08/12/07 14:12:14 w25UzCGR
>>43は”男二人”とありますが男女一組に修正
51:屍
08/12/08 00:13:03 2UvXUixZ
主なる神は言われた。
人は我々の一人のように、善悪を知る者となった。
原罪
―9月2日―
一台のバスが港へと向かう車道を走り続けている、車内の搭載された
マウンテンバイクが路面の石に乗り上げる度に揺れ、積み上げられた食料の山に倒れかかる。
ハンドルを握る男はビニールに包んだにぎり飯を腹に詰め込みながら目的地へと向かう。
30kmほど離れた場所に広がる悔浦湾、船に陸から離れればひとまず安全は確保できるだろう。
自衛隊が開放した交通センターから持ち出したバスが農道を走り続け。
向かう途中、女性に抱えられた中年の男と少女が、道路の中央で手を振るのが目に入った。
運転していた男はブレーキを踏み、バスのドアを開けるとタラップに足をかける少女を手で制止し、
寄りかかるようにふらつく中年男性に目を移した。
「噛まれたんなら、乗せないよ」
「いえ、噛まれてません……」
男は静止していた腕をどけ三人はバスの中へと乗り込む、男女の歳が離れてはいるが
親子連れのようにも見える。男は中年が落とし床に投げ出された血濡れの鉄パイプを窓の外から投げ捨て
港へと向かって再びバスは走り出した、照らす日差しの中、熱を帯びたアスファルトから伸びる帯が空気を歪ませる。
今起きている現実がまるで嘘のようにありふれた夏の風景。
道路脇で徘徊する野良犬と擦れ違い、ゆらゆらとかかしのように佇む屍を避けて通る。
毎年のように訪れていた夏の光景とまるで代わりはない、そこには狂気や恐怖は存在してはいなかった。
ふと、道路脇でエンストを起こしている車の前で佇む二人の男女の姿が目に入る。
男は二人の下へと横付けし、バスのドアを開けると二人に話しかける。
「乗るかい?」
「あぁ、いいのか?」
「先客がいてね、二人くらい増えても大して変わらんよ」
エンストを起こした車内から物資を積み下ろしバスの中に乗り込む二人は、
後部座席に座っていた先客に会釈すると、持ち込んだ食料を互いに分け合い、とりとめのない会話をし始める。
あまりの緊張感のなさに思わず男は頬が緩み、呆れ顔で首を左右に振った。
悔浦湾までの距離が残り数kmに差し掛かる。
眼前に広がる海に浮かぶ船舶、できればフェリーが望ましいが、
小型の船舶であっても客室が複数あれば差して問題はないだろう。
屍の行動が活発となる冬を乗り切るまでの間の食料は充分に備えられている。
やがて港湾地帯へとバスを乗り入れ、一行は目的地へと到着を果たした。
停泊されている船舶の中で唯一つ残されていた客船に目をつけ
停泊場所の脇へとバスを横付けする、六人は下ろされているタラップを駆け上がり
進入を果たすとバスの積荷を船の内部へと運び込む、次第に新鮮な肉の臭いと
雑然とした音に反応した屍たちが船内から現れはじめ、甲板を埋め尽くした。
今現在、生存している人間の数はどれほどであるのか、
一億三千万人の内、六人の生存者は船内へと降り立つと辺りから集結する屍たちに目を向ける。
男は収奪した自動小銃を他の男たちに渡すと屍の群れに銃口を向け歩き始めた。
進化から取り残された者たちのささやかな抵抗。
神への反逆を告げる銃声が、澄みきった夏の空へと鳴り響いた。
完
52:創る名無しに見る名無し
08/12/08 20:04:59 8ixocyvc
ひっそりと進行するのがホラーの醍醐味だが
埋もれさすには惜しいage
53:創る名無しに見る名無し
08/12/14 11:36:00 XZ7055pA
それは初夏のよく晴れた日のことだった。
私は海沿いの断崖の道路を真っ赤なオープンカーで走っていた。
右手にはどこまでも広がる青い海、左手にはどこまでも続く緑の大地。雲一つない空が眩しい。
前方にもバックミラーにも、車影が映ることはなく、この風景は私だけのものだった。
私はとても開放的な清々しい気分で疾走していた。
小高い丘を越えたところで、私の視界に白い建物が映った。よく見ると、立派な洋館であった。
この道路は一本道。その右手にポツンと佇む白い洋館。
私はスピードを落とし、近づく洋館をじっくりと眺めた。
なぜか私はこの洋館が気になって仕方なかった。
何を急ぐわけでもないと思い、私は洋館に立ち寄ることにした。
車を道端に停め、歩き出す。
周囲に人気はない。
どうやら白い洋館は、廃墟となったホテルのようだった。
私は誘われるように無人のホテルに足を踏み入れた。
大きな両開きの扉をゆっくりと引いて開ける。中は少し薄暗い。
玄関ロビーは吹き抜けで、正面には二階へと続く大きな階段があった。
海沿いのホテル。客が来ないので見放されたのだろうか。外観も内装も真新しい。
そうだ、上から見る海はどんなだろうか。
私はそう思い、階段を上った。
私の足音だけが、やけに大きく響いて聞こえる。本当にここは無人のようだ。
ふと風が吹いていることに気づいた。
どこかの窓が開いているのだろうか。
階段の最上段に立った私は、ぐるりと辺りを見回した。
目の高さにシャンデリアが吊り下げてある。どうやら二階より上はないようだ。
各部屋のドアは全部開け放ってある。どうしてだろう。
いや、私は外の風景を見ようと思っていたんだった。
私は手近な部屋に踏みこんだ。
部屋は驚くほど広く、そして何もなかった。
開けっ放しの窓。白いレースのカーテンが風ではためく。
床は大理石のままで、貼りかけの壁紙が放置されている。
このホテルは建てかけで放置されたのか。ただ寂しさだけが漂っていた。
窓からの風景を見る気は、すっかり失せていた。
私は踵を返し、部屋から出て行こうとした。
その時、レースのカーテンがふわりと飛んだ。そんなに風は強くないのに。
よく見ると、それはカーテンではなかった。
白い半透明なくらげ。くらげとは海にいるのではなかったか。どうして宙に浮いている。
しかもやたらと大きい。かさは人の肩幅ほどあり、なびく足は天井から床までありそうだ。
しかし、私は不思議とそのくらげを恐れる気にはなれなかった。
ゆらゆらと風に揺られるくらげは、まるで別次元の生き物だった。
壁や床を幽霊のようにすり抜け、ただただふわふわと漂っている。
気づくと、二匹、三匹と、くらげの数が増えていた。
増えたのではなく、今まで気づかなかっただけかもしれない。
ひたすらに無害。ただそこにあるだけ。敵意どころか、私に気づいている様子すらない。
ただ風に吹かれているだけだ。
びょうと突風が吹き、一匹が風に飛ばされた。
勢いあまって、するりと窓から飛んで行く。
くらげはやはり風に吹かれるまま、ホテルの中に戻ることはなかった。
青空に不自然な白。遠目にあれがくらげだと判る者はいないだろう。
他のくらげも無関心。私は無人のホテルを後にした。
54:探訪録
09/02/04 22:39:11 xemy5uCM
思考の狭間に漂う白い帯、目を細め帯の眺めようと試みる、
男は白く染まった世界の中を漂っていた、モノクロームの世界に黒く浮き上がる輪郭線。
浮かぶ物が概念であることを悟った男は思案するのを止め。
何かに向かって目を向けた。
「やぁ」
「……どうも」
こちら側の物ではない何かに男は浅く会釈すると男の思考から近似値が選び出され。
ぼんやりとした”何か”が人の形を成し、やがて二人は地面と思しき平行線の上で向かい合った。
失礼ながら男が頭を捻り不思議に思っていた矢先。
何かは手を挙げ男の方へと語りかけてくる。
「ここは”間”のようなものです」
「どちらの”あいだ”ですか?」
「ずっと先を歩いたのならば、やがてあなたの後ろにつくでしょう
ここは”間”ですので、先でも後ろでも行けるのです」
そこまでの言葉を聞いた男は微笑を浮かべ、ずっと先を知りたいと何かに言葉を切り出すと
何かは眉のようなものをひそめこう言葉を返した。
「あなたは欲深い人だ!」
「何故ですか?」
何かに非難された男は口を尖らせて不快感を露わにした。
「あなた達という人間は皆、ずっと先を知らずに生きています
それは皆知らなくとも満足しているからです」
「ずっと先を知りたいと思うことは欲ですか?」
「皆が満足できることをあなたが満足できぬのなら
それは強欲以外の何物でもありません!」
男は顎に手をやり少しばかり思案すると、”何か”は融通の利かぬものであると諦めた。
男は先へ行くことを諦め後ろと思しき方向へと戻りだすと何かがひたひたと後ろについて歩き始める。
前を歩かれるより後ろを歩かれるのが気分が悪い男は眉をしかめて振り返り、
何かの方へと目を向けた。
「なんでしょう?」
「いえ……何も」
何食わぬ顔のようなものを浮かべた何かが疑問の声を上げると
あまり気味悪がるのも失礼かと思い直した男は、誤魔化すために傍と思い浮かんだ
疑問を何かに問いただした。
55:探訪録
09/02/04 22:41:01 xemy5uCM
「先と後ろがあるのなら最初はどこなんですか?」
「最初とは?」
「始まりです」
「ここです」
随分な答えを返された男はからかわれているのかとも思ったが
あまりにも真剣な面持ちのような声で何かが話しかけてくるため、再度問いただした。
「始まりは何故ここなのですか?」
「あなたは罪深い人だ!」
またもや何かに非難された男は目を丸くしてたじろいだ。
「あなた達という人間は皆、どこが始まりか知らずに生きています
それはここが始まりであるからです」
「ここが始まりであることを疑問に思うのは罪ですか?」
「皆が決めた始まりをあなたが納得できぬのなら
それは罪悪以外の何物でもありません!」
男はあんまりな態度をとる何かに対しついには喧嘩腰で文句を並べ立て始める。
「ただ後ろから前へ歩くことだけが罪ではないというのか!?
それでは歩く人があんまりではないか!」
「誰しも守らねばならぬ規則があるのです」
「実に馬鹿げた規則だ!」
「あなた方は規則を曲げることは出来ませんがここは”間”なのです
私には何故あなたがお怒りになるのか理解できない」
多少弱気になった何かは男をなだめに掛かる。
「多少私の言葉が過ぎたのやもしれません、申し訳ありませんでした」
「俺は君の言葉に怒っているんじゃない」
「どちらにいかれますので?」
「帰ります!」
男がそういうなりぷいとどこかへと顔を背けると眠っていた脳神経が覚醒し
瞼の裏へ移りこんだ朝の日差しを受け目を覚ました。
この世で最も欲深く、罪深い、人間は大きなあくびを一つすると
手元の時計を殴りつけ大きな溜め息を付く。
どこからともなく吹き込んでくる風が何かを語りかける来るように感じた。
56:創る名無しに見る名無し
09/02/04 23:40:14 nq9VjY7u
なんというか世界がぐにゃぐにゃし始めるような気持ち悪い怖さを感じる…
これはいいホラー
57:探訪録
09/02/05 09:12:25 3pWW3wKu
男は街並みを行きかう人々の姿を眺めながら煙草の煙をくゆらせている。
駅前で行われるけたたましい演説、店頭に設置されたショーウインドーのTVモニターの中で踊る歌
鮮明に移り込み疑念を挟む余地の無い現実の世界。
いかんし難い事態は彼の前に”何か”が漂っているという状況にあった。
「やぁ、またお会いしましたね」
「どうも」
空中に浮かぶ煙草の煙が何かの顔を成し、こちらへと目のようなものを向ける。
おぼろげな姿であることはどのような形にでも見れるものだ。
何かは獰猛な生物のように見えたかと思うと、こちらに向かい微笑んでいる女神のようにも思え。
ひとしきりその姿を変化させた後にちりぢりになっていく。
「夢を見るにはまだ早い時間だ」
「夢も現実も認識する上での規則に過ぎません」
男は大きく溜め息をつき煙草を消すと空き缶の中へとほおり入れる。
途端、パシャリと言う音を立てると道を歩いていた男の一人が水になり
奇麗さっぱり消え去った。
「君の仕業か?」
「認識の問題であるのです」
「現に見ろ、人が一人死んでしまったぞ!」
「それは正しい認識とは言えません、人は”水と色々”で出来ていますから
ただ”水と色々”に分かれただけです」
道往く人達は地面に残った私物と人間だった水溜りを避け、
何事もなかったかのように往来を行きかっている。
「魂というものがあるだろう」
「それは正しい認識とは言えません、あなた達という人間はただ認識しているだけであり
そのような不純物は混成されていない」
「話にならないな」
「老朽や欠損しながら先を歩いた所で苦痛が増すだけではありませんか?
終わりは救いでもあるのです」
男は堅苦しい規則を並べ立てる何かにそっぽも向けずその場に立ち上がると
肩を怒らせながら歩き出した。
58:探訪録
09/02/05 09:13:45 3pWW3wKu
「あなたは勘違いされている、そもそも分解したのは私ではない」
「君の言うことはまるっきり充てにならない!」
「あなた達人間という生き物は事実を誤って伝える事がありますが
わたし達は規則で禁止されているのです」
「嘘をつけないってことですか?」
「嘘をつけないということになります」
空中に浮かぶ煙で形作られた何かの顔がついには拡散し、消え去ると
ショーウインドーのガラスに何かの顔らしきものが映りこみ続けて語り始める。
「認識の中で思考する上で規則はとても重要であるのです
実った木の実が地面に落ちなければ誰もが困ります」
「引力も規則の内ならそれは誰が決めたんです?」
「それを疑問に感じることは罪深いことなのです」
「分かったよ、それで?」
何かが不意と空へと視線を移すと男も釣られて空へと視線を向けた。
豆粒のように遠くに見える影、人が地球の外へとほおり出されようとしていた。
「規則が崩れようとしているのです」
「よくわからないね?」
「”水を温めて氷”に”水を冷やしてお湯”に、規則が崩れてしまえば
誰もが困ります」
「誰がそんなことを?」
ちょっとした間の後、何かがくすりと笑ったような顔を浮かべた。
「少なくともあなたのような、罪深い人間であることは確かです」
「そういう冗談は嫌いだね」
「私は嘘をつけません」
男は呆れた顔を見せ、その場から歩き出すと足元に小さい石が転がっていることに気付いた。
「あなたが”何かある”と認識すれば、それが答えとなります」
「罪深い人間はどこに?」
「ここより少し先であなたを待っています」
その瞬間、パンという音と共にショーウィンドウのガラスが
何かの形をくりぬいたかのようにひび割れると割れたガラスの間から黒があふれ出した。
男はひび割れたガラスを一瞥し、足元の石を拾うと少し先へと向かって一秒を刻んだ。
59:探訪録
09/02/05 16:40:52 tPudRQf/
男は向かう間にも思考を続けていた、仮にそのような人物がいたとして
どうするつもりであったのか。
凶行に及ぶ人物を止めるのか?
