09/06/28 22:45:44 P5K02KBz
叫んで、飛び出して、部屋を出て、外の通路の隅で膝を抱えて震えていた。
そうしていつしか朝になり、昼になり、友人が訪ねて来た。
きっと酷い顔なのだろう。友人は私を見てひどく驚いたが、事情を聞くと、近
くのお寺からお坊様を呼んでくれた。
そうして今、私は殺されかけた部屋の中で彼らにこの話をしている。
私は話を終えて、友人が淹れてくれたがまだ手をつけていない、お茶の入った
湯飲みに視線を落とした。
お坊様は頷いた。
「なるほど、分かりました……」
彼はゆっくりと立ち上がり、部屋の真ん中まで歩いて立つ。
「この部屋、昔自殺した方がいらっしゃったみたいですねぇ。」
「首吊りか何かですか。」
私に代わって友人が訊いた。
「ええ、どうやらパソコンに酷い恨みがあるようです、嫌だったんでしょう。」
「そうですか……」
「あぁ、でも、もういらっしゃらないみたいですねぇ、気が済んだみたいです。」
「そう、ですか。」
友人は俯いた。
私はお坊様の背に訊く。
「じゃあ、もう、無いんですか?」
「ええ、ご安心なさっていいと思いますよ。」
本当にそうなのか?
昨夜の恐ろしい記憶がまだ鮮明に残っている私には信じられなかった。
「じゃあ、お坊様。」
すぅ、と友人が立ち上がる。
私はその背を目で追った。
友人はお坊様の傍らに立つ。
「そろそろ、お願いします。」
「ええ。」
お坊様は頷き、私の方を向いた。
「今からお祓いをいたしますのでね、動かないでくださいね。」
「何故ですか。」
私は立ち上がろうとする。足に違和感。
お坊様は相変わらず優しげな表情。友人は悲しげな表情。
少し息苦しい。何か飲みたい。
手をつけていなかったお茶に手を伸ばす。
湯飲みが掴めない。
ああ、苦しい……
私はまだ布団の中に居た。
99:創る名無しに見る名無し
09/07/20 18:15:38 ybywxTWv
ホラーの季節あげ(((゚Д゚)))ガタガタ
100:暑いから涼しくなる話をひとつ
09/07/28 21:35:01 /L5Xf8BO
「おい。この魚、賞味期限明日までだぞ!」
「冷凍するから大丈夫よ」
「この肉も、賞味期限明日じゃないか!」
「冷凍しちゃえば大丈夫よ」
「……申し上げ難いことなのですが、ご主人の余命はあと3ヶ月なんです」
「そうですか……」
「いやぁ、今日は暑いな」
「あなた。マイナス40度の世界を体験してみたくない?」
101:創る名無しに見る名無し
09/07/28 23:29:04 oV2b7Vim
・・・・まあ、愛してはいるの・・・かな・・・??
102:平穏な人生
09/08/06 07:26:04 5Tuxo0ns
何事も無く平穏な人生を歩むには相応の努力が必要だ。
特に外から厄介ごとを持ちこむ、他人という名の生き物の動向には、
目を光らせる必要がある。
適当に人間のフリをしていれば何一つ問題が無いのだが、
他人というのは困った物で、わざわざ面倒なことを
引き起こすことに腐心することが多い。
特に感情という物に対して理解を示すのは骨が折れる、
例えば親しい友人が死ぬだとか、恋人が寝取られるだとかそういった
瑣末ごとにいちいち感情を発露させるのは、人生の無駄使いに他ならない。
感情そのものには何の価値も意味も無いからだ、
自分の取るその行動に、価値があると思い込むことで心の平穏を得ている。
人という生き物は「自分は特別だ」と思い込みたがる生き物である。
劣等感に触発され「米粒に絵を描ける」だの「牛乳瓶の蓋を集めてる」だとか
やってるのと同じことだ。
人間そのものは言動の変化で容易にその行動を操ることが出来る。
無能な言動を取れば「無能だ」と得意げに批判してくるし、
無知な言動を取れば「教えてやる」と得意げに解説を挟む。
人間の感情は他愛も無く、いかようにも操作できるといえる。
このような話を人間にすれば「そんな筈は無いだろうと否定」するのは確定事項なのである。
昔、学生時代に人間的な行動を取ることを毛嫌いし、突拍子も無い行動を取る友人がいた。
コンパスの針を腕に突きたて、肉を穿り返しながら遊んでいる。
私が彼に
「なにをしているんだ?」
と尋ねても
「別に」
とだけ答えて、首を横に振り、骨まで露出した傷口から
細かく千切れた肉を、机の上に几帳面に一列に並べているのだ。
彼という生き物は、本能的に人間になるのを毛嫌いして
そのような突拍子も無い行動や癖が出てしまうのだろう、つまり彼の行動そのものが
痛みや恐怖の感情を否定し、思考する生物としての知的行動の一つであるのだ。
たとえ、彼の外見が人間であれ、彼の中身は人間以外の何かである
可能性が高いと言えるだろう。
我々、他人という名の生き物にしてみれば人間の命など瑣末そのものと言える。
103:創る名無しに見る名無し
09/08/22 09:41:17 PZ6Q2wlO
タイトル『案山子(かかし)の村』
主人公沢村は、地方の農村を歩いて、案山子の写真を撮り続けている写真家。
沢村が訪ねたある村では、リアルな案山子作りが流行していた。
村人たちは、自分自身の案山子を作り、それが完成すると、どこかに消えてしまう。
この村に滞在しているうちに、沢村は『リアルな案山子作り』に魅せられてしまう。
そして↓↓
104:創る名無しに見る名無し
09/08/22 21:39:49 PZ6Q2wlO
「沢村さん・・・」
美和子は、その人影に声を掛けた。
だが、それは沢村ではなかった。
沢村そっくりの案山子だった。
終り
105:創る名無しに見る名無し
09/09/18 07:00:15 egPD5b/L
日本人が温和なのは、穀物中心に取り込むが故であり。
欧米人が粗暴なのは、獣肉を身に取り込むが故である。
「人間の精神は遺伝する」などと言う似非科学があるが、
そもそも我々の肉体を形作るものは、外部から取り込んだ魂魄その物なのだ。
口から摂取する物質が魄であれば、繋ぎとなる魂は酸素となる。
人間の寿命は生まれながらに決まっている。
一般人に比べ、スポーツ選手の寿命が短いのは周知の事実であるし、
肉体に大きな負荷がかかる雪国よりも、温和な気候の南国の住人は長寿である。
さりとて心臓の鼓動の回数が少ないほど長寿と言うわけではない、
過度のストレスを与えられたマウスは短命、
ストレスのない環境で育った個体は長命であることから。
人間は呼吸が少ないほど長命であると結論付けられる。
人間が口から食物を取り込み、分解し、その身に蓄え、
肉体と精神を作り上げるための繋ぎが酸素なのだ。
獣肉を大量に摂取する人間は体内にタンパク質を取り込むことで筋肉を増強し
血行量が増進されアドレナリンを分泌され、凶暴化する。
また血行が良化し酸素を大量に取り込み代謝機能を活性化することは
細胞の死滅限界を促進させる行動に他ならない。
「無駄な呼吸をすればするほど、早死にするらしいぜ」
「……」
眼前に縛り上げられ、投げ出された男の眉間に向かい、ぴたりと銃口を止める。
「なぜ人間は平和を願うのか? それは本能が察知しているからだ
心穏やかに生きていれば呼吸が乱れることもなく、ライフサイクルは回り続ける」
全ての闘争を否定する事が、長命と成る。
「なのに、何故お前のようなアホがいるのか理解に苦しむ……」
にも拘らず、人間は争うことを止めようとはしないのだ。
上だ下だと無意味な雛壇を飾り、無意味な呼吸をし、無意味に死ぬ。
「ちなみにこの銃弾の原価は10円にも満たないそうだが、知ってたかい?」
引き金を引くと同時にグリップに伝わる衝撃、閃光、そして視界が開けて漂う硝煙の匂い。
「お前の命の値段だ」
少しばかり贅沢に深呼吸する。
酸素の中に融解された魂が鼻腔を通して伝わってくるのが分かる。
二百年生きて再確認する、生きることの喜び。
「あぁ、素晴らしき人生哉」
106:創る名無しに見る名無し
09/11/07 01:09:06 LfjRHJHr
信じようと、信じまいと―
長崎県T市のあるトンネルは、「く」の字にゆるやかに湾曲していて、入口から出口を見ることができない。
昭和12年に、国土交通省の役人がこのトンネルを測定すると、左の壁と右の壁の長さがぴったり同じだった。
ゆがんでいるのはいったい何なのだろうか?
