性別変化(TS)作品発表スレat MITEMITE
性別変化(TS)作品発表スレ - 暇つぶし2ch83:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/13 18:25:31 +Ci4SsMF
森永あいの「僕と彼女の×××」を思い出した

84:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/13 18:37:16 KKl0SV7k
あれ?僕女の子になっちゃってるーとか
私、男になっちゃったの…とかやるわけだな

85:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/13 18:40:18 tF9Oh/VY
>>83
そういや入れ替わりってまだ来てないな

>>84
Yes! Yes! Yes!

86:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/13 18:42:51 +Ci4SsMF
2人同時に事故にあって中身が入れ替わるなんてのは王道だよな

87:モーニング息子 1/2
08/10/13 18:47:15 RbtE1Pou

 朝。
 窓から差し込む日の光で私は目を覚ましてしまった。
 今日は休日なので遅くまで寝ていられるというのに。
 太陽を睨みつけるわけにもいかないので、抗議のつもりで布団をかぶり直した。
 寝返りをうつ。

「んんっ……」

 ……今の低い声は、一体誰のものだ?
 自慢ではないが、私の声はもっと高くて澄んでいて綺麗なはずだ。
 だから、可能性としては誰かが布団に忍び込んでいる線が濃厚だ。

「…………」

 まあ、いいか。
 減るものじゃないし。

「――っ!?」

 そんなわけがない。
 私は跳ね起き、布団を体から引き剥がした。
 目は完全に覚めてしまったが、そんな事を言っている場合ではない。

「……誰もいない?」

 首をかしげた。
 布団の中には私以外の人間はおらず、跳ね起き布団を剥がしたのも全くの無駄だった。
 だが、おかげで自分の体に何が起こっているのかがハッキリとわかった。

 股間に、全く見慣れないテントが張られていたのだから。

 ――そう、声の主は私自身だったのだ。


88:モーニング息子 1/2
08/10/13 18:47:59 RbtE1Pou

 鏡で自分の姿を確認した。
 女顔の少年がそこにいたが、顔のつくりはほとんど変化がないので当然のことだろう。
 目立った変化は、少し出ている喉仏。

「少し時期が早いけど、これならマフラーで隠せないこともないかな」

 とりあえず病院に行こうと決めたが、道中変態扱いされるのも面白くはない。
 私は女物の服しか持っていないので、男の体になっても女物の服を着るしかないのだ。
 こんなことになるなら実家暮らしをしていれば良かったと思わなくもない。
 ……しかし、誰が自分の性別が突然変化すると予想出来るだろうか?

「保険証は……使えるのかな」

 今は少々懐が寂しいのだ。
 何を呑気な事をと思うかもしれないが、混乱していてもはじまらない。
 それに、金銭は老若男女共通の問題だ。

「あっ」

 違和感を感じ、声をあげた。
 朝は元気になるとは知っていたが、こんなになるとは思ってはいなかった。
 というか、いつこれは落ち着くのだろうか?

「どうしよう……」

 こればっかりは、女物ではまずいだろう。
 正直、締め付けられて痛いし。

「……男物のパンツが必要だよね」

 結局保険証を使うことはなかったのだが、今考えてみるとあの時の私は大分混乱していた。
 なにせ、そんなくだらない事を考えていたのだから。


89:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/13 18:50:22 RbtE1Pou
こんな感じですかい?

90:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/13 18:55:44 RbtE1Pou
しまた
>>88は、2/2で

91:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/13 19:24:43 tF9Oh/VY
おお、初♀→♂
続きが気になる終わり方だ

92:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/13 20:07:16 dOxoRCfs
他の登場人物が出てこない孤独感みたいなのも、これまでの投下作にはなかったパターンかも?
……続きを期待しても良いのかい?

93:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/13 20:28:13 RbtE1Pou
予定は未定で気が向いたらで~

94:10/26に名無し・1001投票@詳細は自治スレ
08/10/20 23:46:26 GXr60qzN
スレリンク(mitemite板:191-192番)
このスレ名義でS-1に投稿してきました

新作? 脳内プロットはあるの…

95:10/26に名無し・1001投票@詳細は自治スレ
08/10/21 00:31:03 n2NuSlQn
>>94 乙でしたっ
少しずつ女性に変化して行く主人公の心象を、季節とともに色を染める紅葉に託してる訳だね。
移り変わる心のグラデーションが美しい作品でした。重ねて乙です!

96:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/23 04:59:20 k8gMX2x8
女の心象って何だ
と突っ込みたくなるけど

97:10/26に名無し・1001投票@詳細は自治スレ
08/10/23 09:47:34 ZlYIn0Xk
最下位記念

98:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/28 08:29:10 cjTq33ri
あげ

99:名無し・1001決定投票間近@詳細は自治スレ
08/11/01 17:20:30 geBAXaDO
ビッテンフェルトがTSとな!?

100:名無し・1001決定投票間近@詳細は自治スレ
08/11/01 23:01:13 kUR8lJvB
100げと

今月は先にこっちに投下することにしようかな

101:名無し・1001決定投票間近@詳細は自治スレ
08/11/04 20:23:16 G4Sqf1ZB
過疎なんでTSコミック紹介ブログの有名どころを貼ってみる

いけさんフロムFR-NEO RE 性転換コミック特集インデックス
URLリンク(ikesanfromfrneore.blog64.fc2.com)

102:名無し・1001決定投票間近@詳細は自治スレ
08/11/06 23:36:45 TuqGiyyL
おおこれはGJ
せっかくだし大手のTS専門投稿サイトでも

少年少女文庫
URLリンク(ts.novels.jp)

103:創る名無しに見る名無し
08/11/20 22:59:16 JtgbjLWH
S-1 11月分
スレリンク(mitemite板:375番)

さて、諸般の理由で>>94で言ってた新作はしばらく封印するとして…

お題くれくれ


104:創る名無しに見る名無し
08/11/20 23:18:19 Q1y9MdXw
風邪

105:創る名無しに見る名無し
08/11/20 23:28:47 JtgbjLWH
把握

106:にょたいかぜ(1/2) ◆KazZxBP5Rc
08/11/21 11:12:17 bESFdMdJ
はっちゃけたらなんか割と早くできたw



悪友が風邪を引いた。
馬鹿は風邪を引かないということわざがあるが、それを無視して風邪を引くあたり相当の馬鹿なのだろう。
とりあえず授業を休んで見舞いに来てやった。ああ、俺ってなんて友達想いなんだろう。
インターホンを鳴らすとパジャマ姿の可愛い娘が出迎えてくれた。
ショートカットで顔つきはなんとなくアイツに似ているな。
「こんにちは……妹さん?」
「俺が一人っ子なの知ってるだろ。」
ん? 今この娘が言ったの? ダメだよお嬢さん、そんな乱暴な言葉遣いしちゃ。で、誰?
「えっと……じゃあどちらさまでしょうか。」
美少女はため息をついてオーバーに告げた。
「目に映るものに惑わされるなんて、俺たちの友情はそんな程度だったのか。悲しいぞ、親友。」

リビングに案内されソファに腰掛けると、俺は早速問い詰めた。
「で、なんでそんなことになってるんだ?」
「こーゆー風邪なんだよ。」
ふーん、と適当に相槌を打ちながら全身を眺める。すっかり女の子だ。しかも俺好みの体型。
俺の視線に気付いたのか、奴は慌てて付け加えた。
「しばらくしたら治る。」
「治るのかよ。」
時計の秒針の音だけが三回ほど響いて、
「治らないほうがいいのか。」
「そりゃそうだろ。」
「……ばか。」
なんだよその反応。いつもみたいにもっと憎まれ口を叩けよ。
可愛いじゃねえかちくしょう。
「さあ、じゃあせっかく来てもらった、ん……」
「おいっ!」
奴は立ち上がろうとしてこっちに倒れてきた。
熱があるみたいだ。ちゃんと風邪の症状も出てるんじゃないか。

107:にょたいかぜ(2/2) ◆KazZxBP5Rc
08/11/21 11:13:07 bESFdMdJ
「あれ……?」
「お目覚めですか、お姫様。」
あれからアイツの部屋に担ぎ込んだ。
「変なこと……してないよね。」
「するわけねえだろ。」
ごめんなさい、ごめんなさい。すました顔してるけど本当は何かやりたくてたまりませんでした。
だってお前が悪いんだぞ、そんなやらかくていい匂いしてるから。
だが神に誓ってもいい。俺は本当に何もしていない。
「ぷっ。」
「なんだよ。」
長い付き合いだ、きっと俺が内心焦ってることもバレてるんだろう。
沈黙が襲った。元はどうあれ若い男女が同じ部屋にいるという状況、気まずい。
「あ、ごめん。俺もう帰るわ。」
「え?」
そんな意外そうとも残念そうとも思える声を出されると困るじゃないか。
「俺学校行かないと卒業ヤバいんだわ。」
本当に行くかどうかは気分次第だが。
「そんなの今更変わんないだろ。」
と、彼女は笑ってくれた。
ああ、君の笑顔。もう二度と会うことがなくても忘れないよ。
さようなら、三十二回目の初恋。

数日後。
「よっ、美少女!」
「うるせえ! 前のお前ほどじゃねえよ。」
うつされました。

108:創る名無しに見る名無し
08/11/21 11:14:24 bESFdMdJ
本当はことわざじゃないから間違えないでね><

引き続きお題募集

109:創る名無しに見る名無し
08/11/23 00:52:05 WOjCaV3i
可愛いなw
萌えました。

110:創る名無しに見る名無し
08/11/23 00:54:00 a5n7oBnl
御題…
「女子高」もしくは「男子校」で

111:創る名無しに見る名無し
08/11/23 01:17:59 fOgESGot
さんくす><

>>110
はーく

112:創る名無しに見る名無し
08/11/23 04:34:24 SRccU4KO
>>106-107
うつっちゃうのかw
かわいいな

113: ◆16Rf2BBdUE
08/11/23 16:00:06 gXqRmxTa
>>104の「風邪」で書いてみました。
とりあえず前半投下。

114:「風邪の諸症状に・上」1/4 ◆16Rf2BBdUE
08/11/23 16:00:32 gXqRmxTa
 喉が、かわいていた。
 理由は判っている。口で息をしていたからだ。
 鼻が詰まりに詰まりきっていた。キムチラーメンの匂いさえ、今のオレにはわかりそうにない。
「う゛ー」
 濁った声を漏らして、オレは重たい布団をはねのけ、体を起こした。
「くすりのばなきゃ」
 ハンテンを羽織って、ベッドから降りる。フローリングの床の冷たさに、背筋が震えた。
 台所に出て、水をコップに半分もらう。
 何の変哲もない、秋も深まった週の火曜日だ。家族はあらかた出払っていて、オレのような病人が一人だけ、ぽつんと取り残されている。
 体が弱っていると、そんなことが妙に寂しく感じられるものだ。
(藤枝みやこさん)
 病人特有の脈絡のないインスピレーションで、クラスメートの女子の可憐な横顔を思い浮かべる。
(みたいな、かわいい女の子が看病してくれたらなあ)
 ……訂正。風邪とかあんまり関係なく、やっぱりオレは石和亮だった。あんまり嬉しくないことに。
 オレは風邪薬をてのひらに出し、いっきにあおった。ぬるい水道水が、じわりと喉を滑り落ち―
 数秒もせずに、強烈な眠気が襲ってくる。
「……ふあ?」
 半端なうめき声を、オレは絞り出した。
「えむ……ねぶ……」
 ろれつが回らない。
 何だこれ。おかしい。絶対おかしい。何か。なんだか。
 そこから先の思考は、深い深い眠りに溶けてしまった。

*****

 わたしは小さく咳をして、口元を押さえた。
 喉が痛い。もう三日もこんな感じだ。
(日曜日、つぶれちゃったよー)
 未練たらしくそんなことを考えて、がっくりと肩を落とす。 
(あーあ……)
 布団の中で、寝返りを打つ。
 わたしとママしかいない藤枝家は妙に静かで、なんだかちょっと白々しい。まるで、自分の家じゃないみたいに。
(石和クンみたいな明るい男の子が、遊びに来てくれたらなあ)
 そんなことを考えてしまう。風邪をひいてても、考えることはあんまり変わらないようだ。わたしって子は。
 わたしはベッドサイドへ視線をやった。お気に入りのビーンズテーブルに、ぬるま湯のポットと切り分けた錠剤の包みが置かれている。
 寝ている間に、ママが置いてくれたみたいだ。
「ありがとねー」
 がらがら声で呟いて、わたしは薬に手を伸ばす。
 薬の封を外して、そっと飲み込んで―
 コップに手を伸ばすころには、わたしは泥のように眠り込んでいた。

*****


115:「風邪の諸症状に・上」2/4 ◆16Rf2BBdUE
08/11/23 16:01:32 gXqRmxTa
 朝陽が差し込んでいる。
 オレは目を覚ました。
 体が軽い。鼻ももう詰まっていない。その代わり、喉が少しだけ痛んだ。
(……治りかけてんのに、今更別のことが痛み始めてきたんかよ)
 明るい光の中で身を起し、喉をそっと押える。
 三日も伏せっていると、人間も変わるものだ。オレの喉はなぜか、どきっとするほど細くなっていた。
「やつれたかなあ」
 ―世にも妙なる可憐な声が、オレの耳朶をそっと叩いた。
「え?」
 ああ、ほれぼれするほど可愛い声!
「あれ?」
 いいなあ、実にいい!
「……」
 オレが黙ると、声も黙った。
 オレは恐る恐る、もう一度口を開く。
「拇印」
 こら! そんな声でそんなこと言うんじゃありません!
「なめこのみそしる」
 なんですかはしたない!
「……マンギョンボン号」
 まったく! そんなこと!
 そしてオレはまた、ふつりと沈黙した。
 当然のようにまた、声も聞こえなくなってしまう。
 オレはおもむろに視線を下げ、自分の手をじっと見つめた。
 白魚を並べたような、というのだろうか。そんななまぐさそうなのはみじんも感じられない、とにかく清潔で白く、美しい手だった。いつ見てもどの時期でも竹刀の握りダコや古傷でボロボロなオレの手とは、比べ物にならないくらいに。
 オレの手とは、比べ物に―
 オレは周囲を見回した。
 綺麗な部屋だ。本棚その他には淡い色合いのカーテンがかけられ、勉強机の上には消しゴムのかす一つ落ちていない。
 何よりマンガが見当たらない。オレのバイブルであるところの「六三四の剣」も、ぼろぼろになるまで読み返された「DRAGON BALL完全版」も、この清潔な部屋には影も形も見当たらなかった。
 片付けられたとか捨てられたとか、そういうレベルじゃない。
 これでは、まるで。
「女の子の、部屋?」
 ああっ、戸惑い気味のこの声がまた可愛いったらありゃしないのだ! こんな至近距離で女の子の声聞いたこと、今までなかったぜ!
 無駄にテンションを上げながら、オレはベッドを降りた。
 もこもこした部屋履きがベッドサイドに揃えてあるのに気付き、恐る恐る爪先を差し込む。
 すげえ、ちょう暖かい。何これ、文明の勝利?
 部屋の隅には、学生鞄が置かれていた。オレと同じ学校の、同じくらいにすり減った、真っ黒な手提げ鞄。
 カチリ、と音を立てて留め金を外し、中に手を突っ込む。
「……」
 申し訳なくなるくらいにびっしり書き込まれてボロボロになった数学の教科書を、オレのやたらに美しい左手が掴んだ。
 裏表紙に書かれた綺麗な字へ、目を通す。

