百合とにかく百合at MITEMITE
百合とにかく百合 - 暇つぶし2ch450:創る名無しに見る名無し
09/03/15 20:22:36 eKd2SzMm
棒に頼らぬ意気こそ百合の道と見つけたり

451:創る名無しに見る名無し
09/03/16 00:46:04 dSOS1AEn
きれいな百合には棘がある

452:創る名無しに見る名無し
09/03/16 09:52:51 WtkU8HaN
地球温暖化

453:創る名無しに見る名無し
09/03/17 10:27:35 fgjG43mM
桂さん……脱いでくれるかい?

454:創る名無しに見る名無し
09/03/17 23:07:39 a7RyZY5C
私たち、女の子同士なんだよ!

455:創る名無しに見る名無し
09/03/18 12:56:40 5HumcVII
>>454
「そんなの……関係ない……っ!」
Bの肩を掴むA。押し倒そうとするが、Aにはそれが出来ない。
パシッ!(ビンタの音)
「どうして……Aちゃん……友達だと思ってたのに……」
「……」



まで想像して鬱になった

456: ◆91wbDksrrE
09/03/19 15:07:45 ZoSvIH7q
「私たち、女の子同士なんだよ!」
 好きだ。その言葉に、彼女は一瞬呆然とした後、叫びを以って応えた。
 叫び声は、しかし小さい。外に届く事は無く、聞き留める人はいない
だろう。誰もここにはやって来ない。ここには、ボクと、彩(あや)しかいない。
「そんなの……関係ないっ……!」
 だからボクは、彼女の肩を両の手で掴んだ。掴んで、引き寄せて、
ギュッと抱きしめて、それで彩にボクのこの気持ちをわかって貰おう
として……でも、それが出来ない。肩を握り締めて……それだけだ。
 肩を掴まれる痛みに彼女が顔をしかめるのを見た次の瞬間、衝撃
がボクの頬を襲い、遅れて乾いた音が聞こえた。その音は、彼女の
叫びよりもずっと大きくこの場に響き、その音に遅れて数秒、ようやく
ボクは自分が頬を張られたのだと理解した。
映ってからだった。
「どうして……香(かおる)ちゃん……友達だと、思ってたのに……」
「……」
 友達。そうだ。ボクと彩は友達だ。
「……友達だから……だから抱き締めたい、彩を。キスだってしたい。
 彩の身体を、ボクの身体で感じたい……!」
「そんなの変だよ! 女の子同士で、そんなの……」
「彩は……嫌、なんだね」
 落胆と安堵が、半分ずつボクの心を満たしていく。
 彩が自分を受け入れてくれなかったという落胆と、彩を抱き締める
事で彼女を傷つけずに済んだという安堵。
「当たり前だよ……なんで……なんでそんな事言うの、香ちゃん……」
 泣き出しそうな顔で、だけれど、真正面から彩はボクを見据えている。
見た目はたおやかな、触れれば折れてしまいそうな女の子なのに、
彩はこんなにも強い。だからボクは……一見して男の子に間違われて
しまいそうな、でも心はひたすらに弱く、脆いボクは、彼女に惹かれて
しまったんだと、そう思う。
「……彩が嫌なら、もう、こんな事……しないよ」
 ボクは、一体どんな顔をしてその言葉を口にしたと言うのだろう。
彩の表情が、嫌悪と怒りで歪んでいた顔が、驚きに取って代わられる。
「変なのは……わかってる。女の子同士で、こんな、好きだったり、
 触れ合っていたかったり……そんなのおかしいって……わかってる」
「……香、ちゃん……」
「でも、どうしようもないんだ……抑え切れないんだ……我慢できなくて、
 それで……それでこんな……」
 答えは出た。彩が、ボクのこの気持ちを受け入れてくれる事は無い
のだという答えが、彼女の口から告げられた。
「……でも、彩が嫌なら、もうしない。もう……彩の前には、現れない」
 抑えきれない想いを、ボクはこんな形であるにせよ、告げてしまった。
もう、元の仲良しなだけの二人には、戻れない。だから、ボクは彼女の
前から姿を消す……そのつもりでいた。
「そんなの嫌!」
 だけど、その覚悟に待ったをかけたのは、その覚悟をさせてくれた、
彩、本人だった。
「そんなの嫌だよ……香ちゃんが、いなくなるなんて嫌だよぉ……」
「彩……」
「女の子同士だから、そんな事するのは変だよ……でも、変でも、
 香ちゃんは嫌いになれないもん! 友達として……大好きだもん!」
 ―友達として。それは救いの言葉だった。残酷で、容赦の無い。 
「……でも」
「私だって……香ちゃんと手繋いだりするのは……好き、だから」
「……彩」
「今日の事は忘れる……忘れるから、だから! だから……また、
 明日から、いつもみたいに、ね?」
 彩は、自分が物凄く酷な事を言ってるのだと、わかっていないのだろう。
 でも、それでも……ボクは、その気持ちが嬉しかった。涙を流す程に。
「……彩が、それでいいなら」
                                     終わり

457: ◆91wbDksrrE
09/03/19 15:08:05 ZoSvIH7q
ここまで投下です。

こうですか!? わかりません!

458:創る名無しに見る名無し
09/03/19 15:26:28 0aZtz7ni
香ちゃん><
百合には悲恋がよく似合うのう

459:創る名無しに見る名無し
09/03/19 15:37:51 H+2IRPBL
香ちゃん…(´・ω・`)

460:454
09/03/20 04:48:23 epnhkOUZ
百合の名言と聞いて、適当に書き込んだら
自分の一言だけでまさかこんなに盛り上がるとは・・・w

とりあえず、ボクっ娘もいいですな。

461:わんこ ◆TC02kfS2Q2
09/03/23 00:05:30 5YJW5CAK
間が開きまして申し訳ございません。『死神さまとわたし』の完結篇です。
やっと、お見せできるようなものが仕上がりました。
お忘れの方が多いと思いますので
第一話>>303-309第二話>>328-334と、続けてどうぞ。

462:わたしの死神さま ◆TC02kfS2Q2
09/03/23 00:06:41 5YJW5CAK
「どうしたんですか?」
「う、うん!なんでもない!なんでもないの!!」
ミミ子の顔をわざと避けながら、わたしは同じ言葉を二回繰り返した。
そういえば、分っていないときの返事って、大抵「はいはい!」って「はい」を二回繰り返すんだっけな。
一時でもあの編集者のことを忘れたいと思っているときに限って、噂をすれば影なのかわたしの携帯電話が叫び出した。
しばらくすると頼みもしないのに、生真面目なわたしの携帯電話は電話の送り主の声を一言も漏らすことなく記録する。

「…はあ、やっぱり」
そう、あの編集者の声がわたしとミミ子を引き裂こうとしているように聞こえ、なんだか無性に腹が立ってきた。
一方的な彼女の命令はどうしたものか。愚痴を言っていても彼女の誘いは続く。
『とにかく、この間の喫茶店で打ち合わせばするね!時間は…』
彼女の声が明るければ明るいほど、わたしは陰鬱な気分に陥り、さらにミミ子のことが余計に愛しくなってしまうのは
理屈でも理論でも解決できないこと。ミミ子はわたしの顔を覗きながら、申し訳なさそうにささやく。

「やっぱり、わたし…邪魔、です?」
「そ、そんなことないよ!!」
「わたしは咲さんが居てくれるだけで、とっても幸せです。だから…大事なお仕事でしょ?気にしないでね」
わたしを認めてくれた子が言うことだ。
あの女の申し出を断るのはミミ子に涙を流させてしまうことに等しい。

463:わたしの死神さま ◆TC02kfS2Q2
09/03/23 00:07:47 5YJW5CAK
――いつもの喫茶店、窓際の席で編集者の女と対面で座る。
わたしの側にはミミ子は居ない。もしかして一人で寂しくしているのではないか、と思うと
対面の女の声なんぞ、どうでもよくなってきた。無論、わたしの孤独な感情が彼女に伝わることはない。
店内の従業員をはじめ、子連れの主婦、くたびれたサラリーマン、小うるさい女子高生、みん世の歯車に乗って生きているというのに、
それに歯向かって生きているわたしは文句を言える筋合いは一つもない。

確かこの編集者は以前わたしに「恋をしなきゃ!」などと偉そうなことをぬかしていた。
申し訳ないが、わたしは今、それをしているのだろう。ミミ子が居ないということだけで、わたしは乾ききってしまったように感じるからだ。
こんな打ち合わせ、うっちゃって一秒でもいいからミミ子と寄り添いたい。そんな気持ちがわたしのなかで芽生える。
それでも、生え始めた若芽を踏み潰すように、わたしと自分の出世を勝手に前提とした、新連載の打ち合わせを編集者は一方的に叩きつけている。
編集者の声が一瞬止んだと同時に、ガラスのテーブルを手のひらで叩く音が割り込んだ。

「ねえ?聞いとお?」
「は、はい!」
「このチャンスは他になかとよ!秋に載せた短編がアンケートで好評だったから、頑張って企画通したのに…。
あとは咲ちゃんがこれからどうするかってところばい。ねえ…必死になれんと?」

『必死』かあ。必ず死ぬんだ。
死ぬんだったら、ミミ子に魂を取られちゃってもそれは本望だしね。
ただ、私自身あのときの作品以上のものはもう描けないと思う。あのときが私自身の人生のピークだったのだ。
事実、最近何を書いても非常にくだらなくなってしまっている気がする。だから、目の前の女からお説教を食らうのだ。
なのに、それを続けろと?必死になって描きやがれと?できるもんか、そんなもの。必死に死んでやる。

「もしかして…恋しとると?」
「はあ…」
「やっぱり!最近、咲ちゃん調子がいいと思ったら。ま、せいぜいお仕事に影響しないように頑張って!
わたし、咲ちゃんのこと応援しちゃるばい!ね!もう、わたしにナイショで水臭かあ!!」
きっと編集者の脳内にはわたしと見知らぬ男が寄り添っている姿が浮かんでいるのだろう。
しかし、わたしはそんなケダモノには興味はない。美しい花が好きなのだ。なのに、彼女は気付かない。当たり前か。
そう考えると、何故か笑いがこみ上げてくる。肩を揺らしていると対面の女は不思議そうにわたしのメガネを見つめていた。
なんだかばつが悪くなり、わたしが彼女の顔を逸らそうと、窓に顔を向けると背筋が凍った。
わたしの姿が窓に映っていない。

464:わたしの死神さま ◆TC02kfS2Q2
09/03/23 00:08:46 5YJW5CAK
もちろん店内の従業員をはじめ、子連れの主婦、くたびれたサラリーマン、小うるさい女子高生、そして編集者の女はしっかりと
窓に反射をしている。当たり前のことが当たり前に見えなくなってしまっているわたしは少し怖くなった。

体に隙間風のような冷たいものがすうっと流れる。そして、わたしは一つの仮説を立ててみる。
ミミ子は元々鏡に映ることはなかった。しかし、日に日に鏡に映るようになってきた。
そして、わたしは窓に反射することがなくなってきた。反射といえ、鏡ほどくっきり映ることはない。
窓に映らないということは即ち、うっすらと鏡に映らなくなってしまっているのだろうか。
今まで窓に反射していたわたしの顔のように。どうしてもこのことを確かめたくなり、椅子を蹴っ飛ばして席を外す。
「咲ちゃん?どこ行くと!」
「ご不浄!」
一目散にお手洗いに駆け寄り真っ先に鏡を覗き込むと、わたしがうっすらと消えかけていたのだ。
正直者の鏡のクセに、生意気にもウソをついている。

そう言えば、ミミ子は言っていた。
「わたしたち、天界の者の糧は地上の者の…命です」
「咲さんのお陰で長生きできそうです」
そうだ、わたしは糧だ。何処かの誰それの血となり肉となるためだけに生まれてきた人間だ。
わたしがマンガを描いて、雑誌に載せる。読者が喜んで買う。金は出版社に降り注ぐ。そして編集者は金と名誉を手に入れる。
なんだ、わたしが今までやってきたことと、ミミ子に対してやろうと思っていることはさほど変わらないじゃないか。
ただ…マンガが描けなくなってしまったわたしはこのサイクルから外されてしまっても、ひとっことの文句も言えない。
もうどうでもよくなってきた。早く、ミミ子の元の帰らなきゃ…。薄っすらと目の前の鏡には半笑いのわたしが存在する。
面白くなったわたしは蛇口を回せるだけ回し、これでもかと水を流していた。当然、水にわたしの顔は映らない。

「けっさくだ、けっさくだよ!あはははは!!何もかもけっさくなんだよ!みんなそうなんだよ!
わたしなんかこれ以上のマンガなんか描けないただの人間ですよーだ!わたしなんか踏み台のために居るようなもんだからねー!
あははっははっははっは!あははっははっははっは!あははっははっははっは!」
喫茶店の狭いお手洗いでありったけの声を上げて、一人洗面台に崩れこむ。
わたしの奇怪な声を聞きつけたのか背後に人が集まる気配がする。
不安げにわたしを見物する人々が鏡の中ではわたしをすり抜けて見えた。

465:わたしの死神さま ◆TC02kfS2Q2
09/03/23 00:09:40 5YJW5CAK
無意識によろよろと涙を流しながら笑顔を見せわたしは喫茶店を後にして、ミミ子の待つアパートに歩き出す。
「どうしたと?どうしたと?」
「体調が悪いので…帰らせていただきます。さようなら」
編集者の女は見てはいけないものを見たように目を丸くし、わたしの腕を掴んで引き戻そうとする。
それでもわたしは歩き続けた。歩き続けた。そして、歩き続けた。

どのくらい歩き続けたのだろうか。
そんなことを考えている陽間もなく、歩いていた。
あの女を怒らせてしまったのかもしれない、でも今はあの喫茶店に戻る気力さえない。
とにかく、ミミ子のことしか考えていなかった。見慣れた風景がわたしを迎える。あと、一息。

「いたたたた!痛い!!」
丁度、ウチの玄関に付く頃だった。思いもよらない頭痛が走る。よそ行きのスカートを汚しながら膝を付いてしまった。
目の前が暗い。そう言えば以前もいきなり路頭で、頭が割れる思いがしたような気がする。
長く続くであろうと思った頭痛は意外と短く終わり、朝早く目覚めたばかりのめまいのような感覚にさいなまれながら立ち上がると、
わたしの目の前に居たのは見慣れ小さな女の子、ミミ子だった。
「おかえりなさい…」
「ミミ子!」
救われた。わたしは死神に救われた。
もうこれで、悩むことなんかないんだからね、ははっ。
背後で必死にわたしを現実の世界に引き戻そうとする、銭と男にまみれた女なんか眼中にはないんだから。