107:創る名無しに見る名無し
09/11/07 10:21:07 Vwi5tAb/
../ ./
/ ./
く く
\ .\
..\ .\
トンネルの出入り口が道路に対して斜めだったのでは?
108:創る名無しに見る名無し
09/11/07 23:09:37 7FdhMeos
おぉい!w
109:創る名無しに見る名無し
09/11/08 02:05:45 6aeUv1wb
>>107の冷静さに吹いたw
110:創る名無しに見る名無し
10/01/03 23:54:22 iz7xS38c
ある所に、一匹の犬が居た。
その犬は飼い主からろくに餌も与えられず、散歩にすら連れて行かれる事も稀だった。
当然、犬の姿はみすぼらしく、臭いもひどいものだった。
体を洗われない事と、小屋の周辺の排泄物の臭いを飼い主は嫌がり、
犬に対する扱いは更にぞんざいなものになっていった。
ある日、飼い主の元へ周辺住民から苦情がきた。
それもそのはず、犬小屋の周辺は息もまともに出来ない程の悪臭を放っていたのだから。
仕方なしに小屋の掃除をしようとした飼い主は、
かなりの期間犬に餌をやり忘れていた事を思い出した。
犬が死に、その体から放たれている臭いが悪臭の原因かも知れないと思い至った飼い主は、
嫌悪感を露にしながらもしばらくぶりに犬小屋に近づいていった。
一歩一歩近づくたびに、マスクの上からでも悪臭がひどくなっていくのがわかる。
そして、犬小屋にあと数メートルの位置まで来た時、
犬小屋の暗がりの中から力なく横たわった犬の後ろ足が出ているのが見えた。
確実に死んでいる。
飼い主はそう思い、ゴム手袋をして小屋から犬の足を引きずり出した。
だが―
―無かった。
あるのは両の後ろ足だけで、胴体も、前足も、頭も無かったのだ。
引きずり出すことが出来た足は、両方とも腐り果てて蛆が沸き、無残なものだった。
吐き気を催した飼い主はすぐにその場を離れようとしたが、
小屋の陰で動くものが視界に入った。
恐る恐る、慎重に小屋の陰を覗き込んでみるとそこには……
両足と同様に腐り果てた犬の胴体と、ボロボロと崩れ落ちながらも左右に振られる尻尾があった。
息を呑み、叫び声をあげることすら出来なくなった飼い主の耳に、
チャラリッ、という鎖が擦れ合う音が飛び込んできた。
音の出所は、犬の鎖が繋がれていた木の杭―飼い主の真後ろ。
鎖が擦れ合う音と共に、グチュリという肉が潰れていく音も聞こえ、近づいてくる。
飼い主の足は、縫い付けられたようにその場から動かなかった。
だが、ソレは地面に肉を削ぎ落とされながらもゆっくりと、ゆっくりと近づいてくる。
そして、
「ワン!」
……と、一鳴きした。
飼い主は、その鳴き声を聞いた途端、動かなくなっていた足に力が入るようになったのがわかった。
即座に飼い主はその場から逃げ出した。
振り返ることは、一度も無かった。
左右に振られていた尻尾の動きは次第に遅くなっていった。
自らの尻尾が動かなくなっていくのを見ながら、犬は思った。
サイゴニ、ナデテホシカッタ、ダケナノニ……。
おわり
111:創る名無しに見る名無し
10/01/04 00:08:11 XsAUrd/M
法螺吹きの末路って知ってるかい?
閻魔さまに舌を抜かれる?
うん、それもあるね。
地獄で鬼に責められる?
うん、それもあるね。
でも、もっともっと色々あるんだよ。
法螺を吹く人間ってのは、洞に負苦。
普通の人間はね、洞を通る事は無い。
通るのは川だ。
人によっちゃ河だけど、洞を通る事は無い。
でも法螺吹きは、法螺を吹いたばかに洞を通る。
通りながら、苦を負うんだ。
そんな事はたいしたことがじゃないと思うかい?
だったら法螺を吹いてみればいい。
だったら洞を通ってみればいい。
そうすればわかるだろう。
そうしなけりゃわからないだろう。
さあて、通ったかな?
さあて、わかったかな?
入ることもできない洞を。
出る事もできない洞を。
通った感想はあるのかな?
通って思った事はあるのかな?
ほらほら。
法螺法螺。
洞洞。
ああ、ごめん、忘れてた。
大事な事を、忘れてた。
もう、戻れないからね。
ほら、さようなら。
112:創る名無しに見る名無し
10/01/04 00:12:01 H0hAUqJK
ダジャレかよwwww
113:創る名無しに見る名無し
10/01/04 00:20:07 pLVqYXYn
地上では夜の帳がおりようという頃、私はこの地下鉄駅のホームに立っているのが常である。帰
宅の電車に乗るためだ。
外の街が夜の顔へとその姿を変えていく中で、ホームは煌々とした灯りで隅々まで照らし出され、
まるで変わらぬ姿態を保っている。
清潔なそのホームには、私の他には数人の男が、何をするともなく電車を待っているばかりであ
る。一つ前の駅ならば、ホームから溢れんばかりの人がいるのだが、この駅は本当に静かだ。
電車はなかなかやってこない。私はただじっと線路を眺めて待ち続ける。なんとなく頭が重い。
電車はまだやってこない。
いや、本当はまだ殆ど待っていないのだ。時間にすれば一分かそこらだろう。頭ではわかってい
る。ただ、電車がやってくるまでの時間は、何故だかいつも、やけに長く感じるのだ。
そうして気が遠くなる程長い間、空っぽの頭で線路を眺めていると、足下から地響きが伝わって
きた。それと共に、腹に響く重い金属音がホームの静寂を破る。
その二つはどんどんこちらに近づき、大きくなっていく。電車のヘッドライトが顔を覗かせる頃
には、甲高いブレーキ音が響いているだろう。
私はその時いつも、名状しがたい何かに締め付けられ、訳の分からない衝動を抑えなければなら
なくなる。
今日はなぜだかその衝動がやけに強い。ふと線路上へとその身を投げ出したくなる程に。
あの嫌な重い金属音はどんどん大きくなってくる。コンクリートの地面は、迫る電車の振動をま
すます大きく伝えてくる。
あとほんの少し後、あのヘッドライトに照らされて、甲高い金属音を聞かされた時、果たして私
は正気でいられるだろうか。
114:創る名無しに見る名無し
10/01/04 00:31:59 pLVqYXYn
>>110
犬かわいいw
見た目はグロいのにw
>>111
ほらほらうるせえw
115:創る名無しに見る名無し
10/01/04 00:42:13 XsAUrd/M
―ぴちょーん
まただ。
―ぴちょーん
また聞こえてきた。
―ぴちょーん
この音はどこから聞こえる? この水滴は、どこに落ちている?
―ぴちょーん
昔から、私は暗闇の中で意識を研ぎ澄ませる事で、様々な事を成し遂げてきた。
―ぴちょーん
だから、暗闇は私にとってはやすらげる場所であり、それに包まれる事に何の不安
も無いはずだった。
―ぴちょーん
いつの頃からか、この音は聞こえ始めた。
―ぴちょーん
暗闇の中で、意識を研ぎ澄ませた時に。
―ぴちょーん
116:創る名無しに見る名無し
10/01/04 00:44:03 XsAUrd/M
最初は、水道がよく閉まっていないのだろうと考え、家中の水道をしっかり締めなおした。
―ぴちょーん
だが、まだ聞こえる。
―ぴちょーん
どうしても、気になる。
―ぴちょーん
この音はどこから聞こえる? この水滴は、どこに落ちている?
