百合とにかく百合at MITEMITE
百合とにかく百合 - 暇つぶし2ch2:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/30 22:37:30 ctI1Lqrq
こな×かがとか二次創作もあり?

3:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/30 22:42:45 D86CgnKt
とにかく って言ってるしありじゃね

4:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/30 23:18:37 HZYyCiFt
うん

5:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/30 23:29:12 btD0qa0m
はやて×ブレードを書いても良いんだな?

6:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/31 00:55:11 hCBJiRQf
ソンヤ×ウーフを書いてもいいんだな?

7:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/31 07:21:01 /ieXTUAB
>>5
もち
>>6
これは知らないよ。なんなの?

8:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/31 08:44:23 6ir71j2R
マリみてでうふふな奴も……

9:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/31 09:24:17 w3sC4Ydq
ヤサコ×イサコ を忘れるな

10:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/31 12:51:46 cQbKIm07
おまえら語るスレじゃねえよw

11:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/31 12:55:25 6ir71j2R
ロサ・ギガンティアパワーが溜まったら書く

12:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/31 14:52:31 ao+yKT70
 血の匂いが世界を支配しているようだった。沢山の生物を殺した。大切な仲間も殺された。最早彼の慟哭を優しく受
け止めてくれる者は居ない。故に彼は壊れてしまった。何処を眺めてみようとも転がるのは腐った屍と、ぬらりと光る
血の海ばかり。何故このような世界が存在している? その問いに、彼は答える事が出来なかった。

 彼は歩く想像をした。それと同時に、大地が揺れる。踏んだ土が捲れ、踏み付けた木々が無残に瞑れる。やがては
住宅でさえも踏み潰し、既に動かぬ屍を踏み付けても、彼に如何なる感情も与えはしなかった。彼は虚ろな眼差しで、
透明な世界を見詰める。眼下には〝奴ら〟が潜んでいるであろう、不思議な力で守られた学校がある。如何に破壊力の
ある兵器だろうと決して越えられなかった、屈強な壁。それを打ち壊す力を手に入れた今、彼に残った思考はその学校
の破壊のみであった。
 そこに全ての元凶が居る。それだけで虚ろな瞳には憎しみの炎が宿り、脳裏には自分の目の前で殺されて行った大切
な人達の最後の姿が過って行く。それらが彼の中に思い起こされる度に、憎しみの焔は滾って行き、レバーを握る手に
は力が籠められた。彼は、壁を引き千切る想像をした。目の前に壁などは無いが、手を伸ばせば確かに阻まれる。自分
を阻む壁を、外側に向かって引き裂くように、彼は想像する。目の前の壁は、いとも簡単に引き裂かれ、それが一抹の
不安と歓喜とを、感じさせた。

「殺してやる……みんな、全員、何もかも」

 狂気に摂り付かれた彼の唇は不気味な歪曲を描き、醜穢な呪詛を紡ぎ出す。それは彼にしか聞こえない。だが、それ
を聞き付けたように、眼下の学校の入口からは二つの人影が姿を現した。
 ―或る意味で彼の精神が保っていた均衡を、打ち崩す衝撃と共に。

「そんな……! なんで、なんでっ!」

 均衡を打ち崩された彼の言葉は、最早疑問を問い掛けるより他にない。その声が相手に聞こえていようといなかろう
と、そうでなければ自己を保てない。だが、この時彼は、既に発狂しているのと同義であった。
 頭を抱えて小刻みに扇動を繰り返す彼に向かって、警戒など微塵もしていない様子を見せる二人の人物は、彼を見上
げて悠然と言葉を紡ぐ。彼が搭乗した紫色の巨人は、頭を抱えて不様に跪いていた。

「久し振りだな、シンジ」
「やあ、シンジ君。君が残ってくれて嬉しいよ」

 彼の父親と、親友だったヒトがそこに居た。


こんな妄想をしてみたが、これじゃエヴァキャラが出しゃばり過ぎてるな。

13:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/31 15:01:33 cQbKIm07
誤爆乙

14:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/31 15:05:12 ao+yKT70
やっちゃったぜ、ごめんね。

15:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/31 15:07:08 8EXGnYad
まあでも百合みたいなもんだろ逆に

16:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/31 15:12:27 6ir71j2R
ここまで投下なし

17:投下するバカ
08/08/31 17:31:29 J2kcBWGw
「良い天気ね、静久」
「そうですね、ひつぎさん」
 麗らかな日差しの射す天地学園生徒会室に天地ひつぎは優雅に天ぷらソバをすすっている。
「そう言えば百合スレが立ったわよ」
「まだSSが投下されてませんけどね」
「この調子だとDAT落ちするわね」
「みんなアニロワスレに夢中ですから」
「私の脳内では既に51スレ目だというのに」
「現実を見つめて下さい」
 ひつぎは物憂げな表情で嘆息する。静久はひつぎの横顔を見て困惑する。
 静久は悩むひつぎの顔を見たくないのだ。ひつぎが悩むと大抵の場合、悪いアイデアを思い浮かべるのだ。
「……ウルトラ……」
「掲載雑誌が電撃大王からウルトラジャンプに変わったのはトラブルがあったからではありませんよ?」
転ばぬ先の杖。
 静久は機先を制して釘をさす。そうしなければグダグダの展開が待っているのだ。
「ウルトラソードのキャラクタ―を天地の剣待生として迎えるのはどうかしら? エロマンガの様な展開になれば……」
「18禁は駄目ですよ!」
 静久は頬を朱に染めて勢い良く反論するが、ひつぎは止まらない。いや、止める術がない。
「大丈夫よ。ウルトラソードにはゾーニングマークが無いし18禁表記はないのだから」


 この直後淫魔・左月の精を受けて暴走した帯刀が乱入したが、ひつぎにバッサリと斬られてめでたしめでたしだったらしいとは静久の弁。

 今日もおかみさんは綾那におかみさんと呼ばれて順は綾那にどつかれたみたいでした。

―幕。

ゴメンね、やっぱり百合は無理だったw


18:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/31 17:51:23 iZ5yUC8J
URLリンク(imepita.jp)

とりあえず投下

19:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/31 18:07:33 bsSR/Sat
キョン子と小泉も良いのだろうか?

20:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/31 18:22:47 U7FKfGmT
>>17
そこはちょっとがんばれよw

21:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/31 18:32:37 6ir71j2R
そういえば18禁でもいいのか? 書けないけど

22:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/31 18:34:59 wMWUab1t
いちおう2ちゃんでは18禁は禁止って建前だろ?
別にちょっとしたのはいいと思うけど
あんまり過激なのはBBSPINKに行くべきじゃね

23:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/31 22:17:49 teTKRPhS
行為をkwsk書くのはNGじゃね?
キスくらいならどんなに濃厚なの書いてもおkだと思うけど。

24:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/31 22:18:36 8EXGnYad
ソフトな手マンは駄目かな?

25:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/31 22:25:06 6ir71j2R
とびっこプレイは?

26:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/31 22:33:48 teTKRPhS
エロから離れようという概念はないのかw

27:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/31 22:44:13 6ir71j2R
いいから誰か書けよ

28:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/01 00:59:33 Te7Xl3FL
二次創作でもいいんだよな?
百合っぽくないけど女の子投下。スレが盛り上がるように祈りを込めて。
URLリンク(imepita.jp)

29:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/01 01:01:05 cDRxKN05
東方キター

30:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/01 01:14:10 xYCzN9Y/
>>28
十分百合っぽいですハァハァ

31:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/01 01:24:46 cMYl3CGb
>>28
いいと思うんだぜ

32:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/01 01:48:34 +XLNDzQX
マリみてだが投下するぜ

33:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/01 01:49:48 +XLNDzQX
 私の下宿には、お姉さまである志摩子さんがしばしば遊びに来る。
「あら、菫子さんは?」
部屋を確認しながら志摩子さんはたずねてくる。
「あ、今日はちょっとお出かけだそうです」
そう、とだけ相槌を打つと、その場に座り、くつろぐ。
 ふわふわで綿菓子みたいな髪の毛。フランス人形みたいな整った顔立ち。―あぁ、綺麗だ。
 ぽーとした私の視線に気付いた志摩子さんは、ふふふと微笑んだ。照れ隠しだろうか。
 いやむしろ、この場合恥ずかしいのは私なんじゃ。そう考えたら急に恥ずかしくなってきた。
「あ、お茶いれます」
そそくさと台所へ移動。背中が志摩子さんの笑顔を感じ、なぜか汗までかいてしまう。
 志摩子さんは私のいれた日本茶の匂いを楽しみ、少し口に含んだ。
「あっ、もしかして紅茶とかのが良かったかな?」
「いいえ? 乃梨子のいれてくれたお茶、とっても美味しいわ」
ほう……。湯飲みを覆う様に持つ志摩子さんに、その擬音はぴったりに思えた。
 私は煮え切らない思いがもどかしくて、熱いお茶をぐいっと飲む。

34:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/01 01:52:16 +XLNDzQX
まぁ、続きは需要があれば書くぜ

35:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/01 06:55:21 osEFC1c6
需要あり! 続き期待。
でも、できれば3レスくらいまとめてよろ。

36: ◆U4jQgFN8e.
08/09/02 02:34:18 p3CxSkpT
オリジナルです。

中学一年生女子の一人称なのですが、
それにしては妙に理屈っぽいものになりました。

37:『私の家にはクーラーがない』  ◆U4jQgFN8e.
08/09/02 02:36:50 p3CxSkpT
(1/9)

 私の家にはクーラーがない。
 毎年、夏が来ると憂鬱な気持ちになる。友達を家に呼ぶのが億劫になる。私の部屋は二
階にあるため、一階に居るよりもなおさら暑い。それなのに一台の扇風機しか使えないの
だ。
 自分ひとりなら構わない。しかし遊びに来た友達が「暑い」とつぶやくたびに私の心は
重くなった。なぜかクーラーを頑として買ってくれない両親のかたくなな態度を思い出し、
それと共に、うちはそんなに貧乏なのだろうかという気持ちが込み上げてきて、心の底か
ら情けなく申し訳なく思うのだった。

 そして今、中学一年の夏が来た。あいにく今年は猛暑になるとのことだった。その予報
は当たった。そして、その中でももっとも暑いと思われる盆の時期がやってきた。私は毎
晩うだるような熱気に包まれ、机に向かった。汗が流れ、ノートがふやけた。

38:『私の家にはクーラーがない』  ◆U4jQgFN8e.
08/09/02 02:37:38 p3CxSkpT
(2/9)

 由紀という名前の、同い年の女の子がいた。同じ学校に通う、小さい頃からの友達だ。
 私は自分の部屋に友達を呼ぶことは少ない。夏場はもっと少ない。そんな中、由紀だけ
は比較的頻繁に呼んだ。彼女もそれを喜んだ。
 畳六畳の私の部屋にはそれなりに多くの小説や漫画があった。時間をつぶせるようなも
のは、ほかにほとんど無かった。私たちはいくらか会話し、それぞれ本を読み出し、三十
分程度の時間が経つとまた会話し出す、ということを繰り返していた。
 読書などせずとも、話題はいくらでもあったのだ。でもこの過ごし方はすっかり習慣と
して定着していた。その間中、扇風機は首を振り続け、私の部屋の隅々まで風を運んだ。
とはいっても、しばらくこちらに風が吹いたかと思うと、すぐさま扇風機は別の方向を向
いてしまう。そのときに襲ってくる暑さは、普段の二倍にも感じられた。

 この夏も、私と由紀は何度かそのように過ごした。そのたびにセミの声は大きくなり、
窓から見える入道雲は迫力を増し、熱気はさらに湿り気を帯びてくるように感じられた。

39:『私の家にはクーラーがない』  ◆U4jQgFN8e.
08/09/02 02:38:34 p3CxSkpT
(3/9)

 ―小さな音がした。
 ある日の午後、由紀が扇風機の首振り機能を止めたのだった。
「暑いよう、もう限界。ずっと当たってたい」由紀は右手に本を持ったまま、扇風機を抱
きしめるようにして、頬を網目に押し付けた。スカートをはいた彼女は脚を綺麗にたたみ、
言った。「ごめんね、ちょっと独り占めさせてもらうわ」
「いや、こっちこそごめんね、ほんとクーラーないと厳しいよねえ」私は本を閉じ、傍ら
に置いた。「もうこんなところに居るのもなんだから、どこか行こう。由紀の家でもいい
し、ほかの涼しいところでもいいし」
「いや、いい」
 由紀はなぜかいつも私の申し出を断った。彼女はなぜかこの部屋が気に入っていたらし
かった。理由はよくわからない。私も大して気にはしなかった。とりあえず、悪い気分で
はなかった。
「―まだこれ読みきってないし」由紀は軽く本を持ち上げた。
「でも、別の所に持っていって読めばいいじゃん」
「いや、いいの」
 由紀は腕を扇風機から離し、上体を起こしてから、顔だけを前に出して風を真正面から
受けた。
「涼しい」
 彼女はそう言うと、目を閉じ、口の端を少しだけ上げて笑みの形にして、押し黙ってし
まった。風が彼女の前髪を揺らした。

 なぜかはわからないが、私が自分の気持ちを再確認したのはまさにこの瞬間だった。

 どうやら私は由紀に対してただならぬ感情を抱いており、それは友情というよりは恋心
とでもいうべきものらしい、ということには薄々感づいていた。ただ、それがいつ生まれ
た感情なのかはまったくわからなかった。
 そしてそれが明確に結晶化したこの瞬間も、一体なぜ今なのかという疑問が湧き出るば
かりで、私はただ困惑するしかなかった。
 私は彼女に体を寄せ、頬と頬が触れんばかりの距離まで顔を近づけた。私も彼女と同じ
方向を向き、共に風を浴びた。
 こめかみが脈打っている。

40:『私の家にはクーラーがない』  ◆U4jQgFN8e.
08/09/02 02:39:25 p3CxSkpT
(4/9)

