08/12/08 20:50:49 iUGNb/OE
宇宙船が故障してとうとう3日が過ぎたので、彼はそろそろ諦めることにした。
「なるほどな。直そうと四苦八苦してはみたが、どうもこいつは、だめなのだな。」
窓の向こうは広い黒い空があるばかり、人がいるはずもなかった。
人生の幕を1人きりで降ろすのはどこか寂しかったが、まあ元より友人も女もいないのだからと納得しておいた。
「冬眠剤なんていう洒落たものがあれば良かったなあ。ああ、いや、あっても同じことなのだろう。」
本の一冊も持ってきてなかったし、酒もタバコもしていないから、することもなかった。
「今更遺書を書く必要もあるまい。ならさっさとおいとまするとしよう。」
宇宙船の電源を切り、操縦席を倒して、横になって目をつむった。
機械が壊れた以上わからないことだが、もしかしたら、もしかしたら。
自分は今、自分以外の誰も行ったことのない秘境に向かっているのかもしれない。
いつか自分を見つけた探検家達が、自分について熱心に研究するかもしれない。いや、ともすれば、まだ会ったことのない、未知の文明の住人が、自分を見つけるのかもしれない。
段々涼しくなっていく宇宙船の中で、彼は思った。
つまり、私は宇宙を旅しているのだな。
果てしない、未だ感じたことのない希望に包まれながら、彼は宇宙船と眠りについた。
宇宙船は遠ざかる。どこへともなく。