―ぴちょーん
私は、水道会社に連絡し、家の水道を全て元栓から使えなくしてもらった。
―ぴちょーん
だが、まだ聞こえる。
―ぴちょーん
どうしても、気になる。
―ぴちょーん
どうしても、不安になる。
―ぴちょーん
この音はどこから聞こえる? この水滴は、どこに落ちている?
―ぴちょーん
117:創る名無しに見る名無し
10/01/04 00:44:20 XsAUrd/M
暗闇の中にいるのに
―ぴちょーん
不安を感じるなんて
―ぴちょーん
初めてで
―ぴちょーん
私は
―ぴちょーん
わた
―ぴちょーん
し
―ぴちょーん
―ぴちょーん
は
―ぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーん
ぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーん
ぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーん
ぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーん
ぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーん
ぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーん
ぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーん
ぴちょーん
―ぴちょーん
それっきり、だった。
水滴が落ちる音は、唐突に途切れた。
また元のやすらげる暗闇が戻ってきた。
ああ
よかった。
さて、
安心
したら
少し
飲み物が
欲し
くな
った。
喉が
焼け
る
よ
う
に
か
わ
118:創る名無しに見る名無し
10/01/04 00:44:30 XsAUrd/M
「結局、どうしてこのホトケさんは、こんな死に方したんですかね?」
「俺に聞くなよ。精神に異常をきたすなんてのは、この手の商売にゃありがちな
事なんじゃねえのか?」
「そういうもんなんですかね」
「……自分で自分の喉をかきむしり、辺りに血を滴らせまくって死んだ作家、か」
「何か……音でも聞こえてたんですかね」
「音? 何でだ?」
「……あ、いや……あれ? 俺、今何か言いました?」
「ホトケさんが音を聞いた、って……」
「……そんな事言いましたっけ?」
「お前……ふざけんなよ、現場で」
「あ、いや……す、すいません! 何かぼーっとしてたみたいですね」
「ったく……よし、後は鑑識に任せて、一旦帰るぞ」
「はい!」
「……返事だきゃいいな、ったく……ん?」
「どうかしましたか?」
「……外、雨でも降ってたっけか?」
「いえ、快晴ですけど……どうかしたんですか?」
「何か、音が……」
「音?」
「お前もさっき言ってただろ。何か音が聞こえたんだよ」
「俺は聞こえませんでしたけど……」
「……まあ、気のせい、かもしれんが」
「じゃあ行きましょう」
「あ、ああ……」
―
「でも、確かに聞こえた……あれは、水がしたたる、音……?」
―ぴちょーん
終わり
119:創る名無しに見る名無し
10/01/04 00:46:19 H0hAUqJK
これはちょっと怖いな
120:創る名無しに見る名無し
10/01/04 00:53:46 pLVqYXYn
水滴の音って確かに精神にくるな
121:創る名無しに見る名無し
10/01/04 00:54:23 H0hAUqJK
水滴をしたたらせる拷問みたいなのがあるって思い出したわ
122:創る名無しに見る名無し
10/03/12 02:10:51 XaG/cNG9
URLリンク(webmaster.stickam.jp)
何か明日スティッカムで藤崎りおが
隣の家の少女って言う映画見てる様を配信するみたい。
実話元にした小説を映画化してるので恐ろしいです。
123:「命の皿」~序章~ ◆wHsYL8cZCc
10/04/17 05:23:21 /nbmWFzC
「おかあさん……たっくんが動かないの」
「おかあさん、テレビが付かないよ」
「おかあさん、たっくんが動かないよ」
「おかあさん……私ね。食べたの」
「動かないから。たっくんが」
「おかあさん、お腹すいたよ」
「おかあさん、またすこしたっくんをたべたよ。でもたっくんは何にも言わないの」
「おかあさん、たっくんが変だよ。変な臭いがするの」
「おかあさん、大変だよ。たっくんに変な白いのがいっぱい付いてるよ」
「おかあさん、誰か玄関で何か言ってるよ。でも私動けないの」
「おかあさん、知らない人が家の中に入って来たよ。でも私何も喋れないの。怖いよ」
「おかあさん、たっくんが無くなっちゃったよ。白いのが食べちゃったみたい」
「おかあさん………どこに行ったの?」
「おかあさん。わたし今知らない人のうちでゴハンたべてるの。今日からここがおうちだっていってたよ。じゃあきっとおかあさんもたっくんも来るんだよね?」
「おかあさん。あのね。わたし食べたの。だってお腹すいてたんだもん」
*
「お母さん。私は今日十歳の誕生日です。早く迎えに来て下さい」
「お母さん、今日、みんなで飼ってるウサギがさとる君にいじめられていました。注意しても言うことききません。みんなよりお兄さんなのに。」
「だからウサギ小屋にあった石で叩きました。さとる君は動かなくなりました。たっくんみたいです」
「たっくんみたいに白いのが出てくる前にさとる君を食べました。台所にある包丁で切りました。食べ切れないから勿体ないけど残しました」
「なんか見た事ないおじさんがおうちに来ています。変な人を見なかったかって聞いてきました。私は見てないから見てないっていいました。みんな泣いています。
あと危ないからってしばらく外に出られません。学校もみんなで一緒に先生達と通ってます」
「お母さん。さとる君がいじめたウサギに赤ちゃんが生まれました。とってもかわいいです」
124:「命の皿」~獣の跡①~ ◆wHsYL8cZCc
10/04/17 20:06:23 /nbmWFzC
季節外れの雪が降っていた。
本来、雪が降る事自体が珍しい地域だが、押し寄せる寒気は冷たい風を呼び、結果、場違いな雪まで運んできた。
「こりゃ酷いな。ズタズタじゃねぇか」
篠田文夫は開口一番にそう言った。
田んぼの真ん中にある深い側溝の奥に転がる遺体は、凄惨な状態でそこに在った。
「第一発見者は?」
篠田の問いに横にいた若い制服姿の警官が答える。
「所轄の警官です。近隣の住民から枯れ草の清掃中に異臭がすると通報があり、あたりを調べたら遺体を発見しました」
「ふ~ん……。遺留品は?身元が割れるようなヤツ、免許証とか」
「財布の中に原付きの免許が。名前は村上友美。十八歳。失踪届けが出ています」
「まだガキじゃねぇか……」
篠田は顔を歪ませる。第一課に配属されいくつも死体を見てきたが、子供の死だけは未だに馴れない。
それも、第三者による殺人となれば尚更だった。
「腐敗はそれほどでも無いな。最近ずっと寒かったからか。ヘタすりゃもっと発見が遅れたかもな」
「辺り一面長い雑草ばかりですから。しかもこんな深い側溝の中では……」
「もっと遺体をよく見たい」
篠田は半透明のラテックスで出来た手袋をはめ、側溝に降りて行った。
深さは百二十から百三十センチといったところだろうか。枯れ草が幾重にも折り重なり、実際はもっと深く見える。
篠田は思わずよいしょという声を出す。
四十五になる篠田は自分では若いつもりだったが、いつの間にか立派な中年になっていた。 実際に若い制服の警官も、篠田に続いて側溝に降りて来た。
「近くで見るともっと酷いですね。ここまでする必要があるのか?」
「必要だからやったのさ」
篠田はマスクを装着し、遺体を隈なく確認する。あまり弄ると鑑識に文句を言われるので、あくまでも見ているだけだったが。
「こりゃただ事じゃないな」
125:「命の皿」~獣の跡①~ ◆wHsYL8cZCc
10/04/17 20:09:00 /nbmWFzC
「どういう事です?」
「遺体の損壊状況がだよ。ここまでする奴の気が知れん。見てみろ」
