08/09/19 21:12:18 1cUHFyBI
六月二十八日
「こんにちは」
女性の声がして、ドアがノックされた。
休日を一緒に過ごす相手もいないのに休日をもらった彼は、
午前十時、今日はレンタルビデオと図書館のどちらに行って暇を
つぶそうかな、と考えながら歯を磨いていた。この時着ていた
自宅着はTシャツとスウェットの下、しかし彼はそのような
だらしのない格好などなんの瑕疵にもならないほどに恐ろしいほど
の美青年・・・と書きたかったが残念ながらそうではなく、
もし誰かが「彼って結構かっこいい顔してるよね」と言えば
十人中八人は「言われてみれば確かに・・・」と同意するだろうが
別に誰もそんなことを言い出さない、彼のルックスについては
その程度である。髪を伸ばしているのはオシャレのためではなく、
ただ単に髪を切りに行くのが面倒くさいためだ。ブリーチも
パーマもかけてはいない。ちなみに今の彼の長い髪はボサボサで
寝癖だらけである。そんな彼の家に美しい女性の訪問者が現われた
のだった。しかしその女性はいささか幼すぎたために彼を全く
感動させはしなかった。宗教の勧誘か訪問販売のどちらかだろう、
と思いながら歯ブラシをくわえたままドアを開けた彼は、
玄関前に10歳くらいの美少女が立っているのを発見して
ガッカリした。せめてあと十年ばかり歳を取ってから来て
欲しかった、と思ったからだ。真っ直ぐで艶のある長く美しい
黒髪と、同じ色をした吸い込まれそうに澄んだ大きな瞳、
それとは対照的に透き通るような真っ白いすべすべとした肌、
清楚な白いブラウスと短いズボン、紺のハイソックスに
生意気にも本革らしき品のいい靴に身を固めた、折れそうに
華奢な身体、このままあと何年か経てば絶世の美女になる
だろうなぁ、と思いながら彼はつくづく残念そうに少女を
見下ろした。