の施設であり、エリア11に来訪す大貴族や皇族もこの病院を利用している。
貴族らしく豪華に装飾された病院の内部。
その一室で、一人の少年が天井を見上げていた。室外では多くのブリタニア軍人が周囲を警備している。
彼の顔は涙の跡が濃く残っていた。放心状態で視点が定まっていない。
血塗れになった服を着たままで、スザクは呆けていた。

悪い夢だと思った。
ユフィがゼロを撃つなんて。
ユフィが撃たれるなんて。
ユフィが、死ぬなんて。

これは夢だ。そう思いたかった。
でも、僕の手が現実だと言っている。
ユフィの手が冷たい。
僕が握っても、どんどん体温が失われていく。強く握っても、少しも動いてくれない。

それが許せなくて、僕はユフィの体を抱きしめた。
強く。強く。
僕がこうするとユフィはいつも決まってこう言うんだ。
≪痛いよ。スザク。でも、大好き≫
でも、ユフィは目を閉じたまま何も言わない。
何も喋ってくれない。
ユフィの体から薬品の匂いともに彼女の匂いがした。
その匂いを胸一杯に吸った。
ユフィを抱いてる時に感じた匂いを。
体温を。
温もりを。
愛を。
僕は思い出していた。

また、視界が滲む。
あれだけ泣いたのに。
あれだけ叫んだのに。
まだ僕の瞳から涙が零れ落ちた。
「ユフィいい…僕は…君が……何であんなことを、したのか…分からないよ」
僕の腕にいっそう力がこもる。自分の涙を拭わず、ユフィを抱きしめた。
ただ悲しかった。
一体、何が起こったんだ?
あの時のユフィはユフィじゃなかった。
ユフィは一度も日本人をイレブンと言ったことは無かった。
公の場でもイレブンという言葉を使うのは極力控えてた。それはユフィがナンバーズという区分を嫌っていたからだ。
僕の手を払って…
あれじゃ、まるで…


17:POPPO
09/02/27 00:12:29 XhNZrNwc
その時、スザクの脳裏に一つの記憶が蘇った。

(まるで―――――――――――――?)
(ちょっと待て。たしか、半年前の式典で…)
(あの時は確か、僕は気を失って…気が付いたらライが撃たれていて、ユフィが倒れていた)
(今回はゼロが撃たれて…まさか)
(半年前は失敗して…)
(今回は、成功した?)
スザクは自分が知る由もない陰謀の輪郭を見た気がした。
体中の熱が冷め、もう一度ふつふつと『何か』がこみ上げてきた。
自分の身も心も染め上げてしまう『何か』が。
(一体、何が、いや、誰が。この事件には黒幕がいるのか。裏で手を引いている誰かが!)
(ライか!?いや、そんなことはない。ありえない!ならば、ゼロか!?しかし、自分を撃たせるわけが無い。でも、あのゼロが影武者だとしたら…だとしたら!)

「教えてあげようか?」

唐突に後ろから声が聞こえた。
スザクが振り向くと一人の少年がいた。
「…君は」
地面に届くほどの長いブロンドの髪。貴族のような煌びやかな衣装。
整った容姿に全てを見透かすような真紅の瞳。病院には相応しくない格好をしていた。
彼の口元が薄く開く。
「はじめまして。枢木スザク。僕の名前はV.V.(ブイツー)」
「…V.V.?」
そして、彼は語りだした。彼の知る『真実』を。






18:POPPO
09/02/27 00:13:50 XhNZrNwc
「あ、アン!しっかりして!アンッ!!」
煙と炎が辺りに漂う中、私はアンの前にしゃがみ込んで傷を確認した。
深い。
そして大きい。
白いカーディガンが真っ赤に染まっていた。
それだけでは留まらず、床にアンの血が広がっていく。
両腕が折れていて、腹部からの傷が酷過ぎる。私のジャケットを被せたのに、紺のジャケットが黒く染まっていく。
瞳孔が少し開いていて、両眼の焦点が合っていない。メガネの破片が額に食い込んでいる。
口が震える。
私は思ってしまった。
近頃、医学書を読みあさっていて、断片的に知識があるからこそ、冷静に事態を把握してしまった。

もう、アンが助からないことを。

「い、いたい、い、いい、いたいよぉ…」
「アン…お、おおお、お願い、死なないで!お願いだから!!」
私はメガネを外して、アンにギアスをかけた。
この近距離だと対象者の神経を遮断できる。
だから!
アンが私の顔を見た。両目の焦点が私の顔で合わさった。
「…あれ?い、痛みが」
「アン!動いちゃだめ!今、薬で痛みを止めてるから!!」
「……リリーシャ?何で、カツラなんて、被ってるの?」
「そ、そんなことはどうでもいいから!じっとしてなさい!い、いいこと!救命医が来るまでアンは…」
「あはは。リリーシャ。涙で顔が、グシャグシャだよ…」
「笑わないでよ!!お、お願い!アン!あなたがいないと、私…」
「う、うふふ…。リリィが取り乱すなんて、初めて見た」
「うぐっ!い、いいじゃない!私は、完璧な人間じゃないんだから!た、ただ粋がってる、ただの…」
私の視界は涙で歪む。
アンの顔に、大粒の涙が零れ落ちた。
ハンカチで血と一緒に優しく拭う。
「私、わたし、アンがいないと何もできないの。昔に戻っちゃう。だから、だから…」
「…変なの。リリィが、弱音を吐くなんて…似合わないよ」
「わ、わたしは、つ、つよ、つよくなんか、ないぃ。私は弱虫で、それを隠すために…」
「…うん、知ってる」
声が震えていた。鼻水だって出ているかもしれない。
頭が真っ白で。でも、アンの顔がたくさん出てきて。何で。何で…
「昔…と、友達を、私が、死なせてしまったから、本国から、に、逃げてきただけで…」
「うん」
「ただ、じ、自分が、天才だって、自惚れてて、ほ、ほかの人を、見下してい、た、だけでっ…」
「知ってる」
「アンが、はじめてなの、わ、わたし、を、怒って、くれたのは。アンが、き、きき、気づかせてくれたの。わ、私がぁ、わ、あああぁ」

アンがいつの間にか私を抱きしめていた。
痛みが無くて、骨折していることに気づかずに。
『あの時』みたいに、
アンが私を包み込む。


「全部、知ってるよ」




19:POPPO
09/02/27 00:14:28 XhNZrNwc
アンが私に、そっと呟いた。
私はもう何も言えなかった。
目も、声も、震えて、上手く動いてくれない。
アンの血の匂いがする。
私は汚れることも厭わず、アンの背中に手をまわした。
ビチャ、といやな音がした。
「リリィ。私ね。今日、パパに、会いに、行ったんだ…」
うん……仲直り、したの?
「ママも、来るはず、だったのに、来な、かったんだよ」
うん…
「パパ。もう一度、や、ヒュッ、こほっ…、やり直したいん、だって、私たち3人で…」
うん…うんっ…
「でも、パパ。次も誘うって、絶対、やり、直す、って。パパの、あんな、にし、真、剣な顔、はじ、ひっ、めて見た」
うっ、うん。アンのパパが、ようやく…よ、よかっ…
「わ、わた、ひ、ヒュー、し、パパの、こと、見、なおし、た、んだ」
「リ、リィが、ア、ドバイ、ス、スしてく、れたおか、げ、だ…よ?」
私はただ、結婚記念、日に何かプ、レゼ、ん、ントしたほ、うがいい、っていっただけで…すごいの、はアンの…


「わたし、リリィ…に、かん、しゃ、して……」







――――――――アン?
私は力を失ったアンの腕を振りほどいて、アンの顔を見つめた。
口が開いたまま、動かない。
体中に怖気が走る。
「…アン?お願い。目を開けてよ。目を閉じてないでさぁ」
私の足元にヒビが入るような、そんな感覚が、私の全身に伝わる。
「…私、言うこと聞くからさ。じゅ、授業は、真面目に受けて、に、二度と、サボったりしないからさぁ、お願いよぉ」
「あなたと、ま、また、遊園、地に行ったり、ふ、服を買いに、行った、りしたいよ…」
私はもう一度ギアスをかけた。
対象者に意識が無くとも、対象者が生きていれば体を動かすことができる。
そう、生きてさえいれば。体を操ることができる。
しかし、アンの体は動かなかった。
いくら強く念じても、強く『命令』しても、
指一つ動かない。
対象者が生きていれば、生きてさえいれば。
つまり、アンはもう死ん―――――


「いやっ、いやあ、いっ、いやああああああああああああああああああああああああ!!!」







20:POPPO
09/02/27 00:16:07 XhNZrNwc
同時刻。
式典会場から遠く離れた場所に、数十機の月下と一台のKMF運搬用のトレーラーが止まっていた。その周囲には黒のジャケットを着て、武装している人間が多数いる。
副司令が率いる壱番隊の部隊だ。
杉山賢人は壱番隊の副隊長。
月下の腕に寄りかかりながら、無線機で連絡を取っていた。
『ユーフェミアぁ。よくもゼロを撃ちやがって!』
「吉田!落ち着け!藤堂弐番隊長がプランF の指示が出てる。早く所定の場所に行け」
『プランF!?まさか…』
「…ああ。最悪の状況だ。今、参番隊もそっちに向かってる」
通信を切った後、またすぐに連絡があった。
零番隊長からの通信だ。
「カレン。どうした?」
『ねえ、杉山さん。ライは、ライはどうしたの!?まだそっちに来てないって本当!?』
「今、こっちからも連絡を入れてる。プランFはライの指示らしい。あとは…」
『ライに何かあったの!?ねえ!』
「…まだ情報が回ってきてないんだ。会場で何かがあった事は間違いないみたいだが、今は何とも言えない」
『くっ!ごめんなさい。杉山さん。今、朝比奈参番隊長から連絡が入ったから…』
「ああ、分かった。ライと連絡がとれたらすぐ報告するよ」
『ええ!お願い!』
そう言うと通信が切れた。
杉山は無線機を握りしめた。
歯を食いしばると、杉山は思い切り小石を蹴り飛ばした。前方にいた月下に当たり、振り向いた。
いまだライから連絡が無く、彼は動けずにいる自分に苛立っていた。
「クソッ!カレンを心配させるなよ。ライ。泣かせたら、タダじゃおかねえからな」




同時刻。
「ゼロ様が撃たれた!?」
シズオカにあるキョウト六家の別荘。
巨大な日本庭園があり、かつては文化遺産の一つであった屋敷。
その一室にある大スクリーンに桐原の顔が映し出されていた。
皇家の代表、神楽耶はその報告に身を震わせた。
『命に別条は無いということだが、安心は出来ない。そして、日本に戦が訪れる。7年前と同じようなブリタニアとの戦争が』
「……ゼロ様」
崩れ落ちる神楽耶を二人の従者が支えた。
「神楽耶様!」
『神楽耶!気をしかと持て!皇家たる者。弱き姿を民衆に見せるでない!』
「…はい!叔父様」
『神楽耶は今からキョウトへ戻れ。神楽耶の身に何かあれば…』
神楽耶は目もとを袖で拭うと、桐原に視線を送った。
少女に相応しくない、強い決意を秘めた瞳を宿した表情で。
「なりませぬ!私はゼロ様と共に闘いとうございます!私の力をもって、今から全部隊に召集をかけます!わたくしにできることであれば何でも致しますわ」
『…分かった。そちらの好きなようにしろ』
通信が切れると、従者に命令を下す。
その場を立ち去った後、彼女は袖を捲りあげて、屋敷の奥に消えていった。





21:POPPO
09/02/27 00:17:09 XhNZrNwc
私は…自分の願いのために…
アンの命まで踏みにじった。
憎い。
自分が憎い。憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い。
計画が上手くいって喜んでいた自分が憎い!
何が成功した!?何が上手くいった!?誰が喜んだ!?誰が得をした!?
自分が天才!?ギアスで何でも出来る超人!?『ゼロ』を超える策略者!?
はっ!自惚れるのもいい加減にしろ!
私は!私は!私はぁ!!
兄の仇を取る為に!死んだ人間の汚名を晴らすためだけに!私のエゴのために!
大切な親友すら犠牲にした、


―――――――タダノヒトゴロシダ。


私は首元からネックレスを取り外すと、私はアンの手に握らせた。
一年前にアンから貰ったネックレス。
私のお気に入りで、外出する時はよく身につけていた。
「今の私に、これをつける資格は無いわ。アン」
私はアンに微笑む。
これがお別れの挨拶。
膝を返すと、私はアサルトライフルを持って私は立ち上がった。
「ゼロだけは…絶対に殺す。それが、せめてもの…」
目の前には幾重の死体が連なっていた。肉片しか無い死体も多くあった。
この虐殺の元凶。
身も心の血で濡れた女。
それが――――――今の私。

私はギアスを発動させた。
左目がマジックミラーになっているメガネをかける。
私の眼球がどの方角を向こうが必ず私の額を映すように細工されている。
自分自身にギアスをかけることで、人間の動体視力を超えた身体能力を引き出すことができる。リスクとして体にかかる負担は凄まじいが、今はどうでもいい。自分の体がどうなろうと。
残っている一本のマガジンは、ポケットに突っ込んだ。

