ホラー総合スレッドat MITEMITE
ホラー総合スレッド - 暇つぶし2ch2:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/30 20:02:13 DaZxm5kD
一次創作なのか二時創作なのか
そもそも小説なのか絵なのか、それとも雑談なのか
総合って範囲広すぎじゃね

3:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/30 20:04:29 o3FFAc89
総合だから総合なんだろ

4:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/30 20:31:54 4pN+skVf
ほらほら、ここがホラースレだよ

5:メカミルオEX ◆MEKAZjU6bY
08/08/31 00:22:44 Ga1ACZ4Y
おーバーカーーーーー!!!!!!

ドゴドゴ・・・ドゴゴーン

バイキン城が崩れかけましたです。ドキンちゃんの声は相変わらずキュートでパワフルなんですねホラー。

「おいっ!ホラーマン!」

「ホラホラホラー、どうしました?ばいきんまん」

「ドキンちゃんがお腹空いたらしいのだ!いつも俺様ばっかり。
 たまにはホラーマンも持ってくるんだ!」

「ホラー、なんだ、そんな事ですか」

「はへ?嫌がらないの?」

「だって、ホラーマンはみんなから信頼されてるですからね。
 ばいきんまんと違って、くださいと言えばもらえるですホラー」

「むっむっむっ!」

 ピポピポピポーン☆

「そうかっ!信頼だ!信頼があれば、食べ物をもらえるのだ!」

ウィーン

「なーんだ、今ごろ気付いたの?ばいきんまん」

「ド、ドキンちゃんー」

「ホラー!ドキンちゃん、今日はこのホラーマンが食べ物を持ってくるですよー」

「あら楽しみ」

ギロッ

「あんたはいっつも手こずるからねぇ・・・」

「は、はひぃ~」

6:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/31 19:21:22 wMWUab1t
ホラーマンかよww

7:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/03 00:38:15 DAZLCbCB
大きな身一つ
大きな目一つ
一つ目が見る
二つ目が死ぬ

8:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/03 00:40:08 Pf5+dAtf
夏だし、ホラーらしく静かに盛り上げていこう

9:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/03 00:52:49 WNyg6aR1
>>7
死んだ二つ目 芽を出した
一つ目仰天 ちょん切った
切ったそばから血を流す

流れた血の池 映ってる
二つ目映って 笑ってる


れっつ続き

10:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/03 00:54:03 NvsF4CVY
セミが忙しく鳴いている。
そんな夏のある日、台所での遣り取り。

「ねぇ、ちょっとこれ……」

姉貴が怪訝一色といった視線を俺へと向けて来た。
ああ、言わなくても分かっているぜ。
「凄まじいレイキだ」
夏だといういうのに背筋がゾクリとしちまうくらいにな。

「ゆうちゃん、大丈夫かしら?」

従兄弟の通商”ゆうちゃん”は、つい先ほど病院へと運ばれていった。
俺が現場へと駆け付けた時、彼女は既にぐったりとしており息も絶え絶えな状態だったのだ。
慌てた俺は携帯電話で救急隊を呼ん……だつもりが、意を反して警察署へと繋がってしまい、
「ぼ、俺はやっていません!」
なんて事を口走っちまったのさ。
これは何かにつけて姉貴に弁解する羽目になる俺の習癖というものが成した業だ。
まあ、姉貴の証言により容疑も無事に晴れて事件も解決……って、本題に戻ろうか。

とにかく俺と姉貴は今、ゆうちゃんが倒れることとなった原因を突き止める為、現場へと足を運んでいた。
いや、既に”ソレ”を覗き込んでいるのだ。
体全体へと襲いかかってくる異質な空気を浴びながら。


11:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/03 01:01:25 DAZLCbCB
>>9
一つ目 岩で押しつぶす
二つ目 身体を潰された

さらりさらさら血の海で
二つ目映って 笑ってる

ゆらりゆらゆら笑ってる
二つ目映って 笑ってる


NEXT!

12:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/03 01:06:24 Pf5+dAtf

 空気が粘ついている。

 それは、この暑さでかいた汗のせいなのか、日本特有の湿度のせいなのかはわからない。
 だが、寝苦しいことには変わりがないのでどちらにせよ関係ないだろう。

「……ん」

 寝返りをうった時に声が漏れた。
 今の私の、タンクトップにハーフパンツという恰好も相まって中々色っぽいのではないだろうかなどと、くだらない事を考えてしまう程に頭は起きている。
 早く寝ないと明日の部活の朝練に遅れてしまう。ここは無理にでも寝てしまわなければ。
 目を開けて時間の確認をしようと思ったが、今目を開けると次に閉じるのがいつになるかわからない。

 しかし、今日は本当に空気が粘ついている。

 異常気象のせいなのかは知らないが、本当に勘弁してもらいたい。
 お母さん、姉の私の部屋にクーラーがついてないのに、どうして弟のアイツの部屋にはクーラーがあるの?……せめて扇風機くらい買ってよね。
 再度寝返りをうとうとしたが、どうにも体が動かない。
 まるで、この粘り気のある空気が私の体を絡め取っているかのように。

「起きよう」

 この調子では、眠りにつくのが何時になるかわからない。一度起きて、冷たい牛乳でも飲んで来よう。ナイトミルク、最高じゃないか。
 全神経と気力を総動員して、なんとか右手を枕元のライトスタンドのスイッチにやった。
 運動部で良かった。普通の人だったら、この作業すらも面倒になっている程空気は粘ついていたから。

 ライトスタンドのスイッチをいれた時。プチリ、という感触が指先に伝わってきた。

 その感触の正体を確かめようと、体を起こした。何故か、先ほどまでの空気の粘つきは感じられなかった。
 私は“それ”を見た時、大きな悲鳴をあげた。多分、お母さんに凄く怒られる。

 だって仕方ないじゃない。
 蜘蛛、潰しちゃったんだから。

13:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/03 01:12:56 Pf5+dAtf
おっと忘れてた
スレ汚しスマソ

14:2/3
08/09/03 01:27:54 NvsF4CVY
>>10の続き


「これじゃないの?」

姉貴が神妙な面持ちで”ソレ”を取り出していた。
俺も姉貴に倣い、ソレのある部分に注目し観察を始める。
「なんてこったい」
思わず声が漏れちまったんだぜ。
何故かって?
それは俺の想像の域をあまりにもを逸していたからに他ならないのさ。

「酷い……守るべき約束の期日を13日も過ぎている……」

姉貴が静かに首を振っていた。
やれやれ、その心内が手に取るように伝わってくるってもんだ。
実際問題として、俺の腕は鳥肌一杯に染め上げられているしな。
「しかし、どうしてゆうちゃんはコレを?」
「あの子、おっとりしているというか抜けているから……」
成程な。
それで期日を過ぎてしまい、罰が下されたと。

いや、過ぎたことを今更くどくどと口にはするまい。
どうするべきだったのか?
ではなく、これからどうするのか?
を考えるのが俺の持ち味でもあり性分でもあるからな。
やがて俺は決心し、姉貴に告げた。

「処理を決行する」

姉貴は即座に拒絶や嫌悪ともとれる表情を浮かべてはいたが、
「俺が全部やるから」
の一言を付けくわえた事で、力強く頷いてくれたようだった。

15:3/3
08/09/03 01:31:58 NvsF4CVY
「くっ……!」

瞬時に悟った。
これは危険だ。
俺の記憶によると本来は白色の液体であったはずのソレが、
今では緑色へと変貌を遂げ、あまつさえ粘性までもが生じてきている。
いや、固形への実態化すらもが見受けられる。

「ゆうちゃん……どうしてこれをっ……!」

姉貴が鼻を摘まみつつも涙目になっていた。
間違いない、この状況による恐怖に圧倒され精神をやられ始めている。
俺が、俺がフォローしなければ!

「アイツ、直接口を付けるからな」
「どこまで馬鹿なのよあの子はっ……!」

姉貴の声に嗚咽が交じってきた。
不味い、フォローどころか状況は悪化したようだ。
世の中思い通りにはいかないらしいな。

その後も俺は孤独に撤去作業を続け、
「ふぅ、処理完了」
ドロリとしたカビが排水溝の奥へと消え去って行ったのを確認し、
紙パックをゴミ箱の中へと放り込んだ。

それじゃあ、締めに入ろうか。

「気を付けような」
「食中毒!」

身近に潜んでいる様々な恐怖。
貴方は、大丈夫でしょうか?

16:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/03 01:33:34 NvsF4CVY
以上となりやんす

それでは以下、濃厚な恐怖をお楽しみください

↓     ↓     ↓     ↓    ↓

17:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/03 23:19:51 YgRn9bzs
 何年か前に実際に体験した話なんですけど、自分、結構ホラーゲームが好きなんです。
 で、前から気になってたPS2の、零っていうゲームが中古で売ってたからそれを買って、その夜に始めたんですよ。
 いつもはゲームは昼間にやるんだけど、その日は親が二人とも遅くなるって連絡があったから、それに乗じて夜中にやっていたんですね。
 んで、ゲームを始めて、話を進めて、その、零っていうゲームは幽霊を題材にしたゲームなんですね。だから幽霊が沢山出てくるんですよ。
 それでプレイしてて、最初の幽霊との戦闘の時にですね、多分このくらいは誰でも言うと思うんですけど、「この幽霊怖えなー。」って独り言を言ったんです。
 そしたらですね、
「こんなもんじゃないよ」
 って返ってきたんですよ、耳元ではっきりと。
 自分以外には誰も家に居ないのに。
 まぁ、それだけなんですけどね。


18:クランプ ◆ozOtJW9BFA
08/09/05 20:25:33 7jooohDI
huhuhu

19:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/16 00:13:00 tISmauvJ
俺は高校のとき。今でいうはぶられたといった方が簡単なのだろうか。人と口を聞いたのが少なかった。嫌われ者だ。
そんな嫌われ者の俺にも好きな人がいた。だけど俺が好きだったらその人の迷惑になる。忘れなきゃ。僕は泣いた。

20年後

僕は自宅勤務の高度な事務仕事をする職業についていた。結構金になるので楽しく暮らした。もう外に出るのはうんざりだ。
はぁ。本当に親は厄介だ。学校を嫌がる僕をやめさせてくれなかったくせに今で十分満足な生活なのに外に出る職業口を勝手に探してる。
別にあんたらの家に居座ってるわけじゃないのに。子供を作れ?あっほらしい。もう飽きたよ。あんたらの常識には。子供を作るのがそんなに偉いのか。

親のせいで外に出ることになった。勝手にお見合いの予定を組んだらしい。相手の顔写真も見てないのに。家まで相手側の親が迎えに着やがる。やるな。
相手側の親は僕を気に入ったらしい。僕が稼ぐからだろうか。おめぇらにはやんねぇよ。この金で楽しく暮らしてんだ。ちんけな家族生活でパーにしてたまるか。
やばい。相手側が俺の好きだった子だ。あの時。彼女には彼氏がいたはずだ。何でお見合いにいるんだろう。最悪だ。僕の糞親も相手の親も席を離れてしまった。

「久しぶり・・・だね。」

「どなたでしたっけ?」
ヘヘヘ言ってやった。もうあんたなんて思い出にも残したくない。僕は忘れたんだ。あんたを。
するとやけに寂しそうな顔をしやがる。

「・・・やっぱ忘れたいよね。」

自覚あんのか?僕がはぶられていたのを。君だって僕をはぶいてたろ。まるで腫れ物のように。

「私・・・みんなに嫌われたくなかったから。」

ほら出た出た。この言い文句。いい顔してないと僕みたいにはぶかれるもんね。

「でも・・・ほんとは好きだった。あなたのこと。」

うそつけ。彼氏いたくせに。すげぇ楽しそうだったぞ。あんた。だから僕は君の迷惑だと思って泣いて忘れたんだ。すっきりしてたんだ。
「あのう。何を言ってるのか分からないんですけど・・・?」

「・・・ごめんなさい。」

何あやまってるんだ。あやまらなくてもいいよ。あのときみたいに君とはこれからも何の関係もないんだから。
「あ、すいません。仕事入ってて。かえらなきゃ。」

「・・・そんな。私・・・。今辛くて・・・。」

何が辛いだよ。幸せそうじゃんか。もういいや本音だそう。
「悪いけどね。僕じゃ相談乗れないや。もっとかっこいい人いるでしょ。今の世の中そこらじゅうに。僕はやめとけ。」

「・・・うぅ。」

「あーあ。認めるよ。僕は君を知ってる。だけど僕は君が嫌いだった。じゃあね。」
こうでも言えばね。ホストクラブにでもいってろよ。俺より優しい彼がいっぱいいるぜ。顔だけだがな。

「ひどい・・・。あなたが私のこと好きなの知ってた・・・。」

「ああ。まぁ好きだったころもあったかな。忘れたけど。ほんといそがしんだ。じゃ。」

「待って。待って!」

翌日

彼女は自殺した。相当悩んでたらしい。高校卒業後に彼女はあの彼氏と別れたらしい。その後は金持ちの令嬢として人形として暮らし来た。
それがイヤだったらしい。世間体のためにいろんなクズと結婚させられてきた。その度に彼女は病み苦しんでいた。
彼女が思いついたのは俺だった。俺が彼女を知ったのは高校だが何でか知らない。彼女は前から俺のことを好きだったようだ。
彼氏と付き合ってるときもクズと結婚したときもずっと俺のことが好きだったらしい。俺は忘れたけど。
彼女は忘れてはいなかった。俺に申し訳ないと思いながら泣いている。ずっと。何故分かるかといえば最近俺のパソコンのディスプレイに反射してその子がいるからね。

20:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/16 16:04:29 V4j3qQs6
ディスプレイの中の彼女を手に入れるフラグですね、わかります

21:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/29 00:02:24 LdHOqoiZ
流石に需要無いのかね

22:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/30 00:02:38 das48ksJ
ageてみる

23:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/04 22:50:20 rxlAWEa1
もうダメぽ

24:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/04 23:47:59 s/ztwotI
なんか方向性が見えんのよ

25:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/08 20:46:19 OuHHNXvp
 中学生の頃、運動部の幽霊部員だった俺は、夏休みの練習がとても嫌で、いつもサボって家でゴロゴロしていた。
 でもそんなある日、さすがに親がキレて(親が学生時代に満足に部活が出来なかったから、半ば無理矢理に親に部活に入れられた)、やっぱり無理矢理に部活に行かされた。
 でも俺にやる気は無いから、活動場所に行く気もせず、俺は学校の、なんか訳のわからない機械が置いてある小屋の後ろでボンヤリしていた。
 それからしばらくして、何故か俺は、水泳部が無いから夏休みの間は閉鎖されている学校のプールに忍び込むことにした。
 何故そう思いついたのかはよく覚えていないけど、恐らく、本来公共の場であるところに、たった一人自分だけでいることが俺には魅力的に感じられたのだろう。
 それでフェンスの隙間からプールの中に入り、プールサイドに足を踏み入れた。
 夏の強い陽射しが、深緑に濁ったプールの水面を輝かせていた。
 俺は、それから何をするでもなくプールサイドを歩きまわり、消毒槽?というのだろうか、あのシャワーを浴びた後に震えながら通過するあの場所に行き、排水口の周りの汚いゴミなどを眺めていた。
 しかしそれにもすぐ飽きて、興奮も醒めてしまった俺は、プールから出ることにした。
 が、ここで予想外に、プールは校舎の理科室の窓から望めるのだが、その窓から偶然外を見ていた教師に見つかってしまった。
 それに気づいた俺は、もう顔も見られてしまったことだし、潔く説教を受けたほうが楽と考えて、その教師をプールの外でわざわざ待ってやった。
 そして教師がやってきた。
 教師はなんと、俺の部活の副顧問だった。
 教師は怒鳴った。
「お前、なにやってんだ!」
 俺は謝った。
 さらに教師は言った。
「二度も入り込みやがって。」
 俺は耳を疑い、聞き返した。
 教師が言うには、俺がプールに入り込んだのは二度目らしい。その時は軽い注意で済ませたそうだが。
 ところが俺には、今回以前にプールに忍び込んだ記憶は無い。
 立場的に教師にそのことを追及することも出来なかった俺は、その奇妙な食い違いを胸に抱いたままに夏休みを終えた。


 以上、俺の中学時代の実話でした。
 いやマジに。

26:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/09 23:48:16 I8D2axZP
教師の勘違いだったりしてな
別の人に注意したのを忘れてたりして

27:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/16 12:56:12 A2KDer1R
都心では無いけれど、田舎でもない。
いわゆる閑静な住宅街にあるワンルームマンションに住んでいるんだが、
その部屋はペット可なので子供の頃から飼っている猫も住まわせていた。
もう十年以上も生きている老猫だった。

昨晩は猫が激しく唸っていて、部屋の隅で何かを睨み付けるように目を細めていた。
虫でもいるのだろうかと猫の視線の先を追ってみたが何も見当たらず、
気にはなったが結局は猫が唸っている中、眠りに就いた。

普段の朝方ならごはんをねだるために枕元で鳴く猫だったが、どういう訳か今朝は鳴き声がしなかった。
しかし、習慣でおねだりタイムに目が覚め、布団の中でまどろんでいた私は、
やはりいつものように枕元に猫の気配を感じた。
おかしいな。今日はあまりお腹減っていないのだろうか、と思って目蓋を開けると目の前には
口元をべったりと赤いもので汚した猫が立っていた。

ただの一言も鳴きもせず、ただ私を見つめていた猫に私はもちろん驚いた。
「なんだ、ネズミでも食べたのか!」
猫は当然答えないので独り言になってしまったが、私は自分に言い聞かせるように口にした。
やはりネズミなのだろうか。ここに越して以来5年経つが、その間にネズミを見た事など一度も無かった。
一階で、週二度洗濯をする時くらいしか窓も開けないため、小鳥が入ってくる可能性も少ない。
しかし、こんな風に血で汚さなければ口にできないものなんて、この部屋には無い筈。
猫は一体何を口にしたのだろうか。

私は怪訝に思いながらも拭いてやろうと思い、ちり紙を猫の口元に近付けた。
そして猫の口内にあるものが引っ掛かっている事に気が付いて思わず大声を上げた。

「おまww歯が抜けてるwwww」

28:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/16 16:56:33 Av0B78Xx
なんというオチ

29:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/16 18:05:55 3KRT7oHn
オカ板の洒落コワスレがあるからね
きついんじゃね?

30:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/16 20:02:00 gjZVivhd
途中まで怖かったのにw

31:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/19 08:58:59 5TczOToz
山奥の大きな屋敷に 人が一人訪ねてきました

こんな雨の日に どなたでしょう?

山菜採りにきて 道に迷ったのですか?

それで 雨が止むまで休ませてほしいと

ええ どうぞ

山の天気は変わりやすく あなたのような方が 時々いらっしゃいます

このあたりは獣が多く 行方不明になる人も

雨はしばらく止みません

一晩泊まっていきませんか?

ひさかたぶりの来客です

主様も お喜びになるでしょう

今夜はご馳走です

活きのいいのが たった今 入りました

32:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/19 22:12:19 7NSGCAHA
 私は猫を飼っています。
 ある日寝ようと部屋を暗くしてベッドに横になると、部屋の扉が開いていたので、猫が部屋の中へ入ってきました。
 それで、ベッドの中に入ってきて、喉をゴロゴロ鳴らしているのですが、やはり邪魔なので部屋から追い出しました。
 それで、私のベッドは壁にくっつけて置いてあるのですが、その中にまた潜り込んで、壁の方を向いて目をつぶっていました。
 しばらくして、またベッドの中に猫が潜り込んできました。
 しかし私は気づいたのです。私は猫を部屋から追い出す時にもう入ってこれないように扉を閉めたのです。この、私のベッドに潜り込んでいるものが猫であるはずがありません。
 目を開けようとしましたが、何故か開きません。
 結局それは一晩中私と同じ布団の中に居ました。
 翌朝確認してみると、ベッドの中にはなにもおらず、そして扉はやはり閉まったままでした。

33:名無し・1001決定投票間近@詳細は自治スレ
08/11/02 05:42:24 j4hjF3Vi
さびしそうなので上げてあげるね

34:名無し・1001決定投票間近@詳細は自治スレ
08/11/05 17:12:54 MYYOPSh3
ここはホラーについて語るスレ?
それとも自作ホラーを投下するスレ?

35:名無し・1001決定投票間近@詳細は自治スレ
08/11/05 19:59:30 kvOpjOxD
自作ホラーを投稿するスレだけど、それに類する雑談もいいんじゃないかな
見ての通り過疎だけど……
まあ寂寥はホラーに相応しい感じがするけどね

36:創る名無しに見る名無し
08/11/11 01:32:29 qgwKfKch
投下待ちage

37:創る名無しに見る名無し
08/11/29 09:48:00 AmOQ1tsn
キングの初期作品に影響受けて書き出した人の作品が読んでみたいな

38:屍
08/12/01 05:17:29 7fR/VL/k


一粒の麦は、地に落ちて死ななければ、一粒のままである。
        だが、死ねば、多くの実を結ぶ。
             ヨハネ福音書


久瀬洋平 自宅 8月15日 AM2:37

室内の電灯が切れかけたように明滅すると、
いずこからか入り込んだ羽虫が、かちかちと音を立て体をぶつけた。

雑然とした自宅の一室で椅子に腰をかけた男、久瀬は
その場で仰け反るように伸びをすると、ちらりと卓上の時刻に目をやる。
深夜2時を過ぎたが、まだ眠気はやっては来ない。
ぽきぽきと指を鳴らし机の前で読みかけの本を。

”エントロピーと生物の相対性”
眼前のモニターに浮かぶ文字をひとしきり読む。
地球上に存在する物質は有限であり、生物が増えるにつれ
その密度が減少する……といった内容のものである。

洋平は読み終えた後にブラウザを閉じると椅子から立ち上がり
買い置きのコーヒー缶を口に含みながら、薄暗い窓の外へと目を向け。
ふとした違和感を感じた。

「今日は随分と静かだな」

虫の鳴き声や、遠くに聞こえるはずの車の音が
聞こえてこないことに疑問を抱き、耳を澄ます。

景色に見飽きた男は窓から目を離し、リモコンを手に取りTVの電源を入れる。
画面に表示される試験電波発信中の文字、本来ならば深夜通販が流れる枠すらも
放送されていないことに多少の疑問を感じたが。
洋平はパイプベットに飛び乗ると、ゆっくりと目を閉じそのまま眠りに付いた。

―AM5:51―

「なんだ?……うるさいな」

夢へと入り込んだ、洋平を叩き起こすように、どこからか異音が聞こえてくる。
どうやらどこかのドライバーがクラクションを鳴らしているようだ。
この周辺は住宅街ではあるが、柄の悪い走り屋が稀に入り込んでくることがある
洋平は軽く舌打ちすると、パイプベットから跳ね起きた。

継続的になり続けている、車のクラクション。
洋平は着の身着のままに玄関先へと歩き出すと玄関を開け
周囲を見渡す。久瀬が靴を履き表へ出た途端クラクションが鳴り止むと
男は不機嫌そうに顔をしかめ表に歩き出した。

路上へと出ると、塀の瓦礫に突っ込んだ乗用車に目が入る。
恐らくは事故を起こしブロック塀へと追突したのだろう。
周囲は静寂に包まれ、どこからか鼻を啜るような音が耳に入った。

「誰か居るのか?」

洋平は街灯のもとに投げ出されるようにうずくまる不審な男に声をかけると
男は器用に体を持ち上げ不自然な動きで、その場から立ち上がった。


39:屍
08/12/01 05:18:00 7fR/VL/k


静宮明彦 悔浦市民病院 8月14日 PM10:19


カーテンを閉めた薄暗い病室の中で男はゆっくりと瞼を開けた。
慌しく響くスリッパの足音に隣り合わせの患者から愚痴る声が聞こえる。
明彦は枕元に置いていた水を口に含むと、松葉杖を手にベットから起き上がった。

カーテンを開け身を乗り出すと病室の入り口から顔を出す。
同室の患者たちが次々と起き上がると、部屋の電気を付け点灯すると
窓の外を眺めていた一人の患者が明彦へと話しかけてきた。

「外がえらいことになってるぜ、車だらけだ」
「急患ですかね?」

男は知らぬ存ぜぬと言い放つように頭をかしげながら両手を上げると
再びベットへと潜り込み眠り始める。明彦は頭を掻きながら廊下へと歩き出すと
もよおした用を足す為にトイレへと向かった。
薄暗い病院の廊下にスリッパを擦る音が響き電灯の点ったトイレへと入る。

トイレの中では同じ階の患者と思われる男が、一人鏡の前で手を洗っていた。
明彦は手早く用を済ますと、持ち出した自らの携帯を片手に廊下へと歩き出す。
携帯の電源を入れると僅かな間にメールやメッセージが多量に送られたことに気付き。
ふと顔を上げると、先程トイレであった男が窓の外を眺めながら立ち尽くしているのが目が入った。

「何が見えるんです?」
「いや、それが……」

男が指をさす方に明彦が目を向けると階下に見える窓から、
無数の群集たちがナースセンターにいる看護士たちに襲い掛かっているのが目に入った。
転倒する看護士に群がる者、それを見た看護婦が逃げるように窓から身を乗り出し
そのまま三階からアスファルトの路面へと激突した。

階下の地面に転落した看護婦が蠢くように上半身を起こすと
腰から捻じ曲がった下半身を引き摺りながらあたりを這い回り始める。
目を放した隙に部屋を埋め尽くしていた群集は幾人かの仲間を部屋に残し忽然と姿を消し。
病院の至るところから、患者たちの悲鳴が響き渡った。

「け、警察に電話を」
「あっ、はい!」

明彦は手早く警察へと通報するべく電話をかけるものの。
音声ガイドが回線が混み合うことを告げるのみで警察へは繋げることが出来ない。
明彦は男に電話が繋がらないことを伝えると互いの病室へと戻り、
五階の病室からでないよう他の病室の患者たちに呼びかけた。

はじめの内は疑りかかっていた病室の患者たちも、
次々と病院へと集まってくる異様な集団を窓から眺めている内に
異常事態を悟り各々が携帯やTV放送へと釘付けになった。

明彦はドアの前にベットを立てかけるように入り口を塞ぎ床に腰を下ろし
頭を抱えその場で朦朧とした意識の中で眠りについた。


40:屍
08/12/01 05:18:31 7fR/VL/k


八墨康二 デイリーマート 8月14日 PM2:07


革ジャンを着込んだ男は近場のコンビニにバイクで乗り付け駐車場に止めると、載せていたコンテナを抱え、
店内へと入った、周囲を見渡し缶詰、白米、ミネラルウォーターをコンテナに積み入れ。
背負っていたナップサックにまでギリギリまで食料を押し詰めると会計を済ませる。
店内に居合わせた客たちは、珍妙な行動をとる男を観察しながら、冷笑している。

男は黙々と買った荷物をバイクの後部へとくくりつけ自宅へと舞い戻る。
軒先で停止し時計を眺め、日が暮れるまでの残り4時間までの間、仕上げに取り掛かり
積み込んでいた大量の食料を倉庫の中へと追加し、手元の手帳へと数量を記入する。
康二は手元の携帯を開くとネットへと繋ぎ、書き込みをチェックし始めた。

海外から先行して流れてくる……”異変の現状”は次のようなものである。

・死の概念が突然として消失する
・死体に噛まれると数日後には死ぬ
・死体は頭部あるいは脊椎を破壊すれば行動不能に陥る
・死体は五感が発達しており、屋内にいる人間すらも探知する
・例外は存在しない

ネットにて噂を発見することが出来た康二は、即座に行動を開始していた。
具体性のない噂話というわけではない、事実ネット上では次々と各国のサーバーがダウンし、
日本最大と呼ばれた掲示板すらをも回線の繋がらない状態が続いていたからだ。
しかしながら悔浦市の年間死傷者数はさほど大きいものではない。

つまり既に”異変”が始まっていたとしても、死体から死体に鼠算式に
全域に広がるまでには幾分かの猶予があるのだ、かといって海外へ逃げるのも得策ではない。
人間が死んだ途端に牙を向く以上、逃げ道など残されてはいないからだ。
物資の少ない辺境へ移るよりは物資の補給が容易な都市部の方が安全。

それが彼のはじき出した結論であった。

「後は待つだけか」

TVから流れるアナウンサーが、世界規模で起きている異変を暴動と報じている。
執政に不満を持った民衆達が一様に決起し組織的に暴動を起こした。
それか政治の出した結論であった。損傷の激しい遺体ならまだしも
傍目には死人だと分からないのも混乱に拍車をかけていた。

それは確実にかつ緩慢な動きで動き始めている。
康二は油に漬け込んでいたマチェットを取り出すと柄の油を拭い取り
背中の鞘にゆっくりと収める、続けてクロスボウのクォーレル(矢)の束から
十本ほど抜き取ると腰の矢筒にいれ時が迫るのを待った。

