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ホラー総合スレッド - 暇つぶし2ch63:悪魔の贖宥状
09/02/26 18:39:23 vz6mwEIs

教室の一室で向かい合う教師と生徒、野暮ったいスーツに眼鏡をかけた男性教諭は
大きく鼻息をならすと目前にいる生徒の顔を見つめる。
肩に掛かった艶のある髪がはらりと撫で落ち、切り揃えた眉の下で机の上を見つめ
薄く目を開けている。

「国木は進路希望が”特になし”になっているけど?
実際の所どうなんだ、就職する気もないのか?」
「はい」
「何か希望する職業とか夢とか……やりたいことはないのか?」
「特にありません」

けだるい表情を浮かべ生徒がそう言い放つと、教師は困惑した様子で頭をかいた。
虚ろな目でただ机の上を見つめ、何事かを思案しているように見えるかと思えば
不意に窓の外へと目を移し、窓の外で揺れる木陰を目で追っている。

「三者面談でお母様が来られないのでは……」
「うちの母親も就職しろって言ってます」
「……母親ね」

まるで他人の親を語るかのような生徒の言葉に遮られ、教師は繋ぐ言葉を失う。
成績、素行共に平均、これと言って学力が低い訳でもない、母子家庭に生まれ
祖父母に預けられたその人生の軌跡によるものなのか、彼女は対人能力が欠如していた。

「水商売以外なら何でもいいです」
「何を言ってるんだ、国木……もういい、帰りなさい…気をつけてな」

後ろから声をかけられ、彼女は形ばかりに浅く会釈をすると、教室内から退室する。
他の生徒の姿もまばらになった校内の廊下を歩き、教室の机の前に立つと帰る支度を始める。

「……どこか…遠くに行きたい」

彼女がそう呟くと窓際に立ち、校外に見える景色を眺める。
自らの今後を想像する度に厚く積もった不快感が心を満たしていく、
つい先日、乳飲み子を祖父母に投げやり、養育費などついぞ払ったことのない母がふらりと現れ、
突然、彼女を引き取ると言い出したのだ。

アルコールで焼けた眼球に染み付いたヤニの臭い、彼女にとっては母も含め、全ての人間が不快だった。
綺麗事を並べ他人を不幸にして、自分は幸福にすがろうとする浅ましい人間。

「死ねばいいのに……あんな奴ッ!」

蹴り飛ばした椅子が勢いよく倒れると無人の教室内に床を叩く音が響く、
彼女に限って言えば好きこのんで、人間不信になったのではなく、
嫌いな人間がいるから人間不信になったのだ。

家に帰ればまたあの女が我が物顔で酒を飲み、”母親の用意した就職先”を執拗に勧めてくるだろう。
肝臓を悪くし立てなくなった母の代わりに子が働く、よくある美談に仕立て上げ
涙ながらに訴えようが滑稽な嘆願であることには代わりはない。

(あんな女に私の幸福を奪う権利なんてないんだ……)

少女は歯噛みながら教室を飛び出すと玄関先から外へと歩き出す。
そこに違和感を感じるまでの数秒、彼女には眼前の光景を目にして思考が静止する。
身の丈2mはあろうかと言う巨大な襤褸切れがただ忽然とその場に立っていたのだ。

『ならば…貴女が狩れば宜しかろう』

唸るように低く くぐもった声で何者かが彼女にそう語りかけてきた。

64:悪魔の贖宥状
09/02/27 03:39:20 6GY0R5pM

赤く染まりながら暮れる夕日に照らされ、襤褸切れの内部から覗く黄色い眼光に沙由華は気圧される。
何者かはゆらゆらと頭を数度揺らし、体の形を変化させたかと思うと
比較的穏やかな声で少女に語りかける。

『何を迷うことがあるのか』
「あなた…何なの? 刈るって何を?」
『他人を不幸に陥れ、自らが幸福を掴む、そこまで理解しているのであれば…話は早い』

何者かは少女に向かい一枚の書状を投げ出すと風に煽られた紙は
ひらひらと宙を舞い少女の足元へと舞い落ちる。彼女は紙を拾い上げると
そこに書かれている日本語とは似てもにつかぬ言語で書かれた文面を読み上げる。

「贖宥状?」
『ハ…人の世の幸福とは有限である、人と家畜は同じように公平ではない
神の法も人の法も、元より持った権威を固持する為の方便に過ぎん
それゆえの”贖宥状”よ』
「……」
『それを持てばいかなる罪も許される…このようにな』

何者かが襤褸切れを振り上げると、足元にゴムのような何かがべチャリと言う音を立て投げ出される。
地面に染込むように広がる赤黒い血、少女は目を凝らしその物体がなんであるかを悟った瞬間
思わず口元を押さえその場に塞ぎ込む、それは生きたまま剥がされた人間の頭部の皮膚だった。

『ハ…蟻を踏んだ人間を責めるほど、貴女も聖人では在るまい』
「私は…人殺しなんて……」
『望まぬのであれば”贖宥状”は発行されぬ
ともあれ、貴女の好きなように生きれば宜しい』

不意に吹き荒れる突風に舞い上げられ、襤褸切れは宙高く舞い上げられると、
みるみるうち赤い空の上に高度を上げ、ついにはその姿を消した、少女は震える片手を空いた手で押さえ込みながら
駆けるようにその場から逃げ出そうとする。

「ッ!」

道の中央で血を流し全身の皮を剥がれた、何者かの死骸が転がっている横で
何食わぬ顔で生徒達数人がゲラゲラと笑い声を上げながら談笑している。

(見えてないのかしら?)

少女はゆっくりと遺体へと近付くと足でその体を裏返す、アスファルトに固着した血漿が
ぺりぺりと音を立て遺体の前面が露わになると、面の眼孔と歯茎がごっそりと抉り取られていることに気付いた。
どのような手順で殺害されたのかは予測できないなかったが、
現状ではあの何者かの言うことが事実であるということの裏付けは取れた。

少女は悲鳴を上げるわけでもなく、ただ足元に転がるかつての同校生の姿を見下ろす。
屠殺場でぶら下がっている畜生の死骸と大した差はない、少女は薄く笑うと足を振り上げ力任せに死骸を蹴り飛ばした。
元同校生は転がるように横転すると側溝に転げ落ち停止した。

(私は……自由!)

65:悪魔の贖宥状
09/02/27 03:39:55 6GY0R5pM

笑みを浮かべながら少女は自宅へと駆け出す、自宅へと到着する頃には日も暮れ庭先から裏庭へと周り、
物置の中から小振りの鉄パイプを一本見つけると、玄関のドアを潜り物も言わずに家へと上がりこんだ。
一室のドアを開けると部屋に充満していた煙草の煙が流れ出し、思わず咳き込む。

「おかえりぃ、沙由華…今日店長とお話してね
アンタすぐにでも働けるって、女子高生だからねぇ、稼げるわよぉ」
(私が稼いだ所でどうせ、お前が毟る気なんだろうが、この寄生虫がッ!)

少女は物も言わずにテーブルの前に座り込む母親の背後に立つと、鉄パイプを後頭部に振り下ろした。
壁を叩いた時のような鈍い音と共に母親は頭を押さえ込みながら椅子から崩れ落ち、
まるで信じられないものを見るかのような目付きで娘を見上げた。

「何? 何か文句あるの?クソヤロウ……」
「う…ぅ……痛いッ!」
「痛い? 私が肺炎こじらせた時や事故で足折った時、あんた何してたのよ?
間抜野郎と阿婆擦れの間に産まれたあたしが、どんだけ学校で惨めな思いしたと思ってんの?
ハ…自分さえ良けりゃそれでいいの? だったら私も親を見習ってそうするわ!!」

振り抜いた鉄パイプが母親の横っ面を叩き、転がる母の体の腹を踏み込むように足蹴にし
何度も顔面に向かい鉄パイプを振り下ろす。何度も…何度も…何度も……やがて顔面が崩れ落ち
原型が留めなくなるほど破壊し終えると、醜く歪んだ顔に向かって少女は呟いた。

「はぁ、ようやくスッキリしたわ、グジグジ悩んでたのがバカみたい」
「あら…沙由華帰ってたの?」
「お婆ちゃん、ただいま……また煙草とお酒買いに行かされてたの?」
「あの人は今どこ?」

少女はそう言われるなり手元の鉄パイプと床に転がっている遺骸を交互に見合わせると
祖母に向かって花がほころぶような屈託のない笑顔で答えた。

「さっき出て行ったよ、もう帰ってこないって」

66:創る名無しに見る名無し
09/04/02 00:04:46 UxMWVaQ2
てす

67:創る名無しに見る名無し
09/04/03 23:42:03 O/MWZBOD
age

68:創る名無しに見る名無し
09/04/06 18:26:50 DtsZtv9y
素晴らしいホラだ

69:創る名無しに見る名無し
09/04/08 01:41:52 QqkHKEVn
てす??

70:創る名無しに見る名無し
09/04/08 22:25:19 CmkrcPFP
>>25

>中学生の頃、運動部の幽霊部員だった俺は、夏休みの練習がとても嫌で、いつもサボって家でゴロゴロしていた。

幽霊部員と思ったら、実は本当の幽霊だった、というオチを期待したw


71:創る名無しに見る名無し
09/04/09 10:42:30 TxFjjSk7
他スレより転載

お迎え

 午後二時。
 幼稚園のプール教室に通う娘を迎えにいく時間となった。
 気が進まないが、生活パターンを変えて、近所から無用な関心を引いてしまうようなことはしたくなかった。
 家を出ると、お盆休みの時期のためか、街中に普段の喧騒さはなかった。
 太陽の日差しが、やけにまぶしく感じられた。

 幼稚園に着くと、娘の担任が職員室の窓越しに声をかけてくれた。
 窓辺の風鈴が涼しげな音を立てている。
「あら?メグちゃんのお母様……。残念でしたわ、すれ違いになってしまいましたね」
「すれ違い?ですか?娘は一人で帰ってないはずですが……」
 先生は一瞬困ったような顔をしたが、職員室から出てきて説明してくれた。
「もちろん、園の規則では園児一人での帰宅を禁止していますが、たった今、メグちゃんのお父様がお迎えに来てくださったんですよ」
 先生の一言に、私は戸惑いを隠せなかった。
 一瞬、強い風が吹き抜け、風鈴の音が激しく鳴り響いた。
「主人?主人は……、外国に出張中で迎えに来られないのですが……」
 先生は、とっておきの知識を披露するのがおもしろくてたまらないという口調で、「メグちゃんのお父様もお人が悪いですね。お戻りになったことをお母様にも内緒にされていたとは」

 そんなわけはない!
 旦那が娘を迎えに来られるわけはないのだ。
 一ヶ月前、ちょっとした口論がきっかけで、カッとなって旦那を刺し殺してしまい、バラバラにした死体を袋詰めにして、山に埋めてしまったのだ……。
 いつの間にか風は止んでいて、風鈴の音は途切れていた。
 園庭は、真夏の日差しを受けて白く乾ききって、凪いだ海のように静まり返っていた。
 ただ、どこからか耳鳴りに似たセミの鳴き声が聞こえてくる。
 呆然と立ちすくむ私に、先生は微笑みながらこう付けくわえた。
「突然のことなのでメグちゃんもびっくりしていましたけど、とても喜んでいましたわ。お父様もメグちゃんに会うのは一ヶ月ぶりとのことで、本当に嬉しそうでした。『メグ、迎えに来たよ。お父さんと一緒に帰ろう』って、仲良く手を繋いでお帰りになりましたわ」

72:創る名無しに見る名無し
09/04/10 20:04:11 pkxXOnl+
続きは?続きはどうなるの?