「咲さん。みつかりましたよ、探し物。これで、やっとわたしは長生きできます」
白い顔をやや赤らめながら、古びたチョーカーをわたしに見せびらかすミミ子。
適当な言葉も見つからず、こくりと頷くだけで精一杯であった。しかし、ミミ子はわたしには見慣れた憂い顔に戻ると
わたしだけ(きっとそうなんだろう)に向けた告白をした。
「ごめんなさい…。謝らなきゃいけないことがあるんです。実は…この探し物、なくしてなかったんです。
なくしたなんて、ウソでした…。でも、なくしたことにしておければ、咲さんとずっと一緒に青い空を見たり、
布団で暖かく寝たり、美味しい朝ごはんも食べたりできるのかな…って…。わたしのワガママ…許されませんよね」
世間さまが許さなくても、わたしが許すから安心しなさい。か弱き死神さま。

466:わたしの死神さま ◆TC02kfS2Q2
09/03/23 00:10:28 5YJW5CAK
ミミ子は瞳をあっけらかんと光り続ける日の光で涙を光らせて、わたしの手首を掴みながら続けた。
「もう一つ謝らなきゃいけないことがあります。それは…」
「それは」
「咲さんの命を頂いたら…もう、二度と咲さんに会えません。ごめんなさい…」
わたしの耳に死神のささやきが吐息交じりで入ってくる。と、同時にミミ子の体温を耳で感じていることに気付いた。
かすかにミミ子の歯の感覚が伝わってきた。わたしが死ぬまでの思い出に、この温かみはけっして忘れない。

「おいしい?」
「はい…咲さん」
全てを捧げてしまおう。全てお食べ。そう、心に誓った瞬間。
ミミ子がわたしを突き飛ばしのたである。わたしのウチの玄関に突き当たると、扉は安っぽい音を立てた。
弾みでわたしは崩れ落ちるように再び膝を付く。目の前にはミミ子の細い脚が見えた。

「ごめんなさい…。もう…帰らなきゃ」
「帰るんだ…。そうね、ミミ子はここの世界の人じゃないもんね」
「…はい。咲さんのお陰で、わたしも命を繋ぐことが出来ました。鏡にはもう咲さんの姿が映らなくなってるはずです。
でも、咲さんも地上での暮らしでキリをつけないといけないことがあると思うので、少しばかり命を咲さんに残しておきました。
残りはどのくらいか…わたしにも分りません。本当に咲さんにはお世話になりました」
おそらく、ミミ子の心遣いでそのように判断したのだろう。
突然、消えて困る人たちも居るんじゃないかと。わたし自身はこの世なんかどうでもいいと思っていたのだが、
冷静に考えるとミミ子のほうがわたしなんかより一枚上手なのではないか。
ミミ子の置き土産を大切に使おうと思う。

「咲ちゃん」
「何?」
「また会いましょうね」
ミミ子は分り易いウソをつく。と、呆れているうちにパタパタとわたしの目の前から消えた。
初めて『咲ちゃん』とミミ子に呼ばれた。そして、『咲ちゃん』とミミ子に呼ばれたのは最後だった。

467:わたしの死神さま ◆TC02kfS2Q2
09/03/23 00:11:29 5YJW5CAK
わたしは数日間、ウチに閉じこもった。
世間さまとの交流を全て断ち切った。電話にも出ない、外にも出ない。食べ物は出前で十分。
一週間後、予想通り編集者の女が心配してわたしのウチにやって来た。
鍵を掛けていないわたしの部屋に入ってきて一言。
「咲ちゃん?咲ちゃん?どうしたと?連絡が全然とれんとよ?」
編集者は暗い部屋で一人机に向かうわたしを見て失望したのだろうか、と一人で思案。

彼女とわたしは住む世界が違うのだろうか。
人を愛する人、人を愛せない人。
男しか愛せない女、男も愛せない女。
光を好む人、闇を好む人。
まるで水と油が無理に交じり合おうとすることは、サルでも分る事実。
「咲ちゃん?この間から少し変ばい。もしかして…失恋?わたしが相談にのってあげよっか?」
「しつれん…ですね…」

間違っていない。彼女の言うことに肯定すると、お姉さんぶって張り切る編集者が居た。
「やっぱり!!まだまだ若いんだから!こんな失恋一つや二つどうでも…」
わたしは目の前にあったインクに浸したばかりのGペンを握り締めると、彼女の言葉を拒否するように筆先を思いっきり机に叩きつけた。
血のようにインクが新雪のような原稿用紙に飛び散る。もちろん床にも飛び散った。相棒のペン先は言葉を発することなく死んだ。

「ごめんな…さい」
細い声しか出せないわたしは、目の前のインクをウェットティッシュで拭くことしか出来ない。
筆立て、参考資料、机の上、下と随分とインクを散らかしたもんだ。編集者もわたしに手伝いをする。
その途中、どこかで見たチョーカーが机の足元に落ちていた。この間ミミ子が見せてくれたものだ。なぜなら、わたしはこの手の物は持っていないし、
だいいち、よそからこの部屋に上がったものは編集者とミミ子しかいないのだ。予想が確信に変わる。

もしかしてわざと忘れていったのだろうか。ここに取りに戻る為に。それでわざと置いていったのだろう。
わたしにミミ子が「見つかりました」と見せたものはおそらく偽物なのだろう。わたしは本物を知らないから、そのようなことを言われれば
たやすく信じてしまうだろう。そう言えば、最近のミミ子は平気でウソをつく子だったな。

わたしの命があるうちに、ミミ子にまた会えるような気がしてきた。きっと、ミミ子が戻ってくるんじゃないかと。
そして、ウソツキ死神さまは平気でこんな言葉を言うんだろう。
「もう一つ謝らなきゃいけないことがあります。それは…」と。


おしまい。

468:わんこ ◆TC02kfS2Q2
09/03/23 00:12:14 5YJW5CAK
物語は以上です。
また何時か…。

469:創る名無しに見る名無し
09/03/26 02:07:03 ogei5Q4/
わるい子だなあw

470:創る名無しに見る名無し
09/04/05 00:16:25 VfqburCG
美しいものが好きです。もっとSSを!

471: ◆YURIxto...
09/04/05 18:53:19 o/fB8EtS
「千夏!?ねぇっ千夏でしょ!?」
やかましい渋谷の街を一人歩いていると、更にやかましい声で呼び止められた。
振り返ってみると、その声の主は私と同年代位の面立ちをしていた。
服の系統も私の見知った友人達と大差ない。私より少し、派手めではあるけれど。
「……あの、どちらさまで」
「あたしだよ、福本早苗、小学校一緒だった」
そう名乗った彼女は、どこか誇らしげに胸を張っていた。
「さなえ…」
名前を口にしてから懸命に記憶を巡らせる。
その名前を口にした事が、初めてではないような気もどこかで過ぎったけれど
それはとても曖昧な感覚だった。
ランドセルを背負っていた頃なんて十年も大昔の事だ。
今突然目の前に現れた見知らぬ女性と、その時代とを結びつけるには無理があった。
私は降参したように首を傾げる。
「やっだ、覚えてないの?相変わらず物覚えわるーー」
見覚えのないこの女性は、私が物覚えの悪い子供だったという事を知っている。
という事は、間違いなく私の小学生時代を知っている人物なのだ。
私は、私の知らない人間が私の内情を知っている事実に、違和感を覚えた。
「ま、いいやそんな事は」
私が感じてる事など思いもしない彼女は、あけらかんと言い放つ。
彼女にとって私が彼女を思い出さないのは大した問題でもないらしい。
「ね、今暇?」
「え」
「何か予定あるの?」
「…ないけど」
「じゃあちょっと付き合ってよ!」
その女性は馴れ馴れしくも私の手を引いて、人混の中を突き進んだ。
「え、えぇ?」
私が引き止める間もなく、その時間は始まった。
今この瞬間から、彼女の渋谷観光に付き合わされる事となった。

472: ◆YURIxto...
09/04/05 18:56:47 o/fB8EtS
「今ねぇ、友達と旅行でこっちに来てるんだ」
交差点に面したビルの三階に来ていた。窓越しのカウンターに腰掛ける。
初めて入るカフェだった。そもそも渋谷にはたまに一人で買物に来る程の用しかない。
一人でこういう賑わった店に入る勇気のない私は、いつも用を終えたらすぐに帰る事が多かった。
今日もそのはずだった。
先程まで歩いていた道を、眼下から見下ろしている事に奇妙な新鮮さを覚える。
「旅行って?」
しばらく窓の景色に見惚れ、彼女の話を聞き流していた。
聞き流してから、旅行という言葉が耳に掛かった。
「あ、今ねアメリカに住んでるの、カリフォルニアに大学に通ってて」
「へぇ」
淡白に頷きながら、内心では呆気に取られていた。
向こうの大学に進むような秀才が私の過去の友人の中でいただろうかと、思い巡らせて
やはり隣りでグレープフルーツジュースを飲んでいる彼女は見知らぬ他人なのだと一人頷いた。
「その友達は?」
「今別行動なの、浅草観光がしたいんだって」
「え、外国人?」
「そうなの、お寺が見たい~なんて、ベタベタよねぇ」
友人について飽きれるように笑う彼女に合わせて、私も笑った。
けれど外国人と対等に並んで、英語で会話している彼女を想像して、やはり彼女を遠く感じた。
最初は特に感じなかったけれど、こうして見ると顔立ちも
周りで談笑している女性達より秀でて整っているように思えてくる。
この女性は一体、誰なのだろうか。
こんなにも自分とかけ離れた人物が、私と友人であった事が本当にあるのだろうか。

473: ◆YURIxto...
09/04/05 19:00:13 o/fB8EtS
「お、やっときたきた」
トレイにケーキを二皿抱えてやってきた店員に、彼女は瞳を輝かせる。
彼女はフルーツミックスタルトに、私はチーズケーキタルトを注文した。
「あれ?イチゴ好きだったよね?」
「え、あ、うん…でもショートケーキは」
「そうだ、生クリームは嫌いなんだよね」
本当に私の事を熟知していた。言い当てられる度に、頭を鷲捕まれる思いがする。
「はい、じゃあこれあげる」
ケーキの上にこんもり乗ったフルーツの中から、苺を選ぶと
それを刺したフォークを、私の口元へ翳してきた。
私は一瞬躊躇って、彼女の邪気のない瞳を盗み見る。
逆らう事の出来ない瞳の色が、そこにはあった。
勇気を出して飛び込むように、私は彼女のフォークを口に含んだ。
嬉しそうに私を見る彼女の視線が痛くて、口の中で砕かれた苺の味は胸の詰まるものだった。

474: ◆YURIxto...
09/04/05 19:05:56 o/fB8EtS
それでも小さなケーキを時間かけて平らげた頃には、私達は幾らか打ち解けていた。
いや、彼女は元より砕けている。私の方が、彼女に対して自然体を覚え始めていた。
昔馴染みの友人としてではなく、今出逢ったばかりの同世代の他人同士として。
「へーぇ、じゃあ卒業したら医療関係に進むんだぁ」
「まだ完全に決めてないけどね、でもこのまま行けば…多分」
二年先の将来について話したのは、進路相談の担当者以外で初めてだった。
他人だから打ち明けられた事なのか、それとも彼女は特別なのか。
どちらにしても、自分にとってすら大した価値を持たない将来の話だった。

「ちーちゃんが病院で働くなんて、なんか変なの」
再び頭を鷲捕まれた。私をその名で呼ぶ人物を、私は知っているはずだった。
くすくすと笑いながらそう呼びかけられる感覚が、何故か懐かしい。
「?どうしたの」
「…いや、変ってなによ」
「えぇ、だってちーちゃん、お店屋さんになるって言ってたじゃない
 今も雑貨とか好きでしょ?」
今度は頭ではなかった。心臓を、鷲捕まれたような思いがした。
私がほとんど忘れかけていた事も、彼女は全て覚えているのだ。
「そうだった…」
「なぁに?もう好きじゃないの」
隣りに座っている彼女が、瞳を近づけながら尋ねてくる。知らぬうちに鼓動は高鳴っている。
「いや…」
その瞳から逃れるように、視線を伏せた。
テーブルに置いてあった彼女の携帯が目に入る。携帯の、ストラップに。
猫の形をしたビーズストラップだ。赤い色のそれを、とても可愛いと思った。
何かを可愛いと思うなんて、とても久しぶりの感情だ。一瞬だけ、何かを取り戻せたような気持ちになった。
「今もすごい、好き…」
瞳を上げて呟く。もう一度彼女と視線を交わした。
何故彼女は、そんなにも嬉しそうな顔で笑っているのだろう。
高鳴った鼓動は留まる事を知らない。この高鳴りを、私は知っているはずだった。

475: ◆YURIxto...
09/04/05 19:09:21 o/fB8EtS
「ね、雑貨屋さん見に行こう」
邪気のない声と、表情で立ち上がる。
追いかけるように腰を上げた私の手は、彼女の手の中にあった。
彼女は本当に、何者なのだろうか。
カフェから再び人波の行き交う舗道へ繰り出していた。
他の波に飲まれてしまわないように、互いの手を指を絡ませるほどしっかり繋いでいた。
この手の感触を知っている。
離したくなくなるこの尊さを知っている。
なのにどうしても彼女自身の記憶を私の中から見つけ出す事が出来ない。
雑貨屋に入り、商品を見つめながら、店から店を歩きながら、私達の会話は続いていた。
「ね、これちーちゃんが前に持ってたクマに似てない?」
「あぁ…あれね、今どこにいるんだろう…」
「失くしたの?うっわ、あんなに大事にしてたのに
 あたしはちーちゃんがくれたぬいぐるみ、今も大事に持ってるよ
 耳が赤いうさぎ」
「…アカマル?」
「そう!」
会話に上る全ての記憶が共通していた。
アカマルと名付けたうさぎがいた事を知っている。それを誰かにプレゼントした事も。
けれどそれを受け取った人物についてだけ何故か思い出す事が出来ない。
いや、思い出すまでもなく、目の前にいる彼女がその人なのだ。
けれどやはり彼女という人物だけが私の記憶の中から抜け落ちていた。
あけらかんとした喋り方も、甲高い声も、聞き覚えがあるような気がしているのに。
知っている事を、思い出せなくなるなんて、そんな事があるのだろうか。