来るのを予測しておきながら他の者に伝えないことを責める人間もいることだろう。
実際には二日ほど前から異変を知り、男は近隣の者達に呼びかけていたが
皆まともに取り合うことなく追い返されるのが常であった。
「ゾンビが襲ってくる」等と言う虚言に惑わされる輩など存在しない。

無駄な説得の為に時間を費やすよりは自分の身を守るために
あらかじめ備えておくのは当然のことだろう。

―AM12:22―

半ば要塞化した自宅の窓から近隣の住宅の様子をうかがう。
遠くに聞こえてくる悲鳴、道路ではさまよう様に血肉を漁る中年の屍が見える。
康二は家から逃げるように駆け出してきた女に屍が喰らいつく様をただ窓から眺め続けていた。

41:創る名無しに見る名無し
08/12/01 08:37:04 KNx+EALZ

描写よく書き込んでるな バイオハザードか

42:創る名無しに見る名無し
08/12/01 13:01:15 GBMxDW76
これはまだ続きがあるのかな
あればぜひ読みだい

43:屍
08/12/02 06:30:12 hM1/7r/2


静宮明彦 悔浦市民病院 五階 8月15日 AM9:47


一夜明けた翌日、明彦は差し込む朝日に当てられ思わず目を開く。
病室の周囲では昨日と同じく同室の患者たちが窓から外を眺め、何やら話し込んでいる。
目を移すと入り口の立てかけていたベッドは既に取り外されていた。
隣の男の話によれば朝になると屍たちの動きが緩慢になり
日の射さない日陰へと逃げ込んだらしい。

明彦は床に敷いたシーツから身を起こすと窓際から外の様子を眺める。
確かに昨日までの活発な動きと違い、幾分か動作が緩慢になったようにも思えた。
周囲には蝉の鳴き声が響き、夏の日差しが照りつけている。

恐らくは気温と関係があるのだろう、と明彦は推測する。
体温が一定以上にあがると筋肉に熱がこもり、動作が鈍くなるのだ。
急激な気温の変化には弱いのかもしれない、明彦は病室を出ると
辺りを慌しく動く生存者たちと鉢合わせ、昨夜、病室の外で見た男に声をかけた。

「大丈夫ですか?」
「あぁ、何とかね……防火シャッターを下ろしたけど
まだその辺に潜んでるかもしれない」

夏の青空の下、眼下では屍の群れがゆらゆらと蠢く。影法師のように立ち尽くしているかと思うと
わずかに体を揺らし一歩前に出る、映画では見られない奇妙な光景だ。
防火シャッターを閉めたのならば、階下の人間はどうなっているのか。
明彦は階段のシャッター前に立つとかすかに聞こえてくる
何者かの気配を感じ取っていた。

背後から先程の男に声をかけられ、病室の一つへと集まるよう指示される。
今後の行動については慎重に協議する必要があったのだろう。
感情的に物を話す患者がいないのは不幸中の幸いだ、
生き残りの医師が病院に残された食料が僅かであることを告げ。
病室の患者からは次の意見が出された。

階下の売店から食料を捜す、探索隊を募る。
確かに気温が上がり連中の動きが弱くなったとしても
室内の温度はさほど上がったわけではない、ましてや連中が
どの程度にまで増えているのかも知る術が無い。

続いて外部からの救助を要請するというもの。
最も、窓から見える車の中にはパトカーが混じっているため、
警察を呼びつけた所でどうにかなる状況ではない。
自衛隊にしろ必要な戦力は重要拠点へと回すだろう。
未だに通電や水道は止まらず、ライフラインが生きているのがその証拠だった。

最後にこの病院から抜け出し、必要な物資を外から回収する案。
この案を出したのは昨日の男、名は上代と名乗った。
彼は窓の外に並ぶ車の中からエンジンをかけたままの車両を指差し
窓から降り、その車両へと走り込んで外へ向かう作戦を提示する。

時間は十一時を回り、日は真上へと昇り切っている、
日暮れまで数時間、車両のバッテリーがいつ上がるかもしれない。
判断するには猶予が無い状況へと追い込まれ、彼の案件が指示されることになった。

選抜隊は立候補と彼の指示で四人が選ばれることとなり。
病院へと戻る保険の為に家族を見舞いに来ていた男が患者側から二人。
同じく医師側からインターンで努めている若い医師。
そして上代は通信要員に静宮を指名した。

44:屍
08/12/02 06:30:43 hM1/7r/2


上代 肇 悔浦市民病院 屋外 8月15日 PM1:51


既に日は傾きはじめ、気温はわずかに変化している。
上代は病室の窓際に備え付けられていた、火災用の緊急避難用はしごを
階下まで下ろすと四人はするするとはしごを降り、ついには地面へと到達した。
周囲でほぼ静止状態であった屍たちが次々と動き出し、彼等の元へと迫る。

とはいえ、日照時では這うようなスピード以上は出ないのか
上代たちは悠々と屍の集団の中をくぐりぬけエンジンをかけたままのワンボックスの
中を覗き込み警戒する、周囲からじわじわと迫る恐怖に耐えかねたのか
医師が静止する上代の手を振り切り、車のドアを開くと中から子供の屍が現れ男の首元に襲い掛かった。

押し付ける顔を払いのける様に伸ばした手の平に屍の歯が喰いこみ、
べきりと鈍い音が響く。上代が走り抜けながら子供の体を蹴り飛ばすと
亡骸は数mほど吹き飛び、その場で倒れこんだ。上代は医師に手をかし、支え上げる。

「無事か?」
「手を噛まれた……治療しなくては、わ、私は病室まで戻る」

噛まれた手の肉が削がれ骨が露出している、かなりの重症の為
医師はもと来た道をそそくさと引き返し、はしごを上ると病室の窓へと戻った。
残されたメンバーは注意深く車の中を確認すると上代が運転席に乗り込み
病院の外へと向かって走り出した。

―PM2:35―

うだるような熱気の中、道路には無数の車両が乗り捨てられ道を塞いでいる。
市に集められた車両が一斉に道路に出てしまえば、渋滞は起こるのは自然だろう。
舗装路がこの調子では救助どころの話ではない。探索隊を乗せた車は
むりやり歩道を走り抜け、コンビニエンスストアの手前で駐車すると
周囲を警戒しつつ車から降りた。

駐車場に佇む屍がこちらの臭いを探知したのかわずかに近付いてくる。
三人は小走りで店の前に立つと入り口のドアを開いた瞬間
ひんやりとした空気が流れ込んでくる、上代は小さく舌打ちすると
中に入ろうとする若者を制止した。

「なんすか?」
「空調が動いている、連中が中にいた場合、危険だ」

肉体が冷えている屍は人間とほぼ変わらないスピードで行動する。
何も持たずに飛び込んでいくのは危険だろう。上代は店先に飾ってある
のぼり用のポールを引き抜くと余分な部分を取り外し、もう一人に手渡した。
間合いを広く取れば連中が近付く前に転ばせる位のことは出来るだろう。

上代はのぼりの土台を手に取り、コンビニのガラス戸へと放り投げると
ガラスが勢いよく割れ店内へと熱気が流れ込んだ。備え付けられた本棚を
蹴り飛ばし三人は中へと進入すると、店員の屍がこちらへと走りこんで襲い掛かる。
上代は相手の足をポールで払いのけると転倒させ、相手を突きながら押さえつけた。

奥でも屍が現れたのか何やら揉み合う音が聞こえる、回収係はカゴの中に
陳列棚に残されていた食物をあるだけ押し込むと、撤退の合図とともに
店外へと走り出した。息を切らし三人は車の中へと食料を積み込む。
既にコンビニの食物はあらかた収奪された後で、成果は少なかった。
三人は車に乗り込み、上代は運転を変わり経過報告を入れる。
上代の携帯からは呼び出しのコール音だけが響いていた。

45:屍
08/12/02 17:19:36 0jFlfF1O


八墨康二 国道 8月15日 PM3:19


国道沿いに渋滞となった放置車両の間を縫うように、康二のバイクが走り抜ける。
このような有事の際には、二輪の方が融通が利くのだ。首の頚動脈から血を流した青年の屍が
彼の進行方向へと立ち塞がり、康二は背負ったマチェットを引き抜くと
擦れ違いざまに頭部を斬りつける。

バイクの速度を利用した一撃を頭部に食らうと、青年の寸断された頭から脳漿が吹き出る。
しかし、踏ん張るように体勢を整えた屍は停車した康二と距離を取って向かい合った。
”頭部を破壊”とは完全に破壊せねばならないということなのだ。
刃を返すとアクセルを捻り、走行しながらマチェットを相手の首先へと振りぬけると、
首部が中ほどから折れ曲がり、屍はその場に崩れ落ちた。

康二は生物学の講義を思い返していた、人間の脳には古い箇所と
比較的新しい場所がある、人間が文化的生活を営めるのは
記憶を司る大脳の機能による所が大きい、大脳が損傷して生きているということは
屍が小脳や脳幹などの原始的な機能のみで動いているに他ならない。

つまり、屍は脳の機能的な退化によるものと考えれば
身体の欠損に対して虫のようにしぶといのも頷ける。康二は周辺を注意深く観察し
近隣の偵察を再開した、屍の探知能力から推測して
人の集まる施設ほど危険だろう、最寄の警察署へと車を走らせる途中。
銃声が数発に渡って響き渡った。

「銃では意味がないな」

脳幹や小脳は比較的小さく深い部分に位置している
動く屍を相手に、銃で正確にその急所へと打ち込むのは不可能に近い。
それっきり聞こえなくなった銃声を尻目に康二は警察署の駐車場にバイクを乗り入れると。
たむろしている屍たちの背中側から延髄を切り裂き、その機能を停止させていく。

「おい、そこ動くな!」
「刑事さんかい?」

康二は警察署の二階から話しかけてくる、生き残りの署員を説得すると、
バイクのまま入り口へと乗り入れ署の内部へと通された。
玄関にはポリタンクのガソリンが置かれ、奥の方では避難してきた住人達が、何やらざわめいている。
刑事たちは銃を持ってはおらず、鈍器や長物で屍の対応をしていたようだ。

先程対応にあたった刑事が二階から降りてくると
武装を解除するように呼びかけられ、康二はそれを丁重に断わった。
市民とは違い、武装する権限を持つ警官がこのような隔離的な有事の際に
必ずしも市民を守るために行動するとは限らない、早い話、康二は警官を信用してはいなかった。

「自衛隊とかは来ないんですか?」
「この有様だ、通信回線はパンク状態で全く繋がらん
逃げ込んでくる市民に食わすので手一杯だ」

警官が食料について尋ねてきたが、康二はその場を取り繕うように
知らないとだけ答えた。武装を解除しない以上、中へは入ることが出来ない。
日の昇る時間帯では屍よりも略奪目的のならず者のほうが危険なのだろう。
署員の意図を汲み取り、康二は大人しくその場を引き返すと一人の警官が話しかけてきた。

悔浦市の回線中継所にトラブルが発生、外部との連絡手段が断たれたいま、
事態は思わしくないこと、また中継所へと向かった警官隊から
未だに連絡がないことを伝えた、康二は懐から地図を取り出し
中継所の施設に目印をつけると、警察署を後にし、一旦自宅へと帰還した。

46:屍
08/12/02 17:20:47 0jFlfF1O


八墨康二 悔浦山道 8月16日 AM7:01


鬱蒼と茂る山林の合間から朝の日差しが入り込んでくる、時計に表示される気温は23℃
屍が悠々と行動できる気温だが襲ってくる気配は未だにない、人口密度がそのまま屍の数となるため
このような辺鄙な山道では、まず鉢合わせることは有り得ないだろう。
康二はバイクのアクセルをあけ土煙を舞い上げると、わずかに見えるわだちの痕跡を追跡してゆく。

自らの生存を目的とし、安全を確保する為には、外部との通信手段とは切り離せない。
形として警官隊の救助に向かうのと同義ではあるが、それは決して
彼の正義感から来る行動ではなかった。山林を登りつめ、開けた場所に到達すると
木に追突する形で停車している警察車両を発見した。

「……銃痕?」

注意深く車両へと接近し、ドアに規則的に並んだ銃弾の痕を指でなぞる、
ドライバーの姿は見えず、ウインドウから覗く限り銃弾は完全に貫通しているようにも見えた。
拳銃弾ではここまでの貫通力は無い、自衛隊のアサルトライフル……或いは別の何か。
山道へと繋がる道にはまだわだちが残されている。

走りながらバイクへと飛び乗り、走り出すと山林に銃声が鳴り響いた。
自らを狙ったものではない異なった二つの銃声のする方角へと足を向けると、バイクのアクセルを全開に吹かす。
康二は両者の銃声のうちの一つに聞き覚えがあった。
湾岸戦争時のVTRや戦争映画で幾度と無く聞いた銃声。

AK-47カラシニコフ

非常事態に最優先に確保されるべきライフライン、通信網が寸断されるなど有り得ない状況。
”何者かによる第三戦力”を考えねば到底説明することは出来ない。
山頂の上空から飛来した銃弾が脇の木で弾かれるように弾着する。
狙撃手の存在を察知した康二は細い獣道へと方向を変え
地雷を避けるために未舗装地帯を走行する。

山林を登りバイクから降着すると、見渡しのいい崖の上から眼下の橋を標榜した。
一方は警官隊と自衛隊の混合勢力、もう一方は中国或いは朝鮮の兵士と思われる軍勢が
通信施設への進路を塞いでいる。康二はボウガンに取り付けたスコープを覗き込み
狙撃手の姿を捜す、暫くして狙撃手は通信塔に体をくくりつけ狙撃しているのを発見した。

川岸を越えていけば通信施設へ回ることは容易になるだろう。
川底を走っていけばただの的だが、彼にはお気に入りの”足”があった。
後輪で泥を跳ね上げ勢いをつけて加速すると対岸の川岸を目指し
康二のオフロードが崖から飛び出し宙を舞った。

対岸へと無事着地し目くらましに派手に砂煙を上げながら
そのまま康二が山林の茂みに飛び込むと、背嚢からボウガンを取り出し両手で保持する。
彼自身、人間相手の戦闘は予測していなかったことであったが、
火事場泥棒に黙って殺されるのほど人間が出来てはいない。

