【お題で創作】月間創作発表グランプリ作品投稿スレat MITEMITE
【お題で創作】月間創作発表グランプリ作品投稿スレ - 暇つぶし2ch2:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/30 22:51:04 17DboC+l
投稿規定
【全ジャンル共通】
 名前欄には以下のように入れる。
  X月「タイトル」(例:10月「創作発表物語」)
 タイトルの後ろにはトリップ推奨。

 本文最初にどのスレからの投稿かを示す。ない場合は書かなくてもおk。
 その前、もしくは後に使ったお題を示す。
  例1:雑談スレから投下します。お題は「秋」です。
  例2:投下します。お題は「秋」と「誕生」を使いました。

 アップローダーは創作発表板アップローダーを推奨。
 URL:URLリンク(www6.uploader.jp)

【文章】
 5レス以内。複数レスになる場合には必ずタイトルの後に番号を付けること。
 投下終了後には「終わりです」「完」などをつける。
 規定レス内に納まらないなどの場合はアップローダーを使うこと。TXTファイルもしくはHTMLファイル推奨。

【画像】
 GIFファイル・JPEGファイル・PNGファイル推奨。

【音楽】
 MP3ファイル推奨。

【料理】
 レシピ、写真等。詳細は文章や画像に準ずる。

「批評」厨、荒らしはスルー。

3:1 ◆LV2BMtMVK6
08/09/30 22:54:26 17DboC+l
十月のお題は「秋」「十」「誕生(ハッピーバースデイ)」「新・初」です

明日零時より作品を受け付けます
最初は集中が予想されるので投下前にはリロードし、割り込みがないように気を付けてください
最初に必ずテンプレを読んでください。


4:1 ◆LV2BMtMVK6
08/09/30 23:55:26 17DboC+l
あと五分ですかね、一番のりとか狙われてカオスになると困るので
ぼちぼちお願いします

5:1 ◆LV2BMtMVK6
08/10/01 00:01:18 AZo4UwZg
ただいまから開始します

6:10月『誕生』1/4 ◆phHQ0dmfn2
08/10/01 01:09:09 b29wPYDJ
投下します。掌編作品で、お題は『誕生』


「ハッピー・バースデイ」
 青年はつぶやいた。
 その言葉に、うれしそうな様子はまったくない。それどころか、どこか自嘲的な響きすら
こもっている。
 小さなアパートの一室、夜だというのに明かりも点けず、ベッドに寝そべる青年。
 カーテン越しにわずかに差し込む月明かりが、彼の憂いに満ちた顔を照らす。瞳にたまっ
た涙に、その光が反射する。
 青年には、親しい友人も恋人もいなかった。家族は早くに無くし、天涯孤独の身。誕生
日だというのに、自分のことを祝ってくれる人間は誰一人としていない。
「恋人なんて、俺には一生縁がないんだろうな……」
 半ばあきらめたように、小さくつぶやく。目尻をつたい、涙がこぼれ落ちた。

「そんなことはないわ」
 突然、話しかけられた。
 驚いて起きあがり声がした方を見ると、部屋の片隅には一人の少女が立っていた。その体
は透き通り、淡い輝きを放っている。
「君は……ゆ、幽霊か?」
「失礼ね、わたし、これでも女神なのよ」
 言われてみれば、どこか神々しいオーラのようなものが漂っている。

7:10月『誕生』2/4 ◆phHQ0dmfn2
08/10/01 01:11:32 b29wPYDJ
「あなたの願いを叶えに来たの。恋人がほしいんでしょ? わたしが力になるわ」
「ほ、本当かい?」
「ええ、嘘なんてついても仕方ないわ。さあ、まずはあなたの名前を教えてちょうだい」
 言われるままに、青年は自分の名を告げた。だめでもともとだ。
 名を聞いた少女は、ポケットから一本のペンを取りだした。七色に輝くそのペンを宙に
走らせる、すると、青年の名前が虹色の文字で浮かび上がった。
「次は相手の名前よ。あなた、好きな人くらいはいるんでしょ?」
 青年の頭に一人の女性が浮かぶ、職場の後輩に当たる美しい女性だ。外見ばかりでなく
内面もすばらしい、社内の男性のほとんどが、彼女に夢中だった。青年も例外ではないの
だが、どんなに憧れても所詮は高嶺の花、こう思いあきらめきっていた。しかし、もし女
神の力が本物なら……
 憧れの彼女の名を告げると、少女は先程と同じ要領で宙に文字を描く。そして青年と彼
女、並んだ二つの名前をハートマークで囲むと、ふっと息をかけ消しさった。
「これで大丈夫、楽しみにしていてね」
 にっこりと微笑む少女。次の瞬間、少女の体がまばゆく輝き青年は思わず瞼を閉じる。
 目を開けると、少女の姿は消えていた。

8:10月『誕生』3/4 ◆phHQ0dmfn2
08/10/01 01:15:01 b29wPYDJ
 次の日、出社した青年は、いつものように淡々と仕事をこなす。昨夜のことは夢だった
のだろうと忘れかけていた。代わり映えのない一日が過ぎる。
「先輩、あの……」
 仕事が終わり、さあ帰ろうというときに声をかけられた。振り返るとそこには、一人の
女性の姿が。青年が思いを寄せてやまない、後輩の女の子だ。
「ななな、なんだい?」
 彼女の方から声をかけてきたことなど、今まで一度もない。緊張のあまり呂律がまわら
ず、間抜けな返事をする青年。
「その……もし迷惑でなければ、一緒に食事でも……」
 そう言うと恥ずかしそうに頬を染め、潤んだ瞳で青年を見つめる。
 これは夢ではないのか、そう思い自分の頬をつねるが、たしかな痛みを感じる。夢ではな
いのだ。
「ぼぼ、僕でよければ喜んで」
 断る理由など何一つない。頭が真っ白になりながらも、青年は少女のくれた奇跡に感謝
していた。あの子は本物の女神だったのだ。
 その日から青年と女の恋が始まり、次第に仲は深まる。やがて二人は結ばれ、ほどなく
して二人の間には……


 深夜の病院の分娩室。扉の前の廊下にあるソファーに、青年は一人、腰掛けていた。
 病室では、小さな新しい命を育もうと妻が必死で戦っている。青年は、誕生の瞬間を今
か今かと祈るように待っていた。
「うまくいったみたいね」
 聞き覚えのある声がした。青年の隣に、いつのまにかあの時の少女が座っていた。

9:10月『誕生』4/4 ◆phHQ0dmfn2
08/10/01 01:18:41 b29wPYDJ
「ああ、君のおかげで毎日が幸せさ。ずっとお礼を言いたかったんだ」
「ごめんね、なかなか会いに来られなくて。ここのところ、仕事で忙しかったの」
 いたずらっぽく舌を出す少女。
「あなたみたいな人が、今の世の中には大勢いるのよ。だから、わたしが手助けしてあげ
ないとだめなの」
「そうかい、恋の女神も大変だね」
 何気なく言ったのだが、その一言を聞いた少女は不思議そうな顔をする。
「あら、わたし自分が恋の女神だなんて一言も話してないわよ」
「え? それじゃあ君は一体……」
 青年が尋ねると、少女は無邪気な笑顔を浮かべながら答えた。
「わたし、戦争の女神なの。今度、大きな戦争を企画してるんだ。この間の大戦なんて目
じゃないくらい、すごいスケールのものをね。世界中で大勢の犠牲者が出るでしょうね」
 少女は嬉しそうに続ける。
「でもそのためには、今よりもっと人口を増やさないとだめ。大勢で派手に殺し合わない
と盛り上がらないわ。だから、あなた達も頑張って、たくさん子供をつくってちょうだい
ね。そのために、こうしてみんなの恋のお手伝いをして回ってるんですもの」
 その時、「おぎゃーおぎゃー」という力強い鳴き声が、廊下いっぱいに響きわたった。
 少女はその産声を聞き満足げに頷く。そしてにっこりと青年に笑いかけ、こう告げた。
「ハッピー・バースデイ」


―了―

10:1 ◆LV2BMtMVK6
08/10/01 01:29:31 AZo4UwZg
>>6
乙です
祝!S-1初投稿w

誕生の目的は戦争…反戦ってわけでもなくこれでオチですよね。
この子が大きくなってからの英雄譚とか見てみたいかも
どう落とすのかなーと見てましたが戦争でしたか……

11:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/01 01:32:38 CFfOvbGX
まぁまぁ面白いけど暗いな

12:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/01 02:51:32 t5hVL9ip
お! 早速投下があるじゃないかwではでは俺も早速感想を。

>>6
女神様が人の善悪を超越してていいキャラしてる。
ペンで縁を結ぶっていうのが新しいと思った。名前を書くとか、怪しい契約っぽくて何かいやぁな予感がしたんだよw
>ここのところ、仕事で忙しかったの
がさりげなくエグいねw彼女が頑張るほど、本来の役目と実際の仕事とのイメージのギャップが出て怖い。
いざ戦争が始まってしまえば後は人間任せで、彼女はただ見てるだけで役目を果たせるんだろうなぁ……。

13:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/01 03:03:12 iKsrnp4N
投下来てる!
俺は女神が見せてるのは実は夢で、
「今まで幸せだった?」って聞かれてそこで死亡か夢から覚めるオチかと思った
まさかこういうオチとは

14:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/01 13:26:46 LPShriJD
これスレ名乗っての投下もありなんでしょ?
スレごとの特色が見える作品もみたいな

15:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/01 16:59:51 hpnOUoQQ
獣人スレのやつとか見たい
あとGGGとか

16:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/01 18:23:26 XXM5ONMi
GGGっぽい特色の作品ってどんなだ?

17:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/01 18:36:42 iKsrnp4N
いつもやってる御題創作と一緒だろ

18:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/01 19:12:58 uajW2/By
あんまりここで雑談はしないほうが…

19:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/01 19:15:22 os9Y8Z6h
いやむしろ雑談して盛り上げたほうがいいと思うけど

20:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/01 19:17:48 LPShriJD
人が少なくて盛り上がってないように見えると参加しにくいしな

21: ◆CkzHE.I5Z.
08/10/01 19:18:37 t5hVL9ip
よし! 今から投下するよ。
件のGGG住民だけど、今回のジャンルはショートショート。こちらも地味に盛り上げたいスレです(宣伝
レスは多分一つ。お題は「十」。……こっそり「誕生」と「新」も含まれてるのは内緒。

22:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/01 19:19:02 iKsrnp4N
ほいさ支援!

23:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/01 19:19:59 os9Y8Z6h
キタキター

24:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/01 19:25:50 LPShriJD
どうした?何かトラブル?

25:『9に2をかけて8を引いた数(仮題)』 ◆CkzHE.I5Z.
08/10/01 19:28:43 t5hVL9ip
2レスになっちゃうみたい…


世界から『2と8を足した数』がなくなって、早9年目。
人々の注目は、来年に世界がなくなるのではないか、という所にあった。

その説を最初に唱えたのがエス氏である。彼の自説はこうだ。
「我々が『5と5を足した数』が認識出来なくなったのは、今から9年前である。以来、原因はいまだ不明のまま。
 私はこれを、宇宙全体のパラダイムシフトと考える。
 世界のプログラム自体が『6と4を足した数』にエラーを出すようになったのだ」
この説を彼から聞いた人は、間違いなく理解に苦しみながらもこう問う。
「それはつまりこの世界自体が、教えられた事しかこなせない機械的なものだったと、そういう事なのでしょうか?」
「その通り。というより、そうとしか説明できないのだ。
 現在の我々は、『7と3を足した数』や『2に5をかけた数』といった方法でその数を示す事が出来る。
 だが、直接それを表現する事は出来ない。それはつまり、この世の法則が壊れていると考えるのが妥当だ。
 現に、以前は問題なく使えていた公式も、『1と9を足した数』などと書き換えないと使えなくなっている」
「それは、確かにそうかもしれませんけど。でも書き換えれば問題ないのなら、これからも大丈夫なのではないですか?」
「とんでもない事だよ、君。九年前の事をもう忘れたのかね?
 たとえば時計だ。機械の偏屈な律儀さゆえに、針が『6に3をかけて8を引いた数』を指した途端、全て壊れてしまったではないか。
 あるいは物差しだ。目盛りに数字が振ってあった物は、ことごとく中途で絶ち折れてしまった。目盛のないものは何ともなかったのに!」
「……では、これから世界はどうなるというのでしょう?」
「恐らくは『5に4をかけて2で割った数』年目……つまり来年に、世界は終わってしまうだろう」

エス氏のセンセーショナルな説は、瞬く間に世の話題を席巻した。何しろ、世界の終わりを示されたのだ。
人々は絶望し混乱した。その呷りで自殺や犯罪を犯す者達も急増し、エス氏は世間を騒がせた罪で裁判にかけられる事となった。
裁判には、裁判長・検事・弁護士のほか、時の為政者と陪審員9名も参加した。
「……という事で、被告は怪しげな風説を流布し、善良な市民を恐慌におとしいれた。それに間違いはないかね?」
「意義があります! 私の予測は現況をつぶさに観察して得られた、合理的な推論です。風説などと……」
「静粛に! 発言を認められるまで、被告は黙っているように」
「裁判長!」
もはや、エス氏の弁護が認められることはなかった。
「……わかりました。私はどんな裁きでも受け入れます……。ただし、条件があります!
 陪審員ほか検事や裁判長も含め、私を有罪とする者が丁度『3に4をかけて2を引いた数』にならぬ限り、私は自説を覆さない!」
……果たして。
エス氏の提案は受け入れられたが……有罪票が『7に2をかけて4を引いた数』になることは、決してなかった。
それからも裁判は遅々として進まず。あまりにも埒が明かぬために、為政者の強権により結局エス氏は投獄。処刑される事となった。

