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他に行き場所の無い作品を投稿するスレ - 暇つぶし2ch430:創る名無しに見る名無し
09/03/04 01:42:39 JH5abb94
再び昭和20年、太平洋側にある千葉香取海軍航空基地。
県内内陸部にある藤ヶ谷陸軍航空基地に設置された、弾道ミサイル設備の破壊任務から戻ってきた航空自衛隊機、
共に任務を遂行した日本海軍機及び米海兵隊機、そして藤ヶ谷から一時的に避難してきた陸軍機と
基地所属機体に加えて様々な航空機で入り混じり、香取はカオスな賑わいを見せていた。

しばらくして、新司偵こと百式司令部偵察機と零戦こと零式艦上戦闘機を載せた
海上自衛隊の哨戒機P3-Cオライオンが戻ってくる。

新司偵「藤ヶ谷の様子をくまなく見てきたが、元通りの状態に戻っていて、特に問題はなさそうだ。ただ…」
隼   「…ただ?」
P-3C 「かの陸戦が立てこもっていたと思しき格納庫の箇所だけは原型をとどめないほど破壊され、
     機体はおろか部品の残骸すら、発見する事は出来ませんでした」
疾風 「そうか…あいつ自分のいた痕跡すら残さず消し去ったんだな」
キ45 「全く、最後の最後まで騒がせやがって…結局俺は、兄として何一つ力になってやれなかった」

「私は…」
それまで陸軍偵察機と戦闘機たちのやり取りを聞いていたのか、海軍夜間戦闘機・月光が不意に口を開く。
一連の騒ぎの張本人であり、弾道ミサイルを未来から持ち出して基地に立て籠もっていた二式複座戦闘機・屠龍、
陸海という組織の枠を越え、彼と親しかった月光は基地を元通りするよう、必死の説得にあたっていた。
その結果、藤ヶ谷基地は開放されるものの屠龍は自らの命を絶ったのである。

月光 「かつて子供たちが私にそうしてくれた様に、屠龍を過ちから目覚めさせ、救えるのは自分にしかできないと思っていた。
    でもそれは単なる思い込みで、結局彼を救うどころか死なせてしまった。私と関わったばかりに、
    私のせいでどれほどの機体が犠牲に…」
零戦 「それは違うな。大体恨みを残して死んでいった者が、あんな安らかな表情をするか?」
自責の念に捕らわれる月光を零戦は軽く窘める。
月光 「え…どうしてそれを?」
零戦 「ああ、未来の指導者に伝える必要があると判断したからな。すまんが格納庫の跡地で起こっていただろう
    それまでの出来事を、勝手に"視"させて貰った」
紫電改「ぷぷっ、レイ(零)戦だけにレイ(霊)視ですか…あだっ!殴ったね!姉貴たちにもぶたれたことあるけど」
零戦 「そもそもこれまでの経緯を考えても、奴が未来からの武器を持ち込んで基地に籠城してから、こちら側が反撃に
    打って出るまでにそれなりの時間があった。その間攻撃を受けたのは硫黄島だけだったが、その気になれば他もいくらでも
    攻撃出来たはずだ。或いはここに取り残された小園司令を人質にして、海軍に対し無茶な要求を突きつける事だってな。
    だが現実はそうならなかった、何故か?」
紫電改「…坊やだからさ」
零戦 「やかましい(殴)!雷電、あとで奢るからこいつが余計なこと喋らんように抑えつけとけ」
雷電 「ほい来た♪悪く思うなよ」
紫電改「むぎゅうぅ~」
P-3C 「何故そうしなかったのか…それは再び貴女が来てくれることを、心のどこかで待ち望んでいたからではないでしょうか?」

431:創る名無しに見る名無し
09/03/04 01:45:44 JH5abb94
零戦 「奴は特殊能力を使い過ぎて機体の寿命を縮めたと言っていただろう?取り返しのつかない事をしているという自覚は
    あるにはあって、しかし最早引っ込みがつかない状態だったに違いない。完全に動かなくなる前に、最も親しかった者に
    一目会いたい、ごく自然な心理ではないか。このまま再会出来なければ、切り札として取っておいた武器でこの国もろとも
    道連れに自爆していた可能性だってある。しかし実際月光は彼の元へと向かった。命がけで説得に来てくれた友に対して
    感謝こそすれ、恨みを持つなど筋違いではないのか?だからこそ自らの非を認め、基地を無血で解放した上で
    自決の道を選んだ。命を助ける事は叶わなかったものの、魂は十分に救われている、そう思うのだが違うか?」
月光 「私には分かりません…本当に、仰る通りなのでしょうか?」
P-3C 「今はそう信じるより他ありません。貴女自身立て続けに大切な人を失い、その悲しみは計り知れないものでしょう。
    しかし、貴女を慕う者たちはまだまだ沢山いるはずです…どうか彼等の言葉にも耳を傾けて下さい。
    きっと力になって支えてくれますよ」
天山 「俺がもしその立場だったら、正に零戦の言った通りだろうな…あの野郎の気持ち、今なら少しだけ分からんでもないぜ」
零戦 「とにかく、これまで重大な任務ご苦労だった。後一つ残っているが…そう、藤ヶ谷に軟禁されていた小園航空司令を
    厚木基地まで送り届けたら、そのままゆっくり休んでくれ。念の為天山にも同行して貰おう」

零戦の言葉に従い、小園司令を乗せた月光は艦上攻撃機・天山と共に神奈川厚木基地へと飛び立っていった。
基地で出迎えた部下たちは、藤ヶ谷で司令が月光に前代未聞の改造を施し、未来の戦闘機を破ったという風の噂を聞きつけ、
こぞってノウハウの伝授を乞うたが、彼は向こうでの記憶がほとんどないと頑として一点張りで、固く口を閉ざしたという。


偵察隊の報告を受け、藤ヶ谷に戻っても問題ないと判断した陸軍機たちは帰り支度を始める。
隼    「色々世話になった。かの夜戦にも宜しく伝えてくれ、余り気を落とすなと」
五式戦 「また何かあったらご一報下さい。できる限り我々も協力致しましょう」
零戦   「了解した。そちらも達者で…」
XFV-14B「あ、ちょっと待ってくれ」
隼    「…何か?」
XFV-14B「さっきは、身の危険も省みず駆けつけてくれて有り難うよ。あんた達のお陰で余計な戦闘をせずに済んだ」
隼    「礼には及ばん。当然の事をしたまで…それでは(敬礼)」
同じく敬礼を返す零戦及びスーパー・ゼロことXFV-14B。
紫電改 「全く、うちのリーダーも陸さんみたいに誠実で勤勉だったらどんなにか…ぐえぇ~」
悪態をついた瞬間、かのリーダーにそそのかされた局地戦闘機・雷電のボディアタックが見事に決まった。


一方、空自機たちはというと、任務は成功したもののこの戦いでF-1支援戦闘機を失っていた。
先に派遣されたF-2支援戦闘機及びネオ・ゼロことFXS-90は既に戦線から脱落しており、自衛隊側には手痛い損失である。
今ここ香取では戦いに殉じた後、硝子玉と化したF-1の魂をT-2高等練習機が手にしていた。

T-2 「それでは今回の戦果をイーグル様に報告すると共に、この魂を間違いなく平成世界へと送り届けて参ります。
    向こうに残った展示機体が再び空を舞う事はありますまいが、弟が自らの命を賭して成し遂げた事は、
    この時代の兵器の方々がそうしてきたのと同様に、私たちの間でいつまでも語り継がれていく事でしょう
    …いえ、語り継がねばなりません」
F-4 「ああ、頼んだ…とうとう空自戦闘機も俺だけになってしまったか…」
唯一残ったファントムことF-4EJ戦闘機は、深いため息をついた。

432:創る名無しに見る名無し
09/03/04 01:48:51 JH5abb94
そしてこれら一部始終を見守っていた米海兵隊機たちは…
F/A-18E「どうやら日本国内もようやく落ち着いてきたみたいだな、そろそろ俺たちも帰投するか」
XFV-14B「すまんが先に戻っててくれないか?俺はこの日の丸ペイントを元に塗り替えるついでに、
      こいつらと今後の方針についてちょっと話がしたいから」
A-4E   「次の任務まで余り間がないから、適当なところで切り上げろよ」
XFV-14B「ああ…分かってる」
次の任務に向けて、A-4E、F/A-18Eスーパーホーネット、そしてAV-8BハリアーIIは母艦へと戻っていった。


「それで、流出した残りの弾道ミサイルなんだが…」
日本国内での衝突を避けるため機体に施していた日の丸マークを、元の星の模様に塗り替えながら、
XFV-14Bは自衛隊機及び零戦たち海軍戦闘機と打ち合わせをする。
XFV-14B「後二カ所に分散していて一つがハワイ島、これは今米海軍第七艦隊が総出で向かっている。そしてもう一つが…」
F-4   「海自の護衛艦と哨戒ヘリが探索中の東アジア方面だったな。確か」
XFV-14B「そう、平たく言えば朝鮮半島にあるんだが…厄介な事に我々と同時代のサウスコリアン連中がやって来て、
      ミサイルを奪っていったらしい。歴史を改変してやると息巻いてな」
F-4   「よりによって一番関わりたくない相手が…何という事だorz」
XFV-14B「祖国の早期独立、朝鮮戦争回避、南北の分断を無かった物にするとか…どんな改変をしたいのか大体の想像はつくな。
      最初は海軍だけだったのが空軍もその話に乗り出してな。そうなると海自勢力だけで対抗するのはきついだろうから、
      俺たちも乗り込んで一気に片を付けようって訳だ」
F-4   「成る程。では我が空自側からも参戦させて貰おう」
XFV-14B「断る」
F-4   「何故…!?本来なら我々が処理しなければならない問題なのに、藤ヶ谷での恩も返したい。
      数が多ければ多いほど有利ではないか?」
XFV-14B「万が一ミサイルが本土に飛来した時は?そのための防空という重大な任務があるだろうが。
      空自で戦闘能力を持つ機体はあんた位しか残ってないんだろ?恩返しをしたいならそっちを全うしてくれ」
F-4   「くっ、その通りだ…不甲斐ない話だが」

XFV-14B「それはそうと、ミサイルの件でどうも気になる点が一つあるんだ」
F-4   「何、どういう点が?」
XFV-14B「各地に分散している位置だが…まず持ち出した陸軍戦闘機の国内の所属基地、これは納得がいく。
      そして朝鮮半島もこの世界では日本の統治下とされているから良しとする。
      問題は三つ目のハワイ…何故これだけ二つとは離れた場所にある?」
F-4   「それは…」
XFV-14B「ハワイでまっ先に思いつくのが、開戦のきっかけとなったパールハーバー(真珠湾)への奇襲だが、
      ジャップの攻撃はそれきりじゃないか。海外の拠点に設置したつもりなら、
      もっと重要な土地が他にあるはずだ、ましてや陸軍という立場で考えたら」
零戦   「確かに…言われてみれば」
XFV-14B「奴の特殊能力による転送先がたまたまそこだったと、一言で片づけるにはどうも腑に落ちなくてな
      …逆にアメリカ側の立場から考えたら、パールハーバーはそこでやられた屈辱を倍返しとか、
      ジャップ憎しの代名詞になってる訳だ。この前のイオージマ基地への攻撃がきっかけで、米国内の世論が
      停戦派と徹底抗戦派に真っ二つに分かれて、当然ハワイは後者だが、そこに直接日本を狙い撃ちできる
      弾道ミサイルが発見されたりして、とにかく現地は想像以上に緊迫した情勢だと、第七艦隊の連中もこぼしてた」
紫電改 「ふ~ん。歴史改変の危険性は日本だけじゃなくてアメさんもなんだ」

433:創る名無しに見る名無し
09/03/04 01:50:24 2bBfqAAn


434:創る名無しに見る名無し
09/03/04 01:51:14 JH5abb94
XFV-14B「たった一発のミサイルで、歴史とんでもない方向に行こうとしている。俺は改変の怖さを改めて思い知ったぜ。
      そんな訳で、少ない知恵で俺なりの仮説を立ててみたんだ。ハワイにあるミサイルが、
      日本と朝鮮半島方面にあるものとは別のルートから流出したとすれば…」

その時、XFV-14Bの元に思いもよらぬ通信が入る。
F/A-18E≪こちらホーネット、スーパー・ゼロに告ぐ。我々の部隊が…"猛禽″によって壊滅寸前に追い込まれている…≫
XFV-14B「なっ……!それはどういう事だ一体!」
F/A-18E≪母艦のいる海域に向かったら、奴の手によって船が沈められていた…無論、中にいた連中はもろとも海の底だ。
      辛うじて上がっていた者たちで反撃を試みたが…全く歯が立たない。俺もいつまでこうしていられるか分からない、
      落とされるのも時間の問題だろう…この世界に派遣された海兵隊とそれに協力した連中を、奴は残らず皆殺しにする
      つもりだ…次は間違いなくお前が狙われる…命が惜しければ、今すぐ奴の目の届かない、できる限り遠くまで逃げ…
      アムラーム(中距離空対空ミサイル)がこちらに向かってくる……駄目だ、もう避けきれない…!!≫
XFV-14B「どうした!応答せよ!!ライノ………そんな…」
がっくりと肩を落とすXFV-14B。通信はそこで途絶え、雑音しか聞こえなくなった。


ちょうど時を同じくして、香取基地からも騒然とした空気が流れ始める。
紫電改 「急に騒がしくなったけど、一体どうしたんだい?」
流星  「どうしたもこうしたも…さっき彩雲から連絡があって、館山がやられたって」
雷電  「やられた?B公の仕業か?」
彗星  「それが、直前まで爆撃機は見当たらなかったのに、いきなり火の手が上がったとか…」
紫電改 「何だそれ?空襲じゃなくて内部からの火…?」
流星  「でも、基地の他に湾内の艦船も被害を受けたらしいんだ。火事だったらそんなにならないだろ?
     やっぱり敵に襲われたのは確かなんだよ。ここもいつそうなるか…くわばらくわばら」
零戦  「心配するな、香取には強力な守護神がついてるからそう簡単にやられはせんよ。
     それはさておき、これはただ事ではなさそうだから早速館山の様子を見に行こう」
XFV-14B「館山には確か…俺も連れてってくれ!」



以上で今回の投下は終了です。
登場する航空機の数が半端ではないので、こちらをご参照下さい。

日本製航空機の一覧
URLリンク(ja.wikipedia.org)
尚、XFV-14Bは架空の兵器で詳細はこちら、米軍機も併せてご参照願います。
スーパー・ゼロ(XFV-14B)
URLリンク(ja.wikipedia.org)