促されるまま遺体を観察すると、腹部にはぱっくりと切れ目が入れられ、内臓が飛び出していた。内部は空っぽになり、人間にはこれほどの空洞があるのかと思わせる程だった。
大腿の一部は切り取られ、大きくえぐれている。骨までが露出するほどに。
その他にも、胸や眼球等が無くなっていた。
「確かに酷いですね……。あまりに猟奇的だ」
「猟奇『的』じゃない。これは猟奇殺人だ。それもかなりぶっ飛んだ奴の」
「どういう意味ですか?こんな事件を起こす奴なんてたいがいおかしい奴でしょう」
「遺体の損壊の仕方だよ。これはただ殺した訳じゃねぇ。かといって拷問死させた訳でもない。もっと明確な目的がある」
「目的?」
「遺体の損壊の仕方だよ。これは殺してから遺体を捌いたんだ。それが目的だよ」
篠田はかつてもこれを見た事がある。
数年前に起きた、少年の殺人事件。その時も遺体の一部が切り取られ、持ち去られていた。
「あとは鑑識に任せる」
「篠田警部補、どちらへ?」
「ちょっと調べ物だよ。オッサンに寒空はつらすぎるからな」
「了解しました。害者の資料は集まり次第、一課に届けます」
「よろしく頼む」
篠田は側溝から這い出し、スーツに着いた土を手で掃った。
車へ乗り込みエンジンを回す。エアコンから流れる暖かい空気と缶コーヒーで暖をとり、決して若くはない身体を休めた。
しかし、その心は冷え切っていた。
「あんまし思い出したくねぇんだけどなぁ」
126:「命の皿」~獣の跡①~ ◆wHsYL8cZCc
10/04/17 20:09:40 /nbmWFzC
投下終了
127:創る名無しに見る名無し
10/04/17 23:01:38 h2zppDH/
こええ・・・普通、たっくんのエピソードだけで済ませる所を、
さらに重ねられて怖さが倍増だ・・・。
128: ◆wHsYL8cZCc
10/04/18 12:42:00 rfUNeAXM
サイコ系書く人って少ないね。
にしても筆が進まぬわ。
129:「命の皿」~獣の跡②~ ◆wHsYL8cZCc
10/04/19 10:23:01 d4lWCI+6
「ねぇ彩」
倉本美咲が唐突に話しかけて来た。
「何よ美咲」
横に居た長谷部彩は面倒そうにそれに答える。
「昨日さぁ、テレビ見てたらさぁ―」
「そんな事言ってる暇ないでしょ?急がないと遅刻だよ!」
「わかったよぅ。怒るなよぅ」
彩と美咲は自転車のペダルを漕ぐ足に力を込める。
高校二年になって最初の日に遅刻など幸先が悪い。それもこれも、朝から関係を求めてきた美咲が悪いのだが、それに乗った自分にも多少の非があると彩は思っていた。
学校の駐輪場へ自転車を置いたら教室までは走らなければならないだろう。恐らくクラスメートはもちろん学校中から見られてしまうのは避けられない。
新学期早々に人気者になる事への覚悟が必要だった。
「間に合う?」
「あと四分はあるから間に合うと思うよ。急いで美咲!」
彼女らは汗を滲ませながら教室に駆け込む。失笑混じりの朝の挨拶に対して苦笑しながらそれに応え、彩は椅子座り机に突っ伏した。
離れた席の美咲も同様に、疲れた様子で持参したウェットテッシュで首筋の汗を拭っている。
チャイムはまだだ。どうやら遅刻は免れたらしい。
「朝っぱらから大変だったね。」
横の席の倉田正彦が言う。
「教室から走ってるとこ丸見えだったぜ。ありゃ職員室からも見られてるな」
「だから何よ。遅刻はしてないもん」
「ギリギリでだけどな」
正彦は馴れ馴れしく話かけてくる。
以前からしつこく言い寄られてはいたがその度に彩はそっぽを向いていた。それでも諦めない姿勢はある意味肝が座っていると言うべきか。
彩は男としてのこの正彦はまるで興味は無いが、ただのクラスメートとしてはそうでも無かった。
決してクラスの中心では無かったが、常に明るく誰とでも親しくなる性格には素直に好感を抱いている。
美咲は気に入らないようだったが。
130:「命の皿」~獣の跡②~ ◆wHsYL8cZCc
10/04/19 10:24:01 d4lWCI+6
「なんでそんなにつれない訳?」
「別に普通じゃん」
「じゃあたまには一緒に遊びに行こうぜ」
「それは嫌」
「なんでだよ?」
「……何となく」
「やっぱり冷たいじゃん」
「というかアンタしつこいのよ。だいたいね―」
彩が何か言おうとした時、チャイムによってそれが遮られる。
同時に担任の教師が教室に現れ、彩と美咲を見るなり笑顔で話し始めた。
「お?遅刻せずに済んだか。まぁあれだけ必死に走ってりゃ間に合うわな。次は余裕を持って家を出なさい」
教室に小さな笑いが起きる。思わず赤面する彩だったが、美咲はクラスメートと一緒に笑っていた。
美咲がマイペースで図太い神経だと彩はつくづく感じた。
131:「命の皿」~獣の跡③~ ◆wHsYL8cZCc
10/04/19 10:26:50 d4lWCI+6
篠田は警察署の資料室で書類と格闘していた。
過去に起きた数件の殺人、それも猟奇的事件を隈なく捜し、今回の事件との類似点を洗い出す。
ここ十年で起きた殺人事件の中で、特に猟奇的といえる事件となればやはり数える程度しかない。
やはり、行き着く先はあの少年の事件だった。
少年は児童養護施設の裏手にあるウサギ小屋の前で殺害された。
辺りは遮蔽物となる木々と塀があり、施設の裏手というのもあって人目には付かない。
少年は後頭部を石で何度も叩かれていた。恐らく一撃では絶命しなかっただろうと思われる。凶器となった石はウサギ小屋の脇にある池に捨てられていた。指紋の採取は出来ず終いだった。
一方の今回の被害者は絞殺されている。殺害方法は前者のほうが圧倒的に残虐であるが、問題なのは殺害方法では無かった。
少年を殺害した犯人は施設から持ち出した包丁を使い、少年の腕の一部と内臓の一部を切り取っている。どこへ持ち去ったかは今だ定かでは無い。
「やっぱり……似てるな」
少年と今回の少女の損壊状況こそ、篠田が注目した事だった。
少年の殺人事件は当時、こぞってマスコミが報道した。その残酷な手口は暇な大衆に十分受けるセンセーショナルな事件であり、警察の捜査も難航したため大きな事件として扱われた。
同時に、いつまでも犯人を特定出来ない警察の対応にも非難が集中した。
篠田もその中の一人だった。
それほどまでに大々的な報道をされていれば、模倣犯が現れてもおかしくは無い。実際にこの手の事件のあとはそれに続く者が多い。
しかし、それだけでは説明が付かない事がある。
あまりに似ているのだ。遺体の損壊状況が。
当時、マスコミはこれでもかと少年の殺害状況を報道したが、遺体の具体的な状態までは報道していない。
少年の内臓が抜かれて持ち去られたなどテレビで言える訳も無いが、それ以前に警察側からもそこまでの情報掲示はしていない。
それは今も同じだ。
132:「命の皿」~獣の跡③~ ◆wHsYL8cZCc
10/04/19 10:29:22 d4lWCI+6
模倣犯では有り得ない。
これは間違いなく、同一犯による物だと篠田は確信している。
そこへ、突然若い刑事が現れる。
「篠田さん。ここに居たんですか」
「どうした?なんか解ったか?」
「害者の資料が集まりました。今会議室で―」
「ああ、いい。今解ってる事だけ教えてくれ」
「そうですか?でも皆さん集まってますよ」
「いいんだよ。俺みたいなはみ出し者はさ。それより早く教えてくれ」
「はぁ……。害者の村上友美はフリーターで、バイト先のネットカフェでの評判は中々で、決して恨みを買うような人物で無いと言っています。
交遊関係も洗いましたが、特に危ない連中と面識がある訳でもなく、家族との関係も良好です」
「狙われたりする要素は無しか。変質者に付き纏われたとか、そういう事は?」
「いえ、全くありません」
「そうか……」
篠田はため息をついた。
「よし解った。ご苦労さん」
篠田は勢いよく立ち上がり、資料をそそくさと片付け始める。
いくつかの書類を手に、資料室を後にしようとした。
「篠田さん、どちらへ?」
「ちょっとそこまでな。昔の事件と繋がりがあるかもしれん。そこを調べてくる」
「またお一人でですか?」
「そうだよ。お前達は引き続き目撃証言と害者の交遊関係、洗っといてくれ」
篠田の足は自然とあの場所へと向かっていた。
あの凄惨な事件が起きた、児童養護施設へ。
