09/02/03 20:12:08 o/+4asZV
■全般
・支援はあくまで規制を回避するシステムなので必要以上の支援は控えましょう
(連投などに伴う規制について参考>>4-あたり)
・次スレ建設について
950レスもしくは460kB近くなったらスレを立てるか訊くこと。立てる人は宣言してから
重複などを防ぐために、次スレ建設宣言から建設完了まで投稿(SS・レス共に)は控えてください。
※SS投稿中に差し掛かった場合は別です。例 940から投稿を始めて950になっても終わらない場合など
・誤字修正依頼など
保管庫への要望、誤字脱字等の修正依頼は次のアドレス(geass_lc_ss@yahoo.co.jp)に
※修正依頼の際には、作品のマスターコード
(マスターコード:その作品の投稿が始まる、スレ番号-レス番号。保管庫の最優先識別コード)
を必ず記述して下さい
例:0003-0342 のタイトルを○○に カップリングを○○に
(↑この部分が必須!)
マスターコードを記述されず○スレ目の○番目の……などという指定だと処理ができなくなる場合があります
■SSを投下される方へ
1.投下前後に開始・終了の旨を書いたレスを入れて下さい(または「何レス目/総レス」を名前欄に)
2.前書き・後書き含めて10レス以上の連投になると同一IDからの投稿が規制されます。(←「さる」状態)
間に他IDからの「支援」が入ることで規制は回避できますので、規制にかかりそうな長文投稿の際は
投下前に支援を要請して下さい。逆に、必要ない場合は支援の要らない旨を書いてください。
前レス投稿から30秒ほどで次レスを投稿することができます。(投稿に関する規制については >>4- あたり参考)
3.投下前は、他作品への割り込みを防ぐ為に必ずリロード。尚、直前の投下完了宣言から15分程度の時間を置いてください
4.投下許可を求めないこと。みんな読みたいに決まってます!
5.なるべくタイトル・カップリング・分類の表記をして下さい。(特にタイトルはある意味、後述の作者名よりも重要です)
・読む人を選ぶような内容(オリキャラ・残酷描写など)の場合、始めに注意を入れて下さい。
6.作者名(固定ハンドルとトリップ)について
・投下時(予告・完了宣言含む)にだけ付けること。その際、第三者の成りすましを防ぐためトリップもあるとベスト。
(トリップのつけ方:名前欄に「#(好きな文字列)」#は半角で)
・トリップがあってもコテハンがないと領地が作れず、??????自治区に格納されます
前書きの中に、以下のテンプレを含むことが推奨されます。(強制ではありません)
【メインタイトル】
【サブタイトル】
【CP・または主な人物】
【ジャンル】
【警告】
【背景色】
【基本フォント色】
3:創る名無しに見る名無し
09/02/03 20:12:47 o/+4asZV
■創作発表板での投稿規制について 参考(暫定)
1レスで投稿可能な容量
・X:1行の最大 / 255byte
・Y:最大行数 / 60(改行×59)
・Byte :最大容量 / 4095Byte
但し、改行に6Byte使うので注意。例えば60行の文なら59回改行するので
6Byte×59=354Byte これだけの容量を改行のみで消費する
さるさん( 過剰数の投稿に対する規制 )
・1時間に投稿できる数は10レスまで。それを超えると規制対象に
・毎時00分ごとにリセット。00分をはさめば最長20レスの連投が可能
連投規制( 連続の投稿に対する規制。短い間隔で連続の投稿ができない )
・30秒以上の間隔をあければ投稿可
おしりくさい虫( 携帯のみ?同一内容の投稿に対するマルチポスト規制 )
・「支援」などの同じ言葉を繰り返し投稿することでも受ける規制。
違う内容を投稿すれば解除される。スペースを挟むだけでも効果あり
4:創る名無しに見る名無し
09/02/03 20:13:00 o/+4asZV
■画像投稿報告ガイドライン
ロスカラSSスレ派生画像掲示板
PC用 URLリンク(bbs1.aimix-z.com)
携帯用(閲覧・コメントのみ) URLリンク(bbs1.aimix-z.com)
1.タイトルとコテハン&トリップをつけて絵を投稿する。
尚、コテハン&トリップについては、推奨であり強制ではありません。
・挿絵の場合は、誰の何のSSの挿絵と書く
・アニメ他公式媒体などにインスパイアされた場合は、それを書く(例:R2の何話をみてテンさんvsライを描きました)
2.こちらのスレに以下のことを記入し1レスだけ投稿報告。
(SSの投下宣言がでている状態・投下中・投下後15分の感想タイムでの投稿報告は避けてください。)
例:「挿絵(イメージ画像)を描いてみました。 画像板の(タイトル)です。
~(内容・注意点などを明記)~ よかったら見てください。」
・内容:挿絵の場合は、SSの作者、作品名等。それ以外のときは、何によってイメージして描いたのかなど
・注意点:女装/ソフトSM(首輪、ボンテージファッションなど)/微エロ(キス、半裸など)
/ゲテモノ(爬虫類・昆虫など) など(絵はSSに比べて直接的に地雷になるので充分な配慮をお願いします。)
画像掲示板には記事No.がありますので、似たタイトルがある場合は記事No.の併記をおすすめします。
*ただし、SSの投下宣言がでている状態・投下中・投下後15分の感想タイムでの投稿報告は避けてください。
3.気になった方は画像掲示板を見に行く。
画像の感想は、原則として画像掲示板に書き、SSスレの投稿報告レスには感想レスをつけないこと。
画像に興味ない人は、そのレスをスルーしてください。
4.SSスレに投稿報告をした絵師は以下の項目に同意したものとします。
・SSスレに投稿報告した時点で、美術館への保管に同意したものと見なされます
・何らかの理由で保管を希望しない場合は、投稿報告時のレスにその旨を明言してください
・美術館への保管が適当でないと判断された場合、保管されない場合もあります
(ロスカラ関連の絵とは言えない、公序良俗に反するなど)
5:創る名無しに見る名無し
09/02/03 20:14:36 8pqd4r/j
>>1 乙
6:創る名無しに見る名無し
09/02/03 20:15:49 9OOYTQ1z
>>1乙!
7:創る名無しに見る名無し
09/02/03 20:16:40 n6+tDtb3
1乙
もう490超えていたとは
8:創る名無しに見る名無し
09/02/03 20:21:29 8Lp8y0YR
>>1乙です
9:POPPO
09/02/03 20:22:28 JLJFxQGZ
...空気読まず投稿しまっくてすみません。
早速ですが、今から「中編1」を投稿してもいいですか?
10:創る名無しに見る名無し
09/02/03 20:27:55 iqQiyp66
投下お願いします。
11:創る名無しに見る名無し
09/02/03 20:28:16 fM7tiysN
支援待機します
12:創る名無しに見る名無し
09/02/03 20:30:38 o/+4asZV
ひとつ言っておくとさるさんはスレ単位だから
スレが変われば他のスレでさるさんでも書き込み可能
13:POPPO
09/02/03 20:34:08 JLJFxQGZ
皆さんのご厚意感謝します。
次からは気を付けます。
また長くなってしまいますが、
「反逆のルルーシュ。覇道のライ」 (中編1)
投稿します。
オリジナルキャラ続出です。
少しグロありです。
皆さんの感想、待ってます!
14:創る名無しに見る名無し
09/02/03 20:35:29 fM7tiysN
支援
15:POPPO
09/02/03 20:37:38 JLJFxQGZ
スザクとユーフェミアがナナリーたちの元に訪れていた頃。
アッシュフォード学園の女子寮の屋上には3人の中等部の制服を着た女子生徒がいた。
広大な敷地があるアッシュフォード学園を一望できる、女子寮生のみが利用出来るお勧めスポット。
少し肌寒い風が吹いていた。
眼鏡をかけた三つ編みの金髪の女の子は、地べたに制服を敷いて寝っ転がっているルームメイトに話しかけていた。
「ねえ、そんな所で寝てたら風邪ひくよ?」
「だーいじょうぶよ。イレブンの諺では『馬鹿は風邪をひかない』っていうし…」
「なら、風邪ひいちゃうじゃない!」
「昨日と一昨日、私が何時に帰ってきたか知ってんの?」
「朝の6時頃だろ。全く何してたんだか。賭けチェスで儲け過ぎて、悪い奴らに追っかけまわされてた?」
寝っ転がっている女の子を見下しながら、腕を組んでいる茶髪のボーイッシュな女子生徒は呆れながら言った。
「む…随分と的確な回答だな。ノエル」
「ええっ?それ、本当なの!?」
「ああ、襲われたよ――――――――――――――犬に」
三つ編みの金髪の女の子は目をパチクリさせていた。
それを見たノエルという女の子は大声で笑う。
「だぁーから、冗談を真に受けるなって、アンジェリナ。こいつはアンタの反応を面白がってるだけだから」
「もうっ!ヒドイ!私、ものすごく心配したよ!」
「ごめんよ。アン。お詫びにツカモト店のシュークリームが冷蔵庫にあるから。それで許してくれ」
「例のシンジュクのやつ!?ねえねえ、私の分もある!?」
「6つだ。一人2個。文句あるか」
「無いっす!!」
「あ・り・あ・りよ!それってまた賭けチェスで儲けたお金でしょ?しかも私をモノで釣ろうなんて、随分甘く見られたわね!」
顔を赤くして怒っているアンジェリナを見て、上半身を起こし、壁に背持たれた。少女は軽く頭を下げる。
「ごめん。アン」
「フン!一回謝っただけじゃ済まないんだから!」
「じゃあ、シュークリームは…」
「食べるわよ!」
そう言うと、アンジェリナは身を翻して階段へ向かっていった。
「あー。じゃ、私も行くわ。そろそろ休憩時間終わるし、今日はゆっくり寝てていいよ。担任には欠席するよう言っておいたから」
「…恩にきる。お礼に私の分、一つやるよ」
「え?本当!?わーい、やったー!あ、でも明日も休んで3日連続はダメだからな!じゃあね~」
ノエルの姿が見えなくなるまで、少女は手を振っていた。
二人の友人を見送ってから、取り残された少女はそっと呟いた。
「ごめんなさい。アン。ノエル。私、本当に襲われてたのよ。犬よりも価値の無いクズに」
唐突に、彼女の傍から少年の声がした。
16:POPPO
09/02/03 20:38:46 JLJFxQGZ
「もう行ったの?」
「…ええ、そろそろ授業が始まるし、この寮には今だれもいないわ。私と貴方以外は」
「驚かないんだね。僕がいきなりここに現れたことに」
「一昨日起きたことに比べたら、ね」
それもそっか、などと呟いて少年は一人で頷いていた。
目の前の少年を見ていて、少女は再度認識した。
あれは悪夢なのではない。現実だったのだと。
少年は笑顔で、少女に話しかける。
「ねえ、どうだった?僕が与えたギアスは」
「…まあまあね」
「あはははは、結構気に入ってくれたみたいだね。少なくとも頼りにはなるでしょ?」
少女は左目を閉じ、右手で瞼に触れる。
そして、手を離し、瞼をゆっくり開けた。
そこには妖しく眩く赤の紋章。彼女の綺麗な琥珀色の瞳は無かった。
人はそれを『ギアス』と呼ぶ。
「リリーシャ・ゴットバルト――――――僕が言ったこと、覚えてるよね?」
ようやく、少女と少年の視線が交差した。
少女の端正な顔に、強い意志が宿る。
屋上に吹く風が、彼女の青い長髪を靡かせた。
「あなたの願いって何?――――――――――X.X.(エックスツー)」
その返答に、少年の笑みはより一層深くなる。
右目は黄金の瞳。左目は深緑の瞳。
左右非対称の目の色に、細い線の整った顔立ち。女性より美しい白の長髪を黒いリボンで結えている。貴族の坊ちゃまのような、赤い舞踏会用の服装。
年齢に似合わない存在感。そして、一昨日の出来事。
リリーシャにはその少年が決して人が届かぬ『人外』の者に見えた。
17:創る名無しに見る名無し
09/02/03 20:39:34 fM7tiysN
支 援
18:POPPO
09/02/03 20:39:53 JLJFxQGZ
コードギアス LOST COLORS
「反逆のルルーシュ。覇道のライ」
TURN00「終わる日常」(中編1)
40時間前に遡る―――――――――――
青い長髪に琥珀色の瞳を持ち、一目惹くほどの容姿を持つリリーシャ・ゴットバルトは、郊外にある夜の街の巨大な地下カジノ、『アンダーゴールド』と呼ばれる場所に来ていた。
会員制の違法カジノであり、このエリア11に住むブリタニア人の貴族の中でも、特に腹黒い連中が集まる場所だ。
かつてブリタニア軍が地下基地として扱っていた巨大ホールを改装したものであり、その規模はエリア11で最大である。
チップを上乗せするだけでリフレインを混ぜたカクテルが手に入るし、奥に行けば、私より年下の女の子がベッドで待っていたりする。
テロが一際激しいこのエリアでは武器や兵器のバイヤーが多く存在する。
裏では、製造業で余った、劣化した武器や兵器をイレブンに高く売りつけて、テロ活動を行わせる。表では軍を動かし、適度な勝利と消耗戦を展開し、成果を上げて名声を得る軍人が多く出入りしている。そのビジネスに取り巻く連中も大勢いる。
そうした金で、さらなる嗜好を富ませた遊戯をするために作られた『貴族』の遊び場。
武器売買だけはなく、IDの無いイレブンや乞食のブリタニア人の人身売買や児童買春も珍しくない。
下劣極まりない遊戯が多くあるこのカジノでも、古代からあるブリタニアならではの至高の知的ゲーム。
チェスの決闘は存在している。
賭けチェスの棋士として、貴族の令嬢のようなドレスを身に纏った一人の美少女、リリーシャ・ゴットバルトはここにやってきた。
昔から知的ゲームが好きだった私は、年齢が二ケタに達する前には10歳以上離れた兄よりもチェスが強く、やがて親類でも友達でも相手になる者がいなくなった。
小さい頃から頭の回転が速く、何でもそつなくこなすことができたので、周囲の人々が自分より努力しながらも、自分より成果が出せないことが疑問だった。
そして、ある事件をきっかけに、努力することに意味を見いだせなくなり、周囲の人間と歩調を合わせるために、あえて何もしなくなった。
私が家族から親類に『問題児』と言われるようになったのも丁度この頃からだった。
エリア11に派遣された兄を追ってアッシュフォード学園に入学したが、そこでも私を魅入らせるものに巡り合わなかった。
簡単すぎる授業に嫌気が指し、唯の退屈凌ぎのために賭けチェスをやり始めた。
本国では年齢制限の厳しい裏舞台でも、テロが頻繁に起こるこの植民地ではそういった規制が緩い。
近頃は授業を抜けて、カジノに出かけることもある。
いつだったか。『アンダーゴールド』の会員権を戦利品として入手して、それから、よりハイレートの賭けチェスにまで手を染めていた。
調子が良かった時は、一晩で小さな一軒家を購入できるほどの大金を稼いだ事もある。けれども、使い道が無かったのでとりあえず銀行に預けておいた。
19:創る名無しに見る名無し
09/02/03 20:40:02 fM7tiysN
支援
20:POPPO
09/02/03 20:41:10 JLJFxQGZ
ゴットバルト家は代々、軍人として神聖ブリタニア帝国に仕えてきた家系だ。母の家系も同じく軍人を多く輩出している血族だ。
だからといって私に愛国心があるかと言えば、極端に希薄であると言える。
私は世界最大の国家である神聖ブリタニア帝国の国民であることに誇りに思っているわけではないし、真っ直ぐ過ぎる父や兄のように、ブリタニア帝国そのものに忠誠を誓っている訳でも無い。
別に名誉や財産が欲しいわけではない。私はただ、仲の良い友人たちと恙無い生活を送って一生を終えればそれでいい。
ルームメイトのアンや悪友のノエル。それに、家族が無事でいれば十分だ。
けれど、今、私がやっていることは何だろう。
負ければ、どこかの変態に身を売られた後で、全身の臓器を闇ルートで売り飛ばされても足りないくらいの金を賭けて、私の命を左右するゲームに身を投じている。
なぜ私はこんなことをしている?
