09/04/25 19:54:27 MgKXHrUc
薬
「もう駄目でしょう。軍はほぼ壊滅状態です」
大尉は敵性宇宙生命体との戦争の総指揮をとる元帥にぽつりと言った。
かつて60億存在した人類は、現在5億にも満たない。
スライムのような姿の宇宙生命体は突如現われ、
人に覆い被さって一瞬で骨に変えてしまうという恐ろしい生き物だった。
人肉を自身の糧にしてどんどん膨れ上がり、
どんな攻撃をしてもふよふよと分裂するだけで人間は手も足も出なかった。
「いや まだだ!優秀な博士が奴等を殺す薬をようやく開発したのだ。
もうこれしか方法は無い!この薬を奴等の体に浴びせれば溶けて液状になるはずだ」
元帥はポケットから赤色の液体のサンプルを取り出し、大尉に差出した。
「…しかし、どのように?あれは大小様々、地球全土に行き渡って増え続けていますよ」
「ヘリで上空から撒けばいい。薬は大量に用意した。地球にスプレーして
奴等を駆除するんだ!害虫だらけの地球をこの薬で治してやる!」
そして軍は大陸、島にまんべんなく薬を撒き、宇宙生命体は薬が降り掛かると
ただの無色透明な液体になった。その様子を確認すると人々は両手を上げて喜んだ。
数日後の夜、大尉は元帥と空を見上げながら話をしていた。
「元帥、やりましたね。これで地球は元に戻るでしょう。
奴等のせいで人口はかなり減りましたが…全滅ではありません」
「あの薬のおかげだな。博士に感謝しなければ……ん?何か降ってきたぞ」
スポイトで落とす水のような勢いで雨が降り始めた。
「雨が赤い……?うわっ!なんだこれは!?い、痛い!」
2人の肌に雨粒が当たると火傷するような痛みが走った。「な、なんなんだ一体…」
急いで軍の施設の中に入ると、雨はざあざあという音に変わった。
同時に部屋から電話の音が聞こえ、大尉がその音を止めた。
「もしもし…え?人が死んでいっている?何故…死んだ人達に
何か共通点はないのか?……赤みがかった野菜を食べたって?そんな馬鹿な!」
元帥の頭の中であの薬の行方が映像の早送りのように再生された。
赤い液体のたっぷり染み込んだ土で植物は育つ。
川に混ざり海に流れ蒸発して雲になり水滴となって落ちる。
元帥は大尉から電話を奪い取り、博士の研究室の番号を打ち込んだ。
「博士!どういうことだ!あの薬が人体に有害なんて聞いていないぞ!
…(頼まれた通りあの生物を殺す薬を作ったんだからいいだろう)だと?ふざけるな!
あれは薬じゃなかったのか!地球を治すための!人が生きるための!」
その後人類がどうなったのかは わからない。