迎合し共に規則を破るのか?
興味を持った力を奪う為か?
男は幾つかの仮説を立て自分の不可解な行動に答えを当てはめると、
最終的に知覚をするための行動であると結論づけた。
脅威を知ることは唯意義なことである。
「こちらです」
何かの声が聞こえた次の瞬間、周囲の空間の彩度が上がる、ちかちかとする光景に男は目を細め。
更に先へと歩いていく、規則を自由に決められる力など持てば
誰しも色々と試して遊びたくなるものだ。
新品の玩具を与えられた子供のように
待ち焦がれた恋人を手にした若者のように
大きな集団を動かす権力を得た老人のように
ひとしきり遊んだ挙句飽きれば興味を失う。
それが人間の構造的限界というものではないだろうか。
やがて一人の男は歪む砂丘の上に立つ一人の初老の男性と向かい合った。
「君は自身の姿に疑問を思ったことはないかね?」
「いえ、これと言って特には」
「人によれば人間とは進化の過程により取捨選択されたものではなく
元より決められた過程をなぞった物でしかないという話もある」
「俺は無神論者ですので」
互いに向かい合うだけで二人の男は同じ臭いを感じた。
二人の男は同類であった。
「私も神なぞ信じていない、人間が同じ形で作られていれば個体差など必要ないからな
他人の見る景色が自分の眺める光景と同じと思えるほど、傲慢ではない」
「認識に個体差があるとするならば、あなたの目には世界がどう写るのか?」
「実に退屈ではあるが、嫌いではない!」
男がそう言いつつ腕を振るうと周囲の家屋がサラサラと砂のような物質へと分解される。
男は巻き起こる粉塵を吸わぬよう口元を押さえると数度咳き込んだ。
「力加減がよく分からなくてね、すまない」
「いえ、大丈夫です、しかし無闇に分解する行為は慎むべきかと」
「我々にとって善悪とはなんなのだろうか?」
「窮することなく終わりを迎える為の規則では?」
60:探訪録
09/02/05 16:41:31 tPudRQf/
何事もなく生き、何事もなく欲を満たし、何事もなく終わる。
欲がほどほどであれば善行とされ、欲に際限がなければ悪行とされる。
男は”終わる事は避けられませんが”と付け加えようと言いかけたが口を紡いだ。
仮に人生が無限であれば人間は皆、貪欲になるであろうと男は推測する。
実際にはその前に飽きて自殺するだろう。
「人間は認識の外を窺い知ることが出来ない
これほどの力が手に入った私でさえ、知ることすら敵わないのだ」
「我々の認識の中には我々しか存在しないのでは?」
「終わりが認識の内にあるとは認めたくはない!」
「……俺達は認識する幅が歪すぎたのです」
初老の男性の周りから腐臭の漂う獣が姿を現す、赤黒く充血した両の眼
膿を噴出し垂れ下がった皮膚、臓物に絡む蛆。
生存する為を機能を何一つ有していない恐怖を喚起するだけのデザインに
男は思わず笑みがこぼれた。
「では、『物質は際限なく加速する』ということでいいですか?」
男は持っていた石を放り投げると規則を破り際限なく加速した石くれが相手の頭蓋を砕いた。
男にしてみれば容易な物理攻撃で倒せるとは思ってはいなかったが、
あっさりと生死が決まったのだった。
舞い上がる砂塵が”何か”の顔を形作ると男に語りかける。
「終わったようですね」
「おそらく、彼も飽きたんだろう」
「自ら手を下せば済むのでは?」
「最後の娯楽がつまらない終わりなら終わった後に退屈する」
何かは互いの顔を見合わせると、言葉を返す。
「終わりの後には何もないのが規則です」
「それもまた認識の差だね」
男は光の刺激を瞼越しにうけて、再び目覚める。
夢が認識の内であるのか、現実が認識の外であるのか。
目に見える全てを規則と迎え入れ。疑惑を鎖で繋ぎ思考の奥へと押し込める。
規則を曲げること敵わず、認識の外を窺い知ること敵わず、継ぎ接ぎの人格を充てて。
感情を忘れないよう反芻し、人間のつもりで人間らしく生きて死ぬ。
男は少し退屈になった。
61:探訪録
09/02/06 09:53:32 9cKfs4kG
世の中不便のように見えて、よく出来ているようにも思えた。
仮に『物質の燃焼に熱量を伴わない』とすれば煙草は吸えないし、発電所は動かないのだ。
「指定」「範囲」「全体」で対象することにより顕在化する新しい規則は
使おうにも使えない七面倒な制約の多い無駄な能力であるといえる。
「やぁ」
「……どうも」
そんな男の苛立ちを先見して知らずか、何かの姿が頻繁に見られるようになった。
更に性質の悪いことに次第にその姿が鮮明になり、今となってははっきりと女だと分かるのだ。
「何をされているのですか?」
「”ずっと先”が見えるようになったんでね
取捨選択する人間を決めてるんだ」
「それはまた穏やかな話ではありません、だからあなた達という人間には知らせたくはなかった」
人為的事故により16人殺害、殺人で35人殺害、間接的な要因により167人殺害
世の中は犯罪者だらけだ、特に自分の行動が多くの被害を生むことを
自覚しない間接的殺人者の多さに驚かされる。
「小を殺して大を生かすのは善行ではないのか?」
「個体数を調整するという上でも終わりは不可避なのです
例えどのような不遇であれ、それを拒否することは出来ない」
「彼らが終わらせるのと俺が終わらせるのと、どんな差があるというんだ!」
「仮にあなたが終わりを回避したとしても、別の終わりが用意されるだけです」
雑然とした自宅の一室、男はペンを投げ”ずっと先”を記した紙をゴミ箱へと投げ入れる。
これでは何も出来ないのと変わらない、男はフラストレーションばかりが鬱積し
袂の煙草を口に付け大きく吸い込んだ。
「その煙はお好きですか?」
「まさか煙草を吸う事にすらけちをつけるのではあるまいね」
「いいえ、細く短く生きるのも個人の自由です」
「……随分な言い回しだ」
男は眼前を漂い、こちらの顔を見据える何かを一瞥するとふと疑問を口にした。
「そもそも君は何なのか?」
「私はあなたの認識に住まうものです」
「フロイトに言うアニマとかそういう代物かい?
だが、君は理想の女性というにはほど遠いね」
「抜き身の刀にはそれを納める鞘が必要です、あなたという人間も納めるものが必要でしょう」
「下品な例えだ、今後は君を頼らないよう努力するよ」
男は大げさな仕草で煙草を灰皿に押し付けると、何かはくすくすと笑いながら周囲を漂っている。
男は人差し指を”何か”に向け拳銃に見立てると規則を改竄した。
『対象指定、空間の運動は完全に停止する』
くるくると回っていた何かはぴたりと停止しそれっきり動かなくなると、
次第にその姿は色褪せ消滅した。
62:探訪録
09/02/06 09:54:33 9cKfs4kG
「認識の内に逃げたな、きっとあれは悪魔か何かに違いない」
何かが名乗らない点でもそれは明らかなことであった。
名前を知られると何か不味いことでもあるのだろう、男はわざとらしくそう思った。
一刻も早く何かのことは忘却せねばならない。
男は自身の終わりは幸福であるべきだと考えていた、
あの老人のように最後の最後まで何かに振り回されて生きたくは無い。
終わりがないのが不幸だとするのならば、忘れることがないのもまた不幸である。
「俺はきっと悪い夢を見ているのだ」
例え話、例えようのない幸福がある日突然終わってなくなってしまったら。
人間という生き物は如何に幸福になるか希望を持ち、夢を見ても
失った時のことなどこれっぽちも考えぬ先の見ない生き物ではないか。
「私はまたあなたにあえて嬉しい」
「よしてくれ、俺は君なんて知らない」
外へと飛び出した男は駐車されているミラーのウィンドウ越しに何かの姿を見る。
見るたびにその姿が鮮明になり嫌気が差す。
「俺を迎えに来てくれたのか?」
「終わりの後には何もないのが規則です」
「もう君にあえないとは認めたくはない!」
きっと何かは悪魔だった、まるで地獄のような問答だった。
「魂がないとすれば君は一体何であるのか?」
新しい玩具など必要ない
恋だの愛だの馬鹿馬鹿しい
神の如く振舞える力など何の意味があるのか
「俺を連れて行ってくれ、俺を外へ連れて行ってくれ」
「それは規則が……」
「規則がなんだっていうんだ」
男の目に映りこむものはただの虚像か、認識から産まれた模造品に過ぎぬのか。
生憎”あの頃は楽しかったね”などと生前のことを語らう、余裕など男には無かった。
”何か”が何をしにきたのかを明白に理解した男は行動に移した。
「さようなら」
「さようなら」
男は人差し指をこめかみにあて銃に見立てると規則を改竄した。
『対象指定、”彼女”のことは全て忘れる』
俺は神など信じない。
完
63:悪魔の贖宥状
09/02/26 18:39:23 vz6mwEIs
教室の一室で向かい合う教師と生徒、野暮ったいスーツに眼鏡をかけた男性教諭は
大きく鼻息をならすと目前にいる生徒の顔を見つめる。
肩に掛かった艶のある髪がはらりと撫で落ち、切り揃えた眉の下で机の上を見つめ
薄く目を開けている。
「国木は進路希望が”特になし”になっているけど?
実際の所どうなんだ、就職する気もないのか?」
「はい」
「何か希望する職業とか夢とか……やりたいことはないのか?」
「特にありません」
けだるい表情を浮かべ生徒がそう言い放つと、教師は困惑した様子で頭をかいた。
虚ろな目でただ机の上を見つめ、何事かを思案しているように見えるかと思えば
不意に窓の外へと目を移し、窓の外で揺れる木陰を目で追っている。
「三者面談でお母様が来られないのでは……」
「うちの母親も就職しろって言ってます」
「……母親ね」
まるで他人の親を語るかのような生徒の言葉に遮られ、教師は繋ぐ言葉を失う。
成績、素行共に平均、これと言って学力が低い訳でもない、母子家庭に生まれ
祖父母に預けられたその人生の軌跡によるものなのか、彼女は対人能力が欠如していた。
「水商売以外なら何でもいいです」
「何を言ってるんだ、国木……もういい、帰りなさい…気をつけてな」
後ろから声をかけられ、彼女は形ばかりに浅く会釈をすると、教室内から退室する。
他の生徒の姿もまばらになった校内の廊下を歩き、教室の机の前に立つと帰る支度を始める。
「……どこか…遠くに行きたい」
彼女がそう呟くと窓際に立ち、校外に見える景色を眺める。
自らの今後を想像する度に厚く積もった不快感が心を満たしていく、
つい先日、乳飲み子を祖父母に投げやり、養育費などついぞ払ったことのない母がふらりと現れ、
突然、彼女を引き取ると言い出したのだ。
アルコールで焼けた眼球に染み付いたヤニの臭い、彼女にとっては母も含め、全ての人間が不快だった。
綺麗事を並べ他人を不幸にして、自分は幸福にすがろうとする浅ましい人間。
「死ねばいいのに……あんな奴ッ!」
蹴り飛ばした椅子が勢いよく倒れると無人の教室内に床を叩く音が響く、
彼女に限って言えば好きこのんで、人間不信になったのではなく、
嫌いな人間がいるから人間不信になったのだ。
家に帰ればまたあの女が我が物顔で酒を飲み、”母親の用意した就職先”を執拗に勧めてくるだろう。
肝臓を悪くし立てなくなった母の代わりに子が働く、よくある美談に仕立て上げ
涙ながらに訴えようが滑稽な嘆願であることには代わりはない。
(あんな女に私の幸福を奪う権利なんてないんだ……)
少女は歯噛みながら教室を飛び出すと玄関先から外へと歩き出す。
そこに違和感を感じるまでの数秒、彼女には眼前の光景を目にして思考が静止する。
身の丈2mはあろうかと言う巨大な襤褸切れがただ忽然とその場に立っていたのだ。
『ならば…貴女が狩れば宜しかろう』
唸るように低く くぐもった声で何者かが彼女にそう語りかけてきた。
64:悪魔の贖宥状
09/02/27 03:39:20 6GY0R5pM
赤く染まりながら暮れる夕日に照らされ、襤褸切れの内部から覗く黄色い眼光に沙由華は気圧される。
何者かはゆらゆらと頭を数度揺らし、体の形を変化させたかと思うと
比較的穏やかな声で少女に語りかける。
『何を迷うことがあるのか』
「あなた…何なの? 刈るって何を?」
『他人を不幸に陥れ、自らが幸福を掴む、そこまで理解しているのであれば…話は早い』
何者かは少女に向かい一枚の書状を投げ出すと風に煽られた紙は
ひらひらと宙を舞い少女の足元へと舞い落ちる。彼女は紙を拾い上げると
そこに書かれている日本語とは似てもにつかぬ言語で書かれた文面を読み上げる。
「贖宥状?」
『ハ…人の世の幸福とは有限である、人と家畜は同じように公平ではない
神の法も人の法も、元より持った権威を固持する為の方便に過ぎん
それゆえの”贖宥状”よ』
「……」
『それを持てばいかなる罪も許される…このようにな』
何者かが襤褸切れを振り上げると、足元にゴムのような何かがべチャリと言う音を立て投げ出される。
地面に染込むように広がる赤黒い血、少女は目を凝らしその物体がなんであるかを悟った瞬間
思わず口元を押さえその場に塞ぎ込む、それは生きたまま剥がされた人間の頭部の皮膚だった。
『ハ…蟻を踏んだ人間を責めるほど、貴女も聖人では在るまい』
「私は…人殺しなんて……」
『望まぬのであれば”贖宥状”は発行されぬ
ともあれ、貴女の好きなように生きれば宜しい』
不意に吹き荒れる突風に舞い上げられ、襤褸切れは宙高く舞い上げられると、
みるみるうち赤い空の上に高度を上げ、ついにはその姿を消した、少女は震える片手を空いた手で押さえ込みながら
駆けるようにその場から逃げ出そうとする。
「ッ!」
道の中央で血を流し全身の皮を剥がれた、何者かの死骸が転がっている横で
何食わぬ顔で生徒達数人がゲラゲラと笑い声を上げながら談笑している。
(見えてないのかしら?)