476: ◆YURIxto...
09/04/05 19:12:55 o/fB8EtS
記憶にない彼女でも、共に過ごす時間は楽しく、あっという間に過ぎていった。
私は彼女が自分から話す事以外、彼女について尋ねる事が出来なかった。
誕生日や血液型、どんな子供であったかなど。
それらを知る事が出来れば探していた記憶に辿り着けるような気もしたけれど
それを聞いても尚、記憶から彼女を見つけ出せなかったら、と思うと尋ねる事が出来なかった。
それに彼女自身、私が彼女についてとっくに思い出してると思い込んでるのではないかと思った。
ならば知ったか振りを続けよう。
ただ私が思い出せないだけで、彼女は確かに私の友人なのだ。
思い出せない事よりも、今彼女が隣りにいる事の方を尊く思っていた。
失った時間を取り戻しているような気がする。
本来ならば、いる資格のない彼女の隣りに、私は立っているのではないか。
それでも、今はそこに立ちたい。
彼女の隣りにいたい。
繋いでいる手を、出来る限り長く、離さずにいたい。
どんなにそう願っても、別れの時間は必ず来るんだと思い至った時
私の胸は酷く軋んだ。

477: ◆YURIxto...
09/04/05 19:16:22 o/fB8EtS
「もう、七時かぁ」
賑わった繁華街と、反対側に面している公園に来ていた。
途中で一つだけ買ったカフェラテを、ベンチに座って交互に飲み合った。
買ったばかりのそれは熱くて、僅かずつしか口に含めない。
それでも初春の夜は風がまだ冷たくて、唇以外の全てが寒かった。
「近くに、ホテル取ってるの?」
「ううん、友達の家に居候させてもらってる
 学校すぐに始まるから、明後日には帰らなきゃなんだ」
「そっかぁ…」
彼女と居られるのは今日だけだという事をわかっていても
明後日には同じ日本の何処にもいないという事実が、無性に寂しかった。
やがて二人を繋ぐそれも熱を失い、知らぬ間に飲み終えていた。
私達はどちらともなく立ち上がり、公園の中を歩き出した。
その足は駅へ向かっているとも、背を向けてるとも言えず、いいかげんな足取りだった。
「前も、こんなふうに夜の公園で遊んだよね」
「え…」
「ちーちゃん、帰りたくないって言ってさ」
覚えている。今と全く同じ気持ちだった夜が、遠い昔に存在した。
「心配した親が先生にまで連絡して、帰ったら一晩中怒られるは、次の日学校でも怒られるは」
散々だったよね、と彼女は笑った。私は、笑う事が出来なかった。
「だって……」
「だって?」
言い澱んだ私を、少し意地悪そうな視線が覗き込んでくる。
夜の闇の中でも、その真っ直ぐな瞳を確かに見て取る事が出来た。
こんなふうに誰かと見つめ合った遠い夜がある。
あの夜を思い返しても、彼女が隣りにいた事を記憶から探せない。
それでも今の気持ちと重ねて、私はあの心細さを口にした。
「寂しかったんだよ」
ずっと一緒にいたかった。どんな色をした空の下でも、手を繋いで歩いていたかった。


478: ◆YURIxto...
09/04/05 19:20:45 o/fB8EtS
「ごめんね…寂しがらせて」
彼女の手が彼女より少し高い私の頭まで伸びてきた。ぎこちなく撫でられる。指先が髪を梳き通る。
今のこの瞬間を、私はずっと待ち望んでいた気がした。
けれど記憶の欠片は、やはり隙間に届かない。
届かないまま、別れの時間はやってきてしまった。
手を繋いで、駅までの道を辿った。
気を抜くと押し潰されてしまいそうな人波の中、嫌でも足早に歩かなくてはならなかった。
やがて辿り着いた改札の前で、私達は手を繋いだまま再び向かい合う。
「地下鉄?」
「どうかなぁ、とりあえず友達に連絡取って、合流してから帰ると思う」
「そっか」
「うん」
甲高く喋っていた彼女の声も、今は語尾が力ない。名残惜しい、と感じてくれているのだろうか。
私は確かに、今を離れ難く感じている。
なのに連絡先の一つも聞けないなんて。
思い出す事の出来ない彼女と、今後も繋がる事は出来ない気がした。そんな資格などないのだと。
多分今日という日は、奇跡のように舞い降りた運命だったんだ。たった一日だけの奇跡。
宝物のような今日も、いつか忘れてしまう事があるのだろうか。
怖いと思った。忘れるなんて。思い出せなくなるなんて。
「元気で、嬉しかったよ」
その言葉と同時に、彼女は私の手を離した。別れの合図だった。
「ありがとう」
彼女から一歩下がって、離れた手を振りかざす。
その時、耳の奥でカンカンという音が僅かに響いてきた。踏切の音だ。
渋谷駅の改札の前で、踏切の音なんて、幻聴にも程がある。
身体を翻し、彼女に背を向けるとその音は一際大きくなっていった。
足を一歩進める毎にまた大きくなる。改札の中に入った瞬間、それはもう犇きと化していた。
耐え切れなくなって、彼女がいた方角を振り返る。
踏切が見えた。遮断機の下りた踏切の向こうに、彼女の小さな背中があった。
今日のものではなくて、遠い昔の後姿。
それは八年前と同じ景色だ。もうすぐ列車が駆けてくる。駆けてきて、私の前から彼女の姿を奪い去ってしまう。
もう二度と、同じ過ちを繰り返してはいけなかった。


479: ◆YURIxto...
09/04/05 19:24:07 o/fB8EtS
「さーちゃんっ!さーちゃん!!」
叫んだのと同時に、私は駆け出した。改札の扉なんて私を踏み止まらせるものになり得ない。
あの時二人を隔てた列車に比べたら、こんなものに私達を引き裂く事なんて出来やしない。
私が彼女の前まで辿り着いた時、彼女は待っていたように振り返って私を見つめていた。
「さーちゃん…」
ようやく、彼女の名を呼ぶ事が出来た。その名を口にした瞬間、彼女の全てが、私の中で蘇った。
「やっと、思い出した?」
引き寄せられるように自然に、再び私達の手は繋がれた。
あの時、繋ぐ事の出来なかった時間だった。



八年前、今と同じ季節に、彼女は私の前から姿を消した。
「春休み、一緒に遊園地に行こうね」
叶える事の出来なかった約束だけを残して。

親友同士だった私達は、学校でも、帰ってからも、いつも一緒だったけれど
誰よりも大好きな彼女と、休みの日に二人きりで過ごす時間が、私は一番好きだった。
彼女と初めて行く遊園地を、心から楽しみにしていた。
不安があっても、彼女が隣りにいる中学生活ならきっと楽しいだろうと
春休みを迎えた後の全ての日々を、私は楽しみにしていた。

心の底から、甘え切っていたのだ。
まさか彼女が私の知らない遠い中学へ通う事も知らずに。

480: ◆YURIxto...
09/04/05 19:27:31 o/fB8EtS
それを知ったのは、卒業式の日だった。
慣れ親しんだ二人きりの帰り道で、絶望は訪れた。
「一緒に遊園地に行くって言ったじゃん!!」
自分でも幼すぎるとわかっていた。わかっていても叫ばずにはいられなかった。
遊園地なんてどうでもいい。
小学校も、中学校も、全てが消えて無くなったって、ただ彼女の隣りに居られればそれで良かったのに。
私を置いて行ってしまう彼女を非難する事でしか、自分を保てなかった。
二人のすぐ側で踏切の警報機が鳴り響いている。
遮断機が下り切る寸前に、私はそれを潜り彼女の前を逃げ出した。
「出来ない約束ならすんな!!!」
それが私の最後の言葉だった。彼女の言葉を聞いてやる事が出来なかった。
踏切に背を向けた時、苛むほどの罪悪感が私を襲ったけれど、振り返っても私達の間は既に列車で遮られていた。
列車の一、二本なんてすぐに駆け抜ける。
わかっていても、そこで踏み留まり、もう一度彼女の顔を見る勇気なんて、私には持てやしなかった。

ただ幼かったのだ。
幼い心には大きすぎるほどの愛情を、彼女に対し持っていた。
そんな彼女を失う痛みに耐えられるほど、強くもなれなかった。
本当にただ、幼かっただけなのだ。
だから自分の中にある彼女の全てを消した。忘れてしまえばもう二度と失う事はない。
あまりに卑怯な方法で、私は自分自身を守った。
そんな卑怯で、臆病者である私の前に、もう一度彼女は現れた。
私を呼び止めてくれた。私を、覚えていてくれた。友達として。
私にそんな資格、あるはずがなかったのに。

481:創る名無しに見る名無し
09/04/05 19:30:29 9r0e8J4r
支援

482: ◆YURIxto...
09/04/05 19:31:15 o/fB8EtS
「ごめん…ごめん…」
強く握った彼女の手で、私は泣いた顔を覆った。
いくら謝っても足りない。泣き喚いたって許されない。
そんな私を、彼女は無条件で許してくれる事を解っていたからこそ一層、自分で自分を許せなかった。
「もうちーちゃんてば、泣いて謝らなきゃならないのは、あたしの方だよ」
困ったように笑って、再び私の頭を撫でてくれる。
「あたしがずるかったんだ
 出来ないのわかってて、約束して
 少しでも長く、ちーちゃんの楽しそうな顔が見たくて
 ぎりぎりまで引っ越すこと内緒にして」
私の頬を両手で包み込んで、彼女は口にした。
おそらく彼女は、その言葉を八年間温め続けてきたんだろう。
「本当にごめんね」
首を振った。彼女に非があったなんて、少しも思えなかった。
恨みも悲しみも全て無かった事にして、ただもう一度友達に戻れるならば、他に何も要らなかった。
私にとっての一番は、忘れていた間でもずっと、彼女であり続けていたのだ。

「今度は絶対、約束守らせてね」
「…なに」
「遊園地、卒業したら日本帰るから、そうしたら行けるよ」
「二年後…」
「そう、二年後」
心細さは確かにあった。本当は明日も明後日も彼女の隣りにいたい。
彼女を取り戻した今の私の、素直な願いだった。
けれど八年前の約束を、今度は私が守らなければならない。
「今度は、待てるよ」
涙を拭いて、顔を上げる。強がりだけど笑顔を見せて、彼女に応えた。
「ふふっ…ちーちゃんだいすき!」
「!」
全てが叶ったかのような微笑みの後で、彼女は私に抱きついてきた。
これ以上ないほど近い彼女に、私は心臓の高鳴りを覚えたけれど
再び思い出したのは、彼女の腕の中が何より安心出来る場所だったという事だ。
ぎこちない手つきで、背中へと手を回す。
彼女の肩に顔を埋めながら、返せない言葉を胸の中で唱え続けた。
私も大好き、という言葉を。

483:創る名無しに見る名無し
09/04/05 19:32:53 9r0e8J4r


484:創る名無しに見る名無し
09/04/05 19:35:33 9r0e8J4r


485: ◆YURIxto...
09/04/05 19:35:39 o/fB8EtS
身体を離すと同時に、私を包んでいた甘い香りも薄らいだ。名残惜しかった。
私達の脇を抜ける人の波が、時折好奇な視線をこちらに注いでいる。
私は構わなかったけれど、目の前の彼女は更に構うところがない。
「またね」
その言葉と同時に、私の頬を彼女の唇が掠めた。
ほんの一瞬の出来事だ。
私がその柔らかな感触に呆気に取られている間、彼女は人波の中に飲み込まれていってしまった。
残されたのは八年前と同じ約束と、高鳴ったままの鼓動。
それから、コートのポケットの中で知らぬ間に忍ばされていた彼女の連絡先。
小さな紙には走り書きのローマ字が並んでいた。
名前の下の文字列が、住所にあたるのだろう。
帰ったらすぐに手紙を書こう。彼女が家へ帰り着くより早く届ける事は出来ないだろうか。
出来なくても、少しでも早く届けられたらそれでいい。そして少しでも早く彼女からの返事を受け取る事が出来るなら。
例えそれが数週間後でも、数ヵ月後だとしても
今度は待てる。
毎日彼女を想い出したとしても、彼女を恋しがったとしても、待ってみせる。
「さーちゃん…」
二人でいた柱にもたれながら、彼女を攫った人波に向かって小さく呟いた。
半日前にやかましい声で私を呼び止めた彼女の姿は、もうどこにもいない。
ふいに降りてきた心細さから耐えるように、私は唇が触れた左頬へ、手を伸ばした。
指先でなぞるように、触れてみる。途端に顔が熱くなった。

胸の内で唱えるしか出来なかった“大好き”だという言葉も、いつか口に出来たらいい。
家路へと向かうラッシュアワーの列車の中で、私はそう願った。
車内を軋ませる不規則な揺れに右手の吊革で耐えながら
空いた左手は、やはり頬へと伸びていた。
顔の熱さは、そのままだ。
柔らかなあの感触に、私はすっかり絆されてしまっていた。
彼女の心を絆す何かが、私にもあればいいのに。
―今も大事に持ってるよ
明るい声で言ってくれた、今日の彼女の言葉が再生されたその時
確かに感じた。
それはほんの一瞬だけれど、どんな遠い距離も長い年月にも別つ事の出来ない
私達だけの絆だった。

486:創る名無しに見る名無し
09/04/05 19:37:12 9r0e8J4r


487:471-485
09/04/05 19:43:47 9/s4XcSv
以上です、失礼しましたm(_ _)m

488:創る名無しに見る名無し
09/04/05 20:22:32 9r0e8J4r
乙だよ
やっぱいいなあ

489:創る名無しに見る名無し
09/04/05 21:05:04 rz+l8hmp
素晴らしい!

