08/10/16 03:00:07 bFWcavQz
最近、夜になると独りの時間を放棄し、めぐの病室へ行くようになった。だいたいめぐは愚痴やら不満やらを話し、私は黙ってそれを聞いていた。
「ねぇ、水銀燈。そういえば昔、体温計は水銀を使っていたらしいわよ?」
水銀中毒などの危険を考慮して今はほとんど使われていないという。
「ふぅん。それが何よ」
「だから、水銀燈も私の体温計れるんじゃない?」
「はぁ?」
めぐ曰く、私の名前が“水銀”燈だかららしい。全くよくそんな変なことを思い付くものだ。
「ほら、お願い」
髪をかき上げ、額をあらわにする。仕方なく手を当てようとするとめぐはそれを制止する。
「熱を計るんならおでこくっつけてよ」
「え~」
髪をかき上げたまま目をつぶっている。私はゆっくりとめぐの顔へ近付く。口紅がひかれていないにも関わらずやけに唇が色っぽい。
「んっ」
ぴたと額と額が合わさる。めぐ熱がじんわりと伝わって来る。
「どう? 熱ある?」
急にぱちりと目が開き、どぎまぎする。めぐとの距離は零。まるでめぐとくっついてしまったみたいだ。
「わ、分かんないわよぉ」
本当はさほど熱はなかったが、なぜか熱く感じた。私が熱くなっているという錯覚にさえ陥った。
「分かんないの? 仕方ないわね……」
めぐは上からパジャマのボタンに手をかけ外していく。その光景をただ見ているしかなく、その間私の時は止まっていたかのようだった。
はらりと上着はベッドの上に脱ぎ捨てられ、めぐの白い肌と膨らんだ乳房があらわになる。その段になって私はようやく反応することが出来た。
「な、何してんよぉ……」
「ふふ、水銀燈がちゃんと計らないからよ」
ばっと腕を回し私を抱き締める。不意の出来事に反応することが出来なかった。
「どう……」
「うん。めぐ、すごく熱いわ」
服越しでも伝わるめぐの体温。とても優しい。そこには確かに“生命”を感じた。
「あら、風邪かしら」
私を放し、いたずらに笑う。めぐの感触がもうすでに恋しい。
「そうねぇ、そんな格好してたら風邪ひくわよぉ」
私はそう言ってはっとする。知らない内に口元が笑みを作っていた。たまにはこういうのもアリかも知れない。
めぐはやがて服を着て、布団でうずくまるように寝てしまう。
……病なのは私かも知れない。身体のほてりを冷ますために闇夜に飛び出した。今はそれくらいしか思い付かない。
了