73:創る名無しに見る名無し
09/04/10 21:05:53 iTJjhgEb
これで終わりのはず
怖い系の話をするスレで見たことある

タイトルが秀逸

74:創る名無しに見る名無し
09/04/12 02:43:29 CswF9tGY
お盆に幼稚園(笑)

75:創る名無しに見る名無し
09/04/13 03:24:36 RMci4uhB
「人を殺す人間ってどういう奴か分かるか?」
男はそう言うなり、肘を上げ指先でアゴを掻いた。

「暴力的な人間じゃないですか?
高圧的な態度を取るとか、腹に一物持ってるような」
学生がそう答えると興味無さげに周辺に目を移す。

男は余所見をしている学生にも見えるよう大げさなジェスチャーを交え
学生に言葉を返した。

「そうとは限らんな、割に感情豊かで温和に見える友人が
駅の構内で友人を後ろから線路へと突き落としたのを見たことがある」
「はぁ、それで?」
「感動物の映画を見て泣くような奴が、突如として冷酷になる
温和に見えても冷酷に見えても、同一人物、つまりただ単に”演技”してるのさ」

学生は口元を吊り上げ頭を捻ると、聞き入るように耳を傾けた。

「人間はロボットじゃないですから、色々と感情はあるでしょう
たまたま虫の居所が悪かったとか……」
「普通ならね、だが演技している人間は違う
本心からではなく、時と場合によって感情を使い分ける、本心では何も感じていない」

学生は男を見据えて笑顔で笑いかけながら、その場を一歩踏み出すと
男は腕を振り上げ威嚇する。

「目撃者が居ないよう周囲を確認し、辺りに人が居ないか耳を傾け
感情豊かに笑いかけながら俺を殺すのか?」

学生は弾むような声で笑った。

76:創る名無しに見る名無し
09/04/30 17:24:03 sNH0TUm/
警察の取調室では今日も不毛な取調べが行われていた。
被害者は一児の母、被疑者はその一人娘である少女である。
周囲の刑事達から好奇の視線を突きつけられても、少女はただ漠然と
頭を振りながら、うわ言めいた言葉を返すだけであった。

「エノクのデーモンにより授かった贖宥状により
私は全ての罪を許されるようになったのです」

口を開けばこの有体である、現実にはありえない話をとつとつと証言し
刑事達は参った様子で頭を掻いた。

「君の言っていた学校で死体を見たって話……」
「それが、あのデーモンが現実に存在するという証拠です」
「いや、確かにあったよ犬の死体がね、見間違いじゃないのかな」

中年の刑事がそういうなり、少女はうわ言のようにぶつぶつと何かを唱え始め、
”贖宥状”と呼んだビニールの切れ端をつかんだ腕で机を叩き始める。

「アグラリア ピドホル ガリア ……」
「……こ、これはちょっと我々の手に負えんな」

刑事達が互いに顔を合わせ、少女の狂騒を眺めていると
突然取調室のドアが開き弁護士の男が姿を現した。

「彼女の弁護人の杉田です、今すぐこの取調べを中止していただきたい」
「まだ取り調べの最中だ! 何の権限があって……」
「彼女は家庭の問題により精神に疾患を抱えており、事件を起こした以前から通院暦があります。
事件当日の彼女は心神喪失状態にあり、刑事責任能力は無かった
と……考えるのが妥当でしょう、故にこのような圧迫的な取調べは彼女の精神的な治療に
支障をきたす恐れがあります」

第三者からの過失により少女の心身に異常をきたし、事件当日の不可解な行動もそれを裏付けている
彼女が病んだ精神から異常行動に及んだと考えるのが自然な流れである。
また彼女の部屋から押収された読み取れぬ文章で書かれたノートなど、異常性の垣間見える品々が押収され
彼女が犯行当時、心神喪失状態であったことは明らかであった。

「……よって、被告を無罪とする!」

裁判室に渇いた木槌の音が鳴り響くと出廷していた少女がフラフラと頭を揺らしながら
その場から退席する。弁護を終えた弁護人の杉田は弱々しく歩く少女に付き添い、
言葉を交わす内に特別な感情を抱いた少女の瞳を見つめた。

「もう大丈夫だからね」
「私は……エノク…血盟によってその忠誠を誓う」
「きっと……良くなるから」

少女が僅かに表情を緩めると杉田は少女を見送り、ただ迎えに現れた祖母に付き添われ
裁判所を後にする、その背中をただ見つめていた。

そんなある日、弁護士の杉田と交際を始め、自宅療養を続ける最中にある彼女の家を
高校時代の友人の一人が訪れた。

「沙由華、悪魔とかどうとかはもう見なくなったの?」
「バカね……悪魔なんている訳無いじゃない」

少女は名前を変え、今もまだその街で平穏に暮らしている―

77:創る名無しに見る名無し
09/05/17 22:05:34 WKSyS+EL
ホラー…なのかな?
超常現象というよりは精神疾患
最後の一文が漠然とした怖さを感じさせるね

78:創る名無しに見る名無し
09/05/18 12:17:22 QrLWbApy
続きを書いたら、確実にホラーになるんじゃね?

79:創る名無しに見る名無し
09/05/18 13:33:13 Yn9n9f2F
ジャンルは俺にはよくわからんが、確かにこれは怖いな

80:創る名無しに見る名無し
09/05/18 14:00:24 io6BBMar
これもホラーじゃないかもしれませんが……



 人間本当に怖いと声も出なくなる。
 冷や汗が体中から吹き出した。洗濯機の中に髪の毛がぎっしり詰まっていたからだ。

「畜生!」

 自分を奮い立たせて、再び洗濯機の蓋を開けるとそこには何もなかった。すると俺の背後のバスタブでなにか大きな物が跳ねた。

 もう確かめるのも嫌だ。
 俺は振り向きもせずに朝食を作るため台所へ向かった。
 焼き魚にしようと思って魚を見ると、見るも無残に腐っている。昨日買ったばかりだというのに。
 かろうじて食えそうな部分に包丁を入れた瞬間、異常に吹き出る血。飛び散った血は一箇所に集まり、イタイ、と壁一面に書き記す。
 慣れてきたとはいえ、小心者の俺としては毎回心臓が止まる思いだ。


 一週間前、家に帰ってくると幽霊がいた。
 しかし、ぼんやりと考え事をしていた俺は気づかずに無視してしまった。
 腹を立てた幽霊は怖がらせようとしてあれこれやってくれる。
 トイレで座ってるときには冷たい手が尻を撫で回し、シャワーを浴びればスライムが出る。
 ウインナーの袋の中に入ってた犬の糞を、おもいきり窓に投げつけながら俺は悪態をついた。

「怖がらせるのと嫌がらせを勘違いしてないか?」


81:創る名無しに見る名無し
09/05/18 14:20:32 1gB9ZasG
>>76>>63の皮肉じゃなくて、もともとそういう流れのストーリーですよ



82:創る名無しに見る名無し
09/05/18 23:25:08 QrLWbApy
そこで、除霊のため霊媒師を呼ぶことにした。
幽霊vs.霊媒師
残念、書く時間がない。

83:いつもと違う
09/06/10 00:13:42 x/JJG0m9
【有名人官能小説スレから転載】

よく晴れた日の午後。

いつものようにレギュラー番組の収録を終え、いつものようにコンビニに寄って、
いつもの道を通って、いつものマンションに帰宅したはしのえみ。

街は夕焼けに染まり始めていた。


tull・・・ tull・・・

玄関でパンプスを脱いでいると、リビングの電話が鳴った。
まるで、はしのが帰宅するのを見計らっていたようなタイミングだ。

(今日は誰とも約束してないし・・・マネージャーかな?)

tull・・・ tull・・・ tull・・・ tull・・・

「はいはい、今出ますよ~。」
脱いだパンプスを靴箱に入れ、急ぎ足でリビングに向かう。

tu・・・

はしのが受話器に手を伸ばしたところで、呼び出し音は止まってしまった。

「あらら。せっかちだね~。」


大事な用事ならまたかけてくるだろうと大して気にも止めず、
はしのは上着を脱ぎながらCDプレイヤーの電源を入れた。

・・・ギュ・・・ギュルギュル・・・ギュ・・・ギュ・・・ギ・・・・・・

「ありゃ?」

スピーカーからは、カセットテープが伸びてしまった時のような不快な音が聞こえてくるだけで、
いつまでたっても音楽は再生されない。

「やだなあ・・・壊れちゃったのかなあ。」


ふと気付くと、リビングいっぱいに差し込む夕日がたくさんの影を作っていた。
壁や棚に飾られた花も可愛らしい小物も、全てが影を作っていた。

それは見慣れている光景のはずなのに、
じっと見ていると何故か自分の部屋ではないような気がしてくる。

生活感が感じられないというか・・・まるで住む者を失った廃屋のような・・・。

・・・ギギ・・・ギュルギュル・・・ギギ・・・ギ・・・ギュルギュル・・・ギュルギュル・・・・・・

「・・・!」
我に返ったはしのは慌ててCDプレイヤーの電源を切ると、足早にリビングを去り
キッチンに駆け込んだ。

冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し、一気に飲み干す。

(う~ん、なんだかなあ。)
じっとしていると何故か妙に落ち着かない。

84:いつもと違う
09/06/10 00:14:34 x/JJG0m9
はしのは大きく深呼吸をすると、ワンピースのファスナーを下ろしながら風呂場に向かった。

ワンピースを籠に入れ、脱衣所に備え付けられた全身鏡に向き直る。

黒い下着とパンストに包まれた自分の身体。
少し太ったのか、バストが大きくなったように見える。
若干、下腹が気になるが年齢を考えれば上等な物だ。

「~♪」
鼻歌を唄いながらパンストを脱ぎ捨て、ブラのホックに手をかける。
ぷるんっと音が聞こえそうな勢いで、大きく柔らかいバストが露わになった。

「きゃっ!」
咄嗟に、脱いだばかりのブラで胸元を隠すはしの。

誰かの視線をはっきりと感じたのだ。

息を止め、周囲を窺う。
しかしそこにあるのは鏡に映る自分の姿だけだ。

(あ~やだやだ。さっさとシャワーを浴びて買い物にでも行こう。)

手早くショーツを脱ぎ去り、浴室のドアを開けると冷たい空気が溢れ出てきた。
まるで真冬の浴室のようだ。

シャワーを捻ると、すぐに浴室は湯気でいっぱいになった。
ゆっくりとその身に温かいシャワーを浴びせていく、はしの。

肩から腕、そしてバストがほんのりとピンク色に染まっていく。
やがてその色はピンクから赤に。

「き・・・きゃあぁぁぁ・・・・・・!!」

放り投げたシャワーは生き物のようにのた打ち回りながら、真っ赤な湯を吐き出し続けている。
血しぶきのように壁や天井に飛び散り、流れ落ちる真っ赤な湯。
見る間に赤みを増していく。

グボッ グボッ・・・・・・

どす黒い血のような湯を吐き出し続けたシャワーは、
何度か粘度の濃い液体を噴出した後、動かなくなった。

凄惨な事件でもあったかのように、真っ赤に染まった浴室。
どれくらい時間が経ったのか、はしのの耳に子供のはしゃぐ声が聞こえた。

振り返ると、5才くらいの女の子が空っぽのバスタブに入ってニコニコと笑っていた。
まるで湯が張ってあるかのように、両手で湯をすくい上げるような仕草をしている。

女の子は、はしのに向かって何やら楽しそうに話し掛けてくるのだが、よく聞き取れない。
いつの間にか、浴室を染めていた血のような物は消え失せていた。

バンッ

その時、突然激しい音と共にドアが開いたかと思うと、ジーパン姿の若い男が浴室に入ってきた。
まだ高校生くらいだろうか、その手には真新しい包丁が握られている。

「な・・・なに・・・。」
訳が分からずうろたえている、はしの。

85:いつもと違う
09/06/10 00:15:25 x/JJG0m9
若者は乱暴にはしのの髪を掴むと、ジーパンから未熟なペニスを摘み出し
はしのの顔の前に突き出した。

“抵抗すると娘が殺されてしまう・・・!”

(え? 娘・・・? 何・・・?)
不可解な記憶が、はしのの頭の中を支配していた。

意識ははっきりしているのだが、身体は別人のように勝手に動いてしまう。
ゆっくりと口を開き、皮に包まれ力なく垂れ下がっているペニスに顔を寄せる。

「・・・ん!」
嫌な匂いが鼻をついた。

顔を背けたいのに、身体は全く反応しない。
“娘のため”という想いが頭の中でぐるぐると回っている。

「うぐっ・・・!」
若者のペニスを咥えた途端、口中に苦い味が広がった。

無表情に、はしのを見下ろす若者。
何か言ってる声は聞こえるのだが、やはりよく聞き取れない。

ペニスを咥えたまま前後に顔を動かすと、若者の表情が一瞬ゆるんだ。
そのまま顔を前後させるだけの、単調なフェラを続ける。

極度に緊張しているのか、若者のペニスは硬くなってこない。

すると、はしのは舌先を彼の尿道口に押し当てた。
徐々に口の中で大きくなってくるペニス。

それは、はしのが使ったことのないテクニックだった。

(やっぱり私じゃない! 知らない人の身体だ!)

明らかに感じているようで、若者の腰は引き気味になっている。
それを逃さないよう更に深く咥え込み、尿道口を刺激しながら同時に顔を前後に動かす。

“このまま射精させれば、満足して帰ってくれるはず・・・!”

不可解な記憶に支配されたまま、はしのは激しく顔を前後に動かし続ける。

イキそうになったのか若者は髪を掴んでいる手に力を入れると、はしのの顔を引き離した。
彼のジーパンからは皮を被ったままのペニスが、急な角度でそそり勃っている。

そのまま、はしのを押し倒し、何か言っている。

(な・・・何? な、なんて言ってるの?)

“言うとおりにしますから、どうか殺さないで・・・。”

また頭の中に、言葉なのか感情なのかよく判らない記憶が浮かび上がってきた。


ゆっくりと太ももを開いていく、はしの。
手入れされていない自然のままの恥毛が、若者の前に曝け出されていく。

(え!? やだ! なんで・・・!)