『2-B 藤枝みやこ』

 オレは迷わず、邪魔なパジャマを脱ぎ捨てた。

*****


116:「風邪の諸症状に・上」3/4 ◆16Rf2BBdUE
08/11/23 16:03:57 gXqRmxTa

「何、これえ……」
 律儀に学校に来ていながら、わたしは頭を抱えていた。
 いや、うん。わたしは頭を抱えているけど、頭を抱えているのはわたしじゃない。
 今って、そんな状況だ。
「よっス!」
 勢いよく声がかけられて、わたしの背中を誰かがばあん! と叩いた。
「きゃあ?!」
 そんなに痛いわけでもなかったけど、そんなに乱暴にされたことなんてなくって、わたしは思わずよろめいてしまう。
「イサワあ?」
 なんかすごく嫌そうな声で、わたしの後ろに立っていた男の子が言った。
「何お前、今日はカマキャラで押すの?」
 何を言っているのかいまいちよくわかんなくて、わたしは曖昧に微笑んだ。
 詰まったままの鼻を、すん、と鳴らす。
 クラスの男の子だ。いつも石和くんといっしょにいる。石和くんはこの子のこと、なんて呼んでたっけ―
「キーチ、おはよっ」
 ぎこちなく言ったわたしの言葉に、なぜだか彼は「うえー」と呻いた。
「面白くないとは言わねーけどさあ。たぶんアレだぜ、あとから思い出したらぜってー黒歴史だぜ?」
「歴史? 今日テストだったっけ」
「……イサワあ~?」
 ああ、もう。会話できてないじゃない、わたしのバカ!

*****

 ブラジャーのつけかたはそんなに間違っていないはずだ。ただ妙に、背中がちくちくした。
 オレはしきりに背中を気にしながら、鞄を片手にぶらぶら下げて道を歩く。
 思ってたより短いスカートが、歩くたびにさらさら揺れて腿を撫でた。
 またこの腿がほっそいのだ。ぴっちり閉じると丁度付け根のところに小さな逆三角形の隙間ができる。魅惑のバミューダ・トライアングル! かなうことならここにダイブして溺れ死にたい。
 ―とりあえず間違いなく、オレは今、違う人間の体を動かしていた。
 それもほぼ100%、クラスメイトの藤枝みやびの体をだ。
 おへその横に小さなほくろがあるのと、右乳首の脇に薄茶のほくろのようなしみのような斑点がひとつぽつんとあるのだけは、朝の少ない時間の中でも確認できた。
 あと、藤枝はたぶん母親似だというのも、この少ない時間で得た貴重な情報だった。
 朝の食卓で見た、藤枝オヤジのごつさといったらなかった。ウチの道場の師範より、さらに一回りでかい。
 だというのに嫁は妙に色っぽい、若々しい美人で、エプロンの上からもわかるボンキュッボン(死語)で、声もやっぱり妙に色っぽくて、畜生返す返すもうらやましいオレに代われ藤枝オヤジ。代わってくださいお願いします。
「おはよっ、みやこちゃん。風邪大丈夫だった?」
 いきなり背後から掛けられた声に、オレはくるりと振り向いてスカートのすそをちょいと摘まんだ。
「おはようございませませ、ごめんうるわしくていかが?」
「……は?」
 唖然と立っているクラスの女子に、嫣然と微笑む。
「あたくしたった今この瞬間に少々なんというか小用がこさえられてしまいましたの。ごきげんあそばせ」
「み、みやこちゃん?」
「チャーオ!」
 二、三回勢いよくターンをしてスカートの裾を綺麗に開き、オレはそのままの勢いで、校門近くに立つ学ラン二人組の方へ突撃した。

*****


117:「風邪の諸症状に・上」4/4 ◆16Rf2BBdUE
08/11/23 16:04:52 gXqRmxTa
「なんだよイサワよお、熱でちょっと頭アレしたのか?」
「ち、違うの。ほら、いや、うん、そう、まだ熱で頭が―」
 あたふたと言い訳を続けるわたしの視界に、信じられないものが飛び込んでくる。
 両腕を真っ直ぐ横に広げ―
 前のめりに走ってきて―
「キーイィィィィン!」
 そんなことを叫んでいる―
「わたしいいぃぃぃぃ?!」
 どん。
 わたしが、人をはねた。
 今までわたしを不信の目で見ていた男子生徒の顔があっさりと視界の外に吹っ飛んで、わたしの顔がそれに入れ替わる。
「あ……あ」
 口をぱくぱくさせ続けるわたしに、わたしの顔はやたら可愛らしく、アイドルのような仕草で角度をつけてウインクしてみせた。
「おはよっ、オレ様ちゃん!」
「お、おれ?」
 わたしの見慣れた腕が、分厚い学生服の下のたくましい右腕にそっと絡められる。
 それを石和くんの視点から見るというのはなんだかとても倒錯的で、幻想的な感じがした。
「秘密のイケナイ密談のお時間でしてよ。さあさあゴアヘッ」
 ―そんなわたしの思いをあっさり蹴散らかして、わたしの顔をした誰か―中身はたぶん、なんとなくわかるけど―は、石和くんの顔をしたわたしをぐいぐいと引っ張っていった。

*****

 朝の屋上に、人気はない。
 冷たい風が屋上の砂埃を巻き上げ、鉛色の空に消えていく。
 オレは風に乱れるさらさらしたショートボブを押さえ、優しい目つきで隣に立つ男―いや女? いややっぱり男―を、見た。
「あ、あの……」
 おどおどした様子で、オレの顔をした何かが、オレの声で言う。
「い、石和くん? よね……」
 オレは答えない。
 くちもとにニヒルな笑みを浮かべ、一気に身を乗り出す。
 どきりとしてのけぞるオレの、我ながら硬く鍛え上げられた背中へ腕を回す。
 ちょい、と背伸びをすると、日焼けしたオレの顔が間近に迫る。
「へっ」
 間抜けた声を漏らすがさがさした唇へ、オレの柔らかく小さく桃色でジューシーでとにかくビューティフルな唇が触れた。
「……!」
 湿り気を与えるようにちゅっ、と音を立てて吸い、こぼれた唾液をなめとって、おもむろに唇を離す。
 そこにはなんだか悪夢に見そうなくらいにとりみだし、うろたえ、顔を真っ赤に染めた、オレがいた。
 ……ちょっと、これはキツいかも。


118:「風邪の諸症状に・上」5/4 ◆16Rf2BBdUE
08/11/23 16:06:55 gXqRmxTa
「あー、やっぱ戻らねーかー」
 唇を親指の縁で拭いながら、オレは可憐な声で言う。
「キスすりゃ戻るもんじゃないかと思ったんだがなー」
「な、なっ、ななななななな」
 拳を震わせ、俯き、目に涙をためる、うちの部随一の体格と剣勢を誇る剣道少年、石和亮。
 オレ以外に見られなてよかったと、しんそこ思った。
「な、ななな、なにするのよう?!」
 鼻づまりぎみの声―やっぱり治ってなかったか。痛む喉を、オレは軽く押える。
「だから、こーいうのってキスしたら治るパターンじゃね? って思ってさあ」
「こ、こーいうのって、どういうのなの?」
 震える声で言うオレの鼻先を、細い指先でつん、とつつく。
「愛しあう男女に理不尽な災難が降りかかったときさ」
「あ、愛……」
 また真っ赤になる。やめろよもう、オレの血が足りなくなっちゃうだろベイベ?
 やたらいい気になりながら、オレは頭の後ろで腕を組んだ。
「藤枝さんのコト考えながら寝てたんだよ、オレさあ。そしたらこんなことになっちゃって―」
 にい、と口元を歪める。
「だから、藤枝さんもそうなんだろ? オレのこと、考えてたんじゃねーの?」
「お、おれって、だから、石和くんの―」
 お茶を濁そうとするようなあいまいな笑みに、ぴしゃりと応える。
「そう、このオレ! かっこよくてすてきでハンサムなクラスメートであるところの石和亮くんのこと、考えてたんでしょ?」
 沈黙が落ちた。
 俺の鋭い目が潤みがちに宙を泳いで、乙女チックにそっと伏せられる。
「うん……考えてた、よ」
 よっしゃオッケイ!
 俺は勢い良くガッツポーズを決めた。
 やべー俺こんなひょんなことであっさり大人の階段登っちゃったぜおふくろ! おやじ! ありがとう! なんかすごくいろいろありがとう!
 感涙にむせぶ俺に、新品のマイハニーは勢いよく水を差してくる。
「って、そんなことじゃなくってえ!」
 いきなりひでえな、オイ。
「そ、その……」
 少し言い淀んで、オレの声は恐る恐る言った。
「あ、あたしのこと、見たの?」
 俺は爽やかな笑顔で、親指を立てた。
「彼女がおっぱい大きいとかまじ嬉しい! ありがとな!」
「……ひどい」
 あ、やっはりちょっとサイテーだったみたいだ。
 涙を溜めて俯く俺の顔を、俺は慌てて覗きこむ。
「いや、べつにそーいうスケベ心じゃなくてだな……パッドはいらないんじゃないかとか、ほくろかわいいよねとか」
「ひどい!」
 野太い一喝と共に、すさまじい衝撃が頬を殴りつけた。
「げぶあっ」
 迫力満点の悲鳴をあげて俺は吹っ飛ぶ。回る。世界が回る。意識が回る。
 ……ヘイ、マイハニー。
 お前今、自分のパンチ力が三桁いってんの知ってたか……?
 たぶん、声には出なかったのだろう。
 そもそも俺の惨状になど回す余裕は、ないようだった。
 踵を返して走り去る俺の広い背中が、次第に暗くなっていく。
 自業自得か。
 わかってるんだよ、ンなこたあ……
 俺の意識は、また闇に溶けた。

*****

119: ◆16Rf2BBdUE
08/11/23 16:07:52 gXqRmxTa
はみだしたorz

120:創る名無しに見る名無し
08/11/23 16:28:20 SRccU4KO
ワッフルワッフル

121:創る名無しに見る名無し
08/11/23 18:37:43 a5n7oBnl
ワッフルワッフル

122:創る名無しに見る名無し
08/11/23 18:47:35 21Pykqst
これは入れ替わりネタか?
少し情景が思い浮かんだ。
まったく、ニヤニヤすんなぁ!

123:創る名無しに見る名無し
08/11/23 19:54:31 fOgESGot
投下乙
人が増えてうれしい
スピード感あふれる感じがいいな
後編にwktk

124: ◆KazZxBP5Rc
08/11/24 02:17:08 duLK8pSQ
さて、>>110のお題で

125:女子学園☆パニック(1/1) ◆KazZxBP5Rc
08/11/24 02:18:32 duLK8pSQ
その異変はまず、ひとりの生徒の身に降りかかりました。
「キャー!」
太い悲鳴が寮内にこだましました。
ここは全寮制の女子学園。国内の各地から生徒を集めるほどの規模を誇ります。
「どうしたの?」
彼女たちの中には、小等部からこの学園に就学する者も多くいます。
「朝起きたら……男の子に……。」
ゆえに、
「本当? ねえ、ちょっと体見せて!」
「えっ、や……あっ!」
男性と接する機会があまり無かった者もまた多いのです。
彼女はその典型的な一例。友人の身に起きた変化に興味津々です。
これからこの部屋で何が起こったのかは皆さんのご想像におまかせします。

一人の少女を襲った、いまだ病気とも呪いとも分からぬ異変は、瞬く間に学園内を覆い尽くしました。

廊下を歩く数人の少年たち。もうすっかりこの生活にも慣れてしまったようです。
「みんな結構変わったな。」
「そう言うお前こそ。」
「男って楽でいいよね。」
どこを見渡しても男、男、男。既に学園は男子校へと化していました。
「そういえばマコトはあんまり変わんないね。」
「むしろ男の子になって可愛くなったかも。」
一番小柄なマコトくんに彼らの視線が集まります。
「えっと……そのことなんだけど、実は……。」
と、マコトくんは彼らにカードのようなものを見せました。
「健康保険証?」
「あれ? 性別欄見て。」
「おとこ……? たしか調査が終わるまでは性別変更はできないんじゃなかったっけ?」
「ってことは……。」
そうです。マコトくんは最初から男の子だったのです。
「女装して女子高へ潜入……? アニメみたいでカッコイイ!」
「今まで騙しててごめん……。」
「いいよいいよ、マコトっち可愛いし。」
「なるほどね。元から男だから変わらなかったのか。」
「いや……、その……。」
なんだか歯切れが悪いマコトくん。どうやらまだ何か隠してるようです。
「なんだよ、男らしくないぞ。はっきり言いなよ。」
「……女の子になってしまいました。」
マコトくんがそう言うや否や、一人の少年が後ろからマコトくんの制服の中に手を入れました。
「ひゃっ!」
「おお、小ぶりながらこれはこれは。」
彼にしてみれば女の子同士のスキンシップのつもりでしょうが、客観的に見るとただの痴漢行為です。
「ちょっと……やめ……。」
マコトくんはその後素敵な学園生活を送りましたとさ。

126:創る名無しに見る名無し
08/11/24 02:19:24 duLK8pSQ
我ながらタイトル適当すぎるぜ

まだまだお題募集

127:創る名無しに見る名無し
08/11/24 02:23:06 BybjDEQf
これはwww
学校全体が性転換とはw

128:創る名無しに見る名無し
08/11/24 02:25:09 duLK8pSQ
なあに学校全体とかまだまだ狭いほうだぜ

129:創る名無しに見る名無し
08/11/24 02:28:06 BybjDEQf
ま、まさか国全体とかのプロットもあるのか?

