星新一っぽいショートショートを作るスレat MITEMITE
星新一っぽいショートショートを作るスレ - 暇つぶし2ch301:XXX ◆TqnDIIRxZU
09/02/18 00:06:17 xcx8FmqD
3つの願い

真っ白な病院の一室で、一人の老人がベッドに横たわっていた。
周囲には家族が寄り添っており、各々が励まし、呼びかけ、明るい言葉を発していたが、老人が今夜にでも手の届かないところに行ってしまう事に気付いていた。
ふと、老人がその目を開けた。ボソボソと何かを囁く。
彼はか細い声で、家族にしばらく独りにして欲しいと言った。
息子は強い人だったから最期を人に見せたくないのだと思い、孫は優しい人だったから皆の悲しむ様を見たくないのだと思った。
家族は部屋から出て行き、老人は独り病室に残された。
老人は皆が出て行った事を確認すると、そのか細い声で何かを唱え始めた。

「ウン、ハカマラキリ、チクマカラヒキリ、マカオカナラカフタカニユ、チマタニレニチ」
その呪文が途絶えると、部屋の隅から浮き出るように真っ黒な影が浮かび上がった。
顔は狒狒のようだが、顔以外の部位は朧気であり、体を覆う黒い毛は風もないのに周囲に溶け込むように揺らめいている。

老人は影に向かって問いかけた。
「丁度60年前の約束を覚えているか。」
《壷の封印を解いてくれた礼に3つの願いを叶えてやるという約束だ 愚かな人間よ》
影の声は何重にも重なった悲鳴のような高い奇妙な声をしていた。
「わしの一つ目の願いを覚えているか」
《お前の企みを包み隠さず話せ だったな 狡猾な人間よ》
「ふっ、お前の方がよほど狡猾だ。お前と来たら、金を願えば誰かの遺産、女は病気持ち、世界平和を願ったら人類を撲滅するつもりだった。」
《言いたいことは何だ、老い果てた人間よ》
「今こそ、二つ目と三つ目の願いを使おう。わしに若さと寿命をくれ!お前が何を企んでいようと構わん!」
老人は目を大きく見開き、影に手を伸ばした。
「家族の魂が欲しいならくれてやる、世界がどうなっても構わん!わしが悪魔になっても良い!兎に角わしに人生をくれ!」

《人間よ お前の願いは聞き届けた ………だがその前に一つ言っておく事がある》

老人はこの60年間の長い影との付き合いの中で初めて、初めて影の笑顔を見た。

《最初に言った3つの願い あれは嘘だ》

そう言って影は跡形もなく消えた。


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