少女はゆっくりと遺体へと近付くと足でその体を裏返す、アスファルトに固着した血漿が
ぺりぺりと音を立て遺体の前面が露わになると、面の眼孔と歯茎がごっそりと抉り取られていることに気付いた。
どのような手順で殺害されたのかは予測できないなかったが、
現状ではあの何者かの言うことが事実であるということの裏付けは取れた。
少女は悲鳴を上げるわけでもなく、ただ足元に転がるかつての同校生の姿を見下ろす。
屠殺場でぶら下がっている畜生の死骸と大した差はない、少女は薄く笑うと足を振り上げ力任せに死骸を蹴り飛ばした。
元同校生は転がるように横転すると側溝に転げ落ち停止した。
(私は……自由!)
65:悪魔の贖宥状
09/02/27 03:39:55 6GY0R5pM
笑みを浮かべながら少女は自宅へと駆け出す、自宅へと到着する頃には日も暮れ庭先から裏庭へと周り、
物置の中から小振りの鉄パイプを一本見つけると、玄関のドアを潜り物も言わずに家へと上がりこんだ。
一室のドアを開けると部屋に充満していた煙草の煙が流れ出し、思わず咳き込む。
「おかえりぃ、沙由華…今日店長とお話してね
アンタすぐにでも働けるって、女子高生だからねぇ、稼げるわよぉ」
(私が稼いだ所でどうせ、お前が毟る気なんだろうが、この寄生虫がッ!)
少女は物も言わずにテーブルの前に座り込む母親の背後に立つと、鉄パイプを後頭部に振り下ろした。
壁を叩いた時のような鈍い音と共に母親は頭を押さえ込みながら椅子から崩れ落ち、
まるで信じられないものを見るかのような目付きで娘を見上げた。
「何? 何か文句あるの?クソヤロウ……」
「う…ぅ……痛いッ!」
「痛い? 私が肺炎こじらせた時や事故で足折った時、あんた何してたのよ?
間抜野郎と阿婆擦れの間に産まれたあたしが、どんだけ学校で惨めな思いしたと思ってんの?
ハ…自分さえ良けりゃそれでいいの? だったら私も親を見習ってそうするわ!!」
振り抜いた鉄パイプが母親の横っ面を叩き、転がる母の体の腹を踏み込むように足蹴にし
何度も顔面に向かい鉄パイプを振り下ろす。何度も…何度も…何度も……やがて顔面が崩れ落ち
原型が留めなくなるほど破壊し終えると、醜く歪んだ顔に向かって少女は呟いた。
「はぁ、ようやくスッキリしたわ、グジグジ悩んでたのがバカみたい」
「あら…沙由華帰ってたの?」
「お婆ちゃん、ただいま……また煙草とお酒買いに行かされてたの?」
「あの人は今どこ?」
少女はそう言われるなり手元の鉄パイプと床に転がっている遺骸を交互に見合わせると
祖母に向かって花がほころぶような屈託のない笑顔で答えた。
「さっき出て行ったよ、もう帰ってこないって」
66:創る名無しに見る名無し
09/04/02 00:04:46 UxMWVaQ2
てす
67:創る名無しに見る名無し
09/04/03 23:42:03 O/MWZBOD
age
68:創る名無しに見る名無し
09/04/06 18:26:50 DtsZtv9y
素晴らしいホラだ
69:創る名無しに見る名無し
09/04/08 01:41:52 QqkHKEVn
てす??
70:創る名無しに見る名無し
09/04/08 22:25:19 CmkrcPFP
>>25
>中学生の頃、運動部の幽霊部員だった俺は、夏休みの練習がとても嫌で、いつもサボって家でゴロゴロしていた。
幽霊部員と思ったら、実は本当の幽霊だった、というオチを期待したw
71:創る名無しに見る名無し
09/04/09 10:42:30 TxFjjSk7
他スレより転載
お迎え
午後二時。
幼稚園のプール教室に通う娘を迎えにいく時間となった。
気が進まないが、生活パターンを変えて、近所から無用な関心を引いてしまうようなことはしたくなかった。
家を出ると、お盆休みの時期のためか、街中に普段の喧騒さはなかった。
太陽の日差しが、やけにまぶしく感じられた。
幼稚園に着くと、娘の担任が職員室の窓越しに声をかけてくれた。
窓辺の風鈴が涼しげな音を立てている。
「あら?メグちゃんのお母様……。残念でしたわ、すれ違いになってしまいましたね」
「すれ違い?ですか?娘は一人で帰ってないはずですが……」
先生は一瞬困ったような顔をしたが、職員室から出てきて説明してくれた。
「もちろん、園の規則では園児一人での帰宅を禁止していますが、たった今、メグちゃんのお父様がお迎えに来てくださったんですよ」
先生の一言に、私は戸惑いを隠せなかった。
一瞬、強い風が吹き抜け、風鈴の音が激しく鳴り響いた。
「主人?主人は……、外国に出張中で迎えに来られないのですが……」
先生は、とっておきの知識を披露するのがおもしろくてたまらないという口調で、「メグちゃんのお父様もお人が悪いですね。お戻りになったことをお母様にも内緒にされていたとは」
そんなわけはない!
旦那が娘を迎えに来られるわけはないのだ。
一ヶ月前、ちょっとした口論がきっかけで、カッとなって旦那を刺し殺してしまい、バラバラにした死体を袋詰めにして、山に埋めてしまったのだ……。
いつの間にか風は止んでいて、風鈴の音は途切れていた。
園庭は、真夏の日差しを受けて白く乾ききって、凪いだ海のように静まり返っていた。
ただ、どこからか耳鳴りに似たセミの鳴き声が聞こえてくる。
呆然と立ちすくむ私に、先生は微笑みながらこう付けくわえた。
「突然のことなのでメグちゃんもびっくりしていましたけど、とても喜んでいましたわ。お父様もメグちゃんに会うのは一ヶ月ぶりとのことで、本当に嬉しそうでした。『メグ、迎えに来たよ。お父さんと一緒に帰ろう』って、仲良く手を繋いでお帰りになりましたわ」
72:創る名無しに見る名無し
09/04/10 20:04:11 pkxXOnl+
続きは?続きはどうなるの?
73:創る名無しに見る名無し
09/04/10 21:05:53 iTJjhgEb
これで終わりのはず
怖い系の話をするスレで見たことある
タイトルが秀逸
74:創る名無しに見る名無し
09/04/12 02:43:29 CswF9tGY
お盆に幼稚園(笑)
75:創る名無しに見る名無し
09/04/13 03:24:36 RMci4uhB
「人を殺す人間ってどういう奴か分かるか?」
男はそう言うなり、肘を上げ指先でアゴを掻いた。
「暴力的な人間じゃないですか?
高圧的な態度を取るとか、腹に一物持ってるような」
学生がそう答えると興味無さげに周辺に目を移す。
男は余所見をしている学生にも見えるよう大げさなジェスチャーを交え
学生に言葉を返した。
「そうとは限らんな、割に感情豊かで温和に見える友人が
駅の構内で友人を後ろから線路へと突き落としたのを見たことがある」
「はぁ、それで?」
「感動物の映画を見て泣くような奴が、突如として冷酷になる
温和に見えても冷酷に見えても、同一人物、つまりただ単に”演技”してるのさ」
学生は口元を吊り上げ頭を捻ると、聞き入るように耳を傾けた。
「人間はロボットじゃないですから、色々と感情はあるでしょう
たまたま虫の居所が悪かったとか……」
「普通ならね、だが演技している人間は違う
本心からではなく、時と場合によって感情を使い分ける、本心では何も感じていない」
学生は男を見据えて笑顔で笑いかけながら、その場を一歩踏み出すと
男は腕を振り上げ威嚇する。
「目撃者が居ないよう周囲を確認し、辺りに人が居ないか耳を傾け
感情豊かに笑いかけながら俺を殺すのか?」
学生は弾むような声で笑った。
76:創る名無しに見る名無し
09/04/30 17:24:03 sNH0TUm/
警察の取調室では今日も不毛な取調べが行われていた。
被害者は一児の母、被疑者はその一人娘である少女である。
周囲の刑事達から好奇の視線を突きつけられても、少女はただ漠然と
頭を振りながら、うわ言めいた言葉を返すだけであった。
「エノクのデーモンにより授かった贖宥状により
私は全ての罪を許されるようになったのです」
口を開けばこの有体である、現実にはありえない話をとつとつと証言し
刑事達は参った様子で頭を掻いた。
「君の言っていた学校で死体を見たって話……」
「それが、あのデーモンが現実に存在するという証拠です」
「いや、確かにあったよ犬の死体がね、見間違いじゃないのかな」
中年の刑事がそういうなり、少女はうわ言のようにぶつぶつと何かを唱え始め、
”贖宥状”と呼んだビニールの切れ端をつかんだ腕で机を叩き始める。
「アグラリア ピドホル ガリア ……」
「……こ、これはちょっと我々の手に負えんな」
刑事達が互いに顔を合わせ、少女の狂騒を眺めていると
突然取調室のドアが開き弁護士の男が姿を現した。
「彼女の弁護人の杉田です、今すぐこの取調べを中止していただきたい」
「まだ取り調べの最中だ! 何の権限があって……」
「彼女は家庭の問題により精神に疾患を抱えており、事件を起こした以前から通院暦があります。
事件当日の彼女は心神喪失状態にあり、刑事責任能力は無かった
と……考えるのが妥当でしょう、故にこのような圧迫的な取調べは彼女の精神的な治療に
支障をきたす恐れがあります」
第三者からの過失により少女の心身に異常をきたし、事件当日の不可解な行動もそれを裏付けている
彼女が病んだ精神から異常行動に及んだと考えるのが自然な流れである。
また彼女の部屋から押収された読み取れぬ文章で書かれたノートなど、異常性の垣間見える品々が押収され
彼女が犯行当時、心神喪失状態であったことは明らかであった。
「……よって、被告を無罪とする!」
裁判室に渇いた木槌の音が鳴り響くと出廷していた少女がフラフラと頭を揺らしながら
その場から退席する。弁護を終えた弁護人の杉田は弱々しく歩く少女に付き添い、
言葉を交わす内に特別な感情を抱いた少女の瞳を見つめた。
「もう大丈夫だからね」
「私は……エノク…血盟によってその忠誠を誓う」
「きっと……良くなるから」
少女が僅かに表情を緩めると杉田は少女を見送り、ただ迎えに現れた祖母に付き添われ
裁判所を後にする、その背中をただ見つめていた。
そんなある日、弁護士の杉田と交際を始め、自宅療養を続ける最中にある彼女の家を
高校時代の友人の一人が訪れた。
「沙由華、悪魔とかどうとかはもう見なくなったの?」
「バカね……悪魔なんている訳無いじゃない」
少女は名前を変え、今もまだその街で平穏に暮らしている―
77:創る名無しに見る名無し
09/05/17 22:05:34 WKSyS+EL
ホラー…なのかな?
超常現象というよりは精神疾患
最後の一文が漠然とした怖さを感じさせるね
78:創る名無しに見る名無し
09/05/18 12:17:22 QrLWbApy
続きを書いたら、確実にホラーになるんじゃね?
79:創る名無しに見る名無し
09/05/18 13:33:13 Yn9n9f2F
ジャンルは俺にはよくわからんが、確かにこれは怖いな
80:創る名無しに見る名無し
09/05/18 14:00:24 io6BBMar
これもホラーじゃないかもしれませんが……
人間本当に怖いと声も出なくなる。
冷や汗が体中から吹き出した。洗濯機の中に髪の毛がぎっしり詰まっていたからだ。
「畜生!」
自分を奮い立たせて、再び洗濯機の蓋を開けるとそこには何もなかった。すると俺の背後のバスタブでなにか大きな物が跳ねた。
もう確かめるのも嫌だ。
俺は振り向きもせずに朝食を作るため台所へ向かった。
焼き魚にしようと思って魚を見ると、見るも無残に腐っている。昨日買ったばかりだというのに。
かろうじて食えそうな部分に包丁を入れた瞬間、異常に吹き出る血。飛び散った血は一箇所に集まり、イタイ、と壁一面に書き記す。
慣れてきたとはいえ、小心者の俺としては毎回心臓が止まる思いだ。
一週間前、家に帰ってくると幽霊がいた。
しかし、ぼんやりと考え事をしていた俺は気づかずに無視してしまった。
腹を立てた幽霊は怖がらせようとしてあれこれやってくれる。
トイレで座ってるときには冷たい手が尻を撫で回し、シャワーを浴びればスライムが出る。
ウインナーの袋の中に入ってた犬の糞を、おもいきり窓に投げつけながら俺は悪態をついた。
「怖がらせるのと嫌がらせを勘違いしてないか?」
81:創る名無しに見る名無し
09/05/18 14:20:32 1gB9ZasG
>>76は>>63の皮肉じゃなくて、もともとそういう流れのストーリーですよ
82:創る名無しに見る名無し
09/05/18 23:25:08 QrLWbApy
そこで、除霊のため霊媒師を呼ぶことにした。
幽霊vs.霊媒師
残念、書く時間がない。
83:いつもと違う
09/06/10 00:13:42 x/JJG0m9
【有名人官能小説スレから転載】
よく晴れた日の午後。
いつものようにレギュラー番組の収録を終え、いつものようにコンビニに寄って、
いつもの道を通って、いつものマンションに帰宅したはしのえみ。
街は夕焼けに染まり始めていた。
tull・・・ tull・・・
玄関でパンプスを脱いでいると、リビングの電話が鳴った。
まるで、はしのが帰宅するのを見計らっていたようなタイミングだ。
(今日は誰とも約束してないし・・・マネージャーかな?)