「日下君、優しい?」私は言った。
「え? うん、優しいよ」身を引いた由紀は、少し慌てながら答えた。

 日下君というのは、由紀が一ト月前から付き合っている男の子だ。中学一年生の段階で
付き合っている男女はまだ少なく、このカップルは何かと冷やかされる運命にあった。日
下君は自分たちが付き合っているということを一向に隠そうともしない、なんとも天真爛
漫な男の子だった。
 仲間内では、好きな男子の話で盛り上がることが多々あったものの、皆なんとなく「自
分が誰かと付き合うのはまだ先のことだろう」と思い込んでいた。そんな話にあまり加わ
らなかった由紀がグループ内で一番最初に男子と付き合いだしたことは、私たちにとって
大きな驚きだった。

「いつも何してるの?」私は声の調子を明るくして、聞いた。
「何って」
「どこ行って遊んでるの」
「まあ普通に散歩したり……」
「適当なお店行ったり?」
「うん、行ったり。ていうか、何? どうしたの?」
「キスしたんだっけ?」
「な、何? したよ。言ったじゃん」
「うわぁ、うらやましいなあ!」
 私は同じようなとりとめのない質問を繰り返し、由紀は眉をひそめながらもいちいち答
えてくれた。彼女が疑問に思うのも無理はなかった。私はこの一ヶ月以内にすでに聞き知
っていたことを改めて質問しているのだった。
 しばらくして、自分の顔がややこわばっていることに気づいた私は、表情を緩めた。そ
して、からかうような笑みをつくった。
「で、もう乳はさんざん揉まれたのかあ?」私は両手の平を由紀の胸の辺りに向け、揉む
ジェスチャーをしながら言った。
 驚いた表情の由紀がそれに答える前に、私はそのまま腕を伸ばし、彼女の両方の乳房を
服の上からすっぽりとそれぞれの手で包んだ。
「ほれほれ由紀ちゃん、おっぱい揉んじゃうぞう」
 私はそう言いながら、勢いよく由紀の乳房を二、三度揉んだ。
 その瞬間、あまりにくすぐったかったのか、由紀は大声を上げて笑い、身をよじった。
畳に倒れこみ体を仰向けにしつつ、なおも私の手から逃れようとしたが、私は手を休めな
かった。「ほれほれ、いいじゃないか、減るもんじゃなし」
 私は乳房からわき腹へと手を移動させ、くすぐった。由紀はなおも笑い続けた。私は片
手で彼女のわき腹をくすぐり続けたまま、もう片手を彼女のふとももの内側へとすべらせ
た。こめかみの脈動がさらに大きく感じられた。

41:『私の家にはクーラーがない』  ◆U4jQgFN8e.
08/09/02 02:40:13 p3CxSkpT
(5/9)

 数秒後、先ほどからずっと続いていた由紀の笑い声がふと止んだ。私はそのとき初めて、
自分が手を止めていることに気づいた。私は彼女の顔をまじまじと覗き込んでいた。
 由紀と目が合った。
 その瞬間、彼女が私の表情から何かを読み取ったことは明らかだった。その瞳には動揺
が浮かんでいた。私もまたうろたえた。まさか私が恋心を抱いているだなんて夢にも思わ
ないだろう、いや思わないはずだ、思わないでください、そう考えるだけで精一杯だった。
私は唾を飲んだ。
 いつの間にか扇風機は由紀の足に蹴られ、あさっての方向を向いていた。風の当たらな
くなった私たちの体に、またじっとりと汗が浮かんできた。私はまだ由紀に覆いかぶさっ
たままだった。
 なにかの力が働いているかのように目を合わせたままの私たちだったが、由紀がその視
線をはずした。
「……暑い」
 由紀はぽつりとつぶやいた。まったく私も同感だった。彼女の首筋に、小さな汗の粒が
ぽつぽつと浮かんでいた。それを見つめているうちに、私の顔から汗が雫となって滴り落
ち、ちょうど彼女の首筋へと落ちた。しばらく暑いなかではしゃいでしまったとはいえ、
もう大粒の汗をかいてるなんて思いもしなかった。ああ、いやだ、こんなに暑い夏は。こ
んなに暑い夏は……。言葉がぐるぐる頭のなかで回りだした。私はだんだんぼうっとして
くるのを感じた。私はすべてを夏のせいにしようと思った。セミの合唱が、そのとおりだ、
お前は正しい、と言った。

 私は右手を由紀の股に向かって這わせた。このとき、由紀はどんな表情をしていたのだ
ろう。私にとってはそのとき、由紀の気持ちなどはどうでもよかった。スカートって手っ
取り早いなぁ、なんてことを考えていた。
 私は彼女のスカートの中に手を突っ込んだ。ほんの一秒ほど下着の上から局部を撫で回
したとき、由紀の抵抗がほとんどないことに私はやっと気が付いた。私の体が彼女の上に
覆いかぶさっているのだが、ほとんど申し訳程度の抵抗しか見られなかった。いや、これ
はそもそも、抵抗なのだろうか? それとも、私が触ったことによって体が反応してしま
っただけなのだろうか? その区別もつかないほどに彼女の動きは小さく、また私の判断
力もなくなっていた。

42:『私の家にはクーラーがない』  ◆U4jQgFN8e.
08/09/02 02:41:03 p3CxSkpT
(6/9)

 そのとき、「そうだ、彼女はこれを待ってたのだ、こうなることを望んでいたのだ」、
という突拍子もない考えが突如ひらめいた。

 いや、そんなことがあるものか。このようなことが起こるなんて、私ですら考えてもい
なかった。ましてや彼女には彼氏がいる。こんなことを望んでいるはずがない。じゃあな
ぜ彼女は激しく抵抗しないのだろうか。ただ怖くて動けないのだろうか。いや、やはりこ
の状況を楽しんでいるのではないだろうか。そして私を試しているのではないだろうか。
とりとめのない考えが生まれては消えた。
 私は下着の隙間から指を差し入れ、彼女の秘部を直接なぞった。
 由紀の咽喉から押し殺したようなうめき声がもれた。そして体をよじる。
 私は指をさらに動かした。やや大きいうめき声がもれた。
 私は飛びそうになる理性で、先ほど乳房を揉んだときのようになんとかこれも冗談にし
たいと考えた。しかしこれはもう冗談で済むようなものではない、ということもわかって
いた。
「もうセックスしたの?」
 私は右手で由紀の股間をまさぐりながら耳元で問いかけた。私はおかしくなっていた。
自分はなにを言ってるんだろう、などと顧みることもなかった。
 由紀の呼吸が大きくなった。彼女は身をよじり、なんとか耐え抜こうとしているようだ
った。
 その隙に、私は由紀のTシャツの下へと手を滑り込ませた。

43:『私の家にはクーラーがない』  ◆U4jQgFN8e.
08/09/02 02:41:52 p3CxSkpT
(7/9)

「奈美、由紀ちゃん」
 部屋のすぐ外、ドアの向こうから、母の声がした。
「暑いでしょう」
 私たちは一瞬にして、完全に凍りついた。まったく動けなかった。見つめ合ったまま、
視線もそらさなかった。
「何か飲む? ウーロン茶かアイスコーヒーかオレンジジュースくらいしかないけど」
 時間が止まったようだった。母の様子からして、由紀の声は聞こえていないらしい。そ
の点は幸運だったが、非常事態であることに変わりはなかった。
 私は、母が部屋をノックし、返事も待たずに入ってくるところを想像した。

 そのとき由紀が口を開いた。
「じゃあ私、ウーロン茶お願いします」
 二人の体勢に似つかわしくない、間の抜けた言葉だった。
 それにつられて、咄嗟に声が出た。「私も」
「わかったわ。ちょっと待っててね」
 母はあっさりときびすを返した。足音が遠ざかってゆく。そして階段をとんとんと下り
る軽快な音が聞こえた。
 私たちは同時に息をつき、呪縛が解けたかのように互いの体から離れた。

 私の想像は、想像のままで終わった。意外なことに、私は失望していた。母がドアを開
けることを私は期待していたのだ。二人の姿を見られることを通じて、私は一体何を望ん
でいたのだろう。

 もし母が入ってきた場合、その後の展開は目に見えていた。母は叫び声をあげ、私を由
紀から引き離し、私に平手打ちを食わせる。そして、「あんた、なにやってるの!」と鬼
の形相で叫ぶ。そこできっと私は妙な笑いが込み上げてきて、こらえきれず口元に薄ら笑
いを浮かべてしまうだろう。そこで間髪いれず、二度目の平手打ち。倒れる私を放ったま
ま、母は由紀を抱きしめ、「ごめんね、ごめんね、こんなことになって……」と涙声で慰
める。

 しかしそのすべては現実にならなかった。

44:『私の家にはクーラーがない』  ◆U4jQgFN8e.
08/09/02 02:42:41 p3CxSkpT
(8/9)

 もしそうなっていたとしたら、私の恋はここで完全に終わっていたに違いない。

 ……母に殴られ、その衝撃は私と由紀を正気に戻し、すべてが終わる。そして、「ごめ
ん、私、ちょっとおかしくなっちゃってたみたい、あんまりあの部屋暑いもんだし、なん
かふざけ気分がすぎちゃって、ごめんね、許してね、本当にごめんね」後日そう言って、
万が一うまくいけばいつもどおりの日常に戻っていたかもしれない。事を知った両親は私
を蔑みの目で見続けるだろうけれど、もしかしたら由紀は私を許してくれていたのではな
いかという気さえした。
 でも結局母はドアを開けず、飲み物を取りに戻ってしまった。

 私と由紀は体を離しはしたものの、その余韻はずるずると後を引くことだろう。私には
それがはっきりと分かった。決着がついていないことが、はっきりと分かった。
 数分後、母が持ってきた飲み物にはあまり口をつけず、由紀はほとんど口を開かないま
ま帰っていった。

 のちに、私はいかに自分の考えが身勝手かを何度も思い直した。あの場面で母が入って
きていいはずがなかった。
 あのような状態を人に見られて、誰が平気で居られるだろうか。由紀は尋常ではない傷
を心に負うだろう。もちろん、私のことを彼女が許してくれるはずがない。
 しかしそれでもふとしたときになぜか、あのとき母が入ってきてくれれば、と考えてし
まうのだった。

45:『私の家にはクーラーがない』  ◆U4jQgFN8e.
08/09/02 02:43:30 p3CxSkpT
(9/9)

 ……その日を境に、私と由紀は疎遠になった。
 数日間、私は学校へ行くのが怖かった。自分勝手な話だが、由紀が周りにこのことを話
しはしないか、と恐れたのだ。でも結局、何の噂もたたなかった。私は二週間ほどの間由
紀を避けたが、それ以降は不思議と、淡々とした気持ちになれた。とは言っても、よほど
話す必要がある場合にしか話さない間柄になった。

 あるとき街で、日下君と一緒に歩いている由紀を見た。道路を隔てた向こう側の歩道に
彼女たちは居た。私はすぐさま彼女から目をそらし、視線を前に向けた。その一瞬後、私
を呼ぶ声がした。由紀の声だ。日下君と一緒に、笑顔で私に向かって手を振っていた。私
も手を振り返した。罪悪感と嬉しさが混じった、不思議な気持ちだった。私はうまく笑え
ていただろうか。
 私は歩きながら考えた。由紀は手を振ってくれたが、あれは日下君と一緒に居たためで
はないだろうか。日下君がまず私に気づき、そのことを由紀に耳打ちし、それゆえ仕方な
しに私に声をかけたのではないだろうか。真相はわからない。しかし、もし一人だったと
したら彼女は私に声をかけなかっただろう、と私は思った。

 由紀がうちに遊びに来たあの日以来、ずっと自分の心と取っ組み合っていることに私は
気づいた。気づいた瞬間、初めてそこから一時的にせよ解放されたのを感じた。
 私は立ち止まり、外の世界をありのままに見た。
 道。塀。家々。電柱。空。雲。太陽。
 あの熱気はいつの間にか、どこかへ去っていた。季節がすでに変わったことを、私は知
った。

46:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/02 03:31:03 KoCPlOkU
>>37-45
。・゚・(つД`)・゚・。ウワァァァァン

47:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/02 04:13:31 c74Bwss2
>>37-45
(;_;)

48:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/02 13:01:30 nHX6vAr2
>>37-45
時々、文書が変なところもあるけど(;_;)

49:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/02 14:07:29 /gXL/mOo
これは切ないな

50:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/02 18:58:50 nckOY9rF
うお!?
百合スレあったのか
今まで気付かなかったぜ

51:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/02 21:47:40 iMRFLQJA
>>45
切ないけど良かった

やっとこれで少しはみなぎってきたなw

52:33 ◆R4Zu1i5jcs
08/09/03 00:56:44 ui8Lj338
>>33の続き
「志摩子さんっ」
志摩子さんの体がびくっとする。驚かす気はなかったが、少し声が大きかった様だ。
「急にどうしたの?」
切り出したはいいものの、次の言葉が見つからない。そんな私を電話が救ってくれた。
「はい、もしもし。あ、菫子さん? うん、うん……分かった」
静かに受話器を置く。胸がドキドキしてきた。
「菫子さんみたいだけどなんて?」
当然の志摩子さんの反応。私はぎりぎり、電話の内容を言う事が出来た。
「菫子さん、今日……帰ってこないって」
声、震えてなかっただろうか。

 これはチャンスだ! 志摩子さんに倣う様、機械的に雑誌のページをめくる。私の脳内は雑誌の記事ではなく煩悩で溢れていた。
 夜まで二人っきり。むしろ夜から二人っきり……!? だ、駄目だ。私、落ち着けー落ち着け。
 でもよく考えたらこれって志摩子さんに対して失礼なんではないだろうか? 何となく裏切りみたいな感じもしなくもない。私は途端に罪悪感に苛まれ、気落ちした。ごめんなさい、マリア様にお釈迦様。
 だいたい志摩子さんは普段とまるで変わりない。というより意識してないのだろうか。

53:33 ◆R4Zu1i5jcs
08/09/03 01:24:48 ui8Lj338
>>52の続き

「そうだ、志摩子さん。夜ご飯食べてく? いいものは出せないけど……」
そうねぇ、と少し考え込む。
「菫子さんもいないみたいだし、泊まっていくわ」
 夕食のお誘いからお泊まりにまでの飛躍。ついでに明日は休み……。時間はたっぷりある。
「えっと、家には連絡いいんですか?」
「父には泊まるかもって言って出て来たの。明日は休日だし、乃梨子と二人っきりでいれると思ったから」
はにかんで微笑む志摩子さん。確かによくよく見ると、鞄がいつもより膨らんでいる
 いや、それよりも思わせぶりな態度。もしや志摩子さんもOK作戦?
 何より私との時間を共有したいって言ってくれた事が嬉しい……。きゃー、何だか照れて来ちゃう。

 志摩子さんとの初めての共同作業……じゃなくて調理。食材は余り物ばかりだが、志摩子さんのお力添えもあってそれは美味しく出来た。
 そして食事の後、やる事はひとつ……お風呂。私の心は期待と煩悩でいっぱいで、かなりワクワクしていた。

54:33 ◆R4Zu1i5jcs
08/09/04 01:46:08 F/WqmDLb
>>53の続き

 お風呂。簡単に言ってしまえば体を洗うための設備。それでも入る相手によれば、そこはエデンにもヘヴンにもなる。
 さぁ、言え。言うんだ。「志摩子さん、一緒に入ろう」って。
「ね、ねぇ、志摩子さん。良かったらなんだけどさ。一緒にお風呂入んない?」
「ええ、構わないわ」
即答。やはり志摩子さんその気ある? いやいや、焦っちゃ駄目だ。夜は長い。この後、姉妹の仲を深めればいい。ふふ。

 湯船から湯煙が入り込む脱衣所。いよいよ、志摩子さんの一糸まとわぬ姿を拝見出来る。このワクワク感は京都の仏像以上だ。
 絹みたいに綺麗で白い肌。胸は髪の毛よりふわふわしてそう。そして、結構大きい……。
 ごくり、思わず生唾を飲み込む。あまり直視出来ないから不自然に目を逸らした。
「入りましょ?」
にこっと微笑み、片手を差し延べる。
 あぁ、まるでマリア様―。私はさっきまでの背徳感を置き去りにし、志摩子さんの片手に右手を滑り込ませる。
「うん」
私は湯気の中でも、志摩子さんが頬を赤く染めた瞬間を見逃さなかった。

55:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/04 01:55:48 iUmDv6a3
wktk

56:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/04 04:17:29 9N9Qvya6
投下乙!GJ

いちいち>>○の続きって書かなくても大丈夫だよ
IDやトリでわかるし、それ書くのも手間でしょ?

57:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/04 07:23:56 Fby94Rbo
最初の1レスに付けるだけでいいと思う

58:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/04 10:24:41 F/WqmDLb
つまりどうしろと

59:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/04 10:44:39 K7O8zJpF
完結させてから投下したほうがいい。感想もつきやすくなる。

60:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/04 11:49:46 F/WqmDLb
適当に書いてたから完結する見込みがwwwww

次からはそうする

61:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/04 18:50:13 J2ldrYZf
先日見つけたオススメのブログ。
自分や友達のものでは無いのですが、
凄い百合でレズ以外は普通の中学生の子なんですが
切な過ぎて泣けました
エロサイトなどでは絶対に無いです
先日から始めたらしく、記事もまだ3つしかないのですが
励ましコメントは歓迎と書いてあったので、
皆さん是非行ってみて下さい↓
URLリンク(blackpine.jugem.jp)
個人のブログってこーゆーとことかにのせたりしちゃ駄目なんですかね?
もしそーだったら削除します

62:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/04 18:53:15 TVOi1dCS
荒らしてくれって言ってるの?

63:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/04 18:59:35 TxCDb84f
>>61
ん~この板でそういうのはいただけないな…
できればご遠慮願いたいところだ

64:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/05 21:33:28 HprxyFEa
このスレではどこら辺まで際どい描写が許されますか?

65:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/05 23:27:06 bNKoRf3M
下半身裸とか愛液だだ漏れとかじゃなければだいじょうぶだと思う。最近の少年マンガを見るに。

66:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/05 23:35:33 9/21tcXe
早朝、畑にニンジンを収穫に行った二人の姉妹。
年のころは姉が16歳、妹が14歳といったところか。

姉はニンジンを一本よいしょと引っこ抜き、
なにを思ったか、突然その先端を妹の胸にグリグリと押し当てた。
ニンジンの先端は服越しに、妹の右の乳首を正確にとらえていた。

体をよじらせ、悶える妹。
「ああん、やめて、おねえちゃん、ニンジンはそんな風に使うものじゃないわ!」

----

これくらいなら大丈夫かな。

67:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/05 23:55:23 mWEnK1zO
乳首は……自主規制かなあw
この板で、今のところペッティングまでは確認してる

68:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/06 01:01:19 UmXOEvGY
マリみて書くよ
1レスだよ!

69:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/06 01:01:48 6LZN8x9x
wktk

70: ◆R4Zu1i5jcs
08/09/06 01:03:52 UmXOEvGY
 ある雨の日、彼女は窓から外を眺めていた。雨ゆえに別段、変わった景色は拝めない。私は彼女に何を見ているか問う。
「別に」
素っ気なく言う彼女に、これ以上の言及は意味がない。ただこの空気が心地良かった。
 友達とは少し違うし、姉妹とも性質が異なる。親友ってやつの立ち位置は曖昧だ。
 深く関わっている様で、実は入口で右往左往していたり。人の心は難しいものだ。
 しかも、彼女は人一倍気難しい。どんなに戯けようとも、それは簡単には隠せない。
 例えば、彼女の心の奥が決壊して、闇が溢れ出したとしよう。私はきっと全力でそれを受け止める。その損な役回りが何より誇らしい。
 ふっ、と心の中で微笑。そして思い出したかの様に紅茶を喉に流し込む。
 随分冷めてしまった。彼女の手付かずのコーヒーも恐らくそうなのだろう。と思考してまもなく、扉が開いて二人の時間は終わってしまった。

71:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/06 01:15:17 6LZN8x9x
いいなあこういう空気

72:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/06 08:32:01 FLmBa/HB
見たことないから知らんけど、マリみては百合好きに人気があるのか。

73:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/06 13:43:09 YAE0orId
女より男に人気があるコバルト

74:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/06 14:36:34 UmXOEvGY
むしろマリみて知らない百合好きって駄目だろ

75:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/06 16:33:26 Cm/LMcpo
すみません。知らないです


いや、存在自体は知ってるんだけど、どうも食指が……

76:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/06 16:36:16 VyokBVGS
マリみて最初は読んでたんだけど最近はなぁ
本来のターゲットじゃない層に人気が出すぎてわけわからなくなってるような

今野緒雪は昔の夢の宮とか書いてた頃が好きだったのに

77:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/06 16:58:55 UmXOEvGY
>>76
……確かに最近のは薄くなった

78:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/06 22:21:18 JaXXTxaX
他スレに投下したSSはあり?

79:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/06 23:15:54 6LZN8x9x
無しにする理由がない

80: ◆NN1orQGDus
08/09/06 23:50:52 JaXXTxaX
 知らぬ間に女子高という空間の抑圧に負けたぼくは、女に走るようになってしまった。
 つまり、レズビアニズムだ。
 世の男性諸氏が妄想する純粋な物などではなく、倒錯した愛欲だ。
 うら若き乙女が同姓に憧れる疑似恋愛などではなく、爛れ切った肉欲だ。
 可愛い子を見れば手込めにしたいし、綺麗なお姉様を見ても手込めにしたい。
 幸いな亊にすらりと高い身長、カモシカみたいなしなやかな足。
 それに似合ったボーイッシュな顔立ち。
 ぼくは、タチとしての素養を十分に持っているといえるだろう。
 そして、小さい頃に見たテレビアニメのキャラクターに憧れて始めた口調は、違和感がないくらいにマッチしている。
 これはもう鬼に金棒という他ない。

 いや、駄目だ。こんなに完璧なぼくだけど、悔しいことに棒だけは付いていないのだから。


「恭子! 恭子! そこの杜恭子! ぎょうごぉ! もりぎょうこーっ!」
 最近目を付けた同級生の杜恭子は、恥ずかしいのかぼくを無視する。
 それはそれでとても可愛い。
「やめてちょうだいっ! 私には想い人がおりますのっ!」
「良いねえ、その女学生キャラ。そそるじゃないか」
 恭子はレトロな大正浪漫が好みらしく、クラシカルな言葉遣い、仕草、容姿だ。
 ぼくの言葉に恭子は顔を真っ赤にして俯いている。
 こういう仕草はぼくの燃え盛る愛欲の火に油を注ぐ。
「キャ、キャラ……およしになって下さらない? わたくし、るり子さんみたいな色物ではないんですのっ!」
「な、なんだと! ぼくの、このぼくの何処が色物なんだ!」
 駄目だ。愛欲どころか怒りの炎にガソリンを注がれてしまった。
 だけど、ぼくの名前、沖方るり子を覚えていたことは純粋に嬉しい。
「その粗野な口調が! ガサツな存在が! 全てが! 知性を微塵の欠片も感じさせません! ああ、神様っ! わたくしをるり子さんみたいに生ませなかった事を感謝致します。アーメン」
 これ見よがしな大げさな仕草で、恭子は十字を切る。
「きみ、かなり酷いことを言ってるよね、このぼくに!」
「良かったですわね、るり子さん。貴女にも皮肉や嫌味が解るくらいの知性がおありでしたのね。……私は神様の存在を信じてしまいますわ」
 嬉し涙で咽びながら、神様に祈りを捧げる恭子はとても神々しい。
 だけど、事情を知っているぼくとしてはかなり忌々しい。
「……実家はお寺さんのクセに」


81: ◆NN1orQGDus
08/09/06 23:53:33 JaXXTxaX
「な、なんで貴女がそんなことを知っているんですのっ?」
「だってキミの事が好きだからね。好きな人の事を調べるのは当然だろ?」
 恭子は頬を赤く染めてぼくに熱い視線を向けて来た。
 いやあ、照れるじゃないか。
「こ、このストーカーッ! 犯罪者っ! オトコオンナッ! 東京気取りの埼玉県民っ! えーと、それからそれからださいたまっ! ……悲しい事ですけど貴女に語る舌なんてございませんっ!」
「埼玉県民を舐めるなっ! 彩の国埼玉っ! 浦和レッズに西武ライオンズ! 何処にいった東京ヴェルディ東京ヤクルトスワローズッ!」


 丁々発止のやり取りの後に訪れた沈黙。 そして、二人の視線が絡み付いて凍り付いた時が動き出した。

「分かりましたわ、るり子さん。貴女のように哀れな埼玉県民の為に、池袋を進呈いたしますわ。というよりも、すでに池袋は埼玉県民に占拠されていましたよね」
「あ、ああ……池袋については地元民よりも埼玉県民の方が詳しいな……」
「ええ。本当に素晴らしいですわね、東武東上線。では、わたくしはこれで失礼いたしますわ」

 恭子はぼくに慇懃な会釈をして踵を返して去っていった。
 なんだろう、この不思議な敗北感。
 これがぼくの求めた倒錯した背徳の愛の成れの果てなのだろうか。
 とりあえず叫ぼう。
 カムバック、ぎょうごぉーっ!

―幕。

82: ◆NN1orQGDus
08/09/06 23:55:02 JaXXTxaX
投下終了です。

83:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/07 00:31:42 2AXEbkCi
何か分からんけど勢いがウケたw

84:江利子さまの考察 ◆R4Zu1i5jcs
08/09/08 01:24:36 bP+POV8b
 最近、私の関心をくすぐるものが多い。それは別に困った事じゃない。むしろ、楽しみが尽きなくて喜ばしい。
 なかなか進展しないあの人の事もさる事ながら、古巣に残した置き土産も、いい感じになってきてるみたいだ。
 孫の悔しそうな顔。想像するだけで、思わず笑みがこぼれる。
 彼女をからかうのは愛ゆえ。だから、そこの所は理解してもらいたい。……なーんて、言い訳を付けてみる。
 ひとえに“面白い”からだ。だから私は最近、希望を抱いてる。まだまだこの世界も捨てたもんじゃない、と。
 講師が質問してくる。きっと上の空だったからだ。私は講師に“求められる答え”を言って、黙らせる。
 さぁ、今度はどんな意地悪をしようか―。私は考え事に戻った。

85:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/08 01:26:56 bP+POV8b
あぁ……百合じゃねぇwwwww

86:人形にも愛はある ◆R4Zu1i5jcs
08/09/08 02:07:10 bP+POV8b
 私はずっと独りだった。独りでも平気、慣れてるから、と自分に言い聞かせる。けれども孤独は消えない。この寂しさが私を覆い尽くす。
 だから慰みに人形を作った。私の人形は踊り、歌い、私を楽しませようとした。でも、私の心は寂しいまま。むしろ、私が人形みたいだ。
 孤独のまま、時は流れて、いつかは死ぬ。その手の想像は、いつも私を恐怖で押し潰す。
「お前、こんな所で人形遊びか?」
 ―だから、私はこの光を忘れない。忘れられる訳がない。
「友達がいない? だったら私が友達になるさ」
 ―だから、私はこの友に惹かれる。惹かれない訳がない。
「私? 私は、魔理沙……霧雨魔理沙。さ、遊びに出ようぜ」
 ―だから、私はこの人を恋慕する。恋慕しない訳がない。
 差し延べられた手を掴む。その時、私は生まれて初めて“愛”を覚えた。

87:人形にも愛はある ◆R4Zu1i5jcs
08/09/08 02:09:23 bP+POV8b
「ねぇ、魔理沙」
急に呼び出したそいつに問う。
「急に呼び出して何よ」
「いや、たまにはアリスと酒盛りでもってさ。ほら、いい酒が入ったんだ」
得意げに酒瓶を見せてくる。その笑顔は反則だ。
「ありがと。いただくわ」
「なんだ、今日は嫌に素直なんだな。明日は弾幕でも降るか?」
そう、今日は素直に喜ぶ。神が用意した出来の良い偶然を。
「それは、幻想郷が戦場になるってこと? いいから飲みましょう」
二つのグラスに深い紫色が注がれる。一口で良い葡萄酒だと分かる。盗品と知らなければ、もっと楽しめただろう。
「そういや、初めて会った時もこんな晩だったよな?」
「あら、そうだったかしら。忘れたわ」
そう。あの時も、月は真ん丸で、星は煌めいていた。私が孤独から解放された夜。冷たい空気が私を歓迎してくれた気がした。
 ふふ、と思わず笑みがこぼれる。それを魔理沙に気付かれてしまった。
「おい、何笑ってんだよ」
「ふふ、何でもないわよ」
あぁ、よく見れば、月があの時とは違う。今晩は十六夜みたいだ。

88:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/08 02:12:59 bP+POV8b
オラに百合を分けてくれ……

89:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/08 15:12:42 Z3u1B69G
なんでもない二人の何でもない日常の中に潜む思い・・・いいですね


90:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/10 18:42:02 lDDmywcM
ハスキーとメドレーの後日談みたいなの希望

91:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/10 19:46:10 u7Ynvwuy
>>90
なんぞ?