490:創る名無しに見る名無し
09/04/06 02:14:51 cjHAZmE7
遠い異国という手の届かない所へ行ってしまう想いの人、切ないながらも
最終的にはお互い理解しあえる・・・なんだかホッとした。

491:創る名無しに見る名無し
09/04/06 03:10:31 J90XObvU
これだから百合は止められない
……泣いた

492:創る名無しに見る名無し
09/04/17 23:34:48 J/YncGWy
たまには……ね。

493:創る名無しに見る名無し
09/04/26 01:07:00 SISJTlCQ
過疎。

某所であらすじ晒したが、ファンタジーっぽい世界で百合なんてどうだろう。
現代を舞台にした百合も大好きだけど
ヨーロッパ、アジア辺りを舞台に繰り広げられる大恋愛とか(資料集めが面倒だけど)
剣と魔法の世界で百合百合してみたり、SFでもう一人の自分が出てくる話とか……

494:創る名無しに見る名無し
09/04/26 12:23:59 PpzgkiTy
吸血鬼カーミラのような、レズの吸血鬼が百合ハーレム作る話なら脳内フォルダにあるけどなぁ
文章にできるかどうかが問題だ

495: ◆91wbDksrrE
09/04/26 21:08:15 NWQC/0LW
『この世界では、剣と剣での勝負が全てを決める』
 その言葉と一緒に剣技を授けられた事を、今までずっと恨んで
いた。こんなもの、女である私には必要ないのに、と。
 なまじ強さを持っているが故に、一目置かれこそはすれ、女性と
しての評価は微妙なものとなり、結果弱い十八になる今日この日
まで男の人と付き合った経験も無いままで……まあ、それはいい。
響く剣戟の中で、今は感謝しているのだから。女である私を守る
為の術を授けてくれていてありがとう、と。
 この勝負に負ければ……私、シイナ・レンバードは、眼前の敵の
“所有物”(もの)となるという事を、戦前に約定として交わしていた。
その約定を現実のものとしない為の力を仕込んでいてくれた事を、
私は、今、この瞬間は確実に感謝していた。
 だが、その力を持ってしても、敵を打ち倒す事は未だできない。
「くっ」
 押し込んでくる敵をいなし、距離を取る。だが、距離を取った
先から、敵は踏み込んで、その距離を潰そうとする。柄の防具で
それを受け流し、何とか距離を取ろうと試みるが、先ほどから
その試みは上手くいっていない。敵の攻撃をいなせてはいるが、
こちらから攻撃に移る事ができないままだ。
「……相性、悪いわねっ!」
 口をついて出る言葉は、そのまま現状を表している。
 剣技の相性は言うまでもない。敵はその両の手に双剣を担い、
短めに仕立てられたそれを竜巻のように振り回す技を仕掛けて
くる。距離を詰めてこそ威力を発揮する技であるが故に、彼女は
私が距離を取ろうとする動きをことごとく潰してくる。
 対して、私が得意とする攻撃は突きだ。距離を取り、引き絞った
腕を腰の回転に乗せて前方へと突き出す事で威力を発揮する
技であり、距離を取らなければその威力は十二分に発揮される
事は無い。故に私は距離を取ろうとするのだが、彼女はそれを
許してはくれない。距離さえ取れば、相手の回避に合わせた
横薙ぎへの派生が、確実に彼女の身体を捉えるのだが……。
 だが、彼女の方も私が距離を取る動きを繰り返している為に
距離を詰めきれず、その技を十分に発揮できてはいない。
 互いに、互いの動きが互いの決め手を封じていた。
 ―千日手。そんな言葉が脳裏をよぎる程に、私達は相性が
悪い。少なくとも私の方はそう考えていた。
 そして、そんな、激しく動きながら停滞しているこの戦いと同じ、
私と彼女の相性の悪さを示す端的な事実が、もう一つ。
「可愛い見た目に似合わず、やるわねシイナ!」
「勝手に名前を呼ばないでっ!」
 私の名前を口にする敵は―彼女、なのだ。
 女であるにも関わらず、私という女を欲する女。それが目の前に
双剣を担っている、敵だ。名はルクレシア・ヴィーブと言ったか。
 彼女が私を欲しているというその事実。それが、私と彼女の相性
の悪さの、何よりの証明だった。少なくとも、私の側からはそう。

496: ◆91wbDksrrE
09/04/26 21:08:31 NWQC/0LW
「さっさと諦めて、あたしの物になりなよ!」
「お断りですっ!」
 女色、というのだろうか。彼女は、私に一目ぼれしてしまったと言う。
自分の物にしたいと申し出られ、私ははっきりとそれを断った。
 そうして始まったのが、この戦いだ。
「私に、女色の気はありませんっ!」
 叫びを合図に、私は動きを変えた。このままでは埒があかない。
今まで押されるのをいなすだけだった動きを、逆に押し返す為に
力を込め、彼女を突き飛ばそうという動きへと変えて―
「これは百合って言うのさ! 大陸の最先端流行だよっ!」
 ―逆に彼女に身を引かれた。
 まずい。読まれたっ!?
 私は一瞬空足を踏んで体勢を崩す事になり、当然その瞬間を
彼女は逃さない。
「っ……!」
 体勢を整える為には、時間が足りない。彼女の踏み込みの速さは
ここまでの剣戟で十分に理解している。だが、体勢を整えなくては
彼女を迎え撃つ事もできない。
 どうすればいいか。迫り来る双剣の、その嵐のような連撃を前に、
私の思考はそれを受け払おうと考えはするが、追いつけない。
 思考よりも早く到達する双剣に、だがしかし身体は動いた。
「えっ?」
 私は、体勢を整える事を諦めた。考えるより先に、その動きは
自然と身体によって表現され、結果私の踵は彼女の胸板を捉える。
 前方にたたらを踏みそうになったのを踏みとどまらず、私の
身体はそのまま回転するように前へと倒れ、その勢いのまま、
足のもっとも硬い部分を相手の身体に浴びせたのだ。
「ごぉっ!?」
 浴びせ蹴り。そう呼ばれる技は、確実に彼女の身体をとらえた。
 なまじ速い踏み込みが、カウンターとなったその蹴りの威力を増し、
彼女は膝から崩れ落ちた。丁度、みぞおちの辺りに入ったという
僥倖にも恵まれたようだった。仕切り直しどころか、この一撃で
私は完全に彼女の動きを止める事に成功したようだ。
「……チェックメイト」
 何とか立ち上がろうともがき、しかし叶わぬ彼女ののど元に、
私は剣を突きつけた。
「ずっこいよー。剣と剣の勝負なのに、蹴りは無しだろー」
 軽口を叩きながらも、彼女の顔には苦悶が浮かんでいる。
思った以上に、蹴りはいいところに入ったようで、私は何故か
それを申し訳なく感じていた。その必要は無いのに。
「真に剣と剣の戦いであるべきならば、両の足で立つ事は無論、
 両の手で剣を握る事もまた控えなくてはいけないのではないですか?」
「屁理屈だー! ないてやるー! うわーん!」
 ……戦う前よりも、何だか彼女はずいぶんと子供っぽく見え、
何だか私は毒気を抜かれてしまった。

497: ◆91wbDksrrE
09/04/26 21:08:47 NWQC/0LW
「……でもまあ、戦う前に約束したもんな。仕方が無いし、あたし
 この街を出ていくから、安心しとくれ」
 その言葉に、私はハッとした。 
 私が負ければ、私は彼女の“所有物”になる。
 私が勝てば―彼女は、この街を出る。
 それが戦前の約定だった。だが―
「でも、あんたの一発効いちゃったからさ、明日の朝でいいかな、
 街から出て行くの?」
 ―私は何故か、それを惜しいと思ってしまっていた。
 彼女と戦ったからだろうか。それとも、彼女の表情を、苦悶の中に
浮かぶ悔しさと、そして本気を見たからだろうか。
「その必要はありません。私は……貴方の“所有物”にさえされ
 なければそれで十分ですし、貴方に出て行けといったのは……
 その、言いすぎだったかな、と」
「おや? シイナちゃんもようやくこのルー様の魅力に気づいたかにゃ?」
「そ、そんなわけないでしょう! 私は女性を嗜好する趣味は無いと、
 そう先程も言いましたよね!?」
「じゃあ、好きな奴とかいんの?」
「そ、それは……なぜ貴方に言わなければならないのですか!?」
「ははーん、いないんだ……じゃあ、まだチャンス有り、かな?」
「なんですかチャンスって! そんなものありません! 貴方は
 女性なんですよ!?」
「男だとか女だとか、そんな細かい事どうでもいいじゃーん」
「よくありません! ……やっぱり出て行ってもらおうかしら」
「ああ、ごめんごめん、今の無し! 取り消し! だから捨てないで
 シイナちゃーん! ごろごろー」
 ……本当に、おかしな人だ。
 そんな事を思いながら、私の顔は、自然と笑みを浮かべていた。
「……お友達になら、なってもいいですけど、どうします?」
「まずは友達からって事!? うん、全然オッケー!」
「からも何も、先は無いですから。私達、女同士なんですからね?」
「あたしは気にしないもーん」
「私が気にするんです!」
 叫びながら、私の顔からは笑みが消える事は無い。何か、訳の
わからない心地よさが、心に生まれて消えなかった。
「とにかく、今日からよろしくお願いしますね、ルクレシアさん」
「うん、よろしくねー、シイナ!」
 そうして、その日私に一人友達が増えた。
 彼女が、私にとって友達以上の存在になるのは―まだずっと先の話。

  
                                     終わり

498: ◆91wbDksrrE
09/04/26 21:09:01 NWQC/0LW
ここまで投下です。

499:創る名無しに見る名無し
09/04/26 21:49:42 SISJTlCQ
なんというガチ百合女傑ルクレシア。両刀使いなのか。
GJ!

500:創る名無しに見る名無し
09/04/26 23:42:48 /1BXk7oD
女戦士モノというと、どうしても乳が揺れるクイーンズ何とかって言うアニメを思い出す訳で・・・w
とりあえず、友達以上の関係になる回にも期待。
GJでした。

501:創る名無しに見る名無し
09/04/27 13:59:42 r/9FyKeC
子供っぽい女剣士かわいい

502:創る名無しに見る名無し
09/04/29 09:31:10 lHrtEzz2
普通に主人公が負けちゃった場合を想像したが
ただの官能小説になることに気付いた。

503:創る名無しに見る名無し
09/05/03 08:28:42 ry0O/f3F
某漫画の夜一さんみたいに
自宅で飼ってる猫が妙齢の女の子になったりしないかね。

504:創る名無しに見る名無し
09/05/08 23:59:38 pfDlfcMF
荊の城、半身、カーミラ、マリみて

505:創る名無しに見る名無し
09/05/17 08:49:29 L+aBgAwF
百合関連のスッドレはどこも過疎だな

506: ◆91wbDksrrE
09/05/17 19:49:39 eePM9/Oy
『この世界では、剣と剣での勝負が全てを決める』
 その言葉と一緒に剣技を授けられた事を、私は―シイナ・レンバードは、
ずっと恨んでいた。
 でも、数ヶ月前のとある事件で、その恨みは感謝へと変わった。
剣と剣での勝負で、私は敵から自分の身体を護る事ができたからだ。
 敵は、双剣の使い手、ルクレシア・ヴィーブ。彼女は、何を考えたか、
勝負に負けたら私の身を自由にさせろなどという条件をつけ、突如
私に勝負を挑んできたのだ。
 剣戟を交わし、その強さを文字通りその身で味わいながら、何とか
私は彼女を退ける事に成功した。
 本来なら、その時点で私と彼女の縁は途絶えるはずだった。だが、
彼女の無邪気な言動に毒気を抜かれてしまった為か、それとも、彼女
との戦いを、彼女の本気を快いと思ってしまったからか―どちらにせよ、
私は彼女との縁を、再び結びなおす事を選択した。
 友人になろうという私の言葉に、彼女は無邪気に喜んでくれた。
 ―あ、いや、無邪気だったかどうかは、ちょっと断言しかねる、かな?
 でも、縁を結びなおした所で、彼女は旅人だ。聞けば、何か探し物を
しながら、大陸中を旅して回っているらしい。
 友人となれた事、自分と同じ年頃の話し相手を得る事ができた事は、
私も素直に嬉しかった。なまじ剣技などをたしなんでいるばかりに、
私は普通の女の子には……まあ、その……友達と呼べる人が、いない。
 普通の女の子は、幼い頃は親に護られ、歳を経てからは将来を
共にする男に護られる。それがこの世界の常であり、私はそれから
外れて育った女だ。だから、男からは一目置かれていたが、女性……
特に同世代の女の子からは、奇異な視線で見られる事も度々あった。
それが、私が剣技を授けられた事を恨んでいた主たる理由である事は、
否定しようがない。割り切れるようになったのは、つい最近の事だ。
 だからこそ、同世代の、同性の友人を得る事ができたのは、素直に
嬉しかった。できるならば、彼女がいつまでもこの街に留まっていて
くれれば、と……そう思ったのも事実だ。
 他愛の無い会話をしたり、たまに一緒に買い物に出かけたり、私が
作った料理に舌鼓を打ってくれたり、一つ一つがなんだか新鮮で、
嬉しい出来事だった。
 ……でも、彼女は旅人だ。縁を結びなおした所で、それが途切れる
日は、いつか必ずやってくる。
 できれば、そんな日なんか……ずっと、来なければいいのに。
 そう願いながらも、時は瞬く間に過ぎていった。

507: ◆91wbDksrrE
09/05/17 19:50:06 eePM9/Oy

 ―そして、数ヵ月後―

「……ルクレシアさん」
「あい? 何か用かいシーちゃん?」
「……なんで、まだこの街にいるんですか?」
 ……彼女は、まだこの街にいた。というか、私の家で無茶苦茶くつろぎ、
まるで自分の家かのように振舞っていた。両親が遺してくれた家で、
幸い部屋には空きが沢山あるし、生活費用とかは彼女自身の財布から
出ているので、別に困るようなことは何も無いのだけれど……。
 わずかに怒気をにじませた私の言葉に、彼女は笑って答えた。
「なんでって……シーちゃんがあたしにいて欲しいって言ったから」
「っ……!?」
 思わず顔が赤くなる。
「い、言ってませんよそんな事っ!」
「えー、だって、コンゴトモヨロシクーって言ってたじゃん」
「そ、それは言いましたけど……」
 確かに、今日からよろしくお願いしますとは言った。言ったけど……。
「それがどうしていて欲しいって言った事になるんです!?」
「だって、今日からよろしくって言われたら、あの日からずっと
 よろしくしなきゃ嘘じゃん? それってつまり、いて欲しいって事でしょ?」
「なんですかその飛躍は!」
「……あたしがいたら、嫌?」
 突然、彼女は瞳を伏せ、寂しげな表情を見せた。
 不意を打たれた私は、何故か高鳴る胸と、朱に染まった頬を何とか
落ち着けようと、彼女から視線をそらし、明後日の方向を見やる。
「……それは……その……嫌、では、ないですけど……」
 口から出た言葉は、そんな状況だったから、紛れも無い本心以外の
なにものでもなかった。私は、別に彼女がここにいる事を嫌だとは
思っていない。むしろ……ずっと……。
 でも、それが叶わないだろう事は覚悟していた。覚悟していたのに、
彼女がこの街に数ヶ月もの間留まっている事で、その覚悟が何だか
はぐらかされているように思えて、それで……
 ああ、そうか。今になってようやく、気づいた。私は彼女に八つ当たり
しているのか。自分で勝手に覚悟して、それが無駄にされたように
思えて、腹を立てているだけなんだ。
「……はぁ」 
 自分勝手に彼女を責めている自分に気づき、ため息が口から漏れた。
 しかも、彼女がここに留まり続ける理由は―まあ、解釈はどう
とっていいかわからないにせよ―私の言葉に応じて、なのだ。
 彼女がここに留まっている理由が彼女の言う通りのものならば、
私は旅を邪魔しているようなものだ。そう考えた瞬間、沈んだ心が、
さらにズキンと痛んだ。