乱れた呼吸を整えるように深呼吸をすると、なるだけ音を立てぬように注意深く
通信施設の元へと向かって進攻する。近くの木々に付着した血痕
足元には頭を潰された自衛隊員の亡骸が横たわっている、おおよそ自衛隊が確保していた
通信施設に特アの上陸部隊が乗り込み奪取されたと見るべきだろう。

展開していた部隊も屍相手の防衛戦を想定しておきながら
まさか軍と戦う嵌めになるとは夢にも思うまい。トラップを設置している敵兵の一人を
康二は先んじて発見すると自衛官の遺体から抜き取った拳銃で狙いを定め
三度引き金を引いた。

47:屍
08/12/07 01:25:19 uaS7frjz


久瀬洋平 デパート三丸 地下駐車場 8月16日 PM6:12


薄暗い地下駐車場、天井の誘導灯がカラカラと音を立て回り続けている。
洋平は手に握り締めた破砕斧で頭上の誘導灯を破壊すると、サーマルゴーグルに火を入れる。
眼前に広がる緑のスクリーンに広がる暗景を眺めていると、途切れていた筈の
通信が元に戻ったのか携帯電話が振動を始める。

15日の早朝に屍との遭遇したのが幸運となり、学生時代の友人と共に行動を開始し
馴染みのサバイバルショップから一通りの装備を持ち出すと、
食料物資の豊富なデパートへと向かったのだった。

大規模なデパートなどでは、食品売り場の多くは地下に設営されていることが多い。
幸運にも三丸では室内の明かりとなる電源が落ち、散策するには危険な状態となっている。
つまり残された食料の多くは手付かずのまま残されている、洋平は右手に持った破砕斧を器用に回転させると
左手で電話の応対に出た。

『やっと繋がった……洋平、無事?』
「あぁ、今から中に入る所だ。
電源を切るからもうかけてくるなよ、車の中でジッとしてろ」

携帯越しにがなる女の声を左から右に聞き流すとおもむろに通話を切り
停止した自動ドアを腕でこじ開ける、鍵がかけられていないため入り口は容易に開き
店内に一歩踏み出すとあちこちから伸びる光の帯が目に入る。
辺りからかすかに聞こえる衣擦れの音と呼吸の呻き。

光の射す根元にはスイッチが入ったままの懐中電灯が放り出され、
カートに積み上げられた物資が赤い血に濡れている、先客が屍に襲われた痕跡だろう。
洋平は死角をなくすよう壁を背にすると、音のする方角へとゆっくりと近付いていく。
新品の食料の周りに群がる三体の屍の姿を補足する。

洋平は腰にぶら下げたガソリン入りの火炎瓶を取り出し、
おもむろに屍たちの集団へと投げ込と、金切り声を上げながら筋肉を萎縮させる
屍たちの群れの先から聞こえる、かすかな声へと耳を傾けた。

「誰か居るのか」
「ここだよ、助けてくれ!」

どうやら先程食われていた人間の片割れらしい、
顔を焼かれ錯乱する屍たちを斧で払いのけ、食い残しの遺体を確認する。
肉体のほとんどを食われ、顔面が欠損してはいるが女性のようだ。
周囲に屍がいないことを確認すると洋平は冷静に推測する。

屍の武器は爪と歯しかない、肉を削ぐことは可能でも
骨を欠損させるほど砕くことは不可能である、にもかかわらず
足元に転がる遺体の頭蓋骨は砕かれているのだ、考えるまでもなく
扉の向こうで助ける何者かが信用するに値しない人物であることは容易に推察できる。

「今外に出れるのか、何の臭いだ?」
「ガソリンだよ」

洋平は火の光と焼けた肉の臭いに集まり始める
屍たちを闇に紛れながら避けると、カートの中に物資を積み込み、
出口の方角へと歩き始める。ショッピングカートを持ち無事脱出に成功
サーマルゴーグルを外し、車の窓から身を乗り出す回収に来た仲間と地下駐車場内で落ち合った。

あの男がどうなるのか知る由もないが、洋平にとってはどうでもよいことだった。

48:屍
08/12/07 01:32:54 uaS7frjz
×扉の向こうで助ける何者
○扉の向こうで助けを求める何者

×集団へと投げ込と
○集団へと投げ込むと

49:屍
08/12/07 14:08:05 w25UzCGR


上代 肇 デパート三丸 屋上駐車場 8月17日 AM2:47


瞼の上に走る閃光、上代は激痛と共にその場で目を覚ました。
後頭部の傷口をさすると掌が血で濡れる。デパート三丸屋上駐車場に備え付けられた
電話ボックス。携帯電話が普及した今の世にあって、この場に身を隠す個室が存在したのは
上代にとっては人生最大の幸運であった。

まどろむ思考を抑え、現在に至るまでの状況を反芻する。デパートへ物資の調達へ向かい
ちょうどここ屋上駐車場に降り立った際、仲間だった筈の男が上代の後頭部を鈍器で殴りつけたのだ。
もとより病院へと戻る気がなかったのか、物資や女が手にして欲目が出たのかは定かでないが
とりもなおさず連絡は入れておかねばならないだろう。

電話ボックスの壁をゆっくりと叩く屍を敢えて無視し携帯電話の電源を入れると
病院で待機していた静宮へと報告を開始した。静宮の携帯へと通話が繋がる。
浅い呼吸音の後、上代が彼の名前を呼びかけると予想だにしない返答が返ってきた。

「静宮というんですか……私の名前は?」
「何を言ってるんだ」
「どうか聞いて欲しい」

男は病院であの後起こった出来事をかいつまんで語り始めた。あの日屍に噛まれた若い医師が
突然牙をむき、残された患者たちに襲い掛かり、五階に屍の群れが溢れたこと
そして静宮自身も噛まれ、今この時ですら屍に変質しつつあることを。
かつてあった名前も思い出せないほどに記憶を侵食し、緩慢と知性を奪っていく。

これは病気でもウィルスによる変質でもない、”記憶が抜け落ちる”それが屍の症状であった。
人間であった頃の記憶も、生きる内で学んだ心も、その身に刻み込んだ記憶全てを忘却してしまう。
それは人間の行き着いた進化の形だと静宮は仮定した、屍とは喜びも哀しみも感じない
”絶対的幸福”を得て進化した本来の人間の姿なのだ。

「……そんな馬鹿な」
「貴方が誰かは分からないが、一つだけお願いがあるんです」

彼は記憶に残る妻のことを語り始め、上代に自宅の位置を知らせた。
記憶を奪われる最中でも失うことを拒んだ記憶の最後の欠片を
かつてあった男へと託すと、会話は完全に途絶える。
上代は携帯の電気を切り懐へと戻すと頭を抱え絶望した。

救援も得られず、個室へ押し込められ出ることも出来ない状況。
周囲は屍の群れが溢れかえり、彼の隠れるボックスの外を埋め尽くしている。
彼が死を覚悟した折、突然デパートの外灯に光が灯ると
外部スピーカーより火災発生のアナウンスが鳴り響く。

唐突に鳴り響く轟音に屍たちの視線が一斉にスピーカーへと向けられた。
五感が鋭敏であることが逆に仇となったのか、その場で足を止めぼんやりと佇んでいる。
突然得た好機を見逃すことなく上代は電話ボックスの外へと飛び出すと
彼を捕まえようと手を伸ばす屍たちの手を振り解きながら駆け抜ける。

上代は乗ってきた車の中へと駆け込み、エンジンをかけた。
車が残されているということはあの二人はまだデパート内にいるのだろう
とはいえ捜しに行くほどの猶予は今の彼には残されていない。

ボンネットの上に飛び乗る屍を振り落とし、立ち塞がる障害物を跳ね除けると
深夜の街中へと無事脱出することに成功した。静宮の遺言を叶えるため
住宅街へと車を進めると、乗り捨てられた車を避けながら周囲の家々を見て回る。
二階から掲げられたシーツに救援を求めるメッセージが書かれ軒先を埋め尽くしていた。


50:屍
08/12/07 14:12:14 w25UzCGR
>>43は”男二人”とありますが男女一組に修正

51:屍
08/12/08 00:13:03 2UvXUixZ

       主なる神は言われた。
人は我々の一人のように、善悪を知る者となった。
             原罪

         ―9月2日―

一台のバスが港へと向かう車道を走り続けている、車内の搭載された
マウンテンバイクが路面の石に乗り上げる度に揺れ、積み上げられた食料の山に倒れかかる。
ハンドルを握る男はビニールに包んだにぎり飯を腹に詰め込みながら目的地へと向かう。
30kmほど離れた場所に広がる悔浦湾、船に陸から離れればひとまず安全は確保できるだろう。

自衛隊が開放した交通センターから持ち出したバスが農道を走り続け。
向かう途中、女性に抱えられた中年の男と少女が、道路の中央で手を振るのが目に入った。
運転していた男はブレーキを踏み、バスのドアを開けるとタラップに足をかける少女を手で制止し、
寄りかかるようにふらつく中年男性に目を移した。

「噛まれたんなら、乗せないよ」
「いえ、噛まれてません……」

男は静止していた腕をどけ三人はバスの中へと乗り込む、男女の歳が離れてはいるが
親子連れのようにも見える。男は中年が落とし床に投げ出された血濡れの鉄パイプを窓の外から投げ捨て
港へと向かって再びバスは走り出した、照らす日差しの中、熱を帯びたアスファルトから伸びる帯が空気を歪ませる。
今起きている現実がまるで嘘のようにありふれた夏の風景。

道路脇で徘徊する野良犬と擦れ違い、ゆらゆらとかかしのように佇む屍を避けて通る。
毎年のように訪れていた夏の光景とまるで代わりはない、そこには狂気や恐怖は存在してはいなかった。
ふと、道路脇でエンストを起こしている車の前で佇む二人の男女の姿が目に入る。
男は二人の下へと横付けし、バスのドアを開けると二人に話しかける。

「乗るかい?」
「あぁ、いいのか?」
「先客がいてね、二人くらい増えても大して変わらんよ」

エンストを起こした車内から物資を積み下ろしバスの中に乗り込む二人は、
後部座席に座っていた先客に会釈すると、持ち込んだ食料を互いに分け合い、とりとめのない会話をし始める。
あまりの緊張感のなさに思わず男は頬が緩み、呆れ顔で首を左右に振った。
悔浦湾までの距離が残り数kmに差し掛かる。

眼前に広がる海に浮かぶ船舶、できればフェリーが望ましいが、
小型の船舶であっても客室が複数あれば差して問題はないだろう。
屍の行動が活発となる冬を乗り切るまでの間の食料は充分に備えられている。
やがて港湾地帯へとバスを乗り入れ、一行は目的地へと到着を果たした。

停泊されている船舶の中で唯一つ残されていた客船に目をつけ
停泊場所の脇へとバスを横付けする、六人は下ろされているタラップを駆け上がり
進入を果たすとバスの積荷を船の内部へと運び込む、次第に新鮮な肉の臭いと
雑然とした音に反応した屍たちが船内から現れはじめ、甲板を埋め尽くした。

今現在、生存している人間の数はどれほどであるのか、
一億三千万人の内、六人の生存者は船内へと降り立つと辺りから集結する屍たちに目を向ける。
男は収奪した自動小銃を他の男たちに渡すと屍の群れに銃口を向け歩き始めた。
進化から取り残された者たちのささやかな抵抗。


神への反逆を告げる銃声が、澄みきった夏の空へと鳴り響いた。




52:創る名無しに見る名無し
08/12/08 20:04:59 8ixocyvc
ひっそりと進行するのがホラーの醍醐味だが
埋もれさすには惜しいage

53:創る名無しに見る名無し
08/12/14 11:36:00 XZ7055pA
 それは初夏のよく晴れた日のことだった。
 私は海沿いの断崖の道路を真っ赤なオープンカーで走っていた。
 右手にはどこまでも広がる青い海、左手にはどこまでも続く緑の大地。雲一つない空が眩しい。
 前方にもバックミラーにも、車影が映ることはなく、この風景は私だけのものだった。
 私はとても開放的な清々しい気分で疾走していた。

 小高い丘を越えたところで、私の視界に白い建物が映った。よく見ると、立派な洋館であった。
 この道路は一本道。その右手にポツンと佇む白い洋館。
 私はスピードを落とし、近づく洋館をじっくりと眺めた。

 なぜか私はこの洋館が気になって仕方なかった。
 何を急ぐわけでもないと思い、私は洋館に立ち寄ることにした。
 車を道端に停め、歩き出す。
 周囲に人気はない。
 どうやら白い洋館は、廃墟となったホテルのようだった。
 私は誘われるように無人のホテルに足を踏み入れた。

 大きな両開きの扉をゆっくりと引いて開ける。中は少し薄暗い。
 玄関ロビーは吹き抜けで、正面には二階へと続く大きな階段があった。
 海沿いのホテル。客が来ないので見放されたのだろうか。外観も内装も真新しい。
 そうだ、上から見る海はどんなだろうか。
 私はそう思い、階段を上った。

 私の足音だけが、やけに大きく響いて聞こえる。本当にここは無人のようだ。
 ふと風が吹いていることに気づいた。
 どこかの窓が開いているのだろうか。
 階段の最上段に立った私は、ぐるりと辺りを見回した。
 目の高さにシャンデリアが吊り下げてある。どうやら二階より上はないようだ。
 各部屋のドアは全部開け放ってある。どうしてだろう。
 いや、私は外の風景を見ようと思っていたんだった。
 私は手近な部屋に踏みこんだ。

 部屋は驚くほど広く、そして何もなかった。
 開けっ放しの窓。白いレースのカーテンが風ではためく。
 床は大理石のままで、貼りかけの壁紙が放置されている。
 このホテルは建てかけで放置されたのか。ただ寂しさだけが漂っていた。

 窓からの風景を見る気は、すっかり失せていた。
 私は踵を返し、部屋から出て行こうとした。
 その時、レースのカーテンがふわりと飛んだ。そんなに風は強くないのに。
 よく見ると、それはカーテンではなかった。

 白い半透明なくらげ。くらげとは海にいるのではなかったか。どうして宙に浮いている。
 しかもやたらと大きい。かさは人の肩幅ほどあり、なびく足は天井から床までありそうだ。
 しかし、私は不思議とそのくらげを恐れる気にはなれなかった。
 ゆらゆらと風に揺られるくらげは、まるで別次元の生き物だった。
 壁や床を幽霊のようにすり抜け、ただただふわふわと漂っている。

 気づくと、二匹、三匹と、くらげの数が増えていた。
 増えたのではなく、今まで気づかなかっただけかもしれない。
 ひたすらに無害。ただそこにあるだけ。敵意どころか、私に気づいている様子すらない。
 ただ風に吹かれているだけだ。