両親や兄妹に抑圧されていた鬱憤を晴らすためだろうか。
いや、違う。
私が生粋の軍人の血を引く身だからだろう。
命のやりとりの際に味わう、全身が凍てつくような緊張感に、どうしようもないほどの歓喜を覚えてしまうのだ。
この矛盾は私の存在を揺らがせるものでありながら、同時に私という個人を定義するものでもある。
私の前に、血肉が脇踊るような出来事が、あるいは人物が現れないか。
心の奥底で、私は運命を大きく変える転機を探している。そんな愚かしいことを切望しながら私はこうしているのだろう。
しかし、
本当に、
――――――――――――――――――つまらない。
「チェックメイト」
ポーンをクイーンに変えた後、一気に相手のキングを仕留めた。今まで戦ってきた中では強いほうだったが、私の血を躍らせるには物足りない相手だった。
若くてそれなりに顔立ちも良かったので、近頃この業界で噂になっている『プリンス』様かと思ったが、どうやらハズレだったようだ。
相手の貴族様は、戦況が悪化した後半あたりから両手に侍らせていたイレブンのバニーガールに八つ当たりしていた。
そして負けた途端、盤上の駒を全て弾いた。
自分の腕に随分と鼻にかけていたみたいだから、よほど悔しかっただろう。
しかも腐ってもアマチュア並みの腕はある。だから気づいたのだろう。
私との差を。
今日は調子が悪かった、可憐な乙女に花を持たせてやった、などと。
中身が空虚でプライドばかり高い男など、見苦しい事この上ない。
兄もプライドばかり高い馬鹿男だが、男であろうが女であろうが負けたならば潔く『負け』を認める人だ。
馬鹿真面目な馬鹿だけに。
だから、彼に世話を焼こうとしたバニーガールがぶたれた光景を見た時は、吐き気すら覚えた。
私は、彼を通り過ぎる時に足を引っかけてやった。
面だけが良いお坊ちゃまは大きな音を立てて、無様に転がった。
一瞬、何が起きたか分からない顔をしている青年を見下し、
私は淑女たる仮面を被る。
「あら、ごめんなさい。……では、これで失礼します。『盤上の騎士』様」
スカートの両端を掴んで一瞥した。周囲に群がる見物客を無視して、私は膝を返した。
今日もつまらなかったな。
そんなことを心でぼやきながら、花の香りとマリファナの匂いが混じり合うこの大広場から出ようとした時。
「お、お待ちください!エルネスタ様!」
と、背後から大きな声がして私は呼び止められた。
21:創る名無しに見る名無し
09/02/03 20:41:54 fM7tiysN
支 援
22:POPPO
09/02/03 20:46:36 JLJFxQGZ
エルネスタ・ラウディス。
それがここでの私の名前。以前、登録されたどこかの貴族の名義をそのまま使っている。
私が振り向くと、先ほど、対戦者のとばっちりを受けたイレブンのバニーガールがいた。
ぶたれた跡が痛々しい。豊満な胸が特徴的で、小柄なイレブンの女性だ。
彼女は私と目が合うと、頭を大きく下げた。
高校生にも満たないこの私に、大のオトナが。
「あ、あの、ありがとうございます」
想定していた言葉に、想定していた返答をする。
「一体何のことですの?」
私より視線を下げるために、膝を屈めて身を恐縮させていた。
「先ほど、私を助け…」
「何を自惚れているのかしら。イレブン風情が」
私の言葉に、バニーガールの女性は大きく目を開く。
「貴女とあの方がわたくしの通行の邪魔だった。ただそれだけよ」
凍りついているバニーガールを無視して、私は視線を逸らす。
「ねえ、そこの使用人。ここの経営者を呼んできてくれるかしら」
腰の低いイレブンの中年男は、私に近寄ってきた。
「はっ?何事でございましょうか。お嬢様」
「この女、クビにしてちょうだい。わたくしを不機嫌にさせたのよ。このイレブン」
それを聞いた男は少し面喰った後、返事をした。
「…かしこまりました」
「っ!!そ、そんな!?エルネスタ様!?」
その言葉に眼前にいるバニーガールが狼狽する。
「どうか、どうかそれだけはご勘弁を!私には他に何処にも行くあてが無いのです!先ほどの無礼、大変申し訳ありませんでした!私に出来ることなら何でもいたします!で、ですから…」
涙を瞳に溜めて、ひたすら謝り続ける女性。
「ではお聞きましますけど、このわたくしに対して一体貴女に何が出来るというの?わたくしには下働きの人間は足りているのよ」
「そ、そ、それ、それは……う、くぅ」
下唇を噛みしめ、口ごもってしまった。
私はあからさまに大きなため息をついた。
「フン。今さっきわたくしに吐いた言葉は真っ赤な嘘だったのね。全く、能の無いイレブンはこれだから…」
侮蔑の言葉を吐き捨てると、私は手元にある3つの札束を、彼女の胸の谷間に突っ込んだ。
まだ余裕があるのかと驚きつつも、私は驚愕の表情を浮かべた彼女に背中を向ける。
「いいですこと?二度と『わたくし』の前に姿を表さないで」
彼女は何か私に言っていたが、それを無視した。
そのまま一度も振り向かずに、私は一直線に出口へと向かった。
23:創る名無しに見る名無し
09/02/03 20:47:33 fM7tiysN
支援
24:POPPO
09/02/03 20:47:39 JLJFxQGZ
カジノの出口を抜けて、赤い絨毯が敷かれている大きな階段を上って扉のむこう側に出ると、そこには十数台の黒塗りの車と、廃墟と化した町並みが目に映った。
目の前に立つ初老の運転手に誘われるがままに、車の後部座席に乗り込んだ。
「トウキョウ疎界まで」
「かしこまりました」
そういって、車を発進させた途端、いきなり車の前に2人の屈強な男が立ちふさがった。
急ブレーキがかかり、私は前方に全身が傾いた。
(何事!?)
運転手が文句を言おうと窓を開けた瞬間、彼は無理やり外に引きずり出された。
いきなり二人の男が前の席に乗りこんでくる。
「ちょ、ちょっと貴方たち、何してるの!?」
驚いた私は、前に座る2人の男の肩を掴んで問いかけた。
しかし、何も答えない。
その時だった。私の問いに答えたのは。
「私が送って差し上げますよ。エルネスタ・ラウディス嬢」
扉を開けて後部座席にいる私に話しかけてきたのは、紳士の仮面をかぶった『盤上の騎士』様だった。
25:創る名無しに見る名無し
09/02/03 20:48:23 fM7tiysN
支 援
26:創る名無しに見る名無し
09/02/03 20:49:09 9OOYTQ1z
支援
27:POPPO
09/02/03 20:49:59 JLJFxQGZ
私は外の風景を見ていた。
確かにトウキョウ疎界の方角だが、行き先がトウキョウ疎界でないことは明白だった。
前の座席には二人の男が座っている。先ほどから一言も喋っていない。
それに対して、私の隣に座っている『盤上の騎士』様はペラペラと私に話かけて来た。
「一体、何処に向かっていますの?」
平淡を取り繕って、私は隣の青年に問いかける。声は上ずっていない。
「ちょっと、面白いところですよ」
その言葉に、込み上げてくる恐怖を抑え込むことに私は必死になった。
そんな私の葛藤を余所に、彼は話を続けた。
「私、来年はチェスの棋士になろうと思ってるんですよ」
「それはそれは…とても素晴らしいことではありませんか。貴方のお父上もさぞかし鼻が高いことでしょう。棋士は、ブリタニア国内では高貴な身分でありますからね」
持ちあげられたことを鼻にかけたのか、それとも私の淡泊なお世辞を鼻で笑ったのか、
彼は不快な笑顔を浮かべていた。
「私の父は、あのカジノのオーナーでしてね。私と貴女の決闘をモニタで見ていたんですよ」
「…私は言いふらすつもりはありませんよ」
「いやいや、そういうことじゃないんですよ。私は父の前で恥をかいてしまった。私が手加減をしたばっかりに」
「…ではここで再戦いたしませんか?それで――」
ガッ!!
私はいきなり口を塞がれた。青年の紳士の仮面が外れた瞬間だった。
彼の醜い心の素顔が、私の前に晒された。
「そういう気取った態度が気に喰わないんですよぉ。貴方のような態度が如何に周りに迷惑かけているかご存じないでしょう?」
青年の腕に力がこもる。呼吸が苦しい!
私の背筋に冷たい悪寒が走る同時に、黒い怒りが心の奥底から込み上げてきた。
…腐っている!この男。性根から!
「…人の口に門は立てられません。それに、私より強い棋士がいること自体、私は許せなくてね」
青年は血走った目を浮かべると、私のドレスに手をかけた。胸当たりから、一気に引きずり下ろした。
「!いぃ、いやっ!?」
全身から怖気がした。
下品な笑みを浮かべた『盤上の騎士』が、私に覆いかぶさる。
その間、前の座席に座っている男たちは一言も声を発さなかった。
首に生暖かいものが触れる。舌が私の肌を這いずった。彼のつけている香水の下に隠れる男特有の匂いが私の鼻を刺激した。
もう、耐えられない――――――!!!
「い、いってぇ!!こ、この女ぁあああ!!僕の顔に爪を立てやがってぇ!!」
彼の拳が私の腹に入った。
その衝撃に、胃の中身が込み上げてくる。
顔に飛んでくる拳を手で塞いでいた。
いたい!や、やめて!!
「おいっ!!そこの倉庫で車を止めろぉ!!早くしろよぉ!」
青年がそう叫ぶと、車の猛スピードを出した。体が一瞬、反動で振り動かされる。
瓦礫が多い地面を走り、ガタガタと車体は揺れる。
28:創る名無しに見る名無し
09/02/03 20:50:42 fM7tiysN
支援
29:POPPO
09/02/03 20:52:39 JLJFxQGZ
その時だった。
「「むっ!?」」
初めて前に座っている男たちが声をあげた。
瞬間、何かに激突したような音がして、すぐ後に大きな石の上に跨ったような感覚が車体に伝わった。
「おい。さっき人を轢かなかったか?」
私は驚愕した。
(な、何だって!?)
「は、はっ。申し訳ありません…」
「まあいいよ。こんな所にいるのはどうせイレブンだろ?」
(こ、こいつ!人の命を何だと思ってるの!?…腐ってる!腐りきってる!)
そして、急に回転するような反動がくると同時に、大きな音を立てて車は止まった。
「おいっ!外に出ろ!」
扉をあけられた途端、私は青年に押されて、冷たい暗闇の中に引きずり出された。
ビリビリと、服の破ける音がする。
床はコンクリートで、冷たく硬い感触が肌に伝わった。
ふらふらとする視線で、私は車のヘッドライトに照らされている先に目をやって、
私は絶句した。
「あっちゃー。ありゃ死んでるなぁ。おい、早くここの電気をつけろ。何も見えないよ」
「はっ、ただいま」
ライトの先に照らされているのは、タイヤの跡にこびり付いている血の跡と、転がっている幼い子供の死体。
茫然自失となって地べたに座り込んでいると、倉庫内の電気がついた。
「うっ―――――――!!!」
照らされると共に、子供の無残な死体が私の目に焼き付いた。
「ねえ、どうなの?」
青年は私の腕を掴んだまま、死体を確認している男に、平然と話しかけていた。
「イレブンではありません。ブリタニア人のようです。即死ですね。しかも顔が潰れていて確認できません。服装から察するに、ここに住んでいる貧困層の人間でしょう。死体は後で片付けますので…」
もう、耐えられかった。
人を殺したのに、平然とやりとりをする異常者の言動に。この異常者どもの言動に。
これが裏の社会。
分かっていた。頭では分かっていたはずなのに。分かっていて足を運んでいたのに。
「おえ、おえええええええっ!!」
私は胃の中にあるを吐き出してしまった。
両手では押さえられず、白い物体が地面に飛び散る。
「うわああ!きったねえ!ちょっとこいつ押さえてよ!僕触りたくない!」
30:創る名無しに見る名無し
09/02/03 20:54:16 fM7tiysN
支援
31:POPPO
09/02/03 20:54:20 JLJFxQGZ
全てを吐き出した私は、いつの間にか二人の屈強な男に両腕を抑えつけられた。
必死に抵抗するが、振り解けないことは理解していた。
私は、歯を食いしばりながら、射殺す目で眼前に立つ青年を見上げた。
正面には、青年と、轢かれて死んだ子供の姿が目に入る。
彼の心と同じように、ひどく歪んだ青年の顔がそこにあった。面白くてたまらないといった目で、私を見下していた。
「化粧が滅茶苦茶でせっかくの顔が台無しだねえ。吐くわ叫ぶわ…レディとして、品性のかけらも無い。…それに、君、随分と若いだね。化粧で分からなかったよ」
青年は懐から、一丁の拳銃を取り出した。
それを見た私は喉元が干上がった。
「ひ、ひいいいぃ!」
「あああっははははははっ!!いいねいいねその顔!まったくガキのくせに大人ぶっちゃてさあ。僕、そういうの一番嫌いなんだよ!」
怖い、怖い!怖い!!