他にも気になる点がありましたら、ご指摘いただければ幸いです。

435:創る名無しに見る名無し
09/03/04 10:49:16 UNKERSdR
紫電改って航空機なんだ
↑こんなレベルっす><

436:創る名無しに見る名無し
09/03/04 12:06:31 IvoYJlcd
戦闘機はわからんけど機関車トーマスみたいのイメージしたらちょっと萌えた

437:創る名無しに見る名無し
09/03/05 01:13:03 axU8AQrd
なんというカオスなSSwww
一応こういうスレもあるので、よかったらどうぞ
【軍事】ミリタリー系創作スレ【兵器】
スレリンク(mitemite板)

438:406=429
09/03/05 08:21:55 cnQDKLZr
レス下さった方どうもです。

上記のスレは移転先候補の一つに上がっていたのですが、
過去と現在の武器が一緒くたになってる以前に
実際のカタログスペックやリアリティを無視した何でもありの内容ですので、
真面目な軍記物と並べると違和感有りすぎるかなと思いました。
同様に台詞系SSや擬人化総合スレでも浮いてしまうだろうという理由で、
最終的にこちらを投下場所として選びました。
単独スレを立てようかと悩んでもいるのですが、それにしても長さが足りませんので…

ちなみに軍事板の現行スレはこちらになりますので参考まで。
スレリンク(army板)

439:創る名無しに見る名無し
09/03/05 08:22:48 uLzICbD0
>>437
元のスレがネタスレで、そこから派生した長編ネタという経緯もあって、
そっちに投下するにはカオス過ぎるので自重といった感じでして…

440:創る名無しに見る名無し
09/03/05 08:24:20 uLzICbD0
うわ、被った

441:創る名無しに見る名無し
09/03/08 01:36:22 t/BAbGlm
現代のアンパンマン達に捧げる散文詩
URLリンク(www6.uploader.jp)

442:創る名無しに見る名無し
09/03/08 01:45:41 JsIRTmbx
なんでzipなのかと思ったら画像化してあるのか
文章のみみたいだしそのまま投下でもよかったんでない

443:創る名無しに見る名無し
09/03/08 03:44:06 7U3gS8Lu
トントントントントン
軽快なリズムで蕎麦を切る。
しかしよく手元を見ると完全に指まで切ってしまっていた。
肘から先が何枚もの薄ぺらいMRI画像みたいになってしまった。
しかしあまりに切れ味がよかったせいか血は出ていない。
ばらばらにならないように上手く揃えたら、やがて血が通って元通りに繋がった。
大将に蕎麦を出す。
「……うむ。おめぇも上手くなったな。暖簾分け、考えてやってもいいぜ」
「やった、ありがとう大将。しかし僕さっき指切って繋がったから蕎麦屋辞めます」
「なんですと!?」
「辞めます。10年間ありがとうございました大将」
僕は蕎麦屋を辞めた。
うどん屋に再就職して15年。
僕はうどん打ちをやっていた。
蕎麦アレルギーでアナフィラキシーショックを起こさなくても済むから、僕には天職かもしれなかった。
粒子にまで砕挽された粉状の何かを捏ねる。
麺棒で延ばす。
と、気がつくと僕がうどんの生地に打たれていた。
「麺の気持ち考えたことあんのか貴様」
麺の言うとおりだった。僕に麺職人の気概はない。
うどんを店長にだす。
「ほほう、あんたもなかなかの腕になったね。暖簾分けしようか」
「辞めます。僕に麺の気持ちはわかりませぬ」
「はぁ?今更辞めんの??」
僕はうどん屋を辞めた。
蕎麦屋とうどん屋で稼いだ500万の金で大学に通い始めた。
材料化学、流体力学を学んだが、どうも蕎麦やうどんの気持ちを理解するには至らず、素粒子物理を習い始めた。
なんとなく材料を混ぜたら硬くて熱に強いセラミックになったので論文を書いた。
教授によばれた。
「君、この論文スゴいよ。サイエンスに寄稿しよう」
僕は教授になった。
僕は素粒子物理があまりにわけわからないから、
僕のわからないものの代表である麺にたとえて考えた。
「教授、この理論スゴいですね」
僕の超麺理論は何故か超ひも理論と改竄されて流通した。
わからないものをわからないものでたとえて考えたらわかる気がしてきた途端、僕は蕎麦屋を始めた。
アナキラフィシーショックで昏睡になった。
蕎麦屋になったのは、蕎麦が食いたかったからだ。
でも、僕は蕎麦を食えない。
せつないなぁ。

444:創る名無しに見る名無し
09/03/08 03:51:04 JsIRTmbx
なんというカオスww
でも面白いwなんか悔しいw

445:創る名無しに見る名無し
09/03/08 10:06:05 d8WBl3Dw
冒頭の軽快なテンポから一気に引き込まれる文章だね。

446:創る名無しに見る名無し
09/03/08 10:09:25 dAP8C9tN
こりゃあれだよ。
星新一だ。

テイストはそれ以外表現しようが無いな。

447:創る名無しに見る名無し
09/03/08 12:41:56 7U3gS8Lu
頭からっぽにして書いたらそうなりました

448:創る名無しに見る名無し
09/03/08 12:44:04 6NlLGNE2
溶ける魚思い出した

449:創る名無しに見る名無し
09/03/08 13:37:09 K5dh2I0d
あっさりとしていながらなんというカオスw
発想力わけてくれw

450:創る名無しに見る名無し
09/03/08 21:06:08 6NlLGNE2
自分だとようわからんのですよね、こーいうの

喋ってて気がつくのは「とりあえず」「基本的に」「まあ」「なのです」が多い
あと、行頭で「(接続詞)、」ってよく言ってしまう ←この文もそうだけど

小説だと、わざと語法狂わせたりとかよく使ってるかな、気づく範囲で
「喋り言葉を忠実に真似よ」を金科玉条第一条件とする故に、何の文章書いてもこうなるみたいです

451:創る名無しに見る名無し
09/03/08 21:06:57 6NlLGNE2


452:創る名無しに見る名無し
09/03/09 17:08:51 +39KY8x2
カオスなのに不快感を与えないのがすごいな

453:創る名無しに見る名無し
09/03/10 23:15:30 KZRmUeHW
>>442
投稿回数の制限を考えていましたが
ここでは大丈夫だったみたいですね(汗
読み辛い作品を失礼しました。
これに懲りず、創作には挑戦し続けたいと思います。
と言っても、アンパンマン云々は過去に別所で酷評頂いた代物ですが


魔法使いのカエル
URLリンク(www6.uploader.jp)

bmp形式の画像作品となります。
重くなり申し訳ございません。

454:創る名無しに見る名無し
09/03/11 02:45:16 KVBgPPv1
>>453
絵も自作かな?
現代の童話作品という感じで洒落た作りが、いい。

455: ◆LPYVPYS942
09/03/11 03:53:15 u4tZ1E0f
>>434からの続きです。

こんな紫電改は嫌すぎる 最終章・Ⅱ


「こいつはひどい…」
館山基地に到着した一行は、余りの惨状に呆然と立ち尽くす。
滑走路から諸々の施設に至るまで、全てが使い物にならないほど悉く破壊されていた。
基地に配備されていた機体たちについても…同様であった。
その残骸の中から出てきた意外なものは…

紫電改  「何で米軍機が混じってるんだ?鹵獲したのを基地で保管してたのか?」
XFV-14B「そいつは俺の仲間だ。この時代にやってきた際、日本国内の監視役をここに置いて、ついでに任務の長期化に伴い
      部隊の燃料弾薬などの資材もストックさせて倉庫番も兼ねていたんだが…駄目だ、スカイホークは反応がねえ、
      完全に事切れてやがる」
零戦   「おい!こっちの米軍機は微かだがまだエンジン音が聞こえるぞ」
零戦の一声によって、瓦礫の下敷きになっていたのを助け起こされるF/A-18C
XFV-14B「しっかりするんだ、レガシー!一体ここで何があった!」
F/A-18C「………うぅ……ぐふっ…」
しかし瀕死の状態で、会話すらもままならない。
零戦   「喋るのが無理なら心の中で念じるだけで構わん。俺が読み取ってやるから」
F/A-18C(あそこに…あった…格納庫に…空軍戦闘機の…ラプターが…どういう訳だか…閉じ込められて…いたんだ
      …そいつは燃料切れ寸前の上に…記憶喪失に陥っていた……俺たちは…奴に…燃料の…補給をさせて…これまでの
      経緯を…説明していたら…突然奴が…狂ったように暴れ出しやがった……近くににいた…スカイホークは…真っ先に…
      蜂の巣にされた…俺も急いで脱出しようとしたが…間に合わなかった……基地で破壊の限りを尽くした奴は…
      どこかへと去っていった……親切心で…行なった結果が…この有様……だ…)
それだけの事を伝え切ると、A-4Eの後を追うようにF/A-18Cも完全に機能が止まった。
そっと両手(翼)を合わせた後、思念を読み取った零戦はその内容を皆に伝える。

雷電   「ひでえ話だな…恩を仇で返すなんて」
紫電改  「しかしたった一機の戦闘機によって、一つの基地がこんなになるもんかね?」
秋月   「信じられないとは思うが、実際炎上する基地から飛び立つ戦闘機を付近の駆逐艦が目撃しているんだ。
       直後にその駆逐艦、弟の新月はそいつ撃沈されてしまったがな…俺が到着する前に、あいつ無茶しやがって…」
海上で回収した新月の残骸を手にしながら、無念そうに呟く秋月。
XFV-14B「ああ、この基地をぶっ潰したのも俺たちの母艦を襲ったのもあの野郎の仕業に間違いない。位置的にもそう離れてないしな」

456:創る名無しに見る名無し
09/03/11 03:57:45 u4tZ1E0f
「どうしよう…こうなったのも僕のせいだ」
その声に一同が振り向くと、今にも泣き出しそうな表情の震電が背後に佇んでいた。

紫電改  「知っているのか雷電…じゃなかった震電?」
零戦   「件の戦闘機と何らかの関わりがあったと?詳しく話してくれないか」
震電   「…あのね。大分前にここで対空射撃の訓練をしていたら、空から米軍の戦闘機が降ってきて、最初は弾に当たったのかなと
      思ったんだけど、何か別の世界からやって来たみたいで、みんなに見つかると厄介だから、あそこの格納庫に隠したんだ」
紫電改  「見つからない様に隠したって…お前なあ、相手は犬や猫と違うんだぞ!」
震電   「ごめんなさい…でも、悪い人には見えなかったし、何か訳があってここに来たのかなと思って。
      時折燃料を持ってきて様子を見に行ってたけど、次第に僕に対して打ち解けて色々話してくれたよ。
      近い内重大な任務があるからそれまで待機してる様にって…」
紫電改  「燃料の横流しや敵国に機密漏洩とか…さり気なくお前らすごい事やってたんだな」
雷電   「まあ震電の性格からして、自分の燃料から削って出してただろうし、機密と言っても具体的内容は一切口外してない
      みたいだから、その辺は多目に見ようぜ」
紫電改  「それ以前に俺たちの燃料って未来の連中の口に合うのか?」
XFV-14B「多分合わないと思うぜ、カーボンがたまるし」
震電   「そうこうする内に、月光さんと一緒に陸軍に体験入隊する事になったでしょ?出発前にもここに来て、一週間ほど
      留守にするって伝えたら了解してくれた。だけど実際は一週間どころじゃなくて、その後も色々あったし結局今の今まで
      行けずじまいだったんだ。きっといつまで経っても僕が顔を出さなかったから、怒ってこの基地を壊したんだ、
     僕がちゃんと約束を守っていたらこんな事には…うえ~ん」
雷電   「よしよし、分かったからもう泣くな。大体様子を見に来なくなったからと言って腹を立てるなんて、匿われてる身分で
      そりゃないだろ?」
XFV-14B「そうそう、まかり間違えば坊主もそいつに襲われてたかも知れなかったんだぜ。むしろ難を逃れてラッキーだったと思いな」

零戦    「ところでその米軍戦闘機について、何か知ってる事はあるか?」
XFV-14B「…F-22、通称ラプター。現代米空軍が開発した最新鋭の戦闘機で、一応こちらの世界では最強とされている。
       鷲や隼などのどの鳥たちよりも性能が上回る猛禽という意味合いで名付けられた」
紫電改  「世界最強、ねえ…具体的に言ってどの辺が強いの?」
XFV-14B「まず何といってもレーダーでの捕捉が困難というステルス性能、その一方で自機には高精度のレーダーが備え付け
      られているところから、敵に攻撃の機会を与えることなく一方的に倒せると言われている。制空の更に上をいく航空支配戦闘機と
      呼ばれる所以でもある。他にもアフターバーナーを使わなくても超音速で長時間の飛行が可能、並外れた機動性、中距離と
      いいながらも遥かに遠くまで届くミサイルなどなど、とにかくステルス性能を差し引いても、莫大な費用を掛けて開発した
      だけに一つ一つのスペックが…って、お前ら説明の途中で寝るなーーっっ!1!1!」
FXS-90(声)『いや、こいつらに理解不能な難しい話を最後まで聞けって方が無理だって』
零戦   「ああすまんすまん、俺は寝ていても話は聞こえてるから心配するな。少なくとも向こうの指導者の耳には
     届いているだろう、うん」
XFV-14B(器用な奴…)

457:  
09/03/11 04:00:05 42tOO2LQ
なんだこの微妙に男心を揺さぶる台詞系は
素晴らしい

458:創る名無しに見る名無し
09/03/11 04:01:57 u4tZ1E0f
紫電改  「…で、その最強野郎が牙をむいた理由は結局何なの?この世界では敵国の日本軍基地はともかくとして、同じ国
      同じ時代の、しかも歴史修復活動真っ最中のお前らまで襲うなんて、いい迷惑どころか同士討ちそのものじゃん」
XFV-14B「もし奴が空軍の指示で動いているなら、海兵隊が所有している俺たちXFVシリーズが狙いにまず間違いない。
      たとえ試作でも高性能の機体を航空分野の専門でもない組織が保有していては、空軍の面目が立たないんだろうよ」
紫電改  「何だよそれ。どの機種を使おうがお互いに不都合がなければ問題ないじゃん別に」
XFV-14B「それが大いにあるんだ。お前らのとこの海軍陸軍が別々に航空部隊を運用してお互い足を引っ張っていた様に、
       米軍の組織も必ずしも良好な関係とは言えない。現代世界の目の行き届かないこの地で横槍を入れ、どさくさに紛れて
       俺たちの存在を抹消し、強力な武器を喪失させる事で組織における海兵隊の影響力を削いでから、空軍が取って代わって
       優位な立場につくつもりなんだろう」
雷電    「つかお前ら確か歴史がどうとか重大な任務を請け負っているよな?途中でそんな邪魔が入ったら未来にまで支障が
      出てくるだろうに」
XFV-14B「その辺は奴らも計算済みだろう。目的を果たすために多少強引とも言える手段も使い、いつもそうしてきた。
      だから空軍連中は刺客としてラプターをこの世界に放ち、海兵隊の活動区域を片っ端から潰しにかかろうとしている。
       ここが襲撃に遭ったのも、日本軍基地だからという理由じゃない。そう…」