それを無表情に見ていた若者はゆっくり腰を下ろすと、はしのの股の間に顔を埋めた。

86:いつもと違う
09/06/10 00:16:25 x/JJG0m9
(ひゃっ! や、やだ・・・そこはまだ洗ってないのに・・・。)

全く経験が無いのだろう。
若者は震える指で恐る恐るはしのの恥毛をかき分けると、
そこに現われたグロテスクな性器に目を奪われた。

ピクリとも動かず、性器に魅入っている若者。
彼の鼻息が、はしのの恥毛を揺らす。

(やだもう、ホントに恥ずかしいよ~。)
“早く・・・早く終わらせて・・・。”


若者はまさに観察しているといった眼差しで、はしのの性器に人差し指を伸ばした。

(あんっ・・・!)
“あっ・・・!”

そっと淫肉に触れられると、まだ濡れていないために
指の感触が直に伝わり、ビクッと反応してしまった。

その反応を見て一気に興奮したのか、若者はぎこちない手つきで
はしのの淫肉を弄りだした。

(くっ・・・!)
“んんっ・・・!”

じわじわと湧き出してくる粘液。
若者はそれを指に絡ませると、膣にねじ込んだ。

音も無く吸い込まれる人差し指。
はしのの反応は薄い。

人差し指に加え中指も押し入れると、はしのの腰が少し浮いた。

(あっ・・・!)
“あっ・・・!”

更に薬指も押し入れる。
はしのの膣に三本の指が飲み込まれ、中から大量の粘液が溢れ出てきた。

ヌチュッ

そっと指を動かすと、いやらしい音が浴室に響いた。
はしのの腰が艶かしく動き、膣が若者の指を締め付ける。

徐々に指の動きを早めていく若者。

ヌチャッ ヌチャッ ヌチャッ ヌチャッ・・・・・・

(だめ・・・! 動かさないで・・・あんっ・・!)
“いやっ・・・! いや・・・・・・んんっ・・・!”

今まで感じたことのない快感が、子宮から全身に広がっていく。
これも自分じゃない他人の記憶らしい。

存在しない夫に対する背徳心が胸を締め付ける。

ヌチャッ ヌチャッ ヌチャッ ヌチャッ・・・・・・

87:いつもと違う
09/06/10 00:17:57 x/JJG0m9
(あっ・・・あっ・・・! やだっ・・・! ・・・イクッ・・・イッちゃう・・・!)
“あっ・・・あっ・・・! いやっ・・・! ・・・イクッ・・・イッてしまう・・・!”

若者の三本の指が出たり入ったりする度に、卑猥に形を変える淫肉。
そして膣から溢れ出る粘液。

たまらず若者の手を止めようと、腕を伸ばした。

(・・・え?)

何も無い。
見ると、若者の姿は消えている。

ただ、はしのの膣を出入りしている三本の指の感覚は消える事無く
相変わらず激しく動いたままだ。

「んっ・・・あんっ・・・! あんっ・・・あんっ・・・! ・・・あっ・・・あっ・・・!」

バストを揉みしだかれる感触が加わった。
だがやはりそこにも、はしののバストを揉んでいる手は見えない。

巧みに乳首をも刺激してくるテクニックは、明らかに先程の若者とは違う大人のものだ。
かつてなかったくらいにまで、はしのの乳首は硬く勃起している。

「だめっ・・・あんっ・・・! あんっ・・・あんっ・・・! ・・・イッちゃう・・・イッちゃう・・・!」

耳、まぶた、首筋、背中、へそ・・・、全身のあらゆる場所が同時に舐められている。

一人や二人じゃない。
姿は見えないが、大勢の男の息遣いが聞こえる。

「いやっ・・・! イクっ・・・! んっ・・・・・・!!」


ピシャッ ピシャピシャピシャッ ピシャッ・・・・・・

はしのは、エクスタシーに達すると同時に尿を漏らしてしまった。
黄色い飛沫がピシャピシャと音を立てながら、はしのの脚を汚していく。


「・・・・・・。」

「・・・。」

気付くと、はしのは浴室の床で寝ていた。

顔の横にシャワーが転がっている。
壁にも天井にも血など付いていない。

「夢・・・?」

起き上がろうとすると、膣に異物感を感じた。
お尻にひんやりと濡れた感触があり、周辺に黄色い液体が水たまりのようになっている。

(夢・・・じゃなかったんだ・・・。)


茫然自失のままシャワーで身体を流し、パジャマを着る。
酷く体力が消耗している。

88:いつもと違う
09/06/10 00:19:40 x/JJG0m9
ふらつきながら寝室に入ると、見慣れない人形がベッド脇の小棚に飾られていた。
よく見ると頭部が上下さかさまになっている。

「何これ・・・気持ち悪い・・・。」


テッテレ~♪

突然、野呂氏とテレビカメラを構えたカメラマンが寝室に入ってきた。
その後ろでマネージャーが悪戯っぽく舌をぺロっと出している。

「どっきしカメラですーw」
例の看板を掲げ、満面の笑みを浮かべている野呂氏。

「・・・。」

キョトンとした顔で突っ立っている、はしの。
状況が解るまで、どれくらい時間がかかっただろう。


「もお~! ホントに怖かったよ~!」
ポロポロと涙がこぼれ出た。

「いやいや、大成功大成功w」
野呂氏は人形を回収すると、部屋を出て行った。

「えみちゃんって、こんなに怖がりだった?」
マネージャーは、泣きじゃくっているはしのに明日のスケジュールを再確認すると、
外で待っている野呂氏とカメラマンと3人で局へ戻って行った。


後日、どっきしカメラ放送日。
その中で、先の人形を使った1コーナー『恐怖の逆さ頭人形』はオンエアされた。

自宅の寝室に飾られている見覚えのない人形。
その人形の頭がいつの間にか上下逆さまになっているというチープなドッキリに、
何人かのタレントが見事に引っかけられていた。

ただ、はしのの収録分が放送される事はなかった。

89:創る名無しに見る名無し
09/06/13 21:35:15 OlL7Yftl
A「よぉ、知ってるか?」

B「なんだよいきなり」

A「ウチのクラスの鮎川死んだらしいぜ」

B「ふーん、そりゃ凄いね」

A「随分と冷たいな、お前仲良かったろ?」

B「あぁ、よく話してたな」

A「レイプされて、顔面をガソリンで燃やされたが歯形で身元が割れたんだとさ」

B「あらら、歯も抜くべきだったな」

A「お前さぁ……普通は、”何だと許さねぇ!”みたいな感じになるだろ」

B「そりゃ、俺の人生には何の影響もないし」

A「犯人誰なんだろうな?」

B「うちの担任の早川だろ? 俺の所に助けてくれって鮎川のメールが来た」

A「じゃぁ、助けにいけよぉ」

B「何で俺が?」

A「それはほら、証拠握ってるお前の命を早川が狙うかも」

B「何だと許さねぇ!」

A「ははは、怒る所おかしいって、ぜってー」

B「ははは」

A「まぁ、俺達にゃ関係ないよな」

B「自分から不幸になりかったんだから、本望だろ」

A「女の不幸自慢ほど、ウザイもんはねぇ」

B「俺達、善良な一般市民だからな」

90:創る名無しに見る名無し
09/06/16 21:47:13 niGccfvn
で、しばらくたつと死んだはずの女が生き返ってきて、
犯罪にかかわった連中が全員発狂するんでつね。

わかりまつ。

91:創る名無しに見る名無し
09/06/17 00:13:03 vFLHCg5S
無関心の恐怖を演出したのでこれで終了

92:創る名無しに見る名無し
09/06/22 14:02:59 uewLjhCu
hoshu

93:創る名無しに見る名無し
09/06/26 21:22:07 1EMmM+Go
夏の風物詩として「怪談」は定番
ひとつ、ホラー物に挑戦してみようと思う
誰か、お題をお願い



94:創る名無しに見る名無し
09/06/26 21:38:31 mTf5n7Y/
社会の闇

95:創る名無しに見る名無し
09/06/26 22:46:04 1EMmM+Go
む……ホラーというよりはサスペンスなお題だな
とりあえず頑張ってみる、サンクス

96:創る名無しに見る名無し
09/06/27 03:24:28 Ki5HSlL/
電灯の無い公園は夜になお暗い。
汗臭さは最終的に土の臭いになる。
ブルーシートと段ボールで作ったハウスに、すえた土の臭いが充満していた。
膝を痛めて力仕事の出来ない俺が浮浪者に転落するのに政治改革もサブプライムも一縷の関係も無かった。
「はははは」
「うわーエグーい!きゃははは」
「やっべ!それ死ぬんじゃね?」
外で、テント生活者の誰かが、無軌道な若者に無作為に選ばれて無意味に弄ばれて居るらしかった。
ぐう、と腹がなった。
薄暗い宵闇を割るように、少しだけブルーシートの扉を開ける。
女と、男が二人。
ガシャ。
ワシャ、ガタリ。ゴソ。
ガサガサ。
ズル。
あちこちで、テントの扉が開く音がする。
「きゃ、怖い」
「何こいつら?」
「何見てんだっラァ!」
若者達が怒声をあげた。
俺もテントから出ると、“いつも通り”皆が若者を取り囲んでいた。
角材。
ナイフ。
スコップ。
ノコギリ。
金槌。
手に手に持った凶器は、どれも闇間にあってなお赤黒い。
「神よ、お恵みを感謝致します」
浮浪者の一人でキリスト教徒の坂崎さんはそういってスコップを薙ぎ振るった。
重くて、でも間抜けな音がして、男が倒れる。
「ひっ」
身構えた二人めの男を、後ろから殴る。
首の後ろから頸椎を砕くために角材をフルスイング。
男二人は一瞬で死んだ。
女は驚愕して口を開けたままへたりこむ。
「神よ、神よ」
坂崎さんが、女の口に布切れを突っ込んで、むりやりガムテープで塞いだ。
暴れる女の胸に、元医者の佐藤くんがナイフを突き立てる。
見る見る女の顔色が真っ青になり、死んだのが見て取れた。
「これ、皆で“使って”からにしましょう」
女の死ぬ様を見ながら、佐藤くんは勃起していた。
「最初は囮役をやった人からのはずだぞ」
「ちぇっ、そうでしたね」
散々蹴られていた、名前も知らない囮役の人が、女の死体を抱えて段ボールハウスに消えた。
ごりごり、という音がして振り向いて見れば、もうノコギリで取り分けが始まっていた。
今日は腹いっぱい食べられそうだ。

97:創る名無しに見る名無し
09/06/28 22:42:38 P5K02KBz
「本当にもう、怖いんです。」
 やっとのことで絞り出せたのはその言葉だけだった。
 お坊様は優しげな表情を崩さずにジッと話を聞いてくれている。
 彼の横に座る私の友人はしかし不安げな様子だった。
「この部屋に引っ越してきたのはまだ一月前です。」
 私は部屋を見渡す。
 ごく平凡な、ワンルームマンションの一室だ。
 だが今の私には、この部屋が何よりも恐ろしく感じる。
「最初は気のせいだと思ったんです。だけど……」
 私はお坊様に事情を話し始めた。
 始まりはほんの一週間前、仕事から帰ってきて、息抜きに下着姿のままインタ
ーネットを閲覧していた時だった。
 私は脇に発泡酒の缶を置き、酒を煽りながらその数少ない趣味の内の一つを楽
しんでいたのだが、ふと喉に違和感を覚えたのだった。
 わずかに息苦しく、発泡酒が上手く飲み込めない。
 手で喉を擦っても何も無く、その時はまだ気になるほどでも無かったので、放
っておいた。実際、布団に入ったらその息苦しさも解消されていたのだ。
 だがその次の夜、またその次の夜と、日を重ねる内に段々とその息苦しさは増
していく。
 呼吸が困難に成り始めた頃にやっと、私は誰かの手で首を絞められていること
に気づいたのだった。
 たまらずに服を着て飛び出し、携帯電話で近所に住む友人に連絡をとる。
 その夜は頼み込んで、何とかその人のアパートで夜を明かしたのだった。
 翌日、私は、今お坊様の隣に居る友人にその奇怪な現象のことを相談した。
 友人は霊感があるらしく、話を持ちかけると興味を示し、明日の日曜日―つ
まり今日―にやってきて様子を見てくれることになった。
 その夜私はパソコンに向かわず、すぐ布団に入った。
 布団に入ればあの息苦しさはやってこないからだ。
 だが、その夜は―
 私が布団に潜り込み、意識をまどろませ始めると、何やら妙な違和感を喉に感
じた。
 すぐに身に迫る危険に気付き、布団を払いのけようとしても、体は金縛りにあ
ったように動かない。
 首筋が圧迫される。
 指の形がはっきりわかる。
 誰かの親指が喉を変形させる……
 私は恐怖のあまり叫び声もあげられなかった。だけれど動脈が押さえつけられ
て、天井が、床がぐるりと揺らぐ感覚に襲われると、私は何故か叫ぶことが出来
た。