「本当はさ。犯したあとに、このナイフで顔を切り刻んでやろうかと思ってんだけど…」
そう言って、スーツの内ポケットにぶら下げている大きなバタフライナイフをちらつかせた。
「僕。ムカついちゃって……一発で殺すことにしたよ」
ガキリ、と鉄槌を降ろす音が聞こえる。
ゆっくりと私の顔に銃口が向けられた。
首を大きく横に振り、手足を必死に動かすが、取り押さえられて全く動かすことが出来ない。
私は理性も失って、仮面を取って、泣き叫んだ!
「いあああっ!やめて、やめてええ!!死にたくない!死にたくないよお!」
私はこんなところで終わるの?こんな唐突に!理不尽にも終わってしまうの!?
いやだ!いやだ!!私はまだ!まだ、まだ死ねないの!
「わ、わた、私はまだ死ねないの!こんなことで死ねないのよおお!!お兄ちゃんの、た、ためにも、私はあああああああああ!!」
「うっるせえええええ!!もう喚くな!死んじまえ!!」
銃口が私の眼前に迫ってきた!
その時だ。
32:創る名無しに見る名無し
09/02/03 20:55:04 9OOYTQ1z
支援!
33:POPPO
09/02/03 20:56:02 JLJFxQGZ
力が、欲しいか?――――――――――――――――
(えっ?何、さっきの声?)
力が欲しいか?―――――――――――――――――
(誰、誰が!?)
その時、死んだはずの子供の手が、かすかに動いた。
「ひっ!!?」
(ウ、ウソでしょ!?車に轢かれてるのに、生きてるの?)
生きたいのなら、生きて成し遂げたいことがあるのなら、僕と契約しないか―――
(き、君が喋ってるの?それに、け、契約?)
うん。君に力を与えるかわりに、僕の願いを叶えてほしい。それが契約――――
(ち、『力』?)
君に迫る運命を捻じ曲げてしまえるほどの、人ならざる『力』――――――
私の前に、知らない光景が映った。
二つの灰色の惑星の接近。
何世紀も前の服装を着た、目を閉じた子供たち。
空白の世界にただ一人、佇んでいる少年の姿。
焼けた、何も無い荒れ果てた荒野。
もう一度、問おう。力が、欲しいか?―――――――――――
…いいわ。やってやるわ。
私には成し遂げなければならない事がある!
こんなところで死んでたまるか!
受けて立とうじゃない!その契約!
じゃあ、君に『王の力』を授けよう――――――――――――
その瞬間、私は暗闇に捕らわれた。光る糸に絡まれて、振り解こうとしても私の体に巻きついてくる。そして、私の視界は真っ白な光に包まれた。
そして『私』は目を開けた。
34:創る名無しに見る名無し
09/02/03 20:56:33 fM7tiysN
支援
35:POPPO
09/02/03 20:56:52 JLJFxQGZ
「おい、何とか言えよ。女ァ。いきなり黙るなよ…つまんなくなっちゃうじゃん」
歪んだ青年の顔が目の前に迫っていた。
私は怒りで睨みつける。
その時、体の内から込み上げてくる『何か』が私の頭に突き刺さった。
熱い感覚が左目に走る。
見開かれた眼に、彼女の琥珀色の瞳に眩い光と共に、赤の紋章が浮かび上がった。
妖しく光る、鳥のような悪魔の刻印。
「何だ?その左目は…」
怪訝に私の瞳を覗き込んだとき、その『力』は産声を上げた。
赤の紋章が、はばたく。
「その銃で、この男を殺せ!」
バン!
と青年の持っていた銃が火を吹いた。
いきなり、私の左側に立っていたボディガードが崩れ落ちる。
「え?」
一瞬、何が起きたか分からかった青年はそのまま固まってしまった。
まだ煙を吹く拳銃を見ながら、彼は呟いた。
「お、俺は一体何を?」
「イ、イアン様!何で撃ったんですか!?な、何でジャイルズを!」
私の腕を離し、もう一人のボディガードは撃たれた男に駆け寄っていた。
「……るさいうるさいうるさいうるさい!!黙れよお前!パパに拾ってもらったクズのくせに!!」
狂気じみた目を私に向けて、イアンと名乗るらしい青年が子供のように喚いていた。
「女ああ!!お前が叫んだせいで、人を殺しちゃったじゃないか!どうしてくれんだよぉ!」
子供じみた責任転換。私に銃を向けた。
私はもう一度『命令』する。
「その男も殺せ!」
私に向いた銃は、方向を変え、倒れた男を介抱するもう一人のほうへ向けて、その男に近寄った。
銃口をその頭に付けた。
近距離で引き金を引いた。
銃声と共に、男は一際大きく体を震わせ、折り重なるように倒れた。
「あ、ああああああああっ!!?な、何で、何で体が勝手に動くの!?何でカーコフも殺しちゃうのおお!!?」
再度、私に銃口を向けた。顔はくしゃくしゃに歪んでいる。
「お、おおおおお女ああああ!!ぼ、僕に、なにをしたあああああ!!!」
撃たれる!?そう思って、体を仰け反らせた。
が、一向に弾が発射されない。
「ど、どうして引き金が引けない!?なんでどうしてどうしてどうしてぇえええ!!?」
彼は、私に銃を向けている。
私は『命令』する。
「私に銃を向けるな。手持ちのナイフで、己の腹を刺せ」
青年は、手から銃を落とし、後ろに隠していたバタフライナイフを取り出して、
両手で思いきり、自分の腹を刺した。
36:POPPO
09/02/03 20:58:25 JLJFxQGZ
「ごぼっ!?」
「刺せ」
もう一度、刺す。
「刺せ!」
さらに、刺す。
私の血が、まさに踊り狂おうとしていた。目の前で起こる奇劇に。
「フヒ…」
「い、いだぁ!!」
「ふひ、ふひひひひひ…」
「うぎゃ!ぎひっ!いた、ぐぶっ!な、何でっ、手が、手が止まらな…ぎゃあああ!!」
青年は、手に持っているナイフで自分の腹を刺していた。
何回も。何回も。何回も。
彼の悲鳴と鈍い音が私の耳に届いて、心の温かい部分を抉った。
青年の周りには、腹部を刺すたびに血が飛び散った。
痛みに歪んだ表情を、霧散する赤い血を、耳を鳴らす悲鳴を、私は五感を通して味わっていた。
彼にその悲劇を止める術は無い。
一方的な暴力の前に蹂躙されるがままの羊の光景を目の当たりにし、私の理性はコワれてしまった。
「うひゃはははははははははははははははは!!!あはははははははははははは!!」
声がかれすれても、私の絶叫は収まらない。体の奥底から溢れ出すエクスタシーを全身全霊で受け入れていた。
「いだい!いだいよぉおお!!お、お前、あがっ!一体何を、いぎぃい!!」
うるさい!お前はただ悲鳴をあげていればいいんだ!私に、その無様な姿を見せつけておけばいいんだ!それがお前に与えられた役目なんだよぉ!!
チェスで私の足元に及ばぬ馬鹿がっ!親の七光りで平気で人を陥れる下衆がっ!
「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねえっ!!このクズがああああ!!」
今度は、腹に刺したナイフをぐりぐりと動かしはじめた。
息も絶え絶えになり、もはや声にすらなっていない。
その音がどうしようもなく気持ちよくて、
虫唾が走った。
私の笑い声よりも、男の悲鳴がうるさくなったのだ。あまりにも耳ざわりなので、
私は、腹を刺すことを止めさせた。両手を伸ばしたまま、彼は血を吐いて、訳の分らない雄叫びを上げるだけ。
もう十分だ。
五月蠅いから、
目障りだから、
終わりにしよう。
だから、血塗れになったナイフを首筋に向けてやった。
「や、やめてくれえええ!謝るから!お金ならいくらでもやるから!」
そんなものはいらない―――――――――
私はただ――――――――――――
お前の命が―――――――――――
欲しい!!―――――――――――
37:創る名無しに見る名無し
09/02/03 20:58:38 fM7tiysN
支援
38:POPPO
09/02/03 20:59:27 JLJFxQGZ
瞳に輝く赤の紋章が、さらに妖しく光り出す。
「いやだあああああああああああああああああああああ!!!」
ザクゥウウ!!
青年はナイフを勢いよく、己の首に突き刺した。
刃が柔らかい肉をズブズブと貫き、骨の合間を通って反対側の皮膚を破った。
傷口から血が溢れ出し、全身は痙攣を起こしている。
ヒ、ヒュー、ヒュー、ヒュー………
かすれた呼吸音は、だんだん小さくなり、最後は聞こえなくなって、
彼は動かなくなってしまった。
どのくらいの時間、呆けていただろうか。
足が冷たい。
薄いタイツなので、地面の冷たさがじかに伝わってくる。
お気に入りだったハイヒールが折れていた。
白いリボンは振り解けていて、
ピンクのロングドレスはスカートが太もものところから破れ、所々に泥や血が付いていた。
唾液を呑み込むと、口紅の味がする。
私は、虚ろな目で辺りを見回した。
目の前に転がるのは蹲るように死んでいる青年。
左右には眉間に風穴をあけて絶命している屈強な男。
私より強い力をもっていたとしても、
私が得た『チカラ』の前では無力だった。
黒塗りの車のヘッドライトが、私を照らしていた。
真正面からそれを見てしまい、私は目がくらんだ。反射的に両手で顔を隠す。
彼女の左目はまだ、赤の紋章が妖しく輝いていた。
39:創る名無しに見る名無し
09/02/03 21:00:53 fM7tiysN
支援
40:創る名無しに見る名無し
09/02/03 21:01:08 9OOYTQ1z
支援
41:創る名無しに見る名無し
09/02/03 21:01:48 JLJFxQGZ
ID:fM7tiysNさん
支援ありがとうございました!
これで「中編1」
投稿終了です。
…いまさらなんですが
「前編3」は削除されるのでしょうか?
42:創る名無しに見る名無し
09/02/03 21:12:48 fM7tiysN
>>41
削除??
前スレは埋まれば落ちるはずですが、
保管庫にはちゃんと収納してもらえるはずだと。
それと支援は他の方もされてますよ。
乙でした!
これからゆっくり読みますね。
なんだか血の匂いがするみたいで。ドキドキします。
43:保管者トーマス ◆HERMA.XREY
09/02/03 21:22:19 qqZxtwOq
>>41
投下お疲れ様でした。
ところで、前スレで言っておられた設定について。これはあくまで「提案なのですが」
こういう形でSSとは分離することも可能です(現在、策定中)。
URLリンク(anime.geocities.jp)
勿論、前編3の末尾に付け足すと言うこともできますのでお好みでどうぞ。
44:創る名無しに見る名無し
09/02/03 21:42:06 9OOYTQ1z
>>41
POPPO卿、乙でした!
リリーシャ・ゴットバルト、そしてギアスを与えたX.X.
一人の人間にたいしていくつもの命令をしていますが、如何なる能力なのでしょうか。
行動中にも明確な意思はあるようですし……
むぅ、続きがとても気になります。
貴公の次の投下を全力を挙げてお待ちしております!
45:POPPO
09/02/03 22:06:25 JLJFxQGZ
保管者トーマスさん。
「提案」
マジでお願いします!!GJです!というか最高です!
それとその設定なんですが、内容を追加していけるのでしょうか?
であれば最高なんですが、もしお手数がかかるようでしたら、前編3の末尾でお願いします。
この作品、オリジナルキャラがあと3人、KMFが3機ほどあって、物語が進むにつれて
入れていきたいと思ってますが・・・
あと、大変申し訳ないんですが、「前編2」の35スレの325~327の所は削除できないでしょうか?
できるならお願いします…
また、31の「大人ぶっちゃてさあ」→「大人ぶっちゃってさあ」
33の「車に轢かれてるのに」→「車に轢かれたのに」
の誤字修正をお願いします。
…なんか、我儘言い放題ですみません。
自重します。
ID:fM7tiysNさん。
再度になりますが、支援、本当にありがとうございます。
46:保管者トーマス ◆HERMA.XREY
09/02/03 22:20:56 qqZxtwOq
>それとその設定なんですが、内容を追加していけるのでしょうか?
はい、出来ます。その際にはどこから設定なのかを書いていただけると助かります
>「前編2」の35スレの325~327の所は削除できないでしょうか?
すいません、あれは当方の消し忘れです。修正しておきました。
誤字の件も修正しました。領地よりご確認ください。
あと、その手の「我儘」は有益な意見として受け取っていますので、遠慮なくどうぞ。では。
47:POPPO
09/02/04 02:01:04 VihRNli3
すみません。
またひとつ、書き終わりました。
今から「中編2」を投稿したいと思います。
今日は休日だったので存分に書きました。
暇を見つけては話を進めていきたいと思っていますので
今後ともおろしくお願いします。
48:POPPO
09/02/04 02:01:47 VihRNli3
あの悪夢のような夜から2日経って、
女子寮の屋上で、リリーシャとX.X.は再び出会った。
立ち話もなんだし、とリリーシャはX.X.を自室へ案内した。
中等部女子寮の一室。二人一組の部屋であり、机をベッド、そしてクローゼットが左右対称に置いてあり、リリーシャの机の隣には、1メートル程の高さの冷蔵庫が置いてある。
「飲み物はいる?」
と、リリーシャは、貴族のお坊ちゃまのような格好をしたX.X.に問いかけた。
「ん?別にいいよ」
「じゃあ、お菓子は?シュークリームはあるけど…」
「シュークリーム?何それ?」
「え?知らないの?」
首を傾げるX.X.を見て、リリーシャはそれが冗談では無いことが分かった。
「まあいいわ。食べてみなさい。美味しいから。あ、柔らかいから気を付けてね」
箱から一つ取り出して、ティッシュと共に手渡した。
X.X.は手に取ったシュークリームを訝しげに見回した後、大きく齧り付いた。
もふもふ、と言わせながら口からクリームが溢れ出してきた。
「言っとくけど、一つだけしか…」
私が言葉を言い終わる前に、
「ん」と、X.X.は両手を突き出していた。
口の周りにシュークリームの黄色いクリームを付けて、先ほどのシュークリームは消えていた。
両手を突き出すX.X.の姿は、年齢相応の可愛い少年だった。
その無垢な瞳に、リリーシャは無意識に2つ目のシュークリームを手渡していた。
その後、友達にやるはずだったシュークリームが無くなってしまったのは言うまでも無い。
49:POPPO
09/02/04 02:02:39 VihRNli3
コードギアス LOST COLORS
「反逆のルルーシュ。覇道のライ」
TURN00 「終わる日常」(中編1)
X.X.は私のベッドに座るように促して、私は自分の椅子に座って彼のほうを向いた。
シュークリームのクリームで私のベッドが汚れないように、濡れたタオルでX.X.の手と顔を拭いてやった。
肌が柔らかくてずっと触っていたかった、というのは黙っておこう。
とりあえず聞きたいことが山ほどある。私は足を組んで、私はノートパソコンを起動させた。
重要なことは書き落としておかねばならない。
ずっとX.X.の可愛い顔を見つめていたかったが、そうもいってられない。
私から話を切り出した。
まずは初めて会った時のことからだ。
「あの後、X.X.はどうしたの?それに、車に轢かれた形跡が無いなんて、一体何者?」
「僕は不老不死だからね。車に轢かれても、銃で頭を打ち抜かれても死なないよ」
あまりの返答に頭を揺さぶれた。
「……不老不死?ちょっと待って。じゃあ貴方、今いくつなの?」
「うーん…寝ていた時間を省くと、700歳かな?」
…ごめん、今クラリときたわ。700歳!?700年前って、まだ銃すら発明されていないじゃない!