一旦言葉を切ると、XFV-14Bは足元に目を移す。
辺り一面に散らばる無数の残骸、ミサイルやバルカンで撃ち落とされた者、マッハを越える飛行で生じた衝撃波で分解した者、瓦礫の

下敷きになっ者、また火災が引火した者等々…かつての航空機だったなれの果ては、一部の米海兵隊機を除いた他は、
全て館山海軍基地所属のものであった。
「畜生…あの野郎何の関係もないこの時代の連中まで巻き込みやがって、絶対に…絶対に許せねえ!!」
兄を亡くした時、奇しくも館山沖で出逢ったあの夜間戦闘機・極光の可憐な面影が、足元の残骸と不意に重なる。
「この世界に来ると決まった時は、向かう先は敵地だと認識していた。だが今となっては俺の最大の敵は他でもない、
空軍のあいつだ!」
これまでにない怒りによって闘志が後から後から沸き上がってくるのが理解できた。

零戦    「…それで、海兵隊機の中でお前だけが生き残った訳だが、これからどうするつもりだ?」
XFV-14B「知れたこと、ラプターに空戦を挑むまでよ。抹殺対象となっているのはXFVと原型のFSX、奴は今残り一つとなった
       実機である俺を血眼になって探しているだろう。俺は逃げも隠れもしない、こっちから出てきて迎え撃ってやる、
       そしてこいつ等の無念を晴らす!」
雷電    「空戦で仇討ち…とは言ってもな、化け物並みの強さを持つ相手に勝算はあるのか?」
XFV-14B「俺のスペックだってなかなかのもんだぜ?何せ空軍の地位を脅かす存在としてマークされるぐらいだからな。
       それに実戦経験の練度なら負けてはいない」
零戦    「ならばせめて、一度香取に戻って補給をして来い。そっちにいる空自の連中も可能な限り力になると言っていた」
震電   「僕も一緒について行くよ。今まで顔を出せなかった事情をちゃんと説明して謝れば、ひょっとしたら話を
       聞いてくれるかも知れないし」
XFV-14B「補給ならさっきの時点で済ませてきた。いいか、これは俺に対して売られた喧嘩なんだ。お前たちは一切手出しをするなよ。
       これ以上奴に好き勝手させない為にも俺はそろそろ行くぜ」
そう言って、廃墟と化した基地から離陸するXFV-14B。

「じゃあな…達者でな」
一度だけ振り返るとそのまま空の彼方へと消えていった。

459:創る名無しに見る名無し
09/03/11 04:03:31 u4tZ1E0f
震電 「行っちゃった…本当に大丈夫なのかなあ」
雷電 「もしかして俺たちに迷惑がかからない様にとか…全く水くせえ奴だな」
零戦 『…そうか、沖縄に…よし、うん、分かった』
残された海軍機一同。その中で深く考え込みながらも、時折この場にいない相手と会話をしている零戦の様子に、
何となく嫌な予感を覚える紫電改。
紫電改「あのう先輩、さっきから何やってるんです?そろそろ俺たちも…」
零戦 「ん?ああ、これからやるべき事を整理していてな。その前にあのラプターとかいう戦闘機についてどう思う?」
紫電改「どう…って言われても」
零戦 「最初ここに来た時に遭遇した震電に対する態度と、今の無差別攻撃と、同じ者にしては余りにも違い過ぎていないか?」
雷電 「あれじゃね?最初は善人の振りして周りを油断させるための演技だったとか…」
零戦 「しかし演技だったとしたら、記憶喪失状態から突然暴れ出したという米海兵隊機の証言と矛盾しないか?
    いまわの際に嘘をついてたとも思えんしな。それにもう一つ、こっちに来てみろ」

零戦の言葉により、一行は破壊された格納庫の一つに移動する。
零戦 「奴を匿っていた格納庫はここだな?震電」
震電が頷くのを確認して奥から何かを取り出す零戦。歪んではいるものの、辛うじて液体の入った缶だと識別できた。
震電 「あっ!これは僕が差し入れに置いていった燃料…!」
零戦 「震電がどこからこの缶を調達してきたのか今は問うまい。問題は中身に手を付けられた形跡が見当たらないという事だ。
    海兵隊機によると、燃料切れ寸前でここから発見されたというが、何故燃料が無くなる前にこれを使わなかったか…」
雷電 「高級燃料しか口に合わなくて、たとえ腹ぺこでも俺たちの燃料は不味くて飲めなかったとか…?」
紫電改「それともストックの燃料がある事自体忘れていたとか。頭をぶつけたショックで…まさか月光先輩みたく、
    震電が来なくなった後に何者かによって記憶を封じられた…?」
零戦 「お前にしてはなかなか鋭いところに着目してるじゃないか。そんな紫電改くんに褒美をつかわそう。
    かつてない危機に見舞われたこの世界に、希望をもたらす救世主となる権利だ」
紫電改「工エエェェ(´д`)ェェエエ工 何それ、てっきり食い物だと思ったのに…」
零戦 「前にも言っただろう。時代も国も組織も越えて、皆が一致協力して困難に立ち向かっている中、
    どうにもならない事態に陥ったらお前が最後の切り札になれと。どうやらその時がついに来たようだな」
紫電改「まさか、あの化け物戦闘機と戦えってことじゃ…そんなの絶対無理むり無理ムリカタツムリっすよ!!
     一万機以上のグラマンが密集しているところをかいくぐるよりも、生還できる気がしません、
     そんなら零戦先輩が行って下さいよ、日本軍機の指導者なんでしょう?」
零戦 「俺はその時に応じて的確な指示を出していくのが役目だから、前戦に立ったらそれが出来なくなるだろう?
     彩雲からの情報によると、沖縄に夜襲に出ていた彗星が見慣れない設備を発見したとの事だ。
     どうやら奴はそこで燃料や武器の補給をして行き来をしているらしい。次に戻ってきた時が勝負となるな。
     おそらくその前に、XFV-14Bが会敵すると思われるが…勝敗の行方は何とも言えん。
     平成世界の指導者も、これまでの情報を整理しているだろうから、返事が来るまでしばし待機しているがいい」



今回は以上です、過去ログとの重複部分もここまでとなります。
そして今回のエピソードに出てきた海軍戦闘機はこちら、本スレでも登場頻度が高く、人気のある機体です。

零式艦上戦闘機
URLリンク(ja.wikipedia.org)
局地戦闘機・雷電
URLリンク(ja.wikipedia.org)(%E8%88%AA%E7%A9%BA%E6%A9%9F)
試作局地戦闘機・震電
URLリンク(ja.wikipedia.org)

460:創る名無しに見る名無し
09/03/17 04:05:12 sky9Os8r
あるところに夜の眷属が幅を利かせていました。
大統領は銀の詰まったクラスター爆弾を投下してノスフェラトゥを焼殺そうとしました。
ですがノスフェラトゥに支配された街の人間が盾となり、ノスフェラトゥは全然死にませんでした。
「あははっ!」
ノスフェラトゥは楽しそうに笑います。
ノスフェラトゥは優雅に腕を伸ばします。
そのアルビノの手を、支配されている人間が剣を持って切り落としました。
しかし切り落とされた腕は瞬く間に黒い霧になり、やがて収束したかと思うと無数の蝙蝠になって飛び去りました。

翌日のトップニュースは大統領の声明でした。
「か れ を こ ろ し て は な ら な い 。せ い さ く は へ ん 
こ う だ 。イ エ ス ウィー キャン。イ エ ス ウィー キャン」
ノスフェラトゥの蝙蝠はまんまと大統領を支配していました。
「くはっ!あはははっ」
クラスター爆弾で半壊した城の中、壊れた天井から満月の煌々と照らす寝室で、
ノスフェラトゥはテレビを見て大笑いしました。
ベッドの天蓋に帰ってきた蝙蝠がとまり、やはりノスフェラトゥと同じ様にケタケタと笑っています。
大統領の声明ののち大統領が支配されてしまった疑いがあること、
国連が総力をあげてノスフェラトゥを討伐する予定であることが報道されました。
あははは、ケタケタ、はははは、ケタケタ。
ひとしきり笑うとノスフェラトゥは安楽な寝間着を脱ぎ捨ててスーツを着込みました。
夜こそがノスフェラトゥの時間なのです。
スーツを着込むと、ノスフェラトゥは寝室から見える満月を仰ぎました。
ノスフェラトゥの全身が黒い霧になって満月を目指し、収束したかと思うと無数の蝙蝠になって飛び去りました。
国連は翌日、ノスフェラトゥ討伐の予定をすべて撤回し第三次世界対戦を行うことを発表しました。
互いの総力を持って戦うことをロシアとアメリカが調印し、
その日の午後には互いの国に水爆や窒素爆弾をぽろぽろと零し合いました。
焼け野原になった街の映像を見ながら大国の主たちが笑い合います。
ケタケタ、ケタケタ、ケタケタ。
その瞳はことごとく感情の抜け落ちた臘人形の様なうつろなものでした。
「はははははは」
ノスフェラトゥは笑います。
その瞳もまた臘人形の様なうつろなものでした。
ノスフェラトゥは長く生き過ぎているため人の心が透ける様に読めてしまいます。
ノスフェラトゥは荒み続ける人の心に触れ過ぎました。
結局ノスフェラトゥのやっていること自体、人間が望むことだったのです。
終わり

461:創る名無しに見る名無し
09/03/17 04:06:39 J6QXNte+
確かにこれは投下先なさそうだw

462:創る名無しに見る名無し
09/03/18 02:27:21 FTllDxJ7
人間はほとんど死にました。
ノスフェラトゥは笑います。
「ははははははははははは……」
笑いますが、その頬には涙が這います。
気付いてしまったのです。
ノスフェラトゥは人間に毒されたみにくい自分に気付いてしまったのです。
食前酒の水面に浮かぶノスフェラトゥの姿は、幾百年前に始祖と契りをかわしたときと寸分たがいません。
でも彼には見えてしまうのです。
みにくい心の端々が見えてしまうのです。
その証拠に視界がこんなにも霞んでしまっています。
ノスフェラトゥはオードブルを少しだけついばみ、メインには手を付けませんでした。
メインの運ばれるそのまえに、ステーキを切る銀のナイフでもってその両の目を抉りました。
黒々とした赤がクロスに垂れ、ナイフに抉り出された目玉とノスフェラトゥの視線が合いました。
抉り出された目玉は砂になりました。
もう一方も抉りノスフェラトゥはついに光との決別をすませました。
とろとろと黒ずんだ血を眼窩から流しながら、ノスフェラトゥは思いました。
あらゆるものを見るためにある涙はすべての色を知っている。
あらゆる色を知っているから無色でいられる。
偏り過ぎた自分には赤がお似合いだ。
「ははっ……」
ノスフェラトゥは笑います。
ノスフェラトゥの身体は黒い霧になってレストランに充満しました。
霧は収束して、無数の蝙蝠になりました。
天井やシャンデリア、テーブルにとまるそれらの蝙蝠には、どれひとつとして目がありません。
ケタケタケタケタ。
蝙蝠は合唱するように笑います。
ドアマンが扉を開けると、蝙蝠達は一斉に飛び立ちます。
蝙蝠達は月夜を塗りつぶすように舞い狂い、やがて何処ともなく姿を消しました。

澄んだ空気に迎えられ、月光が傘を帯びています。
蝙蝠達は夜の砂漠に飛来しました。
蝙蝠達が寄り集まり、黒い霧になったかと思うと、それは収束してノスフェラトゥとなりました。
ノスフェラトゥが指でもって眼窩の軟らかな粘膜を掻きむしると、とまりかけていた血が溢れてこぼれます。
ぽたり、ぽたり。
砂地に落ちた血は真っ黒で、見る見るうちに拡がってゆきます。
血痕の黒円の円周から兇悪な牙が生えてきて、やがてその円は狼の口蓋になりました。
狼の喉は何処までも続いているようにみえます。
ノスフェラトゥはさも当たり前のことのようにその口に飛び込みました。
ノスフェラトゥが入ると同時に、大地に現れた狼の口蓋は堅く閉じられました。
狼の口蓋が砂に馴染んで消えてしまうと、あとにはもう青い月が凛と冷め輝くばかりでした。

463:創る名無しに見る名無し
09/03/19 00:05:34 z2uoVnSN
もしかしたらアンパンマンの散文詩を書いた人かな。
何となく作風が近いものを感じたので…別の人だったらスマソ

464:創る名無しに見る名無し
09/03/19 01:46:02 Bes1W40I
ノスフェラトゥは自らの生み出した異空間に永らく閉じこもっていました。
幾日も幾月も幾年も、ノスフェラトゥは閉じこもっていました。
ジョン・ケージのASLAP(アズ・スロウ・アズ・ポッシブル)が二度ほど完奏するころ、
ノスフェラトゥは目を覚ましました。
ASLAPは一曲が640年の曲です。
夜よりも暗い黒い霧が地面から染み出し、それはノスフェラトゥになりました。
ノスフェラトゥが地上に出てみるとそこには熱帯雨林がひろがっていました。
なにしろ1280年の年月ですから、砂漠が無くなったことに驚きはありません。
でもノスフェラトゥは空に違和感を感じました。
月がうるさいのです。
ノスフェラトゥは黒い霧になって舞い上がり、蝙蝠に変身すると、熱帯の精気から逃げる様に飛び立ちました。