 びょうと突風が吹き、一匹が風に飛ばされた。
 勢いあまって、するりと窓から飛んで行く。
 くらげはやはり風に吹かれるまま、ホテルの中に戻ることはなかった。
 青空に不自然な白。遠目にあれがくらげだと判る者はいないだろう。

 他のくらげも無関心。私は無人のホテルを後にした。

54:探訪録
09/02/04 22:39:11 xemy5uCM

思考の狭間に漂う白い帯、目を細め帯の眺めようと試みる、
男は白く染まった世界の中を漂っていた、モノクロームの世界に黒く浮き上がる輪郭線。
浮かぶ物が概念であることを悟った男は思案するのを止め。
何かに向かって目を向けた。

「やぁ」
「……どうも」

こちら側の物ではない何かに男は浅く会釈すると男の思考から近似値が選び出され。
ぼんやりとした”何か”が人の形を成し、やがて二人は地面と思しき平行線の上で向かい合った。
失礼ながら男が頭を捻り不思議に思っていた矢先。
何かは手を挙げ男の方へと語りかけてくる。

「ここは”間”のようなものです」
「どちらの”あいだ”ですか?」
「ずっと先を歩いたのならば、やがてあなたの後ろにつくでしょう
ここは”間”ですので、先でも後ろでも行けるのです」

そこまでの言葉を聞いた男は微笑を浮かべ、ずっと先を知りたいと何かに言葉を切り出すと
何かは眉のようなものをひそめこう言葉を返した。

「あなたは欲深い人だ!」
「何故ですか?」

何かに非難された男は口を尖らせて不快感を露わにした。

「あなた達という人間は皆、ずっと先を知らずに生きています
それは皆知らなくとも満足しているからです」
「ずっと先を知りたいと思うことは欲ですか?」
「皆が満足できることをあなたが満足できぬのなら
それは強欲以外の何物でもありません!」

男は顎に手をやり少しばかり思案すると、”何か”は融通の利かぬものであると諦めた。
男は先へ行くことを諦め後ろと思しき方向へと戻りだすと何かがひたひたと後ろについて歩き始める。
前を歩かれるより後ろを歩かれるのが気分が悪い男は眉をしかめて振り返り、
何かの方へと目を向けた。

「なんでしょう?」
「いえ……何も」

何食わぬ顔のようなものを浮かべた何かが疑問の声を上げると
あまり気味悪がるのも失礼かと思い直した男は、誤魔化すために傍と思い浮かんだ
疑問を何かに問いただした。

55:探訪録
09/02/04 22:41:01 xemy5uCM

「先と後ろがあるのなら最初はどこなんですか?」
「最初とは?」
「始まりです」
「ここです」

随分な答えを返された男はからかわれているのかとも思ったが
あまりにも真剣な面持ちのような声で何かが話しかけてくるため、再度問いただした。

「始まりは何故ここなのですか?」
「あなたは罪深い人だ!」

またもや何かに非難された男は目を丸くしてたじろいだ。

「あなた達という人間は皆、どこが始まりか知らずに生きています
それはここが始まりであるからです」
「ここが始まりであることを疑問に思うのは罪ですか?」
「皆が決めた始まりをあなたが納得できぬのなら
それは罪悪以外の何物でもありません!」

男はあんまりな態度をとる何かに対しついには喧嘩腰で文句を並べ立て始める。

「ただ後ろから前へ歩くことだけが罪ではないというのか!?
それでは歩く人があんまりではないか!」
「誰しも守らねばならぬ規則があるのです」
「実に馬鹿げた規則だ!」
「あなた方は規則を曲げることは出来ませんがここは”間”なのです
私には何故あなたがお怒りになるのか理解できない」

多少弱気になった何かは男をなだめに掛かる。

「多少私の言葉が過ぎたのやもしれません、申し訳ありませんでした」
「俺は君の言葉に怒っているんじゃない」
「どちらにいかれますので?」
「帰ります!」

男がそういうなりぷいとどこかへと顔を背けると眠っていた脳神経が覚醒し
瞼の裏へ移りこんだ朝の日差しを受け目を覚ました。

この世で最も欲深く、罪深い、人間は大きなあくびを一つすると
手元の時計を殴りつけ大きな溜め息を付く。

どこからともなく吹き込んでくる風が何かを語りかける来るように感じた。

56:創る名無しに見る名無し
09/02/04 23:40:14 nq9VjY7u
なんというか世界がぐにゃぐにゃし始めるような気持ち悪い怖さを感じる…
これはいいホラー

57:探訪録
09/02/05 09:12:25 3pWW3wKu

男は街並みを行きかう人々の姿を眺めながら煙草の煙をくゆらせている。
駅前で行われるけたたましい演説、店頭に設置されたショーウインドーのTVモニターの中で踊る歌
鮮明に移り込み疑念を挟む余地の無い現実の世界。
いかんし難い事態は彼の前に”何か”が漂っているという状況にあった。

「やぁ、またお会いしましたね」
「どうも」

空中に浮かぶ煙草の煙が何かの顔を成し、こちらへと目のようなものを向ける。
おぼろげな姿であることはどのような形にでも見れるものだ。
何かは獰猛な生物のように見えたかと思うと、こちらに向かい微笑んでいる女神のようにも思え。
ひとしきりその姿を変化させた後にちりぢりになっていく。

「夢を見るにはまだ早い時間だ」
「夢も現実も認識する上での規則に過ぎません」

男は大きく溜め息をつき煙草を消すと空き缶の中へとほおり入れる。
途端、パシャリと言う音を立てると道を歩いていた男の一人が水になり
奇麗さっぱり消え去った。

「君の仕業か?」
「認識の問題であるのです」
「現に見ろ、人が一人死んでしまったぞ!」
「それは正しい認識とは言えません、人は”水と色々”で出来ていますから
ただ”水と色々”に分かれただけです」

道往く人達は地面に残った私物と人間だった水溜りを避け、
何事もなかったかのように往来を行きかっている。

「魂というものがあるだろう」
「それは正しい認識とは言えません、あなた達という人間はただ認識しているだけであり
そのような不純物は混成されていない」
「話にならないな」
「老朽や欠損しながら先を歩いた所で苦痛が増すだけではありませんか?
終わりは救いでもあるのです」

男は堅苦しい規則を並べ立てる何かにそっぽも向けずその場に立ち上がると
肩を怒らせながら歩き出した。

58:探訪録
09/02/05 09:13:45 3pWW3wKu

「あなたは勘違いされている、そもそも分解したのは私ではない」
「君の言うことはまるっきり充てにならない!」
「あなた達人間という生き物は事実を誤って伝える事がありますが
わたし達は規則で禁止されているのです」
「嘘をつけないってことですか?」
「嘘をつけないということになります」

空中に浮かぶ煙で形作られた何かの顔がついには拡散し、消え去ると
ショーウインドーのガラスに何かの顔らしきものが映りこみ続けて語り始める。

「認識の中で思考する上で規則はとても重要であるのです
実った木の実が地面に落ちなければ誰もが困ります」
「引力も規則の内ならそれは誰が決めたんです?」
「それを疑問に感じることは罪深いことなのです」
「分かったよ、それで?」

何かが不意と空へと視線を移すと男も釣られて空へと視線を向けた。
豆粒のように遠くに見える影、人が地球の外へとほおり出されようとしていた。

「規則が崩れようとしているのです」
「よくわからないね?」
「”水を温めて氷”に”水を冷やしてお湯”に、規則が崩れてしまえば
誰もが困ります」
「誰がそんなことを?」

ちょっとした間の後、何かがくすりと笑ったような顔を浮かべた。

「少なくともあなたのような、罪深い人間であることは確かです」
「そういう冗談は嫌いだね」
「私は嘘をつけません」

男は呆れた顔を見せ、その場から歩き出すと足元に小さい石が転がっていることに気付いた。

「あなたが”何かある”と認識すれば、それが答えとなります」
「罪深い人間はどこに?」
「ここより少し先であなたを待っています」

その瞬間、パンという音と共にショーウィンドウのガラスが
何かの形をくりぬいたかのようにひび割れると割れたガラスの間から黒があふれ出した。

男はひび割れたガラスを一瞥し、足元の石を拾うと少し先へと向かって一秒を刻んだ。

59:探訪録
09/02/05 16:40:52 tPudRQf/

男は向かう間にも思考を続けていた、仮にそのような人物がいたとして
どうするつもりであったのか。

凶行に及ぶ人物を止めるのか?
迎合し共に規則を破るのか?
興味を持った力を奪う為か?

男は幾つかの仮説を立て自分の不可解な行動に答えを当てはめると、
最終的に知覚をするための行動であると結論づけた。
脅威を知ることは唯意義なことである。

「こちらです」

何かの声が聞こえた次の瞬間、周囲の空間の彩度が上がる、ちかちかとする光景に男は目を細め。
更に先へと歩いていく、規則を自由に決められる力など持てば
誰しも色々と試して遊びたくなるものだ。

新品の玩具を与えられた子供のように
待ち焦がれた恋人を手にした若者のように
大きな集団を動かす権力を得た老人のように

ひとしきり遊んだ挙句飽きれば興味を失う。
それが人間の構造的限界というものではないだろうか。

やがて一人の男は歪む砂丘の上に立つ一人の初老の男性と向かい合った。

「君は自身の姿に疑問を思ったことはないかね?」
「いえ、これと言って特には」
「人によれば人間とは進化の過程により取捨選択されたものではなく
元より決められた過程をなぞった物でしかないという話もある」
「俺は無神論者ですので」

互いに向かい合うだけで二人の男は同じ臭いを感じた。
二人の男は同類であった。

「私も神なぞ信じていない、人間が同じ形で作られていれば個体差など必要ないからな
他人の見る景色が自分の眺める光景と同じと思えるほど、傲慢ではない」
「認識に個体差があるとするならば、あなたの目には世界がどう写るのか?」
「実に退屈ではあるが、嫌いではない!」

男がそう言いつつ腕を振るうと周囲の家屋がサラサラと砂のような物質へと分解される。
男は巻き起こる粉塵を吸わぬよう口元を押さえると数度咳き込んだ。

「力加減がよく分からなくてね、すまない」
「いえ、大丈夫です、しかし無闇に分解する行為は慎むべきかと」
「我々にとって善悪とはなんなのだろうか?」
「窮することなく終わりを迎える為の規則では?」

60:探訪録
09/02/05 16:41:31 tPudRQf/

何事もなく生き、何事もなく欲を満たし、何事もなく終わる。
欲がほどほどであれば善行とされ、欲に際限がなければ悪行とされる。
男は”終わる事は避けられませんが”と付け加えようと言いかけたが口を紡いだ。
仮に人生が無限であれば人間は皆、貪欲になるであろうと男は推測する。
実際にはその前に飽きて自殺するだろう。

「人間は認識の外を窺い知ることが出来ない
これほどの力が手に入った私でさえ、知ることすら敵わないのだ」
「我々の認識の中には我々しか存在しないのでは?」
「終わりが認識の内にあるとは認めたくはない!」
「……俺達は認識する幅が歪すぎたのです」

初老の男性の周りから腐臭の漂う獣が姿を現す、赤黒く充血した両の眼
膿を噴出し垂れ下がった皮膚、臓物に絡む蛆。
生存する為を機能を何一つ有していない恐怖を喚起するだけのデザインに
男は思わず笑みがこぼれた。

「では、『物質は際限なく加速する』ということでいいですか?」

男は持っていた石を放り投げると規則を破り際限なく加速した石くれが相手の頭蓋を砕いた。
男にしてみれば容易な物理攻撃で倒せるとは思ってはいなかったが、
あっさりと生死が決まったのだった。

舞い上がる砂塵が”何か”の顔を形作ると男に語りかける。

「終わったようですね」
「おそらく、彼も飽きたんだろう」
「自ら手を下せば済むのでは?」
「最後の娯楽がつまらない終わりなら終わった後に退屈する」

何かは互いの顔を見合わせると、言葉を返す。

「終わりの後には何もないのが規則です」
「それもまた認識の差だね」

男は光の刺激を瞼越しにうけて、再び目覚める。
夢が認識の内であるのか、現実が認識の外であるのか。
目に見える全てを規則と迎え入れ。疑惑を鎖で繋ぎ思考の奥へと押し込める。

規則を曲げること敵わず、認識の外を窺い知ること敵わず、継ぎ接ぎの人格を充てて。
感情を忘れないよう反芻し、人間のつもりで人間らしく生きて死ぬ。
男は少し退屈になった。

61:探訪録
09/02/06 09:53:32 9cKfs4kG

世の中不便のように見えて、よく出来ているようにも思えた。
仮に『物質の燃焼に熱量を伴わない』とすれば煙草は吸えないし、発電所は動かないのだ。
「指定」「範囲」「全体」で対象することにより顕在化する新しい規則は
使おうにも使えない七面倒な制約の多い無駄な能力であるといえる。

「やぁ」
「……どうも」

そんな男の苛立ちを先見して知らずか、何かの姿が頻繁に見られるようになった。
更に性質の悪いことに次第にその姿が鮮明になり、今となってははっきりと女だと分かるのだ。

「何をされているのですか?」
「”ずっと先”が見えるようになったんでね
取捨選択する人間を決めてるんだ」
「それはまた穏やかな話ではありません、だからあなた達という人間には知らせたくはなかった」

人為的事故により16人殺害、殺人で35人殺害、間接的な要因により167人殺害
世の中は犯罪者だらけだ、特に自分の行動が多くの被害を生むことを
自覚しない間接的殺人者の多さに驚かされる。

「小を殺して大を生かすのは善行ではないのか?」
「個体数を調整するという上でも終わりは不可避なのです
例えどのような不遇であれ、それを拒否することは出来ない」
「彼らが終わらせるのと俺が終わらせるのと、どんな差があるというんだ!」
「仮にあなたが終わりを回避したとしても、別の終わりが用意されるだけです」

雑然とした自宅の一室、男はペンを投げ”ずっと先”を記した紙をゴミ箱へと投げ入れる。
これでは何も出来ないのと変わらない、男はフラストレーションばかりが鬱積し
袂の煙草を口に付け大きく吸い込んだ。