98:創る名無しに見る名無し
09/06/28 22:45:44 P5K02KBz
 叫んで、飛び出して、部屋を出て、外の通路の隅で膝を抱えて震えていた。
 そうしていつしか朝になり、昼になり、友人が訪ねて来た。
 きっと酷い顔なのだろう。友人は私を見てひどく驚いたが、事情を聞くと、近
くのお寺からお坊様を呼んでくれた。
 そうして今、私は殺されかけた部屋の中で彼らにこの話をしている。
 私は話を終えて、友人が淹れてくれたがまだ手をつけていない、お茶の入った
湯飲みに視線を落とした。
 お坊様は頷いた。
「なるほど、分かりました……」
 彼はゆっくりと立ち上がり、部屋の真ん中まで歩いて立つ。
「この部屋、昔自殺した方がいらっしゃったみたいですねぇ。」
「首吊りか何かですか。」
 私に代わって友人が訊いた。
「ええ、どうやらパソコンに酷い恨みがあるようです、嫌だったんでしょう。」
「そうですか……」
「あぁ、でも、もういらっしゃらないみたいですねぇ、気が済んだみたいです。」
「そう、ですか。」
 友人は俯いた。
 私はお坊様の背に訊く。
「じゃあ、もう、無いんですか?」
「ええ、ご安心なさっていいと思いますよ。」
 本当にそうなのか?
 昨夜の恐ろしい記憶がまだ鮮明に残っている私には信じられなかった。
「じゃあ、お坊様。」
 すぅ、と友人が立ち上がる。
 私はその背を目で追った。
 友人はお坊様の傍らに立つ。
「そろそろ、お願いします。」
「ええ。」
 お坊様は頷き、私の方を向いた。
「今からお祓いをいたしますのでね、動かないでくださいね。」
「何故ですか。」
 私は立ち上がろうとする。足に違和感。
 お坊様は相変わらず優しげな表情。友人は悲しげな表情。
 少し息苦しい。何か飲みたい。
 手をつけていなかったお茶に手を伸ばす。
 湯飲みが掴めない。
 ああ、苦しい……

 私はまだ布団の中に居た。

99:創る名無しに見る名無し
09/07/20 18:15:38 ybywxTWv
ホラーの季節あげ(((゚Д゚)))ガタガタ

100:暑いから涼しくなる話をひとつ
09/07/28 21:35:01 /L5Xf8BO
「おい。この魚、賞味期限明日までだぞ!」

「冷凍するから大丈夫よ」

「この肉も、賞味期限明日じゃないか!」

「冷凍しちゃえば大丈夫よ」






「……申し上げ難いことなのですが、ご主人の余命はあと3ヶ月なんです」

「そうですか……」








「いやぁ、今日は暑いな」

「あなた。マイナス40度の世界を体験してみたくない?」

101:創る名無しに見る名無し
09/07/28 23:29:04 oV2b7Vim
・・・・まあ、愛してはいるの・・・かな・・・??

102:平穏な人生
09/08/06 07:26:04 5Tuxo0ns
何事も無く平穏な人生を歩むには相応の努力が必要だ。
特に外から厄介ごとを持ちこむ、他人という名の生き物の動向には、
目を光らせる必要がある。

適当に人間のフリをしていれば何一つ問題が無いのだが、
他人というのは困った物で、わざわざ面倒なことを
引き起こすことに腐心することが多い。

特に感情という物に対して理解を示すのは骨が折れる、
例えば親しい友人が死ぬだとか、恋人が寝取られるだとかそういった
瑣末ごとにいちいち感情を発露させるのは、人生の無駄使いに他ならない。

感情そのものには何の価値も意味も無いからだ、

自分の取るその行動に、価値があると思い込むことで心の平穏を得ている。
人という生き物は「自分は特別だ」と思い込みたがる生き物である。

劣等感に触発され「米粒に絵を描ける」だの「牛乳瓶の蓋を集めてる」だとか
やってるのと同じことだ。

人間そのものは言動の変化で容易にその行動を操ることが出来る。
無能な言動を取れば「無能だ」と得意げに批判してくるし、
無知な言動を取れば「教えてやる」と得意げに解説を挟む。
人間の感情は他愛も無く、いかようにも操作できるといえる。

このような話を人間にすれば「そんな筈は無いだろうと否定」するのは確定事項なのである。

昔、学生時代に人間的な行動を取ることを毛嫌いし、突拍子も無い行動を取る友人がいた。
コンパスの針を腕に突きたて、肉を穿り返しながら遊んでいる。

私が彼に
「なにをしているんだ?」
と尋ねても
「別に」
とだけ答えて、首を横に振り、骨まで露出した傷口から
細かく千切れた肉を、机の上に几帳面に一列に並べているのだ。

彼という生き物は、本能的に人間になるのを毛嫌いして
そのような突拍子も無い行動や癖が出てしまうのだろう、つまり彼の行動そのものが
痛みや恐怖の感情を否定し、思考する生物としての知的行動の一つであるのだ。

たとえ、彼の外見が人間であれ、彼の中身は人間以外の何かである
可能性が高いと言えるだろう。

我々、他人という名の生き物にしてみれば人間の命など瑣末そのものと言える。

103:創る名無しに見る名無し
09/08/22 09:41:17 PZ6Q2wlO
タイトル『案山子(かかし)の村』

主人公沢村は、地方の農村を歩いて、案山子の写真を撮り続けている写真家。
沢村が訪ねたある村では、リアルな案山子作りが流行していた。
村人たちは、自分自身の案山子を作り、それが完成すると、どこかに消えてしまう。
この村に滞在しているうちに、沢村は『リアルな案山子作り』に魅せられてしまう。

そして↓↓


104:創る名無しに見る名無し
09/08/22 21:39:49 PZ6Q2wlO
「沢村さん・・・」
美和子は、その人影に声を掛けた。
だが、それは沢村ではなかった。
沢村そっくりの案山子だった。

終り

105:創る名無しに見る名無し
09/09/18 07:00:15 egPD5b/L
日本人が温和なのは、穀物中心に取り込むが故であり。
欧米人が粗暴なのは、獣肉を身に取り込むが故である。

「人間の精神は遺伝する」などと言う似非科学があるが、
そもそも我々の肉体を形作るものは、外部から取り込んだ魂魄その物なのだ。
口から摂取する物質が魄であれば、繋ぎとなる魂は酸素となる。

人間の寿命は生まれながらに決まっている。
一般人に比べ、スポーツ選手の寿命が短いのは周知の事実であるし、
肉体に大きな負荷がかかる雪国よりも、温和な気候の南国の住人は長寿である。

さりとて心臓の鼓動の回数が少ないほど長寿と言うわけではない、
過度のストレスを与えられたマウスは短命、
ストレスのない環境で育った個体は長命であることから。

人間は呼吸が少ないほど長命であると結論付けられる。

人間が口から食物を取り込み、分解し、その身に蓄え、
肉体と精神を作り上げるための繋ぎが酸素なのだ。

獣肉を大量に摂取する人間は体内にタンパク質を取り込むことで筋肉を増強し
血行量が増進されアドレナリンを分泌され、凶暴化する。

また血行が良化し酸素を大量に取り込み代謝機能を活性化することは
細胞の死滅限界を促進させる行動に他ならない。

「無駄な呼吸をすればするほど、早死にするらしいぜ」
「……」

眼前に縛り上げられ、投げ出された男の眉間に向かい、ぴたりと銃口を止める。

「なぜ人間は平和を願うのか? それは本能が察知しているからだ
 心穏やかに生きていれば呼吸が乱れることもなく、ライフサイクルは回り続ける」

全ての闘争を否定する事が、長命と成る。

「なのに、何故お前のようなアホがいるのか理解に苦しむ……」

にも拘らず、人間は争うことを止めようとはしないのだ。
上だ下だと無意味な雛壇を飾り、無意味な呼吸をし、無意味に死ぬ。

「ちなみにこの銃弾の原価は10円にも満たないそうだが、知ってたかい?」

引き金を引くと同時にグリップに伝わる衝撃、閃光、そして視界が開けて漂う硝煙の匂い。

「お前の命の値段だ」

少しばかり贅沢に深呼吸する。

酸素の中に融解された魂が鼻腔を通して伝わってくるのが分かる。

二百年生きて再確認する、生きることの喜び。

「あぁ、素晴らしき人生哉」

106:創る名無しに見る名無し
09/11/07 01:09:06 LfjRHJHr
信じようと、信じまいと―

長崎県T市のあるトンネルは、「く」の字にゆるやかに湾曲していて、入口から出口を見ることができない。
昭和12年に、国土交通省の役人がこのトンネルを測定すると、左の壁と右の壁の長さがぴったり同じだった。
ゆがんでいるのはいったい何なのだろうか?

107:創る名無しに見る名無し
09/11/07 10:21:07 Vwi5tAb/

  ../ ./
 / ./
く  く
 \ .\
  ..\ .\

トンネルの出入り口が道路に対して斜めだったのでは?

108:創る名無しに見る名無し
09/11/07 23:09:37 7FdhMeos
おぉい!w

109:創る名無しに見る名無し
09/11/08 02:05:45 6aeUv1wb
>>107の冷静さに吹いたw

110:創る名無しに見る名無し
10/01/03 23:54:22 iz7xS38c
ある所に、一匹の犬が居た。
その犬は飼い主からろくに餌も与えられず、散歩にすら連れて行かれる事も稀だった。
当然、犬の姿はみすぼらしく、臭いもひどいものだった。
体を洗われない事と、小屋の周辺の排泄物の臭いを飼い主は嫌がり、
犬に対する扱いは更にぞんざいなものになっていった。

ある日、飼い主の元へ周辺住民から苦情がきた。
それもそのはず、犬小屋の周辺は息もまともに出来ない程の悪臭を放っていたのだから。
仕方なしに小屋の掃除をしようとした飼い主は、
かなりの期間犬に餌をやり忘れていた事を思い出した。

犬が死に、その体から放たれている臭いが悪臭の原因かも知れないと思い至った飼い主は、
嫌悪感を露にしながらもしばらくぶりに犬小屋に近づいていった。
一歩一歩近づくたびに、マスクの上からでも悪臭がひどくなっていくのがわかる。
そして、犬小屋にあと数メートルの位置まで来た時、
犬小屋の暗がりの中から力なく横たわった犬の後ろ足が出ているのが見えた。

確実に死んでいる。
飼い主はそう思い、ゴム手袋をして小屋から犬の足を引きずり出した。
だが―

―無かった。

あるのは両の後ろ足だけで、胴体も、前足も、頭も無かったのだ。
引きずり出すことが出来た足は、両方とも腐り果てて蛆が沸き、無残なものだった。

吐き気を催した飼い主はすぐにその場を離れようとしたが、
小屋の陰で動くものが視界に入った。
恐る恐る、慎重に小屋の陰を覗き込んでみるとそこには……
両足と同様に腐り果てた犬の胴体と、ボロボロと崩れ落ちながらも左右に振られる尻尾があった。

息を呑み、叫び声をあげることすら出来なくなった飼い主の耳に、
チャラリッ、という鎖が擦れ合う音が飛び込んできた。
音の出所は、犬の鎖が繋がれていた木の杭―飼い主の真後ろ。
鎖が擦れ合う音と共に、グチュリという肉が潰れていく音も聞こえ、近づいてくる。

飼い主の足は、縫い付けられたようにその場から動かなかった。
だが、ソレは地面に肉を削ぎ落とされながらもゆっくりと、ゆっくりと近づいてくる。
そして、

「ワン!」

……と、一鳴きした。
飼い主は、その鳴き声を聞いた途端、動かなくなっていた足に力が入るようになったのがわかった。
即座に飼い主はその場から逃げ出した。
振り返ることは、一度も無かった。

左右に振られていた尻尾の動きは次第に遅くなっていった。
自らの尻尾が動かなくなっていくのを見ながら、犬は思った。


サイゴニ、ナデテホシカッタ、ダケナノニ……。


おわり

111:創る名無しに見る名無し
10/01/04 00:08:11 XsAUrd/M
 法螺吹きの末路って知ってるかい?
閻魔さまに舌を抜かれる?
 うん、それもあるね。
地獄で鬼に責められる?
 うん、それもあるね。
でも、もっともっと色々あるんだよ。
 法螺を吹く人間ってのは、洞に負苦。
普通の人間はね、洞を通る事は無い。
 通るのは川だ。
人によっちゃ河だけど、洞を通る事は無い。
 でも法螺吹きは、法螺を吹いたばかに洞を通る。
通りながら、苦を負うんだ。
 そんな事はたいしたことがじゃないと思うかい?
だったら法螺を吹いてみればいい。
 だったら洞を通ってみればいい。
そうすればわかるだろう。
 そうしなけりゃわからないだろう。
さあて、通ったかな?
 さあて、わかったかな?
入ることもできない洞を。
 出る事もできない洞を。
通った感想はあるのかな?
 通って思った事はあるのかな?
ほらほら。
 法螺法螺。
洞洞。
 ああ、ごめん、忘れてた。
大事な事を、忘れてた。
 もう、戻れないからね。

                                          ほら、さようなら。

112:創る名無しに見る名無し
10/01/04 00:12:01 H0hAUqJK
ダジャレかよwwww

113:創る名無しに見る名無し
10/01/04 00:20:07 pLVqYXYn
 地上では夜の帳がおりようという頃、私はこの地下鉄駅のホームに立っているのが常である。帰
宅の電車に乗るためだ。
 外の街が夜の顔へとその姿を変えていく中で、ホームは煌々とした灯りで隅々まで照らし出され、
まるで変わらぬ姿態を保っている。
 清潔なそのホームには、私の他には数人の男が、何をするともなく電車を待っているばかりであ
る。一つ前の駅ならば、ホームから溢れんばかりの人がいるのだが、この駅は本当に静かだ。
 電車はなかなかやってこない。私はただじっと線路を眺めて待ち続ける。なんとなく頭が重い。
電車はまだやってこない。
 いや、本当はまだ殆ど待っていないのだ。時間にすれば一分かそこらだろう。頭ではわかってい
る。ただ、電車がやってくるまでの時間は、何故だかいつも、やけに長く感じるのだ。
 そうして気が遠くなる程長い間、空っぽの頭で線路を眺めていると、足下から地響きが伝わって
きた。それと共に、腹に響く重い金属音がホームの静寂を破る。
 その二つはどんどんこちらに近づき、大きくなっていく。電車のヘッドライトが顔を覗かせる頃
には、甲高いブレーキ音が響いているだろう。
 私はその時いつも、名状しがたい何かに締め付けられ、訳の分からない衝動を抑えなければなら
なくなる。
 今日はなぜだかその衝動がやけに強い。ふと線路上へとその身を投げ出したくなる程に。
 あの嫌な重い金属音はどんどん大きくなってくる。コンクリートの地面は、迫る電車の振動をま
すます大きく伝えてくる。
 あとほんの少し後、あのヘッドライトに照らされて、甲高い金属音を聞かされた時、果たして私
は正気でいられるだろうか。

114:創る名無しに見る名無し
10/01/04 00:31:59 pLVqYXYn
>>110
犬かわいいw
見た目はグロいのにw

>>111
ほらほらうるせえw

115:創る名無しに見る名無し
10/01/04 00:42:13 XsAUrd/M
 ―ぴちょーん

 まただ。

 ―ぴちょーん

 また聞こえてきた。

 ―ぴちょーん

 この音はどこから聞こえる? この水滴は、どこに落ちている?