街に着いてみると、その異常は明らかでした。
街にいる人間はノスフェラトゥがかつて支配した人間達のみでした。
普通の人間の一切が全くいなくなってしまったのです。
絶滅したのでしょうか。
ノスフェラトゥは残っていた支配した人間に、何が起こったのかを問いました。
「む か し、い ん せ き が 落 ち て き ま し た」
過去にノスフェラトゥに支配された人間達が、ノスフェラトゥに群がります。
支配された人間達は口々に語りました。
「ほ し は く だ け、塵 に ま み れ ま し た」
「日 が さ し ま せ ん」
「わ れ わ れ に は 快 適」
「し か し 普 通 の 者 に は つ ら す ぎ た」
「疫 病 が 流 行 り ま し た」
「ひ と は み な、月 に ゆ き ま し た」
「や が て 塵 は 消 え ま し た」
「ひ と も 消 え た ま ま で し た」
「帰 っ て は 来 ま せ んで し た」
ノスフェラトゥは呆気に取られました。
あれだけ死にたがっていた人間達が、いざ死ぬとなるとこぞって逃げ出したのですから、
ノスフェラトゥが呆れるのも無理はありません。
「くはっ、くっく……は、はははは、アハハハ!」
ノスフェラトゥは腹の底から笑いました。
目尻に涙が浮かび、息も吐ききってなかばむせながら、それでも笑いました。
そのくらい愉快だったのです。
ノスフェラトゥは笑いました。
黒い霧になり無数の蝙蝠に変身してからも、ケタケタケタケタケタケタと、しばらく笑い続けました。
蝙蝠達は笑いながら飛び交い、1280年の年月を生き長らえた支配下の人間達に次々と食らいつきました。
支配下の人間達をみんなミイラみたいにしてしまうと、その支配下の人間達の萎んだ身体を全部、
地面に召喚した狼の口蓋にほうり込みました。
力を補充した蝙蝠達は空高く翔んでゆきます。
彼らの落ち窪んだ眼窩はしかし、確実に月を見据えていました。

465:携帯 ◆4c4pP9RpKE
09/03/19 01:50:43 Bes1W40I
アンパンマンの散文詩の人とやらではありませんですハイ。

466:創る名無しに見る名無し
09/03/19 01:55:22 0aZtz7ni
芸の幅広いのう

467:創る名無しに見る名無し
09/03/20 22:37:19 SS4C3rBb
 私は会社に行く途中、通りに座り込んで泣いている女性を見つけた。
 私以外の通りを行き交う人々は彼女に目もくれずに先を急いでいる。
 私も彼らに倣おうかと考えたが、やはり気付いてしまった以上は放っておくの
は心が痛むので、とりあえず声をかけた。
 女性はただ首を振り、うつむいて黙っていた。
 私は彼女を心配に思いながらも、彼女が私を拒否しているのがわかったので、
その日は素直に引き下がって会社に急いだ。
 翌日、私は同じ場所で同じ女性を見つけた。
 彼女は今日も泣いていた。
 私はそれを見たが再び声をかけるなんてことはせず、やはり会社に急いだ。
 翌日は会社が休みだった。
 私は特に予定もなかったので、暇潰しに彼女が今日も居るかどうかを見に行っ
た。
 彼女は今日も泣いていた。
 私はさすがに不審に感じ、彼女に近づいて声をかけた。
 彼女はやはり私を拒否したが、今度は私は引き下がらなかった。
 彼女は顔を上げ、私を見た。
「どうしてあなたは私に構うの?」
 私は答えた。
「三日間も通して同じ場所で泣き続けている人を放っておく方がどうかしています。」
 彼女は再びうつむいた。
「あなたがここで泣いているのは、恐らくそれ相応の理由があるのでしょう。力
になれるかもしれません。話していただけませんか?」
 私がそう願うと、彼女は首を振った。
「話しても仕方ありません。どうにもできないことなのです。」
「ならば益々他人の助けが必要でしょう。」
「あなたの助けを得たからといってどうにかできることではありません。」
「それは私を侮辱しているのか。」
「いいえ、そんなことは。」
「ならば話していただきたい。」
「仕方ありませんね。」
 彼女はため息をついて、憂鬱な表情で語りだした。
「友人が遠いところへ行ったのです。」
「それはお気の毒です。」
「友人だけではありません。家族もです。」
「それはひどい。心中お察しします。」
「私は孤独になりました。この世界でただ独りになり、そして独りのまま消えて
いくのです。」
「それは違います。」
 彼女は顔をあげた。
「私が貴女を独りにさせません。私と友人になりましょう。」
 彼女は顔をそむけた。
「いいえ。たとえ貴方と友人になっても、私は永遠に独りです。独りのままです。
それはあなたも同じです。」
 私は顔をしかめた。
 彼女は立ち上がり、懐から剃刀を取り出して手首を切った。
 私は彼女の手首から勢いよく流れ出している血を眺めていた。
 彼女は再び泣き出した。
「さようなら、親切な人。」
 彼女は手首から血を流しながら人混みの中へ消えていった。
 私は彼女の背中を眺めながら自分の首に手を当てる。
 ヌルリとした感触に首に触れた手を見ると、手は自分の血に濡れていた。
 ああ、そういうことか。
 私はようやく気づいたのだった。

468:創る名無しに見る名無し
09/03/21 03:38:46 PiotrEJ9
シックスセンス的な意味と考えればいいのかな。
ゾクッときた。

469:創る名無しに見る名無し
09/03/26 23:33:50 GOeyDopb
一人で荒しを擬人化した萌えキャラを描こうとしたが、萌えとはかけはなれたものになったのでここに埋葬
デザインコンセプトは荒し→嵐で風の精みたいな感じ
手にしたハンマーは場を荒らすためのもの。
性別は判断つかないようにしてみた。

URLリンク(imepita.jp)


470:創る名無しに見る名無し
09/03/27 07:46:37 IqLUXxgn
>>469
充分萌えのストライクゾーンで、ショタっ子に脳内変換した。


ところでここでは投下のない時に雑談はしない方が
いいのかな。今までの作品の感想も含めて。

471:創る名無しに見る名無し
09/03/27 22:00:06 +MlcOgHK
「王様、今日は良い報告と悪い報告があります。」
「申せ。まずは良い方からだ。」
「はい。我が国の軍備が、この国始まって以来最大のものになりました。」
「なるほど。して、悪い方は。」
「貴方の治世は今日で終わりだということです。どうかご覚悟を。」


3行スレに投稿しようかと思ったけど3行に纏まらなかったんだぜ

472:創る名無しに見る名無し
09/03/28 05:32:15 8Y6TLj0h
>>471
なんとなく星進一っぽい感じがした。

473:創る名無しに見る名無し
09/03/29 00:53:41 8lnhW+KX
>>470
ぽちぽちあちこちのスレに投下してる人間として、個人的な意見を言うと、雑談とかあった方が、作品投下も呼び込めると思う。
俺自身のことで考えると、新しい書き込みがあまりないスレへの投下は考えてしまうところがある。
ネットに書き込もうという時点で、多かれ少なかれ、他人に見て欲しいという気持ちがあるワケで、
そのためには、現在、見ている人がいるスレに投下するのが良いのだが、
あるスレが、そういう見ている人がいるスレかどうかを判断する基準になるのが、新しい書き込みの量だから。
そのため、あまり新しい書き込みがないと、同じ作品を投下出来る別のスレを探して、もしあれば、そっちの方に投下するだろう。

特にこのスレの場合、特定のジャンルやモチーフを設定していないので、他スレに投下先を変更しやすい傾向があると思う
(ただこれは、全く同じ理由で、様々な作品が流れ込みやすいという大きな長所の裏返しでもある)。

そういった訳で、雑談とかは、見ている人間がいるスレだというのを示す意味でもいいんじゃないだろうか?
雑談が続いてると作品投下しにくいんじゃないかという意見を他所で目にするけど、
「雑談の流れ邪魔すんな!」みたいな空気が無ければそんなことはない、
むしろ一つ二つくらいの作品をスレの全員で熱心に見てるみたいな状態の方が投下しにくい(邪魔するような気がして)。

まあ確かに、投下しにくくなる雑談てのもあるんだけど
(一例を挙げると、心構えや作品の方向性なんかについてかくあるべしとか
 作品を投下していない人間が延々と書き込んでいる場合。
 作品を書いてる人間が論じているのであれば、
 「ああ、この人はこういう考えの下に書いてるんだな」と一つの姿勢として受け止められるのだが、
 書いてない人間がそういうこと書き込むと、色々うるさく縛りを付けられて、自由に書くのを妨害される感じがする。
 率直に言って、作品を批判されたり細かい不備を指摘されたりするより余程書き込みにくくなる)。

長々と書いてスマン。あくまで俺個人の意見だから、自分は違うという人も多いかも知れない。

474:創る名無しに見る名無し
09/03/29 00:58:41 OYmlUFqF
内容が無いよう

475:創る名無しに見る名無し
09/03/29 01:41:25 sBSxb0Vi
>心構えや作品の方向性なんかについてかくあるべしとか
>作品を投下していない人間が延々と書き込んでいる場合。

雑談というより雑音だやね、それはw

476:創る名無しに見る名無し
09/03/29 01:44:57 sBSxb0Vi
でもまあ、このスレは他に投下先がない作品が自然と吹きだまるかのように集まるので、
別に雑談とかで盛り上がってる必要もないのかなとおもた
ここばかりが伸びるようなことがもしあれば、それもおかしな現象だしw
他スレでの一般論としては>>473に同意だけどね

477:470
09/03/29 13:33:38 ePW8PR6v
なるほど、尤もな意見をありがとう。
このスレ的にはみんなが気持ち良く投下できる様に雑談は
程々に、励みになる感想は適度にというところかね。
ちなみに今までの作品にコメントが欲しいもしくはつけたい、でも時間が
経ちすぎて難しいという場合、こういうスレもあるので一応紹介しておく。

スレリンク(mitemite板)
スレリンク(mitemite板)

478:創る名無しに見る名無し
09/03/30 22:13:59 osUTF1mF
キモイ馴れ合いスレになったな
もうここには書かない

479:創る名無しに見る名無し
09/03/31 00:37:07 TFJeSYXA
それがどうした

480:創る名無しに見る名無し
09/03/31 08:31:11 eq2zIsfe
そもそもこのスレって狙って書く場所じゃなくね?w

481:創る名無しに見る名無し
09/03/31 09:54:00 Q8zdrTYs
前から気になっていたけどここの人たちは作品に対する感想が
つかなくても全然平気でむしろ感想ですら邪魔だったりする?

482:創る名無しに見る名無し
09/03/31 11:17:57 vKhqQfZw
邪魔ってことはないっしょw

483:創る名無しに見る名無し
09/03/31 22:32:37 11MYTu1U
邪魔ならなんで晒したんだって話だなww

484:嘘予告CPB(1/5)
09/04/01 16:01:48 BE1toEdN
 CREATION PRESENT BATTLEを開催いたします。
 ルールは一対一の対戦格闘形式で行います。
 参加希望の方は、会場までお集まり下さい。
 貴殿の参加、お待ちしております。
 ……以上【O】


 そんな内容を記した招待状が、各地の戦士達に届けられた。


 春星高校文芸部室。
「という訳でタッ君参加しよう!」
 増田卓(ますだ たく)の背に、一見すると元気のいい男の子みたいな少女、
薬師寺小星(やくしじ こぼし)が覆い被さってきた。
「するか! 俺は頭脳労働担当だ!」
 卓はずれた銀縁眼鏡を指で直しながら、幼なじみの意見を即座に切って捨て
る。
 おかげでマスタースクリーンが倒れてしまった。
 そもそもTRPGをしに部屋に集まってるのに、何故格闘大会に参加しなき
ゃならんのか、訳が分からない。
 しかし、他の面々はどうやら卓とは違う意見のようだった。
 卓の席の右手で、プラチナブロンドの美少女がボキボキと拳を鳴らしていた。
「ふふふ、腕が鳴りますわね」
 炎のように闘志を燃やす少女、カトリーナ・真白・フランクリンを小星が指
さす。
「シロちんはやるきみたいだよ?」
「アイツがやる気でも、俺はやる気はないの!」
 すると、左手に座っていた純和風の少女、駿河壱与(するが いよ)が周囲
を見渡した。
「という事は、参加者は……」
「はい!」
 元気いっぱい手を挙げる小星の手を、卓の手が下げた。
「コイツは却下」
 上がった手はカトリーナともう一人、怜悧な印象を受ける美女だった。
「十和子さんと、カトリーナさんですか」
「うむ」
 壱与の声に美女、鉄砲塚十和子(てっぽうづか とわこ)が手元のキャラク
ターシートから目を離さず頷いた。
 そして向かいの席に座っていた大柄な男、戸隠力也も遅れて太い腕を上げた。
「はっはぁ! 面白そうなイベントじゃないか! 俺様も参加するぞ!」
「……戸隠入れて三人か」
 まあ、妥当かもしれない、と思う卓だった。
「目指すは優勝ですわよ!」
 拳を掲げるカトリーナに、腕組みをしたまま十和子はニヤリと笑う。
「ふ……やるからには、当然だな」
「……お前ら、リアルで武闘派だもんな。どうでもいいけど、プレイ始めるぞ
ー」
 呆れながら、軽く机を叩く卓であった。

 ―TRPGスレより、『金色の格闘姫』カトリーナ・真白・フランクリン、
『爆撃王』鉄砲塚十和子、『馬鹿力』戸隠力也、参戦。


485:嘘予告CPB(2/5)
09/04/01 16:03:09 BE1toEdN
 同時刻。
 まだ日も高い風杜神社の境内で、天神はづきは泣きそうな顔をしていた。
「木島君、ど、どうしよう?」
 石段に腰を下ろし、はづきのクラスメイトであり相棒(パートナー)の木島
勇人(きじま ゆうと)は招待状から顔を上げた。
 小学四年生とは思えない、落ち着いた少年だ。
「実戦経験を積むのは悪い事じゃない」
 その言葉に、はづきは少しだけ励まされる。
 棍術はそれなりにやれるし、勇人は基本的に根拠のない事は口にしない性格
だ。
「で、でも……」
 ただ、それでもやっぱり自信がないはづきであった。
「色んな人に見られて戦うなんてわたし……やれるかな」
「天神は、本番に強いタイプだと俺は思う」
「そ、そう……?」
「それにルールにあるが……天神、変身してみろ」
「え?」
「幸い、誰もいないみたいだ。問題はない」
「う、うん……じゃあ……」
 はづきは胸元から、勾玉の首飾りを取り出した。
「変、身……っ!」
 かけ声とともに、青い光が身を包む。
 私服姿から、霊力を帯びた巫女装束の魔法少女、トゥインクル・オーガスト
へと変身を完了する。
 同時に勇人も手のひらサイズの赤い子鬼、ボルトへと変化し、トゥインクル
・オーガストの肩に乗っていた。
「小動物はパートナーとして一緒に参加が可能のようだ。問題は、ない」
「……わ、分かった。やってみるよ」
 ボルトが一緒なら、不安もない。
 ちょっとだけ勇気の増えたトゥインクル・オーガストは、変身を解いた。
 同じく元の姿に戻った木島勇人は、ポケットに招待状を突っ込んだ。
「じゃあ、参加者の情報を下調べしてくる。天神はいつも通りに道場で稽古を
続けていてくれ」
「う、うん。頑張ってね」
「お前もな」
 はづきと勇人は手を振って、分かれた。

