星新一っぽいショートショートを作るスレat MITEMITE
星新一っぽいショートショートを作るスレ - 暇つぶし2ch634:創る名無しに見る名無し
09/06/05 21:34:24 F6g3V1Xg
第二の人生

 ある頭のいい悪魔が、新しい薬を開発した。
「やったぞ。これで、おれの仕事の効率は二倍にはねあがった……さっそく、試してみよう」

 悪魔は人間の住むところへいき、広場を歩く一人の老人に声をかけた。
「やあ、あなた、ちょっと話したいことがあるのです。まあ、そこのベンチにでも、どうです」
「なんですか、あなたは。わたしに何の用が……」
「それは、すぐにお話します。さあ、どうぞ……」
 悪魔は、やや強引に、老人をベンチへと連れていった。そして、すぐに話を持ちかけた。
「私は人間のすがたをしていますが、じつは悪魔なのです」
「悪魔だと……」
「信じられないかもしれませんが、本当なのです。試しに何かしてみましょう」
 そう言うと、悪魔は立ち上がり、通りかかる人に拳を振り上げた。しかし、悪魔の拳はひとの体をすり抜けた。
「どうですか。私は、あなたにしか見えていませんよ」
「や、本当のようだ。信じられん。あなたが悪魔だとすると、魂とひきかえに願いをかなえてくれたりするのですか」
 悪魔はベンチにもどり、腰をかけた。
「いいえ、私の場合は少し違います」
「と、言うと」
「あなたの魂とひきかえに、あなたの記憶そのまま、第二の人生を保証します。そして、今のあなたの魂と、第二のあなたの魂をいただきます」
「それは、死んで、生き返ることができるということか」
「その通りです。いかがなさいますか」
「是非、おねがいしたい。私は、今の人生に後悔している……」
 悪魔は立ち上がった。
「では、決まりですね。あなたが死んだとき、また、お会いしましょう」
 そう言い残し、悪魔はその場で消えた。そのあと、沢山の人間と契約を結んだ。

 しばらくたち、いつかの老人が死んだ。それを知った悪魔は、すぐに老人のもとへ駆けつけた。
「どうも。私を覚えてらっしゃいますか」
「ああ、もちろん。生き返らせてくれるんだったね。いますぐにでも、たのむ。はたちぐらいが、いいかな……」
「すみません。私の場合、そういう訳にはいかないのです」
「どういうことだ。あれは、うそだったのか」
 悪魔は少しあわてた。
「いえ、少し時間がかかるのです。あなたには薬をのんでもらいます。その薬が、あなたの中に新たな魂を作るのです」
「なるほど、そういうことか。魂ができあがるには、どれくらいかかるのだ」
「一年ほどかかりますが、天国で暮らせば一年なんてあっという間。どうか、おねがいできますか」
「わかった。おねがいするとしよう」
 老人は薬をのみ、天国へ向かった。

 老人の天国での暮らしはすばらしいものだった。毎日酒をのみ、うまいものを食べ、楽しく遊んだ。
自分と同じぐらいの年の仲間もたくさんいた。それは、天国の名にふさわしいものだった。
老人は、時のたつのを忘れ、天国を思う存分楽しんだ。
 ところが、突然のこと。老人は、目の前で光がまたたいたと思うと、きがつけば悪魔の前にいた。
「あ、あなたはいつかの悪魔……」
「やあ。約束通り、あなたを生き返らせて差し上げます。確か、はたちがいいとか、言ってましたよね。では、第二の人生を楽しんでください」
 言うが早いか、老人は若いハンサムな青年になり、人間の住むところに送られた。

 悪魔は言った。
「ふう、これで一段落。やっと片づいた。しかし便利な薬だ。死んだ人間の体の中に魂をつくり、そのまま眠らせ、楽しい幻覚を見せる作用を持つなんて。
 ほら、あの老人は自殺した。幻覚で見た天国が忘れられなかったんだな。本当はあんなもの存在しないのに。一年待つだけで、もう一つ魂が手に入るとは。
 あ、また誰か死んだみたいだ。おれの客のようだな。薬を飲ませてここへもどってきたら、もう少し短い期間で魂ができるように改良しようかな……」


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