「その煙はお好きですか?」
「まさか煙草を吸う事にすらけちをつけるのではあるまいね」
「いいえ、細く短く生きるのも個人の自由です」
「……随分な言い回しだ」

男は眼前を漂い、こちらの顔を見据える何かを一瞥するとふと疑問を口にした。

「そもそも君は何なのか?」
「私はあなたの認識に住まうものです」
「フロイトに言うアニマとかそういう代物かい?
だが、君は理想の女性というにはほど遠いね」
「抜き身の刀にはそれを納める鞘が必要です、あなたという人間も納めるものが必要でしょう」
「下品な例えだ、今後は君を頼らないよう努力するよ」

男は大げさな仕草で煙草を灰皿に押し付けると、何かはくすくすと笑いながら周囲を漂っている。
男は人差し指を”何か”に向け拳銃に見立てると規則を改竄した。

『対象指定、空間の運動は完全に停止する』

くるくると回っていた何かはぴたりと停止しそれっきり動かなくなると、
次第にその姿は色褪せ消滅した。

62:探訪録
09/02/06 09:54:33 9cKfs4kG

「認識の内に逃げたな、きっとあれは悪魔か何かに違いない」

何かが名乗らない点でもそれは明らかなことであった。
名前を知られると何か不味いことでもあるのだろう、男はわざとらしくそう思った。
一刻も早く何かのことは忘却せねばならない。

男は自身の終わりは幸福であるべきだと考えていた、
あの老人のように最後の最後まで何かに振り回されて生きたくは無い。
終わりがないのが不幸だとするのならば、忘れることがないのもまた不幸である。

「俺はきっと悪い夢を見ているのだ」

例え話、例えようのない幸福がある日突然終わってなくなってしまったら。
人間という生き物は如何に幸福になるか希望を持ち、夢を見ても
失った時のことなどこれっぽちも考えぬ先の見ない生き物ではないか。

「私はまたあなたにあえて嬉しい」
「よしてくれ、俺は君なんて知らない」

外へと飛び出した男は駐車されているミラーのウィンドウ越しに何かの姿を見る。
見るたびにその姿が鮮明になり嫌気が差す。

「俺を迎えに来てくれたのか?」
「終わりの後には何もないのが規則です」
「もう君にあえないとは認めたくはない!」

きっと何かは悪魔だった、まるで地獄のような問答だった。

「魂がないとすれば君は一体何であるのか?」

新しい玩具など必要ない
恋だの愛だの馬鹿馬鹿しい
神の如く振舞える力など何の意味があるのか

「俺を連れて行ってくれ、俺を外へ連れて行ってくれ」
「それは規則が……」
「規則がなんだっていうんだ」

男の目に映りこむものはただの虚像か、認識から産まれた模造品に過ぎぬのか。
生憎”あの頃は楽しかったね”などと生前のことを語らう、余裕など男には無かった。
”何か”が何をしにきたのかを明白に理解した男は行動に移した。

「さようなら」
「さようなら」

男は人差し指をこめかみにあて銃に見立てると規則を改竄した。

『対象指定、”彼女”のことは全て忘れる』

俺は神など信じない。



63:悪魔の贖宥状
09/02/26 18:39:23 vz6mwEIs

教室の一室で向かい合う教師と生徒、野暮ったいスーツに眼鏡をかけた男性教諭は
大きく鼻息をならすと目前にいる生徒の顔を見つめる。
肩に掛かった艶のある髪がはらりと撫で落ち、切り揃えた眉の下で机の上を見つめ
薄く目を開けている。

「国木は進路希望が”特になし”になっているけど?
実際の所どうなんだ、就職する気もないのか?」
「はい」
「何か希望する職業とか夢とか……やりたいことはないのか?」
「特にありません」

けだるい表情を浮かべ生徒がそう言い放つと、教師は困惑した様子で頭をかいた。
虚ろな目でただ机の上を見つめ、何事かを思案しているように見えるかと思えば
不意に窓の外へと目を移し、窓の外で揺れる木陰を目で追っている。

「三者面談でお母様が来られないのでは……」
「うちの母親も就職しろって言ってます」
「……母親ね」

まるで他人の親を語るかのような生徒の言葉に遮られ、教師は繋ぐ言葉を失う。
成績、素行共に平均、これと言って学力が低い訳でもない、母子家庭に生まれ
祖父母に預けられたその人生の軌跡によるものなのか、彼女は対人能力が欠如していた。

「水商売以外なら何でもいいです」
「何を言ってるんだ、国木……もういい、帰りなさい…気をつけてな」

後ろから声をかけられ、彼女は形ばかりに浅く会釈をすると、教室内から退室する。
他の生徒の姿もまばらになった校内の廊下を歩き、教室の机の前に立つと帰る支度を始める。

「……どこか…遠くに行きたい」

彼女がそう呟くと窓際に立ち、校外に見える景色を眺める。
自らの今後を想像する度に厚く積もった不快感が心を満たしていく、
つい先日、乳飲み子を祖父母に投げやり、養育費などついぞ払ったことのない母がふらりと現れ、
突然、彼女を引き取ると言い出したのだ。

アルコールで焼けた眼球に染み付いたヤニの臭い、彼女にとっては母も含め、全ての人間が不快だった。
綺麗事を並べ他人を不幸にして、自分は幸福にすがろうとする浅ましい人間。

「死ねばいいのに……あんな奴ッ!」

蹴り飛ばした椅子が勢いよく倒れると無人の教室内に床を叩く音が響く、
彼女に限って言えば好きこのんで、人間不信になったのではなく、
嫌いな人間がいるから人間不信になったのだ。

家に帰ればまたあの女が我が物顔で酒を飲み、”母親の用意した就職先”を執拗に勧めてくるだろう。
肝臓を悪くし立てなくなった母の代わりに子が働く、よくある美談に仕立て上げ
涙ながらに訴えようが滑稽な嘆願であることには代わりはない。

(あんな女に私の幸福を奪う権利なんてないんだ……)

少女は歯噛みながら教室を飛び出すと玄関先から外へと歩き出す。
そこに違和感を感じるまでの数秒、彼女には眼前の光景を目にして思考が静止する。
身の丈2mはあろうかと言う巨大な襤褸切れがただ忽然とその場に立っていたのだ。

『ならば…貴女が狩れば宜しかろう』

唸るように低く くぐもった声で何者かが彼女にそう語りかけてきた。

64:悪魔の贖宥状
09/02/27 03:39:20 6GY0R5pM

赤く染まりながら暮れる夕日に照らされ、襤褸切れの内部から覗く黄色い眼光に沙由華は気圧される。
何者かはゆらゆらと頭を数度揺らし、体の形を変化させたかと思うと
比較的穏やかな声で少女に語りかける。

『何を迷うことがあるのか』
「あなた…何なの? 刈るって何を?」
『他人を不幸に陥れ、自らが幸福を掴む、そこまで理解しているのであれば…話は早い』

何者かは少女に向かい一枚の書状を投げ出すと風に煽られた紙は
ひらひらと宙を舞い少女の足元へと舞い落ちる。彼女は紙を拾い上げると
そこに書かれている日本語とは似てもにつかぬ言語で書かれた文面を読み上げる。

「贖宥状?」
『ハ…人の世の幸福とは有限である、人と家畜は同じように公平ではない
神の法も人の法も、元より持った権威を固持する為の方便に過ぎん
それゆえの”贖宥状”よ』
「……」
『それを持てばいかなる罪も許される…このようにな』

何者かが襤褸切れを振り上げると、足元にゴムのような何かがべチャリと言う音を立て投げ出される。
地面に染込むように広がる赤黒い血、少女は目を凝らしその物体がなんであるかを悟った瞬間
思わず口元を押さえその場に塞ぎ込む、それは生きたまま剥がされた人間の頭部の皮膚だった。

『ハ…蟻を踏んだ人間を責めるほど、貴女も聖人では在るまい』
「私は…人殺しなんて……」
『望まぬのであれば”贖宥状”は発行されぬ
ともあれ、貴女の好きなように生きれば宜しい』

不意に吹き荒れる突風に舞い上げられ、襤褸切れは宙高く舞い上げられると、
みるみるうち赤い空の上に高度を上げ、ついにはその姿を消した、少女は震える片手を空いた手で押さえ込みながら
駆けるようにその場から逃げ出そうとする。

「ッ!」

道の中央で血を流し全身の皮を剥がれた、何者かの死骸が転がっている横で
何食わぬ顔で生徒達数人がゲラゲラと笑い声を上げながら談笑している。

(見えてないのかしら?)

少女はゆっくりと遺体へと近付くと足でその体を裏返す、アスファルトに固着した血漿が
ぺりぺりと音を立て遺体の前面が露わになると、面の眼孔と歯茎がごっそりと抉り取られていることに気付いた。
どのような手順で殺害されたのかは予測できないなかったが、
現状ではあの何者かの言うことが事実であるということの裏付けは取れた。

少女は悲鳴を上げるわけでもなく、ただ足元に転がるかつての同校生の姿を見下ろす。
屠殺場でぶら下がっている畜生の死骸と大した差はない、少女は薄く笑うと足を振り上げ力任せに死骸を蹴り飛ばした。
元同校生は転がるように横転すると側溝に転げ落ち停止した。

(私は……自由!)

65:悪魔の贖宥状
09/02/27 03:39:55 6GY0R5pM

笑みを浮かべながら少女は自宅へと駆け出す、自宅へと到着する頃には日も暮れ庭先から裏庭へと周り、
物置の中から小振りの鉄パイプを一本見つけると、玄関のドアを潜り物も言わずに家へと上がりこんだ。
一室のドアを開けると部屋に充満していた煙草の煙が流れ出し、思わず咳き込む。

「おかえりぃ、沙由華…今日店長とお話してね
アンタすぐにでも働けるって、女子高生だからねぇ、稼げるわよぉ」
(私が稼いだ所でどうせ、お前が毟る気なんだろうが、この寄生虫がッ!)

少女は物も言わずにテーブルの前に座り込む母親の背後に立つと、鉄パイプを後頭部に振り下ろした。
壁を叩いた時のような鈍い音と共に母親は頭を押さえ込みながら椅子から崩れ落ち、
まるで信じられないものを見るかのような目付きで娘を見上げた。

「何? 何か文句あるの?クソヤロウ……」
「う…ぅ……痛いッ!」
「痛い? 私が肺炎こじらせた時や事故で足折った時、あんた何してたのよ?
間抜野郎と阿婆擦れの間に産まれたあたしが、どんだけ学校で惨めな思いしたと思ってんの?
ハ…自分さえ良けりゃそれでいいの? だったら私も親を見習ってそうするわ!!」

振り抜いた鉄パイプが母親の横っ面を叩き、転がる母の体の腹を踏み込むように足蹴にし
何度も顔面に向かい鉄パイプを振り下ろす。何度も…何度も…何度も……やがて顔面が崩れ落ち
原型が留めなくなるほど破壊し終えると、醜く歪んだ顔に向かって少女は呟いた。

「はぁ、ようやくスッキリしたわ、グジグジ悩んでたのがバカみたい」
「あら…沙由華帰ってたの?」
「お婆ちゃん、ただいま……また煙草とお酒買いに行かされてたの?」
「あの人は今どこ?」

少女はそう言われるなり手元の鉄パイプと床に転がっている遺骸を交互に見合わせると
祖母に向かって花がほころぶような屈託のない笑顔で答えた。

「さっき出て行ったよ、もう帰ってこないって」

66:創る名無しに見る名無し
09/04/02 00:04:46 UxMWVaQ2
てす

67:創る名無しに見る名無し
09/04/03 23:42:03 O/MWZBOD
age

68:創る名無しに見る名無し
09/04/06 18:26:50 DtsZtv9y
素晴らしいホラだ

69:創る名無しに見る名無し
09/04/08 01:41:52 QqkHKEVn
てす??

70:創る名無しに見る名無し
09/04/08 22:25:19 CmkrcPFP
>>25

>中学生の頃、運動部の幽霊部員だった俺は、夏休みの練習がとても嫌で、いつもサボって家でゴロゴロしていた。

幽霊部員と思ったら、実は本当の幽霊だった、というオチを期待したw


71:創る名無しに見る名無し
09/04/09 10:42:30 TxFjjSk7
他スレより転載

お迎え

 午後二時。
 幼稚園のプール教室に通う娘を迎えにいく時間となった。
 気が進まないが、生活パターンを変えて、近所から無用な関心を引いてしまうようなことはしたくなかった。
 家を出ると、お盆休みの時期のためか、街中に普段の喧騒さはなかった。
 太陽の日差しが、やけにまぶしく感じられた。

 幼稚園に着くと、娘の担任が職員室の窓越しに声をかけてくれた。
 窓辺の風鈴が涼しげな音を立てている。
「あら?メグちゃんのお母様……。残念でしたわ、すれ違いになってしまいましたね」
「すれ違い?ですか?娘は一人で帰ってないはずですが……」
 先生は一瞬困ったような顔をしたが、職員室から出てきて説明してくれた。
「もちろん、園の規則では園児一人での帰宅を禁止していますが、たった今、メグちゃんのお父様がお迎えに来てくださったんですよ」
 先生の一言に、私は戸惑いを隠せなかった。
 一瞬、強い風が吹き抜け、風鈴の音が激しく鳴り響いた。
「主人?主人は……、外国に出張中で迎えに来られないのですが……」
 先生は、とっておきの知識を披露するのがおもしろくてたまらないという口調で、「メグちゃんのお父様もお人が悪いですね。お戻りになったことをお母様にも内緒にされていたとは」

 そんなわけはない!
 旦那が娘を迎えに来られるわけはないのだ。
 一ヶ月前、ちょっとした口論がきっかけで、カッとなって旦那を刺し殺してしまい、バラバラにした死体を袋詰めにして、山に埋めてしまったのだ……。
 いつの間にか風は止んでいて、風鈴の音は途切れていた。
 園庭は、真夏の日差しを受けて白く乾ききって、凪いだ海のように静まり返っていた。
 ただ、どこからか耳鳴りに似たセミの鳴き声が聞こえてくる。
 呆然と立ちすくむ私に、先生は微笑みながらこう付けくわえた。
「突然のことなのでメグちゃんもびっくりしていましたけど、とても喜んでいましたわ。お父様もメグちゃんに会うのは一ヶ月ぶりとのことで、本当に嬉しそうでした。『メグ、迎えに来たよ。お父さんと一緒に帰ろう』って、仲良く手を繋いでお帰りになりましたわ」

72:創る名無しに見る名無し
09/04/10 20:04:11 pkxXOnl+
続きは?続きはどうなるの?

