09/09/10 22:42:07 KcOAlryw
『走馬灯』
急激なスピードでビルから落下していく最中、エヌ氏の脳裏をたくさんの出来事がよぎっていった。
まず最初に浮かんだのはまだ物心つかない子供のときに、死んだ両親の棺桶にしがみついている自分の姿だった。次に自分を引き取ってくれた親戚の家が、自分の家とは比較にならないほど大きく豪勢な屋敷であったことが思い出された。
続いて、親を亡くした自分を迎えいれてくれた新しい両親の優しい顔と、ことあるごとに意地悪をしてきた新しい兄弟達の顔が浮かんだ。
そして兄弟達の意地悪に負けずに一心不乱に勉強をしたこと、その結果自分が跡継ぎに指名されたときのことが脳裏を流れていった。
美しい妻、かわいい子供の顔、贅沢な生活をしていたこと、様々な事柄が鮮明に映し出されていった。そして最後に金属バットをふりかぶった兄弟の姿を思い出した。
地面に激突する瞬間、エヌ氏はつぶやいた。
「あの二人は本当に私の妻と子供だったのか。ごめんよ。でも、ついに記憶が戻ったよ」