508: ◆91wbDksrrE
09/05/17 19:50:25 eePM9/Oy
「でも……旅の方は、いいんですか?」
 旅立って欲しくは無い。ずっといて欲しい。
 でも、自分のせいで旅を中断して欲しくはない。
 相反する気持ちが心の中で乱れ飛び、その度にズキンズキンと
胸の一番奥が痛むような気がした。
「旅? ……ああ、そうだよねー。確かに旅は続けなきゃいけない
 わけだけど……でもまあ、骨休みも必要じゃん、旅ってさ!」
「……骨休み、ですか……」
「そーそー」
 彼女は私の心を知ってか知らずか、いつものように無邪気に笑う。
 その笑顔を見ていると、あれこれと悩んでいる自分が馬鹿らしく
なってきて、私も釣られて笑った。
「だから、シーちゃんさえ迷惑じゃなければ、もう少しここにいさせて
 もらおうかなー、って……駄目かな?」
「はいはい、わかりました。気が済むまでどうぞ」
「あ、何か怒ってる?」
「呆れてるんですよ……まったくもう」
 言葉とは裏腹に、私の顔から笑みが消える事は無い。
「うーん、呆れ顔もかわいいなぁ、シーちゃんは」
「言い忘れてましたけど……シーちゃんはやめてください! 私だって
 もうちゃんづけで呼ばれるような歳じゃないんですからね」
「へいへーい。わかりましたシイナさま!」
「……さま付けもやめてください」
 そんな風に会話を交わすだけで、沈んでいた心が弾むのを感じた。
 いつの間にか、胸の奥の痛みも消え去っている。
「……本当に、不思議な人ですね、ルクレシアさんって」
「何がー? ……ひょっとして、あたしのミステリアスな魅力に、
 シイナ姫はもうめろめろ!?」
「姫って誰ですか、もう! ……ホントに不思議な……いや、変な人ですね」
「うぉぉう、言い直されたっ!?」
「より適切な言い方にしてみました。……それじゃあ、私仕事に行ってきますね」
「あいあーい。変なお姉さんは留守番しとくよー」
 とりあえず、もうしばらくはこんな他愛の無いやり取りを楽しんで
いられそうだという事にホッとしながら、私は手を振りながら部屋を出た。
 背後の彼女が、どんな表情で自分を見つめているか、気づかぬまま。

続く

509: ◆91wbDksrrE
09/05/17 19:53:31 eePM9/Oy
ここまで投下です。

>>495-497の続きです。

まさかの続きな上にまさかの続くですが、続きがいつになるかは
さっぱり皆目検討がつかない事を前もって申し上げておきます。

>>500
ぶっちゃけ、ファーストインプレッションはアレです。

510:創る名無しに見る名無し
09/05/18 01:11:27 w7BFas3W
これは……なんという気になる引き。
ルクレシアの最後の一文に凄く不安を感じるんだけど
大丈夫……なのか?

511:創る名無しに見る名無し
09/05/31 01:14:35 dacvntzr
過疎……?

512:創る名無しに見る名無し
09/06/01 15:12:24 wxHYDvyr
もにゅもにゅ

513:創る名無しに見る名無し
09/06/03 00:41:00 r335euwN
百合小説って難しいよな
距離感とか

514:創る名無しに見る名無し
09/06/04 02:09:23 Mr0HZtyD
某RO百合小説だめかな。
専門の掲示板にも投稿しているんだけど、向こうは過疎で。

515:創る名無しに見る名無し
09/06/04 02:11:50 diwOqAT8
まあ、書くのが難しくて多少稚拙な物語になってしまっても、
持ち前の百合フィルターを通して見れば極上の百合ストーリーになってしまうのが不思議。

516:創る名無しに見る名無し
09/06/04 07:31:41 UQ7Wu8s6
妄想なら浮かぶんですけどね
作品という形にするのが自信ない

517:創る名無しに見る名無し
09/06/05 20:41:34 9IYE/QsS
俺の妄想が形になったら、全国の百合好きを唸らせられる……
そう思っていた時期が(ry

518:創る名無しに見る名無し
09/06/08 00:24:09 Cc1DJmm8
さあ早く形にするんだ

519:創る名無しに見る名無し
09/06/17 03:01:47 EWP4eTkn
百合は匂わす程度が良いかもね。
購買層の問題もあるから、踏み切れないかもしれんよ。

520:創る名無しに見る名無し
09/06/17 03:02:51 EWP4eTkn
なんという誤爆……

521:創る名無しに見る名無し
09/06/19 00:57:20 QBUqB4n8
魔女と女の子の話はあるかね?

522:創る名無しに見る名無し
09/06/19 19:38:56 O/ECiWTQ
ユー、書いちゃいなよ。

523:創る名無しに見る名無し
09/06/19 22:31:48 QBUqB4n8
昔、オリジナルストーリースレであらすじ投下したよ。
住民は主人公を男だと勘違いしたみたいだが。

524:創る名無しに見る名無し
09/06/25 23:56:14 Phs9tMIH
女の子が大好きな変態女キャラ
(ハァハァ言ってたり、女の子を見ると口説く。しかし、オチは大体バイオレンスなツッコミ)
がシリアスになる……という展開に燃える

525:創る名無しに見る名無し
09/06/27 14:22:04 Rt7Z2CTI
それなんてじゅんじゅん
大好きだ

526:創る名無しに見る名無し
09/06/27 14:41:51 mRmlWE7E
まりあほりっく思い出した

527:創る名無しに見る名無し
09/06/27 15:43:51 G8rqurRk
>まりあほりっく

ダウト

528:創る名無しに見る名無し
09/06/28 11:52:34 l20F6jvn
ああ、変態両刀使い忍者か

大好きですww

529:創る名無しに見る名無し
09/06/29 06:13:21 xl+My2HV
白井黒子とかー

530:創る名無しに見る名無し
09/07/05 17:34:31 w3GybWWf
ヒャッコでも居たな

531:miki ◆v6ZgoGYinIDM
09/07/13 20:18:45 4vc12yyP
はじめまして。

今日、いわゆる臓器移植法の改正法案が国会で成立したたようですね。

ところでみなさまは、以前このスレに投下されていた、
難病に倒れた少女、咲夜の物語をご存知でしょうか。

>>115-119
「いばらの森奇譚」
>>207-212
「副委員長とあたし」
>>246-249
「初冬のひととき/終わりの始まり」

本日は改正法成立にちなんで、今から一次創作のSSを投下いたします。
咲夜と美希の出会いを、今度は美希視点から書いたものです。

あまり詳しくは書けませんが、これを公開するにあたって、
いちおう関係者からの許諾はいただいてます。

それでは10スレほどお借りいたします。
お楽しみいただければ幸いです。

532:あいいろ魔法少女(1) ◆v6ZgoGYinIDM
09/07/13 20:25:30 4vc12yyP
恋だとか。
魔法だとか。
もしくは正義だとか。

ばかばかしい。

そんなのはおとぎ話かただの妄想。
さもなければ精神疾患の一種。
本気でそう思っていた。

そう、あの日の放課後までは。
あの霜月の放課後までは。
本気でそう思っていた─

――――――――――――――――――

 『あいいろ魔法少女』

――――――――――――――――――

「……とか言ってるわけよ」
「何それっ、ありえねー。超ウケるンすけど」
「でしょでしょ。あ、それからさぁ……」

今日も放課後がやってきた。
義務教育という名の拷問を終えた私は、何人かの友人たちと、
うそ寒い学校の廊下を通り抜けて玄関へと向かっていた。

窓の外にはどんよりとした曇り空が広がっている。
地平近くに広がる山並みは今まさに紅葉の盛り。
季節は晩秋、いやむしろ初冬と言ったほうがいいだろうか。

霜月。
それは中学生になって初めて迎える、長く辛い冬の到来を予感させる呪文。

しかたないじゃない。少しばかり感傷的になったとしても。

疎ましい。
何もかもが疎ましい。
気の置けない友人たちのさえずりでさえ、ただひたすらに疎ましい。

「そういやさ、隣のクラスに転入生来たらしいけど、見た?」
「別に興味ないけど。ひょっとしてイケメンとか?」
「残念、女の子だよ。ただこれがめっちゃ可愛いんだって」
「……ひょっとしてあんた、そーゆー趣味あるんじゃなかろうな」
「それが彼氏持ちに対する反応かよ。これでも私は浮気はしない主義なんだぜ」
「リア充氏ね」

ひときわ高い笑い声が巻き起こる。


533:あいいろ魔法少女(2) ◆v6ZgoGYinIDM
09/07/13 20:30:06 4vc12yyP

何組の誰某がうちの組の何とかに気があるらしいとか。
今年の冬はどんな服がはやるらしいとか。
今日も数学の教科担任はキモいとか。

そんなどうでもいい話が右から左へと流れては消えていく。

─くだらない。

たとえば今の日本の首相が何と言う名前なのか。
たとえば九一一事件が起きたのが西暦何年なのか。
たとえば昨日一日で何人の人命が地球から失われたのか。

この子たちはおそらく、いや確実に知らないのだろうな。

このように、私と彼女たちの間には一生を費やしても決して乗り越えられない、
山のように高く険しい、そして海のように広くて深い断絶が横たわっている。

しかたないじゃない。少しばかり感傷的になったとしても。

ひょっとして、束縛から解き放たれた開放感と倦怠感にあふれているはずの
玄関の向こう側に、何か妙な空気を感じ取ってしまったのは、
そんなやるせない思いを抱えていたからだろうか。

その気配に気づいたのとほとんど同時に、
名前も知らない何人かの男子が私たちの間をすり抜けて、
口々に何かを叫びながら玄関の方に走り去っていく。
そのうちの単語の一つが何故か耳に残った。

ケンカ、ですって……?

534:あいいろ魔法少女(3) ◆v6ZgoGYinIDM
09/07/13 20:36:00 4vc12yyP

  ◇

開放された玄関から流れ込んでくるヒヤリとした空気に混じる甲高い声、いや、叫び声。
神経がささくれ立ち、胸が悪くなる感じを覚える。

手早く玄関で外靴に履き替え、状況を確かめるために私は外に出た。
わざわざ探し出すまでもない。出入口からそう離れていない校庭の一角から、
すでに無視するのも難しい喧騒が響いてくる。
それをぐるりと取り囲むように人だかりが出来ていた。
三十人、いや、四十人はいるかも知れない。

騒ぎの正体を確かめるべく、私はギャラリーをかき分けて前へと出る。
その中心では二人の女子が口論の真っ最中だった。
いや、その認識はあまり正しくない。
その片方だけが一方的に喚き散らしていたのだった。

一人は三年の先輩。

顔に見覚えがある。確か女バレ─女子バレー部─の元キャプテン。
身長一八〇センチを優に超える巨躯。
おそらくは骨と筋肉だけでできているであろう頑丈そうな身体から、
ごつい手足がにょきにょきと生えている。もし制服を着ていなければ、
男子だと言われても信じてしまいそうだ。
もっとも、あれはいつだったか、部長会議での短い質疑応答だけで、
頭の出来が残念賞だということはすぐにわかってしまったが。

もう一人は見知らぬ制服を着込んだ少女。

「おやおや、例の転入生だ。早くも人気者みたいだね」
誰かが私の耳元でささやくのが聞こえた。
自然、私の眼が吸い寄せられることになる。

535:あいいろ魔法少女(4) ◆v6ZgoGYinIDM
09/07/13 20:40:56 4vc12yyP

先輩の胸ほどしかない身長だが、精いっぱい背筋を伸ばして相手を
見上げている。それはそれはとても小さく可愛らしい顔だった。
ほんの少しだけブラウンの入った黒髪を惜しげもなくショートカットにしている。

スレンダーな身体にまとっているのは、
鮮やかなまでな藍色で染め上げられたベレー帽、
胸元に校章らしいエンブレムが縫い取られたパレオ、
膝丈くらいの長さのインバーテッドプリーツのスカート。

そこから伸びているのは黒タイツで包まれた
バレリーナのように細くて形のいいふくらはぎ。
そしてとどめはきっちり磨き上げられた黒のローファー。

それらの全てがまるで一個の芸術作品のように、
見事なまでの調和美を見せていた。

おまけに横顔はまるで人形のように端正だ。
どちらかというと柔らかな色をはなつ大きな茶色の瞳。
すっきりと通る鼻すじ。
そして和菓子細工のような繊細で薄い桜色の唇。

唯一違和感を感じたのは右手に握られた鈍い銀色を放つ杖の存在だ。
だが、普通なら雰囲気ぶち壊しになってしまう実用本位のデザインなのに、
彼女がそれを持っているというだけで、
いにしえの大魔法使いのマジックアイテムのように思えてくる。

よく陳腐な表現で、ポスターやグラビアから抜け出してきたような、
などというのを見聞きすることがある。

だけど断言しよう。彼女の容姿を言い表すにはその程度ではとても足りない。

なぜなら、クラスメイトたちは論外として、この学校全体や
このあたり一帯はもちろん、
たとえ比較の対象がタレントやモデルやグラドルであったとしても、
これほどまでに圧倒的な存在感を放つ美少女には
お目にかかったことがないからだ。

536:あいいろ魔法少女(5) ◆v6ZgoGYinIDM
09/07/13 20:45:44 4vc12yyP

その事実は、田舎の中学でお前はAだの私はSだのという
醜いスクールカーストの順位争いで勝ち上がってきた、
この私の小さなプライドを粉々に吹き飛ばすのに
充分すぎる威力を発揮したのだった。

その私のなけなしのプライドのかけらが最後の抵抗を試みている。

─たかが田舎の中学に登校するのにあんな超本気モードはないだろ。
─あれじゃ上級生に目をつけてくれって言ってるようなもんじゃない。
─何が原因でこんなことになったか知らないけど少しくらい空気読めよ。

ま、その言い分にも一理あるか。
それだけ確認してから以後は一切耳を貸さないことにする。
反省会は家に帰ってからだ。

それにしてもこの見事なまでの好対照ぶりはどうだろう。
なんとなく旧約聖書のダビデとゴリアテを連想してしまう。
依然として先輩は聞くに堪えない罵詈雑言を吐き出し続けているが、
一方の少女はまったく反論するそぶりを見せようとしなかった。

ふと奇妙な違和感を覚える。

逃げるでもなく相手するでもない。
彼女はいったい何を考えているのだろう。
まさか必殺のスリングを放つタイミングを計ってる、とか?