73:創る名無しに見る名無し
09/04/10 21:05:53 iTJjhgEb
これで終わりのはず
怖い系の話をするスレで見たことある

タイトルが秀逸

74:創る名無しに見る名無し
09/04/12 02:43:29 CswF9tGY
お盆に幼稚園(笑)

75:創る名無しに見る名無し
09/04/13 03:24:36 RMci4uhB
「人を殺す人間ってどういう奴か分かるか?」
男はそう言うなり、肘を上げ指先でアゴを掻いた。

「暴力的な人間じゃないですか?
高圧的な態度を取るとか、腹に一物持ってるような」
学生がそう答えると興味無さげに周辺に目を移す。

男は余所見をしている学生にも見えるよう大げさなジェスチャーを交え
学生に言葉を返した。

「そうとは限らんな、割に感情豊かで温和に見える友人が
駅の構内で友人を後ろから線路へと突き落としたのを見たことがある」
「はぁ、それで?」
「感動物の映画を見て泣くような奴が、突如として冷酷になる
温和に見えても冷酷に見えても、同一人物、つまりただ単に”演技”してるのさ」

学生は口元を吊り上げ頭を捻ると、聞き入るように耳を傾けた。

「人間はロボットじゃないですから、色々と感情はあるでしょう
たまたま虫の居所が悪かったとか……」
「普通ならね、だが演技している人間は違う
本心からではなく、時と場合によって感情を使い分ける、本心では何も感じていない」

学生は男を見据えて笑顔で笑いかけながら、その場を一歩踏み出すと
男は腕を振り上げ威嚇する。

「目撃者が居ないよう周囲を確認し、辺りに人が居ないか耳を傾け
感情豊かに笑いかけながら俺を殺すのか?」

学生は弾むような声で笑った。

76:創る名無しに見る名無し
09/04/30 17:24:03 sNH0TUm/
警察の取調室では今日も不毛な取調べが行われていた。
被害者は一児の母、被疑者はその一人娘である少女である。
周囲の刑事達から好奇の視線を突きつけられても、少女はただ漠然と
頭を振りながら、うわ言めいた言葉を返すだけであった。

「エノクのデーモンにより授かった贖宥状により
私は全ての罪を許されるようになったのです」

口を開けばこの有体である、現実にはありえない話をとつとつと証言し
刑事達は参った様子で頭を掻いた。

「君の言っていた学校で死体を見たって話……」
「それが、あのデーモンが現実に存在するという証拠です」
「いや、確かにあったよ犬の死体がね、見間違いじゃないのかな」

中年の刑事がそういうなり、少女はうわ言のようにぶつぶつと何かを唱え始め、
”贖宥状”と呼んだビニールの切れ端をつかんだ腕で机を叩き始める。

「アグラリア ピドホル ガリア ……」
「……こ、これはちょっと我々の手に負えんな」

刑事達が互いに顔を合わせ、少女の狂騒を眺めていると
突然取調室のドアが開き弁護士の男が姿を現した。

「彼女の弁護人の杉田です、今すぐこの取調べを中止していただきたい」
「まだ取り調べの最中だ! 何の権限があって……」
「彼女は家庭の問題により精神に疾患を抱えており、事件を起こした以前から通院暦があります。
事件当日の彼女は心神喪失状態にあり、刑事責任能力は無かった
と……考えるのが妥当でしょう、故にこのような圧迫的な取調べは彼女の精神的な治療に
支障をきたす恐れがあります」

第三者からの過失により少女の心身に異常をきたし、事件当日の不可解な行動もそれを裏付けている
彼女が病んだ精神から異常行動に及んだと考えるのが自然な流れである。
また彼女の部屋から押収された読み取れぬ文章で書かれたノートなど、異常性の垣間見える品々が押収され
彼女が犯行当時、心神喪失状態であったことは明らかであった。

「……よって、被告を無罪とする!」

裁判室に渇いた木槌の音が鳴り響くと出廷していた少女がフラフラと頭を揺らしながら
その場から退席する。弁護を終えた弁護人の杉田は弱々しく歩く少女に付き添い、
言葉を交わす内に特別な感情を抱いた少女の瞳を見つめた。

「もう大丈夫だからね」
「私は……エノク…血盟によってその忠誠を誓う」
「きっと……良くなるから」

少女が僅かに表情を緩めると杉田は少女を見送り、ただ迎えに現れた祖母に付き添われ
裁判所を後にする、その背中をただ見つめていた。

そんなある日、弁護士の杉田と交際を始め、自宅療養を続ける最中にある彼女の家を
高校時代の友人の一人が訪れた。

「沙由華、悪魔とかどうとかはもう見なくなったの?」
「バカね……悪魔なんている訳無いじゃない」

少女は名前を変え、今もまだその街で平穏に暮らしている―

77:創る名無しに見る名無し
09/05/17 22:05:34 WKSyS+EL
ホラー…なのかな?
超常現象というよりは精神疾患
最後の一文が漠然とした怖さを感じさせるね

78:創る名無しに見る名無し
09/05/18 12:17:22 QrLWbApy
続きを書いたら、確実にホラーになるんじゃね?

79:創る名無しに見る名無し
09/05/18 13:33:13 Yn9n9f2F
ジャンルは俺にはよくわからんが、確かにこれは怖いな

80:創る名無しに見る名無し
09/05/18 14:00:24 io6BBMar
これもホラーじゃないかもしれませんが……



 人間本当に怖いと声も出なくなる。
 冷や汗が体中から吹き出した。洗濯機の中に髪の毛がぎっしり詰まっていたからだ。

「畜生!」

 自分を奮い立たせて、再び洗濯機の蓋を開けるとそこには何もなかった。すると俺の背後のバスタブでなにか大きな物が跳ねた。

 もう確かめるのも嫌だ。
 俺は振り向きもせずに朝食を作るため台所へ向かった。
 焼き魚にしようと思って魚を見ると、見るも無残に腐っている。昨日買ったばかりだというのに。
 かろうじて食えそうな部分に包丁を入れた瞬間、異常に吹き出る血。飛び散った血は一箇所に集まり、イタイ、と壁一面に書き記す。
 慣れてきたとはいえ、小心者の俺としては毎回心臓が止まる思いだ。


 一週間前、家に帰ってくると幽霊がいた。
 しかし、ぼんやりと考え事をしていた俺は気づかずに無視してしまった。
 腹を立てた幽霊は怖がらせようとしてあれこれやってくれる。
 トイレで座ってるときには冷たい手が尻を撫で回し、シャワーを浴びればスライムが出る。
 ウインナーの袋の中に入ってた犬の糞を、おもいきり窓に投げつけながら俺は悪態をついた。

「怖がらせるのと嫌がらせを勘違いしてないか?」


81:創る名無しに見る名無し
09/05/18 14:20:32 1gB9ZasG
>>76>>63の皮肉じゃなくて、もともとそういう流れのストーリーですよ



82:創る名無しに見る名無し
09/05/18 23:25:08 QrLWbApy
そこで、除霊のため霊媒師を呼ぶことにした。
幽霊vs.霊媒師
残念、書く時間がない。

83:いつもと違う
09/06/10 00:13:42 x/JJG0m9
【有名人官能小説スレから転載】

よく晴れた日の午後。

いつものようにレギュラー番組の収録を終え、いつものようにコンビニに寄って、
いつもの道を通って、いつものマンションに帰宅したはしのえみ。

街は夕焼けに染まり始めていた。


tull・・・ tull・・・

玄関でパンプスを脱いでいると、リビングの電話が鳴った。
まるで、はしのが帰宅するのを見計らっていたようなタイミングだ。

(今日は誰とも約束してないし・・・マネージャーかな?)

tull・・・ tull・・・ tull・・・ tull・・・

「はいはい、今出ますよ~。」
脱いだパンプスを靴箱に入れ、急ぎ足でリビングに向かう。

tu・・・

はしのが受話器に手を伸ばしたところで、呼び出し音は止まってしまった。

「あらら。せっかちだね~。」


大事な用事ならまたかけてくるだろうと大して気にも止めず、
はしのは上着を脱ぎながらCDプレイヤーの電源を入れた。

・・・ギュ・・・ギュルギュル・・・ギュ・・・ギュ・・・ギ・・・・・・

「ありゃ?」

スピーカーからは、カセットテープが伸びてしまった時のような不快な音が聞こえてくるだけで、
いつまでたっても音楽は再生されない。

「やだなあ・・・壊れちゃったのかなあ。」


ふと気付くと、リビングいっぱいに差し込む夕日がたくさんの影を作っていた。
壁や棚に飾られた花も可愛らしい小物も、全てが影を作っていた。

それは見慣れている光景のはずなのに、
じっと見ていると何故か自分の部屋ではないような気がしてくる。

生活感が感じられないというか・・・まるで住む者を失った廃屋のような・・・。

・・・ギギ・・・ギュルギュル・・・ギギ・・・ギ・・・ギュルギュル・・・ギュルギュル・・・・・・

「・・・!」
我に返ったはしのは慌ててCDプレイヤーの電源を切ると、足早にリビングを去り
キッチンに駆け込んだ。

冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し、一気に飲み干す。

(う~ん、なんだかなあ。)
じっとしていると何故か妙に落ち着かない。

84:いつもと違う
09/06/10 00:14:34 x/JJG0m9
はしのは大きく深呼吸をすると、ワンピースのファスナーを下ろしながら風呂場に向かった。

ワンピースを籠に入れ、脱衣所に備え付けられた全身鏡に向き直る。

黒い下着とパンストに包まれた自分の身体。
少し太ったのか、バストが大きくなったように見える。
若干、下腹が気になるが年齢を考えれば上等な物だ。

「~♪」
鼻歌を唄いながらパンストを脱ぎ捨て、ブラのホックに手をかける。
ぷるんっと音が聞こえそうな勢いで、大きく柔らかいバストが露わになった。

「きゃっ!」
咄嗟に、脱いだばかりのブラで胸元を隠すはしの。

誰かの視線をはっきりと感じたのだ。

息を止め、周囲を窺う。
しかしそこにあるのは鏡に映る自分の姿だけだ。

(あ~やだやだ。さっさとシャワーを浴びて買い物にでも行こう。)

手早くショーツを脱ぎ去り、浴室のドアを開けると冷たい空気が溢れ出てきた。
まるで真冬の浴室のようだ。

シャワーを捻ると、すぐに浴室は湯気でいっぱいになった。
ゆっくりとその身に温かいシャワーを浴びせていく、はしの。

肩から腕、そしてバストがほんのりとピンク色に染まっていく。
やがてその色はピンクから赤に。

「き・・・きゃあぁぁぁ・・・・・・!!」

放り投げたシャワーは生き物のようにのた打ち回りながら、真っ赤な湯を吐き出し続けている。
血しぶきのように壁や天井に飛び散り、流れ落ちる真っ赤な湯。
見る間に赤みを増していく。

グボッ グボッ・・・・・・

どす黒い血のような湯を吐き出し続けたシャワーは、
何度か粘度の濃い液体を噴出した後、動かなくなった。

凄惨な事件でもあったかのように、真っ赤に染まった浴室。
どれくらい時間が経ったのか、はしのの耳に子供のはしゃぐ声が聞こえた。

振り返ると、5才くらいの女の子が空っぽのバスタブに入ってニコニコと笑っていた。
まるで湯が張ってあるかのように、両手で湯をすくい上げるような仕草をしている。

女の子は、はしのに向かって何やら楽しそうに話し掛けてくるのだが、よく聞き取れない。
いつの間にか、浴室を染めていた血のような物は消え失せていた。

バンッ

その時、突然激しい音と共にドアが開いたかと思うと、ジーパン姿の若い男が浴室に入ってきた。
まだ高校生くらいだろうか、その手には真新しい包丁が握られている。

「な・・・なに・・・。」
訳が分からずうろたえている、はしの。

85:いつもと違う
09/06/10 00:15:25 x/JJG0m9
若者は乱暴にはしのの髪を掴むと、ジーパンから未熟なペニスを摘み出し
はしのの顔の前に突き出した。

“抵抗すると娘が殺されてしまう・・・!”

(え? 娘・・・? 何・・・?)
不可解な記憶が、はしのの頭の中を支配していた。

意識ははっきりしているのだが、身体は別人のように勝手に動いてしまう。
ゆっくりと口を開き、皮に包まれ力なく垂れ下がっているペニスに顔を寄せる。

「・・・ん!」
嫌な匂いが鼻をついた。

顔を背けたいのに、身体は全く反応しない。
“娘のため”という想いが頭の中でぐるぐると回っている。

「うぐっ・・・!」
若者のペニスを咥えた途端、口中に苦い味が広がった。

無表情に、はしのを見下ろす若者。
何か言ってる声は聞こえるのだが、やはりよく聞き取れない。

ペニスを咥えたまま前後に顔を動かすと、若者の表情が一瞬ゆるんだ。
そのまま顔を前後させるだけの、単調なフェラを続ける。

極度に緊張しているのか、若者のペニスは硬くなってこない。

すると、はしのは舌先を彼の尿道口に押し当てた。
徐々に口の中で大きくなってくるペニス。

それは、はしのが使ったことのないテクニックだった。

(やっぱり私じゃない! 知らない人の身体だ!)

明らかに感じているようで、若者の腰は引き気味になっている。
それを逃さないよう更に深く咥え込み、尿道口を刺激しながら同時に顔を前後に動かす。

“このまま射精させれば、満足して帰ってくれるはず・・・!”

不可解な記憶に支配されたまま、はしのは激しく顔を前後に動かし続ける。

イキそうになったのか若者は髪を掴んでいる手に力を入れると、はしのの顔を引き離した。
彼のジーパンからは皮を被ったままのペニスが、急な角度でそそり勃っている。

そのまま、はしのを押し倒し、何か言っている。

(な・・・何? な、なんて言ってるの?)

“言うとおりにしますから、どうか殺さないで・・・。”

また頭の中に、言葉なのか感情なのかよく判らない記憶が浮かび上がってきた。


ゆっくりと太ももを開いていく、はしの。
手入れされていない自然のままの恥毛が、若者の前に曝け出されていく。

(え!? やだ! なんで・・・!)

それを無表情に見ていた若者はゆっくり腰を下ろすと、はしのの股の間に顔を埋めた。

86:いつもと違う
09/06/10 00:16:25 x/JJG0m9
(ひゃっ! や、やだ・・・そこはまだ洗ってないのに・・・。)

全く経験が無いのだろう。
若者は震える指で恐る恐るはしのの恥毛をかき分けると、
そこに現われたグロテスクな性器に目を奪われた。

ピクリとも動かず、性器に魅入っている若者。
彼の鼻息が、はしのの恥毛を揺らす。

(やだもう、ホントに恥ずかしいよ~。)
“早く・・・早く終わらせて・・・。”


若者はまさに観察しているといった眼差しで、はしのの性器に人差し指を伸ばした。

(あんっ・・・!)
“あっ・・・!”