 ―ぴちょーん

 昔から、私は暗闇の中で意識を研ぎ澄ませる事で、様々な事を成し遂げてきた。

 ―ぴちょーん

 だから、暗闇は私にとってはやすらげる場所であり、それに包まれる事に何の不安
も無いはずだった。

 ―ぴちょーん

 いつの頃からか、この音は聞こえ始めた。

 ―ぴちょーん

 暗闇の中で、意識を研ぎ澄ませた時に。
 
 ―ぴちょーん

116:創る名無しに見る名無し
10/01/04 00:44:03 XsAUrd/M
 最初は、水道がよく閉まっていないのだろうと考え、家中の水道をしっかり締めなおした。

 ―ぴちょーん

 だが、まだ聞こえる。

 ―ぴちょーん

 どうしても、気になる。

 ―ぴちょーん

 この音はどこから聞こえる? この水滴は、どこに落ちている?

 ―ぴちょーん

 私は、水道会社に連絡し、家の水道を全て元栓から使えなくしてもらった。

 ―ぴちょーん

 だが、まだ聞こえる。

 ―ぴちょーん

 どうしても、気になる。

 ―ぴちょーん

 どうしても、不安になる。

 ―ぴちょーん

 この音はどこから聞こえる? この水滴は、どこに落ちている?

 ―ぴちょーん

117:創る名無しに見る名無し
10/01/04 00:44:20 XsAUrd/M
 暗闇の中にいるのに

 ―ぴちょーん

 不安を感じるなんて

 ―ぴちょーん

 初めてで

 ―ぴちょーん

 私は

 ―ぴちょーん

 わた

 ―ぴちょーん

 し

 ―ぴちょーん

 ―ぴちょーん

 は

 ―ぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーん
ぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーん
ぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーん
ぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーん
ぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーん
ぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーん
ぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーん
ぴちょーん

 ―ぴちょーん

 それっきり、だった。
 水滴が落ちる音は、唐突に途切れた。
 また元のやすらげる暗闇が戻ってきた。
 ああ
 よかった。
 さて、
 安心
 したら
 少し
 飲み物が
 欲し
 くな
 った。
 喉が
 焼け
 る
 よ
 う
 に
 か
 わ

118:創る名無しに見る名無し
10/01/04 00:44:30 XsAUrd/M







「結局、どうしてこのホトケさんは、こんな死に方したんですかね?」
「俺に聞くなよ。精神に異常をきたすなんてのは、この手の商売にゃありがちな
 事なんじゃねえのか?」
「そういうもんなんですかね」
「……自分で自分の喉をかきむしり、辺りに血を滴らせまくって死んだ作家、か」
「何か……音でも聞こえてたんですかね」
「音? 何でだ?」
「……あ、いや……あれ? 俺、今何か言いました?」
「ホトケさんが音を聞いた、って……」
「……そんな事言いましたっけ?」
「お前……ふざけんなよ、現場で」
「あ、いや……す、すいません! 何かぼーっとしてたみたいですね」
「ったく……よし、後は鑑識に任せて、一旦帰るぞ」
「はい!」
「……返事だきゃいいな、ったく……ん?」
「どうかしましたか?」
「……外、雨でも降ってたっけか?」
「いえ、快晴ですけど……どうかしたんですか?」
「何か、音が……」
「音?」
「お前もさっき言ってただろ。何か音が聞こえたんだよ」
「俺は聞こえませんでしたけど……」
「……まあ、気のせい、かもしれんが」
「じゃあ行きましょう」
「あ、ああ……」

 ―

「でも、確かに聞こえた……あれは、水がしたたる、音……?」

 ―ぴちょーん

                                      終わり

119:創る名無しに見る名無し
10/01/04 00:46:19 H0hAUqJK
これはちょっと怖いな

120:創る名無しに見る名無し
10/01/04 00:53:46 pLVqYXYn
水滴の音って確かに精神にくるな

121:創る名無しに見る名無し
10/01/04 00:54:23 H0hAUqJK
水滴をしたたらせる拷問みたいなのがあるって思い出したわ

122:創る名無しに見る名無し
10/03/12 02:10:51 XaG/cNG9
URLリンク(webmaster.stickam.jp)
何か明日スティッカムで藤崎りおが
隣の家の少女って言う映画見てる様を配信するみたい。
実話元にした小説を映画化してるので恐ろしいです。

123:「命の皿」~序章~ ◆wHsYL8cZCc
10/04/17 05:23:21 /nbmWFzC
「おかあさん……たっくんが動かないの」

「おかあさん、テレビが付かないよ」

「おかあさん、たっくんが動かないよ」

「おかあさん……私ね。食べたの」

「動かないから。たっくんが」

「おかあさん、お腹すいたよ」

「おかあさん、またすこしたっくんをたべたよ。でもたっくんは何にも言わないの」

「おかあさん、たっくんが変だよ。変な臭いがするの」

「おかあさん、大変だよ。たっくんに変な白いのがいっぱい付いてるよ」

「おかあさん、誰か玄関で何か言ってるよ。でも私動けないの」

「おかあさん、知らない人が家の中に入って来たよ。でも私何も喋れないの。怖いよ」

「おかあさん、たっくんが無くなっちゃったよ。白いのが食べちゃったみたい」

「おかあさん………どこに行ったの?」

「おかあさん。わたし今知らない人のうちでゴハンたべてるの。今日からここがおうちだっていってたよ。じゃあきっとおかあさんもたっくんも来るんだよね?」

「おかあさん。あのね。わたし食べたの。だってお腹すいてたんだもん」


         *


「お母さん。私は今日十歳の誕生日です。早く迎えに来て下さい」

「お母さん、今日、みんなで飼ってるウサギがさとる君にいじめられていました。注意しても言うことききません。みんなよりお兄さんなのに。」

「だからウサギ小屋にあった石で叩きました。さとる君は動かなくなりました。たっくんみたいです」

「たっくんみたいに白いのが出てくる前にさとる君を食べました。台所にある包丁で切りました。食べ切れないから勿体ないけど残しました」

「なんか見た事ないおじさんがおうちに来ています。変な人を見なかったかって聞いてきました。私は見てないから見てないっていいました。みんな泣いています。
あと危ないからってしばらく外に出られません。学校もみんなで一緒に先生達と通ってます」
「お母さん。さとる君がいじめたウサギに赤ちゃんが生まれました。とってもかわいいです」

124:「命の皿」~獣の跡①~ ◆wHsYL8cZCc
10/04/17 20:06:23 /nbmWFzC
 季節外れの雪が降っていた。
 本来、雪が降る事自体が珍しい地域だが、押し寄せる寒気は冷たい風を呼び、結果、場違いな雪まで運んできた。

「こりゃ酷いな。ズタズタじゃねぇか」
 篠田文夫は開口一番にそう言った。
 田んぼの真ん中にある深い側溝の奥に転がる遺体は、凄惨な状態でそこに在った。
「第一発見者は?」
 篠田の問いに横にいた若い制服姿の警官が答える。
「所轄の警官です。近隣の住民から枯れ草の清掃中に異臭がすると通報があり、あたりを調べたら遺体を発見しました」
「ふ~ん……。遺留品は?身元が割れるようなヤツ、免許証とか」
「財布の中に原付きの免許が。名前は村上友美。十八歳。失踪届けが出ています」
「まだガキじゃねぇか……」

 篠田は顔を歪ませる。第一課に配属されいくつも死体を見てきたが、子供の死だけは未だに馴れない。
 それも、第三者による殺人となれば尚更だった。

「腐敗はそれほどでも無いな。最近ずっと寒かったからか。ヘタすりゃもっと発見が遅れたかもな」
「辺り一面長い雑草ばかりですから。しかもこんな深い側溝の中では……」
「もっと遺体をよく見たい」

 篠田は半透明のラテックスで出来た手袋をはめ、側溝に降りて行った。
 深さは百二十から百三十センチといったところだろうか。枯れ草が幾重にも折り重なり、実際はもっと深く見える。
 篠田は思わずよいしょという声を出す。
 四十五になる篠田は自分では若いつもりだったが、いつの間にか立派な中年になっていた。 実際に若い制服の警官も、篠田に続いて側溝に降りて来た。

「近くで見るともっと酷いですね。ここまでする必要があるのか?」
「必要だからやったのさ」

 篠田はマスクを装着し、遺体を隈なく確認する。あまり弄ると鑑識に文句を言われるので、あくまでも見ているだけだったが。

「こりゃただ事じゃないな」

125:「命の皿」~獣の跡①~ ◆wHsYL8cZCc
10/04/17 20:09:00 /nbmWFzC
「どういう事です?」
「遺体の損壊状況がだよ。ここまでする奴の気が知れん。見てみろ」

 促されるまま遺体を観察すると、腹部にはぱっくりと切れ目が入れられ、内臓が飛び出していた。内部は空っぽになり、人間にはこれほどの空洞があるのかと思わせる程だった。
 大腿の一部は切り取られ、大きくえぐれている。骨までが露出するほどに。
 その他にも、胸や眼球等が無くなっていた。
「確かに酷いですね……。あまりに猟奇的だ」
「猟奇『的』じゃない。これは猟奇殺人だ。それもかなりぶっ飛んだ奴の」
「どういう意味ですか?こんな事件を起こす奴なんてたいがいおかしい奴でしょう」
「遺体の損壊の仕方だよ。これはただ殺した訳じゃねぇ。かといって拷問死させた訳でもない。もっと明確な目的がある」
「目的?」
「遺体の損壊の仕方だよ。これは殺してから遺体を捌いたんだ。それが目的だよ」

 篠田はかつてもこれを見た事がある。
 数年前に起きた、少年の殺人事件。その時も遺体の一部が切り取られ、持ち去られていた。

「あとは鑑識に任せる」
「篠田警部補、どちらへ?」
「ちょっと調べ物だよ。オッサンに寒空はつらすぎるからな」
「了解しました。害者の資料は集まり次第、一課に届けます」
「よろしく頼む」

 篠田は側溝から這い出し、スーツに着いた土を手で掃った。
 車へ乗り込みエンジンを回す。エアコンから流れる暖かい空気と缶コーヒーで暖をとり、決して若くはない身体を休めた。
 しかし、その心は冷え切っていた。

「あんまし思い出したくねぇんだけどなぁ」

126:「命の皿」~獣の跡①~ ◆wHsYL8cZCc
10/04/17 20:09:40 /nbmWFzC
投下終了

127:創る名無しに見る名無し
10/04/17 23:01:38 h2zppDH/
こええ・・・普通、たっくんのエピソードだけで済ませる所を、
さらに重ねられて怖さが倍増だ・・・。

128: ◆wHsYL8cZCc
10/04/18 12:42:00 rfUNeAXM
サイコ系書く人って少ないね。
にしても筆が進まぬわ。

129:「命の皿」~獣の跡②~ ◆wHsYL8cZCc
10/04/19 10:23:01 d4lWCI+6
「ねぇ彩」
 倉本美咲が唐突に話しかけて来た。
「何よ美咲」
 横に居た長谷部彩は面倒そうにそれに答える。
「昨日さぁ、テレビ見てたらさぁ―」
「そんな事言ってる暇ないでしょ?急がないと遅刻だよ!」
「わかったよぅ。怒るなよぅ」