もう、立ち止まらない。

22:POPPO
09/02/27 00:17:53 XhNZrNwc
私は『命令』した。
前進しろと。
地面を勢いよく蹴り飛ばした私は前へ進む。
煙で目が眩むが、前方に人影が見えた。銃を所持していることから軍人だと思われる。
だが、彼らに弁明している暇は無い。
私の行く手を阻む人間は容赦しない!
私は『命令』した。
殺せ、と。
パパパパン!
4発の弾丸は4人の人間の頭を撃ち抜いた。糸が切れた人操り形のように崩れ落ちる。
その死体から2丁のアサルトライフルを奪い去った。
両手に持ったアサルトライフルを前方に構えて、行く手にいる人間を全て撃ち殺して行った。
中には黒の騎士団の団員もいた。
躊躇いもなく撃った。
死んだ。
私は勢いをつけて、座席からランスロットと呼ばれるKMFの肩に飛び乗って、そこから式場の舞台に降り立った。
舞台上に配備されていた兵士は皆驚いた。
私は彼らに考える暇も与えず、そこにいたブリタニア軍人は全て殺し、数人の黒の騎士団の内、一人だけ残して他は撃ち殺した。
両腕両足を撃たれた男は、目の前で起こった事が把握できずにただ地べたをもがいていた。
その男に近付いて、髪を思い切り掴みあげた。
男の耳に障る悲鳴を無視してメガネを上げる。
左目にある赤の紋章が輝く。
「ゼロの居場所を言え」
「…12時の方向に待機しているトレーラーに、副司令と一緒にいる」
「ゼロの正体は?」
「………」
私は用が済むと、銃口を彼の額に当てた。
「そう、ありがとう」
バン!
男の顔が無残にはじけ飛ぶ。
返り血を浴びたが、拭うことはしなかった。
アサルトライフルを捨てて、また死体かた2丁奪った。マガジンも持てるだけ持ってポケットに入れる。
人が集まる前に、私は瓦礫と化した出入り口を飛び越えていった。


23:POPPO
09/02/27 01:23:10 XhNZrNwc
「ああ。ゼロの治療は終わった。今は情報を隠しておけ。下手な混乱を避けたい」
僕はディートハルトに連絡を入れた。
通信機を切った後、ルルーシュの寝顔を見た。
主治医に指示して、ルルーシュには睡眠薬を飲ませて眠っている。
放っておけば傷を無視してでも指揮をとって、命を危機に晒しかねない。
医療スタッフはゼロの素顔に目もくれずに仕事に徹している。
僕は椅子に座りながら思考を始めた。
(…ユフィの言動と行動。明らかにおかしかった。ならば、半年前のようにギアスに操られていた可能性が高い…でも、一体誰が、何のために?)
そして府に落ちないことはそれだけでは無い。
(『新日本党』のリーダー、鬼頭も色々と言っていたな。
『ゼロ』の指示で、と。
でもルルーシュからそんな話は聞いていない。
それに『新日本党』と組んでも、黒の騎士団側に何のメリットも無い。ルルーシュは関わっていないことは確かだ)

『ギアス』、『新日本党』、『ゼロ』。

これをキーワードに様々な思考を巡らせていったが、もう一つ、重要な要素が欠けている。
それは動機。
事の発端はそれに繋がる。その原点が絞り込めないのだ。
今回の事は日本にとってもブリタニアにとっても不利益を被る話でしか無い。
第3者の介入が一番疑わしいが、根拠が薄すぎる上に勢力は不特定多数だ。
分かっていることはゼロの命を狙っていて、失敗したということだけ。
今はそれが分ればいい。
「だから、ここを守ることが最優先だ」
僕は手元にある銃を見た。扱い方は『知っている』。
今一度、マガジンにある弾を確認する。
(そういえば…)
カレンや壱番隊に連絡を入れてない。ルルーシュの手術中は警戒していただけだった。連絡もディートハルトと藤堂さんにしかしていない。
壱番隊には待機命令とKMFが揃うまで動くなという指示を送ったはずだけど、大丈夫かな?
そう思って無線機に電源を入れた時、

パパパパパパン!
外で銃声の音がした。
悲鳴を上げる看護士たち。
僕はそれを手で制して、アサルトライフルを握る。
外に待機させていた団員から連絡が入った。
「どうした!?何が起こった?」
『い、いきなり団員の一人が発砲して、相撃ちに…うっ、グアッ!?』
「おい。応答しろ。藤原。藤原!」


24:POPPO
09/02/27 01:23:48 XhNZrNwc
ドン!!
突如、大きな音と共にトレーラーが傾き始めた。
それをいち早く察した僕は、銃を肩にかけて、ルルーシュの体を掴んで、反対方向の壁に背中をぶつけた。
(―――ッ!!)
背中に激痛が走り、医療器具が飛んでくるが、僕はそれを無視して非常ボタンをガラスと共に叩き壊した。
いきなりトレーラーの天井が展開し、その小さな転がるようにルルーシュを抱きかかえたまま脱出した。
地面に僕は転がった。ルルーシュの体も二転、三転するが彼は起きなかった。
周囲から押し寄せてくるのは炎から来る熱気。
僕の背後では黒の騎士団員の死体が転がっていた。
横倒しになったトレーラーから足音が聞こえた。
咄嗟にルルーシュの前に出る。
「誰だっ!!?」
僕は反射的に銃を構えた。
後ろにはルルーシュがいる。しかも、マントもシーツも無く、顔をさらけ出している。
まずい!
僕は引き金を引こうとして、
その標的を見た途端、
手が止まってしまった。
相手の顔を見たからだろうか。
いや、目の前にいた少女がこんな事を呟いたからだ。



「え?…ライ、先輩?」





25:POPPO
09/02/27 01:24:19 XhNZrNwc
(!?先輩?ってことは…)
血で濡れた服を着た青髪の少女は目を見開いて、僕を見ていた。
目の前の光景が信じられないと言っているように。

「き、君は…アッシュフォードの?」

彼女の左目に輝いている紋章を僕はとらえた。
見間違えることの無い、悪魔の紋章。
眼鏡の奥に秘めた瞳に彼女は宿していた。

(左目は、まさか…ギアス!?)

「え?…な、なんで?…へ?」

う、うしろにいるのは…

「る、ルルーシュ先輩?…は?…え、え?」

…何の冗談?ル、ルルーシュ先輩の格好って…は?ウソでしょ?

私の手が無意識に震えていた。銃口が定まらない。

ギアスの力で体を制御してるのに。

「貴方が…」

(…この騒乱、まさかこの少女が!!)

「君が…」














26:POPPO
09/02/27 01:25:02 XhNZrNwc
「何でこんなところにいるんだああああああああああああああああ!!」
「何でこんなところにいるんですかああああああああああああああ!!」



凄まじい絶叫と共に睨みあい、互いに引き金を引こうとした瞬間――――――
ズゥゥゥウウウウウン!!
突然、轟音と共に視界一杯に黒い物体が広がる。
小さな銃声がかき消され、周囲に粉塵が舞い上がった。恐る恐る上を見上げると、それがKMFであることが分かった。
『無事か!?』
「C.C.!!」
ゼロ専用のKMF、ガウェイン・ラグネルからオープンチャンネルで彼女の声が聞こえた。
赤いハッチが開き、C.C.の姿が見えた。
「今、ワイヤーを…」
「そんな暇は無い!」
僕はルルーシュを担ぎあげるとガウェイン・ラグネルの右腕を足蹴にして、コクピットに飛び乗った。
ベルトは締めずに、操縦桿を握ってハッチを閉めた。
膝にルルーシュの体を置くと、両側から現われたキーボードに打ち込んで生体反応を確認した。
モニタには炎上した機器が周辺に多くあることから、温度による生体反応が確認できない。
思わず舌打ちをする。
「…逃げたか」
「?一体どうしたんだ?」
前部座席から僕を見上げながらC.C.が訪ねてきた。
「さっき僕たちの目の前に女の子がいただろ!?彼女はギアスを持っていた!」
「何だと!?」
「!?C.C.も知らないのか…おそらく身体を操るギアスだろう。さっきの異常な身体能力も自分自身にギアスをかけていたなら説明がつく!そして、この事件のっ!…」
ガンッ!と僕は右横のフレームを思い切り叩きつけた。少し拳形に凹んでしまっていた。
その時、コクピット内にアラーム音が鳴った。
モニターを確認する。周囲に5機のサザーランドが接近し、発砲してきた。
ガウェイン・ラグネルの前方に絶対守護領域が展開された。
『ゼロォォォオオ!!自分だけ逃げる気かああああ!!』
銃弾を完全に防ぎきれたとしても衝撃はコクピット内にも伝わってくる。
ルルーシュの体が揺れ、ジャケットに彼の血がこびり付いた。
傷口が開きかけている恐れがある。
「―ッ!!」
それを見た瞬間、僕の頭は沸騰した。


27:POPPO
09/02/27 01:27:48 XhNZrNwc
操縦桿を強く握り、サザーランド全てをロックオンした。そのままボタンを押す。
「お前らは…」
ワイヤーカッターが装備されたスラッシュハーケンが発射され、2機のサザーランドに巻きつく。ナイトメアのアサルトライフルがいとも簡単に切り落とされる。
そのままガウェイン・ラグネルの上半身を回転させた。同時にフロートシステムを展開した。
「邪魔なんだよおおおお!!!」
他のサザーランドに激突しながら、サザーランドの機体が切り裂かれた。周囲の破片と粉塵をまき散らしながら黒い機体は空高く飛び上がる。
一瞬遅れて、5機全てコクピットごとサザーランドが炎上した。パイロットも生きていはいない。



28:POPPO
09/02/27 01:28:41 XhNZrNwc
それをモニターで確認すること無く、ガウェイン・ラグネルを発進させた。
ルルーシュの傷にタオルを押し当て、僕はC.C.に声をかける。
「このままシズオカの本部に向かってくれ。ルルーシュの傷が開きかけてる」
「分かった。…ライ。お前はどうするつもりだ?」
「…ルルーシュを休ませている間、僕がゼロを代行する。そして、あの少女を捕まえる。黒の騎士団総力を挙げてな。C.C.君にも手伝ってもらいたい」
「…やはり、そう言うと思ったよ。ならば私も同行する」
「何を言ってるんだ?C.C.はルルーシュの傍にいてくれ。万が一の事態に対処できないだろ?」
「私はルルーシュの共犯者だが、子守をする気はない」
「…冷たいな。君は」
「恋人からの連絡をほったらかしにしているお前に言われたくないな。不審に思われるぞ?」
…先ほどから右のモニターが点滅していた。通信が来ているという知らせだ。
Q1
相手はカレンだ。紅蓮弐式からの通信だった。
僕は言い知れぬ冷や汗をかき始めた。
何でかって?
それはC.C.がニヤついているからさ。
「C.C.…ゼロの仮面は無いか?声でバレる」
「そんなものは無い。繋ぐぞ」
「ちょっと待っ!」
僕の言葉も空しく、チャンネルがつながれた。
眼前のモニターには『SOUND ONLY』の文字だけ表示されている。
『ゼロ!ご無事でしたか!?…報告します。現在、ポイント甲七十八に待機させているトレーラーに副司令が到着していません。
『蒼天』のスタンバイは既に完了していますが、連絡も途絶えたままで…』
「…そのまま『蒼天』をポイント丙二十一まで後退させてくれ。零番隊はポイントB2に移動を開始しろ」
『…ええっ!ライ!?何でガウェインに乗ってるのよ!?』
やっぱりばれた。映像は無いものの、何故か焦る僕。
「すまない。カレン。成り行きでこうなった」
『成り行きでって…!!ゼ、ゼロは?ゼロは無事なの!?』
「ああ。今は眠ってるけど命に別条はない。あと、カレン。今から数日程度、僕がゼロの代わりをするから。心配しな…」


『はあああああ!!?』


コクピット内にカレンの大声が響き渡った。前部座席にいるC.C.が両手で耳を塞ぐくらいだった。
僕の耳響くものがあったが、それが逆に心地よかった。
カレンの声を聞いただけで心が癒されるなんて…僕は完全にカレンに依存してしまっているのかもしれない。
『ちょ、ちょっと何言ってんのよ!?た、確かにライは指揮能力が高いけど、ゼロの代わりなんて…』
「大丈夫だ。カレン。ライの腕なら私が保証する」
『え!?C.C.!?何で貴女が其処に、って、まさか!ライと二人っきりでガウェインに!?』
「…ゼロも乗っている。負傷中だからあまり大声を出さないでくれ。カレン」
『あっ!も、申し訳ありません!』
「だから、ゼロは眠ってるって…」
カレンの声に、僕とC.C.は思わず笑ってしまった。
いつの間にか、さっきまで張り詰めていた緊張感が無くなっていた。
ここでようやく僕は気づいた。C.C.がカレンと連絡を取ったのは僕を気遣ってくれてのことだったということを。
『…ねえ、ライ』
「ん?何だい?」
『ライは、大丈夫なの?怪我とか、してない?』
…カレン。君って人は本当にやさしい女の子だ。
君を好きなってよかったよ。
心がすごく落ち着く。


29:POPPO
09/02/27 01:35:15 XhNZrNwc
「ああ。心配してくれてありがとう。カレン」
『…良かったぁ』
通信が切れる前に、僕はカレンに言った。
彼女だけにかける、魔法の言葉を。
「カレン」
『えっ?何?』


『愛してるよ』


『~~~!!!』
ブチッと、通信を強引に切る音が聞こえた後、コクピット内に静寂が生まれた。
C.C.が小さく笑うと僕のほうを見上げながら言葉を紡いだ。
「カレンの扱い方が上手くなったな」
「その言い方は無いよ。でも、カレンが考えていることは手に取るように分かるな」
「…乙女心まで知り尽くす気か。末恐ろしいな。お前は」
「?何がだい?」
「いや、何でも無い。ただの一人言だ」
「そうなんだ。ところでさ。C.C.」
「何だ?」
タイピングを一旦止めて、僕はC.C.に笑顔で感謝の意を述べる。
「ありがとう」
それを聞いたC,C,は含み笑いを僕に返した。
ちょっとばかり怖い。
「フン。『非』童貞坊やが。生意気だぞ?」






混沌とした式典会場。
彼は撃墜されたサザーランドの残骸の上に立っていた。
ガウェイン・ラグネルの後ろ姿を見守る一人の少年がいた。
帽子を脱ぎ去り、黒髪のカツラをはぎ取った。
彼の綺麗な白い長髪が肩にかかる。
その時、彼の表情には深い笑みが刻まれていた。
少年には相応しくない、狂喜に満ちた、目と唇を歪ませた禍々しい笑顔。
その唇が言葉を紡いだ。

「見つけた…」


30:POPPO
09/02/27 01:38:29 XhNZrNwc
コードギアス LOST COLORS
「反逆のルルーシュ。覇道のライ」

TURN00 「終わる日常」 (中編7)

終了です。
話が二転三転して、適度に切ってやっと落ち着きました。
もう少し詰めようと思ったのですが、これ以上すると一章にまとまらないので
大分細部を切り落としました。
感想待ってます!
それでは。


31:創る名無しに見る名無し
09/02/27 08:25:51 8HeuhtCH
POPPO卿投下乙です!朝からいいものを読ませていただきました。
ついにやってきましたね衝撃の展開が。
原作のルルーシュと同じく親しい者を殺してしまったリリーシャはどうなるのか
犯人がゼロではないことで違った行動を取るスザク
そして、VV出演でハアハアしているであろうトーマス卿
いよいよ先が読めなくなってますます楽しみです。続きを全力を挙げてお待ちいたしております!
誤字報告
命に別条 命に別状

32:創る名無しに見る名無し
09/02/27 10:32:15 iqReT76e
>>30
POPPO卿、GJでした!
最愛の人をなくしたスザク、親友をなくしたリリーシャ、悲劇が広がっていきますね。
V.V.の教えた真実は、嘘か真か……
ゼロの正体を知り動揺するリリーシャ、敵の正体を知り動揺するライ。
色々気になってきますね。
しばらくゼロを代行するライ、その行動は如何なるものになるのか。
笑う少年、X.X.
彼はやはり……
貴公の次の投下を全力を挙げて待たせていただきます!