92:いつもと違う、いつもの放課後(1/2) ◆mf4c05IqKI
08/09/10 21:18:40 g+cj65i4
「………」
「………」
なにがどうなって、こういう状態になったんだろう?
今は放課後。部活も終わって、後片付け中。今日は軽く台本読みした後、部室…演劇部の部室の隣、
この大道具&小道具置き場の小部屋に、今日使ったものを片付けて…ああ、だめだ。なんか混乱してる。
とにかく、ちょっと足元の小箱に足を躓かせた拍子に、一緒に片付けてくれてたユキに、抱きついちゃって。
…そのまま、何故か動けなくなった。
私より背の高いユキ。目の前には、白い首筋が見えて、不思議とドキドキしてくる。
それを避けようと、顔を上げて…後悔した。目と目が合った。途端に、動悸が激しくなり、顔が熱くなる。
女の私から見ても、ユキは文句の付けようのない美少女だと思う。
実際、「校内でもトップクラス」というのが、男子の評判だった。
そのユキが、じっと私を見つめてる。そして気付く。白く透き通るような、綺麗な肌に紅みがさしている事に。
なんとなく、それに気付くけど、観察する余裕が私にはなかった。
何しろ、私の目はユキの目に釘付けになっていたから。身体を密着させたまま、互いの瞳をじっと覗き込む。
まるで、その目に写る自分を見るかのように…その目が、不意に近付いた。
顔がゆっくりと迫り、少し頭が傾く。目が少し逸れた瞬間、私は無意識に目を閉じた。
何をされるか予想もつかなかったのに、まるで待ち望んだかのように、瞳を閉じ。
その理由を自分で良く解決出来ないまま…唇に、柔らかい感触が触れた。
キス、してる…
頭が、クラクラする。触れ合う身体を通して、鼓動の音が伝わりそうなくらい、心臓は暴走してる。
漠然とした思い…柔らかいな、とか。ドキドキ聞こえてるかな、とか。
こんなときに、そんな事を考えながら、時間が過ぎる。
30分くらいの濃密な時間が、でも実際にはほんの数十秒の時間が経過して、遂に唇の感触が消えて、
私は目を開けた。
ゆっくりと、元の位置に戻るユキの顔。再び目と目が合い、見詰め合うその顔は、何処か困惑したような、
不安そうな。何故か、そんな顔をしていた。
「どうしてそんな顔するの?」
声に出したつもりだったその言葉は、実際には声に出せなかった。出せないまま、
「…そろそろ、帰らなきゃ」
不意に、ユキが顔を逸らす。身体が離れる。私は、
「うん」
そう、一言言うのが精一杯だった。

93:いつもと違う、いつもの放課後(2/2) ◆mf4c05IqKI
08/09/10 21:19:52 g+cj65i4
片づけを始めた頃は、まだ明るかった外は、夕日の残光が僅かに残る程度にまで光を失っていた。
そんな薄暗い道を、私とユキは無言で歩く。
倉庫を出てから、一言も言葉を交わしていない。普段なら、TVの話とか、授業中の話題とか。
殆ど話題も尽きずに、分かれ道まで到着してしまうのに、ただ沈黙だけが続いていた。
私は…凄く落ち込んでいた。
ユキの最後の顔が忘れられない。キスしたことを、後悔してる?してるとしたら、何故?
変な雰囲気に当てられたから?するつもりも無いキスをしたから?
それを受け止めた私の事が、イヤになった…?
一つの不安が、不安を連鎖的に呼び起こして、どんどん心を締め付ける。
そして、気付いた。「ああ、私、ユキが本当の意味で好きなんだ」って。
だから、キスして不安そうな顔されて、ショック受けてるんだ、って。
分かれ道が近付く。もう目で見える距離。歩みは止まらない。このまま離れたくない、でも…
もう、分かれ道に着いてしまった。お互い、その真ん中で立ち尽くす。
せめて、せめて今日の、部活していた頃までの関係に戻りたい。嫌われるのはイヤだ。
帰り際の言葉もなく、歩き出そうとしたユキの手を、咄嗟に掴んでしまった。
まだ、何も話すべき事は用意して無いのに。
驚いて振り向くユキを、私は見てるしか出来なかった。
私、どんな顔してるだろう?少し不安に駆られつつ、何か話そうと、必死で頭を巡らしていると、
「………!!」
再び、ユキの顔が迫って。今度は、目を開けたままキスした。
辺りに人は居なかったものの、流石に道の真ん中だったからだろうか?キスはほんの一瞬で終わり、
ユキが、笑顔を見せる。
「また、明日ね」
それは、いつもユキが帰り際に言うセリフ。
「うん、また明日」
それに対して、私もいつもの言葉を微笑みと共に返し、握った手を離す。
キスされた瞬間、わかった。ユキも、不安だったんだ、って。
私に拒否されたら、嫌がられてたらどうしよう、って…
私の、自分に都合のいい勝手な想像かもしれない。
でも不思議と、それで間違っていないような。そんな気が、私はしていた。
昨日まではいつも通りだった日常が、いつも通りの日常と、いつもと違う日常が織り交ざった今日になって。
だから、明日は、いつもと違う日常が始まる。
そんな予感がした。
むしろ、そう望んでいるのかも…?なんて。

94: ◆mf4c05IqKI
08/09/10 21:23:12 g+cj65i4
投下終了。

SSなんて書いたの、久々だよ…昔、某ゲームのSSスレで投下しまくってたけど、それ以来だ。

95:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/10 21:25:54 U8OYvREd
乙。
やっぱり百合はいいねー

96:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/10 22:56:16 +B/v4dpw
>>94
GJ
自分はやっぱり一次が好きだ

97:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/10 23:08:24 Nqwfvcb1
GJ

98:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/11 00:03:34 7do96HCN
一次か……

でも一応、二次創作のリクエストやってみる

99:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/11 15:06:04 cY+a5xmv
>>91
【2chスレ】クラスの完璧すぎる女の子の弱点を暴きたい‐ニコニコ動画(夏)
URLリンク(www.nicovideo.jp)


100:92だけど ◆mf4c05IqKI
08/09/12 23:13:44 gnDkhJP+
92で投下したSSの、別視点バージョン、というのを書いてるんだが…
ひょっとして、今二次待ち?自重した方が良いかな?

101:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/13 00:11:59 sJO8loNP
つがんがん行こうぜ

102:いつもと違う、いつもの放課後Another(1/2) ◆mf4c05IqKI
08/09/13 01:41:15 8rCvOi2X
「……」
「……」
一体、どうしてこうなってしまったのだろう?
ただ単純に、部活で使った物を片付けていた。それだけで終わったはずなのに。
なのに、何故私達は抱き合ってしまっているのだろう…?

「あっ」
切欠は、些細な事だった。躓き、小さく声を上げ、こちらに倒れ掛かってくる少女。
「っ!!」
咄嗟の事とはいえ、タイミング的には、手で支えてあげられたはずなのに。
不意に、自分へと飛び込む少女を、つい抱きとめてしまい、気付いた時には後ろに手を回してしまっていた。
完全に、抱きしめる形だ。何とか、力を入れる事だけは自制したけれど、動くに動けなくなってしまう。
…いつかはこうしたい。そんな願望を咄嗟に実現させてしまった。それが危険なことだと分かっているのに。
彼女の柔らかい感触が身体を包む。その感覚が、気持ちを興奮させ、鼓動を高鳴らせる。
だめ。今まで、必死に我慢してきたのに。ここで、こんな形で、悟られてもいいの?
直ぐに身体を離すべきだ。でも、それが出来ない。理性を、感情が押し潰す…こんな事は、初めてだった。
自分の押し隠した思いが吹き出そうになる。
活発的で、少し気が強くて。でも、どこか儚い。そんな彼女が、たまらなく愛しい。
自分が持たないものを持つ、この少女が欲しい。全てを独占して、私のモノにしたい…
そんな叶うはずの無い望み。それが、今、理性を押し殺そうとしている。
見ているだけでいいんだ。この美しく小さな花を、私はただ眺めるだけで良い。
手折ってしまえば、すぐ枯れてしまうかも知れない。だから、近くで眺めるだけ。
それだけで良い筈だったのに。
彼女の頭が動き、こちらを見上げた。紅潮し、少し潤んだ瞳でこちらをじっと見つめる。
その目を私は、ただ引き込まれるように見つめるしか出来なかった。
…いや、それも長くは持たなかった。
今まで、散々押さえていた想いが暴走してしまったのだろうか?
彼女の、あまりにも可愛らしいその表情に、私の中の何かが、崩れた。
半分無意識に、顔を寄せ…その唇を奪う。
キス、してる…
あまりの興奮と歓喜に、身体が震えそうになる。間違いなく、今この時、私はこの少女を独占していた。
けれど。
直ぐに怖くなった。何故、今まで自分がこの気持ちを隠し続けていたのか、その理由に思い至ったとき。
私は唇を離した。もっと、ずっと長く触れていたかったけれど、恐怖心がそれを凌駕する。
やってしまった。彼女に、自分の想いを晒してしまった。
普通に考えれば、女の子が女の愛を受け入れるはずが無い。友情はあっても、愛が芽生える可能性は低い。
これで、私と距離を置かれたら。離れてしまったら…それは、考えるに恐ろしい、悪夢以外の何物でもない。
彼女の顔を見る。今、自分はどんな顔をしているだろう?鏡を見たら、卒倒するかもしれない。
確実に、いつもの自信に満ちた自分は居ない。それが、酷く情けない。
それでも、答えを見極めなければ。少なくとも、彼女はキスを拒まなかった。
拒めなかった、だけかもしれない。でも、まだ可能性はゼロじゃない。
彼女の、少し呆けた、けれど嫌悪は見て取れない顔を見て、更なる答えに迫ろうと思いつつ、
「…そろそろ、帰らなきゃ」
顔を不意に、逸らしてしまった。
「うん」
彼女の答えが、重く胸を締め付ける。
多分、私は生まれて初めて、「逃げて」しまった…

103:いつもと違う、いつもの放課後Another(1/2) ◆mf4c05IqKI
08/09/13 01:42:14 8rCvOi2X
片づけを始めた頃は、まだ明るかった外は、闇が侵食し、辺りを暗く押し潰さんとしていた。
そんな、夕闇の道を私と少女は無言で歩く。
あれから、一言も言葉を交わしていない。いつもなら、他愛も無い話に、二人して笑っていたのに。
そんな些細だけれど、私にとってはかけがえの無い、貴重な時間を…私は、自ら壊した。
あまりの自分の不甲斐なさに、自分が憎くなる。あらんばかりの罵声を浴びせかけたくなる。
…そんなうちに、気が付いたら分かれ道まで来てしまっていて、自分の不明さが更に憎くなる。
立ち尽くす。何をどうしていいかもわからず、ただ立ち尽くして…結局、また愚かな選択をする。
もはや尽くす手を見出せず、黙って歩き出した、その時。
「…!!」
手を掴まれた。
ぎゅっと、強く握り締められた手を見て、それから、彼女に向き直る。
彼女は押し黙ったまま、それでも、必死で何かを伝えようとしていた。
それでも、私は一瞬躊躇した。躊躇して、それから、全ての意を決して、顔を一気に寄せる。
「……」
軽い、一瞬のキス。考えてみれば、道の真ん中だったことを完全に忘れていた。
それでも、私は構いはしなかった。ただ一縷の望みを乗せて、笑顔を作る。
「また、明日ね」
引き止めてくれた。必死に何かを訴えかけてくれた。それを糧として、私は彼女の答えを待つ。
「うん、また明日」
安心したように笑顔を見せ、私の手を離す。
私は一つ頷くと、身を翻して、帰路につく。
答えて、くれた…私を拒否しなかった!!
それがたまらなく嬉しくて、幸せで…今すぐ戻って抱き締めたい衝動を必死で押さえる。
慌てる事なんか無い。ゆっくり、少しづつ進めば良い。
彼女が私を拒絶しないならば、どれだけ私が貴女の事を好きか…少しづつ、伝えよう。
そして、いつもと違う日常が、「いつもの日常」になったなら。
そんな、幸福な日常を夢見て、私は、ただ家路を歩き続けた。

104: ◆mf4c05IqKI
08/09/13 01:45:23 8rCvOi2X
投下数記入間違えた…orz
とりあえず、がんがん行ってみた。二次待ちの皆スマン。
SSで良ければ、これからもちょこちょこ投下しようと思うのだが。
これ(↑)の続きを書こうか、それとも別路線にするかでちょっと思案中。

105:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/13 10:04:06 +2BpixSt
期待age

106:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/13 13:35:26 fTtuOb8Z
>>104
GJ
wktkして待ってる

107:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/14 00:26:08 P7zJ+2lP
つか、住人少なくね?
やっぱ多くの百合好きはPinkに張りついてんのかな?
俺はエロ無しの方が萌えるんだが…

108:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/14 00:30:09 PvF8Cn/a
住人少ないっつーか
なんの書き込みもないのにレスしにくいんだよ
人がいる気配ないと人は沸かないぜ

109:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/14 00:31:35 1tNSvtAs
エロパロ板の百合スレってエロ有り限定なの?

110:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/14 01:23:53 QQ4CMpI4
おいら純情だから見たことないんでわからないや、ぐへへ

111:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/14 02:48:16 P7zJ+2lP
一応居たんだな。
や、単純に作品投下されても反応が無いと
作者のモチベーションにかかわるんじゃないかとな。

>>109
どうなんだろな?
でもパロ板は少なくとも、パロ限定で、>>104氏の
ようなオリジナルは板違いになるんじゃね?

112:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/15 19:14:40 JW6ftiY7
えと、どなたかいらっしゃいます?