tull・・・ tull・・・ tull・・・ tull・・・
「はいはい、今出ますよ~。」
脱いだパンプスを靴箱に入れ、急ぎ足でリビングに向かう。
tu・・・
はしのが受話器に手を伸ばしたところで、呼び出し音は止まってしまった。
「あらら。せっかちだね~。」
大事な用事ならまたかけてくるだろうと大して気にも止めず、
はしのは上着を脱ぎながらCDプレイヤーの電源を入れた。
・・・ギュ・・・ギュルギュル・・・ギュ・・・ギュ・・・ギ・・・・・・
「ありゃ?」
スピーカーからは、カセットテープが伸びてしまった時のような不快な音が聞こえてくるだけで、
いつまでたっても音楽は再生されない。
「やだなあ・・・壊れちゃったのかなあ。」
ふと気付くと、リビングいっぱいに差し込む夕日がたくさんの影を作っていた。
壁や棚に飾られた花も可愛らしい小物も、全てが影を作っていた。
それは見慣れている光景のはずなのに、
じっと見ていると何故か自分の部屋ではないような気がしてくる。
生活感が感じられないというか・・・まるで住む者を失った廃屋のような・・・。
・・・ギギ・・・ギュルギュル・・・ギギ・・・ギ・・・ギュルギュル・・・ギュルギュル・・・・・・
「・・・!」
我に返ったはしのは慌ててCDプレイヤーの電源を切ると、足早にリビングを去り
キッチンに駆け込んだ。
冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し、一気に飲み干す。
(う~ん、なんだかなあ。)
じっとしていると何故か妙に落ち着かない。
84:いつもと違う
09/06/10 00:14:34 x/JJG0m9
はしのは大きく深呼吸をすると、ワンピースのファスナーを下ろしながら風呂場に向かった。
ワンピースを籠に入れ、脱衣所に備え付けられた全身鏡に向き直る。
黒い下着とパンストに包まれた自分の身体。
少し太ったのか、バストが大きくなったように見える。
若干、下腹が気になるが年齢を考えれば上等な物だ。
「~♪」
鼻歌を唄いながらパンストを脱ぎ捨て、ブラのホックに手をかける。
ぷるんっと音が聞こえそうな勢いで、大きく柔らかいバストが露わになった。
「きゃっ!」
咄嗟に、脱いだばかりのブラで胸元を隠すはしの。
誰かの視線をはっきりと感じたのだ。
息を止め、周囲を窺う。
しかしそこにあるのは鏡に映る自分の姿だけだ。
(あ~やだやだ。さっさとシャワーを浴びて買い物にでも行こう。)
手早くショーツを脱ぎ去り、浴室のドアを開けると冷たい空気が溢れ出てきた。
まるで真冬の浴室のようだ。
シャワーを捻ると、すぐに浴室は湯気でいっぱいになった。
ゆっくりとその身に温かいシャワーを浴びせていく、はしの。
肩から腕、そしてバストがほんのりとピンク色に染まっていく。
やがてその色はピンクから赤に。
「き・・・きゃあぁぁぁ・・・・・・!!」
放り投げたシャワーは生き物のようにのた打ち回りながら、真っ赤な湯を吐き出し続けている。
血しぶきのように壁や天井に飛び散り、流れ落ちる真っ赤な湯。
見る間に赤みを増していく。
グボッ グボッ・・・・・・
どす黒い血のような湯を吐き出し続けたシャワーは、
何度か粘度の濃い液体を噴出した後、動かなくなった。
凄惨な事件でもあったかのように、真っ赤に染まった浴室。
どれくらい時間が経ったのか、はしのの耳に子供のはしゃぐ声が聞こえた。
振り返ると、5才くらいの女の子が空っぽのバスタブに入ってニコニコと笑っていた。
まるで湯が張ってあるかのように、両手で湯をすくい上げるような仕草をしている。
女の子は、はしのに向かって何やら楽しそうに話し掛けてくるのだが、よく聞き取れない。
いつの間にか、浴室を染めていた血のような物は消え失せていた。
バンッ
その時、突然激しい音と共にドアが開いたかと思うと、ジーパン姿の若い男が浴室に入ってきた。
まだ高校生くらいだろうか、その手には真新しい包丁が握られている。
「な・・・なに・・・。」
訳が分からずうろたえている、はしの。
85:いつもと違う
09/06/10 00:15:25 x/JJG0m9
若者は乱暴にはしのの髪を掴むと、ジーパンから未熟なペニスを摘み出し
はしのの顔の前に突き出した。
“抵抗すると娘が殺されてしまう・・・!”
(え? 娘・・・? 何・・・?)
不可解な記憶が、はしのの頭の中を支配していた。
意識ははっきりしているのだが、身体は別人のように勝手に動いてしまう。
ゆっくりと口を開き、皮に包まれ力なく垂れ下がっているペニスに顔を寄せる。
「・・・ん!」
嫌な匂いが鼻をついた。
顔を背けたいのに、身体は全く反応しない。
“娘のため”という想いが頭の中でぐるぐると回っている。
「うぐっ・・・!」
若者のペニスを咥えた途端、口中に苦い味が広がった。
無表情に、はしのを見下ろす若者。
何か言ってる声は聞こえるのだが、やはりよく聞き取れない。
ペニスを咥えたまま前後に顔を動かすと、若者の表情が一瞬ゆるんだ。
そのまま顔を前後させるだけの、単調なフェラを続ける。
極度に緊張しているのか、若者のペニスは硬くなってこない。
すると、はしのは舌先を彼の尿道口に押し当てた。
徐々に口の中で大きくなってくるペニス。
それは、はしのが使ったことのないテクニックだった。
(やっぱり私じゃない! 知らない人の身体だ!)
明らかに感じているようで、若者の腰は引き気味になっている。
それを逃さないよう更に深く咥え込み、尿道口を刺激しながら同時に顔を前後に動かす。
“このまま射精させれば、満足して帰ってくれるはず・・・!”
不可解な記憶に支配されたまま、はしのは激しく顔を前後に動かし続ける。
イキそうになったのか若者は髪を掴んでいる手に力を入れると、はしのの顔を引き離した。
彼のジーパンからは皮を被ったままのペニスが、急な角度でそそり勃っている。
そのまま、はしのを押し倒し、何か言っている。
(な・・・何? な、なんて言ってるの?)
“言うとおりにしますから、どうか殺さないで・・・。”
また頭の中に、言葉なのか感情なのかよく判らない記憶が浮かび上がってきた。
ゆっくりと太ももを開いていく、はしの。
手入れされていない自然のままの恥毛が、若者の前に曝け出されていく。
(え!? やだ! なんで・・・!)
それを無表情に見ていた若者はゆっくり腰を下ろすと、はしのの股の間に顔を埋めた。
86:いつもと違う
09/06/10 00:16:25 x/JJG0m9
(ひゃっ! や、やだ・・・そこはまだ洗ってないのに・・・。)
全く経験が無いのだろう。
若者は震える指で恐る恐るはしのの恥毛をかき分けると、
そこに現われたグロテスクな性器に目を奪われた。
ピクリとも動かず、性器に魅入っている若者。
彼の鼻息が、はしのの恥毛を揺らす。
(やだもう、ホントに恥ずかしいよ~。)
“早く・・・早く終わらせて・・・。”
若者はまさに観察しているといった眼差しで、はしのの性器に人差し指を伸ばした。
(あんっ・・・!)
“あっ・・・!”
そっと淫肉に触れられると、まだ濡れていないために
指の感触が直に伝わり、ビクッと反応してしまった。
その反応を見て一気に興奮したのか、若者はぎこちない手つきで
はしのの淫肉を弄りだした。
(くっ・・・!)
“んんっ・・・!”
じわじわと湧き出してくる粘液。
若者はそれを指に絡ませると、膣にねじ込んだ。
音も無く吸い込まれる人差し指。
はしのの反応は薄い。
人差し指に加え中指も押し入れると、はしのの腰が少し浮いた。
(あっ・・・!)
“あっ・・・!”
更に薬指も押し入れる。
はしのの膣に三本の指が飲み込まれ、中から大量の粘液が溢れ出てきた。
ヌチュッ
そっと指を動かすと、いやらしい音が浴室に響いた。
はしのの腰が艶かしく動き、膣が若者の指を締め付ける。
徐々に指の動きを早めていく若者。
ヌチャッ ヌチャッ ヌチャッ ヌチャッ・・・・・・
(だめ・・・! 動かさないで・・・あんっ・・!)
“いやっ・・・! いや・・・・・・んんっ・・・!”
今まで感じたことのない快感が、子宮から全身に広がっていく。
これも自分じゃない他人の記憶らしい。
存在しない夫に対する背徳心が胸を締め付ける。
ヌチャッ ヌチャッ ヌチャッ ヌチャッ・・・・・・
87:いつもと違う
09/06/10 00:17:57 x/JJG0m9
(あっ・・・あっ・・・! やだっ・・・! ・・・イクッ・・・イッちゃう・・・!)
“あっ・・・あっ・・・! いやっ・・・! ・・・イクッ・・・イッてしまう・・・!”
若者の三本の指が出たり入ったりする度に、卑猥に形を変える淫肉。
そして膣から溢れ出る粘液。
たまらず若者の手を止めようと、腕を伸ばした。
(・・・え?)
何も無い。
見ると、若者の姿は消えている。
ただ、はしのの膣を出入りしている三本の指の感覚は消える事無く
相変わらず激しく動いたままだ。
「んっ・・・あんっ・・・! あんっ・・・あんっ・・・! ・・・あっ・・・あっ・・・!」
バストを揉みしだかれる感触が加わった。
だがやはりそこにも、はしののバストを揉んでいる手は見えない。
巧みに乳首をも刺激してくるテクニックは、明らかに先程の若者とは違う大人のものだ。
かつてなかったくらいにまで、はしのの乳首は硬く勃起している。
「だめっ・・・あんっ・・・! あんっ・・・あんっ・・・! ・・・イッちゃう・・・イッちゃう・・・!」
耳、まぶた、首筋、背中、へそ・・・、全身のあらゆる場所が同時に舐められている。
一人や二人じゃない。
姿は見えないが、大勢の男の息遣いが聞こえる。
「いやっ・・・! イクっ・・・! んっ・・・・・・!!」
ピシャッ ピシャピシャピシャッ ピシャッ・・・・・・
はしのは、エクスタシーに達すると同時に尿を漏らしてしまった。
黄色い飛沫がピシャピシャと音を立てながら、はしのの脚を汚していく。
「・・・・・・。」
「・・・。」
気付くと、はしのは浴室の床で寝ていた。
顔の横にシャワーが転がっている。
壁にも天井にも血など付いていない。
「夢・・・?」
起き上がろうとすると、膣に異物感を感じた。
お尻にひんやりと濡れた感触があり、周辺に黄色い液体が水たまりのようになっている。
(夢・・・じゃなかったんだ・・・。)
茫然自失のままシャワーで身体を流し、パジャマを着る。
酷く体力が消耗している。
88:いつもと違う
09/06/10 00:19:40 x/JJG0m9
ふらつきながら寝室に入ると、見慣れない人形がベッド脇の小棚に飾られていた。
よく見ると頭部が上下さかさまになっている。
「何これ・・・気持ち悪い・・・。」
テッテレ~♪
突然、野呂氏とテレビカメラを構えたカメラマンが寝室に入ってきた。
その後ろでマネージャーが悪戯っぽく舌をぺロっと出している。
「どっきしカメラですーw」
例の看板を掲げ、満面の笑みを浮かべている野呂氏。
「・・・。」
キョトンとした顔で突っ立っている、はしの。
状況が解るまで、どれくらい時間がかかっただろう。
「もお~! ホントに怖かったよ~!」
ポロポロと涙がこぼれ出た。
「いやいや、大成功大成功w」
野呂氏は人形を回収すると、部屋を出て行った。
「えみちゃんって、こんなに怖がりだった?」
マネージャーは、泣きじゃくっているはしのに明日のスケジュールを再確認すると、
外で待っている野呂氏とカメラマンと3人で局へ戻って行った。
後日、どっきしカメラ放送日。
その中で、先の人形を使った1コーナー『恐怖の逆さ頭人形』はオンエアされた。
自宅の寝室に飾られている見覚えのない人形。
その人形の頭がいつの間にか上下逆さまになっているというチープなドッキリに、
何人かのタレントが見事に引っかけられていた。
ただ、はしのの収録分が放送される事はなかった。
89:創る名無しに見る名無し
09/06/13 21:35:15 OlL7Yftl
A「よぉ、知ってるか?」
B「なんだよいきなり」
A「ウチのクラスの鮎川死んだらしいぜ」
B「ふーん、そりゃ凄いね」
A「随分と冷たいな、お前仲良かったろ?」
B「あぁ、よく話してたな」
A「レイプされて、顔面をガソリンで燃やされたが歯形で身元が割れたんだとさ」
B「あらら、歯も抜くべきだったな」
A「お前さぁ……普通は、”何だと許さねぇ!”みたいな感じになるだろ」
B「そりゃ、俺の人生には何の影響もないし」
A「犯人誰なんだろうな?」
B「うちの担任の早川だろ? 俺の所に助けてくれって鮎川のメールが来た」
A「じゃぁ、助けにいけよぉ」
B「何で俺が?」
A「それはほら、証拠握ってるお前の命を早川が狙うかも」
B「何だと許さねぇ!」
A「ははは、怒る所おかしいって、ぜってー」
B「ははは」
A「まぁ、俺達にゃ関係ないよな」
B「自分から不幸になりかったんだから、本望だろ」
A「女の不幸自慢ほど、ウザイもんはねぇ」
B「俺達、善良な一般市民だからな」
90:創る名無しに見る名無し
09/06/16 21:47:13 niGccfvn
で、しばらくたつと死んだはずの女が生き返ってきて、
犯罪にかかわった連中が全員発狂するんでつね。
わかりまつ。
91:創る名無しに見る名無し
09/06/17 00:13:03 vFLHCg5S
無関心の恐怖を演出したのでこれで終了
92:創る名無しに見る名無し
09/06/22 14:02:59 uewLjhCu
hoshu
93:創る名無しに見る名無し