 ―魔女っ子&変身ヒロイン創作スレより、『魔法☆巫女』トゥインクル・
オーガスト&ボルト、参戦。


 同時刻?
 こことは違う、とある異世界のとある宿屋。
 郵便屋さんの運んできた招待状の封を、若干六歳の勇者、レイルは切った。
 しかし、レイルには文字が難しすぎたので、保護者である羊飼い、スイフト
に助けを求めた。
「おにーちゃんおにーちゃん、これよんで!」
 招待状を渡し、レイルはベッドに腰掛けるスイフトの膝に乗った。
「ふむ、武闘会の招待状だね」
 その言葉に、レイルは目を見開いた。


486:嘘予告CPB(3/5)
09/04/01 16:04:27 BE1toEdN
「ぶとーかい!?」
「うん。どうする、レイル?」
「する! れいる、さんかする! ドレスきて、おにーちゃんとおどるの!」
「うん、レイル。それは違う舞踏会だ」

 ―新ジャンル「ロリ騎士」より、『ろくさいゆーしゃ』レイル、参戦。


 同時刻。
 荒れた古寺『開団寺(かいだんじ)』の離れで、女学生の格好をしたツイン
テールの幼女、武桜(ぶおう)はキラキラと目を輝かせた。
「参加するぞ、豪! 賞金は山分けじゃ! ぱふぇ食い放題じゃぞ!」
 武桜の頭の中は、既に生クリームとフルーツで満たされていた。
 一方、春星高校の制服上着を脱ぎ、稽古前のアップをしていた木島豪(きじ
ま ごう)は、そこそこ冷めていた。
 ギョロリとしたドングリ眼が印象的な、屈強そうな若者だ。
「やる気はいいけど、取らぬ狸の皮算用って知ってるか、師匠?」
「うむ。という訳でこれから大会までは、修行量三倍じゃ!」
「無茶言うな! 死んじまうだろ、そんなの!」
「豪よ。お主もそろそろ黄泉路を渡る経験をしてもおかしくないぞ?」
「したくねえよ、そんな経験!?」
「なーに、師匠である我に任せておけば心配いらぬ。慣れればちょっとした旅
気分じゃぞ」
「旅気分で死線を彷徨いたくねえよ!? 俺は師匠みたいに仙人じゃなくて、
普通の人間なんだからな!」
「普通の人間は、念動力なんぞ使えんと思うがなぁ」
 などと、いつものようなやりとりを師弟がしていると、入り口の扉がガラリ
と開いた。
「お邪魔します」
 一礼をして入ってきたのは、豪の弟、勇人(ゆうと)だった。
 小学四年生とは思えない、落ち着いた少年だ。
「ぬ? 勇人ではないか。どうした」
「兄の見学に来ました。いいですか」
「ほう、それは関心関心。ほれ、豪。弟にいいところを見せてやるのじゃぞ」
「出来れば必殺技など、見せてもらえると助かります」
 言って、勇人は離れの端に正座した。
「ほっほっほ、任せよ」
 気をよくした武桜は軽く笑うと、一足で豪との間合いを詰めた。
「ゆくぞ、豪! 螺旋撃!」
 まだ構えも何もしていなかった豪は、桜色に輝く気を渦状に練り込んだ掌底
に吹き飛ばされた。
「ふ、不意打ちは反則過ぎるだろーーーっ!?」
 壁に大きな穴を開け、錐揉み状態で豪は飛んでいく。
「はっはっは、ざっとこんなものよ」
 勝ち誇る武桜と壁の穴を見、勇人は冷静に呟いた。
「……やはりここは要注意だな」

 ―ロリババァ創作スレより、『格闘仙女』武桜、『サイコ・パワー』木島
豪、参戦。


487:嘘予告CPB(4/5)
09/04/01 16:06:01 BE1toEdN
 同時刻。
 自宅に帰った小泉南雲(こいずみ なぐも)は、招待状を手にベッドに寝転
がった。
「……どこでお前の事を知ったんだろうな」
 すると、霊体の幼なじみ、柳田玖美子(なやぎだ くみこ)が手紙を突き抜
け、南雲の顔をのぞき込んだ。
「さあ? でも、いいのかな? 二人一組での参加って……私たちだけ例外っ
ぽいんだけど」
 重力は無視しているくせに、三つ編みは垂れるのは何故だろう、と南雲は文
学少女然とした玖美子を見て、疑問に思う。
 まあ、そんな事より招待状の内容が問題だ。
 自分と玖美子の二人で戦って、果たして勝算はあるのかどうか。
 二人一組については、大会の方が許可しているなら悩む内容じゃない。
「まあ、ありなんじゃないのか? ほら、キャラクターが生命エネルギーのビ
ジョンを出現させて戦う格闘ゲームもある事だし。……っていうかお前がいな
きゃ、俺ただの一般人じゃないか。死んだらどうする」
 南雲の問いに、玖美子は首を傾げて軽く悩んだようだ。
 それから。
「……あ!」
 ポン、と手のひらを打った。
「わたしと一緒になれるね?」
「名案だ、みたいに手を叩くなよ、おい!?」

 ―恋愛物創作総合スレより、『幽霊使い』小泉南雲&柳田玖美子ペア、参
戦。



 同時刻。
 CPB開催会場は、まだ建造途中であった。
 何体もの岩の巨人が地響きをあげながら歩き、己の身体を崩して岩の建造物
を作り上げていっている。
 ヘルメットをかぶった、小柄な少年だか少女だかよく分からない不思議な雰
囲気の少年シェセプは、使い魔達の働きを見守っていた。
 彼の仕事の大部分は設計部分にあり、それはもう終わっているので気楽な物
である。
 そこに、黒い帽子に黒いマントという魔女然とした幼女が、湯飲みの載った
お盆を手に近づいてきた。
「お茶どーぞ」
 のほほんとした幼女、まったり魔法少女であるなごみに、シェセプは微笑ん
だ。
「ありがとうございます」
「どういたまして。しゅびはどおだ?」
 お茶を啜りながら、シェセプはうん、と頷いた。おいしいお茶である。
「はい。予定通りに進んでますよ。武闘会場というのは初めて作りますからね。
腕が鳴ります」
「それとこれもあげるのです」
 なごみは、薄い手紙を差し出した。
 CPBの招待状だ。
「ボクにも招待状ですか。どうしようかなー。特にお金には執着ないんだけど」


488:嘘予告CPB(5/5)
09/04/01 16:07:12 BE1toEdN
「あ、シェセプ、わすれてた。きゅうけいじょを作るのだー」
「はいはい」
 シェセプの指示で、岩人形の一体がカウンターのある小さな部屋を作り始め
る。
 なごみはそこに、魔法で出したお茶をよいしょよいしょ、と並べていく。
 カウンターいっぱいにお茶を並べ終えると、なごみは大きく両手をあげて笑
った。
「じゅんびかんりょー、ばっちこいだー!」
 はじまりはじまる。

 ―ファンタジーっぽい作品を創作するスレより、『墓職人』シェセプ、参
戦。
 ―魔女っ子&変身ヒロイン創作スレより、『まったい魔法少女』なごみ、
お手伝いとして参加。


 かくして、創作発表板を舞台にした熾烈な戦い(まつり)が今、始まる―!!




 ……なお、同時刻別地点において、ERO PARO BATTLEが開催
されようとしている事には、まだ誰も気づいていない。


489:創る名無しに見る名無し
09/04/01 16:08:29 BE1toEdN
4月1日という事で、自作キャラでバトルロワイアルな嘘作品を作ってみました。
どうせでっち上げなので、自作キャラ~本スレに投下するのも何ですし、
かといって各スレに置くのも妙なので、ここに投下させていただきます。

あと、一番最後の一文ですが、時間の都合で向こうにはこのネタ存在しませんです。



490:殺しはなかった1
09/04/02 05:27:44 TBGpavgJ
 彼は橋の下に住んでいた。
橋の下の青いビニールのテント、それが彼の家だった。
今彼の風貌をなんとかここに描写できたらいいと思うのだがそれができない。
なぜなら彼を良く知る人物というのが一人もいないからだ。
つまり彼の顔を正確に知っている者はこの世にいないのである。
唯一私が知っている彼の特徴を述べるならあの長く白い髭だろう。
それは相当長い間手入れされておらず、彼がかなりの高齢である事を示していた。
彼には身内というものがなかった。
もしかしたら本当はどこかに、彼の身内はいるのかもしれない。
しかし誰も彼を必要としていなかったし、愛してはいなかった。
例え彼を道端で見つけたとしても、小汚いこじきだと思うだけで一分後には何もなかったかのように忘れてしまうだろう。

そんな彼の毎日は全く変わらない。
しかし今夜は青いテントの中でいつもとは変わったことが起きていた。
深夜零時、いつもは彼も寝ている時間、今日に限って彼は仰向けになり青いテントの一点をじっと見つめている。
彼はきっとこれからずっとこの一点を見つめる事になる。
誰かが彼を見つけない限りずっとだ。
もしかしたら一生彼はこのままかもしれない。
何故なら彼を知る人は誰もおらず、彼がいなくてもいつも通りの明日が訪れるからである。


491:殺しはなかった2
09/04/02 05:31:19 TBGpavgJ
 その青年が住むのはその橋のすぐ近くの家だった。
青年の顔立ちは非常に整っており、見たものは誰でも一瞬惚れこんでしまうような、そんな美しい顔をしていた。
しかし顔色には一種病的な青白さがあり、よく彼を観察した者であれば、彼があの美しい顔の下でどれだけ私たちを侮蔑していたかすぐに分かっただろう。

学校でも彼はほとんどの人間を見下していた。
確かにそれができるほど彼は賢く、なおかつスポーツでも彼は非常に優秀な成績をおさめていた。
学校中の人々は皆彼と話したがった。
しかし彼はそれを冷徹な態度でいつもあしらっていた。
このような行動は彼にマイナスの効果を与えたかというとそうではなかった。
ただ他の者達は、(この人はあまり他人と話さないんだな)つまり内気な人と思い込みそれで解決した。
ほとんどの人間が、彼がその行為を侮蔑から行っているとは全く気づかなかったのである。

 彼はいつも通り零時にベッドに潜り込んだ。
しかし今日彼はなかなか寝付く事ができない。
彼は分厚い毛布をかけ、それでもなおガタガタと震えていた。
別にここが特別寒いわけではなかった。
むしろ季節は六月の中旬であったし、この場所はもうそろそろ夜も蒸し暑くなってきているような、そんな天候のはずだった。
もちろん彼が異常に寒さに弱いとかそういうのではない。
彼が震えているのには別の理由があった。
ずっと今日の夕方に起こった出来事について考えている。
彼はそのために震えているのだった。

 (くそ、いったいどうしたってんだ俺は、あんな訳の分からないじいさん相手に。
俺はただあのじいさんがどんな事してるか見てやろうとしただけだ。
やつのテントは思えばやつが盗んだもんばかりだった。
あいつはもともと死ぬべきだったんだ。
そうだ、だってあんな橋の下で暮らしているようなやつがあんな金の時計なんて持っているわけないじゃないか。
他にも金目の物がいくつも置いてあった。
そうだやつは死ぬべきだったんだ。
それがあいついきなりテントに戻ってきて、俺を見つけるなり襲い掛かってこようとした。
だからやっちまったんだ、近くにあった…あれはなんだったんだろう?
クリスタル?
あれもやっぱり高そうな置物だったな。
細長いダイヤみたいな形をしていて下に台座が付いていた。
ええい、何でこんな時に俺はそんなどうでもいい事を思い出すんだ!
これじゃあ駄目だ。
明日は学校に行かない方がいいかもしれない、このままじゃ何か気づかれるかもしれない。
いや、俺はなんて馬鹿なことを考えてるんだ!
もし明日死体が見つかったらどうする!
その途端学校を休みだした俺が疑われるのは当然じゃないか。
そうだ、明日はいつものように学校へ行くんだその後はどうすれば?
とりあえず学校に行っている間は何もするべきじゃない。
終わってからだ!その時には何かいい考えが浮かんでいるかもしれない。
それよりまず明日の学校だ。
寝不足で行くのはやはりまずいな。
なんとか少しでも寝て疲れをとるんだ。
ひどく疲れているはずだ、眠れる、眠れる…。)
 きっと彼は今晩一睡もできない。
例え眠れたとしても、彼は夢の中であの青いビニールのテントを見るだけなのであった。


492:殺しはなかった3
09/04/02 05:34:49 TBGpavgJ
 「隆一、ご飯できてるわよ。」
いつものように息子に声をかける母咲子であったが、本当は息子がいつもとは違う事に気づいていた。
何があったかすぐにでも確かめたい。
帰ってくるなりすぐに部屋に閉じこもった隆一、食事の時は青白く恐ろしい顔をしていた。
今思えば何故あの時に声をかけなかったのだろう。
しかしあそこで私に何が言えただろうか。
私にあの子の何が理解できるのだろう…。

咲子は息子を恐れていた。
しかしまた、彼女は息子をそれ以上に強く愛していた。
(本当のところ隆一が何を考えているか分からない。
あの子は頭のいい子だし、私には見当も付かないような事を考えているんだろうけども。
それにしても少しくらい私に話してくれてもいいんじゃないかしら。
あの子は口数も少ないし、友達もあまりいないようだし。
今もきっと難しい問題を一人で考え込んでいるに違いないわ。
何か助けになってあげたいけれど…。
昨日帰ってきたときから様子がおかしかったわ。
朝はそんなことなかったのに。
という事は学校で何かあったのかしら?
さりげなく聞いてみたほうが良いかもしれないわね。
でもあの子は勘のいい子だし、とてもとても優しい子だから、私が心配している事を知ったらきっと私を気遣って何も無かった事にしてしまうわね。
とっても慎重に聞かなくちゃいけない、いつも通りにすればいいのよね。)
隆一がキッチンに入ってくると、咲子はすぐさま声をかけた。
「飲み物はどうする?牛乳、それともオレンジジュースにする?」
「牛乳がいいな。」
隆一は母の姿を見て考えていた。
(おかしいな、昨日の俺はきっといつもとは違っていたはずだ。
母さんがそれを見逃すわけないじゃないか。
それなのにこんなに落ち着いているなんて。
何かあるな、早めにこちらから手を打っておくほうが良いかもしれない。
それにやっぱり母さんだけには心配をかけたくないしな。
そうだ、これは俺自身の問題だ。
誰も関係ない、誰も巻き込むべきじゃないんだ。)
「母さん」
急に声をかけられた咲子は一瞬びくりとする。
その様子を隆一は見逃さない。
(やっぱり気づいている。あんなに俺の声に敏感になっているじゃないか。)