しばらく事の成り行きを見守っていた私は、
泰然とたたずむ少女の口元にかすかに笑みが浮かんでいることに気づいた。
それに対して烈火のごとく怒り狂う先輩にはそんな余裕は微塵も感じられない。

追い詰められているのは果たしてどちらなのだろうか。

537:あいいろ魔法少女(6) ◆v6ZgoGYinIDM
09/07/13 20:51:02 4vc12yyP

  ◇

とうとう先輩の息が切れた。
肩を大きく上下させて呼吸を整えている。
一方の少女はと言えば、あたかも見知らぬ虫を観察する昆虫学者のように
先輩を冷ややかに見つめていた。

「な、なんとか言ったらどうなの!」
沈黙に耐えられなくなったのか、たまらず先輩が吼える。
それを聞いて、初めて少女が可愛らしい唇を動かす。
そこから、誰もが想像もしない言葉が飛び出した。

「ふーん、背だけじゃないんだ。デカイのは」

にこりと少女が笑う。見かけはあくまでも天使。だが中身は恐るべき悪魔。

─まるで呪文のように。

しばしの静寂ののち。
ギャラリーの一人が堪えきれずに吹き出し。
それをきっかけに爆笑のうねりが巻き起こった。

少女が、先輩の身体と声と態度の大きさを皮肉ったのは
火を見るよりも明らかだったから。

たったの一言で形勢は逆転した。

「な、何が可笑しいのっ!」
先輩が顔を真っ赤にして周りに向かって喚き散らすが、
その愚かな行為はただ笑いの火に油を注いだだけだった。

「こ、の、チビッ。いい気になってんじゃないよっ!」
完全にブチ切れた先輩が少女に掴みかかる。あまりの体格差。
あれじゃひとたまりもない。止めなくちゃ。ひねり潰されてしまう。
私はしかし、とっさの事態に一瞬だけ反応が遅れた。だめ、間に合わない。
そう思ったのと同時に、

周囲に異変が起こった。

538:あいいろ魔法少女(7) ◆v6ZgoGYinIDM
09/07/13 20:55:24 4vc12yyP

少女と先輩以外の世界が静止する。
全ての色が、音が、香りが完全に失われる。

灰色に染まった少女が左手を頭の高さに振り上げる。
先輩の太い腕が苦もなく弾かれる。
そのまま滑るように細腕が横へスライド。
ごつい左手の甲を包むように握る。
同時に左足が右足後方へ。
少女の身体が半分回転。
そのまま左腕を思い切り振り降ろす。

先輩の足が見えない何かに薙ぎ払われる。
身体がくるりと上下に反転。
両の足先が少女の頭よりも高く跳ね上がる。
そのまま背中から大地に叩きつけられる。

刻が動き始める。ゆっくりと。
世界が再び色彩を帯びはじめる。

おそらくは一秒にも満たない時間の間に事の全てが終了した。
付近一帯に響き渡るかのような大音響と地響きに、
ようやく現状認識が追いついてくる。
でも、この眼で見ていたはずなのに、とうてい受け入れられない光景に
驚愕の念を覚えてしまう。
これは映画でもCGでも、もちろん幻や妄想でもない。

吹けば飛ぶようなか細い少女があの先輩の巨躯を左手一本で投げた。
予想もしない事態に、かたずを飲んで見守っていたギャラリーの誰もが震撼する。

だが、まだ悪夢は続く。

追い討ちをかけるように少女が先輩の左腕を異様な形にねじり上げていく。
先輩の口からとうてい人間のものとは思えない悲鳴、いや絶叫が吐き出される。
なんとかその状況から逃れようと必死になってのた打ち回っている。

しかし少女の動作にはまったく情け容赦が感じられない。
先輩の身体が操り人形のように仰向けからうつ伏せに。
その身体をまたいで少女が仁王立つ。
倍近い体重差などまるで感じさせない。
彼女から放射されるすさまじいまでの暴虐。
思わず私は全身に鳥肌が立つのを感じていた。

539:あいいろ魔法少女(8) ◆v6ZgoGYinIDM
09/07/13 21:00:25 4vc12yyP

クスクスと笑いながら少女が口を開く。

「そんなに暴れると腕が折れちゃいますよ」
さらりと恐ろしいことを言う。

「それとも、いっそのこと折っちゃった方が世の中のため?」
その天使のような微笑とは裏腹に、彼女の眼にはあまりにも酷薄な光が宿っていた。

─この娘、マジだ。

この場にいる誰も彼女を止められない。

そう、ただひとり。この私を除いては。

そう確信した瞬間、ようやく私の口から静止の言葉が飛び出した。
「ねえ、今日のところはそのくらいにしておこう」
「どうして止めるの?」
きょとん、とした表情を少女が浮かべる。まるで小さな子どもが昆虫の手足を
バラバラに引きちぎるのを押し留められたような風情だ。
何一つ理解していないその態度に、少しばかりイラッときてしまう。

─莫迦かお前。
─あんたのためだよ、あんたの。

『誰だよアイツ』
『お前、知らないのか? あいつ、花菱だぜ』
『花菱って……あの花菱か?』
『そう、あの花菱さ』
『マジか、あれがそうなのか』
『へへへ。なんだよ、意外に……』

軽く唇を噛んで心の中でいつもの呪文を唱える。
こそこそと物陰でさえずる事しかできない愚鈍な連中の声など、
私の心には決して届くことはないのだ、と。

540:あいいろ魔法少女(9) ◆v6ZgoGYinIDM
09/07/13 21:06:30 4vc12yyP

「転校初日に、そんな莫迦のためにみすみす停学処分なんて食らう必要、
ないんじゃない?」
「そっかなー。これって立派な正当防衛だと思うんだけど」
「押さえ込むまでならね。でも無抵抗の先輩の腕を折ってしまったら、
それはもはや過剰防衛でしょう」
「でもこの人の存在って、将来の禍根そのものだよ」

聞き分けのない幼児を辛抱強く諭す母親の気持ちが少しだけ理解できた気がした。

「それがあなたの正義なの。まるでブッシュみたいな言い草ね」
「マンネルヘイム元帥にも同じことを言ってみたら?」
「確かフィン軍はナチのレニングラード侵攻要請を拒否したはずだけど」
カール・グスタフ・マンネルヘイム。
北欧の小国を超大国の侵攻から守り抜いた不屈の英雄。
残念ながら私の知識も彼女には及ばなかった。
これ以上追求されたらもう対抗できない。どうする。適当に話をそらすか。
いやだめだ。他の莫迦相手ならともかく、こいつにそんなハンパな手は通用しない。
負けを認めたも同然だ。それでは彼女を止められない。じゃあどうすれば……。

ふっ。

一瞬の逡巡ののちに少女が笑みを浮かべた。
さきほどまでとはまったく異質な、何一つ屈託の感じられない笑顔を。

─見透かされた……?

「先輩、運がいいですね。こちらの方のおかげで大怪我しないですんだみたいだから」
そういえば、私は彼女の名前すら知らない。

「花菱、花菱美希。覚えておいてくれると嬉しい」
「私は咲夜。柊咲夜。別に覚えてくれなくてもいいよ」
そう言い捨てると、彼女─柊咲夜は、
なおも低い呻き声を上げ続ける先輩の腕を地面に放り出し、
杖を頼りに校門の方に歩き出す。
私に出来たのは、その後ろ姿をただ見送ることだけだった。

雲が切れた。
すき間からほんの少しだけ藍色の空が顔をのぞかせ、
弱々しい陽の光が地上に一筋の柱を突き立てる。
唐突に、そこから彼女が空へと帰還するイメージが思い浮かんだ。

541:あいいろ魔法少女(10) ◆v6ZgoGYinIDM
09/07/13 21:11:19 4vc12yyP

恋だとか。

「ちょ、なにあれ」
「あの態度。サイアク」

魔法だとか。

「……ねえ花菱、大丈夫?」

もしくは正義だとか。

「え……あ、うん。なんでもないよ」

そんなのはおとぎ話かただの妄想。
さもなければ精神疾患の一種。
本気でそう思っていた。

放課後までは。
ついさきほどまでは。
本気でそう思っていた。

でも今は違う。

あの少女の傍らに立ちたい。
あの少女と共に肩を並べて歩きたい。
あの少女にふさわしいと言われる人間になりたい。

─何よこれ。何なのよこれ。

恋なのか。
魔法なのか。
もしくは正義なのか。

わからない。

確実にいえることはただひとつ。
ほんのわずかでも気を緩めたら最後。
身体の奥底でうごめく正体不明の感情に。
ひとたまりもなく流されてしまうに違いなかった。

─まるで恋する乙女のように。

(Fin)



542:miki ◆v6ZgoGYinIDM
09/07/13 21:12:16 4vc12yyP
以上です。

ありがとうございました。

543: ◆YURIxto...
09/07/21 18:24:45 pvmVjmfB
―君が望むなら、ヒーローにだって何だってなる
  だけど私が本当に与えたいのは、多分そんな力じゃなくて


「…どっちが悲しいかな」
「へ?」
ニュースを垂れ流しているテレビの前で、美幸はぽつりと呟いた。
「ふっといなくなってそのまま永久に戻らないのと、死体になって会えるのと」
私は一瞬、美幸が何を言っているのかと思ったが
それが数分前に流れていた「行方不明の報道」について語っているのだと見当がついた。
「そりゃあ…」
考える振りで、少しの沈黙を置く。答えなんて決まっていた。
「どっちも悲しいんじゃないの」
私の答えを聞いて、美幸はつまならなそうに頷く。
それは美幸の中でもわかり切ってる答えだった。
「だから聞いてるの
 どっちの方がより悲しいかって」
「またどうしたの突然…」
真面目な顔をして聞いてくる美幸に、私は困り果てた表情で応えた。
そういう難しい話は苦手だ。
自分自身の中で芽生えた疑問にすら知らぬ振りをする私に、美幸の疑問は手に余る。
そういう面倒くさがりな私と共にいて、美幸の方こそ面倒じゃないのかといつも思う。
それでもどうして私といてくれるのだろう、というのが
私の中で知らぬ振りをしている疑問の一つでもあった。

544: ◆YURIxto...
09/07/21 18:26:43 pvmVjmfB
「どうでもいい事聞いてるって思ってるでしょ」
こたつに入ったまま寝転んでいる私に顔を近付けて、美幸は問い詰めてくる。
「別にそんな事っ…」
口調が突っ返すように荒くなったのは、吐息がかかるほど顔を近付けられたせいだと思う。
家が近くて同じクラスで、いつも一緒にいるだけの彼女の顔が近くなっただけで
何故焦らなければならないのか。
美幸といると私の中で生まれる疑問に際限がない。
そんなもの、いちいち考え込むよりも知らぬ振りをする方が一番に決まっているのだ。
「ただ、考えても仕方ない事じゃないの?」
私は起き上がると、こたつ一つ分の距離に戻った彼女の瞳に向かって問いかけた。
「仕方ないかもしれないけど…でも大事なことだと思うの」
「どういうふうに大事なの?」
一旦伏せていた瞳がもう一度私を見つめ返した時
それは今まで見た事ないほど真剣で真っ直ぐなものだった。

「私は今、冬子と一緒にいられる事をすごく大事に想ってる
 誰かと一緒にいる、って事はすごく重大な事で
 その誰かがいなくなってしまう、って事も同じだけ重大な事なんじゃないかなって
 一緒にいる事と、そうでなくなる事は表裏一体のように思うから…だから
 今一緒にいるなら、いなくなる事も考えなきゃいけないんじゃないかな」
難しい事を並べていた。言葉ではなく、難しい事柄だ。
例えば今、共に暮らしている両親が死ぬ事なんて私は考えたくない。
いつか訪れるに違いない事。
でもまだ中学生の私は、それを遠い国の話のように思っていたかった。
少なくとも、今だけは。

545: ◆YURIxto...
09/07/21 18:27:55 pvmVjmfB
「表裏一体なんかじゃない」
美幸の中で浮かび上がる疑問や考えに敵う言葉なんて私に思いつくはずもない。
だけど美幸がさっき述べた言葉の中で一つだけ、私が否定しなければならない事があった。
「私は行方不明になったりしないし、死んだりなんかしない」
「無敵のヒーローみたいな事言う…」
半ば飽きれたような笑いを浮かべる美幸が勘に障った。
例え明日、自分自身が行方を彷徨う事になっても、命を落としたとしても
私は今、紛れもなく心からの言葉を並べていたのだ。
「それが無敵のヒーローなら、私は無敵のヒーローだっ」
そこまで言うと、私は先程までと同じようにコタツの中に入ったまま寝転んだ。

背中を向けた私に、美幸は肩に手を置けるほどそばまで寄ってきた。
「冬子?怒ったの?」
決まり切っている問いを尋ねてくる美幸がわざとらしくて、私は黙り込む。
「ごめんね、別にいじわるでこういう話をしたわけじゃなくて…
 私は冬子にちゃんと確認しておきたかっただけなの」
「…何」
私が半分だけ振り返ると、美幸は母親みたいな顔をして笑い掛けて来た。

546: ◆YURIxto...
09/07/21 18:29:32 pvmVjmfB
「私が…私が冬子より先にこの世からいなくなる時は
 ちゃんと冬子に、私の死に顔を看取ってほしいの」
「なに、それ」
「今すぐの話じゃないと思うけどね
 だけど一応希望は早めに伝えて置いた方がいいかなって」
笑った顔のまま美幸は淡々と口にする。
まるでそれが何も悲しい事ではないかのように。
「いやだ、私は美幸が死ぬところなんて見たくない」
考えただけで涙が溢れてきてしまいそうな話に、頷いたりなど出来やしなかった。
そんな話を、何故美幸は笑って口にする事が出来るのだろうか。
「…そう言うと思った
 じゃあ冬子は私が行方不明のまま帰って来ない方がいい?」
「なんでそう…そんなのいやに決まってるじゃん、私は…私は、どっちも絶対認めない」
美幸はまた飽きれたような笑いを見せた。見せながら、私の頭を撫でた。
「しょうがないなぁ冬子は…」
呟いた言葉は弱弱しく、どこかいじらしかった。
まるで明日にもこの指先を失ってしまうのではないかという儚さがあった。
私はたまらなくなって、起き上がりその指を強く掴んだ。
「私の事、子供だと思ってるでしょうっ!」
美幸は驚いた様子で目を丸くする。
私の中には先程から怒りが渦巻いていて、それは今まで感じた事ないような類の高ぶりだった。