09/06/26 21:22:07 1EMmM+Go
夏の風物詩として「怪談」は定番
ひとつ、ホラー物に挑戦してみようと思う
誰か、お題をお願い
↓
94:創る名無しに見る名無し
09/06/26 21:38:31 mTf5n7Y/
社会の闇
95:創る名無しに見る名無し
09/06/26 22:46:04 1EMmM+Go
む……ホラーというよりはサスペンスなお題だな
とりあえず頑張ってみる、サンクス
96:創る名無しに見る名無し
09/06/27 03:24:28 Ki5HSlL/
電灯の無い公園は夜になお暗い。
汗臭さは最終的に土の臭いになる。
ブルーシートと段ボールで作ったハウスに、すえた土の臭いが充満していた。
膝を痛めて力仕事の出来ない俺が浮浪者に転落するのに政治改革もサブプライムも一縷の関係も無かった。
「はははは」
「うわーエグーい!きゃははは」
「やっべ!それ死ぬんじゃね?」
外で、テント生活者の誰かが、無軌道な若者に無作為に選ばれて無意味に弄ばれて居るらしかった。
ぐう、と腹がなった。
薄暗い宵闇を割るように、少しだけブルーシートの扉を開ける。
女と、男が二人。
ガシャ。
ワシャ、ガタリ。ゴソ。
ガサガサ。
ズル。
あちこちで、テントの扉が開く音がする。
「きゃ、怖い」
「何こいつら?」
「何見てんだっラァ!」
若者達が怒声をあげた。
俺もテントから出ると、“いつも通り”皆が若者を取り囲んでいた。
角材。
ナイフ。
スコップ。
ノコギリ。
金槌。
手に手に持った凶器は、どれも闇間にあってなお赤黒い。
「神よ、お恵みを感謝致します」
浮浪者の一人でキリスト教徒の坂崎さんはそういってスコップを薙ぎ振るった。
重くて、でも間抜けな音がして、男が倒れる。
「ひっ」
身構えた二人めの男を、後ろから殴る。
首の後ろから頸椎を砕くために角材をフルスイング。
男二人は一瞬で死んだ。
女は驚愕して口を開けたままへたりこむ。
「神よ、神よ」
坂崎さんが、女の口に布切れを突っ込んで、むりやりガムテープで塞いだ。
暴れる女の胸に、元医者の佐藤くんがナイフを突き立てる。
見る見る女の顔色が真っ青になり、死んだのが見て取れた。
「これ、皆で“使って”からにしましょう」
女の死ぬ様を見ながら、佐藤くんは勃起していた。
「最初は囮役をやった人からのはずだぞ」
「ちぇっ、そうでしたね」
散々蹴られていた、名前も知らない囮役の人が、女の死体を抱えて段ボールハウスに消えた。
ごりごり、という音がして振り向いて見れば、もうノコギリで取り分けが始まっていた。
今日は腹いっぱい食べられそうだ。
97:創る名無しに見る名無し
09/06/28 22:42:38 P5K02KBz
「本当にもう、怖いんです。」
やっとのことで絞り出せたのはその言葉だけだった。
お坊様は優しげな表情を崩さずにジッと話を聞いてくれている。
彼の横に座る私の友人はしかし不安げな様子だった。
「この部屋に引っ越してきたのはまだ一月前です。」
私は部屋を見渡す。
ごく平凡な、ワンルームマンションの一室だ。
だが今の私には、この部屋が何よりも恐ろしく感じる。
「最初は気のせいだと思ったんです。だけど……」
私はお坊様に事情を話し始めた。
始まりはほんの一週間前、仕事から帰ってきて、息抜きに下着姿のままインタ
ーネットを閲覧していた時だった。
私は脇に発泡酒の缶を置き、酒を煽りながらその数少ない趣味の内の一つを楽
しんでいたのだが、ふと喉に違和感を覚えたのだった。
わずかに息苦しく、発泡酒が上手く飲み込めない。
手で喉を擦っても何も無く、その時はまだ気になるほどでも無かったので、放
っておいた。実際、布団に入ったらその息苦しさも解消されていたのだ。
だがその次の夜、またその次の夜と、日を重ねる内に段々とその息苦しさは増
していく。
呼吸が困難に成り始めた頃にやっと、私は誰かの手で首を絞められていること
に気づいたのだった。
たまらずに服を着て飛び出し、携帯電話で近所に住む友人に連絡をとる。
その夜は頼み込んで、何とかその人のアパートで夜を明かしたのだった。
翌日、私は、今お坊様の隣に居る友人にその奇怪な現象のことを相談した。
友人は霊感があるらしく、話を持ちかけると興味を示し、明日の日曜日―つ
まり今日―にやってきて様子を見てくれることになった。
その夜私はパソコンに向かわず、すぐ布団に入った。
布団に入ればあの息苦しさはやってこないからだ。
だが、その夜は―
私が布団に潜り込み、意識をまどろませ始めると、何やら妙な違和感を喉に感
じた。
すぐに身に迫る危険に気付き、布団を払いのけようとしても、体は金縛りにあ
ったように動かない。
首筋が圧迫される。
指の形がはっきりわかる。
誰かの親指が喉を変形させる……
私は恐怖のあまり叫び声もあげられなかった。だけれど動脈が押さえつけられ
て、天井が、床がぐるりと揺らぐ感覚に襲われると、私は何故か叫ぶことが出来
た。
98:創る名無しに見る名無し
09/06/28 22:45:44 P5K02KBz
叫んで、飛び出して、部屋を出て、外の通路の隅で膝を抱えて震えていた。
そうしていつしか朝になり、昼になり、友人が訪ねて来た。
きっと酷い顔なのだろう。友人は私を見てひどく驚いたが、事情を聞くと、近
くのお寺からお坊様を呼んでくれた。
そうして今、私は殺されかけた部屋の中で彼らにこの話をしている。
私は話を終えて、友人が淹れてくれたがまだ手をつけていない、お茶の入った
湯飲みに視線を落とした。
お坊様は頷いた。
「なるほど、分かりました……」
彼はゆっくりと立ち上がり、部屋の真ん中まで歩いて立つ。
「この部屋、昔自殺した方がいらっしゃったみたいですねぇ。」
「首吊りか何かですか。」
私に代わって友人が訊いた。
「ええ、どうやらパソコンに酷い恨みがあるようです、嫌だったんでしょう。」
「そうですか……」
「あぁ、でも、もういらっしゃらないみたいですねぇ、気が済んだみたいです。」
「そう、ですか。」
友人は俯いた。
私はお坊様の背に訊く。
「じゃあ、もう、無いんですか?」
「ええ、ご安心なさっていいと思いますよ。」
本当にそうなのか?
昨夜の恐ろしい記憶がまだ鮮明に残っている私には信じられなかった。
「じゃあ、お坊様。」
すぅ、と友人が立ち上がる。
私はその背を目で追った。
友人はお坊様の傍らに立つ。
「そろそろ、お願いします。」
「ええ。」
お坊様は頷き、私の方を向いた。
「今からお祓いをいたしますのでね、動かないでくださいね。」
「何故ですか。」
私は立ち上がろうとする。足に違和感。
お坊様は相変わらず優しげな表情。友人は悲しげな表情。
少し息苦しい。何か飲みたい。
手をつけていなかったお茶に手を伸ばす。
湯飲みが掴めない。
ああ、苦しい……
私はまだ布団の中に居た。
99:創る名無しに見る名無し
09/07/20 18:15:38 ybywxTWv
ホラーの季節あげ(((゚Д゚)))ガタガタ
100:暑いから涼しくなる話をひとつ
09/07/28 21:35:01 /L5Xf8BO
「おい。この魚、賞味期限明日までだぞ!」
「冷凍するから大丈夫よ」
「この肉も、賞味期限明日じゃないか!」
「冷凍しちゃえば大丈夫よ」
「……申し上げ難いことなのですが、ご主人の余命はあと3ヶ月なんです」
「そうですか……」
「いやぁ、今日は暑いな」
「あなた。マイナス40度の世界を体験してみたくない?」
101:創る名無しに見る名無し
09/07/28 23:29:04 oV2b7Vim
・・・・まあ、愛してはいるの・・・かな・・・??
102:平穏な人生
09/08/06 07:26:04 5Tuxo0ns
何事も無く平穏な人生を歩むには相応の努力が必要だ。
特に外から厄介ごとを持ちこむ、他人という名の生き物の動向には、
目を光らせる必要がある。
適当に人間のフリをしていれば何一つ問題が無いのだが、
他人というのは困った物で、わざわざ面倒なことを
引き起こすことに腐心することが多い。
特に感情という物に対して理解を示すのは骨が折れる、
例えば親しい友人が死ぬだとか、恋人が寝取られるだとかそういった
瑣末ごとにいちいち感情を発露させるのは、人生の無駄使いに他ならない。
感情そのものには何の価値も意味も無いからだ、
自分の取るその行動に、価値があると思い込むことで心の平穏を得ている。
人という生き物は「自分は特別だ」と思い込みたがる生き物である。
劣等感に触発され「米粒に絵を描ける」だの「牛乳瓶の蓋を集めてる」だとか
やってるのと同じことだ。
人間そのものは言動の変化で容易にその行動を操ることが出来る。
無能な言動を取れば「無能だ」と得意げに批判してくるし、
無知な言動を取れば「教えてやる」と得意げに解説を挟む。
人間の感情は他愛も無く、いかようにも操作できるといえる。
このような話を人間にすれば「そんな筈は無いだろうと否定」するのは確定事項なのである。
昔、学生時代に人間的な行動を取ることを毛嫌いし、突拍子も無い行動を取る友人がいた。
コンパスの針を腕に突きたて、肉を穿り返しながら遊んでいる。
私が彼に
「なにをしているんだ?」
と尋ねても
「別に」
とだけ答えて、首を横に振り、骨まで露出した傷口から
細かく千切れた肉を、机の上に几帳面に一列に並べているのだ。
彼という生き物は、本能的に人間になるのを毛嫌いして
そのような突拍子も無い行動や癖が出てしまうのだろう、つまり彼の行動そのものが
痛みや恐怖の感情を否定し、思考する生物としての知的行動の一つであるのだ。
たとえ、彼の外見が人間であれ、彼の中身は人間以外の何かである
可能性が高いと言えるだろう。
我々、他人という名の生き物にしてみれば人間の命など瑣末そのものと言える。
103:創る名無しに見る名無し
09/08/22 09:41:17 PZ6Q2wlO
タイトル『案山子(かかし)の村』
主人公沢村は、地方の農村を歩いて、案山子の写真を撮り続けている写真家。
沢村が訪ねたある村では、リアルな案山子作りが流行していた。
村人たちは、自分自身の案山子を作り、それが完成すると、どこかに消えてしまう。
この村に滞在しているうちに、沢村は『リアルな案山子作り』に魅せられてしまう。
そして↓↓
104:創る名無しに見る名無し
09/08/22 21:39:49 PZ6Q2wlO
「沢村さん・・・」
美和子は、その人影に声を掛けた。
だが、それは沢村ではなかった。
沢村そっくりの案山子だった。
終り
105:創る名無しに見る名無し
09/09/18 07:00:15 egPD5b/L
日本人が温和なのは、穀物中心に取り込むが故であり。
欧米人が粗暴なのは、獣肉を身に取り込むが故である。
「人間の精神は遺伝する」などと言う似非科学があるが、
そもそも我々の肉体を形作るものは、外部から取り込んだ魂魄その物なのだ。
口から摂取する物質が魄であれば、繋ぎとなる魂は酸素となる。
人間の寿命は生まれながらに決まっている。
一般人に比べ、スポーツ選手の寿命が短いのは周知の事実であるし、
肉体に大きな負荷がかかる雪国よりも、温和な気候の南国の住人は長寿である。
さりとて心臓の鼓動の回数が少ないほど長寿と言うわけではない、
過度のストレスを与えられたマウスは短命、
ストレスのない環境で育った個体は長命であることから。
人間は呼吸が少ないほど長命であると結論付けられる。
人間が口から食物を取り込み、分解し、その身に蓄え、
肉体と精神を作り上げるための繋ぎが酸素なのだ。
獣肉を大量に摂取する人間は体内にタンパク質を取り込むことで筋肉を増強し
血行量が増進されアドレナリンを分泌され、凶暴化する。
また血行が良化し酸素を大量に取り込み代謝機能を活性化することは
細胞の死滅限界を促進させる行動に他ならない。
「無駄な呼吸をすればするほど、早死にするらしいぜ」
「……」
眼前に縛り上げられ、投げ出された男の眉間に向かい、ぴたりと銃口を止める。
「なぜ人間は平和を願うのか? それは本能が察知しているからだ
心穏やかに生きていれば呼吸が乱れることもなく、ライフサイクルは回り続ける」
全ての闘争を否定する事が、長命と成る。
「なのに、何故お前のようなアホがいるのか理解に苦しむ……」
にも拘らず、人間は争うことを止めようとはしないのだ。
上だ下だと無意味な雛壇を飾り、無意味な呼吸をし、無意味に死ぬ。
「ちなみにこの銃弾の原価は10円にも満たないそうだが、知ってたかい?」
引き金を引くと同時にグリップに伝わる衝撃、閃光、そして視界が開けて漂う硝煙の匂い。
「お前の命の値段だ」
少しばかり贅沢に深呼吸する。
酸素の中に融解された魂が鼻腔を通して伝わってくるのが分かる。
二百年生きて再確認する、生きることの喜び。
「あぁ、素晴らしき人生哉」
106:創る名無しに見る名無し
09/11/07 01:09:06 LfjRHJHr
信じようと、信じまいと―
長崎県T市のあるトンネルは、「く」の字にゆるやかに湾曲していて、入口から出口を見ることができない。
昭和12年に、国土交通省の役人がこのトンネルを測定すると、左の壁と右の壁の長さがぴったり同じだった。
ゆがんでいるのはいったい何なのだろうか?
107:創る名無しに見る名無し
09/11/07 10:21:07 Vwi5tAb/
../ ./
/ ./
く く
\ .\
..\ .\
トンネルの出入り口が道路に対して斜めだったのでは?