もし一次創作でもおけ、というリクエストがあれば、SS一本投下しますけど。
需要、あるのかなぁ?


113:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/15 19:23:33 /VRt62RQ
むしろ一次に期待

114:sakuya ◆GtV1IEvDgU
08/09/15 20:06:04 JW6ftiY7
おk

ではいきます。
5スレ消費予定。

注意:暗いかも、死人あり。キスすらなし。色気なくてサーセンw。

ではいきます。



115:いばらの森奇譚(1) ◆GtV1IEvDgU
08/09/15 20:10:11 JW6ftiY7

 『二年後のあたしと、道半ばにして逝ってしまった多くの戦友たちに、
  謹んでこのSSを贈ります』
                                                  さくしゃ

――――――――――――――――――――

 いばらの森奇譚

――――――――――――――――――――

 あたしは『マリア様がみてる いばらの森』という本を二冊持っている。

 一冊は自分のお金で購入したもの、もう一冊は預かったものだ。

 というか、より正確には返しそびれて、そのまま現在に至るという状態なわけ。

 何でそんなことになったかというと、少し長くなるのだけど。

 あ、ごめん、ちょっと待ってて。今、ドナーカード書きかけだから─。

    ◇

 HCUという単語を聞いたことがあるだろうか。High Care Unitの略だ。
日本語では準集中治療室、集中管理病棟、重症患者病、高度治療室などというらしい。
要するにICU、いわゆる集中治療室に入るほどではないが、それでも高度で緊急が
必要な患者のための病室だそうだ。

 その人に出会ったのは、去年あたしがある大学病院のHCUに入院していた時の
ことだった。その頃あたしはようやく危機的な状況を脱し、歩行器を使ったリハビリを
始めてた。

 HCUは意外に広い。

 そこにはたくさんの人がいた。若い人、老いた人。男の人、女の人。
わりと程度の軽い人、包帯でぐるぐる巻きにされている人、カーテンをきっちりしめて
中の様子が伺えなくなっている人、まるきり意識がなくてぐったりしてる人。
少なくとも二十人は下らなかったと思う。そんな雑多な人たちが、一列にベッドに
横たえられているのを見つめながら、あたしは一歩ずつ歩いていく。
今にも身体が崩れ落ちそうになるのを必死に我慢しながら。

 その中で、ひときわ目立つ女の人がいた。



116:いばらの森奇譚(2) ◆GtV1IEvDgU
08/09/15 20:12:10 JW6ftiY7
 多分、十代後半くらいだと思う。全体にほっそりとした造り。とても肌の色が白くて、
日本人離れした感じ。黒くて長い髪を後ろでまとめていて、きれいに整ったその顔立ちが
とても印象的な人だった。

 きっとあたしは、穴が開くほどその人のことを見つめていたんだと思う。それに
気づいたのか、彼女は読んでいた本から顔を上げ、こちらに視線を投げかけてきた。
まさかそんなことになるとは思いもしなかったあたしは、すっかり動転してしまい、
その場に立ち竦んでしまった。

 距離はもう五メートルとない。

「ごめんなさい」
 とっさにあたしの口から飛び出したのは謝罪の言葉。
「なんで謝るの」
「だって、ずっと見てたから」
 彼女がくすり、と笑う。
「ね、本は好きかな」
「まあ好きですけど」
「じゃあ、この本貸してあげる。おもしろいから」
「え?」
 何を考えているのかわからなかった。ほとんど初対面も同然の相手に、今まで自分が
読んでいた本を差し出すなんて。
「毎日リハビリしてるんでしょ。今度通りかかった時にでも返してくれればいいから」
「でも、悪いですよ」
「だいじょうぶ、私はもう何十回も読んだから。そうだな、もしよかったら、感想でも
聞かせてくれると嬉しいかも」
「その、感想は─苦手かな」
「ふふっ、そんなに構えないでよ。別に学校の宿題とかじゃないし」
 なんて柔らかい笑顔なんだろうと思った。まるで殺風景なHCUが、春の花園に
変わったような気がする。
「どんな感じだったかとか、印象に残った台詞とか、登場人物に共感できたかとか、
まあそんなところ」
 そう言ってから、不意に不安そうな表情を浮かべる。
「ダメ、かな」
 卑怯だ、それ。そんな顔されたら断れるわけない。
「努力はしてみます」
「ありがとう、優しいのね。お名前は?」
「咲夜です、柊 咲夜」
「へえ、咲夜ちゃんか。可愛らしい名前ね。あなたにぴったりだと思う」
 なぜか胸が高鳴るのを感じた。
「じゃあこれ」
 なんともいえない甘い香りが、あたしの鼻をくすぐったことだけは覚えている。


117:いばらの森奇譚(3) ◆GtV1IEvDgU
08/09/15 20:14:36 JW6ftiY7

    ◇

 なんだかふわふわした気持ちを抱えながら、あたしは自分のベッドに戻った。

 その本の題名が『マリア様がみてる いばらの森』。

 それは『いばらの森』と『白き花びら』の二本の中篇が収録されている小説本だった。
正直なところ、あたしは学園モノがあまり好きじゃない。学校にはいい思い出なんか
ほとんどないし、空想にひたるときくらい、現実のイヤなことから少しでも
遠ざかりたかった。でもあの人の不安そうな表情を思い出すと、このまま読まないで
済ませるという選択はありえない。

 読み終わってから、涙が止まらなくなった。

 そのかわり、危うく自分の呼吸が止まりそうになった。薄れゆく意識の中で、
あのイヤらしい電子アラームが警報を知らせていたことだけが、妙に記憶に残ってる。

 翌日のリハビリは中止になった。

 酸素吸入用のカニューレを取り付けられたあたしは、きっと一段とブサイクな姿に
なっていたことだろう。でもそんなことはどうでもよくて、あの人に会えない、
という単純な事実があたしを苦しめていた。

 さらにその翌日。ようやく回復したあたしは、リハビリがてら本を返しに行った。
だけど、あの人のベッドはもぬけの空だった。ただ姿が見えないというわけではない。
きれいにメイクしなおされていて、まるで人の気配がないのだ。まるで最初から
そこには誰もいなかった、といわんばかりに。仕方がないので、通りかかった
看護師さんに聞いてみることにした。

「あの、ここの人ってもう一般病棟に移ったりしたんでしょうか」
「何か用でもあるの」
「本を借りたので、返したくて」
「そっか……」
 一瞬だけ、看護師さんが思案顔になる。
「悪いけどその本、しばらく預かっておいてくれないかな。そのほうが、彼女も
きっと喜ぶと思うし」
 看護師さんの優しい笑顔の奥にしまい込まれた、深い悲しみの色をあたしは見た。

 そして理解してしまったのだ。
 あの人はもうこの世にはいない、ということを。

 その後のことはほとんど覚えていない。


 それからさらに三日間、あたしはリハビリできなかった。


118:いばらの森奇譚(4) ◆GtV1IEvDgU
08/09/15 20:17:46 JW6ftiY7

    ◇

 退院してから『マリア様がみてる』を全巻買いそろえた。そうすることによって、
少しでもあの人に近づきたいと思った。『いばらの森』ももう一冊購入して、
あの人に借りた方は大切にラッピングしてしまい込んである。

 今も週に一度はリハビリのために、月に一度は神経内科の診察のために、片道
三時間かけて大学病院に通ってる。そして再診受付機の行列で、待合室での順番待ちで、ふと気がつくと、あたしはあの人の面影を捜し求めているのだ。名前すら知らない
あの人のことを。

 恋と呼ぶには、この感情はあまりにも儚すぎる。
 無理もない。育てる暇すら与えられなかったのだから。
 だから今もあたしは、この感情をもてあましてる。

 多分あの日、あたしは半分死んでしまったのだと思う。
 でも不思議と悲しみは涌いてこない。

 あの人は一足先に逝ってしまったけど、再会できるのは実はそんなに遠いことじゃない。
一時は持ち直したものの、最近になってあたしの病状は再び悪化し始めてる。この間も
駅のホームで転倒した。杖を頼りに歩いているけど、それを持つ手もだんだんと力が
入らなくなっているんだ。今はなんとか隠し通しているけど、バレるのは時間の問題。

 いつまで自力で病院に通えるかもわからない。
 通えなくなったら、またもや入院だろう。
 そして多分、二度とは退院できない。

 身体中の筋肉が次第に動かなくなり、やがては呼吸筋も麻痺して自力呼吸すら
できなくなってしまう。それがあたしの病気。十代の、しかも女の子がこの病気を
発症するのは、かなりめずらしいことらしい。


119:いばらの森奇譚(5) ◆GtV1IEvDgU
08/09/15 20:20:09 JW6ftiY7

 治療法は、もちろんない。

 死ぬのは別にかまわないけど、呼吸困難を起こした時の苦しさだけは未だに
慣れることができない。ああそれと、親達が哀しむのはちょっとイヤかも。

 ただ、もし許されるのなら、せめて十五歳までは生きてみたいと思う。そうなれば、
あたしの臓器を他の困っている人にあげることができるから。

 残念ながら今の日本の法律では、十三歳のあたしが臓器提供をしたいと申し出ても、
それが許されることはない。だが十五歳になれば、自らの意思で提供できるように
なるのだ。もしあたしの死が誰かの生につながるのであれば、それはそれで意味のある
ことではないだろうか。あたしの人生も無駄じゃなかった。そんなに捨てたものじゃ
なかった。そんな風に思えるかもしれない。いくらなんでも甘すぎるだろうか?

 やがてやってくる未来。
 誰にも変えることのできない未来。
 たとえ神さまにだって変えることのできない未来。

 でもそれは、あの人に会える未来。

 親達には悪いけど、やっぱりあたしは、少しだけ楽しみにしてる。
 あの人と話したいことが、あたしにはそれこそ山のようにあるのだ。

 でもとりあえずは、あの人の名前を聞くことから始めてみようかな。

  (Fin)



120:sakuya ◆GtV1IEvDgU
08/09/15 20:22:21 JW6ftiY7
以上です。

ありがとうございました。


121:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/15 20:30:44 /VRt62RQ


122:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/15 20:51:07 N4VjNVC5
いばらの森はマリみての話の中でも五本の指に入る話だ

123:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/15 21:57:40 6QZPj3Cs
。・゚・(ノД`)・゚・。

124:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/16 05:54:32 KQ4TiQR9
改行がタイミング良くて非常に読みやすかった。
そして、中身も……感動した。

125:sakuya ◆GtV1IEvDgU
08/09/17 06:07:28 H0n2ttpl
ども。
こりずにまたやってきました。

『いばらの森奇譚』ですが、お楽しみいただけたでしょうか?

実はこの作品、実在の人物をモデルにしています。作品化するにあたっては、匿名を条件に本人からの許可は取っています。
作中では「治療法はない」と書きましたが、本当は延命させる薬が臨床試験段階にあって、それを使用すれば二~三年は
生き延びられる可能性があるそうです。しかし彼女は、頑なに使用を拒否しています。

『もしも内臓に薬が残って、それが移植の妨げになったら困るから』

それが理由だそうです。

せめて本作をお読みいただいた方々にだけでも、彼女の物語の片鱗が残っていただければ、と思います。
今の日本にも、これだけ絶望的な戦いを強いられ、それでもなお懸命に前を向いて歩いている女の子がいるのか、と。



さて、本日は「らき☆すた」天原ふゆき先生の誕生日ということで、「ひかるxふゆき」でいってみます。
本当は夜にうpするつもりだったのですが、ちと今夜は別件で忙しいので、出かける前に。

あ、今回はもう少し明るいですよw。

ではいきます。
4スレ消費予定。



126:小さな奇跡は今日も続く(1) ◆GtV1IEvDgU
08/09/17 06:11:54 H0n2ttpl
――――――――――――――――――――

『小さな奇跡は今日も続く』

――――――――――――――――――――

 九月だというのに、いや,まだ九月だからと言うべきだろうか。今日も朝から残暑が
厳しい一日だった。六時限目が空きでなければ、タバコなしではいられなかったかもしれない。
口にくわえた禁煙パイポを噛み締めながら、そんなことをぼんやりと考えていた。
もちろん、手を動かすことだけは忘れていない。普段の私をよく知る人間がこの光景を
目撃したら、この世の終わりが来たと嘆き悲しむか、あるいはある種の小さな奇跡などと
評してくれるだろうか。

 こうして貴重な空き時間を利用して、私が職員室の自分のデスクでせっせとネイルケアに
いそしんでいると、世界史の黒井先生が声をかけてきた。
「お、桜庭先生。ずいぶんと高級そうなヤスリですな」
 生徒達には人気があり、背が高い上にスタイルもなかなかのものな彼女であるが、
不思議と色恋沙汰の噂は聞かない。どうもさばけ過ぎている性格に問題があるのではないか、
と私は考えているのだが、もちろん真相はわからない。
「ええ、なんでもクリスタルガラスだとかで」
 隣のクラスの担任の先生のことを、なんの理由もなく無視するわけにもいかない。
しかたなく私は手を休めると、蛍光灯の光を浴びて燦然と輝くクリスタルガラス製の
ヤスリ─確か正式には〝クリスタルグラスファイル〟とか言うそうだ─をかざして見せた。
「そりゃごっつ豪勢ですな。でもそんなに熱心に手入れしとると、そのうち爪がのうなって
しまうんと違いますか」
「ははっ、そうならないように気をつけます」

 お前のチェコの土産物、ずいぶんと好評みたいだぞ、ふゆき。


127:小さな奇跡は今日も続く(2) ◆GtV1IEvDgU
08/09/17 06:15:03 H0n2ttpl

     ◇

 帰りのホームルームが終わるや否や、さっさと教室を飛び出そうとしていた柊かがみを、
私はとっさに呼び止めた。
「よう、柊」
「なんですか、先生」
 彼女は控えめにいってもかなりの美少女の部類に入るだろう。背は高すぎず低からず、
総合的なプロポーションも水準以上。整った顔立ちに気の強さを表す、ややつり目気味の
瞳が印象的。しかも成績優秀で面倒見もなかなかいいとくれば、これはもう放っておけと
いう方が無理というもの。ただ唯一にして最大の障害は、彼女にはすでに想い人がいて、
それをクラスの大半が認識しているという単純な事実だった。