130:創る名無しに見る名無し
08/11/24 02:31:56 duLK8pSQ
プロットというか…
「ぼくは、おんなのこ」でググれ

131:創る名無しに見る名無し
08/11/24 02:34:54 BybjDEQf
ぐぐってみた
世界中の性別逆転とかw
こんな漫画があったのね

132:創る名無しに見る名無し
08/11/24 23:35:29 duLK8pSQ
お題募集age

133:創る名無しに見る名無し
08/11/24 23:36:22 BybjDEQf
じゃあ…「みんなには内緒♪」

134:創る名無しに見る名無し
08/11/24 23:38:45 duLK8pSQ
早っw
把握

135:創る名無しに見る名無し
08/12/02 12:41:44 ENcnxPlR
+(0゜・∀・)+

136:創る名無しに見る名無し
08/12/02 12:42:20 MWpHRAIc

/|  /^|
/|_/  |
/|||   |
/|||   ヽ ジー…
/|  ● |
壁|人_) =;
/|γ"ヽ ノ
/||  ゙
/|ヽ_ノ|
/|   |

137:創る名無しに見る名無し
08/12/02 17:40:03 X3T+52g+
  ∧_∧ ∧_∧ ∧_∧+
 (0゜・∀・)0゜・∀・)0゜・∀・)   
 (0゜∪ ∪0゜∪ ∪0゜∪ ∪ + みんなでワクテカ
 と__)_)__)_)__)_) +  

138: ◆KazZxBP5Rc
08/12/02 21:06:23 tUobGz7S
今日はwktk員多いなw

ちょっと間あいたけど1レス投下するよー

139:ナイショダヨ ◆KazZxBP5Rc
08/12/02 21:08:18 tUobGz7S
「ミンナニ ナイショダヨ」
モンスターは勇者にこの世界での通貨である宝石を与えた。

「しかしよく動いたな。」
「まあね。物持ちは良い方だし。」
今僕たちは某聖三角をめぐるゲームのシリーズ第一作をプレイしている。
「別のゲームもあるよ。やってみる?」
えんじ色と白を基調としたボディに四角いコントローラ。
今ではエミュレートできる後継機も発売されているようだが、やはりオリジナルで遊ぶのは感慨深い。
いや、本当の目的はそんなことじゃなくて……わざわざ押入れをゴソゴソ探って彼にその背中を長い間見せていた理由は別にある。
「お、何があるんだ? 見せてくれよ。」
「うん。」
まだ言ってくれない。こんなに分かりやすくポーズをとっているのに。
僕はまた押入れをあさりはじめた。
「そういえばさ。」
「ん?」
「お前、最近雰囲気変わった?」
きた! 待ちに待った言葉。気付いてほしくて、ここのところずっと近くにいたのに全然何も言ってくれなくて……。
手を止めてそっと振り向く。
「やっと気付いた?」
僕は彼の手を取って、僕の左胸に当てた。心臓の鼓動が激しくなるのを感じる。
「なっ……。」
彼はその感触がなにかおかしいことに気付くと慌てて手を引っ込めた。
「お前……。」
「こっちも確かめる?」
僕はおへその辺りをぽんぽんと叩く。
「……遠慮しとく。」
笑みが止まらない。止めようとも思わないけど。
これで、あの日の約束を果たせる。
「お前、どうやって?」
「ふふ。妖精さんが来て願いを叶えてくれたの。」
あの日、一方的に取り付けた約束。男同士ではなれないと言われた関係になれる。
「僕をカノジョにしてください。」
時計の針がひとまわり、ふたまわり、とにかく長い間経って、ようやく彼は首を縦に振った。

僕が変わったことはまだ彼にしか言っていない。秘密の恋。その響きがくすぐったくて、もうしばらくこのままでいたいなと思う。
だから今のところは……、
「みんなには内緒だよ♪」

140: ◆KazZxBP5Rc
08/12/02 21:11:00 tUobGz7S
投下完了です。そして叫ぶ

        *'``・* 。
        |     `*。
       ,。∩      *    書き手増え~れ☆
      + (´・ω・`) *。+゚
      `*。 ヽ、  つ *゚*
       `・+。*・' ゚⊃ +゚
       ☆   ∪~ 。*゚
        `・+。*・ ゚

141:創る名無しに見る名無し
08/12/02 21:17:03 X3T+52g+
お、元同姓だった恋愛成就系TSか!
いいねいいねー

142:創る名無しに見る名無し
08/12/02 21:45:21 tUobGz7S
>>141
TSは恋愛のパターンが増えるのがひとつの利点?だよね

143: ◆KazZxBP5Rc
08/12/05 00:13:54 haFQJHRC
投下いくよー
今回はS-1のお題に漏れた「鍋」で。

144:お鍋の日にはご用心 (1/1) ◆KazZxBP5Rc
08/12/05 00:14:51 haFQJHRC
四人の男がアパートに上がってきた。田中、山田、村山、そしてここの住人である中村だ。
彼らは会社の同僚で、皆独り者である。
中村の部屋に入ると四人は準備を始めた。
買ってきた野菜を切る。コンロを取り出す。鍋にパックの煮汁をあけ火をつける。
ひととおりのセッティングが終わると、中村以外の三人はコタツに着いた。

「全員ポン酢でいいな?」
中村はキッチンに立つと、冷蔵庫からふたつのビンを取り出した。
ひとつはさきほどの発言どおりポン酢。そしてもうひとつは、中国に行ったときに買ってきた秘薬だ。

「中村! 電話鳴ってるぞ!」
誰だ、邪魔しやがって。と思ったが、すぐに部屋に戻る。
「もしもし? え? いえ、違いますが……。」
間違い電話だったようだ。

さて、気を取り直して液を小鉢に注ぐ。まずはポン酢を全員に。そして秘薬を自分以外の分に。
「ふふふ、これで俺も勝ち組だな。」
不敵な笑みを浮かべる中村。
なんでもこの薬には古い言い伝えがある。
昔々呪いによって男子しか生まれなくなった村があった。その村が存亡をかけて生み出した女体化の秘薬がこれだというのだ。

湯気が一気に部屋の中に広がる。
「さて、じゃあ鍋パーティを始めますか。」
「パーティって柄じゃないだろ。」
「はい、皆さんジョッキを持ちましてー。カンパーイ!」
四人はアツアツの鍋をつつきはじめた。

「おい、中村、大丈夫か?」
早くも酔いが回ったのだろうか。少しして中村は強烈なめまいに襲われた。
「ん。ちょっと横になるわ。」
三人の変化を目の当たりにできないのは残念だが、目が覚めたら三人の美女が……と思うと楽しみでもあった。

「ん……。」
「気がついたか。」
薄目を開けると三人の男たち。まだ効いてなかったのか。体を起こそうとしたそのとき。
「あれ?」
目の前には二つの山。声も、出してみて分かったが高い気がする。
ぺたぺたと体を触ってみる。
「うそ……なんで俺が……。」
中村は気付かなかった。電話から戻ったときビンを取り違えていたことに。そして―おそらく製造者も―知らなかった。ポン酢に秘薬を打ち消す効果があったなんて。
美女になったのは中村のほうだった。
「その口ぶりは私達の身に起こるはずのことが自分に起こった感じだな。」
「しまっ……いや、そ、そんな……!」
「なるほど、これはお仕置きが必要だな。」
「えっ……ちょっと……いやあああああ!」

冬の夜は長い。

145: ◆KazZxBP5Rc
08/12/05 00:16:18 haFQJHRC
そろそろ続き物やろうかな…

まだまだお題も募集中

146:創る名無しに見る名無し
08/12/05 00:17:28 93kKkAWU
こいつら仲いいなwww
ポン酢に秘薬を打ち消す効果ワロタwww

147:創る名無しに見る名無し
08/12/05 00:22:07 haFQJHRC
反応速度に全俺が泣いた
あり

148:創る名無しに見る名無し
08/12/05 00:23:32 XEebZpZT
そもそも秘薬ポン酢に似てたのかw

149:創る名無しに見る名無し
08/12/05 00:28:22 haFQJHRC
>>148
勝手に漁られてもバレないようにラベルはがしてたとか脳内補完してくれw
まあ色は似てたんじゃね

150:創る名無しに見る名無し
08/12/05 18:54:23 8TW0TXd2
その後全員に薬をもって
全員女にするんだろ

151:変化球と彼と私(1/3)
08/12/06 15:20:17 8vaAfEvC
 恋人と一緒に野球中継を見ていたら、私が男の子だった頃を思い出した。
 それは、ずっと昔の話である。


「よっし! アツシ、次はスクリューだからな!」
 茶色く汚れたボールを空に指し揚げて、僕は高らかに変化球を予告する。
 イメージは、テレビで見たエースピッチャーの投球モーション。
 ワインドアップと同時に、存在しない走者の牽制が動揺を誘う。
 だがサイドスローは迷いがあってはいけない。この一球に全てを賭ける。
 しかし、リリースに入るより先に、キャッチャー・アツシの抗議の声が飛んできた。
「待てって! リョウの球が本当に曲がった事、今まで一度もないぞ!」
「投げる途中で声をかけるなよ。投球妨害だぞ」
「受けるのは俺なんだよ! 変な投げ方するより、ちゃんとまっすぐ投げてくれ!」
「今度は曲がるよ!!」
 そう絶対に。
 もう一度、スポーツ雑誌で見たエースの写真の通りに握りこむ。
 あれ? 僕とあの投手って利き腕が逆だっけ? じゃ、こうか?
 でもスクリューは縦の変化だから関係ないのかな? 
 ま、いいか。投げちゃえ。
「って、あぶねえぇぇっ!!? 顔! 今、顔狙って飛んできたぞ!」
「ねえ、今の落ちなかった?」
「落ちてねえし、そういう問題じゃねえ!」
「ちぇー。僕も、もうちょっと手が大きかったらなぁ」
 僕がそう言うと、アツシは少し顔を曇らせたようだった。
「……小学生だから仕方ないだろ?」
「うん、まあね。リトルリーグでも変化球は禁止されてるし」
 日差しが強い。
 僕は帽子のつばを少し下げた。
「いつか、スクリュー投げれるかなぁ?」
 なんとはなしの、それは小さな呟き。
 でも。
 対するアツシの返答は、僕の想像もしないものだった。
 
「……リョウには、無理だろ」


「……私は男の子だったよね」
 あの頃より大人になった私が、恋人に問い掛ける。
「ん? どうしたの、急に?」
「昔の話。スクリューボール、って言ったら思い出してくれる?」
「あぁ……あの」
 何度も頷きながら、恋人は微笑んだ。
「僕も覚えてるよ」
 私が、僕から私へ変わったように。
 彼も、俺から僕へと変わっていた。
 それは小さな、しかし戻る事の無い、時の流れの象徴だ。
「懐かしいな……」
 テレビの野球では、久しぶりのヒットが出たところだった。
 私の恋人―アツシはそれを一瞥するだけで、ゆっくりと天井の角を見上げた。
 あの高かった空を思い出すように。

152:変化球と彼と私(2/3
08/12/06 15:21:05 8vaAfEvC
「お前とは、絶交だ!」
 僕はその日から、アツシと絶交をする事になった。
 といっても、一方的に僕がアツシを避けていただけなのだけど。
 ……何でアツシはあんな事を言ったのか。
 近所の石塀に、何度もボールをぶつけている内に、何となく理解できた。
 理解、出来たのだけれど。
 どうして僕は、仲直りが出来なかったのだろう。
 こんな形で大事な親友を失ってしまうなんて。
 一人では、キャッチボールは出来ないのに。
 小学校を卒業して、アツシと学校が別れる事になっても、僕らの仲が元通りになる事はなかった。
 やがて中学生になった僕は、制服のスカートを穿く事にも慣れてしまった。
 塀に向かってボールを投げる事も、もうない。
 僕は、否―私は、女の子になったのだ。


「……それから。高校を卒業するまで、私達殆ど話さなかったよね」
「そうだったね。はは、あの頃を思い出すとなんだか照れるな」
 アツシは言って、本当に照れくさそうに頭を掻いた。
 私にとっては未だに苦い思い出でしかないのだが。
「ねぇ? どうしてアツシは、あんな事を言ったの?」
「んー、あれはね……」
「私が―女の子だったから?」
 結局のところ、女の私が変化球を投げる事は難しい。
 体格だとか手の大きさとかの、非常に単純な問題だ。
 それがどうにもならない事くらい、今の私にはわかる。
 あの頃は……それが悔しくて堪らなかったのだが。
「え? 違う、それは誤解だよ」
 しかし、アツシは慌てて手を振ってそれを否定した。
「もっと単純な事さ。……ねぇリョウコ?」
 自分の名前ながら、彼にリョウコと呼ばれるのだけは、未だに慣れない。何故かドキッとしてしまう。
「何?」
「リョウコは右利きだよね?」
「そうだけど?」
「あの頃、僕らが憧れていたピッチャー、彼は左利きだったんだけど。
 実はスクリューボールっていうのは、左投げ選手の変化球の名称なんだ。
 右利きの場合は同じ変化球でも、名前はシンカーに変わる」

153:変化球と彼と私(3/3)
08/12/06 15:21:56 8vaAfEvC
 …………。
「えっと」
 それはつまり。
「私が右利きだから、スクリューは無理だっていう事?」

「うん、そうだよ」
 アツシは、実に事も無げに言った。
 ……あぁ何だろう、目眩がする。
「ふぅ」
 なんという―誤解。
 思わず体中の力が抜ける。
 私は。こんな勘違いで、小学生時代の彼を絶交してしまったのか。
「……ごめんなさい」
「え? なんでリョウコが謝ってるの?」
「なんか、すごく、申し訳ないです」
 本気で反省。
「ちっとも女の子らしくなくて、ごめんなさい」
「ええと、まだなにか誤解があるみたいだけど。……君はね、昔から女の子らしかったよ?」
「嘘ばっかり! 慰めはいらないんだから!」
「嘘じゃないよ! 野球をしている君は、とてもかわ」
「かわ?」
 アツシはしまったという顔。
 だが、私だってそれは聞き捨てならない。
「とてもかわ、何?」
「ええと。
 ……そうそう、久しぶりにキャッチボールしようか」
 何か大事な事を誤魔化された気がする。しかも下手糞に。
「まぁいいけど……その代わり、変化球の練習ね」
「ええ!?」
 その提案にアツシは大げさに驚いて見せた。ふふん、大事な事をはっきり言わない彼が悪い。
 テレビの野球中継も、それに同意するように歓声を上げてくれた。サヨナラヒットで試合終了だ。
「大分遅くなっちゃったけど、今こそスクリュー、じゃなくてシンカーをものにするわよ!」
 今度は、ちゃんと曲がるまで付き合って貰うんだから。

154:創る名無しに見る名無し
08/12/06 15:23:34 8vaAfEvC
おしまい

でもハルトシュラー、これだけは言わせてくれ。
内容はアレだけど、最初は確かにTS書いてたつもりだったんだゴメンよ……

155:創る名無しに見る名無し
08/12/06 15:26:15 Nt2oodqQ
やっぱりこれ実際には性別変化してないんだよな?
俺の読解力がないのかと思っちまったぜ

でも、ある意味で性別変化ではあるのか
セックスじゃなくてジェンダー的な意味では

156:創る名無しに見る名無し
08/12/06 17:57:33 0MW7YgBG
投下キタ━━(゚∀゚)━━!!