咲子は平静を装いこたえる。
「何?」
「母さん、昨日は僕の様子が変だったのに気づいたでしょ?実は昨日学校でちょっと嫌な事があったんだ。友達と少し言い合いになって…。どうやって謝ろうかずっと考えてて、それですぐに部屋にこもったりして…。」
「あらそうだったの。元気が無かったのはそのせいだったのね。」
「うん、でも今日ちゃんと話してくるから心配しないで。」
「分かったわ。さ、早く朝ごはん食べちゃわないと間に合わないわよ。」
「はい、いただきます。」
(うまくいっただろうか?
でもきっと何も言わないよりはずっと母さんの不安は取れただろう。
そうだ、今不審がられるわけにはいかないんだ。
今日の内にテントのあれもどうにかしなくてはいけないし、そう考えると下手に心配されて行動を拘束されたんじゃいけないからな。)
朝ごはんを食べながら何かを考えている息子を見ながら、咲子もまた考えていた。
(やっぱり何かあったのは当たっていたわね。
でも友達と喧嘩したなんて、本当にそうなのかしら?
私が昨日見た時はもっと鬼気迫るような深刻な顔をしてたように思えたけど。
でももしかしたら私の思い過ごしかもしれないわ。
今日はそう言ってるんだからあまり気にしない事にしましょう。
ただもしもこんな状況が長く続くようだったら…
やっぱり何か考えなくちゃいけないわね。)
隆一はご飯を食べ終えると、「いつも通り」学校にむかった。


493:殺しはなかった4
09/04/02 05:37:46 TBGpavgJ
 学校に向かう間も隆一の頭の中は橋の下のあれのことでいっぱいだった。
隆一は自分がとんでもないミスをしてしまったという事にもうすでに気づいていた。
あれを殴った時のあの忌々しいクリスタルを、そのままそこに置いてきてしまったのだ。
それだけでもなんとか処理してしまおうかと考えたが結局隆一はそれを諦めた。
あんな誰も来ないような橋の下に行ってもし見つかりでもしたら絶対に怪しまれるだろう。
隆一はあれが今日一日中誰の目にもふれないように祈ることにした。
(今日一日、そうだ、今日一日何とかなれば後は上手くやれる。
しかしあのテントはなかなか見つけ辛い。
それに例え見つかったとしてもあんな所にあるテント誰も気味悪がって近寄らないだろう。
実際最初のうちは俺もそうだった。
それなのに何故俺はあんなところに近づこうと思ったんだ?
今日は天気予報は晴れだったな、ついてない。
雨だったら外に出る人も少ないだろう、晴れていたら必ずあそこを散歩するようなやつが一人や二人いるはずだ。
もしかしたらってこともありえるぞ。
唯一良かった事といえば今日が平日だって事だ。
休日でこんなに晴れていたら子供はもしかしたらあそこに行くかもしれないぞ。
なんてったって子供はああいう気味の悪い秘密めいた所が大好きだからな。
まぁそんなこと考えたってきりがないな。
そう、後は神に祈るだけだ。)
ふと、隆一は自分がとてつもなく不思議な事を言っていることに気づいた。

(ふふふふ、こんな時に俺はどうしたんだ。
神に祈るだって?この俺が?)
そんな事を考える隆一は自分が今この学校へ向かう一本道を歩いているという当たり前の事実にすら、疑問を覚えずにはいられないのであった。

494:殺しはなかった5
09/04/02 05:40:52 TBGpavgJ
 澤田恵美は学校に来てすぐに隆一がいつもと違うという事に気づいていた。
これは隆一が動揺を隠せず不振な行動を取ったり、極端に顔色が悪かったりしたわけではない。
確かにいつもよりは元気の無い顔をしていたがそれだけである、後はいつもと変わらない。
恵美以外の人は隆一のこの違いに全く気づかなかったはずだ。

 なぜ恵美が隆一のこのような変化に気づいたか、それは恵美が隆一のことを好いていたからであろう。
隆一の事が好きな女子は他にも多くいたのだが恵美はそんな女子達とは少し違っている。
他の女子達は隆一の美しい顔つきや彼の博識、スポーツをしている姿などから隆一に好意を持っていたが、恵美の隆一への思いはそんな軽率なものではなかった。

 隆一と恵美とは小学校から一緒だった。
恵美は本人さえ覚えていないであろうことまでしっかりと隆一の事を覚えていた。
小学校の時飼っていたウサギが逃げ出した時の話である。
他の皆は最初は残念そうにしていたがウサギの事はすぐに忘れてしまった。
しかし隆一だけはそれから放課後になるとずっとウサギを探して回っていた。
そのウサギ探しも一週間ほどで終わってしまうことになる。
隆一は野良犬に殺されてしまったウサギの姿を見つけた。
彼は嗚咽を漏らしながら長い間泣いていた。
一緒にウサギを探す手伝いをしていた恵美も泣いたが彼ほどではなかった。
それから何日もふさぎ込んでしまった隆一。
辛く気味の悪い思い出だが、小学校の頃から大人びていた隆一がこんなにも子供のように行動していた思いでは他になく、涙を流していた記憶もこの時だけで、非常に強く印象に残る思い出だ。
もしかしたらそんな隆一の弱さや優しさを知っていたから、恵美は隆一を愛したのかもしれない。

 難しい顔をして座っている隆一を見て、恵美もまたその美しい顔曇らせ、眉間にしわを寄せた。

(隆一君今日は変だ。
何かずっと悩んでいるし、とっても具合が悪そう。
何か声をかけたいけれど…。
すっごく恐い顔してる、きっと人には言えないような深刻な問題で悩んでるんだわ。)
 それから一日ずっと隆一は同じであった。
そんな隆一をみて恵美は心配であり、恐ろしかった。
五時間目が終了するとすぐに隆一は帰る支度をする。
部活にいかなくてはならない恵美だったが隆一の事が非常に気になった。
今日はできないけど、今度またあんな風に悩んでいたら勇気を出して声をかけてみよう。
なんとか隆一の助けになるような事をしてあげたい、そう思いながら隆一の教室から出ていく後姿を黙って見つめるのであった。

495:殺しはなかった6
09/04/02 05:43:52 TBGpavgJ
 空にだんだんと嫌な雲がかかりだした。
「これは一雨来るな」そう思いながら隆一は帰りの道を急いだ。
もしかしたらこれは好都合かもしれないぞ。
俺の家からあの橋の下までは近いし行くのは深夜の予定だ。
人に見られないようにして行く予定だったが絶対に誰ともすれ違わないとは言えないじゃないか。
しかしそこで雨が降れば、はるかに人が通る確立は低くなる。
万が一すれ違ったとしても黒い雨合羽があるからな、はっきりと俺の顔はわからないはずだ。

 学校から家までは三十分程であったが、考えを巡らしている間に着いてしまった。
途中また橋の様子を見たがまだ騒ぎになっていない。
少し落ち着いた。
家のドアはスッと軽く開いた。
「ただいま」一言言ってすぐに部屋に閉じこもりベッドに入る。
どうしてもしなくてはならないのは睡眠だ。
昨日の夜はまともに眠っていない。
今日確実に事を運ぶために体力がいるせめて夕飯までは眠らなくては、そんなことを考えながら目を閉じた。


 咲子は隆一の部屋へ続く階段を上がりながら考える。
あの子、家に着くなり自分の部屋にこもって何をしてるのかしら。
やっぱりいつもとは様子が違うわね。
ああ、なんだか恐ろしいわ。
あの子がいつの間にか遠くに行ってしまいそうで。
もう高校生なんだし、そりゃ悩みの一つや二つあってもおかしくないでしょうけど、あの子にはもう少し子供らしく甘えてほしいわ。 

 
 今咲子の夫、つまり隆一の父親は単身赴任中でこの家は隆一と母二人だけだったのだ。
そのせいか咲子は自然隆一の事をいつも以上に気にかけるようになり、隆一の一つ一つの行動に神経過敏になっていた。
そのときの出来事だったため、この隆一の態度はひどく咲子を困惑させた。
しかしまたその神経過敏ゆえに、咲子は結局隆一に何も言えず、ただ不安をつのらすだけなのだ。

「隆一、晩御飯できたわよ」
一度言っても返事がなかったのでもう一度同じ事を言ってから下に降りる。
どうやら聞こえていたようだ、隆一が降りてくる。
隆一は何も言わない。咲子も黙って食卓につく。
「いただきます」
そう言ったきり二人の間にはまた沈黙が流れる。
「ごちそうさま」
たった二言、二人の食事にはそれだけの会話しか無かった。
なんて恐ろしい食事!
咲子にはその食事が息子との最後の食事になるのではないか、そう考えたほどであった。


496:殺しはなかった7
09/04/02 05:46:49 TBGpavgJ
もう外には車の音もしない。
ただ微かに雨と風の音が聞こえるだけだ。
隆一は準備をする。
準備と言っても必要なものはもうつめてあるし、着替えもする必要はない。
あとで大きな雨合羽を着るだけだ。
小さなバックを抱えて隆一はそうっと部屋から出た。
階段を静かに降りる。
いくらなんでもこんな少しくらいの物音で起きるわけはないと思ったのだが慎重にやっておいて損はない。
隆一は階段を降りきる。
そこで思わぬことが起こった。
隆一はそこで母咲子の姿を見た。
とっさにバックを陰に隠す。
「母さん!どうしたの」
「私は今から眠るところよ、それよりお前こそどうしたの」 
「僕は、トイレ」
隆一は嘘をついてごまかす。
「そう、じゃあ早く寝るのよ、明日も学校なんだから。おやすみ。」
そう言って隆一は母と別れた。
隆一は困惑した、これでは外に出られない。
このまま外に出てしまったらきっと気づかれるぞ。
隆一はそう思い、玄関から自分の靴だけ取ってきてもう一度自分の部屋に帰った。
母さんが寝るまで、三十分。
隆一はじっと時計の針を見つめた。
もう良いだろう、そう思い今度は階段を降りないことにした。
実は隆一の部屋の窓からは下に降りることができるのだ、もちろん上ってくる事も。
中学校の時隆一はよくふざけてそこから上がってきたりしていた。
窓から出れば絶対に母さんには気づかれない。
隆一は黒い大きな雨合羽を着る。
もう一度荷物を確認、問題は無い。
窓を開けると雨風が吹き込んできた。
隆一は外に出た。
慣れた調子でするりと下まで降りる。
そうして物置に行き、用意しておいたものを取り、隆一は橋の下に向かった。


咲子はなかなか寝付けなかった。
咲子はいつもであればもっと早く眠っていた。
しかし今日は隆一の事が気になってなかなか眠れなかったのだ。
さっき隆一とあったせいで、咲子はさらに眠れなくなった。
あれからもう三十分くらいたつだろうか。
その時、何か隆一の部屋から物音が聞こえたような気がした。
(隆一、何かやってるのかしら。)
しかしその音は微かで一度聞こえたきりもうしなくなってしまったので気のせいかとも思った。
でも、ちょっと確かめようか。
そう思い咲子はベッドから出た。
確かに何か物音がした気がするのだが、さっきも実は何かしようとしていたのではないだろうか、トイレなんて嘘だったのではないだろうか。
咲子はそんなことを考えながら一歩ずつ階段を上った。
しかし、階段の真ん中辺りで、足を止める。

何の音もしないじゃないか

咲子は踵を返し、真ん中まで上った階段を降りる。
全く、私はあの子のことに神経質になりすぎだ。
そんなことを考えて咲子は、今度こそ眠ろうと思うのだった。



497:殺しはなかった8
09/04/02 05:51:43 TBGpavgJ
隆一は橋の下に向かって走っていた。
雨は想像以上に降っており、隆一は足の先までずぶぬれであった。
非常に仕事がしづらい、そのかわりこれだけの雨だ、人影はどこにも見当たらない。
ましてやあんな橋の近くになど人は絶対にいないだろう。
隆一はもしかしたらもうすでに警察があれを見つけているんじゃないかとも少し考えた。
しかしそうであってもどうする事もできない、行けばわかる、行けばわかるのだ。
橋が見える所まで来た。
雨が強いせいではっきりとは見えない、しかし警察がいるようには見えない。
前に来た時と変わらない、そのままだ!
隆一は急いで橋の下に行った。
橋に遮られ雨が当たらなくなり、叩きつける雨の音がいっそう際立つ。
問題の青いテントは、果たしてそこにあった。
恐る恐るテントを開ける…そこにはあの時と全く変わらない、ずっとテントの一点を見つめている彼がいた。
血がかなり出ている、殴った時返り血はそれほどではなかった。
その時着た服にほんの少しかかっただけだったため血のことはトンと考えなかったので、これだけの量の血が流れていた事は意外であった。
何を思ったか隆一はあらためてやつの顔を見てみようと思った。
つい数日前まで生きていたとは思えない、すでに真っ白になってしまっている顔はまるで蝋人形のようだ。
不思議と腐臭はあまりしてこない。
きっとこの男が骨と皮だけみたいにガリガリに痩せていたせいであろう。
気が進まないが早く事を済ませてしまわねば。
隆一はまずテントの中のあるものを全部川に捨てた。
持ってきたライトで一つ一つチェックして、血のついているものは水でしっかり洗った、もちろんあのクリスタルもだ。
川は水位が上がっていたがこちらに危険な事はなさそうだ。
テントのある場所はかなり高い位置だったのでもしここまで来るとしたらきっと雨は三日四日降り続かなければならない。
それぐらいここは安全だ。
そうでなければこいつもここにテントを張ろうとは思わなかっただろう。
テントの中の物は全て捨て終えた。
後は死体だけだ。隆一は死体は川には捨てない事にした。
流れていく途中で見つかるかもしれないことを考えるとそれはできなかった。
隆一は物置から取ってきたスコップで穴を掘る。
深い穴だ、絶対に見つからないように深く掘るんだ。
雨のせいで土が軟らかくなっており、非常に掘りやすい。
一心不乱にただ掘り続ける。
周りに誰かいないかと確認すらしなかった。
不用意であったが幸い、その時は全く誰もそこを通らなかった。
もし通ったとしても暗くなっている橋の下で黒い雨合羽を着ている隆一を雨の中探すのは困難だったかもしれない。
隆一はふと思った。
今までで川岸なんかに死体を埋めた男が他にいただろうか。
普通山奥など人目のつかないところだろう。
なんて俺は大胆な真似をしているんだ。
そう思い隆一はこんな状況で笑いがこみあげてきた。
かなり深くまで堀り、次に隆一はテントの中から死体を出す。
ちょうどすっぽりと死体が入るような大きさで上手く穴が掘れていた。
後は土をかけて埋めるだけ、見る見るうちに死体は土で埋もれていき、ついに彼はこの世にいなくなった。
足で軽く地ならす。
しかし雨が降っているのでそんなことしなくてもきっと掘った後はわからなくなるだろう。
今まで自分にあれ程強い影響を放っていた物が今はもう無くなってしまった。
隆一は何か不思議な心持がした。
後はビニールテント、これも良く洗って血を落とすがこれは川に流さない。
万が一見つけられたら川岸に住んでいた人が流されたと思うやつがいるかもしれない。
それがきっかけでこの橋の下にたどり着き、死体を見つけてしまわないとは限らないのである。念には念を。
隆一はずっと作業中していた軍手だけを川に流し、ビニールテントは畳んで手に持って家に引き返す。
それは途中のゴミ捨て場でゴミ袋につめ捨てた。ついでに着ていた雨合羽も捨ててしまう。
もう一着実は雨合羽を用意していたので大丈夫だ。
こういうその時身に着けておいたものは早めに処理するべきなのだ。
あとは家に帰るだけ。隆一は疲れきっていた。
体力的にもそうであったが、死体や凶器を処理した事で一気に緊張の糸が切れたのだ。
(早く家に帰って眠りたい)
しかし、雨の降り続く視界の悪い道は終わりの見えない、まるで永遠に続くかのように見え隆一を苦しめるのであった。