そっと淫肉に触れられると、まだ濡れていないために
指の感触が直に伝わり、ビクッと反応してしまった。

その反応を見て一気に興奮したのか、若者はぎこちない手つきで
はしのの淫肉を弄りだした。

(くっ・・・!)
“んんっ・・・!”

じわじわと湧き出してくる粘液。
若者はそれを指に絡ませると、膣にねじ込んだ。

音も無く吸い込まれる人差し指。
はしのの反応は薄い。

人差し指に加え中指も押し入れると、はしのの腰が少し浮いた。

(あっ・・・!)
“あっ・・・!”

更に薬指も押し入れる。
はしのの膣に三本の指が飲み込まれ、中から大量の粘液が溢れ出てきた。

ヌチュッ

そっと指を動かすと、いやらしい音が浴室に響いた。
はしのの腰が艶かしく動き、膣が若者の指を締め付ける。

徐々に指の動きを早めていく若者。

ヌチャッ ヌチャッ ヌチャッ ヌチャッ・・・・・・

(だめ・・・! 動かさないで・・・あんっ・・!)
“いやっ・・・! いや・・・・・・んんっ・・・!”

今まで感じたことのない快感が、子宮から全身に広がっていく。
これも自分じゃない他人の記憶らしい。

存在しない夫に対する背徳心が胸を締め付ける。

ヌチャッ ヌチャッ ヌチャッ ヌチャッ・・・・・・

87:いつもと違う
09/06/10 00:17:57 x/JJG0m9
(あっ・・・あっ・・・! やだっ・・・! ・・・イクッ・・・イッちゃう・・・!)
“あっ・・・あっ・・・! いやっ・・・! ・・・イクッ・・・イッてしまう・・・!”

若者の三本の指が出たり入ったりする度に、卑猥に形を変える淫肉。
そして膣から溢れ出る粘液。

たまらず若者の手を止めようと、腕を伸ばした。

(・・・え?)

何も無い。
見ると、若者の姿は消えている。

ただ、はしのの膣を出入りしている三本の指の感覚は消える事無く
相変わらず激しく動いたままだ。

「んっ・・・あんっ・・・! あんっ・・・あんっ・・・! ・・・あっ・・・あっ・・・!」

バストを揉みしだかれる感触が加わった。
だがやはりそこにも、はしののバストを揉んでいる手は見えない。

巧みに乳首をも刺激してくるテクニックは、明らかに先程の若者とは違う大人のものだ。
かつてなかったくらいにまで、はしのの乳首は硬く勃起している。

「だめっ・・・あんっ・・・! あんっ・・・あんっ・・・! ・・・イッちゃう・・・イッちゃう・・・!」

耳、まぶた、首筋、背中、へそ・・・、全身のあらゆる場所が同時に舐められている。

一人や二人じゃない。
姿は見えないが、大勢の男の息遣いが聞こえる。

「いやっ・・・! イクっ・・・! んっ・・・・・・!!」


ピシャッ ピシャピシャピシャッ ピシャッ・・・・・・

はしのは、エクスタシーに達すると同時に尿を漏らしてしまった。
黄色い飛沫がピシャピシャと音を立てながら、はしのの脚を汚していく。


「・・・・・・。」

「・・・。」

気付くと、はしのは浴室の床で寝ていた。

顔の横にシャワーが転がっている。
壁にも天井にも血など付いていない。

「夢・・・?」

起き上がろうとすると、膣に異物感を感じた。
お尻にひんやりと濡れた感触があり、周辺に黄色い液体が水たまりのようになっている。

(夢・・・じゃなかったんだ・・・。)


茫然自失のままシャワーで身体を流し、パジャマを着る。
酷く体力が消耗している。

88:いつもと違う
09/06/10 00:19:40 x/JJG0m9
ふらつきながら寝室に入ると、見慣れない人形がベッド脇の小棚に飾られていた。
よく見ると頭部が上下さかさまになっている。

「何これ・・・気持ち悪い・・・。」


テッテレ~♪

突然、野呂氏とテレビカメラを構えたカメラマンが寝室に入ってきた。
その後ろでマネージャーが悪戯っぽく舌をぺロっと出している。

「どっきしカメラですーw」
例の看板を掲げ、満面の笑みを浮かべている野呂氏。

「・・・。」

キョトンとした顔で突っ立っている、はしの。
状況が解るまで、どれくらい時間がかかっただろう。


「もお~! ホントに怖かったよ~!」
ポロポロと涙がこぼれ出た。

「いやいや、大成功大成功w」
野呂氏は人形を回収すると、部屋を出て行った。

「えみちゃんって、こんなに怖がりだった?」
マネージャーは、泣きじゃくっているはしのに明日のスケジュールを再確認すると、
外で待っている野呂氏とカメラマンと3人で局へ戻って行った。


後日、どっきしカメラ放送日。
その中で、先の人形を使った1コーナー『恐怖の逆さ頭人形』はオンエアされた。

自宅の寝室に飾られている見覚えのない人形。
その人形の頭がいつの間にか上下逆さまになっているというチープなドッキリに、
何人かのタレントが見事に引っかけられていた。

ただ、はしのの収録分が放送される事はなかった。

89:創る名無しに見る名無し
09/06/13 21:35:15 OlL7Yftl
A「よぉ、知ってるか?」

B「なんだよいきなり」

A「ウチのクラスの鮎川死んだらしいぜ」

B「ふーん、そりゃ凄いね」

A「随分と冷たいな、お前仲良かったろ?」

B「あぁ、よく話してたな」

A「レイプされて、顔面をガソリンで燃やされたが歯形で身元が割れたんだとさ」

B「あらら、歯も抜くべきだったな」

A「お前さぁ……普通は、”何だと許さねぇ!”みたいな感じになるだろ」

B「そりゃ、俺の人生には何の影響もないし」

A「犯人誰なんだろうな?」

B「うちの担任の早川だろ? 俺の所に助けてくれって鮎川のメールが来た」

A「じゃぁ、助けにいけよぉ」

B「何で俺が?」

A「それはほら、証拠握ってるお前の命を早川が狙うかも」

B「何だと許さねぇ!」

A「ははは、怒る所おかしいって、ぜってー」

B「ははは」

A「まぁ、俺達にゃ関係ないよな」

B「自分から不幸になりかったんだから、本望だろ」

A「女の不幸自慢ほど、ウザイもんはねぇ」

B「俺達、善良な一般市民だからな」

90:創る名無しに見る名無し
09/06/16 21:47:13 niGccfvn
で、しばらくたつと死んだはずの女が生き返ってきて、
犯罪にかかわった連中が全員発狂するんでつね。

わかりまつ。

91:創る名無しに見る名無し
09/06/17 00:13:03 vFLHCg5S
無関心の恐怖を演出したのでこれで終了

92:創る名無しに見る名無し
09/06/22 14:02:59 uewLjhCu
hoshu

93:創る名無しに見る名無し
09/06/26 21:22:07 1EMmM+Go
夏の風物詩として「怪談」は定番
ひとつ、ホラー物に挑戦してみようと思う
誰か、お題をお願い



94:創る名無しに見る名無し
09/06/26 21:38:31 mTf5n7Y/
社会の闇

95:創る名無しに見る名無し
09/06/26 22:46:04 1EMmM+Go
む……ホラーというよりはサスペンスなお題だな
とりあえず頑張ってみる、サンクス

96:創る名無しに見る名無し
09/06/27 03:24:28 Ki5HSlL/
電灯の無い公園は夜になお暗い。
汗臭さは最終的に土の臭いになる。
ブルーシートと段ボールで作ったハウスに、すえた土の臭いが充満していた。
膝を痛めて力仕事の出来ない俺が浮浪者に転落するのに政治改革もサブプライムも一縷の関係も無かった。
「はははは」
「うわーエグーい!きゃははは」
「やっべ!それ死ぬんじゃね?」
外で、テント生活者の誰かが、無軌道な若者に無作為に選ばれて無意味に弄ばれて居るらしかった。
ぐう、と腹がなった。
薄暗い宵闇を割るように、少しだけブルーシートの扉を開ける。
女と、男が二人。
ガシャ。
ワシャ、ガタリ。ゴソ。
ガサガサ。
ズル。
あちこちで、テントの扉が開く音がする。
「きゃ、怖い」
「何こいつら?」
「何見てんだっラァ!」
若者達が怒声をあげた。
俺もテントから出ると、“いつも通り”皆が若者を取り囲んでいた。
角材。
ナイフ。
スコップ。
ノコギリ。
金槌。
手に手に持った凶器は、どれも闇間にあってなお赤黒い。
「神よ、お恵みを感謝致します」
浮浪者の一人でキリスト教徒の坂崎さんはそういってスコップを薙ぎ振るった。
重くて、でも間抜けな音がして、男が倒れる。
「ひっ」
身構えた二人めの男を、後ろから殴る。
首の後ろから頸椎を砕くために角材をフルスイング。
男二人は一瞬で死んだ。
女は驚愕して口を開けたままへたりこむ。
「神よ、神よ」
坂崎さんが、女の口に布切れを突っ込んで、むりやりガムテープで塞いだ。
暴れる女の胸に、元医者の佐藤くんがナイフを突き立てる。
見る見る女の顔色が真っ青になり、死んだのが見て取れた。
「これ、皆で“使って”からにしましょう」
女の死ぬ様を見ながら、佐藤くんは勃起していた。
「最初は囮役をやった人からのはずだぞ」
「ちぇっ、そうでしたね」
散々蹴られていた、名前も知らない囮役の人が、女の死体を抱えて段ボールハウスに消えた。
ごりごり、という音がして振り向いて見れば、もうノコギリで取り分けが始まっていた。
今日は腹いっぱい食べられそうだ。

97:創る名無しに見る名無し
09/06/28 22:42:38 P5K02KBz
「本当にもう、怖いんです。」
 やっとのことで絞り出せたのはその言葉だけだった。
 お坊様は優しげな表情を崩さずにジッと話を聞いてくれている。
 彼の横に座る私の友人はしかし不安げな様子だった。
「この部屋に引っ越してきたのはまだ一月前です。」
 私は部屋を見渡す。
 ごく平凡な、ワンルームマンションの一室だ。
 だが今の私には、この部屋が何よりも恐ろしく感じる。
「最初は気のせいだと思ったんです。だけど……」
 私はお坊様に事情を話し始めた。
 始まりはほんの一週間前、仕事から帰ってきて、息抜きに下着姿のままインタ
ーネットを閲覧していた時だった。
 私は脇に発泡酒の缶を置き、酒を煽りながらその数少ない趣味の内の一つを楽
しんでいたのだが、ふと喉に違和感を覚えたのだった。
 わずかに息苦しく、発泡酒が上手く飲み込めない。
 手で喉を擦っても何も無く、その時はまだ気になるほどでも無かったので、放
っておいた。実際、布団に入ったらその息苦しさも解消されていたのだ。
 だがその次の夜、またその次の夜と、日を重ねる内に段々とその息苦しさは増
していく。
 呼吸が困難に成り始めた頃にやっと、私は誰かの手で首を絞められていること
に気づいたのだった。
 たまらずに服を着て飛び出し、携帯電話で近所に住む友人に連絡をとる。
 その夜は頼み込んで、何とかその人のアパートで夜を明かしたのだった。
 翌日、私は、今お坊様の隣に居る友人にその奇怪な現象のことを相談した。
 友人は霊感があるらしく、話を持ちかけると興味を示し、明日の日曜日―つ
まり今日―にやってきて様子を見てくれることになった。
 その夜私はパソコンに向かわず、すぐ布団に入った。
 布団に入ればあの息苦しさはやってこないからだ。
 だが、その夜は―
 私が布団に潜り込み、意識をまどろませ始めると、何やら妙な違和感を喉に感
じた。
 すぐに身に迫る危険に気付き、布団を払いのけようとしても、体は金縛りにあ
ったように動かない。
 首筋が圧迫される。
 指の形がはっきりわかる。
 誰かの親指が喉を変形させる……
 私は恐怖のあまり叫び声もあげられなかった。だけれど動脈が押さえつけられ
て、天井が、床がぐるりと揺らぐ感覚に襲われると、私は何故か叫ぶことが出来
た。

98:創る名無しに見る名無し
09/06/28 22:45:44 P5K02KBz
 叫んで、飛び出して、部屋を出て、外の通路の隅で膝を抱えて震えていた。
 そうしていつしか朝になり、昼になり、友人が訪ねて来た。
 きっと酷い顔なのだろう。友人は私を見てひどく驚いたが、事情を聞くと、近
くのお寺からお坊様を呼んでくれた。
 そうして今、私は殺されかけた部屋の中で彼らにこの話をしている。
 私は話を終えて、友人が淹れてくれたがまだ手をつけていない、お茶の入った
湯飲みに視線を落とした。
 お坊様は頷いた。
「なるほど、分かりました……」
 彼はゆっくりと立ち上がり、部屋の真ん中まで歩いて立つ。
「この部屋、昔自殺した方がいらっしゃったみたいですねぇ。」
「首吊りか何かですか。」
 私に代わって友人が訊いた。
「ええ、どうやらパソコンに酷い恨みがあるようです、嫌だったんでしょう。」
「そうですか……」
「あぁ、でも、もういらっしゃらないみたいですねぇ、気が済んだみたいです。」
「そう、ですか。」
 友人は俯いた。
 私はお坊様の背に訊く。
「じゃあ、もう、無いんですか?」
「ええ、ご安心なさっていいと思いますよ。」
 本当にそうなのか?
 昨夜の恐ろしい記憶がまだ鮮明に残っている私には信じられなかった。
「じゃあ、お坊様。」
 すぅ、と友人が立ち上がる。
 私はその背を目で追った。
 友人はお坊様の傍らに立つ。
「そろそろ、お願いします。」
「ええ。」
 お坊様は頷き、私の方を向いた。
「今からお祓いをいたしますのでね、動かないでくださいね。」
「何故ですか。」
 私は立ち上がろうとする。足に違和感。
 お坊様は相変わらず優しげな表情。友人は悲しげな表情。
 少し息苦しい。何か飲みたい。
 手をつけていなかったお茶に手を伸ばす。
 湯飲みが掴めない。
 ああ、苦しい……

 私はまだ布団の中に居た。


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