男の子の時から女っぽくて可愛かったアッー!で妄想変換余裕でした^^

157:創る名無しに見る名無し
08/12/07 18:20:10 tEg7msg2
よし、お題だ!
 つ「拳銃」

158:ハードボイルドっぽい何か ◆KazZxBP5Rc
08/12/10 23:49:36 IoIF4wah
やばい、だんだん短くなる病を患った。



「おい、本当に『開発者』のことは知らないんだな?」
「だから知らないって言ってるだろ!」
俺は彼に銃口を向けた。
「や、やめてくれ……頼む、それだけはやめてくれ!」
黙殺し引き金に手を掛ける。
「私には妻も子供も!」
「恨むんならあんたんとこのボスを恨みな。」
引き金を……引いた。

ここもはずれか。
彼―すでに彼女だが―が後ろで泣き喚いているここが、最後の部屋だ。
この銃がこの組織で造られたことは分かっている。
造った奴を見つけ出して絶対に元の体に戻ってやる。
改めて深く、そう決意して俺は奴らのアジトを後にした。

159: ◆KazZxBP5Rc
08/12/10 23:51:54 IoIF4wah
次から連載始まるかもです

ROMは結構いると見た
みんなかこうぜ!

160:創る名無しに見る名無し
08/12/10 23:52:52 TyCPcpE6
いいんだな?
本当に書いちゃうぞ?
スレ凍りついて次の投下が厳しくなるぞ?

161:創る名無しに見る名無し
08/12/10 23:54:00 IoIF4wah
イインダヨー

162:近親フラグ
08/12/11 00:01:29 J2sPozQM
無限に増殖し続けるお兄ちゃんを拳銃で次々撃ち殺していく夢を見て
寝汗ぐっしょりで目覚めたあたしの耳に
隣りの、お兄ちゃんの部屋から妙に甲高い、女の人のような悲鳴が聞こえ
そしてあたしは、股間に妙な異物感を感じた



さあスレよ凍れ

163:創る名無しに見る名無し
08/12/11 00:05:52 0DLc6Vr0
>>158
ぜひその組織から薬を手に入れて各地にばらまいてほしね
元に戻る?しなくていいよw

>>162
両方かよww

164:創る名無しに見る名無し
08/12/11 00:07:20 IoIF4wah
>>162
わっふる

165:創る名無しに見る名無し
08/12/11 00:12:02 WnSmQobY
かき氷が食べられると聞いて


「これはね、撃つと性別が変わっちゃうピストルなのさぁ☆」
「相変わらず博士はマッドですね……しかし、それは良い事を聞きました」
「はっ!? 助手君、何を!?」
「ふはははっ、貴方のその可愛いさが私の股間を疼かせるのがいけないんですよっ博士!!」

  ぱんっ☆

「ふはははっ、これで博士はおにゃのこに……ってあれ?」
「……あのね助手君。撃つと性別が変わるって、僕ちゃんと言ったじゃない」
「え? え? そっちなんですか? 撃った私が変わるってそんな……」
「でもまぁ、これで君も目的が達せられるのではないかね? ……正直、今の君を見てたら僕も///」
「そんな! 私は博士を自分のXXXでXXEXしてXXXXXした挙句、XXXXXXしてやりたかったのに!!」
「……やっぱ君クビね」

166:創る名無しに見る名無し
08/12/11 00:15:02 J2sPozQM
助手までキタww

167:創る名無しに見る名無し
08/12/11 00:17:27 S55BKSOp
博士と助手…だと…

168:創る名無しに見る名無し
08/12/11 00:34:35 0DLc6Vr0
あれ?かわいいおにゃのこの助手?
これは・・・

169:創る名無しに見る名無し
08/12/11 01:30:41 Z1PbgW+x
>>158
だんだん短くなる病と聞いて、ナニが? と思ったのはヒミツ

170:あなたの胸で 1/1 ◆KazZxBP5Rc
08/12/14 00:08:21 xvQXZCYS
白い肌に、ほんのりと赤く色づく頬。
よく手入れされた小さな手が僕の体をやさしく包む。
うっとりと目をつむる顔は天使のように可愛らしい。
だけど……。
ふたりの身体の間で押しつぶされる四つのふくらみ。
その心地良い感触は、けれども僕の心まで押しつぶしていく。
僕はもう彼女と同じ生き物なんだ。
迷いを振り払うように固く目を閉じて、そっと唇を重ねた。
涙が自然とあふれてきた。
何かが足りない。
僕は、彼女と一緒になっちゃいけないんだろうか。
こうなる前に、もっと早く想いを伝えていればよかったのだろうか。
未練がましく唇を離す。
泣いている僕を見た彼女は、優しく微笑んで、手を頭の後ろに回してくれた。
きっと良い母親になれるだろう。
けれども僕といる限りそれは望めない。
僕はどうしたらいいんだろう。
なぜこんな身体になってしまったんだろう。
さまざまな思いがめぐる。
でも、今だけは何も考えたくない。
今だけは、彼女の胸の中で心ゆくまで泣いていたい。

171: ◆KazZxBP5Rc
08/12/14 00:09:03 xvQXZCYS
連載の方がまだ書きあがらないのと某所が百合の流れだったので

ぼくのご主人様!?買って補給してきたぜ

172:創る名無しに見る名無し
08/12/14 00:18:28 haxDK0tF
百合百合だー

173:創る名無しに見る名無し
08/12/14 00:30:49 a5WKnhVm
GJGJ!
百合だー

174:創る名無しに見る名無し
08/12/14 00:40:06 dFI6vI6A
百合だねー

175:創る名無しに見る名無し
08/12/14 01:47:19 OihavxIm
ユリだー!!

176:創る名無しに見る名無し
08/12/16 00:55:09 QdqlSAp2
ヒャッハー百合だー!!

177: ◆KazZxBP5Rc
08/12/17 02:23:18 HCvFFJ1t
百合が予想以上の食いつきだなw

待たせたか待ってないかは知らないが、今回から連載はじめるぜ!

178:魔法少女? ユイ 1/4 ◆KazZxBP5Rc
08/12/17 02:24:22 HCvFFJ1t
第1話『魔法少女誕生!』


夕刻、空が茜色に染まり巣に帰るカラスの黒が映える。
そして同じく我が家に帰り着く少年が一人、名前は椎名唯人。
唯人が玄関の扉を開けると、いきなりその胸に飛び込む影があった。
「ただいま、ジュニア。」
「あんっ!」
ジュニア―正式にはジャッキー・ジュニア―はこの家の愛犬である。
「おかえり。学校どうだった?」
「別にどうっていうこともないよ。」
「そっか。」
ジュニアの後ろから姿を現した女性。Tシャツにスウェットという格好で出てきたのは、唯人の姉、つかさであった。
以上、これが唯人が暮らす家の住人の全てである。
というのも、実家から遠方の高校に入学することになった唯人は、たまたま学校の近くに住んでいた社会人の姉の家に居候することになったのだ。
「姉ちゃんのほうはどうなの?」
「私も会社ではうまくやってるよ。」
「それはいいんだけどさ、そろそろ恋人とか……。」
「別に。」
「美人なのにもったいない。」
最後の言葉はつぶやく程度だったのだが睨み返されてしまった。
「もうにじゅうは……ぐはっ!」
今度は唇をちょっと動かしただけで殴られた。こんなことは椎名家では日常茶飯事だ。
「ほら、夕飯作るから、さっさと食べたいんなら手伝いなさい。」
「あいあい。」
まだ痛む頬をかばいながら唯人はキッチンへと向かった。

ご飯に味噌汁、そしてコロッケに千切りキャベツを添えた、日本ではありふれたメニュー。
いただきますを言うと、唯人はソースをかけて早速コロッケにかぶりついた。
「ただと。」
「むご?」
「いや、噛んでからでいい。」
それを聞いて一個目のコロッケをむりやり押し込んで食べきる。
「で、なに?」
「これあげる。」
手を開いて受け取ると、それはピンクのキーホルダーのようなものだった。
「何これ?」
「うーん、お守りみたいなものかな。危険が迫ったらそれに祈ってみて。ただし人のいるところはダメ。」
「お守りにしては指示が具体的じゃないか?」
「まあまあ、やってみてのお楽しみ。」
うん、これは絶対にお守りではないな。唯人は確信した。
「さ、はやく食べないと冷めちゃうぞ。」
その日はもう『お守り』に関する話はこれっきりだった。

179:魔法少女? ユイ 2/4 ◆KazZxBP5Rc
08/12/17 02:25:32 HCvFFJ1t
翌日のお昼時。唯人は姉のお手製弁当を広げながら友人とだべっていた。
話題はテレビの話だの近所の美味い店だの他愛のないものだ。
皆が食べ終わった頃、一度会話がさえぎられた。
「順平! はい、借りてたCD。」
「お、サンキュ。」
すぐに再び会話が始まった後も、唯人はさっきの彼女、海瀬雅を目で追っていた。
「みやびのこと好きなんだろ?」
横からささやくのは先ほどのCDの主であり雅の幼馴染である順平。
「協力してやるぜ。」

「順平遅いね、自分から言っておいて。」
ナイス幼馴染……と言いたいところだが、いきなり二人きりというのはどうなんだろう。
放課後、唯人は雅と一緒に下駄箱のところにいた。
「ちょっと急用ができたから先に行ってて、ってさ。」
もちろん本当はそんなものはない。後ろめたさと恥ずかしさが手伝って体が汗ばむ。
「ふーん、じゃあ行きますか。」
「う、うん。」

180:魔法少女? ユイ 3/4 ◆KazZxBP5Rc
08/12/17 02:26:17 HCvFFJ1t
「どんなお店かな?」
「ごめん、俺も場所しか聞いてないんだ。」
「そうなんだ。」
さっきからこんな感じでちょっと喋っては会話が止まる。気まずい沈黙がもう何度目だろう。
「すみません、ちょっとよろしいですか。」
突然目の前に男がいた。近くに曲がり角もないのに一瞬で現れた男をいぶかしがっていると、彼はこう続けた。
「あなたたちを襲わせてもらいます。」
「は?」
男が指を鳴らす。すると唯人たちの背後に影が三つでき、その中からせり上がってくるようにして異形の魔物が生まれてくる。
「椎名君、これは……?」
俺に聞かれても知らねえよ、と思ったが昨日の姉の言葉を思い出した。危険が迫ったら? このことを知っていたのか?
人のいないところ……か。まさに危害を加えようとしてるこの男は勘定外としても、雅だけは逃さなくては。
「俺があの男を抑えるから、その間に逃げて。」
「でも……。」
「いいから!」
小声で話したが、聞かれたか? どっちみちすぐに行動に移さなくては。唯人は男に飛び掛った。
「早く!」
雅は一瞬躊躇したが、このままだと二人とも危険だと判断し駆け出した。
「ちっ……。」
掴んでいた男の様子がおかしい。慌てて手を離すと男も影の魔物に変形していく。
どうすればいいんだ。いや、やることは決まっている。
「何も起きなかったら呪ってやる。」
ポケットから『お守り』を取り出すと両手で包んで祈った。神様でも仏様でもいいから助けてくれますように!

181:魔法少女? ユイ 4/4 ◆KazZxBP5Rc
08/12/17 02:27:09 HCvFFJ1t
次の瞬間、唯人は時間が止まったのかと感じた。さっきまでうなっていた魔物の声も聞こえない。風も凪いでいる。それに、そろそろあるはずの攻撃も未だ受けていない。
目を開けてみるといつの間にかステッキを持っていた。それは『お守り』を大きくしたような形をしていた。
いや、「ような」ではなくてまさにそれが大きくなったものだ。唯人はすぐにそれを理解した。
しかしそれ以上のことを考える間もなく魔物が襲ってくる。唯人は反射的にはたき倒した。
「ちょっ、まだ待って! ……え?」
声が変。喉が枯れたとかそういうのではなくて、元から違っているようでむずがゆい。
喉に手を当てようと腕を体に近づけると、先にやわらかいものが腕に触れた。
「え? え?」
服装も変わっているが些細なことだ。胸が膨らんでいる。触ってみると触られた感触がある。確かに自分の胸だ。
先ほど倒した魔物が起き上がってくる。体について考えるのは後だ。
このステッキ、よく見るとちょうど持ちやすいところにボタンが四つ付いている。赤・青・緑・黄。
「なんか強そうだし赤でいいか!」
赤いボタンを押すとステッキの先から火が出た。そのまま炎はマッチのようにステッキの先に留まっている。
「あれ? 熱く……ない?」
手を近づけても、恐る恐る触れてみても、熱さも痛みも無い。しかしこれでいいようだ。なぜなら魔物たちが怖がっているから。
「いっけぇー!!」
ステッキを振り下ろすと炎は瞬く間に飛んでいき、魔物の体を焼き焦がした。
「よしっ!」
すかざず振り返って残りの二匹も始末する。
「はぁ……。」
緊張から解放されて思いっきりその場に座り込んだ。
さっきまで焦っていたので気付かなかったのだが、どうして自分はミニスカートなど履いているんだろう。
両手ですそを押さえ込む。
「あれ?」
また違和感がある。そういえば胸も膨らんでいた。もしかして……。唯人はゆっくりと手を股間に持っていく。
「ない……。」
頭が真っ白になった。これって、つまり、そういうことなんだろう。
「俺、女の子になってる?」
現実逃避のためかどうかは知らないが、唯人の頭は直ちに別のことを思い出させていた。
「……一匹足りない。」
最初に現れた魔物は三匹、男が変化したのが一匹。しかし唯人が倒したのは三匹だった。
追わなくちゃ。それに、必死に追っている間は体のことを考えなくてすむ。

悲鳴が聞こえた。あっちの方角にいる。走っているときにちらりとカーブミラーに美少女が映ったような気がするが気にしない。
唯人が駆けつけたときに見たものは、今にも魔物に襲われようとしている雅だった。
「ふぁ、ファイヤー!」
ギリギリで炎を浴びせると、魔物はもがき、溶けていった。
「ありがとうございます。えっと、お名前は?」
彼女は目の前の少女が唯人であることを知らない。
唯人は瞬間考えた。自分が唯人だと名乗るのもおかしいし、祈るところを見られてはいけないということは正体も秘密なんだろう。
しかし突然適当な名前を思いつけと言われてもな。元の名前が唯人……だから……。
「私はユイ。椎名君から聞いたわ。あなたが海瀬さんね。」
よくもまあうまく口が回るものだ、と本人も思った。
とにかくこうして、魔法少女ユイは誕生した。

182: ◆KazZxBP5Rc
08/12/17 02:28:57 HCvFFJ1t
つづく
全8話を予定しています

もうちょっと早く書き上げていればよかった…

183:創る名無しに見る名無し
08/12/17 02:36:57 g24a7Ttm
お姉ちゃんが怪しいな!


