他に行き場所の無い作品を投稿するスレat MITEMITE
他に行き場所の無い作品を投稿するスレ - 暇つぶし2ch65:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/14 01:25:38 9KV8nj2w
もはや逃げ道は無い。
尖塔立ち並ぶヴィヴォラの街の暗黒はさすらう私に向かって絶望を語る。
夜霧のヴェールを通して甲高い足音が響き渡り、この私の居場所に徐々に近づいてくる。
彼らだ。彼らが追いすがってきたのだ。
私は走った。石畳が敷かれた迷路のような路地を駆け抜けていった。
時折街頭で仄かな明かりを放つランタンのみが、このヴィヴォラの街が廃墟でない事を物語る。
月明かりも届かない高い赤壁の間を縫うように私は走った。

夜の翼の羽ばたく音がする。
それは来るべき運命を宣告する魔の使いだ。
かつて英知を極め、煌めく繁栄の中で青春を謳歌した私も、今は老い、貧しく、そして追われる身だ。
誰の助けのない、暗黒の中で。何処へ行く当てもない、入り組む路地の中で。
霧は益々深まり、闇の濃度が濃くなった。
それは眠りへの誘いだ。
しかしその睡魔こそが、私の全ての運命を断ち切る斧なのだ。
私が今ここで眠ることは許されない。
あの禁忌を破ったあのときから、私は起き続けている。
それは私への罰だ。

私は立ち止まった。
肺が破裂しそうに辛いが、それすらも私に永遠の平安をもたらさないのだ。
ふと目を上げると、目の前の商店の暗い窓に幽鬼のような一人の男の姿が映る。
むろんそれは私だ。
仄暗い闇の中で浮かび上がる落ち窪んだ目は濁りきって希望の欠片も見当たらない。
頬の肉は削げ、まるでアヘンの末期中毒患者のようだ。
血の通わぬ青白い肌に、粘っこく生温い汗が伝う。

足音はさらに近づく。
今夜も私は逃げ切れるだろうか?
この先に、私が平安を得られる時が訪れるのだろうか?
また再び朝日を見上げ、紺碧の空を見上げることができるのであろうか?
だが私は今夜も逃げ続けなければならないのだ。
希望なき未来に向かって、延々と許されないままに。

  (中略)

その涙はいつしか川となり、氾濫して人や町を飲み込みながら猛威をふるった。
人々は恐怖に怯え、泣き叫びながら逃げ惑う。
これは神の罰なのであろうか。
それとも神の下した慈悲なのであろうか?
その神に祈りを捧げる者たちも、巨大な瀑布は無情に飲み込んでゆく。
人類の築いた文明も英知も、人々が交わした言葉も、人々が抱いた喜びも、悲しみも何もかもが飲み込まれてゆく。
全ての大地が涙に覆われ、全ての生きとし生けるものたちが涙に押し潰された。
溢れかえる怒涛の中で全ての輝きは失われ、形ある物全てが崩れ去ってゆく。

全ては終わった。
もはや誰も残っていない。
天空に輝く無数の星たちの輝きは、まるで何事も無かったかのように煌々と輝き、涙の海を見下ろす。

最早ない。
最早これまで。
何もかもを失い、何もかもを失くした私はさらに泣いた。
自らが行ってしまった罪の恐ろしさを思い泣いた。
自らが滅ぼしてしまった子供達を思って泣き叫んだ。

今日も全ての罪も穢れも流し去ったガイアは、無限の漆黒の中で青く澄んだ輝きを放つ。
永遠に逃れることのできないメビウスの輪環の中に囚われながら。
たった一人、誰とも言葉を交わすことなく。


次ページ
続きを表示
1を表示
最新レス表示
レスジャンプ
類似スレ一覧
スレッドの検索
話題のニュース
おまかせリスト
オプション
しおりを挟む
スレッドに書込
スレッドの一覧
暇つぶし2ch