33:創る名無しに見る名無し
09/02/27 15:13:17 zxgYVHiJ
面白い、そしてすごい
オリジナル満載で原作から離れてるのにちゃんとギアスになってる
描写もうまくてキャラの息遣いが伝わってきそうです
続きが待ち遠しくて仕方ないです

>>31
なんで男キャラのV.V.にトーマス卿がハァハァするんだよw

34:創る名無しに見る名無し
09/02/27 21:07:06 Jg9l18kj
>>30
投下乙ですPOPPO卿
リリーシャとライの邂逅に瀕死のルル―シュと、展開が全く読めませんね。
カオスっぷりを堪能しつつ続きを待ってます。
ただ、ちょっとだけ耳に痛いことを言わせて頂きますが、誤字脱字がちらほら見受けられます。
生きていはいない→生きてはいまい  など
このあたりはトーマス卿の無敵のサポートがありますが、もう少し推敲をすればさらに
素晴らしくなると思います。期待しています。

>>33
トーマス卿は可愛い男の子にハァハァする方ですよ。テストに出るので覚えときましょう。

35:千葉はライの嫁
09/02/27 23:08:58 I4hZXEJm
随分とお久しぶりな感じになります、千葉はライの嫁です。
久しぶり過ぎて俺のことを知らない人もいそうですが、書いてる長編の続きを投下しようと思います。
レス数は、どれくらいかなぁ。20にはいかないと思いますが……それなりに長いです。
では、行きます。


36:千葉はライの嫁
09/02/27 23:10:46 I4hZXEJm
あ、書き忘れてましたが、スザクに匹敵する身体能力というのを意識して書いたのでライが結構強いです。
あと、オリジナルキャラとかも出ます。そういうのが無理な人はスルー推奨です。

37:コードギアス The reborn world 5話
09/02/27 23:14:11 I4hZXEJm
 富士五湖の一つ、河口湖。
 美しい自然とエリア11最高クラスのホテルであるコンベンションセンターホテルを備えている上にフジヤマプラントから近いため警備が厳しく、その結果治安が良いこともあって観光地として人気を博している湖である。
「うんうん、思ってたよりも綺麗なところじゃない。美しい自然の中で語らう、四人の美男美女達。くぅ、絵になるわぁ! 後で写真撮らないとね」
 湖畔を軽やかな足取りで散策するミレイは喜色満面の笑みを浮かべて、くるりとその場でターンをした。
 ミレイの動きに合わせて、ふわりとスカートが舞い上がる。この日の為に奮発した色鮮やかで美しい衣服とミレイ自身の美貌も相まってその姿は、なるほど。まるで一枚の絵画のようで確かに絵になった。
「でもほんと、ルル達も来れれば良かったのに。それに、カレンまで来られないなんて……残念ですね」
 どことなく寂しげな声の主はシャーリーだった。友達を大事にする彼女からすれば、今この場に生徒会メンバーが揃っていないのが残念で仕方が無いのだろう。
「また来ればいい。今度は、皆で一緒に」
「ライ……うん、そうだよね」
 傍らに立ったライにシャーリーは明るく笑って見せた。それを見て、自分が安堵していることにライは気付く。
 ライにとっても不可解なことなのだが、シャーリーを初めとする生徒会メンバーが笑顔でいてくれないと、彼は落ち着かないのだった。
「おや~? なに雰囲気出しちゃってるのかな二人とも。なに、シャーリーったら浮気?」
「うわっ……!? か、会長ってば、何言ってるんですか!! そ、そんなんじゃないんですから! 私はただライと……」
「あっはっは! 照れない照れな~い」
「もう、会長!」
 まるで子供のように追いかけっこを展開するミレイとシャーリー。ライは一通り騒ぐ二人の姿を眺めていたが、傍らで同じように二人を眺めていたニーナに視線を向ける。
「なぁ、ニーナ」
「な、なに?」
 不意に声をかけられて、一瞬体を震わすニーナ。男性恐怖症の気があるニーナは、まだ多少ライへの恐怖心が残っていた。
「浮気って、どういう意味だったんだろう?」
 ライは真剣な表情をしていた。そんな真剣な表情で、間の抜けたことを口にした。
 ニーナは初めライがボケたのかと考えたが、真剣そのもののライが本気であることを理解するに至ると、思わずふきだした。
 突然、控え目ながらも笑い出したニーナにライは不思議そうな顔をしている。
「ニーナ? 僕は何か、おかしなことを言っただろうか」
「フフフ……ううん、言ってません。そうですね、浮気ってどういう意味なんだろ」
「ニーナにも分からないのか」
 ライは軽く目を見開いて驚いた様子で、思案に耽りだした。それほど真剣に考えることではないのに真面目な顔で考え続けるその姿を見て、また少し笑ってしまう。
 同時に、租界から出てから胸の内に不安を燻らせていた自分自身のことも、ニーナにはなんだかおかしく思えた。
「良い天気……」
 見上げた空は、どこまでも青く澄んでいた。部屋に篭りがちなニーナは、こんな風に穏やかな心で空を見上げたのは久しぶりな気がした。
「ねぇ、ライさん」
「……どうした?」
「今日は、きっと良い日になりますよね」
 ニーナの方から言葉をかけてきたことに僅かに驚いたライだが、ニーナの顔に柔らかい微笑が浮かんでいるのを見て今こそ成果を見せるときだと、ミレイに言われてから練習を重ねていた笑みを浮かべた。
「ああ。きっと良い日になるよ、ニーナ」
 二人の間に、穏やかな風が吹く。
 風を受けて揺らいだ湖面が微かに波打ち、太陽の光を受けきらきらと輝いて見えた。



「ライさん、少しほっぺたがひくひくしてて、おかしいですよ」
「……」




38:創る名無しに見る名無し
09/02/27 23:16:26 iU7ytaGa
おひさしぶりです支援

39:創る名無しに見る名無し
09/02/27 23:16:40 /MZkS3yE
支援

40:創る名無しに見る名無し
09/02/27 23:17:00 iqReT76e
待っていました支援

41:コードギアス The reborn world 5話
09/02/27 23:23:04 I4hZXEJm
「……会長、質問をしても良いか」
「いいわよ~。なに? 私のスリーサイズとか?」
「違う。会長達の部屋のことだ。今日はどの部屋に泊まるんだ?」
「この部屋よ。安い部屋だけど、良い感じでしょー。」
 ミレイは両手を広げ、今いる部屋を自慢するように言う。
 確かに良い部屋だ。調度品の品も良く、またミレイ達三人が入っても充分以上の広さがある。湖に面する外壁には大きな窓があり、
 高さはそれほどでもないもののそこから陽光に煌めく河口湖の美景を俯瞰出来る。本当に良い部屋だ。が、しかし。
 まるで後から一つ付け足してもらったかのようにベッドが四つ窮屈に並んでいるのは、一体どういうことだろうか。
「……じゃあ、もう一つ質問だ。僕は今日どの部屋に泊まるんだ?」
 まさか。いやしかし、そんな馬鹿な事が。咄嗟に思い浮かんだ己の予想を否定してもらうために紡ぎだされたライの言葉は。
「んふふ~。言わなきゃわからない? ここよ、こ~こ!」
 してやったりと言わんばかりに満面の、それもまるで小悪魔のような笑みを浮かべたミレイに肯定された。
 ライは暫し告げられた言葉の意味を嫌々ながら吟味する。その結果導きだされる答えは考えるまでも無く分かっていた。分かっていたが、
 ライの優秀な頭脳はその答えを弾きだすのを拒否した。同時に、ゼンマイの切れかけた人形のようなぎこちない動きで踵を返すライ。
 そして、躊躇することなくドアへと歩みだす。ライは逃げだした。
「おっと、逃がさないわよ!」
 しかし回り込まれてしまった。唯一の出口の前に立ち塞がるミレイを親の仇を見るような目で見るライだが、ミレイは堪えた様子も見せず笑ってみせる。
「男女同室なんて、正気ですか会長!」
「あら、失礼ね。ミレイさんは至って正常、正気で本気よ? ほらほら、部屋のキー一つしか持ってないでしょ?」
「非常識だ!」
「なによ、良いじゃない別に。同じベッドで寝るわけでもなし。あ、それとも一緒に寝る? ライなら私、別に平気だけど」
 ミレイの場合、冗談なのか本気なのか判断に迷うから困る。初めこそ理路整然とミレイに行動の非常識さを説いていたライだが、全くの馬耳東風。
 ミレイを相手にしても埒が明かないと悟ったライは、ベッドの上で寛いでいるシャーリーとニーナの二人に希望を託した。
「んー、でもライだけ一人っていうのはかわいそうだと思うしライだったら変なこともしないと思うから、別に良いかな」
「それに、その。今夜は朝まで語り明かすって、ミレイちゃんが言ってたから。皆起きてるなら……あ、いや、だからってライさんを信用してないわけじゃなくて」
 希望は潰えた。しかも二人はライを信頼しているからこそこんなことが言えるのである。ライがこれ以上どうこう言えるわけがない。
「はい、多数決成立。だ~いじょうぶ、カレンには黙っててあげるから」
「どうしてここでカレンが出てくるんだ……」
 力なく項垂れるライの呟きに、おや、とミレイは意外そうな顔をした。
「あなた達付きあってるんじゃないの?」
「だから、何故そういう話になるんだ」
「だって最近いつも一緒にいるし、結構良い感じに見えるけど」
 ミレイの答えに、ライは目に見えそうなほどの盛大なため息を吐いた。
 確かにカレンは魅力的な女性だとライは思う。容姿の美しさというよりもむしろ、時折見せる意志の強さ、心根の単直さがだ。
 ライは、学園でのカレンが本来のカレンの姿ではないことを見抜いていた。何故そんなことをする必要があるのかも、薄々察してさえいる。だからといって、カレンにどうこう言うつもりは無い。
 ライ自身、ミレイ達との間に要らぬ波風を立てぬために嘘をついているのだ。カレンを責められる筋合いは無い。
 そしてそうした特殊な事情を抜きにすれば、カレンはとても好ましい人物だった。半ば無理やり押し付けられたライの世話役を当初こそ不満気だったものの、
 なんだかんだで投げ出さずに親身になってくれているし、当ての無いライの記憶探しにも付き合ってくれている。
 ライにとってカレンは、とても大切な友人だ。それ以上でも以下でもないのだ。何やらミレイは二人の関係を誤解しているようだが、カレンのような女性と付き合える男は果報者だとライも思う。
 だからこそ、自分のような不審者とそういう眼で見られているとあってはカレンが気の毒過ぎる。

