09/02/28 23:53:23 zFsYP0mK
「奥義」
「夫婦円満に過ごすコツ? 奥義があるんですよ」
N氏はお茶を持って来た奥さんを追い返してから、静かにそう呟いた。
それから彼は、試験管に入った液体を記者達の前に取り出した。
「これを飲めば肉体は十歳若くなる。動物実験を行ってみましょう」
氏はネズミ、犬、猫に投与した。
年老いた犬は十歳若返り、猫は子猫に、ネズミは胎児を経て受精卵になり、やがて消え去ってしまった。
記者達は嘆息した。
「なるほど、完璧だ。生まれる前まで遡行する訳ですね」
「この発明が……奥義、ですか?」
記者達は代わる代わる訊ねた。
これを氏が飲んだのか、それとも奥さんに飲ませて夜の生活を円滑にしているのか。
「違います。これはね、危険な発明なので封印しているんですよ。私も実はこれを実際に使う事は考えていない」
「と、すると……?」
氏はニヤリと笑って、言った。
「若返られる、という安心感。それだけで十分なのですよ」
記者達が帰ったあとで、氏は幼い娘を抱きかかえて言った。
「事実を言う訳にはいかないじゃないか。なあ、ハニー」
N氏の妻がお茶を持って来た。N氏は興味なさげに茶を口に含んでから、娘と語らい続けた。
「あなた―じゃない、旦那様。今日はもう、帰ってよろしいですか?」
「ああ、構わないよ。実のところ君は、昔の妻に似ているから雇っているってだけなんだから」