26:『9に2をかけて8を引いた数(仮題)』 ◆CkzHE.I5Z.
08/10/01 19:29:38 t5hVL9ip
その間も、世間では『3と3と4を足した数』によるトラブルが頻出していた。
ある債権者は、幾つかの借用書が読めなくなった為に不渡を出して破産した。
ある虫歯患者は、数合わせのために健康な歯まで抜かねばならなかった。
ある戯作者は、9章より先が書けなくなって自殺未遂をした。
社会生活のあまりの変化に、誰もが世界の終わりを意識せずにいられなかった。

一方エス氏は、牢獄の小さな窓の月明かりを頼りに、宛てもない手紙を書いていた。
「私とて、予測が外れてくれればどんなに良かったか。かの愚説を方々で話したのは、誰かにそれを論理的に否定して欲しかったのだ。
 しかし……今思うと、ひとつだけわからない事がある。
 私は多くの人に問いかけたのだが、その『1と2と3と4を足した数』番目に話した相手が思い出せない。確かに話したはずなのに。
 ……あれは、あの姿なき『6と6を足して2を引いた数』番目の相手こそは―ひょっとしたら、この世界の神だったのかもしれない。
 『4と7を足して1を引いた数』こそが、すなわち神そのもので、神はすでにこの世におられないのではないかと、私はそう思うのだ。
 ならば我々人間は、今こそ神に代わる数字を、創作しなくてはなるまい。
 私はその数を、矮小な我々人間をあらわす『1』と、この世におられぬ神をあらわす『0』とを併せ、『10』と呼ぼうと思う」

そして。
エス氏は磔刑に処された。
しかし、彼の死後に発見されたその手紙こそが、世界を救うこととなったのだ。

その後の話である。
やがて、それまで『8と1と1を足した数』と言われていたその数字は、エス氏の提案通り『10』と呼ばれるようになった。
それを各地に積極的に広めたのは裁判に参加した、裁判長、検事、弁護士、陪審員9名である。
彼ら12人にとっては罪滅ぼしでもあったのだろう。
一部では『10』の字形に、エス氏の磔刑姿を表意文字にして採用する地域もあり、それは遠い異国までも広まった。
世界を救ったエス氏の功績を讃えるための宗教も生まれ、そのシンボルも磔刑がモチーフとなった模様である。
しかしそれも昔の話。今日ではローマ数字や漢数字の『10』などが、僅かにその形跡を残すのみである。

―了―

27: ◆CkzHE.I5Z.
08/10/01 19:31:35 t5hVL9ip
ご心配をお掛けしました。投下終了です。
テキスト容量が多かったみたいだぜ……珍しく長いの書いたばかりにこんな事に……

28:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/01 19:32:51 iKsrnp4N
投下乙!
おおーいかにもショートショートっぽいな

29:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/01 19:37:00 LPShriJD
行数制限に引っかかってたのかw

いかにも正統派のSSだね
10の代理表現のバリエーションの豊さが面白かった

新しい10の誕生もかけてるんだな

30:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/01 19:39:39 os9Y8Z6h
ショートショートスレは俺も見てるよ
かなり良作があっていいよな

>>27の作品もGJ!
この不条理さと最後のオチがたまらん

31:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/01 20:07:56 CFfOvbGX
発想は面白いけどオチがダメだろ
ショートショートは設定とオチが命
設定は100点満点中85点くらいだが
オチは20点くらい

総合評価 ランクD

32:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/01 20:12:52 n152AYaB
12人、ってことは
エス氏ってイエス、か?
磔になってるし

33:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/01 20:17:03 AZo4UwZg
最初に石を投げなさいのネタも絡めてあるしね

34:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/01 21:18:50 hpnOUoQQ
十字架で十にも絡めてあるんだろうね

35:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/01 21:25:58 iKsrnp4N
>>32-34
なるほど、そういうのもあるのか

36:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/01 21:30:40 CFfOvbGX
>>32-35
自演お疲れ様です^^

37:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/01 21:38:18 Ggdr1GxU
きれいにまとまったショートショートが書ける男の人に抱かれたいです

38:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/01 21:46:47 hpnOUoQQ
俺は絵が見たいです

39:10月 お題『新・初』1/4 ◆KYxVXVVDTE
08/10/01 22:46:19 QL5be2u0
投下しますー。暗黒史スレから来ました。エッセイ風。

 その少年は作曲が好きだった。
 親の携帯に付いていた作曲機能を使って「かさじぞう」を作ったのが始まりで、
 作曲の決まりこそ知らなかったものの、見ていたアニメの曲を作ってみたり、
 自分で思い付いた旋律を思い思いに鳴らしてみたりと、少年なりに楽しく、音を創る喜びを楽しんでいた。
 少年は他にも小説を書いたり、漫画を描いてみたり、ゲームを作ってみたりと、何かに取り憑かれたように創作活動に勤しむ日々を送る。
 少年は、創作することが好きだったのだ。

 そんな少年も中学三年生の冬ともなると、高校受験に追われることになる。
 塾では大量の問題集を解かされ、家では家族の期待と戦いながら、それでも少年は創作に取り憑かれたままだった。
 興味を持った物にはとことんのめり込むタイプの彼がその頃嵌っていたのは、とある動画投稿サイト。
 クリエイティブな思考を持った者が集まるそのサイトは、少年に取っても魅力的だった。
 毎日サイトを開いては、ひたすら動画に目を通す日々。
 楽しいな、と思いながらも少年は、このままでは駄目だ、という焦りを感じていた。


40:10月 お題『新・初』2/4 ◆KYxVXVVDTE
08/10/01 22:47:48 QL5be2u0

 大晦日を過ぎ、三学期が始まると、その思いは一層強くなっていった。

 いつまでもこうして見ている側に回っていては、きっと受験に落ちてしまうだろう。
 ならば多少時間を犠牲にしてでも作る側に回り―ひとつ動画を投稿したところで、キリよく見るのをやめればいいのではないか。
 そんな考えが頭に浮かび、片隅に張り付いて離れなくなっていった。
 その作戦を実行に移すのに、そう時間はかからなかった。

「ちょっと見辛いかもしれません、と……」

 一月の終わり、少年はパソコンの前に座って、投稿者が動画に付けるコメントを打っていた。
 少年が選んだ動画の種類は、作曲。小説も漫画もゲームも時間がかかり過ぎ、見映えが良くないといった単純な理由からだった。
 投稿確認のページを前にして、少年はゴクリと息をのむ。
 即興で作ったにしては、動画は中々いい出来だと思っていた。
 どれだけの人が見てくれるだろうか。どれだけの人がコメントをくれるだろうか。
 まさかとは思うが、ランキングに載ったらどうしよう。てか、さっきメールで友達に投稿するって言っちゃったし、引き返せねぇよ!
 期待、不安、様々な思いが頭の中で踊り狂う。マウスを持つ手が震える。やはり、やめようか。
 しかし、ここでやめたら後悔するかもしれない。そんな思いが、少年に勇気を与えた。



41:10月 お題『新・初』3/4 ◆KYxVXVVDTE
08/10/01 22:48:52 QL5be2u0

「投稿が完了しました」

 こうして少年は、動画を初投稿することに成功した。
 全く作曲理論を知らず、調がずれている上に不協和音が視聴者の脳を破壊する、ベースも何も考えられていない耳コピ曲を。

 次の日から、少年はそのサイトを見ることを一切諦めた。少年の心は豆腐のように脆かったのだった。
 中途半端な負けず嫌い精神と極度のショックで勉強にも気が入らず、少年はオカルト板に入り浸るようにすらなった。
 幽体離脱を試し、コトリバコを読み、気をまぎらわし続けた。
 動画を投稿したことを知らない友達にサイトの話をされるだけで恐怖を覚える日が続いた。
 そうして、また幽体離脱を試し、トミノの地獄を目に焼きつけた。


 受験が近付いた二月二十二日、体育の時間。
 サッカーの試合中に転び手を付いた少年は、左手首の骨を骨折した。
 全治一ヶ月。骨には縦にヒビが入っていた。



42:10月 お題『新・初』4/4 ◆KYxVXVVDTE
08/10/01 22:49:58 QL5be2u0

 かくして少年の初投稿は、惨めな結果に終わった。
 奮起して、サイトの確認を承諾して、転んで得た結果がこれだった。
 甘い考えだったのだ。創作することを道具にして、サイトを断つ引き金にしようとした。
 即興で作った物でも受け入れられるだろうとたかをくくって、有頂天になっていた。
 完全に、創作することに対して敬意を払うことを忘れていたのだ。
 これでは、罰を受けても仕方のないことだろう。

 そこから少年は勉強を始め、左手にギプスを填めて受験し、志望校に受かるに至った。
 もし「初投稿」をしていなかったらどうなっていたかは、少年にも分からない。



43: ◆KYxVXVVDTE
08/10/01 22:53:10 QL5be2u0
以上です。オチがあるとするなら、この話がノンフィクションだってことだろうか……。ああ、この話自体が後に黒歴史になることを含めると二重オチか。
みんなも黒歴史をどんどん晒せばいいと思うよ、と一応宣伝しておく。

44:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/01 22:57:24 iKsrnp4N
投下乙!
コレはいい黒歴史w

でもこれ動画サイトってことは実は結構新しい話か?

45:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/01 23:01:11 os9Y8Z6h
投下乙!

黒歴史というものはこうして作品に仕上げることで昇華されるのです
なんまいだぶなんまいだぶ

46:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/01 23:03:42 CFfOvbGX
ランク C

47:お題「ぼやける十」 ◆S5TAkSTUSE
08/10/01 23:21:34 IxbYJigF
 ある男が紙に大きく十と書いた。
 それを見た同僚が何故そんなことをしたのかと男に訊く。
 男は、こうして書いた十という文字をじっと見ていると、なんだか十という文字が本当にこれでよかったのかという気になるんだ、と答えた。
 同僚は興味を示し、男が壁に貼ったその十を、男と共にその前に座ってジッと眺めることにした。
 眺めている内に、目にうつる十の輪郭が曖昧になり、足元が揺らぐような、不思議な感覚に襲われた。
 同僚は感心して男に、なるほど、これは面白いと言った。
 男は腕を組んでなにやらしかめっ面をしている。
 同僚がその理由を訊くと、男はこう答えた。
「いやあな。なんか違うんだ。」
「一体何が違うんだ?」
「俺は普段やっていても、こんな感覚は経験したことがないんだ。」
「そうなのか?」
「ああ、そうなんだ。」
 二人はまた十を見た。
 十の輪郭はぼやけたままだった。
 その時、男が何か考えにぶつかったらしく、ポンと手を叩いた。
「なぁんだ、そういうことか。」
「だからどういうことなんだ?」
「つまりだな。」
 男は立ち上がり、壁に貼った十をはがす。
「ここに書いた十がぼやけたってことは、十を書くとぼやけるようになってしまったってことだ。」
 同僚は男が何を言い出したのか、理解出来なかった。
「つまり?」
「つまり、僕たちは十を書くとぼやける世界に来てしまったというわけだ。」
 そうして男は窓辺へ向かう。
 窓の外は、知らない世界だった。



 発想に十分、推敲に数分の超大作です。
 反省はしていますが後悔はしていません。

48:10月 お題『秋』1/1 ◆c3sm6Fefj2
08/10/01 23:24:25 QvnqplF9
>>38
     _,,...,_
  /_~,,..::: ~"'ヽ
 (,,"ヾ  ii /^',)
    :i    i"
    |(,,゚Д゚)   呼んだ?
    |(ノ  |)
    |    |
    ヽ _ノ
     U"U

49:10月、お題「十」 ◆S5TAkSTUSE
08/10/01 23:24:32 IxbYJigF
テンプレに従うのを忘れていました。すいません。

50:10月「秋の虫」 ◆NkmBTQn/5U
08/10/01 23:33:50 t1Ccvrpa
1/4

盛大なパーティが開かれていた。
スズムシやコオロギがファンファーレのごとく鳴き声をとどろかせ
オンブバッタやキリギリスは興奮を抑え切れぬとばかりに跳ねて回っていた。
そして、パーティの主役。
集まった虫たちの中心には、一つの卵があった。真っ白な卵。
とても厚い殻に覆われていて中を覗くことはできない。
その覗くことのできないという状況が
パーティ参加者の昆虫たちにとって恐ろしくも、また楽しくもあった。

51:10月「秋のムシ」 ◆NkmBTQn/5U
08/10/01 23:35:42 t1Ccvrpa
2/4

「まだか。まだ生まれないのか」
しびれを切らしたとばかりにキリギリスは卵に詰め寄った。
「よしなよ。そんなふうにおどかしていつまでも出てこれなかったらどうするんだい」
と言って、コオロギが止めに入った。
「でもさ、このまんま生まれるのを待ってていいのかい?
とんでもなく危ないやつが出てくるかもしれないぜ?」
スズムシが言った。
「なに言ってんだ。そんときは逃げりゃいいのさ。オイラみたいにね。ぴょーんとね」
オンブバッタか言った。
そのとき、卵が動いた。みな一様に「おっ」と言って卵の方を見た。

52:10月「秋のムシ」 ◆NkmBTQn/5U
08/10/01 23:37:05 t1Ccvrpa
3/4

「はじめましてこんにちは」
殻を押しのけ出てきた虫は全身どこも真っ黒で
体はそこそこ大きいが温厚そうな性格ですぐさま逃げる必要はぜんぜんないやと判断し
コオロギ、スズムシ、キリギリス、オンブバッタはみな安心。
「君も今日から友達だ」

ある日、みんなの役に立ちたいと新入りは考えた。そこで彼は仲間たちに言った。
「とっておきの楽園を知っている。えさがいっぱいある。春のようにあたたかい」
そんな楽園あるはずないと仲間たちは口をそろえて言った。
しかし彼は旅立った。楽園を下見するために。
一日二日と経っても彼は戻ってこなかった。
彼は民家に忍び込みスリッパで叩き潰されていた。

53:10月「秋のムシ」 ◆NkmBTQn/5U
08/10/01 23:38:47 t1Ccvrpa
4/4

命からがら彼は民家の庭先まで逃げてきた。
そこで親友のコオロギに再会した。
コオロギはぺしゃんこにされ死にかけたそのゴキブリに声をかけた。
「大丈夫か」
「お礼がしたかっただけなんだ。後悔はしてない。みんなと過ごした時間は忘れない」
そう言ってそのゴキブリは息耐えた。

コオロギはそれからしばらく庭をうろうろした。
そこで、捨てられた鶏の卵の殻を見つけた。
元気なゴキブリも見つけた。
そのゴキブリに声をかけた。
「今夜、向こうの雑木林でパーティをやるんだ。きっと楽しい。
会場の場所を教えるからコイツを被って待っていてくれ」



54: ◆NkmBTQn/5U
08/10/01 23:44:43 t1Ccvrpa
>>50-53
タイトルは「誕生」に変更ということでたのみます

55:10月「小さな秋」 ◆LV2BMtMVK6
08/10/01 23:48:22 AZo4UwZg
躁鬱ストーリースレより。お題は「秋」です。
URLリンク(www6.uploader.jp)
ペイント、マウスを用いました。

56:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/02 00:27:16 v3ybW1M1
>>25>>26
これはなかなか新鮮、設定や世界観を練りこんで短編~中編に仕立てても面白そう。

57:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/02 00:38:43 963bbJUy
うわ!ちょっと見ない間にいっぱい増えてるwこういう時は一言感想だ!