42:創る名無しに見る名無し
09/02/27 23:24:04 iqReT76e
支援

43:創る名無しに見る名無し
09/02/27 23:24:07 /MZkS3yE
支援

44:コードギアス The reborn world 5話
09/02/27 23:25:40 I4hZXEJm
「カレンには本当に良くしてもらっているが、会長が思っているような関係じゃない。
 でも、もしも会長以外にもそう思われているのだとしたら問題だな……もうカレンには、租界の案内は頼まない方が良いのかもしれない」
「え、ちょ、ダメダメ! これからもカレンに案内してもらいなさい!」
 思案顔のライに、酷く慌てたのはミレイだ。まさか、こんな展開になるとは考えもしなかったのだろう。ミレイの想像以上に、ライは鈍感だったのだ。
「しかし」
「良いから! これ、会長命令ね!! もし私のせいでライの世話が焼けなくなったと知られたら、カレンにどれだけ恨まれるか分かったものじゃないもの」
 ライは最後まで納得のいかない顔をしていたが、ミレイの剣幕に押され渋々頷いた。それを見たミレイの口から、思わず安堵の吐息が漏れる。
 こんなに焦ったのはルルーシュがシンジュクでテロに巻き込まれたと聞かされた時以来だとミレイが考えた刹那、何かがミレイの脳裏に閃いた。
 シンジュクゲットーでのテロ騒ぎではイレブンに多数の死傷者が出たと聞く。ミレイもネットに出回っていた違法動画を目にしたことがあるが、目を覆いたくなるような惨状が映しだされていた。
『外的要因よりもむしろ、内的要因によって記憶を失ってしまったのかもしれないわね』
『内的要因? って、どういう意味ですか会長?』
『分かりやすく言っちゃえば、嫌なこととか悲しいことを忘れたくて他のことも忘れちゃったってこと』
 ライが目覚めた直後に、ミレイ自身がシャーリーと交わしたやり取りが思い出された。
 ライは発見当初、ゲットーのイレブンが着ているような粗末な衣服を身に付けていた。もし仮にライがテロ騒ぎが起きた日にシンジュクに居合わせたとして、
 あの惨状を眼前にしてしまったのだとしたら……ショックで記憶を失ってしまったというのも、ありえない話ではないのかもしれない。
(もしもそうだとしたら、ライは)
 何かを掴みかけたミレイの思考は、そこで中断を余儀なくされた。
 階下から微かに悲鳴や怒声染みた声が聞こえたかと思えば、散発的に鋭く乾いた音が発せられたのが確かに聞こえたからだ。
「な、なに? 今の」
 シャーリー達にも聞こえたらしい。聡明なミレイはその音の正体にいち早く気付いていたが、ニーナの不安に揺れる瞳を見てしまっては口にするのは躊躇われた。
 ミレイに代わり、厳しい表情で事実を告げたライが口にしたのはただ一言。
「銃声だ」
「銃声!? どうして、な、なんでそんな!」
「推測になるが、ゼロが登場してから反ブリタニア勢力の活動が活発になったと言われている。今の銃声も恐らく、そうしたテロリストの仕業だと思う」
「そんな……!」
 シャーリーの顔がみるみる青ざめる。流石のミレイも、何も口に出来ないまま俯いてしまっている。
 不意に、がたがたと震えていたニーナが転げ落ちるようにベッドから降りた。そのまま、半ば這うような勢いで出口へと駆けだす。
「どうするつもりだ、ニーナ」
 その前に立ちふさがったのは、ライだ。ニーナはごちゃごちゃとした感情をそのまま顔に出したような歪んだ表情でライを睨む。
「どいてよ! 逃げなきゃ、逃げなきゃイレブンに殺されちゃう!!」
「大丈夫、殺されはしない」
「そんなの分からないじゃない!!」
 興奮状態にあるニーナを落ち着かせるためにゆっくりとした口調で、ライは語り始める。
「分かるさ。このホテルその物には何の価値も無い以上、連中の目的はこのホテルの宿泊客を人質にとって何らかの要求をブリタニアに飲ませることだろう。
 人質という価値のある僕達を、すぐさま殺すような真似はしないはずだ。このホテルは湖の中央の埋め立て地に建てられていて橋も一つしかないからな、閉鎖は容易な筈だ。
 それにもしも僕がテロリストなら、宿泊客の位置は名簿を見るなりしてすぐに把握するよ。逃げられないように」
 直後、まるでタイミングを計ったように日本解放戦線と名乗ったテロリスト達が放送を使って宿泊客の名と部屋の番号を読み上げ、
 自分達が完全に人質の人数と構成について把握していること、今すぐに自分達が指定する場所に来る事、そして逃げ出そうとした者は女子供であろうと即刻射殺する旨を告げた。
 全てが、ライの言葉通りとなってしまったのだ。へなへなとその場に座り込んだニーナは、ミレイに抱きしめられた途端に声を上げて泣き出してしまう。
 ニーナの泣き声で不安に胸を押しつぶされたのか、シャーリーも声を殺して泣きだし、弱いところを見せまいとしているミレイもニーナの不安を少しでも軽くしようと寄り添っているだけで精いっぱいだった。

45:創る名無しに見る名無し
09/02/27 23:26:58 iU7ytaGa
しえんー

46:コードギアス The reborn world 5話
09/02/27 23:29:05 I4hZXEJm
(日本解放戦線か。旧軍の残党で構成された大きな組織だったか……大方、新参のゼロの派手なパフォーマンスに触発されたんだろうが)
 彼女達の悲痛な様子に胸を痛めながらも冷静な思考を保っていたライは、暫しの間をおいた後努めて落ち着いた口調で言葉をかけた。
「皆不安なのは分かるが、今は大人しく奴らの言うことに従おう。大丈夫、皆無事に家に帰れるさ」
「いい加減なこと言わないで!!」
 ライの言葉には不器用な彼なりの精一杯の優しさが込められていたが、理不尽な現状のせいで心を乱されていたニーナにとっては無責任極まりない発言に聞こえた。
 泣き叫びながら、俯かせていた顔を上げライを睨みつけたニーナは、ライの顔に浮かぶ穏やかな表情と粋然な決意の輝きを宿した瞳を見て言葉を失った。
「根拠はあるさ。僕が守る」
 そう言って、ライは微笑んだ。湖畔で見せたぎこちない笑みではない、透明に澄んだライという人物そのものを表すような微笑だった。
 不思議なことに少しだけ、本当に少しだけだが気分が楽になった気がしたニーナは頬の涙をぬぐい一度鼻をすすると、こくりと頷いた。
 ライもまた笑顔のまま頷くと、視線を巡らしミレイとシャーリーにも問いかける。ある程度平静を取り戻していた彼女達が同じように頷いたのを確認してから、ライは立ち上がり先頭に立って歩きだした。
「ライ、さん」
 ドアノブに手をかけたライは、酷くか細いニーナの声を聞き洩らすことなく振り向いた。
 ニーナは先ほど自分が見せた醜態とライへの仕打ちを思って自己嫌悪にかられている様子で、怯えた表情のまま、
「ごめんなさい……ありがとう」
「どういたしまして。……ああ、そうだ。前から言おうと思っていたんだけど、ニーナ」
 どのような言葉を返されるのか怯えていたニーナに向けられたのは、先ほどと同じ笑顔。
「僕のことはライと、そう呼び捨てにしてくれ」
 自分の言葉でニーナの表情が僅かに和らいだのを見て一つ頷くと、ライはドアを開けた。念のため周囲を警戒し人影が無いことを確認し、背後のミレイ達に合図を送る。
 どちらにしろこれからテロリスト達に会わなければならないのだろうが、トラブルが発生する確率は低い方が良いというライの考えによるものだ。
 人質の集合場所として選ばれた大ホールは五階ほど上の階にある。ライは少し悩むそぶりを見せた後、エレベーターがある方向へ向けて歩きだした。ミレイ達もその後に続く。
 先頭から順番にライ、シャーリー、ニーナ、ミレイの順番で廊下の中央を歩く。高級ホテルだけあって敷かれたカーペットは歩き心地が良いものであったが、今のライ達の歩みは沼地を歩いているかのように鈍かった。
 やがて四つのエレベーターが並ぶ開けた空間に着くと、恐らく旧日本軍の制服であろうと推測される軍服に身を包んだテロリストが二人ライ達を待っていたかのように立っていた。
「ミレイ・アッシュフォード、シャーリー・フェネット、ニーナ・アインシュタイン、ライ・ウーティス……ふむ、女三人に男一人。間違いなさそうだな」
 巌のような顔と体をした小柄な男が手元の書類とライ達に交互に視線を向けながら呟き、エレベーターのスイッチを押す。
(厳格そうな人物だ。これならば人質に危害を加えないだろう)
 そう内心で安堵していたライだったが、もう一人のテロリストの男の顔を見て僅かに緩んだ心を引き締めた。
 もう一人のまるで針金のような鈍い鋭さを持った男の口元に、軽薄な笑みが浮かんでいたからだ。
「はっ。女三人に男一人ね。若いのにやるもんだな色男よぉ。いや、若いからかな? ん?」
「すいません、何を仰りたいのか分かりません」
「今夜はお楽しみの予定だったんだろって言ってんだよ」
 軽薄な笑みを浮かべたまま、男はライの胸倉を掴み引き寄せた。背後でミレイ達が何か言いかけたのを気配で察知し、ライは男からは見えない位置でミレイ達に大人しくするよう手で合図を送る。
 怯えた様子を微塵も見せないライが気に食わなかったらしく、男はライの胸倉をつかむ腕に更に力を込めた。だがしかし、ライはどこまでも平然としていた。
「確かに今夜は友人達と楽しく過ごすつもりでした。残念ながら、この状況では難しいでしょうが」
 淡々としたライの言葉に舌打ちし、男はライの端正な顔に唾を吐いた。それほど屈辱的な行為をされたというのに、ライは瞬き一つせず男の言葉も眼光も正面から受けている。
 苛立ちが滲む男に対し、ライは徹底的に無反応で応じていた。それが一番だとライは考え、事実あまりにつまらないライの反応に飽きたらしい男は胸倉を掴む腕から力を抜きかけた、その時だ。

47:創る名無しに見る名無し
09/02/27 23:30:50 iqReT76e
支援!

48:コードギアス The reborn world 5話
09/02/27 23:30:54 I4hZXEJm
「放しなさいよ!」
 ライとテロリストの間に割って入ったシャーリーがテロリストの腕をはたき落したのだ。真っ直ぐ過ぎる人柄のシャーリーが、ライが受ける行為に堪えかねて動いてしまった。
 怒りに頬を紅潮させたシャーリーに睨まれた男は当初何をされたか理解出来ていなかったようだが、次の瞬間には既に手を振り上げていた。その手が振り下ろされると同時に、骨が肉を打つ鈍い音が鳴る。
「ライ!」
 シャーリーの代わりに拳を受けたのはライだった。ライはたたらを踏みながらも踏みとどまり、男を睨めつける。視線を逸らすことを許さぬその眼差しに、男は苛立ちの対象をシャーリーからライへ切り替えていた。
「ガキが、逆らおうってか!」
「栄光ある日本軍の中でも日本陸軍は、厳格な軍紀を守る精兵揃いと聞いたことがある」
 怒鳴り散らす男を意に介さずライはカッ、と目を見開きと淀み無く続けた。
「その日本陸軍の兵士が、日本軍を代表する誇り高き勇兵が、子女に拳を振るうのか! 日本陸軍とはその程度か!!」
 威厳すら感じさせる大声を発したライの気迫に気圧され、男は無意識に後ずさっていた。
 突然のライの変わりようにシャーリー達も思わず息を飲む中、一人冷静さを失っていなかった巌のような体格のテロリストがライの正面に立った。
「確かに、今俺の仲間がしたことは我ら陸軍のみならず日本軍全体を貶める愚劣な行為であった。そのことは謝罪しよう。
 だが……そのことを、貴様に責められる謂われも無い」
 言い終わるや否や、男のそれこそ岩石のような拳がライの腹にめり込んだ。その場に膝をついたライから視線を外した男はもう一人の男に目で合図すると、
 好きにしろとでも言うような態度で未だ来ないエレベーターの扉を見つめた。パネルに表示されている階の進みは遅く、他の階で同じようなやりとりが行われているのが窺えた。
 針金のような男は先ほど自分がライに気圧されたことに気付き顔を怒りと羞恥で真っ赤にすると、膝をついていたライの顎を蹴り上げた。
 男の怒りはこの程度では収まらぬようで、派手に吹っ飛び壁に身を打ちつけたライを執拗に蹴り続ける。ライは腕で顔を庇うだけで、抵抗する素振りも見せない。
「ライ! やめて、やめてよぉ!!」
 悲鳴を上げ駆けよりかけたシャーリーを、ミレイが押さえ込んだ。シャーリーは何故ミレイが自分を押さえ込むのか理解出来ず混乱した。
「会長、なんで……放してください!! ライが、ライが!」
「うるせぇぞ女! 黙って見てろや!!」
 ばたばたと暴れるシャーリーを、しかしミレイは決して放さなかった。先程蹴り飛ばされたライが刹那の間自分に向けていた視線に込めていた意味を、ミレイは確かに理解していたからだ。
 即ち「手出しするな。黙って見ていろ」。ここでこれ以上逆らえば、ライ達はどうなるか分からない。ライが抵抗らしい抵抗を見せていないのは、ここが落とし所だからだ。
 恐らくもう一人のテロリストもそのつもりであるに違いない。文字通り体を張って守ってくれているライの気持ちを無駄にしない為に、ミレイはシャーリーを抱きしめる腕に力を込める。噛みしめ過ぎたミレイの唇からは、血が滲んでいた。
 ニーナは目の前で行われる理不尽な暴力を見かね、口元を手で覆い座り込んで泣きだしていた。暴れていたシャーリーも、徐々に力をなくしてやがては嗚咽を漏らすしかなくなった。
 それからエレベーターが到着するまでの短い、しかしミレイ達にとっては恐ろしく長く感じられる時間が過ぎるまで、ライはテロリストの暴力を一身に受け続けた。