 彩と美咲は自転車のペダルを漕ぐ足に力を込める。
 高校二年になって最初の日に遅刻など幸先が悪い。それもこれも、朝から関係を求めてきた美咲が悪いのだが、それに乗った自分にも多少の非があると彩は思っていた。
 学校の駐輪場へ自転車を置いたら教室までは走らなければならないだろう。恐らくクラスメートはもちろん学校中から見られてしまうのは避けられない。
 新学期早々に人気者になる事への覚悟が必要だった。

「間に合う?」
「あと四分はあるから間に合うと思うよ。急いで美咲!」

 彼女らは汗を滲ませながら教室に駆け込む。失笑混じりの朝の挨拶に対して苦笑しながらそれに応え、彩は椅子座り机に突っ伏した。
 離れた席の美咲も同様に、疲れた様子で持参したウェットテッシュで首筋の汗を拭っている。
 チャイムはまだだ。どうやら遅刻は免れたらしい。

「朝っぱらから大変だったね。」
 横の席の倉田正彦が言う。
「教室から走ってるとこ丸見えだったぜ。ありゃ職員室からも見られてるな」
「だから何よ。遅刻はしてないもん」
「ギリギリでだけどな」

 正彦は馴れ馴れしく話かけてくる。
 以前からしつこく言い寄られてはいたがその度に彩はそっぽを向いていた。それでも諦めない姿勢はある意味肝が座っていると言うべきか。
 彩は男としてのこの正彦はまるで興味は無いが、ただのクラスメートとしてはそうでも無かった。
 決してクラスの中心では無かったが、常に明るく誰とでも親しくなる性格には素直に好感を抱いている。
 美咲は気に入らないようだったが。

130:「命の皿」~獣の跡②~ ◆wHsYL8cZCc
10/04/19 10:24:01 d4lWCI+6
「なんでそんなにつれない訳?」
「別に普通じゃん」
「じゃあたまには一緒に遊びに行こうぜ」
「それは嫌」
「なんでだよ?」
「……何となく」
「やっぱり冷たいじゃん」
「というかアンタしつこいのよ。だいたいね―」

 彩が何か言おうとした時、チャイムによってそれが遮られる。
 同時に担任の教師が教室に現れ、彩と美咲を見るなり笑顔で話し始めた。

「お?遅刻せずに済んだか。まぁあれだけ必死に走ってりゃ間に合うわな。次は余裕を持って家を出なさい」

 教室に小さな笑いが起きる。思わず赤面する彩だったが、美咲はクラスメートと一緒に笑っていた。
 美咲がマイペースで図太い神経だと彩はつくづく感じた。


131:「命の皿」~獣の跡③~ ◆wHsYL8cZCc
10/04/19 10:26:50 d4lWCI+6
 篠田は警察署の資料室で書類と格闘していた。
 過去に起きた数件の殺人、それも猟奇的事件を隈なく捜し、今回の事件との類似点を洗い出す。
 ここ十年で起きた殺人事件の中で、特に猟奇的といえる事件となればやはり数える程度しかない。
 やはり、行き着く先はあの少年の事件だった。

 少年は児童養護施設の裏手にあるウサギ小屋の前で殺害された。
 辺りは遮蔽物となる木々と塀があり、施設の裏手というのもあって人目には付かない。
 少年は後頭部を石で何度も叩かれていた。恐らく一撃では絶命しなかっただろうと思われる。凶器となった石はウサギ小屋の脇にある池に捨てられていた。指紋の採取は出来ず終いだった。
 一方の今回の被害者は絞殺されている。殺害方法は前者のほうが圧倒的に残虐であるが、問題なのは殺害方法では無かった。
 少年を殺害した犯人は施設から持ち出した包丁を使い、少年の腕の一部と内臓の一部を切り取っている。どこへ持ち去ったかは今だ定かでは無い。

「やっぱり……似てるな」

 少年と今回の少女の損壊状況こそ、篠田が注目した事だった。
 少年の殺人事件は当時、こぞってマスコミが報道した。その残酷な手口は暇な大衆に十分受けるセンセーショナルな事件であり、警察の捜査も難航したため大きな事件として扱われた。
 同時に、いつまでも犯人を特定出来ない警察の対応にも非難が集中した。
 篠田もその中の一人だった。
 それほどまでに大々的な報道をされていれば、模倣犯が現れてもおかしくは無い。実際にこの手の事件のあとはそれに続く者が多い。
 しかし、それだけでは説明が付かない事がある。
 あまりに似ているのだ。遺体の損壊状況が。
 当時、マスコミはこれでもかと少年の殺害状況を報道したが、遺体の具体的な状態までは報道していない。
 少年の内臓が抜かれて持ち去られたなどテレビで言える訳も無いが、それ以前に警察側からもそこまでの情報掲示はしていない。
 それは今も同じだ。

132:「命の皿」~獣の跡③~ ◆wHsYL8cZCc
10/04/19 10:29:22 d4lWCI+6
 模倣犯では有り得ない。
 これは間違いなく、同一犯による物だと篠田は確信している。
 
 そこへ、突然若い刑事が現れる。

「篠田さん。ここに居たんですか」
「どうした?なんか解ったか?」
「害者の資料が集まりました。今会議室で―」
「ああ、いい。今解ってる事だけ教えてくれ」
「そうですか?でも皆さん集まってますよ」
「いいんだよ。俺みたいなはみ出し者はさ。それより早く教えてくれ」
「はぁ……。害者の村上友美はフリーターで、バイト先のネットカフェでの評判は中々で、決して恨みを買うような人物で無いと言っています。
交遊関係も洗いましたが、特に危ない連中と面識がある訳でもなく、家族との関係も良好です」
「狙われたりする要素は無しか。変質者に付き纏われたとか、そういう事は?」
「いえ、全くありません」
「そうか……」
 篠田はため息をついた。
「よし解った。ご苦労さん」
 篠田は勢いよく立ち上がり、資料をそそくさと片付け始める。
 いくつかの書類を手に、資料室を後にしようとした。
「篠田さん、どちらへ?」
「ちょっとそこまでな。昔の事件と繋がりがあるかもしれん。そこを調べてくる」
「またお一人でですか?」
「そうだよ。お前達は引き続き目撃証言と害者の交遊関係、洗っといてくれ」
 篠田の足は自然とあの場所へと向かっていた。
 あの凄惨な事件が起きた、児童養護施設へ。

133:「命の皿」~獣の跡③~ ◆wHsYL8cZCc
10/04/19 10:30:32 d4lWCI+6
終了

134:創る名無しに見る名無し
10/04/19 20:03:30 3fndz3cW
わくわく・・・どきどき・・・

135:命の皿~獣の跡④~ ◆wHsYL8cZCc
10/04/21 02:34:09 slSVxA3N
 チャイムが鳴り響く。
 まだ新入生の居ない始業式は一時間ほどで終了した。
 普段は狭苦しい体育館も、生徒の三分の一が欠けただけで異様に広く感じるものだ。教師の声は天井や壁で反響し、それが体育館の広さを感覚的に更に広くし、寒気すら覚える体育館の空気の温度は、彩の身体をことごとく疲れさせる。
 教室に戻った時は、既に帰りたいと思わせていた。

 担任の教師が一言二言注意事項を述べ、プリントを配布する。
 入学式までの日程、保護者への通達、学校内での連絡事項、あとは保険便りのような物。
 最近の保険便りでは遠回しにではあるが、性行為についての注意書きすらある。コンドームの使用の重要性に至っては堂々と明記されている始末だ。
 しかし、彩には何の興味も無い。自分はそれを使用する状況は無いと思っていたから。朝の事を思い出す。
 柔らかな感触がいまだ唇に残っている。時間すら忘れる程の幸福感を味わい、結果、遅刻寸前まで追い込まれた。
 彩は一人、あの時の感触を思い出す。美咲の感触を。

「美咲……」

 彩は朝の続きを妄想で続ける。
 自然と鼓動は速くなり、頬はうっすらと紅潮する。
 僅かに吐息が乱れる。しかし、周りに悟られてはいけない。そんな事態になれば周囲からは体のいいイジメの対象に成り兼ねない。
 それを跳ね退けるバイタリティがあればいいが、彩にはそれが備わっていない。
 妄想はエスカレートする。吐息は更に乱れ、鼓動はより激しく胸を打つ。
 限界に近い。もはや理性は本能に飲まれようとしている。右手が疼く。
 出来る事なら今、ここで―

「では、今日は終了です。気をつけて帰るように」

 教師の一言で彩は我に返る。そうだった、今は帰りのホームルームの最中だったんだと―。
 彩の顔を見た教師は不思議そうに尋ねた。

「どうした長谷部?具合でも悪いのか?」
「……いえ、大丈夫です」
「そうか?それならまぁいいんだが」

136:命の皿~獣の跡④~ ◆wHsYL8cZCc
10/04/21 02:34:54 slSVxA3N
「じゃあ気をつけて帰るように。寄り道したりするんじゃねぇぞ」

 担任の教師は改めてそう言うと、さっさと教室を出て行った。
 彩は美咲の元へ駆け寄る。
 学校はもう終わりだ。妄想に耽る必要は無い。実際に朝の続きをすればいい。そう思った。

「美咲」
「どうしたの彩?風邪でも引いた?顔赤いよ。熱あるんじゃない?」
「大丈夫だよ。それよりさ、早く帰ろう」
「そりゃもちろんだけど。今日これからバイトだし」
「ええぇ。バイトなの?」
「どうしたどうした。何か用か」
「だってさ、帰って朝の続き……ね?」
「ああ、それか。ゴメンね。今日バイトあったから朝したの。逆に欲求不満か」
「なら朝言ってよ。バイトだってさ」
「ゴメンゴメン!でもどうせ明日からまた何日か学校休みじゃん。その時ね」
「つまんないの」
「だからゴメンって」

 目論みは見事に失敗だ。今日一日は暇になるだろう。
 美咲は時間が無いといい急いで帰って行った。
 彩は一人で下校するハメになる。

「もう……」

137:命の皿~獣の跡⑤~ ◆wHsYL8cZCc
10/04/21 02:35:48 slSVxA3N
 カチ と音がする。点した炎でタバコの先に点火し、彩はゆっくりと煙を吐き出す。
 中学生で覚えたタバコを吸う姿は、今ではすっかり堂に入った物になっている。
 決して不良という訳ではない。むしろ学校では優等生として通っている。問題も起こした事は無い。
 それでも、自身の悩みを吐き出す道具として、彩はタバコを口にしたのだ。
 吐き出した煙を纏い、彩は路地裏を自転車を引いて歩いている。

 猫が塀の上で丸まっている。横を通る彩の動向を目を丸くして警戒し、煙の臭いを嗅ぎ付けて塀から飛び降りる。
 陰にある自販機ではいつも特定のコーヒーが売り切れたままだ。商品の入れ替えはどうなっているのだろうか?
 彩はタバコを投げ棄て、足でそれを踏み火をけした。そしてまた路地裏を自転車を引いて歩きだす。一人の時のお決まりのルートだった。
 そう、いつもここを通っていたのだ。
「おーい、彩ちゃん」
 突然の声。それは前方から聞こえてくる。
「……正彦?」
「やっぱりここ通ってたね。表通り通れば簡単に周り込めるわ」
「なんでアンタが居るのよ」
「おいおい、せっかく待ってたのに随分酷いな。デートに誘おうと思ってたのにさ」
「しつこいなぁ。行かないってば」
「相変わらずつまんねー女だなぁ。おい」
「悪かったわね」
「そうそう。悪いと思ってるならさ、ちょっとだけ俺達と付き合ってくれよ」
「俺達?」

 正彦の後ろには一台のワゴン車が止まっていた。そこから、二人の男が降りてきて正彦と列ぶ。

「正彦?」
「ちょっとだけだよ。俺達と遊んでくれりゃ、それでいい」
「嫌よ。何度も言ってるじゃん」
「いーや。来てもらうぜ」

 正彦と列ぶ男達は突如彩に詰め寄る。そして髪の毛を掴み強引に引き寄せる。

「嫌…何するのよ!」
「ガタガタうるせぇんだよ」

 髪を掴む男の拳が彩の腹部を打つ。今まで経験した事の無い痛みが走り、息が詰まる。声すら出ない。
 その様子を見ていた正彦は笑いながら言い放つ。

138:命の皿~獣の跡⑤~ ◆wHsYL8cZCc
10/04/21 02:37:46 slSVxA3N
「おいおい、殴んじゃねぇよ。俺のお気に入りだぜ?」
「散々シカト食らってよく言うぜ。このくらいじゃケガにもなんねぇよ」

 男は再び彩を殴る。
 正彦ともう一人はそれを笑いながら眺めている。

「正…彦…?」
「あー?何だよ?」
「なんで……?」
「当然だろ?散々人の事バカにしやがってよ。どんだけ誘ってもうんともすんとも言わねぇからよ。
頭きたからコイツらと廻してやるよ。」