「ちょっと信じがたいけど、あれから無傷で生きてるから、ね。不老不死か、うん。不老不死、ね。うん。納得」
…じゃあ、あの子供みたいな素振りはまさか計算づく!?
そんな思いが頭を駆け巡り、警戒心が緩んでいた私のX.X.に対するイメージが180度回転しようとしたその時、
「でも、よく分かんないや」
と、にっこりと満面の笑みで私を見つめた。
ヤバい!マジで可愛い!
計算づくでも構わないわ、と心底思ってしまったことがくやしい…
「それで、リリーシャはあの後、一体どうしたのさ?僕、目が潰れてたから、目が見えるようになった時は死体と車だけしか無かったんだけど…」
「…無我夢中だったから少し記憶が曖昧なんだけど、トウキョウ疎界が見えていたから、そのまま走って帰ったのよ。服は海に捨ててきたわ」
そう言って私は机の下から、裁縫道具箱を取り出した。
その中から、あの時拾ってきた拳銃を取り出して、それをX.X.に見せた。
「…銃なんてそこらへんのゲットーで手に入るけど、高い上に領収書が来ないからね。貰っておいたわ。持ち主は使えないから、ね」
少し、暗いジョークを織り交ぜてX.X.に目をやった。
「うん。そうだね♪」
と、X.X.は笑いながら頷いた。
…この子。やっぱり狂ってるわね。人間の常識や倫理が通用しない。
700年も生きれば、精神は擦り切れてしまうのか。
私はX.X.の認識を改めた。
彼は私が考えている以上に危うい存在だと。
「そうそう。僕が与えた『力』。ちゃんと分かってる?なんなら…」
「ああ、それなら…」
と私はこの力についての説明を始めた。
50:POPPO
09/02/04 02:05:04 VihRNli3
「能力は、対象者の意思とは無関係に、他者の身体を思いのままに動かすことができる力。
操作対象者は国家、人種、性別を問わず、人間のみ。
その他の動植物、または遺伝子的に人間と近い動物に対しても無効。
また、死んだ肉体にも効果は無い。
操作できる人間の数は一人。
複数の人間の同時操作は不可。
条件は、対象者の生身の一部分を見ること。もしくは対象者の皮膚に触れること。
言葉を発さずとも、脳内命令で操作が可能。
対象者の顔、正確には眉間から上部にある頭部を視認することで、全身を支配することができる。
しかし、対象者の頭部を見ずに体の一部分を見た場合は、その部位しか効果が無い。
全身が服やヘルメット、手袋などで覆われて素肌が見えないときは効果が無い。
また、身体の間接に矛盾した動きを命令するもことも可能だが、体を宙に浮かせるといった身体能力以上の動きができないことから、物体を動かすようなサイコキネシスではなく、筋肉を動かす電気信号に直接干渉する力だと思われる。
効果範囲は左目の視界領域。テレビや録画による映像を介しての視認は効果無し。
しかし、ガラスや鏡、または双眼鏡や望遠鏡のようなもので光の透過と反射を利用し、肉眼領域以上の範囲を広げることは可能だが、距離に長さに比例して、その効力も弱まるので実質上の効果範囲は500メートル程度。
そのことから、左の肉眼で反射した光が対象者に当たり、対象者が人間であるという認識を私が持って初めて効果があることが分かった。
対象者に直接触れている時は相手の思考すら支配下に置けるが、触れなければ幾ら接近しようとも思考は操れない。
400メートル以降では、頭部を視認したとしても、指一本がかろうじて動かせる程度。
また、対象者の思考が支配下にある場合、対象者には術中とその前後の記憶が欠落する。
発動から人体操作までのタイムラグは0,1セカンド。
効果持続時間は対象者を視認し続ける間は常に効果があり、瞬きで効果が途切れることは無い。しかし、一秒以上目を離すと効果は失われてしまう。
また、同じ対象者に対して、何度も操作は可能。
…………と、今、分かるのはこれぐらいだけど、ってどうしたの?」
つらつらと能力の詳細を喋る私を見ながら、少年は目を丸くしていた。
変なこと言ったかしら?私。
「あっははははは!昨日と今日でそこまで調べたんだ。すごい、すごいね!君。
うん!僕、リリーシャの事、気に入っちゃったよ!」
何を思ったのか。私に握手を求めてきた。
「…それはどうも」
わざわざ学校休んで動物園まで足を運んで、サルやゴリラにまで試したんだから。
これくらいは、ね?
51:POPPO
09/02/04 02:06:22 VihRNli3
「確かに、君の能力は人の脳の電気信号に直接干渉できる力みたいだからね。能力について僕が教えることはほとんど無いみたい。というより、今は君の方が知ってる」
「『みたい』?ちょっと待って。あなた、私の能力を完全に把握してるわけじゃないの?」
「うん。発現する能力はその人の精神のあり方が反映されるからね。その人がどんな能力を持つか。僕にも分らないんだ」
「…『ギアス』。といったかしら。この力」
「うん。本当は名前なんて無かったけど、いつの間にかそういう名で呼んでた」
「…ふうん」
「どうしたの?何か不満そうだね?」
「いえ、私もこの力に名前を付けたのよ。でも。ギアスのほうがかっこいいから、それでいいわ」
「一体どんな名前を付けたの?」
「…言いたくない」
「ねえ、教えて」
「い、いや、本当に言いたくない」
「おーしーえーてーよー」
目をウルウルさせながら、好奇心一杯で私を見つめるX.X.
うっ!!なんてカワイイの!この子!
ダメ、ダメよ!リリーシャ!顔に騙されちゃダメ!
昔、『マリアンヌ様に惚れた!』などと抜かした兄に、『所詮男は顔か…』とバカにしていたのに、私も同類なわけ?
いえ、断じて違うわ!
全力で否定する!拒否するわ!
だが、そんな私の葛藤を余所に、
X.X.は上目づかいで、私の理性の砦をやすやすと撃ち破った。
「ねぇ、ダメ?」
ああ、ごめんなさい。兄さん。私、兄さんのこと、馬鹿って言えない。
私は意を決すると、口を開いた。
声が上ずってしまうのは仕方がない。
「み、ミラクルパワー…」
次の瞬間、少年の笑い声が一室に響き渡った。
52:POPPO
09/02/04 02:10:25 VihRNli3
「ごめんごめん。リリーシャ。もう笑わないからさ。拗ねないでよー」
ひとしきり大笑いしたX.X.は、青髪の少女ににこやかに話しかけていた。
「……別に拗ねてなんかないわよ」
(そんなに笑わなくてもいいじゃない!私、必死に考えたんだから!)
と、内心で思っていても顔には微塵も出さない私。
「こんなに笑ったのは久しぶりだよ。ミラク………ブふッ!」
X.X.っっうううううううう!!可愛いけど、可愛いけど憎いわ貴方!
命の恩人だけど、その口は噤んでもらうわよ!X.X.!!!
X.X.を見据えて、私は迷いなく『ギアス』を発動した。
しかし―――――――――
「ああ、言い忘れてけど。ギアスは僕に効かないよ。リリーシャ」
「えっ!?」
X.X.はこっちに視線を向けて言った。薄笑いを浮かべたまま。
いくら睨みつけても、指一本一つ動かせない。
そのことが分かった私は、左目の赤い紋章を閉じた。
「…ど、どうして?」
「それは簡単。僕は人間じゃないからさ」
…たしかに、普通の人間じゃない。
一昨日は、車に跳ねられた後に轢かれたんだ。あれだけ血まみれの重症を負ったというのに全くといってほど傷痕が見受けられない。
それに私に与えた『ギアス』の力。
それはもう『人間』の外にいる『何か』
「…私のギアスは人間だけにしか効かないから。そういう理屈では貴方は人間じゃないわね」
「あ、でも安心して。僕以外の人には効くからさ」
いや、全然安心できないんですけど…
「最初はどうなる事かと思ったけど、リリーシャが面白い人間だったから良かったよ」
?何かひっかかる言い方よね。
それを聞こうと声を出そうとした時、
「でさ、リリーシャ。君の成し遂げたい事って何だい?」
と、彼の言葉によって遮られてしまった。
「…私は貴方の願いを聞くためにここに連れてきたんだけど」
「リリーシャが言った後、僕も言うよ。僕の願いはリリーシャが願いを叶えた後にやってくれればいいから…」
その言葉は私にとって想定外のものだった。
「…いいの?そんな気長なことで」
「僕は不老不死だからね♪」
…確かに。と、私は納得した。
やはり考え方が違う。
時間の観念が鈍くなるのか。時間が有限で無くなってしまうと…
私は一呼吸置いて、
言葉を紡いだ。
「真相を」
53:POPPO
09/02/04 02:12:42 VihRNli3
「真相?」
X.X.は無垢な顔で問いかけた。
「X.X.私はオレンジ事件の真相を知りたいの」
「オレンジ?」
X.X.は首をかしげていた。
やはり知らないようだった。まあ、想定の範囲だ。
「エリア11に来て、まだそんなに時間が経ってないの?」
「うん。こっちの世界に来てから、まだ一週間も経ってないからね」
「こっちの世界?X.X.貴方、天国にでもいたの?」
「まあ、それに近いところかな」
「へえ。興味があるわね。その話、もっと聞かせてくれないかしら」
「ダーメ。教えなーい」
べー、と舌を出した。
くっ!どこまでもガキなんだから!でもカワイイわね。畜生!
…コホン。
「私には兄がいるの」
「うん」
「兄は、オレンジ事件の張本人なのよ」
「お兄さんが犯人だったの?」
「…と、言われているわ。まあ、あの中継を見ていた人間は普通そう思うでしょうよ」
「???」
首を傾げているX.X.に、私は一から出来事を説明した。
兄がブリタニアの軍人であり、例に見ないほどの大失態を演じてしまったことを。
兄の行動と言動が後の証言からも不可解きわまりないことだったことを。
「それってお兄さんが悪くない?オレンジっていうスキャンダルがあったんでしょ?」
と、一般的な解答を返された私は、想定されていた言葉を綴った。
彼の理解力は大体把握できた。
今の彼の言動と行動が全て偽りで無かったらの話だが…
「そんな兄でも…私の兄さんなの」
「……」
沈黙するX.X.
やはり兄弟の絆のようなものは理解があるみたいだった。
「それで、わたしは、一つの仮説が浮かび上がった」
「うん」
「ねえ、X.X.私の質問に答えてくれる?」
そう言うとX.X.が頷いた。彼の後ろで結えている長い髪の毛が揺れた。
「僕が知ってる範囲でならいいよ」
「分かったわ。ありがとう。それじゃあ、質問に答えてね?」
私は、心を喫して言った。
私の想定が正しければ、これは…
「ギアスを使える人間は、他にもいるの?」
その言葉を聞いたX.X.は目を丸くした。
その後、彼は笑った。
口を大きく引きつらせ、目を歪ませて、
子供が決してできない邪悪な悪魔の笑顔。
私は、その表情に息を飲んでしまう。
「イエス、だ」
54:POPPO
09/02/04 02:13:22 VihRNli3
―――――――――――――――――っ!!
今度は私の頬が大きく引きつってしまった。
まるで悪だくみがうまくいったような邪悪な笑顔。
「うふふふふ……あはははははははははははは!!!」
彼女はいきなり狂ったように笑いだした。
「ありがとう!X.X.!これではっきりしたわっ。あっはは」
何が?とはX.X.は言わなかった。私の言葉が続くことを待っている。
「ゼロはギアスを持っている」
「へえ?それは面白い話だね。詳しく聞かせてよ。ところでゼロって何?」
「…本当に知らないのね。このエリア11でゼロを知らない人はリフレインの末期患者と赤ちゃんくらいよ」
「ゼロって、ゼロって~?」
ちょっと!私のベッドで足をバタバタさせないでよ!ああ!でもカワイイから許してあげる!
「ゼロはこのエリア11最大のテロ組織、『黒の騎士団』のリーダー。いつも仮面を被ってて、その正体は幹部すら知らないらしいわ」
「何それ?そんな得体の知れない奴がリーダーなの?随分と変わった組織だね」
あなたもゼロと同じくらい得体が知れないわよ!と心の中で突っ込んだのは秘密だ。
「兄の不可解な行動。戯言のような証言。『ギアス』というキーワードを当てはめれば全てが繋がる」
「僕の答えは確証を得るためだったの?」
「ええ。最初からそう踏んでいたわ。そして能力が私と異なるのであれば、と。元々、その前提で仮説を立ててたんだけど、確信が持てたわ」
「ゼロのギアスは、相手に触れなくとも命令を下せる力。それにいくつかの条件もあるみたい。今のところ分かっている条件は3つ。
相手を視認しなければならない。
言葉による命令。
そして命令できる内容は有限。それも極端に少ない、ってことくらいかしら」
私の胸の中に、青い炎が宿った。
何が目的かは知らないが、ゼロがエンターテイメントの小道具のように兄を利用し、兄の軍人としての道を踏みにじった真の犯人だと分かったのだ。
これでようやく、貴方を憎むことができる。
兄は賄賂や横領などといった汚職が大嫌いだった。
『オレンジ』などというのはただのデマカセだろう。純血派のリーダーとなっていた兄がスキャンダルを自ら犯すわけがない。
そのことは妹の私がよく知っている。
馬鹿真面目な馬鹿だけに。
それにゼロがギアスを持っている以上、さらなる混乱がこのエリア11で起こることは間違いない。
ゼロはカオスの権化だ。存在そのものが罪だ。
だから私は兄に代わって、『正義』を行う。
「X.X.私の願い。決まったわ」
「私は、ゼロを殺す」
私の目を真っ直ぐ見たX.X.は、にっこりと微笑んだ。
窓から差し込む日差しが、彼を優しく照らす。
それはまるで一枚の絵のよう。
「分かったよ。リリーシャ。じゃあ、僕の願いを言うね」
薄い口元が、ゆっくりと開いた。
「僕の願いは―――――――――――――――――」
少年は告げる。彼が私に託す『願い』を。
そして、リリーシャ・ゴットバルトの運命は静かに、
動き出した。
55:創る名無しに見る名無し
09/02/04 02:14:30 VihRNli3
投稿終了です。
ご意見、ご感想待ってます!