547: ◆YURIxto...
09/07/21 18:30:29 pvmVjmfB
「怒るに決まってる…さっきから何、なんで私が美幸の前からいなくなる事になってんの
 いなくなるわけないじゃん!私はずっと…ずっとそばにいるのに
 美幸のそばにいられるなら、美幸が生きてそばにいてくれるなら
 無敵の…不死身のヒーローだって何だって、私はなるのに!」
子供じみた事を言ってると自分でもわかっていた。
けれど自分の気持ちを伝える為に、それ以外の言葉は思いつかなかった。
「…やだもう、泣かないで」
美幸は私が掴んでいない方の手で、私の頬に触れてきた。
「泣かしたのは美幸じゃん!」
私は突き放すように美幸の手を離し、両手で自分の頬を拭った。
止め処なく溢れてくる涙を必死に隠していると、美幸はまた私の頭を撫でた。
やっぱり子供だと思ってる、と涙の裏で思った。

「こんなふうに泣くんだってわかってても、でも私はやっぱり冬子に看取られたい」
美幸は私の頭を撫でながら続けた。
「私が生きてる時間も、死ぬその瞬間も、全部冬子のものにしたいから…」
その言葉を聞いた時、私の涙は引っ込んだ。泣いてる場合ではなかった。
「なんだそれ、美幸の時間は…全部美幸のもの、じゃないの」
涙の後だったせいか、私はもごもごと言葉を並べていた。何故だか顔が熱くて仕方なかった。
「私のものである時間を、全部冬子にあげたいと思ってる」
「そ、それって…」
まるでプロポーズじゃないか、と私は続けようとした言葉を仕舞い込んだ。
また笑われるような気がしたからだ。
けれど私が言葉を閉まったまま黙っている間、美幸はただ真剣に私を見つめていた。
思えば私が先程並べた言葉だってプロポーズと何ら変わるところがない。
私は真剣で、美幸も真剣だった。
私は私なりに返事を返さなければならなかった。

548: ◆YURIxto...
09/07/21 18:31:27 pvmVjmfB
「おばあちゃんになるまで一緒にいてくれるなら、いいよ…看取っても」
美幸はホッとしたように表情を和らげて、それから少し意地悪そうな目をして尋ねてきた。
「ほんとに一緒にいてくれる?婚姻届も何もなくても」
「なっ…」
ただでさえ熱い顔が、まるで火を噴くようだった。胸はそれ以上に熱かった。
美幸の言っている言葉がもし冗談だったとしても、私は自分自身を留める術を知らなかった。
もしも笑われたら、この胸の熱さが勝手に並べた言葉という事にしよう。
それは限りなく真実に近い言い訳だった。
「婚姻届なんて、そんなのただの紙切れじゃん
 そんなもの…そんなものよりもっとすごいの、私は持ってる」
「すごいのって?」
聞き返されて戸惑った。それは、この心だとしか言いようがなかった。
その真意をどう表したら正確に伝わるかがわからなくて、私は私の心に問いかけた。
この心は、言葉ではなく一つの現象へと私を導いた。
「…!」

549: ◆YURIxto...
09/07/21 18:32:20 pvmVjmfB
その瞬間、私の思考は停止していた。
味わった事ないほどの柔らかな感触だけが、私と美幸の唇が重なっている事を証明していた。
唇を離した時、ようやく過ぎってきた思考で馳せていたのは体中が熱いという事だった。
そしてそれは、唇を通して美幸から伝わってきたもののように思えた。
人前で取り乱した事のない美幸が、私以上に顔を赤らめてそこにいたからだ。
今にも泣きそうで、でもそれを堪えているような、そんな必死な顔をしていた。
私の知らない美幸の表情をもっと知りたいと、その時私ははっきりと望んだ。
「…確かに…すごいね」
美幸はようやく唇を開くと、上擦った声で感想を述べていた。
そしてそれ以上言葉を続ける事なく、私自身も言葉を必要としなかった。
唇一つで、お互いの全てを知り得る事が出来たのだ。
何故美幸はこんな私と共にいてくれるのか
ついさっきまで謎のままだった疑問も、今なら解く事が出来る。
ずっと一緒にいたいと、お互いの願いが一つに重ねられているから
いつまでも離れずにいられるのだ。

550: ◆YURIxto...
09/07/21 18:33:25 pvmVjmfB
照れ臭そうにお互いの視線を避けてしばらく
美幸が吹っ切れたような満面の笑みを見せながら、私に向かって小指を差し出してきた。
「約束ね」
私は引き寄せられるように同じ小指を差し出し、美幸のものと絡める。
その約束は、間違いなく私の方こそ望んだものだった。
「早死にしたら、許さないからね」
指を絡ませたまま私は、半分脅すような口調で美幸に呟いた。
「うん!」
明日どうなるかも知れない事、永遠がない事、私達は知っていた。
それでも心は繋がっていく。約束は交わされていく。
永遠を信じた時間にこそ永遠は存在したと
後になって思う事が出来るのではないかとその時過ぎった。
そしてその永遠を想う時、私の心には美幸がいてほしい。


たった一人の誰かを想い続ける事は
ヒーローみたいな超人の力をも凌ぐものだと今、信じられるから。

551: ◆YURIxto...
09/07/21 18:34:27 pvmVjmfB
以上です
失礼しましたm(_ _)m

552:創る名無しに見る名無し
09/07/21 18:39:35 rS/gIVbO
ひさしぶり~!
相変わらず結構なお手前でw乙でしたww

553:創る名無しに見る名無し
09/07/24 13:11:29 Lz/faMGg
>>542

美希視点からの話は興味深いと思う
できれば二人がどうやって仲良くなっていくのかも読んでみたい

# しかし、やはり彼女は間に合わなかったのだろうか…

554:創る名無しに見る名無し
09/08/10 15:01:02 pHYxmB04
保守
なかなか暇ができなくて書けない


ここって絵でも大丈夫なんだっけ?

555:創る名無しに見る名無し
09/08/10 16:23:19 igd5JfFq
もちろんおk!

556:創る名無しに見る名無し
09/08/22 01:57:14 EAfzJfAB
見易いようにまとめでもつくってみようかと思ったけど
後に残るのがよろしくないとかで、まとめは遠慮したい・・・とかあるかな

557:創る名無しに見る名無し
09/08/27 23:09:14 C/gHGne7
俺は一つも投下してませんが
まとめが欲しいであります!

558:創る名無しに見る名無し
09/08/29 23:47:11 U1NBw+Tc
URLリンク(www1.axfc.net)

予定としてはこんな感じに
希望はあるようだけど、やっぱり作者さんら次第だからなぁ・・・
もうしばらくお待ちします

559:創る名無しに見る名無し
09/09/10 13:11:42 Ku/JF2ea
>>558
すまん。俺、2ちゃんの流儀とかよくわからんのだが、
要するに「まとめ掲載おk」とかって作者さんから返事がくるのを待ってるのか?


560:創る名無しに見る名無し
09/09/10 22:13:47 nccN+Qyb
今のところね
糧に保管してもいいものか若干気が引けるもんで・・・
それとも先に保管だけして、要請があれば即刻外すといった形のほうがいいかな?

561: ◆91wbDksrrE
09/09/10 23:01:20 t/eLaKeY
そういう形で構わないんじゃないかな。
そもそも、書いた人が俺みたいにここ見てるとは限らないし。
ちなみに、俺は保管全然構わないっすよー。

そろそろ何か考えるかな。

562: ◆91wbDksrrE
09/09/10 23:03:00 t/eLaKeY
ああ、俺みたいにここをずっとチェックしてるとは限らないから、
保管了解得ようとしても難しいんじゃないか、って事ね。
何かチェックしてないんだから勝手に保管しちゃえって
言ってるように見えちゃうかもしれないので、一応w

んで、後々チェックしてもらった時に、何か問題があるって事なら
速攻外してあげられるような態勢だけ整えておけばいいんじゃないかな。

563:創る名無しに見る名無し
09/09/11 00:46:08 qo6N6tl1
色々意見どうもです
一応形にはなりましたのでご報告
URLリンク(ameno-ji.srv7.biz)

広告の関係上、レイアウトがやや乱れてるのはご愛嬌と・・・

564:miki ◆v6ZgoGYinIDM
09/09/14 21:34:52 ulmRaSkR
すっかり反応が遅くなってしまい、申し訳ありませんでした。

>>563
まとめ作業ごくろうさまです!
なお、miki◆v6ZgoGYinIDMとsakuya◆GtV1IEvDgUの作品は、ぜんぶ保管OKです。
よろしくお願いいたしま~す。

>>559
わざわざご連絡いただきまして、ありがとうございました。


565:創る名無しに見る名無し
09/09/15 21:51:06 wvUd6qdn
慎重になりすぎたせいかいろいろご面倒かけてしまったようで・・・
皆様ありがとうございました
とりあえずは今の体制で進めていきたいと思います

自分もなにか仕上げなきゃなぁ・・・

566:創る名無しに見る名無し
09/09/17 01:52:46 oRGh/ZhA
ちなみに俺は書いてるけれど筆が進まなくなった。
プロットから外れたのが痛いわ……。

567:創る名無しに見る名無し
09/09/22 20:09:55 nCIEpkjD
>>523さん
どうしようもなく亀ですが…
ちなみに、どのレスですか? もし差し支えなければ、お教え願いたいです

あのスレは結構面白そうなプロット落ちてるのに、
あまりSS化されてないっていう
実に、もったいないことです

568:創る名無しに見る名無し
09/09/30 18:40:19 V3EBt3J9
女が書く百合でもおk?


569:創る名無しに見る名無し
09/09/30 23:46:00 Ag5Mlndn
むしろ大歓迎

570:創る名無しに見る名無し
09/10/03 18:51:25 QE0XwJhM
>>567
ストーリースレの>>36だよ。塀の中の女の子の話。

571:創る名無しに見る名無し
09/10/03 18:52:33 QE0XwJhM
間違えた。sage。

572:創る名無しに見る名無し
09/10/03 20:15:13 dlgoLwLy
>>570
ありがとうです! この書き込み、ageてなかったら気付かなかったわ
ナイス間違い

たしかに、プロットの時点で「少年」「男性」とは明記していないな
でも、工具持って酒も飲めてワルい連中とも付き合ってる…
となったら、女性は思い浮かばないかも


あのプロット、すごく面白そうじゃないですか?
住人もいろいろアイデア出して…

…でも、あれかな。
いや、これ以上書くのは、例のスレが適切かな



573:創る名無しに見る名無し
09/10/05 02:19:44 6eu0fanw
>>ワル~
少し柔らかめにすればいいんじゃないかな。プロットだし、変更は可能よ。
要は下町の人情溢れる生活能力のある元気娘と、おっとりおっとりお嬢系の百合だから。

他にも
「おっとりお嬢が話してくれた『魔女の昔話』に出てくる『魔女』が彼女の正体」
とか設定をくっつければ、面白くなるんじゃあないかい。

574:創る名無しに見る名無し
09/10/10 20:08:14 afqSchkN
空から女の子が降ってくるドタバタラブコメの主人公を女の子にして
居候もガンガン増えるけど女の子ばかり……

575:創る名無しに見る名無し
09/10/17 20:08:42 VnurbeFn
過疎

576:創る名無しに見る名無し
09/10/22 20:11:55 fGELFIdw
ほしゅ

577:創る名無しに見る名無し
09/10/27 15:03:44 OGtG2y2r
どうも私は口下手で困る
つまりは保守ということだ

578:創る名無しに見る名無し
09/11/03 11:47:35 23JVmEYl
「藍しゃま」
「なんだい橙?」
秋空の満月の下、縁側で二人は暖かいお茶を飲んでいた。

「愛する・・・ってなんですか?」
「・・・どうしてそんなことを聞くの?」
「先生から聞きました。愛するとは、本当は男と女がするものだと」
「・・・そうだね」
「でも、幻想郷には男の人がほとんどいません」
「・・・そうだね」
「それに、私は藍しゃまが好きです。これって変なんでしょうか・・・」
藍は何も言わず、そっと橙を抱き寄せた。
「・・・藍しゃま、暖かい・・・」

月がただ静かに、二人を照らし続けていた・・・

579:創る名無しに見る名無し
09/11/05 00:01:06 bWQePWp/
アヤシロ が 1 たい でた
アヤシロ は こうふん している

「ナミちゃん、愛する……って分かりますか?」
「あいす……?」

ナミ は こんらん している
アヤシロ は ナミ を みて 90 かいふく
アヤシロ の ATK が あがった
アヤシロ の ATK が あがった

アヤシロ は うむをいわさず おそいかかって きた !

580:創る名無しに見る名無し
09/11/07 17:24:35 St86hmQh
仕事が終わったら本気(ry

581:創る名無しに見る名無し
09/11/10 23:19:27 3gbDGC+0
 ギルドに配属になったA。「手先の器用な貴女なら、難なくこなせるだろう」と親友B
から紹介された。Aは針や糸、糊を使った小物の工作が得意で、いつかは自分の店を持つ
ことが夢だった。機織りの母一人の下で育ち、早く楽をさせたいと始めた工作だったけれ
ど、それがこうじて技術を身につけ、大人も真っ青の一品を作ることが出来る。
 毎日を精一杯に過ごすA。ギルドにも、やっと慣れて、持ち前の器用さを利用して、上
手く立ち回っていた。

 ある日、街に「魔女」の噂が立ちはじめる。魔女は人物の影を奪い、奪われた人は影を
追う様に「館」を目指してフラフラ、糸の切れた人形のように歩きだすのだという。魔女
が影を奪う理由も、目的も分からない。そもそも犯人が女なのかも分からない。それでも
「魔女」の存在はまことしやかに囁かれ、ギルドの噂好きも好奇から聞き耳を立てていた。
 親友Bの影が盗まれたのは、そんな時だった。

582:創る名無しに見る名無し
09/11/12 12:55:45 12Uik0aZ
保守age

583:創る名無しに見る名無し
09/11/14 12:58:11 x2quh10t
窓を叩く雨の音は段々と強くなっている。
ぽつん、ぽつんとしたまばらなリズムが少しずつ速く、強く、不規則に、ざざざざざざざと大きな音を立て始めるのにそう時間は必要無かった。
風が通るからと少しだけ開けていた窓の隙間も、今はもうぴたりと閉じられている。
雨のせいか湿り気を帯びた空気が肌に纏わりついてくるのが少しだけ不快だ。
狭い部屋の中に、二人分の体温。外は少し肌寒いくらいだったが、閉め切った室内では互いの肌の温もりだけで、十分すぎるほどに心地よい。

「……雨、だねぇ」
「だなぁ」
「んー、雨の日ってさ、濡れるから外に出たくないなーっていう気持ちと、外に出て濡れたいなーって気持ちと、そういうのがせめぎ合う感じだよね」
「かもな」
「……なんでそんなうわの空なの」
「あー、あー、そんなムスっとした顔をするな」
「だって……なんだか最近、いつもそんな表情(かお)してる。何か、あった?」