498:創る名無しに見る名無し
09/04/02 05:59:53 TBGpavgJ
殺しはなかった
前半部投下させてもらいました
どこに投下して良いのかわからなかったのでとりあえずここに


499:創る名無しに見る名無し
09/04/02 09:04:54 JmOdzLUh
夏と花火と私の死体みたいだ
面白く読めました
GJ

500:創る名無しに見る名無し
09/04/02 14:52:41 UvbVzI76
確かに
高校のとき書いた小説だから乙一の影響もでてるかも

帰ってきたんで中盤投下します

501:殺しはなかった9
09/04/02 14:55:18 UvbVzI76
昨日の事もあって、咲子は少し疲れた目をしていた。
顔を洗ってもむくみは引かない。
本当に私は何をやっているのだろうか。
隆一の事は心配だけど、それで私が不安そうにしていれば隆一はもっと不安になるに違いないわ。
いつも通りに、朝ごはんの支度をして、そうだ、隆一をそろそろ起こさなくちゃ。
「隆一、朝ごはんできたわよ」
「隆一?」
返事は全くない。やはり昨日の夜何かあったのかもしれない。
あの時私がちゃんと確認しておけば良かったものを。
もしかしたらあの時、隆一の部屋に誰か忍び込んできていたのかも、隆一に何かあったら、私…。
咲子はそう考え焦って、階段を駆け上がる。
「隆一!」
ベッドの上には悪夢にうなされ、脂汗をかき悶え苦しんでいる隆一の姿があった。



502:殺しはなかった10
09/04/02 14:59:41 UvbVzI76
「じゃあ、出席をとるぞ、朝井…井上……」
澤田恵美は昨日の隆一の異様な空気を感じ取っていたため、
隆一の席が今日空になっている事にひどく不安を覚えた。
隆一君、いったいどうしたんだろう…。
先生に聞いてみたところ、隆一は今日、熱を出したということらしい。
しかし恵美はどうもふにおちなかった。何か嫌な胸騒ぎがする。
小学校の頃から隆一とは一緒だったのだ、家の場所くらいはわかる。
それに、かなり昔の話だが、一度だけ恵美は隆一の家に行った事があった。
恵美の家から隆一の家までは、別段近いわけでもない。
けれどもどうしても気になったので。
プリントを届けるという口実で、隆一の家を放課後訪ねてみる事にした。

「ピンポーン」
ベルを鳴らしてしばらくすると、ドアが開き、咲子が玄関に顔をだした。
「あら、恵美ちゃん、久しぶり。」
恵美は咲子の姿を見て、相変わらず美しい人だと思った。
しかしどこかその顔が疲れており明るく振舞ってはいるがそれが空元気であるという事まで
恵美は瞬時に読み取った。
「こんにちは。あの、隆一君に、今日配られたプリントなんですけど。」
「あら、遠いのにわざわざありがとう。
隆一は今寝ているんだけどね、どうぞあがって頂戴。」
「いえ、すぐ帰りますので。それより、隆一君はどんな様子なんですか?」
「それが、朝になって急に熱を出して…医者に行くのも本人は嫌がるし…。」
「あの、実は隆一君、昨日から学校でも少し変で、もしかしたら、熱がでたのも、何か関係があるんじゃないかって…。
どう変だったかっていっても、具体的には言えないんですけど、何か、悩んでいるみたいで。
普通にしようとしてたみたいなんですけど、その日はなんだかすっごく、恐いっていうか…。」
「恵美ちゃんもそう思ったの?実は私も思ったのよ!
でも変だったのは確かおととい、学校から帰ってきてからよ、おととい、学校で何かあったんじゃないの?」
「おととい隆一君は放課後残ったりせずに、すぐ家に帰っていたようですし、学校でも普通でした。」
「という事は、学校で何かあったんじゃないってこと?」
「隆一君、なんか家で変わった様子ありませんでした?」
「変わった事…。
そういえば昨日はずっと部屋に閉じこもっていたわ。
そんな事あまりないのよ。それにそういえば…。
いや、でもこれは関係ないわね、なんでもないわ。」
「何ですか?教えて下さい。」
「たいした事じゃないのよ。
ただちょっと夜中に、隆一の部屋から物音が聞こえた気がするの。
でもただの聞き間違いだと思うわ。あまり気にしないで。ごめんね、でもね、どうしてもその音が気にかかっているのよね、いつもだったら物音なんてほとんど気にしないのに。おかしな話よね。」
恵美はそれを聞き、隆一が昔、自分の部屋から外に出れると話していた事を思い出した。
もしかしたら、隆一はその晩…
「ガタッ」
奥の部屋から物音が聞こえてきた。
「あっ、隆一が起きたみたい。恵美ちゃん、あっていかない?」
「いえ、もう帰ります。」
「そう。プリントわざわざありがとう。隆一にも言っておくわ。じゃあね、気をつけて。」
恵美は隆一の家を後にした。

隆一の家からの帰り道、恵美はずっと考えていた。
(隆一君は昨日の夜、外に出たんだ!そうだわ、そうに違いない。
でもだとしたらどこへ?何のために?)
確証は何もなかった。
しかし恵美には隆一がその夜、何か大切な用事のため家を出たことは絶対の事実であるかのように思えたのであった。



503:殺しはなかった10
09/04/02 15:02:10 UvbVzI76
さっき母さん以外の声がしたな、あの声は、恵美?
なんで俺の家に?いったいどうしたんだ、いきなり。
 すぐに声は止み、ドアを閉める音がした。
どうやら恵美は帰ったようだ。咲子が自分のいる部屋に入ってくる。
「隆一、起きたの?」
母には大して変わった様子はなかったので、大丈夫だとは思ったが、隆一は恵美が何をしに来たのか探りを入れてみることにした。
「うん、大分熱も下がったみたいだよ。それより、さっき来てたの恵美でしょ?あいつ、どうしたの?」
「学校のプリント、持ってきてくれたのよ。ほら。」
それは特別急いで渡さなければならないという内容のものでもなかった。
しかも恵美の家は帰り道についでにという場所ではないはずだ。
俺の家からなかなか距離がある。いったいどうして。
「でも、恵美の家はここから遠いでしょ?なんでわざわざきたのかなぁ?」
「なんか、熱出したって聞いて心配したらしいわよ。
それでわざわざ顔出してくれたのよ」
「でもさ、今までも熱出して学校休んだ事はあったけど、そのときは恵美、来たりしなかったよね?
今回だけってどうしてかな?」
咲子は一瞬苦い顔をした。
自分の息子の鋭い指摘に、本当の理由を言わなければならないかもしれないと思ったのだ。きっと隆一が学校で変わった態度をしていたというのは本当だろう。しかしそれを気づかれたくないと思っている隆一にとって、それを話すことは大きな精神的負担になるはずである。
できればなんとか誤魔化してしまいたい。
隆一はその表情を見逃さなかった。
「母さん、何か別に理由があったんでしょ?気になるなぁ。教えてよ」
こうなったら隆一はどんな事をしてでも聞こうとしてくるだろう。
この子に隠し事はできない。咲子はそう思った。
「実はね、恵美ちゃん、昨日学校で隆一の様子がおかしかったって言っていて。
そんな事があって急に熱だから、きっと心配してたんだと思うわ。」
隆一は驚いた。自分の変化に気づいている人がいたとは。
母に自分の変化を知られるのは、正直仕方のないことだと諦めもあった。
しかし学校の者にまでそれが悟られていたとは、隆一は自分が置かれている状況がどれだけ危険な状況であるか瞬時に悟った。
これは一度恵美と話しておかなくてはならないな。
咲子はそんなことを考えこむ隆一の横顔に、深い悲しみと不安を覚えるのだった。

504:殺しはなかった12
09/04/02 15:05:43 UvbVzI76
恵美とは昼休みに話そう、もしかしたら長い話になるかもしれない。
どこまで知っているのかわからないからな。
しかし知っていたとしてもきっと些細な事だろう。
そうだ、俺があれを隠したって事は誰にもばれていないはずだ。
絶対に大丈夫だ。
隆一は一日休んでいただけで、この日は学校に来ていた。
しかし体調が戻ったのかというとそういうわけではないようだ。
体調を崩しているのを悟られないように必死に一眼を時限目を乗り越えた。
授業の合い間の十分間であるが、隆一以外の生徒は談笑を楽しむ。
彼だけはそのどこの談笑のグループにも入らない。
これは別段変わったことではなかった。
彼はいつでもこんな時は一人物思いにふけっていて、誰とも交わろうとはしないのである。
 しかし、今日はこの時間いつもとは少し変わったことがおきた。
考え事をしている隆一には近寄りがたい雰囲気が漂っていたが、今日はそこへ話しをしに来た人物がいたのだ。
 その人物は背が高く、がっちりとしている上に肌は浅黒い。
初めてこの人物にあった人でも彼が何かしらスポーツをやっていたという事が容易に想像できるだろう。
それだけ聞くと、この男が体育会系の堅物に感じられるかもしれないが、彼の顔を見ればそんな考えは一気に消し飛ぶだろう。
その顔にはまだかなり幼い表情が残っており、隆一の方に愛想よくニコニコと近づいてきた。
白い歯と細い目、その顔は本当に少年をただ大きくしたような、そんな純真さを持っていた。
 彼の名は川村康祐、隆一と同じクラスの生徒であり、明るく社交的。
さらに世話好きという特徴を持っていたが、その性質は時におせっかいとも思われるほど強いもので、彼は隆一とは全くと言っていい程正反対の人間だった。
もちろん、この罪の無い男は誰からも愛され、彼自身誰も彼もを愛していた。
 そんな彼がいったい何の用であったのか?

505:殺しはなかった13
09/04/02 15:09:13 UvbVzI76
「隆一、もう熱はいいのかい?」
 隆一は康祐の事を疎ましく思った。
精神的に疲れきっている隆一としては早く康祐に立ち去ってもらい、一人になりたいというのが本当であった。
それでも隆一は怪しまれないようにと普段どおりを心がけ、康祐に応える。
「ご心配ありがとう。でももう大丈夫だよ、なんてことはない。
ちょっと風邪にやられただけだよ。一晩ぐっすり寝たら治ってしまったよ。」
「そうかい、何だかまだ少し顔色が悪いようだったから心配だったんだよ。」
「うん。もしかしたら風邪で食欲がなくて、昨日食事をあまりとらなかったからきっと腹が減っているんだ。
栄養をとれば顔色も戻るよ。」
「ならいいんだけど…。ところで隆一、君は青いテントがどうなったか知っているかい?」
隆一はその言葉を聞き驚きを隠せなかった。
「青いテント?」
「そう、橋の下に前あったやつだよ。
昨日見たら無くなっていたんだ。お前なら何か知ってるかもって思ってさ。」
 どういうことだ、何故こいつが青いテントを知っているんだ?
何故俺があのテントの事を知っているとわかったんだ?
こいつ、何を知っているんだ?何か言わなくては。
ここは慎重に、相手がどれぐらい情報を持っているか聞き出すんだ。
「ごめん、わからないよ。何の事だい?それにどうして君は僕がそれを知っていると?」
「あぁ、そうか、知らないのか。
いやね、最近なんだよ、あのテントを見つけたのは。
三日前だな、夕方ちょうど帰り、五時頃だな、何か橋のしたから慌てて上がってくる人を見たんだよ。
それで何かあったのかなって、俺もその橋の近くに行って見てみたんだよ。
そしたら下に汚い青のビニールテントがあってさ。
草ぼうぼうに生えててなんかそこ気味悪かったんでその時はそのまま帰ったけど、昨日見たらそれが消えてたんだよ。
それで何か気になって今思い出してみると、遠めだったから間違ったんだと思うけど、その慌てて上がってきたやつってのがお前に似てるんだよ。
時間帯もお前が帰った時刻とたぶん合うだろ。
だからもしかしてあれがお前で何か知ってるんじゃないかと思ったわけ。
勘違いだ、悪いな。あれ、もう授業だ、じゃあまたな。」
目撃者、間違いない。彼は隆一があいつを殴って逃げ出したとき、そこにいたのだ。
彼はひょっとすると恵美以上の危険人物かもしれない。
昨日と全く同じ熱病がまた隆一を襲ってきた。


506:殺しはなかった14
09/04/02 15:10:45 UvbVzI76
一時間目が終わった後康祐と話してから隆一の様子はまた徐々におかしくなっていった。
隆一の隣の席の生徒は何度も保健室に行くようすすめていたが隆一はそれを断った。
しかし三時間目になると、彼の顔は明らかに病人の顔になってしまっていた。
授業を受けている場合でなく、すぐにでも休息が必要であるということが誰の目にもわかった。
とうとうその時間の中ごろになって隆一の隣の席の子が、手を上げ彼の異変を報告した。
「先生、隆一君の様子がおかしいです」
 隆一は絶対に人に自分の体調が優れないことを悟られたくなかったはずである。
しかしこの時ばかりは隆一は元気なふりをする気力さえ失っていた。
保健室に連れていけという先生の言葉で隆一の所に係りが行ったが、隆一はすんなりとその人に身をゆだねてしまっていた。