184:創る名無しに見る名無し
08/12/17 19:55:46 y2AQ0p6x
ここって二次創作もあり?
衛宮志保とかキョン子とか

185:創る名無しに見る名無し
08/12/17 20:00:51 eb+xEO56
ありあり

186:創る名無しに見る名無し
08/12/17 20:05:06 HCvFFJ1t
>>184
>>1,>>37-39

187:創る名無しに見る名無し
08/12/17 20:07:35 y2AQ0p6x
ごめん
テンプレすらしっかり読んでなかったとか恥ずかしすぎて埋まりたい気分だ

188:創る名無しに見る名無し
08/12/17 21:05:00 hK4X06so
>>182
魔法少女ものだ!
続きにwktkしてます

189:創る名無しに見る名無し
08/12/17 23:13:40 Vrqv+e8y
男の娘魔法少女とはわかってるじゃないか!

190: ◆KazZxBP5Rc
08/12/20 21:20:11 nVe+Biu6
続き投下します

191:魔法少女? ユイ 1/5 ◆KazZxBP5Rc
08/12/20 21:20:57 nVe+Biu6

第2話『謎の仮面男の巻』


―椎名唯人です。俺は今、走っています。

話は前日、唯人が初めてユイに変身した時にさかのぼる。
すんでのところで想い人の雅を助けた唯人は、そのまま一直線に家まで駆け込んだ。
「姉ちゃん! これどうやったら治るんだ!?」
探してみると、姉のつかさは自分の部屋のベッドの上で寝転んで漫画を読んでいた。
「あら、かわいくなっちゃって。」
「そんなことどうでもいいから戻り方を教えてくれ!」
つかさは漫画を横に置くと、起き上がって真面目な顔でこう続けた。
「ごめんね、唯人。いいお嫁さんになれるように、私もできるだけサポートするけど……。」
「……うそだろ。」
血の気がすっと引いていく。そんな。まだ何の覚悟もできてないぞ。
目が合うと、つかさの顔が申し訳なさそうに少しうつむく。
そしてつかさは言った。
「うん、うそ。」
つかさは小さく笑っているが唯人にとっては笑い事じゃない。
一度も返済されたことのない仕返しの残高がひとつ増えた。
しかしそれと同時に胸に安堵が広がったのも事実。
「あ、でも男とキスすると二度と戻れないらしいよ。」
「しねえよ。それより早くやり方を!」
「変身したときと同じようにすれば解けるんだって。」
聞き終わるより早く唯人はステッキに祈り始めた。
また時間の止まるような感覚が襲ってきて、制服姿の椎名唯人が現れた。
「ところで唯人、カバンどうしたの?」
「あ。」
そういえば道に置きっぱなしだ。取りに戻ろうと部屋を出るとき、つかさにもう一声掛けられた。
「明日から五時起きね。特訓するから。」

192:魔法少女? ユイ 2/5 ◆KazZxBP5Rc
08/12/20 21:21:52 nVe+Biu6
そんなわけで唯人は今、走っている。
「はぁ、はぁ……、ちょっと、待って。」
「まだ五キロだぞ、だらしない。」
「そんなこと、言ったって、女の体で、これは……。」
「しょうがないじゃない。戦うときはその姿なんだぞ。」
唯人はとうとう道端に座り込んでしまった。
「そもそも、なんで女になるんだよ。」
「女のほうが魔法の伝導率がいいのよ。」
自転車の上のつかさはこともなげに言った。
「じゃあ、生まれながらの女にやらせればいいじゃないか。」
それだけの説明でこう思うのは当然だ。だがつかさはさらに付け加える。
「確かに伝導率は女のほうが上なんだけどね、元から持ってる魔力自体は男女に関わらず個人個人で差があって……。」
「俺には人一倍強い魔力があるけど、そのままだと通りにくいから女にしたってこと?」
「そういうこと。」
ああ、そう。理由は分かったが納得はいかない。
「じゃあ私はこのまま出勤するから、がんばって帰ってね。」
ステッキは家に置かされている。ここまでほぼ直線で走ってきた。つまり男に戻ったり近道したりすることはできない。
これまでの距離をもう一回、か。唯人は溜息をひとつついて元来た道を走り出した。

193:魔法少女? ユイ 3/5 ◆KazZxBP5Rc
08/12/20 21:22:22 nVe+Biu6
一時間目は爆睡だった。起床時刻と疲労を考えるとしょうがない。
休み時間に入って誰かにノートを見せてもらおうと思ったところで……。
「きゃあああああ!」
「うわぁああああ!」
悲鳴。上からだ。男女合わせて五、六人といったところか。
教室を出ると見知った顔が一人階段を駆け下りてくる。隣のクラスの神野。
神野は唯人たちのいる階まで降りてきて叫んだ。
「化け物だ! 屋上に化け物がいる!」
神野の周りには既に人だかりができているが、唯人はそれを無視して屋上に向かった。
ちくしょう、こんなに早く来るとは。敵は待ってはくれないか。

194:魔法少女? ユイ 4/5 ◆KazZxBP5Rc
08/12/20 21:22:56 nVe+Biu6
みんな逃げ切れたのか、幸いなことに屋上には既に生徒はいなかった。
念のため入り口から死角となるところで変身。
「よし、時間無いからさっさと片付けるか!」
今回の敵はゴーレム。岩の化け物だ。
「ええっと、姉ちゃんの話によると……。」
ボタンの色の赤は炎、青は水、緑は風、黄色は地の属性をそれぞれ表している。
昨日の影の魔物は影だけに強力な光を嫌うのだろう。だから強力な光を発する炎で倒せた。
こいつは何が効くのか。
まずどう見ても炎はダメだ。効く気がしない。
「わっ、と!」
ゴーレムがやたら長い腕を振り降ろしてきた。慌てて飛びのく。
ふとひらめいた。ウォーターカッターというものをどこかで聞いたことがある。それは水を細く噴射し、その圧力で物体を切断したりできる。
「よーし……。」
青のボタンを押した。ステッキの先に水が溜まって浮いている。不思議な感覚だ。
意識をステッキの先に集中すると、勢いよく水が噴出した。試し射ちだったのであらぬ方向に飛んでいったが、これならいける。
腰に左手を当ててゴーレムに右手のステッキを向ける。
「おしおきの時間よ! なんてな。」
後悔は時間差で襲ってきた。何をやってるんだ、こんなの見られたらお嫁に……じゃなかった、お婿に行けない。
恥ずかしさを頭の外に押しやって、ステッキに意識をこめる。
「あれ?」
水は確かにゴーレムに向かってまっしぐらに飛んでいった。しかしゴーレムはそれを大ジャンプでかわした。
「ちょっ、こういう奴って普通重いから動きが鈍いはずだろ!」
文句を言っても仕方がない。唯人はゴーレムに水弾を発射し続けた。だが避ける避ける。ゴーレムは跳ねたり転がったり、的確に水弾をかわし続けた。
それだけでなく、合間合間を狙って向こうからも積極的に攻撃を仕掛けてくる。
「大きいくせにちょこまか……と……え?」
気付いたときには、唯人の体は屋上の外側の宙を舞っていた。

195:魔法少女? ユイ 5/5 ◆KazZxBP5Rc
08/12/20 21:23:37 nVe+Biu6
届かないと思いつつも伸ばした腕に、上から抑えられるような力がかかった。
びっくりして見上げると、仮面を被った男が目に映った。
呆然としている間に体は元の屋上へと戻っていく。
「大丈夫?」
何と返せばいいのか。唯人が迷っていると男はさらに言葉を重ねる。
「地学の勉強。」
「へ?」
こんなときに何を言っているんだ。目の前のゴーレムが見えないわけではないだろうに。
「岩石が年月を経ることによって削れることを何と言うか。」
本当に問題を出しやがった。この人は何なんだろう。まさか教師じゃないだろうな。
「君が考えている間に、あの剣を取りに行く。」
「あの剣って……ゴーレムがじゃれてるあれ?」
「そうだ。」
「危ないよ。それに剣なんかで倒せないでしょ。」
じゃないと自分が魔法少女になる必要なんてこれっぽっちも無いんだからな。
「たしかに倒せはしないが……見てのとおり、あの剣には魔物を引き寄せる性質がある。」
男が魔物を引き寄せてる間に考えろ、ということか。
「じゃあ、頼んだよ。」
そう言って男はゴーレムの方に向かって突進した。
こうなると時間が無い。なあに、答えは四択なんだ。
「岩を削る……地震か?」
地のボタンを押しそうになったが、思いとどまった。
「そういえばここは屋上だから、地のパワーを使おうとすると地面との間にある校舎にも影響が出るんじゃ……。」
そうなると今まで頭に浮かばかった風か? 恐る恐る緑のボタンを押す。
風の流れが変わった。それを合図に男は剣を鞘に収め唯人の方に寄ってきた。
「そう、答えは『風化』だ。何千、何万年と風に晒されてきた岩石は朽ちて砂となる。」
「何千年って……。」
「それだけの風を君は起こせる。」
そんなわけ……と反論したかったが飲み込んだ。信じるしかないようだ。唯人はステッキに両手を添えて精神を統一した。
異様な光景だった。ステッキを境にゴーレムの方向にだけ嵐のごとく風が吹いている。唯人の側はいつもどおりの空気の流れだ。
この高さから落ちたらその岩の体が砕かれるのが分かっているのだろう。ゴーレムは落ちまいとこの風に向かってくる。しかしそれが相対的にゴーレムに対する風速をさらに強めることとなる。
ゴーレムの表皮が剥がれ落ちるにつれて、こちらに向かってくる力も失っているようだ。
唯人が最後の力を振り絞ると、ゴーレムは塵となって消えていった。
そして、精神力を使い果たした唯人はその場に座り込んでしまった。
「これが……俺の、力?」
ハッと辺りを見回す。うっかり「俺」と言ってしまったのに気付いて慌てて取り繕おうとしたが、その相手は既にいなかった。
「なんだったんだ、あいつ。」
風のように現れて、風の話をして、風のように去っていって。その間唯人はあっけに取られているだけだった。
何者か心当たりは無いか、と自問したちょうどそのときにチャイムの音が耳に響いた。
「やべっ! 遅刻だ!」
変身を解いて授業に向かう唯人は、もう男のこととは別のことを思っていた。二時間目も、爆睡だな。

196: ◆KazZxBP5Rc
08/12/20 21:24:50 nVe+Biu6
つづく

197:創る名無しに見る名無し
08/12/20 21:32:56 eEfVh910
これは期待
野暮な推測は身を滅ぼす気がするからやめておく

198:創る名無しに見る名無し
08/12/21 21:57:46 BIjHmQQK
新キャラだー。
続きにwktk!

199: ◆KazZxBP5Rc
08/12/23 20:05:55 c6CVtlw2
URLリンク(www6.uploader.jp)
あっちに投下する勇気は無いの

第3話いっくよー

200:魔法少女? ユイ 1/3 ◆KazZxBP5Rc
08/12/23 20:07:09 c6CVtlw2

第3話『仮面男は敵? 味方?』


例の男についてつかさが何か知っているのではないかという唯人のあては外れた。まあこの姉はすっとぼけるのが得意だから隠している可能性も否めないが。
結局何も知ることはできず、翌日もまた、朝の筋トレとランニングによって一日が始まるのであった。
「はあ……魔法少女ってもっとこう、なんて言うか、可憐な感じなんじゃないの?」
それを言うならそもそも男が魔法少女になっていること自体間違っているのだが、どちらにしろ元から望んでなったわけではないので唯人を責めることはできない。
学校ではいつまた魔物が襲ってくるか気が抜けなかったが、その日は何事も無く授業を終え家路に着くことができた。
つかさは今日は遅くなると言っていた。けれど、もうひとりの家族が尻尾を振って迎えてくれた。
「あんっ、あんっ!」
「よしジュニア、散歩行くか。」
唯人は冷蔵庫を開けジュースを一杯飲み干すと、自分の部屋に入り私服に着替える。そしてリードを手にまた玄関まで戻ってきた。
「さあ出発だ。」

ジュニアは緑の多いところが好きである。彼のお気に入りの散歩コースは山道だ。
椎名家からなら一番近い山まででも歩くと小一時間かかる。そのため連れて行くほう―主に唯人だが―は帰ってくる頃にはいつもへとへとだ。
山までは住宅街を通って最後に商店街を抜ける。その商店街に入る頃、ジュニアが突然騒ぎ出した。
「くーっ!」
「お、おい! どうしたんだ!」
散歩の途中で突然暴れるような犬ではない。何かあったのだろう。
「待てって!」
ついに走り出した。押さえられないほどではないが強い力で引っ張ってくる。唯人もあきらめて少し駆け足で進み始めた。

途中、商店街の中で見知った顔に声を掛けられた。
「よう。」
「おお、順平。」
「昨日からお疲れのようだったから聞けなかったけど、どうだった?」
順平はなにやらにやにやと笑いをこらえているようである。
「何が?」
「決まってるだろ、雅のことだよ! うまくいったのか?」
「ああ……それどころじゃなかった。」
「ん? 何があったんだ?」
魔物が襲ってきて魔法少女になりました、なんてさすがに言えない。
「ふー、ふーっ!」
「ごめん、こいつが急ぎたいみたいだからまた今度な!」
両手をあわせてごめんのポーズをとりながらも、内心ではうまぐしのげたとジュニアに感謝して、唯人は商店街を後にした。

201:魔法少女? ユイ 2/3 ◆KazZxBP5Rc
08/12/23 20:07:51 c6CVtlw2
アーケードを抜けると山は目の前だ。そこまで来てようやく唯人は異変に気付いた。
「煙?」
商店街のこちら側ではあまり人が通らないため誰も気付いていないようだ。
なおもジュニアに誘われるままに山に入っていく。
「あんっ!」
「これは……!」
中腹あたりでジュニアが一声上げた。火の手が上がっているのが見える。山火事だ。
「これに気付いてたのか。よくやったぞジュニア。」
ご褒美のなでなで。あらためて犬の嗅覚の凄さを実感する。
「さて、消防署に連絡……はできないみたいだな。」
よく見ると炎は不思議な動きをしている。まるで生きているかのような……いや、実際生きている。あれは魔物だ。
「ずっと持っとけとは言われたけど、できるだけ使いたくなかったのに……。」
近くに人がいないことを確認。ポケットから手のひらサイズのステッキを取り出し祈ると、先ほどまでそこにいた少年は消え、代わりに少女が現れた。
「さて、手っ取り早く雨でも降らせますか。」
青いボタンを押して水のパワーを溜める。そしてステッキを天に向かって掲げた。
ステッキの先から雲が造られ山の斜面の上に広がっていく。雲は次第に大きくなり雨を降らす。
火は見る見るうちに消えていくのだが、二箇所だけ大きな塊となって消えない部分がある。
「あれが本体だな。ジュニア、ちょっとここで待ってろよ。」
愛犬はその場に腰を下ろして意思を見せた。
それを見て安心し、唯人は魔物の目の前に飛び出していく。
「こいつら、かなりのろいぞ。」
この魔物達は唯人にも気付いておらず、徘徊しているだけのようだ。
これなら昨日は失敗したあの手が使える。唯人は二匹の魔物に向けて水弾を正確に打ち込んだ。
「今回はあっけなかったかな。」
変身を解こうとしたその時、物陰から動くものが見えた。