133:「命の皿」~獣の跡③~ ◆wHsYL8cZCc
10/04/19 10:30:32 d4lWCI+6
終了
134:創る名無しに見る名無し
10/04/19 20:03:30 3fndz3cW
わくわく・・・どきどき・・・
135:命の皿~獣の跡④~ ◆wHsYL8cZCc
10/04/21 02:34:09 slSVxA3N
チャイムが鳴り響く。
まだ新入生の居ない始業式は一時間ほどで終了した。
普段は狭苦しい体育館も、生徒の三分の一が欠けただけで異様に広く感じるものだ。教師の声は天井や壁で反響し、それが体育館の広さを感覚的に更に広くし、寒気すら覚える体育館の空気の温度は、彩の身体をことごとく疲れさせる。
教室に戻った時は、既に帰りたいと思わせていた。
担任の教師が一言二言注意事項を述べ、プリントを配布する。
入学式までの日程、保護者への通達、学校内での連絡事項、あとは保険便りのような物。
最近の保険便りでは遠回しにではあるが、性行為についての注意書きすらある。コンドームの使用の重要性に至っては堂々と明記されている始末だ。
しかし、彩には何の興味も無い。自分はそれを使用する状況は無いと思っていたから。朝の事を思い出す。
柔らかな感触がいまだ唇に残っている。時間すら忘れる程の幸福感を味わい、結果、遅刻寸前まで追い込まれた。
彩は一人、あの時の感触を思い出す。美咲の感触を。
「美咲……」
彩は朝の続きを妄想で続ける。
自然と鼓動は速くなり、頬はうっすらと紅潮する。
僅かに吐息が乱れる。しかし、周りに悟られてはいけない。そんな事態になれば周囲からは体のいいイジメの対象に成り兼ねない。
それを跳ね退けるバイタリティがあればいいが、彩にはそれが備わっていない。
妄想はエスカレートする。吐息は更に乱れ、鼓動はより激しく胸を打つ。
限界に近い。もはや理性は本能に飲まれようとしている。右手が疼く。
出来る事なら今、ここで―
「では、今日は終了です。気をつけて帰るように」
教師の一言で彩は我に返る。そうだった、今は帰りのホームルームの最中だったんだと―。
彩の顔を見た教師は不思議そうに尋ねた。
「どうした長谷部?具合でも悪いのか?」
「……いえ、大丈夫です」
「そうか?それならまぁいいんだが」
136:命の皿~獣の跡④~ ◆wHsYL8cZCc
10/04/21 02:34:54 slSVxA3N
「じゃあ気をつけて帰るように。寄り道したりするんじゃねぇぞ」
担任の教師は改めてそう言うと、さっさと教室を出て行った。
彩は美咲の元へ駆け寄る。
学校はもう終わりだ。妄想に耽る必要は無い。実際に朝の続きをすればいい。そう思った。
「美咲」
「どうしたの彩?風邪でも引いた?顔赤いよ。熱あるんじゃない?」
「大丈夫だよ。それよりさ、早く帰ろう」
「そりゃもちろんだけど。今日これからバイトだし」
「ええぇ。バイトなの?」
「どうしたどうした。何か用か」
「だってさ、帰って朝の続き……ね?」
「ああ、それか。ゴメンね。今日バイトあったから朝したの。逆に欲求不満か」
「なら朝言ってよ。バイトだってさ」
「ゴメンゴメン!でもどうせ明日からまた何日か学校休みじゃん。その時ね」
「つまんないの」
「だからゴメンって」
目論みは見事に失敗だ。今日一日は暇になるだろう。
美咲は時間が無いといい急いで帰って行った。
彩は一人で下校するハメになる。
「もう……」
137:命の皿~獣の跡⑤~ ◆wHsYL8cZCc
10/04/21 02:35:48 slSVxA3N
カチ と音がする。点した炎でタバコの先に点火し、彩はゆっくりと煙を吐き出す。
中学生で覚えたタバコを吸う姿は、今ではすっかり堂に入った物になっている。
決して不良という訳ではない。むしろ学校では優等生として通っている。問題も起こした事は無い。
それでも、自身の悩みを吐き出す道具として、彩はタバコを口にしたのだ。
吐き出した煙を纏い、彩は路地裏を自転車を引いて歩いている。
猫が塀の上で丸まっている。横を通る彩の動向を目を丸くして警戒し、煙の臭いを嗅ぎ付けて塀から飛び降りる。
陰にある自販機ではいつも特定のコーヒーが売り切れたままだ。商品の入れ替えはどうなっているのだろうか?
彩はタバコを投げ棄て、足でそれを踏み火をけした。そしてまた路地裏を自転車を引いて歩きだす。一人の時のお決まりのルートだった。
そう、いつもここを通っていたのだ。
「おーい、彩ちゃん」
突然の声。それは前方から聞こえてくる。
「……正彦?」
「やっぱりここ通ってたね。表通り通れば簡単に周り込めるわ」
「なんでアンタが居るのよ」
「おいおい、せっかく待ってたのに随分酷いな。デートに誘おうと思ってたのにさ」
「しつこいなぁ。行かないってば」
「相変わらずつまんねー女だなぁ。おい」
「悪かったわね」
「そうそう。悪いと思ってるならさ、ちょっとだけ俺達と付き合ってくれよ」
「俺達?」
正彦の後ろには一台のワゴン車が止まっていた。そこから、二人の男が降りてきて正彦と列ぶ。
「正彦?」
「ちょっとだけだよ。俺達と遊んでくれりゃ、それでいい」
「嫌よ。何度も言ってるじゃん」
「いーや。来てもらうぜ」
正彦と列ぶ男達は突如彩に詰め寄る。そして髪の毛を掴み強引に引き寄せる。
「嫌…何するのよ!」
「ガタガタうるせぇんだよ」
髪を掴む男の拳が彩の腹部を打つ。今まで経験した事の無い痛みが走り、息が詰まる。声すら出ない。
その様子を見ていた正彦は笑いながら言い放つ。
138:命の皿~獣の跡⑤~ ◆wHsYL8cZCc
10/04/21 02:37:46 slSVxA3N
「おいおい、殴んじゃねぇよ。俺のお気に入りだぜ?」
「散々シカト食らってよく言うぜ。このくらいじゃケガにもなんねぇよ」
男は再び彩を殴る。
正彦ともう一人はそれを笑いながら眺めている。
「正…彦…?」
「あー?何だよ?」
「なんで……?」
「当然だろ?散々人の事バカにしやがってよ。どんだけ誘ってもうんともすんとも言わねぇからよ。
頭きたからコイツらと廻してやるよ。」
正彦はいつもの笑顔だった。
いつもと変わらない、あのしつこいだけの正彦。
「おい、見られた面倒だぜ。さっさと行こう」「そうだな。じゃー夜まで待って適当な駐車場で止めるか」
彩は引きずられながら車へ連れ込まれる。呼吸はまだ思うように出来ない。腹部の痛みは激しいまま。
「じゃあ行こうか彩ちゃん」
彩は羽交い締めされたまま後ろの席に居る。正彦はそれを見ながらタバコをふかし、彩の頬を平手で打つ。
「このクソアマがよぉ。素直に遊んでくれりゃ別に腹もたたねぇけどよ。ここまで頑なだとこっちだって考える物があるわな」
そう言いながら今度は腹を殴る。先ほどの痛みと重なり、彩は身体をよじる。
「おーおー。声もでねぇか?いい様だなぁ。彩ちゃんよ?」
「おい、こいつタバコ持ってるぜ」
後ろで彩を抑える男がそれを見つけ、正彦はそれを奪い取った。
「あらら、いっちょ前にタバコ吸ってるんだ。意外だったわ。清楚な娘だと思ってたのにさ。俺ショック」
「よく言うぜ。お前」
こいつらは獣だ。彩は率直にそう思った。そして彼らの次の行動も、簡単に予測出来る。
その恐怖だけでも相当な物だった。
正彦は彩のタバコを一本取り出し、火を付ける。そして―
「い…嫌。お願い止めて……。止めて!!」
「顔にはやんねぇよ。綺麗な顔に傷がついたら嫌だもんねぇ?」
「嫌ぁぁああああ!」
彩のタバコは鎖骨の辺りに押し付けられる。 ニコチンが焦げる臭いが漂い。彩はただ苦痛に苛まれるだけ。
139:命の皿~獣の跡⑤~ ◆wHsYL8cZCc
10/04/21 02:38:34 slSVxA3N
想像しただけでも途方もない絶望だった。
これがどれだけ続くのか。しかも夜になれば、さらなる苦痛が待っている。
「嫌……。助けて……」
「往生際悪いな。もう諦めな。」
「お願い……。許して……」
「しつこいなぁオメェはよ」
再びタバコが押し付けられる。叫び声をあげるが、大音量の音楽に掻き消される。
何より、走行中の車の中では元より意味は無かった。
140:命の皿~獣の跡⑤~ ◆wHsYL8cZCc
10/04/21 02:39:26 slSVxA3N
投下終了。
これを投下して良かったのだろうか……?