507:殺しはなかった15
09/04/02 15:12:21 UvbVzI76
 思えば朝から隆一の様子は変だったわ。
昨日まで熱を出していたというのに今日は早くに起きだして
珍しく新聞を読んでいたみたいだったし、ニュースも熱心に見ていたわ。
熱は大丈夫なのか聞いたら、下がったって…確かに測ってみたら熱はないようだったけど
あの子の顔はまるで狂人のようだったわ。まるで自分の息子じゃないみたいだった…。
まぁ、私ったらなんて恐ろしい事を!隆一は今きっと大変な時なのよ!
そう、誰にだって何か深く悩む時期はあるものだわ。
そんな時こそ私が隆一を支えてあげなきゃ。
それを私は自分の息子じゃないみたいだなんて…。
早く隆一をむかえに行ってあげなくちゃ、きっと私が来るのを待っているわ。
それにしてもこんな時に限って良く信号に引っかかるものね。
でもこの信号を超えればもう学校はすぐだわ。
待っててね、隆一。 

508:殺しはなかった16
09/04/02 15:15:20 UvbVzI76
恵美が保健室に来た頃隆一はもう眠っていた。
病人は眉間にしわを寄せ必死に悪夢に耐えていた。
その顔を見て恵美は隆一に申し訳なくなった。
こんなに隆一が苦しんでいるのに、自分は隆一の秘密を探ろうとしていた。
彼の心をさらに傷つけようとしていたのだ。
実は今日、隆一と話す機会があれば、恵美は隆一がおとといの夜外に出たかどうか、もし出たとしたらどこに何をしに行ったのか聞くつもりでいたのだ。
しかしもうすでに恵美はもうそんな事を考えてはいなかった。
彼女はただ、隆一に早く元気になってほしい、そう思うばかりであった。
休み時間保健室はいつもは何人か人がいて騒がしいはずなのだが
今日は病人がいるということで皆先生が追い出したらしく
隆一一人だけだった。
保健の先生は恵美がかなり熱心に隆一を看ていてくれるのがわかると
隆一の事は任せ、少し他に仕事があると言って保健室を出た。
「ガタ」
 ドアの閉まる音がすると完全にそこは隆一と恵美、二人だけの空間になった。
恵美はこんな状況だというのに、隆一と二人という事で鼓動が速くなっている自分に気づいた。


509:殺しはなかった17
09/04/02 15:18:18 UvbVzI76
恥ずかしくてじっとしていられなかった恵美は
隆一がかなり汗をかいているのでタオル探すことにした。
何かしていれば少しは緊張もほぐれる。
透明なカラーボックスの中にハンドタオルがいくつか入っていたのを見つけた。
濡らして隆一の汗を拭いてやる。
「うっ!」
「ごめん、起きちゃった?」
 隆一が起きてしまった事で恵美の胸はさらに高鳴った。
恵美の頬はほのかに赤くなる、その顔は高校生とはいえ恋する一人の女性であることに変わりはなかった。
この時の彼女の顔を見て美しいと思わない男はいないだろう。
隆一は目覚めてすぐであったが恵美を見てその表情の意味をなんとなく悟った気がした。
 もしもここで隆一が殺人など犯しておらず
これがただの熱病であったのなら、たちまち二人は恋に落ち
ロマンスが生まれていたことだろう。
だが隆一には今恋愛などに頭を使っている余裕は無かった。
 しかしただ一つ、この恵美の表情を見て隆一の中で考えが変わった事がある。
彼は恵美が自分について何を知っているか問いただそうとしていた。
けれども彼女の美しい、自分に対する愛情に溢れた顔を見ることによってその気持ちがすっかりなくなってしまったのだ。
これは理屈ではない。
実際に良く考えてみれば、恵美の態度を見ても、それ程重要な情報を持っているとも思えない。
隆一は完璧に恵美に対する警戒を解いていた。
「もう少し横になっていなきゃ駄目だよ。
お母さんがもうすぐむかえに来るって。
それまで私ここにいるからちゃんと寝ていて」
 彼は心地良かった。自分をこうも心配して、愛情を注いでくれる人がいる。
同時に恐ろしく胸が締め付けられる瞬間があった。
愛してくれている人間のためにも自分は逃げきらなくてはならない。
彼は一時の心の安らぎを得た代わりに、今まで以上の精神的負担を背負ってしまったのである。
「ガチャ」 
 そんな事を考えていると保健室のドアが開き、先生が帰って来た。
どうやら咲子が学校に着いたようである。
先生は隆一を呼びに来たらしい。
隆一は恵美と先生にお礼を言い保健室を去った。
恵美は玄関までついていくと言ったが彼はそれを頑なに拒否した。
 家に帰れば次の日は学校は休みだ。
隆一の長い一週間はやっと終わろうとしているのである。
しかしそれにしても今日は恐ろしい事実を知ったと、隆一は今日を振り返った。
康祐が目撃者であったことである。
しかし隆一はもっと重要な、自分を危機的な立場にする事実を知らずに学校を去ってしまったのである。
 恵美は隆一がおとといの夜外に出たことを知っていた。
そして康祐は隆一が青いテントを見に行っていたのを知っている。
この二つの情報がそろった時、隆一はかなり危険な立場に立たされるだろう。
もしも恵美に話を聞いていたら隆一は恵美と康祐との接触を何とかして食い止めたはずだ。
しかしそうはならなかった。
だからと言って私は隆一が恵美に話を聞かなかったのは失敗だったとは言わない。
全てはこうなる運命だったのである。


510:創る名無しに見る名無し
09/04/02 15:20:40 UvbVzI76
われながら長い小説だ
でももうちょっと続くから
また後で投下しにきます

511:殺しはなかった18
09/04/02 17:30:44 UvbVzI76
 隆一が保健室から帰り、恵美も教室にでも戻ろうと思ったときだった。
保健室のドアが開き川村康祐が入って来た。
「あれ?隆一は?」
「今さっき帰っちゃった。あなたも心配で見に来たの?」
「うん、そんな感じ。だってさ、あいつが気分悪くしたの、俺のせいかもしれないから」
「それ、どういうこと?」
「隆一さ、二時間目辺りから様子がだんだんおかしかったってあいつの隣の席のやつが言ってたんだよ。
それで考えてみたら俺実は一時間目が終わってすぐ、あいつと話してるんだよな。
今思えばあいつ俺としゃべってから体調壊したんじゃないかと思うんだ」
「なんでそう思うの?」
「隆一俺と話していてさ、一瞬びくっとしたような気がするんだよ、なんか凄く驚いたみたいに。
それは青いテントの話をした時なんだけどさ、俺の帰り道、って言っても寄り道なんだけど小さな橋があるんだよ。そこの下に前まで青いテントがあったんだけどそれが急になくなったんだ。それで気になってなんか知らないか隆一に聞いたんだよ。
あいつは知らないって言ってたよ。
でも疑うわけじゃないけどあの驚き方、何か知ってるのかもって思うんだよね。
それでその事が気になって体調崩したんじゃないかって」
「でも、川村君はなんで隆一がそのテントと関係あるって思ったの?」
「実はさ、あいつがその橋の下から上がってくるところ見たんだよ。
あいつは自分じゃないって言ってたよ。
でも今考えても、あれは隆一だった気がするんだよな」
「川村君、今日放課後暇?」
「ああ、暇だけど何?」
「今日帰りに私をその橋の下に案内して!」
「え、でも澤田さん家って○○町だろ?橋とは全然違う方向だよ」
「いいの。どうしてもその場所を見ておきたいの」
康祐は恵美の真剣な態度に驚いてたが、しばらく考え込み口を開いた。
「……わかった。じゃあ放課後、玄関で待ってるよ。」
そう言って康祐は保健室を後にした。
恵美は自分で隆一の事はもう疑わないと決めたはずだったのに
今こうしてまた隆一の秘密を探ろうとしている自分がいる矛盾を苦しく思った。
しかしあのまま隆一を放っておくなどということはどうしてもできなかった。そこに行けばきっと隆一の苦悩の原因がわかる。
そして彼の力になってあげる事ができるはずだ。
彼女は自分にそう言い聞かせるのであった。


512:殺しはなかった19
09/04/02 17:33:38 UvbVzI76
 「俺が隆一らしき人物が土手から上がってくるのを見たのは火曜日、三日前だったよ。
結構遠くから見たから見間違えかもしれないけど、あれは確かに隆一だったとおもうんだよな」
三日前!?それを聞いて恵美ははっとした。
全ての話を総合しても完全につじつまが合うのだ。
三日前と言えば隆一のお母さんが、その日は学校から帰ってから隆一がおかしかったと言っていた日である。
三日前、隆一は学校では確かに普通だった。
という事は学校から家に帰るまでに何かが起こったということである。
その何かとは今私たちが見に行こうとしている場所で起こったことではないだろうか。
いや、確実にそうだ!川村君が見たのは絶対に隆一だった。
恵美はそんな事を考え、隆一が何をしたのかという不安と、これで隆一を救えるかもしれないという期待で一人興奮していた。
そんな様子を見て、康祐も我慢できなくなった。
「澤田さん、君は何を知っているんだい?
あの青いテントってそんなに重要なのかな?
俺にはさっぱりわかんないよ。
そもそもなんでそんなに隆一の事を気にかけるんだよ」 
康祐の鈍感な台詞に、恵美はさっと顔を赤くしたが、それすらも康祐は気づかなかった。
隆一が好きだからなど言えるはずはない。
しかし自分が知っている事を話すということはもしかすると良い考えであるかもしれないと恵美は考えた。
これからまた隆一はおかしくなるかもしれない。
そこでやはり男の子で隆一の心配をしてくれる人ができれば、かなりの助けになるのではないかと思ったのだ。
その隆一を助けてくれるような男としては、康祐は文句のない人のように思える。
これだけ他人に対して優しく、世話好きな人物は他にそういないだろう。
きっと話せば隆一の事を気にかけていてくれる。
「実は…」
そう言った途端、もしも隆一の秘密が本当に人に知られたくない事だったら、という考えが頭によぎった。
私は隆一のどんな恐ろしい秘密を知ったとしても、誰にも言わないし、隆一を非難しない自信がある。
しかし他の人はどうだろうか。
きっとそうではないだろう。
そう思い、恵美は次の言葉を言い出すことができなかった。
「隆一、今日大変そうだったよな。
何かあったのかな?
もしかしてその青いテントが隆一の今日の病気と関係あるのか?」
「……」
「話したくないならいいさ。
でもな、俺だって隆一が心配だ。
話してくれなくても自分でなんとか隆一の不安の種をさがす。
それで、俺ができることがあったらなんでもしてやるさ」
恵美は思った。
この人にかけてみようと。
他の人物だったら信用できない。
しかし彼なら隆一を本当に思いやった行動を取ってくれると今の言葉を聞いて確信したのだ。
恵美はゆっくりとこれまでのいきさつを話し始めた。
「って事は、今から行くところに隆一を悩ましている手がかりがあるかもしれないってことだな」
「うん」
「そうか…ほら、見えてきた。あれがその橋だ。
とりあえず行ってみよう。何かわかるかもしれない」
そういうと興奮を抑えられず二人は足を速めた。
もうすぐだ、もうすぐ何かわかるかもしれないのだ。


513:殺しはなかった20
09/04/02 17:36:49 UvbVzI76
それから数日が経過した。その間何事も起こらなかったというわけではない。
しかし恵美や康祐は橋の下を見に行ったその日から今日まで全く隆一とコンタクトをとろうとしなかったのだ。
だからといって、隆一にもう関心が無くなったのかというとそうではなかった。
たえず隆一の行動には気を配っていたし、恵美と康祐の間でのやり取りは何回かあったようだった。

当の隆一本人はというと相変わらずいつもとは違った異様な雰囲気を放ってはいたが
他の生徒にばれるほどのものではなく、最初に恵美だけが感じたようなあの程度の違和感であった。
隆一の苦悩は消えたわけではなかったが、今は少し落ち着いたのか
熱を出すという事はなく体調が良いとは言えないが安定した状態であった。

咲子の心配もまだ残っているには残っていた。
しかしあの時隆一が倒れたときほどではなかった。
最初は気にかかっていた新聞やニュースよくチェックするようになったという事。
それも徐々に気にかからなくなり、些細な事であると思うようになった。

そんな時だった、この状況を変えるような大きな変化が起こったのである。

514:殺しはなかった21
09/04/02 17:39:54 UvbVzI76
 良く晴れたこの日、あの橋にはこれまでにない程の数の人が集まっていた。
膝丈ほども高く伸びている草を、額に汗しながら刈る人々。
 もちろんそのような変わった事態を隆一が知らないわけはなかった。
なぜなら彼はちょくちょくこの橋の近くを通るようにしてなにか変わった様子がないかどうか確かめていたからだ。
 学校が休みであったので隆一は午前中から橋の様子を見に行った。
そこでこの様子を目撃したのだ。
かなりの人数が集まっていたので死体が見つかったのかと最初は焦ったのだがそうではないらしい。
全員草を刈っているようでどう考えても死体発見、という様な様子ではなかったので少し彼は安心したが
それでも死体が埋めてある場所に人が集まっているというのは彼にとって危険なことであったので
何故急にこんな所の草刈をしているのか作業をしている者の一人に話を聞いてみた。
「これかい、これは…」

話によると、今集まっているのはボランティアグループで
この橋の土手にたくさんのコスモスを植えようとしているという事だった。
(コスモスを植える?何を言ってやがる、こいつら。
今まで見向きもしなかったはずの橋じゃないか。
もしかしてあのテントが無くなったからこんな事を計画しだしたのか?
計画を始めた理由?そんな事どうでもいいじゃないか。
そうだ、それより今自分がおかれている状況だ。
なにしろ花を植えるんだ。
という事は土を掘るだろうしあの死体はみつかるにきまっているじゃないか!
今はあのやつを埋めた所は日陰になっていて草も少ないのでほとんど近くに行くやつはいないが
植える作業になってしまったらそうもいかないだろう。
くそっ、どうしてこんな事になるんだ。
俺は今何をすればいい?ただ待つのか?死体が出てくるまで…。
そうだな、それ以外は無いのかもしれないな。
死体が見つかったところでどうだというんだ。
そうだ、絶対に隠し通してやる。俺は捕まりたくなんかないんだ!)
 この日隆一は、橋からどこをどう家までたどり着いたかわからなかった。
そしてやっとのことで帰った時彼は高い熱を出しており
数日前学校で保健室に運ばれた時とほとんど同じような状態であった。
玄関のドアを開けたかと思うとそのままどさりとその場に倒れ落ちた。
大きな音がして咲子は玄関に駆けつけた。
そこにはぐったりと倒れこんでいる息子の姿があった。
彼女は息子の名前を呼び、体をゆすった。
それでも隆一の意識はだんだん薄らいでいく。母咲子の声が遠くに聞こえた。



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