202:魔法少女? ユイ 3/3 ◆KazZxBP5Rc
08/12/23 20:08:42 c6CVtlw2
「こんにちは、椎名唯人君。」
「なっ……!」
現れたのは昨日の仮面の男であった。なぜ本名を知っているのか、唯人が尋ねる前に男は再び口を開く。
「昨日は悪いと思いながら観察させてもらった。」
「観察? どういうことだ?」
しかし唯人の問いには答えず、男はなにやら赤い液体の入ったビンを取り出して魔物の亡骸に中身を半分ずつかけた。
「また会おう。」
それだけ言い残して男は去って行った。
「待て!」
さっぱり訳の分からない唯人は、追いかけようとしたところを巨大な物体に阻まれた。
それは先ほどの炎の魔物が二匹合体したものであった。
唯人は当然水弾を浴びせる。しかし今度はまったくダメージがない。
「どうすれば……きゃっ!」
自分で降らせた雨のせいで地面がぬかるんで滑ってしまった。
それ自体は大したことではないのだが、女の子みたいな声を出してしまった。愛犬と目が合った。穴があったら入りたい。
「ん、ちょっと待てよ? 穴……そうだ!」
ステッキを地面に付ける。まずは水だ。水を魔物の足元に集める。
魔物は再び山に火をつけ始めた。しかし焦ってはいけない。この作戦はひたすら待つことしかできないのだから。
魔物がぐちゃぐちゃになった地面を踏みしめた。もう片方の足を上げた瞬間、スリップし、その巨体が宙に浮いた。
「今だっ! 地!」
ボンっと大きな音がして地面に大穴が開いた。穴の分の土はどこへ行ったかというと、その場に巻き上げられて、その瞬間を外から見ると筒状に土がそびえ立っているように見える。
魔物は吸い込まれるように穴に落ち、その上から大量の土でふたをされた。

残りの火を消すと唯人は変身を解いてジュニアの側へ戻った。
「それにしても……。」
仮面の男は明らかに魔物を復活させて自分を襲わせた。この先直接戦うことになるのだろうか。魔物だけではなく人間と戦う。そのことに不安を覚える唯人であった。

203: ◆KazZxBP5Rc
08/12/23 20:09:37 c6CVtlw2
つづけ

次はある意味クライマックスw

204:創る名無しに見る名無し
08/12/23 20:40:31 Qq8ffTDg
わあ、気になるところで終わってる
続き楽しみにしてます

205:創る名無しに見る名無し
08/12/23 23:32:38 c6CVtlw2
いつもありがとう

ユイでクリスマスネタ書こうとしようとしたけどなかなか難しいな
別の話にするか

206: ◆KazZxBP5Rc
08/12/24 21:54:51 xE30cMHH
ラジオ聞きながら投下

207:あわてんぼうのサンタクロース 1/5 ◆KazZxBP5Rc
08/12/24 21:55:34 xE30cMHH
いつものように会社から帰り、疲れきった体をベッドに沈めた。
そのまま寝てしまいたいのは山々だが、資料に目を通さなくてはいけない。
「もうすぐクリスマス、か。」
壁掛けのカレンダーを眺めて溜息をつく。
携帯電話を取り出し、淡い期待を胸に数人しかいない女友達にクリスマスの予定を聞くメールを送った。

玄関のチャイムが鳴ったのはその直後のことだ。
扉を開けるとそこには真っ赤な衣装の初老の男が立っていた。
「こんばんは。わたくし、世界サンタクロース協会所属の『あわてんぼうのサンタクロース』と申します。」
「はあ……。」
自分であわてんぼうとか言うか? いや、それ以外にもツッコミ所は多々あるが。
「あなたは『サンタクロースに願い事を何でもひとつ叶えてもらえる権利』に当選しました。」
詐欺なんだろうか、こんな詐欺は聞いたことないが。どうせなら叶えられるわけもない本音を晒してみようか。
「じゃあ恋人がほしい。」
「かしこまりました。」
サンタはどこかに電話を掛け始めた。美人局というやつか? だがそれなら普通最初から女を遣すよな。
「……はい……はいはい、了解いたしました。」
そして俺のほうに向き直って、
「手配は完了しました。」
と告げた。

208:あわてんぼうのサンタクロース 2/5 ◆KazZxBP5Rc
08/12/24 21:56:15 xE30cMHH
奇妙な来客のせいでさらに疲れた。
シャワーでも浴びようとバスルームに向かう。
服を脱ごうとして途中に何かつっかえたことに気付いた。
胸?
わずかながら胸にふくらみがある。どこかで刺されでもしたのだろうか。
などと笑っていられたのもそこまでで、下半身の衣服も脱ぎ終わったときには声も出せなかった。
無い。
思考停止。なんとかして体を流してバスタオルを巻いたことだけは覚えている。
上がり際に鏡をのぞいてみた。顔はほとんど変わっていないが、乗っけているものが違うだけでずいぶんと雰囲気が違って見えた。

体のことは置いておいて、メールの返信を確かめる。
まあ予想通りの結果だ。彼氏とデート、彼氏とデート、バイト、合コン、彼氏とデート。
「あれ?」
それ以外にもう一件着信があった。高校大学時代の男友達だ。久しぶりだな、元気でやっているんだろうか。
内容は今から飲みに行かないか、というものだった。今から? またずいぶん唐突だ。
俺はバスタオルを巻いている体を見た。まあ、厚着すればバレないかな。

209:あわてんぼうのサンタクロース 3/5 ◆KazZxBP5Rc
08/12/24 21:56:58 xE30cMHH
「急で悪かったな。ええっと、どれくらいぶりだっけ。」
「先輩の結婚式以来だから、半年だな。」
「そうか。全然変わってないな。」
「どうだろうな。」
「え?」
「なあ、もし俺が実は女だったって言ったらどうする?」
「何馬鹿なこと言ってるんだよ。そりゃあよく女っぽいって言われたり女装させられてたけどさ。修学旅行で一緒に風呂入ったじゃねえか。」
「まあな。」
「ま、お前が本当に女だったら良かったかもな。」
「……なあ、どうせ二十四日も暇だろ。」
「うるせえ、お前もだろ。」
「また、飲まないか。今度は駅まで迎えに行くから。」
「? ああ、いいぞ。」

210:あわてんぼうのサンタクロース 4/5 ◆KazZxBP5Rc
08/12/24 21:57:30 xE30cMHH
何を考えているんだろう俺は。ただの冗談に決まっている。あいつは俺が本当に女になったなんて思ってないはずだ。
それでも俺は……。
クリスマス前最後の休みの日。俺は偶然にでもあいつに見つからないように慎重に路線を選び、ある街に向かった。
まず店をはしごして女の服装をしている自分を思い浮かべる。
十何件か回ったところで見つけたセーターが俺の目を引いた。
今度はそれに合うように残りのパーツを選んでいく。
「次は……やっぱり入らないといけないか。」
店の前で散々うろうろして覚悟を決めた。
ランジェリーショップ。それはなんだか立ち入ってはならない領域のように思えて、中にいる間、まともに顔を上げられなかった。
その後、化粧品のことはよく分からないので、真っ赤な口紅を一本だけ購入。
最後に美容院に入って「できるだけ女らしく」と注文した。

211:あわてんぼうのサンタクロース 5/5 ◆KazZxBP5Rc
08/12/24 21:58:06 xE30cMHH
ロングスカートが風にたなびく。ストッキングのおかげで意外と寒さは少ないが、やはりどうも脚の感覚が頼りない。
約束の時間五分前に待ち人は現れた。
「よ、よお。」
自分に話しかけたのが女だったこと、それがついこの前に会った俺だったことに愕然としているようだった。
「サンタクロースに、女にされちゃった。」
本当のことだが、言っている俺の耳にも間抜けにしか聞こえない。
「なんなら体確かめてみるか?」
何も言ってくれないので焦って変なことを口走ってしまった。訂正しようとしたとき、ようやく口を開いてくれた。
「いや、いい。お前が冗談でそんなこと言う奴じゃないって分かってる。それに、女装のときとは全然……。」
それって……。自分の心臓の音があいつにも聞こえているんじゃないだろうかというくらい響く。
沈黙が降りて何時間くらい経ったんだろう、と感じたが実際は約束の時間にたどり着いただけだった。
俺はようやく決心してその言葉をつむぎ出した。
「いきなりなんだけど、俺、お前の言葉にときめいたりしちゃって、その……好き、です。」
全部伝えたいのに、全然言葉が思いつかない。こんなので伝わるとは思えないけど、恥ずかしすぎて目もあわせられなくなってしまった。
どうやっていいかわからずもじもじしていると、思わぬ答えが返ってきた。
「ひゃっ!」
彼は俺の背中に腕を回して抱き寄せてきたのだ。
「あ、ごめん……。」
「いや、びっくりしただけだから。」
自分の胸が彼の胸に押しつぶされている感覚で、改めて女になったんだと実感させられる。男の体ってこんなに大きかったんだ。
私も彼の体に腕を回して体を預けた。

彼の肩越しに流れ星がひとつ見えた。

212: ◆KazZxBP5Rc
08/12/24 21:59:12 xE30cMHH
終わりー

213:創る名無しに見る名無し
08/12/24 22:11:42 SjvYXqKZ
乙乙乙乙乙乙乙乙乙♪

214:創る名無しに見る名無し
08/12/24 22:28:58 OgLvI6IT
メリークリスマス!!
彼女じゃなくて彼氏ができちゃったなw

215:創る名無しに見る名無し
08/12/28 23:43:27 5Q8UqvIC
初詣先でデートですか? と四日ぶりにレス

216:創る名無しに見る名無し
08/12/29 23:18:59 mbQaChUQ
>>215
書けってことですか、わかりません><
今年中は俺は多分無理だな

217: 【大吉】
09/01/01 00:58:50 PzpI83bL
姉「あけましておめでと~!」
女弟「おめでとう…」
姉「どうした、元気が無いぞ妹よ」
女弟「この格好、恥ずかしいよ…」
姉「ホルスタインの着ぐるみ?」
女弟「特にこのお乳のところが…」
姉「せっかくおっぱいができたんだから活用しないと」
女弟「関係ないでしょ…」
姉「隠しお題だしね」
女弟「何の話?」

みたいな妄想

218:創る名無しに見る名無し
09/01/02 08:16:04 8iJ+n1Wi
GJ!

219: ◆KazZxBP5Rc
09/01/07 19:07:04 Hr0c9/nx
リコかわいいよリコ

さて、年越してようやく再開

220:魔法少女? ユイ 1/5 ◆KazZxBP5Rc
09/01/07 19:08:15 Hr0c9/nx

第4話『お姉様とお買い物』


ある休日の朝、唯人は全身の違和感で目を覚ました。
まず気付いたのは頭の痛みである。自分の体が大きくゆっくりと回転しているかのような錯覚を受ける。
それに衣服の感覚がおかしい。ビシッと締め付けられるような服は寝るときに着るようなものではない。
このとき、昨日寝る前に何をしていたのかさっぱり思い出せないということに唯人は気付いた。大方疲れて着替えもせずに寝てしまったのだろう。
とりあえず布団から出ようと体を起こしてみると、胸に妙な重みを感じる。そういうことか……。
唯人はユイに変身していた。
しかし何時からだ? もしかしたら魔物との戦いで負傷してその時の記憶が飛んでいるのだろうか。そうだとしたら、そんな強力な魔物を野放しにはできない。
唯人は勢いよく部屋から飛び出そうとした。だが、頭がフラフラしてうまく歩けない。

「おはよー!」
唯人が結局ベッドに腰掛けたままでいると、大きな姿見を持って姉のつかさが部屋に入ってきた。
「姉ちゃん、これどういうこと?」
「あー、あんた覚えてないんだ。無理もないかもね……。」
「なんだよ。何か知ってるんだったら、もったいぶってないで早く言って。」
「いやあ、唯人って飲ませたらすっごく素直ないい子になるみたいね。」
「……。」
「昨日の晩にお酒買ってきてふたりで飲んだのよ。でね、ノッてきたところでちょっと変身してみてって頼んだの。」
「……。」
それにしても気持ちのいい朝だ。外ではすずめがさえずっている。
「未成年になんてことするんだーっ!」
「一緒に買い物行ってくれたらステッキ返してあげる。」
この女は聞く耳を持たないようだ。自分の用件だけ伝えてくる。
「ちょっと待て、買い物ってもしかしてこのまま?」
「まさか。そんな、いかにも『魔法少女です』って格好で出るわけないでしょ。すぐ着替え持ってくるから、それ脱いでおいてね。」
そう言うとつかさはとっとと出ていってしまった。唯人が聞きたかったのは「女のままで?」という意味だったのだが、話の流れからするとやはりそういうことなのだろう。

221:魔法少女? ユイ 1/5 ◆KazZxBP5Rc
09/01/07 19:08:49 Hr0c9/nx
しばしためらったが、好奇心も手伝ってコスチュームを脱ぐ決断は割と早かった。
肩にかかっている布をはずすと、解放されたふたつのかたまりがぷるんと波打って新鮮な感覚を与えてくれる。
そこでもう一度、この先の領域に踏み込んでいいものかと悩む。
だがやはり唯人は男の子だった。
自分自身だということを棚にあげれば、同じ年頃の女の子の裸が見れるめったに無いチャンスだ。
唯人は覚悟を決めると両脇に宙ぶらりんになっている布地を持つと一気に下へ引っ張った。
脱いでみて分かったのだが、このコスチュームはワンピースの水着のようなつくりで、スカートもそこに縫い付けられている装飾のひとつであった。
そしてこのコスチュームは肌に直に触れるようになっていて、これだけ脱ぐともう魔法少女は全裸となってしまう。
唯人は姉が担いできた姿見を覗き込んだ。滑らかな肌をあらわにして少し恥ずかしそうにこちらを見つめる少女。それが自分だと理解してはいるが信じられない。
しばらくぼーっと眺めていると、視界の端からもう一人の女性がやってきて、持ってきたものを少女の胸にあてがった。
「ほら、手上げて。」
いつものような憎まれ口を叩かず、ただ淡々とブラジャーを着せようとするつかさに戸惑いを感じながらも、言われたとおりに万歳のポーズをとる。
「着け心地はどう?」
「……なんでこんなにぴったりなんだよ。姉ちゃんのじゃないだろ?」
「目測よ。この日のために準備しておいたの。」
嬉しそうに語るつかさに、唯人は軽い恐怖を覚えた。
「じゃあ後は自分でできるよね。服は私のから適当に選んでおいたから。」
つかさはまた部屋を出ていった。残されたのは、あえて女らしいものを選んだとしか思えないブラウスやスカートたちであった。