>>39
黒歴史乙!胃がキュウっとなったわwでも創作に戻ってきたんだね。おかえり!
……昔使ってたPCが健在であったなら俺だって……ちくせう
>>47
ゲシュタルト崩壊乙!大の大人が二人して何やってるんだよw
でも「十」だけに十分で書くというのは面白いね。1月に「一」のお題が出るのが楽しみだぜ(コラ
>>48
菌類乙!
ていうか呼んでねえ!土瓶蒸しにしちまうぞ!
>>50
G乙! オンブバッタは虫の種類じゃねぇww
そして「誕生」がテーマになってるのに死ぬなよ>G そして生き返んなw
>>55
バンディッド乙! S-1初絵投下おめ!相変わらずペイント&マウス好きだね。
というかそろそろお絵かきソフト導入すれ! 色々出来てもっと楽しいから!

58:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/02 00:48:36 Vr3WLw1W
>>48は俺が美味しくいただきました

59:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/02 00:54:08 963bbJUy
容量のペースは丁度良いみたいだね。いま57レスで28KB。
投下の途中で気づかない内に容量落ち、ってのはしたくないからね。

60:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/02 00:58:26 963bbJUy
というか、なるべく分けて投下すればいいのか……
俺だけ空気読んでねえw

61:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/02 02:30:41 963bbJUy
>>50>>57
オンブバッタ、虫の種類だった……てっきり交○してるバッタの俗称かと……
はずかちい!

62:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/02 08:33:55 lyio+uel
朝起きたら投下いっぱい来てる!

俺がみたかった絵ときのこる先生もいるしw
それにしてもペイント&マウスなのにどんどん腕上げてるな

ゲシュタルト崩壊とGもちょっとひねった御題への答え方がステキ!

63:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/02 10:10:40 YeyFH0I3
黒歴史のやつはその作曲した音楽が聞きたいw

Gのやつはゴキブリの卵囲んで祭りをする虫の集団創造したらウゲッってなったw

モミジの絵はちょっと浮世絵っぽくて綺麗!

64:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/03 15:28:18 +IxBe3ro
他のスレも投下来ないかなー

65:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/03 19:46:14 /0pL8i4X
まだ三日だぜ、書き込む前の段階の人が多いんじゃないのかな

66:十月「初めての焼き芋」(1/5) ◆svMdfnlanc
08/10/04 02:13:51 yDXHn2qx
先ほど盛大に本スレに誤爆してしまいました。恥ずかしいですがもう一度こちらに投稿します。
シェアードワールドスレの者です。お題は「秋」「初」を使いました。

*****

私の名はブチという。
白い身体に黒いブチがいくつか付いているからだ。
いかにも安易に名づけられた名前だが、私は気に入っている。
過剰な装飾は嫌いなのでね。
名前なんて、これくらいシンプルなほうが良い。

言い忘れていたが、私は猫だ。
生まれてからずっとこのお寺に住んでいる。
今日はこれからこの寺の和尚に相談事をしに行く予定だ。
何の相談に行くかだって?
まあ話せば長くなるが、別に急いでいるわけではないし
特別に教えてあげよう。

昔、私がまだ子猫だった頃の話だ。
丁度今くらいの季節になると、朝晩の冷え込みがだんだん厳しく
なってくるだろう?その日も私はお寺の片隅でうずくまりながら、
朝日が昇るのを待っていたのだ。

そんな私の前を一人の人間が通りかかり、丁度私の目の前で
足を止めた。見た感じ、仕事帰りのOLさんといった風貌だった。
髪をアップにまとめ、メガネをかけていたのを覚えている。

彼女は寒そうにしている私を見かねて、手に持っていた紙袋から
何かを取り出し、そっと私に差し出してくれた。それが、私と焼き芋
との最初の出会いだった。その時の焼き芋の暖かさ。今も忘れはしない。

67:十月「初めての焼き芋」(2/5) ◆svMdfnlanc
08/10/04 02:14:39 yDXHn2qx
しかし私は猫なので、当然猫舌だ。だからせっかくもらった
焼き芋も、冷めるまで口をつける事ができなかった。あの時程、
己の運命を呪った事は無かった。なぜ私は猫なんかに生まれた
のだろうか、と。犬か何かであれば、ほかほかの状態の焼き芋を、
思う存分ほうばれたというのに!

だが、私は諦めなかった。どうしても焼きたての焼き芋を食べて
みたかったからな。その日から、私の猫舌克服大作戦が始まった。
人様の家に忍び込んで、味噌汁で特訓した事もあった。お寺の
芋煮会に紛れ込み、煮えたぎった芋と戦ったりもした。しかし結局
何の成果も得られず、私自身が猫の中でも指折りの超猫舌である
という絶望的な現実を、ただ突きつけられただけだった。

つい昨日の事だ。八方塞な私のところに、一つの噂が届いた。
それは、このお寺の和尚が実は猫と話が出来て、色々な悩みや
相談を聞いてくれるらしいというものだった。私は既に大人になって
おり、分別も常識もあった。だからその話をすぐに信用は出来な
かったが、とりあえず藁をも掴む気持ちで和尚のところを訪れたのだ。

どうやら和尚は、本当に猫と話をすることが出来るようだった。
その日は先客の猫に何やら相談事を持ちかけられているみたい
だったので、私は遠くからその様子を伺っていた。
そんな私を見つけた和尚は、今日は予約が入ってるから明日
また来るがいい、と言って手を振ってくれた。何とも優しいお人だ。

68:十月「初めての焼き芋」(3/5) ◆svMdfnlanc
08/10/04 02:15:26 yDXHn2qx
そういう訳で、私は今から和尚の所に相談事をしに行くのだ。
人間に頼るのはしゃくだが、贅沢は言ってられないしな。

お、噂をすれば和尚ではないか。今から伺おうと思っていた
ところだ。なに?何の相談かと?実はな、かくかくしかじかと
いう訳で焼きたての焼き芋を食べてみたいのだ。どうにかならん
かのう。

なに?一つ方法があるだと?してそれは一体どの様な……
ふむふむ、なるほど、和尚の身体に私の魂を乗り移らせて、
和尚の身体で焼き芋を食べるとな。そんなことが出来るとは、
さすがは頼りになるのう。では早速お願いしたいのだが宜しいか?
なに?儀式の準備が色々必要だから、もう暫くしてから縁側の
ほうまで来て欲しいとな?うむ、了解した。

……。

そろそろ頃合いか。それでは縁側へ行くとしようか。

……おお!これは凄い!儀式に必要な飾りが一面に施されている!
しかも既に焚き火が炊かれて芋のスタンバイまで完了しているとは、
さすが和尚。只者ではないな。お、丁度儀式が始まるようだ。

69:十月「初めての焼き芋」(4/5) ◆svMdfnlanc
08/10/04 02:16:13 yDXHn2qx
「ハーミャーハーミャーナモアヴィダヴォー」
「ハーミャーハーミャーナモアヴィダヴォー」
「ハーミャーハーミャーナモアヴィダヴォー」

何を言っているのか全く分からんが、きっと凄いありがたいお経か
何かなのだろう。猫と話せるくらいだからな。神通力のようなものを
持っていても不思議ではない。

「ハーミャーハーミャーナモアヴィダヴォー」
「ハーミャーハーミャーナモアヴィダヴォー」
「ハーミャーハーミャーナモアヴィダヴォー」

うむむ、何という真剣な表情!汗の量も半端ではない。これは、
相当高度な儀式を執り行っているのだろうか。私のようなただの
野良猫にここまでしてくれるとは、なんともありがたいことよ。

「ハーミャーハーミャーナモアヴィダヴォー」
「ハーミャーハーミャーナモアヴィダヴォー!」
「ハーミャーハーミャーナモアヴィダヴォー!!」

「モッケモケピー!!!」

おお!和尚の坊主頭が金色に輝き始めおった!なに?この頭に
私の額をくっつけろだと?了解した。私の額は猫の中でも
ずば抜けて狭いので非常に難しいが、何とかやってみよう。

どうだ?これでいいか?
おお、おおおぉ~!坊主頭に吸い込まれる!
どうなっているのだ、あああぁぁぁ~……。

70:十月「初めての焼き芋」(5/5) ◆svMdfnlanc
08/10/04 02:16:59 yDXHn2qx
はっ!私は一体どうなって……。
ってこれは和尚の身体ではないか!ということは、あの儀式は
成功したという事か。素晴らしい!さすがは和尚じゃ!ありがとう!

よし、では早速焼き芋を頂くとしようか。どれどれ……、ほほう、
これなど丁度良く焼けておる。ガサゴソガサゴソ。
おお!何という芳しい香り。
香ばしさと甘さの中に気品すら感じられる。そしてこの湯気の
暖かさはどうだ!食べる前から身も心もほかほかになるではないか!

ではそろそろ被りつくとしようか。こうやって半分に割って……。
ここの一番ホクホクでおいしそうな所を……カプ。


あっ
あっっ
あっっっっっっっっっっっっっちぃぃいいいっっっっっっっっっ!!!





和尚……アンタ……もしかして猫舌……。


<おしまい>

71:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/04 02:19:53 aiLzbprk
投下乙です
さつま芋食いてえw

72:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/04 02:54:37 fmA3OCay
焦ってた気持ちを、じっくり落ち着けてから読みました(何故かは察してくれ)。

猫の一人称が読ませるね。>指折り とか、>藁をも掴む でニヤニヤ来たw
おまけに味噌汁食ってるしwなんて萌えるにゃんこだ!抱っこさせろ!ついでに和尚にも萌え!
……失礼、取り乱しました。
状況がコロコロ変わるテンポが良いね。最初に読んで(4/5)の展開はまさか想像できんw
なのに全体で見ると不自然じゃない。いや状況は非常に不自然なんだがw
ていうか猫!猫なんですよ!(意味不明


73:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/04 04:30:24 aIHsSsUF
いまいち投稿のルールがわからない
どこからの投下か書くって一体どういうこと?
他スレからの転載のときだけ書けばいいの?
それとも出身スレとか常駐スレを書くの?

74:1 ◆LV2BMtMVK6
08/10/04 11:59:02 aiLzbprk
出身スレ、常駐スレでお願いします
はっきりそう書くべきでしたね…orz
もちろん転載おkです

75:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/04 13:44:21 aIHsSsUF
>>74
解答サンクス

76:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/04 14:13:48 s/ztwotI
お、投下来てる来てる!
シェアードスレってファンタジーじゃなかったっけ
和尚とかいるのか?っていうのが若干きになるけど
そんなことよりもぬこかわいいよぬこー!

オチもいい感じ!

77:秋「小さな……」 ◆t7o38J.FFo
08/10/04 20:57:57 ZT+KKaN6
投下しやすね。常駐というか作品を書いてるのはシェアードを作ろう&シェアードで青春物語でつ
お題は秋です、……ちょっと被っちゃったかもorz

1/2
息子が最近、ちいさい秋を見つけたちいさい秋を見つけたと可愛いけど煩い。好奇心旺盛な歳なのは分かるけど。
一応それなりに言葉が分かる歳の為、少し意地悪な質問をしてみた。
「お前の言う秋ってのは、どんなものなんだ?」

すると息子は首を横に振って答えた。
「ものと言うか……。でも秋なの。上手く言えないけど」
すると息子は、私を引っ張って付いてくるようせがんで来た。私はやれやれと溜息をついて、息子と共に外に出る。
息子の歩く速度が意外に早く、私は息を微かに荒げながら必死について行く。

「一体何処に行くんだ?」
そう聞くと、息子は立ち止まり、こう言った。
「もうすぐ。この近くにあるよ、秋が」

どこまで歩いたのだろうか、気づけば私達は紅葉が美しい山の中を歩いていた。
辺りを舞う紅葉の葉が、歩いている私達の間を縫う様にハラハラと落ちていく。
そういえば息子とこうして歩くのは何時頃だっただろうか。色々と忙しかったせいで全く構ってられなかったから懐かしい。
ふっと、息子が立ち止まりキョロキョロすると、だっと横の木々の間へと方向転換して走り出した。

「お、おい!」
私は無我夢中で息子の後を追いかけた。ませてはいるがまだまだ子供だ。あのままにしては危ない。
だが息子は結構駆け足が早く、私は彼の姿を見失ってしまった。非常にまずい。
私は息子の名を大声で呼びながら辺りを歩き回った。そろそろ日が暮れてしまう。

78:秋「小さな……」 ◆t7o38J.FFo
08/10/04 20:58:54 ZT+KKaN6
2/2
探し始めてから彼是1時間以上は経っただろうか、本気で心配になってくる。
その時、大声で息子が私の名を呼ぶのが聞こえた。私はその声のする方へと走り出した。
もしかしたら怪我でもしたのかもしれない。自然と動悸が早くなる。