「まあなんだ、お前の嫁とは仲良くやってるのか?」
「は? ええ、まあ」
 おやおや、てっきり『べ、別にあいつなんかとは……』的な反応が返ってくるものと
期待していたのだが。どうやらこれは、夏休みの間にかなりの進展があったものらしい。
「ほお、どうやら、ほんとにうまくいってるようだな」
「先生のご想像にお任せします」
 柊はしれっと言ってのけた。こういう態度を取られると、ただ引き下がるのもおもしろくない。
「いいのか? じゃあ、あーんなこととか、こーんなこととか─」
「先生?」
 おっと、かなり本気で睨まれてしまった。
「冗談だ。そんな怖い顔をするな。せっかくの美少女が台無しだぞ。まあ泉には別の意見が
あるかもしれんが」
「そ、そんなことないですよ。もう、やだな先生、からかうのもいい加減にしてください」
 泉の名前を出したとたんにうろたえてしまうあたり、まだまだ若いな、柊。
「悪かった。ま、お前達がうまくいってるなら別にいい」
「ありがとうございます」

 ふと気になったので、もう少しだけ揺さぶってみることにした。
「ところでお前、ネイルケアはちゃんとしてるか」
「は?」
 なんのことかわからない、という風に柊は首を傾げた。
「いや、なんでもない」
 この調子なら、あちら方面の指導はもう少し先でいいだろう。
「まあそのなんだ、学生時代に育んだ親愛の情は何物にも変えがたい一生の宝だ。大事にしろよ」
「はい、わかりました。先生方もがんばってくださいね」
「うむ」
 そういうと、一分一秒も惜しいという感じで、柊は廊下へと飛び出していった。おそらく
行き先は、隣の教室で彼女のことを待ち焦がれている泉こなたのところだろう。

 それにしても、だ。

 柊の言う『先生方』というのが、私とふゆきのことを指しているのは言うまでもない。
まったく、あいつのツッコミにも一段と磨きがかかってきたな。だが教師相手に冗談を
飛ばすようなタイプじゃないと思っていたが、どうやら泉と付き合うようになったおかげで
多少は人間が丸くなったと見える。
「先生方、か」
 せっかくだから、今日はひとつ、ふゆきの奴でも誘ってみるか。

128:小さな奇跡は今日も続く(3) ◆GtV1IEvDgU
08/09/17 06:18:08 H0n2ttpl

     ◇

 放課後の保健室は閑散としている。
「ふゆきー、いるか~♪」
「せめて学校では先生をつけてください。桜庭先生」
 もちろん、ここの管理責任者として陵桜学園に知らぬものがない美人看護教諭、
天原ふゆき大先生様の存在を除けばだが。
 しかし、どうして彼女と私がこうした関係に陥ってしまったのか、未だによくわからない。

 いい所のお嬢さまのふゆき、まるっきり庶民の私。
 おっとりとした物腰のふゆき、瞬間湯沸かし器の私。
 細やかな配慮が行き届くふゆき、ずぼらな私。
 長身のふゆき、短躯な私。

 こうして並べ立ててみても、およそ共通点などどこにもない。これはもうフェルマーの
最終定理を証明するよりも難しい問題ではなかろうか。時には『小さな奇跡』とでも呼びたい
気分になることもある。もちろん、そんなこっ恥ずかしい台詞は口が裂けても吐けないが。
「他人行儀なことを言うな。私とお前の仲じゃないか」
「どんな仲ですか」
 そして彼女の視線に晒されると、なぜか私は少し落ち着かない気分を覚えてしまう。
すべてを見透かされているのではないか、という怖れを感じるからだろうか。

「ええと、幼馴染?」
「こんな手のかかる幼馴染なんていりません」
「ええと、親子?」
「余計に嫌です」
「じゃあどんなのがお望みなんだ」
「言ってもいいんですか」
「……今日のところは遠慮しとく」
「もぅ」

 二の句を継ぐ代わりに、ふゆきは深い深いため息をついた。それから何かを思いついたらしく、
目をキラッ☆と光らせる。


129:小さな奇跡は今日も続く(4) ◆GtV1IEvDgU
08/09/17 06:23:03 H0n2ttpl
「そういえば─」
 そう言うなり、ふゆきはおもむろに立ち上がった。そのまま私の方にずんずんと歩み寄ってくる。
そして私の頭に顔を寄せると、すうっと息を吸い込んだ。まったく、いちいちこういう動作が
嫌になるほどサマになる。これが出自の違いという奴だろうか。
「な、なんだよ」
「よしよし、今日一日はちゃんと禁煙できているようですね」
「だからってそういう風に人の頭を撫でるのはやめてくれないか」
 私は抗議したが、ふゆきはただクスクスと笑っているだけだった。どうやら機嫌自体は
悪くないようだ。これなら多少無茶なお願いをしても大丈夫だろう。

「なあ、今日は泊まってけ」
「はあ? 急にそんなこと言われても困ります」
「晩飯はカレーがいいな。骨付きモモ肉のチキンカレー」
「少しは人の話を聞いてください」
「あ、それとビールも買ってきてくれ」
「ビールは嫌です。だって臭いんですもの」
「じゃ、ワインで。安い奴でいい。銘柄はまかせる」
「……ほんとに、今日だけですからね」
 久しぶりに小さな勝利の味をかみ締める。だからつい気が緩んで、余計な一言を
付け加えてしまったのも無理はない。
「そうそう、今日もネイルケアだけはちゃんとしといたからな」
 すると、ふゆきの目がすうっと細くなる。
「下品な人は嫌いです」

 それから機嫌を直してもらうのに、小一時間ほどかかった。

 だいたいお前、そういうことを期待してあの〝クリスタルグラスファイル〟を私に
押し付けたんじゃないのか、とツッコんでみたかったが、そんなたわ言を口走った日には
一生口を聞いてもらえないかもしれないと思ったので、結局黙っていることにした。

 こうして小さな奇跡は、今日も続いてる。

  (Fin)



130:sakuya ◆GtV1IEvDgU
08/09/17 06:26:27 H0n2ttpl
以上です。

ありがとうございました。


131:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/21 08:40:25 E30TTbZ7
GJ!

さて。何を期待して爪磨き渡したのかkwsk

132:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/21 17:20:50 J108I+Yr
長い事ネットから離れてたら、過疎ってて慌てて俺、参上
とにもかくにもGJ!

>>131
そんな事聞くのは野暮ってもんだぜ…俺から言えるのは

つ 風俗の待合室

133:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/21 17:23:24 7HfCFHXy
「ホモとにかくホモ」スレはないんだな

134:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/21 17:24:39 UxW0xFay
おお、投下来てるGJ!

>>133
立てたいなら立てれw

135:sakuya ◆GtV1IEvDgU
08/09/22 19:53:34 boPL5szi
>>126
ども。
先日、『小さな奇跡は今日も続く』をうpしたものです。
こりずにまたやってきました。

こんなキスシーンもないようなヘタレなSSに、ご声援ありがとうございました。

自分的には、ふゆきは週末になると、きっとひかるのアパートに泊まってるんじゃないかと思ってますw。
そっちも書いてみたいんですけど……うおおお、い、いかん。自重するっすw。


136:sakuya ◆GtV1IEvDgU
08/09/22 20:49:15 boPL5szi
こちらは職人の方って、あまりいらっしゃらないんですかね?

あんまり百合っぽくないのですが、支援を兼ねてうpします。
またもや「らき☆すた」の二次創作ですが、今度は少し長いです。しかも趣味全開w。

10スレ消費予定。
ではいきます。

137:我等が倶楽部へようこそ(1) ◆GtV1IEvDgU
08/09/22 20:51:17 boPL5szi

 ─この崩れかけた世界の片隅で
 ─人知れず朽ち果てようとしていた私の心。

───────────────────

『我等が倶楽部へようこそ』

    ─高良みゆきの優しい架空戦記入門─

───────────────────


 夢とは何でしょうか?
 たとえば脳の電気信号のなせる技とか、あるいは記憶の整理とか、諸説ありますね。

 そもそも一口で夢といっても、いろいろな種類があります。
 正夢とか予知夢とか、あるいは悪夢とか。

 では私が繰り返し見るあの夢とは、いったいなんなのでしょう。

 わからない、でも、わかっているのです。
 それは遠い昔の、幼いころの自分の姿。
 もう二度と思い出したくない、とても苦い記憶なのでした─。


138:我等が倶楽部へようこそ(2) ◆GtV1IEvDgU
08/09/22 20:52:44 boPL5szi

    ◇

「にげたぞっ」
 情け容赦なく照りつける八月の日差し。
 抜けるような群青色の空に浮かぶ、まるで綿菓子を思わせる真っ白い断雲。

「あっちだっ」
 陽炎でゆらめく、かなたの色鮮やかな新緑の林。
 整然と並ぶキャベツたち。

「おっかけろっ!」
 心和む用水路のせせらぎ。
 手足にまとわりつく生暖かかい風。
 むせ返るような土ぼこりと自分の汗の匂い。

 そして私たちが駆け抜けていくのは、深いわだちの跡が残る、凸凹だらけのあぜ道。

「みゆきちゃん、がんばって!」
 自分の名を呼ばれ、思わず振り返りそうになりました。
 でもそんなことをしたら最後、あっという間にお目当ての物を見失ってしまいます。
 しかたがないので「うんっ」と返事だけして、手にした捕虫網をぐいっと握り直しました。

 私たちが次の獲物と見定めたのは、一匹のとてつもなく美しいトンボ。
 それは幼い自分の手のひらよりも大きくて、キラキラと羽が銀色に輝いていて、
 クリクリとよく動く黄緑色の頭で私のことを見つめていたのです。
 是が非でもあれを自分のものにしたい。そう思いました。

「えいっ」
 狭い用水路を一息で飛び越え。
 広大なキャベツ畑を猛然と踏み荒らし。
 いつの間にか目前には林が迫ってきていました。
 ですがその頃の私は、まだ『諦める』という言葉を知らなかったのです。

「はあ、はあ、はあっ」
 喉が酸素を求めて震えます。
 心臓が早鐘のように鳴り響きます。
 身体中から滝のように汗が吹き出します。
 でもそんな私のことをまるであざ笑うかのように、トンボは軽やかに宙を舞っていて。
 残念ですがこのままでは、とても追いつけそうにありません。
 それでも絶対逃がしたくない。その一心で、私は無我夢中で捕虫網を振り回しました。

 ─届け。

 もしかすると何か超自然的な存在が、私のことを哀れんでくれたのかも知れません。
 ふと気がつくと、網には件のトンボがしっかりと捕らえられていたのでした。
「やったぁ!」
 嬉々として網に手を入れ、慎重にトンボを取り出すと、私はみなさんにもよく見えるように
高々と獲物を掲げました。
「ほらみて、つかまえたよ。こーんなにおおきなトンボ!」
 ところが、期待した反応はどこからもありません。
「あれ」
 不思議に思い周りを見回すと、先ほどまで一緒にトンボを追いかけていたはずの友達や
親戚の子ども達が、奇妙なことに誰一人として見当たらなかったのです。
「ねえみんな─どこ?」
 そう、私は見慣れぬ景色の中にただひとり、ポツンと取り残されていたのでした。
 それまで生暖かかったはずの風が、なぜか急に嘘寒いものに感じられたことを覚えています。

 そして─。

139:我等が倶楽部へようこそ(3) ◆GtV1IEvDgU
08/09/22 20:55:03 boPL5szi


    ◇

 いつものように、ここで目が覚めました。

 八畳ほどの私の寝室は、何事もなく暗闇と静寂に包まれています。

 ベッドから半身を起こし、枕もとの時計を手に取ると、まだ午前二時をほんの少し回ったばかり。
ひとりで眠るのがあたりまえになった昨今ですが、あの夢を見てしまった後だけは、ほんの少しだけ
人恋しくなりますね。

 でもまさか高校生にもなって、別室で眠りこけているはずの母の懐に潜りこむ、というわけにも
いきませんし。しかたがないので、朝になるまで膝を抱えて丸くなることにしました。

 本を読むことが何よりも好き。
 ネットで新たな知識の欠片を見つけることが無上の喜び。 
 探せば探すほど、そして識れば識るほど、知の世界は奥が深くて底が知れない。
 それほどまでにこの世界は、新たな発見に満ちている。
 とても、とてもワクワクします。

 この喜びを、誰かと分かち合いたい。
 誰も見たことのない、この私だけが見ている光景を共有したい。
 そう願っていたこともありました。

 けれど。

 何かに夢中になるといつの間にか周りが見えなくなって。
 ふと振り返るとそこには誰もいなくなって。
 いつもひとりっきりで取り残されている。
 私が丹精込めて守り育てた、この秘密の花園を共に眺めてくれる人など、どこにもいない。

 あれからずいぶんと身体も成長した。
 比較にならないほどの知識も身につけた。
 なのにあの頃から、何ひとつ状況は変わっていない気がします。

 どこでも、ひとりぼっち。
 いつも、ひとりぼっち。

 もう、慣れた。
 もう、諦めた。

 ─嘘つき。


140:sakuya ◆GtV1IEvDgU
08/09/22 21:03:17 boPL5szi
ごめんなさい。
急用ができてしまったので中断させてください。

続きのうpは、少なくとも明日(9/23)夕方以降の予定。

141:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/22 21:38:19 4R4at11c
wktk

142:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/23 00:21:07 Mk5GoWDs
ワクワクテカテカ

143:sakuya ◆GtV1IEvDgU
08/09/23 18:30:30 0yOrfqwy
すいませんでした。再開します。

書き忘れてましたが「みゆきxかがみ」ですw



144:我等が倶楽部へようこそ(4) ◆GtV1IEvDgU
08/09/23 18:32:40 0yOrfqwy
>>139の続き


    ◇

 翌朝。
 私が眠い目をこすりながら、ダイニングでいつもより少な目の朝食を取っていると、母が
心配そうな表情を浮かべながら話しかけてきました。
「みゆき、なんだか顔色がよくないわよ。ひょっとして風邪でも引いた?」
「いえ、決してそういうわけでは。昨日はあまりよく眠れなかったので、
 おそらくそのせいではないかと」
「そうなの。じゃあ、お母さんがとっておきの飲み物を用意してあげる」
「いえそんな、どうぞお気遣いなく」
「いいからいいから。ちょっと待っててね」