49:コードギアス The reborn world 5話
09/02/27 23:32:27 I4hZXEJm
「カレンちゃん、カレンちゃんってば!」
 腕を小突かれたカレンは、そこで漸く自分が何をするでもなく突っ立っていたことに気付いた。
 すぐ傍らには怪訝そうな顔をした小笠原がおり、周囲では玉城や南、杉山といった面々が新しいアジトに荷物を運び込んでいる。
「どうしたの? ぼーっとしちゃってさ」
「あ、いえ。別になんでもないんです」
「なんでもないってことはないっしょー。さっきなんて、凄い切ない顔してため息まで吐いてたくせに。
 なに? ひょっとして恋の悩みだったり? それならお姉さんが力になってあげるからさ! さぁさ、話してごらん」
「いや、あの」
 好奇心を隠そうともせず迫ってくる小笠原。気のせいなのだろうが、その眼は爛々と光って見えた。
 逃げようにも小笠原に右腕で肩を組むようにしてホールドされてしまっているし、なにより小笠原の指摘が当たらずとも遠からずな内容だったせいで、動揺してしまって上手い言い訳が出てこない。
 しかしカレンは、それほど困ってはいなかった。そろそろ、相方がツッコミを入れてくれるだろうと予想していたからだ。
「井上流、雷神拳」
「おわっち!? ビリってきた今ビリって!」
 案の定、小笠原に悟られぬよう忍び足で接近してきていた井上が、小笠原の内肘の突出している骨の辺りをコツンとやった。
 通称ファニーボーンと呼ばれるそこを叩かれたことで小笠原はしばし腕を押さえて呻いていたが、やがて抗議の意を込めた視線を井上に向ける。
 しかし井上は涼しい顔。
「口動かしてばかりいないで手を動かしなさい」
 きっぱりと言ってのける井上。カレンは、締めるべきところはきっちり締めてくれると、小笠原と同じく噂好きでも流石に井上は違うと見直していたのだが、それも束の間だった。
「だって今まで浮ついた話のなかったカレンの恋話よ? これ以上に重要なことって他にある? いいやない!」
「……言われてみればそうね。どうなの? カレン」
「ちょっ!? やっぱり同じだこの人達!!」
「やかましい。良いから白状しろい!」
「理不尽だー!」
「おい、カレンで遊ぶのもほどほどにしておけ」
「わぷっ」
 呆れたような声音で割って入ってきた吉田が、背後から小笠原の帽子を押さえる。突然視界が遮られたことで拘束が緩んだ隙に、カレンは小笠原の魔の手から逃れた。
「んもう、なんで邪魔するかな吉田は! なんだかんだで吉田も、カレンの恋話に興味あるくせに!」
「いや、別に。プライベートに干渉する気は無い」
「ぶーぶー。空気よめー」
「お前こそ空気を読んで仕事をしろ」
「そうよ小笠原。仕事しなさい」
「うわっ、なにその自分は悪くないみたいな態度。腹立つわぁ!」
 ぎゃーぎゃー言い争いだした小笠原と井上を見て嘆息すると、吉田は傍らに立つカレンに顔を向けた。
「残念だったな、カレン。今日は友達と予定があったんだろう?」
「ん? あー、そういえばそんなこと言ってたね。どうせ今日は大したことしないんだし、行ってくれば良かったのに」
 いつの間にか喧嘩をやめていた小笠原の言葉にカレンは困ったような、曖昧な笑みで答えた。恐らく苦笑しようとしたのだろうその笑みは、中途半端過ぎてどこか痛々しかった。
 カレンとて、日本解放を目指すレジスタンスであるまえに人間である。
 そんな彼女がミレイ達に対して、罪悪感を抱いていないわけがない。普段の生活では感じなくとも、こうしたちょっとした出来事で後ろめたさが顔を覗かせるのだろう。
 そうしたカレンの心中を察したのだろう、取り成すようにして井上がカレンに問いかけた。
「それで、場所はどこなの? まさか租界の中ってわけじゃないんでしょ?」
「はい。確か、河口湖だったと思います」
「……河口湖だと? だとしたら」
 河口湖という単語を聞いた吉田が、険しい表情で付けっぱなしにしていたテレビに目をやる。
 その視線の先、車の大きさに見合う巨大なテレビの画面に映し出された映像を見て、カレンはヒュッ、と息を呑んだ。
「みんな……!」
 画面の向こう側には、ミレイ達生徒会メンバーが銃を突き付けられている姿があった。

50:創る名無しに見る名無し
09/02/27 23:32:57 iqReT76e
支援

51:創る名無しに見る名無し
09/02/27 23:33:00 iU7ytaGa
しえんしえん

52:コードギアス The reborn world 5話
09/02/27 23:35:50 I4hZXEJm
 また別の場所で、その映像を憤りと共に見る者達がいた。
 濃い緑色の軍服に身を包んだ、日本刀の如き鋭利な雰囲気を纏った男。名を、藤堂鏡志朗。
 奇跡の藤堂とも呼ばれる日本軍最高の英雄にして、今回のホテルジャックの実行犯である草壁と同じ日本解放戦線のメンバーである。
 その藤堂の拳は今、普段感情を露わにすることの無い彼が堪え切れなかった怒りに震えていた。
「馬鹿なことを……!」
 それが草壁の行動に対する、藤堂の評価だった。
 彼等は何も理解出来ていない。彼等の行動が与える影響も、コーネリアという人物が戦姫と呼ばれている理由さえも。
 今回の一件がどう終息するにしても、ブリタニア人の日本人に対する感情は更に悪くなるだろう。弾圧は更に強まり、ゲットーで暮らす人々が犠牲になる。
 そして、コーネリア。エリア18において彼女はアジトに立て篭もった反乱軍を"人質ごと殲滅"し、世界中を戦慄させた。
 今回はEUなどの要人が含まれるため多少なりとも交渉を試みる振りはするだろうが、最終的には力で捩じ伏せるだろうと藤堂は見ている。
 血気ばかり盛んな草壁達の行動は余りに浅慮。短絡的に過ぎる。藤堂の評価は、当然過ぎるものであった。
「……片瀬少将は、なんと?」
「少ない戦力で各国要人を人質に取れたことで、大喜びでした。まるで子供のようでしたね」
 侮蔑の感情を隠そうともしていない朝比奈の報告を受け、藤堂は強く唇を噛みしめた。そうでもしなければ、上官を罵る言葉を吐き出してしまいそうだった。
 眼を閉じ、呼吸を整える。爆発しそうな感情を藤堂はなんとか抑え込む。怒りに我を失い今すべきことを怠るほど、藤堂は無能ではない。
「白鳥少佐はどこにおられる?」
 藤堂は彼が知る限りにおいて、最も頼りになる男の居所を尋ねた。
『奇才』白鳥社。旧日本陸軍少佐にして、士官学校時代の藤堂に教官として軍人に必要なことの全てを叩き込んだ男である。
「いざとなれば白鳥」という言葉さえ生まれるほど優れた軍人であり、今でこそ厳島の戦いにより藤堂が有名になっているが、それ以前の軍部では白鳥こそが最高の軍人として知られていた。
 ただ少々性格に難があり、無能であれば上官だろうと平気で罵るような人物である為兵達に好かれる一方で上層部の受けは宜しくなかった。
 本来なら将官になれるほどの功績を上げていながら、未だに藤堂より階級が下の少佐止まりであるのは、その辺りに理由がある。
 それでも旧軍の元帥大将の下ではその能力を存分に発揮出来ていたのだが、以前白鳥に「無能の腰ぬけ」と評されて以来「白鳥嫌い」で有名である片瀬が解放戦線のトップとなってからは、活躍の場を与えられていない。
 藤堂は嫌味たっぷりな白鳥の語り口を思い出す。もしこの場に白鳥がいてくれたなら、彼は藤堂を皮肉り、藤堂をもっと早く平静に戻してくれただろう。
 しかし藤堂の言葉に四聖剣の一人である千葉凪沙は、沈んだ顔で言葉を紡いだ。
「白鳥少佐は現在、キョウトの方へ出向いておられます」
 そうか、と白鳥の不在を告げられても藤堂に気落ちした様子はない。一時は感情に揺らぎを生じさせたとはいえ、藤堂は完璧な軍人なのである。
「千葉、お前は白鳥少佐の元へ行け。会合が済み次第、少佐をお連れしろ」
「はっ!」
「朝比奈、お前は兵士達を宥めろ。今回のことで、草壁達と同じ考えを抱く者達が暴走するやもしれん」
「任せてください」
「卜部は草壁と連絡が取れないか試みろ。仙波、お前は私と来い。片瀬少将に草壁の説得をお願いする」
「分かりました」
「了解」

53:コードギアス The reborn world 5話
09/02/27 23:36:52 I4hZXEJm
号令の下、四聖剣は即座に行動を開始した。藤堂自身も仙波を連れ、片瀬の私室へ急ぎ足を運ぶ。
しかし片瀬の元に向かいながら、藤堂は自分の言葉に片瀬は耳を貸さないであろうと予想していた。
藤堂の片瀬への人物評価は、端的に言ってしまえば白鳥と同じ「無能」であったからだ。戦場の動きを理解することも出来ず、用兵も弱腰で、先見性も皆無。
無能な味方は有能な敵よりも厄介である。ましてそれが上官であるならば尚更だ。人の上に立つ者が無能なのは、これ以上無いほどの罪悪なのだ。
『無能な上官もタチが悪いが、それに愚直に従い続ける部下もタチが悪い。そう思わねぇか中佐殿?』
ふと、以前白鳥が口にした言葉が藤堂の脳裏をよぎった。口元を吊り上げ、揶揄を隠そうともしない眼差しを向けてきた白鳥に対し、藤堂は無言だった。
返す言葉を持たなかったのだ。そしてそれは、今も変わらない。もしまた同じ問いを投げかけられても、藤堂はきっと無言で答えることだろう。
そしてそれに対する白鳥の反応も、きっと変わらないだろう。困ったように苦笑して、
『頑迷だな。今はそれでいいかも知れんがな、藤堂。これだけは肝に銘じておけ。後悔は、先に立たないものだ』
それだけを言って去っていくのだろう。白鳥社とは、そういう男だ。
「中佐?」
怪訝そうな仙波の声で、藤堂の意識は現在へと戻る。見れば、既に片瀬の私室の前までたどり着いていた。
藤堂は一先ず白鳥の言葉を思考の隅に追いやり、閉じられている扉を叩いた。
後で悔いることが無いように、今自身に出来ることをやる為に。

54:創る名無しに見る名無し
09/02/27 23:38:02 iU7ytaGa
しえんー

55:コードギアス The reborn world 5話
09/02/27 23:39:07 I4hZXEJm
 その場の誰よりも冷静な思考を巡らしつつ、ライは自分達が閉じ込められている場所である食糧貯蔵庫の中を視線だけで見まわした。
(見張りの人数は四人。見える範囲に二人、背後に二人。何れも銃で武装している。刃物の類も所持していると仮定した方が良いだろう。
 貯蔵庫の広さ、そして人質の数を考えれば四人という数は少ないように思うが、ここにこれ以上人員を割くことが出来ないんだろう。
 見張りの交代は三時間から四時間に一度。先程変わったばかりだ、しばらくはこのままだろう。
 定時連絡は三十分に一度ほどの頻度で行っていたが、一時間ほど前から無くなったな。人質を連れ出しに来るから、確認は不要ということか)
 そこで一旦思考を止め、ライはミレイ達の様子を窺った。何れも疲弊の色は濃いがそれだけだ。幸い、と言っていいものかこの場合は疑問だが、男の人質から殺されていることを考えれば、大人しくしてさえいればミレイ達の身の安全は暫くは確保されていると言っていいだろう。
 だからと言って、現状を座視しているつもりはライには無い。何とかしてこのどう転んでもおかしくない現状を打破したいと考えているのだが……。
 一瞬、ライの視界が暗くなる。失神しかけたのだ。先程から打たれたところが熱を発し始め、ライの意識を苛むようになっていたのである。
 ライの不調に気付いているのだろう。シャーリーが気遣わしげな視線を向けてきたが、ライは監視の目を引くのを恐れて何も反応を返さぬまま気付かなかった振りをした。
 シャーリーの優しさを無碍にした形となり胸が痛んだが、このことで目を付けられ次の人質にライが選ばれてしまっては、彼女達を守る人間がいなくなってしまう。
(しかし、この状況が長引くと不味い。何とかしなければ……。だからといって事を急くわけにもいかない。機会を待たなくては)
 しかし、転機はライの予想していたよりも早くやってくることになる。
 冷静すぎるライとは反対に、ニーナは既に限界だった。生来気の弱い人物であり、また以前イレブンの手によりその脆弱な心に植え付けられた恐怖心は根深く、
 常に死が間近に存在すると言う極限の状況に長く置かれたことで身も心も限界を超え、ニーナはいつ心が折れてもおかしくない状態にまで追い詰められていた。
 危ういながらそれでも何とか堪えていたニーナの眼前に、テロリストの男の軍靴に包まれた足が無遠慮に踏み出された。
 そのつま先には、人質の物だろう赤黒い血がこびり付いていた。それから逃げるように目を逸らし思わず顔を上げたニーナは、男の顔をまともに直視し、
 今この場で、最も口にしてはならない言葉を言ってしまった。
「イレブン……」
 その瞬間、その場の空気が震えた。まるで、これから起こる出来事に怯えたように。
「貴様、今何と言った!」
 彼等にとって最も許し難い言葉を耳にしたテロリストは激昂し、銃のトリガーに指をかけた。その動作が、ニーナの恐怖を更に増長させる。
 泣き叫び怯えるニーナの姿が益々テロリストを苛立たせ、ニーナを庇う為に気丈に振舞うミレイとシャーリーの言葉が只でさえ高ぶっている彼等の神経を逆なでした。
 テロリスト達は怒声を上げ、ニーナ達に詰め寄る。テロリスト達の眼に殺意さえ芽生えていることを見てとった瞬間、ライの焦燥は頂点に達した。
(不味い不味い不味い不味い……!!)
 この状況は不味い。庇おうにも既にテロリストの男達は興奮しすぎている。男達が未だ発砲していないのはひとえに相手が女、それも子供だからだ。
 今ライが出れば彼等は間違いなく銃の引き金を引くだろう。だからといって、このまま放っておけばニーナ達に危害が加えられるのは火を見るより明らかだ。
 では今こそ反攻に転じるか? あり得ない。この騒ぎで、見張りの意識は全てこちらに向けられてしまっている。少しでも妙な動きをすれば、ライはそれこそ蜂の巣にされてしまうだろう。
(だが、それがなんだ!)
 腕を掴まれ、ニーナが悲鳴を上げた。そのあまりに悲痛な声を耳朶にしたことで、遂にライの我慢は限界に達した。
 狙うはすぐ横、ニーナを掴み上げている男。この男を一撃で倒し、混乱に乗じて傍にいるもう一人を片付ける。背後にいる二人については、何とかなると信じる他無い。
 一か八かどころではない。穴だらけの無謀な行為、殆ど運任せの分の悪すぎる賭けだ。それを自覚して尚ライは躊躇を捨て去り、行動を起こそうとした。

56:コードギアス The reborn world 5話
09/02/27 23:40:39 I4hZXEJm
「お止めなさい!」
鈴の音のように澄んだ、凛とした声が辺りに響き渡る。自分の浅慮を諌めるようなその声に行動を中止し、ライは声の主を見た。
目を引く長い薄桃色の髪。本来は穏やかな表情が似合うであろう気品を感じさせる美貌は義憤によって紅潮し、
アメジストの如き色彩と輝きを持つ瞳には、武装したテロリストを前にしながら一縷の怯みさえ孕まずただひたすらに気高い意思を宿すのみ。
「なんだ貴様は!」
テロリストの一人が銃口を彼女に向け睨みつける。しかし彼女は動じない。それどころか、真っ向から睨み返して見せた。
その堂々とした立ち姿を見て、ライはすぐさま彼女の正体に気付いた。彼女こそエリア11総督コーネリア・リ・ブリタニアの実妹にして、現エリア11副総督。
「私はブリタニア帝国第三皇女。ユーフェミア・リ・ブリタニアです」