しばらく走ると、しゃがんでいる息子の姿が見えた。急いで駆け寄り、声を掛けた。
だが息子は私に気づいていないようだ。何かを一心に見つめている。
怪我はしていないようで安心したが、何を見ているのだろうか……私はそっと、息子の背後に近寄り、目線を下げた。

そこには確かに小さい秋があった。いや……
秋というより、あきだ。うむむ? あきと首に名札を付けられた……子猫だ。
私達と同じく、捨てられた野良猫らしい。こんな所に自力で来れたとは思えん。全く……

この子を連れて帰れば、また飼い主さんに迷惑を掛けてしまう。けど、息子の潤んだ目を見ると……
私は無言のまま、そのあきという名の子猫の首輪を咥えた。やはりというか軽い。
このまま家に帰ろう……飼い主さんが認めてくれるかは、また別々の話だ。所で……

「お前、この子の名前はもう決めてるのか?」
「うん。僕の名前がフーユだから、アキが良いな」

79:秋「小さな……」 ◆t7o38J.FFo
08/10/04 21:00:44 ZT+KKaN6
終わりです。内容が無くてごめんなさい

80:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/04 21:03:49 aiLzbprk
乙でし
小さなあきねwあったというかいたというかw
咥えたってどういうこと……

81:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/04 21:06:05 s/ztwotI
うん、まさに小さいあきだな

82:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/04 21:22:45 u/KsnWJZ
>>76
シェアードスレはファンタジーで和尚とかは居ません。
スレと投稿作品には一切関係がございません。
紛らわしくてすみませんwオチは落語風にしてみました。

>>77
投稿乙です。おお!同じスレ住人ですね!
シェアードスレは猫好きの溜まり場なのでしょうかw

83:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/04 21:41:09 fmA3OCay
ぬこスレの流れだww
でもこの話で一番萌えるのは、恐らく飼い主さんだな
この後で困りつつも拾ってしまうに違いないw乙です

84:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/05 00:03:09 p+d7S6Us
ageとくか

85:10月『百四拾年目の秋』 ◆CkzHE.I5Z.
08/10/06 21:44:37 jANYOEJR
投下行きます!
GGGよりはさみさん! オリキャラ話だぜヒャホーイ! 知らない人の方がきっと多いぜ!
Gでの初出スレはdate落ちしたけど、盛り上げるための対策スレを探せば画像だけは見つかるかもよ?(宣伝
創発Wikiやうpローダを探せば、GGGログをDLする事だって出来るよ!(また宣伝
使用お題は……色々? 文量は前回の反省を生かして4レス分であります。

86:10月『百四拾年目の秋』1/4 ◆CkzHE.I5Z.
08/10/06 21:45:56 jANYOEJR
わたくしは鋏である。銘はあるのだが、はさみさんを通称としている。
明治の生れだ。変化する時代の流れの中、仕事を失った老刀工がなんとなーく作った物であるという事だけは記憶している。
ただ彼の掌に載せられた時何だかずっしりした感じがあったばかりである。


商店街のうらぶれた一角、今日も今日とて閑古鳥を御礼する古道具店の片隅にて。
日課である脚部の刃を手入れしていると、
「ところで、はさみさんは女の子なの?」
ここの店主の孫娘である万里絵君が話しかけてきた。
因みに万里絵君は小学五年生の少女である。
本来女性の年齢を明確に示すのは刀剣の道に反するのだが……このくらいは是非もあるまい。
脚に丁子油を塗りながら、わたくしは誤魔化すことにした。
「それは面白い問答だ。無機物に男女の別有りや否や」
「もう、難しいこと言って誤魔化さないでよ」
お見通しであった様だ。聡いお嬢さんである。
「然しそうは云われてもだね。わたくしにも判じかねるのだよ」
これは本当だ。
『何某丸』等という刀が多い様に、本来刀剣は男の性を持つものだ。フロイト氏の説を持ち出すまでもなく自明である。
然し。
「見た目は女の子だよね。はさみさんって」
……子供の瞳というものは、誠に正直なのである……残酷な程に。
脚を十分に拭い終えたわたくしは、二枚の刃を閉じて万里絵君の側を向いた。
「……自分としては、全うな武士である心算なのだがね」
「じゃ、男の子って事?」
「…………」
然り、と云えない己がもどかしい。

87:10月『百四拾年目の秋』2/4 ◆CkzHE.I5Z.
08/10/06 21:47:11 jANYOEJR
その時背後から嬌声がした。
「ふぉふぉふぉ。万里絵よ、あまり鋏めを苛めてやるな」
「あ、御祖母ちゃん。お帰りなさい」
「……お帰りなさいませ、婆殿」
「ただいま。留守番ご苦労だったねぇ」
この店の主殿の御帰城である。
「今日もお客さん来なかったよ」
「それは結構」
「婆殿……商売は良いのですか?」
この店はどうなっているのだろう。
婆殿とは云うが小学生の孫を持つ程度の女性だ。人生五十年の昔ならいざ知らず、現代では働き盛りと呼ばれる御歳だろう。
それにしたって同年代の女性と比べても遥かに若いのだが。何でも老人の様な口調は商売用であるらしい。
わたくしもこの店の売り物である以上、店主殿には敬意を払っているのだが……。
「鋏めは己が可愛らしい少女の姿であるのが、あまり気に入ってはおらぬようだのう」
「……婆殿それは」
「え~? お洋服とかだってこんなに可愛いのに?」
「そうそう。可愛いのにのう?」
「上はぴしっと決まってて、下はスカートみたいなのがひらひらっとして」
「お洒落には気を使うあたり、やっぱり女の子だのう」
……少々意地の悪いのは切に勘弁戴きたい。孫が感化され過ぎぬ事を祈るばかりだ。
「……これは燕尾服だ、万里絵君」
わたくしにはそう返す事しか出来なかった。

88:10月『百四拾年目の秋』3/4 ◆CkzHE.I5Z.
08/10/06 21:48:12 jANYOEJR
「まぁ鋏めを苛めるのはこのくらいにして……」
「え? 苛めてたの?」
「万里絵君……無邪気さは時に罪だよ」
万里絵君が「え~?」と抗議する様に驚いて、婆殿は「ふぉふぉふぉ」とまた笑った。
婆殿は万里絵君が来ているといつも機嫌が良いのである。
「鋏は一対の刃からなる。つまり陰陽和合ともいえるのう。
 であれば、服装と心とが男の―もののふの性である以上、身体が娘であるのは、一つの調和といえるのではないのかえ?」
「そうなの? はさみさん」
「……その通りですね」
そう云う考え方もあったか。そう腑に落ちる物がある。
このちぐはぐな自分の身体に違和感を覚えた事もあったのだが。
「さすが御祖母ちゃんだね」
「……婆殿には、いつも教えられる事ばかりです」
「ふぉふぉ、明治生れとはいえ小娘が何を言うか。
 ……さて。わしはずっと外に出ていたので、喉が渇いたのじゃが?」
「あ、私お茶を淹れて来るね」
「焼芋もあるから切っとくれ」
「はーい」
万里絵君は元気に店の奥へと消える。
わたくしと婆殿は黙ってそれを見送っていたのだが。暫くして婆殿が口を開いた。
「……孫が手入れを止めてしまって、すまなんだのう」
わたくしは驚く。
「いえ……お見通しだったのですか?」
「ふぉふぉ、刃にまだ少し油が付いておるでな。
 あの子を構ってやる為に、ずっと鋏の刃を閉じておったのじゃろう? お前の切れ味は天下一品じゃからな」
「……いえ」
全く。
婆殿には敵わない。
「しかし……お前もそういう所は忠義じゃのう、鋏よ」
「……はい。
 わたくし、心はもののふですから」

89:10月『百四拾年目の秋』4/4 ◆CkzHE.I5Z.
08/10/06 21:49:26 jANYOEJR
 ―――


炉の灰の中、燃え残りの炭は仄かに赤く、時たま小さな音が弾け響く。
小屋を包み込んでいた熱気は、秋の夜風に吹かれて、今はもうない。
所々に古い火傷を滲ませる、錆色の腕をした老人が一人。
皺だらけのその掌には、小さな鉄の工芸品を乗せ。
老刀工は、静かに語りかけるように。

それはわたくしの最古の記憶。


「何それとなく、斯様な物を作っては見たが」
―はい。
「うっかり両刃にしてしまった。刀の時の癖であるな」
―何と……矢張りうっかりで御座いましたか……。
「然し。物が斬れるのであれば、其れで善しである。莫迦と何とかは遣い様とも云う」
―嗚呼。わたくし、その言葉だけは聞きとう御座いませんでした……。
「……時代は。天下は、武士の物から遷り変ろうとしておる。
 刀の時代が終わったのか……或いは、町民が武器を持つ世に為ったのだと、只それだけなのかもしれん。
 武士の家が絶えたとしても、まだ暫く世は戦に乱れるであろう。それが人の常だからだ」
―それは……そうなのかも知れません。
「刀だけを鍛えて来た。先代、先々代、更に遥か以前からだ。
 終りは必ず在る。恐らくは……拙の代でそれが来ただけなのであろう」
―はい……。
「先頃布告されたばかりの、この国の新しい元号は『明治』であるそうだ。
 明かに治む。その名の通りの時代になる事を、わしは切に願う」
―はい……わたくしも、それを心に刻もうと存じます。
「……鋏よ。
 お前は拙の鍛え上げた、最初の鋏にして……最後の刀だ。
 老い先短い拙の代りに、この国の行末をどうか見続けて欲しい」
―……はい、お任せ下さい。。
  わたくしは、貴方に産み出された事を、誇りに思います。
  お疲れ様でした、父上。

90:10月『百四拾年目の秋』 ◆CkzHE.I5Z.
08/10/06 21:52:35 jANYOEJR
投下終了です。
あまりお題を意識してるようには見えませんが、
日本刀の美称を「秋水」といったり、明治改元の詔が10月に出されていたりと、
色々それっぽいものはあるんですよ!?(言い訳っぽいな

91:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/06 23:01:00 7/Hm4DdZ
乙です
もうGのキャラの一人になってますよね
雰囲気が大好き!
ジツはひそかに料理を警戒していたのですがw
来ませんねーwww

92:10月「収穫祭」 ◆EuFZdNyyQ2
08/10/06 23:09:29 3fA35YYK
立体スレから来ました。まだROMの身ですが。
URLリンク(imepita.jp)

謎の秋色の球体と収穫物達。
1番小さいうさぎはもう林檎を食べちゃったようです。

収穫物が微妙に時期ずれてますが、お題は「秋」で。

93:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/06 23:16:02 rS6Bwnf1
すごいー
かわいい

94:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/06 23:23:09 jANYOEJR
別にエサをあげてみても構わんのだろう?(背中

95:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/06 23:32:54 jANYOEJR
ていうか、S-1での初立体投下おめぐらっちゅれーしょん!
これが噂のフェルトなんとか人形(名前忘れちゃった…)なんですか?

96:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/07 02:21:52 mJYiMnXB
すげえww
立体作品は新鮮だな、一匹ほしい

97:記憶喪失した男 ◆cnhIMeWufo
08/10/07 06:34:40 PsFO6R7y
おれも参加するよ。SFスレから来たよ。
今から書く。

98:子供の国 ◆cnhIMeWufo
08/10/07 06:52:57 PsFO6R7y
 10歳の誕生日に死ぬ。ここは子供の国。大人は存在してはならない。
子供でいるのが幸せなんだ。大人は汚く疲れ果て、醜い動物だった。
世界から大人を皆殺しにしてできた国。それがここ、子供の国。
 トエムは明日、十歳の誕生日を迎える。殺される。もう、トエムの人生は終わりだ。
十年生きた。満足な人生だろう。子供が子供のために働き、あとはロボットが世話をしてくれる子供の国。
十歳になったら死ぬ。それが子供の国。新しい子供はどこかで人工子宮によって人工培養されているはず。
 ばんっ。一人。トエムの銃が子供を殺す。生き残る。トエムは誕生日に殺されたりはしない。
「明日を生きのびてやる」
 トエムが子供を殺す。子供の国の反逆者だ。時々、トエムのような子供の国の理念のわからない反逆者が出る。
子供の兵隊で手に負えなければ、ロボットが出てくる。絶対に誰も勝てるわけがない。
十歳の誕生日を迎えた子供はいまだかつて存在しない。
「トエム、降参するんだ。きみに勝ち目はない。十年間、自由に遊んでいられたじゃないか。その恩を返す時が来たんだ」
「いやだあ。死にたくないよ。昔は十歳を超えても生きていられたんだろ」
「歴史を勉強しちゃったんだね、トエム。可哀想だけど、それは堕落への道だよ」
 明日の誕生日に、アヤちゃんと抱き合う約束をしたんだ。死にたくない。
 ロボットがマシンガンを撃つ。トエムの銃が迎え撃つ。血が飛び、思いが儚く消えた。
 今日も反逆者が愚かな犠牲となって朽ち果てた。
「ハッピバースデイ、トエム」
 反逆者の死体をアヤが抱きしめていた。
                              了

99:記憶喪失した男 ◆cnhIMeWufo
08/10/07 06:54:41 PsFO6R7y
18分で書いた。オチてないな。

100:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/08 01:36:42 b1B4o8wd
やぁ、SF板のSSスレに居たよね
うん、あすこの住人らしい設定厨っぷりだ

101:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/08 01:53:30 b1B4o8wd
>>90
刀は諸刃より片刃が多いんだよね…?
WIKI見ただけだからわからんけど。
なんかどっかで見た事ある文だなぁ…いや、パクリとかではなく文の癖が。
エロパロ出身?

102:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/08 01:57:32 16duV/z8
>>101
刀は基本的には両刃です
ご指摘の通り、諸刃は小烏丸のようなものしかありません
そして片刃ですね
ハサミも片刃ですが両刃ではありません

103:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/08 02:02:54 b1B4o8wd
>>102
刀はよくわかんないけど雰囲気あって良いSSでした。
GJ

104:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/08 02:05:23 16duV/z8
俺は作者じゃないんですよorz
同じテーマで台詞物を書いたことはありますが…

105:90 ◆CkzHE.I5Z.
08/10/08 02:17:17 fU5WM6S9
既に投下した作品を語るのは無粋な気がするので、手短に。
>>101
この板以外で小説を発表した事は、実はなかったりします。ですので、生粋の創発っ子であります。
文体については、明治の文豪風を目指して(笑)普段の自分とは少し変えておりますです。
はさみさんのビジュアルイメージについては↓をご参照ください。……まだ見れるかな?
URLリンク(www6.uploader.jp)

106:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/08 02:21:03 16duV/z8
見られますよ
特にアブないイケない右足がw

107:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/08 02:21:14 b1B4o8wd
な、なんだってー>ΩΩΩ Ω

えーと、とにかく鋏のSSの作者さんGJ

108:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/08 08:39:46 w5yptrb1
>>102
軽く調べたんだが、切っ先の違いではなく軟鉄と鋼の配置の違いって意味?
両刃:軟鉄を鋼で包んだ刀剣
片刃:軟鉄の片方に鋼を合わせた刀剣

【参考】 URLリンク(www.smn.co.jp) (本焼きと合せの二段落目)

109:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/08 12:20:07 16duV/z8
自分の中のイメージをば
URLリンク(www6.uploader.jp)
実際には焼き入れで硬度の分布はかなり左右されますがいろいろ割愛してます
ゆとりの知ったかなので話半分でお願いします

参考ページの説明は随分と詳しいですね
勉強になりました
SSの作者さんは詳しいと思いますよ(確か料理人ゆえ)

110:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/08 15:28:44 fU5WM6S9
>>108>>109
作中では両刃(V字型)片刃(レ字型)の違いであります
刃物は大好きですが、ここで熱く語るのは激しくスレ違いなので(笑)某所に誤爆してきました
刃物は大好きです(大事な事なので二回言いましたw)

111:十月「ぽんぽこ山のタヌキ」 ◆qG5Uj1x8xc
08/10/09 23:13:19 J65WJoG2
投下します。

*****

昔々、ぽんぽこ山というところにタヌキがたくさん住んどったそうな。
お調子者のタヌキ達は毎日を面白おかしく生きておったのじゃが、
そんなある日の事。
一際大きな身体をした親分タヌキが、突然
「マツタケが食いたい」
と言い出しおった。さっそくタヌキ達は手分けしてマツタケを
探しに行こうとしたのじゃが、親分が
「ちょっと待てい!」
と皆を呼び止めたのじゃ。
「お前ら、マツタケやからっちゅうてくだらんシモネタに走るなよ!」
何匹かのタヌキがびくりと肩をすくめ、股間に伸ばそうとしていた手を
さっと隠しおった。
「お前らみたいなアホをシバくために、この山におもっくそ呪いかけたった!
シモネタに走った奴は全員信楽焼きにされてまう呪いじゃボケ!
お前ら全員まじめに探せよドアホウどもが!」

数日後、ふもとの村人がぽんぽこ山に登った時のことじゃ。
山には溢れんばかりのタヌキの置物が、所狭しと並べられておったそうな。
全部信楽焼きじゃ。
中でも一際大きなタヌキの置物が、山の頂上に置かれとった。
その顔には、えもいわれぬ満面の笑みが浮かんでおったそうな。

めでたしめでたし。

112:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/09 23:16:24 4gbV92Xt
乙です
親分の語り口が味があるなあ

113:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/09 23:22:29 etAEkf3S
日本昔話風でいいなーこういうの好き

114:10月「或る暮れ方」 ◆LV2BMtMVK6
08/10/10 02:29:19 NKBbqVBd
Gスレより投下します。お題は「秋」です。
「ふむう……御前さんいつもそうして裏庭を眺めているが、この庭が好きなのかい?」
「わたくしはこうして静かに座つてゐるのが好きなのです。今日はお客様はいらつしやいましたか」
「今日は信楽焼の狸をひとつ、持ってきた人がいたよ。ほら、いつも花を持っていらっしゃる」
「ええ、それで狸は如何でした」
「何やら本物のような気色だったよ。今は表に出してある」
「そうですか。ちよいと見てみませう」
「それから、あの糸車は売ったよ」
「お向いのあの書生ですか。」
「そうさな、魚をもらってしもうた。今夜戴こうか」
「立つ派な鮟鱇ではありませんか」
「捌いておくれでないか」
「お水と小出刃をお願がいします」
「おお、鯵切しかないが。水は庭で汲んでおいで」
「御茶も淹れて参りますから、そこでゆつくりしておいでください」
縁側に佇む老婆。庭の井戸の際に、柄杓を持ち鮟鱇を掛ける姿があった。
冷たい風に木の葉が揺れ、燕尾服の裾は微かに翻った。
冬が来る。        (了)

115:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/10 09:15:45 idA6h9G2
雰囲気あるね

116:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/11 05:27:33 4IiIMmiv
>>112
感想ありがとうございます。
関西出身なので、関西弁っぽく喋らせるの好きなんです!
親分の台詞は音読しながら書きました。馬鹿ですみません。

>>113
こちらも感想ありがとうございます。
そしてシモネタですみません。
最終的に親分もシモネタ我慢できなかったというオチが
若干よわかったかなと今は反省しております。

117:かがみ
08/10/11 13:31:13 Ltnf/3IP
やけにレベルの低いグランプリだな……

118:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/11 16:31:57 m6VLBHLF
グラン‐プリ【grand prix フランス】
最高位の賞。大賞。

119:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/11 20:10:54 q6HItaVe
>>117がレベルの高い創作をしてくださるそうです

120:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/11 22:23:48 vjJkI/SB
ではどうぞ

121:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/12 11:56:45 N8BjONSs
荒らしへの反応がとっても投下しづらい雰囲気を醸しておりますね
猥談でもしませう

122:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/13 00:53:39 Wz1PaXpl
猥談とな!?

123:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/13 08:12:19 NEYo/KiY
Y談って何の略?

124:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/13 08:44:34 NOtT2j3H
やましい談話の略

125:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/13 08:51:34 vb1cO80Y
なるほど

126: ◆Hu/4oo80cg
08/10/14 00:02:42 u1eIP2w4
投稿します。お題は「秋」「初」です。

127:10月「鰹の三行半」 ◆Hu/4oo80cg
08/10/14 00:04:38 u1eIP2w4
「おう、辰吉! 俺だ、権造だ! へぇるぞ!」
小せぇ長屋の、障子に穴の開いた戸に手をかけながら怒鳴り声を上げたが、中からは何も声がしなかった。
「せっかくの日本橋の建築仕事をさぼりやがって! いくら新婚でも勝手は許さねぇぞ! 辰吉!」
不機嫌に中に入ると、辰吉の奴は、布団にくるまってわんわん泣いているところだった。
「何かあったのけ? ・・・嫁はどうしたんだ?」
見回すと、新婚したはずなのに、嫁の姿が見えなかったので聞いたが、それがいけなかったらしい。
余計派手に泣き出してしまった。
「子供じゃあるまいし、泣いてるだけじゃわけがわからん。事情を話してみな。」
布団を引っぺがして、辰吉の奴を起こしにかかる。

「・・・へい、親方。現場をさぼっちまってスイヤセンでした。」
「まあ、それはいい。それより、何で泣いてたんだ?」
「実は、嫁が出ていっちまいやして。」
「なんだって!? おめぇ、結婚してまだ二日じゃぁねぇけ!」
「へい、そうなんです。あれだけ親方や皆に祝福して頂いたのに、二日でまた一人身に戻っちまいやした。」
「あれだけ気のいい女はそうはいねぇのに、いったい何があったんだ?」
「・・・実は、鰹が悪いんです。」

「結婚祝いに、皆から頂いた鰹ですが、こいつを食べようとして思い出したんです。こいつは今年初めて食う鰹だって。」
「ほう。」
「それでですよ、親方。『初物は嫁に食わすな』って言うじゃぁありませんか。『そいつはいけねぇな』ってんで、嫁が気づかないうちに、鰹を自分一人で食っちまったんですよ。」
「あんな大きな鰹を一人でか。」
「へぇ。そしたら、『こんな立派な鰹を一人で食っちまうなんて、そんな身勝手な人とは一緒に居れない』って怒って出ていっちまったんです。」
「確かに、初物は嫁に食わすなって言うが・・・辰吉、今は何月だい?」
「なんですか、親方。突然、時蕎麦みたいな。」
「いいから、今は何月だい?」
「神無月ですよ、親方。本当に神も仏も無いくらい、こっちはまいっちまいやしたよ。」
「いいや、仏はいるさ。もうすぐ嫁は帰ってくるから心配しなさんな。」
「また親方、適当なことを・・・」
そのときだ。戸が派手にダンと開いて、嫁が旅装束のまま駆け込んできた。
「ごめんよ、あんた。鰹ぐらいで実家に帰るだなんて滑稽だって、途中で気づいて帰ってきたんだ。」
「そうかい! すまねぇなぁ。俺の身勝手なせいで怒らせちまって。」
互いに誤り抱き合って泣きだす二人。
どうやら元の鞘に納まったようだ。俺もほっと息を吐いた。

「・・・でも親方。何で嫁が帰ってくるって分かったんですかい?」
しばらくして、辰吉が不思議そうに聞いてきた。
「それはな、お前が鰹を勘違いしたせいだ。」
「勘違いって、俺が何を勘違いしたっていうんですかい?」
「今年初めて食うからって、あれを『初鰹』って呼んじゃいけねぇよ。今の鰹は『戻り鰹』だ。だから、嫁だって戻ってくるって思ったのさ。」
「そんな理由で!?」
辰吉は飽きれたようだが、いいじゃぁねぇか。戻ってきたんだから。

(了)

128:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/14 00:08:20 mUCjkMik
投下乙です
江戸っ子なら五月末には鰹食ってるものですよね
勘違いする気持ちもわかる希ガス

ちょいちょい誤字が気になるがしーらないっと

129:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/14 00:27:27 FO9oFzSs
うめえじゃねえかよバーローちきしょうめ

130: ◆Hu/4oo80cg
08/10/14 01:17:44 u1eIP2w4
感想ありがとうございます。
誤字ありましたか? あちゃー、チェック足りないですね。推敲気をつけてみます。

131:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/14 01:24:25 mUCjkMik
>>130
つ「新婚した」
 「互いに誤り」
 「飽きれた」
重箱隅で申し訳ない
あんまり気にするな~

132: ◆Hu/4oo80cg
08/10/14 01:29:59 u1eIP2w4
指摘ありがとうございます。こんなに間違ってたんだ。

・・・しかし、オチで誤字はかなり恥ずかしい(*つд⊂)・・・

133:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/14 06:47:52 hYM4wdOD
>>132
嫁は神様で、出雲に行ってたって考えるのは間違ってる?

134:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/14 10:35:46 K4EMgaCz
ある日私は詠子と散歩に出かけた
私はこの世界に疲れを感じていた
先のことを考えれば考えるほど私は疲れていた
「さあ、詠子。どこへ行こうか?」
何を思うでもなく自然に発せられた言葉
詠子は私の言葉には答えずただただ前を歩いている

思えば私はこの子とこうして話すのは初めてではないだろうか

いつもいつも仕事に行き人付き合いで行きたくもない飲屋などにもいった

帰るのが遅くなり子供や妻と話す時間を取らなかった

いや無理にでも取ろうとしなかった自分が悪いのだ

誰だって仕事に行けば疲れ人間に出会えば楽しくもあり腹立たしくなることだってあるんだ

当たり前のことから逃げた私は自分勝手に疲れを感じ周りに当たり散らして勝手に壊れた
今も独りでただ前を歩きどんどん追いつけなくなってしまっている詠子の背中

いつだって後悔する
うまくない
でもそこから逃げていてはいけなかったんだな

もう今は詠子の顔すら思い出せない

そう、私の最期の散歩は終わったのだ

135:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/14 10:51:50 uRS/pmj0
>>134
誤爆?

136:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/14 19:51:47 OGr84W/d
江戸っ子SSGJ!
にしても関西の俺としては日本橋と聞くと大阪のあそこにか思いつかんw

>>134
詠子と聞いて十叶詠子で頭がいっぱいになる俺はもうダメだ


137: ◆zW6i1XZ9tY
08/10/14 21:45:51 YHRxjFTm
投稿します。お題は「誕生」。
短歌です。

138:十月「ハッピーバースデイ!」 ◆zW6i1XZ9tY
08/10/14 21:48:01 YHRxjFTm
生まれてと誰が頼んだわけじゃない
だけど生まれてくれてありがと

139: ◆zW6i1XZ9tY
08/10/14 21:48:36 YHRxjFTm
投下終了です。

140:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/15 01:44:09 22hzBbKc
短歌も来た!
子供のときは産んでと頼んだ覚えはないとかよく言うもんだよねー
母の短歌になんかしんみりしました

141:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/15 01:50:29 djG7G+D7
短歌GJ
ありがと、でなんかほっこりした

>>136
俺がいた

142:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/15 02:22:53 TVQAlAuW
短歌とゆー手があったか

143:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/15 07:59:25 8YYnNFh1
持ち上げすぎだろ…… 言いたいことはわかるけどリズムが悪すぎ………

144:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/15 11:55:22 4uSbDo/9
現代短歌だね
サラダ記念日とかそのへん思い出した

145:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/15 11:56:08 8mpJDNPV
短歌スレもあるもんな
ってことはそのうち漢文での投稿とかも来るかもしれないのか

146: ◆LV2BMtMVK6
08/10/15 12:54:34 22hzBbKc
投下します。お題は『秋』
SFSSすれより。

「帰秋」
 秋霖凍街路

 雨及長斯如

 竟見月山蘆

 君忘勿拙居

147: ◆LV2BMtMVK6
08/10/15 12:56:03 22hzBbKc
終了です
昨日満月でしたので書いてみました
一応韻も踏んであります

148:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/15 12:59:05 kZ8LDiPZ
マジで漢詩キタwwww
しかしSFスレからなのかw

149:十月「イチョウの木の下で」(1/5) ◆7103430906
08/10/15 13:44:22 ZR8no3Pq
投下します。お題は「秋」「初」を使わせていただきました。
常駐スレは古代・中世的ファンタジースレですが、今回は学園モノ(?)です。

___________________________________
  
 イチョウの葉がひらひらと落ちてくる。
 何枚も、何枚も。
 時折私の頭に載り、髪の上を滑り落ちる。
 
 くる、こない、くる、こない、くる……
 コスモスの花で占いをしたって、花びらの数は把握しているのだから、
答えは見えている。
 でも、そうでもしていないと心が不安に押し潰されてしまいそうで……。
 イチョウの木の下で、私は待っているのだ。あの人を。
 
 あの人は、強くて、かっこよくて、人気者で。
 私なんか近づくことすらできないと思っていた。
 でも、そんな僻みと妬みに満ちたちっぽけな私の心を、
あの人は優しく包んでくれた。
 自分に取り柄がないと思い込んでいた私を、心で抱きしめてくれた。
 ううん。実際に触れたわけじゃない。
 ただ、言葉の上で救ってくれただけ。
 本当にあの人に抱きしめられたら、私はきっと、
幸せのあまり心臓が張り裂けてしまうだろう。
 
 こない……。
 8枚の花びらしかないのだから、わかっていた。
 わかっていたけれど、切なくなった。
 本当に来てくれないのだろうか。
 約束の時間はとっくに過ぎている。
 否、約束ではない。
 私が一方的に突きつけた指定時刻だ。

150:十月「イチョウの木の下で」(2/5) ◆7103430906
08/10/15 13:45:27 ZR8no3Pq
「遅くなってごめんね。委員会が長引いちゃって」
 うつむいていた私に声がかかった。
 待ち人来たり。
 委員会か……。仕方がないね。人気者だから。
 私はコスモスの茎を握っていた手を後ろに回した。
 この人からは隠してそっと背中で捨てる。
 恥ずかしいじゃない。花占いなんて乙女チックで。
 確かに私は年齢的にも性別的にも乙女なのだが、認めたくない。
 乙女チックなんて、私には似合わない。
 
「いえ、私もそれほど待っていたわけではありませんから」
 嘘だ。指定時刻の三十分も前から、私はここにいた。
 足が棒になるほど、疲れていた。
 でも、そんな事情はおくびにも出さない。
「そう? 良かった。で、話って何かな?」
 あんな手紙で呼び出されれば大体の察しはつくだろうに。
 意地悪な人だ。私にどうしても言わせたいの? 
 
「ええ、口に出すのはちょっと恥ずかしいので……ちょっとかがんで
耳を貸してもらえませんか?」
 胸が高鳴る。私より大分背の高いこの人に仕掛けるつもりの罠は、
私の心の中から飛び出してしまいそうだ。
 思わず口元を押さえるけれど、言葉にはならないようだ。
「了解。これで良いかな?」
 素直に従ってくれるなんて、なんて良い人なのだろう。
 私のなけなしの良心がちくりと痛む。
 そして私は……。

151:十月「イチョウの木の下で」(3/5) ◆7103430906
08/10/15 13:46:41 ZR8no3Pq
 ちゅっ。
 そんな音が響いたのかどうかはわからない。
 軽く頬に触れただけの唇。なのに熱い。
「何のつもりかな?」
 心なしか怒っている? 声のトーンが少しだけ低い。
 でも、怒っても、相変わらず綺麗な人だ。
 むしろ、怒るなんて感情を見せるこの人がもっと愛しく思える。
「貴方が好きなんです。もう、我慢できないくらい」
 言ってしまった。言ってしまった。
 反応が怖い。聞きたくない。見たくない。
 気がつくと、下を向いて目をつぶっていた。それはもうしっかりと。
 
「ふむ……なるほどね」
 耳をふさぎたいくらいだ。でも、ちょっぴりの期待がそれをさせない。
 次に繰り出される言葉が何を伝えるのか。
 怖い。心臓の動きが大きく感じる。心が重い。
「そう言ってもらえるのは嬉しいよ」
 閉じていた目を思わず開いた。
 嬉しい? 本当に? 
「けど、ねぇ……。わかっているんだろ?」
 やはりそうか。『けど』がつく答えなのか。
 私の浮き上がった心は、急に支えを失って、奈落の底に落ちていく。
 
「わかっています。でも、好きなんです! 貴方しか好きになれない!」
 私は必死に訴える。
 思いのたけの百分の一にも満たないけれど、気持ちをぶつける。
 見上げると、難しそうな顔をして、考えをめぐらせているその人がいた。
 そして……。
「そう。わかった」
 覚悟を決めたといった表情がそこにあった。

152:十月「イチョウの木の下で」(4/5) ◆7103430906
08/10/15 13:47:32 ZR8no3Pq
 その時、突然の強い風がイチョウの葉を、私のスカートをまき上げた。
「ひゃっ……」
 思わずスカートを押さえる私。
 すると、華奢な指先が私の顔を上に向かせていた。
「んっ……」
 先ほど熱くなった唇に、もっと熱い唇が当てられる。
 私にとっては初めて体験する感触だ。
 まさか……まさか……こんな……!? 
 
「女の子とキスするなんて初めてだよ」
 唇を離すと、その人は言った。
 女の子と? ということは男の子とならあるんだろうか。
 なんとも言えない気持ちが、心の底でくすぶっているのを感じる。
「私は……キス自体が初めてです」
 きっと私はリンゴのように赤くなっているのだろう。
 頬が、顔全体が熱くてたまらない。
 勿論、唇もだ。
「そう……。ファーストキスがこんな相手でがっかりかな?」
「いえ! いいえ! そんなことありません」
 私は全力で否定する。がっかりなんてするわけがない。
「嬉しいです……とても」

153:十月「イチョウの木の下で」(5/5) ◆7103430906
08/10/15 13:48:42 ZR8no3Pq
「参ったな……本当に私のことが好きなんだね」
 長い髪をかきあげながら、その人は言った。
 まだ風は弱くなったがふいている。
 その人のスカートもめくり上げられない程度に揺れている。
「好きです。女じゃダメですか?」
 涙が出そうだ。
 拒否されることにじゃない。受け入れられることが怖いのだ。少しだけ。
 
「普通ならダメだけど、キミは……私も好きだ」
 信じられない言葉。え……私のことが……好き? 
「先輩……!」
 思わず抱きついていた。
 身長は高いけれど、柔らかいその身体に。
 女の象徴を十分に示しているその身体に。
「ふふ……甘えんぼだね、キミは」
 拒んだりなんてされなかった。むしろ、強く抱きしめられていた。
 嬉しい。凄く嬉しい。
「はい……ごめんなさい」
 抱きしめられたけど、心臓が張り裂けることはなかった。
 柔らかくて温かな気持ちがこの胸を包んでいる。これが本当の幸せなのだろうか。
「良いよ。謝らなくて。甘えられて私も嬉しいから」
 この人の笑顔は本当に心を温めてくれる。
 幸せがいっぱいだ。こんなに幸せで良いんだろうか。
「さあ、もう遅いし、帰ろうか。この続きは、また明日から」
「はい!」
 続きってどういうことになるんだろう。
 少々疑問がわいたけれど、すぐに打ち消した。
 明日からが楽しみだ。
                                               ー了ー

154:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/15 14:58:09 73m+gUY1
相手は男だと思ってたからしてやられた。二人の今後が気になる良作だなぁ


155:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/15 17:10:01 4uSbDo/9
これは百合!百合じゃないか!
あなたぜひ百合スレへカモン!

156:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/15 17:46:14 8mpJDNPV
SFスレから漢詩、ファンタジースレから学園物百合とはいい感じにシャッフルされてるなw
いやあえて違うものを書いてそれに該当するスレがあるこの板が凄いのか?

>>154
俺も絶対男だと思ったから
最後のほうでスカートが出たときにまさかと思ったよw

157:十月:ハッピーバースデーとか色々 ◆NN1orQGDus
08/10/15 18:27:45 0jQHffgB
たらちねの 母の子守りの歌を聞き 我も我が子に 歌い聞かせて

あしびきの 山並み燃える 紅葉の 話せんかな 高見の杜に

ぬばたまの 闇夜に浮かびし 望月の 欠け行く姿に 綴る文かな

限りなく 吹けば花びら 散るものと 心短き 青き秋桜

心をば 思いも寄らぬ 秋風の 情けも依らぬ 夜の静けさ

舞落ちる 葉の色 茜になりにけり



158: ◆NN1orQGDus
08/10/15 18:29:24 0jQHffgB
シェアード青春とかファンタジーとかロボットスレからきますた

159:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/15 18:30:15 4uSbDo/9
おおー正統派短歌キタ
最後だけ575じゃないのはなんか仕様?

160:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/15 18:45:30 Mk2HGzL4
「帰秋」
 秋霖凍街路

 雨及長斯如

 竟見月山蘆

 君忘勿拙居


書き下し文にしてくれよ!!!!!!


161:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/15 18:53:14 5OVPMcQI
誤爆スレの>>101を参照だ!!!!!!!

162: ◆7103430906
08/10/15 21:03:19 ZR8no3Pq
>>154 >>156
見事に引っ掛かってくださってありがとうございます。
「彼」「彼女」という言葉を使わずに表現するのは難しかったです……。
固有名詞をつけても良かったんですが、良い名前が思いつかなかったので、
名前はご想像にお任せということで。
でも、「彼」「彼女」を使わなかったことで、すぐに相手が女だと気付かれるかなぁと思っていたんですが……。
二人も釣られてくれたということで私としては大満足です。
ありがとうございます。
 
>>155
百合スレは私も見ていますw
見ていますがなかなかネタが思い浮かばなく……w 
この二人の今後の話とか需要ありますかね?w

163:十月『秋』 ◆NN1orQGDus
08/10/16 21:18:37 7l+02koQ
ありていの 姿をみれば 姿見の 盃の酒 映る月かな

瀬を早み おつる飛沫に とぶ飛沫 虹がかかりし 渋き柿の木

夕暮れの 釣瓶落としに 誰もなく 彼も無くして 黄昏の風

狂い咲く 桜垂れて 散り行かば いとう心に 杯を重ねん



164:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/16 21:51:31 gs7uBmnc
桜は春の季語かと思ったけど、「狂い咲く桜」は秋なんだ。知らなかった。

165:10月「惜秋」 ◆LV2BMtMVK6
08/10/17 00:15:09 bHq/hWul
投下します。お題は「秋」「十」、歌物語を現代風解釈で作ってみました。
Gスレより。

 彼女と出会ったのは秋の初めのことだった。この町に来てすぐのことで、私は新居の近くの川沿いを歩いていた。
海に面した都市から内陸の高原の町への移動は私をもの寂しい気持ちにさせたが、朝に歩く習慣ばかりは変わらず、
処々に歩を散じていたのだった。
 小さな橋を過ぎ、河原へ下る草生の道へ踏み入れたとき、私はその背中に気付いた。彼女も散歩をしていたのだった。
 
 次に私たちが会ったのは、月の満ちた夜の事だった。

 月影や さやかに揺れぬ笹垣に 白玉置きにし 秋桜ひとつ

 私たちは時折逢うようになった。だが、この関係が長く続くことはなかった。彼女が結婚していると知るに及び、
私は慎重になり、彼女はそんな私を責めた。彼女と最後に会ったのは、風が高原に冬を呼ぶ朝、澄んだ高い空の下のことだった。

 君が背を 払いて過ぎし 天つ風 野辺の芒に 霜降る朝(あした)

 はや年も暮れる。願わくは来年が彼女にとって良い年にならんことを。

人の道の 別るるものと 言いながら 斯くも短し 今年(こぞ)の十字路

                                (了)

166:11/26に名無し・1001投票@詳細は自治スレ
08/10/18 20:22:24 +6LXbosP
歌物語とは予想外



167:10/26に名無し・1001投票@詳細は自治スレ
08/10/19 01:55:14 vAbxACcA
三行スレから投下致します。といっても、内容は三行ではないのですが。
>>313の前後のお話、という事になりますね。Gも煽てりゃ創作をする、ってことで。
レスは一行分です。あらすじ美人という言葉がありますが、三行美人といわれない事を願いつつ……。

168:10月『魔術師は雨の中産声を上げる』 ◆CkzHE.I5Z.
08/10/19 01:58:00 vAbxACcA
 初めて魔術を教わった時の事を、私はよく覚えている。
 祖父はいつもの仏頂面。
「……左手を出しなさい」
 言って彼が私の手に結んだのは、魔術の初歩である一つの呪だ。
「これは【撥水】の魔術だ」
「これでどうなるの、おじいちゃん?」
「水を弾く」
 祖父の説明はいつも簡潔で、そのままだった。
「試すに如くはない」
 と彼は小さく呟き、机の銅水差しを取り出して私の掌の上で傾けた。
「わぁ……なんか、ふしぎ」
 確かに左の掌が、まるで蓮の葉のように水を弾いた。
 祖父は眉を少し動かして微笑む。
「直に不思議でも何でもなくなる。
 何故なら、これが魔術師の日常であり、魂に刻み込まれた性だからだ」