56:創る名無しに見る名無し
09/02/04 05:56:29 exGoFFDw
>POPPOさん
すごい。怒涛の三編、読み応えありました。
とにかく乙です。
一言で言ってしまえば、面白い。
ライとスザクとの問答、この作品の世界の抱える問題や方向性を見せて貰えた感じ。
様々な陣営が絡むギアス世界に大胆に切り込んでいく意気込みがうかがえて
正座したくなりました。
カジノやギアスのディティールも飽きさせない。
めりはり利いていて本当に読みやすいです。
リリーシャとその契約者、キャラ立ってますね!
容赦ないギアスとそれを納得させる描写や展開、。面白い。
眠っていた契約者……気になるタイミング。
リリーシャの動機がどう話に絡んで来るのかも気になります。
タイトルには「覇道」。どうなるの!
執筆投下共にお疲れ様でした。
続きを心待ちにしています。
長文感想になっちゃいましたが三本分だしということでご容赦。
57:POPPO
09/02/04 08:28:08 VihRNli3
保管車トーマスさん。
48の「机をベッド」→「机とベッド」
49の「中編1」→「中編2」
また「前編3」にある「経済特区日本」→「行政特区日本」
(スザクとライの会話中に続出してます!)
の誤字修正お願いします。
…毎度毎度、ホントにすみません。
58:POPPO
09/02/04 09:08:38 VihRNli3
すいません…
「前編2」の後半部分のライとC.C.の会話。
「…もしかして。今の全部、聞いていた?」→「…もしかして。今の全部、聞いてた?」
「前編3」のルルとユフィの会話。
「…しきなり仕事の話か」→「…いきなり仕事の話か」
「自分の耳を疑った」→「自分の目を疑った」
も修正お願いします。
…遠慮なすぎる自分がイヤなんですが、
ここはトーマスさんのご厚意に甘えてもよろしいでしょうか?
また、X.X.,アンジェリナ、ノエルの設定は
「中編」が終了して出したいと思います
リリーシャは「中編3」の投稿終了に出す予定です。
では!
59:創る名無しに見る名無し
09/02/04 10:39:36 veiBy9wb
>>55
POPPO卿、GJでした!
人の身体を操るギアス、その詳細を一日で調べあげるリリーシャ。
……ルルーシュよりしっかりしてる気が……
>ミラクルパワー 吹いたw
しかし、奇跡の力、その通りでもある。
ゼロを殺すというリリーシャの願い、X.X.の願いは何なのか。
貴公の次の投下を全力を挙げてお待ちしております!
60:創る名無しに見る名無し
09/02/04 11:33:12 t/n8pbys
>>55
GJでした!
スザクとライの対話、熱いです…「親友さ」には痺れました。二人やルルーシュ、カレン、ユフィの
願い通り、この世界が平和なままなら…と思ってしまいます。波乱の予感にハラハラしながら、
でもライ達を信じています!
そしてリリーシャ、可愛いじゃないか…!一個のキャラとしても場をかき回す敵対キャラとしても、
凄く魅力を感じます。また攻略が難しそうなギアスに、どうやって立ち向かっていくのか…
続きを楽しみにしています!
61:保管者トーマス ◆HERMA.XREY
09/02/04 11:48:21 lR+pkpSH
>>58
誤字修正全て完了しました。
62:創る名無しに見る名無し
09/02/04 20:16:53 1kAGmNLC
ちょっと質問
リリーシャって金髪の美少女説が多いけど、
どっかでルルーシュのそっくりさんって話も聞いたことあるんだ
どっちも正しい?
ぐぐってもいまいちはっきりしないの
63:創る名無しに見る名無し
09/02/04 20:19:12 aBvdaQ1z
前者が正しかった気がする。
後者は没設定
64:創る名無しに見る名無し
09/02/04 20:49:47 vyQxYmQj
どっちでも好きな方を使えばいいと思う。
使いたいのなら
結局本編には出てこなかったキャラなんだし、どっちが正しいってのはないんじゃね?
65:創る名無しに見る名無し
09/02/04 21:43:52 yOUVrRwr
そうだね。
兄同様の髪色というのも十分ありだと思う
66:創る名無しに見る名無し
09/02/05 14:33:31 Sdmm5dEH
45分頃に投下させて頂きます
前書き・本文・後書き合わせて全部で19レスです
67:創る名無しに見る名無し
09/02/05 14:37:53 TQWboFXG
支援したいのですが休憩がもうすぐ終わり…
申し訳ないです
68:創る名無しに見る名無し
09/02/05 14:45:05 Sdmm5dEH
お久しぶり、こんにちわ
定刻通りに只今到着、なんちゃって
え~時間になりましたので投下します
今回は待たせた分だけボリュームアップ!
実を言うとただの詰め込み過ぎなだけなんですけどね
【タイトル】コードギアス 反逆のルルーシュR2 RADIANT WORLD
【ジャンル】シリアス(長編)
【警告】ギアス篇&黒の騎士団篇の合いの子ルートの
ギアス篇ENDからスタートしています
R2の豪快なifルート&オリジナルメカが登場するので
苦手な方は御注意下さい
69:創る名無しに見る名無し
09/02/05 14:46:30 Sdmm5dEH
言葉が雄弁に意思を語る術だとしたら、行動は意志を雄弁に語る術なのだろうか。
だとしたらいつかの言葉も行動も嘘ではないのだろう。
願い続けた想いはそうして色づいていったのだから―――
エリア11、トウキョウ租界にあるブリタニアの政庁。
その総督執務室には一人の少女がいる、名前はナナリー・ヴィ・ブリタニア。
以前はナナリー・ランペルージという名で生活していたが、今はその名を知る者は少ない。
彼女がエリア11で生活をしていた頃を知る人物がいたら今の彼女の姿を見た時どう思うだろう。
神聖ブリアニア帝国の皇女である事に驚くのだろうか。
ユーフェミア・リ・ブリタニアと同じお飾りの総督だと思うのだろうか。
少なくとも彼女はそう思われないように、そう思わせないために毅然としていた。
皇女として、総督として、為政者として、なによりナナリーとして。
だが、彼女はまだ未成熟な少女だ。
日本の皇神楽耶や中華連邦の天子と変わらぬ年代の少女。
その彼女をそうまでして駆り立てるのも、彼女にとって大切な何かがあるからだ。
「失礼します。総督、来客です」
「ミスローマイヤ? 私に来客、ですか?」
「はい、本国のライという方からの紹介との事ですが……」
「ギルフォードさんまでいらっしゃるのですか?」
ナナリーは今までにない来客に驚いていた。
アリシア・ローマイヤ、彼女はナナリーの補佐官として本国からこのエリア11へと派遣された文官である。
当然、ナナリーの執務室へと出向いてもおかしい事ではない。
ギルフォードもナナリーが就任するまで代行をしており引継ぎを含め訪れる事はおかしくはない。
しかしこの二人が同時にというのは些かおかしい、それが彼女を悩ませたのだ。
「エニアグラム家の執事であるジョン・ウエストウッド氏からの書面もあります、ですので私は問題は無いと思うのですが……」
「証があろうと素性が怪しい者を通すわけにはいきません、ましてや総督へ直々に会うなどと―――」
「ミスローマイヤ、正式な書面ならば問題はないでしょうし通して下さい。私も是非会ってみたいです」
ナナリーはローマイヤの心配を遠回しに宥めて来客を通すように促す。
自分への来客を珍しいと思いながらも不思議と不安を感じてはいない。
それは口添えしている人物への信頼の表れであり、ローマイヤにとっては忌むべきものでもある。
その険悪な空気を諌める様にギルフォードは了承の意を伝え来客を執務室へと通すように警備兵に促した。
扉が開いてから少し間を置いて背丈が幾らか小さいナナリーと同年代の少女は姿を再度二人に見せる。
後ろに結った髪を揺らし、二人からの視線を気にもかけずゆっくりとナナリーの前へと歩いていく。
「はじめまして、ナナリー総督。私はアリス・ザ・スピードと申します」
「お若い方……ですね、ライさんからの御紹介との事ですが……」
ナナリーはアリスの肯定する返事、そして情報から彼女を信用する。
それと同時に同席していたローマイヤとギルフォードに席を外すように申し出た。
その命令にも似た言葉に二人は渋々従い執務室を離れていく。
去り際に警備兵へ注意深く厳重に警護するように言い含めて。
「まったく……総督の行動には毎度悩まされる……」
「過度の心配ですね、彼女には問題はないのですよ?」
「だからといって卑しい者の紹介を無条件に受け入れるのはどうかと思いますが? いくら口添えがあろうとも―――」
政庁の廊下にローマイヤの愚痴が響く中、執務室からは和やかな笑い声が響いていた。
「いつもと同じ様に『ああ、なにかおかしいか?』とか言いますし」
「ふふっ、でもお優しい方でしたでしょう?」
「ええ……私以外にも優しくして下さいましたよ、口数は少ないですけど」
「ここ最近はお会いする事がありませんでしたけど、でも……あっ―――」
談笑に夢中になりすぎてナナリーは思わず用意されていたティーカップを落としてしまう。
しかし、彼女の耳にはティーカップが割れる音も床に落ちた音も聞こえてはこなかった。
「ナナリー総督、そう慌てないで下さい。私は貴方の傍にいるように言われていますから」
「えっ? あ、ありがとうございます……アリスさん」
「アリスで結構ですよ、聞けば同い年だそうですから」
「えっ……そうなのですか! だったらそんな話し方はなさらなくてもいいですよ」
70:創る名無しに見る名無し
09/02/05 14:47:50 Sdmm5dEH
ナナリーはティーカップの音の行方よりもアリスが同い年である事に興味が移っていた。
同時にアリスは不用意すぎた事を悔やんでいた。
幾ら目が見えないとはいえ、自分の特異な能力であるギアスを使ってしまった事を。
(不用意に使うなって言われてたのに……それにしても本人に会えばわかる、か。ホントその通りね)
彼女が会話を続ける脳裏ではある少年の事が浮かんでいた。
中華連邦に出向いたであろう少年の事を。
それと同じ頃、政庁近くのブリタニア軍駐屯地では軍人達がトレーニングに励んでいた。
いや、励むというよりはしごかれているという表現が正しいだろう。
「まだ半分……」
『そ、そんな殺生な!?』
アーニャの無慈悲な一言は軍人達を奈落の底へと叩き落すかのようなものだった。
その反応を気にもせず彼女が携帯を弄る作業に戻るのを見てジノは大笑いしてしまう。
「おいおい、これじゃあ駄目だろアーニャ」
「別に……ラウンズなら普通……」
ラウンズから駐屯軍への手解きを是非とも、というグラストンナイツからの申し出があり彼女は暇な事もあり了承した。
ただ、惜しむらくはアーニャではなくジノに頼むべきだった事だろう。
とはいえジノがしていたとしても精々程度が軽減されるだけではあるが。
「二人共、もう少し彼等の事を考えてあげなよ」
「ん? スザク、政務はもう終わったのか?」
「総督に来客があったからね、今は休憩だよ」
「客……?」
スザクの言葉に二人は少々頭を悩ませた、総督への来客についてだ。
来客がある事自体に疑問があるのではない、二人にあるのは来客した人物についてである。
ナナリーが着任してからそれ程時間は経っていない。
そう、特区の事を踏まえても今のこの時期に来客する理由がある要人がいるのかだった。
スザクはライからの紹介だと口に出して誰が来たのかを説明しようとしたのだが、それは携帯電話の着信コールによって阻まれる。
『スザク、忙しいのにすまないな。聞きたい事があるんだが……』
「ルルーシュ? 一体どうしたんだい?」
『会長が中華連邦に滞在しているからな、お前ならなにか知っているかと思って』
「こっちにはまだなにも。でも大丈夫だよ、あそこには他のラウンズが同行しているから」
スザクは努めて平常を保ったままルルーシュに簡略して今の状況を説明していく。
が、胸中では違う考えが渦巻いている。
(ルルーシュはここにいないはずだ、しかし―――)
最新の情報では中華連邦に黒の騎士団が現れたという情報も混じっている。
この電話もそこからしているものかとも考えられたがシャーリーやリヴァルといった他の生徒会のメンバーの声が聞こえてきている。
電話越しで確認できるものは少ない、だが彼には信頼できる情報もある。
(ライ……君の目的は一体……)
スザクも中華連邦にいる筈の少年を脳裏に思い浮かべている。
それは学園にいるロロも同じだった。
ルルーシュ、今は篠崎咲世子が扮するではあるが彼女が枢木スザクに連絡をするというのを彼は止めなかった。
通話を終えミレイが無事だという情報もあるという言葉にシャーリーとリヴァルは緊張を解いて張っていた肩を一気に落とす。