左右の護衛の制止の声を振り切り立ち上がったユーフェミアは、生まれて初めて向けられた銃口への恐怖を必死の思いでこらえきった。
ともすればくじけそうになる心を奮い立たせ、前を見据える。その視線の先にあるのは銃口でもテロリストの姿でもなく、理不尽な暴力にさらされ泣き崩れている一人の少女だった。
ふと、少女と目が合った。涙でぬれた瞳に浮かぶのは驚きと、なお色濃く残る恐怖の影。
余りに痛ましい。ユーフェミアは少しでも彼女の励ましになればと、出来得る限り穏やかに微笑んで見せた。
(可哀想に。辛いでしょう。怖いでしょう。大丈夫。今、助けてあげますからね)
少女から視線を外し、決意を胸にユーフェミアはテロリストに言葉を投げかけ始めた。
ユーフェミアとて馬鹿ではない。自分の立場とテロリストの目的を考えれば、自分がこれからどのような扱いを受けるかなど分かり切っていた。
同時に自分の行動によって、敬愛する姉コーネリアに多大な迷惑をかけるだろうことも予測出来ていた。
姉のことを思い、ユーフェミアの胸が痛んだ。彼女には自分が馬鹿な事をしているという自覚もあったし、護衛の言葉に従い大人しくしていることが最善であるとも分かっていた。
それでも、ユーフェミアは自分の行動が間違いだとは思わない。弱き者を救うこと。それこそが皇族たる彼女の、ノブレス・オブリージュであるのだから。
優しく、そして誇り高いユーフェミアの想い。しかし、世界は残酷だった。
「もしお前が本当に第三皇女だというのなら、確かにこれ以上無い交渉の材料となる。是非、我々の役に立っていただこう。
 だが、それとこれとは別問題だ。この女共には、我々日本人を侮辱したことに対するけじめをつけてもらう」
眉一つ動かさぬまま、テロリストは非情な言葉を返した。同時に、テロリストは少女の腕を捻りあげる。
少女の悲鳴。テロリストの言葉に動揺していたユーフェミアは、それを耳にした瞬間こみあげてきた怒りにその身を震わせた。
だが、ユーフェミアの激情が放たれる前に、テロリストが発した言葉がユーフェミアの臓腑を抉る。
「何を憤っている。我々は、貴様達の流儀に従っているだけだ。弱肉強食、それがブリタニアの国是なのだろう?」
瞬間、ユーフェミアの顔が蒼褪め強張る。それも当然。何故ならば彼女は咄嗟に、テロリストの言い分を否定出来なかったのだから。
テロリストの言葉がいっそ皮肉なほどに、ブリタニアという超大国の在り方を表していたが故に。
返す言葉を持たぬ自分自身に動揺したユーフェミア。動揺は怯みを呼ぶ。テロリストの発する殺気に呑まれ、堪らずユーフェミアが後退りかけた時。
「何故黙る。ユーフェミア・リ・ブリタニア」
一縷の乱れも無い、穏やかでありながら確固たる意思を感じさせる凛然とした声。
さして大きくもないその声はしかし、不思議なくらいしっかりと、ユーフェミアの耳に届いた。
「貴女は正しいことをしている。ならば――堂々と、胸を張っていればいい」
ユーフェミアは、声を発した人物へと視線を向けようとした。彼女以外の面々も同様である。
だが彼女達の視線が声の主を捉える前に、彼は動きだしていた。
ユーフェミアの目の前で突如、少女を拘束していたテロリストの男が膝を折って倒れこむ。刹那の間も置かず、
男のすぐそばにいたもう一人のテロリストの体がくの字に折り曲がり、次の瞬間には宙を舞っていた。
「殿下!」
「ユーフェミア様!」
事態に付いていけず呆然としていたユーフェミアを、彼女の護衛達が引き倒す。床に倒れこむ間際。ユーフェミアは、飛翔する銀色の風を見た。

57:創る名無しに見る名無し
09/02/27 23:41:02 iU7ytaGa
しえん

58:コードギアス The reborn world 5話
09/02/27 23:43:02 I4hZXEJm
 突然の事に驚きながらも、テロリストの男達は自分達の仲間を倒した銀髪の青年を捕捉していた。
 二人のテロリストが銃を構える。だが、その動きは致命的なまでに遅い。引き金を引く前に青年は、彼等の仲間の一人を彼ら目がけて投げ飛ばしていた。
 抜け目の無いことに彼等の射線を遮るようにしてである。これでは咄嗟に撃つことも出来ない。飛んでくる仲間の姿を見て対処に困った彼等は、
 一人は慌てて飛んできた仲間の体をよけ、もう一人は仲間を受けとめようとして耐えきれず共に転倒した。
「野郎!」
 残る一人が激昂し視線を倒れた仲間達から青年に向けようとしたところで、青年の姿が消えていることに気付き目を見開いた。
 人質の中に紛れたか。そう思い人質達に鋭い視線を投げた男は人質達が呆けたように上を見上げていることに気付き、
 次の瞬間には天井を足場にし、獲物に襲いかかる猛禽の如き勢いで迫ってきた青年の痛烈な蹴りを受けて顎と意識を砕かれていた。
 仲間の下敷きになっていた最後の一人は目の前で繰り広げられた一方的過ぎる戦闘に呆然とする他無く。
「武器を捨てろ」
 先程まで自分達が手にしていた銃を銀髪の青年に突きつけられ、完全にその戦意を喪失した。
 最初の一人が青年に倒されてから、ほんの十秒ほどの間のことであった。たったそれだけの時間で、テロリスト達は全滅した。

「大丈夫か、ニーナ」
 他の人質に協力してもらいテロリスト達を拘束し終えたライは、ミレイ達の元に戻るやいなやニーナに気遣わしげな視線を向けた。
 その優しい声音と視線で張り詰めていた気持ちが緩んだのか、恐怖では無く、心からの安堵によってニーナは泣きだした。
 それをシャーリーと共に宥めてやりながら、ミレイは先ほどのライの動きを思い浮かべた。
 一瞬で訓練を受けたテロリストを倒しただけでも驚きだが、大の男一人を軽々と放り投げた膂力や近くの棚を足場に一気に天井まで駆け上がった身のこなしを考えると最早呆れる他無い。
「ライ、さっきの動き。あれは一体なんなの?」
 ミレイの問いかけに対し、ライはしばしどう答えるべきか悩むようなしぐさを見せると、
「分からない。何故か出来ると思ったから、出来ることをしただけだ」
 ライ自身自分の常人離れした身体能力に困惑しているらしいのを察して、ミレイはそう、と頷きながら思考を巡らせていた。
 騎士候に過ぎなかったマリアンヌの後ろ盾となるなど、アッシュフォード家は代々「強者」を愛する家風があり、
 それ故ミレイも幼少の頃より様々な強者を目にしてきた。先に述べたマリアンヌや、帝国最強の戦闘集団ナイトオブラウンズ、
 そして日本の敗戦後に迎え入れた、日本の歴史の裏で暗躍していた忍の末裔達。陰からルルーシュ達を護衛している篠崎咲世子もその一人だ。
 ミレイにはライが、そうした世界でも有数の実力者たちと比べても遜色無い戦闘力を持っているように思えた。
「何であんな無茶したの!!」
「い、いや、だから、出来ると思ったから」
「出来ると思ったからってやってもいいわけじゃないでしょ! 危ないじゃない!」
「す、すまない」
「謝れば良いってもんじゃ、ってそうだ! ライ、怪我は大丈夫? 痛くない?」
 無茶をしたことでシャーリーに説教されたり心配されたりで困り果てているライを見ていると、今一つ確信が持てないのだが。
「すいません」
 シャーリーとライのやり取りを苦笑混じりに眺めていたミレイは背後から声をかけられて、その声の主を見て驚いた。
「友人同士でお話しされている最中申し訳ないのですが、彼とお話させていただけないでしょうか」
 上手い言葉が出てこずただ頷くことしか出来無かったミレイに、皇女ユーフェミアは礼を述べてまずニーナに視線を向けた。
「大丈夫? 怪我はない?」
「あ、は、はぃ!」
「そう、良かった。あなたは、この子のお友達? あんな状況で庇えるなんて、勇気があるんですね」
「いえ、そんな……私は、と、当然のことをしただけです」
「当然のことかもしれませんけど、中々出来ることではありませんよ。立派でした」
 ふわりとした、上品さと無邪気さを絶妙なバランスで兼ね備えた笑みを浮かべるユーフェミア。
 ブリタニア貴族からすれば雲の上の存在であるユーフェミアを間近に見て、一目で分かるほど委縮してしまっているニーナとシャーリーだったが、
 その笑顔を見て幾分緊張が和らいだらしく、ニーナは頬を赤らめて俯き、シャーリーは照れくさそうな顔をした。
 その二人に対して、次に視線を向けられたライは平然とした様子でユーフェミアの視線を受け止めた。

59:創る名無しに見る名無し
09/02/27 23:44:24 /MZkS3yE
支援

60:コードギアス The reborn world 5話
09/02/27 23:46:19 I4hZXEJm
「お名前をお聞きしていいですか?」
「ライです」
「ライさん、ですか。ライさん。先ほどは、ありがとうございました」
 ユーフェミアが口にしたのは、心からの謝意の言葉だった。皇女という立場でありながら深々と頭を下げた彼女は、次いでライの顔に残る暴力の跡に気付くと痛ましげな表情を見せた。
 そっと目が伏せられた拍子に長い睫が憂いに揺れる。それに対してライは、困ったような顔をした。
 何せライが行動を起こしたのはユーフェミアを助けるためではなく、ユーフェミアが奇しくも囮の役目を果たしてくれたからである。
 言いようによっては、ユーフェミアを利用したとも言える。それなのにこうも厚意を向けられては、心苦しくもなるだろう。
「いや、僕の行動で貴女に危険が及ぶ可能性もあった。そのことを考えれば寧ろ僕が」
「いいえ、そのことではなく。いえ、助けてくださったことも勿論感謝していますけど、私が一番お礼を言いたいのは……」
 ライの言葉を遮るようにしたユーフェミアは、途中まで口にしたところで悩むような仕草を見せた。
 上手く言葉に出来ないのか。それとも言って良いものか悩んでいるのか。それはライには分からなかったが、ライがその先を聞くことは無かった。
「お話し中申し訳ありませんが、宜しいですか?」
 きびきびとした語り口の少女が、遠慮がちに二人に歩み寄ってくる。彼女の後ろには、彼女より幾分年下らしい少女も付いていた。
 その二人の顔を見てライは思いだした。先程、ライが動いたとき誰よりも早く反応しユーフェミアを守るべく行動を起こした少女達であった。
 きっちりとスーツを見事に着こなした長い金髪の少女と、幼さゆえか少々スーツ姿に違和感のある栗色の髪の少女。
「ライさん、でしたか。自分はユーフェミア様の護衛、リーライナ・ヴェルガモン少尉であります」
「同じく、マリーカ・ソレイシィ候補生であります!」
 二人はかっちりとした敬礼をして見せると、その可憐な容姿に似合わぬ軍人言葉で喋りだした。
「先程のライさんの動きを見させていただきましたが、敬服致しました。何らかの武術を修めていらっしゃるとお見受けしましたが、
 ひょっとしてライさんも私達と同じく軍人でいらっしゃるので?」
「いや、僕はただの、ではないかもしれないけど……学生なんだ」
「……学生と言うと、士官学校などではなく一般の?」
「そうだけど」
「えぇ! あんなに強いのに!?」
「マリーカ!」
 驚きのあまり素が出てしまったらしいマリーカを、リーライナが窘める。一応彼女も驚いてはいるようだが、彼女の表情は驚き以外の感情で曇っていた。
「見張りは排除しましたが、私達が人質であるという状況は変わっていませんし、テロリスト共がいつやってくるとも知れません。
 かと言って、この人数を悟られずに脱出させるなど不可能ですし」
 そこで言葉を切り、リーライナは自らの護衛対象であるユーフェミアに視線を向ける。
 その視線に込められた思いを理解したユーフェミアは、きっぱりと。
「私には、皆さんを置いて自分だけ逃げだすなんて出来ません」
「……と、ユーフェミア様は仰っておられまして」
 相手の地位と自分の立場が無ければ、盛大にため息をついていたであろう表情をするリーライナ。
 酷く疲れた様子のリーライナに代わって、マリーカが言葉を続けた。
「ですから、敵が来た場合は私達で応戦しようと考えています。幸い出入り口は一つだけですので、上手く立ち回れば敵の侵入を防ぐことが出来ると思われます。
 ただ、今回のユーフェミア様のご訪問はお忍びだった為護衛は私達二人だけ。人質の方の中にも、残念ながら戦闘職の方はいませんでした。
 この場において戦力として数えられるのは私とリーライナ少尉、そして……ライさん、あなただけです。ですから」
 ここに至ってライにも、何故彼女達が申し訳なさそうな顔をしているのか理解出来た。
 状況が状況とはいえ、一般人であるライを巻き込んでしまうのが軍人として忍びないのだろう。
「そういうことなら考えるまでもない。どこまで役に立てるか分からないけど、是非協力させてくれ」
 だからこそ、ライは皆まで言わせずそう言った。
 ライの意図と言葉に込められた思いを正確に理解したマリーカとリーライナは、ただ静かに頭を下げた。
 ライもまたその二人に対し軽く頷いただけだったが、ふと思い出したように振り向いた。
「そうだ、シャーリー」
 突然声をかけられどう返事をすれば良いか迷うシャーリーに、ライは気まずい様子で視線を逸らしながらも、
「もう少し、無茶をするよ。だから先に謝っておく。すまない。それと、その……ありがとう」