108:創る名無しに見る名無し
09/11/07 23:09:37 7FdhMeos
おぉい!w
109:創る名無しに見る名無し
09/11/08 02:05:45 6aeUv1wb
>>107の冷静さに吹いたw
110:創る名無しに見る名無し
10/01/03 23:54:22 iz7xS38c
ある所に、一匹の犬が居た。
その犬は飼い主からろくに餌も与えられず、散歩にすら連れて行かれる事も稀だった。
当然、犬の姿はみすぼらしく、臭いもひどいものだった。
体を洗われない事と、小屋の周辺の排泄物の臭いを飼い主は嫌がり、
犬に対する扱いは更にぞんざいなものになっていった。
ある日、飼い主の元へ周辺住民から苦情がきた。
それもそのはず、犬小屋の周辺は息もまともに出来ない程の悪臭を放っていたのだから。
仕方なしに小屋の掃除をしようとした飼い主は、
かなりの期間犬に餌をやり忘れていた事を思い出した。
犬が死に、その体から放たれている臭いが悪臭の原因かも知れないと思い至った飼い主は、
嫌悪感を露にしながらもしばらくぶりに犬小屋に近づいていった。
一歩一歩近づくたびに、マスクの上からでも悪臭がひどくなっていくのがわかる。
そして、犬小屋にあと数メートルの位置まで来た時、
犬小屋の暗がりの中から力なく横たわった犬の後ろ足が出ているのが見えた。
確実に死んでいる。
飼い主はそう思い、ゴム手袋をして小屋から犬の足を引きずり出した。
だが―
―無かった。
あるのは両の後ろ足だけで、胴体も、前足も、頭も無かったのだ。
引きずり出すことが出来た足は、両方とも腐り果てて蛆が沸き、無残なものだった。
吐き気を催した飼い主はすぐにその場を離れようとしたが、
小屋の陰で動くものが視界に入った。
恐る恐る、慎重に小屋の陰を覗き込んでみるとそこには……
両足と同様に腐り果てた犬の胴体と、ボロボロと崩れ落ちながらも左右に振られる尻尾があった。
息を呑み、叫び声をあげることすら出来なくなった飼い主の耳に、
チャラリッ、という鎖が擦れ合う音が飛び込んできた。
音の出所は、犬の鎖が繋がれていた木の杭―飼い主の真後ろ。
鎖が擦れ合う音と共に、グチュリという肉が潰れていく音も聞こえ、近づいてくる。
飼い主の足は、縫い付けられたようにその場から動かなかった。
だが、ソレは地面に肉を削ぎ落とされながらもゆっくりと、ゆっくりと近づいてくる。
そして、
「ワン!」
……と、一鳴きした。
飼い主は、その鳴き声を聞いた途端、動かなくなっていた足に力が入るようになったのがわかった。
即座に飼い主はその場から逃げ出した。
振り返ることは、一度も無かった。
左右に振られていた尻尾の動きは次第に遅くなっていった。
自らの尻尾が動かなくなっていくのを見ながら、犬は思った。
サイゴニ、ナデテホシカッタ、ダケナノニ……。
おわり
111:創る名無しに見る名無し
10/01/04 00:08:11 XsAUrd/M
法螺吹きの末路って知ってるかい?
閻魔さまに舌を抜かれる?
うん、それもあるね。
地獄で鬼に責められる?
うん、それもあるね。
でも、もっともっと色々あるんだよ。
法螺を吹く人間ってのは、洞に負苦。
普通の人間はね、洞を通る事は無い。
通るのは川だ。
人によっちゃ河だけど、洞を通る事は無い。
でも法螺吹きは、法螺を吹いたばかに洞を通る。
通りながら、苦を負うんだ。
そんな事はたいしたことがじゃないと思うかい?
だったら法螺を吹いてみればいい。
だったら洞を通ってみればいい。
そうすればわかるだろう。
そうしなけりゃわからないだろう。
さあて、通ったかな?
さあて、わかったかな?
入ることもできない洞を。
出る事もできない洞を。
通った感想はあるのかな?
通って思った事はあるのかな?
ほらほら。
法螺法螺。
洞洞。
ああ、ごめん、忘れてた。
大事な事を、忘れてた。
もう、戻れないからね。
ほら、さようなら。
112:創る名無しに見る名無し
10/01/04 00:12:01 H0hAUqJK
ダジャレかよwwww
113:創る名無しに見る名無し
10/01/04 00:20:07 pLVqYXYn
地上では夜の帳がおりようという頃、私はこの地下鉄駅のホームに立っているのが常である。帰
宅の電車に乗るためだ。
外の街が夜の顔へとその姿を変えていく中で、ホームは煌々とした灯りで隅々まで照らし出され、
まるで変わらぬ姿態を保っている。
清潔なそのホームには、私の他には数人の男が、何をするともなく電車を待っているばかりであ
る。一つ前の駅ならば、ホームから溢れんばかりの人がいるのだが、この駅は本当に静かだ。
電車はなかなかやってこない。私はただじっと線路を眺めて待ち続ける。なんとなく頭が重い。
電車はまだやってこない。
いや、本当はまだ殆ど待っていないのだ。時間にすれば一分かそこらだろう。頭ではわかってい
る。ただ、電車がやってくるまでの時間は、何故だかいつも、やけに長く感じるのだ。
そうして気が遠くなる程長い間、空っぽの頭で線路を眺めていると、足下から地響きが伝わって
きた。それと共に、腹に響く重い金属音がホームの静寂を破る。
その二つはどんどんこちらに近づき、大きくなっていく。電車のヘッドライトが顔を覗かせる頃
には、甲高いブレーキ音が響いているだろう。
私はその時いつも、名状しがたい何かに締め付けられ、訳の分からない衝動を抑えなければなら
なくなる。
今日はなぜだかその衝動がやけに強い。ふと線路上へとその身を投げ出したくなる程に。
あの嫌な重い金属音はどんどん大きくなってくる。コンクリートの地面は、迫る電車の振動をま
すます大きく伝えてくる。
あとほんの少し後、あのヘッドライトに照らされて、甲高い金属音を聞かされた時、果たして私
は正気でいられるだろうか。
114:創る名無しに見る名無し
10/01/04 00:31:59 pLVqYXYn
>>110
犬かわいいw
見た目はグロいのにw
>>111
ほらほらうるせえw
115:創る名無しに見る名無し
10/01/04 00:42:13 XsAUrd/M
―ぴちょーん
まただ。
―ぴちょーん
また聞こえてきた。
―ぴちょーん
この音はどこから聞こえる? この水滴は、どこに落ちている?
―ぴちょーん
昔から、私は暗闇の中で意識を研ぎ澄ませる事で、様々な事を成し遂げてきた。
―ぴちょーん
だから、暗闇は私にとってはやすらげる場所であり、それに包まれる事に何の不安
も無いはずだった。
―ぴちょーん
いつの頃からか、この音は聞こえ始めた。
―ぴちょーん
暗闇の中で、意識を研ぎ澄ませた時に。
―ぴちょーん
116:創る名無しに見る名無し
10/01/04 00:44:03 XsAUrd/M
最初は、水道がよく閉まっていないのだろうと考え、家中の水道をしっかり締めなおした。
―ぴちょーん
だが、まだ聞こえる。
―ぴちょーん
どうしても、気になる。
―ぴちょーん
この音はどこから聞こえる? この水滴は、どこに落ちている?
―ぴちょーん
私は、水道会社に連絡し、家の水道を全て元栓から使えなくしてもらった。
―ぴちょーん
だが、まだ聞こえる。
―ぴちょーん
どうしても、気になる。
―ぴちょーん
どうしても、不安になる。
―ぴちょーん
この音はどこから聞こえる? この水滴は、どこに落ちている?
―ぴちょーん
117:創る名無しに見る名無し
10/01/04 00:44:20 XsAUrd/M
暗闇の中にいるのに
―ぴちょーん
不安を感じるなんて
―ぴちょーん
初めてで
―ぴちょーん
私は
―ぴちょーん
わた
―ぴちょーん
し
―ぴちょーん
―ぴちょーん
は
―ぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーん
ぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーん
ぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーん
ぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーん
ぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーん
ぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーん
ぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーんぴちょーん
ぴちょーん
―ぴちょーん
それっきり、だった。
水滴が落ちる音は、唐突に途切れた。
また元のやすらげる暗闇が戻ってきた。
ああ
よかった。
さて、
安心
したら
少し
飲み物が
欲し
くな
った。
喉が
焼け
る
よ
う
に
か
わ
118:創る名無しに見る名無し
10/01/04 00:44:30 XsAUrd/M
「結局、どうしてこのホトケさんは、こんな死に方したんですかね?」
「俺に聞くなよ。精神に異常をきたすなんてのは、この手の商売にゃありがちな
事なんじゃねえのか?」
「そういうもんなんですかね」
「……自分で自分の喉をかきむしり、辺りに血を滴らせまくって死んだ作家、か」
「何か……音でも聞こえてたんですかね」
「音? 何でだ?」
「……あ、いや……あれ? 俺、今何か言いました?」
「ホトケさんが音を聞いた、って……」
「……そんな事言いましたっけ?」
「お前……ふざけんなよ、現場で」
「あ、いや……す、すいません! 何かぼーっとしてたみたいですね」
「ったく……よし、後は鑑識に任せて、一旦帰るぞ」
「はい!」
「……返事だきゃいいな、ったく……ん?」
「どうかしましたか?」
「……外、雨でも降ってたっけか?」
「いえ、快晴ですけど……どうかしたんですか?」
「何か、音が……」
「音?」
「お前もさっき言ってただろ。何か音が聞こえたんだよ」
「俺は聞こえませんでしたけど……」
「……まあ、気のせい、かもしれんが」
「じゃあ行きましょう」
「あ、ああ……」
―
「でも、確かに聞こえた……あれは、水がしたたる、音……?」
―ぴちょーん
終わり
119:創る名無しに見る名無し
10/01/04 00:46:19 H0hAUqJK
これはちょっと怖いな
120:創る名無しに見る名無し
10/01/04 00:53:46 pLVqYXYn
水滴の音って確かに精神にくるな
121:創る名無しに見る名無し
10/01/04 00:54:23 H0hAUqJK
水滴をしたたらせる拷問みたいなのがあるって思い出したわ
122:創る名無しに見る名無し
10/03/12 02:10:51 XaG/cNG9
URLリンク(webmaster.stickam.jp)
何か明日スティッカムで藤崎りおが
隣の家の少女って言う映画見てる様を配信するみたい。
実話元にした小説を映画化してるので恐ろしいです。
123:「命の皿」~序章~ ◆wHsYL8cZCc
10/04/17 05:23:21 /nbmWFzC
「おかあさん……たっくんが動かないの」
「おかあさん、テレビが付かないよ」
「おかあさん、たっくんが動かないよ」
「おかあさん……私ね。食べたの」
「動かないから。たっくんが」
「おかあさん、お腹すいたよ」
「おかあさん、またすこしたっくんをたべたよ。でもたっくんは何にも言わないの」
「おかあさん、たっくんが変だよ。変な臭いがするの」
「おかあさん、大変だよ。たっくんに変な白いのがいっぱい付いてるよ」
「おかあさん、誰か玄関で何か言ってるよ。でも私動けないの」
「おかあさん、知らない人が家の中に入って来たよ。でも私何も喋れないの。怖いよ」
「おかあさん、たっくんが無くなっちゃったよ。白いのが食べちゃったみたい」
「おかあさん………どこに行ったの?」
「おかあさん。わたし今知らない人のうちでゴハンたべてるの。今日からここがおうちだっていってたよ。じゃあきっとおかあさんもたっくんも来るんだよね?」
「おかあさん。あのね。わたし食べたの。だってお腹すいてたんだもん」
*
「お母さん。私は今日十歳の誕生日です。早く迎えに来て下さい」
「お母さん、今日、みんなで飼ってるウサギがさとる君にいじめられていました。注意しても言うことききません。みんなよりお兄さんなのに。」
「だからウサギ小屋にあった石で叩きました。さとる君は動かなくなりました。たっくんみたいです」
「たっくんみたいに白いのが出てくる前にさとる君を食べました。台所にある包丁で切りました。食べ切れないから勿体ないけど残しました」
「なんか見た事ないおじさんがおうちに来ています。変な人を見なかったかって聞いてきました。私は見てないから見てないっていいました。みんな泣いています。
あと危ないからってしばらく外に出られません。学校もみんなで一緒に先生達と通ってます」
「お母さん。さとる君がいじめたウサギに赤ちゃんが生まれました。とってもかわいいです」
124:「命の皿」~獣の跡①~ ◆wHsYL8cZCc
10/04/17 20:06:23 /nbmWFzC
季節外れの雪が降っていた。
本来、雪が降る事自体が珍しい地域だが、押し寄せる寒気は冷たい風を呼び、結果、場違いな雪まで運んできた。
「こりゃ酷いな。ズタズタじゃねぇか」
篠田文夫は開口一番にそう言った。
田んぼの真ん中にある深い側溝の奥に転がる遺体は、凄惨な状態でそこに在った。
「第一発見者は?」
篠田の問いに横にいた若い制服姿の警官が答える。
「所轄の警官です。近隣の住民から枯れ草の清掃中に異臭がすると通報があり、あたりを調べたら遺体を発見しました」
「ふ~ん……。遺留品は?身元が割れるようなヤツ、免許証とか」
「財布の中に原付きの免許が。名前は村上友美。十八歳。失踪届けが出ています」
