08/12/13 21:51:47 F7/9O6My
“くもったレンズの向こう側”
眼鏡をしないと世界がぼやけてしまう。ピントが合わず、曖昧とした輪郭に途方もない距離感を感じる。
眼鏡をすればハッキリ見える。世界が、はにかんだ彼女が、彼女の瞳に映る私が。
「なあ、眼鏡って邪魔やろ？」
ベッドに腰を掛けていた彼女はメンソールのタバコに火を着けた。
「邪魔じゃない。眼鏡がないとなんにも見えないし」
ふーん、と曖昧な返事を返す彼女に灰皿を渡して、隣に座る。
「コンタクトにはせえへんの？」
「コンタクトって怖いじゃん。目に入れるんだよ？」
「でもなぁ、なんか邪魔や。キスする時にうっとおしくてかなわんわ」
どうせキスする時は目ぇ瞑るやろ、と彼女は付け足して、私にタバコの煙を吹き掛けた。
吐息混じりの煙は私の眼鏡を曇らせて、視界を白く閉ざす。
「ちょっと止めてよ。見えないじゃん」
あんたの顔が、と付け足そうとするけど、タバコの煙に咳き込んでしまう。
トントンと灰を落とす音がした。
「ウチなぁ、眼鏡してるアンタも好きやけど、眼鏡外したアンタはもっと好きやねん」
顔が熱く火照る。多分、耳まで真っ赤になっているだろう。
顔を隠す為に手で覆うけど、無防備な脇腹を撫でられ、ヒイッと悲鳴をあげて身体を強張らせてしまう。
「隙ありや。だから眼鏡もないないしような」
悪戯っぽい物言いで眼鏡を奪われしまい、私の世界の輪郭がぼやけて曖昧な物になる。
「返してよ！ マジで見えないんだから！」
「嫌や」
太ももに柔らかい感触。指で撫でられている。撫で方は優しいのだけれど、何だかもどかしい。
見えないせいなのか、感覚が敏感になっているような気がする。
ん、と吐息を漏らすと、彼女の息をうなじに感じる。
それだけじゃない。
彼女が身体を密着させてくる。温かい彼女の体温、汗ばんだ彼女の匂い。彼女の全てが私を包みこむ。
怖いけど怖くなくて、恥ずかしいけど嬉しい。だけど身体は緊張してしまいガチガチと重くなる。
「やっぱかわええなぁ、アンタ。おぼこさんみたいや」
「なっ……！ アンタねぇ、人で遊ばないっ！」
固まった私の身体をほぐすように、彼女の指が私の身体を這い回り、指使いが段々と荒くなっていく。
曇ったレンズの向こう側のぼやけた世界。リアルに感じるのは彼女だけ。
了。つーか以下自己規制。