 しばらくして戻ってきた彼女から、私は小さなマグカップを受け取りました。外見は、
まあ普通です。それに香りも特に問題なさそう。試しに一口含んでみます。

 なんとも形容しがたい、摩訶不思議な味が口の中いっぱいに広がりました。

 コーヒーのような、牛乳のような、でもとても甘ったるくて。どうやら通常の三倍は
砂糖が入っているようです。
「あの、これは……」
「アーモンド・オレ。おいしいでしょ」
「は、はあ」

 ニコニコと微笑んでいる母の顔を見ていると、私はそれ以上何も言えなくなってしまうのです。
でもだからといって、このままでは私の味覚神経がどうにかなりそうですね。なんとか口実を
見つけてこの場を切り抜けないと。
「あ、そろそろ用意をしないと遅刻してしまいますね。では、歯を磨いてまいります」
「あらそうなの。でもアーモンド・オレ、まだ残ってるわよ」
 あうう、どこまでも自由な人なのですよね、この人は。母に気取られないよう、ひそかに
私は涙をぬぐうのでした。


145:我等が倶楽部へようこそ(5) ◆GtV1IEvDgU
08/09/23 18:34:22 0yOrfqwy


    ◇

 以前よりは学校もずいぶんと楽しい場所になりました。仲のいいお友達もできましたし。
でも気を引き締めていないと、ついつい暴走してしまうわけで。

「レイテ沖海戦とは、昭和十九年十月二三日から二五日にかけてフィリピン及びフィリピン
周辺海域で発生した、日本海軍と米海軍との間で交わされた一連の海戦の総称です。別名、
比島沖海戦とも呼ばれるようですね」

 私の目の前には、ふたりのお友達がいらっしゃいます。

 泉こなたさんは瑠璃色の長い髪と、常にどこか遠くを眺めているかのような翠色の瞳が
とても印象的な女の子。とにかく話題が豊富で、おもしろいお話もたくさんご存知ですね。
ただ残念なことに、私にはよくわからない概念も含まれているのですけど。たとえば『萌え』とか。

 柊つかささんは菫色のショートカットにリボンがよく似合う、とても可愛らしい印象を
振りまく女の子です。泉さんには時々『天然』とからかわれることもありますが、
そのふわふわとした人当たりのよさが実は最大の魅力なのではないか、と思いますね。

「直接的にはシブヤン海海戦、スリガオ海峡海戦、エンガノ岬沖海戦、サマール沖海戦の
四つの海戦からなります」

 おふたりは何も言わず、黙って私の話に耳を傾けてくれています。それをいいことに、
私は少しばかりヒートアップしてしまいました。海戦の背景、推移、評価など、私はただ
思いつくままに述べ立てていきます。

「というわけで、昭和十九年十月二五日をもって日本海軍の組織的抵抗は実質的に終焉した、
と結論していいのではないでしょうか」

 そう言い終えてからようやく、しまったと思いました。空気も読めないまま勢いにまかせ、
ただ自分の知識をひけらかしてしまう。いつもこうやって周りを白けさせてしまうのでしょうね。
いい加減、少しは私も学習しないといけない。

 ─しょせん、私はひとりぼっちですか。

 そう思って私ががっくりと肩を落とした、まさにその時のことでした。


146:我等が倶楽部へようこそ(6) ◆GtV1IEvDgU
08/09/23 18:37:10 0yOrfqwy

「まあそれはもっともだと思うんだけど、みゆき?」
 ふふっ、といたずらな笑顔を浮かべながら現われたのは、つややかな菫色の長い髪を後ろで
二つにまとめた、ちょっぴり気の強そうな少女でした。彼女は隣のクラスの学級委員で、
柊つかささんの双子のお姉さん。ファーストネームはかがみ。ええ、柊かがみさん。

「はい、何でしょうか」
 私は彼女の目を真正面から見据えると、次の言葉を待ちます。
「もしあの時、サマール島沖で第一遊撃部隊が引き返さなかったとしたら、戦いの行方は
どうなっていたと思う?」
「え?」
 予想外の問いかけに、私は戸惑いを隠し切れませんでした。

 まったく、なんということでしょう。私の話をきちんと把握して、そのうえ想像を超える質問を
返してくれる同い年の女の子が、まさかこの世にいようとは。さすがは高等学校というべきでしょうか。

 どうやら少しばかり甘く見ていたようですね、今の今まで。

「そうですね─」
 一呼吸置いて時間を稼ぎつつ、私は答えをはじき出すために頭をフル回転させます。
「当時サマール沖に展開していたのは、米第七艦隊の旧式戦艦群と護衛部隊ですね。
米軍側は他に第三艦隊として一三隻の正規空母と六隻の新式戦艦を参加させていましたが、
これらは小沢治三郎中将の指揮する日本第三艦隊に誘引され、この時点での戦闘加入は
不可能でした。ですから、おそらくは第一遊撃部隊とレイテ湾突入を阻止しようとする
第七艦隊との間で、海戦史上最後の戦艦同士の戦闘が発生する、と予測されます」
「レイテ湾突入の可能性についてはどう?」
 すかさず、かがみさんが追求してきます。

 ─久しぶりに味わうこの高揚感。

「どうでしょうか。第七艦隊の弾薬については前夜の第二、第三遊撃部隊との戦闘で
ほぼ射耗していたという説、一会戦分くらいは残っていた説など諸説ありますし。
一方の第一遊撃部隊の将兵達も連日の戦闘で疲れ切っていたはずなので、
こればかりは実際に戦ってみないとわからないですね」
「じゃあ仮に突入できた、としてだけど。確かあの時、ダグラス・マッカーサー陸軍大将は
第七艦隊の旗艦、軽巡洋艦『ナッシュビル』に乗って、全般指揮を執っていたはずよね」
「ええ。すでに上陸していたという説もありますが、乗っていた可能性も否定はできません」

 ─それはまるで打てば響くかのようで。

「もし戦闘に巻き込まれてしまった、としたら」
「命を落とすことになっていたかもしれませんね、確かに」
 彼女の意図をはかりかねながらも、私はそう答えました。
「そこでマッカーサーが戦死してしまったら、その後歴史はどう転換したのかな。
 ぜひ、みゆきの意見を聞いてみたいんだけど」
「そうですね。歴史にIFは無いと言いますが、なかなか興味深いテーマですね、それは」
「でしょ。きっとみゆきなら話に乗ってくれると思った」
 ニコニコと素敵な笑顔を浮かべながら、かがみさんは自分の鞄を開けると、そこから何かを
取り出しました。
「そんなみゆきには、ぜひこの本をお勧めするわ」
「これは?」
「ぶっちゃけ架空戦記モノの小説なんだけどね。ただし、そのあたりに転がってる妖しげなヤツとは
一味違うのよ」
「架空戦記、ですか」
 あの、せっかくのところ申し訳ないのですが、その手のトンデモ本はちょっと……。
「まあまあ、そんな微妙な顔しないで。しばらく貸しておくからさ。だまされたと思って
読んでみて。お願い」
「……わかりました。かがみさんがそこまでおっしゃるのでしたら、喜んで」


147:我等が倶楽部へようこそ(7) ◆GtV1IEvDgU
08/09/23 18:40:02 0yOrfqwy
 そんなやり取りを小耳にはさみながら、私はさきほどかがみさんにお借りした、
白いビニール袋の中身を確認してみました。
 そこには少々くたびれた感のある、紺色の文庫本が三冊入っています。周りの誰にも
気づかれないように、私はそのうちの一冊をそっと手に取りました。いかにもそれらしい表紙に、
表題が漢字で二文字。

「『征途』、ですか」

 仕方がありませんね。帰りの電車で読んでみることにしましょう。

 ─何かが、始まろうとしていました。


    ◇

 全国一億三千万人の架空戦記ファンの皆様、本当に申し訳ありません。
 正直、このジャンルを軽く見ていたことを、深く懺悔いたします。

 今までの私の認識では、トンデモ兵器で日本が勝利してしまうとか、後世世界がどうしたとか、
そのようなかなり妖しげなエンターテイメント小説、というモノでした。でも今回、かがみさんから
お借りした本は、そうした私の思い込みを根底からひっくり返すものだったのです。うーん、
これは少しばかり認識を改めないといけませんね。

 かがみさんが私に貸してくれた珠玉の三冊。それは、ひょっとしたらありえたかも知れない、
もうひとつの日本の物語なのでした。

 第二次世界大戦の末期。

 史実とは異なるレイテ沖海戦の日本海軍の局所的勝利により、米軍は甚大な損害を受けて
しまいます。これにより日本侵攻作戦のスケジュールは大幅に狂い、結果的にソ連の北海道上陸
という事態を招きます。このため以後の日本は、分断国家としての歴史を歩むことになって
しまうのです。また同時にそれは、ある一組の兄弟の仲を引き裂くことにもなってしまいました。
この物語は兄弟の数奇な運命をを軸に、展開していくことになります。

 さて、この世界の日本の戦後史は、ある意味とてもドラマチックです。朝鮮戦争と呼応して
発生する北海道戦争、ベトナム戦争、湾岸戦争、そして統一戦争。これらを通じて日本の
国際的な立場は大幅に向上していきます。

 ただし、少なからぬ犠牲と引き換えに。

 そして兄弟たちもまた、これらの戦いに否応なしに巻き込まれていくのです。『見栄と諧謔』と
いう武器を片手に、黙々と死地におもむく人たちの姿はあまりにも魅力的で、それ故にとても哀しい。
独特の乾いた文体も、それを一層際立たせているような気がします。

 主人公の兄弟たちはもちろんですが、彼らと共に歴史に翻弄されていく脇役達も、それぞれに
存在感を発揮しています。

 たとえば、戦車将校の福田定一。

 現実世界では作家『司馬遼太郎』として高名な方ですが、この物語では北海道戦争の開戦と共に
応召し、軍人として半生を過ごすことになります。常に『何のための戦いだ。何のための勝利だ』と
自問しつつ、しかしその優秀な頭脳と決断力で、しばしば劣勢をはね返し自軍を勝利に導いていきます。
ですがその活躍ゆえに反戦派からは目の敵にされ、あまりに政治的な存在になってしまったために、
味方であるはずの自衛隊からも疎まれ、ついには放逐されてしまうという悲劇的結末を迎えます。


148:我等が倶楽部へようこそ(8) ◆GtV1IEvDgU
08/09/23 18:41:49 0yOrfqwy

 そんな救われないエピソードが、この物語には満載されているのです。

 もちろん、首を傾げたくなるような部分がないわけではありません。たとえば、あまりにも
強すぎる『大和』級戦艦とか。まあ基本がエンターテイメント小説ということを考えれば、
仕方がないことかもしれませんね。

 ただ、もうひとりの主人公とでも呼ぶべき戦艦「大和」または護衛艦<やまと>は、
そのような欠点を割り引いても充分な魅力にあふれていています。第二次世界大戦を生き残り、
時代遅れの存在と蔑まれ、ついにはイージス艦として生まれ変わり、幾多の戦争を戦い抜いて
いくその姿には感動すら覚えます。もし彼女に意識が宿ったとしたら、はたしてどのような
感想を述べることでしょうか。

 ぜひとも聞いてみたい、と思うのです。

 なぜなら私は、この物語の<やまと>と、共に戦う人たちにすっかり魅せられてしまったから。

 たとえば目をつぶると、こんな光景が浮かんできますね─。



 そこは北海道稚内沖を驀進する海上保安庁海上警備隊・超甲型警備艦<やまと>の昼戦艦橋で。

 眼前にはソ連の義勇艦隊と『北日本』の赤衛艦隊が展開しています。

 それに目がけて<やまと>の十八インチ主砲が六年ぶりに火を噴く。

 巨大な炎と轟音、そして黒煙が上甲板で炸裂し、それから一瞬遅れて押し寄せてきた
濃密な硝煙の匂いに襲われ、思わずむせ返りそうになります。そしてそのあまりにも壮絶な
光景に何事かを感じてしまい、つい私は大声で叫んでしまうのです。

「四六サンチ!」

 それを聞いた艦橋の人々が私に笑みを向けてきます。でもそれは決して冷笑とかの類ではなく、
たとえて言えば、大事な玩具を友達に見せびらかした子どものような笑い。

 そして艦長の猪口敏平一等海上保安正が、私のほうへ振り返るとこうおっしゃるのです。

「我らが倶楽部へようこそ、高良みゆき」

 なんて─。



 そんな風に考えただけで、なんだか胸がドキドキします。

 あ、でもひょっとすると、少しばかりヘンな娘ですね、私。
 いえいえ、少しどころではないですね。
 かなり、かなり恥ずかしい─かも。
 あまり外では妄想しないように、気をつけなければいけませんね……。

 ─それはとても甘やかな、煉獄からの召還状。


149:我等が倶楽部へようこそ(9) ◆GtV1IEvDgU
08/09/23 18:44:08 0yOrfqwy


    ◇

 日曜日の朝、かがみさんと糟日部の駅のホームで待ち合わせをしました。
「ごめんね、わざわざ日曜にこんなところまで呼び出しちゃって」
「いえ、私はかまいませんよ。ここなら私たちはどちらも定期で来れますから、
交通費の心配もしなくてすみますし」
「いやー、そう言ってもらえると助かるわ。実をいうと今月、結構ピンチだったのよね」
 そう言うと、かがみさんはどこか照れくさそうな笑みを浮かべるのでした。

 私たちは駅を出て、駅前のロータリーの歩道を並んで歩きます。
 春の朝日が意外なほどまぶしいです。
 さわやかな涼風が私の背中を後押しします。

 お休みのせいか、人通りや自動車もとても少なくて、まるでこの世界が、私たちのためだけに
存在しているかのような気がしてきます。そういえば、普段通学に使うこの駅ですが、あまり
周りを散策したことはないですね。せいぜい近所のマクドナルドに、みなさんと立ち寄るくらい
でしょうか。

 まもなく私たちは通りを外れ、狭い路地裏を縫うように進んでいきます。残念なことに陽光の
恩恵は、どうやら路地裏までは及んでいないようでした。辺りには微かに腐臭が漂っています。
それどころか空気自体、ほのかによどんでいるような気がします。さきほどまで歩いていた
駅前とのあまりの雰囲気の違いに、私はすっかり戸惑ってしまいました。