141:創る名無しに見る名無し
10/04/21 23:01:31 jklyc0uh
危ぶむなかれ。危ぶめばビビンバ無し。
迷わず行けよ、行けばワカメさ!
ありがとー!
まあ、きわどいとは思うが、こっからどう話が繋がってくのか、
というのは大いに気になる所だ。
色々と予想したりしながら読んでるから、
続きをかまなべいべー。
142:創る名無しに見る名無し
10/04/21 23:10:55 slSVxA3N
きわどいか。
じゃ次は完全アウトになる悪寒w
最後まで出来てるからちゃんとやりてぇんだよなぁ。だからこそのハード路線だし。
エロと暴力とホラーは切っても切れないじゃん。
143:創る名無しに見る名無し
10/04/21 23:15:28 jklyc0uh
まあ、でも、直接的描写はNGやから、
そこら辺はぼかすか、あるいはエロい板のスレを
そこだけ利用するかしておくれなw
何にしろ、この話の続きはめっちゃ気になってるんで、
続き頑張ってくれ。
144:創る名無しに見る名無し
10/04/21 23:23:40 slSVxA3N
エロを目的としたエロじゃないが難しい所だ。
濡れ場はわんさか出る予定だがw
145:創る名無しに見る名無し
10/04/21 23:26:33 jklyc0uh
まあ、アウトだったらアウトって言うからw
濡れ場にはモザイクよろしくな!w
146:創る名無しに見る名無し
10/04/21 23:30:18 YxNZwSL9
濡れ場わんさかはさすがにアウトだべ
147:創る名無しに見る名無し
10/04/21 23:50:15 slSVxA3N
ふむ、ではそういう事してんじゃね?的にぼかすw
148:命の皿~獣の跡⑥~ ◆wHsYL8cZCc
10/04/22 19:41:10 QsQrjuRG
感情は沸かなかった。
正彦達のお遊びは二時間程で終わり、彩はあっさり解放された。
駐車場の街灯がぼんやりと、淋しげにアスファルトの地面を照らしている。
自分が今居る場所すら彩には解らない。電車は既に終電を過ぎて居るだろう。仮に電車があったとしても、財布の中身は抜かれている。どうする事も出来なかった。
着ていたブラウスは無惨に破れ、穿いていたスカートは連中の汚物で汚れている。無造作に投げ捨てられたブレザーだけが無事な姿でそこにある。
涙は既に枯れていたのか。彩は表情を殺したまま地面に座り込む。タバコを押し付けられた痕がジワジワと痛む。
どれだけそうして居たか解らない。
やがて吐き気を覚えた彩は、ふらふらと立ち上がり近くにある公衆トイレへ入る。
便器に覆いかぶさり吐こうとするが、胃の内容物は特に無い。いくら待っても吐き気がますばかりだ。
彩は手洗い場の水でハンカチを濡らし、顔を拭う。打たれた頬が痛む。鎖骨には無惨な火傷。
赤く晴れ上がった自分の顔を見て、彩は少しずつ感情を取り戻す。
ようやく、涙が溢れてきた。
149:命の皿~獣の跡⑥~ ◆wHsYL8cZCc
10/04/22 19:42:57 QsQrjuRG
終了だよテクセウ。
もうすっ飛ばせるだけすっ飛ばした。
その内エロパロ板に空白の衝撃シーン投下してやる!(゚д゚)ケッ!
それが出来てようやく完全版。
150:創る名無しに見る名無し
10/04/22 20:43:29 QsQrjuRG
エロパロ行ってきた。
そしてエロ描写が苦手と知る。
151:創る名無しに見る名無し
10/04/22 23:41:44 0TqhWLRZ
乙乙。
色々苦労したようだな。でも、逆に描写されていないからこそ(以下省略
鬼畜でごめんなさいごめんなさい
エロは勢いですよぉぉぉぉぉぉおおおおおおおお!!(炎上
152:創る名無しに見る名無し
10/04/22 23:54:24 QsQrjuRG
鬼畜めw
でもこれで 正 彦 死 ん で も お k になった訳だ。
しかしまぁウボァー
153:命の皿~遺伝~① ◆wHsYL8cZCc
10/04/26 16:13:01 BHOTh2E2
住宅街から少し外れた林の陰、今はただの土の地面に過ぎない枯れた田園のすぐ側にそれはあった。
比較的広い敷地の中に建つ、一見普通の民家に見える建物、道路に面した塀の奥に見える小屋の赤い屋根。そのすぐ近くには林が迫っている。
篠田は敷地の中の砂利の駐車場に車を停める。
建物の大きな標札には「命の家」と書かれている。かつて、少年の凄惨な事件が起きた場所へ、篠田は七年ぶりに訪れた。
現場となったウサギ小屋は現在閉鎖されているのだろうか。そこへ続く通り道は木の塀が設けられ侵入者を拒む。
隙間から見える限りでは枯れた雑草ばかりで、何年も人の出入りが無い様子が見て取れた。
施設の入口から見える場所には新たなうさぎ小屋が建っている。まだうさぎ達は健在のようだ。あの後に産まれたという子うさぎの子孫だろうか。
篠田は玄関へ向かって歩を進める。木製のドアは幾分煤けた色に変わっていた。
篠田はインターホンを押し、相手の反応を待つ。
『はい。どちら様でしょうか?』
「先程お電話した篠田です」
『ああ、今出て行きます』
篠田を出迎えたのは三十代とおぼしき男性だった。昔居た職員では無い。
「お忙しい中、突然お尋ねして申し訳ない」
「いえいえ、お気になさらず」
彼は篠田を応接室へと通し、コーヒーを差し出す。それを一口啜り、篠田は切り出した。
「……昔居た方々は?」
「ああ。よくは知りませんが、人の入れ替えが多くて。私が来たのも二年前ですんで」
「そうですか」
「噂じゃ子供の幽霊が出るとか。私は見た事無いですがね」
「あながち間違いじゃないかも知れませんね」。
「ちょっと、刑事さん。冗談は……」
「七年前にここで少年が殺されてますから」
「え?」
「ご存知無かったようですね。引き継ぎはされていると思っていたのですが」
「聞いてないですね……」
「それが入れ替えが激しい理由でしょうね」
154:命の皿~遺伝~① ◆wHsYL8cZCc
10/04/26 16:14:36 BHOTh2E2
「誰だって殺人現場で寝泊まりしたいとは思いませんから」
「それで黙ってたんですか……」
「ええ。それで当時の方々にまたお話を伺いたかったのですが」
「そうなんですか……。七年前……でしたね。申し訳ないんですが、その当時の方々の連絡先までは知らないんですよ。記録にもあるかどうか……。あ、一人だけ居ますね」
「一人?」
「ええ。カウンセリングの先生ですよ。ここに来る子供達は問題を抱えている事が多いので。ケアの為にお世話になってます」
「連絡先は?」
「ええ。知ってます。こちらからも電話しておきますよ。」
「助かります」
「ところで……。七年前の事件の事って、なんでまた聞くんです?」
「犯人はまだ捕まってませんから」
「捕まってないんですか!?」
「ええ。まだ捜査中です」
155:命の皿~遺伝~① ◆wHsYL8cZCc
10/04/26 16:16:53 BHOTh2E2
終了
156:創る名無しに見る名無し
10/04/26 17:13:22 iqvED3Sf
捜査パート、何かドキドキすんな。
157:命の皿~遺伝②~ ◆wHsYL8cZCc
10/04/26 22:14:37 BHOTh2E2
今日は珍しく晴れていた。ここ数日は毎日のように雨が降り、あまつさえ雪までふったのだが。街中は人が溢れていたがまだ気温は上がらない。皆まだ冬着のままだった。
気分がいまいち悪いのはこの晴天と気分とのギャップのせいだろうか。
篠田の車はとあるペンシルベルの脇に停められている。