61:創る名無しに見る名無し
09/02/27 23:48:59 iU7ytaGa
しえん

62:創る名無しに見る名無し
09/02/27 23:49:11 /MZkS3yE
支援

63:コードギアス The reborn world 5話
09/02/27 23:50:12 I4hZXEJm
 それだけを告げると、シャーリーの言葉を待たずにライはリーライナ達と出口に向かって歩を進めていた。
 遠ざかって行くライの背中を、心配そうに見送るシャーリー。そのシャーリーの肩が、ポンと叩かれる。
「会長……」
「ライなら大丈夫よ。こんな状況だっていうのに笑っちゃうくらい平然としてるし、シャーリーもさっきの見たでしょう? ライは強いのよ。だから、大丈夫」
「でも、ライ怪我してるんですよ! いくら強くても、また怪我するかもしれないじゃないですか!!」
 その声は最早悲鳴に近かった。この状況の中、シャーリーも精神的に参ってきているのだろう。
 普段以上に感情的になっているシャーリーの姿を見て痛ましく思いながら、ミレイはそっとシャーリ―を抱き寄せた。
「そうね、ごめん。今のは私が無神経だった。それに本音を言えば、私もシャーリーと同じ。ライにこれ以上、危険なことをしてもらいたくなんかない。
 でもねシャーリー。それでも今の私達は、ライに頼るしかないのよ。ここにいる人達皆が無事に家に帰る為に、ライの力が必要とされている。
 それに、ライは無愛想でまだ言葉遣いも硬いし不器用だけど、優しいのはシャーリーも知っているでしょう? そのライが、こんな状況を放っておける訳が無いことも」
「そんなの、そんなの分かってます! 分かってるんです! それが分かっているのに、私は……何も出来ない」
 ミレイがあやすようにシャーリーの背を撫でる。ミレイの腕の中で、シャーリーは泣いていた。
 それは今の状況をただ見ているしかない非力な自分と、ライが怪我をしているのを知りながら尚心のどこかでライに頼らざるを得ないと考えていた情けない自分を嘆く、悔し涙だった。
 嗚咽を堪え、その身を震わすシャーリーを労わるように、シャーリーと手を繋ぐ者がいた。ニーナだ。
「何も出来ないなんて、そんなことない。だってシャーリーは、私を守ろうとしてくれたもの」
 ニーナは涙に濡れた眼差しを向けてくるシャーリーに、自身の胸中の不安を押し殺して笑いかけた。
「それに、シャーリーはライさん……ライのことが心配で、本当にライのことを想って、ライに怒ってあげることが出来たじゃない。
 多分ライは、シャーリーに怒ってもらえて嬉しかったんだと思う。だから、ありがとうって言ったんだと思う」
「ニーナ……」
「皆さん!」
 ざわめき出していた人質達を静めるように、リーライナの緊迫した声が響き渡った。
「物影に隠れていてください。敵が来たようです」
 銃を構えたリーライナとマリーカの指示に従い、ミレイ達も物影に身を隠した。
 ミレイ達の視線の先ではライが、扉のすぐ近くに立ち鋭い目つきで閉ざされた扉を油断無く睨んでいる。
 驚くべきことに、ライは銃を手にしていなかった。武器と言えば後ろ腰にテロリストから奪ったらしいナイフをベルトに差しているのが確認出来る程度だ。
 どうやらライは先ほど同様、白兵戦を主体とするらしい。しかも位置関係からして、ライが先陣を切るようだ。何らかの作戦があるのかもしれないが、
 ライが先ほど以上の危険に身を晒すことは素人のシャーリーにも予想することが出来た。
(ライ……)
 シャーリーは、いや、シャーリーだけでなくミレイもニーナも、ライの無事を祈りながらその背中を見続けていた。

 カレンや吉田らが脱出艇の確保に向かうのを見送り自身も目的の場所に向いながら、扇は改めて自分の格好を見下ろしとても似合っているとは思えないその衣装にため息を吐いた。
 黒一色で統一された上下に、顔の半分近くを覆う黒いバイザーと洒落たデザインの黒帽子。
(確かに、何かしら組織の一員を示すものがあった方が団結しやすいかもしれないが)
 これはやり過ぎではなかろうか、と扇は疑問を抱かずにはいられない。ゼロ曰くある程度防弾性がある繊維で作られているらしい。
 嘘ではなかろうが、むしろこの服を皆に着せる為の方便としての性質の方が強いのではなかろうかと扇は思った。
(あの仮面と衣装も、彼の趣味のようだし……この格好も、彼の趣味なんじゃ……)
 だとしたらゼロはあまり趣味が良いとは言えないな、とまた嘆息した扇の目の前で、扇とは反対に喜び勇んで制服に袖を通した玉城が心なしか上機嫌な様子で口を開いた。
「食糧貯蔵庫、食糧貯蔵庫っと……あったあった! ここに人質がいるわけだ」
「ちょっとアホ玉城、勝手なことしてんじゃないわよ。見張りがまだ残ってるんだからね。ゼロが来るまで待ってな」

64:創る名無しに見る名無し
09/02/27 23:52:02 iU7ytaGa
まだまだしえん

65:創る名無しに見る名無し
09/02/27 23:52:24 /MZkS3yE
支援

66:コードギアス The reborn world 5話
09/02/27 23:54:34 I4hZXEJm
 不愉快そうな感情を隠さず玉城を罵ったのは小笠原であり、その語り口と表情はかなり剣呑であった。
 扇達はこの食糧貯蔵庫に捕らわれている人質の解放を命じられていた。もしこれに失敗しようものならこの作戦そのものが失敗に終わると言っても過言ではないことを考えれば、
 小笠原の態度も仕方の無いことだろう。更に彼女の場合、以前玉城の勝手な行動で死にかけたということもある。
 いつもならここで手を止め小笠原に突っかかる玉城であるが、
「ただ人質を助けるだけだろぉ? ゼロ無しでいいじゃねぇか別に。見張りの野郎も、ボスが死んだとなりゃ大人しくなるだろ」 
 今回に限って玉城は止まらなかった。玉城が貯蔵庫の扉に手をかけたのを見て慌てて扇が駆け寄るが、
 無情にも扇が制止しようと扉に手を伸ばした所で、扉は玉城の手によって一気に開かれた。
「ハッハッハァ! ブリタニアの野郎共、ありがたくもこの玉城様がぁ!?」
 玉城の言葉は唐突に遮られた。扉が開いた瞬間、飛び出してきた何者かの一撃によって。
「たっ……!」
 崩れ落ちる玉城を支えようとした扇の背筋にひやりとした何かが過る。瞬間、扇は本能的に頭を守った。
 襲ってくる衝撃。盾とした両腕を一撃でへし折らんばかりの重さ。それはガードしてもなお扇の脳を揺らし、更に大柄な扇を吹き飛ばすほどの威力があった。
「ぐぅ……」
 先程の頭部への一撃に加え、壁に叩きつけられたことで思わず扇は膝を折ったが、追撃はやって来ない。
 突然の襲撃からいち早く立ち直った小笠原が、襲撃者に挑みかかっていたからである。
「井上、連絡! それとフォロー頼んだ!」
 それだけを最後尾にいた井上に叫ぶと、小笠原は一足飛びに踏み込み、体勢を低くしていた敵の側頭部目がけて蹴りを放つ。
 鞭のようにしなり、速さのみならず鋭さを兼ね備えたその一撃をしかし、相手はあっさりと躱してのけた。
 敵の手練に驚く間もなく、襲い来る敵の拳を紙一重で避けた小笠原の口元に、笑みが浮かぶ。
「上等! これくらいじゃなきゃ、張り合いが無い!」
 嬉しげな響きの言葉を吐きながら、怯むことなく小笠原は敵に襲いかかる。
 持ち前の高い身体能力をフル活用し、蹴りと拳を休むことなく繰り出す。常人ならば反応すら出来ないであろうハイ・スピード・コンボ。敵はその連撃を、避けるのに専念しているようだった。
 それ故に、両者の勝敗は明らか。このままでは遠くないうちに全力で攻めている小笠原が体力を消耗し、敵が反撃に転じて終わりだろう。
 その程度のことは小笠原自身にも予想出来ているだろうが、彼女は四肢を振るう度に滲み始めた汗を舞い散らせながらも、少しも焦れた様子を見せなかった。
 小笠原が大ぶりの右ストレートを放つ。余りに迂闊な攻撃。敵はそれを見逃さずその一撃をいなし、小笠原の体が大きく左に泳ぐ。
 それにより、今まで小笠原の体によって遮られていた部分が敵の視界に入ることになり、その先には―拳銃を構え狙いを付けていた、井上の姿があった。
 小笠原の真の狙いはこれだった。彼女が相手の気を引き、適当なところで井上が決める。勝利を確信し、小笠原の顔に笑みが浮かぶ。
 発砲音。次の瞬間、最初の激突から崩れることの無かった小笠原の余裕の表情が、初めて驚愕に歪んだ。
 信じがたい話だが、スローモーションのようにして、小笠原の目には見えた。敵が、銃弾さえも躱してのけたのが。
 いや、それだけではない。同時に振り抜かれた敵の腕を追って首を曲げて背後を見れば、井上が手にしていた拳銃の銃身に、ナイフが突き立っているではないか。
「あ……あんたほんとに、人間かぁーー!?」
 小笠原が思わず口にした驚愕の声に反応したのか、小笠原と敵の目が合う。
 銀色の髪が映える、端正な顔立ちをした青年だった。頬には真新しい暴力の跡が残っていたが、それは青年の美しさを欠片も損ねてはいない。
 これほどの美貌、恐らく一度でも目にすれば決して忘れるようなことはあるまい。
(……あれ? 銀色?)
 事実、彼女は青年の顔を見た瞬間に、何かを思い出しかけて。
 腹に風穴が開いたかと錯覚するほどの一撃を受け、受け身も碌に取れないまま糸の切れた操り人形のように崩れ落ちた。
「小笠原!」

67:創る名無しに見る名無し
09/02/27 23:57:06 /MZkS3yE
支援

68:創る名無しに見る名無し
09/02/27 23:57:32 iU7ytaGa
しえん

69:創る名無しに見る名無し
09/02/28 00:05:58 UqxZvbjU
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70:コードギアス The reborn world 5話
09/02/28 00:13:44 AU2QOMzk
 井上の呼びかけにも小笠原は微かに体を震わせるのみ。最早、体を動かすことさえ出来ぬ有様らしい。たった一撃で、彼女は戦闘不能にされたのだ。
 井上の視線の更に先では、扇が何とか立ち上がろうとしながらもその度に失敗し、玉城に至っては完全に失神しているらしくぴくりとも動かない。
 そして、ほんの僅か。時間にして一秒程度の間意識を向けなかっただけで銀髪の青年は壁を足場として、井上目がけて駆けてきていた。
 迎撃しなければ。咄嗟に井上は腰のホルスターに手を伸ばしかけ、そこで漸く先ほど青年に銃を破壊されていたことを思い出した。
 青年が壁を蹴り、宙を舞う。さながら独楽のように回転しながら向かってくるその様を見て、井上の脳裏に「全滅」の二文字が浮かぶ。
 思考を手放し呆然と、迫りくる青年を眺めていた井上は、
「伏せて、井上さん――!」
 前触れ無く聞こえたその声に、殆ど脊髄反射で応える。
 仰向けに倒れこむようにしてその身を伏せた井上は、視線の先、自らの頭上で敵と交差する紅い髪の少女を見た。

 井上から襲撃を受けているという連絡を受けたカレンは、吉田達より先んじて扇達の救援に向かった。
 しかし食糧貯蔵庫までやってきた時には既に玉城、扇、小笠原が地に伏し、今まさに井上が襲われているところであった。
「伏せて、井上さん――!」
 ダッシュの勢いをそのままに、カレンは大きく跳躍する。幸い井上には声が届いたようで、カレンは敵の腹目がけて渾身の蹴りを見舞った。
「りゃあぁぁぁ!!」
 その蹴りはカウンターの要領で敵の腹に突き刺さったが、カレンは不確かな手ごたえ、まるで強化ゴムを蹴りつけたような感触を感じていた。
 その感触の正体は鍛えられた筋肉と言う名の鎧。青年の細身に反して密度の高い筋肉は、カレンの蹴りの威力を半減していた。
 だが、全くダメージが無いわけではない。事実、危なげなく着地したカレンに対し敵の青年は辛うじて着地には成功していたものの、膝をつき未だカレンに背を向けたまま立ち上がれずにいる。
 青年が容易に立ち上がれぬ状態であるのを確認してから、カレンは周囲を見回した。
 気を失った玉城、苦しげに呻く扇、苦悶さえ出来ぬままその身を震わす小笠原、そして一見したところでは外傷は無いものの、床に手をついたまま消耗した様子の井上。
 それらを改めて目にしたカレンの瞳が怒りで揺らぐ。頭に血が昇って行くのを実感しながら、カレンは青年に歩み寄ろうとして、
「うっ……」
 突然、鈍い痛みが足首に走った。堪らず視線を下ろすカレン。ブーツによって直接見ることは出来なかったが、この時カレンの足首は痛々しく腫れあがっていた。
 先程の蹴りの時を痛めたのか。カレンはそう考え、事実それは確かに原因の一端ではあったが、全てでは無かった。
 カレンは気付かなかったが蹴りを受けた瞬間、青年は自分の右肘と右膝を使ってカレンの足首を思い切り挟みこみ、ダメージを与えていたのだ。
 骨に異常は無さそうなものの、やや歩行に支障をきたすことになりカレンは唇を噛んだが、そこでふと、青年の容姿に目を惹かれた。
 背を向けている為顔は見えないが、鮮やかな銀の髪はカレンの友人のそれとよく似ていた。
 まさか、と。足首の痛みにより冷静な思考を取り戻したカレンの顔から血の気が引いていく。今自分が対峙しているのは、まさか……。
「動くな」
 カレンの思考は、その言葉と共に後頭部に押し付けられた銃口の感触で中断させられた。
 声からして女性のようだが、背後に立つ人物には付け入る隙が微塵も感じられない。カレンは心中で舌打ちするが、大人しく従うしかない。
 そのカレンの脇をやはり銃を手にした少女が駆け抜け、壁を支えに何とか立ちあがっていた青年の元へ急ぐ。
「大丈夫ですか、ライさん!」
 呼ばれた青年の名が自分の予想通りであったことで、様々な感情がカレンの心中に渦巻く。
 無事でいてくれたことへの安堵、常人離れしている強さへの不審、そして気付いていなかったとはいえ、傷付けてしまったことへの罪悪感。それら全てが混ざり合った、ぐちゃぐちゃな心中。
 少女に支えられながら歩くライに何か言葉をかけようとしたところで、しかしカレンは今の己の立場を思い出し、顔を伏せたまま脇を通り過ぎるライを無言で見送るしかなかった。
「紅月!」
 この時になって漸く、南や杉山らが駆けつけてきた。彼等はまず扇達が倒れ伏し、カレンが銃を突き付けられている状態に驚いた。
 両手に銃を持ち、それぞれの照準をカレンと小笠原に向けていたリーライナは、油断無く身構えながら杉山達に射抜くような眼光を向ける。