 正彦はいつもの笑顔だった。
 いつもと変わらない、あのしつこいだけの正彦。

「おい、見られた面倒だぜ。さっさと行こう」「そうだな。じゃー夜まで待って適当な駐車場で止めるか」

 彩は引きずられながら車へ連れ込まれる。呼吸はまだ思うように出来ない。腹部の痛みは激しいまま。

「じゃあ行こうか彩ちゃん」

 彩は羽交い締めされたまま後ろの席に居る。正彦はそれを見ながらタバコをふかし、彩の頬を平手で打つ。

「このクソアマがよぉ。素直に遊んでくれりゃ別に腹もたたねぇけどよ。ここまで頑なだとこっちだって考える物があるわな」

 そう言いながら今度は腹を殴る。先ほどの痛みと重なり、彩は身体をよじる。

「おーおー。声もでねぇか?いい様だなぁ。彩ちゃんよ?」
「おい、こいつタバコ持ってるぜ」

 後ろで彩を抑える男がそれを見つけ、正彦はそれを奪い取った。

「あらら、いっちょ前にタバコ吸ってるんだ。意外だったわ。清楚な娘だと思ってたのにさ。俺ショック」
「よく言うぜ。お前」

 こいつらは獣だ。彩は率直にそう思った。そして彼らの次の行動も、簡単に予測出来る。
 その恐怖だけでも相当な物だった。

 正彦は彩のタバコを一本取り出し、火を付ける。そして―

「い…嫌。お願い止めて……。止めて!!」
「顔にはやんねぇよ。綺麗な顔に傷がついたら嫌だもんねぇ?」
「嫌ぁぁああああ!」

 彩のタバコは鎖骨の辺りに押し付けられる。 ニコチンが焦げる臭いが漂い。彩はただ苦痛に苛まれるだけ。
 

139:命の皿~獣の跡⑤~ ◆wHsYL8cZCc
10/04/21 02:38:34 slSVxA3N
 想像しただけでも途方もない絶望だった。
 これがどれだけ続くのか。しかも夜になれば、さらなる苦痛が待っている。

「嫌……。助けて……」
「往生際悪いな。もう諦めな。」
「お願い……。許して……」
「しつこいなぁオメェはよ」

 再びタバコが押し付けられる。叫び声をあげるが、大音量の音楽に掻き消される。
 何より、走行中の車の中では元より意味は無かった。

140:命の皿~獣の跡⑤~ ◆wHsYL8cZCc
10/04/21 02:39:26 slSVxA3N
投下終了。
これを投下して良かったのだろうか……?

141:創る名無しに見る名無し
10/04/21 23:01:31 jklyc0uh
危ぶむなかれ。危ぶめばビビンバ無し。
迷わず行けよ、行けばワカメさ!

ありがとー!

まあ、きわどいとは思うが、こっからどう話が繋がってくのか、
というのは大いに気になる所だ。
色々と予想したりしながら読んでるから、
続きをかまなべいべー。

142:創る名無しに見る名無し
10/04/21 23:10:55 slSVxA3N
きわどいか。
じゃ次は完全アウトになる悪寒w

最後まで出来てるからちゃんとやりてぇんだよなぁ。だからこそのハード路線だし。

エロと暴力とホラーは切っても切れないじゃん。


143:創る名無しに見る名無し
10/04/21 23:15:28 jklyc0uh
まあ、でも、直接的描写はNGやから、
そこら辺はぼかすか、あるいはエロい板のスレを
そこだけ利用するかしておくれなw

何にしろ、この話の続きはめっちゃ気になってるんで、
続き頑張ってくれ。

144:創る名無しに見る名無し
10/04/21 23:23:40 slSVxA3N
エロを目的としたエロじゃないが難しい所だ。
濡れ場はわんさか出る予定だがw

145:創る名無しに見る名無し
10/04/21 23:26:33 jklyc0uh
まあ、アウトだったらアウトって言うからw
濡れ場にはモザイクよろしくな!w

146:創る名無しに見る名無し
10/04/21 23:30:18 YxNZwSL9
濡れ場わんさかはさすがにアウトだべ

147:創る名無しに見る名無し
10/04/21 23:50:15 slSVxA3N
ふむ、ではそういう事してんじゃね?的にぼかすw



148:命の皿~獣の跡⑥~ ◆wHsYL8cZCc
10/04/22 19:41:10 QsQrjuRG
 感情は沸かなかった。
 正彦達のお遊びは二時間程で終わり、彩はあっさり解放された。
 駐車場の街灯がぼんやりと、淋しげにアスファルトの地面を照らしている。
 自分が今居る場所すら彩には解らない。電車は既に終電を過ぎて居るだろう。仮に電車があったとしても、財布の中身は抜かれている。どうする事も出来なかった。
 着ていたブラウスは無惨に破れ、穿いていたスカートは連中の汚物で汚れている。無造作に投げ捨てられたブレザーだけが無事な姿でそこにある。

 涙は既に枯れていたのか。彩は表情を殺したまま地面に座り込む。タバコを押し付けられた痕がジワジワと痛む。
 どれだけそうして居たか解らない。
 やがて吐き気を覚えた彩は、ふらふらと立ち上がり近くにある公衆トイレへ入る。
 便器に覆いかぶさり吐こうとするが、胃の内容物は特に無い。いくら待っても吐き気がますばかりだ。
 彩は手洗い場の水でハンカチを濡らし、顔を拭う。打たれた頬が痛む。鎖骨には無惨な火傷。
 赤く晴れ上がった自分の顔を見て、彩は少しずつ感情を取り戻す。
 ようやく、涙が溢れてきた。



149:命の皿~獣の跡⑥~ ◆wHsYL8cZCc
10/04/22 19:42:57 QsQrjuRG
終了だよテクセウ。
もうすっ飛ばせるだけすっ飛ばした。

その内エロパロ板に空白の衝撃シーン投下してやる!(゚д゚)ケッ!
それが出来てようやく完全版。

150:創る名無しに見る名無し
10/04/22 20:43:29 QsQrjuRG
エロパロ行ってきた。
そしてエロ描写が苦手と知る。

151:創る名無しに見る名無し
10/04/22 23:41:44 0TqhWLRZ
乙乙。
色々苦労したようだな。でも、逆に描写されていないからこそ(以下省略

鬼畜でごめんなさいごめんなさい

エロは勢いですよぉぉぉぉぉぉおおおおおおおお!!(炎上

152:創る名無しに見る名無し
10/04/22 23:54:24 QsQrjuRG
鬼畜めw

でもこれで 正 彦 死 ん で も お k になった訳だ。

しかしまぁウボァー

153:命の皿~遺伝~① ◆wHsYL8cZCc
10/04/26 16:13:01 BHOTh2E2
 住宅街から少し外れた林の陰、今はただの土の地面に過ぎない枯れた田園のすぐ側にそれはあった。
 比較的広い敷地の中に建つ、一見普通の民家に見える建物、道路に面した塀の奥に見える小屋の赤い屋根。そのすぐ近くには林が迫っている。
 篠田は敷地の中の砂利の駐車場に車を停める。
 建物の大きな標札には「命の家」と書かれている。かつて、少年の凄惨な事件が起きた場所へ、篠田は七年ぶりに訪れた。

 現場となったウサギ小屋は現在閉鎖されているのだろうか。そこへ続く通り道は木の塀が設けられ侵入者を拒む。
 隙間から見える限りでは枯れた雑草ばかりで、何年も人の出入りが無い様子が見て取れた。
 施設の入口から見える場所には新たなうさぎ小屋が建っている。まだうさぎ達は健在のようだ。あの後に産まれたという子うさぎの子孫だろうか。

 篠田は玄関へ向かって歩を進める。木製のドアは幾分煤けた色に変わっていた。
 篠田はインターホンを押し、相手の反応を待つ。

『はい。どちら様でしょうか?』
「先程お電話した篠田です」
『ああ、今出て行きます』

 篠田を出迎えたのは三十代とおぼしき男性だった。昔居た職員では無い。

「お忙しい中、突然お尋ねして申し訳ない」
「いえいえ、お気になさらず」

 彼は篠田を応接室へと通し、コーヒーを差し出す。それを一口啜り、篠田は切り出した。

「……昔居た方々は?」
「ああ。よくは知りませんが、人の入れ替えが多くて。私が来たのも二年前ですんで」
「そうですか」
「噂じゃ子供の幽霊が出るとか。私は見た事無いですがね」
「あながち間違いじゃないかも知れませんね」。
「ちょっと、刑事さん。冗談は……」
「七年前にここで少年が殺されてますから」
「え?」
「ご存知無かったようですね。引き継ぎはされていると思っていたのですが」
「聞いてないですね……」
「それが入れ替えが激しい理由でしょうね」

154:命の皿~遺伝~① ◆wHsYL8cZCc
10/04/26 16:14:36 BHOTh2E2
「誰だって殺人現場で寝泊まりしたいとは思いませんから」
「それで黙ってたんですか……」
「ええ。それで当時の方々にまたお話を伺いたかったのですが」
「そうなんですか……。七年前……でしたね。申し訳ないんですが、その当時の方々の連絡先までは知らないんですよ。記録にもあるかどうか……。あ、一人だけ居ますね」
「一人?」
「ええ。カウンセリングの先生ですよ。ここに来る子供達は問題を抱えている事が多いので。ケアの為にお世話になってます」
「連絡先は?」
「ええ。知ってます。こちらからも電話しておきますよ。」
「助かります」
「ところで……。七年前の事件の事って、なんでまた聞くんです?」
「犯人はまだ捕まってませんから」
「捕まってないんですか!?」
「ええ。まだ捜査中です」

155:命の皿~遺伝~① ◆wHsYL8cZCc
10/04/26 16:16:53 BHOTh2E2
終了

156:創る名無しに見る名無し
10/04/26 17:13:22 iqvED3Sf
捜査パート、何かドキドキすんな。

157:命の皿~遺伝②~ ◆wHsYL8cZCc
10/04/26 22:14:37 BHOTh2E2
 今日は珍しく晴れていた。ここ数日は毎日のように雨が降り、あまつさえ雪までふったのだが。街中は人が溢れていたがまだ気温は上がらない。皆まだ冬着のままだった。
 気分がいまいち悪いのはこの晴天と気分とのギャップのせいだろうか。

 篠田の車はとあるペンシルベルの脇に停められている。
 五階建てのビルの三階まで階段で登り、小さな表札に福田クリニックと書かれたるドアの前に立つ。
 インターホンを押すと、ドアの奥から大きな声が響く。予想外にもそれは女性の声だった。
「開いてますよー。勝手に入って結構です」

 篠田はドアを開け、中に侵入する。
 簡単な造りの無人の受付があり、その奥では白衣を来た女性が机に向かって資料を読みあさっている。
 長い髪が窓から差し込む光に当てられ輝いている。整った顔立ちは知性を感じさせる。
 篠田は素直に美人だと思った。妻には申し訳ないが。

「あの……」
「篠田刑事ね。よく来てくれました。私がここの責任者の福田可奈子です」
「突然の訪問お許しください。可奈子先生」
「いいえ。それより七年前の事を聞きたいとか」
「ええ。今のところ連絡が付いた当事者は先生だけでしたので」
「当事者……という訳ではありませんよ。私が関わったのは事件があった後ですから。その頃には警察の方もほとんど寄り付かなかったですし」
「先生はあの後の子供達の精神的ケアをなさっていたとか」
「ええ。子供達ばかりではないけれども」
「というと?」
「職員さんですよ。当時の子供達の保護者は割と高齢のご夫婦でしたから。ショックは相当だったでしょうね。犯人の行動分析までさせられたし」
「行動分析?そんな事まで!?」
「ええ。ご存知無かったかしら。警察の要望でやらされたのですが。最初は断ったんですけどね。専門とは掛け離れてますから」
「私は聞いてないですね」
「あらそう?てっきり捜査に反映される物かと。まぁ警察側でもあまりアテにはしてなかったんでしょうね」
「申し訳ない」
「刑事さんが気にする事ではないわ。でも、てっきりその事聞きにきたのかと思っていたけれど違うみたいね」

158:命の皿~遺伝②~ ◆wHsYL8cZCc
10/04/26 22:16:26 BHOTh2E2
「はい。むしろ先生がケアを行った中でおかしな人間が居ないか、それを聞きたかった」
「犯人は身内にいたと?」
「解りません。が、可能性はあります」
「それは無いわ。あの施設にいたのは保護者の老夫婦だけだったし、二人ともとてもショックを受けていた。殺害に関与してる人間の精神状態では無かった」
「子供達は?」
「子供達?」
「ええ。あの当時施設に住んでいた子供達。そのケアも行ったのでしょう」
「当時いたのは殺害された少年が最年長よ。その子ですら十二歳だったわ」
「子供が殺人を犯す事例は過去にも多数ある。年齢はあまり問題ではない」
「……たしかに、子供達の中にはいくつか心に問題を抱える子はいました。ですが、あの施設にくる子達は元々問題を抱えていたからこそ来た。それにとくに異常性のある子は見当たらなかったわ。一人一人の精神鑑定をした訳でも無いですし」
「では、先生が行った犯人の行動分析とは?」
「私は精神科医であって心理学者ではないから詳しくは言えないんですけど」
「構いません」
「犯人は……やりたいからやった」
「それだけですか?」
「ええ。その犯人が何を思って行動したかは解らない。でも理由は簡単だった。ただ殺したかった」
「異常な人間ですか?」
「私達から見ればそうですね。でも、犯人にとってはそうでも無い。当たり前の行動だった」
「怪物ですね」
「そうですね。ですが警察側でもそれは解っていた事では?」
「なぜです?」
「刑事さんが聞きたかったのは当時の事ではないわ。単なる確認作業に過ぎない。犯人の目星は付いている」
「ばれましたか」
「ええ。心理学は専門外だけど七年前のおかげで勉強する機会ができましたから。刑事さんが最初から事件の本筋が見えているように思えた」
「……数日前に起きた殺人事件はご存知で?」
「ええ。ニュースで見てます」
「犯人は恐らく同一犯です。そして犯人は多分、当時施設にいた子供達の誰か」