五階建てのビルの三階まで階段で登り、小さな表札に福田クリニックと書かれたるドアの前に立つ。
インターホンを押すと、ドアの奥から大きな声が響く。予想外にもそれは女性の声だった。
「開いてますよー。勝手に入って結構です」
篠田はドアを開け、中に侵入する。
簡単な造りの無人の受付があり、その奥では白衣を来た女性が机に向かって資料を読みあさっている。
長い髪が窓から差し込む光に当てられ輝いている。整った顔立ちは知性を感じさせる。
篠田は素直に美人だと思った。妻には申し訳ないが。
「あの……」
「篠田刑事ね。よく来てくれました。私がここの責任者の福田可奈子です」
「突然の訪問お許しください。可奈子先生」
「いいえ。それより七年前の事を聞きたいとか」
「ええ。今のところ連絡が付いた当事者は先生だけでしたので」
「当事者……という訳ではありませんよ。私が関わったのは事件があった後ですから。その頃には警察の方もほとんど寄り付かなかったですし」
「先生はあの後の子供達の精神的ケアをなさっていたとか」
「ええ。子供達ばかりではないけれども」
「というと?」
「職員さんですよ。当時の子供達の保護者は割と高齢のご夫婦でしたから。ショックは相当だったでしょうね。犯人の行動分析までさせられたし」
「行動分析?そんな事まで!?」
「ええ。ご存知無かったかしら。警察の要望でやらされたのですが。最初は断ったんですけどね。専門とは掛け離れてますから」
「私は聞いてないですね」
「あらそう?てっきり捜査に反映される物かと。まぁ警察側でもあまりアテにはしてなかったんでしょうね」
「申し訳ない」
「刑事さんが気にする事ではないわ。でも、てっきりその事聞きにきたのかと思っていたけれど違うみたいね」
158:命の皿~遺伝②~ ◆wHsYL8cZCc
10/04/26 22:16:26 BHOTh2E2
「はい。むしろ先生がケアを行った中でおかしな人間が居ないか、それを聞きたかった」
「犯人は身内にいたと?」
「解りません。が、可能性はあります」
「それは無いわ。あの施設にいたのは保護者の老夫婦だけだったし、二人ともとてもショックを受けていた。殺害に関与してる人間の精神状態では無かった」
「子供達は?」
「子供達?」
「ええ。あの当時施設に住んでいた子供達。そのケアも行ったのでしょう」
「当時いたのは殺害された少年が最年長よ。その子ですら十二歳だったわ」
「子供が殺人を犯す事例は過去にも多数ある。年齢はあまり問題ではない」
「……たしかに、子供達の中にはいくつか心に問題を抱える子はいました。ですが、あの施設にくる子達は元々問題を抱えていたからこそ来た。それにとくに異常性のある子は見当たらなかったわ。一人一人の精神鑑定をした訳でも無いですし」
「では、先生が行った犯人の行動分析とは?」
「私は精神科医であって心理学者ではないから詳しくは言えないんですけど」
「構いません」
「犯人は……やりたいからやった」
「それだけですか?」
「ええ。その犯人が何を思って行動したかは解らない。でも理由は簡単だった。ただ殺したかった」
「異常な人間ですか?」
「私達から見ればそうですね。でも、犯人にとってはそうでも無い。当たり前の行動だった」
「怪物ですね」
「そうですね。ですが警察側でもそれは解っていた事では?」
「なぜです?」
「刑事さんが聞きたかったのは当時の事ではないわ。単なる確認作業に過ぎない。犯人の目星は付いている」
「ばれましたか」
「ええ。心理学は専門外だけど七年前のおかげで勉強する機会ができましたから。刑事さんが最初から事件の本筋が見えているように思えた」
「……数日前に起きた殺人事件はご存知で?」
「ええ。ニュースで見てます」
「犯人は恐らく同一犯です。そして犯人は多分、当時施設にいた子供達の誰か」
159:命の皿~遺伝②~ ◆wHsYL8cZCc
10/04/26 22:17:48 BHOTh2E2
「なぜそう思うんですか?」
「それ以外考えられない。犯人は痕跡も残さずに少年を殺害し、施設の台所から包丁を奪って少年を『解体』した。それを行った理由までは解らないが」
「ですが子供達にそれほどの異常を持つ子供達は……」
「先生は精神鑑定までは行ってないとおっしゃってましたよね?」
「当時いた子供達の書いた絵や作文を借りて来ました」
「はい?」
「これから何か解る事は無いですか?」
「私は精神科医よ。心理学なら専門家に……」
「当時、直接子供達に関わったのは先生しか居ない。先生、この犯人は必ずまたやります。それも理由なく、証拠も残さず。シンプル過ぎるんです。我々の思考の外側に居る」
「私に何をさせたいんですか?」
「心理学の専門家でない事は解りました。が、先生のお知り合いに誰かいませんか?」
「直接頼めばいいのでは?」
「七年前の繋がりをいちいち調べてるのは今のところ私だけです。
警察側としてはおおっぴらに七年前の事件を掘り起こす気が無い。捜査協力を依頼すれば上層部に知れる事になる。となれば昔の事は出来る限り触れたくない上の連中が邪魔になる。
ですが、先生が昔の事件を元に医師として研究したいとなれば別です」
「つまり……私が資料を頼んだ事にしろと?」
「勝手なのは承知しています。ですが、この犯人はまたやる。絶対に。なりふり構っていられない」
「はぁ……。確かに、七年前に助言を求めた方は居ますけど」
篠田の申し出は常軌を逸していた。一匹狼だとは解ったが。
「解りましたよ。『私が頼んだ』資料はお預かりします」
「ご理解感謝します」
「篠田さんは本当に子供が犯人だと?」
「はい」
「……正直な所、問題を抱える子供達には犯罪走る傾向があるのも事実です。私が見る限り、あの時の子供達には見受けられなかったけれど……。特に親の虐待を受けた子供は大人になると繰り返す事もあるわ」
「ほう?」
「悪意は遺伝する……。あまり考えたくはないけれど」
160:命の皿~遺伝②~ ◆wHsYL8cZCc
10/04/26 22:20:19 BHOTh2E2
終了
161:創る名無しに見る名無し
10/04/27 21:14:29 bwqhe3nx
どう繋がっていくんだ・・・
色々想像できるが・・・何か、想像は外れてるような気しかしない。
162:命の皿~遺伝③~ ◆wHsYL8cZCc
10/05/03 19:39:29 mHGXMBaM
緑色の光が暗闇の中で朧げに点滅している。
規則正しく、振動を伴いながら。
ずっと。
「う~……ん。ん?」
彼女はそれに気付いた。振動を伴う光は彼女の側で点滅している。
淋しげに。助けを求めるように。
「誰だぁ……?こんな時間にぃ~」
彼女の携帯はずっと光っている。一体いつから着信していたのか。
正直眠気が勝っていた。出る気は無かったが、せめて相手だけは見ておこう。そして明日の朝一番に、思い切り文句でも言ってやる。
そう思って彼女は携帯を開いた。
だが、その電話の相手を見て彼女は飛び起きた。携帯の画面には「長谷部彩」と表示されていたから。
彼女はすぐに応答のキーを押し、携帯を耳に当てた。
「彩?どうしたの?ずっと電話してたんだよ!?」
《……三咲?》
「どうしたの彩?どこ行ってたのさ?」
《三咲……。ごめんね》
「何言ってんの?何で謝る訳?」
《……ごめんなさい。三咲……》
「だからどうしたのさ?」
《……》
「彩?」
僅かな沈黙だった。しかし、携帯の向こうから聞こえる小さな音だけは聞こえてくる。
「……彩?泣いてる?」
《三咲……。ごめん》
「ちょっと、ホントどうしたの?何があったのよ?!」
《三咲……》
「……今、家に居る?」
《え……?うん……》