71:創る名無しに見る名無し
09/02/28 00:13:55 qxMsE7+C
支援

72:コードギアス The reborn world 5話
09/02/28 00:16:29 AU2QOMzk
「貴様らの仲間は見ての通り捕らえさせてもらった。解放してほしくば、今すぐ我々を解放しろ」
「なにをっ」
「動かないで!」
 思わず詰め寄りかけた杉山達だったが、もう一人の少女、マリーカが素早く銃を向けたことでその場に釘付けにされる。
 睨みあう両者。まるでその場だけ時が止まったかのような静寂の中、場に緊迫した空気が流れる。
「ブリタニアの女性は勇敢なのだな。だが、少々落ち着きが足りないようだ」
 不意に、声が響いた。感情を感じさせない冷徹なその声は機械を通すことでいっそ非人間的でさえあった。
 静まり返った通路に、コツコツと硬質な靴音を響かせながら姿を現した人物を目にし、リーライナは驚きの声を上げた。
「貴様、ゼロ!!」
「ほぉ、貴女のような可憐な方まで私をご存じとは。私も有名になったものだ」
「クロヴィス殿下の仇を、我ら帝国臣民が知らぬ筈が無い!」
 その容姿に似合わぬ荒々しい声を発し銃を向けるマリーカを一瞥し、ゼロは無言のまま鋭利な眼差しを自分に向けるリーライナと真正面から向き合った。
「君達は誤解をしている。君達はどうやら私を日本解放戦線の仲間だと思っているようだが、それは間違いだ」
 芝居がかった動きでマントをひらめかすゼロの言葉に、リーライナは端正な眉を寄せる。
「我々は『黒の騎士団』! 力無き者の味方である我らは、君達を助けに来た!!」
 自らを誇示するように両手を広げ、ゼロは高々と宣言した。
 そのゼロの言葉にリーライナは驚きを隠せない。彼女の目の前に立つ怪人は、クロヴィス前総督を暗殺したテロリストでありながら、
 あろうことか騎士を名乗ったのだ。それも、力無き者の味方などという、まるで自分こそが正義だとでも言うような言葉まで添えて。しかも、自分達を助けに来たと言う。
「テロリストが騎士を名乗るか」
「祖国を救うため戦う存在を、ブリタニアでは騎士と言うのではないか? 君達を相手取るにはぴったりの名前だと思うがね」
「戯言を。貴様も日本解放戦線と同じテロリストであるのは変わらない。その貴様が、我々を助けに来たとはどういうことだ?」
「言葉通りの意味だが?」
 ゼロは仮面に手を添え、奇妙な形に指を曲げると言葉を続けた。
「確かに日本解放戦線も日本解放の為に戦うという意味では同志と言えるが、今回は少々互いの考えに相違があったものでね。
 言っただろう? 我々は力無き者の味方だと。今回のような罪の無い一般人を犠牲にする、無意味な行為は看過出来なかった。
 それ故私は人質を解放するよう草壁らを説得したのだが、応じてもらえなかったものでね。仕方なく……天誅を下した」
 仮面に添えていた手を一気に握りしめる。力強く握りしめられたその拳は、ゼロの断固たる意思そのものを表しているかのようだった。
「もし貴様の言葉が真実なら、私達が貴様らに助けられねばならぬ道理は無いわ。ここで救助を待てばいい。貴様も一緒にね」
「ふっ、心遣いには感謝するが、我々には救助を待つほどの時間的余裕は無い。後二十分ほどで、このホテルは爆破されるのだからな」
「……どういうこと」
「恐らく逃走の為だろうが、草壁らは爆発物を用意していたのだ。そしてこれはこちらの落ち度だが、先ほど草壁らを始末した時生き残りの部下にタイマーを作動させられてしまってね。
 そのリミットまで、もう二十分ほどしかないのだよ。草壁は死んだとは言え、地上ではまだその事実を知らぬ日本解放戦線の者がブリタニア軍と睨みあっている。
 そんな状態で、二十分以内に救助が来るとは思えないな。だから私としては、こうして睨みあっている暇があれば、一刻も早くこの場から脱出したいのだよ。君達と共に」
 毅然とした態度でゼロと向き合っていたリーライナの瞳にこの時、迷いが生じた。
 もし仮に爆発物の話が本当だとしたら、ゼロの言うとおり今の状態は時間の無駄以外の何物でもない。しかし、相手はゼロである。信用など出来よう筈が無い。

73:創る名無しに見る名無し
09/02/28 00:18:18 qxMsE7+C
支援

74:コードギアス The reborn world 5話
09/02/28 00:18:39 AU2QOMzk
 また異なる理由で、表面上は平静を保っていた黒の騎士団の面々もゼロの言動に戸惑っていた。
 確かに、爆発物はある。それもこのホテルを倒壊させるのに十分な量が。ただしそれはゼロが設置させたものであり、しかもその爆発物はゼロの持つスイッチによってのみ起爆するのだった。
 交渉を有利にする為に伏せているのだということは皆分かっていたが、それでも予想外の事態に見舞われながらも平然と虚言を弄するゼロという人物に、不信感を抱いたのも確かだった。
 しかし、そんな黒の騎士団側の事情を知らないリーライナにとっては、判断に迷う問題であるのは変わらない。
 そもそも爆発物など存在しないかもしれないし、あったとしても爆発するまでにもっと時間があるかもしれない。だからと言って、
 無視していいような話でもない。リーライナ一人の命だけでなく、多くの人質、そしてユーフェミアの命までかかった話なのだから。
「リーライナさん」
 惑うリーライナの耳に、この状況でなお落ち着いた声が届く。ゼロに隙を見せぬようにしながら背後を窺うと、
 腹を押さえたライが、壁を支えにしながら立ち上がっていた。
「ゼロの話、僕は受けて良いと思う」
「えっ」
「ライさん……?」
 突然のことに戸惑う二人。この瞬間、ライに気を取られていたリーライナから銃を奪うことがカレンならば可能であっただろうが、
 そのカレン自身がライの言動に虚を突かれていたためそれは適わなかった。一方のゼロは、興味深そうにライを眺めているようだった。
 この時ほんの一瞬、ライを見たゼロの体が不自然に硬直したことに気付いた者は、この場にいなかった。
「ほお。君は見たところ、軍人と言うわけではないようだが」
「ああ。ただの学生だからな」
「ふむ。その学生の君が、何故私を信用すると?」
「別に、お前を信用したわけじゃない」
 まだ腹が痛むのか、額にうっすらと汗をにじませているライの声はかすれていた。
「ゼロという人物の思考、そして目的を考えて判断しただけだ」
「私の? 興味深いな。聞かせてもらおうか」
「お前はさっき言ったな。草壁を説得しようとしたと。それはつまり、このホテルに忍び込んできたのではなく、真正面から入ってきたということだ。侵入者と面会するトップはいないからな。
 それに素人に毛が生えた程度のお前達が見つけられるような侵入経路を、建物の詳しい構造についての情報を得ている筈のブリタニア正規軍が見つけられないというのも考えにくい」
「ふっ、その通りだ。私は正面から堂々と、車でこのホテルまで乗り付けてやったよ」
「その車の種類を当ててやろう」
「面白い。当ててみろ」
「報道関係の車両、恐らく中継車だろう」
 ライが発した言葉を聞き、仮面により様子が窺い知れないゼロ以外の黒の騎士団の面々が、バイザーでは隠しきれないほどの驚きを表情に出した。
 その反応だけで、ライの言葉が事実であることがリーライナ達にも分かった。
「……何故分かった?」
「お前が一人の犯罪者でありながらこれほどの知名度を誇っているのは、幾つか理由がある。
 クロヴィス前総督を暗殺したこと。そしてマンガから抜け出してきたかのようなその姿も勿論そうだし、僕の友人である枢木スザクを助け出したこともある」
 ここで、今度は黒の騎士団だけでなくリーライナ達も驚かされていた。
 スザクは名誉ブリタニア人とはいえ、所詮は日本人……イレブンである。そのスザクをライは、何の躊躇いも無く友人と呼んだのだから。
 当のライは何ら気にした様子も見せず、言葉を続ける。
「お前がテロリストではなくゼロとして有名になったのは、これらのことを大衆の、いや、メディアの前で堂々披露したのが最大の理由だ。
 ただ撮られるだけでなくお前は、メディアを上手く使っている。まるで舞台の役者のような、芝居がかった口上、動作。
 従来のテロリストがメディアを利用するのは大抵が要求を示す為だが、お前は大衆を舞台の客と見立て、徹底的にゼロという存在を演じてみせた。
 これにより、ゼロという存在は強烈に人々の頭に残った。共通したイメージが確立されたわけだ」
 ゼロは無言。ただ静かに、ライの先を促すのみ。
「そして今回。自分の組織を作ったお前は、今度はその組織に対するイメージを確立させようとしている。
 その為の中継車だろう。そして、お前の言動や行動から考えると、お前が黒の騎士団に対して大衆に抱いてほしいイメージは絞られてくる」
「興味深い。是非聞かせてもらいたいな」
「表現は色々あるだろうが、そうだな。最も分かりやすいのは……」
 少しの逡巡の後、ライはやや乱れていた呼吸を整え、言った。
「正義の味方」

75:創る名無しに見る名無し
09/02/28 00:18:44 y9YWKKzX
しえんー

76:コードギアス The reborn world 5話
09/02/28 00:20:27 AU2QOMzk
「フッ……くく、あっはっはっはっはっはっは!!」
 瞬間、ゼロは大笑した。愉快で堪らないとでもいう風に。肩を大きく揺らしながらゼロは、天井を見上げるようにして暫し笑い続けた。
「ほぼ正解だ、とだけ言っておこうか。君は頭が良い」
 ゼロの称賛に、ライは渋面を作ることで応えた。そのライの反応にさえ愉快そうな声を漏らすと、
 ゼロはライの隣で戸惑っている様子のリーライナに向き直る。
「聞いていた通りだ。我々黒の騎士団は、正義の味方だ。人質には絶対に危害を加えない。時間のこともある。そろそろ、どうするかご決断願えるかな?」
 急かしながらも、どこかからかうような響きの宿るゼロの言葉に、未だ迷いを残すリーライナは返事に詰まった。
「先ぱ……少尉」
 気遣うようなマリーカの声。しかしその声には、マリーカの感じている不安が孕まれていた。
「分かりました。貴方を信じましょう、ゼロ」
 そしてそれとは別に、凛とした決意を感じさせる声が発せられていた。
「ユ、ユーフェミア様!」
 驚き、カレンから銃口がそれていることにも気付かず慌てて振り返ったリーライナの視線の先には、案の定、ユーフェミアの堂々たる立ち姿があった。
 制止しようとして適わなかったのか。傍らにはミレイとシャーリーの姿もあり、開け放されたままの扉からはニーナが恐る恐る顔をのぞかせていた。
「何故出てきたのですか! 危険です、お下がりください!」
「話は全部聞いていました。たった今ゼロは、人質に危害を加えないと約束しましたよ」
「だからと言って!」
「ごめんなさい、リーライナ少尉」
 尚も言い募ろうとするリーライナに、ユーフェミアは後悔すら滲ませた顔をして、頭を下げた。
「あなたにこんな大事な決断を押し付けそうになって。本来なら、私がやらなければならないことでした。ごめんなさい」
「ユ、ユーフェミア様」
 言葉を失ったリーライナに優しく微笑むと、きっ、と真摯な表情を浮かべて、ユーフェミアはゼロと対峙する。
「私はブリタニア帝国第三皇女。ユーフェミア・リ・ブリタニアです。ゼロ、先程の言葉に嘘偽りはありませんか?
 もし貴方が本当に人質の方々を無事に逃がすというのなら、私ユーフェミアの名に誓って約束します。此度のことで、貴方を捕えるようなことはさせません」
「……ああ。勿論、人質は助けますよ。ご配慮、感謝します。ユーフェミア殿下」
「分かりました。リーライナ少尉、銃を下げてください。マリーカ候補生もです」
「……Yes,Your Highness」
 渋々、といった感じで銃を下げるリーライナ。リーライナが銃を下げたのを見て、どこか納得のいっていないような、それでも安堵した様子でマリーカも銃を下げた。
 同時に、吉田達は扇達に手を貸す為に動きだし、ミレイとシャーリーが座り込んでしまっていたライの元に駆け寄って来た。
 そうしてライがミレイ達に手当てを受けている様子を、静かにカレンは眺めていた。
「カレン、彼女達が君の友人か?」
 いつのまにか傍らに来ていたゼロが、カレンにだけ聞こえるように囁いた。
「あ、はい。そうです」
「そうか。色々と思うところはあるだろうが、君はここに長居すべきではない。髪型を変え、バイザーで顔を隠しているとはいえ、君に気付かないとも限らないからな。
 君は井上を連れて先に脱出艇に向い、準備をしておいてくれ」
「……わかりました。お気遣い、ありがとうございます」
 人質の中にカレンの友人がいると聞き、万に一つでもカレンの正体が気付かれることがないよう団員達に「紅月」と呼ぶことを徹底させたのはゼロだった。
 また、人質を救出するチームから白兵戦最強のカレンを外したのもゼロの配慮によるものだった。
「気にすることはない。君に何かあれば、私も困るからな」
 マントを翻してカレンに背を向けたゼロに頭を下げると、カレンは井上の元へ駆けだした。


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