そのままリヴァルは椅子へ腰を投げるかの様に掛けて机にうなだれ、シャーリーは目に涙をためて安堵していた。
ロロは渦中にいるであろう少年を思い浮かべながら、咲世子がシャーリーへハンカチを差し出す光景を見て彼女を生徒会室から連れ出す。
(今は学園でのトラブルを防がないと……)
彼は咲世子の優しさを少し咎めて学園地下にある機情の司令室へと足を運ぶ。
シャーリーの校内放送が響く中で咲世子はなにが駄目だったかと不思議そうな表情をしながら彼に追従している。
司令室には黒の騎士団の作戦推移を示す画面が展開されているが、状況図は斑鳩が足止めされているところで止まっていた。
(この情報が本当なら足止めしているのはきっと……)
ロロもまた中華連邦で騎士団と対峙しているであろう少年を思い浮かべている。
ブリタニアでの少年の軌跡を知っている数少ない人物である三人。
その三人が少年ライへと向ける感情は感謝と信頼、そして懐疑だった。
しかし思う先は同じである、その真意はなんなのかと。
71:ぷにぷに ◆/uQUf4aJ4k
09/02/05 14:48:46 Sdmm5dEH
誰にも語らず誰にも悟られず孤独な道の先に求めるもの。
それが友へと向ける銃口の先にあると信じて彼は円卓へと足を進めていた。
第十一話『明日 を 求めて』
VARISの照準は艦橋に向けられている。
クラブに騎乗している少年がなぜこんな凶行をするのか、それがわからない団員達はただ困惑して事態の理解に努めていた。
ルルーシュとC.C.を除いては―――
「天子の返還? ライ、それはできない相談だな」
『なら、撃ち抜こうか? 僕は躊躇しない人間だぞ』
「できるものならやってみるがいい。天子諸共失っていいのなら、な」
ルルーシュは絶対の自信を持ってライを挑発していく。
斑鳩には輻射障壁という防御手段がある、そして天子の所在がわからない以上は無闇に手は出せない。
輻射障壁は実弾等に対して絶大な防御力を発揮できる、これはランスロット等に使われているブレイズルミナスに対抗する為でもある。
そしてクラブが現れる前に行なわれた狙撃を見てもハドロン砲の類ではないのも容易に想像できる。
次に天子の返還を要求している以上は殺したくはないという事情。
これ等を踏まえれば彼が強攻策を選ぶとは考えられないというのがルルーシュの答えだ。
勿論、彼への全幅の信頼があるというのも理由の一つであるが。
「一つ聞きましょう、貴方の真意は?」
『ディートハルトか……前々から聞きたかったんだが、君はゼロをどう見ているんだ?』
「カオス、混沌を生む者と捉えていますが。貴方はどうなのです?」
『……僕もほぼ同じ意見だ。だからここにいる、無秩序で指向性のない力は暴力にもなるからな』
彼の返答にディートハルトは自分の見識、そして予感は正しいものだったと確信した。
ゼロという大輪の華を咲かせるのを阻害されるという予見を。
同時に考えも改めていた、彼もまた唯一無二の素晴らしき存在だと。
しかし、彼にとってそれはゼロという存在をより確固たるものとするだけでの意味でしかない。
「ゼロ、ご命令……いえ、彼を断罪しろと団員達に告げるべきです」
「撃てってと言うのか、以前は仲間だった人間を!」
扇も状況把握はできていない、しかし蓬莱島での彼との約束。
あの約束を守らないとも思えない扇には敵側にいるとはいえライを討つという行動には賛同できない。
だが、ディートハルトは混沌に対する秩序たらんとするライは邪魔でしかないと主張した。
艦橋は沈黙の中で意見が分かれつつある中、ルルーシュは反対寄りの思考をもって意見を述べていく。
「っ……ディートハルトよ、切り捨てるという発想だけではブリタニアに勝てん。ましてライは―――」
「貴方が信頼を寄せているのは承知しております。しかし彼は貴方に、我々に反旗を翻したのです。これ以上の言葉は―――」
一人の団員への贔屓とも取れる、それは組織のトップに立つならば排除すべき感情だ。
しかし、ライの思惑とルルーシュの算段がある以上はここで団員達を捨てる選択はできない。
その結果も予想されたものだろう、退路を塞がれていくのも想定内だろう。
ルルーシュとライ、自分達が選んだこの道は私情を挟む余地を着実に削っていく。
『……答えは決まったか?』
「ライ……答えはノーだ、今ここで降伏する事はできない。我々には成さねばならない事があるからな」
退く道はない、後方からは中華連邦の陸軍も迫ってきている。
そして黒の騎士団にとっても退路を選ぶ選択肢はない。
僅かな沈黙、後にクラブはVARISの銃口をゆっくりと下げて後腰部にあるガジェットへと銃身を預けた。
その行動を虚ろな目で見ていたカレンは違和感を覚える。
ここまでしておきながらチェックをかけない行動、その答えは―――
『だそうだ、黎星刻』
「っ!? 卜部さん仙波さん離れて!」
『ふっ、段取りに感謝する!』
一筋の閃光が迫る中、この状況下でライの意図に気付いたのは恐らくカレンだけだろう。
紅蓮の輻射波動機構を即座に稼動させて迫っていた攻撃を横合いから妨害する。
神虎の天愕覇王重粒子砲が全開であったなら防ぎきる事はできない攻撃。
奇しくも天子がいるという事は少なからず騎士団にとって有利に働いていた。
72:ぷにぷに ◆/uQUf4aJ4k
09/02/05 14:50:22 Sdmm5dEH
『紅蓮可翔式、紅月カレンか。だが二度目は無いぞ、この神虎が相手ではな!』
星刻の駆るKMFの姿を斑鳩の艦橋が捉えた時、ラクシャータや彼女のKMF開発チームは驚愕した。
彼等の眼前を舞う神虎は以前からパイロットがおらずインド軍区の倉庫で眠っている筈だからだ。
その情報はルルーシュにとって誤算であり、そして危惧の念を抱いた。
「マハラジャのジジイ、また勝手に!」
「ラクシャータ、あのKMFを知っているのか?」
(マハラジャ、インド軍区の指導者だったな。となればインドの裏切り、か? いや……一枚岩ではないという線が濃厚だな)
ラクシャータの神虎の説明に耳を傾けながらインドの動向へ注意を向けていく。
神虎、ハイスペックを追求しすぎてパイロットは最初から不在。
既存の規格を離れ飛翔滑走翼や天愕覇王重粒子砲というエネルギー兵器、更には伸縮自在のフーチ型スラッシュハーケン。
規格の中で生み出されたKMFではなく、システムを活かす為のKMF。
そういう存在でありながらスペックを全て活かす者はおらず、この機体もまた主の登場を待っていたKMFだった。
クラブ・ドミネーターと呼ばれるライが駆るKMFと同じ様に。
「凄いな、あの距離からでも正確に射撃ができるのか」
式典会場近くの迎賓館でノネットはアヴァロン高速強襲型から送られてくる映像を映すハンドモニタに釘付けだった。
その子供がヒーロー番組に食い入る様に見る姿にドロテアとカノンは些か腹立たしい感情を抱いている。
原因は式の最中のノネットの行動についてだ。
「エニアグラム卿、私から言いたいのは―――」
「わかっているさ、浅はかだと言いたいんだろう。なあアッシュフォード、こいつがあいつのKMFでな」
「副官が差し出がましいとは思いますが、私も状況を考えて行動なされたとはとても思えませんが?」
「結果はイーブンだしいいじゃないか。お披露目もできたんだし、なあ?」
ノネットの同意を求める声にミレイも流石にたじたじとなる。
結果論で言えばライが式典の報を聞いて即座に迎撃ラインを設けノネットがそれに乗ったという形だ。
だが、過程においてはライがそんな事をしているとは彼女は知らないし考えてもいない。
行動の発端は明らかに個人的感情であり世界の情勢やブリタニアたらんとする者としては愚かな行為である。
その恨み節をのらりくらりとかわしながら彼女はクラブが搭載しているユニットに興味が移っていた。
「あは~流石だね、光ディスクと概略書の情報だけでここまで使えるなんて。これもエニアグラム卿の教えの賜物ですか?」
「ロイドさん! 申し訳ありませんエニアグラム卿……」
「構わんよ。それよりもだ、コンクエスターより趣が随分と違うな」
ノネットはクラブのドミネーターユニットについて軽く自分の意見をまとめて告げた。
背部の非対称の砲身は腰部前面で展開、連結を行いVARISを結合させて砲身の延長及び長距離射程を可能とする。
その距離を稼ぎ打ち抜く為の機構としてはシリンダーロールバレルというものが組み込まれていた。
それは内部にある筒を高速回転させて力場を生み弾丸を打ち出す力を増幅するという機構である。
これとVARISのインパクトレールの発射エネルギーを合わせてはじめて長距離狙撃が可能になるのだ。
武装とユニットに使われているこの新機軸の機構の二つ、それが合わさり生み出された武器。
それと同時にノネットの中にはもう一つの答えがあった、勿論ロイドやセシルもわかっている事柄だ
「確かに距離は脅威だが汎用性を欠いていないか、砲兵として支援に徹するならともかく前線に出る私達には邪魔だろ?」
「それについては砲身に換装機構を取り入れて対処してあります。ショートやハドロン、それから今使っているロングバレル」
「MVSはヴィンセントと同じランスタイプ、デヴァイサーの能力も考慮すればクラブも唯一無二の汎用型KMFなんですよ~」
このロイドの自慢は留まる事を知らず次々とクラブとライ、そしてランスロットの進化論へと話が進んでいく。
その勢いにミレイとドロテアは飲まれセシルとカノンはまたはじまったなどと思っている。
熱い演説の様に言葉をロイドが吐き出し続ける中、シュナイゼルが現れたのを逸早く察したノネットは彼に謝罪を述べた。
「殿下、先程の軽率な行動をして申し訳ありません」
「気にする事はないよ、状況も良い方向に向いてきているしね」
「……と、言いますと?」
「正式な要請が後程大宦官達から出されるみたいでね、我々も出向く機会があるということだよ」
73:ぷにぷに ◆/uQUf4aJ4k
09/02/05 14:52:13 Sdmm5dEH
既にノネットとドロテアのKMFもアヴァロンに搭載されており、後は主達が乗り込むのを待つばかりと準備は整っている。
その言葉に彼女は外していた視線をモニタに戻してクラブが銃口を下げた光景に一抹の考えを過ぎらせた。
(……歪み、か。それを正そうとするのも歪んでいる、とも思うんだがな)
各人がアヴァロンへと足を進める中、ノネットが複雑な表情をしている事に気付いたのはドロテアだけだ。
不可思議な表情をすると思った彼女だったが口には出せない、それは影ながらもラウンズを支えてきたノネットへの敬意の表れだった。
ノネットの奔放さは彼女にとって正直に言えば頭痛の種だ、だからこそジノやーアニャといった人材がいるとも言える。
その彼女の難しい表情を見たノネットはといえば、心中を悟らせずいつもの通りの軽快な声で彼女を労った。
「心配するな、ラウンズとしての務めは果たすさ。それよりお前はちゃんと見た事がなかったな」
「なにをです?」
「あいつの双剣だよ―――」
赤と青、その二色が織り成す斑鳩前方の戦場は激戦区だった。
紅蓮と神虎は今現在のところ互角だが、神虎はスペックの全てを出してはいない。
いや、出せないという表現が正しいのだろう。
黎星刻という人材でさえ手に余るという最高のKMFの一つである証、しかし紅蓮は全てを使ってその位置と対等なのだ。
そのラクシャータの目測を聞いたルルーシュは事前に立案してある策を実行に移す為に応戦を指示していく。
「斑鳩を反転、このまま迎え撃つ。今インドへ撤退するのは危険だからな」
「だけど、こんな状況でどうするんだ!」
「扇、今は応戦に専念しろ。星刻に私だけが指揮官だと気取られるぞ。南、機を見計らって斑鳩を天帝八十八陵へと進ませろ」
斑鳩前方から進軍してきたKMFはクラブと神虎のみ、つまり先回りできたのはこの二機だけだという事。
このルルーシュの戦略予想は概ね正しい、集中すべきは後方からの中華連邦陸軍であるのも間違いではない。
血の気が幾らか治まっているカレンなら神虎相手に無茶をしないとも読めている。
問題は洛陽から迫るであろうアヴァロン、そしてライだった。
そのライは主戦場を離れて対峙している二機の後方で状況を傍観していた。
彼が介入できたのは中華連邦が得をして、華を持つという餌があればこそだ。
つまり過度の手助けは彼の手柄目当てだと受け取られてしまう。
だからこその傍観ともいえる、それは真意を知らない者達にとっては見下す行為でもあれば不明瞭な行動でもあった。
「総領事館で興味を抱いたのは間違いではなかったようだな、流石だと言わせて貰おう」
「減らず口じゃない、その余裕もいつまでかしらね!」
先の敗北でカレンは冷静に相手を対処している、しかし意識が神虎へと向ききってはいない。
その先、神虎の後方で物見遊山の如く静観するクラブを彼女は見据えている。
『エースが聞いて呆れるな、邪魔だ』
(邪魔……ですって!? 踏みにじったままで終わらせないわよ!)
