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他に行き場所の無い作品を投稿するスレ - 暇つぶし2ch133:創る名無しに見る名無し
08/11/08 18:38:43 TheFhTkI
『今までありがとう』

「今までありがとう…」
県大会の準々決勝で敗北した後、ロッカールームで監督は僕らにそう言った。

いつもは厳しい監督のその言葉に、僕たちは驚いた。普段は一切感情を表に出さない人だったからだ。
試合に負けて号泣する僕らを見守りながら、監督は遂にラグビー以外の言葉を僕らにかけてきたのだ。

僕らは泣くのを止めた。ハッとして監督の方を向いた。
窓から差し込む夕陽で朱に染まったロッカールームが静寂に包まれる。
そんな中で女子マネージャーのすすり泣く声だけがかすかに響く。

監督はもう一度僕たちを眺め回した。
一人ひとりの目をしっかり見据えて、僕たちの心の中を掬い取るようにジッと見つめてくる。

普段だったら絶対に目を合わせられないほど怖いのだが、今日は違った。
真っ直ぐ見つめる監督の視線に、真正面から堂々と答えた。縋るのではなく、頼るのでもない。

全てを出し切り、堂々と戦った僕らにはやましいところなど何も無い。
監督に対し、今は一人前の男として対峙できる、それが今の僕らだった。
最後の学年の、たった数試合…それだけの経験でも、我々は少年から大人になったのだ。

今日で最後…今日がみんなと一緒に戦う最後の日だ。

かつて初戦敗退の常連であったしがない県立高校のラグビー部員である僕らは、遂に準々決勝にまでたどり着いた。
そして今日、そこで県きっての強豪校と真正面からぶつかり、華々しく散華したのだ。

堂々とぶつかり、挫けることなく、逃げることもなく戦った末に…。

悔しかった、これで終わりだと思うと悲しかった。
だがチームメイトの誰もが逃げずに戦ったことが、何時しか僕らの中で誇りとなっていた。

だが今は、時にはその厳格な指導に怒り、憎みさえしたその監督の目を、堂々と見返すことができた。
尊敬と、感謝の念を持って、逃げることも無く正々堂々と。

監督は僕らの姿を見て、納得したように少し微笑んだ。
最後にもう一度、監督は僕ら全員に向かって言った。

「キミ達は今日まで良く戦った。今までありがとう…」
それが監督の姿を見た最後の日だった。


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