「……【撥水】、か?」
 悪魔は無感情な声で言った。
 私にその顔を見てとれる余裕はないのだが、恐らく表情を変えてなどいないだろう。
「そうだよ」
 雨音のせいか、聴こえる自分の声にノイズが混じる。
 集中が途切れないよう、じっとりと滲む額の汗を手の甲で拭い、服の裾に擦り付けながら答える。
 ―祖父に何度も叱られて、それでも直らなかった私の癖だ。
「失礼だが、そんなものに意味があるとは思えないのだが。我が主殿?」
 それくらいわかってる。
 私の拙い魔術と弱々しい魔力とでは、半時も持たずに呪は解けてしまうのだろう。
 でも、今この瞬間だけでも私は、祖父の棺をこの冷たい雨に濡らしたくないのだ。
「非合理だ。主殿」
「うるさい! いいからおじいちゃんをはこびなさい!」
「……初歩とはいえ、稚拙な魔術であるな」
 悪魔の溜息とともに生じたのは、この世のものとも思えぬ異音。
 それは、揺らぎ、跳ね、羽ばたき、軋むような唸り声。
「……始めから、私にそう頼めばよかったのだ。私の魔力による手柄は、私を召喚した貴女の手柄になるのだから。
 一体、何を遠慮する必要があるのだ?」
 それはいじけて祖父を困らせた時の、私の口調に似ている様にも思えた。
 祖父の棺を淡く包む魔力が、私にも感じ取れる。
 私は魔力の集中を解いて、小さく俯いた。
「……ありがとう、あくまさん」
「いいや? どうって事はないが?
 それにしても、主殿の如き未熟な魔術師が私を呼び出し使役しているというのは、全く不思議でならないな」
 悪魔は早口で並べ立てる。
 何となく、彼が仏頂面以外の顔をしている気がした。
 でも彼の顔は見れない。私の顔は伏せたまま。
 幼くて未熟な私にも、魔術師としてのプライドはあるのだ。
「ありがとう、あくまさん」
 もう一度、感謝する。
「……いいや、主殿」

 灰色の空はまた一段と雨足を強めてきた。
 惜しくも私のプライドから零れ落ちた涙の一粒は、祖父の棺にぶつかり弾けて消えた。

   ―了―

169:11/26に名無し・1001投票@詳細は自治スレ
08/10/19 02:01:45 bZv4cS4R
思わず3行スレの313見に行ったぞ
これか!
間にある空白部分にこの3行が入るのか、奥深いな
なんか雰囲気とかがよくてこれ好きだ



313 :名無し・1001議論中@自治スレ :sage :2008/10/18(土) 09:32:45 ID:RaLh+2ah
魔術師だった亡き祖父から工房を受け継いだ。使い魔の更新が私の最初の仕事になるだろう。
魔法陣に血液を注ぎ呪を紡ぐ。やがて現れた悪魔の仏頂面は、少し祖父に似ている気がした。
「して、先ず何を命じる……いと幼き我が主殿?」「おじいちゃんをおはかにいれてあげるの!」


170:秋「季節の変わりめにはご用心」 ◆R4Zu1i5jcs
08/10/19 03:51:15 ltYTDkh/
 ―秋。それは冷涼な澄んだ空気の中、穀物や果実が実る豊穣の季節―。

 うだるような暑さ。もうそろそろ秋だというのに残暑はまだまだ残っている。全く、暑さには少し自重して欲しいものだ。
 そんな愚痴を心の中で垂れ流す今日この頃、私は遠い自宅へと下校真っ最中。が、それももう終い。この階段を上りきればそこにはマイホームが。
「ん?」
 そこにはそわそわとしている挙動不審な少女。あ、目が合った。
「貴方、この町の巫女様ですね! 頼みたいことがあるんですが……」
 ……そう。私はリアルで巫女なのだ。今までもしばしば八百万的なトラブルを解決してきた。あ、ちなみに実家は神社で階段が半端ない。マンションとかだったら可愛げがあるってものだ。
「で、何? 明日小テストあるんだけど」
「しょうてすと……? まぁ、それは置いておいて! 一大事なんです」
「えー……」
 なんでも夏の神様がもうすぐ秋にも関わらずこの町に居座っているらしい。夏が長いのはここ数年ずっとなのだが、今年は秋の神様が風邪を引いて夏の神様に全く敵わないらしい。
「地球温暖化ね。電気は大切に。じゃっ」
 戸に手をかけると、少女は必死にそれを止めて来る。あっ、耳出てる。化け狐かな?
「いやいや待ってください。何でこの町? とか疑問あるでしょ! それに緊急事態ですよ!?」
 霊風というのがこの町から吹いていて、四季の神様の力を日本全国に効率よく伝えられるのだ。この土地を管理する家んちでは常識だ。
「いやー、使い魔君さ。風邪は不摂生の賜物よ? 秋の神様も悪いとこがあるんじゃないかな。駅前に薬局あるから、さ」
「諭すように言われてもっ! このままじゃ秋が来ませんよ」
 あきがこない【aki ga konai】。スポーツの秋、読書の秋、食欲の秋。色々あるけどやっぱり深夜アニメの改編期。しかも今期は私の好きな魔法少女アニメが……。
 ちなみに巫女は駄目だ。現実に妹がいると妹キャラに欲情出来ないのと似た感覚だろう。
「で、どうすればいいの?」
 それにこの暑さも馬鹿に出来ない。
「えーと、夏の神様を倒して下さい」
「いやいや無理でしょ!」

171:秋「季節の変わりめにはご用心」 ◆R4Zu1i5jcs
08/10/19 03:52:44 ltYTDkh/
 仮にも相手は神様。しかもこの土地を借りているとはいえ日本全国に干渉出来るレベルの。
「では、手っ取り早く秋の神様に憑く病を追い出し、一時的に巫女様に憑依させるのはいかがでしょう」
「とどのつまり風邪うつすってことでしょ?」
 難しそうに言っても騙されないぞ。
「はい。しかし馬鹿は風邪を引かないという格言も……」
「あんただんだんなめてきてるだろ」
 とりあえず神社の中で降霊することにした。
「神様って降ろせんのかな?」
「いや……でも実体ありますよ?」
 つまり私の体に降ろすのは無理。なのかな。
「あー、もうめんどくさいから呼んじゃお。来ーい」
 有り難いらしい御札に清めのビールをぶっかける。我ながら酷い儀式だ。
 ぽんっと煙が立ち、中から金髪の女性が現れる。なかなかナイスバディだ。
「う~、酷い呼び出し方。さ、寒気がする」
「あっ、貴方は!」

 そう、私がまだ小学生だった時の話だ。私たちは赤や黄に染まった裏山で隠れんぼをしていた。
 私は少し張り切りすぎていたんだと思う。誰にも見つけられないような場所を探して隠れた時には疲れて寝てしまった。
 そして目が覚めた時には辺りは暗かった。一緒に遊んでた友達も私が先に帰ったと勘違いして帰ってしまったようだった。
 暗くて不安で……独りぼっちが怖くて私はその場を動けずすすり泣いていたっけ。しばらくそうしてると、がさがさと落ち葉が軋む。私は恐怖で震えあがったが、そこから人が現れたのだ。
 黄葉みたいな金髪で綺麗な人だった。その人は優しく手を差し延べて私を助けてくれた……。私を見つけてくれたのだ。

「あの時の!!」
「い、いやそんな美しいエピソード知らないし。何で呼び出したのよ」
「あっ! 実はですね」
 ごにょごにょと耳打ちする化け狐。
「あーら、貴方が」
 ゆらりと立ち上がる秋の神様。風邪で顔が赤くてどこか妖艶だ。
「じゃあいただきます」
 ぺこりと頭を下げる秋の神様。ん、何を頂くのだろうか。んん?

172:秋「季節の変わりめにはご用心」 ◆R4Zu1i5jcs
08/10/19 03:53:52 ltYTDkh/
 顎に彼女の指が伸び、ぐいと引き寄せられる。秋の神様のとろーんとした目がとても色っぽい。こっちまで変になりそうだ。
 そのまま唇同士の距離が縮まっていき、やがて重なり合ってしまう。
「ん、ふぅ」
「んんっ。ん~」
 思わず突き放す。正気に戻れ私。こんなの冗談じゃないわ! でも……
「そんなんじゃうつらないわ。抵抗しちゃ駄目よ。巫女さん」
「そ、そんな、私たち女同士じゃない……」
 またしても空ろな瞳が近付いて来る。あぁ、覚悟を決めよう。目も閉じよう。そして「ふふ……あなたの胸も豊穣にしてあげるわ」とか言われるんだ。
 待ち構えているとくしょんくしょんくしょんと三連発。心なしか顔には何か冷たいものが。
「接吻してくしゃみ三回。これが相手に風邪をうつすおまじないなの」
 確かに秋の神様はケロッとしている。まじで治ったみたいだ。そしてこちとらなんかぞくぞくする。まじでうつったみたいだ。
「じゃあね~。これで夏の神様に勝てるわ」
「……お大事に」
 秋の神様は大手を振って、化け狐は申し訳なさそうに我が家を後にした。くしゅん。秋なんて大嫌いだ。くしゅん。つーか巫女関係ねぇ。くしゅん



「そんな弥生ちゃん駄目だよ……。女の子同士でその……」
 キスしただけでこの動揺。ふふ、可愛いものだ。
「ほら、目を閉じて。もっとすごいことしてあげるからさ」
 ごめん、知子ちゃん。わざわざお見舞いに来てくれたのに、ごめん。私は万全の体調で深夜を迎えたいんだ。



173: ◆R4Zu1i5jcs
08/10/19 03:55:23 ltYTDkh/
終わり
開始宣言忘れた……。
ちなみによくいるのはGGG、シェアード、百合。最近ではローゼンスレとか。

174:10/26に名無し・1001投票@詳細は自治スレ
08/10/19 04:33:47 vAbxACcA
ふぅ…
>>173乙です!そしてご馳走さまw
ビデオで録って見ろよwwとか、そんなおまじないがあるなら何故俺に風邪をうつさなかったのか!とか、色々と言いたい事は有りますがww
とりあえず、幕引き直後の知子ちゃんの不幸を思って鳴くことにします。メェー

175:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/19 08:53:32 hDGa9Z38
>>168 gj! ところで、その1レスの前後も読みたい

// ふははは! 今の私は読み手! 故に書き手に無理難題をふっかけても許されるのだ!

176:10月『薩摩芋とレアチーズのミルフィーユ』 ◆CkzHE.I5Z.
08/10/20 04:28:01 KrmA+9UF
一部の方には御待たせ致しました。こんな時間ですがお料理の投下です。
お題は「秋」という事で、みんな大好きサツマイモを使ったデザートを。愛と勇気が友達です。


『薩摩芋とレアチーズのミルフィーユ~秋のS-1すぺしゃる~』

☆材料
サツマイモ クリームチーズ 生クリーム 蜂蜜 グラニュー糖 塩 市販のバニラアイス

♪レシピ

蒸かしたサツマイモをマッシュします。
芋はそのままでも甘くて美味しいのですが、今回はデザートなので蜂蜜を少し。
そして塩を少々。芋の甘さが引き立ちます。

クリームチーズをホイップした生クリームでのばします。クリームチーズって、そのままだと固い上に味がないのです。
チーズ4:生クリーム2:グラニュー糖1 くらいの分量で良いでしょう。
生クリームの泡が壊れて柔らかくなりすぎたら、レモン汁を少々加えると固さが出ます。でも入れすぎには注意!
お好みでリキュールやブランデーを少し入れても良いですね。

サツマイモを細く切り、低温の油で揚げます。
写真の芋は一ミリほどの薄さに切って、格子状に並べてから揚げてますが……まぁそこまでする事もないでしょうwチップス状で十分です。

上記が全て出来上がったら盛り付けです。
重ねます。ぐらぐらするけど、重ねます。層を作るように、重ねますです。

とどめ…じゃなかった、仕上げにバニラアイスを乗せて粉糖をふりかけて完成!
フォークでぱりぱり崩しながら召し上がれ。
  URLリンク(www6.uploader.jp)

  ※撮影後、スタッフが美味しく頂きました。

177:1 ◆LV2BMtMVK6
08/10/20 05:26:31 7qmOyj6s
恥も外聞もなく氏に粘着していたがしつこく料理リクしてよかったぜw

178:11/26に名無し・1001投票@詳細は自治スレ
08/10/20 08:54:38 QyZM+7K4
おおーすげーうまそー

179:10/26に名無し・1001投票@詳細は自治スレ
08/10/20 17:58:00 KrmA+9UF
滑り込み投下こないかなー

180:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/20 18:19:09 yOkDUHTp
>>176
すげー
匠の技やん

181:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/20 19:37:22 MHDPeRSQ
>>176
これは素晴らしい
林檎の飾り切りと芋の薄切りのシャープな形が映えるな

182:10月『>>168の前後』 ◆CkzHE.I5Z.
08/10/20 20:03:27 KrmA+9UF
連投の上、まさか>>175に応えてしまうとは誰も思わなかったに違いない。俺もびっくりです。
流石にそのまま繋ぐと文脈に無理が出ますが……き、気にしないぜ?
レスは二つ消費予定。お題に沿っているかどうかは、正直微妙なところであります。
俺以外の滑り込み投下もお待ちしてます! というか頼むぜ! あ、点呼スレも宜しく(宣伝

183:10月『>>168の前後』1/2 ◆CkzHE.I5Z.
08/10/20 20:04:36 KrmA+9UF
 祖父の使い魔を初めて見たのは、あれはいつ頃だったか。

「はじめましてお嬢様? ごきげんうるるるるわしゅう?」
 言って、掌ほどの大きさの悪魔はケタケタケタと早口に笑った。
 私はといえば、あっけに取られて声も出せずに呆然とするのみだ。
「…………」
「おや? 寡黙なお嬢様ですね? 我があるるるるじ様と話す時の元気はどうされたのです?」
「……あの、ちょっとびっくり……りりりしちゃって」
 心を落ち着かせて、何とかそれだけを返す。
「慌ててどもるるるる所も、とってもキュートですよ?」
「はぁ……ありがとうございます」
「お嬢様のお名前は?」
「…………」
 悪魔を相手に、迂闊に名を明かしてはいけない。
 それは、祖父にきつく教えられていた事だ。
「流石? 我があるるるるじ様のお孫様ですね?
 そう? 沈黙こそが正答です?」
「あなたは、おじいちゃんのつかいまさんなの?」
 訊くと小さな悪魔は自慢げに頷いた。
「その通り? 我こそが老ラルルルルフ師の十指の六本目であるるるるのです?」
 祖父が十の使い魔と契約しているのは、確かに聞いたことがある。
「でも……おじいちゃんのなまえは、そんなに”る”がおおくないよ」