「こんなところは初めて来ましたが、とても興味深いですね」
 すると、かがみさんがフォローするように口を開きます。
「実は私もついこの間、こなたに教えてもらったばっかりなの。あいつ、普段は閉じこもりの
クセに、妙に情報通なのよね。まあ外見はちょっとヤバいけど、中は結構感じのいい店だから、
みゆきもきっと気に入ると思うな」
「そうなんですか。それはとても楽しみです」

 やがて、かがみさんが立ち止まったのは、今にも壁が落ちそうな三階建ての雑居ビルの前。
目の前には長年の風雨にさらされ、すっかりくすんでいる木製のドア。そこには木彫りの
『OPEN』と書かれた札が無造作にかけられています。ひょっとしてお店の名前なのでしょうか、
ドアのそばに小さく『地球の緑の丘』と書かれた、真ちゅう製のプレートがはめ込められていました。

 かがみさんがドアを開けると、カランコロンと涼やかな鈴が鳴ります。
「さ、どうぞ」
 かがみさんの後に続いて、私も中に入ります。
「失礼します」

 ほの暗い室内には、微かにコーヒーの香りが漂っています。
 静かな、それでいて心地よい音楽が耳をくすぐります。
 壁には古ぼけた無数のポスターが貼られていて。
 二人がけの席がみっつと、四人がけの小さなカウンターがあるだけ。
 なにかしら人生を感じさせる初老のマスターが、無言の会釈で私たちを迎えてくれます。

 それはとても小さくて、どこか退廃的で、まるで時間が静止したような喫茶店。
 足を踏み入れて三歩と行かないうちに、私はこのお店のことがすっかり気に入ってしまったのでした。

 ─そして私は世界の境界を踏み越える。


150:我等が倶楽部へようこそ(10) ◆GtV1IEvDgU
08/09/23 18:46:18 0yOrfqwy


    ◇

「ね、なかなかいい感じでしょ」
 ちらりと、かがみさんが笑みを浮かべます。
「ここなら、時間を気にせず思いっきり話せると思うんだ」
「でも大丈夫なんでしょうか。あまり席もないようですし。こういうお店には、意外に常連さん
などいらっしゃるのではありませんか?」
「あはは、へーきへーき。その点は問題なし。実はここ、そんなに繁盛してないし。マックと
違ってコーヒー一杯で何時間粘ってもOKだから」
「そういうものなのですか」
「そういうものなのよ」

 私たちは、二人がけの席のひとつに腰を下ろします。そうなると必然的に私は、かがみさんの
笑顔を真正面から見据える形になるわけで。
「じゃあ、そろそろ本題行くね」
「はい」
 軽い同意のうなずきで私は答えます。

「今日わざわざ来てもらったのは、みゆきと少し遊んでみようと思ったんだけど」
「遊び、ですか」
「ところで、この間貸した本はどうだった?」
「とても、とてもおもしろかったです。ええ」
「そういう話し相手ができる人をずっと探してたわけよ、私は」
「そうだったんですか」
 思わず頬が緩んでしまいます。それはあなただけではないのですよ。

「せっかく見つけた話し相手だから思いっきり語りたいところなんだけど、でも実際問題として、
こなたやつかさがいるとちょっとねー。だから、この店ならいいかなと思って」
「でも、いいんでしょうか、私たちだけで。なんだかとても罪悪感を感じるのですが」
「あー、いいのいいの。あの子達はあとでいくらでもフォローできるし。今はただ、
二人だけの時間を楽しみましょ。ね」
「二人だけの時間─ええ、それもいいかもしれません」

 ─この崩れかけた世界の片隅で。

「ではどこから始めましょうか」
「何かとっかかりが必要よね。たとえば─そうだな。日露戦争あたりからはじめよっか」
「わかりました、日露戦争ですね」

 私の中のモードが、かちりと音を立てて切り替わります。

 すでに、かがみさんの顔からも笑顔はきれいさっぱり消え去り、代わりに彼女の藍色の瞳には、
学求の輩だけに許される色が浮かんでいたのです。私は視線をはずすと、両手でそっと胸を押さえ、
ただ『信頼』の二文字を念じました。

 きっと、大丈夫。
 きっと、かがみさんが相手なら、どれほど暴走したとしても大丈夫。

 私は再び顔を上げると、かがみさんの目を真正面から見据え、口火を切りました。
「あの戦争のターニングポイントというと、黄海海戦、旅順攻囲戦、対馬沖海戦、奉天会戦
あたりでしょうか」
「その中で、なんといっても一番ヤバかったのは奉天よね」
「ええ。乃木将軍の第三軍の戦闘加入が二日遅ければ、日本陸軍は露陸軍を支えきること
はできなかった。また第三軍の実態が明らかになっていれば、やはり同様の結果になって
いたでしょう。当時の露軍は、旅順を陥落させた第三軍を明らかに過大評価していましたし」


151:我等が倶楽部へようこそ(11) ◆GtV1IEvDgU
08/09/23 18:48:39 0yOrfqwy
「黄海海戦については?」
「そうですね─」

 ああ。ここで私は、ある事実に気づいてしまいました。

「あの、先日から、なんだか私が語ってばかり。たまには、かがみさんのご意見も伺って
みたいのですが」
「え、私? うーん、そうか、そう来るか」
 私の指摘に、かがみさんは思わず苦笑い。

「あの海戦において、第一艦隊の運動は明らかに錯誤よね。旅順艦隊の意図を誤解してしまった
ためかな。彼らはあくまでウラジオストックに脱出するという、ただその一点において積極的
だったから」
「それで?」と、私はかがみさんを促します。
「ところが、第一艦隊は相手に決戦の意図ありと誤読しちゃったから、ただ旅順艦隊の進路を
妨害しようと、その鼻先を北東から南西へと横切ってしまった。もし旅順艦隊の意図がひたすら
ウラジオストックに向かうと理解していれば、他にいくらでも方法はあったはず。万一、露海軍の
戦艦『レトウィザン』が浸水しなければ、あるいは─」
 かがみさんがここで言葉を切り、軽く首を傾げて私を見つめます。
 どうやら、続きを、ということみたいですね。

「─あるいは偶然の一弾が旅順艦隊の司令部を直撃しなければ、露艦隊を取り逃がし、ひいては
戦争そのものを失う結果になっていた可能性が極めて高いでしょうね」

 これでよろしいですか? 私は、貴女の期待に答えられていますか?

「いいわ、すごくいい」
 我が意を得たりとばかりに、かがみさんは何度もうなずきます。
「それでこそ、私がここまでひっぱってきた甲斐があるというものよ」
 かがみさんは両手を顔の前で拝むようにあわせると、まばゆいばかりの笑顔を浮かべました。
でもそれは決して冷笑とかの類ではなく、たとえて言えば、大事な玩具を友達に見せびらかした
子どものような笑い。

 そして彼女の唇は、私を金縛りにする呪文を紡ぎだすのです。



「我等が倶楽部へようこそ、高良みゆき」



 もはや身じろぐことすら私には許されませんでした。
 ひょっとしたらこの胸のドキドキが、かがみさんに聞こえてしまうのではないか。
 ただそれだけが心配でした。

 ─私が待ち望んでいたのは、おそらく貴女のこと。


152:我等が倶楽部へようこそ(12) ◆GtV1IEvDgU
08/09/23 18:49:53 0yOrfqwy


    ◇

「やったぁ!」
 嬉々として網に手を入れ、慎重にトンボを取り出すと、私はみなさんにもよく見えるように
高々と獲物を掲げました。
「ほらみて、つかまえたよ。こーんなにおおきなトンボ!」
「おお、さすがはみゆき。すごい、さいこーだよ」
 幼いかがみさんが、まるで我が事のように喜んでくれます。
「きれいだね」と私。
「うん、とってもきれい」と幼いかがみさん。

 とても、とても幸せな気分でした。


  (Fin)



153:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/23 19:18:50 AQ/KILRs


154:sakuya ◆GtV1IEvDgU
08/09/23 23:14:45 0yOrfqwy
すいません、調子に乗りすぎて規制に引っかかってました。

以上です。

ありがとうございました。

>>153
どもです~。

155: ◆mf4c05IqKI
08/09/25 02:41:44 VxjdvqAU
sakuya氏の才能に嫉妬しつつ、みwikiスキーな俺大歓喜。104です、お久しぶりです。
前に投下したやつの続きと別物、どちらにしようか悩んでるときに、新たな設定が舞い降りたので
そちらを書いてみたのですが、やたらと難産で時間がかかってしまいました。
ちょっとダーク…というか、偏執的な作品になってます。3レス消費予定です。

156:幼馴染は私のモノ(1/3) ◆mf4c05IqKI
08/09/25 02:46:10 VxjdvqAU
燦々たる日差し。今日も、やっぱり暑いなぁ…
「沙希ちゃ~ん、待ってよぉ~」
「待てないってば。遅刻しちゃうぞ~」
「だって~。暑くて、走れないよぉ」
気が抜けきった声が後ろから上がる。けれど、いつもの事だから気にしてられない。
事実、この調子で歩きで登校すれば、遅刻ギリギリである。
走りたいが、後ろが”これ”ではそうも行かない。
「ほらほら、キリキリ歩く!!置いてっちゃうぞ、小鳥~」
「うぅ、沙希ちゃんの意地悪~」

私と小鳥は幼馴染。小学校からの付き合いで、中学、高校と、同じ学校はもちろん、
同じクラスとその因縁っぷりは筋金入りだ。
小鳥はちょっと我が侭で、甘えん坊。
毎朝毎朝、夏は暑いとダレて、冬は寒いと動かない。だが、それも慣れている。
適当にあしらい、ギリギリ学校に到着。今日も、一日が始まる。

「全く、もうちょっと余裕を持って来れないのですか?」
「遅刻はしてないから別にいいでしょ」
「そういう問題ではありません!!良いですか、私がクラス委員である以上、
誰一人として遅刻は許しませんわよ」
「誰も頼んでないっつーの!!」
「貴方の許可なんて要りませんわ!!とにかく、そのいい加減さをどうにかなさい、
スーパーずぼら脳筋娘!!」
「言ってくれるじゃないの、この成金高飛車女!!」
「ふ、二人ともやめようよぉ」
『小鳥(さん)は黙ってて!!』
「うう、二人とも酷いよぉ…」
学級委員の姫更(きさら)との口ゲンカもいつも通り。
休み時間の三回に一回はバトルを繰り広げている。
お互い一歩も引かず、白熱していくバトル。小鳥はオロオロ。
いつもの事とはいえ、我ながら毎日良くやると思う。
だけど、この時間が一日一回は無いと、逆に落ち着かなくなってきたのはどういう事だろう?

とはいえ、いくらなんでも、放課後に姫更と二人になるのは勘弁して欲しいわけで。
「で、何で帰りの掃除がアンタと二人だけなワケよ?」
「妙に説明的な台詞を、心底嫌そうに言わないで下さいます?
…仕方ないじゃありませんか。他の三人は、一人は休み、二人は部活が大事な時期ですから、
快く引き受けて送り出すのが委員長としての勤めでしょう?」
「委員長の務めなんて私には関係ないでしょ!?」
「いつも迷惑をかけているのですから、多少なりとも償いなさいな」
「勝手に迷惑がってるだけでしょうが!!」
小鳥、待ってるんだろうなぁ…少し心配になりながらも、掃除は中々終わらない。
喧々囂々、お互い罵声を浴びせながらなんだから、進まないのも当たり前か…

157:幼馴染は私のモノ(2/3) ◆mf4c05IqKI
08/09/25 02:48:26 VxjdvqAU
「結局下校時間ギリギリまでかかったじゃありませんか…
もっと真面目にやってくださいません?」
「アンタが突っかかって来るからでしょーが!!」
校舎を後にしながらも、まだ私達のバトルは終わらない。
「…あ、沙希ちゃ~ん!!」
案の定、校門前で小鳥が待っていた。随分と待たせちゃったなぁ。
『ふん!!』
小鳥の言葉を合図に、バトル終了。今日もいつもの喧嘩別れ。
「ごきげんよう、小鳥さん」
「うん、委員長、また明日ね~」
にこやかな挨拶に、小鳥は手を振って答える。
全く、委員長も小鳥相手には態度が違うんだから。腹が立つ。
「仲、良いね。」
は?
「ダレトダレガデスカ?」
「委員長と沙希ちゃんに決まってるでしょ~」
「何処がよ!?」
「だって、二人とも言い合いしてるとき、顔は怒ってても楽しそうだもん」
…?なんだろう?今、小鳥笑顔だったけど…なんだか、ちょっと違和感。
「…とにかく、そんな事は無いって。ところで、今日、一人なんでしょ?」
「うん。沙希ちゃん、来てくれる?」
「もちろん。帰ったら直ぐ行くね」
「うん、待ってる!!」

小鳥の家は、両親共に忙しく、二人揃って家を空けるという事がタマにある。
そんな日は、小鳥の家に泊まりに行くようにしている。
小鳥のご両親も、「沙希ちゃんが居てくれるなら心強い」なんて言ってくれる辺り、
やはり小鳥一人では色々な意味で不安なんだろう。
「えへへ、待ってたよ、沙希ちゃん」
帰宅してすぐこちらに来た私を、嬉しそうに迎え入れる。
気弱で、甘えん坊で、おっちょこちょいで。なるほど、一人にするのは心配だと、私も思う。
そんな事を部屋で考えていると、小鳥は飲み物をお盆に載せて入ってくる。
「お待たせ~。…今日、委員長と二人でお掃除してたんだよね…?」
「え、うん、そうだけど…?」
それから、小鳥は根掘り葉掘りその時の事を聞いて来た。
どういう順序で作業したのか、どんな話をしたのか、口ゲンカをしただけといえば、どういう内容だったのか…
細かいところまで、詳しく。
それが…たまらなくイヤになって来た。そんなに姫更の事が気になるのか?
そう考えると、何故か無性に腹立たしくなって、
「もう、どうでもいいでしょ?そんな事。小鳥には関係ないんだから!!」
つい、声を荒げてしまった。言った直後に、後悔した。きっと、怒られて沈んでしまうだろう。

パァンッ

だから、その乾いた音が、何の音なのか、一瞬わからなかった。


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