09/03/10 20:28:22 6Fuodsz9
“farewell say Good-bye”
休日の夕方だというのに、駅のプラットホームは人がまばらだ。
傾きかけた太陽が染め上げたオレンジ色の駅の構内は、寂しさをいっそう強くする。
電車が来るまで、あと三十分ばかり。
時間なんて止まってしまえば良いのに、刻一刻と、過ぎていく。
「また、会えるよな」
「うん。絶対に会えるよ」
隣に座った彼が言葉短く呟き、私も言葉短く答えた。
ずっと一緒だった幼なじみの彼とはこれからもずっと一緒だと思っていたのに、家の事情で離れ離れになる。
我が儘を言って、家族とは別に電車で新しい街に向かう私に残された時間は、あと十五分。
言いたい事はいっぱいあるのに、何一つ言葉に出来ない。
沈む夕陽が、時計の針の音が、アナウンスの声が私を急かすけれど、言葉が詰まってしまう。
無言のまま、もどかしい時間が過ぎていく。
薄暗くなっていくのにつれて、涙が視界を閉ざしていく。
サヨナラは笑顔で言おう、と決めていたけれど、堪えきれない。
「―私、寂しいよ―」
「ああ、俺もだ」
同じ気持ち。嬉しいけれど、悲しい。
零れる涙を拭けないでいた私の手に、温かくて柔らかい感触。
「お前の手、冷たいな」
「あなたの手、温かいね」
握り合った手は、体温をお互いに伝え合う。
それは言葉に出来ない想いを交換するみたいで、しっかりと放さないように握り締めた。
チャイムが電車の到着を知らせる。
向かってくるライトの光を見ると、サヨナラが本当なのだと強く感じた。
目の前に止まる電車、開くドア。降りてくる人はいない。
「それじゃあ、行くね」
「最後まで、送るよ」
重い足取りで電車に乗る。
彼はドアの前でうつむいている。
「サヨナラ、だね」
言いたくない言葉だけが、滑らかに口に出来た。
「―手紙書くから、絶対」
閉まるドアが私と彼を隔てる。
私は、ドアのガラスに顔をあてた。
「絶対だよ、私も、手紙書くから!」
景色が流れ始めると、彼が私を追いかけてくる。
私も電車の後ろに走る。
小さくなっていく彼、そして駅。
お別れだけど、サヨナラじゃない。彼はそう言わなかった。
だから、私たちは。
―また会えるよね、絶対。
《了》