222:魔法少女? ユイ 3/5 ◆KazZxBP5Rc
09/01/07 19:09:33 Hr0c9/nx
唯人たちの家から郊外のショッピングモールまでは自動車で三十分ほどである。
こういった施設では専門店の八割で婦人服を売っているというのだから、女性たちは日が暮れるまでコーディネートにいそしむことができる。
ここに着いてから唯人はつかさの着せ替え人形に徹した。ステッキという質を取られているからしょうがなく、らしい。
最初のうちは普通の女物であった。このときは唯人もまだ余裕で、試着室の鏡に向かってポーズを取ってみたりもした。
だが、徐々に露出の多い服が増えてきて、早く終わってくれないかと思うようになる。
「これ、下着姿の方がまだマシなんじゃ……。」
「ユイー、ちゃんと着れた?」
「わわわわわのぞいちゃダメっ!」
最終的につかさはコスプレ専門店に目をつけた。メイド服やチャイナ服に袖を通す頃にはすっかり無我の境地を切り拓いていた唯人であった。

「じゃあ私は一旦荷物置きに車に戻るから、その辺でブラブラしててね。」
一旦、か。それにしてもあれだけ買ったけどいったい誰が着るのだろう。今度こそ騙されて変身することのないようにしないと。
決意を新たにした後、唯人はせっかくだから男の姿では入りにくい店を物色しようと思った。なんだかんだで割とこの状況を楽しんでいるように見える。
しばらくして、唯人は雅のことを思い出していた。何かプレゼントを贈ろう。そう考えてアクセサリー店に入り、散々悩んでブレスレットを購入した。
「お、いたいた。」
つかさと合流したのはそれからすぐだった。荷物を置きに行ったはずなのに、手には紙袋をひとつ提げている。
疑問に思ったのも束の間、人波の中に怪しい影がうごめいた。

223:魔法少女? ユイ 4/5 ◆KazZxBP5Rc
09/01/07 19:10:02 Hr0c9/nx
「ユイ!」
追おうとした唯人を呼び止めて、つかさは紙袋の中からステッキを取り出し投げ渡した。
換わりに先ほどのブレスレットが入った買い物袋を預けると、小さくうなずいて唯人は影を追った。
あれはかつて、唯人が初めて戦った影の魔物だ。あの時は火の魔法で倒したが、今この混雑で火をつけるわけにはいかない。
とにかく人の少ないところまで追い詰めようと考えたのだが、魔物は最悪の方向に向かっていた。
「キキキキキキ! ハイパーマンよ、我々の科学力に対抗できるのかな?」
「黙れ、ジャ・アークの怪人よ! 正義の心は必ずお前たちを打ち倒すのだ。さあ、良い子のみんな! 私に力を分けてくれ!」
子供たちの声援が吹き抜けの広場を埋め尽くす。本日この時間はヒーローショーの真っ最中であった。
唯人は三階からこの吹き抜けにたどり着いた。だが時既に遅し。魔物は壁を伝って一階へ降り、ヒーローショーの悪役に取り付いてしまった。
「くそ、あいつあんなことができたのか。」
ためらっている時間は無い。下手をすると子供が襲われる。それだけは避けなければいけない。
「飛び降りる!」
唯人はショーの舞台めがけて地のパワーを送った。そしてそのとおりの場所に平然と着地。実は最初に放ったのは着地の衝撃を吸収するための魔法だったのだ。
思わぬ登場をしたヒロインに子供たちは大歓声。
「あ、あの……ちょっと、君……。」
「これは遊びじゃないんだから離れてて!」
申し訳なさそうに話しかけるハイパーマンを一蹴。魔物とのにらみ合いに入った。
さて、どうすれば怪人役から魔物を引き離せるかだが、正直まったく思いつかない。おねーちゃんがんばってー! の声援が耳に痛い。
いろいろと考えているうちに、しびれを切らして魔物が飛び掛かってきた。
とっさに、操られている人体を傷つけないように風を使って受けた。その時、魔物の影が少しだけ浮き出たのを唯人は見逃さなかった。
物理的な風は魔物には効かず人の体だけを吹き飛ばす。それならば逆に影の方を吹き飛ばす「概念的な」風があれば……。そして、それは魔法で創れる。魔法は精神の力だから。
会場に爽やかな空気が流れた。
「あー! あれなんだ!」
「すっげー!」
子供たちは、ジャ・アークの怪人が倒れ、そこから世にも恐ろしい影の本体が姿を現すのを目撃した。
そしてその影は、突然現れた魔法少女の炎によっていとも簡単にかき消された。
「ありがとう。みんなの応援のおかげだよ! これからも困ったことがあったら、魔法少女ユイをよろしくね!」
ポーズもばっちり。こういうときはすぐに調子に乗る唯人だった。

224:魔法少女? ユイ 5/5 ◆KazZxBP5Rc
09/01/07 19:10:41 Hr0c9/nx
「おつかれさまー。カッコ良かったよ。」
からかうように笑う姉を無視して唯人は適当な店の試着室に入った。
しばらくしてそこから腕から先だけが出てきて手招き。
つかさが駆け寄って中を覗くとそこには女装した男の姿の唯人がいた。
「服が戻らないんだけど……。」
「当たり前じゃない。今頃家に置いてあるコスチュームが昨日着てた服に戻ってるはずよ。」
「じゃあもう一回変身したら?」
「その服がコスチュームになるに決まってるじゃん。」
「……どうすれば?」
「一回全部脱いで変身して着替えなおしなさい。」
「はあ……。」
「あ、やっぱ可愛い服買ってきてあげるからそこで待ってなさい。」
「な……!」
さっき無視した仕返しなんだろうか。よく考えれば男物を買ってくれればいいだけじゃないか。まあ、それを言ったところでそうしてくれる確率は限りなくゼロだが。
日没の頃、駐車場に白いワンピースの少女と年の離れた姉が仲良く口ゲンカしながら出てくるのが見えた。

225: ◆KazZxBP5Rc
09/01/07 19:13:00 Hr0c9/nx
予定通り前半戦終了


なんかよく分からないけど唯人がルパンスレでトーナメント出るみたいです
こっちもよろしく
スレリンク(mitemite板)

226:創る名無しに見る名無し
09/01/07 19:13:37 Qj3cHdMV
オチに笑ったw
コスチューム無限増殖とかも可能なのね

227:創る名無しに見る名無し
09/01/07 19:20:28 Hr0c9/nx
裸で変身したら解除後裸に戻るだけだから無限増殖は無理なんだぜ

228:創る名無しに見る名無し
09/01/07 19:24:13 Qj3cHdMV
ん?タオルでもなんでもイイから新しい服を身に着けていたら…と思ったけど
変身といた時点で古いほうが戻るから無理なのか

229:創る名無しに見る名無し
09/01/07 19:28:22 Hr0c9/nx
そういうことだぜ

230: ◆KazZxBP5Rc
09/01/17 18:21:26 W8Dke6Lk
前回ブーツのことすっかり忘れてたぜ

                        ヽ○ノ   「まあいいか!」
                         /
                        ノ)

投下します

231:魔法少女? ユイ 第5話 1/5 ◆KazZxBP5Rc
09/01/17 18:22:16 W8Dke6Lk

第5話『俺ってガチホモ!?』


「はぁ……。」
学校からの帰り道、唯人は大きな溜息をひとつ吐き出した。
「今日もダメだったか。」
思いつきで買ってはみたものの、よく考えると、何でもないのにいきなりプレゼントを渡してくる男なんてどうなんだろう。
唯人は例のブレスレットを雅に渡すきっかけが掴めずにいた。
とぼとぼと歩いていつの間にか家の前。ドアを開けるといつものようにジュニアが尻尾を振って出迎えてくれた。
「ただいま、ジュニア。」
「わんっ!」
続いて、これもいつものことだが、ジュニアの様子に気付いてつかさも玄関に出てくる。
「おかえり。」
「姉ちゃんただいま。」
「ちょっと買い物行って欲しいんだけど、大丈夫? ユイちゃん。」
「……うん。」
ショッピングモールのハイパーマンショーに突如現れた魔法少女は、一躍地域の有名人となっていった。
そこで、何を思ったかつかさは唯人にある脅しをかけてきたのだ。
それはお願いを聞かないと唯人が例の魔法少女であるということをバラすというもの。
人のいないところで変身しろと言ったのはつかさ自身なんだから、そこだけ考えれば本当にバラすとは思えない。
しかし人にバレてはいけない理由があるのかどうかも分からないし、なにより、この姉の性格をよく知る唯人には彼女ならやりかねないと思えてしまう。
そういうわけでつかさは好きなときに弟を女にする権利を得た。

232:魔法少女? ユイ 第5話 2/5 ◆KazZxBP5Rc
09/01/17 18:22:49 W8Dke6Lk
悲しいかなすっかり慣れた手つきで着替えを済ませ、財布を預かって再び家を出た。
ちなみにステッキはいつも持っていろと言われているので大きな買い物バッグの中にある。
夕日を背景に自転車を飛ばす唯人。
運転中、いろいろと考えをめぐらせるのが癖だ。
「そういえばあいつは一体なんだったんだろう。」
仮面の男のことである。山で会って以来一度も姿を見たことがない。
結局敵だったのだろうか。だとしたらなぜあれから積極的に襲ってこないのか。
商店街まであと少しというところで足と思考が止まった。
空を見ると大きな紫の雲のようでいてもうちょっと透き通った何かが浮遊している。魔物だ。
別に何を襲うわけでもなさそうなので放っておいてもいいのかもしれないが、気になるので追いかけることにした。

233:魔法少女? ユイ 第5話 3/5 ◆KazZxBP5Rc
09/01/17 18:23:49 W8Dke6Lk
立ちはだかったのは険しい崖。
実はこの山は商店街をはさんでまったく表情が変わる。
向こう側はいつかジュニアに導かれて行ったなだらかな遊歩道だが、こちら側はこのように人はまず立ち入ることができない。
この上に先ほどの魔物は姿を消した。
普通の人間ならここであきらめるのだが、そこは魔法少女、ステッキを取り出すと地のパワーを自分に一振り。
「よっ……ほっ……はっ……。」
超人的な跳躍で崖をぴょんぴょんと上がっていく。地のパワーは力の象徴、肉体を強化することにも使えるのだ。
高さとしてはかなり登ったと思えるところで、踊り場のようになっているところを発見した。
一際強く岩肌を蹴って、空中でくるっと前回り。見事にやわらかい地面に着地した。
「ん? やわらかい?」
そこは魔物の巣窟だった。まさに四面楚歌。いや、唯人が着地のときに踏みつけた魔物が一匹、さらに飛んでいるのもいるので六面かもしれない。
「や、ちょっと待て、ここは穏便に……な?」
などと弁明しても通じるはずもなく、魔物達は一斉に襲い掛かってきた。
唯人もそれに応じて慌てて魔力を解放。すさまじい爆発が起きる。
畳み掛けるようにあらゆる能力をむやみやたらに放つ唯人。その度に弱点を突かれた魔物が消滅していく。
「はぁ……はぁ……。」
さすがに無駄撃ちしすぎたのか肩で息をするようになってきたが、残る魔物もわずかとなってきた。
「よし!」
火の力を逆に利用し、熱を奪ってスライム状の魔物を凍りつかせる。
あと一匹。機械仕掛けの魔物だけが残った。しかしこれがかなり頑丈で何をしてもびくともしない。
「ひょっとして電気でも流すのか? でもやり方が……。」
考えている間にも襲ってくる。避けようと思ったところで膝をついてしまった。
まさかこんなに消耗していたとは。逃げられない。強烈な一撃がやってくる!
その時、唯人の背後、崖の上の方から人影が降りてきた。
それから先は一瞬の出来事。まず唯人のいる地面がぐらつき始めた。かと思うと影にぐいっと引き寄せられ、岩場ごと魔物が落ちていく。
影は仮面の男だった。大剣を抜いている。信じられないことだが、これで崖の先端を切り落としたのだ。
「君には生きていてもらわないといけない。」
だが男の言葉は唯人の耳には入らなかった。顔が近い。それに、力が入らないので唯人は男に寄りかかる格好になってしまっている。
心臓の鼓動が、聞こえているんじゃないかと心配になるくらいの大音量に思える。早く離れてくれないものか。
しばらくして、男は一言だけ告げた。
「もうすぐだ。」
「え?」
それっきり、男はまた行ってしまった。

234:魔法少女? ユイ 第5話 4/5 ◆KazZxBP5Rc
09/01/17 18:24:26 W8Dke6Lk
「もうすぐだ。」
「え?」
順平の言葉にさほど考えもせず聞き返す唯人。
「もうすぐ雅の誕生日だって言ってるんだよ。」
「ああ、ごめん。」
「本当お前ここ何日かぼーっとしてるよな。」
「うん、ごめん。」
唯人の一番の関心は、もはや仮面の男に移ってしまった。
何者なのか。あの剣にはどんな力が秘められているのか。どういうつもりで自分に接してきたのか。
このごろ唯人は一人の時に意味もなく変身してみることが多くなっていた。
こんな調子なので、つかさもつい気になってしょうがない。
「最近どうしたの?」
「別になんともないよ。」
これだけはバレたくないので隠す。ところがさすがは姉。
「あの人のことが気になって夜も眠れない、とか?」
「なっ!」
別につかさは具体的に知っているわけではない。だが「あの人」などと言われると、心当たりがあればつい反応してしまうのが人間。
「やっぱり恋の悩みなのね。で、どんな子?」
男だとは思われていないようだが、ショックを受けたのは「恋」という単語が出てきたことだった。
まさか……俺が男に恋している? つかさの言葉で唯人は余計に眠れぬ日々を過ごすこととなった。

235:魔法少女? ユイ 第5話 5/5 ◆KazZxBP5Rc
09/01/17 18:26:00 W8Dke6Lk
人気のない公園に制服の男女が入ってくるのが見える。
雅を呼び出したとき、唯人は一旦は決心を固めていた。
「海瀬……。」
でも、こんな中途半端な気持ちで想いを告げることなんてできるのだろうか。
「誕生日おめでとう。」
結局唯人は逃げを打ってプレゼントを渡すだけに留まった。
「ありがとう。……わあ、かわいい!」
ほんのり赤く染まった笑顔に胸を打たれる。
やっぱり、雅のことも好きだ。
だからこそ自分が、自分と雅を裏切ることが許せない。
「じゃあ、また。」
男の涙なんて見せるものじゃない。
公園を出るとき、唯人は一度も振り返らなかった。
今まで生きてきた中で一番重い荷物が唯人の心にのしかかっていた。