心配げにこちらを覗いてくる瞳は、透明度100。
綺麗なものだけを見て育ったら、こんな瞳になれるのだろうかと、ふと思う。
同じ女性の目から見ても彼女はとても可愛らしい。
お世辞にも恵まれたボディラインというヤツとはかけ離れた体型をしているものの、幼さを残した体躯は思わず抱きしめたくなるほどに庇護欲をそそられる。
軽く毛先がカールした栗毛はふわりと軽やかで、いつまで撫でていても飽きない。

「何でもないよ」

そうやって、誤魔化しの言葉を投げる。彼女ならすぐに嘘だと気付いてしまうと分かっていても、それでも私は嘘を吐いた。
嘘だ、と彼女は抗議の声を上げた。半ば非難を交えた視線が私を射抜く。
そんなにまじまじと見られたら照れてしまう、などと歯の浮くような台詞で、彼女の関心を遠ざけようとするポーズ。
そのポーズも、嘘なのだ。本当は彼女に全て打ち明けたい。
胸の内を吐露してしまって、楽になりたい。
けれど―それでは結局楽になんてなれないと分かっているから、私は彼女と向き合うことが出来ない。
この言葉だけは、私の中だけで留めておかなければいけないのだ。
素晴らしく甘美で誘惑的で、何物にも代え難い至上の時間を守るために、私は自分の心にも嘘を付く。

私は彼女のことを、愛して―いない。

女の子同士なのだから。中学来の親友なのだから。
理論武装を固めて、自分の心の周りにどんどん装甲板を重ねていく。
胸の内が外に零れていかないように、感情が勘違いを起こさないように、私は心を厚い厚い壁で覆った。
しわくちゃになったベッドスーツの皺を伸ばしながら、真っ直ぐ彼女の瞳を見つめる。
無垢なその瞳に向かって、私はもう一度、何でもないよと笑った。

「何でもなく―ない」

でも彼女は優しくて、そんな私の決意を揺さぶる一言を簡単に口に出してしまう。
そして私は彼女に腕を取られ、大して膨らみもない彼女の胸に、顔をうずめることになる。

584:創る名無しに見る名無し
09/11/14 12:59:58 x2quh10t
「何か悩み事があるんだったら、話してほしい。話して楽になることだったらいくらでも私を使ってくれていいし、話して辛くなるようなことだったら、何をしてほしいか言ってほしい。
 そうやって、自分の悩みは自分だけのものだなんて態度……取らないでほしい」

やっぱり彼女は優しいなぁと、顔を見られていないことをいいことに、声も出さずに私は笑った。
優しくて、残酷だ。
私の背中に回る彼女の腕には、彼女からの愛情が込められている。
もし私が本当の想いを吐き出してしまえば、彼女はそれに応えてくれると思う。
少なからず―私が彼女を想っているほどではないにせよ―彼女も、私に対して愛情を持っていてくれている、と感じる。
相思相愛とは言わずとも、告白をきっかけに互いの愛を深め、恋人のような関係になることも、不可能ではないだろう。
そうすれば私と彼女の距離はきっと近くなる。互いの姿がもっと見えてくる。
その先にあるものを、私は怖がっている。
彼女を見れば見るほど、私は自分がいかに足りない存在か知ることになる。
今はそれに憧れて、そして好きになって。でもきっと、今以上にはっきりと彼女を見てしまえば、憧れるだけじゃ済まなくなる。
嫉妬、羨望といった汚い感情が心の奥の澱んだ場所から湧き上がってくるんだ。
男の子と女の子だったら生まれないであろうその気持ちを、彼女に向けたくなかった。
そんな自分勝手な理由で私は彼女に自分の気持ちを伝えられない。
そんな自分もまた、嫌いだった。

しばらく二人とも黙ったままだった。
雨の音だけが部屋に響く。
私はふと、思い立って彼女にお願いをした。
彼女はきょとんとした顔を浮かべたけれど、すぐに笑って、了解してくれた。

ドアを開けると横風に煽られた雨粒が顔に零れ落ちてきた。
きゃっきゃと騒ぎながら、二人で傘も差さずに外へ飛び出していく。

「あーもー、どんなことでするって言ったけど、まさかこんなお願いされると思ってなかった!」


―二人で雨に濡れよう。

私がしたお願いは、それ。
服はびしょぬれ、髪もぐしゃぐしゃだ。
でもそれがいい。こんなに楽しそうな彼女が見れて―私が流す涙も、彼女に気付かれないだなんて、なんていいことなんだろう。
雨よ降れ、もっと降れ。私の心も洗い流しておくれ。

――
思いつくまま書き散らしてみたら訳の分からない話になったけれど、どうせなので投下。
お目汚し失礼しました。

585:創る名無しに見る名無し
09/11/14 15:35:48 2FrjRd/6
相手はノンケかもしれない……この攻防は燃える。
GJ!

586:創る名無しに見る名無し
09/11/15 20:04:54 4gm40nMW
季節はずれだけど

小さな振動と轟音を伴いながら早くもならない遅くもならない、変わらぬ速度で
走り続ける電車の中でぼんやりと窓の向こう側を見ていた。線路沿いに並ぶ家々
でろくに街並みも見えないつまらない景色を眺めながら随分と陽が延びたな、と
いまさらに感じる。やわらかい橙色が辺りを包む時間が長くなった。

電車に乗ったときから空の明るさはほとんど変わっていない。陽はまだ沈んで
いないのだろうか。もう夜と呼べる時刻だというのに窓の外はいまだに明るい。
それでも周りの人々の表情はきちんと一日を終えたそれで、わたしも綾乃も多分そう
いった顔をしているのだろうと思う。さきほどから窓へと向けていた顔の位置を少し
下げて足元から伸びる自分の影を見やる。そして自分の左肩について考える。
乗り込んでから十分ほどでどうやら寝てしまったらしい綾乃が寄りかかってきたの
が出発した駅から五駅ほど過ぎた辺りで、それからはもうずっとわたしに寄りか
かったままである。熟睡しているのか、首は座っておらずくたりとわたしの左肩
にその頭が乗っかっている。人間の身体の部位で一番重いのは頭だと言われている
がそれは本当なのだと思った。なかば押し付けるようにして乗っているその頭は確
かな重みがある。こんなにも重いものだったのかと驚くほどには重い。
最初は違和感に何度も斜め左の頭を見やったけれどこの数十分ほどでそれにも慣れ
てしまった。身じろぐことも出来ないのが少し気詰まりだったけれどそれもどうで
もよくなってきた。偶に電車が揺れると思い出したように重みと熱が肩口に伝わって
くる。その重みと熱について考える。電車の中に人はいるのに、ここは二人掛けの
座席なんかではないのに、こうしているとどうしてかわたしたち二人だけがこの空
間で浮き立っているように思える。他のものなどはすべて背景で熱を持っているの
はわたしたちだけのように思ってしまう。
目を瞑ると喧騒すら消えてただ肩口の重みと熱だけが現実のもののように感じる。

身体に直接伝わる振動と共に電車が橋へとさしかかった。家々に塞がれていた
景色がひらけて車内が明るくなる。顔を上げると空に浮かぶ入道雲が夕陽に照ら
されてその色に染まって光っている。綺麗だと思った。つい綾乃を起こしたく
なったけれど何と声をかければいいのか分からない。持ち上げかけた手を膝の上
に戻す。そうして迷っているうちに電車は橋を渡り終え、再び街の中に入ろうと
していた。迷わずに起こしてしまえばよかった。もしかしたら起きないかもしれ
ない。でも起きるかもしれない。寝惚けた彼女の頭を軽く叩いて目の前を指差して
やりたかった。一緒にあの瞬間を味わえたかもしれないのに。これじゃあ何だか
わたしが一人ぼっちのようじゃないか。ふいに湧き上がった気持ちの座標をしっかり
と認識してしまうと途端にどうしようもなくなる。さっきとは別の理由で綾乃を
起こしたくなる。と言うよりも起きて欲しい。起きたら、わたしと目を合わせた後、
何も言わずにまた寄りかかってきて欲しい。
その熱でわたしも微睡むから。

「…少し寝ようかな」

口の中でそう呟いて、隣の旋毛に頬を寄せる。

587:創る名無しに見る名無し
09/11/16 00:13:13 BwVRGqZQ
投下GJ!
想像したら凄く和む絵面だ……
いじらしいなぁ、うん

588:創る名無しに見る名無し
09/11/23 14:25:57 b6ATsB+s
GJ!
いいなぁいいなぁ。

589:創る名無しに見る名無し
09/12/06 13:36:31 vgjixF/r
定期

590:創る名無しに見る名無し
09/12/11 23:04:29 UBSrzb2H
定期

591:創る名無しに見る名無し
09/12/17 18:12:33 W8TQX/9O
幼い頃に両親を亡くし祖母に女手一つで育てられた
デブでブスだけど心の美しいヒロインと、ヒロインを
心から愛おしく思う祖母との近親相姦レズってのはどうよ? 

592:創る名無しに見る名無し
09/12/18 21:09:44 RsaBllgp
>>586
今北産業
続きは?

593:586
09/12/19 02:54:26 kOvySegA
>>592
これはこれで一つの話なので続きはないんだ。
日常の一瞬みたいのを書くのが好きだからそのノリで投下した。
また別に何か書きにきたい。

594:創る名無しに見る名無し
10/01/22 19:21:05 PGDMXjyb
>>591
老けXデブ近親相姦レズ・・・(^_^;)

595:創る名無しに見る名無し
10/01/27 23:18:39 8CYLPfoe
「うそ……。」
机の奥から出てきたのは日記だった。
間違いなく、私の手で書かれた日記。
その中には私とあの子が恋人として過ごす日々が綴られていた。
あの子は記憶を失った私を真っ先に助けてくれた友達。
そう。ただの友達だったはずなのに。

このことを問い詰めたら、彼女は寂しそうに笑って言った。
「証拠は全部捨てたはずだったんだけどね。」
それは日記の内容を肯定する返事。
「記憶の無いあんたに、女同士の恋人がいるなんて知ってほしくなかったんだ。」
そんなわけないよ。彼女の気持ちはこの日記を見ていたら分かる。
彼女はきっともう一度……。
だけど、私はどうしたらいいのかな。
今の私にとっても、彼女は特別な存在。
でもそれは恋人とかそういうのとは違うと思う。
なんだか、頭の中にいろんな思いがめぐって、怖くなって、私は彼女の前から逃げ出した。

ずいぶん走ったと思う。
気がつくと知らない風景に囲まれていた。
どこをどう曲がってきたのかさっぱり覚えていない。
建物が、車が、悪意を持った視線で私をにらみつけてくる。
途方にくれていると、どこからか、私のお気に入りの曲が聞こえてきた。
記憶喪失になってから初めて覚えた曲だ。
それは私の体から流れているようで……あった、携帯電話だ。
「大丈夫?」
彼女からだった。優しい声が耳に響く。
「大丈夫じゃないです……。」

すぐに駆けつけてくれた彼女に私は抱きついた。
そして、思いっきり泣いた。
今、はっきりと気づいたことがある。
それは、私たちの関係が“友達”であろうと“恋人”であろうと、私が一番安心できる場所は彼女の傍だということだ。
「まったく、危なっかしいんだから。」
彼女はそっと私の頭に手を置いた。

おわり

596:創る名無しに見る名無し
10/01/27 23:28:04 /kx8x2o9
身体が勝手に……!!
ageてしまう…ッ!

597:創る名無しに見る名無し
10/01/27 23:28:05 84fV29YB
なんだこれは・・・
いいよいいよ

598:創る名無しに見る名無し
10/01/27 23:32:00 Dvck1aNx
百合はいいなぁ……
規制解除記念age

599:創る名無しに見る名無し
10/01/28 09:07:14 RJ7XjRh8
GJと言わざるを得ない

600:創る名無しに見る名無し
10/01/28 18:54:14 ULe8WIdb
背徳と優しさとが同居して、何とも言えない気分になるね。

601:創る名無しに見る名無し
10/01/29 02:07:42 UkBYrINw
投下乙
何か書きたいんだがネタが浮かばない……こういうシチュエーションが読みたいとか、希望ある?

602:創る名無しに見る名無し
10/01/29 10:53:05 CfWjR7xS
>>601
「お姉ちゃん、だめだよ…私たち姉妹なんだよ?」みたいな

603:創る名無しに見る名無し
10/01/29 13:00:31 FOETwm9c
「妹ちゃん、だめよ、私たち姉妹なんだから…」もいいと思うの

604:創る名無しに見る名無し
10/01/29 16:41:49 aEmf8Ggn
二つを混ぜて
「私たち、姉妹なのにこんなこと……」でも

605:創る名無しに見る名無し
10/01/31 11:45:12 qBeWgowy
pinkでや……いや、もっとやれ

606:創る名無しに見る名無し
10/02/02 23:51:44 TkSwrXHI
そうだそうだ

607:創る名無しに見る名無し
10/02/02 23:54:38 HZQdbdpX
バレンタインに期待

608: ◆KazZxBP5Rc
10/02/14 07:08:28 eQ5dCMsZ
店内には私たちのほかに客はいなかった。
まあ、こんな真昼間に飲みにくる人は少ないだろう。
彼女はよくこんな時間に開いているバーを見つけたものだ。

「明日は寂しい女同士で飲みに行こうよ」
と、メールが入ったのは昨日のこと。
確かに私もこんな日なのに予定もないし、
お酒も好きだし(あんまり飲めないけど)ということで了承した。

いつもはおしゃべりな彼女が今日は口数が少ない。
何もしてないと寂しいのを思い出してしまうので、
話をしないとなると酒が進むのは必然だ。

三杯目のカクテルが空になった。
そのとき、彼女が白い箱を差し出してきた。
「ハッピーバレンタイン」
「これは?」
中に入っていたのはカップケーキ。
「妹にも手伝わせたんだけどね」
「ごめん、私何も……」
「いいっていいって」
彼女は笑った。でもその顔は少し緊張している様子だ。

しばらくの沈黙の後、彼女は意を決したように言った。
「あのさ、それ、友チョコじゃないんだ」
「どういうこと?」
「……本命だよ」
思わず見つめあう形になる。
彼女の、嘘でも冗談でもないまっすぐな瞳。
胸がドキドキするのはお酒のせい?
それとも―


次ページ
最新レス表示
レスジャンプ
類似スレ一覧
スレッドの検索
話題のニュース
おまかせリスト
オプション
しおりを挟む
スレッドに書込
スレッドの一覧
暇つぶし2ch