09/06/22 23:12:59 g7MvCoXe
>>660の続き
『“That's PAPER”は来月号をもって休刊となります。ご愛読ありがとうございました。』
顔面がひきつり、耳がピクピク動いた。心臓は止まっていたかもしれない。
俺は慌てて携帯電話を引っ付かんで、編集部に電話をかけた。
俺は出てきた男に、どれだけ“That's PAPER”を熱望し、心酔しているかを語り、なんとか休刊を撤回できないかと懇願した。
「“That's PAPER”を愛して頂いたようで、ありがとうございます。ただ、うちの会社自体が倒産となり、もはや当誌だけではどうにもなりません。」
淡々とした解答に俺は頭を抱えた。
3ヶ月前なら兎も角、今や倒産を救うだけの資産は無い。
俺は頭を無理に回転させて、星座占いの占い師を教えてくれないか、と相手に問い質した。
相手の解答を聞いて、俺の顔面と耳は再びピクピクと痙攣した。
「あの占いは社員が持ち回りで書いてまして、特定の誰かが占っているわけでは無いのです。占いというよりそれらしい文を連ねただけですが、予算の都合も…」
それから1ヶ月、最後の占いに向けて、金を最大限かき集める為に働いた。
バイトを掛け持ちし、昼夜問わず寝る間を惜しんで働いた。賭事に溺れ職を捨てた俺に金を貸してくれる者はおらず、自分で稼ぐしかなかった。
“That's PAPER”最終号
天秤座★★★★★
運命が大きく好転する月。過去の枷から解き放たれて天馬のように羽ばたけます。
発売日はA記念の当日。天秤座の馬は全レースにただ一頭、最終レースの16番人気ハッピールーイン。
充分だ、複勝で当てれば金は一気に膨れ上がる。
かき集めた150万を小さなトランクに入れ、馬券売り場に並ぶ。
だが俺はハッピールーインの名を告げることなく、口から汚物を吐いて窓口で昏倒した。
……
…
目を覚ますと、職員が俺を介抱してくれていた。
張りの大窓と高級そうなソファーから見るにVIP席にでも収容されたのだろうか。
過労を重ねた体を縫い止めていた気持ちが、馬券を前にして切れたらしい。
「金は!?」
状況判断などしている場合ではない、俺は跳ね起きた。
職員の一人がトランクを差し出す。
金は…有る!
「レースは!!?」
職員が窓の外を指差した。
振り向いた俺が目にしたのは、最終レースが始まる瞬間だった。
天馬のように後続を引き離すハッピールーイン、俺はむせび泣いた。