236: ◆KazZxBP5Rc
09/01/17 18:27:37 W8Dke6Lk
つづく

雑談したら盛り上がるかもって言われたんだけどどうだろう

237:創る名無しに見る名無し
09/01/17 18:34:25 rV8+vAN4
さて、色々と展開の気になるところだな
男の正体はアレなんじゃないかと思っていたりする

238: ◆KazZxBP5Rc
09/01/30 01:25:04 Cv9WgENf
先週の土曜日には投下してるはずだったのに…

いっきまーす

239:魔法少女? ユイ 第6話 1/4 ◆KazZxBP5Rc
09/01/30 01:25:54 Cv9WgENf

第6話『仮面男の正体!?』


唯人は闇の中にいた。
右も左も、何も見えない完全な闇。
やがて遠くから足音が聞こえてきた。
音が近づくにつれて徐々にその音の主の姿が晴れてくる。
「お前は……一体何なんだ。」
唯人は彼―仮面の男に問いかけた。
もちろん期待した答えが返ってくるとは思えなかった。だが、男が口にしたのはそれ以上に唯人の想像を超えた一言。
「愛してる。」
何を言っているんだ。自分は男で……雅のこともあるし……。
しかし訳の分からない感情が沸き起こってくるのを唯人は抑えることができない。
「心配しなくていい。君はすぐに完全な女の子になれる。」
「なっ……!?」
思わず漏れた自分の声は女のものだった。そんな、いつの間に変身してたんだ?
男の顔が近づいてくる。唯人は金縛りにあったように動けない。
ついに男の左手が唯人の肩に触れる。そして男は仮面に右手を掛け―そこで唯人は目を覚ました。

240:魔法少女? ユイ 第6話 2/4 ◆KazZxBP5Rc
09/01/30 01:26:20 Cv9WgENf
「椎名君、大丈夫?」
「うん……。」
ある日の放課後。このごろ雅ともよく話すようになってきたというのに、唯人の心は沈んでいく一方だ。
これ以下は無いだろうと思っていても、次から次へと憂鬱の原因が増えていく。例えば今朝の夢のように。
「今日一緒に帰らない?」
そんな気分ではないのだが、雅の心配そうな顔を見ると断るに断れなかった。

早足で歩く唯人。ついていくのがやっとな雅に気付かないふりをする。
「……ねえ。」
「ん?」
「……ううん、なんでもない。」
なんとか唯人に話しかけようとする雅だが、雰囲気に負けてしまう。
そんなことが何度かあって、そのうち二人は人通りの無い小道へ差し掛かった。
その中ごろで、ついに二人の足が止まった。
「痛っ。」
「えっ、何?」
唯人は道の途中の何も無いところで何かにぶつかったのだ。
壁のパントマイム。反対側から見るとそう見えただろう。しかし本当に目に見えない壁がそこにあることが手探りで分かった。
「こっちはダメだ。」
「え?」
急いで引き返そうとするが遅かった。唯人の顔はまたもや見えない壁に叩きつけられた。
「閉じ込められた!」
いつの間にか壁は左右にも存在していた。手を上に伸ばすとそこにもまた同じ感触。
どうしたものかと考えていると、上空から白いUFOのような生き物が現れた。
敵の魔物に違いない。しかし今変身するのは……いや、そうも言ってられないか。
「海瀬、俺がいいって言うまで目つぶっててくれないか。」
「え……う、うん。」
雅が手で顔を覆ったのを確認すると、唯人はステッキを取り出し祈りをささげた。
変身後、いろいろ試してみたが、どうやらこの壁は魔法も通さないようだ。
それでは逆に向こうも攻撃できないのではと思ったのだがどうやらそうではないらしい。
魔物はビームを撃ってきた。それは壁を貫通して唯人たちのいる空間に入ってくる。
慌てて避けるとビームは壁を反射して路面を焦がした。要するに入ることはできても出ることはできないようだ。
だがそれと同時に唯人には突破口が見えた。
下だ。地面にはバリアが張られていない。
地面にパワーをこめると壁の向こうのアスファルトが噴火して魔物を襲った。
バリアが消えたのを感じる。しかしまだだ。止めを刺しに魔物の元へ駆け寄る。
きっと弱点はビームを出すときに現れる核だ。
唯人が構えを取る。すると魔物は……消えた。
後ろを振り返ると、今にも雅が襲われようとしているところだった。魔物は瞬間移動の能力も持っていたようだ。
「海瀬っ!」
思わず叫んでダッシュ。すんでのところで雅を抱きかかえビームを避けた。
「大丈夫か?」
雅は口を開こうか止めようか迷っているようだった。
とりあえず今は魔物のことだ。魔物はビームを出す体勢に入っている。
唯人は狙いをつけて水弾を核に撃ち込んだ。もう慣れたものだ。予想通り魔物は弱点を突かれて消滅した。
「終わったよ。」
雅はまだ不審がっているようだったが、すぐに不安げに声を出した。
「ユイ……さん?」
その言葉を聞いて初めて唯人は雅が何を考えているのかに気付いた。
バレたかもしれない。そう思うと一気に恐怖が襲ってきた。
「ごめん!」
唯人はただそこから逃げ出すことしかできなかった。

241:魔法少女? ユイ 第6話 3/4 ◆KazZxBP5Rc
09/01/30 01:26:56 Cv9WgENf
それから数日。
「唯人、今日も学校行かないつもり?」
「ん……。」
唯人は逃げ続けていた。このままじゃいけないとは思っていても、ちゃんと向き合うことができない。
やる気の無いベッドの上の唯人に、つかさは服を投げつけた。
「外に出て、気分転換でもしなさい。」
「でも……。」
「提案じゃなくて、命令よ。」
唯人は返事もせず、溜息を吐いて着替えを始めた。

久しぶりの朝日がまぶしい。唯人は当ても無く歩き始めた。
「しかしこんな朝っぱらから追い出されても行く所無いよなぁ。」
「あぅーん。」
「ああ、そういやお前がいるからどっちみち建物は入れないか。」
「はふはふ。」
尻尾を振って存在を主張する同行者。唯人は続ける。
「姉ちゃん昼に帰ってくるって言ってたけど、それまで鍵無いから帰れないしな。」
そこで初めてジュニアのほうを向いて問いかける。
「なあ、お前どこに行きたい?」
「わんっ!」

242:魔法少女? ユイ 第6話 4/4 ◆KazZxBP5Rc
09/01/30 01:27:32 Cv9WgENf
なるべく学校とは逆方向を目指していたら、川原に辿り着いた。
はしゃぐジュニア。川岸に寄り添って水を飲み始めた。
しばらくその様子を見ていた唯人だが、川の中に不思議な光を目撃する。
そして直後、そこから唯人めがけて水が飛んできたのだ。
新手の魔物だろうか。唯人は変身を済ませると、ジュニアを置いて光を追って上流に走り出した。

どれだけ上ってきたのか。だが光は一向に本性を現さない。
もうちょっと、と思っていると光はふっと消えてしまった。唯人の勘違いだったのだろうか。
その時、後ろから声がした。
「我々の仲間にならないか。」
もはや見慣れた仮面姿がそこにあった。
「……お前の目的はなんなんだ?」
「ボスは、この辺り一帯を魔物に明け渡せば、不老不死の魔族となれる契約を交わした。」
どうやら男には上司がいたらしい。
だが唯人はそれよりも、そんなことに加担している男を許せない。あれだけ唯人を悩ませていた情は、きれいさっぱり吹き飛んだ。
「君が仲間になってくれればもう怖いものは無い。さあ、どうだ。」
「断るに、決まってんだろうがっ!」
唯人が叫んだ瞬間、男の後ろから植物のつるが飛んできて男を叩き付け、男から何かを弾き飛ばした。
「くっ、卑怯な!」
「悪者相手に手を選んでやる必要なんて無いね。」
唯人は男に近づいてさらに攻撃を重ねようとして……手を止めた。
「お前は……!」
先ほど男から弾き飛んだのは仮面であった。唯人はその中身を見てしまったのだ。
隣のクラスの神野。それが奴の正体だった。
唯人が呆然としているうちに神野は仮面を拾い、逃げてしまった。
彼は優等生で通っている。その彼がなぜ? 唯人はしばらくその場で立ち尽くしていた。

午後になって、唯人の元に訪問者があった。
つかさに連れられて部屋まで来たその訪問者は、唯人を見るなり掴みかかってきた。
「おい、お前雅に何したんだよ!」
何も言わない唯人に訪問者、順平の怒りは膨れ上がっているようだ。それを見てすかさずつかさが順平をなだめる。
「……雅から伝言だ。自分は何も気にしてないから学校来い、ってさ。」
唯人はやっぱり何も言わずに、しかししっかりと首を縦に振った。

243: ◆KazZxBP5Rc
09/01/30 01:29:10 Cv9WgENf
つづく

244:創る名無しに見る名無し
09/01/30 01:35:49 xZJ/1oaB
GJ!!
仮面の正体も判ってこれから急展開ですかね

245:創る名無しに見る名無し
09/01/30 01:38:34 k9DBr0zj
鬱展開を見ると「あぁ最終回が近いんだな」って感じするわw
もうすぐ、あと二話で終わっちゃうんだな…

246: ◆KazZxBP5Rc
09/02/05 14:19:47 BnslQHmp
ダレモイナイ トウカスルナライマノウチ

247:魔法少女? ユイ 第7話 1/3 ◆KazZxBP5Rc
09/02/05 14:20:32 BnslQHmp

第7話『対面』


どんなに嫌がっても明日は必ずやって来る。それならば同じその日をどのように迎えるのか。
唯人は「その日」を、やる気に満ち溢れた心で迎えた。
「椎名君!」
教室に入ると真っ先に雅が駆け寄ってきた。
「おはよう。心配かけてごめん。」
まだ不安げな表情を浮かべている雅に、そう笑って返す唯人。
遅れて順平も唯人の近くへ歩いてくる。
言葉は交わさなかったがハンドシグナルで大丈夫だと伝えた。
ちょうどその時、真後ろの扉が開いた。
振り返ると、立っていたのは神野。
唯人は眉を寄せた。彼は隣のクラスのはずだ。となれば自分に用があるとしか思えない。なにしろ昨日の今日だから。
果たしてそれは正解だった。
「今夜九時、商店街裏の山。」
たったそれだけをつぶやくように告げて、神野は自分の教室に戻っていった。

授業が始まると、唯人はここ数日の遅れを取り戻すかのように熱心に聞き入った。
それは周りから見ると恐ろしさを感じるほどのものだったという。
チャイムが鳴ってからも、分からない部分を真っ先に聞きに行き、教師によって感心されたり不審がられたりだった。
「どうしたんだお前、熱でもあるのか?」
いつもなら噛み付く言葉にも、爽やかに白い歯を見せて返す。
「自分のやるべきことが分かっただけだよ。」

248:魔法少女? ユイ 第7話 2/3 ◆KazZxBP5Rc
09/02/05 14:21:06 BnslQHmp
充実した時間はあっという間に過ぎてゆく。
学校が終わって家路につくと、唯人はいつもと違い真っ先に宿題に取り組んだ。
それが済むと今度はしばらくサボっていた家の掃除を始めた。掃除機を掛け雑巾を掛け、徐々に綺麗になっていく家の中が気持ちいい。
ちょうど帰ってきたつかさの夕飯作りを手伝い、食べ終わる頃には出発にぴったりの時間になっていた。
玄関でジュニアを抱きかかえるつかさは、最後に唯人に念を押した。
「本当に行くの? 罠かもしれないよ?」
「大丈夫。それにどうせいつかは戦わなきゃならないんだ。」
そして唯人は、ポケットからステッキを取り出し祈りをささげた。
身体中の触覚が失せ、重力さえも感じなくなる不思議な感覚。徐々に感覚が戻ってくると唯人はピンクの衣装に身を包んだ少女となっていた。
「じゃあ、行ってくる。」

249:魔法少女? ユイ 第7話 3/3 ◆KazZxBP5Rc
09/02/05 14:21:36 BnslQHmp
どこも閉店していて切れかけの街灯だけが点いている商店街。
その不気味さを振り切るように唯人はアーケードの中を疾走してゆく。
最後の看板をくぐるとそこは闇の世界。一歩一歩踏みしめるにつれて、唯人の姿が闇に溶けてゆく。
足元に注意しながら山を上り、広い平地になっているところに、仮面の男はいた。
いたのだが、どちらが神野なのか分からない。というのも、その場所で二人の仮面の男が戦っていたのだ。
二人は全く唯人に気付いていない。二本の剣が時々月の光を反射して輝きながら激しい金属音を立てる。
唯人は今ようやく分かった。自分を助けてくれた男は神野とは別人だったのだ。
しかし一体どちらを応援していいのか分からない。
唯人が戸惑っているうち、その時はやってきた。
片方の男の剣が緩んだ。その隙を狙って攻勢に転じようとした男は、逆に足を払われて体勢を崩した。
その顔を鋭く剣が襲う。仮面が宙を舞った。月が映し出した神野の顔。
次の瞬間、神野でないほうの男が神野の耳の辺りを正確に突いた。そして、神野は倒れた。

神野を倒した男は自ら仮面を脱いだ。現れた顔は知らないはずなのに、どこかで見たことがあるような気がする。
「彼は操られていただけだ。」
顔をぼーっと眺めていた唯人は、その声にビクッとする。男は神野の耳から取り出した宝石を見せた。
それから、こう続けた。
「私の祖先は昔魔族からこの剣を奪い、代々守り続けてきた。
 この剣には魔物を惹きつける力があると言っただろう。どうやら使い方によっては魔物を操ることもできるらしい。
 彼が持っている剣はレプリカで完全な力が出せなかったんだ。」
「それで取り戻しに来たって訳か。」
神野のほうを見やる唯人。倒れているその姿に近づこうとした瞬間のことだった。
「危ない!」
声が聞こえたのとまばゆいばかりの光球を感じたのはほぼ同時。
直後、男の肩が唯人を弾き飛ばした。
唯人は男に光球が直撃するのを、ただ見ていることしかできなかった。
そのまま弾き飛ばされる男。
彼が倒れたとき、破れた袖から見えたのは、あの日唯人が雅に渡したブレスレットだった。

250: ◆KazZxBP5Rc
09/02/05 14:23:52 BnslQHmp
;゚д゚)<次回最終回らしいよ

                    Σ(゚Д゚;エーッ!!


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