「まだガキじゃねぇか……」
篠田は顔を歪ませる。第一課に配属されいくつも死体を見てきたが、子供の死だけは未だに馴れない。
それも、第三者による殺人となれば尚更だった。
「腐敗はそれほどでも無いな。最近ずっと寒かったからか。ヘタすりゃもっと発見が遅れたかもな」
「辺り一面長い雑草ばかりですから。しかもこんな深い側溝の中では……」
「もっと遺体をよく見たい」
篠田は半透明のラテックスで出来た手袋をはめ、側溝に降りて行った。
深さは百二十から百三十センチといったところだろうか。枯れ草が幾重にも折り重なり、実際はもっと深く見える。
篠田は思わずよいしょという声を出す。
四十五になる篠田は自分では若いつもりだったが、いつの間にか立派な中年になっていた。 実際に若い制服の警官も、篠田に続いて側溝に降りて来た。
「近くで見るともっと酷いですね。ここまでする必要があるのか?」
「必要だからやったのさ」
篠田はマスクを装着し、遺体を隈なく確認する。あまり弄ると鑑識に文句を言われるので、あくまでも見ているだけだったが。
「こりゃただ事じゃないな」
125:「命の皿」~獣の跡①~ ◆wHsYL8cZCc
10/04/17 20:09:00 /nbmWFzC
「どういう事です?」
「遺体の損壊状況がだよ。ここまでする奴の気が知れん。見てみろ」
促されるまま遺体を観察すると、腹部にはぱっくりと切れ目が入れられ、内臓が飛び出していた。内部は空っぽになり、人間にはこれほどの空洞があるのかと思わせる程だった。
大腿の一部は切り取られ、大きくえぐれている。骨までが露出するほどに。
その他にも、胸や眼球等が無くなっていた。
「確かに酷いですね……。あまりに猟奇的だ」
「猟奇『的』じゃない。これは猟奇殺人だ。それもかなりぶっ飛んだ奴の」
「どういう意味ですか?こんな事件を起こす奴なんてたいがいおかしい奴でしょう」
「遺体の損壊の仕方だよ。これはただ殺した訳じゃねぇ。かといって拷問死させた訳でもない。もっと明確な目的がある」
「目的?」
「遺体の損壊の仕方だよ。これは殺してから遺体を捌いたんだ。それが目的だよ」
篠田はかつてもこれを見た事がある。
数年前に起きた、少年の殺人事件。その時も遺体の一部が切り取られ、持ち去られていた。
「あとは鑑識に任せる」
「篠田警部補、どちらへ?」
「ちょっと調べ物だよ。オッサンに寒空はつらすぎるからな」
「了解しました。害者の資料は集まり次第、一課に届けます」
「よろしく頼む」
篠田は側溝から這い出し、スーツに着いた土を手で掃った。
車へ乗り込みエンジンを回す。エアコンから流れる暖かい空気と缶コーヒーで暖をとり、決して若くはない身体を休めた。
しかし、その心は冷え切っていた。
「あんまし思い出したくねぇんだけどなぁ」
126:「命の皿」~獣の跡①~ ◆wHsYL8cZCc
10/04/17 20:09:40 /nbmWFzC
投下終了
127:創る名無しに見る名無し
10/04/17 23:01:38 h2zppDH/
こええ・・・普通、たっくんのエピソードだけで済ませる所を、
さらに重ねられて怖さが倍増だ・・・。
128: ◆wHsYL8cZCc
10/04/18 12:42:00 rfUNeAXM
サイコ系書く人って少ないね。
にしても筆が進まぬわ。
129:「命の皿」~獣の跡②~ ◆wHsYL8cZCc
10/04/19 10:23:01 d4lWCI+6
「ねぇ彩」
倉本美咲が唐突に話しかけて来た。
「何よ美咲」
横に居た長谷部彩は面倒そうにそれに答える。
「昨日さぁ、テレビ見てたらさぁ―」
「そんな事言ってる暇ないでしょ?急がないと遅刻だよ!」
「わかったよぅ。怒るなよぅ」
彩と美咲は自転車のペダルを漕ぐ足に力を込める。
高校二年になって最初の日に遅刻など幸先が悪い。それもこれも、朝から関係を求めてきた美咲が悪いのだが、それに乗った自分にも多少の非があると彩は思っていた。
学校の駐輪場へ自転車を置いたら教室までは走らなければならないだろう。恐らくクラスメートはもちろん学校中から見られてしまうのは避けられない。
新学期早々に人気者になる事への覚悟が必要だった。
「間に合う?」
「あと四分はあるから間に合うと思うよ。急いで美咲!」
彼女らは汗を滲ませながら教室に駆け込む。失笑混じりの朝の挨拶に対して苦笑しながらそれに応え、彩は椅子座り机に突っ伏した。
離れた席の美咲も同様に、疲れた様子で持参したウェットテッシュで首筋の汗を拭っている。
チャイムはまだだ。どうやら遅刻は免れたらしい。
「朝っぱらから大変だったね。」
横の席の倉田正彦が言う。
「教室から走ってるとこ丸見えだったぜ。ありゃ職員室からも見られてるな」
「だから何よ。遅刻はしてないもん」
「ギリギリでだけどな」
正彦は馴れ馴れしく話かけてくる。
以前からしつこく言い寄られてはいたがその度に彩はそっぽを向いていた。それでも諦めない姿勢はある意味肝が座っていると言うべきか。
彩は男としてのこの正彦はまるで興味は無いが、ただのクラスメートとしてはそうでも無かった。
決してクラスの中心では無かったが、常に明るく誰とでも親しくなる性格には素直に好感を抱いている。
美咲は気に入らないようだったが。
130:「命の皿」~獣の跡②~ ◆wHsYL8cZCc
10/04/19 10:24:01 d4lWCI+6
「なんでそんなにつれない訳?」
「別に普通じゃん」
「じゃあたまには一緒に遊びに行こうぜ」
「それは嫌」
「なんでだよ?」
「……何となく」
「やっぱり冷たいじゃん」
「というかアンタしつこいのよ。だいたいね―」
彩が何か言おうとした時、チャイムによってそれが遮られる。
同時に担任の教師が教室に現れ、彩と美咲を見るなり笑顔で話し始めた。
「お?遅刻せずに済んだか。まぁあれだけ必死に走ってりゃ間に合うわな。次は余裕を持って家を出なさい」
教室に小さな笑いが起きる。思わず赤面する彩だったが、美咲はクラスメートと一緒に笑っていた。
美咲がマイペースで図太い神経だと彩はつくづく感じた。
131:「命の皿」~獣の跡③~ ◆wHsYL8cZCc
10/04/19 10:26:50 d4lWCI+6
篠田は警察署の資料室で書類と格闘していた。
過去に起きた数件の殺人、それも猟奇的事件を隈なく捜し、今回の事件との類似点を洗い出す。
ここ十年で起きた殺人事件の中で、特に猟奇的といえる事件となればやはり数える程度しかない。
やはり、行き着く先はあの少年の事件だった。
少年は児童養護施設の裏手にあるウサギ小屋の前で殺害された。
辺りは遮蔽物となる木々と塀があり、施設の裏手というのもあって人目には付かない。
少年は後頭部を石で何度も叩かれていた。恐らく一撃では絶命しなかっただろうと思われる。凶器となった石はウサギ小屋の脇にある池に捨てられていた。指紋の採取は出来ず終いだった。
一方の今回の被害者は絞殺されている。殺害方法は前者のほうが圧倒的に残虐であるが、問題なのは殺害方法では無かった。
少年を殺害した犯人は施設から持ち出した包丁を使い、少年の腕の一部と内臓の一部を切り取っている。どこへ持ち去ったかは今だ定かでは無い。
「やっぱり……似てるな」
少年と今回の少女の損壊状況こそ、篠田が注目した事だった。
少年の殺人事件は当時、こぞってマスコミが報道した。その残酷な手口は暇な大衆に十分受けるセンセーショナルな事件であり、警察の捜査も難航したため大きな事件として扱われた。
同時に、いつまでも犯人を特定出来ない警察の対応にも非難が集中した。
篠田もその中の一人だった。
それほどまでに大々的な報道をされていれば、模倣犯が現れてもおかしくは無い。実際にこの手の事件のあとはそれに続く者が多い。
しかし、それだけでは説明が付かない事がある。
あまりに似ているのだ。遺体の損壊状況が。
当時、マスコミはこれでもかと少年の殺害状況を報道したが、遺体の具体的な状態までは報道していない。
少年の内臓が抜かれて持ち去られたなどテレビで言える訳も無いが、それ以前に警察側からもそこまでの情報掲示はしていない。
それは今も同じだ。
132:「命の皿」~獣の跡③~ ◆wHsYL8cZCc
10/04/19 10:29:22 d4lWCI+6
模倣犯では有り得ない。
これは間違いなく、同一犯による物だと篠田は確信している。
そこへ、突然若い刑事が現れる。
「篠田さん。ここに居たんですか」
「どうした?なんか解ったか?」
「害者の資料が集まりました。今会議室で―」
「ああ、いい。今解ってる事だけ教えてくれ」
「そうですか?でも皆さん集まってますよ」
「いいんだよ。俺みたいなはみ出し者はさ。それより早く教えてくれ」
「はぁ……。害者の村上友美はフリーターで、バイト先のネットカフェでの評判は中々で、決して恨みを買うような人物で無いと言っています。
交遊関係も洗いましたが、特に危ない連中と面識がある訳でもなく、家族との関係も良好です」
「狙われたりする要素は無しか。変質者に付き纏われたとか、そういう事は?」
「いえ、全くありません」
「そうか……」
篠田はため息をついた。
「よし解った。ご苦労さん」
篠田は勢いよく立ち上がり、資料をそそくさと片付け始める。
いくつかの書類を手に、資料室を後にしようとした。
「篠田さん、どちらへ?」
「ちょっとそこまでな。昔の事件と繋がりがあるかもしれん。そこを調べてくる」
「またお一人でですか?」
「そうだよ。お前達は引き続き目撃証言と害者の交遊関係、洗っといてくれ」
篠田の足は自然とあの場所へと向かっていた。
あの凄惨な事件が起きた、児童養護施設へ。
133:「命の皿」~獣の跡③~ ◆wHsYL8cZCc
10/04/19 10:30:32 d4lWCI+6
終了
134:創る名無しに見る名無し
10/04/19 20:03:30 3fndz3cW
わくわく・・・どきどき・・・
135:命の皿~獣の跡④~ ◆wHsYL8cZCc
10/04/21 02:34:09 slSVxA3N
チャイムが鳴り響く。
まだ新入生の居ない始業式は一時間ほどで終了した。
普段は狭苦しい体育館も、生徒の三分の一が欠けただけで異様に広く感じるものだ。教師の声は天井や壁で反響し、それが体育館の広さを感覚的に更に広くし、寒気すら覚える体育館の空気の温度は、彩の身体をことごとく疲れさせる。
教室に戻った時は、既に帰りたいと思わせていた。
担任の教師が一言二言注意事項を述べ、プリントを配布する。
入学式までの日程、保護者への通達、学校内での連絡事項、あとは保険便りのような物。
最近の保険便りでは遠回しにではあるが、性行為についての注意書きすらある。コンドームの使用の重要性に至っては堂々と明記されている始末だ。
しかし、彩には何の興味も無い。自分はそれを使用する状況は無いと思っていたから。朝の事を思い出す。
柔らかな感触がいまだ唇に残っている。時間すら忘れる程の幸福感を味わい、結果、遅刻寸前まで追い込まれた。
彩は一人、あの時の感触を思い出す。美咲の感触を。
「美咲……」
彩は朝の続きを妄想で続ける。
自然と鼓動は速くなり、頬はうっすらと紅潮する。
僅かに吐息が乱れる。しかし、周りに悟られてはいけない。そんな事態になれば周囲からは体のいいイジメの対象に成り兼ねない。
それを跳ね退けるバイタリティがあればいいが、彩にはそれが備わっていない。
妄想はエスカレートする。吐息は更に乱れ、鼓動はより激しく胸を打つ。
限界に近い。もはや理性は本能に飲まれようとしている。右手が疼く。
出来る事なら今、ここで―
「では、今日は終了です。気をつけて帰るように」
教師の一言で彩は我に返る。そうだった、今は帰りのホームルームの最中だったんだと―。
彩の顔を見た教師は不思議そうに尋ねた。
「どうした長谷部?具合でも悪いのか?」
「……いえ、大丈夫です」
「そうか?それならまぁいいんだが」
136:命の皿~獣の跡④~ ◆wHsYL8cZCc
10/04/21 02:34:54 slSVxA3N
「じゃあ気をつけて帰るように。寄り道したりするんじゃねぇぞ」
担任の教師は改めてそう言うと、さっさと教室を出て行った。
彩は美咲の元へ駆け寄る。
学校はもう終わりだ。妄想に耽る必要は無い。実際に朝の続きをすればいい。そう思った。
「美咲」
「どうしたの彩?風邪でも引いた?顔赤いよ。熱あるんじゃない?」
「大丈夫だよ。それよりさ、早く帰ろう」
「そりゃもちろんだけど。今日これからバイトだし」
「ええぇ。バイトなの?」
「どうしたどうした。何か用か」
「だってさ、帰って朝の続き……ね?」
「ああ、それか。ゴメンね。今日バイトあったから朝したの。逆に欲求不満か」
「なら朝言ってよ。バイトだってさ」
「ゴメンゴメン!でもどうせ明日からまた何日か学校休みじゃん。その時ね」
「つまんないの」
「だからゴメンって」
目論みは見事に失敗だ。今日一日は暇になるだろう。
美咲は時間が無いといい急いで帰って行った。
彩は一人で下校するハメになる。
「もう……」
137:命の皿~獣の跡⑤~ ◆wHsYL8cZCc
10/04/21 02:35:48 slSVxA3N
カチ と音がする。点した炎でタバコの先に点火し、彩はゆっくりと煙を吐き出す。
中学生で覚えたタバコを吸う姿は、今ではすっかり堂に入った物になっている。
決して不良という訳ではない。むしろ学校では優等生として通っている。問題も起こした事は無い。
それでも、自身の悩みを吐き出す道具として、彩はタバコを口にしたのだ。
吐き出した煙を纏い、彩は路地裏を自転車を引いて歩いている。
猫が塀の上で丸まっている。横を通る彩の動向を目を丸くして警戒し、煙の臭いを嗅ぎ付けて塀から飛び降りる。
陰にある自販機ではいつも特定のコーヒーが売り切れたままだ。商品の入れ替えはどうなっているのだろうか?