 記憶しているのは、そこまで。
 あの無口で仏頂面の祖父が、こんな……陽気で調子の良い悪魔を使役している事を、暫くして意外に思った。





184:十月「ロリババァと鍋と猫」 ◆y5PlOoIW6M
08/10/20 20:05:51 qQojbx/G
お題「秋」でロリババァスレより投下いたします
URLリンク(www6.uploader.jp)

185:10月『>>168の前後』2/2 ◆CkzHE.I5Z.
08/10/20 20:05:51 KrmA+9UF
    ―――――――――



 雨はますます激しく冷たさを増しているように思えた。
 私は祖父を運びながらもどうしてか悪魔の顔から目を離せなかった。
「休憩が欲しいのかね? それとも悪魔が珍しいのかな、主殿?」
「……ちがうよ」
 感情の篭もらない声を聞いて、ふと不思議な事に気づく。
「あくまさんのかお……」
 初めて見た時は、祖父にそっくりだと思ったのに。
 今こうして見ると、全然違う。否、むしろ……。
「あくまさん、かおがかわった?」
「ふむ? その様な事はないが」
「…………」
 私は彼を呼び出した時の印象を話した。
 すると、悪魔は憮然としながらにやりと笑う。それは複雑で不思議な表情だった。

「それはだな、主殿。
 私が契約の代償として、主殿の持つ祖父との記憶を”喰った”からだ」

「…………それって、どういうこと?」
「一般的には、契約者の感情を代償にする事が多いようだ。そうして魔術師は無駄な感情を切り捨てる。
 どうだ? 魔術師の先達である主殿の祖父は、欠落している感情がなかったか?」
 彼の言っている事が、理解できなかった。
 しかし言われてみると確かに、祖父は殆ど感情を動かす人ではなかった。
 それに何故だか、必死に思い出そうとしても、大好きな祖父の顔が……!
「……っっ! おじいちゃん!」
 棺の蓋に指を掛ける。
「棺を開けるのはやめた方が良いと思うが、主殿?」
「どうしてっ!」
「それを開けて、中に全く会った事もない他人が入っていたら。
 ……主殿は困るであろう?」
 私は……何も言い返せなかった。
 これ以上重ねて祖父を失うのは、きっと耐えられない。
 それに、彼の言葉には納得出来る部分もある。
 魔術師とは。
 悪魔との契約とは。
 本来、そういうものだからだ。
「主殿の秘めたる才能もあろうが、それだけでは私の如き高位の悪魔は使役出来なかったであろうな。
 ……実に、良質な糧であったぞ?」
「……っ!!」
「さぁ、急ごうではないか。時間は有限だ……幼き身にこの雨は長くは耐えられまい」
 悪魔は私に背を向けて、再び歩き出す。彼の言う事は、確かにもっともなのだ。
 雨と疲労と絶望で重くなった体を無理矢理に鼓舞して、私はその背中に声を掛ける。
「……わかった、いこう」
「その意気だ、主殿」
 振り向かずに、悪魔が答えた。


 過ぎ去りし美しい日々と交換したのは、魔術師としての人生の始りだった。
 多くのものを失った気がする。だというのに、この小さな体は何も持たないままだ。
 しかし胸中に不安はなかった。
 祖父に似ていたはずのその顔を、その後黙り込んでしまった彼の背中が、ずっと隠してくれていたお蔭かもしれない。

  ―了―

186: ◆y5PlOoIW6M
08/10/20 20:09:28 qQojbx/G
割り込んじゃった……orz ゴメンナサイ

187:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/20 20:11:16 7qmOyj6s
>>184クオリティ高いな

188:10/26に名無し・1001投票@詳細は自治スレ
08/10/20 20:13:23 KrmA+9UF
HAHAHA☆ すげえタイミングでかぶっちまったぜww
>>184
背後から抱きしめたくなるようなロリババァGJ! 抱きしめた後の悲劇など気にしないぜww
やっぱり創発にはロリババァが欠かせないと思います! 結婚して!

189:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/20 20:20:42 0yJ3YeGY
>>176
今度作ってみることにしよう
おいしそうです

190:11/26に名無し・1001投票@詳細は自治スレ
08/10/20 21:55:15 QyZM+7K4
>>184
ロリババァいいな!
だがしかしケモナーの俺はぬこの均整のとれた体つきもみのがさないぜ!

>>185
なんだか世界観がどんどん広がってるな
これ普通に長編で書けるんじゃね?
契約の代償に悪魔が祖父の記憶を奪ったって所になにか
すごい複線がありそうでwktkだ、っと無責任に煽ってみるw

191:10月『紅葉』 1/2 ◆KazZxBP5Rc
08/10/20 23:39:41 GXr60qzN
ギリギリだ…
TSスレからきました。お題は「秋」を使います。



風が、一段と強い風が、私の前を通り過ぎていった。
その匂いに、またあの季節が訪れたことを改めて実感する。
真っ赤に染まった葉がひらひらと舞い降りてきた。
ひとつ掴み取って眺めてみる。
夏には緑だった葉も、すっかり色を変えてしまった。
目をつぶると、あの頃の思い出がまだ鮮明に蘇ってくる。

十年前のこと。
「せい……り?」
医者の言葉に戸惑う私がいた。
自分の体調不良の原因がそんなところに行き着くなど夢にも思わなかった。
なにせ当時の私は男だったのである。
いや、男だと思っていた。私も周りも。
でも本当は違った。
『仮性半陰陽』―聞いたこともなかったけど、私はそういう体質だった。

それから私は真新しいセーラー服に身を包み登校することになる。
さすがに高校生にもなるとあまり深く詮索してくる人はいなかった。
ただ、逆に遠慮がちになりすぎてあまり話しかけられなくはなった。
とは言ってもそれまでも積極的に人と話す性格ではなかったので特に苦痛ではなかったのだが。
とにかく私は、クラスから孤立していった。

「寒いかな」と昼間でも思いはじめるようになった頃、突然クラスメイトの一人が話しかけてきた。
あの時のことは一生忘れないだろう。
「大丈夫?」
「え……?」
「寂しそうな顔、してたから。」
彼は気づいていたんだ。
本当は不安でしょうがなかった。
思春期に「あなたは実は女でした」なんて言われて大丈夫なわけがない。
そんな時に同じ年齢にある同級生の誰にも相談できないで、ひとりで抱え込んでいた。
私は泣いた。その場に泣き崩れてしまった。

人の輪というのは広がるもので、彼と話し始めるようになって、私には友達が増えていった。
男だった頃はあまり喋ったことのない女子とも仲良くなった。
そして彼とは親友と呼べるような間柄になった。
いつも私を助けてくれた彼。
彼に、友情とは違う別の感情を抱き始めたのは、それぞれの道を歩み始めた三年後のことだった。

192:10月『紅葉』 2/2 ◆KazZxBP5Rc
08/10/20 23:40:26 GXr60qzN
不意に、私の肩をがっしりとした手が優しく抱え込んだ。
「また昔のこと考えてたんだ。」
「うん……。」
会話はそれだけで途切れた。

今から二年前。私はとある会社に就職した。そのときにはもう私は『普通の女』だった。
ある日、休憩時間にフロントの自動販売機でカフェオレを買った時のこと。
缶を手に、顔を上げた瞬間。
「あ……。」
彼がいた。うん、間違いなく彼だ。男の人って成長するとこんな風になるんだ。
お互い立ち尽くしたままだった。
受付の人の気まずそうな視線を横目に感じる。
「元気だった?」
何か言わなければと、間抜けな挨拶が口をついて出た。

彼は営業で偶然うちの会社に来ていたらしい。
その後のことは一瞬だったような気がする。
告白、数十回重ねたデート、プロポーズ、そして……。

「なんか不思議な感じ。」
ふと思ったことを口にした。
「私の中に、別のいのちがあるなんて。」
彼は黙ったまま聞いている。
「男の時の私が聞いたらどう思うのかな。」
またひとつ強い風が吹いた。
それを見送って彼は口を開いた。
「男も女も関係ないよ、きっと。素敵なことだと思う。」
「そっか、そうかもね。」
私たちは身を寄せ合って公園の木々を眺めていた。

【おしまい】

193:二人の十一歳 0/1 ◆D3eT0HoDzA
08/10/20 23:47:11 eJDQp+Nb
1レス以内スレからきました。
スレリンク(mitemite板)
当該スレからお題を提供してもらいました。
>43 :名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/17(金) 15:16:04 ID:qjJM/C91
>じゃあ10歳で死ぬと医者につげられて超絶甘やかされて育った少女が
>11歳の誕生日(誕生日は秋)を迎える話

194:二人の十一歳 1/1
08/10/20 23:47:53 eJDQp+Nb
 由香はかわいそうな少女だった。七歳の誕生日に彼女は突然倒れ、病院に運ばれた。そのときは一命を取り
とめたものの、医師は彼女が十歳までしか生きられないだろうと告げたのだ。それは体内の器官の一部の成長
が止まってしまう病気であり、現代医学では解明されていないものであった。
 その後の由香の人生が酷いものであったかというと、決してそうではなかった。両親は不治の病に冒された娘
をこれでもかと言うほど甘やかしたし、よく由香と喧嘩していた双子の弟である健太も彼女が病気を盾にして罵
ると何も言い返せなくなってしまった。
 由香は自分が十歳で死ぬという事実に早い段階で適応した。死んでしまうのは悲しいけれど、学校へ行かなく
ても両親は怒らないし、食べたいお菓子や欲しいおもちゃは好きなだけ買ってもらえる。宿題に追われる心配は
ないし、ムカつく弟も一発で黙らせることができる。
 十二の季節が流れ、彼女は十歳になった。由香はまだ生きていた。
 十六の季節が流れ、彼女は十一歳になった。由香はまだ生きていた。
 由香の家族は十一歳の誕生日に、彼女を病院へ連れて行った。病院で精密な検査を受けた結果、成長が止
まっていた器官が成長を再開しており、原因は不明であるが病気は治っていると診断された。
 涙を流して喜んでいる両親と、ホッとした顔をしている弟を余所に、由香はそっと病院を抜け出した。
 由香は困惑していた。彼女だって死ぬのは怖かった。しかし、これからのことを考えるのはもっと怖かった。両
親は今までみたいに彼女を甘やかしてはくれないだろうし、学校へも行かなくてはならない。そして何より弟が怖
かった。両親が由香に付きっきりだった四年間、健太は両親からほとんど放置されてきた。そして彼女自身は健
太をパシリのように扱ってきた。勉強も運動も彼女よりずっとできるようになった弟が、これから由香に対してど
う接してくるか想像すると、由香は震えが止まらなくなった。
 気づくと、由香は一つの川の前に立っていた。紅葉の葉で彩られた流れはとても綺麗で、吸い込まれそうにな
る魅力を覚えた。
 由香は川を見つめ続けるうちに思ってしまった。『いっそこの川に飛び込めば楽になれるかな……。この高さ
なら無傷では済まないだろう。大怪我すれば父さんと母さんだってまた……。でも、死んじゃうかも。でもでも、死
んでしまうならそれはそれで――』
 強い風が吹いた。それが由香の意志であったかどうかは分からない、しかし彼女は川に落ち、意識を失った。

「姉ちゃん!! 目をさましてよ、姉ちゃん!!」
 その聞きなれた声で彼女は覚醒した。
「健太? どうしてここに?」
「姉ちゃんが突然いなくなったから僕が探しに来たんだよ。父さんと母さんが心配してたんだよ。姉ちゃんこそな
んで溺れてるんだよ」
 由香は健太が自分を助けたことを意外だと思うと同時に、自分がまだ五体満足であると知り、軽く絶望した。
「……ねぇ、健太」
「ん?」
「健太はお姉ちゃんのこと嫌いよね?」
「え?」
「嫌いに決まってるわよね。わがままばかり言って父さん母さんを独占してきたお姉ちゃんのことなんて」
「……」
「お姉ちゃんね、飛び降りたの。でも死ねなかったの」
「……」
「だからもう一回……」
 二人の間を沈黙が支配した。それを打ち破ったのは健太だった。
「ねぇ、姉さん」
「ん?」
「今日が何の日だか知ってる?」
「えっと……お姉ちゃんの誕生日?」
「うん。そして僕の誕生日だ。だからさ、縁起の悪いことはしてほしくないんだ。」
 由香はその言葉に何も返せない。
「小さいほうは大きいほうの言うことを何でも聞くこと!!」
 健太は叫んだ。
「え?」
「姉ちゃんの口癖だよ。最近の姉ちゃんは僕をこき使うためにこの言葉を使ってるよね。でも、僕は覚えてるよ。
昔の姉ちゃんはこの言葉を使って僕を守ってくれたことを」
「……」
「姉ちゃん。姉ちゃんが病気の間に僕の方がずっと大きくなったんだ。姉ちゃんの背は僕の肩までしかないんだ
から。だから、ね。僕に甘えていいんだよ」
「でも」
「でももだっても無いんだよ。『小さいほうは大きいほうの言うことを何でも聞くこと!!』」
 由香はなんだか悲しくなって、嬉しくなって、四年ぶりに泣いてしまうのだった。


195:11/26に名無し・1001投票@詳細は自治スレ
08/10/20 23:49:03 QyZM+7K4
投下乙!

仮性半陰陽か
最近そういうの流行なのか漫画でよく見るね
リアルでは結構つらいものらしいけど

なんか雰囲気というか全体的に漂う空気感がいいね
投下乙でした!

196:11/26に名無し・1001投票@詳細は自治スレ
08/10/20 23:54:14 QyZM+7K4
って感想書いてるうちにさらにキター
まさに滑り込みだなw

>>194
御題つき1レス創作とはずいぶん縛りありなんだな
でもこれはいい話だ
双子の弟凄くいい子だなー
きっと由香もこれから先しっかりと生きていけるだろう



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