その感情が紅蓮をより速く、より強くさせていくが対する星刻は平静に機体を疾らせていく。
フーチを手首で高速回転させてミサイルを防ぎ、呂号乙型特斬刀と呼ばれる小型ナイフも中国刀を模した武器であしらう。
カレンは決め手の徹甲砲撃右腕部を叩き込む好機を探すが、それを見せてくれる易しい相手でもない。
『紅蓮の性能でカバー出来ているけど、もっと小手先の技を使う事を考えた方がいいんじゃないか?』
(私は負けない! あんな言葉になんか―――)
神虎が刀を振り上げたのを見た時、斬りかかってくると思い彼女は小型ナイフで応戦しようとした。
だが星刻は彼女の読みに反してそれを投げ放ち、神虎を最大加速させて紅蓮の上方へと舞っていく。
その意図に反した攻撃に右腕で反射的に対処したが、それは自らを死地へと招く一手だった。
「しまっ―――」
「君は黒の騎士団のエースだったな、有効活用させて貰うぞ」
両手のフーチを紅蓮に幾重も巻きつかせ完全な拘束を施して星刻は斑鳩へと通信を繋いだ。
カレンと天子、人質としては価値がイーブンとも思えなかったがここで仕留めれば神虎の力を証明できる。
黒の騎士団のエースであろうと敵ではないという力の証明を。
その状況に藤堂達を後方支援しようとしていた卜部と仙波は即座に反転したが、時は既に遅く紅蓮は身動きが取れずにいる。
頼みの右腕も使えず障壁の出力ではフーチも断ち切れない。
「再度言わせてもらおう、天子様を返せ」
「……できないと言ったら?」
「拒否するのであれば彼女には―――」
74:ぷにぷに ◆/uQUf4aJ4k
09/02/05 14:54:05 Sdmm5dEH
星刻の次の言葉はなく、彼の口から出たのは血だった。
天から二物を授かった麒麟児である彼に与えられなかった時間、それは命においても同じである。
(こんな時に……対処しきれるか、今―――)
援護に来たであろう暁・直参仕様が二機、神虎の両手は使用不可。
彼が応戦するには攻め手と決め手、その両方がない。
紅蓮の解放か無理に応戦するかの選択、だが第三の選択肢は彼の思惑とは裏腹に動いていく。
『一度後退しろ、竜胆(ロンダン)に戻り指揮系統を再編してからでも遅くはないだろう?』
ライは傍観に徹していたのを止めたのか、神虎へと高速で近づきながら寄り添う様な形で彼の退路を示した。
ただ、ある行動だけを除いて―――
「君の手助けには感謝しよう、しかしこれはどういう事だ?」
『借りがある、それに約束は極力守りたい』
彼は神虎に寄り添う際にフーチを切り裂いて紅蓮を解放したのだ。
星刻にしてみればそれは余りにも不愉快であり同時に不思議なものでもある。
それは彼が約束を重んじ、その為に生きてきたからだろう。
「約束、か……裏切っておきながら変わった男だな」
『些細な事だ。そのまま後退しろ、それ位は問題ないだろう?』
ライは神虎が投擲して落とした刀を返してそのまま下がらせていくが、その二機を追従しようとする者はいない。
先の交戦で見せた彼の実力、示威行為としては既に絶大だった。
卜部と仙波。彼の実力を知るが故の武人として、戦士としての直感。
それが二人を躊躇させている、しかし彼女は違っていた―――
「待ちなさいよ、私はまだ戦えるわよ!」
解放された紅蓮の各部チェックを手早く済ませカレンは主機関の出力を上げていく。
その彼女に興味も示さず後退していく二機への怒りを隠さず紅蓮を加速させたが、ラクシャータと二機の暁によってそれは阻まれた。
「恐らくだけどあれはボウヤの専用機よ、言いたくは無いけどカレンちゃんじゃ―――」
「ラクシャータさん、私はまだ戦えます! それに紅蓮可翔式なら―――」
「いい加減にせんか! 独断と怒りで命を散らそうとするだけでは飽き足らず味方まで危険に晒すでない!」
カレンの血気に任せる行動に業を煮やしたであろう仙波は彼女を一喝した。
その怒声にカレンは一瞬体を強張らせたが、それでも納得はできないでいる。
紅蓮は主戦力の一機であり、実力も申し分ない。
だからこそ軽率な行動は慎むべきなのだが、それでも彼女の怒りは収まりどころを見つけられない。
その怒りもルルーシュと卜部の言葉で悔しさに変わってしまう。
「紅月、今は目の前に専念するんだ。彼の事は気にするな」
「でも!」
「カレン、今は戦線を構築する為にも斑鳩に一旦退け。感情だけで勝てる程、今の戦況は甘くない」
「……わかりました」
渋々、というよりも否応の無さに彼女は後退の支持を受諾した。
誰もが思う疑問、それよりもこの戦いを切り抜ける事を彼等は優先するしかない。
「大尉、彼は―――」
「卜部よ、今は目の前の事を片付ける事だ。恐らく中佐も感づいておる」
団員達の思惑とは裏腹に次第と離れていくクラブ、そのライも感情を排して行動に徹する。
ドミネーターユニットの狙撃によるエナジーフィラーの過剰消費。
紅蓮可翔式との交戦で行なった無茶な戦法、蓋を開けてみればライもギリギリだった。
久々に騎乗したクラブの進化や半ば専用機と化した反動による身体への過負荷。
(苦労しそうだな……それも当然か……)
「ライ卿、アヴァロンがこちらに向かうそうだ」
「動くのか……ヴィレッタ卿はそのまま戦況の監視をしていて下さい」
続けてライはアヴァロン高速強襲型に着艦準備、及びアヴァロンへの接舷準備をする様に伝える。
これにはドミネーターユニットの換装もあるが、ライの戦略眼からではあるが今現在のところで早期決着の目処が見えていないからだ。
目処が見える時が来るとすれば、それはルルーシュが用意する策とシュナイゼルが動く時が星刻と重なった時。
(地形は平坦、部隊の配置から見ても当面は双方に大きな変化は起きないだろう。となれば―――)
「急ごしらえの部隊など指揮系統を集中させればすぐに牙城を崩せる、しかし相手のKMFの性能は侮れん」
「星刻は指揮系統の一極化を狙ってくるだろう、相手もこちらのKMFの性能を甘くは見ない筈だ」
75:ぷにぷに ◆/uQUf4aJ4k
09/02/05 14:56:09 Sdmm5dEH
(セオリーと実力、その材料の中で星刻が選ぶ選択は恐らく―――)
「となれば、我等が選ぶべき作戦は神虎を先鋒にしての中央突破!」
「星刻は自ら打って出てくるだろう。藤堂には抑えを任せる、四聖剣は空中から地上部隊の援護―――」
陣形が整う中で星刻は己の勝利を、天子の奪還を確固たるものとせんが為に。
ルルーシュは己が打って出るべき好機を逃さず掴む為に、二人の指揮官は静かに相対していく。
クラブの攻撃からはじまった攻防、時刻は既に陽が落ちはじめようとする頃合だった。
「私達が出る機会は無さそうですわね、シュナイゼル様」
「カノン、それは早計だと思うよ。ゼロは手強い、それに星刻という指揮官も」
シュナイゼル達が乗るアヴァロンが主戦場に到着した時、戦局は些か異様を呈していた。
黒の騎士団は応戦隊形を取ってはいるが、明らかに後ろ向きな配置である。
まるで誘うかのように動く敵、その敵に星刻は足止めを狙う隊形を取っていた。
じわじわと後退していく黒の騎士団、その目的は―――
「勝利を掴む為の後退でしょうね、方向的にインドへでは無さそうですけど」
「この先にあるのは天帝八十八陵だったかな」
高速強襲型の格納庫でライは状況推移を述べていく
それを聞きながらノネットはパイロットスーツの上半身だけを脱いだライのインナーから見え隠れする痣に目を向けた。
なにかに激しくぶつけたというよりは無理な姿勢を取った様にも見える痣。
「やっぱりシートが合わなかったのね……ロイドさん、シートもすぐに換装しましょう」
「そうだね~後、ホントに使うのかい?」
「ええ、狙撃が済み次第換装しようと思います」
ライはドミネーターユニットのショートバレルへの換装を注文していた。
しかし、取り付けられてはされておらず換装の準備段階としてカタパルト上部に設置されただけである。
つまりハンガーで行なっている作業はユニットの各アタッチメントの不具合の有無確認とセシルが立案したシートの換装だけだ。
「つまりだ。ゼロの目的は、はじめからそこだったと?」
「どうでしょうね、どちらにせよ今の状況だけじゃ意図は不明ですよ」
「こちらも所詮は客将です、これからの動きはシュナイゼル殿下に一任しましょう。それとライ卿」
「なんですか、エルンスト卿?」
「エニアグラム卿の尻拭い、代わりに感謝する」
「ドロテア、私がミスをしたみたいな言い方をするな」
ラウンズの二人、いや三人は一応の結論を出してそれぞれが出撃準備を進めていく。
ノネットは若干乗り気ではないのか、パイロットスーツのしなりを確認するのが些かゆっくりである。
対するドロテアは手早く確認しながら連れてきていた直属部隊の数人に指示を出していく。
今回の戦闘の状況次第ではロールアウトしたばかりのヴィンセントの量産型、ヴィンセント・ウォードも使う予定があるからだ。
その対照的な行動をする二人を眺めながらライも換装されたシートのチェックをしている。
同時にユニット換装によるFCSのシステム変更を手早く行なえる様にする準備も含めて。
『ライ卿、黒の騎士団の目的地は天帝八十八陵で間違いなさそうだ』
「そうですか、KMF部隊の展開に変化は?」
『量産機は新型と旧型の混成に切り替えたようだな、他は専用機らしきKMFが一機とエース用らしきKMFが四機。会戦から特に変化はないな』
「わかりました。ヴィレッタ卿も帰艦して下さい、そろそろ大きな動きがありそうですから」
『イエス、マイロード』
通信を終えてからハッチを閉めてライは幾つかの案を考えた。
ルルーシュの目的、これについては篭城戦を画策しているというのは読みは正しいだろう。
その目的の先はなんなのか、事前策があるとして使う材料は―――
(シュナイゼル……ではないな。となれば大宦官か、欲深そうだったからな)
天子の奪取を目論んだ以上は中華連邦を取り込むつもりとも読める。
しかし、これだけでは足りないとも彼は思っていた。
(しかし、なぜ紅蓮を出さない……出し惜しみする必要はない筈だ)
76:ぷにぷに ◆/uQUf4aJ4k
09/02/05 14:58:10 Sdmm5dEH
ルルーシュの策、その全容を聞けば彼は納得すると同時に些か無謀とも思うだろう。
そして紅蓮が出撃しない真の理由を知った時、彼はなにを想うのか。
艦内のアナウンスは静かに黒の騎士団が天帝八十八陵へと到着した事を告げる。
「歴代の天子が眠る墓、か。藤堂さんはどうです? これが僕達の墓標っていうのも―――」
「無駄口を叩くな朝比奈。中佐、これからは?」
「今は座して待つしかないだろう。補給が必要な者と換装が必要な者は手早く済ませろ、それ程時間を稼げるとは思えん」
藤堂はKMF部隊がまだ必要であると踏んでいる、勿論ルルーシュもだ。
この戦いの終わりはまだ遠い、星刻との戦いで藤堂はそれを確かに感じていた。
地の利が無いところを運河の決壊を利用しての地盤の欠点を生む。
陣形次第ではかなりの戦力が奪われていただろうと感じさせられた一戦。
ルルーシュが考えていた事前策は奇しくもまた有利に働いている。
同時にそれは正面からの決戦をするには黒の騎士団はまだ力不足なのだという証明でもあった。
「中佐、先程の事なのですが……」
「卜部か。仙波もいるなら丁度いい、お前達はどう見る?」
藤堂の質問の意図、それがわからない程この二人は付き合いは短くない。
「敵意はあれども殺気は感じられず、といったところですな」
「大尉と同じ意見です。本気は本気だったのでしたが、明らかにこちらを殺そうとしたとは思えません」
「そうか……これがゼロの策だとするなら、なにが目的だ……」
藤堂の中に芽生えるのは僅かな疑心、あれ程重要視した人間が敵に寝返る。
それを平然と受け流すかの様な態度に感じる不安。
しかし、団員達の中にはそれでも信用したい者達も多かった。
「あいつ……信用できると思ってたのによぉ……」
「玉城、泣き言を言うな。まだ戦いは終わってないんだぞ」
「でもよ、杉山!」
玉城達の言葉は藤堂にとっても同じだった、今更裏切るのはおかしいと。
同時に信用するに値していた人物である事もだ、それは斑鳩の艦橋にいる扇達もまた同じだった。
「ゼロ、これからどうするんだ? ブリタニアの航空艦も二隻来ているし……」
「焦るな、まだ敗北したわけではない。四番隊と五番隊には砲撃支援の追加装備を準備させろ、カレンは?」
『紅蓮から出てこないわ~なんとかして頂戴』
ラクシャータの格納庫からの半ば呆れながらの嘆願の声にルルーシュは躊躇する。
しかし、ライの行動とディートハルトの言葉。
自分がなにをすべきでなにをやり遂げねばならないのか、それが躊躇を消し去り彼をゼロへとしていく。
「……そうか。C.C.、カレンはお前に任せる。南は―――」
「待て、私よりお前が行くのが妥当だろう?」
「今は一人にだけ構ってはいられん。南は艦首ハドロン砲の準備、輻射障壁の―――」
ルルーシュの力強い言葉、その言葉をC.C.は渋々ながら受諾して格納庫へと足を進めていく。
嫌々ではあるが彼女にもやり遂げたい事がある、願いという果実を得る為に。
格納庫に着けば紅蓮は鎮座状態でメンテナンスを受けている。
ただ、コックピットのハッチが帰艦してから一度も開かれない事を除いて―――
「なぁに、あんたが来たの?」
「ゼロの代理だ。おい、早くハッチを開けろ」
紅蓮のパイロットであるカレンに向けて彼女は告げたが無音のまま。
その反応に彼女は苛立ちより呆れが込み上げてきたが、今は楽観視できる状況ではないのも理解している。
紅蓮へと近づきタラップを上りコックピットの近くまで行って彼女は言葉を続けた。
「実力で負けたとでも思っているのか? だとしたら愚かだな、お前は自分に負けたんだよ」
「……どういう意味よ、それ?」
「なんだ、反応する気力はあったのか。だったらさっさと降りてメディカルチェックを受けろ」
「待ちなさいよ!」
カレンが反応するのを見るや彼女は紅蓮から離れようとしたがハッチを開いたカレンは彼女を呼び止めた。
だが、振り返りもせずただ足を止めて彼女はそのままの意味だとだけ告げて再度足を進めていく。
77:ぷにぷに ◆/uQUf4aJ4k
09/02/05 15:00:12 Sdmm5dEH
「お前が負けたのはあいつの言葉とお前の慢心だ、実力ではない」
「なによそれ……ふざけてるの!」
「ふざける? ふざけているのはどっちだ、お前はライに忠告されたんだろう? 戦闘での悪癖を」
「だから……どうだって言うのよ……」
「それに反発するから負ける。忠告通りにしていれば拮抗できたのに、だ」
ガウェインでの戦闘経験、ライとカレンの蓬莱島での模擬戦、カレンの性格。
それ等を知る彼女から見てあの一戦は明らかに怒りと対抗心で戦っていたと見えていた。
それはカレンも自覚している、だからこそ認められない。
ライがブリタニア側にいる事を、その人間の忠告を。
「お前は親衛隊隊長でありゼロだ、拘りや一時の感情で無駄な行動をするな」
「でも……だからって……」
「認めろ、今のあいつは敵だ。だが、今までのあいつを否定する必要は無い」
「嘘をついてた人間の忠告を信用しろって言う気?」
「自分が信じたいものを信じろとしか言えんな、大体私はあいつで―――」
『各団員に通達! 星刻率いる部隊が中華連邦から砲撃を受けている模様! 繰り返す―――』
この行動に団員達は驚愕したが、ルルーシュは一抹の勝機がある道を見出していく。
事前策、そして自身を活かすKMF蜃気楼の出番を。
「星刻、十分な働きであったぞ。後はこちらに任せるが良い、強力な戦力が援軍に来てくれたからのう」
「愚かな……この中華連邦内でブリタニアの武力を正式に使わせる気か!」
星刻は大宦官の行動に憤慨するしかなかった。
ライの武力介入は僅か、そして個人的な貸し借りにおいての支援であり国としてではない。
それがあるからこそ認めた介入だったのだが、この状況での支援は完全に采配のミスである。
アヴァロンがいるという事、それは指揮官がシュナイゼルだという証明だ。
ブリタニアが今の今まで手を焼いていたEUをその手腕で奪い取っていった男。
(わかっているのか大宦官共! 相手は第二皇子のシュナイゼルだぞ!)