「判った!じゃ今から行くから!待ってて!」
《今から……?》
「そうよ!だって何があったか電話じゃ言いづらいんでしょ?直で聞きに行くさ!」
《三咲……》
「なに?」
《ありがとう》
「よせやい」
三咲は飛び起きて着替え始める。髪は寝癖が付いていたが直す時間が勿体ない。適当に纏めあげ、ゴムで止める。
携帯と財布だけを持ち、玄関へ向かう。その様子は家族にもすぐにバレてしまった。
「どこ行くんだ三咲?」
「げ」
「『げ』じゃない。こんな時間にどこ行くって聞いてんだ」
163:命の皿~遺伝③~ ◆wHsYL8cZCc
10/05/03 19:40:13 mHGXMBaM
「なんでバレた?」
「こんな夜中にでかい声で電話してりゃすぐ気づく。しかもあれだけドタバタしてればなおさらな」
「いいじゃんお父さん。見逃して?」
「馬鹿者。夜中に娘が出歩いて喜ぶ親父が居るか。せめてどこ行くか言いなさい」
「……彩の家」
「彩?ああ、あのよくうちに遊びに来てた娘か。しかしいくら仲がいいからってこんな夜中に行ったらあちらさんも迷惑だろう?」
「でも……」
「でも、何だ?」
「今行かなきゃ駄目なの!だってこんな夜中に電話してきて泣いてたんだよ!?心配じゃん!」
「しかしだな。いくらなんでも……」
「いいの!私行くから!!」
父の制止も聞かずに三咲は玄関へ向かう。早く行かなければ。それしか考えて居なかった。
「おい三咲!」
「じゃ行ってくるから!」
「おい!……。ったく」
三咲は外の自転車に乗って道路に出る。風が冷たかった。薄着だったせいか肌寒い。しかし、今は構っていられない。
彩が待っている。
164:命の皿~遺伝④~ ◆wHsYL8cZCc
10/05/03 19:42:47 mHGXMBaM
「彩~?居る?」
真っ暗な空間に声が響いた。家には誰も居ない。玄関の鍵も開いたままだった。
「彩~?」
「三咲……。そのまま二階来て」
彩の声だ。どうやら家族は出払っているようだ。今はこの家には彩一人なのだろう。だからこそ三咲に電話したのかもしれない。
三咲の性格ならば、突然訪ねてくる事も容易に予想出来たから。
三咲は靴を脱ぎ玄関から見える階段を急ぎ足で登る。どたどたと大きな音を立てるが今は彩以外誰も居ない。気にする必要は無かった。
彩の部屋は分かっている。
そのまま部屋へと直行し、ドアを開ける。中はまたしても暗闇だった。
「彩?どうしたのさ明かりも点けないで」
「付けたくなかったから」
「……明かり、点けてもいい?」
「うん」
三咲はドアのすぐ脇にあるスイッチを手探りで捜し当て、それを押した。
蛍光灯が二、三度点滅し、そして光りだす。
暗闇に居たせいか目が慣れるまで数秒必要だった。ぼんやり見えたのはパジャマ姿で膝を抱え、うずくまった彩の姿。
目がようやく明かりに慣れた頃、その異変が目に飛び込んで来た。
「ちょっと……!どうしたのその顔!誰にやられたの!?」
「……」
「彩、何があったのよ!?」
「三咲……」
「なに?」
「ごめんね。電話でなくて」
「いいよ……。それよりさ、何あったの?」
「……」
「何か言ってよ……。お願い」
「私ね……。レイプされちゃった」
彩は事の顛末をこくこくと涙ながらに語る。それだけでも相当な精神的苦痛だろう。三咲以外には、おそらく話せない。
「信じられない……。正彦が!?」
「うん。アイツ、仲間連れてた」
「そんな奴らと連るんでたなんて……」
「ごめんね三咲」
「なんで謝るのよ!?悪いのアイツじゃん!」
「だからってさ、どうにも出来ないじゃん。警察行くのだってイヤだよ。あんな連中ほっとけばいい。もう関わりたくない」
165:命の皿~遺伝④~ ◆wHsYL8cZCc
10/05/03 19:44:46 mHGXMBaM
「それでいいの彩!?」
「よくないよ。けどさ……」
「けど……何さ。言ってよ」
感情は殺そうと思っていた。出来ればもう忘れて無かった事にしたい。だが、傷が痛む度に思い出す。何より、三咲の声が聞こえる度、心が痛む。
心を許せるだけ、感情が引きずり出されてしまう。
「三咲……」
「なに?」
「悔しいよ……」
「彩……」
「絶対許せないよ。でも何にも出来ない。悔しいよ……!」
涙が溢れてくる。忘れようとしていた涙が。
伝う涙が腫れた頬にしみる。痛い。それでも涙は止まらない。
「……泣くなよ。可愛い顔台なしだぞ」
「三咲……」
「そんな連中、いつか天罰落ちるさ。大丈夫。絶対にね」
「うん。ありがとう」
「よし、後は思う存分泣け!」
「言ってる事メチャクチャだよ」
「いいの。ほら」
三咲は彩を抱き寄せて頭をぽんぽんと叩く。着ていたジャージが彩の涙でぐしゃぐしゃに濡れていたが、三咲は気にしていない。
「ごめんね三咲」
「謝るなってば。今日は朝まで付き合ってあげるからさ。お姉さんの胸で心置きなく泣きなさい」
166:命の皿~遺伝⑤~ ◆wHsYL8cZCc
10/05/03 19:45:35 mHGXMBaM
「警部補殿」
いきなり呼ばれた。
ソファーで横になっていた篠田は寝ぼけ眼で声の主を見るがぼやけてよく見えない。
俺も歳か と思っていたら向こうからさらに声が発せられた。
「起きて下さい篠田警部補殿。お話があります」
「ん~?これはこれは……。警視殿」
篠田をたたき起こしたのは藤村辰治警視。七年前の事件の時の篠田の上司であり、そしてもっともバッシングを受けた男だった。
「わざわざご苦労様ですな警視殿」
「皮肉のつもりですか? 貴方のせいでここまで来たんだ」
「もうバレたんですか」
お互い明らかに不満気に挨拶を交わした。
久々の再開とは言え、あの『先生の依頼』が知れた以上は現在の関係は敵同士だ。
「ずいぶんと……。面倒な事をしていますね」
「ええ。性分ですから」
「何をしているか解っているんですか? 確実に貴方の今後に影響しますよ。それも悪い方に」
「警視殿のように器用じゃないですからね。元々昇進なんて気にしてません」
「また皮肉を……」
「わざわざご忠告に?」
「ええ。元々勝手にやる人だ。けどこの件に関しては今まで通り自由にはやれない。いずれバレるぞ」
「構いませんよ。どうせまた表ざたになる事件だ」
「どういう事ですか?」
「……またやりますよ。この犯人は。バレると言ったが、それはマスコミ相手だって同じだ」
「嗅ぎ付けられると?」
「ええ。現に今回の事件だけでもかなり騒いでる。関連性を見つける奴だってきっといます。そういう連中だ」
「捕まえる自信は?」
「あります」
藤村は下を向く。苦悩した表情は彼の微妙な立場を表しているのだろう。現場の篠田には理解出来ない悩みだ。
「……いつまでもダラダラやってたら確実に邪魔が入ります。急いで下さい」
「出来ればそうしたいですね」
「こっちは何とか押さえます。うまくやって下さい」
「いいんですか」
「……私も悔しいんでね。ケリをつけたい。もう一度聞きます。逮捕する自信は?」
「はい。あります」
167:命の皿~遺伝⑤~ ◆wHsYL8cZCc
10/05/03 19:47:16 mHGXMBaM
投下終わり
168:創る名無しに見る名無し
10/05/03 22:31:35 mX0ffldt
なんか、警察パートが渋カッコよくていいなぁ。
次辺りで話が大きく動くのかな? わくわくどきどきリサイクルあそび。
169:創る名無しに見る名無し
10/06/17 17:50:36 IjrQOsXr
今夜スティッカムで20時から希美まゆ生出演するよ
URLリンク(webmaster.stickam.jp)
四匹の蝿ってホラー映画の公開前夜イベントだそうな