彩はタバコを投げ棄て、足でそれを踏み火をけした。そしてまた路地裏を自転車を引いて歩きだす。一人の時のお決まりのルートだった。
そう、いつもここを通っていたのだ。
「おーい、彩ちゃん」
突然の声。それは前方から聞こえてくる。
「……正彦?」
「やっぱりここ通ってたね。表通り通れば簡単に周り込めるわ」
「なんでアンタが居るのよ」
「おいおい、せっかく待ってたのに随分酷いな。デートに誘おうと思ってたのにさ」
「しつこいなぁ。行かないってば」
「相変わらずつまんねー女だなぁ。おい」
「悪かったわね」
「そうそう。悪いと思ってるならさ、ちょっとだけ俺達と付き合ってくれよ」
「俺達?」
正彦の後ろには一台のワゴン車が止まっていた。そこから、二人の男が降りてきて正彦と列ぶ。
「正彦?」
「ちょっとだけだよ。俺達と遊んでくれりゃ、それでいい」
「嫌よ。何度も言ってるじゃん」
「いーや。来てもらうぜ」
正彦と列ぶ男達は突如彩に詰め寄る。そして髪の毛を掴み強引に引き寄せる。
「嫌…何するのよ!」
「ガタガタうるせぇんだよ」
髪を掴む男の拳が彩の腹部を打つ。今まで経験した事の無い痛みが走り、息が詰まる。声すら出ない。
その様子を見ていた正彦は笑いながら言い放つ。
138:命の皿~獣の跡⑤~ ◆wHsYL8cZCc
10/04/21 02:37:46 slSVxA3N
「おいおい、殴んじゃねぇよ。俺のお気に入りだぜ?」
「散々シカト食らってよく言うぜ。このくらいじゃケガにもなんねぇよ」
男は再び彩を殴る。
正彦ともう一人はそれを笑いながら眺めている。
「正…彦…?」
「あー?何だよ?」
「なんで……?」
「当然だろ?散々人の事バカにしやがってよ。どんだけ誘ってもうんともすんとも言わねぇからよ。
頭きたからコイツらと廻してやるよ。」
正彦はいつもの笑顔だった。
いつもと変わらない、あのしつこいだけの正彦。
「おい、見られた面倒だぜ。さっさと行こう」「そうだな。じゃー夜まで待って適当な駐車場で止めるか」
彩は引きずられながら車へ連れ込まれる。呼吸はまだ思うように出来ない。腹部の痛みは激しいまま。
「じゃあ行こうか彩ちゃん」
彩は羽交い締めされたまま後ろの席に居る。正彦はそれを見ながらタバコをふかし、彩の頬を平手で打つ。
「このクソアマがよぉ。素直に遊んでくれりゃ別に腹もたたねぇけどよ。ここまで頑なだとこっちだって考える物があるわな」
そう言いながら今度は腹を殴る。先ほどの痛みと重なり、彩は身体をよじる。
「おーおー。声もでねぇか?いい様だなぁ。彩ちゃんよ?」
「おい、こいつタバコ持ってるぜ」
後ろで彩を抑える男がそれを見つけ、正彦はそれを奪い取った。
「あらら、いっちょ前にタバコ吸ってるんだ。意外だったわ。清楚な娘だと思ってたのにさ。俺ショック」
「よく言うぜ。お前」
こいつらは獣だ。彩は率直にそう思った。そして彼らの次の行動も、簡単に予測出来る。
その恐怖だけでも相当な物だった。
正彦は彩のタバコを一本取り出し、火を付ける。そして―
「い…嫌。お願い止めて……。止めて!!」
「顔にはやんねぇよ。綺麗な顔に傷がついたら嫌だもんねぇ?」
「嫌ぁぁああああ!」
彩のタバコは鎖骨の辺りに押し付けられる。 ニコチンが焦げる臭いが漂い。彩はただ苦痛に苛まれるだけ。
139:命の皿~獣の跡⑤~ ◆wHsYL8cZCc
10/04/21 02:38:34 slSVxA3N
想像しただけでも途方もない絶望だった。
これがどれだけ続くのか。しかも夜になれば、さらなる苦痛が待っている。
「嫌……。助けて……」
「往生際悪いな。もう諦めな。」
「お願い……。許して……」
「しつこいなぁオメェはよ」
再びタバコが押し付けられる。叫び声をあげるが、大音量の音楽に掻き消される。
何より、走行中の車の中では元より意味は無かった。
140:命の皿~獣の跡⑤~ ◆wHsYL8cZCc
10/04/21 02:39:26 slSVxA3N
投下終了。
これを投下して良かったのだろうか……?
141:創る名無しに見る名無し
10/04/21 23:01:31 jklyc0uh
危ぶむなかれ。危ぶめばビビンバ無し。
迷わず行けよ、行けばワカメさ!
ありがとー!
まあ、きわどいとは思うが、こっからどう話が繋がってくのか、
というのは大いに気になる所だ。
色々と予想したりしながら読んでるから、
続きをかまなべいべー。
142:創る名無しに見る名無し
10/04/21 23:10:55 slSVxA3N
きわどいか。
じゃ次は完全アウトになる悪寒w
最後まで出来てるからちゃんとやりてぇんだよなぁ。だからこそのハード路線だし。
エロと暴力とホラーは切っても切れないじゃん。
143:創る名無しに見る名無し
10/04/21 23:15:28 jklyc0uh
まあ、でも、直接的描写はNGやから、
そこら辺はぼかすか、あるいはエロい板のスレを
そこだけ利用するかしておくれなw
何にしろ、この話の続きはめっちゃ気になってるんで、
続き頑張ってくれ。
144:創る名無しに見る名無し
10/04/21 23:23:40 slSVxA3N
エロを目的としたエロじゃないが難しい所だ。
濡れ場はわんさか出る予定だがw
145:創る名無しに見る名無し
10/04/21 23:26:33 jklyc0uh
まあ、アウトだったらアウトって言うからw
濡れ場にはモザイクよろしくな!w
146:創る名無しに見る名無し
10/04/21 23:30:18 YxNZwSL9
濡れ場わんさかはさすがにアウトだべ
147:創る名無しに見る名無し
10/04/21 23:50:15 slSVxA3N
ふむ、ではそういう事してんじゃね?的にぼかすw
148:命の皿~獣の跡⑥~ ◆wHsYL8cZCc
10/04/22 19:41:10 QsQrjuRG
感情は沸かなかった。
正彦達のお遊びは二時間程で終わり、彩はあっさり解放された。
駐車場の街灯がぼんやりと、淋しげにアスファルトの地面を照らしている。
自分が今居る場所すら彩には解らない。電車は既に終電を過ぎて居るだろう。仮に電車があったとしても、財布の中身は抜かれている。どうする事も出来なかった。
着ていたブラウスは無惨に破れ、穿いていたスカートは連中の汚物で汚れている。無造作に投げ捨てられたブレザーだけが無事な姿でそこにある。
涙は既に枯れていたのか。彩は表情を殺したまま地面に座り込む。タバコを押し付けられた痕がジワジワと痛む。
どれだけそうして居たか解らない。
やがて吐き気を覚えた彩は、ふらふらと立ち上がり近くにある公衆トイレへ入る。
便器に覆いかぶさり吐こうとするが、胃の内容物は特に無い。いくら待っても吐き気がますばかりだ。
彩は手洗い場の水でハンカチを濡らし、顔を拭う。打たれた頬が痛む。鎖骨には無惨な火傷。
赤く晴れ上がった自分の顔を見て、彩は少しずつ感情を取り戻す。
ようやく、涙が溢れてきた。
149:命の皿~獣の跡⑥~ ◆wHsYL8cZCc
10/04/22 19:42:57 QsQrjuRG
終了だよテクセウ。
もうすっ飛ばせるだけすっ飛ばした。
その内エロパロ板に空白の衝撃シーン投下してやる!(゚д゚)ケッ!
それが出来てようやく完全版。
150:創る名無しに見る名無し
10/04/22 20:43:29 QsQrjuRG
エロパロ行ってきた。
そしてエロ描写が苦手と知る。
151:創る名無しに見る名無し
10/04/22 23:41:44 0TqhWLRZ
乙乙。
色々苦労したようだな。でも、逆に描写されていないからこそ(以下省略
鬼畜でごめんなさいごめんなさい
エロは勢いですよぉぉぉぉぉぉおおおおおおおお!!(炎上
152:創る名無しに見る名無し
10/04/22 23:54:24 QsQrjuRG
鬼畜めw
でもこれで 正 彦 死 ん で も お k になった訳だ。
しかしまぁウボァー
153:命の皿~遺伝~① ◆wHsYL8cZCc
10/04/26 16:13:01 BHOTh2E2
住宅街から少し外れた林の陰、今はただの土の地面に過ぎない枯れた田園のすぐ側にそれはあった。
比較的広い敷地の中に建つ、一見普通の民家に見える建物、道路に面した塀の奥に見える小屋の赤い屋根。そのすぐ近くには林が迫っている。
篠田は敷地の中の砂利の駐車場に車を停める。
建物の大きな標札には「命の家」と書かれている。かつて、少年の凄惨な事件が起きた場所へ、篠田は七年ぶりに訪れた。
現場となったウサギ小屋は現在閉鎖されているのだろうか。そこへ続く通り道は木の塀が設けられ侵入者を拒む。
隙間から見える限りでは枯れた雑草ばかりで、何年も人の出入りが無い様子が見て取れた。
施設の入口から見える場所には新たなうさぎ小屋が建っている。まだうさぎ達は健在のようだ。あの後に産まれたという子うさぎの子孫だろうか。
篠田は玄関へ向かって歩を進める。木製のドアは幾分煤けた色に変わっていた。
篠田はインターホンを押し、相手の反応を待つ。
『はい。どちら様でしょうか?』
「先程お電話した篠田です」
『ああ、今出て行きます』
篠田を出迎えたのは三十代とおぼしき男性だった。昔居た職員では無い。
「お忙しい中、突然お尋ねして申し訳ない」
「いえいえ、お気になさらず」
彼は篠田を応接室へと通し、コーヒーを差し出す。それを一口啜り、篠田は切り出した。
「……昔居た方々は?」
「ああ。よくは知りませんが、人の入れ替えが多くて。私が来たのも二年前ですんで」
「そうですか」
「噂じゃ子供の幽霊が出るとか。私は見た事無いですがね」
「あながち間違いじゃないかも知れませんね」。
「ちょっと、刑事さん。冗談は……」
「七年前にここで少年が殺されてますから」
「え?」
「ご存知無かったようですね。引き継ぎはされていると思っていたのですが」
「聞いてないですね……」
「それが入れ替えが激しい理由でしょうね」
154:命の皿~遺伝~① ◆wHsYL8cZCc
10/04/26 16:14:36 BHOTh2E2
「誰だって殺人現場で寝泊まりしたいとは思いませんから」
「それで黙ってたんですか……」
「ええ。それで当時の方々にまたお話を伺いたかったのですが」
「そうなんですか……。七年前……でしたね。申し訳ないんですが、その当時の方々の連絡先までは知らないんですよ。記録にもあるかどうか……。あ、一人だけ居ますね」
「一人?」
「ええ。カウンセリングの先生ですよ。ここに来る子供達は問題を抱えている事が多いので。ケアの為にお世話になってます」
「連絡先は?」
「ええ。知ってます。こちらからも電話しておきますよ。」
「助かります」
「ところで……。七年前の事件の事って、なんでまた聞くんです?」
「犯人はまだ捕まってませんから」
「捕まってないんですか!?」
「ええ。まだ捜査中です」
155:命の皿~遺伝~① ◆wHsYL8cZCc
10/04/26 16:16:53 BHOTh2E2
終了
156:創る名無しに見る名無し
10/04/26 17:13:22 iqvED3Sf
捜査パート、何かドキドキすんな。
157:命の皿~遺伝②~ ◆wHsYL8cZCc
10/04/26 22:14:37 BHOTh2E2
今日は珍しく晴れていた。ここ数日は毎日のように雨が降り、あまつさえ雪までふったのだが。街中は人が溢れていたがまだ気温は上がらない。皆まだ冬着のままだった。
気分がいまいち悪いのはこの晴天と気分とのギャップのせいだろうか。
篠田の車はとあるペンシルベルの脇に停められている。
五階建てのビルの三階まで階段で登り、小さな表札に福田クリニックと書かれたるドアの前に立つ。
インターホンを押すと、ドアの奥から大きな声が響く。予想外にもそれは女性の声だった。
「開いてますよー。勝手に入って結構です」
篠田はドアを開け、中に侵入する。
簡単な造りの無人の受付があり、その奥では白衣を来た女性が机に向かって資料を読みあさっている。
長い髪が窓から差し込む光に当てられ輝いている。整った顔立ちは知性を感じさせる。
篠田は素直に美人だと思った。妻には申し訳ないが。
「あの……」
「篠田刑事ね。よく来てくれました。私がここの責任者の福田可奈子です」
「突然の訪問お許しください。可奈子先生」
「いいえ。それより七年前の事を聞きたいとか」
「ええ。今のところ連絡が付いた当事者は先生だけでしたので」
「当事者……という訳ではありませんよ。私が関わったのは事件があった後ですから。その頃には警察の方もほとんど寄り付かなかったですし」
「先生はあの後の子供達の精神的ケアをなさっていたとか」
「ええ。子供達ばかりではないけれども」
「というと?」
「職員さんですよ。当時の子供達の保護者は割と高齢のご夫婦でしたから。ショックは相当だったでしょうね。犯人の行動分析までさせられたし」
「行動分析?そんな事まで!?」
「ええ。ご存知無かったかしら。警察の要望でやらされたのですが。最初は断ったんですけどね。専門とは掛け離れてますから」
「私は聞いてないですね」
「あらそう?てっきり捜査に反映される物かと。まぁ警察側でもあまりアテにはしてなかったんでしょうね」
「申し訳ない」
「刑事さんが気にする事ではないわ。でも、てっきりその事聞きにきたのかと思っていたけれど違うみたいね」
158:命の皿~遺伝②~ ◆wHsYL8cZCc
10/04/26 22:16:26 BHOTh2E2
「はい。むしろ先生がケアを行った中でおかしな人間が居ないか、それを聞きたかった」
「犯人は身内にいたと?」
「解りません。が、可能性はあります」
「それは無いわ。あの施設にいたのは保護者の老夫婦だけだったし、二人ともとてもショックを受けていた。殺害に関与してる人間の精神状態では無かった」
「子供達は?」
「子供達?」
「ええ。あの当時施設に住んでいた子供達。そのケアも行ったのでしょう」
「当時いたのは殺害された少年が最年長よ。その子ですら十二歳だったわ」
「子供が殺人を犯す事例は過去にも多数ある。年齢はあまり問題ではない」
「……たしかに、子供達の中にはいくつか心に問題を抱える子はいました。ですが、あの施設にくる子達は元々問題を抱えていたからこそ来た。それにとくに異常性のある子は見当たらなかったわ。一人一人の精神鑑定をした訳でも無いですし」
「では、先生が行った犯人の行動分析とは?」
「私は精神科医であって心理学者ではないから詳しくは言えないんですけど」
「構いません」
「犯人は……やりたいからやった」
「それだけですか?」
「ええ。その犯人が何を思って行動したかは解らない。でも理由は簡単だった。ただ殺したかった」
「異常な人間ですか?」
「私達から見ればそうですね。でも、犯人にとってはそうでも無い。当たり前の行動だった」
「怪物ですね」
「そうですね。ですが警察側でもそれは解っていた事では?」
「なぜです?」
「刑事さんが聞きたかったのは当時の事ではないわ。単なる確認作業に過ぎない。犯人の目星は付いている」
「ばれましたか」
「ええ。心理学は専門外だけど七年前のおかげで勉強する機会ができましたから。刑事さんが最初から事件の本筋が見えているように思えた」
「……数日前に起きた殺人事件はご存知で?」
「ええ。ニュースで見てます」
「犯人は恐らく同一犯です。そして犯人は多分、当時施設にいた子供達の誰か」