159:命の皿~遺伝②~ ◆wHsYL8cZCc
10/04/26 22:17:48 BHOTh2E2
「なぜそう思うんですか?」
「それ以外考えられない。犯人は痕跡も残さずに少年を殺害し、施設の台所から包丁を奪って少年を『解体』した。それを行った理由までは解らないが」
「ですが子供達にそれほどの異常を持つ子供達は……」
「先生は精神鑑定までは行ってないとおっしゃってましたよね?」
「当時いた子供達の書いた絵や作文を借りて来ました」
「はい?」
「これから何か解る事は無いですか?」
「私は精神科医よ。心理学なら専門家に……」
「当時、直接子供達に関わったのは先生しか居ない。先生、この犯人は必ずまたやります。それも理由なく、証拠も残さず。シンプル過ぎるんです。我々の思考の外側に居る」
「私に何をさせたいんですか?」
「心理学の専門家でない事は解りました。が、先生のお知り合いに誰かいませんか?」
「直接頼めばいいのでは?」
「七年前の繋がりをいちいち調べてるのは今のところ私だけです。
警察側としてはおおっぴらに七年前の事件を掘り起こす気が無い。捜査協力を依頼すれば上層部に知れる事になる。となれば昔の事は出来る限り触れたくない上の連中が邪魔になる。
ですが、先生が昔の事件を元に医師として研究したいとなれば別です」
「つまり……私が資料を頼んだ事にしろと?」
「勝手なのは承知しています。ですが、この犯人はまたやる。絶対に。なりふり構っていられない」
「はぁ……。確かに、七年前に助言を求めた方は居ますけど」

 篠田の申し出は常軌を逸していた。一匹狼だとは解ったが。

「解りましたよ。『私が頼んだ』資料はお預かりします」
「ご理解感謝します」
「篠田さんは本当に子供が犯人だと?」
「はい」
「……正直な所、問題を抱える子供達には犯罪走る傾向があるのも事実です。私が見る限り、あの時の子供達には見受けられなかったけれど……。特に親の虐待を受けた子供は大人になると繰り返す事もあるわ」
「ほう?」
「悪意は遺伝する……。あまり考えたくはないけれど」

160:命の皿~遺伝②~ ◆wHsYL8cZCc
10/04/26 22:20:19 BHOTh2E2
終了

161:創る名無しに見る名無し
10/04/27 21:14:29 bwqhe3nx
どう繋がっていくんだ・・・

色々想像できるが・・・何か、想像は外れてるような気しかしない。

162:命の皿~遺伝③~ ◆wHsYL8cZCc
10/05/03 19:39:29 mHGXMBaM
 緑色の光が暗闇の中で朧げに点滅している。
 規則正しく、振動を伴いながら。
 ずっと。

「う~……ん。ん?」

 彼女はそれに気付いた。振動を伴う光は彼女の側で点滅している。
 淋しげに。助けを求めるように。

「誰だぁ……?こんな時間にぃ~」

 彼女の携帯はずっと光っている。一体いつから着信していたのか。
 正直眠気が勝っていた。出る気は無かったが、せめて相手だけは見ておこう。そして明日の朝一番に、思い切り文句でも言ってやる。
 そう思って彼女は携帯を開いた。
 だが、その電話の相手を見て彼女は飛び起きた。携帯の画面には「長谷部彩」と表示されていたから。
 彼女はすぐに応答のキーを押し、携帯を耳に当てた。

「彩?どうしたの?ずっと電話してたんだよ!?」
《……三咲?》
「どうしたの彩?どこ行ってたのさ?」
《三咲……。ごめんね》
「何言ってんの?何で謝る訳?」
《……ごめんなさい。三咲……》
「だからどうしたのさ?」
《……》
「彩?」

 僅かな沈黙だった。しかし、携帯の向こうから聞こえる小さな音だけは聞こえてくる。

「……彩?泣いてる?」
《三咲……。ごめん》
「ちょっと、ホントどうしたの?何があったのよ?!」
《三咲……》
「……今、家に居る?」
《え……?うん……》
「判った!じゃ今から行くから!待ってて!」
《今から……?》
「そうよ!だって何があったか電話じゃ言いづらいんでしょ?直で聞きに行くさ!」
《三咲……》
「なに?」
《ありがとう》
「よせやい」

 三咲は飛び起きて着替え始める。髪は寝癖が付いていたが直す時間が勿体ない。適当に纏めあげ、ゴムで止める。
 携帯と財布だけを持ち、玄関へ向かう。その様子は家族にもすぐにバレてしまった。

「どこ行くんだ三咲?」
「げ」
「『げ』じゃない。こんな時間にどこ行くって聞いてんだ」

163:命の皿~遺伝③~ ◆wHsYL8cZCc
10/05/03 19:40:13 mHGXMBaM
「なんでバレた?」
「こんな夜中にでかい声で電話してりゃすぐ気づく。しかもあれだけドタバタしてればなおさらな」
「いいじゃんお父さん。見逃して?」
「馬鹿者。夜中に娘が出歩いて喜ぶ親父が居るか。せめてどこ行くか言いなさい」
「……彩の家」
「彩?ああ、あのよくうちに遊びに来てた娘か。しかしいくら仲がいいからってこんな夜中に行ったらあちらさんも迷惑だろう?」
「でも……」
「でも、何だ?」
「今行かなきゃ駄目なの!だってこんな夜中に電話してきて泣いてたんだよ!?心配じゃん!」
「しかしだな。いくらなんでも……」
「いいの!私行くから!!」

 父の制止も聞かずに三咲は玄関へ向かう。早く行かなければ。それしか考えて居なかった。
「おい三咲!」
「じゃ行ってくるから!」
「おい!……。ったく」

 三咲は外の自転車に乗って道路に出る。風が冷たかった。薄着だったせいか肌寒い。しかし、今は構っていられない。
 彩が待っている。

164:命の皿~遺伝④~ ◆wHsYL8cZCc
10/05/03 19:42:47 mHGXMBaM
「彩~?居る?」

 真っ暗な空間に声が響いた。家には誰も居ない。玄関の鍵も開いたままだった。

「彩~?」
「三咲……。そのまま二階来て」

 彩の声だ。どうやら家族は出払っているようだ。今はこの家には彩一人なのだろう。だからこそ三咲に電話したのかもしれない。
 三咲の性格ならば、突然訪ねてくる事も容易に予想出来たから。
 三咲は靴を脱ぎ玄関から見える階段を急ぎ足で登る。どたどたと大きな音を立てるが今は彩以外誰も居ない。気にする必要は無かった。
 彩の部屋は分かっている。
 そのまま部屋へと直行し、ドアを開ける。中はまたしても暗闇だった。

「彩?どうしたのさ明かりも点けないで」
「付けたくなかったから」
「……明かり、点けてもいい?」
「うん」

 三咲はドアのすぐ脇にあるスイッチを手探りで捜し当て、それを押した。
 蛍光灯が二、三度点滅し、そして光りだす。
 暗闇に居たせいか目が慣れるまで数秒必要だった。ぼんやり見えたのはパジャマ姿で膝を抱え、うずくまった彩の姿。
 目がようやく明かりに慣れた頃、その異変が目に飛び込んで来た。

「ちょっと……!どうしたのその顔!誰にやられたの!?」
「……」
「彩、何があったのよ!?」
「三咲……」
「なに?」
「ごめんね。電話でなくて」
「いいよ……。それよりさ、何あったの?」
「……」
「何か言ってよ……。お願い」
「私ね……。レイプされちゃった」

 彩は事の顛末をこくこくと涙ながらに語る。それだけでも相当な精神的苦痛だろう。三咲以外には、おそらく話せない。

「信じられない……。正彦が!?」
「うん。アイツ、仲間連れてた」
「そんな奴らと連るんでたなんて……」
「ごめんね三咲」
「なんで謝るのよ!?悪いのアイツじゃん!」
「だからってさ、どうにも出来ないじゃん。警察行くのだってイヤだよ。あんな連中ほっとけばいい。もう関わりたくない」

165:命の皿~遺伝④~ ◆wHsYL8cZCc
10/05/03 19:44:46 mHGXMBaM
「それでいいの彩!?」
「よくないよ。けどさ……」
「けど……何さ。言ってよ」

 感情は殺そうと思っていた。出来ればもう忘れて無かった事にしたい。だが、傷が痛む度に思い出す。何より、三咲の声が聞こえる度、心が痛む。
 心を許せるだけ、感情が引きずり出されてしまう。

「三咲……」
「なに?」
「悔しいよ……」
「彩……」
「絶対許せないよ。でも何にも出来ない。悔しいよ……!」

 涙が溢れてくる。忘れようとしていた涙が。
 伝う涙が腫れた頬にしみる。痛い。それでも涙は止まらない。

「……泣くなよ。可愛い顔台なしだぞ」
「三咲……」
「そんな連中、いつか天罰落ちるさ。大丈夫。絶対にね」
「うん。ありがとう」
「よし、後は思う存分泣け!」
「言ってる事メチャクチャだよ」
「いいの。ほら」

 三咲は彩を抱き寄せて頭をぽんぽんと叩く。着ていたジャージが彩の涙でぐしゃぐしゃに濡れていたが、三咲は気にしていない。

「ごめんね三咲」
「謝るなってば。今日は朝まで付き合ってあげるからさ。お姉さんの胸で心置きなく泣きなさい」

166:命の皿~遺伝⑤~ ◆wHsYL8cZCc
10/05/03 19:45:35 mHGXMBaM
「警部補殿」

 いきなり呼ばれた。
 ソファーで横になっていた篠田は寝ぼけ眼で声の主を見るがぼやけてよく見えない。
 俺も歳か と思っていたら向こうからさらに声が発せられた。

「起きて下さい篠田警部補殿。お話があります」
「ん~?これはこれは……。警視殿」

 篠田をたたき起こしたのは藤村辰治警視。七年前の事件の時の篠田の上司であり、そしてもっともバッシングを受けた男だった。

「わざわざご苦労様ですな警視殿」
「皮肉のつもりですか? 貴方のせいでここまで来たんだ」
「もうバレたんですか」

 お互い明らかに不満気に挨拶を交わした。
 久々の再開とは言え、あの『先生の依頼』が知れた以上は現在の関係は敵同士だ。

「ずいぶんと……。面倒な事をしていますね」
「ええ。性分ですから」
「何をしているか解っているんですか? 確実に貴方の今後に影響しますよ。それも悪い方に」
「警視殿のように器用じゃないですからね。元々昇進なんて気にしてません」
「また皮肉を……」
「わざわざご忠告に?」
「ええ。元々勝手にやる人だ。けどこの件に関しては今まで通り自由にはやれない。いずれバレるぞ」
「構いませんよ。どうせまた表ざたになる事件だ」
「どういう事ですか?」
「……またやりますよ。この犯人は。バレると言ったが、それはマスコミ相手だって同じだ」
「嗅ぎ付けられると?」
「ええ。現に今回の事件だけでもかなり騒いでる。関連性を見つける奴だってきっといます。そういう連中だ」
「捕まえる自信は?」
「あります」

 藤村は下を向く。苦悩した表情は彼の微妙な立場を表しているのだろう。現場の篠田には理解出来ない悩みだ。

「……いつまでもダラダラやってたら確実に邪魔が入ります。急いで下さい」
「出来ればそうしたいですね」
「こっちは何とか押さえます。うまくやって下さい」
「いいんですか」
「……私も悔しいんでね。ケリをつけたい。もう一度聞きます。逮捕する自信は?」
「はい。あります」

167:命の皿~遺伝⑤~ ◆wHsYL8cZCc
10/05/03 19:47:16 mHGXMBaM
投下終わり

168:創る名無しに見る名無し
10/05/03 22:31:35 mX0ffldt
なんか、警察パートが渋カッコよくていいなぁ。
次辺りで話が大きく動くのかな? わくわくどきどきリサイクルあそび。

169:創る名無しに見る名無し
10/06/17 17:50:36 IjrQOsXr
今夜スティッカムで20時から希美まゆ生出演するよ
URLリンク(webmaster.stickam.jp)
四匹の蝿ってホラー映画の公開前夜イベントだそうな


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