星刻の危惧、しかしそれはルルーシュにとって好機の一つでもあった。
「ふっ……これならば。ディートハルト、回線の準備はどうなっている?」
「もう暫くお待ちを」
「KMFは前面に展開、状況に応じて応戦。これでいいのか、ゼロ?」
「上々だぞ、扇。星刻諸共始末する気だろうが、そう簡単には幕を降ろさせん。紅蓮は?」
『カレンちゃんが口喧嘩中で駄目ね~』
「早くしろ、舞台は完成しつ―――」
「前方より高速せっ―――」
オペレーターが攻撃を報せようとするが、発射から着弾までの速さが尋常ではなかった。
輻射障壁を突破し斑鳩上部を突き抜け天帝八十八陵を貫通した威力に団員達は無言になるしかない。
(ちっ……この攻撃はライのか? 厄介だな、これは)
アヴァロンの隣、高速強襲型のカタパルトにいるクラブの狙撃形態を斑鳩の望遠カメラは確実に捉える。
青き騎士の戦慄を明確に伝える様に―――
「ホイール圧正常、バレル異常なし。どう、問題は無かったライ君?」
「特には。ただ、発射時の射線ぶれが少し気になります」
高速強襲型のカタパルトではクラブがユニットの展開をして狙撃形態をとっていた。
ただ、先程とは些か違う部分が多い。
一つ目にカタパルトからの直接射撃だ、通常は地上から発射してランドスピナーで反動を殺すか狙撃姿勢の二択しかない。
その理由としてはフロートの調整が済んでいない為に飛翔状態では反動を殺せず撃てないからだ。
その反動を殺すのに必要なフロートエネルギーを測定する為に今回はカタパルトを利用している。
次に外部接続をして戦艦のエネルギーを利用する事、その為に外付けの更に大型のバレルと姿勢制御のパーツがユニットに装着されている。
これは超長距離と高威力を得る為のシステム、勿論艦上からの狙撃と砲撃支援を前提としたものだ。
「でも概ね問題は無いですね、ショートバレルへの換装をお願いします」
「一発でいいのかい?」
「示威行為としては十分だと思いますけど?」
78:ぷにぷに ◆/uQUf4aJ4k
09/02/05 15:01:45 Sdmm5dEH
ライはロイド達を応対しながら眼下に広がる戦火を見ていた。
星刻は見捨てられたのだろうか、味方からの砲撃を受けている。
それを見届ける中、彼にとっては意外な人物が連絡をしてきた。
「正式な要請が出されたよ」
「シュナイゼル殿下……では、出撃をするべきですか?」
「そうだね。それから前線の指揮は君に一任するよ、栄えあるラウンズの新しい騎士である君にね」
(余計な事を……)
シュナイゼルの心中、その真意を読めないライだが反対する理由もない。
不安材料も多い、しかし自分が前線に出ればという考えもまた彼にはある。
「イエス、ユアハイネス。指揮権の委譲を受諾します、ウォードの指揮はエルンスト卿に」
「了解した。全機体、指示があるまでは艦内で待機しておけ」
「最初は三人で出ます、ノネットさんは―――」
「私は星刻の相手をする、藤堂にも手は出すなよ? ああ、それから紅蓮が出てきたら私が相手をするからなー!」
「はあ……わかりましたよ。出撃後は各個遊撃で交戦、ヴィレッタ卿には僕達の援護をお願いします」
高速強襲型の上部ではKMF用のカタパルトが三つ、徐々に展開していく。
KMFの運用を前提とした航空戦艦、その真価の片鱗を表すように。
「発艦フェイズのプリセット、ロード。各機、出撃体勢へ!」
セシルの号令と共に各々の機体が構えを取る。
スプリンターがスタートの合図を待つように、猛獣が檻が開くのを待つように。
深く静かに前だけを見据えて―――
「進路クリア、全機発艦!」
『発艦っ!』
カタパルトレールから火花を散らして円卓に名を連ねる三人が空を舞う、その光景に星刻は焦りと不安を抱く。
同時にそれを見ていた団員達にも動揺が走る、それは格納庫にいるカレン達も同じだった。
「どうするんだ? ライも出撃したみたいだぞ、斑鳩もこのままでは危険だな」
「わかってるわよ……」
「だったらさっさとチェックを受けろ、私も暁で出る」
「……さっきからなんでそう平然としてんよ!? あんただって信用してたじゃない!」
カレンの大声が格納庫に響いたが、それに反応して俯く団員達が多数だった。
なぜ裏切ったのだろうと、だがC.C.とラクシャータはそうでもない。
ラクシャータは一抹の不安、ライを失う可能性を考慮していた。
対するC.C.も今更な結果をただ受け止めているだけ。
それ以外の団員達は考えられずにはいられない、裏切りという代価と意味を。
そして立ち止まる事ができないC.C.にはカレンを慰める暇はない。
その為に自分用の暁のチェックを止めて彼女へと振り向き鋭利な言葉で心を突いた。
「だからなんだ? 喚いても結果は変わらんぞ」
「これじゃトウキョウ租界の二の舞―――」
「そうさせない為にも今は戦うべきではないのか。お前は誰を信じているんだ? ゼロか? ライか?」
「そ、それは……」
「少なくともあの二人は自分を、己の決断を信じているぞ。その結末がどうなろうともな」
信じるべきものが揺らいだ時。なにを信じるのか、なにを信じればいいのか。
象徴か、それとも信念か、勿論違うものを信じている者もいる。
爆撃を受ける天帝八十八陵を守ろうとする黎星刻、彼は己の約束を信じている。
「貴様等、天子様を―――」
天帝八十八陵に今の天子を埋葬するという決断。
オデュッセウスとの釣り合いの取れる天子の手配。
既に国すらも傀儡としようとする大宦官の欲による暴挙を止めるべく、彼は黒の騎士団から反転して止めようとする。
だが、それを阻むのは奇しくもブリタニアの騎士だ。
「やはり始末されるか、欲深い人間の相手は大変そうだな」
「くっ、ノネット・エニアグラムか! これは我が国の問題だぞ、それにブリタニアが正式に介入するのか!」
「言っただろう、私の与り知らぬところだと。それに今の国の代表は一応あちらだ!」
79:ぷにぷに ◆/uQUf4aJ4k
09/02/05 15:03:09 Sdmm5dEH
斧の刃と槍の刃の部分を併せ持つ戦斧と呼ばれる武器、それがノネットの獲物だった。
その斧刃の部分での攻撃を星刻は刀で咄嗟に受け止めたが、刃を引きながら下段からの柄の部分の攻撃で機体を仰け反らせてしまう。
崩れた姿勢を整えて再度眼前を見据えた時、空中に慄然として立ち阻む三機のKMFに冷や汗を流して現状を受け止める。
「ははっ、いい性能と腕だな。あの紅蓮を捕縛するだけはあるという事か」
「僕は下にいます、エルンスト卿は御自由に」
「また尻拭いか……」
「こらっ、そういう言い方をするな!」
「ライ卿、援護は?」
「必要ないでしょう、鋼髏(ガン・ルゥ)だけなら問題はありませんよ」
グロースターをクラブとヴィンセントが確立した技術で改修されたKMFを駆るのはノネット。
ベーシックはそのままだが肩部からはショルダーアーマーが追加されたMVハルバートを使用する白兵戦重視型。
ドロテアはヴィンセントをベースにしているが主機関の高出力に合わせて各部が少々大型化されている。
それでもサイズは通常のKMFのままで武装は収納式の手甲とスラッシュハーケン、そして小型の機銃のみの完全近接型。
どちらも中身は第七世代基準の技術を使用したカテゴリー第八世代相当のKMFである。
(手強いな……しかし、ここで退くわけにはいかん!)
ライが自分から離れる行為にも不安はある、鋼髏では止められない事も承知の上だ。
しかし三機を自分では止められないならば今は戦力を分散させるしかない。
だからこその疑問、なぜ三機で攻勢に出なかったのかと―――
「射程は厄介だが、この位置取りでは活かせないだろう」
「き、きたぞー!」
「この鋼髏の機動力を舐めアッー!」
降下直後からMVSブレスタイプを同時抜刀、そのままランドスピナーで突進してくるクラブに星刻の部隊は恐慌状態になる。
その二刀が織り成す剣技は固定キャノンの弾を切り裂き、時には弾き、その前進を止める術として機能しない。
MVSブレスタイプの斬撃から数テンポ遅れて脱出ブロックが次々と飛び交う爆炎を背にする鋼鉄の蒼き騎士。
(なるほど……確かにあの双剣は見事だ、閃光の様に迷いなく一閃してはいるが―――)
ドロテアはクラブの二刀が繰り出していた猛撃を冷静に見つめ、そしてある答えを導き出していた。
躊躇はない、敵意は十分、ただ殺気が足りないと。
(バベルタワーの時とは訳が違う、できれば穏便に済ませたいが……)
次々と迫る鋼髏を破壊していきながらライは着実に斑鳩へと近づいていく。
そして有視界で捉えられる位置に辿り着き上空で追従していたドロテアも少し遅れて到着した。
「やはり大した抵抗はでき、ん? レーダーに反応、黒の騎士団か?」
「エルンスト卿、迎撃を。フロートタイプのKMFは恐らくエースです、油断は―――」
「心配は無用だ、それより初陣に花を添える努力をするといい」
「こちらの航空戦力は限られている、ブリタニアの相手だけに執心するな。各機、一騎当千の気構えを持て!」
『承知っ!』
中華連邦の爆撃部隊が迫る中、藤堂は攻めを選んだ。
爆撃までの猶予はある、それならばライ達の撃破を先んじてと。
「機動性ならさ、こっちが上だよ」
「落ちてもらうぞ!」
朝比奈と千葉はドロテアの撃墜を主眼に置いて連携技での攻撃を仕掛ける。
それに対してドロテアは自機の武装を装着させた。
撃鉄音にも似た大きな音を立てて手甲は前腕部に展開される。
千葉機が繰り出してきた正面からの廻転刃刀の一撃もその左手は難なく受け止める。
「余裕のつもりか。しかしこれで動けまい、朝比奈っ!」
「わかってるよ、覚悟っ!」
僅かな隙を見逃さず、朝比奈は追撃を右側から仕掛けるがそれすらも身動ぎ一つなく受け止められる。
「暁二機でも圧しきれんとは!」
「へえ、これは厄介かもね!」
「MVSをも弾く手甲も舐められたものだな。そろそろ頃合か、ウォード隊は全機発艦しろ」
上空から火花が散る中、藤堂はライとの対立を静かにはじめる。
80:ぷにぷに ◆/uQUf4aJ4k
09/02/05 15:04:37 Sdmm5dEH
「君と戦う事になるとはな、俺としては残念ではあるが―――」
「お互い迷う事もないでしょう? 貴方が潔い敗戦より勝利を選んだ様に、僕にも目指す先はあります」
軍人としての責務、奇跡の藤堂としての責任、日本人としての誇り。
それと同じ様な各個たる意思をもっての行動、その言葉を聞いて藤堂は善しとした。
ただ、藤堂が思う事は惜しむらくもその先の為に選んだ国がスザクと同じブリタニアである事だろう。
「そうか。では、その心意気に応えよう。藤堂鏡志朗、罷り通る!」
斬月が対KMF戦闘用日本刀である制動刀を正眼に構えたのに対してクラブは二刀の構えを解いた。
一呼吸、双方が剣先を見据えて。
二呼吸、戦士としての高揚を互いに感じて。
三呼吸、合わせるでもなく二機は同時に滑り出した。
一撃目―――
(正面、これならば!)
(避けられるだろうがそれでも構わん!)
制動刀の突きを機体を捻らせて交わすがライは攻撃の糸口を掴めず機体を流していく。
二撃目―――
(やはり手強い!)
(二段目も読んだのか、しかし!)
空中で交差する事ができずクラブは斬月の二度目の突きを頭部に喰らいそうになるがクラブはライの反応に応えてさらに機体を捻る。
その刹那の中でライは確実に感じていた。忘れていた昂ぶりを、思い出したくもない昂ぶりを。
三撃目―――
「ぐぅ!」
「三段突きを凌いだか、見事だ!」
クラブは斬月の制動刀の突きを全て捌いた。いや、防いだが妥当だろう。
三度目の段階でもライは攻勢には出ず防御に徹するしか他はなかった。
その為ブレイズルミナスで受け止める形になり互いに膠着状態へと縺れ込んだのだが―――
斑鳩の艦前へと少しずつ近づきながらノネットは神虎を後退させていく。
普段の星刻ならば勝敗を決する段階でどちらに軍配が上がるかは不明瞭だ。
しかし、長時間の交戦と病の負荷で確実に不利になってきている。
(藤堂と交戦しているのか? ドロテアもフォローができんな、紅蓮も出てきたとなると流石に辛いか)
「悪いな、今日はここまで十分だ」
「ぐぅ……なにを考えている、貴様ならばここで私の始末もできるだろう?」
「そうなんだがな、手負いの人間を倒しても面白くはないだろ」
「どこまでも自分に興ずるつもりか?」
「そうでもしていないとできんだろう」
その先の言葉、それは膝蹴りで掻き消され神虎はまたしても体勢を崩してしまう。
だが、彼の耳にその続きがはっきりと聞こえていた。
世界と戦うのは、と。
その言葉に星刻はブリタニアにもまた悩む戦士はいるのだと知った。
国か、民か、誇りか、それとも―――
崩された体勢を立て直し斑鳩を見据え自分の戦う理由はそこにあるのだと彼は考える。
その想いは彼を戦場へと舞い戻らせていく。
「ほらほら邪魔をするな、こっちはまだ元気だぞ!」
「大尉、後退を!」
「わかっておる!」
ノネットのKMFが高速接近するのに即座に呼応して卜部と仙波が応戦しようとする。
だが、この二人も連戦の消耗が激しくハーケンスラッシュの攻撃に防戦になりノネットの突破を許してしまう。
その先、メディカルチェックを受けたカレンが駆る紅蓮がクラブへと狙いを定めていた。
(藤堂さんが抑えてる今なら……)
膠着状態のクラブと斬月、今なら掛け値なしでライを撃破できる。
だが迷い、不安、躊躇、様々な感情の波の中でカレンは攻撃を仕掛けられずにいた。