08/12/02 06:30:12 hM1/7r/2
静宮明彦 悔浦市民病院 五階 8月15日 AM9:47
一夜明けた翌日、明彦は差し込む朝日に当てられ思わず目を開く。
病室の周囲では昨日と同じく同室の患者たちが窓から外を眺め、何やら話し込んでいる。
目を移すと入り口の立てかけていたベッドは既に取り外されていた。
隣の男の話によれば朝になると屍たちの動きが緩慢になり
日の射さない日陰へと逃げ込んだらしい。
明彦は床に敷いたシーツから身を起こすと窓際から外の様子を眺める。
確かに昨日までの活発な動きと違い、幾分か動作が緩慢になったようにも思えた。
周囲には蝉の鳴き声が響き、夏の日差しが照りつけている。
恐らくは気温と関係があるのだろう、と明彦は推測する。
体温が一定以上にあがると筋肉に熱がこもり、動作が鈍くなるのだ。
急激な気温の変化には弱いのかもしれない、明彦は病室を出ると
辺りを慌しく動く生存者たちと鉢合わせ、昨夜、病室の外で見た男に声をかけた。
「大丈夫ですか?」
「あぁ、何とかね……防火シャッターを下ろしたけど
まだその辺に潜んでるかもしれない」
夏の青空の下、眼下では屍の群れがゆらゆらと蠢く。影法師のように立ち尽くしているかと思うと
わずかに体を揺らし一歩前に出る、映画では見られない奇妙な光景だ。
防火シャッターを閉めたのならば、階下の人間はどうなっているのか。
明彦は階段のシャッター前に立つとかすかに聞こえてくる
何者かの気配を感じ取っていた。
背後から先程の男に声をかけられ、病室の一つへと集まるよう指示される。
今後の行動については慎重に協議する必要があったのだろう。
感情的に物を話す患者がいないのは不幸中の幸いだ、
生き残りの医師が病院に残された食料が僅かであることを告げ。
病室の患者からは次の意見が出された。
階下の売店から食料を捜す、探索隊を募る。
確かに気温が上がり連中の動きが弱くなったとしても
室内の温度はさほど上がったわけではない、ましてや連中が
どの程度にまで増えているのかも知る術が無い。
続いて外部からの救助を要請するというもの。
最も、窓から見える車の中にはパトカーが混じっているため、
警察を呼びつけた所でどうにかなる状況ではない。
自衛隊にしろ必要な戦力は重要拠点へと回すだろう。
未だに通電や水道は止まらず、ライフラインが生きているのがその証拠だった。
最後にこの病院から抜け出し、必要な物資を外から回収する案。
この案を出したのは昨日の男、名は上代と名乗った。
彼は窓の外に並ぶ車の中からエンジンをかけたままの車両を指差し
窓から降り、その車両へと走り込んで外へ向かう作戦を提示する。
時間は十一時を回り、日は真上へと昇り切っている、
日暮れまで数時間、車両のバッテリーがいつ上がるかもしれない。
判断するには猶予が無い状況へと追い込まれ、彼の案件が指示されることになった。
選抜隊は立候補と彼の指示で四人が選ばれることとなり。
病院へと戻る保険の為に家族を見舞いに来ていた男が患者側から二人。
同じく医師側からインターンで努めている若い医師。
そして上代は通信要員に静宮を指名した。